説明

植物栽培器具及び植物栽培方法

【課題】吸水性や保水性の低い発泡体を使用する場合でも植物の栽培を好適に実現することのできる植物栽培器具を提供する。
【解決手段】本発明に係る植物栽培器具(1)は、植物(P)を支持するための透水性の発泡体(10)と、前記発泡体を介して前記植物に水分を供給するための吸水シート(20)と、を備え、前記吸水シートの一部(21)と他の一部(22)とは、前記発泡体を介して前記植物の根(R)の少なくとも一部を挟むよう対向し、且つそれぞれと前記根の少なくとも一部との間の前記発泡体の厚み(T1,T2)がバイレック法(JIS L 1907)により測定される前記発泡体の吸水高さ以下となるように配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物栽培器具及び植物栽培方法に関し、特に、発泡体及び吸水シートを備えた植物栽培器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、特許文献1において、水源に接続した樋状の配水部材と、吸水機能を有する微多孔質体からなり、当該配水部材内の水を毛細管力で吸水し、その水分を植物の根が直接吸引する植付部材と、を有する植物栽培システムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−305996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術のように、植物の支持体として吸水性や保水性の高いものを使用した場合、例えば、展示や鑑賞等の目的で屋内にて栽培を行うと、当該支持体から大量の湿気が発生し、当該屋内の湿度が過剰に高まってしまうという問題があった。
【0005】
一方、従来、支持体の吸水性や保水性が低い場合には、植物に対する給水量を十分に確保することができないため、好適な栽培を実現することは困難であった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、吸水性や保水性の低い発泡体を使用する場合でも植物の栽培を好適に実現することのできる植物栽培器具及び植物栽培方法を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る植物栽培器具は、植物を支持するための透水性の発泡体と、前記発泡体を介して前記植物に水分を供給するための吸水シートと、を備え、前記吸水シートの一部と他の一部とは、前記発泡体を介して前記植物の根の少なくとも一部を挟むよう対向し、且つそれぞれと前記根の少なくとも一部との間の前記発泡体の厚みがバイレック法(JIS L 1907)により測定される前記発泡体の吸水高さ以下となるように配置されていることを特徴とする。本発明によれば、吸水性や保水性の低い発泡体を使用する場合でも植物の栽培を好適に実現することのできる植物栽培器具を提供することができる。
【0008】
また、前記発泡体の前記吸水高さは、30mm以下であることとしてもよい。また、前記吸水シートの前記一部と前記他の一部とは、前記根の全体を挟むよう対向して配置されていることとしてもよい。また、前記いずれかの植物栽培器具は、板状の前記発泡体と、前記発泡体の片面又は両面の少なくとも一部を覆う前記吸水シートと、を有する複合体を備えることとしてもよい。また、前記吸水シートは、銅、亜鉛及び銀からなる群より選択される1種以上の金属を含有することとしてもよい。この場合、前記吸水シートは、銅ゼオライト、亜鉛ゼオライト及び銀ゼオライトからなる群より選択される1種以上のゼオライトを担持していることとしてもよい。
【0009】
また、前記いずれかの植物栽培器具は、前記発泡体及び前記吸水シートを収容する容器をさらに備え、前記発泡体は、圧縮弾性を有し、圧縮された状態で前記容器に充填されていることとしてもよい。また、前記いずれかの植物栽培器具は、一部が前記吸水シートに接続され、他の一部が前記植物に供給されるべき水分を保持した貯水部に接続された、吸水性の導水シートをさらに備えることとしてもよい。
【0010】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る植物栽培方法は、前記いずれかの植物栽培器具を使用して植物を栽培することを特徴とする。本発明によれば、吸水性や保水性の低い発泡体を使用する場合でも植物の栽培を好適に実現することのできる植物栽培方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、吸水性や保水性の低い発泡体を使用する場合でも植物の栽培を好適に実現することのできる植物栽培器具及び植物栽培方法を提供することができる。また、例えば、本発明に係る植物栽培器具は、植物の支持部材として発泡体を備えているため、当該植物栽培器具の形状は特に限定されない。また、この発泡体が圧縮弾性を有する場合には、当該発泡体及び吸水シートを収容する容器として、様々な形状のものを使用することができる。さらに、発泡体が容器に安定に保持されるため、例えば、植物栽培器具が転倒した場合であっても、当該発泡体が当該容器から飛び出るといった不都合を効果的に回避することができ、当該植物栽培器具の破損も効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る植物栽培器具の一例を示す斜視図である。
【図2】図1に示す植物栽培器具の正面図である。
【図3】図1に示す植物栽培器具の側面図である。
【図4】図1に示す植物栽培器具の平面図である。
【図5】図4に示すV−V線で切断した植物栽培器具の正面視断面の一例を示す断面図である。
【図6】図2に示すVI−VI線で切断した植物栽培器具の平面視断面の一例を示す断面図である。
【図7】図4に示すV−V線で切断した植物栽培器具の正面視断面の他の例を示す断面図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る植物栽培器具の製造方法の一例について、その概略を示す説明図である。
【図9】本発明の一実施形態に係る植物栽培器具が容器を備える場合の一例を示す斜視図である。
【図10】図9に示す植物栽培器具を長手方向に切断した側面視断面を示す断面図である。
【図11】図10に示すXI−XI線で切断した植物栽培器具の正面視断面を示す断面図である。
【図12】本発明の一実施形態に係る植物栽培器具が容器を備える場合の他の例を示す斜視図である。
【図13】図12に示すXIII−XIII線で切断した植物栽培器具の正面視断面を示す断面図である。
【図14】本発明の一実施形態に係る植物栽培器具の製造方法の他の例について、その概略を示す説明図である。
【図15】図14Bに示す植物栽培器具の側面視断面を示す断面図である。
【図16】本発明の一実施形態に係る植物栽培器具の他の例を示す斜視図である。
【図17】図16に示す植物栽培器具の正面視断面の一例を示す断面図である。
【図18】図16に示す植物栽培器具の平面視断面の一例を示す断面図である。
【図19】本発明の一実施形態に係る植物栽培器具が容器を備える場合の正面視断面の一例を示す断面図である。
【図20】本発明の一実施形態に係る植物栽培器具のさらに他の例を示す斜視図である。
【図21】本発明の一実施形態に係る植物栽培器具が巻かれた複合体を備える場合の一例を示す斜視図である。
【図22】図21に示す植物栽培器具の平面視断面を示す断面図である。
【図23】図22に示すXXIII−XXIII線で切断した植物栽培器具の正面視断面を示す断面図である。
【図24】本発明の一実施形態に係る植物栽培器具の他の例を示す斜視図である。
【図25】本発明の一実施形態に係る植物栽培器具の他の例を示す斜視図である。
【図26】本発明の一実施形態に係る植物栽培器具の他の例を示す斜視図である。
【図27】図26に示す植物栽培器具の正面視断面を示す断面図である。
【図28】本発明の一実施形態に係る植物栽培器具の他の例を示す斜視図である。
【図29】図28に示す植物栽培器具の正面視断面を示す断面図である。
【図30】本発明の一実施形態に係る植物栽培器具の他の例を示す斜視図である。
【図31】本発明の一実施形態に係る植物栽培器具の他の例を示す斜視図である。
【図32】本発明の一実施形態に係る植物栽培器具が容器を備える場合の他の例を示す斜視図である。
【図33】本発明の一実施形態に係る植物栽培器具の他の例を示す斜視図である。
【図34】図33に示す植物栽培器具の植物が植えられていない状態での正面視断面を示す断面図である。
【図35】図33に示す植物栽培器具の正面視断面の一例を示す断面図である。
【図36】図35に示すXXXVI−XXXVI線で切断された植物栽培器具の平面視断面の一例を示す断面図である。
【図37】本発明の一実施形態に係る植物栽培器具が容器及び貯水部を備える場合の他の例を示す斜視図である。
【図38】図37に示す植物栽培器具を長手方向に切断した側面視断面を示す断面図である。
【図39】実施例1で使用された植物栽培器具についての説明図である。
【図40】実施例1で得られた結果を示す説明図である。
【図41】実施例2及び実施例3で使用された植物栽培器具についての説明図である。
【図42】実施例2で得られた結果を示す説明図である。
【図43】実施例3で得られた結果を示す説明図である。
【図44】実施例4で得られた結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の一実施形態に係る植物栽培器具及び植物栽培方法について説明する。なお、本発明は本実施形態に限られるものではない。
【0014】
図1は、本実施形態に係る植物栽培器具(以下、「栽培器具1」という。)の一例を示す斜視図である。図2は、図1に示す栽培器具1の正面図である。図3は、図1に示す栽培器具1の側面図である。図4は、図1に示す栽培器具1の平面図である。図5は、図4に示すV−V線で切断した栽培器具1の正面視断面の一例を示す断面図である。図6は、図2に示すVI−VI線で切断した栽培器具1の平面視断面の一例を示す断面図である。図7は、図4に示すV−V線で切断した栽培器具1の正面視断面の他の例を示す断面図である。
【0015】
栽培器具1は、植物Pを支持するための透水性の発泡体10と、当該発泡体10を介して当該植物Pに水分を供給するための吸水シート20と、を備えている。
【0016】
発泡体10は、栽培される植物Pが所定の姿勢を維持するよう当該植物Pを支持する。すなわち、栽培器具1において、植物Pは発泡体10に植えられる。具体的に、植物Pのうち、少なくとも根Rは、発泡体10に埋め込まれる。そして、根Rの少なくとも一部は、発泡体10と接触する。こうして、植物Pは、その根Rが発泡体10に囲まれ且つ当該発泡体10と接触した状態で、当該発泡体10に支持される。
【0017】
植物Pとしては、図7に示すように、予め発泡体10とは別の部材である芯材30を使用して栽培されたものを使用することもできる。すなわち、図7に示す例では、植物Pが芯材30とともに発泡体10に埋め込まれ、支持されている。この場合においても、根Rの一部が芯材30から突き出るまで予め栽培された植物Pを発泡体10に植えることにより、当該根Rの一部を当該発泡体10と接触させて栽培することができる。なお、図1〜図7に示す例では、根Rに加えて、植物Pの茎Sの一部も発泡体10に埋め込まれ支持されている。
【0018】
植物Pは、栽培器具1により栽培することのできるものであれば特に限られない。すなわち、例えば、栽培器具1が、展示や鑑賞等の目的で屋内での栽培に使用される場合には、植物Pとして、観葉植物が好ましく栽培される。
【0019】
発泡体10は、植物Pを支持する機能に加えて、当該植物Pへの水分の到達を実現するために必要な透水性を有している。すなわち、発泡体10は、植物Pに供給すべき水分が透過することのできる多孔質構造を有している。具体的に、例えば、連続気泡を有する親水性の発泡体10が好ましく使用される。
【0020】
このように、栽培器具1において、発泡体10は、植物Pを支持する部材としての役割と、当該植物Pに供給される水分が透過する透水層としての役割と、を兼ね備えている。発泡体10は、上述のように透水性を有し、植物Pを支持できる発泡成形体であれば特に限られない。
【0021】
栽培器具1においては、発泡体10として、例えば、保水性や吸水性が比較的低いものを使用することができる。すなわち、例えば、それ自身を単独で使用するのみでは植物Pを栽培することが実質的に不可能な程度に保水性や吸水性の低い発泡体10を使用することができる。
【0022】
このような発泡体10は、植物Pの栽培を実現するという観点からは、保水性や吸水性を実質的に有しないともいえる。保水性や吸水性の低い発泡体10は、過剰な湿気を発生させないため、例えば、栽培器具1を屋内に設置する場合に好ましい。
【0023】
具体的に、この場合、バイレック法(JIS L 1907)により測定される発泡体10の吸水高さは、例えば、30mm以下とすることができ、20mm以下とすることができ、10mm以下とすることができる。この吸水高さは、例えば、発泡体10から、所定サイズ(例えば、25mm×250mm、厚み1mm)の試験体を切り出し、当該試験体を鉛直方向に吊るして、その下端部10mmを水中に浸漬した後、10分が経過した時点において当該試験体が水面から水を吸い上げた高さとして求められる。
【0024】
発泡体10を圧縮することにより、その吸水性を高めることができる場合には、当該発泡体10の圧縮の程度によって、当該発泡体10の吸水性を調整することができる。すなわち、例えば、発泡体10が圧縮弾性を有する場合、栽培器具1は、その吸水高さが上述の範囲となるように圧縮された状態の発泡体10を備えることもできる。
【0025】
発泡体10を構成する材料は、発泡成形できるものであれば特に限られない。すなわち、発泡体10は、例えば、合成樹脂や天然高分子等の高分子材料の発泡成形体とすることができる。
【0026】
具体的には、例えば、ポリウレタン、フェノール樹脂、メラミン樹脂、セルロース、ポリスチレン、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンを使用することができ、好ましくはポリウレタン、ポリエチレン及びポリプロピレンを使用することができ、より好ましくは軟質ポリウレタンを使用することができる。高分子材料は、1種を単独で使用することができ、また、2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0027】
なお、図7に示す例で使用される芯材30は、栽培器具1における植物Pの栽培を妨げないものであれば特に限られない。すなわち、芯材30は、例えば、発泡体10と同様、透水性を有する発泡成形体とすることができる。また、芯材30は、例えば、発泡体10よりも剛性の高い部材とすることができる。また、芯材30は、例えば、発泡体10よりも保水性や吸水性の高い部材とすることができる。
【0028】
吸水シート20は、発泡体10を介して植物Pに水分を供給するために必要な吸水性を有するシート状体である。すなわち、吸水シート20は、発泡体10に比べて十分に高い吸水性を有する。具体的に、バイレック法(JIS L 1907)により測定される吸水シート20の吸水高さは、例えば、50mm以上であり、好ましくは100mm以上であり、より好ましくは200mm以上である。
【0029】
吸水シート20は、例えば、織布や不織布等の繊維シートとすることができる。この場合、吸水シート20を構成する繊維は、吸水性を実現するものであれば特に限られない。すなわち、例えば、セルロース系繊維等の親水性の高分子繊維、表面が界面活性剤等で親水化された合成繊維、異形断面を有し吸水性を有する合成繊維を使用することができ、好ましくはセルロース系繊維を使用することができる。
【0030】
セルロース系繊維としては、例えば、木綿、麻等の天然セルロース系繊維、ビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨン(キュプラ)、テンセル(精製セルロース)、ポリノジック等の再生セルロース系繊維、アセテート等の半再生セルロース系繊維を使用することができる。繊維は、1種を単独で使用することができ、また、2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0031】
吸水シート20は、例えば、無機多孔質粒を担持することができる。すなわち、この場合、吸水シート20は、シート状の基材と、当該基材に担持された無機多孔質粒と、を有することとなる。無機多孔質粒としては、例えば、ゼオライト、活性アルミナ、ケイ酸アルミニウム、多孔質ガラス、シリカゲル、アルミナゲル、活性白土、多孔性粘土鉱物を使用することができる。基材は、例えば、上述したような繊維シートとすることができる。
【0032】
吸水シート20に無機多孔質粒を担持する方法は特に限られない。すなわち、例えば、バインダーを介して無機多孔質粒を基材に付着させることにより、当該無機多孔質粒を担持した吸水シート20を製造することができる。
【0033】
また、吸水シート20がゼオライトを担持したセルロース系繊維シートである場合には、例えば、特開2008−50742号公報に記載されているような方法を使用して、セルロース系繊維の内部にゼオライトの結晶を生成することにより、当該ゼオライトを担持した吸水シート20を製造することができる。
【0034】
すなわち、この場合、例えば、まず、アルミン酸ソーダと苛性ソーダ(48重量%水溶液)を撹拌し、当該アルミン酸ソーダを苛性ソーダ溶液に溶解する。次に、この混合溶液に、水で希釈したケイ酸ソーダを撹拌しながら添加することにより、加工溶液を調製する。その後、綿100%織物等のセルロース系繊維シートに加工溶液を塗布し含浸させる。含浸処理後の繊維シートを袋に密封して一晩静置した後、85℃で2時間反応させる。反応後、繊維シートを袋から取り出し、温水で繰り返し洗浄した後、乾燥させる。こうして、セルロース系繊維の内部で合成されたゼオライトを担持した吸水シート20が得られる。
【0035】
吸水シート20における無機多孔質粒の担持量は特に限られない。吸水シート20がゼオライトを担持する場合には、当該ゼオライトの担持量(吸水シート20の総重量に対するゼオライトの重量の割合)は、例えば、1重量%以上とすることができ、好ましくは3重量%以上とすることができる。より具体的に、ゼオライトの担持量は、例えば、3〜20重量%の範囲内とすることができ、好ましくは6〜10重量%の範囲内とすることができる。
【0036】
吸水シート20は、例えば、銅、亜鉛及び銀からなる群より選択される1種以上の金属を含有することができる。すなわち、吸水シート20は、銅、亜鉛及び銀のうち1種又は複数種の金属を、イオンとして放出することができるよう含有する。
【0037】
この場合、吸水シート20は、例えば、銅ゼオライト、亜鉛ゼオライト及び銀ゼオライトからなる群より選択される1種以上のゼオライトを担持することができる。すなわち、吸水シート20は、シート状の基材と、当該基材に担持された銅ゼオライト、亜鉛ゼオライト及び銀ゼオライトのうち1種又は複数種のゼオライトと、を有する。
【0038】
ここで、銅ゼオライト、亜鉛ゼオライト及び銀ゼオライトは、それぞれイオン交換により銅イオン、亜鉛イオン及び銀イオンが結晶内に導入されたゼオライトである。すなわち、例えば、銅ゼオライトは、結晶内にナトリウムイオンを含有するゼオライトに対して、銅イオンを含有する溶液を使用したイオン交換処理を施すことにより、当該ナトリウムイオンが当該銅イオンに置換されたゼオライトである。吸水シート20は、銅ゼオライト、亜鉛ゼオライト又は銀ゼオライトに加えて、他の種類の金属を担持するゼオライト(例えば、イオン交換されていないナトリウムゼオライト)をさらに含有してもよい。
【0039】
また、吸水シート20は、例えば、銅、亜鉛及び銀からなる群より選択される1種以上の金属の繊維を含有する繊維シートとすることができる。また、吸水シート20は、例えば、銅、亜鉛及び銀からなる群より選択される1種以上の金属の微粒子が担持された繊維シートとすることができる。
【0040】
そして、栽培器具1においては、吸水シート20の一部(以下、「第一部分21」という。)と他の一部(以下、「第二部分22」という。)とは、発泡体10を介して植物Pの根Rの少なくとも一部を挟むよう対向し、且つそれぞれと当該根Rの少なくとも一部との間の当該発泡体10の厚みがバイレック法(JIS L 1907)により測定される当該発泡体10の吸水高さ以下となるように配置されている。
【0041】
すなわち、吸水シート20は、発泡体10を介して植物Pの根Rの少なくとも一部を挟むよう対向して配置される第一部分21と第二部分22とを有している。図1〜図7に示す例において、第一部分21及び第二部分22は、1つの吸水シート20の互いに異なる一部である。より具体的に、第一部分21及び第二部分22は、吸水シート20の一方端部分及び他方端部分である。
【0042】
また、発泡体10は、根Rの少なくとも一部を挟むように形成された一対の外側面(以下、「第一側面11」及び「第二側面12」という。)を有している。第一側面11及び第二側面12は、発泡体10の外表面のうち、根Rの第一部分21側及び第二部分22側をそれぞれ覆うように形成された部分である。そして、吸水シート20の第一部分21は、発泡体10の第一側面11を覆い、第二部分22は、当該発泡体10の第二側面12を覆っている。
【0043】
図1〜図7に示す例において、第一部分21と第二部分22とは、発泡体10を介して根Rの全体を挟むように対向している。すなわち、第一部分21と第二部分22とは、根Rの全体を挟むよう、発泡体10の第一側面11と第二側面12とをそれぞれ覆っている。
【0044】
具体的に、第一部分21と第二部分22とは、図2、図5及び図7に示すように、植物Pの茎Sの伸びる方向(以下、「上下方向」という。)において、根Rの上方(図2、図5及び図7に示す矢印Uの指す方向)の端部(すなわち、根Rと茎Sとの境界部分)である発根部R1から、当該根Rの下方(図2、図5及び図7に示す矢印Lの指す方向)の端部R2までの範囲Y1を挟んでいる。
【0045】
また、第一部分21と第二部分22とは、図6に示すように、当該第一部分21及び第二部分22に沿って植物Pの茎Sを横切る方向(以下、「幅方向」という。)において、根Rの一方側の端部R3から他方側の端部R4までの範囲X1を挟んでいる。
【0046】
より具体的に、第一部分21と第二部分22とは、図6に示すように、発泡体10の第一側面11及び第二側面12の幅方向における一方端から他方端までの全範囲X2を覆っている。
【0047】
このように、第一部分21と第二部分22とは、これらが対向する方向において、根Rの全体が当該第一部分21及び第二部分22に投影されるように配置されている。
【0048】
なお、吸水シート20の第一部分21と第二部分22とは、根Rの一部を挟むよう対向して配置されてもよい。この場合、第一部分21と第二部分22とは、上下方向において、根Rの発根部R1から下方端部R2までの範囲Y1(図5及び図7参照)のうち一部を挟むよう対向することができる。また、第一部分21と第二部分22とは、幅方向において、根Rの一方端部R3から他方端部R4までの範囲X1(図6参照)のうち一部を挟むよう対向することができる。
【0049】
図1〜図7に示す例では、第一部分21と第二部分22とは、根Rの全体に加えて、さらに発泡体10のうち当該根Rより下方に配置されている部分をも挟むように対向している。すなわち、第一部分21及び第二部分22は、発泡体10の第一側面11及び第二側面12のうち、根Rの発根部R1から下方側の全範囲Y2を覆っている。なお、第一部分21と第二部分22とは、下方端部R2を含む根Rの一部から、当該根Rより下方側の発泡体10の少なくとも一部までを挟むように対向して配置されてもよい。
【0050】
また、図1〜図7に示す例において、吸水シート20は、発泡体10を介して根Rの少なくとも一部の上方を覆うように配置されている。すなわち、吸水シート20は、発泡体10の外表面のうち、根Rの少なくとも一部の上方に形成されている部分(以下、「上面13」という。)を覆っている。
【0051】
一方、吸水シート20は、根Rの下方は覆っていない。すなわち、発泡体10の外表面のうち、根Rの下方に形成されている部分(以下、「下面14」という。)は、吸水シート20に覆われることなく、露出している。
【0052】
そして、栽培器具1においては、発泡体10のうち、吸水シート20の第一部分21と根Rの少なくとも一部との間に配置されている部分の厚みと、当該吸水シート20の第二部分22と当該根Rの少なくとも一部との間に配置されている部分の厚みと、がいずれも当該発泡体10の吸水高さ以下となっている。
【0053】
すなわち、図1〜図7に示す例においては、根Rの少なくとも一部から、吸水シート20の第一部分21で覆われている発泡体10の第一側面11までの距離と、当該根Rの少なくとも一部から、当該吸水シート20の第二部分22で覆われている当該発泡体10の第二側面12までの距離と、がいずれも当該発泡体10の吸水高さ以下となっている。
【0054】
具体的に、図5、図6及び図7に示す例においては、吸水シート20の第一部分21と、根Rのうち当該第一部分21に最も近い部分R5と、の間を埋める発泡体10の厚みT1を、当該発泡体10の吸水高さ以下とすることができる。同様に、吸水シート20の第二部分22と、根Rのうち当該第二部分22に最も近い部分R6と、の間を埋める発泡体10の厚みT2を、当該発泡体10の吸水高さ以下とすることができる。
【0055】
この厚みT1は、根Rのうち第一部分21に最も近い部分R5から第一側面11までの距離(すなわち、根Rから第一側面11までの最短距離)であり、厚みT2は、当該根Rのうち第二部分22に最も近い部分R6から第二側面12までの距離(すなわち、根Rから第二側面12までの最短距離)である。
【0056】
また、図1〜図7に示す例において、吸水シート20の第一部分21及び第二部分22は、発泡体10の第一側面11及び第二側面12に貼り付けられている。したがって、厚みT1は、根Rのうち第一部分21に最も近い部分R5から当該第一部分21までの距離(すなわち、根Rから第一部分21までの最短距離)であり、厚みT2は、当該根Rのうち第二部分22に最も近い部分R6から当該第二部分22までの距離(すなわち、根Rから第二部分22までの最短距離)となっている。
【0057】
また、例えば、図5に示す例において、吸水シート20の第一部分21と、根Rの発根部R1と、の間に配置されている発泡体10の厚みT3と、当該吸水シート20の第二部分22と、当該発根部R1と、の間に配置されている当該発泡体10の厚みT4と、がいずれも当該発泡体10の吸水高さ以下であるとすることもできる。
【0058】
この場合、厚みT3及び厚みT4は、それぞれ発根部R1から発泡体10の第一側面11及び第二側面12までの距離である。また、厚みT3及び厚みT4は、それぞれ発根部R1から吸水シート20の第一部分21及び第二部分22までの距離である。
【0059】
また、吸水シート20の第一部分21と第二部分22とは、厚みT0が吸水高さの2倍以下である発泡体10を介して、根Rの少なくとも一部を挟むよう対向して配置されているとすることもできる。この場合、吸水シート20の第一部分21及び第二部分22のそれぞれと根Rの少なくとも一部との間の発泡体10の厚みT1〜T4は、確実に当該発泡体10の吸水高さ以下となる。
【0060】
また、図7に示すように芯材30を使用する場合には、吸水シート20の第一部分21と当該芯材30との間に配置されている発泡体10の厚みT5と、当該吸水シート20の第二部分22と当該芯材30との間に配置されている当該発泡体10の厚みT6と、がいずれも当該発泡体10の吸水高さ以下であるとすることもできる。
【0061】
この場合もまた、吸水シート20の第一部分21及び第二部分22のそれぞれと、少なくとも一部が芯材30から当該第一部分21側及び当該第二部分22側に突出している根Rと、の間の発泡体10の厚みT1〜T4は、確実に当該発泡体10の吸水高さ以下となる。
【0062】
なお、このような吸水シート20の配置は、例えば、栽培器具1により植物Pの栽培を開始する時点における、当該植物Pの根Rを基準にして決定することができる。また、吸水シート20の配置は、例えば、栽培器具1による栽培を開始した後の植物Pの根Rの成長を見越して、予測される成長後の当該根Rを基準にして決定することもできる。
【0063】
栽培器具1においては、上述のように、吸水シート20の第一部分21と第二部分22とが、発泡体10を介して植物Pの根Rの少なくとも一部を挟むよう対向し、且つそれぞれと当該根Rの少なくとも一部との間の当該発泡体10の厚みが当該発泡体10の吸水高さ以下となるように配置されているため、当該発泡体10を介した当該吸水シート20から当該根Rへの給水を効果的に実現することができる。
【0064】
すなわち、吸水シート20の第一部分21及び第二部分22から発泡体10に供給された水分は、当該発泡体10の吸水高さ以下である透水層(吸水シート20と根Rとの間を埋める発泡体10の一部)を確実に通過して、根Rに到達する。
【0065】
さらに、第一部分21と第二部分22とが、根Rを挟むように対向して配置されているため、当該根Rの両側から効果的な給水を実現することができる。
【0066】
したがって、栽培器具1によれば、発泡体10の保水性や吸水性が低い場合であっても、植物Pの栽培を好適に実現することができる。
【0067】
また、粒子状の土や人工培土と異なり、発泡体10が非粒子状であることによって、栽培器具1が転倒した場合であっても、周囲の環境に与える影響を最小限に抑えることができる。これに対し、土や人工培土を使用する従来の栽培器具が転倒した場合には、当該土や人工培土が飛散し、周囲に汚染等の好ましくない影響を及ぼすという問題があった。
【0068】
なお、栽培器具1を使用した植物Pの栽培において、吸水シート20は、直接的又は間接的に、当該植物Pに供給されるべき水分を保持した貯水部(例えば、水分を保持した容器)と接続される。
【0069】
この結果、吸水シート20は、その吸水性に基づいて貯水部から水分を吸い取るとともに、吸い取った水分を発泡体10に供給する。発泡体10に供給された水分は、その第一側面11及び第二側面12から、厚みが吸水高さ以下である当該発泡体10を通過して、植物Pの根Rに供給される。好ましい給水の態様の一例については、後に説明する。
【0070】
また、このように吸水シート20と貯水部とが接続される場合、植物Pの根Rや当該根Rを囲む発泡体10は当該貯水部の水中に浸漬されない。このため、例えば、植物Pの排泄物が根Rや発泡体10を介して貯水部に保持されている水を汚染することが効果的に防止される。
【0071】
また、栽培器具1は、図1〜図7に示されるように、実際に発泡体10が植物Pを支持しているものに限られない。すなわち、栽培器具1は、発泡体10及び吸水シート20に関する上述のような構成を備えるものであれば、未だ植物Pが植えられていないものであってもよい。
【0072】
また、発泡体10の吸水高さが30mm以下である場合、より好適な栽培が実現される。すなわち、この場合、発泡体10が保持できる水分の量は、従来好ましく使用されていた保水性や吸水性の高い支持体に比べて、顕著に低減される。
【0073】
このため、発泡体10から発生する湿気の量が効果的に低減される。また、根Rを囲む発泡体10において、水相のみならず、適切な割合の気相が確保されるため、当該根Rの環境が好適に維持され、当該根Rの腐敗が効果的に防止される。また、栽培器具1が転倒した場合でも、発泡体10からの水の飛散が効果的に防止される。また、発泡体10が吸水シート20から受け取る水分の量は、植物Pの生存に必要な最小限の量となるため、栽培に必要な水分の量が効果的に低減される。これらの効果は、発泡体10の吸水高さが20mm以下である場合、さらには10mm以下である場合、より顕著なものとなる。
【0074】
従来、栽培における植物の支持体としては、当該植物に十分な量の水分を確実に供給するため、保水性や吸水性の高いものが使用されていた。一方、例えば、展示や鑑賞等の目的で、屋内に栽培器具を設置する場合には、当該栽培器具から大量の湿気が発生することは好ましくない。
【0075】
しかしながら、従来は、植物を確実に栽培することが優先され、保水性や吸水性の高い支持体が使用されていた。この結果、従来の屋内栽培においては、豊富な水分を保持した支持体から大量の湿気が発生することとなっていた。また、支持体は、植物の生存に必要な量より多い、過剰量の水分を常に保持しようとするため、栽培に必要な水分の量が必要以上に多くなっていた。
【0076】
これに対し、本発明の発明者は、上述のような従来の設計指針に逆らい、敢えて保水性や吸水性の低い発泡体10を使用することとした。そして、発明者は、鋭意検討を重ねた結果、上述のとおり、保水性や吸水性の低い発泡体10を使用しつつ、好適な栽培を実現できる栽培器具1を完成するに至った。したがって、本発明に係る栽培器具1を使用することにより、例えば、展示や鑑賞を目的とした屋内における栽培を好適に実現することができる。
【0077】
また、吸水シート20の第一部分21と第二部分22とが、根Rの全体を挟むよう対向して配置されている場合には、より好適な栽培が実現される。すなわち、この場合、第一部分21と第二部分22から根Rに対する十分な給水が確実に実現される。
【0078】
また、吸水シート20が、銅、亜鉛及び銀からなる群より選択される1種以上の金属を含有する場合には、栽培器具1における微生物による汚染が効果的に防止される。すなわち、この場合、栽培期間中に、吸水シート20から、銅イオン、亜鉛イオン又は銀イオンが放出されると考えられる。この結果、吸水シート20自身はもちろん、根Rを囲む発泡体10においても、微生物による汚染を効果的に抑制することができる。特に、吸水シート20が、銅及び亜鉛からなる群より選択される1種以上の金属を含有する場合には、栽培器具1における藻の発生を効果的に抑制することができる。
【0079】
また、特に、吸水シート20が銅を含有する場合には、栽培器具1で栽培される植物Pの徒長が効果的に抑制される。すなわち、この場合、栽培期間中に、吸水シート20から銅イオンが放出されると考えられる。この結果、植物Pの茎Sや根Rの伸びが効果的に抑制される。
【0080】
植物Pを展示や鑑賞の目的で栽培する場合、例えば、当該植物Pの茎Sが伸びすぎることにより、当該植物Pと栽培器具1との外観上のバランスが損なわれることがある。また、例えば、植物Pの根Rが伸びすぎて、その一部が吸水シート20を突き破って露出することにより、当該植物Pを栽培する栽培器具1の外観が損なわれることもある。
【0081】
これに対し、栽培器具1が備える吸水シート20に銅が含有される場合には、植物Pの茎Sや根Rの成長が抑制される効果(いわゆる矮化効果)が得られ、上述のような不都合の発生が効果的に防止される。
【0082】
したがって、例えば、植物Pを展示や鑑賞の目的で栽培する場合、当該植物Pの形状や大きさ等の外観を、所望の好ましい状態に長期間維持することができる。なお、吸水シート20が銅を含有する場合であっても、植物Pは、その生存状態を維持することができ、当該吸水シート20が銅を含有しない場合と同様、長期の栽培を実現することができる。
【0083】
また、吸水シート20が、銅ゼオライト、亜鉛ゼオライト及び銀ゼオライトからなる群より選択される1種以上のゼオライトを担持する場合には、上述のように栽培器具1における微生物による汚染が効果的に防止されるとともに、当該吸水シート20の吸水性が効果的に高められる。また、特に、吸水シート20が、銅ゼオライトを担持する場合には、上述のように、植物Pの徒長が効果的に抑制される。
【0084】
図8は、図1に示す栽培器具1を製造する方法の一例について、その概略を示す説明図である。なお、図8においては、正面視断面が図7のように表される栽培器具1を製造する場合の一例を示しているが、正面視断面が図5のように表される栽培器具1も同様にして製造することができる。
【0085】
図8に示す例においては、板状の発泡体10と、当該発泡体10の片面又は両面の少なくとも一部を覆う吸水シート20と、を有する複合体40を備える栽培器具1が製造される。すなわち、図1〜図7に示す上述の栽培器具1は、この複合体40を備えたものである。
【0086】
図8Aに示す例において、複合体40を構成する発泡体10は、矩形の板状に形成された発泡成形体である。そして、この発泡体10の面積の最も大きな一対の表面のうち、一方の表面(以下、「第一表面15a」という。)を吸水シート20で覆うことにより、板状の複合体40が形成されている。
【0087】
すなわち、この複合体40において、吸水シート20は、発泡体10の第一表面15aの全体を覆うよう、当該第一表面15aに貼り付けられている。発泡体10の他方の表面(以下、「第二表面15b」という。)は、吸水シート20に覆われておらず、露出している。ここで、発泡体10への吸水シート20の貼り付けは、できるだけ当該吸水シート20から当該発泡体10への透水が阻害されないように行う必要がある。具体的に、例えば、接着剤を使用する場合には、吸水シート20の全面に当該接着剤を塗布することは避け、点状や線状に接着剤を塗布することによる点接着や線接着を行うことが好ましい。また、この場合、接着剤としては、吸水シート20から発泡体10への透水に影響を与えにくいものが好ましく、さらに耐水性のあるものが好ましい。具体的には、例えば、ウレタン系接着剤を使用することができる。
【0088】
複合体40の一部には、吸水シート20及び発泡体10を貫通する、植物Pを差し込むための切り込み41が形成されている。一方、芯材30を使用して予め栽培された植物Pを準備する。植物Pの根Rの一部は、事前の栽培において成長し、その一部が芯材30の外表面から突き出て露出している。
【0089】
次に、図8Bに示すように、複合体40の切り込み41に、植物Pの根Rを芯材30とともに挿通する。そして、複合体40の長手方向の一方側部分42と他方側部分43とで植物Pの根Rを挟むように、当該複合体40を折りたたむ。より具体的に、吸水シート20で覆われていない発泡体10の第二表面15bのうち、長手方向の一方側部分と他方側部分とで、植物Pの根Rを挟むように、複合体40を折りたたむ。
【0090】
こうして、図8Cに示すような栽培器具1が得られる。得られた栽培器具1においては、上述のとおり、吸水シート20の第一部分21と第二部分22とが、発泡体10を介して植物Pの根Rの少なくとも一部を挟むよう対向し、且つそれぞれと当該根Rの少なくとも一部との間の当該発泡体10の厚みが当該発泡体10の吸水高さ以下となるように配置されている。
【0091】
この根Rと吸水シート20とに挟まれた発泡体10の厚みは、例えば、複合体40を構成する板状の発泡体10の厚みT7により調整することができる。すなわち、植物Pが植えられた状態において、根Rから吸水シート20の第一部分21及び第二部分22までの距離が発泡体10の吸水高さ以下となるような厚みT7の当該発泡体10を使用して、複合体40を形成する。具体的に、例えば、厚みT7が吸水高さ以下である板状の発泡体10を有する複合体40を使用する。栽培器具1が上述のような複合体40を備える場合、当該栽培器具1を簡便に且つ確実に製造することができる。
【0092】
図9は、栽培器具1が、発泡体10及び吸水シート20を収容する容器50をさらに備える場合の一例を示す斜視図である。図10は、図9に示す栽培器具1を長手方向に切断した側面視断面を示す断面図である。図11は、図10に示すXI−XI線で切断した栽培器具1の正面視断面を示す断面図である。
【0093】
図9〜図11に示す例において、容器50は、互いに仕切られた3つの収容部51a,51b,51cを有している。第一収容部51aには、第一発泡体10a及び第一吸水シート20aを有する第一複合体40aが収容され、第二収容部51bには、第二発泡体10b及び第二吸水シート20bを有する第二複合体40bが収容されている。第一複合体40aには第一植物Paが植えられ、第二複合体40bには第二植物Pbが植えられている。栽培器具1が容器50を備える場合、例えば、植物Pa,Pbが植えられた複合体40a,40bの乾燥を効果的に防止しつつ、当該栽培器具1を輸送することができる。
【0094】
また、発泡体10a,10bが圧縮弾性を有する場合、当該発泡体10a,10bは、圧縮された状態で容器50に充填されることができる。圧縮弾性を有する発泡体10a,10bは、圧縮に伴って柔軟に変形することができるため、所望の形状の容器50に容易に収容することができる。
【0095】
しかも、発泡体10a,10bは、圧縮された状態で弾性復元力を発揮するため、容器50内に安定して保持される。すなわち、発泡体10a,10bは、その透水性や植物Pa,Pbを支持する機能が損なわれるような破損を伴うことなく、圧縮された状態で容器50内に設置される。
【0096】
図9〜図11に示す例においては、圧縮弾性を有する発泡体10a,10bと吸水シート20a,20bとを有する複合体40a,40bが、植物Pを支持した状態で圧縮され、容器50の収容部51a,51bに収容されている。この場合、発泡体10a,10bの圧縮の程度を調整することにより、当該発泡体10a,10bの吸水高さを調整することができる。
【0097】
容器50は、発泡体10a,10b及び吸水シート20a,20bを収容することのできるものであれば特に限られない。すなわち、例えば、展示や鑑賞を目的とした栽培を行う場合には、容器50として、内部を視認可能な透光性を有するものを使用することができ、また、透明なものを使用することもできる。これらの場合、容器50は透光性や透明性が失われない範囲で着色されていてもよい。
【0098】
容器50を構成する材料は特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、ポリカーボネート等の樹脂、ガラス、石、陶器、木材、金属等、種々のものを使用することができる。また、容器50としては、例えば、一般的な栽培に使用されている鉢を使用することもできる。
【0099】
図9〜図11に示す例において、栽培器具1は、一部が吸水シート20に接続され、他の一部が植物Pa,Pbに供給されるべき水分を保持した貯水部60に接続された、吸水性の導水シート70をさらに備えている。
【0100】
貯水部60には、植物Pa,Pbに供給されるべき水分が溜められている。すなわち、貯水部60は、例えば、その内部に水分を保持した容器である。貯水部60が保持する水分には、水に加えて、植物Pa,Pbに供給されるべき栄養成分や、防腐剤等の他の成分が添加されていてもよい。
【0101】
図9〜図11に示す例において、貯水部60は、内部の水分を徐々に浸み出させることのできる徐放部61を有している。この徐放部61は、例えば、透水性の発泡成形体や繊維成形体により構成することができる。
【0102】
貯水部60は、その下方端部に徐放部61が配置されるように、容器50のうち、第一収容部51aと第二収容部51bとの間に形成された第三収容部51cに収容されている。すなわち、貯水部60は、第一複合体40a及び第二複合体40bから離れて設置されている。
【0103】
導水シート70は、貯水部60に保持された水分を吸水シート20まで移送するために必要な吸水性を有するシート状体である。導水シート70は、例えば、上述の吸水シート20と同様のシート状体とすることができる。
【0104】
すなわち、バイレック法(JIS L 1907)により測定される導水シート70の吸水高さは、例えば、50mm以上であり、好ましくは100mm以上であり、より好ましくは200mm以上である。
【0105】
また、導水シート70は、繊維シートとすることができる。また、導水シート70は、無機多孔質粒を担持することができる。すなわち、導水シート70は、ゼオライトを担持した繊維シートとすることができる。
【0106】
また、導水シート70は、銅、亜鉛及び銀からなる群より選択される1種以上の金属を含有することができる。さらに、この場合、導水シート70は、銅ゼオライト、亜鉛ゼオライト及び銀ゼオライトからなる群より選択される1種以上のゼオライトを担持することができる。
【0107】
そして、図9〜図11に示す例では、導水シート70の一部である長手方向の一方端部71aは、第一複合体40aの第一吸水シート20aと接続され、当該導水シート70の他の一部である長手方向の他方端部71bは、第二複合体40bの第二吸水シート20bと接続され、当該導水シート70のさらに他の一部である長手方向の中央部71cは、貯水部60と接続されている。
【0108】
具体的に、導水シート70のうち、一方端部71aは第一吸水シート20aの下方端と接続され、他方端部71bは第二吸水シート20bの下方端と接続され、中央部71cは貯水部60の徐放部61と接続されている。
【0109】
したがって、貯水部60の水分は、徐放部61から滲み出て導水シート70に供給される。導水シート70は、その吸水性に基づいて、貯水部60から供給された水分を、その中央部71cから一方端部71a及び他方端部71bにそれぞれ移送する。
【0110】
さらに、第一吸水シート20a及び第二吸水シート20bは、その吸水性に基づいて、導水シート70の一方端部71a及び他方端部71bから水分を吸い上げる。第一吸水シート20a及び第二吸水シート20bによって吸い上げられた水分は、第一発泡体10a及び第二発泡体10bに供給される。そして、この水分は、第一発泡体10a及び第二発泡体10bを透過して、第一植物Paの根Ra及び第二植物Pbの根Rbに到達する。
【0111】
図12は、栽培器具1が容器50を備える場合の他の例を示す斜視図である。図13は、図12に示すXIII−XIII線で切断した栽培器具1の正面視断面を示す断面図である。
【0112】
図12及び図13に示すように、栽培器具1が容器50を備える場合、植物Pを支持する発泡体10と吸水シート20とを有する複合体40と、当該容器50と、の間に他の部材52が収容されていてもよい。この部材52は、例えば、栽培器具1の外観を向上させる目的で使用される充填材であって、粒状体や発泡体など、透水性があり且つ植物Pの根Rが進入できるものなどを使用することができる。
【0113】
図14は、栽培器具1の製造方法について、他の例の概略を示す説明図である。図14は、発泡体10及び吸水シート20を有する複合体40を使用した栽培器具1の製造工程のうち、図8Cに示す段階に相当する工程を示している。図15は、図14Bに示す栽培器具1の側面視断面を示す断面図である。
【0114】
図14Aに示すように、植物Pに付随する芯材30のサイズが比較的大きい場合には、当該芯材30を挟むように複合体40を折り曲げたとしても、当該複合体40の一方側部分42と他方側部分43とを合わせることができず、当該芯材30の周囲に隙間ができてしまうことがある。
【0115】
この場合、芯材30と発泡体10との間に、別体の補助部材16を充填することができる。すなわち、この補助部材16は、例えば、図14Aに示すように、芯材30を収容する凹部16aを有している。そして、この凹部16aに芯材30が嵌め込まれるように、複合体40の一方側部分42と他方側部分43とで補助部材16を挟む。この結果、図14B及び図15に示すように、芯材30の周囲に発泡体10及び補助部材16を充填することができる。
【0116】
補助部材16は、植物Pの栽培を阻害することなく芯材30の周囲に埋め込まれるものであれば特に限られない。すなわち、補助部材16は、例えば、上述した発泡体10と同様の透水性を有する発泡成形体とすることができる。具体的に、例えば、発泡体10及び補助部材16をいずれも連続気泡を有する親水性の発泡成形体(例えば、軟質ポリウレタン発泡体)とすることができる。
【0117】
図16は、栽培器具1が折りたたまれた複合体40を備える場合の一例を示す斜視図である。図17は、図16に示す栽培器具1の正面視断面の一例を示す断面図である。図18は、図16に示す栽培器具1の平面視断面の一例を示す断面図である。
【0118】
図16に示すように、栽培器具1においては、複合体40をU字状に折りたたむことにより合わされた一方側部分42及び他方側部分43の端部側に植物Pを突出させて栽培することもできる。
【0119】
この場合、図17及び図18に示すように、複合体40の内部において、根Rの周囲に、培土Qを充填することができる。培土Qとしては、例えば、発泡煉石、パルプモールド、木質培土、炭を使用することができる。また、培土Qとしては、例えば、粒子状のものを使用することができる。複合体40においては、培土Qが漏出しないように、根R及び当該培土Qを囲む端部が塞がれている。
【0120】
すなわち、図17及び図18に示すように、培土Qが根Rの近傍のみに密閉されるように、複合体40の一方側部分42及び他方側部分43の上方端部分及び幅方向における両端部は互いに接着されている。
【0121】
複合体40の端部を接着する方法は特に限られず、例えば、接着剤を使用した接着、熱融着、圧接を採用することができる。すなわち、例えば、ウレタン系接着剤、シリコン系接着剤又はゴム系接着剤を使用して、複合体の一方側部分42と他方側部分43とを接着することができる。
【0122】
また、発泡体10が熱融着可能な材料で構成されている場合には、例えば、接着剤を使用することなく、ヒートシール(溶融熱圧着)や高周波モールドにより、複合体の一方側部分42と他方側部分43と構成する当該発泡体10を接着することができる。具体的に、例えば、発泡体10が熱可塑性ポリウレタン発泡体である場合には、複合体40の一方側部分42と他方側部分43とを重ね合わせ、これらを溶融熱圧着することにより接着する。
【0123】
このように根Rの周囲に培土Qが充填される場合であっても、図17及び図18に示すように、当該根Rの一部は、発泡体10と接触している。そして、吸水シート20の第一部分21と第二部分22とは、発泡体10を介して植物Pの根Rを挟むよう対向し、且つそれぞれと当該根Rとの間の当該発泡体10の厚みT1,T2が当該発泡体10の吸水高さ以下となるように配置されている。
【0124】
図19は、栽培器具1が発泡体10及び吸水シート20を有する複合体40と容器50とを備える場合における正面視断面の一例を示す断面図である。上述の図17及び図18に示す例では、複合体40の端部を接着する態様について説明したが、これに限られず、図19のように、容器50を利用して当該複合体40の端部を塞ぐこともできる。
【0125】
すなわち、図19に示す例において、栽培器具1は、収容部51に比べて狭い開口部53を有する容器50を備えている。一方、複合体40は、容器50の収容部51に対応する形状及びサイズで形成されている。この複合体40を構成する発泡体10は、圧縮弾性を有している。
【0126】
そして、根R及び培土Qを包むように折りたたまれた複合体40は、圧縮された状態で、容器50の開口部53から収容部51に挿入される。ここで、図19に示す例においては、複合体40が容器50に収容された状態において、当該複合体40の上方側の端部が開口部53に留置され、当該開口部53によって圧縮される。
【0127】
すなわち、容器50の狭められた開口部53によって、複合体40の一方側部分42の上端部と他方側部分43の上端部とを圧接した状態で保持することにより、当該上端部を簡便に塞ぐことができる。また、複合体40の幅方向における端部についても、例えば、同様に、当該端部が収容される部分が狭められた容器50を使用することで、当該端部を簡便に塞ぐことができる。
【0128】
図20は、栽培器具1が折りたたまれた複合体40を備える場合の他の例を示す斜視図である。栽培器具1においては、折りたたんだ複合体40に対して、図20に示すような方向に植物Pを突出させて栽培することもできる。この場合においても、その正面視断面は、例えば、上述の図5や図7のように表わされる。
【0129】
図21は、栽培器具1が巻かれた複合体40を備える場合の一例を示す斜視図である。図22は、図21に示す栽培器具1の平面視断面を示す断面図である。図23は、図22に示すXXIII−XXIII線で切断した栽培器具1の正面視断面を示す断面図である。
【0130】
図21〜図23に示す例において、複合体40は、その一部と他の一部とで植物Pの根Rを挟むように巻かれている。すなわち、複合体40の一方側部分42の一部42aと他の一部42bとは、根Rを挟むように折りたたまれている。この結果、発泡体10のうち、複合体40の一部42a及び他の一部42bを構成する部分は、その露出している第二表面15bで根Rと接触しつつ、当該根Rを囲んでいる。また、吸水シート20のうち、複合体40の一部42a及び他の一部42bを構成する部分は、第一部分21及び第二部分22を構成している。
【0131】
そして、図23に示すように、吸水シート20の第一部分21と第二部分22とは、発泡体10を介して植物Pの根Rを挟むよう対向し、且つそれぞれと当該根Rとの間の当該発泡体10の厚みT1,T2が当該発泡体10の吸水高さ以下となるように配置されている。
【0132】
また、図21〜図23に示す例では、吸水シート20の第一部分21及び第二部分22のさらに外側に、発泡体10を介して第三部分23及び第四部分24が配置されている。
【0133】
また、図21〜図23のように、板状の複合体40を巻いて使用する場合には、当該複合体40の厚みのみならず、当該複合体40を植物Pの周囲に巻き付ける回数(当該植物Pを囲む層の数)によって、栽培器具1の形状やサイズを調整することができる。
【0134】
図24は、栽培器具1の他の例を示す斜視図である。図25は、栽培器具1のさらに他の例を示す斜視図である。図24及び図25に示す例において、栽培器具1は、上述の例における吸水シート20の第一部分21及び第二部分22に相当する一対の吸水層として、互いに別体として形成された一対の吸水シート20a,20bを備えている。
【0135】
図24に示す例において、栽培器具1は、互いに別体として形成された一対の複合体40a,40bで植物Pを挟むことにより形成されている。すなわち、一方の複合体40aの発泡体10aと、他方の複合体40bの発泡体10bと、の間に植物Pが植えられている。そして、第一吸水シート20aは、一方の発泡体10aの外側面11aを覆い、第二吸水シート20bは、他方の発泡体10bの外表面11bを覆っている。
【0136】
一方、図25に示す例においては、植物Pは、発泡体10に予め形成された切り込み17に差し込まれている。そして、この発泡体10が、一対の吸水シート20a,20bにより挟まれている。この栽培器具1は、例えば、板状の発泡体10と、当該発泡体10の両面を覆う一対の吸水シート20a,20bと、を有する複合体40を使用して形成される。これらの栽培器具1の正面視断面は、例えば、上述の図5や図7のように表わされ、平面視断面は、例えば、上述の図6のように表わされる。
【0137】
図26は、栽培器具1が多層構造を有する場合の一例を示す斜視図である。図27は、図26に示す栽培器具1の正面視断面を示す断面図である。図26及び図27に示す例において、栽培器具1は、発泡体10からなる透水層と、吸水シート20からなる吸水層と、が交互に積層された多層構造を有している。
【0138】
すなわち、この栽培器具1においては、吸水シート20の第一部分21と第二部分22とが、中央の第一発泡体10aを介して第一植物Paの根Raを挟むよう対向し、且つそれぞれと当該根Raとの間の当該第一発泡体10aの厚みT1,T2が当該第一発泡体10aの吸水高さ以下となるように配置されている。
【0139】
また、吸水シート20の第一部分21と第三部分23とが、一方側の第二発泡体10bを介して第二植物Pbの根Rbを挟むよう対向し、且つそれぞれと当該根Rbとの間の当該第二発泡体10bの厚みT10,T11が当該第二発泡体10bの吸水高さ以下となるように配置されている。
【0140】
また、吸水シート20の第二部分22と第四部分24とが、他方側の第三発泡体10cを介して第三植物Pcの根Rcを挟むよう対向し、且つそれぞれと当該根Rcとの間の当該第三発泡体10cの厚みT12,T13が当該第三発泡体10cの吸水高さ以下となるように配置されている。
【0141】
図28は、栽培器具1が多層構造を有する場合の他の例を示す斜視図である。図29は、図28に示す栽培器具1の正面視断面を示す断面図である。図28及び図29に示す例においても、栽培器具1は、発泡体10からなる透水層と、吸水シート20からなる吸水層と、が交互に積層された多層構造を有している。
【0142】
すなわち、この栽培器具1においては、吸水シート20の第一部分21と第二部分22とが、中央の第一発泡体10aを介して植物Pの根Rを挟むよう対向し、且つそれぞれと当該根Rとの間の当該第一発泡体10aの厚みT1,T2が当該第一発泡体10aの吸水高さ以下となるように配置されている。
【0143】
一方、吸水シート20の第一部分21と第三部分23との間に配置され、植物Pが植えられていない第二発泡体10bの厚みT14は、当該第二発泡体10bの吸水高さ以下となっている。また、吸水シート20の第二部分22と第四部分24との間に配置され、植物Pが植えられていない第三発泡体10cの厚みT15は、当該第三発泡体10cの吸水高さ以下となっている。なお、上述の図21〜図23に示した、巻かれた複合体40を備えた栽培器具1もまた、この例と同様の多層構造を有するものといえる。
【0144】
図30は、栽培器具1が円柱形状に形成された場合の一例を示す斜視図である。図31は、栽培器具1が多層構造を有する円柱形状に形成された場合の一例を示す斜視図である。図32は、栽培器具1が円柱形状に形成された場合の他の例を示す斜視図である。
【0145】
図30に示す例において、栽培器具1は、円柱形状に形成された発泡体10と、当該発泡体10の外側面の周方向全域を覆う吸水シート20と、を備えている。この栽培器具1を径方向中心で切断した断面は、例えば、図5や図7と同様に表わされる。
【0146】
すなわち、円筒状の吸水シート20の一部と他の一部とは、発泡体10を介して植物Pの根を挟むよう対向し、且つそれぞれと当該根との間の当該発泡体10の厚みが当該発泡体10の吸水高さ以下となるように配置されている。
【0147】
図31において、栽培器具1は、植物Pを支持する円柱状の第一発泡体10aと、当該第一発泡体10aの外側面の周方向全域を覆う第一吸水シート20aと、当該第一吸水シート20aの径方向外側を覆うように配置された円筒状の第二発泡体10bと、当該第二発泡体10bの外側面の周方向全域を覆う第二吸水シート20bと、を備えている。この栽培器具1を径方向中心で切断した断面は、例えば、図29と同様に表わされる。
【0148】
図32において、栽培器具1は、上述の図30に示すような発泡体10及び吸水シート20を有する複合体40と、当該複合体40を収容する容器50と、を備えている。この容器50としては、例えば、一般に栽培で使用される鉢を使用することができる。また、図32に示す例において、上述の図12及び図13に示す例と同様、複合体40と容器50との間に、円筒状の他の部材52が収容されている。もちろん、円柱状の複合体40は、このような部材52を介することなく、容器50に直接収容することもできる。
【0149】
図33は、栽培器具1のさらに他の例を示す斜視図である。図34は、図33に示す栽培器具1の植物Pが植えられていない状態での正面視断面を示す断面図である。図35は、図33に示す栽培器具1の正面視断面を示す断面図である。図36は、図35に示すXXXVI−XXXVI線で切断された栽培器具1の平面視断面を示す断面図である。
【0150】
図33〜図36に示す例において、発泡体10は、柱状に形成され、植物Pの根Rの全体を囲む外側面を有している。植物Pは、図34に示すように発泡体10に予め形成された切り込み17に、図35に示すように植物Pの根Rを芯材30とともに差し込むことにより、当該発泡体10に植えられる。
【0151】
吸水シート20は、図33及び図36に示すように、発泡体10の外側面の周方向全域を覆っている。すなわち、発泡体10は、その外側面のうち、平面視において長方形の長辺に対応する、より面積の大きな一対の第一側面11及び第二側面12と、当該長方形の短辺に対応する、より面積の小さな一対の第三側面18及び第四側面19と、を有している。
【0152】
そして、吸水シート20は、発泡体10の外側面のうち第一側面11及び第二側面12の全体をそれぞれ覆う、第一部分21及び第二部分22を有している。また、吸水シート20は、発泡体10の外側面のうち第三側面18及び第四側面19の全体をそれぞれ覆う、第三部分23及び第四部分24を有している。
【0153】
なお、上述の図21〜図23に示される、巻かれた複合体40を備えた栽培器具1、及び上述の図30〜図32に示される円柱状の栽培器具1においても、発泡体10の外側面の周方向全域が、吸収シート20により覆われている。
【0154】
また、このように発泡体10の外側面の周方向全域が吸水シート20により覆われる態様は、当該発泡体10が四角柱状や円柱状に形成される場合に限られず、当該発泡体10が他の多角柱状に形成される場合であっても、同様の構成とすることができる。
【0155】
また、吸水シート20は、図34及び図35に示すように、発泡体10の下面14も覆っている。一方、発泡体10の上面13は、吸水シート20により覆われておらず、露出している。ただし、例えば、上面13のうち切り込み17の周辺部を除いた部分を吸水シート20で覆うこととしてもよい。
【0156】
そして、この栽培器具1においては、図35及び図36に示すように、吸水シート20の第一部分21と第二部分22とが、発泡体10を介して植物Pの根Rを挟むよう対向し、且つそれぞれと当該根Rとの間の当該発泡体10の厚みT1,T2が当該発泡体10の吸水高さ以下となるように配置されている。
【0157】
また、吸水シート20の第三部分23と第四部分24とは、発泡体10を介して植物Pの根Rを挟むよう対向している。ただし、第三部分23及び第四部分24のそれぞれと根Rとの間の発泡体10の厚みT16,T17は、当該発泡体10の吸水高さより大きくてもよい。もちろん、第三部分23及び第四部分24のそれぞれと根Rとの間の発泡体10の厚みT16,T17は、当該発泡体10の吸水高さ以下であってもよい。この場合、第一部分21及び第二部分22のそれぞれと根Rとの間の発泡体10の厚みT1,T2もまた、必然的に当該発泡体10の吸水高さ以下となる。
【0158】
このように、発泡体10の外側面の周方向全域が吸水シート20で覆われている場合、例えば、当該吸水シート20が銅、亜鉛及び銀からなる群より選択される1種以上の金属を含有することにより、栽培器具1における微生物による汚染が効果的に抑制される。また、特に、吸水シート20が、銅及び亜鉛からなる群より選択される1種以上の金属を含有する場合には、栽培器具1における藻の発生を効果的に抑制することができる。
【0159】
さらに、吸水シート20が銅を含有する場合には、上述した植物Pの徒長を抑制する効果が確実に得られる。
【0160】
これらの効果は、発泡体10の外側面の周方向全域に加えて、当該発泡体10の上面13及び下面14の一方又は両方が吸水シート20で覆われている場合に、より顕著なものとなる。このような汚染防止効果や徒長抑制効果は、特に、栽培器具1を使用して、展示や鑑賞等の目的で屋内における栽培を実施する場合に好ましい。
【0161】
なお、図35及び図36には、植物Pの根Rが芯材30とともに発泡体10に埋め込まれる例を示したが、これに限られず、当該芯材30を伴わずに当該根Rが埋め込まれることとしてもよい。
【0162】
図37は、栽培器具1が容器50a,50b,50cを備える場合の他の例を示す斜視図である。図38は、図37に示す栽培器具1を長手方向に切断した側面視断面を示す断面図である。
【0163】
図37及び図38に示す例において、栽培器具1は、互いに別体に形成された3つの容器50a,50b,50cを備えている。いずれの容器50a,50b,50cにおいても、発泡体10a,10b,10cの外側面の周方向全域は吸水シート20a,20b,20cで覆われている。
【0164】
また、3つの容器50a,50b,50cは直列的に並べられ、導水シート70を介して、対応する形状のレール部材54に嵌め入れられている。導水シート70は、その一方の端部が貯水部60に保持された水中に浸漬され、他方側の部分が、3つの容器50a,50b,50cに収容された吸水シート20a,20b,20cに接続されている。
【0165】
図38に示すように、第一容器50aは底部を有しない筒状に形成されている。そして、この第一容器50aに収容されている第一発泡体10aの下面14aは、第一吸水シート20aによっては覆われていない。そして、導水シート70の一部は、第一吸水シート20aの下端部と接触している。
【0166】
また、図38に示すように、第二容器50bもまた底部を有しない筒状に形成されている。ただし、この第二容器50bに収容されている第二発泡体10bの下面14bは、その全域が第二吸水シート20bによって覆われている。そして、導水シート70の一部は、第二吸水シート20bのうち、第二発泡体10bの下面14bを覆う部分と接触している。この場合、第二吸水シート20bと導水シート70とを広い面積で接触させることができるため、効率的な給水が実現される。
【0167】
また、図38に示すように、第三容器50cは、連通穴55が形成された底部56を有している。この連通穴55には、吸水性の部材57が充填されている。また、この第三容器50cに収容されている第三発泡体10cの下面14cは、その全域が第三吸水シート20cによって覆われている。そして、導水シート70の一部は、第三吸水シート20cのうち、第三発泡体10cの下面14cを覆う部分と、吸水性の部材57を介して接触している。
【0168】
この場合もまた、吸水性の部材57を介して、効率的な給水が実現される。また、このように栽培器具1が、底部56の一部に給水用の連通穴55が形成されている容器を備える場合には、例えば、当該連通穴55を非透水性の部材で塞ぐことで、当該容器50cごと、植物Pc及び複合体40cを容易に輸送することができる。また、貯水部60は、容器50a,50b,50cからある程度離れた場所に設置することができる。
【0169】
次に、本実施形態に係る具体的な実施例について説明する。
【実施例1】
【0170】
図39は、この実施例1で使用した栽培器具1の断面を示す説明図である。発泡体10としては、板状に成形された、連続気泡を有する軟質ポリウレタン発泡成形体(APG、日清紡ケミカル株式会社)を使用した。この軟質ポリウレタン発泡成形体の吸水高さは10mmであった。
【0171】
なお、吸水高さは、バイレック法(JIS L 1907)により次のように測定した。まず、軟質ポリウレタン発泡成形体から、25mm×250mm、厚み1mmの試験体に切り出した。そして、この試験体を鉛直方向に吊るし、その下端部10mmを、容器に入れた水中に浸漬した。下端部を水中に浸漬してから10分が経過した時点において、試験体が水面から水を吸い上げた高さを測定し、吸水高さとした。
【0172】
吸水シート20としては、綿不織布(オイコス、日清紡テキスタイル株式会社)又はゼオライトを担持した綿不織布(ガイアコット、日清紡ホールディングス株式会社)を使用した。
【0173】
ゼオライトを担持した綿不織布としては、Naゼオライト又はCuゼオライトを担持したものを使用した。いずれの不織布も目付は120g/mであった。ゼオライトを担持した綿不織布は、8重量%の当該ゼオライトを担持していた。また、銅ゼオライトを担持した綿不織布において、担持されているゼオライトのうち、金属イオンが銅イオンに置換されているゼオライトの割合(担持されているゼオライトの総重量に対する、金属イオンが銅イオンに置換されているゼオライト(Cuゼオライト)の重量の割合)は、約10%であった。植物Pとしては、予め栽培されたアイビー又はサンデリアーナの苗を使用した。
【0174】
実施例1−1においては、図39Aに示すような栽培器具1を作製した。まず、植物Pとして、ピートを混合した土で予め栽培された苗を準備した。植物Pの根Rを水で洗浄し、土を除去した。そして、この植物Pを、一対の発泡体10a,10bで挟んだ。
【0175】
次に、この発泡体10a,10bを、綿不織布からなる一対の吸水シート20a,20bで挟んだ。このとき、根Rと吸水シート20a,20bとの間の発泡体10a,10bの厚みTa,Tbは、いずれも10mmとなるように調整した。吸水シート20a,20bは、発泡体10a,10bの外側面11a,11bのうち、根R及び当該根Rより下方側の部分の全体を覆うように配置され、当該外側面11a,11bの上端部分の一部は覆わなかった。
【0176】
そして、図39Aに示すように、綿不織布からなる導水シート70を使用した底面潅水法により、栽培を実施した。すなわち、底部に水Wが保持された容器50内に栽培器具1を設置し、導水シート70を介して給水を行った。導水シート70は、その両端部71a,71bが容器50内の水Wに浸漬されるとともに、中央部71cが、吸水シート20a,20bの下端部と接触し且つ発泡体10a,10bの下面14を覆うように配置された。
【0177】
実施例1−2においては、上述の実施例1−1と同様の手順で、図39Dに示すような栽培器具1を作製し、栽培を行った。発泡体10は、その吸水高さが20mmとなるように圧縮して使用した。そして、根Rと綿不織布からなる吸水シート20a,20bとの間の発泡体10a,10bの厚みTa,Tbが、いずれも20mmとなるように調整した。
【0178】
実施例1−3においては、上述の実施例1−1と同様の手順で、図39Aに示すような栽培器具1を作製し、栽培を行った。ただし、吸水シート20及び導水シート70として、Naゼオライトを担持した綿不織布を使用した。
【0179】
実施例1−4においては、上述の実施例1−1と同様の手順で、図39Aに示すような栽培器具1を作製し、栽培を行った。ただし、吸水シート20及び導水シート70として、Cuゼオライトを担持した綿不織布を使用した。
【0180】
実施例1−5においては、上述の実施例1−1と同様の手順で、図39Bに示すような栽培器具を作製し、栽培を行った。まず、植物Pとして、フェノール樹脂発泡成形体である芯材30(アクアフォーム、松村工芸株式会社)で予め栽培された苗を準備した。そして、この植物Pを、そのまま芯材30とともに一対の発泡体10a,10bで挟んだ。ここで、芯材30から露出した根Rと綿不織布からなる吸水シート20a,20bとの間の発泡体10a,10bの厚みTa,Tbが、いずれも10mmとなるように調整した。
【0181】
比較例1−1においては、上述の実施例1−1と同様の手順で、図39Cに示すような栽培器具1を作製し、栽培を行った。すなわち、植物Pの根Rを挟んだ一対の発泡体10a,10bのうち、一方の発泡体10aの外側面11aのみ、綿不織布からなる吸水シート20aで覆った。根Rと吸水シート20aとの間の発泡体10aの厚みTaは、10mmとなるように調整した。他方の発泡体10bの外表面11bは露出したままとした。
【0182】
比較例1−2においては、上述の実施例1−1と同様の手順で、図39Dに示すような栽培器具1を作製し、栽培を行った。ただし、発泡体10a,10bは、圧縮することなく、その吸水高さを10mmに維持したまま使用した。そして、根Rと綿不織布からなる吸水シート20a,20bとの間の発泡体10a,10bの厚みTa,Tbは、いずれも吸水高さの2倍である20mmとなるように調整した。なお、上述した7種類の栽培器具1の各々について、植物Pとしてアイビーの苗を植えたものを3つ、及び植物Pとしてサンデリアーナの苗を植えたものを3つ作製した。
【0183】
栽培期間中、次のような評価を行った。栽培開始直後、栽培を開始してから7日目、栽培を開始してから1ヶ月目、のそれぞれの時点で、栽培されている植物Pを観察し、その外観から当該植物Pの状態を評価した。
【0184】
また、栽培を開始してから1ヶ月目の時点で、栽培器具1に藻の発生があったか否か、植物Pの徒長が抑制されていたか否か、吸水シート20a,20bが生分解されていたか否か、をそれぞれ評価した。
【0185】
徒長の抑制については、植物Pの茎Sのうち、栽培器具1による栽培を開始した後に新たに成長した部分の節間の長さと、栽培開始前の節間の長さと、を測定し比較した。そして、栽培開始後の節間距離が、栽培開始前に比べて短くなっている場合に、徒長の抑制があったと判断した。
【0186】
図40には、使用された栽培器具1の構成と、栽培における上記の評価結果と、を示す。図40において植物Pの外観を観察した結果を示す欄において、記号「○」は、植物Pが正常であったことを示し、記号「△」は、植物Pが萎れていたことを示し、記号「×」は、植物Pが枯れていたことを示す。
【0187】
図40に示すように、一対の吸水シート20a,20bを対向させて、根Rから発泡体10a,10bの吸水高さ以下に配置した実施例1−1〜1−5では、1ヶ月間を通じて植物は正常に栽培された。これに対し、一方の発泡体10aにのみ吸水シート20aを配置した比較例1−1では、栽培7日目で植物Pが枯れてしまった。また、一対の吸水シート20a,20bを、根Rから発泡体10a,10bの吸水高さより大きな距離に配置した比較例1−2では、植物Pは、栽培7日目で萎れ、1ヶ月後には枯れてしまった。
【0188】
また、Cuゼオライトを担持した綿不織布を使用した実施例1−4では、藻は発生しなかった。一方、その他の例においては、藻が発生した。なお、予備的な実験において、Znゼオライトを担持した綿不織布を使用した例においても、実施例1−4と同様、藻は発生しなかった。一方、予備的な実験において、Agゼオライトを担持した綿不織布を使用した例においては、藻が発生した。
【0189】
また、Cuゼオライトを担持した綿不織布を使用した実施例1−4でのみ、植物Pの徒長が抑制された。なお、予備的な実験において、Znゼオライトを担持した綿不織布を使用した例及びAgゼオライトを担持した綿不織布を使用した例では、徒長の抑制は見られなかった。
【0190】
また、Cuゼオライトを担持した綿不織布を使用した実施例1−4でのみ、吸水シート20a,20bの生分解性は見られなかった。なお、比較例1−1においては、栽培開始から7日目に植物Pが枯れてしまったため、吸水シート20aの生分解を評価することができなかった。
【実施例2】
【0191】
吸水シート20として、上述の実施例1で使用したものと同様の綿不織布(オイコス、日清紡テキスタイル株式会社)及びゼオライトを担持した綿不織布(ガイアコット、日清紡ホールディングス株式会社)と、親水化されたポリエステル不織布、親水化されていないポリエステル不織布を使用した。ゼオライトを担持した綿不織布としては、Naゼオライト、Cuゼオライト、Znゼオライト、Agゼオライト又はCaゼオライトを担持したものを使用した。
【0192】
発泡体としては、上述の実施例1で使用したものと同様の、吸水高さが10mmであり、板状に成形された、連続気泡を有する軟質ポリウレタン発泡成形体(APG、日清紡ケミカル株式会社)を使用した。植物Pとしては、アイビーの苗を使用した。
【0193】
図41は、この実施例2で使用した栽培器具1の断面を示す説明図である。すなわち、この栽培器具1は、上述の図21〜図23に示すように、発泡体10の一方側の第一表面15aを吸水シート20で覆うことにより形成され、当該発泡体10の他方側の第二表面15bで植物Pを挟むように巻かれた複合体40を備えたものであった。
【0194】
根Rと、径方向の最も内側において当該根Rを挟む吸水シート20の第一部分21及び第二部分22と、の間に配置された発泡体10の厚みT1,T2は、10mmであった。複合体40を巻いて形成された円柱状体の外径及び高さは、いずれも約60mmであった。
【0195】
そして、図41に示すように、上述の実施例1と同様、導水シート70を使用した底面潅水法により給水しながら、栽培を行った。すなわち、容器50としては、容量が500mLである透明な合成樹脂製の円筒状容器を使用した。この容器50の底部に100mLの水Wを入れた。一方、容器50の上部に複合体40を設置した。そして、幅25mmの導水シート70を図41のように配置した。
【0196】
吸水シート20及び導水シート70として、実施例2−1では綿不織布を使用し、実施例2−2ではNaゼオライトを担持した綿不織布を使用し、実施例2−3ではCuゼオライトを担持した綿不織布を使用し、実施例2−4ではZnゼオライトを担持した綿不織布を使用し、実施例2−5ではAgゼオライトを担持した綿不織布を使用し、実施例2−6でCaゼオライトを担持した綿不織布を使用し、比較例2−1では親水化されたポリエステル不織布を使用し、比較例2−2では親水化されていないポリエステル不織布を使用した。
【0197】
栽培を開始してから1ヶ月が経過した時点で、次のような評価を行った。防藻性を評価した。すなわち、栽培1ヶ月の時点で、容器50内の水W中に藻が発生しているか否かを観察した。藻が発生している場合には、発生した藻の量を評価した。水防腐性を評価した。すなわち、栽培1ヶ月の時点で、容器50内の水Wに濁りが発生しているか否かを観察した。濁りが発生している場合には、濁りの程度を評価した。
【0198】
徒長防止性を評価した。すなわち、上述の実施例1と同様に、栽培開始前後で、植物Pの茎Sの節間距離に基づいて、徒長が抑制されたか否かを評価した。防根性を評価した。
すなわち、1ヶ月栽培後の複合体40をほどき、根Rが吸水シート20を貫通しているか否かを観察した。そして、根Rが吸水シート20を貫通している場合には防根性なしと判断し、根Rが吸水シート20を貫通していない場合には防根性ありと判断した。
【0199】
また、使用した各吸水シート20自身の次の特性を評価した。吸水シート20の親水性を評価した。すなわち、まず吸水シート20の表面に0.1mLの水滴を接触させることにより滴下した。そして、滴下してから吸水シート20中に水滴が全て浸み込むまでの時間を測定し、浸水時間とした。浸水時間が短いほど、吸水シート20の親水性が高いと評価される。
【0200】
吸水シート20の吸水高さをバイレック法(JIS L 1907)により次のように測定した。まず、25mm×200mm(吸水高さが200mm以上であった場合には、25mm×400mm)の吸水シート20を鉛直方向に吊るし、その下端部10mmを、容器に入れた水中に浸漬した。下端部を水中に浸漬してから10分が経過した時点において、吸水シート20が水面から水を吸い上げた高さを測定し、吸水高さとした。
【0201】
図42には、使用された吸水シート20の特性と、当該吸水シート20を使用した栽培器具1(図41参照)による栽培における評価結果と、を示す。図42において、防藻性について、記号「○」は、藻の発生がなく、優れた防藻性が確認されたことを示し、記号「△」は、藻の発生量が僅かであり、ある程度の防藻性が確認されたことを示し、記号「×」は、藻の発生が多く、防藻性が確認されなかったことを示す。また、水防腐について、記号「○」は、水に濁りがなく、優れた水防腐性が確認されたことを示し、記号「△」は、水の濁りが僅かであり、ある程度の水防腐性が確認されたことを示し、記号「×」は、水の濁りが多く、水防腐性が確認されなかったことを示す。また、徒長防止性について、記号「○」は、節間長さが低減されており、優れた徒長防止性が確認されたことを示し、記号「×」は、節間長さが変わらず又は増加しており、徒長防止性が確認されなかったことを示す。
【0202】
図42に示すように、綿不織布又はゼオライトを担持した綿不織布(実施例2−1〜2−6)の浸水時間は1秒又は1秒未満であり、非常に高い親水性が確認された。これに対し、親水化されたポリエステル不織布(比較例2−1)の浸水時間は10秒であり、親水性が確認された。また、親水化していないポリエステル不織布(比較例2−2)の浸水時間は180秒以上であり、親水性に劣るものであった。
【0203】
吸水高さは、綿不織布(実施例2−1)が150mm、ゼオライトを担持した綿不織布が300mm(実施例2−2〜2−6)であり、いずれについても優れた吸水性が確認された。これに対し、親水化されたポリエステル不織布(比較例2−1)及び親水化していないポリエステル不織布(比較例2−2)の吸水高さは、それぞれ10mm及び5mmであり、いずれも実質的に吸水性を有しないものであった。
【0204】
また、銅ゼオライト又は亜鉛ゼオライトを担持した不織布を使用した例(実施例2−3、2−4)でのみ、優れた防藻性及び水防腐性が確認された。また、銀ゼオライトを担持した不織布を使用した例(実施例2−5)では、ある程度の防藻性及び水防腐性が確認された。また、銅ゼオライトを担持した不織布を使用した例(実施例2−3)でのみ、優れた徒長防止性及び防根性が確認された。
【実施例3】
【0205】
この実施例3では、栽培で消費される水の量を評価した。すなわち、実施例3−1では、上述の実施例2と同様に、図41に示すような栽培器具1を使用して栽培を行った。
【0206】
吸水シート20及び導水シート70として、上述の実施例1で使用したものと同様の、銅ゼオライトを担持した綿不織布(ガイアコット、日清紡ホールディングス株式会社)を使用した。発泡体10としては、上述の実施例1で使用したものと同様の、吸水高さが10mmであり、板状に成形された、連続気泡を有する軟質ポリウレタン発泡成形体(APG、日清紡ケミカル株式会社)を使用した。植物Pとしては、予め栽培されたチャメドレア、ポトフ又はコーヒーの苗を使用した。
【0207】
そして、発泡体10の一方側の第一表面15aを吸水シート20で覆うことにより形成され、当該発泡体10の他方側の第二表面15bで植物Pを挟むように巻かれた複合体40を備えた栽培器具を作製した。
【0208】
一方、比較例3−1では、複合体40に代えて、粒子状の発泡煉石からなる人工培土(ネオコール、東洋電化工業株式会社)を使用して栽培を行った。比較例3−2では、複合体40に代えて、堆肥(コンポスト)を使用して栽培を行った。
【0209】
比較例3−1,3−2のいずれにおいても、上述の実施例3−1と同様に、銅ゼオライトを担持した綿不織布からなる導水シート70を使用した底面潅水法により給水を行った。すなわち、人工培土又は堆肥を鉢に入れ、当該鉢の底面に形成された穴を介して、銅ガイアコット担持綿不織布からなる導水シートを図41のように配置し、栽培した。そして、1ヶ月間の栽培で消費された水の量を評価した。
【0210】
図43には、栽培において消費された水の量を評価した結果を示す。図43に示すように、発泡体10及び吸水シート20を備えた栽培器具1を使用することによって、水の消費量が顕著に低減されることが確認された。
【実施例4】
【0211】
この実施例4では、4種類の発泡体の特性を評価した。実施例4−1では、発泡体Iとして、上述の実施例1で使用したものと同様の、連続気泡を有する軟質ポリウレタン発泡成形体(APG、日清紡ケミカル株式会社)を使用した。
【0212】
実施例4−2では、発泡体IIとして、連続気泡を有する軟質ポリウレタン発泡成形体(エアロンER、アキレス株式会社)を使用した。実施例4−3では、発泡体IIIとして、独立気泡を有するセルロース発泡成形体(チャフローズスポンジ、株式会社チャフローズコーポレーション)を使用した。実施例4−4では、発泡体IVとして、フェノール樹脂発泡成形体(アクアフォーム、松村工芸株式会社)を使用した。
【0213】
発泡体I〜IVの浸水時間を上述の実施例2と同様に測定し、その親水性を評価した。発泡体I〜IVの吸水高さを実施例1と同様に測定した。発泡体I〜IVの体積含水率を測定し、保水性を評価した。
【0214】
体積含水率は、次のようにして測定した。まず、チャンバー法(JIS A 1475 建築材料の平衡含水率測定方法)により、発泡体I〜IVの乾燥重量Q0とみかけ体積T0とを求めた。また、発泡体I〜IVを水中に24時間浸漬し、次いで引き揚げた後、30秒間放置した時点における当該発泡体I〜IVの重量Q1(JIS A 9511 発泡プラスチック保温材 吸水量 測定A法)を求めた。そして、次の式;体積含水率(%)=(Q1−Q0)/T0×100;により、体積含水率(%)を算出した。
【0215】
発泡体I〜IVの圧縮弾性を評価した。まず、発泡体I〜IVを体積が50%になるまで圧縮した。次いで、圧縮を解放し、その後1時間が経過した時点での、発泡体I〜IVの復元の程度を目視にて判定した。
【0216】
図44には、4種類の発泡体I〜IVの特性を評価した結果を示す。圧縮弾性の評価結果を示す欄において、記号「○」は、圧縮解放後に形状がほぼ元通りに回復し、圧縮弾性があると判断されたことを示し、記号「×」は、形状の回復が見られず、圧縮弾性がないと判断されたことを示す。
【0217】
図44に示すように、3種類の発泡体I,III,IVの浸水時間は1秒又は1秒未満であり、優れた親水性が確認された。また、発泡体IIの浸水時間は10秒であり、親水性が確認された。
【0218】
発泡体Iの吸水高さは10mm、発泡体IIのそれは15mmであり、いずれも低かった。すなわち、これら2種類の発泡体I,IIは実質的に吸水性を有しないものであった。また、発泡体IVの吸水高さは45mmであり、ある程度の吸水性を有していた。発泡体IIIの吸水高さは150mmであり、優れた吸水性を有していた。
【0219】
発泡体Iの体積含水率は18%であり、顕著に低かった。すなわち、発泡体Iの保水性は非常に低いものであった。発泡体III及び発泡体IVの体積含水率は、それぞれ30%及び41%であり、これらは、ある程度の保水性を有することが確認された。発泡体IVの体積含水率は94%であり、極めて高い保水性が確認された。3種類の発泡体I〜IIIは、圧縮弾性を有していた。発泡体IVは、圧縮弾性を有していなかった。
【符号の説明】
【0220】
1 植物栽培器具、10 発泡体、11 第一側面、12 第二側面、13 上面、14 下面、15a 第一表面、15b 第二表面、16 補助部材、16a 凹部、17 切り込み、18 第三側面、19 第四側面、20 吸水シート、21 第一部分、22 第二部分、23 第三部分、24 第四部分、30 芯材、40 複合体、41 切り込み、42 一方側部分、42a 一方側部分の一部、42b 一方側の他の一部、43 他方側部分、50 容器、51 収容部、51a 第一収容部、51b 第二収容部、51c 第三収容部、52 他の部材、53 開口部、54 レール部材、55 連通穴、56 底部、57 吸水性の部材 60 貯水部、61 徐放部、70 導水シート、71a 一方端部、71b 他方端部、71c 中央部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物を支持するための透水性の発泡体と、
前記発泡体を介して前記植物に水分を供給するための吸水シートと、
を備え、
前記吸水シートの一部と他の一部とは、前記発泡体を介して前記植物の根の少なくとも一部を挟むよう対向し、且つそれぞれと前記根の少なくとも一部との間の前記発泡体の厚みがバイレック法(JIS L 1907)により測定される前記発泡体の吸水高さ以下となるように配置されている
ことを特徴とする植物栽培器具。
【請求項2】
前記発泡体の前記吸水高さは、30mm以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の植物栽培器具。
【請求項3】
前記吸水シートの前記一部と前記他の一部とは、前記根の全体を挟むよう対向して配置されている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の植物栽培器具。
【請求項4】
板状の前記発泡体と、前記発泡体の片面又は両面の少なくとも一部を覆う前記吸水シートと、を有する複合体を備える
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の植物栽培器具。
【請求項5】
前記吸水シートは、銅、亜鉛及び銀からなる群より選択される1種以上の金属を含有する
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の植物栽培器具。
【請求項6】
前記吸水シートは、銅ゼオライト、亜鉛ゼオライト及び銀ゼオライトからなる群より選択される1種以上のゼオライトを担持している
ことを特徴とする請求項5に記載の植物栽培器具。
【請求項7】
前記発泡体及び前記吸水シートを収容する容器をさらに備え、
前記発泡体は、圧縮弾性を有し、圧縮された状態で前記容器に充填されている
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の植物栽培器具。
【請求項8】
一部が前記吸水シートに接続され、他の一部が前記植物に供給されるべき水分を保持した貯水部に接続された、吸水性の導水シートをさらに備える
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の植物栽培器具。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載の植物栽培器具を使用して植物を栽培する
ことを特徴とする植物栽培方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate

【図29】
image rotate

【図30】
image rotate

【図31】
image rotate

【図32】
image rotate

【図33】
image rotate

【図34】
image rotate

【図35】
image rotate

【図36】
image rotate

【図37】
image rotate

【図38】
image rotate

【図39】
image rotate

【図40】
image rotate

【図41】
image rotate

【図42】
image rotate

【図43】
image rotate

【図44】
image rotate


【公開番号】特開2011−50361(P2011−50361A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205015(P2009−205015)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(000004374)日清紡ホールディングス株式会社 (370)
【Fターム(参考)】