説明

植物栽培方法

【課題】高い栽培効率を維持したまま発光ダイオード等の補光装置を設置するコストを低減でき、単位面積当たりの収量を増大させる、太陽光を利用するハウスにおける補光装置を用いた植物の栽培方法を提供する。
【解決手段】太陽光を利用するハウスにおいて補光装置を用いて植物を栽培する方法であって、栽培用ベンチ及び/又は補光装置は相対的位置関係が変化するように移動し、1又はそれ以上の栽培用ベンチの片側面又は両側面から栽培植物に対して補光装置により光を照射し、栽培植物の特定の生育段階において各栽培用ベンチの栽培植物に対して補光装置により照射を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光利用ハウスにおいて補光装置を用いて効率的に植物を栽培する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、野菜や果物などの有用植物は、温室栽培などの人工栽培によって、1年を通して栽培されている。人工栽培によって育成された有用植物が露地栽培された有用植物と同等の品質を保つためには、ビニルハウスなどの人工栽培装置内の環境条件を適切に制御する必要がある。とくに植物へ照射される光量の適切な制御は植物の生長に最も大きな影響を持つ要素の1つである。
【0003】
近年、消費者が安全で安心出来る食品を求める傾向がますます強くなってきており、管理状態の判らない海外からの輸入加工食品よりも、農薬使用や衛生状態等きちんと管理された国内生産食品を嗜好する動きがおこっている。一方、国内農業人口は高齢化に伴い減少の一途を辿っており、農業生産の新たな担い手が、安定的な所得を得る仕組みが求められている。食料安全保障の観点からも、農業生産方法を改善し、単位面積あたりの収量を増やし、安定的かつ効率的に農業生産可能な仕組みを構築する必要性に迫られている。
【0004】
そんななか、いわゆる完全制御型植物工場と呼ばれる、建築物の中で人工光源を照射して作物を栽培する農業生産形態が注目されてきている。完全制御型植物工場では、単位面積当たりの収量を上げるため、多段式の栽培方式となり、背の高くなる作物が栽培しにくい上、初期投資額が膨大になるため、栽培期間が短く回転率の高い、葉菜類栽培を中心に利用されてきた。この栽培形態では、最適な温湿度、光環境、養液等環境管理により、極めて短期間で作物栽培可能であるが、一度病害虫が発生すると、その防除に膨大な手間と費用が発生する難点があった。このため、病害虫の発生原因を無菌の施設内に持ち込ませないように、エアシャワー等の高額な設備を準備する必要があった。
【0005】
また、人工光源として、従来は、蛍光灯またはハロゲンランプなどが用いられているが、これらの照明装置は、多量のエネルギーを必要とするため電力コストが増大し、高湿下では電源系統に絶縁破壊を生じる可能性があった。一方、従来の白熱電球などに代わる照明装置として、発光ダイオード(以下、LEDともいう。)を用いた植物栽培の可能性が提案されている。発光ダイオードは、蛍光灯に比べて安全で長寿命であり、熱が出ないという利点があることから、この特性を利用して、特に青色と赤色の発光ダイオードについては、完全制御型植物工場内での使用の可能性が検討されている。しかしながら、発光ダイオードを使用した照明装置は蛍光灯に比べてコストが高く、これを施設内の全面に使用した植物工場を建設する費用は甚だ高くなることから、一般的な施設園芸農家が行うことは困難である。
【0006】
また、特に、北陸や北海道など日照量が少ない地域で温室栽培を行う場合や、作物の増収を図る場合、品質リスクを減らし多収を可能とすることから近年注目されているトマト等の低段密植栽培や遮光資材を用いたイチゴ栽培が行われている。トマト低段密植栽培は、多段栽培よりも密植して1〜3花房程度を残して摘心する短期栽培を繰り返す栽培法であり、低農薬で高糖度果実の生産が期待できるが、一方密植するため影ができやすく自然光のみでは光量不足となりやすいという問題がある。また、夏期にイチゴ栽培をおこなう場合、高温となり品質低下を招くため遮光資材を用いるが、逆に光量不足となる。
【0007】
このような事情から、太陽光を利用する従来のビニルハウスにおいて、発光ダイオードによる光を補光として使用することにより効率的に植物を栽培する方法が検討されている。(例えば、本出願人の同時係属出願である特願2008−312306を参照。)このような栽培方法では、荷重の重量の増大と果実の糖度を増大することができ、発光ダイオードの照射による補光効果を得ることができることが確認された。
【0008】
しかしながら、発光ダイオードは未だ費用が高く、また、栽培植物、即ち生産物は、その種類(例えば野菜)によっては単価が低いこともあり、このため、折角発光ダイオードの照射設備を導入しても初期投資を回収しにくいという問題がある。一方、発光ダイオードを栽培植物の一部についてだけ照射すると、均一な生産物を得ることができないので好ましくない。また、単位面積当たりの収量を更に増大させることへの要望も依然高い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかして、本発明は、高い栽培効率を維持したまま発光ダイオード等の補光装置を設置するコストを低減でき、単位面積当たりの収量を増大させる、太陽光を利用するハウスにおける補光装置を用いた植物の栽培方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる課題に鑑み、本発明者らは、栽培植物の生育(成長)過程の全段階において補光装置による補光をせずとも、植物の成長において重要な役割を果たす特定の生育段階において補光装置による補光を行うことにより、高い栽培効率を維持したまま発光ダイオードの設置コストを低減できるのではないかと考え、これを実現する方法を検討した。
【0011】
補光栽培の目的には大きく分けて、日長制御目的と光合成目的の二つに分けられる。日長制御としては、例えばキクのような短日植物においては、暗期中断等の日長制御処理を行うことにより、花芽分化を制御し、出荷時期の調整等を行うものである。こちらはさほど多くの光量を必要としない為、白熱球の様な低照度の照明を用いても十分な効果が得られていた。一方、光合成目的の補光では、従来、多くの光エネルギーを長時間与えることにより、より多くの効果が得られると考えられていたが、高価な照明装置を多数配置しなければならず、経済性の観点から問題となっていた。本発明者らは、良質の生産物をより多く得る目的において、特定の栽培ステージの特定部位における補光の寄与率が高く、又、例えば、特再公表2006−000005号公報記載のような人工環境下で苗を生産する等の方法で、花芽の位置をそろえることにより、特定位置への照射が可能になり、果実肥大への寄与率が大きい果房近傍への均質照射が可能となり、更には、栽培作物によって適切な光質、光量、照射位置、照射時期等をコントロールしてやることにより、非常に効率的な補光方法となりうることを見出した。更にこの補光方法を、本願に係る、圃場での設置照射装置数を減らす為の具体的方法と組み合わせることにより、経済性を損なわずに、従来より格段に高い効率の補光効果を得る方法として見出した。これら、特異的な効果は、光合成生産と光合成産物の移動のバランスを取ることにより得られるものである。つまり、従前の、単純に光合成エネルギー源としての光を強く長く当てる方法では、炭酸同化作用と光合成産物の転流とのバランスが崩れ、光エネルギーを最大限利用できない為、果実肥大や糖度改良等、農業としての生産性向上に必ずしも繋がらない等の問題があった。本発明者らは、上記点を勘案し、単位面積の収量を極大化するにあたり、最も効率的な補光方法となりうる具体的な方法を本願記載の内容を通じて具体的に提示するものである。
【0012】
すなわち、本発明は、太陽光を利用するハウスにおいて補光装置を用いて植物を栽培する方法であって、栽培用ベンチ及び/又は補光装置は相対的位置関係が変化するように移動し、1又はそれ以上の栽培用ベンチの片側面又は両側面から栽培植物に対して補光装置により光を照射し、栽培植物の特定の生育段階において各栽培用ベンチの栽培植物に対して補光装置により照射を行なうことを特徴とする植物栽培方法、という構成を採用する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の栽培方法を使用することにより、高い栽培効率を維持したまま発光ダイオード等の補光装置を設置するコストを低減できるため、補光装置等への初期投資を十分に回収することができ本発明の商業的価値は非常に高い。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の態様の非限定的例
【図2】本発明の第1の態様の非限定的例
【図3】本発明における栽培用ベンチの間隔を示す例
【図4−1】本発明の第2の態様の非限定的例(Bタイプの補光装置(吊り下げ型))
【図4−2】本発明の第2の態様の非限定的例(Bタイプの補光装置(下方支持型))
【図5−1】Aタイプの補光装置の図(ベンチ移動状態)
【図5−2】Aタイプの補光装置の図(照射状態)
【図6−1】Aタイプの補光装置の図(上げた状態)
【図6−2】Aタイプ補光装置の図(降ろした状態)
【図7−1】Bタイプの補光装置の図(吊り下げ型)(ベンチ移動状態)
【図7−2】Bタイプの補光装置の図(吊り下げ型)(照射状態)
【図8−1】Bタイプの補光装置の図(下方支持型)(照射状態)
【図8−2】Bタイプの補光装置の図(下方支持型)(照射状態)
【図9−1】両側からの光の照射を示す図
【図9−2】片側からの光の照射を示す図
【図10−1】片側からの光の照射(1)
【図10−2】片側からの光の照射(2)
【図11】栽培用ベンチとAタイプの補光装置の具体例
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
栽培用ベンチ
本発明においては、植物栽培用ベンチは栽培植物を載置する役割を有し、公知の栽培用ベンチを使用することができる。例えば、特開平6−141699号公報や特開平7−327495号公報に記載されている骨組み材やパイプ材を組み立てた構成のものや、特開2008−125412号公報に記載されているような箱型の形状などの任意の構成のものを使用することができる。また、本発明の栽培用ベンチの材質としては、アルミなどの金属や、樹脂、木材など任意のものを使用することができる。
【0017】
本発明において栽培用ベンチに栽培植物を載置するには、植物栽培用ポット、植物栽培用バッグ、植物栽培用ベッド等の栽培用具を用いて栽培植物を載置してもよい。また、栽培用ベンチの上で水耕栽培(湛液型水耕栽培、NFT型水耕栽培)を行ったり、栽培用ベンチの上にロックウールマットを敷きその上にロックウールポットを置いてロックウール栽培を行ってもよい。また、栽培用ベンチの養液を供給する配管などを設けてもよい。
【0018】
本発明においては、栽培用ベンチは移動可能でも固定型のいずれものも使用することができる。本発明の栽培用ベンチを移動可能にするには公知の手段を使用することができ、例えば、栽培用ベンチの底部付近にコロを設けてレール上において移動する方法、あるいは栽培用ベンチの側部周辺にハウスの天井からの釣り下げフックを引っ掛ける部分を設けてハウス天井から吊り下げて移動する方法などがあげられる。また、栽培用ベンチを移動させるには手動式でも自動式のいずれでもよい。また、太陽光を有効利用するために高さの異なるベンチを組み合わせることもできる。
【0019】
本発明においては、栽培用ベンチと補光装置を特定の構成として組み合わせることを特徴の一つとする。具体的には、本発明においては、栽培用ベンチ及び/又は補光装置はこれらの相対的位置関係が変化するように移動する。このような移動を行う態様としては、栽培用ベンチが移動可能であり補光装置が固定型である場合(第1の態様)、栽培用ベンチは固定型であり補光装置が移動可能である場合(第2の態様)、栽培用ベンチ及び補光装置のいずれもが移動可能である場合(第3の態様)などがあげられる。
【0020】
前記の第1の態様において、ハウス内において、複数の移動可能な栽培用ベンチはそれぞれ略平行に配置されることが好ましい。また、栽培用ベンチを、栽培用ベンチに載置された栽培植物の生育段階が変化するように配置することが好ましい。ここで、各栽培用ベンチの栽培植物の生育段階が必ずしも異なっていることまでは必要ではなく、例えば、任意の栽培用ベンチの前後等の栽培用ベンチで生育段階が同じであってもよく、略平行に配列された栽培用ベンチ全体を見たときに栽培植物の生育段階が変化していればよい。本発明の第1の態様においては、後述する移動可能な補光装置のいずれの型のものを使用することができる。
【0021】
図1に本発明の第1の態様の非限定的例を概念的に示す。図1では、栽培用ベンチがそれぞれ略平行に一列で配置されており、図の左から右に向かって栽培植物の生育段階が進行するように、且つ、各生育段階に合わせたスペーシングで配置されている。ここで、図の右端の栽培用ベンチの植物で果実が収穫されると、栽培用ベンチは列から取り除かれ左端に移動され新たに栽培植物が載置される。また、図2には、本発明の第1の態様の別の非限定的例を示す。図2では、栽培用ベンチがそれぞれ略平行に二列で配置されており、図の下側の列では栽培用ベンチは図の左から右に向かって栽培植物の生育段階が進行するように配置されており、上側の列では栽培用ベンチは図の右から左に向かって栽培植物の生育段階が進行するように配置されており、栽培用ベンチが循環するように使用される。
【0022】
本発明の第1の態様においては、各栽培用ベンチの間隔は一定であっても異なっていてもよい。特に、密植栽培を行う場合は、栽培床物の生育と共に太陽光が十分照射されるには栽培用ベンチ間に十分な空間を取る必要があることから、生育段階に応じて栽培用ベンチの間隔を変えるのが好ましい。
【0023】
本発明の第1の態様においては、補光装置は固定型、即ち、補光装置全体として同じ場所に設置されているが、補光装置中の光を照射する部分(照射パネルなど)は、可動性のもの(後述する、照射パネルが上下に可動するものなど)であってもなくてもよい。
【0024】
本発明の第2の態様は、栽培用ベンチが固定型であり補光装置が移動可能であり、その非限定的例の概念図を図4−1及び図4−2に示す。図4−1及び4−2では、栽培用ベンチは固定型であり、補光装置としては、照射パネルが上下に可動してその両端が吊り下げにより支持されている型(図4−1)と両端が下方で支持されている型(図4−2)が使用されており、これらの補光装置は栽培用ベンチの長手方向に対して平行に移動することができるように構成されている。本発明の第2の態様では、複数の栽培用ベンチが略平行に配列されていてもよい。この場合、補光装置は栽培用ベンチの各列に一つまたは複数配置することができる。また、本発明の第2の態様には、複数の栽培用ベンチが略平行に配列されており、一つまたは複数の移動可能な補光装置が栽培用ベンチの長手方向に対して平行に移動することに加えて、前後の数列の栽培用ベンチまで移動して補光を行う場合も含まれる。
また、本発明の第2の態様においては、各栽培用ベンチの間隔は一定であっても異なっていてもよい。また、本発明の第2の態様において、密植栽培を行う場合は、生育状況を配慮して、高さの異なるベンチの組み合わせにより、太陽光を最大限利用できるような配置にしてもよい。
【0025】
本発明の第3の態様は、栽培用ベンチ及び補光装置とも移動可能なものを用いる場合であり、例えば、図2に例示したような、移動可能な栽培用ベンチがそれぞれ略平行に配列された列が2列又はそれ以上ある場合で、2つ以上の列の間を図4−1や図4−2で例示したような移動可能な補光装置が移動して補光する場合がある。
【0026】
補光装置
本発明で使用できる補光装置は、照射パネルと支持部により主に構成されている。本発明においては、照射パネルが可動性であることが好ましく、照射パネルが可動性である補光装置を本明細書では「可動性補光装置」ともいう。本発明に使用できる可動性補光装置として、支持部を中心に照射パネルの端部を降ろすと栽培用ベンチの長手方向と略平行となるように構成されている可動性補光装置(「Aタイプの補光装置」ともいう。)、照射パネルが上下に動き栽培用ベンチの長手方向と略平行となるように配置される可動性補光装置(「Bタイプの補光装置」ともいう。)が例示されるが、これらに限定されない。
【0027】
Aタイプの補光装置は、1又はそれ以上の栽培用ベンチの片端部または両端部の近傍に設置されて栽培植物に照射される。その概念図を図5−1及び5−2に示す。栽培植物に光を照射しないときは図5−1に示すように照射パネルを略垂直に立てておき、栽培植物に光を照射するときは図5−2に示すように支持部を中心に照射パネルの端部を降ろして使用する。Aタイプの補光装置についてのより詳しい例示図を図6−1及び6−2に示す。図6−1に示すように、照射パネルは支持部により支持されており、支持部を支点として照射パネルを略垂直状態からその端部を略直角状態にまで降ろして栽培用ベンチ近傍に配置して栽培植物に光を照射する。(図6−2を参照。)Aタイプの補光装置には照射パネル及びその支持部をそれぞれ2以上取り付けてもよいが、照射装置の安定性を考慮すると照射パネルは1又は2であることが好ましい。
【0028】
Bタイプの補光装置は、好ましくは照射パネルの両端に支持部が取り付けられている。また、Bタイプの補光装置は、ハウスの上方に吊り下げるように設置し、照射パネルを栽培用ベンチの近傍にまで降下させて栽培植物に光を照射する態様(吊り下げ型:図7−1及び7−2を参照)、ハウス内の地面に設置し、照射パネルを栽培用ベンチの近傍にまで上昇させて栽培植物に光を照射する態様(下方支持型:図8−1及び8−2を参照)がある。
【0029】
更に、Aタイプ及びBタイプの補光装置は栽培用ベンチの長手方向に移動できるように構成することもできる。Bタイプの補光装置(吊り下げ型及び下方支持型)についてその概念図は前述したとおり図4−1及び4−2に示した。この場合、栽培用ベンチは固定型(第2の態様)または移動型(第3の態様)いずれでもよい。また、この場合、補光装置は栽培用ベンチの各列に一つ又は複数ずつ配置することができる。
【0030】
本発明で使用する補光装置の照射パネルには光源が備え付けられており、光源としては、白熱電球、蛍光灯(白色以外の各色蛍光灯含む)、ハロゲンランプ、冷陰極管、メタルハライドランプ、高圧ナトリウムランプ、水銀灯、発光ダイオード等の公知の光源を使用することができるが、蛍光灯に比べて安全で長寿命であり、熱が出ないという利点があることから発光ダイオードを好適に使用することができる。
【0031】
発光ダイオードの色としては、青色発光ダイオード、赤色発光ダイオード、白色発光ダイオード、またはこれらの組合わせを好ましく使用することができる。光合成産量を増やす目的で補光したい場合は、太陽光と類似した波長分布を有する白色発光ダイオードを好ましく使用することができる。
白色発光ダイオードとしては、公知のものを使用することが出来る。
【0032】
また、本発明においては、植物の吸収波長である470nm付近や660nm付近の植物の光受容体の吸収ピークに近い波長の光を照射する、青色発光ダイオードや赤色発光ダイオードを好適に使用することができる。特に、本発明の栽培方法をバラ科の栽培植物に使用する場合は、660nm±10nmに発光ピークを有し、発光出力が5mW以上(駆動電流20mA)である赤色発光ダイオード照射することが好ましい。(本出願人の同時係属出願である特願2009−266868を参照。当該出願の開示内容は本願の明細書に援用により取り込まれる。)
【0033】
このような発光ダイオードを、アルミフレーム上などに適宜配置して発光ダイオードを備え付けた照射パネル(発光ダイオードパネル、「LEDパネル」ともいう。)を作成する。LEDパネルの大きさは、照射をする栽培用ベンチ上に配置された植物体の位置を考慮して任意に決めることができる。例えば、Aタイプの補光装置について、栽培用ベンチの片端部のみに設置する場合は、栽培用ベンチの植物を十分に補光するためには、LEDパネルの大きさは栽培用ベンチの全長程度の長さとするのが好ましく、補光装置を栽培用ベンチの両端部に設置する場合(即ち、1つの栽培用ベンチに補光装置を設置する場合)は、LEDパネルの大きさは栽培用ベンチの全長の半分程度の長さでよい。また、LEDパネル上に備え付ける発光ダイオードの個数及び配置は、照射する光の強度(光量子束密度等)を基準に適宜定めることができる。
【0034】
照射方法
本発明においては、補光装置を栽培用ベンチの片側側面に配置し光を照射してもよいし、両側側面に配置し光を照射してもよい。補光装置の設置費用の観点から、片側側面からの補光は好ましいが、その場合、補光が植物生育に適切な状態で効果的に行われるよう留意する必要がある。植物に補光装置からの光を照射する様子の概念図を図9−1及び9−2に示す。
【0035】
また、本発明においては、照射パネルを栽培用ベンチの片側面に配置し、栽培用ベンチの反対の側面に反射フィルム等の反射体を設置することもできる。この場合、使用する照射パネルの数は、栽培用ベンチの両側に照射パネルを配置する場合に比べて半分となり、栽培植物に吸収されなかった照射光を反射板により回収して栽培植物に再度照射することが可能であることから効率的な補光を行うことができる(図10−1参照)。また、反射板により栽培植物に吸収されなかった太陽光を回収して栽培植物に再度照射することも可能である(図10−2参照)。
【0036】
本発明において使用される反射体は、塗料を塗布したもの(白色以外も含む)金属板、樹脂フィルムを金属板に張り合わせた物、樹脂フィルム、不織布等の公知の物を使用できる。中でも、脂肪族ポリエステル系樹脂と、酸化チタンを主とする微粉状充填剤を含有する樹脂組成物から形成される反射フィルムが好ましい。また、本発明で使用される反射フィルムに含有される脂肪族ポリエステル系樹脂は、屈折率が1.52未満であることが好ましい。更に、本発明に使用される反射フィルムは、内部に空隙率が50%以下となるように空隙を有することが好ましい。本発明で好適に使用される反射フィルム及び反射板の製造方法は、国際公開2004/104077、国際公開2006/9135、特開2006−145573号公報に記載されており、その記載内容に基づいて調製することができる。また、デュポン社のタイベックや、酸化チタンを添加した多層フィルムなども反射フィルムとして使用できる。
【0037】
また、発光ダイオードとして白色発光ダイオードを使用すると、白色発光ダイオードは赤や青以外の波長領域を含む光を発するが、植物の光受容体は赤および青以外(例えば緑)の波長の光の相対的利用率が低いことから、この場合は、反射板として、緑色光を赤色光に波長変換するような蛍光反射板を使用すると、反射による光の有効利用効果以外に、照射体の波長分布のうち吸収されない波長領域の光と、植物の葉から反射される緑色光を植物にとって有効な赤色光に波長変換して再度植物体に当てて吸収させることができ、好ましい。従って、発光ダイオードが白色発光ダイオードの場合には、反射板として緑色光を赤色光に波長変換するような蛍光反射板を好適に使用できる。このような蛍光反射板は、反射フィルム中に蛍光顔料を練り込む或いは反射フィルム表面に蛍光顔料を含む被膜をコーティングすることにより、または、蛍光顔料を練り込んだフィルム或いは表面に蛍光顔料を含む被膜をコーティングしたフィルムを反射フィルムに積層することにより得ることができる。蛍光顔料としては、例えば赤色へ変換する場合、シンロイヒ株式会社のSX−100シリーズやBASF社のルモゲンシリーズ、チバ社の各種蛍光顔料が使用できる。特に、シンロイヒ社SX−103Red、SX−127Rose、BASF社ルモゲンFレッド305、チバ社SMART LIGHT RL 1000等が好適に使用される。蛍光顔料を練り込む又は蛍光顔料を含む被膜をコーティングする反射フィルムとして、前記した脂肪族ポリエステル系樹脂と、酸化チタンを主とする微粉状充填剤を含有する樹脂組成物から形成される反射フィルムを使用することができ、あるいは、これ以外の市販されている反射フィルム(例えば、ポリプロピレン製の反射フィルム)も使用することができる。
【0038】
本発明においては、栽培植物の特定の生育段階において各栽培用ベンチの栽培植物に対して補光装置により照射を行なうことが好ましい。即ち、栽培植物の生育(成長)過程の全段階において補光装置による補光をせずとも、植物の成長において重要な役割を果たす特定の生育段階において補光装置による補光を行うことにより、高い栽培効率を維持したまま発光ダイオードの設置コストを低減できる。このような効果を得ることができる特定の生育段階は、栽培植物の種類により異なるため一律に特定することはできない。一例として、トマトにおいては、開花後、果実肥大期で成熟前の時期に7〜10日間程度補光することができる。
【0039】
本発明の栽培方法を適用する植物としては、長日植物(長日に反応して花芽形成を調節する植物)でも、短日植物(短日に反応して花芽形成を調節する植物)でも、中性植物(光周期に反応しない植物)でも特に限定されずに適用できる。具体的には、花き園芸植物、果菜類、果樹類及び穀物類が挙げられ、例えば、ファレノプシス、シンピジウム、デンドロジウムをはじめとするラン類、サボテン類、バラ、カーネーション、ガーベラ、カスミソウ、ユリ、スターチス等の切り花用途の花き類、及び、パンジー、プリムラ、ベコニア、ペチュニア、シクラメン等の鉢花用途の花き類;トマト、キュウリ、メロン、イチゴ、ピーマン等の果菜類;ナシ、リンゴ、ブドウ等の果樹類;及びトウモロコシ、コムギ等の穀物類などにも適用可能である。特に本発明の効果を最大限に活用するには、花芽形成が遅い植物、自然状態での花芽形成数が少ない植物、あるいは特別に通常状態よりも多くの実生が必要な状態になった植物を対象とすることが考えられる。
【0040】
対象植物の栽培方法としては、とくに限定されるものではなく公知の方法を使用できる。
【0041】
本発明の栽培方法は、光量のコントロールが重要となる栽培方法、特に、トマト低段密植栽培や遮光資材を用いたイチゴ栽培においても効果的に使用することができる。
【0042】
トマト低段密植栽培は、多段栽培よりも密植して1〜3花房程度を残して摘心する短期栽培を繰り返す栽培法であり、低農薬で高糖度果実の生産が期待できるが、一方密植するため影ができやすく自然光のみでは光量不足となりやすい。そのため本発明の栽培方法が効果的である。トマト低段密植栽培として、トマト1段密植栽培システム(「トマトリーナ」MKVドリーム株式会社から提供)やトマト3段密植栽培システムがあり(これらシステムの詳細については、夫々、特開2009−148250号及び特開2009−77694号を参照)、本発明はこれらシステムと組み合わせて実施することができる。また、本発明の栽培方法は、人工環境下での苗生産システム(特再公表2006−000005号公報)と組み合わせて実施することもできる。
【0043】
また、夏期にイチゴ栽培をおこなう場合、高温となり品質低下を招くため遮光資材を用いるが、逆に光量不足となるため本発明の栽培方法が効果的である。また、北陸地方などの日本海側では冬場に曇天が続くことからイチゴ栽培において日照不足になりがちであることから、本発明の栽培方法を使用すると日照不足を解消することができ効果的である。
【0044】
本発明において、太陽光を利用するハウスとしては、施設園芸に利用されている被覆材からなるハウス全般、例えば、ガラスハウス、塩化ビニル系樹脂フィルム、ポリオレフィン系樹脂フィルム、ポリエステル系樹脂フィルム、フッ素系樹脂フィルム等の農業用フィルムが展張されたハウスなどがあげられるが、これらに限定されない。また、農業用フィルムにはハウス内面側に防曇塗膜を形成させることができ、ハウスの外面側に防塵塗膜を形成させることができる。
【0045】
本発明に使用する農業用フィルムとして、紫外線遮蔽能が高いフィルム、例えば、300〜400nmの波長の光を実質的に完全に遮蔽するフィルム、300〜380nmの波長の光を実質的に完全に遮蔽するフィルム、300〜360nmの波長の光を実質的に完全に遮蔽するフィルムを使用することができる。(実質的に完全に遮蔽するとは、未使用の農業用フィルムの状態で300〜380nmにおいて1nmごとに測定した全光線透過率の平均値が2%未満であることをいう。)特に、ハウス内環境において病害菌やカビの繁殖抑制、害虫防除性及び内張資材の劣化防止性を重視する場合には、300〜400nmもしくは300〜380nmの光を完全に遮蔽するとよいが、紫外線遮蔽による徒長を防止しながら、病虫害防除効果を付与するには、300〜360nmの波長の光を実質的に完全に遮蔽するフィルムが好適に使用される。
【0046】
また、本発明においては、波長成分として少なくとも600〜700nmの可視光成分を放射することのできる農業用フィルムも使用することができる。このような農業用フィルムは、例えば、下記式(1)で表される蛍光物質を含有したポリオレフィン系樹脂組成物からなる農業用フィルムがあげられ、その詳細は本出願人の同時係属出願である特願2009−273984(その開示内容は本願の明細書に援用により取り込まれる。)に記載されている。
【化1】

(式中、R1〜R2は、それぞれ独立して水素原子、又は炭素数1〜10のアルキル基、好ましくは、R1、R2はメチル基である。)
【0047】
また、本発明においては、散乱光フィルムも使用することができる。散乱光フィルムとは、太陽光の直進光線成分と散乱光成分の割合を、散乱光成分が多い光に変えるために用いるフィルムであり、夏場の葉焼け防止だけでなく、影を少なくすることにより、ベンチ同士の影による干渉を抑える効果がある。散乱光フィルムとしては、エンボスシボロールによる梨地化の他、フィラーを添加することによる梨地化、フィラー添加後にフィルム延伸することにより屈折率の異なる界面をつくるもの、メルトフラクチャー等フィルム加工時の外観変化を利用したもの、フィルムに微細な穴や凹凸を設ける二次加工を施したもの、不織布やフラットヤーンを編みこんだもの等の公知方法による散乱光フィルムを使用することが出来る。
【0048】
また、本発明の栽培方法は、ハウスの少なくとも天井部の構造が上面のフィルムと下面のフィルムとの間に送風機により空気が圧入されて成る農業用空気膜構造ハウスでも好適に使用することができる。このような空気膜構造ハウスの例としては、例えば、特開2009−095296号に記載されているようなハウスを使用することができる。
【0049】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0050】
(比較例)
10アール当たりの収量が20tであるハウスにおいて、固定ベンチを用いてトマトリーナの密植栽培を行った。このときの10アール当たりの収量は30tであった。
【0051】
(実施例)
本発明の移動可能な栽培用ベンチとAタイプの移動可能な補光装置を作成した。その図面を図11に示す。補光装置に備え付ける光源として白色LEDを使用した。
この移動可能な栽培用ベンチを用いると各ベンチ間の間隔を詰めることにより10アール当たりの収量は20%程度増加できるため、理論収量は36tになる。しかしながら、ベンチ間の間隔を詰めると、太陽光を十分照射することができないため理論収量には達しない。
そこで、前記の栽培ベンチを図1で示したような要領で配置しトマトの密植栽培を行い、本発明のAタイプの補光装置を使用して、開花後、過日肥大期で成熟する前の時期が到来した栽培用ベンチのトマトに対して7日間、栽培用ベンチの片側側面から朝6時〜夕6時の時間帯で光を照射した。そして、7日間が経過したら、開花後、過日肥大期で成熟する前の時期が到来した次の栽培用ベンチのトマトに補光し、この補光操作を続けた。
【0052】
定植から70日経過して収穫期となったトマトを収穫し収量を量ったところ、10アール当たりの収量は40tであった。従って、理論収量に対して約11%収量が増大し、比較例に対して約33%収量が増大した。
【0053】
一方、トマトの密植栽培では、通常定植後70日程度で収穫をおこなうことから、定植後の全期間補光すると70日間補光するのに必要なLEDモジュールが必要であるが、実施例では7日間の補光のみでよいことから、必要なLEDモジュール数は10%程度で足りることになる。
【0054】
このように、本発明の栽培方法を使用すると、栽培収量を向上できることに加えて、補光に必要なLEDモジュール数を大幅に減少させることが可能である。従って、本発明の商業的利用価値は非常に高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽光を利用するハウスにおいて補光装置を用いて植物を栽培する方法であって、栽培用ベンチ及び/又は補光装置は相対的位置関係が変化するように移動し、1又はそれ以上の栽培用ベンチの片側面又は両側面から栽培植物に対して補光装置により光を照射し、栽培植物の特定の生育段階において各栽培用ベンチの栽培植物に対して補光装置により照射を行なうことを特徴とする植物栽培方法。
【請求項2】
栽培用ベンチがハウス内にそれぞれ略平行に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の栽培方法。
【請求項3】
補光装置が照射パネルと支持部を有し、照射パネルの端部を降ろして栽培用ベンチの長手方向と略平行となるように構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の植物栽培方法。
【請求項4】
補光装置を1又はそれ以上の栽培用ベンチの片端部または両端部の近傍に設置することを特徴とする請求項3に記載の植物栽培方法。
【請求項5】
照射パネルの端部を略直角状態にまで降ろして栽培用ベンチ近傍に配置して光を照射することを特徴とする請求項3又は4に記載の植物栽培システム。
【請求項6】
補光装置が上下に移動可能な照射パネルを有することを特徴とする請求項1又は2に記載の植物栽培方法。
【請求項7】
補光装置が照射パネルと支持部を有し、照射パネルが栽培用ベンチの長手方向と略平行となるように構成されていることを特徴とする請求項6に記載に植物栽培方法。
【請求項8】
補光装置をハウスの上方に吊り下げるように設置し、照射パネルを栽培用ベンチの近傍にまで降下させて栽培植物に光を照射することを特徴とする請求項6又は7に記載の植物栽培方法。
【請求項9】
補光装置をハウス内の地面に設置し、照射パネルを栽培用ベンチの近傍にまで上昇させて栽培植物に光を照射することを特徴とする請求項6又は7に記載の植物栽培方法。
【請求項10】
補光装置が栽培用ベンチの長手方向に移動可能であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の植物栽培方法。
【請求項11】
照射パネルに発光ダイオードが備え付けられていることを特徴とする請求項3〜10のいずれか一項に記載の植物栽培方法。
【請求項12】
照射パネルを栽培用ベンチの片側面に配置し、栽培用ベンチの反対の側面に反射板を設置することを特徴とする請求項3〜11のいずれか一項に記載の植物栽培方法。
【請求項13】
反射板が脂肪族ポリエステル系樹脂と酸化チタンを主とする微粉状充填剤を含有する樹脂組成物から形成される反射フィルムを含むことを特徴とする請求項12に記載の植物栽培方法。
【請求項14】
ハウスの少なくとも天井部の構造が上面のフィルムと下面のフィルムとの間に送風機により空気が圧入されて成る農業用空気膜構造ハウスであることを特徴とする請求項1〜13のいずれか一項に記載の植物栽培方法。
【請求項15】
トマト低段密植栽培における請求項1〜14のいずれか一項に記載の栽培方法の使用。
【請求項16】
イチゴ栽培における請求項1〜14のいずれか一項に記載の栽培方法の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【図9−1】
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【図9−2】
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【図10−1】
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【図10−2】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−188788(P2011−188788A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57001(P2010−57001)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【出願人】(504137956)MKVドリーム株式会社 (59)
【Fターム(参考)】