植物抽出物からなるウイルス感染症の予防及び/又は治療用組成物、それらを有効成分とするウイルス感染症の予防及び/又は治療剤、並びにウイルスの細胞への吸着阻害剤
【課題】 抗原性の変化しやすいFlu、及び特効薬の知られていないロタウイルス等に対して効果が高く、かつ副作用が少ない抗ウイルス剤を提供する。
【解決手段】 ゲンノショウコ、ホオノキ及びキハダからなる群から選ばれる1以上の植物の熱水抽出物を含む、RNAウイルスに起因する感染症の予防及び/又は治療用組成物、それらの組成物を有効成分とする、RNAウイルスに起因する感染症の予防及び/又は治療剤、抗ウイルス剤、並びに上記抽出物を含む水処理剤。
【解決手段】 ゲンノショウコ、ホオノキ及びキハダからなる群から選ばれる1以上の植物の熱水抽出物を含む、RNAウイルスに起因する感染症の予防及び/又は治療用組成物、それらの組成物を有効成分とする、RNAウイルスに起因する感染症の予防及び/又は治療剤、抗ウイルス剤、並びに上記抽出物を含む水処理剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物抽出物からなる、ウイルス感染症の予防及び/又は治療用組成物、それらを有効成分とするウイルスに起因する感染症の予防及び/又は治療剤、並びにウイルスの細胞への吸着阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルス感染症は新興感染症の1つであり、局地的な流行で終息することもあるが、ヒトや動物の移動によって世界的な規模で感染が拡大し、公衆衛生上の問題となることもある。呼吸器疾患を惹起するインフルエンザウイルスへの感染によって生じるインフルエンザが、世界的な規模で流行した場合の好例として挙げられる。また、消化器疾患を惹起するノロウイルスやロタウイルスが、局地的な流行の例として挙げられる。
インフルエンザウイルス(以下、「Flu」ということがある。)は、オルトミクソウイルス科に属し、核蛋白の抗原性の違いから、A、B、Cの3つの型に分類されている。飛沫感染、接触感染、又は空気感染によって感染すると、悪寒、高熱や筋肉痛等の症状が現れるとともに、咽頭痛や咳などの気道炎症を伴う。
【0003】
インフルエンザは重度の呼吸器感染症であるため、免疫力の弱い幼児や高齢者が感染力の高いA型インフルエンザウイルスに感染すると肺炎やインフルエンザ脳症を起こし、時には死に至るというケースも報告されている。特に、A型インフルエンザウイルスは、被膜表面に存在するヘマグルチニン(HA、16種)とノイラミニダーゼ(NA、9種)との型によって亜型に分けられる。そして、これらの組み合わせが頻繁に変化し、これに起因して抗原性の異なる新たな亜型のウイルスが出現することが知られている(非特許文献1参照)。
こうしたFluの各亜型はそれぞれの宿主に特異的に感染し、ヒトFluはヒトにしか感染しないとされてきた。しかし、20世紀以降、従来知られていたヒトFluとは抗原的に異なる新型Fluがヒトに感染し、世界規模での感染拡大を引き起こした。
【0004】
この新型Fluの出現には抗原シフトと抗原ドリフトという2つのメカニズムが関与している。抗原シフトは、宿主細胞に2つ以上の異なるFluが感染することによって生じる遺伝子交雑によって、新しい亜型のFluが出現する現象をいい、抗原シフトによって種を超えた感染が可能になるとされている。抗原シフトによって発生した新型Fluの例としては、1997年に香港で発生した新型Flu(H5N1)が挙げられる。H5N1型のFluは、病原性が極めて高く、今後の感染拡大が懸念されている。
一方、抗原ドリフトは、ゲノム変異によって表面蛋白のアミノ酸配列が変化し、同じ亜型であっても抗原性の異なるウイルスが出現する現象をいう。
ヒトにおける免疫機構では、ウイルス等の非自己と認識される抗原が侵入したときに、抗原特異的な抗体を生産することで生体を防御する。そして、こうした抗体の産生は記憶されるため、風疹や麻疹等に一度感染すると、再度感染することはない。しかし、抗原型が異なる場合には、このメカニズムが働かないために、感染を繰り返すことになる。インフルエンザの流行が繰り返される1つの原因がここにある。
【0005】
ところで、Fluを初めとするエンベロープ型ウイルスの感染の成立には、吸着・侵入・増殖・発芽の4段階が必要であり、成立することが知られている。そして、インフルエンザの治療には、塩酸アマンタジン、塩酸リマンタジン、インターフェロン、リバビリン、オセルタミビル又はザナミビル等が使用されている(非特許文献1参照)。
また、局地的に発生する場合の例としては、ロタウイルス感染が挙げられる。経口感染によって、レオウイルス科に属するロタウイルスに感染すると、下痢や脱水症状を引き起こす。ロタウイルス感染に対する有効な医薬製剤は、現在のところはなく、経口的に水分と塩類の補給を行い、自然治癒を待つしかないという状況である。
【0006】
ところで、東洋医学において古くから各種の病気の治療に用いられてきた、動物又は植物由来の生薬の中に、抗Flu活性を有するものがあることが報告されている。そして、こうした活性の本体をなす有効成分を特定するために、種々の研究が進められた結果、植物性の生薬に含まれるポリフェノールが、抗酸化作用等の他に、ある種のウイルスに対して抗ウイルス作用を示すことも知られている(非特許文献2〜4及び6参照)。ポリフェノール以外に、桂皮(Cinnamomi cortex)に含まれる精油の主成分であるシンナムアルデヒドが細胞内に侵入したFluに作用し、ウイルス蛋白の発現を抑制することが報告されている(非特許文献5参照)。
【0007】
また、生薬であるゲンノショウコの全草又はオウバクの樹皮の抽出物には、ヘルペスウイルス、ポリオウイルス、麻疹ウイルス、水痘ウイルス、及びサイトメガロウイルスの増殖抑制作用のあることが知られている。韓国産コウボクの樹皮の抽出物にも、ヘルペスウイルス、ポリオウイルス、サイトメガロウイルスの増殖抑制作用のあり、中国産コウボクの樹皮の抽出物には麻疹ウイルスの増殖抑制作用があることが知られている(特許文献1参照)。
さらに、民間薬であるキハダの果実のメタノール抽出物に、エプスタイン−バーウイルスに潜在感染した細胞でウイルスの活性化を抑制する作用があることが知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−25003
【特許文献2】特開平10−194984
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】John Beigel, Mike Bray. Current and future antiviral therapy of severe seasonal and avian influenza. Antiviral Research. 78, 91-102(2008).
【非特許文献2】Anti-influenza Virus Activity of Crude Extract of Ribes nigrum L.Phytother.Res. 17, 120-122(2003).
【非特許文献3】In vitro anti-influenza virus activity of a plant preparation from Geranium Sanguineum L.Julia Serkedjieva, Alan J.Hay Antiviral Reseach. 37, 121-130(1998).
【非特許文献4】S.Kumazawa, M.Taniguchi, Y.Suzuki, M.Shimura, Antioxidant Activity of Polyphenols in Carob Pods.J.Agric.Food Chem. 50, 373-377(2002).
【非特許文献5】K..Hayashi, N.Imanishi, Y.Kashiwabara, A.Kawano, K.Terasawa, Y.Shimada, H.Ochiai. Inhibitory effect of cinnamaldehyde,derived from Cinnamomi cortex,on the growth of influenza A/PR/8 vitro and in vivo. Antiviral Research. 74, 1-8(2007).
【非特許文献6】S.Okabe, M.Suganuma, Y.Imayoshi, S.Taniguchi, T.Yoshida, H.Hirota. New TNF-α Releasing Inhibitors, Geraniin and Corilagin,in Leaves of Acernikoense, Megusurino-ki, Biol.Pharm. 24, 1145-1148(2001).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
アマンタジンやリマンタジンは、M2イオンチャネルをブロックすることで、抗ウイルス作用を発現する薬剤であり、ウイルスの脱殻に作用し、細胞質へのゲノム断片放出を阻害するという点では優れた薬剤である。また、オセルタミビルやザナビルは、Flu蛋白質のノイラミニダーゼに作用し、Fluが感染細胞から遊離するのを阻害することでインフルエンザ感染を予防するとして効果を挙げている。しかし、これらのインフルエンザ治療薬は、腸管内や神経系に対して副作用を起こすという問題を抱えている。
さらに、治療薬が作用しなかったFluが生き残ることによる薬剤耐性ウイルスの出現も危惧されており、使用量の増加に伴って急速な薬剤耐性ウイルスの出現が問題とされている。しかしながら、このような薬剤耐性Fluに対する安全で効果的な治療薬は、未だ開発されていない。
【0011】
また、インフルエンザの流行を抑えるために、ワクチンの開発が進められている。インフルエンザワクチンは、ある年のインフルエンザの流行状況とそのときの原因となったウイルスの亜型から、翌年のFluの抗原性の変化を予想し、それに基づいて製造されるため、抗原性の変化が想定範囲外になると感染を回避できないという問題がある。そして、上記の通り、インフルエンザウイルスの抗原性の変異のしやすさが、十分な効果を上げ得るワクチンの製造を困難なものとしている。
【0012】
また、インフルエンザは冬季に流行することが多いが、この時期には2歳未満の幼児の胃腸炎を引き起こす、ロタウイルス感染も流行することが多い。ロタウイルスは、小腸上皮で増殖し炎症を起こし、脱水症状を伴う。嘔吐・発熱を伴った重症の下痢の場合には、脱水にショック、電解質の不均衡を伴い死にいたる可能性もある。しかし、ロタウイルスに対する特効薬は知られておらず、我国では、ワクチンも使用されていない。
幼児の場合には、効果の強い合成薬を投与すると成人よりも副作用等の面で危険性が高いため、副作用の少ない薬剤が望まれている。
以上から、Flu及びロタウイルス等に対して効果のある薬剤の開発に対する、高い社会的な要請があった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の発明者らは、以上のような状況の下で研究を進め、本発明を完成した。
すなわち、本発明の第一の態様は、ゲンノショウコ、ホウノキ、キハダからなる群から選ばれる1以上の植物の熱水抽出物を有効成分として含有する、RNAウイルスの細胞への吸着阻害用組成物である。ここで、前記RNAウイルスは、インフルエンザウイルス又はロタウイルスであることが好ましい。また、前記有効成分は、ゲンノショウコ末、コウボク末、及びキハダ実からなる群から選ばれる1以上のものの熱水抽出物を含有するものであることが好ましい。
本発明の第二の態様は、前記吸着阻害用組成物を含有する、インフルエンザ又はロタウイルス感染症の予防及び/又は治療用組成物である。ここで、前記有効成分は、ゲンノショウコ末の熱水抽出物、コウボク末の熱水抽出物、又はキハダ実の熱水抽出物を含有するものであることが好ましい。
【0014】
本発明の第三の態様は、前記吸着阻害用組成物を含有する、RNAウイルスの不活化剤である。また、本発明の第四の態様は、前記吸着阻害用組成物を含有する、RNAウイルスの不活化用水処理剤である。ここで、ゲンノショウコ末の熱水抽出物を有効成分として含有する、インフルエンザウイルス又はロタウイルスの細胞への吸着を阻害するものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、上述した生薬の熱水抽出物は、RNAウイルス、とりわけ後述するオルトミクソウイルス科に属するウイルスに起因する感染症の予防及び/又は治療効果を有する。また、上述した生薬の熱水抽出物は、ウイルスの細胞への吸着をはじめ、ウイルス感染性成立過程全般に対する阻害効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、生薬等の抽出物による赤血球凝集阻害作用を示すグラフである。
【図2】図2は、生薬等の抽出物に含まれる総ポリフェノール量を示すグラフである。
【図3】図3(A)は、MDCK細胞を用いたときのFlu感染の各過程におけるゲンノショウコ末からの熱水抽出物(以下、「ゲンノショウコエキス」という。)による阻害作用を示すグラフであり、図3(B)は、図3(A)に示した、吸着、侵入、増殖及び発芽の各過程におけるこれらの50%阻害濃度(IC50)を示すグラフである。
【0017】
【図4】図4(A)は、MDCK細胞を用いたときのFlu感染の吸着、侵入、増殖及び発芽の過程における、コウボク末からの熱水抽出物(以下、「コウボクエキス」という。)による阻止作用を示すグラフである。また、図4(B)は、図4(A)に示した上記の各過程における50%阻害濃度(IC50)を示すグラフである。
【図5】図5は、Flu感染マウスにコウボクエキス又はゲンノショウコエキスを投与したときの体重減少抑制作用を示すグラフである。
【図6】図6は、各種生薬等エキスをFlu感染マウスに投与したときの発症抑制作用を示すグラフである。
【図7】図7は、各種生薬等エキスをFlu感染マウスに投与したときの感染防御作用を示すグラフである。
【0018】
【図8】図8は、ゲンノショウコエキスをロタウイルスと接触させた場合の、MA104細胞への吸着阻害作用を示すグラフである。
【図9】図9は、ゲンノショウコエキスをロタウイルスの吸着したMA104細胞と接触させた場合の細胞への侵入阻害作用を示すグラフである。
【図10】図10は、ゲンノショウコエキスをロタウイルスの侵入したMA104細胞と接触させた場合の細胞での増殖阻害作用を示すグラフである。
【図11】図11は、ゲンノショウコエキスをロタウイルスの増殖したMA104細胞と接触反応させた場合の細胞からの放出阻害作用を示すグラフである。
【図12】図12は、ロタウイルスの吸着、侵入、増殖、放出の各過程における、ゲンノショウコエキスの阻害作用の強さを比較するグラフである。
【図13】図13は、ゲンノショウコエキスをロタウイルスと反応させた後の、乳仔マウスのロタウイルス下痢症の累積発症率を示すグラフである。
【図14】図14は、ゲンノショウコエキスをロタウイルスと反応させた後の、乳仔マウスのロタウイルス下痢症の持続時間を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明において使用する各種生薬として、日本の各地に自生しているか、または栽培されている植物を使用することができる。一般的に「生薬」とは、自然界の植物、動物、微生物、鉱物等をあまり加工せずに薬物として利用しているものをいうが、民間薬ともいう。本明細書中では、自然界の植物をあまり加工せずに薬物として利用しているものを意味するものとする。具体的には、例えば、ゲンノショウコ、コウボク、オウバク、センブリ、カリンその他のものを挙げることができる。なお、本明細書中では、生薬を主成分とする民間薬を含めて、「生薬等」ということがある。
【0020】
ゲンノショウコは、日本の代表的な民間薬であり、日本各地、台湾、朝鮮半島、中国などに分布するフウロソウ科フウロソウ属の多年草、ゲンノショウコ(Geranium thunbergii)の全草を用いる。中国には、類似する植物としてミツバフウロ(老鸛草、G. wilfordi)という薬草があるが、止瀉の効能はあまり知られていない。日本のゲンノショウコは、中国ではネパール老鸛草と称している。葉には多量のタンニンが含まれ、その約2/3はゲラニインである。健胃・整腸・止瀉作用があり、あらゆる下痢に応用される。特に、赤痢等の裏急後重(渋り腹のこと。しきりに便意を催すのに排便がごく少量で、すぐまた行きたくなる症状をいう。)を伴う下痢に効果があることが知られている。下痢止めを目的とするときには、タンニン類が良く抽出されるように、半量になるまで煎じる。短く煎じると緩下剤になる。ベルベリンと配合されたものが、医療用の整腸薬としてフェロベリン(登録商標)の名で市販されている。
【0021】
コウボクも日本を代表する生薬であるが、唐厚朴と和厚朴とがある。和厚朴としては、北海道から九州まで分布する日本固有のモクレン科モクレン属の落葉高木、ホウノキ(Magnolia obovata)の幹や枝の樹皮を使用する。唐厚朴としては、カラホウ(Magnolia officinalis)、凹葉厚朴(M. Officinalis var. biloba)の幹や枝の樹皮を用いるが、根に近い部位が良品とされている。四川省の川朴、淅江省の厚朴(温朴)等が有名である。
中国産のホウノキは、和厚朴から除外されている。唐厚朴は切断面からセスキテルペン類の結晶をカビのように析出させるが、和厚朴では析出させない。また、唐厚朴の方が香りも強い。
【0022】
これらの樹皮に含まれる成分としては、約1%の精油、タンニン、アルカロイドである、マグノクラリン、マグノフロリン、リリオデニンのほか、リグナン類のマグノロール、ホオノキオール等が挙げられる。コウボクエキスには、中枢抑制作用やクラーレ様作用(筋弛緩作用)、抗潰瘍作用等があることが報告されている。本発明の実施において使用するコウボクとしては和厚朴が好ましい。
オウバクも日本を代表する生薬であり、日本全土、朝鮮半島、中国北部、アムール地方に分布するミカン科キハダ属の落葉高木、キハダ(Phellodendron amurense)の樹皮の外層のコルク層を除いて平板状に乾燥したものを用いる。樹皮に含まれる成分としては、アルカロイドであるベルベリン、パルマチン、マグノフロリンや、苦味トリテルペノイドであるオーバクノン、リモニン等が挙げられる。ベルベリンやオウバクエキスには、抗菌作用、抗炎症作用、中枢抑制作用、降圧作用、健胃作用等があることが知られている。抗炎症作用では、細菌性・アメーバ性の下痢に有効である。キハダ実は民間薬としても知られている、上記のキハダの実である。
【0023】
センブリは日本独自の民間薬であり、日本各地や朝鮮半島などにも分布するリンドウ科の1〜2年草であるセンブリ(Swertia japonica)の全草を用いる。一般には、開花期に採取する。苦味成分として、スウェルチアマリン、スエロサイド、ゲンチオピクロサイド等の配糖体が含まれ、スウェルチアマリンには胆汁、膵液、唾液等の分泌を促す作用がある。苦味健胃薬として、今日でも家庭薬に配合され、胃痛、消化不良、食欲不振の治療に応用されている。
カリンは、中国原産で、日本や朝鮮半島、アメリカ等でも栽培されているバラ科の落葉高木、カリン(Chaenomeles sinesis)の果実である。リンゴ酸、クエン酸などの有機酸を含み、鎮咳薬として用いられている。
【0024】
上述した生薬からの抽出物を混合した物として、御岳百草丸(登録商標、長野県製薬(株))を用いる。御岳百草丸は、60粒(成人の1日の服用量)中に、苦味健胃作用を有するオウバクエキス 1600 mg(原生薬換算量 2240 mg)、整腸作用を有するゲンノショウコ末(日局)500 mg、芳香性健胃作用を有するビャクジュツ末(日局) 500 mg、苦味健胃作用を有するセンブリ末(日局)35 mg、芳香性健胃作用を有するコウボク末(日局)700 mgを含有している。
【0025】
本発明で使用する各抽出物は、以下のようにして得ることができる。
コウボクエキス、ゲンノショウコエキス、キハダ実エキス、オウバクエキス及びセンブリエキスは、以下のようにして調製する。まず、これらをそれぞれ所定の量となるように秤量して適当な大きさの容器、例えば、三つ口フラスコに入れ、ここに秤量した上記生薬重量の10〜20倍量の熱水(w/v)を加える。ここで、熱水とは、約90℃以上100℃以下の水をいい、約92℃以上約98℃以下の熱水を使用することが好ましく、約95℃の熱水を使用することがさらに好ましい。
次いで、所定の温度にこの容器を保持したまま、所定の時間抽出操作を行う。ここで、抽出に際して好適な所定の温度は、約85℃以上100℃以下であり、約88℃以上約98℃以下であることがさらに好ましく、約90℃以上約95℃以下であることが最も好ましい。所定の抽出時間は、30分以上2時間未満であることが好ましく、45分以上90分以下であることがさらに好ましい。もっとも好ましい抽出時間は約60分である。
【0026】
上述した抽出時間が経過した後に、それぞれの容器を水道水等で約40〜50℃まで冷却し、遠心分離して上清と沈殿物とを分離する。遠心分離は、室温にて低速で行う。例えば、卓上型遠心分離機2010型(久保田商事(株)製)を用いて、室温にて、約2,000〜約3,000rpmで5〜10分間遠心し、上清を分離することができる。約2,500rpmで7分間とすれば、上清と沈殿物とをもっとも効率よく分離することができる。
得られた上清をろ過した後に、ろ液を合わせて適当な容器に入れ、所定の温度で減圧濃縮を行う。抽出残渣の混入を防止するため、自然ろ過を行うことが好ましい。減圧濃縮は、抽出物の変性を防ぎつつ、効率良く濃縮する上で約50〜約70℃で行うことが好ましく、約60℃で行うことが濃縮効率の高さの点からさらに好ましい。
【0027】
一定の段階で濃縮を止め、濃縮液を試料ビンに一定量ずつ充填して冷蔵保存する。濃縮を止める時点は、適宜設定することができるが、例えば、減圧濃縮に使用した容器の内壁にエキスが付着して粘性を示すようになった時点とすることが、後述する凍結乾燥を効率良く実施する上で好ましい。
カリンエキスは、市販のカリン抽出液を購入して使用してもよい。こうしたカリン抽出液としては、日本粉末(株)の製品等を挙げることができる。
以上のようにして、各種のエキスを調製し、保存用の濃縮試料を得ることができる。これらのエキスは、さらに以下のような手順で凍結乾燥することによって、油分含量の多いものを除いて粉末とすることができる。
【0028】
凍結乾燥機、例えば、クリスト凍結乾燥機(ALPHA2-4型)を、アイスコンデンサ温度を−90〜−80℃、予備冷却温度−55〜−45℃、3〜5×10−4hPaの条件として、凍結乾燥を行うことができる。この凍結乾燥機のチャンバーにセットされているシェルフ(棚)に、上記の液温測定用の試料ビンを置き、液温センサーをこの試料ビン内に入れてテープで固定する。次いで、液温測定用試料ビンの周りに、検体をいれた試料ビンの蓋を取り、立てたまま並べて液温を測定しながら、例えば、予備凍結を0.5〜2時間かけて行い、試料ビン中の検体を凍結させることができる。
検体全てを凍結させた後に真空ポンプを稼動させ、ほぼ真空状態で検体を真空乾燥させることが好ましい。真空乾燥の際のシェルフの温度は、例えば、−20〜−10℃に設定することが好ましい。真空乾燥開始後数分以内に設定温度になっていることを確認し、ついで、所定の時間を経過した後にこの温度で安定していることを確認する。この時点における液温を測定する。この状態のまま、所望の時間、例えば、一夜放置し、その後、例えば、下記表1に示す条件に従ってシェルフ温度を上昇させ、検体を乾燥させる。このようにして凍結乾燥品を得ることができる。
【0029】
【表1】
【0030】
以上のようにして得た各生薬のエキスは、それぞれ単体で使用することもでき、複数のものを適宜混合して、医薬組成物とすることができる。例えば、オウバクエキス、ゲンノショウコエキス、センブリエキス、及びコウボクエキスを、300〜350:50〜150:5〜15:100〜150の比となるように混合し、練り合わせて組成物を調製することができる。
この組成物を厚み約3〜4mmの板状にし、例えば、型で抜いて直径約3〜4mmの丸剤とする。または、公知の製剤学的製法に従い、製剤の製造に際して薬理学的に許容され得る日本薬局方に記載の担体、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤等を用いて製剤を製造することができる。
【0031】
こうした担体や賦形剤としては、例えば、乳糖、ブドウ糖、白糖、マンニトール、馬鈴薯デンプン、トウモロコシデンプン、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、結晶セルロース等を挙げることができる。
結合剤としては、例えば、デンプン、トラガントゴム、ゼラチン、シロップ、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等を挙げることができる。
練り合わせて組成物を調製した後にこれを乾燥させて粉末とし、市販のカプセルに適当量充填することにより、カプセル剤としてもよい。
【0032】
また、練り合わせる際に所望量の結合剤、適宜、上述した結合剤を加えて打錠し、錠剤としてもよく、トローチ剤とすることもできる。錠剤とした後に、上述した白糖又はゼラチン等のコーティング剤を用いて、糖衣錠としてもよい。
白糖の溶液又は白糖その他の糖類もしくは甘味剤、又は単シロップに、上述した生薬等エキスを加えて、溶解、混和、懸濁又は乳化する。必要に応じて混液を煮沸した後、熱時濾過することによって、比較的濃稠な溶液又は懸濁液等として、シロップ剤とすることもできる。必要に応じて、芳香剤、着色剤、保存剤、安定剤、懸濁化剤、乳化剤、粘稠剤等を加えることもできる。
【0033】
上述したような抗ウイルス性の医薬製剤を患者に投与する場合には、投与量は、患者の症状の重篤さ、年齢、体重、及び健康状態等の諸条件によって異なる。一般的には、成人1日当たり1mg/kg〜500mg/kg、好ましくは1mg/kg〜300mg/kg程度を、経口的に、1日1回若しくはそれ以上の回数にわたって投与する。上記のような諸条件に応じて、投与の回数及び量を適宜増減すればよい。
また、上述したような固形剤のほか、1種類以上の上記担体、溶剤、希釈剤および/または賦形剤と上述した各種生薬等エキスとを適宜混合し、例えば、含嗽用製剤、口内洗浄剤、口内リンス剤、その他の液剤を製造することができる。ここで、賦形剤は、水性アルコール液であってもよい。必要に応じて、安定剤、緩衝剤、矯味剤、保存剤、その他の添加剤を加えることができる。
【0034】
例えば、含嗽用製剤の調製の際には、懸濁剤、シロップ剤、乳剤等を好適に使用することができる。含嗽用製剤は、口に含んで含嗽した後に飲み込むタイプのものであってもよく、吐き出すタイプのものであってもよい。こうした液剤の場合には、使用時に、抗ウイルス効果を発揮できる濃度となるような、濃縮タイプの含嗽用製剤、口内洗浄剤、口内リンス剤、その他の液剤とすればよい。定期的に嗽を行う際に、こうした液剤を使用することによって、インフルエンザウイルスやロタウイルスの口腔粘膜からの侵入を効果的に防止することができる。
また、水飴、米飴、及び、必要に応じて、安定剤、矯味剤、保存剤、その他の添加剤を加えてのど飴等にした場合にも、同様の効果を得ることができる。
【0035】
上記の投与量の範囲内での投与又は使用によって、インフルエンザウイルスやロタウイルスに対する十分な抗ウイルス効果が発揮される。また、本製剤は複数の化合物を含む生薬の抽出物であるから、上述したようなウイルスに耐性が生じにくいという大きな利点がある。
上記抽出物を含む組成物を、本願発明の水処理剤とする場合には、液剤、錠剤、顆粒剤、粉末その他の固形剤のいずれの剤形のものであってもよい。また、飲料水、野菜等を先浄するための水、家畜用の飲料水、魚・水生生物の飼育用水槽に入れる水等に、所定の濃度となるように溶解させて使用することができる。本願発明の水処理剤を使用することにより、ヒトを含む生物体へのウイルス感染を未然に防ぐことが出来る。
【0036】
以下、本発明について、実施例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0037】
(材料等)
(1)材料
以下に示す材料は主にインフルエンザウイルスに関する試験に使用した。ロタウイルスに関する試験にのみ使用した材料は、実施例6以降に記載した。
(1−1)使用ウイルス株
インフルエンザウイルスとして、A/Puerto Rico/8/34(H1N1:PR8、以下、「Flu」という。)を用いた。このFluを発育鶏卵(11日卵)の尿膜腔内に接種し、34℃で2日間培養し、4℃で一晩置き、尿膜腔液を採取した。尿膜腔液のFlu価をMDCK細胞(Madin-Darby canine kidney:イヌ腎由来細胞)を用いて測定し、50%感染する希釈逆数値で表記した。今回使用したPR8のウイルス力価は、107.6TCID50/mlであった。
【0038】
(1−2)使用生薬等
以下のように調製した各生薬等を試料として使用した。
(1−2−1)ゲンノショウコ
ゲンノショウコ末(混合比、日本産:中国産=1:3)は、長野県生薬(株)より購入した。このゲンノショウコ末40gを秤量して三口フラスコに入れ、ここに95℃に加熱した熱水400mlを加えた。その後、90〜94℃で1時間抽出し、抽出後、三口フラスコを水道水で約40〜50℃まで冷却した。冷却後、冷却液を遠心分離機にて、2,500rpmで、7分間遠心分離した。その後、遠心上清を、ろ紙で自然ろ過した。
ろ液を合一してナス型フラスコに入れ、エバポレータ(東京理科機械製、NAJ-160型)で減圧濃縮し、フラスコの壁にエキスが付着して粘性を示した時点で減圧濃縮を止めた。ピペットを用いて濃縮エキスを試料ビンに高さ約10mmとなるよう充てんし、10本の試料を得た。これを冷蔵保存した。
【0039】
(1−2−2)コウボク
コウボク末(日本産)は、長野県生薬(株)より購入した。コウボク末30gを秤量して三口フラスコに入れ、95℃に加熱した熱水300mlを加えた。その後、90〜95℃で1時間抽出し、三口フラスコを水道水で約40〜50℃まで冷却した。冷却後、冷却液を遠心分離機(久保田商事製、卓上型遠心分離機2010型)で2,500rpmにて7分間遠心し、上清を分離し、上清をろ紙で自然ろ過した。
ろ液を合一してナス型フラスコに入れ、エバポレータ(東京理科機械製、NAJ-160型)で減圧濃縮し、フラスコの壁にエキスが付着して粘性を示した時点で充填して12本の試料を得、これらを冷蔵保存した。
【0040】
(1−2−3)センブリ
センブリ末(長野県産)は、長野県生薬(株)より購入した。センブリ末40gを秤量して三口フラスコに入れ、95℃に加熱した熱水400mlを加えた。その後、90〜95℃で1時間抽出し、三口フラスコを水道水で約40〜50℃まで冷却した。冷却後、冷却液を遠心分離機(久保田商事製、卓上型遠心分離機2010型)で2,500rpmにて7分間遠心し、上清を分離し、上清をろ紙で自然ろ過した。
ろ液を合一してナス型フラスコに入れ、エバポレータ(東京理科機械製、NAJ-160型)で減圧濃縮し、フラスコの壁にエキスが付着して粘性を示した時点で止め、濃縮エキスを得た。この濃縮エキスをピペットで試料ビンに移し、高さ約10mmまで充てんして13本の試料を得、これらを冷蔵保存した。
(1−2−4)カリン
カリン抽出液は日本粉末(株)より購入した。このカリン抽出液は、中国産のカリンの果実の乾燥物を30%エタノール(v/v)にて抽出し製造した、特異な臭気と酸味とを有する暗赤褐色の液体である。このカリン抽出液は、フラスコの壁にエキスが付着して粘性を示した時点で濃縮を止めた。この濃縮エキスをピペットで試料ビンに移し、高さ約10mmまで充てんし、14本の試料として、冷蔵保存した。
【0041】
(1−2−5)キハダ実
長野県木曽郡王滝村にて、キハダより採取した。粉砕したキハダの実の部分24.3gを三口フラスコに入れ、ここに95℃に加熱した熱水400mlを加えて、90〜94℃で2時間抽出した。抽出後、三口フラスコを、水道水で約40〜50℃まで冷却し、冷却した抽出液を遠心分離機で2,500rpmにて、7分間遠心分離して上清を得た。
この上清をろ紙で自然ろ過し、ろ液を合一してナス型フラスコに入れ、エバポレータ(東京理科機械製、NAJ-160型)で減圧濃縮した。フラスコの壁にエキスが付着して粘性を示した時点で濃縮を止め、この濃縮エキスをピペットで試料ビンに移した。高さ約10mmまで充てんし、7本の試料を得て、これらを冷蔵保存した。
【0042】
(1−2−6)オウバク
堀江生薬(株)及び永大産業(株)からそれぞれ購入した中国産のキハダの樹皮(オウバク)を、半々で混合して使用した。キハダの樹皮(オウバク)150kgを秤量し、450Lの温水に投入する。オウバクを投入後、97〜98℃で60分抽出を行った。抽出後、抽出液を取り出しオウバクの抽出残渣へ、450Lの温水を投入し、2回目の抽出を行った。以下同様に、3回目及び4回目の抽出を行った。各回の抽出条件は、97〜98℃で100分(2回目)、97〜98℃で60分(3回目)、97〜98℃で60分(4回目)とした。
その後、4回分の抽出液を合一し、液温約106℃で4時間をかけて一次濃縮した。この一次濃縮液を、さらに120メッシュ振動ふるいに通し、次いで、液温116℃で4時間をかけて二次濃縮を行い、オウバクエキスを得た。
得られたオウバクエキスを試料ビンに移し、高さ約10mmまで充てんし、15本の試料を得た。これらを冷蔵保存した。
【0043】
(2)凍結乾燥
上記(1−2−1)〜(1−2−6)までのようにして得た試料は、以下の手順に従って凍結乾燥した。凍結乾燥機は、クリスト凍結乾燥機(ALPHA2-4型)を、アイスコンデンサ温度−85℃、予備冷却温度−50℃、4×10−4hPaの条件で使用した。凍結乾燥に供した検体の種類及び本数は、下記表2の通りである。なお、液温測定用として、試料ビンに水を1cmの高さまで充填したものを、同時に凍結乾燥した。
【0044】
【表2】
【0045】
上記の凍結乾燥機のチャンバーにセットされているシェルフ(棚)に、上記の液温測定用の試料ビンを置き、液温センサーをこの試料ビン内に入れてテープで固定した。この液温測定用試料ビンの周りに、上記表2に示した検体を入れた試料ビン46本の蓋を取り、その状態で立てて並べ、予備凍結を1時間かけて行い、検体を凍結させた。このときの液温は、−31〜−32℃であった。
検体が全て凍結されたことを確認し、その後真空ポンプを稼動させて、4X10−4hPaで検体を真空乾燥させた。真空乾燥の際のシェルフの温度は−15℃に設定した。真空乾燥開始後5分で−15℃となっていることを確認し、ついで、1時間後にこの温度で安定していることを確認した。この時点における液温は、−25℃であった。この状態のまま、一夜(12時間)放置し、その後、下記表3に示す条件に従ってシェルフ温度を上昇させ、検体を乾燥させた。このようにして得た凍結乾燥品を以下の試験に供した。
なお、検体によっては、非揮発性の油分含量が多いために、乾固されなかったものもあった。
【0046】
【表3】
【0047】
(3)鶏赤血球及び細胞
鶏赤血球は、(株)日本バイオテスト研究所より購入した。保存液中の鶏赤血球を、試験前に、0.1%ウシ血清アルブミン(BSA;ナカライテスク(株))含有リン酸緩衝生理食塩水溶液(PBS)に懸濁し、2000rpm、10分間遠心して洗浄し、沈殿物を試験用鶏赤血球とした。
細胞として、Flu感染能を有するMDCK細胞を用いた。MDCK細胞は、以下の組成の培養培地で培養し、細胞が単層を形成した後に、細胞培養用フラスコ(底面積25cm2、ファルコン社製)を用いて、3X105cell/mlで継代を行った。
【0048】
(4)培地組成
(a)培養用培地:
5% 非働化ウシ胎児血清(FBS;Biowest社製)
1% antibiotic antimycotic solution(AAS;SIGMA社製)
改良イーグル基礎培地*1
(b)ウイルス感染用培地:
29.5 g トリプトースフォスフェートブロス(日本ベクトン・ディッキンソン社製)
0.5 g 乾燥酵母エキス(ナカライテスク(株)製)
5 g グルタミン
1 g ブドウ糖(ナカライテスク(株)製)
15 g 炭酸水素ナトリウム
1 L 改良イーグル基礎培地*1
(c)維持培地:
5% 非働化ウシ胎児血清(FBS;Biowest社製)
1% アセチルトリプシン
改良イーグル基礎培地*1
*1:MEM(Minimum Essential Medium) Earle's,liquid、GIBCO社製)
【実施例2】
【0049】
(赤血球凝集阻害試験)
各種生薬等エキスがFluの細胞への吸着を阻害できるか否かを検討した。判定は、赤血球凝集阻害試験で行った。
(1)方法
0.1%BSAを含有するPBSにて、各試料を0 mg/ml、2 mg/ml、5 mg/mlの各濃度となるように希釈した。これらのサンプル50μLを、50μlのPR8(107.6TCID50/ml及び106.5TCID50/ml)と混合し、室温で1時間、96ウェルの丸底プレートにて反応させた。1時間後、PR8と各サンプル液との反応液を、0.1%BSA含有PBSを用いてプレート上で2倍段階希釈した。
その後、0.1%BSA含有PBSで0.5%に調製したトリ赤血球を、全てのウェルに50μlずつ添加し、室温で1時間以上静置した後に、赤血球凝集像を肉眼で確認した(n=12)。完全な赤血球凝集を引き起こすウイルスの最高希釈率を、赤血球凝集力価として決定した。各濃度の試料について、上記の試験を3回繰り返し、平均値+−標準偏差として表した。赤血球凝集阻害試験の結果はウィリアムズ検定で処理した。
【0050】
(2)結果
図1のグラフの横軸に、ゲンノショウコエキス、センブリエキス、コウボクエキス、カリンエキス、オウバクエキス、及びキハダ実エキスを示した。
図1に示すように、対照(試料添加濃度=0mg/ml)の場合、赤血球凝集力価は210.6であった。これに対し、ゲンノショウコエキス5.0mg/mlするPR8の赤血球凝集力価は29であり、有意な赤血球凝集阻害作用が認められた(P<0.05)。さらに、カリンエキス2.0mg/ml及び5.0mg/mlに対するPR8の赤血球凝集力価は、いずれも24と、対照と比較して有意に高くなっていた(ともにP<0.001)。
以上のことから、ゲンノショウコエキス及びカリンエキスに、高い吸着阻害作用を有する物質が含まれていることが示唆された。
【実施例3】
【0051】
(総ポリフェノール量測定)
生薬等エキスの吸着阻害物質を検討するために、各生薬等エキス中の総ポリフェノール量の測定を行った。
(1)方法
総ポリフェノール量の測定は、フォーリン・チオカルト法により行った。
上記のように調製したゲンノショウコエキスを初めとする各種生薬エキスを、蒸留水で0.05mg/mlに調製し、試料とした。各試料は500μlずつ2本の短試験管に分注した。陰性対照には500μlの蒸留水を、また、陽性対照には紅茶エキスをそれぞれ使用し、同様に短試験管に分注した。
各試料に1Nのフェノール試薬(ナカライテスク(株)製)を500μl加え、室温にて、3分間反応させた。3分経過時に、10%炭酸ナトリウム水溶液を500μl加え、さらに1時間、室温にて反応させ、ポリフェノール含有量の吸光度を測定した(OD=700nm)。各試料の吸光度を測定した後、ODの平均値を求め、得られた値から総ポリフェノール含有量(Y(mg/100ml))を以下の式を用いて求めた。
Y=3.1x(吸光度)+0.1
【0052】
(2)結果
図2に示す通り、陽性対照とした紅茶エキス(総ポリフェノール含量=0.326g/g)と比較して、各種生薬等エキス中の総ポリフェノールの量は少なかった。試料中では、ゲンノショウコエキス(0.268g/g)の総ポリフェノール含量が最も高かった。その他の試料の総ポリフェノール含量は、それぞれ、センブリエキス(0.069g/g)、コウボクエキス(0.177g/g)、オウバクエキス(0.158g/g)、キハダ実エキス(0.079g/g)であった。
【実施例4】
【0053】
(MDCK細胞を用いたFlu感染阻止試験)
Fluの生活環は、標的細胞である宿主の呼吸器粘膜上皮細胞に吸着し、その後細胞内に侵入、ゲノム増幅した後、エンベロープにパッケージングされて細胞内から放出される。Fluが増殖するために必要な一連の過程のうち、上記生薬等エキスがどの感染過程を阻害しているかを確認するために、本試験を行った。
【0054】
(1)吸着段階阻止試験
上記の生薬等エキスを、ウイルス感染用培地にて、0.002、0.02、0.2及び2.0 mg/ml(Fluとの反応濃度:0.001、0.01、0.1、1.0 mg/ml)に調製した後、濾過滅菌して試験に用いた。50μlの上記生薬等エキス溶液に対して、50μlに希釈したPR8(107.6/TCID50ml)を加え、室温で約1時間反応させ、これを反応液とした。反応液は、速やかに細胞吸着試験に用いた。
96ウェル細胞培養用平底マイクロテストプレートで、MDCK細胞(3x105 cells/200μl/well)を培養用培地で培養し、その後、培養用培地を除去した。次いで、FBS及びAASの添加されていないMEMを各ウェルに加え、37℃、5%CO2の条件下で1時間培養した。1時間後、各ウェルからMEMを除去し、各ウェルに前記生薬等エキスとウイルスとの反応液を25μl/wellずつ接種し、37℃、5%CO2の条件下でさらに1時間、ウイルスを吸着させた。
【0055】
1時間後、全てのウェルから反応液を除去し、吸着しなかったウイルスを除いた。ここに、200μl/wellのダルベッコ・リン酸緩衝生理食塩水(Dalbecco's PBS)を添加し、洗浄を行った。なお、この洗浄作業を3回繰り返した。
その後、上記維持培地を200μl/wellずつ各ウェルに添加し、37℃、5%CO2下の条件下で3日間培養した。3日後、各ウェルの培養上清50μlを、別の96ウェル丸底プレートに移し、0.5%トリ赤血球懸濁液(0.1% BSAを含有するリン酸緩衝生理食塩水で調製)を50μlずつ各ウェルに添加した。1時間後、各ウェルにおける赤血球凝集像を肉眼観察し、赤血球凝集の阻止率を求めた(n=8)。
このようにして求めた上記各エキスの各濃度における赤血球凝集の阻止率を、MDCK細胞に対するウイルス感染の感染阻止率とした。得られたデータに基づいて用量反応曲線を描いて回帰分析し、MDCK細胞のウイルス感染を50%阻害する各試料の濃度(IC50)を算出した。
【0056】
(2)吸着後阻止試験
上記生薬等エキスを、維持培地を用いて、吸着試験の場合と同じ濃度になるように調製し、濾過滅菌後に試験に用いた。上記(1)と同様にウイルスを吸着させ、吸着しなかったウイルスを除去した。
上記各エキス溶液を、ウイルス吸着から1時間後(侵入時)、9時間後(増殖期)、及び17時間後(放出期)に、100μlずつ、各ウェルに添加した点を除いて、上記(1)と同様の操作を行い、MDCK細胞のウイルス感染を50%阻害する各サンプルの濃度(IC50)を算出した。
【0057】
(3)結果
MDCK細胞を用いた上記の確認試験の結果、ゲンノショウコエキス及びコウボクエキスが全ての感染段階でウイルスの増殖を阻害することが示された。各生薬等のサンプルごとの結果は以下に示す通りである。
図3A及び3B、並びに表4に示す通り、ゲンノショウコエキスは、ウイルス吸着1時間前に試料を添加したときに最も高い試料を添加するとそのIC50値は0.3mg/mlと活性が低下した。このことから、ゲンノショウコエキスは吸着段階を効果的に阻害することが示唆された。
【0058】
【表4】
図4A及びB、並びに表4に示す通り、コウボクエキスでは、全ての感染段階で阻害が観察された。特に、ウイルス吸着1時間前に試料を添加すると阻害活性が高く、IC50は0.02mg/mlだった。また、ウイルス吸着から1時間、9時間又は17時間後に、各試料を添加すると、阻害活性が次第に低下する傾向が認められた。この場合のIC50は、それぞれ0.31、0.91及び0.41mg/mlだった。
【0059】
表4に示す通り、キハダ実エキスによるFlu感染阻害は、吸着時及び吸着から1時間以降はほとんど示されず、IC50値は求められなかった。また、センブリエキス及びオウバクエキスではいずれの感染段階においてもFlu感染阻害はみられなかった。
以上から、ゲンノショウコエキス及びコウボクエキスは、ウイルスの吸着を最も強く阻害し、さらに吸着以後の段階においても、1.0mg/ml濃度であれば十分に阻害活性を有することが示唆された。なお、これら試験は2回ずつ行い、同様の再現性が得られた。
【実施例5】
【0060】
(Fluマウス下気道感染試験)
(1)方法
マウス6匹(Balb/C、7週齢、雄)を、日本エスエルシー(株)より購入した。対照群と試験群とに分け、12時間明暗周期、室温、標準的湿度、水及び食餌の自由摂取という条件の下で1週間の予備飼育を行った。
次いで、対照群、0.5mg/mlコウボクエキス処理群(以下、「コウボクエキス0.5処理群」という。)及び2.0mg/mlコウボクエキス処理群(「コウボクエキス2.0処理群」という)、0.5mg/mlゲンノショウコエキス処理群(「ゲンノショウコエキス0.5処理群」という)及び2.0mg/mlゲンノショウコエキス処理群(「ゲンノショウコエキス2.0処理群」という)の計5群に分けて以下の試験を行い、結果を検討した。
試験直前に各マウスの体重を測定し、生理食塩水にて13倍希釈したソムノペンチル麻酔薬を、50μg/13μl/g 体重で腹腔内投与した。
【0061】
上述した実施例(1−2)で調製した各生薬試料を、0.1%のBSAを含むPBSで上記の濃度となるように溶解したコウボクエキス又はゲンノショウコエキスを調製した。これらのエキス1.98mlと、0.1%のBSAを含むPBSで希釈したPR8(107.6TCID50/ml)0.02mlとを混合し、3分間反応させて試料溶液とした。対照群用試料としては、各エキスに代えて、0.1%のBSAを含むPBSを使用し、同様に3分間反応させた。
その後、麻酔のかかったマウスの鼻先に片側ずつ、10μlの上記混合液を採取したディスポーザブルプラスチックチップを近づけ、呼吸時に吸い込むようにして、片鼻当たり10μl(20μl/匹)ずつ、試料溶液を鼻腔投与した。その後、体重の変化、発症率及び生存率を観察した。下気道感染試験についてはログランク検定を行い、統計解析した。
【0062】
(2)結果
BALB/cマウスを用いた感染阻止試験の結果、Flu接種後14日間にわたる体重の推移を図5に示す。全ての試験群でウイルス接種の直後に体重の減少がみられた。しかし、10日目以降、ゲンノショウコエキス0.5処理群及び同2.0処理群の体重は一定に保たれた。コウボクエキス2.0処理群では、10日目以降に体重の増加がみられた。一方、対照群及びコウボクエキス0.5処理群では10日目に全てのマウスが死亡したため、体重の変化は確認できなかった。
全ての試験群で発症率は100%に達したが、発症率が100%となる時期に相違が見られた。対照群の発症率はウイルス接種後3日目、ゲンノショウコエキス2.0処理群はウイルス接種後8日目であり、ゲンノショウコエキス処理群で有意な発症の遅延がみられた(図6参照)。
【0063】
生存率を見ると、対照群ではウイルス接種後6日目からマウスの死亡が確認され始め、9日目に生存率が0%となった。これに対し、コウボクエキス2.0処理群では14日目で43%と、対照群に比べて有意に高い生存率を示した。コウボクエキス0.5処理群では、14日目で生存率が0%となったが、対照群と比べると死亡するマウスの発生時期が有意に遅くなっていた。
また、ゲンノショウコエキス0.5処理群では、接種8日目からマウスの死亡が確認され、14日目に生存率が16.6%となった。さらに、ゲンノショウコエキス2.0処理群では、11日目からマウスの死亡が確認され、14日目の生存率は66.6%であった(図7参照)。
以上より、ゲンノショウコエキスがFluの発症の抑制及び感染防御に作用し、生体内で吸着阻害作用とウイルス増殖の抑制作用という2つの作用を発揮していることが示唆された。
【実施例6】
【0064】
(ロタウイルスの吸着時阻止試験)
(1)材料
被験ウイルスとして、ロタウイルスSA-11株(サル由来、groupA、TYPE III)を使用した。
被験物質として、上記(1−2−1)で行った抽出・精製法と同様に抽出・精製したゲンノショウコエキスを以下に示す希釈倍率で希釈して使用した。本実験に用いたゲンノショウコエキス中の総ポリフェノール量を上記同様に測定したところ、0.256g/gであった。
被験細胞として、ロタウイルスに高感受性のMA104細胞(アカゲザル(Macaca mulatta)胎児の腎臓由来)を用いた。MA104細胞を以下の組成の維持培地で培養・継代し、細胞が単層を形成するようにした。
【0065】
MA104細胞の培養及び継代培養には、10% 非動化ウシ胎児血清(FBS)(BIOWEST社製)、0.075% 炭酸水素ナトリウム(ナカライテスク(株)製)、4% L-グルタミン(0.073g/ml)(ナカライテスク(株)製)を含むEagle's MEM(日水製薬(株)製)を培養培地として用いた。
また、ロタウイルスの増殖にはMA104 細胞を用い、ホスト細胞であるMA104細胞の培養には29.5gのBactoトリプトースリン酸ブイヨン(Tryptose Phosphate Broth)(ベクトン・ディッキンソン社製)、0.5gの酵母エキス、5gのL-グルタミン及び15gの炭酸水素ナトリウム(いずれもナカライテスク(株)製)を、Eagle's MEMに溶解させたものを維持培地として使用した。
【0066】
(2)方法
(2−1)ロタウイルスの増殖
被験用のロタウイルスを、MA104細胞中で増殖させた。まず、FBS不含Eagle's MEMで1時間洗浄したMA104細胞に、維持培地で10倍に希釈したSA-ll(106.7 TCID50/ml)を加え、5% CO2、37 ℃の条件下で1時間吸着させた。吸着後に維持培地を添加して培養し、2日目に細胞変性効果(CPE)を観察後、凍結融解を3回繰り返した。その後、冷却遠心機(ロータの回転半径4cm、国産遠心機)を用いて、9,000 rpm(36,000×g)、4℃で20分間、遠心分離して上清を回収し、これをSA-11液とした。
ウイルス力価はMA104細胞を用いて測定し、50%感染する希釈の逆数値で算出した。今回使用したSA-11のウイルス力価は107.2TCID50/mlであった。
【0067】
(2−2)MA104細胞の培養
MA104細胞はセルバンカー(登録商標、日本全薬工業(株)製)で3×106 cells/mlに調製し、液体窒素中で凍結保存したものを使用した。この凍結保存細胞のうちの1mlを9mlの培養培地に添加し、卓上遠心機にて、1,000rpmで10分間、室温で遠心を行なった。その後上清を除去し、新たに9mlの培養培地を加えて懸濁し、再度、1,000rpmで10分間、室温で遠心洗浄を行なった。
上清を除去し、最後に培養培地を2ml加えて懸濁後、組織培養プレート(MICROTESTTM Tissue Culture Plate、48well、平底)(FALCON社製)のうちの12ウェルにそれぞれ1mlずつMA104細胞を播種し、5% CO2、37℃の条件下で2日間培養した。2日後、500μlの培地を除去し、新たに500μlのEagle's MEMを加え、5% CO2、37℃の条件下でさらに2日間培養した。
【0068】
最初の培養を開始してから4日後、培地を全て除去し、200μlのリン酸緩衝液(D-PBS;ダルベッコのリン酸緩衝生理食塩水)加えて細胞表面を洗浄し、D-PBSの除去後、細胞間の結合阻害剤として200μlのトリプシン-EDTA(GIBCO社製)を加えて、ウェル内一面に行き渡らせ、すぐ除去した。その後新たに120μlのトリプシン-EDTAを加え、5% CO2、37℃の条件下で、細胞がはがれるまで15分ほど静置した。
その後、各ウェルに新たな培養培地を1mlずつ加えて懸濁し、各ウェルの細胞懸濁液すべてを12mlの培養培地に添加した。このうち10mlの細胞懸濁液を、組織培養用フラスコ(25cm2 Standard tissue culture flasks、Techno Plastic Products、スウェーデン)に播種し、5% CO2、37℃の条件下で4〜5日間培養した。
【0069】
4〜5日後、培地を全て除去し、1mlのD-PBSを加えて細胞表面を洗浄した。D-PBS除去後、トリプシン-EDTAを500μlずつ加えてフラスコ一面に行き渡らせてすぐに除去し、その後新たに300μlのトリプシン-EDTAを加え、5% CO2、37℃の条件下で細胞が剥がれるまで15分ほど静置した。
その後、新たに10mlのEagle's MEMを加えて懸濁し、15mlの培養培地の入った細胞培養用フラスコ(75cm2 Standard tissue culture flasks、Techno Plastic Products、スウェーデン)に5ml播種した後、5% CO2、37℃の条件下で4〜5日間培養した。以上のように増殖させたMA104培養細胞を以下の実験に使用した。
【0070】
(2−3)吸着時阻止試験
ゲンノショウコエキスを維持培地にて2.0mg/mlに調製後、シリンジフィルター、ミニザルト(Minisart、ザルトリウス・ステディム社製、ポアサイズ=0.20μm)にてろ過滅菌し、2×10-4、2×10-3、2×10-2、及び2×10-1mg/mlに調製し、試験に用いた。ロタウイルスとの反応濃度はそれぞれ1×10-4、1×10-3、1×10-2、及び1×10-1mg/mlであった。
上述したMA104細胞(0.5×105 cells/200μl/well)を、培養培地を加えた組織培養プレート(MICROTESTTM Tissue Culture Plate、96well平底、FALCON社製)で培養し、各ウェルから培養培地を除去した。次いで、FBS不含Eagle's MEMを加えて5% CO2、37℃の条件下で1時間洗浄し、その後FBS不含Eagle's MEM を除去した。
【0071】
上記SA-11液を維持培地で5,000倍に希釈し、ロタウイルス液とした。その25μlに前述のゲンノショウコエキスを25μl加えて、ロタウイルスを10,000倍に希釈し(1.0×103.2 TCID50/ml)、ロタウイルスとゲンノショウコエキスとを室温で1時間反応させた。
この反応液25μlを、96ウェル平底プレートで培養した上記のMA104細胞に接種し、5% CO2、37℃の条件下で1時間吸着させた。1時間後、吸着しなかったウイルスを除去するために、100μlのD-PBSを全ウェルに添加し、これを除去するという洗浄操作を3回行なった。その後、1ウェルあたり、200μlの維持培地を添加し、3日間、5% CO2、37℃の条件下で培養した。吸着阻止試験は3回行い、いずれも下記の通りの結果を得た。
培養終了後に細胞変性効果(CPE)を顕微鏡で肉眼観察し、ウイルス感染を50%阻害するゲンノショウコエキス濃度(IC50)を算出した。なおCPEは、−、±、+、++の4段階で評価し、+以上の評価となったものを感染と判断した。
【0072】
0.1〜0.0001 mg/mlのサンプル濃度で各濃度16ウェルを用い、CPE陽性のウェルの数とCPE 陰性(−)のウェル数とを観察し、CPE陰性(−)ウェル数の割合から阻害率を求めた。これらのデータから得られた用量反応曲線の回帰分析により、MA104細胞のロタウイルス感染を50%阻害する各試料の濃度(IC50)を算出した。
(3)結果
ゲンノショウコによるロタウイルス吸着時阻止効果を図8に示す。吸着時阻止率はゲンノショウコエキス濃度が10-1mg/mlのとき93.75%、10-2mg/mlでは68.75%、10-3mg/mlでは31.25%、10-4mg/mlでは18.75%であり、IC50値は1.0×10-2.5mg/mlであった。
【実施例7】
【0073】
(ロタウイルスの侵入阻害試験)
(1)材料及び方法
ロタウイルスの吸着後、1時間の時点でゲンノショウコエキスを添加した点を除き、実施例6と同様に実験を行い、CPEを顕微鏡で観察した。ゲンノショウコの侵入時阻止率(%)は、10-1mg/mlで68.75%、10-2mg/mlで56.25%、10-3mg/mlで43.75%、10-4mg/mlで12.5%であり、IC50値は1.0×10-2.6mg/mlであった。侵入阻止試験は2回行ない、いずれも図9に示す通りの結果を得た。
【実施例8】
【0074】
(ロタウイルスの増殖阻止試験)
(1)材料及び方法
ロタウイルスの吸着後、9時間の時点で下記の濃度のゲンノショウコエキスを添加した点を除き、実施例7と同様に行った。
ゲンノショウコエキスを維持培地にて2.0mg/mlに調製後、上記同様にろ過滅菌した。この原液を10倍段階希釈し、2.0×10-3、2.0×10-4、2.0×10-5、及び2.0×10-6mg/mlに調製し、試験に用いた。増殖阻止試験は3回行ない、いずれも下記の通りの結果を得た。
培養開始9時間後に、各100μlの調製済ゲンノショウコエキスを添加し、5% CO2、37℃の条件下で3日間培養した。
(2)結果
ゲンノショウコのロタウイルス増殖時阻止率(%)は、図10に示す通り、1.0×10-3mg /mlで100%、1.0×10-4mg/mlで81.25%、1.0×10-5mg/mlで68.75%、1.0×10-6mg/mlで43.75%であり、IC50値は1.0×10-5.75mg/mlとなり、極めて低い濃度で阻止作用を示した。
【実施例9】
【0075】
(ロタウイルスの放出阻止試験)
(1)材料及び方法
特別に記載した点を除き、実施例8と同様に行った。
ウイルス接種後のMA104細胞に100μlの維持培地を加え、5% CO2、37℃の条件下で9時間培養した。接種から17時間後、各100μlの調製済ゲンノショウコエキスを各ウェルに添加し、5% CO2、37℃の条件下で3日間培養した。放出阻止試験は3回行ない、いずれも下記の通りの結果を得た。
(2)結果
ゲンノショウコのロタウイルス放出時阻止率(%)を図11に示す。図11中、放出時阻止率は1.0×10-3mg/mlで68.75%、1.0×10-4mg/mlで56.25%、1.0×10-5mg/mlで43.75%、1.0×10-6mg/mlで31.25%となり、IC50値は1.0×10-4.5mg/mlであった。
ウイルスの吸着、侵入、増殖及び放出というウイルスの生活環の各過程におけるゲンノショウコエキスの活性阻害作用を図12に表す。ゲンノショウコエキスは、ロタウイルスの細胞感染過程のいずれでも活性を阻止していたが、特に、増殖過程以降を強く阻害することが示された。
【実施例10】
【0076】
(乳仔マウス下痢発症試験)
(1)材料及び方法
妊娠マウス(BALB/c)(日本エスエルシー(株))から産まれた7日目の乳仔マウスを被験動物とした。ゲンノショウコエキスを、蒸留水にて、4.0mg/ml(高濃度群用)及び1.0mg/ml(低濃度群用)に調製し、それぞれ試料溶液とした。ロタウイルスとの反応濃度は、高濃度群用試料で2.0 mg/ml、低濃度群用試料で0.5mg/mlであった。
各群には、それぞれ同腹の乳仔マウスを用い、高濃度群及び低濃度群はそれぞれ6匹、対照群は7匹を被験数とした。
上記の濃度に調製したゲンノショウコエキスと希釈していないSA-11液とを等量で混合し、室温で1時間反応させて各群への投与用試料とし、40μl/マウスで経口投与した。また、陰性対照群には、蒸留水と希釈していないSA-11液とを等量ずつ混合した溶液を、40μl/マウスで経口投与した。
【0077】
投与開始後1週間の間、毎日下痢の発症の有無を観察した。判定は、水状の便が出れば下痢、水状ではないが柔らかい形状の便が出れば軟便、硬い糸状、もしくは腹を押しても便が出ない場合は無症状として、軟便以上をロタウイルス下痢症の発症と判定した。
各群のロタウイルス下痢症の持続期間は、スチューデントのt検定を用いて対照群と比較した。
5日目までには全てのマウスに下痢症が発症した。対照群では1日目に28.6%、2日目に85.7%、3日目に100%となった。これに対し、低濃度群では1日目は0%、2日目に66.7%、3日目に100%となって発症の遅延が見られた。高濃度群では1日目は0%、2日目に16.7%、3日目に66.7%、そして4日日に100%となり、明らかな発症の遅延が見られた(図13)。
【0078】
以上の測定結果より、ゲンノショウコエキスは濃度依存的に下痢症の発症を抑制することが示された。また、本実施例により、ゲンノショウコエキスはロタウイルス感染症の予防作用を有することが示された。
それぞれの乳仔マウスの下痢の平均持続期間を調べたところ、対照群では4.14±0.91日、低濃度群では3.17±0.90日、高濃度群では1.83±0.82日であった。高濃度群では対照群に比べ、下痢症の持続期間が有意に減少していた(危険率P<0.01)(図14)。
以上より、ゲンノショウコエキスは、濃度依存的に下痢の持続期間を有意に短縮させることが示された。また、本実施例により、ゲンノショウコエキスはロタウイルス感染症の治療作用を有することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明のウイルス活性阻害用組成物、医薬組成物、及び医薬製剤は、ウイルス感染に対する医薬の分野で有用である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物抽出物からなる、ウイルス感染症の予防及び/又は治療用組成物、それらを有効成分とするウイルスに起因する感染症の予防及び/又は治療剤、並びにウイルスの細胞への吸着阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルス感染症は新興感染症の1つであり、局地的な流行で終息することもあるが、ヒトや動物の移動によって世界的な規模で感染が拡大し、公衆衛生上の問題となることもある。呼吸器疾患を惹起するインフルエンザウイルスへの感染によって生じるインフルエンザが、世界的な規模で流行した場合の好例として挙げられる。また、消化器疾患を惹起するノロウイルスやロタウイルスが、局地的な流行の例として挙げられる。
インフルエンザウイルス(以下、「Flu」ということがある。)は、オルトミクソウイルス科に属し、核蛋白の抗原性の違いから、A、B、Cの3つの型に分類されている。飛沫感染、接触感染、又は空気感染によって感染すると、悪寒、高熱や筋肉痛等の症状が現れるとともに、咽頭痛や咳などの気道炎症を伴う。
【0003】
インフルエンザは重度の呼吸器感染症であるため、免疫力の弱い幼児や高齢者が感染力の高いA型インフルエンザウイルスに感染すると肺炎やインフルエンザ脳症を起こし、時には死に至るというケースも報告されている。特に、A型インフルエンザウイルスは、被膜表面に存在するヘマグルチニン(HA、16種)とノイラミニダーゼ(NA、9種)との型によって亜型に分けられる。そして、これらの組み合わせが頻繁に変化し、これに起因して抗原性の異なる新たな亜型のウイルスが出現することが知られている(非特許文献1参照)。
こうしたFluの各亜型はそれぞれの宿主に特異的に感染し、ヒトFluはヒトにしか感染しないとされてきた。しかし、20世紀以降、従来知られていたヒトFluとは抗原的に異なる新型Fluがヒトに感染し、世界規模での感染拡大を引き起こした。
【0004】
この新型Fluの出現には抗原シフトと抗原ドリフトという2つのメカニズムが関与している。抗原シフトは、宿主細胞に2つ以上の異なるFluが感染することによって生じる遺伝子交雑によって、新しい亜型のFluが出現する現象をいい、抗原シフトによって種を超えた感染が可能になるとされている。抗原シフトによって発生した新型Fluの例としては、1997年に香港で発生した新型Flu(H5N1)が挙げられる。H5N1型のFluは、病原性が極めて高く、今後の感染拡大が懸念されている。
一方、抗原ドリフトは、ゲノム変異によって表面蛋白のアミノ酸配列が変化し、同じ亜型であっても抗原性の異なるウイルスが出現する現象をいう。
ヒトにおける免疫機構では、ウイルス等の非自己と認識される抗原が侵入したときに、抗原特異的な抗体を生産することで生体を防御する。そして、こうした抗体の産生は記憶されるため、風疹や麻疹等に一度感染すると、再度感染することはない。しかし、抗原型が異なる場合には、このメカニズムが働かないために、感染を繰り返すことになる。インフルエンザの流行が繰り返される1つの原因がここにある。
【0005】
ところで、Fluを初めとするエンベロープ型ウイルスの感染の成立には、吸着・侵入・増殖・発芽の4段階が必要であり、成立することが知られている。そして、インフルエンザの治療には、塩酸アマンタジン、塩酸リマンタジン、インターフェロン、リバビリン、オセルタミビル又はザナミビル等が使用されている(非特許文献1参照)。
また、局地的に発生する場合の例としては、ロタウイルス感染が挙げられる。経口感染によって、レオウイルス科に属するロタウイルスに感染すると、下痢や脱水症状を引き起こす。ロタウイルス感染に対する有効な医薬製剤は、現在のところはなく、経口的に水分と塩類の補給を行い、自然治癒を待つしかないという状況である。
【0006】
ところで、東洋医学において古くから各種の病気の治療に用いられてきた、動物又は植物由来の生薬の中に、抗Flu活性を有するものがあることが報告されている。そして、こうした活性の本体をなす有効成分を特定するために、種々の研究が進められた結果、植物性の生薬に含まれるポリフェノールが、抗酸化作用等の他に、ある種のウイルスに対して抗ウイルス作用を示すことも知られている(非特許文献2〜4及び6参照)。ポリフェノール以外に、桂皮(Cinnamomi cortex)に含まれる精油の主成分であるシンナムアルデヒドが細胞内に侵入したFluに作用し、ウイルス蛋白の発現を抑制することが報告されている(非特許文献5参照)。
【0007】
また、生薬であるゲンノショウコの全草又はオウバクの樹皮の抽出物には、ヘルペスウイルス、ポリオウイルス、麻疹ウイルス、水痘ウイルス、及びサイトメガロウイルスの増殖抑制作用のあることが知られている。韓国産コウボクの樹皮の抽出物にも、ヘルペスウイルス、ポリオウイルス、サイトメガロウイルスの増殖抑制作用のあり、中国産コウボクの樹皮の抽出物には麻疹ウイルスの増殖抑制作用があることが知られている(特許文献1参照)。
さらに、民間薬であるキハダの果実のメタノール抽出物に、エプスタイン−バーウイルスに潜在感染した細胞でウイルスの活性化を抑制する作用があることが知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−25003
【特許文献2】特開平10−194984
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】John Beigel, Mike Bray. Current and future antiviral therapy of severe seasonal and avian influenza. Antiviral Research. 78, 91-102(2008).
【非特許文献2】Anti-influenza Virus Activity of Crude Extract of Ribes nigrum L.Phytother.Res. 17, 120-122(2003).
【非特許文献3】In vitro anti-influenza virus activity of a plant preparation from Geranium Sanguineum L.Julia Serkedjieva, Alan J.Hay Antiviral Reseach. 37, 121-130(1998).
【非特許文献4】S.Kumazawa, M.Taniguchi, Y.Suzuki, M.Shimura, Antioxidant Activity of Polyphenols in Carob Pods.J.Agric.Food Chem. 50, 373-377(2002).
【非特許文献5】K..Hayashi, N.Imanishi, Y.Kashiwabara, A.Kawano, K.Terasawa, Y.Shimada, H.Ochiai. Inhibitory effect of cinnamaldehyde,derived from Cinnamomi cortex,on the growth of influenza A/PR/8 vitro and in vivo. Antiviral Research. 74, 1-8(2007).
【非特許文献6】S.Okabe, M.Suganuma, Y.Imayoshi, S.Taniguchi, T.Yoshida, H.Hirota. New TNF-α Releasing Inhibitors, Geraniin and Corilagin,in Leaves of Acernikoense, Megusurino-ki, Biol.Pharm. 24, 1145-1148(2001).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
アマンタジンやリマンタジンは、M2イオンチャネルをブロックすることで、抗ウイルス作用を発現する薬剤であり、ウイルスの脱殻に作用し、細胞質へのゲノム断片放出を阻害するという点では優れた薬剤である。また、オセルタミビルやザナビルは、Flu蛋白質のノイラミニダーゼに作用し、Fluが感染細胞から遊離するのを阻害することでインフルエンザ感染を予防するとして効果を挙げている。しかし、これらのインフルエンザ治療薬は、腸管内や神経系に対して副作用を起こすという問題を抱えている。
さらに、治療薬が作用しなかったFluが生き残ることによる薬剤耐性ウイルスの出現も危惧されており、使用量の増加に伴って急速な薬剤耐性ウイルスの出現が問題とされている。しかしながら、このような薬剤耐性Fluに対する安全で効果的な治療薬は、未だ開発されていない。
【0011】
また、インフルエンザの流行を抑えるために、ワクチンの開発が進められている。インフルエンザワクチンは、ある年のインフルエンザの流行状況とそのときの原因となったウイルスの亜型から、翌年のFluの抗原性の変化を予想し、それに基づいて製造されるため、抗原性の変化が想定範囲外になると感染を回避できないという問題がある。そして、上記の通り、インフルエンザウイルスの抗原性の変異のしやすさが、十分な効果を上げ得るワクチンの製造を困難なものとしている。
【0012】
また、インフルエンザは冬季に流行することが多いが、この時期には2歳未満の幼児の胃腸炎を引き起こす、ロタウイルス感染も流行することが多い。ロタウイルスは、小腸上皮で増殖し炎症を起こし、脱水症状を伴う。嘔吐・発熱を伴った重症の下痢の場合には、脱水にショック、電解質の不均衡を伴い死にいたる可能性もある。しかし、ロタウイルスに対する特効薬は知られておらず、我国では、ワクチンも使用されていない。
幼児の場合には、効果の強い合成薬を投与すると成人よりも副作用等の面で危険性が高いため、副作用の少ない薬剤が望まれている。
以上から、Flu及びロタウイルス等に対して効果のある薬剤の開発に対する、高い社会的な要請があった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の発明者らは、以上のような状況の下で研究を進め、本発明を完成した。
すなわち、本発明の第一の態様は、ゲンノショウコ、ホウノキ、キハダからなる群から選ばれる1以上の植物の熱水抽出物を有効成分として含有する、RNAウイルスの細胞への吸着阻害用組成物である。ここで、前記RNAウイルスは、インフルエンザウイルス又はロタウイルスであることが好ましい。また、前記有効成分は、ゲンノショウコ末、コウボク末、及びキハダ実からなる群から選ばれる1以上のものの熱水抽出物を含有するものであることが好ましい。
本発明の第二の態様は、前記吸着阻害用組成物を含有する、インフルエンザ又はロタウイルス感染症の予防及び/又は治療用組成物である。ここで、前記有効成分は、ゲンノショウコ末の熱水抽出物、コウボク末の熱水抽出物、又はキハダ実の熱水抽出物を含有するものであることが好ましい。
【0014】
本発明の第三の態様は、前記吸着阻害用組成物を含有する、RNAウイルスの不活化剤である。また、本発明の第四の態様は、前記吸着阻害用組成物を含有する、RNAウイルスの不活化用水処理剤である。ここで、ゲンノショウコ末の熱水抽出物を有効成分として含有する、インフルエンザウイルス又はロタウイルスの細胞への吸着を阻害するものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、上述した生薬の熱水抽出物は、RNAウイルス、とりわけ後述するオルトミクソウイルス科に属するウイルスに起因する感染症の予防及び/又は治療効果を有する。また、上述した生薬の熱水抽出物は、ウイルスの細胞への吸着をはじめ、ウイルス感染性成立過程全般に対する阻害効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、生薬等の抽出物による赤血球凝集阻害作用を示すグラフである。
【図2】図2は、生薬等の抽出物に含まれる総ポリフェノール量を示すグラフである。
【図3】図3(A)は、MDCK細胞を用いたときのFlu感染の各過程におけるゲンノショウコ末からの熱水抽出物(以下、「ゲンノショウコエキス」という。)による阻害作用を示すグラフであり、図3(B)は、図3(A)に示した、吸着、侵入、増殖及び発芽の各過程におけるこれらの50%阻害濃度(IC50)を示すグラフである。
【0017】
【図4】図4(A)は、MDCK細胞を用いたときのFlu感染の吸着、侵入、増殖及び発芽の過程における、コウボク末からの熱水抽出物(以下、「コウボクエキス」という。)による阻止作用を示すグラフである。また、図4(B)は、図4(A)に示した上記の各過程における50%阻害濃度(IC50)を示すグラフである。
【図5】図5は、Flu感染マウスにコウボクエキス又はゲンノショウコエキスを投与したときの体重減少抑制作用を示すグラフである。
【図6】図6は、各種生薬等エキスをFlu感染マウスに投与したときの発症抑制作用を示すグラフである。
【図7】図7は、各種生薬等エキスをFlu感染マウスに投与したときの感染防御作用を示すグラフである。
【0018】
【図8】図8は、ゲンノショウコエキスをロタウイルスと接触させた場合の、MA104細胞への吸着阻害作用を示すグラフである。
【図9】図9は、ゲンノショウコエキスをロタウイルスの吸着したMA104細胞と接触させた場合の細胞への侵入阻害作用を示すグラフである。
【図10】図10は、ゲンノショウコエキスをロタウイルスの侵入したMA104細胞と接触させた場合の細胞での増殖阻害作用を示すグラフである。
【図11】図11は、ゲンノショウコエキスをロタウイルスの増殖したMA104細胞と接触反応させた場合の細胞からの放出阻害作用を示すグラフである。
【図12】図12は、ロタウイルスの吸着、侵入、増殖、放出の各過程における、ゲンノショウコエキスの阻害作用の強さを比較するグラフである。
【図13】図13は、ゲンノショウコエキスをロタウイルスと反応させた後の、乳仔マウスのロタウイルス下痢症の累積発症率を示すグラフである。
【図14】図14は、ゲンノショウコエキスをロタウイルスと反応させた後の、乳仔マウスのロタウイルス下痢症の持続時間を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明において使用する各種生薬として、日本の各地に自生しているか、または栽培されている植物を使用することができる。一般的に「生薬」とは、自然界の植物、動物、微生物、鉱物等をあまり加工せずに薬物として利用しているものをいうが、民間薬ともいう。本明細書中では、自然界の植物をあまり加工せずに薬物として利用しているものを意味するものとする。具体的には、例えば、ゲンノショウコ、コウボク、オウバク、センブリ、カリンその他のものを挙げることができる。なお、本明細書中では、生薬を主成分とする民間薬を含めて、「生薬等」ということがある。
【0020】
ゲンノショウコは、日本の代表的な民間薬であり、日本各地、台湾、朝鮮半島、中国などに分布するフウロソウ科フウロソウ属の多年草、ゲンノショウコ(Geranium thunbergii)の全草を用いる。中国には、類似する植物としてミツバフウロ(老鸛草、G. wilfordi)という薬草があるが、止瀉の効能はあまり知られていない。日本のゲンノショウコは、中国ではネパール老鸛草と称している。葉には多量のタンニンが含まれ、その約2/3はゲラニインである。健胃・整腸・止瀉作用があり、あらゆる下痢に応用される。特に、赤痢等の裏急後重(渋り腹のこと。しきりに便意を催すのに排便がごく少量で、すぐまた行きたくなる症状をいう。)を伴う下痢に効果があることが知られている。下痢止めを目的とするときには、タンニン類が良く抽出されるように、半量になるまで煎じる。短く煎じると緩下剤になる。ベルベリンと配合されたものが、医療用の整腸薬としてフェロベリン(登録商標)の名で市販されている。
【0021】
コウボクも日本を代表する生薬であるが、唐厚朴と和厚朴とがある。和厚朴としては、北海道から九州まで分布する日本固有のモクレン科モクレン属の落葉高木、ホウノキ(Magnolia obovata)の幹や枝の樹皮を使用する。唐厚朴としては、カラホウ(Magnolia officinalis)、凹葉厚朴(M. Officinalis var. biloba)の幹や枝の樹皮を用いるが、根に近い部位が良品とされている。四川省の川朴、淅江省の厚朴(温朴)等が有名である。
中国産のホウノキは、和厚朴から除外されている。唐厚朴は切断面からセスキテルペン類の結晶をカビのように析出させるが、和厚朴では析出させない。また、唐厚朴の方が香りも強い。
【0022】
これらの樹皮に含まれる成分としては、約1%の精油、タンニン、アルカロイドである、マグノクラリン、マグノフロリン、リリオデニンのほか、リグナン類のマグノロール、ホオノキオール等が挙げられる。コウボクエキスには、中枢抑制作用やクラーレ様作用(筋弛緩作用)、抗潰瘍作用等があることが報告されている。本発明の実施において使用するコウボクとしては和厚朴が好ましい。
オウバクも日本を代表する生薬であり、日本全土、朝鮮半島、中国北部、アムール地方に分布するミカン科キハダ属の落葉高木、キハダ(Phellodendron amurense)の樹皮の外層のコルク層を除いて平板状に乾燥したものを用いる。樹皮に含まれる成分としては、アルカロイドであるベルベリン、パルマチン、マグノフロリンや、苦味トリテルペノイドであるオーバクノン、リモニン等が挙げられる。ベルベリンやオウバクエキスには、抗菌作用、抗炎症作用、中枢抑制作用、降圧作用、健胃作用等があることが知られている。抗炎症作用では、細菌性・アメーバ性の下痢に有効である。キハダ実は民間薬としても知られている、上記のキハダの実である。
【0023】
センブリは日本独自の民間薬であり、日本各地や朝鮮半島などにも分布するリンドウ科の1〜2年草であるセンブリ(Swertia japonica)の全草を用いる。一般には、開花期に採取する。苦味成分として、スウェルチアマリン、スエロサイド、ゲンチオピクロサイド等の配糖体が含まれ、スウェルチアマリンには胆汁、膵液、唾液等の分泌を促す作用がある。苦味健胃薬として、今日でも家庭薬に配合され、胃痛、消化不良、食欲不振の治療に応用されている。
カリンは、中国原産で、日本や朝鮮半島、アメリカ等でも栽培されているバラ科の落葉高木、カリン(Chaenomeles sinesis)の果実である。リンゴ酸、クエン酸などの有機酸を含み、鎮咳薬として用いられている。
【0024】
上述した生薬からの抽出物を混合した物として、御岳百草丸(登録商標、長野県製薬(株))を用いる。御岳百草丸は、60粒(成人の1日の服用量)中に、苦味健胃作用を有するオウバクエキス 1600 mg(原生薬換算量 2240 mg)、整腸作用を有するゲンノショウコ末(日局)500 mg、芳香性健胃作用を有するビャクジュツ末(日局) 500 mg、苦味健胃作用を有するセンブリ末(日局)35 mg、芳香性健胃作用を有するコウボク末(日局)700 mgを含有している。
【0025】
本発明で使用する各抽出物は、以下のようにして得ることができる。
コウボクエキス、ゲンノショウコエキス、キハダ実エキス、オウバクエキス及びセンブリエキスは、以下のようにして調製する。まず、これらをそれぞれ所定の量となるように秤量して適当な大きさの容器、例えば、三つ口フラスコに入れ、ここに秤量した上記生薬重量の10〜20倍量の熱水(w/v)を加える。ここで、熱水とは、約90℃以上100℃以下の水をいい、約92℃以上約98℃以下の熱水を使用することが好ましく、約95℃の熱水を使用することがさらに好ましい。
次いで、所定の温度にこの容器を保持したまま、所定の時間抽出操作を行う。ここで、抽出に際して好適な所定の温度は、約85℃以上100℃以下であり、約88℃以上約98℃以下であることがさらに好ましく、約90℃以上約95℃以下であることが最も好ましい。所定の抽出時間は、30分以上2時間未満であることが好ましく、45分以上90分以下であることがさらに好ましい。もっとも好ましい抽出時間は約60分である。
【0026】
上述した抽出時間が経過した後に、それぞれの容器を水道水等で約40〜50℃まで冷却し、遠心分離して上清と沈殿物とを分離する。遠心分離は、室温にて低速で行う。例えば、卓上型遠心分離機2010型(久保田商事(株)製)を用いて、室温にて、約2,000〜約3,000rpmで5〜10分間遠心し、上清を分離することができる。約2,500rpmで7分間とすれば、上清と沈殿物とをもっとも効率よく分離することができる。
得られた上清をろ過した後に、ろ液を合わせて適当な容器に入れ、所定の温度で減圧濃縮を行う。抽出残渣の混入を防止するため、自然ろ過を行うことが好ましい。減圧濃縮は、抽出物の変性を防ぎつつ、効率良く濃縮する上で約50〜約70℃で行うことが好ましく、約60℃で行うことが濃縮効率の高さの点からさらに好ましい。
【0027】
一定の段階で濃縮を止め、濃縮液を試料ビンに一定量ずつ充填して冷蔵保存する。濃縮を止める時点は、適宜設定することができるが、例えば、減圧濃縮に使用した容器の内壁にエキスが付着して粘性を示すようになった時点とすることが、後述する凍結乾燥を効率良く実施する上で好ましい。
カリンエキスは、市販のカリン抽出液を購入して使用してもよい。こうしたカリン抽出液としては、日本粉末(株)の製品等を挙げることができる。
以上のようにして、各種のエキスを調製し、保存用の濃縮試料を得ることができる。これらのエキスは、さらに以下のような手順で凍結乾燥することによって、油分含量の多いものを除いて粉末とすることができる。
【0028】
凍結乾燥機、例えば、クリスト凍結乾燥機(ALPHA2-4型)を、アイスコンデンサ温度を−90〜−80℃、予備冷却温度−55〜−45℃、3〜5×10−4hPaの条件として、凍結乾燥を行うことができる。この凍結乾燥機のチャンバーにセットされているシェルフ(棚)に、上記の液温測定用の試料ビンを置き、液温センサーをこの試料ビン内に入れてテープで固定する。次いで、液温測定用試料ビンの周りに、検体をいれた試料ビンの蓋を取り、立てたまま並べて液温を測定しながら、例えば、予備凍結を0.5〜2時間かけて行い、試料ビン中の検体を凍結させることができる。
検体全てを凍結させた後に真空ポンプを稼動させ、ほぼ真空状態で検体を真空乾燥させることが好ましい。真空乾燥の際のシェルフの温度は、例えば、−20〜−10℃に設定することが好ましい。真空乾燥開始後数分以内に設定温度になっていることを確認し、ついで、所定の時間を経過した後にこの温度で安定していることを確認する。この時点における液温を測定する。この状態のまま、所望の時間、例えば、一夜放置し、その後、例えば、下記表1に示す条件に従ってシェルフ温度を上昇させ、検体を乾燥させる。このようにして凍結乾燥品を得ることができる。
【0029】
【表1】
【0030】
以上のようにして得た各生薬のエキスは、それぞれ単体で使用することもでき、複数のものを適宜混合して、医薬組成物とすることができる。例えば、オウバクエキス、ゲンノショウコエキス、センブリエキス、及びコウボクエキスを、300〜350:50〜150:5〜15:100〜150の比となるように混合し、練り合わせて組成物を調製することができる。
この組成物を厚み約3〜4mmの板状にし、例えば、型で抜いて直径約3〜4mmの丸剤とする。または、公知の製剤学的製法に従い、製剤の製造に際して薬理学的に許容され得る日本薬局方に記載の担体、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤等を用いて製剤を製造することができる。
【0031】
こうした担体や賦形剤としては、例えば、乳糖、ブドウ糖、白糖、マンニトール、馬鈴薯デンプン、トウモロコシデンプン、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、結晶セルロース等を挙げることができる。
結合剤としては、例えば、デンプン、トラガントゴム、ゼラチン、シロップ、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等を挙げることができる。
練り合わせて組成物を調製した後にこれを乾燥させて粉末とし、市販のカプセルに適当量充填することにより、カプセル剤としてもよい。
【0032】
また、練り合わせる際に所望量の結合剤、適宜、上述した結合剤を加えて打錠し、錠剤としてもよく、トローチ剤とすることもできる。錠剤とした後に、上述した白糖又はゼラチン等のコーティング剤を用いて、糖衣錠としてもよい。
白糖の溶液又は白糖その他の糖類もしくは甘味剤、又は単シロップに、上述した生薬等エキスを加えて、溶解、混和、懸濁又は乳化する。必要に応じて混液を煮沸した後、熱時濾過することによって、比較的濃稠な溶液又は懸濁液等として、シロップ剤とすることもできる。必要に応じて、芳香剤、着色剤、保存剤、安定剤、懸濁化剤、乳化剤、粘稠剤等を加えることもできる。
【0033】
上述したような抗ウイルス性の医薬製剤を患者に投与する場合には、投与量は、患者の症状の重篤さ、年齢、体重、及び健康状態等の諸条件によって異なる。一般的には、成人1日当たり1mg/kg〜500mg/kg、好ましくは1mg/kg〜300mg/kg程度を、経口的に、1日1回若しくはそれ以上の回数にわたって投与する。上記のような諸条件に応じて、投与の回数及び量を適宜増減すればよい。
また、上述したような固形剤のほか、1種類以上の上記担体、溶剤、希釈剤および/または賦形剤と上述した各種生薬等エキスとを適宜混合し、例えば、含嗽用製剤、口内洗浄剤、口内リンス剤、その他の液剤を製造することができる。ここで、賦形剤は、水性アルコール液であってもよい。必要に応じて、安定剤、緩衝剤、矯味剤、保存剤、その他の添加剤を加えることができる。
【0034】
例えば、含嗽用製剤の調製の際には、懸濁剤、シロップ剤、乳剤等を好適に使用することができる。含嗽用製剤は、口に含んで含嗽した後に飲み込むタイプのものであってもよく、吐き出すタイプのものであってもよい。こうした液剤の場合には、使用時に、抗ウイルス効果を発揮できる濃度となるような、濃縮タイプの含嗽用製剤、口内洗浄剤、口内リンス剤、その他の液剤とすればよい。定期的に嗽を行う際に、こうした液剤を使用することによって、インフルエンザウイルスやロタウイルスの口腔粘膜からの侵入を効果的に防止することができる。
また、水飴、米飴、及び、必要に応じて、安定剤、矯味剤、保存剤、その他の添加剤を加えてのど飴等にした場合にも、同様の効果を得ることができる。
【0035】
上記の投与量の範囲内での投与又は使用によって、インフルエンザウイルスやロタウイルスに対する十分な抗ウイルス効果が発揮される。また、本製剤は複数の化合物を含む生薬の抽出物であるから、上述したようなウイルスに耐性が生じにくいという大きな利点がある。
上記抽出物を含む組成物を、本願発明の水処理剤とする場合には、液剤、錠剤、顆粒剤、粉末その他の固形剤のいずれの剤形のものであってもよい。また、飲料水、野菜等を先浄するための水、家畜用の飲料水、魚・水生生物の飼育用水槽に入れる水等に、所定の濃度となるように溶解させて使用することができる。本願発明の水処理剤を使用することにより、ヒトを含む生物体へのウイルス感染を未然に防ぐことが出来る。
【0036】
以下、本発明について、実施例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0037】
(材料等)
(1)材料
以下に示す材料は主にインフルエンザウイルスに関する試験に使用した。ロタウイルスに関する試験にのみ使用した材料は、実施例6以降に記載した。
(1−1)使用ウイルス株
インフルエンザウイルスとして、A/Puerto Rico/8/34(H1N1:PR8、以下、「Flu」という。)を用いた。このFluを発育鶏卵(11日卵)の尿膜腔内に接種し、34℃で2日間培養し、4℃で一晩置き、尿膜腔液を採取した。尿膜腔液のFlu価をMDCK細胞(Madin-Darby canine kidney:イヌ腎由来細胞)を用いて測定し、50%感染する希釈逆数値で表記した。今回使用したPR8のウイルス力価は、107.6TCID50/mlであった。
【0038】
(1−2)使用生薬等
以下のように調製した各生薬等を試料として使用した。
(1−2−1)ゲンノショウコ
ゲンノショウコ末(混合比、日本産:中国産=1:3)は、長野県生薬(株)より購入した。このゲンノショウコ末40gを秤量して三口フラスコに入れ、ここに95℃に加熱した熱水400mlを加えた。その後、90〜94℃で1時間抽出し、抽出後、三口フラスコを水道水で約40〜50℃まで冷却した。冷却後、冷却液を遠心分離機にて、2,500rpmで、7分間遠心分離した。その後、遠心上清を、ろ紙で自然ろ過した。
ろ液を合一してナス型フラスコに入れ、エバポレータ(東京理科機械製、NAJ-160型)で減圧濃縮し、フラスコの壁にエキスが付着して粘性を示した時点で減圧濃縮を止めた。ピペットを用いて濃縮エキスを試料ビンに高さ約10mmとなるよう充てんし、10本の試料を得た。これを冷蔵保存した。
【0039】
(1−2−2)コウボク
コウボク末(日本産)は、長野県生薬(株)より購入した。コウボク末30gを秤量して三口フラスコに入れ、95℃に加熱した熱水300mlを加えた。その後、90〜95℃で1時間抽出し、三口フラスコを水道水で約40〜50℃まで冷却した。冷却後、冷却液を遠心分離機(久保田商事製、卓上型遠心分離機2010型)で2,500rpmにて7分間遠心し、上清を分離し、上清をろ紙で自然ろ過した。
ろ液を合一してナス型フラスコに入れ、エバポレータ(東京理科機械製、NAJ-160型)で減圧濃縮し、フラスコの壁にエキスが付着して粘性を示した時点で充填して12本の試料を得、これらを冷蔵保存した。
【0040】
(1−2−3)センブリ
センブリ末(長野県産)は、長野県生薬(株)より購入した。センブリ末40gを秤量して三口フラスコに入れ、95℃に加熱した熱水400mlを加えた。その後、90〜95℃で1時間抽出し、三口フラスコを水道水で約40〜50℃まで冷却した。冷却後、冷却液を遠心分離機(久保田商事製、卓上型遠心分離機2010型)で2,500rpmにて7分間遠心し、上清を分離し、上清をろ紙で自然ろ過した。
ろ液を合一してナス型フラスコに入れ、エバポレータ(東京理科機械製、NAJ-160型)で減圧濃縮し、フラスコの壁にエキスが付着して粘性を示した時点で止め、濃縮エキスを得た。この濃縮エキスをピペットで試料ビンに移し、高さ約10mmまで充てんして13本の試料を得、これらを冷蔵保存した。
(1−2−4)カリン
カリン抽出液は日本粉末(株)より購入した。このカリン抽出液は、中国産のカリンの果実の乾燥物を30%エタノール(v/v)にて抽出し製造した、特異な臭気と酸味とを有する暗赤褐色の液体である。このカリン抽出液は、フラスコの壁にエキスが付着して粘性を示した時点で濃縮を止めた。この濃縮エキスをピペットで試料ビンに移し、高さ約10mmまで充てんし、14本の試料として、冷蔵保存した。
【0041】
(1−2−5)キハダ実
長野県木曽郡王滝村にて、キハダより採取した。粉砕したキハダの実の部分24.3gを三口フラスコに入れ、ここに95℃に加熱した熱水400mlを加えて、90〜94℃で2時間抽出した。抽出後、三口フラスコを、水道水で約40〜50℃まで冷却し、冷却した抽出液を遠心分離機で2,500rpmにて、7分間遠心分離して上清を得た。
この上清をろ紙で自然ろ過し、ろ液を合一してナス型フラスコに入れ、エバポレータ(東京理科機械製、NAJ-160型)で減圧濃縮した。フラスコの壁にエキスが付着して粘性を示した時点で濃縮を止め、この濃縮エキスをピペットで試料ビンに移した。高さ約10mmまで充てんし、7本の試料を得て、これらを冷蔵保存した。
【0042】
(1−2−6)オウバク
堀江生薬(株)及び永大産業(株)からそれぞれ購入した中国産のキハダの樹皮(オウバク)を、半々で混合して使用した。キハダの樹皮(オウバク)150kgを秤量し、450Lの温水に投入する。オウバクを投入後、97〜98℃で60分抽出を行った。抽出後、抽出液を取り出しオウバクの抽出残渣へ、450Lの温水を投入し、2回目の抽出を行った。以下同様に、3回目及び4回目の抽出を行った。各回の抽出条件は、97〜98℃で100分(2回目)、97〜98℃で60分(3回目)、97〜98℃で60分(4回目)とした。
その後、4回分の抽出液を合一し、液温約106℃で4時間をかけて一次濃縮した。この一次濃縮液を、さらに120メッシュ振動ふるいに通し、次いで、液温116℃で4時間をかけて二次濃縮を行い、オウバクエキスを得た。
得られたオウバクエキスを試料ビンに移し、高さ約10mmまで充てんし、15本の試料を得た。これらを冷蔵保存した。
【0043】
(2)凍結乾燥
上記(1−2−1)〜(1−2−6)までのようにして得た試料は、以下の手順に従って凍結乾燥した。凍結乾燥機は、クリスト凍結乾燥機(ALPHA2-4型)を、アイスコンデンサ温度−85℃、予備冷却温度−50℃、4×10−4hPaの条件で使用した。凍結乾燥に供した検体の種類及び本数は、下記表2の通りである。なお、液温測定用として、試料ビンに水を1cmの高さまで充填したものを、同時に凍結乾燥した。
【0044】
【表2】
【0045】
上記の凍結乾燥機のチャンバーにセットされているシェルフ(棚)に、上記の液温測定用の試料ビンを置き、液温センサーをこの試料ビン内に入れてテープで固定した。この液温測定用試料ビンの周りに、上記表2に示した検体を入れた試料ビン46本の蓋を取り、その状態で立てて並べ、予備凍結を1時間かけて行い、検体を凍結させた。このときの液温は、−31〜−32℃であった。
検体が全て凍結されたことを確認し、その後真空ポンプを稼動させて、4X10−4hPaで検体を真空乾燥させた。真空乾燥の際のシェルフの温度は−15℃に設定した。真空乾燥開始後5分で−15℃となっていることを確認し、ついで、1時間後にこの温度で安定していることを確認した。この時点における液温は、−25℃であった。この状態のまま、一夜(12時間)放置し、その後、下記表3に示す条件に従ってシェルフ温度を上昇させ、検体を乾燥させた。このようにして得た凍結乾燥品を以下の試験に供した。
なお、検体によっては、非揮発性の油分含量が多いために、乾固されなかったものもあった。
【0046】
【表3】
【0047】
(3)鶏赤血球及び細胞
鶏赤血球は、(株)日本バイオテスト研究所より購入した。保存液中の鶏赤血球を、試験前に、0.1%ウシ血清アルブミン(BSA;ナカライテスク(株))含有リン酸緩衝生理食塩水溶液(PBS)に懸濁し、2000rpm、10分間遠心して洗浄し、沈殿物を試験用鶏赤血球とした。
細胞として、Flu感染能を有するMDCK細胞を用いた。MDCK細胞は、以下の組成の培養培地で培養し、細胞が単層を形成した後に、細胞培養用フラスコ(底面積25cm2、ファルコン社製)を用いて、3X105cell/mlで継代を行った。
【0048】
(4)培地組成
(a)培養用培地:
5% 非働化ウシ胎児血清(FBS;Biowest社製)
1% antibiotic antimycotic solution(AAS;SIGMA社製)
改良イーグル基礎培地*1
(b)ウイルス感染用培地:
29.5 g トリプトースフォスフェートブロス(日本ベクトン・ディッキンソン社製)
0.5 g 乾燥酵母エキス(ナカライテスク(株)製)
5 g グルタミン
1 g ブドウ糖(ナカライテスク(株)製)
15 g 炭酸水素ナトリウム
1 L 改良イーグル基礎培地*1
(c)維持培地:
5% 非働化ウシ胎児血清(FBS;Biowest社製)
1% アセチルトリプシン
改良イーグル基礎培地*1
*1:MEM(Minimum Essential Medium) Earle's,liquid、GIBCO社製)
【実施例2】
【0049】
(赤血球凝集阻害試験)
各種生薬等エキスがFluの細胞への吸着を阻害できるか否かを検討した。判定は、赤血球凝集阻害試験で行った。
(1)方法
0.1%BSAを含有するPBSにて、各試料を0 mg/ml、2 mg/ml、5 mg/mlの各濃度となるように希釈した。これらのサンプル50μLを、50μlのPR8(107.6TCID50/ml及び106.5TCID50/ml)と混合し、室温で1時間、96ウェルの丸底プレートにて反応させた。1時間後、PR8と各サンプル液との反応液を、0.1%BSA含有PBSを用いてプレート上で2倍段階希釈した。
その後、0.1%BSA含有PBSで0.5%に調製したトリ赤血球を、全てのウェルに50μlずつ添加し、室温で1時間以上静置した後に、赤血球凝集像を肉眼で確認した(n=12)。完全な赤血球凝集を引き起こすウイルスの最高希釈率を、赤血球凝集力価として決定した。各濃度の試料について、上記の試験を3回繰り返し、平均値+−標準偏差として表した。赤血球凝集阻害試験の結果はウィリアムズ検定で処理した。
【0050】
(2)結果
図1のグラフの横軸に、ゲンノショウコエキス、センブリエキス、コウボクエキス、カリンエキス、オウバクエキス、及びキハダ実エキスを示した。
図1に示すように、対照(試料添加濃度=0mg/ml)の場合、赤血球凝集力価は210.6であった。これに対し、ゲンノショウコエキス5.0mg/mlするPR8の赤血球凝集力価は29であり、有意な赤血球凝集阻害作用が認められた(P<0.05)。さらに、カリンエキス2.0mg/ml及び5.0mg/mlに対するPR8の赤血球凝集力価は、いずれも24と、対照と比較して有意に高くなっていた(ともにP<0.001)。
以上のことから、ゲンノショウコエキス及びカリンエキスに、高い吸着阻害作用を有する物質が含まれていることが示唆された。
【実施例3】
【0051】
(総ポリフェノール量測定)
生薬等エキスの吸着阻害物質を検討するために、各生薬等エキス中の総ポリフェノール量の測定を行った。
(1)方法
総ポリフェノール量の測定は、フォーリン・チオカルト法により行った。
上記のように調製したゲンノショウコエキスを初めとする各種生薬エキスを、蒸留水で0.05mg/mlに調製し、試料とした。各試料は500μlずつ2本の短試験管に分注した。陰性対照には500μlの蒸留水を、また、陽性対照には紅茶エキスをそれぞれ使用し、同様に短試験管に分注した。
各試料に1Nのフェノール試薬(ナカライテスク(株)製)を500μl加え、室温にて、3分間反応させた。3分経過時に、10%炭酸ナトリウム水溶液を500μl加え、さらに1時間、室温にて反応させ、ポリフェノール含有量の吸光度を測定した(OD=700nm)。各試料の吸光度を測定した後、ODの平均値を求め、得られた値から総ポリフェノール含有量(Y(mg/100ml))を以下の式を用いて求めた。
Y=3.1x(吸光度)+0.1
【0052】
(2)結果
図2に示す通り、陽性対照とした紅茶エキス(総ポリフェノール含量=0.326g/g)と比較して、各種生薬等エキス中の総ポリフェノールの量は少なかった。試料中では、ゲンノショウコエキス(0.268g/g)の総ポリフェノール含量が最も高かった。その他の試料の総ポリフェノール含量は、それぞれ、センブリエキス(0.069g/g)、コウボクエキス(0.177g/g)、オウバクエキス(0.158g/g)、キハダ実エキス(0.079g/g)であった。
【実施例4】
【0053】
(MDCK細胞を用いたFlu感染阻止試験)
Fluの生活環は、標的細胞である宿主の呼吸器粘膜上皮細胞に吸着し、その後細胞内に侵入、ゲノム増幅した後、エンベロープにパッケージングされて細胞内から放出される。Fluが増殖するために必要な一連の過程のうち、上記生薬等エキスがどの感染過程を阻害しているかを確認するために、本試験を行った。
【0054】
(1)吸着段階阻止試験
上記の生薬等エキスを、ウイルス感染用培地にて、0.002、0.02、0.2及び2.0 mg/ml(Fluとの反応濃度:0.001、0.01、0.1、1.0 mg/ml)に調製した後、濾過滅菌して試験に用いた。50μlの上記生薬等エキス溶液に対して、50μlに希釈したPR8(107.6/TCID50ml)を加え、室温で約1時間反応させ、これを反応液とした。反応液は、速やかに細胞吸着試験に用いた。
96ウェル細胞培養用平底マイクロテストプレートで、MDCK細胞(3x105 cells/200μl/well)を培養用培地で培養し、その後、培養用培地を除去した。次いで、FBS及びAASの添加されていないMEMを各ウェルに加え、37℃、5%CO2の条件下で1時間培養した。1時間後、各ウェルからMEMを除去し、各ウェルに前記生薬等エキスとウイルスとの反応液を25μl/wellずつ接種し、37℃、5%CO2の条件下でさらに1時間、ウイルスを吸着させた。
【0055】
1時間後、全てのウェルから反応液を除去し、吸着しなかったウイルスを除いた。ここに、200μl/wellのダルベッコ・リン酸緩衝生理食塩水(Dalbecco's PBS)を添加し、洗浄を行った。なお、この洗浄作業を3回繰り返した。
その後、上記維持培地を200μl/wellずつ各ウェルに添加し、37℃、5%CO2下の条件下で3日間培養した。3日後、各ウェルの培養上清50μlを、別の96ウェル丸底プレートに移し、0.5%トリ赤血球懸濁液(0.1% BSAを含有するリン酸緩衝生理食塩水で調製)を50μlずつ各ウェルに添加した。1時間後、各ウェルにおける赤血球凝集像を肉眼観察し、赤血球凝集の阻止率を求めた(n=8)。
このようにして求めた上記各エキスの各濃度における赤血球凝集の阻止率を、MDCK細胞に対するウイルス感染の感染阻止率とした。得られたデータに基づいて用量反応曲線を描いて回帰分析し、MDCK細胞のウイルス感染を50%阻害する各試料の濃度(IC50)を算出した。
【0056】
(2)吸着後阻止試験
上記生薬等エキスを、維持培地を用いて、吸着試験の場合と同じ濃度になるように調製し、濾過滅菌後に試験に用いた。上記(1)と同様にウイルスを吸着させ、吸着しなかったウイルスを除去した。
上記各エキス溶液を、ウイルス吸着から1時間後(侵入時)、9時間後(増殖期)、及び17時間後(放出期)に、100μlずつ、各ウェルに添加した点を除いて、上記(1)と同様の操作を行い、MDCK細胞のウイルス感染を50%阻害する各サンプルの濃度(IC50)を算出した。
【0057】
(3)結果
MDCK細胞を用いた上記の確認試験の結果、ゲンノショウコエキス及びコウボクエキスが全ての感染段階でウイルスの増殖を阻害することが示された。各生薬等のサンプルごとの結果は以下に示す通りである。
図3A及び3B、並びに表4に示す通り、ゲンノショウコエキスは、ウイルス吸着1時間前に試料を添加したときに最も高い試料を添加するとそのIC50値は0.3mg/mlと活性が低下した。このことから、ゲンノショウコエキスは吸着段階を効果的に阻害することが示唆された。
【0058】
【表4】
図4A及びB、並びに表4に示す通り、コウボクエキスでは、全ての感染段階で阻害が観察された。特に、ウイルス吸着1時間前に試料を添加すると阻害活性が高く、IC50は0.02mg/mlだった。また、ウイルス吸着から1時間、9時間又は17時間後に、各試料を添加すると、阻害活性が次第に低下する傾向が認められた。この場合のIC50は、それぞれ0.31、0.91及び0.41mg/mlだった。
【0059】
表4に示す通り、キハダ実エキスによるFlu感染阻害は、吸着時及び吸着から1時間以降はほとんど示されず、IC50値は求められなかった。また、センブリエキス及びオウバクエキスではいずれの感染段階においてもFlu感染阻害はみられなかった。
以上から、ゲンノショウコエキス及びコウボクエキスは、ウイルスの吸着を最も強く阻害し、さらに吸着以後の段階においても、1.0mg/ml濃度であれば十分に阻害活性を有することが示唆された。なお、これら試験は2回ずつ行い、同様の再現性が得られた。
【実施例5】
【0060】
(Fluマウス下気道感染試験)
(1)方法
マウス6匹(Balb/C、7週齢、雄)を、日本エスエルシー(株)より購入した。対照群と試験群とに分け、12時間明暗周期、室温、標準的湿度、水及び食餌の自由摂取という条件の下で1週間の予備飼育を行った。
次いで、対照群、0.5mg/mlコウボクエキス処理群(以下、「コウボクエキス0.5処理群」という。)及び2.0mg/mlコウボクエキス処理群(「コウボクエキス2.0処理群」という)、0.5mg/mlゲンノショウコエキス処理群(「ゲンノショウコエキス0.5処理群」という)及び2.0mg/mlゲンノショウコエキス処理群(「ゲンノショウコエキス2.0処理群」という)の計5群に分けて以下の試験を行い、結果を検討した。
試験直前に各マウスの体重を測定し、生理食塩水にて13倍希釈したソムノペンチル麻酔薬を、50μg/13μl/g 体重で腹腔内投与した。
【0061】
上述した実施例(1−2)で調製した各生薬試料を、0.1%のBSAを含むPBSで上記の濃度となるように溶解したコウボクエキス又はゲンノショウコエキスを調製した。これらのエキス1.98mlと、0.1%のBSAを含むPBSで希釈したPR8(107.6TCID50/ml)0.02mlとを混合し、3分間反応させて試料溶液とした。対照群用試料としては、各エキスに代えて、0.1%のBSAを含むPBSを使用し、同様に3分間反応させた。
その後、麻酔のかかったマウスの鼻先に片側ずつ、10μlの上記混合液を採取したディスポーザブルプラスチックチップを近づけ、呼吸時に吸い込むようにして、片鼻当たり10μl(20μl/匹)ずつ、試料溶液を鼻腔投与した。その後、体重の変化、発症率及び生存率を観察した。下気道感染試験についてはログランク検定を行い、統計解析した。
【0062】
(2)結果
BALB/cマウスを用いた感染阻止試験の結果、Flu接種後14日間にわたる体重の推移を図5に示す。全ての試験群でウイルス接種の直後に体重の減少がみられた。しかし、10日目以降、ゲンノショウコエキス0.5処理群及び同2.0処理群の体重は一定に保たれた。コウボクエキス2.0処理群では、10日目以降に体重の増加がみられた。一方、対照群及びコウボクエキス0.5処理群では10日目に全てのマウスが死亡したため、体重の変化は確認できなかった。
全ての試験群で発症率は100%に達したが、発症率が100%となる時期に相違が見られた。対照群の発症率はウイルス接種後3日目、ゲンノショウコエキス2.0処理群はウイルス接種後8日目であり、ゲンノショウコエキス処理群で有意な発症の遅延がみられた(図6参照)。
【0063】
生存率を見ると、対照群ではウイルス接種後6日目からマウスの死亡が確認され始め、9日目に生存率が0%となった。これに対し、コウボクエキス2.0処理群では14日目で43%と、対照群に比べて有意に高い生存率を示した。コウボクエキス0.5処理群では、14日目で生存率が0%となったが、対照群と比べると死亡するマウスの発生時期が有意に遅くなっていた。
また、ゲンノショウコエキス0.5処理群では、接種8日目からマウスの死亡が確認され、14日目に生存率が16.6%となった。さらに、ゲンノショウコエキス2.0処理群では、11日目からマウスの死亡が確認され、14日目の生存率は66.6%であった(図7参照)。
以上より、ゲンノショウコエキスがFluの発症の抑制及び感染防御に作用し、生体内で吸着阻害作用とウイルス増殖の抑制作用という2つの作用を発揮していることが示唆された。
【実施例6】
【0064】
(ロタウイルスの吸着時阻止試験)
(1)材料
被験ウイルスとして、ロタウイルスSA-11株(サル由来、groupA、TYPE III)を使用した。
被験物質として、上記(1−2−1)で行った抽出・精製法と同様に抽出・精製したゲンノショウコエキスを以下に示す希釈倍率で希釈して使用した。本実験に用いたゲンノショウコエキス中の総ポリフェノール量を上記同様に測定したところ、0.256g/gであった。
被験細胞として、ロタウイルスに高感受性のMA104細胞(アカゲザル(Macaca mulatta)胎児の腎臓由来)を用いた。MA104細胞を以下の組成の維持培地で培養・継代し、細胞が単層を形成するようにした。
【0065】
MA104細胞の培養及び継代培養には、10% 非動化ウシ胎児血清(FBS)(BIOWEST社製)、0.075% 炭酸水素ナトリウム(ナカライテスク(株)製)、4% L-グルタミン(0.073g/ml)(ナカライテスク(株)製)を含むEagle's MEM(日水製薬(株)製)を培養培地として用いた。
また、ロタウイルスの増殖にはMA104 細胞を用い、ホスト細胞であるMA104細胞の培養には29.5gのBactoトリプトースリン酸ブイヨン(Tryptose Phosphate Broth)(ベクトン・ディッキンソン社製)、0.5gの酵母エキス、5gのL-グルタミン及び15gの炭酸水素ナトリウム(いずれもナカライテスク(株)製)を、Eagle's MEMに溶解させたものを維持培地として使用した。
【0066】
(2)方法
(2−1)ロタウイルスの増殖
被験用のロタウイルスを、MA104細胞中で増殖させた。まず、FBS不含Eagle's MEMで1時間洗浄したMA104細胞に、維持培地で10倍に希釈したSA-ll(106.7 TCID50/ml)を加え、5% CO2、37 ℃の条件下で1時間吸着させた。吸着後に維持培地を添加して培養し、2日目に細胞変性効果(CPE)を観察後、凍結融解を3回繰り返した。その後、冷却遠心機(ロータの回転半径4cm、国産遠心機)を用いて、9,000 rpm(36,000×g)、4℃で20分間、遠心分離して上清を回収し、これをSA-11液とした。
ウイルス力価はMA104細胞を用いて測定し、50%感染する希釈の逆数値で算出した。今回使用したSA-11のウイルス力価は107.2TCID50/mlであった。
【0067】
(2−2)MA104細胞の培養
MA104細胞はセルバンカー(登録商標、日本全薬工業(株)製)で3×106 cells/mlに調製し、液体窒素中で凍結保存したものを使用した。この凍結保存細胞のうちの1mlを9mlの培養培地に添加し、卓上遠心機にて、1,000rpmで10分間、室温で遠心を行なった。その後上清を除去し、新たに9mlの培養培地を加えて懸濁し、再度、1,000rpmで10分間、室温で遠心洗浄を行なった。
上清を除去し、最後に培養培地を2ml加えて懸濁後、組織培養プレート(MICROTESTTM Tissue Culture Plate、48well、平底)(FALCON社製)のうちの12ウェルにそれぞれ1mlずつMA104細胞を播種し、5% CO2、37℃の条件下で2日間培養した。2日後、500μlの培地を除去し、新たに500μlのEagle's MEMを加え、5% CO2、37℃の条件下でさらに2日間培養した。
【0068】
最初の培養を開始してから4日後、培地を全て除去し、200μlのリン酸緩衝液(D-PBS;ダルベッコのリン酸緩衝生理食塩水)加えて細胞表面を洗浄し、D-PBSの除去後、細胞間の結合阻害剤として200μlのトリプシン-EDTA(GIBCO社製)を加えて、ウェル内一面に行き渡らせ、すぐ除去した。その後新たに120μlのトリプシン-EDTAを加え、5% CO2、37℃の条件下で、細胞がはがれるまで15分ほど静置した。
その後、各ウェルに新たな培養培地を1mlずつ加えて懸濁し、各ウェルの細胞懸濁液すべてを12mlの培養培地に添加した。このうち10mlの細胞懸濁液を、組織培養用フラスコ(25cm2 Standard tissue culture flasks、Techno Plastic Products、スウェーデン)に播種し、5% CO2、37℃の条件下で4〜5日間培養した。
【0069】
4〜5日後、培地を全て除去し、1mlのD-PBSを加えて細胞表面を洗浄した。D-PBS除去後、トリプシン-EDTAを500μlずつ加えてフラスコ一面に行き渡らせてすぐに除去し、その後新たに300μlのトリプシン-EDTAを加え、5% CO2、37℃の条件下で細胞が剥がれるまで15分ほど静置した。
その後、新たに10mlのEagle's MEMを加えて懸濁し、15mlの培養培地の入った細胞培養用フラスコ(75cm2 Standard tissue culture flasks、Techno Plastic Products、スウェーデン)に5ml播種した後、5% CO2、37℃の条件下で4〜5日間培養した。以上のように増殖させたMA104培養細胞を以下の実験に使用した。
【0070】
(2−3)吸着時阻止試験
ゲンノショウコエキスを維持培地にて2.0mg/mlに調製後、シリンジフィルター、ミニザルト(Minisart、ザルトリウス・ステディム社製、ポアサイズ=0.20μm)にてろ過滅菌し、2×10-4、2×10-3、2×10-2、及び2×10-1mg/mlに調製し、試験に用いた。ロタウイルスとの反応濃度はそれぞれ1×10-4、1×10-3、1×10-2、及び1×10-1mg/mlであった。
上述したMA104細胞(0.5×105 cells/200μl/well)を、培養培地を加えた組織培養プレート(MICROTESTTM Tissue Culture Plate、96well平底、FALCON社製)で培養し、各ウェルから培養培地を除去した。次いで、FBS不含Eagle's MEMを加えて5% CO2、37℃の条件下で1時間洗浄し、その後FBS不含Eagle's MEM を除去した。
【0071】
上記SA-11液を維持培地で5,000倍に希釈し、ロタウイルス液とした。その25μlに前述のゲンノショウコエキスを25μl加えて、ロタウイルスを10,000倍に希釈し(1.0×103.2 TCID50/ml)、ロタウイルスとゲンノショウコエキスとを室温で1時間反応させた。
この反応液25μlを、96ウェル平底プレートで培養した上記のMA104細胞に接種し、5% CO2、37℃の条件下で1時間吸着させた。1時間後、吸着しなかったウイルスを除去するために、100μlのD-PBSを全ウェルに添加し、これを除去するという洗浄操作を3回行なった。その後、1ウェルあたり、200μlの維持培地を添加し、3日間、5% CO2、37℃の条件下で培養した。吸着阻止試験は3回行い、いずれも下記の通りの結果を得た。
培養終了後に細胞変性効果(CPE)を顕微鏡で肉眼観察し、ウイルス感染を50%阻害するゲンノショウコエキス濃度(IC50)を算出した。なおCPEは、−、±、+、++の4段階で評価し、+以上の評価となったものを感染と判断した。
【0072】
0.1〜0.0001 mg/mlのサンプル濃度で各濃度16ウェルを用い、CPE陽性のウェルの数とCPE 陰性(−)のウェル数とを観察し、CPE陰性(−)ウェル数の割合から阻害率を求めた。これらのデータから得られた用量反応曲線の回帰分析により、MA104細胞のロタウイルス感染を50%阻害する各試料の濃度(IC50)を算出した。
(3)結果
ゲンノショウコによるロタウイルス吸着時阻止効果を図8に示す。吸着時阻止率はゲンノショウコエキス濃度が10-1mg/mlのとき93.75%、10-2mg/mlでは68.75%、10-3mg/mlでは31.25%、10-4mg/mlでは18.75%であり、IC50値は1.0×10-2.5mg/mlであった。
【実施例7】
【0073】
(ロタウイルスの侵入阻害試験)
(1)材料及び方法
ロタウイルスの吸着後、1時間の時点でゲンノショウコエキスを添加した点を除き、実施例6と同様に実験を行い、CPEを顕微鏡で観察した。ゲンノショウコの侵入時阻止率(%)は、10-1mg/mlで68.75%、10-2mg/mlで56.25%、10-3mg/mlで43.75%、10-4mg/mlで12.5%であり、IC50値は1.0×10-2.6mg/mlであった。侵入阻止試験は2回行ない、いずれも図9に示す通りの結果を得た。
【実施例8】
【0074】
(ロタウイルスの増殖阻止試験)
(1)材料及び方法
ロタウイルスの吸着後、9時間の時点で下記の濃度のゲンノショウコエキスを添加した点を除き、実施例7と同様に行った。
ゲンノショウコエキスを維持培地にて2.0mg/mlに調製後、上記同様にろ過滅菌した。この原液を10倍段階希釈し、2.0×10-3、2.0×10-4、2.0×10-5、及び2.0×10-6mg/mlに調製し、試験に用いた。増殖阻止試験は3回行ない、いずれも下記の通りの結果を得た。
培養開始9時間後に、各100μlの調製済ゲンノショウコエキスを添加し、5% CO2、37℃の条件下で3日間培養した。
(2)結果
ゲンノショウコのロタウイルス増殖時阻止率(%)は、図10に示す通り、1.0×10-3mg /mlで100%、1.0×10-4mg/mlで81.25%、1.0×10-5mg/mlで68.75%、1.0×10-6mg/mlで43.75%であり、IC50値は1.0×10-5.75mg/mlとなり、極めて低い濃度で阻止作用を示した。
【実施例9】
【0075】
(ロタウイルスの放出阻止試験)
(1)材料及び方法
特別に記載した点を除き、実施例8と同様に行った。
ウイルス接種後のMA104細胞に100μlの維持培地を加え、5% CO2、37℃の条件下で9時間培養した。接種から17時間後、各100μlの調製済ゲンノショウコエキスを各ウェルに添加し、5% CO2、37℃の条件下で3日間培養した。放出阻止試験は3回行ない、いずれも下記の通りの結果を得た。
(2)結果
ゲンノショウコのロタウイルス放出時阻止率(%)を図11に示す。図11中、放出時阻止率は1.0×10-3mg/mlで68.75%、1.0×10-4mg/mlで56.25%、1.0×10-5mg/mlで43.75%、1.0×10-6mg/mlで31.25%となり、IC50値は1.0×10-4.5mg/mlであった。
ウイルスの吸着、侵入、増殖及び放出というウイルスの生活環の各過程におけるゲンノショウコエキスの活性阻害作用を図12に表す。ゲンノショウコエキスは、ロタウイルスの細胞感染過程のいずれでも活性を阻止していたが、特に、増殖過程以降を強く阻害することが示された。
【実施例10】
【0076】
(乳仔マウス下痢発症試験)
(1)材料及び方法
妊娠マウス(BALB/c)(日本エスエルシー(株))から産まれた7日目の乳仔マウスを被験動物とした。ゲンノショウコエキスを、蒸留水にて、4.0mg/ml(高濃度群用)及び1.0mg/ml(低濃度群用)に調製し、それぞれ試料溶液とした。ロタウイルスとの反応濃度は、高濃度群用試料で2.0 mg/ml、低濃度群用試料で0.5mg/mlであった。
各群には、それぞれ同腹の乳仔マウスを用い、高濃度群及び低濃度群はそれぞれ6匹、対照群は7匹を被験数とした。
上記の濃度に調製したゲンノショウコエキスと希釈していないSA-11液とを等量で混合し、室温で1時間反応させて各群への投与用試料とし、40μl/マウスで経口投与した。また、陰性対照群には、蒸留水と希釈していないSA-11液とを等量ずつ混合した溶液を、40μl/マウスで経口投与した。
【0077】
投与開始後1週間の間、毎日下痢の発症の有無を観察した。判定は、水状の便が出れば下痢、水状ではないが柔らかい形状の便が出れば軟便、硬い糸状、もしくは腹を押しても便が出ない場合は無症状として、軟便以上をロタウイルス下痢症の発症と判定した。
各群のロタウイルス下痢症の持続期間は、スチューデントのt検定を用いて対照群と比較した。
5日目までには全てのマウスに下痢症が発症した。対照群では1日目に28.6%、2日目に85.7%、3日目に100%となった。これに対し、低濃度群では1日目は0%、2日目に66.7%、3日目に100%となって発症の遅延が見られた。高濃度群では1日目は0%、2日目に16.7%、3日目に66.7%、そして4日日に100%となり、明らかな発症の遅延が見られた(図13)。
【0078】
以上の測定結果より、ゲンノショウコエキスは濃度依存的に下痢症の発症を抑制することが示された。また、本実施例により、ゲンノショウコエキスはロタウイルス感染症の予防作用を有することが示された。
それぞれの乳仔マウスの下痢の平均持続期間を調べたところ、対照群では4.14±0.91日、低濃度群では3.17±0.90日、高濃度群では1.83±0.82日であった。高濃度群では対照群に比べ、下痢症の持続期間が有意に減少していた(危険率P<0.01)(図14)。
以上より、ゲンノショウコエキスは、濃度依存的に下痢の持続期間を有意に短縮させることが示された。また、本実施例により、ゲンノショウコエキスはロタウイルス感染症の治療作用を有することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明のウイルス活性阻害用組成物、医薬組成物、及び医薬製剤は、ウイルス感染に対する医薬の分野で有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲンノショウコ、ホウノキ、キハダからなる群から選ばれる1以上の植物の熱水抽出物を有効成分として含有する、RNAウイルスの細胞への吸着阻害用組成物。
【請求項2】
前記RNAウイルスはインフルエンザウイルス又はロタウイルスである請求項1に記載の吸着阻害用組成物。
【請求項3】
前記有効成分として、ゲンノショウコ末、コウボク末、キハダ実からなる群から選ばれる1以上のものの熱水抽出物を含有する、請求項1に記載の吸着阻害用組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の吸着阻害用組成物を含有する、インフルエンザ又はロタウイルス感染症の予防及び/又は治療用組成物。
【請求項5】
前記有効成分としてゲンノショウコ末の熱水抽出物を含有する、請求項4に記載のインフルエンザ又はロタウイルス感染症の予防及び/又は治療用組成物。
【請求項6】
前記有効成分としてコウボク末の熱水抽出物を含有する、請求項4に記載のインフルエンザ又はロタウイルス感染症の予防及び/又は治療用組成物。
【請求項7】
前記有効成分としてキハダ実の熱水抽出物を含有する、請求項4に記載のインフルエンザ又はロタウイルス感染症の予防及び/又は治療用組成物。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれかに記載の吸着阻害用組成物を含有する、RNAウイルスの不活化剤。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれかに記載の吸着阻害用組成物を含有する、RNAウイルスの不活化用水処理剤。
【請求項10】
ゲンノショウコ末の熱水抽出物を有効成分として含有する、インフルエンザウイルス又はロタウイルスの細胞への吸着を阻害する、請求項9に記載の水処理剤。
【請求項1】
ゲンノショウコ、ホウノキ、キハダからなる群から選ばれる1以上の植物の熱水抽出物を有効成分として含有する、RNAウイルスの細胞への吸着阻害用組成物。
【請求項2】
前記RNAウイルスはインフルエンザウイルス又はロタウイルスである請求項1に記載の吸着阻害用組成物。
【請求項3】
前記有効成分として、ゲンノショウコ末、コウボク末、キハダ実からなる群から選ばれる1以上のものの熱水抽出物を含有する、請求項1に記載の吸着阻害用組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の吸着阻害用組成物を含有する、インフルエンザ又はロタウイルス感染症の予防及び/又は治療用組成物。
【請求項5】
前記有効成分としてゲンノショウコ末の熱水抽出物を含有する、請求項4に記載のインフルエンザ又はロタウイルス感染症の予防及び/又は治療用組成物。
【請求項6】
前記有効成分としてコウボク末の熱水抽出物を含有する、請求項4に記載のインフルエンザ又はロタウイルス感染症の予防及び/又は治療用組成物。
【請求項7】
前記有効成分としてキハダ実の熱水抽出物を含有する、請求項4に記載のインフルエンザ又はロタウイルス感染症の予防及び/又は治療用組成物。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれかに記載の吸着阻害用組成物を含有する、RNAウイルスの不活化剤。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれかに記載の吸着阻害用組成物を含有する、RNAウイルスの不活化用水処理剤。
【請求項10】
ゲンノショウコ末の熱水抽出物を有効成分として含有する、インフルエンザウイルス又はロタウイルスの細胞への吸着を阻害する、請求項9に記載の水処理剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−79817(P2011−79817A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−201742(P2010−201742)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【出願人】(399063507)長野県製薬株式会社 (3)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【出願人】(399063507)長野県製薬株式会社 (3)
【Fターム(参考)】
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