説明

植物栄養剤

【課題】 植物へのカルシウムの効果的な補給方法の提供を目的とする。
【解決手段】 カルシウムとマルトシルトレハロースとを含有することを特徴とする植物栄養剤である。前記植物栄養剤の一形態は液剤であり、カルシウム(CaO)の含有量が0.5〜20質量%であり、マルトシルトレハロースの含有量が0.5〜20質量%である。さらに、前記植物栄養剤はマグネシウムを含有してもよく、マグネシウム(MgO)の含有量は、カルシウム(CaO)100質量部に対して、1〜30質量部であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルトシルトレハロースとカルシウムとを含有する植物栄養剤に関する。
【背景技術】
【0002】
植物において、カルシウムは細胞壁の構造と機能維持に重要な役割を果たしており、また酵素の賦活化にも関与している。カルシウム欠乏の症状として、トマトの尻腐れ、ハクサイ・キャベツの心腐れ、リンゴのビターピットなどがよく知られている。これら欠乏症は、土壌中にカルシウムが充分に存在しても、窒素過多、高温乾燥など土壌養分濃度の上昇による根の吸水力低下に起因して発生する。
【0003】
カルシウム欠乏に対してはカルシウムの葉面散布が有効であり、カルシウムを主成分とした葉面散布剤が広く使用されてきた。特許文献1には、トレハロースの持つ耐乾性、耐寒性を利用しながらカルシウムを補給する葉面散布剤に関する技術が公開されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−87907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、植物へのカルシウムの効果的な補給方法について鋭意検討した結果、マルトシルトレハロースとカルシウムの両方を含有した水溶液を植物に散布したときに、カルシウムの吸収性が極めて高いことを見出し本発明を完成させたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち、本発明は下記の通りである。
(1)カルシウムとマルトシルトレハロースとを含有することを特徴とする植物栄養剤。
(2)カルシウム(CaO)の含有量が0.5〜20質量%であり、マルトシルトレハロースの含有量が0.5〜20質量%であり、形態が液剤である上記(1)記載の植物栄養剤。
(3)カルシウム(CaO)の含有量が5〜30質量%であり、マルトシルトレハロースの含有量が5〜30質量%であり、形態が固形剤である上記(1)記載の植物栄養剤。
(4)カルシウム(CaO)の含有量が1〜80質量%であり、マルトシルトレハロースの含有量が1〜80質量%であり、形態がシロップ、ゲル又はスラリーである上記(1)記載の植物栄養剤。
(5)さらに、マグネシウムを含有する上記(1)〜(4)のいずれか1項記載の植物栄養剤。
(6)マグネシウム(MgO)の含有量が、カルシウム(CaO)100質量部に対して、1〜30質量部である上記(5)記載の植物栄養剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明の植物栄養剤は、植物への効果的なカルシウム補給、及び、植物に耐乾性、耐寒性を付与できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例の萎れ試験における3日目のキュウリの写真である。
【図2】実施例の萎れ試験における5日目のキュウリの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下において、本発明のカルシウムとマルトシルトレハロースとを含有する植物栄養剤について更に詳細に説明する。
カルシウムは、植物の吸収効率の観点から、水溶性カルシウムを用いることが好ましく、例えば、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、EDTA-Ca等を例示することができる。
【0010】
マルトシルトレハロースは、2糖類であるマルトースとトレハロースが結合した非還元性の4糖類である。マルトシルトレハロースとして、マルトシルトレハロースを主成分として含有する「ハローデックス」(株式会社林原商事)を用いても良い。
【0011】
本発明の植物栄養剤の形態は特に限定されるものではなく、液剤、固形剤、シロップ、ゲル、スラリーから適宜選択すればよい。液剤としては、水溶液が好ましい。固形剤は、錠剤、ペレット、散剤等が例示できる。
【0012】
形態が液剤である場合、カルシウム(CaO)の含有量が0.5〜20質量%であり、マルトシルトレハロースの含有量が0.5〜20質量%であることが好ましい。前記両化合物が前記範囲内であれば、液剤としての安定性が得られるため好都合である。前記カルシウム(CaO)の含有量は5〜15質量%であることがさらに好ましく、前記マルトシルトレハロースの含有量は、1〜10質量%であることがさらに好ましい
【0013】
形態が固形剤である場合、カルシウム(CaO)の含有量が5〜30質量%であり、マルトシルトレハロースの含有量が5〜30質量%であることが好ましい。固形化にあたっては、賦形剤と必要に応じて崩壊剤を含有させて固形化する方法と、液剤を担体に含浸、吸着させる方法がある。
【0014】
前者の方法において、賦形剤としてはコーンスターチ、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、粉末セルロース等を例示できる。崩壊剤としては、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン等を例示できる。前者の固形化は、錠剤化装置、粒状化装置等を用いて固形化した後、必要に応じて乾燥する。
【0015】
後者の方法における担体としては、珪藻土、炭酸カルシウム、ゼオライト、ベントナイト等を例示できる。後者の固形化は、上記カルシウムとマルトシルトレハロースとを含有した液剤を担体に含浸、吸着させ、必要に応じて乾燥する。
【0016】
形態がシロップ、ゲル又はスラリーである場合、カルシウム(CaO)の含有量が1〜80質量%であり、マルトシルトレハロースの含有量が1〜80質量%であることが好ましい。当該形態はカルシウムとマルトシルトレハロースの含有割合に応じて適宜選択すればよく、必要に応じて増粘剤、例えばカルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン等を添加してもよい。
【0017】
また、本発明の植物栄養剤は、カルシウムとマルトシルトレハロースに加えてマグネシウムを含有することも好ましい態様の1つである。マグネシウムとしては、水溶性マグネシウムを選択することが好ましく、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム等を例示することができる。マグネシウムの含有量は、カルシウム(CaO)100質量部に対して、MgOとして1〜30質量部であることが好ましい。
【0018】
本発明の植物栄養剤には、本発明の効果を保つことができる範囲において、カルシウムとマグネシウム以外の栄養素、有機酸、糖類、界面活性剤、殺菌剤等を必要に応じて含有させても構わない。カルシウムとマグネシウム以外の栄養素としては、窒素、リン酸、カリウム、マンガン、亜鉛、ホウ素、モリブデン、鉄、銅等が例示できる。有機酸としては、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸、コハク酸等が例示できる。糖類としては、グルコース、フルクトース、スクロース等が例示できる。界面活性剤は、本発明の植物栄養剤の機能、効果を阻害するものでなければ特に制限はなく、展着効果を示すものであってもよい。殺菌剤は、肥料用に用いられているものであれば特に制限はない。
【0019】
本発明の植物栄養剤を植物に施用する場合は、常法に従えばよく、例えば液剤の場合は、植物の種類、生育段階、生育状況等に応じて適宜希釈、例えば1000倍程度までを希釈限度として植物の茎葉等に散布すればよい。シロップ、ゲル又はスラリーの場合も同様である。固形剤の場合は、水に溶解または分散させた後、液剤の場合と同様に施用すればよい。また、固形剤をそのまま根の近傍の土壌表面に設置または浅耕して埋設することも有効な施用方法の1つである。
【実施例】
【0020】
以下、本発明の詳細を実施例を挙げて説明するが、本発明はそれらの実施例によって限定されるものではない。尚、特に断らない限り%は全て質量%を示す。
【0021】
[実施例1]
塩化カルシウム2水和物271g、マルトシルトレハロース含有シロップ(商品名「ハローデックス」 株式会社林原商事販売、固形分約72%以上、マルトシルトレハロースを固形分当たり約52%含有)55gを水400gに溶解、混合した後、総量が1000gとなるように調整水を添加して、CaOとして10.3%、マルトシルトレハロースを約2.1%(マルトシルトレハロースの固形分を72%として計算)含有した植物栄養剤を調製した。
【0022】
[比較例1]
塩化カルシウム2水和物271gを水400gに溶解、混合した後、総量が1000gとなるように調整水を添加して、CaOとして10.3%含有した植物栄養剤を調製した。
【0023】
[実施例2]
塩化カルシウム2水和物271g、マルトシルトレハロース含有シロップ(商品名「ハローデックス」 株式会社林原商事販売、固形分約72%以上、マルトシルトレハロースを固形分当たり約52%含有)55g、塩化マグネシウム6水和物57gを水400gに溶解、混合した後、総量が1000gとなるように調整水を添加して、CaOとして10.3%、MgOとして1.1%、マルトシルトレハロースを約2.1%(マルトシルトレハロースの固形分を72%として計算)含有した植物栄養剤を調製した。
【0024】
〔カルシウム吸収試験〕
温室内で9cmポットにコマツナを5粒播種した後、発芽後に1株/ポットに調整し、これを20ポット用意した。播種1ヵ月後から300倍に希釈した実施例1の植物栄養剤を3日おきに3回葉面散布した。尚、1回の散布量は3ml/ポットとした。各散布3日後に、5ポット分の植物体のカルシウム濃度を測定し平均値を算出した。
対照区は水のみを3回、植物栄養剤と同様に散布し、3回目散布の3日後に5ポット分の植物体のカルシウム濃度を測定し平均値を算出した。結果を表1に示した。
【0025】
【表1】

【0026】
〔萎れ試験〕
温室内で本葉4〜5枚に生育したキュウリを対象に平成23年9月に試験を行った。
300倍に希釈した実施例1、2及び比較例1の植物栄養剤を3日おきに計6回葉面散布した。6回目の葉面散布日までは灌水したが、その翌日以降は灌水しなかった。6回目の葉面散布日の翌日を1日目とし、5日目まで萎れ程度を観察した(表2)。尚、1回の散布量は8ml/ポットとした。
評価は5段階で、
1:ほとんど枯死
2:ほとんど萎れている
3:萎れている
4:やや萎れている
5:萎れていない
とした。
また、実施例1と比較例1について、3日目と5日目の写真を図1と2に示した。
【0027】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウムとマルトシルトレハロースとを含有することを特徴とする植物栄養剤。
【請求項2】
カルシウム(CaO)の含有量が0.5〜20質量%であり、マルトシルトレハロースの含有量が0.5〜20質量%であり、形態が液剤である請求項1記載の植物栄養剤。
【請求項3】
カルシウム(CaO)の含有量が5〜30質量%であり、マルトシルトレハロースの含有量が5〜30質量%であり、形態が固形剤である請求項1記載の植物栄養剤。
【請求項4】
カルシウム(CaO)の含有量が1〜80質量%であり、マルトシルトレハロースの含有量が1〜80質量%であり、形態がシロップ、ゲル又はスラリーである請求項1記載の植物栄養剤。
【請求項5】
さらに、マグネシウムを含有する請求項1〜4のいずれか1項記載の植物栄養剤。
【請求項6】
マグネシウム(MgO)の含有量が、カルシウム(CaO)100質量部に対して、1〜30質量部である請求項5記載の植物栄養剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−87024(P2013−87024A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230261(P2011−230261)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(000203656)多木化学株式会社 (58)
【Fターム(参考)】