説明

植物栽培方法

【課題】 同一の温室内において同一植物について所定の区画単位で収穫時期が異なるように同時栽培を可能とする植物栽培方法を提供する。
【解決手段】 同一温室80内に同一種類の植物10を所定の区画単位で配設する工程と、植物10の近傍所定箇所に、当該植物10に対して局所的に所定の栽培温度を与える局所暖房装置1を配設する工程と、局所暖房装置1により、植物の所定の区画単位で異なる栽培温度を与える工程と、を有し、同一温室における同一種類の植物の生育速度を前記所定の区画単位で異ならせて収穫時期を調整する方法としてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニールハウスやガラス温室等の温室内で行われるハウス栽培で生育・収穫される野菜や果物、花卉等の植物の栽培方法に関し、特に、同一の温室内において同一種類の植物を所定の区画単位で収穫時期が異なるように生育・栽培することができる植物栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、野菜や果物、花卉等の植物の栽培には、ビニールハウスやガラス温室等の温室内で植物を生育・栽培する温室栽培が行われている。
温室栽培は、外気環境から遮蔽・遮断された温室内の温度や湿度、二酸化炭素濃度等を、生育・栽培する植物に適した条件・環境に維持・制御することができ、寒冷期の温度不足や雨期の過湿度等を排除し、また、病害虫等の発生を防除して、年間を通じて安定した植物の生育・栽培・収穫を行うことが可能となる。
このため、温室栽培は、生鮮野菜や果物、観賞用花卉、観葉植物、薬用植物等の育成・栽培に広く用いられている。
【0003】
特に、冬場や雨期、高冷地・寒冷地等においては、ガラスやビニール製の温室内に暖房装置や加湿器・除湿器等を設置して、植物の生育に必要な熱や湿度を供給・制御することにより、野菜や果物、花卉などの周年栽培が行われている。
このような温室栽培により、例えば、トマト、キュウリ、ナスなどの生鮮野菜や、イチゴ、ミカン、ブドウなどの果実、観賞用花卉等が、消費者のニーズに対応して年間を通じて生育・収穫・出荷され、スーパー、小売店などの市場に安定的な供給がなされるようになっている。
【0004】
ここで、温室栽培が行われる温室は、温度制御手段により温室内の温度が所定温度に保たれるように制御される。温室栽培に用いられる温室内の温度制御手段としては、通常、温室内を所定温度に加温する暖房装置が用いられている。具体的には、例えば液化石油ガス(LPG)やA重油を燃料とするボイラーや温風型加温機、電気式ヒータ、発熱ランプ、ヒートポンプ等を用いた暖房装置・加温装置が使用され、温室内の空気や土壌が所定温度に加温・温度制御されるようになっている。
このような温室栽培・温度制御に関する技術としては、例えば、特許文献1に開示されている「農作物の栽培管理のための総合システム」や、特許文献2に開示されている「ハウス栽培の土壌加温方法」などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平06−046678号公報
【特許文献2】特開2009−136203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許文献1、2に示されているように、従来の温室栽培では、暖房装置により温度制御される温室は、温室内の全体が所定の一定温度に維持・制御されるようになっている。このため、各温室は、温室内で栽培する特定の植物に最適な温度が保たれるようになっている。
従って、温室栽培において、ある植物(例えばトマト)の生育に最適な温度に維持された温室内では、その植物の生育速度は一定であり、同一温室内において同一種類の植物を、生育速度を異ならせて栽培して、例えば温室内の領域毎や畝毎等、所定の区画単位で収穫時期を異ならせるようなことはできなかった。
【0007】
同一温室内において同一植物を、収穫時期が複数の異なる時期となるように生育・栽培できれば、例えば作物の栽培時期を畝毎に調整することができ、相場状況に合わせた出荷調整にようる収益の増大が可能となり、また、市場の休業日に合わせて農場の休業日を確保することもでき、農業経営における労力の分散や収益安定性の向上を図ることができる。このため、特に小規模・中規模農家や副業経営農家などには好ましい結果が期待できる。
また、苗生産業者においても、同一温室内で同一の作物・品種の苗を生育・収穫時期を異ならせて育苗できれば、周年を通した継続的な収穫・出荷が可能となり効率的である。さらに、苗は、一般的に春などに定植が集中する時期があることから、冬から春の低温時期に同一温室内で同一の作物を生育速度や収穫時期が異なるように育苗できれば、定植時期とその作業負担を一時期に集中させずに分散することができ、作業負担が軽減されるとともに、経営的にも有利となる。
【0008】
しかしながら、現状の温室栽培では、温室内の温度(及び湿度、二酸化炭素濃度等)は、温室内全体をその植物に対応した固定された値に設定・制御することしかできず、同一の植物について温室内の一定領域毎や畝単位等の所定の区画単位で異なる温度設定・温度制御を行うことは不可能であった。このため、同一温室内において同一の植物の生育速度を異ならせて収穫時期が異なるように生育・栽培するようなことはできなかった。
【0009】
本願発明者は、鋭意研究の結果、生育対象となる植物を局所的に加温・暖房できる局所暖房装置と、それを用いた局所暖房による温室栽培方法を発明するに至り、これを用いることによって、同一温室内において同一の植物について収穫時期が複数異なるように生育・栽培し得ることに想到したものである。
すなわち、本発明は、上述したような従来の温室栽培技術が有する問題を解決するために提案されたものであり、同一の温室内において同一種類の植物の生育速度を異ならせることができ、同一植物について温室内の一定領域毎や畝単位等の所定の区画単位で収穫時期が異なるように生育・栽培することができる植物栽培方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の植物栽培方法は、同一温室内に同一種類の植物を所定の区画単位で配設する工程と、植物の近傍所定箇所に、当該植物に対して局所的に所定の栽培温度を与える局所暖房装置を配設する工程と、局所暖房装置により、植物の所定の区画単位で異なる栽培温度を与える工程と、を有し、同一温室における同一種類の植物の生育速度を前記所定の区画単位で異ならせて収穫時期を調整する方法としてある。
【発明の効果】
【0011】
本発明の植物栽培方法によれば、同一の温室内において同一種類の植物の生育速度を異ならせることができ、これによって、同一植物について所定の区画単位で収穫時期が異なるように生育・栽培することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る植物栽培方法を実施するための温室設備を模式的に示す説明図である。
【図2a】本発明の一実施形態に係る植物栽培方法で使用する局所暖房装置の要部を模式的に示す正面図であり、ネット及び植物を図示しない場合である。
【図2b】本発明の一実施形態に係る植物栽培方法で使用する局所暖房装置の要部を模式的に示す正面図であり、ネット及び植物を図示した場合を示している。
【図3】本発明の一実施形態に係る植物栽培方法で使用する局所暖房装置をユニット化して設置した状態を示す概略斜視図である。
【図4】図3に示すユニット化された局所暖房装置を植物の種類に応じて複数設置した状態を示す概略斜視図である。
【図5】図2に示す局所暖房装置の変形例を模式的に示す正面図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る植物栽培方法で収穫時期が異なるように栽培される同一種類の植物を単棟式温室に配設・定植する場合の例を模式的に示す説明図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る植物栽培方法で収穫時期が異なるように栽培される同一種類の植物を連棟式温室に配設・定植する場合の例を模式的に示す説明図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る植物栽培方法で栽培される植物の種類に応じた局所暖房装置の設置・配管例を模式的に示す説明図である。
【図9】本発明の一実施形態に係る植物栽培方法を実施するための温室設備の他の形態を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る植物栽培方法の好ましい実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る植物栽培方法を実施するための温室設備の構成を模式的に示す説明図である。
本実施形態に係る植物栽培方法は、一つの温室内において所定の植物を温室栽培するための方法であり、図1に示すように、温室80と、温室80内に定植されて生育・栽培される生育対象となる植物10と、植物10に対して局所的に所定の栽培温度を与えるための局所暖房装置1を備えることで実施される。
【0014】
そして、本実施形態では、同一の温室80内に同一種類の植物10を温室内の一定領域毎や畝単位等、所定の区画単位で配設・定植して(図6〜図8参照)、各植物10に対して、局所暖房装置1により植物の所定の区画単位で異なる栽培温度を局所的に与えることにより、同一(単一)の温室において同一種類の植物を異なる生育速度で生育・栽培し、植物10の収穫時期を任意の区画単で異ならせるものである。
以下、本実施形態の具体的な内容を、温室設備の各構成、及び栽培方法の各工程毎に詳しく説明する。
【0015】
[温室]
本実施形態に係る温室80は、ガラス温室やビニールハウス等、外気環境が遮蔽・遮断された室内において、所定の温度を維持・制御することで野菜や果物、花卉等の植物を育成・栽培するための建物(ハウス)の一種であり、単に「ハウス」とも呼ばれる。
具体的には、温室80は、植物栽培用の一定の広さの土壌・耕地の周囲空間を外気から遮蔽・遮断する簡易な建物・小屋である。
例えば、ガラス温室の場合、H鋼等の鋼材を柱・骨組みとして、その外面をガラスで被覆した構造となっており、一定の間隔で奥行き方向に柱を設置することで奥行き方向の長さ(広さ)を任意に設定することが可能となっている。
また、ビニールハウスは、木材や鋼材、鋼管等を躯体とし、合成樹脂のフィルムで外壁を被覆したもので、具体的には、所定の大きさ・形状に組まれた骨組みに対して、農業用ポリ塩化ビニル(農ビ)や、農業用ポリオレフィン(POフィルム)、耐候性に優れたフッ素フィルム(硬質フィルム)等を被覆する構造となっている。
【0016】
一般に、ビニールハウスを単に「ハウス」と呼び、ガラス温室を「温室」と呼ぶことがあるが、本実施形態の温室80は、ガラス温室、ビニールハウス、ハウスのいずれも含むものである。
また、温室・ハウスには、建物の全てをガラス、フィルムで覆う場合と、降雨による農作物への影響を防ぐためにハウス上面だけを覆う場合があるが、本実施形態の温室80は、いずれの場合であっても良い。
【0017】
また、温室・ハウスには、単体で独立した内部空間を形成する単棟型(図6参照)と、単棟型のハウスを横方向に連接して内部空間を共通化した連棟型(図7参照)とがあるが、本実施形態の温室80は、いずれの場合であっても良い。
本実施形態では、同一(単一)の温室において同一種類の植物を同時に異なる栽培温度で栽培するものであるが、温室80の形態としては、単棟温室でも連棟温室でも、局所暖房装置1を配設して植物の区画単位で異なる生育温度に加温・制御することで、同一種類の植物を異なる生育速度・収穫時期で栽培することができる。
【0018】
単棟温室の場合、例えば直売所で販売する野菜など、少量の作物を、周年を通じて栽培するのに有効である。すなわち、本実施形態に係る局所暖房装置1を用いて、局所的に任意の区画単位で栽培温度を変えて生育することで、生育速度を変えることができ、収穫時期を段階的にずらして収穫することができる(図6参照)。
連棟温室の場合、例えば各棟単位で同一の栽培温度で栽培することができる。具体的には、3連棟の温室の場合、1番目の温室ではトマトを最低温度10℃で、2番目の温室ではトマトを最低温度15℃で、3番目の温室ではトマトを最低温度20℃で、というように割り当てて、各棟単位で局所暖房装置1により温度を変えることで、同一植物を異なる生育速度・収穫時期となるよう栽培することが可能となる(図7参照)。
【0019】
ここで、単棟温室、連棟温室に関わらず、同一温室内で同時栽培する植物は、温室内での定植する区画位置を、隣接する生育温度を異ならせる区画間で、一定間隔を取ることが望ましい。
後述するように、局所暖房装置1による局所暖房は、温水を通したホース2からの輻射熱により対象植物を直接的・局所的に加温して生育・栽培することができるもので、同じ温室空間内において、植物の区画毎に異なる加温・温度制御が可能となる。ただ、ホース2からの輻射熱は、植物近傍の輻射温度を上昇させた後は、最終的には空気に移って拡散し、温室全体を暖めることになる。
従って、少なくとも近接した区画間で異なる生育温度を与える場合には、区画同士を一定距離(例えば1m)以上離すか、簡単な仕切カーテンのような間仕切り部材を設置することが望ましい。
【0020】
一般に、通常の温室において温室内全体を一様に温風暖房する場合でも、実際には暖風ムラや壁からの放熱の大小等によって、離れた場所同士では数℃の温度差が生じる。従って、本実施形態において任意の区画単位で異なる生育温度に加温する植物について、離れた区画同士で、例えば一方の区画のみに強く局所暖房を施すことにより、同一温室内で例えば5℃程度の相当の温度差はつけることが可能となる。
従って、本実施形態に係る局所暖房を用いる場合、与える栽培温度・生育温度に応じた区画間の距離を大きく確保することが望ましく、特に温度差の大きい区間は、温室内の離れた箇所に設置・形成することが好ましい。
さらに、区画同士を簡易なシートやカーテン等で仕切れば、区画が近接して隣り合っていても、局所暖房による温度差は維持することができ、同一温室内において効果的に同一植物を異なる生育速度・収穫時期で栽培することができる。
【0021】
ここで、区画とは、植物を一つのグループとして生育・栽培する所定の単位であり、例えば、温室内の領域(耕地)を複数の領域に区切った場合の各領域が一区画となる。
また、一般に植物は温室内の耕地を盛り土・畝上げした畝に定植されて栽培され、温室内には複数の畝が縦列・並列して設置されることがあるが、畝も区画の一つである。すなわち、複数の畝が縦・横に複数形成される場合に、各畝も一区画となる。
さらに、水耕栽培用のベッドのように、樹脂製の栽培用ベッドが温室内の畝に設置・埋設されたり、温室内の耕地に直接列設されることがあり、この栽培用ベッドも区画となる。この場合、複数の各栽培用ベッドが一区画を構成することになる。
そして、本実施形態の局所暖房装置1を用いて所定の区画単位で異なる生育温度で同一植物の同時栽培を実施する場合、温室内の領域や畝、栽培用ベッドからなる区画を、各区画同士や、複数の区画をグループとした所定の区画単位で、シートやカーテン等で仕切ることが好ましい。
【0022】
具体的には、例えば隣接した畝同士の距離は1m程度の間隔を取り、一方の畝周辺の温度を15℃、もう一方の畝周辺を20℃、それ以外の温室空間を10℃に維持する場合には、各畝の間に簡易な仕切りカーテンやシート、衝立等を置くことで、近接した空間同士の温度差による空気の比重差で起こる対流を防止して効果的な局所暖房栽培が可能となる。
区画を仕切るカーテン等の仕切り部材、間仕切り部材としては、例えば図7に示す仕切り部材80aのように、温室の天井からビニールシートを吊り下げてもよく、また、区画同士の間に衝立等を設けることでも良い。
【0023】
ここで、本実施形態において、カーテン等を用いて区画ごとに仕切りを入れることは、複数の温室を用いる従来の栽培方法とは異なり、厳密な気密性は必要なく、簡易な仕切り手段を設けるだけで効果的に複数栽培が可能となるメリットがある。すなわち、本実施形態に係る局所暖房装置1を用いた局所暖房栽培は、植物の生育ポイント等を直接的・局所的に加温するものであり、従来の温風暖房と違って強い空気の流れを伴わない。このため、熱の拡散が穏やかで、厳密な気密を施さなくても、区画毎に温度差をつけることが可能となる。
従って、上述したような簡易なカーテン等の仕切りで十分な効果があり、また、区画同士の距離を離して植物自体を隔壁にすることで、カーテン等の仕切り部材を設けなくても区画毎・畝毎に温度差をつけることができ、従来技術では実現不可能であった同一温室内での同一植物の異なる生育速度・収穫時期での生育・栽培を可能とするものである。
【0024】
なお、本実施形態においても、温室80に、温室内を所定の温度に維持・制御するための暖房装置を備えることができる。
一般に、温室は、外気から遮蔽・遮断されており、温室内は太陽光による熱により温度が上昇するが、特に寒冷期や日照時間が少ない時期等にあっては、温室内を植物の生育に適した温度に維持できないことがある。
また、本実施形態に係る局所暖房を行う場合にも、温室内全体の温度が一定の値に維持されている方が、局所暖房の効果を十分に上げるためにも好ましいことになる。
このため、温室には温室内全体を加温・暖房する暖房手段、暖房装置が備えられるようになっており、本実施形態の温室80においても、この種の暖房装置を備えることができる。
【0025】
この種の暖房装置は、例えば液化石油ガス(LPG)やA重油を燃料とするボイラーや温風型加温機、電気式ヒータ、発熱ランプ、ヒートポンプ等を用いた暖房装置・加温装置が使用される。
具体的には、例えばA重油暖房機を用いる場合、温室全体にビニール製等のダクトを配設して、ダクトを介して温室全体に温風を送り出すことで、温室全体を加温・同一温度に管理することができる。
但し、本実施形態では、後述する局所暖房装置1を用いて、栽培する植物に対して生育速度・収穫時期に応じて最適な生育・栽培温度を直接的に加温・暖房できるようになっており、温室80の全体の温度は、所定の値が保たれていればよく、既存の温室・ハウスにおけるような栽培する植物に対応した厳密な温度制御を行う必要はない。
従って、外気が温暖な場合には、暖房装置による温室80内全体の加温・暖房は適宜省略することも可能である。
【0026】
また、温室80には、天井や側面等に換気用の窓や通気孔、換気扇、ルーバー等の換気手段、空気循環手段を備えることができる。
上述のように温室内の温度は太陽光により加温・上昇することがあり、温室内の温度が上がり過ぎる場合もある。このため、温室の天井や側面に換気用の窓や通気孔、換気扇(ファン)、ルーバー等が備えられることがあり、本実施形態に係る温室80にも、そのような換気手段、空気循環手段を備えることができる。
具体的には、例えば温室80の天井に開閉駆動する天窓やルーバーを備えたり、温室80の側面に外部と連通した大型のファンやダクトを備えることができる。
また、太陽光から温室内を遮蔽・遮光する遮光幕を設けることもできる。
【0027】
また、温室80には、温室内の湿度を所定の値に維持・制御するための加湿装置・加湿器等の加湿調整手段を備えることができる。加湿調整手段は、例えば図6、図7に示す加湿装置81のように、温室80内の区画間の所定箇所に所定台数設置することができる。
また、温室80には、温室内の二酸化炭素濃度を所定の値に維持・制御するための二酸化炭素発生装置やCO2ボンベ等の二酸化炭素濃度調整手段を備えることができる。例えば図6、図7に示す二酸化炭素発生装置82のように、温室80内の区画間の所定箇所に所定台数設置することができる。
【0028】
加湿調整手段を備えることで、温室80内全体の湿度や、植物10の種類に応じた区画単位での湿度を所定の値に維持・制御することができ、温室80内で生育・栽培する植物に最適な湿度環境を作り出すことができ、本実施形態に係る植物栽培をより効果的に行えるようにすることができる。なお、植物の区画単位で湿度調整を行う場合には、上述したようなカーテン等の間仕切り部材により植物単位の間仕切り・区画化を行うようにする。
また、二酸化炭素濃度調整手段を備えることで、温室80内の二酸化炭素濃度を所定の値に設定・維持して、栽培植物の光合成を促進させて収穫量を高めることが可能となる。
【0029】
このように、本実施形態では、加湿調整手段や二酸化炭素濃度調整手段を備えることで、温室80内全体の湿度、二酸化炭素濃度を所定の値に維持・制御することができ、温室80内で生育・栽培する植物に最適な湿度環境、二酸化炭素濃度環境を作り出すことができる。
また、本実施形態では、上述した植物の区画間に仕切り部材を設置して植物の区間単位で間仕切り・区画化することができるので(図7参照)、仕切り部材で仕切られた区画毎に、個別に湿度調整、二酸化炭素濃度調整を行うことができる。
なお、温室80内の湿度、二酸化炭素濃度について、植物の種類に応じた厳密な制御が必要ない場合には、温室80内全体として、一定の湿度、二酸化炭素濃度を維持するように制御・調整すれば良い。
【0030】
[対象植物]
本実施形態に係る植物栽培方法により同一温室内で異なる生育速度・収穫時期となるように同時に生育・栽培される植物としては、以下のようなものがあり、各温室単位で下記に挙げるいずれかの植物を栽培対象とすることができる(図8参照)。
以下のような植物を対象とすることで、本実施形態に係る植物栽培方法を用いて、複数温室において多種類・多品目の植物を収穫時期を異ならせて同時栽培することができ、例えば直売所向けの少量・多品種生産や、複数品種の周年供給等が可能となり、また、単一作物から複数作物生産への転換、単一作物と複数作物の併作等が可能となり、複合経営化による労力の分散や収益安定性の向上を図ることが可能となる。このため、特に小規模・中規模農家や副業経営農家などには好ましい効果が期待できる。
【0031】
すなわち、本実施形態の栽培方法により収穫時期を少しずつずらせることで、労力(収穫作業)の平準化を図れることができ、直売などの小中規模の農家では、特定の野菜や果実を少しずつ毎日長期間に渡り出荷・販売することができるようになる。
また、一般的に、特定の野菜や果実の産地でも、収穫物は一時期に一気に収穫することになっているが、これを、一年を通して平準化できることにより、一気に収穫・出荷されることによる市場での過剰供給とそれによる価格暴落を回避でき、例えばトマト等の価格を安定させることが可能となる。
さらに、天候の長期予報などを参考にして、温室内温度をコントロールすることで、出荷調整も容易に行えるようになる。そして、その際に、これまでは温室全体を単位としてしか管理できなかった収穫時期を、温室内の小領域単位・畝単位等の小規模単位ずつで温度管理(出荷管理)が可能となり、出荷調整によるリスクヘッジもできるようになる。
【0032】
また、苗生産業者・農家においても、同一温室内で同一の作物・品種の苗を生育・収穫時期を異ならせて育苗できれば、周年を通した継続的な収穫・出荷が可能となり効率的であり、効率的な育成・栽培が実現できる。さらに、苗は、一般的に春などに定植が集中する時期があることから、冬から春の低温時期に同一温室内で同一の作物を生育速度や収穫時期が異なるように育苗できれば、定植時期とその作業負担を一時期に集中させずに分散することができ、作業負担が軽減されるとともに、経営的にも有利となる。
なお、以下に列挙する植物は例示であり、それ以外の植物であっても、本実施形態に係る栽培方法を適用して生育・栽培することができる。すなわち、本実施形態の対象となる植物は、野菜、果実、花卉、観葉植物、薬用植物など、地上部栽培可能な植物であればどのようなものも対象となり、本実施形態の栽培方法を用いて複数温室で同時並行して栽培する植物の種類・組み合わせも任意の組み合わせとすることができる。
【0033】
[野菜]
まず、本実施形態で生育・栽培される植物は、野菜を対象とすることができる。
具体的には、本実施形態で生育・栽培対象となる野菜としては、例えばナス科、ウリ科、マメ科、バラ科(イチゴ)、ユリ科(アスパラガス)、セリ科、アカザ科(ホウレンソウ)、アブラナ科、キク科(レタス)等の野菜がある。
【0034】
[果実]
また、本実施形態で生育・栽培される植物は、果実を対象とすることができる。
具体的には、本実施形態で生育・栽培対象となる果実としては、例えばウルシ科(マンゴー)、バラ科(サクランボ・モモ・ナシ)、ミカン科、ブドウ科、クワ科(イチジク)、ツツジ科(ブルーベリー)、マタタビ科(キュウイフルーツ)、カキノキ科(カキ)等の果実がある。
【0035】
[花卉]
また、本実施形態で生育・栽培される植物は、花卉を対象とすることができる。
具体的には、本実施形態で生育・栽培対象となる花卉としては、例えばキク科、バラ科、サクラソウ科(シクラメン)、ラン科、ユリ科、ツツジ科、フウロソウ科(ゼラニウム)、キキョウ科、マメ科(スイトピー)、ナデシコ科(カーネーション)、イワタバコ科(セントポーリア)、スミレ科、アブラナ科、ケシ科、アヤメ科、ヒガンバナ科(スイセン)、キンポウゲ科(アネモネ)、ジンチョウゲ科、ユキノシタ科(アジサイ)等の花卉がある。
【0036】
[観葉植物]
また、本実施形態で生育・栽培される植物は、観葉植物を対象とすることができる。
具体的には、本実施形態で生育・栽培対象となる観葉植物としては、例えばクワ科(ゴムノキ・ベンジャミン)、ユリ科(ドラセナ)、サトイモ科(スパティフィラム)、ウラボシ科(シダ)、イラクサ科、トウダイグサ科(セントポーリア)、サボテン科、ウコギ科、ヤシ科、リュウゼツラン科、パイナップル科、シュウカイドウ科(ベゴニア)、バンヤ科(バキラ)等の観葉植物がある。
【0037】
[薬用植物]
また、本実施形態で生育・栽培される植物は、薬用植物を対象とすることができる。
具体的には、本実施形態で生育・栽培対象となる薬用植物としては、例えばモクセイ科、マメ科、アカネ科、マオウ科、クスノキ科、ボタン科、クロウメモドキ科、セリ科(トウキ)、ミカン科(サンショウ)ゴマノハグサ科(アカヤジオウ)、タデ科(ダイオウ)、トチュウ科(トチュウ)アカザ科、フトモモ科等の薬用植物がある。
【0038】
[局所暖房装置]
次に、以上のような各種植物のうちから、特定の同一種類の植物を同一の温室80内で生育速度・収穫時期を異ならせて生育・栽培するために使用する本実施形態の局所暖房装置1について説明する。
図2a、bは、後述する植物栽培用ユニット7の枠72に取付け・支持されて栽培する植物単位で設置される本実施形態に係る局所暖房装置1の要部を模式的に示す正面図であり、図2aはネット41及び植物10を図示しないもの、図2bはネット41及び植物10を図示したものである。
同図に示すように、本実施形態の局所暖房装置1は、複数のホース2、流体供給手段3、取付手段4、及び制御手段5の各部を備えた構成となっている。
そして、この局所暖房装置1は、流体供給手段3からホース2に温水が供給・循環されることによって、生育・栽培対象となる植物10を所望の温度で直接的・局所的に加温できるようになっている。
以下、栽培対象となる植物10としてトマトを例にとって、本実施形態に係る局所暖房装置1について詳しく説明する。
【0039】
トマトは、例えば温室内で水耕栽培される場合、後述する水耕栽培用ベッド等の植物栽培用ベッド71(図3参照)から一定の高さ、例えば1m以上の草丈に生長する。このため、トマトの先端部側は、ベッドとほぼ平行に張られた樹脂製の紐や支柱等により垂直方向に仕立て・誘引されて、垂直方向(高さ方向)に向かって生長する。
図2bに示す例では、トマトは、局所暖房装置1の複数段のホース2のうち、下から4段目のホース2の高さ位置まで生長している状態で、ここから更に、一定(この数倍)の大きさまで生長する。なお、複数のホース2は、図2に示す例では、下から上に向かって順に、1段目、2段目、3段目、4段目…とする。
【0040】
なお、図2bに示す例では、説明の便宜上、理解を容易にするために一本のトマトを図示してあるが、通常は、複数本のトマトが、数十cmの間隔をあけて定植され栽培される。
また、図3、図4および図9に示すトマトの栽培方式は、水耕栽培方式の例であるが、特に水耕栽培に限定されるものではなく、土耕栽培でも全く問題ない。
また、図2bに示す例では、トマトを垂直方向に生育させるようにしてあり、トマトを仕立て・誘引するために、例えば複数本の紐を高さ方向(垂直方向)に所定の間隔をあけて水平に張ることができ、トマトの生長に応じて、紐の数に特に限定はない。また、仕立て・誘引のための手段としては、水平に張られる紐以外であっても良い。例えば、上方から垂直に紐を吊り下げたり、地面から垂直に支柱を立てて、これによってトマトの生育方向を仕立て・誘引することができる。
さらに、図2bに示す例では、トマトをほぼ真上方向(垂直方向)に生育させるようにしているが、これを横方向(水平方向)や斜め方向に生育させることもできる。
【0041】
[ホース]
ホース2は、栽培するトマト(植物10)の近傍所定箇所に配設・配管されて、トマトに対して局所的に所定の栽培温度を与えるための手段である。
本実施形態では、図2a、bに示すように、複数本のホース2がネット41を介して水平方向(横方向)に沿って配設されるようになっており、トマトの生育方向に対応して垂直方向(高さ方向)の所定範囲内にわたって数段のホース2が壁状に配設されるようになっている。
そして、このホース2内に、流体供給手段3から加温用流体としての温水が供給され、ホース2内を所定温度の温水が流れるようになっている。
【0042】
ここで、トマトの近傍所定箇所とは、例えばトマトの大気に露出している部分(地中や養液中の根の部分以外)の近傍である。具体的には、上方から見て、ホース2からトマトまでの距離が所定範囲(例えば約1m以内)の領域であって、好ましくは、数十cm以内の領域にホース2を配設・配管する。
また、この近傍所定箇所の領域には、例えばホース2がトマトの葉と接触する位置や、あるいは、葉と葉の間にホース2が位置する場合も含まれる。
なお、ホース2に、トマトの葉や果実が直接触れる場合は、低温やけどのようにトマトの葉や果実を傷めることがあるので、さらに輻射熱を遮蔽しないネットなどで植物とホース2とが直接触れないように保護することがより好ましい。
また、ホース2の配設領域は、水平・垂直方向の二次元の範囲に限られず、三次元的に配設することができる。
【0043】
また、ホース2の配設領域を示す水平方向・垂直方向とは、厳密な水平・垂直方向に限られるものではなく、ほぼ水平方向、ほぼ垂直方向であっても良く、植物の生育方向に沿って、ホース2を任意の角度に傾斜させて配設することもできる。
さらに、各ホース2は、図示する例ではほぼ直線状としてあるが、これに限定されるものではなく、例えば、図示してないが、ホース2を上下方向に蛇行させたり、波形状に配設したり、あるいは、植物10の周囲近傍に螺旋状に設けるようにすることもできる。
【0044】
ここで、ホース2を配設する上述したトマトの近傍所定箇所は、トマトの特定の部分、例えばトマトの花芽や成長点の近傍の、所定領域(例えば数十cm以内の領域)範囲内とすることが望ましい。
一般的に、植物には、当該植物の成長や収穫物の数量・品質に影響を及ぼす特定部分があり、例えばトマトやキュウリ、ナス、ピーマン、カボチャ等の野菜の場合、花芽(花房)、成長点(茎頂成長点)があり、この部分に最適な栽培温度を与えることで、野菜を品質良く栽培でき、収穫量も増大させることができる。
そこで、本実施形態では、ホース2をこのような植物の特定部分の生育ポイント近傍に配設することが望ましく、このようにすることで、収穫物(果実)の数量や品質を維持・向上させることができるようになる。
【0045】
そして、本実施形態では、図2に示すように、ほぼ水平方向に延びる6本のホース2を用いて、トマトの近傍所定箇所を通るように配設され、垂直方向に6段のホースが並設されるようにしてある。
具体的には、ホース2は、内部に温水が流通・循環可能な管状部材としてのホース6本からなり、各ホース2同士がジョイント21及び連結ホース20を介して接続されるようにしてある。
なお、本実施形態では、複数のホース2の連結を、両端にジョイント21の取り付けられた連結ホース20を介して行っているが、ホース2の両端にはジョイント21が取り付けられているので、連結ホース20を使用せず、ホース2同士を、ジョイント21を介して直接接続するようにしても良い。
【0046】
ここで、ホース2や連結ホース20は、通常、ビニールホースなどの軽く、かつ、柔軟性に優れた市販のホースを用いることができる。また、ジョイント21は、容易に着脱可能なワンタッチ方式のジョイント(クイックジョイント)を用いることができる。
ここで、ホース内部における藻などの発生を防ぐために、ホース2や連結ホース20は、遮光タイプの黒色ビニールホースなどを用いることが好ましい。本実施形態では、図3,4に示すように、ホース2、連結ホース20として遮光性を有する黒色ホースを使用している。
【0047】
また、ホース2は、複数のホース2を連結させる以外にも、例えば一本のホース2を蛇行させるようにして設置・配管するようにしても良い。
すなわち、本実施形態では、6本のホース2及び5本の連結ホース20を用いているが、これに代えて、一本のホースを複数箇所(5箇所等)で折り曲げ・蛇行させて方向を変えることで、上記と同様に垂直方向の所定範囲内に6段のホース2が設けられるようにすることもできる。
【0048】
以上のようにして、植物10の近傍所定箇所にホース2を配設することにより、内部に温水が流れるホース2からの輻射熱と、植物10の近傍における熱対流により、植物10に対して、局所的に所定の栽培温度を与えることができ、かつ、ホース2内に供給・循環させる温水の量や温度、オン/オフ等を制御することで、効果的・効率的な温度制御を行うことができる。
このように、ホース2からの輻射熱により植物10を局所的・直接的に加温することができ、ホール2からの輻射熱を監視・制御することで、生育速度・収穫時期に合わせた最適な栽培温度を、植物の区画単位で直接的に与えることが可能となる。
従って、このようなホース2を備えた局所暖房装置1を、栽培する植物10の区画単位で設置することで、同一温室内に同一種類の植物10を配設・定植した場合にも、植物10を温室内の領域単位や畝毎に異なる栽培温度を与えることが可能となり、同一温室内において同一種類の植物を、区画単位で異なる生育速度・収穫時期となるように栽培・生育することができるようになる。
【0049】
また、以上のようなホース2の接続構造により、後述するように、植物10の生育・生長に応じて、温水を流すホース2を自在に選択することが可能となる。
すなわち、ホース2の長さや内径、間隔や本数などは、特に限定されるものではなく、トマト等の植物10の栽培規模や生育状態等に応じて、ホース2の長さや内径や間隔、本数などを任意に設定・変更することができ、これによって温度制御の能力や温度制御を行う範囲などを容易に変更することが可能となる。
【0050】
また、ホース2やジョイント21に軽量・柔軟なホースを用いることで、例えばトマトの果実を収穫する際に、手指をホース2にぶつけたとしてもケガ等の心配がなく、作業の安全性を向上させることができ、また、ホース2の設置作業、撤去作業、設置場所の移動作業なども容易、かつ、安全に行うことができる。
さらに、市販のホース等の部材を用いることで、設備に必要な部材を容易に入手でき、かつ、設備設置についてのコストダウンを図ることができる効果もある。
但し、ホース2やジョイント21は、市販のホースに限定されるものではない。例えば、本実施形態に係る局所暖房装置1を大規模工場栽培などに適用する場合には、ホース2やジョイント21を塩化ビニールや金属製のパイプ等で構成することもでき、その場合には、金属製パイプ等からなるホース2は、果実収穫等の際には、所定の昇降手段等を用いて昇降させることができる。
【0051】
[取付手段]
取付手段4は、上記のような局所暖房装置1のホース2を、後述する植物栽培用ユニット7の枠72(図3参照)に対して取り付けるための手段である。
具体的には、本実施形態の取付手段4は、図2a、bに示すように、ホース2を吊るすためのネット41、及びネット41を掛けるためのネット用パイプ411を備えており、ネット用パイプ411が後述する植物栽培用ユニット7を構成する枠72の係止パイプ732に搭載・係止されることで、ホース2を吊るした状態で取付手段4が枠72に支持・固定されるようになっている。
【0052】
ネット41は、網目状体が面状に形成されており、網目にホース2が通されることで、複数のホース2が取り付けられるようになっている。
ここで、本実施形態に用いる網目状体のネット41は、例えば球技用(サッカーゴール用)のネットのように、数cm間隔で編まれた樹脂製の紐からなるネットを用いることができる。
また、ネット用パイプ411は、ネット41の一端側縁部の網目に通されてネット41を吊り下げ可能な棒状部材であり、例えば、金属製のパイプ等が用いられる。
【0053】
以上のような取付手段4を用いることにより、水平方向(横方向)に延びるホースを垂直方向(高さ方向)に複数段配設したホース2を、枠72に対して容易に取り付けることができる(図3参照)。
また、ホース2は、ネット41の網目を通す位置を変えることで、植物10に対して任意の位置にホース2を配設することが可能となり、植物10の生育に応じて、ホース2の位置・高さ・角度等を容易に変更することができる。
また、取付手段4は、ネット用パイプ411を植物栽培用ユニット7の枠72に搭載・係止する構成となっているので、ホース2の移設なども容易に行うことができる。
【0054】
なお、上述した取付手段4は、ネット用パイプ411に取り付けられたネット41が、枠72に搭載・支持されて垂直方向(高さ方向)に吊り下げられた状態で壁状に配設されるようになっており、このネット41の網目を通して配設されるホース2も、垂直方向(高さ方向)に複数段が、壁に沿った状態で配設されるようになっている。
但し、取付手段4は、ネット41を垂直方向に配設する場合に限らず、例えば、図4に示すように、ネット41を水平方向に配設したり、斜めに傾斜させて配設することもできる。
【0055】
この場合、ネット用パイプ411をネット41の両端縁部に取り付けることで、ネット41を一対のネット用パイプ411の間に掛け渡した状態で配設し、これを、枠72のパイプ間に配設・架設することで、ネット41を水平方向に配設したり、斜めに傾斜させて配設することができる。
そして、このように水平方向や斜めに傾斜させて配設されたネット41の網目にホース2を通すことで、ホース2を平面状に配設させたり、斜めに傾斜させた状態で配設することができ、ホース2により加温する植物10の苗の態様や生育形態等に応じて、ホース2の配設パターンは種々の形態を取ることができる(図4、図6〜8参照)。
【0056】
また、本実施形態では特に図示してないが、ネット41には、例えばS字フック等の引っ掛け部材を掛けて用いることができ、これによって、ホース2の位置や高さ等を変更することもができる。
また、これも図示していないが、ネット41に代えて、紐状体をネット用パイプ411から吊り下げたり、一対のネット用パイプ411に掛け渡して取り付けて、ホース2の保持・取付けに用いることもできる。例えば、樹脂製の紐等の紐状体を用いて、紐状体の一端をネット用パイプ411に結び付け、他端をホース2に結び付けることで、ホース2を任意の位置・高さに吊り下げて取り付けることができる。この場合、面状に広がるネット41を省略できるので、コストの抑制や省スペース化の効果が期待できる。
【0057】
また、本実施形態では、図2に示すように、ネット41に通されて配設されるホース2の近傍に、害虫を採取するための粘着テープ42を設けるようにしてある。このような粘着テープ42を備えることにより、植物10に悪影響を及ぼす害虫を効率よく効果的に採取・補殺することができる。
本実施形態では、植物10の生育ポイントを局所的に加温・暖房するホース2を備えるため、温室内の他の箇所と比較して、局所的に温度が上昇しているホース2の周囲に温室内の害虫が集まりやすくなる。このため、このホース2の近傍に粘着テープ42を備えることで、ホース2の温度によって集まってきた害虫を粘着テープ42によって一網打尽的に採取・補殺することができるようになる。
本実施形態では、図2に示すように、例えば5段目と6段目のホース2の間に粘着テープ42が配設されている。この粘着テープ42は、例えばネット用パイプ411に貼り付けて所望の位置に配設することができる。このようにすると、粘着テープ42の配置・取付けが容易となり、また、交換・取外しも容易に行えるようになる。
【0058】
[流体供給手段]
流体供給手段3は、上述した温室80内に配設されるホース2に対して加温用流体となる温水を供給・循環させるための手段である。
具体的には、本実施形態に係る流体供給手段3は、図1に示すように、温室80の外部に設置される自然冷媒ヒートポンプ給湯機(エコキュート:登録商標)等により構成され、ヒートポンプ3aにより集熱・蓄熱された温水が、温水タンク3bに貯められるようになっている。
そして、後述する制御手段5の制御により、温水タンク3bの温水が温水ポンプ3c、配管パイプ等を通じて温室80内のホース2に供給され、植物10が局所暖房されるようになっている。
【0059】
具体的には、本実施形態の流体供給手段3の温水タンク3bには、図1に示すように、タンク内の温水を外部に吐出する吐出口3b−1と、ホース2を循環して戻ってきた水を吸い込む吸込口3b−2が備えられ、吐出口3b−1、吸込口3b−2が、それぞれホース2の端部に接続されるようになっている。
本実施形態では、図2、3に示すように、流体供給手段3の吐出口3b−1には、バルブ22を備えた供給用ホース31が接続されており、供給用ホース31の先端には、ジョイント21が取り付けられている。そして、この供給用ホース31は、4段目のホース2と接続されている。
また、流体供給手段3の吸込口3b−2には、バルブ22を備えた排出用ホース32が接続されており、排出用ホース32の先端には、ジョイント21が取り付けられている。そして、この排出用ホース32は、1段目のホース2と接続されている。
このように、流体供給手段3とホース2とは、ジョイント21を介して、自由に着脱・連結できるようになっており、植物10の生長に応じて、流体供給手段3に接続するホース2やその接続位置を変更することで、上述した植物の花芽や成長点を局所的に加温することができ、効果的な加温・栽培が行えるようになっている。
【0060】
ここで、流体供給手段3のヒートポンプ3aを介して温水タンク3bに貯蔵・蓄熱される加温用流体は、所定の温度以上の水、例えば30℃〜95℃の温水である。この温水が、所定のタイミングで所定量・所定時間、温室80内のホース2に供給・循環され、これによって、ホース2近傍の植物10が直接的・局所的に加温されるようになっている。
なお、ホース2に供給する加温用流体としては、温水だけでなく、例えば地熱を利用した蒸気等を利用することも可能である。
また、夏季においては、ホース2に冷却用流体を流すこともできる。冷却用流体は、例えば5℃〜20℃の冷水を用いることができ、冷水は、地下水やヒートポンプにより冷却された水などを利用することができる。このように冷却用流体も併用することで、夏季・高温期における生鮮野菜などの安定供給に寄与することができる。
【0061】
なお、本実施形態では、流体供給手段3の温水タンク3bの吐出口3b−1を、バルブ22及び供給用ホース31を介して上段のホース2に接続して、温水をホース2の上段から下段に流すようにしてあるが(図1〜3参照)、これを逆に、下段のホース2から上段のホース2に温水を流すようにしても良い。
また、流体供給手段3は、上述した自然冷媒ヒートポンプ給湯機に限定されるものではなく、所定温度以上の温水を生成・貯留できるものであれば良い。例えばA重油やLPG等を燃料とする給湯機であってもよい。また、温泉、地下水、湧水などを利用できる場合には、これらを直接的にホース2に供給しても良い。
さらに、本実施形態では、図2〜3に示す例では、供給用ホース31と排出用ホース32とを、ホース2の左側に設置する構成としてあるが、これに限定されるものではなく、たとえば、供給用ホース31と排出用ホース32をホース2の右側に設置することもでき(図1参照)、また、供給用ホース31を、ホース2の左側に設置し、排出用ホース32を、ホース2の右側に設置する構成としてもよい。
【0062】
ここで、以上のような流体供給手段3は、温室80で生育・栽培する植物10に対して所定の領域単位や畝単位・栽培用ベッド単位等の任意の区画単位で、必要となる温度と量の温水を供給できるだけの能力のあるヒートポンプ給湯機等を予め用意・設置しておく。
流体供給手段3は、例えば業務用の大型のヒートポンプ給湯機から家庭向けの小型のヒートポンプ給湯機まで、温室80の規模や植物10の種類、植物10に与える温度等に応じて最適な規模・能力のものが使用できる。
なお、各植物に最低限必要となる生育温度は、カロリー計算により求めることができる。具体的には、温室の構造、設置場所の気象条件等を基に伝熱計算を行い、温室内を適温に維持するのに必要な投入熱量を割り出すことができる。
そして、この熱量に見合った性能を持つヒートポンプ給湯機等を選択・設置する。なお、市販されている家庭用のヒートポンプ給湯機は、通常、性能はいずれも同じであるため、その場合には、設置台数でトータルの熱供給能力を調整することになる。
【0063】
また、本実施形態では、流体供給手段3からの温水供給による温度制御により、植物の区画毎に温度を異ならせるようになっており、例えば、複数台の家庭用ヒートポンプ給湯機を設置して、与える温度の異なる区画毎にそれぞれヒートポンプ給湯機+配管(ホース2)を設け、それぞれで設定温度が保たれるように温水をON/OFFすることができる。
規模の大きな農場・農園等の場合には、大型のヒートポンプ給湯機で複数の畝に温水を流し、温度を変える(低温にする)箇所には、水(冷水)を電磁弁等でコントロールして、温水と冷水を混合させて目的の温度に保つことができる。
なお、一般家庭用のヒートポンプ給湯機の場合、能力が限られているため、通常は一つの温室に複数台の家庭用ヒートポンプ給湯機を設けて必要な供給熱量を確保することになる。従って、一台のヒートポンプ給湯機から温室内の複数の区画単位で温水を供給し、各々異なる温度に調整する場合は、より大型の業務用ヒートポンプ給湯機(家庭用ヒートポンプ給湯機の数倍〜十倍の能力)を採用することが望ましい。
【0064】
[制御手段]
制御手段5は、局所暖房装置1のホース2による加温状態を監視して、流体供給手段3からの温水供給を制御し、植物10を区画単位で常に所定の栽培温度で加温・温度制御するための手段であり、例えばコンピュータ等で構成される。
具体的には、本実施形態の制御手段5は、局所暖房装置1のホース2の近傍に配設される温度センサ51を備えており、この温度センサ51によって、ホース2による植物10に与えられる温度が監視されるようになっている。
温度センサ51は、図2に示すように、ネット41に取り付けられて、植物10の近傍の温度を測定して、測定信号を制御手段5に出力する。
制御手段5は、温度センサ51及び流体供給手段3と接続されており、温度センサ51からの測定信号にもとづいて、後述するように流体供給手段3による流体供給を制御する。
【0065】
ここで、制御手段5に備えられる温度センサ51は、植物10に与えられる輻射熱を計測可能な温度計・センサであればどのような構成であっても良いが、例えば黒色板温度計を用いることができる。
黒色板温度計は、所定の大きさ(例えば200×200mm四方×厚さ0.3mm)の黒色の金属板(例えば銅板)の裏面に温度計等の測温手段・測温部(例えば測温抵抗体)を接着し、銅板の反対面側に断熱材(例えば発泡スチロール板)を配設して構成される。金属板は伝熱性の良い材料であればどのようなものでも良いが、一般的には熱伝導率の高い銅を用いることが好ましい。また、金属板は、縦横の大きさは適宜に設定できるが、ホース2からの輻射熱の変化に対する応答性を上げるために、厚さが大きいものは好ましくない。また、金属板の表面は、熱を反射しないように、つや消しの黒色等に塗装・彩色しておく。
以上のような黒色板温度計を、植物を局所加温する部位とほぼ同じ位置に、ホース2と相対向する位置に設置し、ホース2を流れる温水からの輻射熱による植物近傍の温度上昇を正確に監視・計測することができ、制御手段5による温水の供給制御を的確に行うことができる。
【0066】
このような制御手段5を備えることにより、植物10のホース2の近傍温度を常に監視して、温度の変化(低下)に応じて、流体供給手段3の温水供給を制御して、区画単位で植物10に与える栽培温度を自動的に制御することができる。
なお、制御手段5による流体供給手段3に対する制御は、後述するように、温水の温度を所定の温度として、ON(供給)−OFF(停止)制御する構成としてあるが、制御方式はこれに限定されるものではなく、例えば温水の温度や流量などを制御するようにしても良い。
【0067】
[植物栽培用ユニット]
以上のような構成からなる局所暖房装置1は、植物の生育速度・収穫時期に合わせて与えられる温度に応じて、植物の区画単位で設置されるようにユニット化されている。
図3は、本実施形態に係る局所暖房装置1をユニット化して設置した状態を示す概略斜視図である。
また、図4は、図3に示すユニット化された局所暖房装置1を植物に与える温度に応じて区画単位で複数設置した状態を示す概略斜視図である。
これらの図に示すように、本実施形態では、上述した局所暖房装置1が、植物の区画単位に設置される植物栽培用ユニット7として設置されるようになっている。
【0068】
図3に示すように、本実施形態の植物栽培用ユニット7は、植物栽培用ベッド71、枠72、支柱73、位置決め手段74の各部を備え、この植物栽培用ユニット7により、上述した取付手段4に取り付けられた局所暖房装置1のホース2が、栽培対象となる植物10に対して、所定の区画単位(領域単位・畝単位・祭場用ベッド単位等)で所定箇所に配設・支持されるようになっている。
ここで、図3に示す例では、植物栽培用ユニット7の構成を理解しやすいように、栽培対象となる植物10の一例として、芽を出したばかりのトマトを図示してある。
また、図3では、一つの植物栽培用ユニット7を図示してあるが、植物栽培用ユニット7は、例えば図4に示すように、植物に与える温度に応じて、植物の区画単位で複数設置されるようになっている。
【0069】
具体的には、植物栽培用ユニット7は、図4に示すように、例えば植物栽培用ベッド71が、植物の区画毎に複数並列して設置される場合に、各植物栽培用ベッド71に対応して、それぞれ局所暖房装置1を支持する植物栽培用ユニット7が設置されるようになっている。
この場合、局所暖房装置1は、上述した流体供給手段3を含めて、各植物栽培用ベッド71毎に対応して設けることができる。
但し、生育速度・収穫時期を同一にする植物については、局所暖房装置1(流体供給手段3)により与えられる栽培温度は共通である。従って、生育速度・収穫時期を同じにする植物については、植物栽培用ベッド71が異なっていても、共通(単一)の局所暖房装置1によって温度制御することが可能である。
【0070】
局所暖房装置1の共用は、上述した流体(温水)供給用のホース2を植物栽培用ベッド71毎に配設し、それらホース2を連結することで、単一の局所暖房装置1(流体供給手段3)によって複数の植物栽培用ヘッド71の植物に対する加温・温度制御を行うことができる。このように、局所暖房装置1の流体供給手段3は、同一の栽培温度・生育温度を加える植物(区画)について共通化することができ、これにより、効率的な温度制御、栽培管理が行えるとともに、局所暖房装置1の効率化や小型化・低コスト化を図ることができる。
なお、流体供給手段3を共通化する場合、隣接する植物栽培用ベッド71間のホース2の連結は、上述した連結ホース20を介して容易に接続することができる。
【0071】
[植物栽培用ベッド]
植物栽培用ベッド71は、植物の生育・管理の単位、区画単位として設けられるもので、例えば、圃場の土壌を畝立てして形成した畝や、水耕栽培用ベッドなどがある。トマト栽培に広く用いられている水耕栽培用ベッドの場合、細長い矩形の箱体からなり、内部に水耕用の養液が入れられ、上部が樹脂製のシートで覆われる。
植物栽培用ベッド71には、例えばトマトやキュウリ、ナスなどの野菜の場合、植物栽培用ベッド71の長手方向に複数列(例えば二列)に並べて播種や苗植えされる。そして、この植物栽培用ベッド71の上方に、本実施形態に係る局所暖房装置1の加温用のホース2が、並べて植えられた苗の間(上記二列の場合、苗の間のほぼ中央)に配設されるようになっている。
このようにすることで、複数列(二列)に定植された植物に対して、効率の良い加温・温度制御を行うことができる。
【0072】
なお、上述したトマト等の野菜の場合には、通常、植物栽培用ベッド71の長手方向に、二列に並べて植えられ、これに対して局所暖房装置1の複数のホース2が二列に並べて植えられた苗の間に配設することができるが、植物の定植形態やホース2の配設形態は、これのみに限定されるものではない。例えば、トマト等の場合でも、苗が三列以上に並べて植えられる場合には、列状に並べて植えられた苗の間に、複数のホース2を配設することができる。
また、後述するように、生育する植物の苗の態様や生育形態等に応じて、ホース2の配設パターンは種々の形態を取ることができる(図4、図6〜8参照)。
また、植物栽培用ベッド71としては、上述した畝や載置式の水耕栽培用ベッドに限定されるものではなく、例えば、噴霧耕栽培用ベッド、培地を用いた固形培地耕栽培用ベッド、培地に土を用いた養液土耕栽培用ベッド、土耕栽培用ベッド等、どのようなベッド形態のものであっても良い。また、吊り下げ式や脚付きの台式の栽培用ベッド等を用いることもできる。
【0073】
[枠(フレーム)]
枠(フレーム)72は、植物栽培用ベッド71単位に設けられる、局所暖房装置1を支持・設置するための枠体であり、また、生育した植物の仕立て・誘引のための支柱や紐などを設置するための支持部材となるものである。
本実施形態では、枠72は、図3に示すように、植物栽培用ベッド71の周囲及び上方に組み立てられる棒状部材・パイプ状部材等により構成されている。
本実施形態の枠72は、局所暖房装置1のホース2が複数吊り下げられるとともに、例えばトマト等の生育野菜を仕立て・誘引した場合の重量・負荷を受けることを考慮して、十分な剛性を有する構造としてある。
また、枠72の設置個所には、地面に立設されるパイプの底面側にレンガなどを配設して設置することで、枠72が地面に沈み込むといった不具合を防止することができる。
【0074】
具体的には、枠72は、金属製等の複数のパイプ、及び、パイプ同士を連結する連結具などを有しており、パイプが連結具により連結されて、ほぼ直方体状に組み立てられるようになっている。図3に示す例では、垂直方向(高さ方向)のパイプ6本、水平方向(横方向)のパイプ8本が組み立てられて直方体状の枠72が構成されている。
そして、組み立てられた枠72の底部に、植物栽培用ベッド71が配置される。
【0075】
本実施形態の枠72では、図3に示すように、長手方向の両端部上下に配設されるパイプが、上パイプ722及び下パイプ723となっており、両端各一対の上パイプ722及び下パイプ723のほぼ中央部には、それぞれ、支柱73が取り付けられている。
さらに、枠72の両端一対の支柱73の上部には、それぞれ、端部が上方に曲折形成された係止パイプ732が取り付けられており、この係止パイプ732に後述するネット41が吊り下げられたネット用パイプ411が搭載・係止されるようになっており、ホース2を取り付けたネット41が容易に係止・着脱できるようになっている。
【0076】
支柱73は、枠72の剛性を高める手段として設けられるとともに、枠72の長手方向の両端部に、複数のホース2が植物栽培用ベッド71の短手方向に移動することを抑制する抑制手段として機能する。
支柱73は、枠72の垂直方向(高さ方向)に沿って配設されるパイプ等の棒状部材からなり、ネット41の両側の中段部や下部を、紐などで支柱73に結び付けることができる。このようにすると、複数の植物栽培用ベッド71が並べて設置され、それに対応して複数のホース2が水平方向(横方向)に接続された場合であっても、各ホース2が複数の支柱73に連結・支持されるので、ホース2が移動(振動)して、近傍に位置する植物10に接触したりダメージを与えるといった不具合を防止することができる。
【0077】
さらに、枠72に支柱73を設けることで、植物栽培用ベッド71として水耕栽培用ベッドを用いる場合に、局所暖房装置1を使用することによる影響を回避できるになっている。
一般に、水耕栽培においては、生育植物(例えばトマト)の根が養液に適度に浸かっていることが重要で、そのためには、水耕栽培用ベッドの水平度が維持されていることが重要となる。
このため、本実施形態において植物栽培用ベッド71として水耕栽培用ベッドを取り付ける場合も、水耕栽培用ベッドの水平度を慎重に調整し、取付後も、水平度が失われないようにする必要がある。具体的には、局所暖房装置1の複数のホース2は、温水が流れることにより重量を増すので、その重量やホース2の負荷等が水耕栽培用ベッドの水平度に影響を与えないようにすることが必要となる。
さらに、水耕栽培している植物10の植え替え等を行う際に、水耕栽培用ベッドを枠72から容易に取り外すことができるようにすることも必要となる。
【0078】
そこで、本実施形態では、枠72に支柱73を設けることで、植物栽培用ベッド71として水耕栽培用ベッドを用いる場合の上述した課題を解決できるようにしてある。
具体的には、図3に示すように、金属製のパイプ等の棒状部材からなる支柱73は、上端部の上パイプ722との連結部分が回動式パイプジョイント731によって、上パイプ722に取り付けられている(吊り下げられている)。回動式パイプジョイント731は、支柱73の上部位置決め手段として機能するとともに、支柱73の回転・回胴手段として機能する。
これによって、支柱73は、回転式パイプジョイント731によって位置決めされた状態で上パイプ722に吊り下げられ、かつ、回動可能な状態で連結・接続されることになる。そして、回動式パイプジョイント731を介して、支柱73や温水が流れる複数のホース2の重量は、十分な剛性・強度を有する枠72によって全て支持されるようになる。従って、このような支柱73の構造により、ホール2の重量や移動等が水耕栽培用ベッドに影響を及ぼすことが防止され、水耕用ベッドの水平度が損なわれるといった不具合を回避することができる。
【0079】
また、支柱73の下部は、位置決め手段74によって、下パイプ723に対して位置決めされるようになっている。この下部の位置決め手段74は、図3に示すように、固定パイプ741及び連結パイプ742を備えている。
固定パイプ741は、支柱73と同じ外径を有する金属製のパイプ等からなり、支柱73に連続する位置に、支柱73の下端から離間した状態で下パイプ723に固定されている。すなわち、固定パイプ741は、支柱73の重量を受けない状態で、かつ、地面から浮いた状態で、下パイプ723のほぼ中央部に、垂直に固定されるようになっている。
連結パイプ742は、支柱73の下端部及び固定パイプ741の上端部が挿入される筒状部材で、例えば金属製のパイプ等からなる。
【0080】
このような位置決め手段74を設けることによって、枠72に対して垂直状態で取り付けられた支柱73の下部が、当該支柱73などの自重を受けることなく位置決めされることになる。
そして、このように位置決め手段74によって位置決め・固定される支柱73は、連結パイプ742をスライドさせることで回動可能となり、枠72の底部に配設された水耕栽培用ベッド(植物栽培用ベッド71)は、支柱73を回動させることで、支柱73が邪魔になることなく、容易に枠72から取り出すことができるようになる。
【0081】
このようにして、本実施形態に係る枠72は、支柱73や回転式パイプジョイント731、位置決め手段74を備えることにより、支柱73や温水が流れる複数のホース2の重量を枠72によって支持・吸収させることができ、局所暖房装置1を備えることによっても、地面の傾斜が変化したり、これによって水耕栽培用ベッドの水平度に影響を及ぼすといった不具合を確実に防止することができる。
さらに、支柱73は、上述した位置決め手段74の連結パイプ742を上方に移動させることにより、固定パイプ741との係止が解除されるので、回動式パイプジョイント731を支点にして回動させることができ、これにより、枠72の底部に配設された水耕栽培用ベッド等の植物栽培用ベッド71を取り出すことができ、植物の植え替え等を容易に行うことができるようになる。
【0082】
なお、以上のような構成からなる植物栽培用ユニット7は、図3に示したように、取付手段4のネット用パイプ411に取り付けられたネット41が、枠72に搭載・支持されて垂直方向(高さ方向)に吊り下げられた状態で壁状に配設されるようになっており、このネット41の網目を通して配設されるホース2が、垂直方向(高さ方向)に複数段が、壁に沿った状態で配設されるようになっている。
但し、ホース2は、植物10の生長過程・生育形態等に応じて、垂直方向(高さ方向)に複数段配設される場合に限らず、例えば図4に示すように、ネット41を水平方向に配設したり、斜めに傾斜させて配設することで、ホース2を平面状に配設したり、斜めに傾斜させて配設することもできる。
【0083】
この場合、ネット用パイプ411をネット41の両端縁部に取り付けることで、ネット41を一対のネット用パイプ411の間に掛け渡した状態で配設し、これを、枠72のパイプ間に配設・架設することで、ネット41を水平方向に配設したり、斜めに傾斜させて配設することができる。
そして、このように水平方向や斜めに傾斜させて配設されたネット41の網目にホース2を通すことで、ホース2を平面状に配設させたり、斜めに傾斜させた状態で配設することができ、ホース2により加温する植物10の苗の態様や生育形態等に応じて、ホース2の配設パターンは種々の形態を取ることができる(図6〜8参照)。
【0084】
[局所暖房装置の動作]
次に、上記のような構成から局所暖房装置1の基本的な動作について説明する。
まず、図2、図3に示した例において、植物(トマト)10が生長し、花芽や成長点が、1段目〜2段目のホース2の高さになると、供給用ホース31を2段目のホース2と接続し、排出用ホース32を1段目のホース2と接続する。
また、温度センサ51を、1段目と2段目のホース2のほぼ中間の高さに取り付ける。
また、制御手段5には、あらかじめ、当該局所暖房装置1で加温・栽培する植物(トマト)10の種類に応じて、収穫時期に合わせた生育速度に最適な温度(例えば15℃)を、区画単位で設定温度として入力・設定する。
【0085】
この状態において、局所暖房装置1は、温度センサ51が植物10の近傍に配設されたホース2の周囲の温度を測定・監視しており、制御手段5は、温度センサ51から入力した測定信号が所定温度(例えば15℃)になると、流体供給手段3に対しON信号を出力する。
流体供給手段3では、ON信号を入力すると、供給用ホース31及び排出用ホース32のバルブ22が開閉されて、所定温度の温水(例えば50℃)を供給用ホース31に供給する。この流体供給手段3から供給される温水の流量は、例えば毎分数百cc(200cc)等、所定の値に設定される。なお、この温水の流量は、ホース2の長さや内径などに応じて設定されるもので、特に毎分数百ccに限定されるものではない。
【0086】
温水が供給されると、上記図2の例では、2段目のホース2に供給された温水が、ホース2内を流れていき、連結ホース20を経由して、1段目のホース2内を流れ、排出用ホース32を経由して流体供給手段3に還流するようになる。
このように温水が流体供給手段3からホース2を経由・循環すると、図2に示したように、1段目及び2段目のホース2は、植物(トマト)10の近傍に、水平方向に延びた状態で高さ方向に複数並設されているので、これらホース2から温水の熱が輻射され、その輻射熱が植物(トマト)10の近傍における熱対流によって、トマトの花芽や成長点を局所的かつ直接的に、所望の収穫時期に合わせて設定された最適な栽培温度で加温することになる。
流体供給手段3に戻ってきた温水の温度は、ホース2から外部に熱を輻射することで低下しており、例えば25℃となって戻ってくる。
【0087】
そして、上記のような温水による加温によって植物10の近傍の温度が上昇すると、温度センサ51がその温度を検出し測定信号として出力する。例えば、温度センサ51から17℃の測定信号が出力されると、その測定信号が制御手段5に入力され、制御手段5は、流体供給手段3にOFF信号を出力する。
これにより、供給用ホース31及び排出用ホース32のバルブ22が開閉されて、流体供給手段3は温水の供給を停止し、植物10が所定温度以上に加温されることがなくなる。
このような制御手段5による流体供給手段3のON−OFF制御によって、植物10の近傍は、常に所望の収穫時期に合わせて設定された最適な栽培温度に維持され、局所的かつ直接的に加温・暖房されることになる。
【0088】
次に、植物10が生長し、花芽や成長点が移動して、1段目〜4段目のホース2の高さになると、供給用ホース31を4段目のホース2と接続するとともに、2段目のホース2と3段目のホース2とを、連結ホース20等を介して接続する。また、排出用ホース32は、上記と同様に1段目のホース2と接続しておく。
また、温度センサ51は、3段目と4段目のホース2のほぼ中間の高さに取り付けておく。
なお、制御手段5には、上述した通り、あらかじめ所望の収穫時期に合わせて設定された所定の設定温度(たとえば、15℃)が入力・設定されており、温度センサ51による植物近傍の温度が監視されている。
【0089】
この状態において、局所暖房装置1は、上記と同様に、温度センサ51が植物10の近傍に配設されたホース2の周囲の温度を測定・監視しており、制御手段5は、温度センサ51から入力した測定信号が所定温度(例えば15℃)になると、流体供給手段3に対しON信号を出力する。
ON信号を入力した流体供給手段3は、供給用ホース31及び排出用ホース32のバルブ22が開閉されて、所定温度の温水(例えば50℃)を供給用ホース31に供給する。この流量は、例えば毎分数百cc(400cc)等とする。この場合、温水は、まず4段目のホース2に供給され、温水はホース2内を流れていき、連結ホース20を経由して、3段目のホース2内を流れ、同様にして、2段目及び1段目のホース2を流れて、排出用ホース32を経由して流体供給手段3に還流することになる。
【0090】
図2に示したように、1段目〜4段目のホース2は、植物(トマト)10の近傍に、水平方向に延びた状態で、垂直方向(高さ方向)に複数段並設されているので、これらのホース2から温水の熱が輻射され、その輻射熱が植物(トマト)10の近傍における熱対流によって、トマトの花芽や成長点を局所的かつ直接的に、所望の収穫時期に合わせて設定された最適な栽培温度で加温することになる。
流体供給手段3に戻ってきた温水の温度は、ホース2から外部に熱を輻射することで低下しており、例えば25℃となって戻ってくる。
【0091】
さらに、植物10が更に生長し、花芽や成長点が、1段目〜6段目のホース2の高さになった場合、供給用ホース31を6段目のホース2と接続するとともに、4段目のホース2と5段目のホース2とを、連結ホース20を介して接続する。なお、排出用ホース32は、1段目のホース2と接続しておく。
また、温度センサ51は、5段目と6段目のホース2のほぼ中間の高さに取り付けておく。
制御手段5については、上記の通り、あらかじめ所望の収穫時期に合わせて設定された所定の設定温度(たとえば、15℃)を入力・設定しておく。
【0092】
この状態において、局所暖房装置1は、上記と同様に、温度センサ51が植物10の近傍に配設されたホース2の周囲の温度を測定・監視しており、制御手段5は、温度センサ51から入力した測定信号が所定温度(例えば15℃)になると、流体供給手段3に対しON信号を出力する。
ON信号を入力した流体供給手段3は、供給用ホース31及び排出用ホース32のバルブ22が開閉されて、所定温度の温水(例えば50℃)を供給用ホース31に供給する。この流量は、例えば毎分数百cc(600cc)等とする。この場合、6段目のホース2に供給された温水は、ホース2内を流れ、連結ホース20を経由して、5段目のホース2内を流れ、同様にして、4段目、3段目、2段目及び1段目のホース2を流れ、排出用ホース32を経由して流体供給手段3に戻ってくる。
【0093】
図2に示したように、1段目〜6段目のホース2は、植物(トマト)10の近傍に、水平方向に延びた状態で、垂直方向に並設されているので、これらのホース2からの輻射熱、及び植物10の近傍における熱対流によって、トマトの花芽や成長点を局所的、かつ、効果的に加温することができる。
流体供給手段3に戻ってきた温水の温度は、熱を輻射することによって低くなっている(例えば25℃)。
【0094】
このように、本実施形態に係る局所暖房装置1を用いることにより、栽培対象となる植物10を直接的・局所的に加温・暖房することができ、温室全体の温度と切り離して、栽培する植物を所定の区画単位で加温・暖房することが可能となる。
また、局所暖房装置1は、輻射熱により植物10を加温するホース2を任意の位置に配設・変更することができ、植物10の生長過程に応じてホース2の位置を変更・調整することで、植物10の花芽や成長点を局所的・効果的に加温することができる。
【0095】
これにより、温室内全体を植物10の生育に必要な最適温度に維持する必要がなくなり、従って、同一温室内において、同一種類の植物に対して、異なる生育温度を与えて同時栽培することが可能となり、その結果、植物を所定の区画単位で異なる生育速度で生育・栽培することができ、区画単位で収穫時期を異ならせることができるようになる。
また、以上のような本実施形態の局所暖房装置1によれば、ホース2からの輻射熱によって局所的・効果的に植物10に対する温度制御を行うことができるため、温室全体を加温する場合と比較して、大幅な省エネと地球温暖化防止対策(二酸化炭素排出量の削減等)を図ることができる。
【0096】
ここで、図5を参照して、上述した局所暖房装置1の変形例を説明する。
図5は、図2、3で示した局所暖房装置1の変形例を模式的に示す正面図である。
同図に示す局所暖房装置1aは、上述した局所暖房装置1において複数のホース2の流路を接続・変更するための連結ホース2、温水供給の供給用ホース31・排出用ホース32に代えて、複数の弁61〜67を設け、複数のホース2に直列的及び/又は並列的に温水を流せる構成としてある。
弁61〜67は、開閉動作することにより、流体供給手段3からの温水のホース2への供給をON/OFFするもので、手動弁であってもよく、また、遠隔操作可能な電磁弁等であってもよい。
なお、図5に示す局所暖房装置1aのその他の構成については、図2で示した局所暖房装置1と同様であり、従って、同様の構成部分については同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0097】
この局所暖房装置1aは、流体供給手段3の吐出口が、2段目、4段目及び6段目のホース2と並列に接続されている。また、吐出口と、2段目、4段目及び6段目のホース2との間には、弁61、弁63及び弁65が設けられている。
また、流体供給手段3の吸込口が、1段目、3段目及び5段目のホース2と並列に接続されている。また、吸込口と、3段目及び5段目のホース2との間には、弁62及び弁64が設けられている。
さらに、2段目と3段目のホース2は、弁66を介して接続されており、4段目と5段目のホース2は、弁67を介して接続されている。
【0098】
局所暖房装置1aは、複数(3個)の温度センサ51を備えるようになっており、図5に示す例では、1段目と2段目のホース2の間と、3段目と4段目のホース2の間、及び5段目と6段目のホース2の間に、それぞれ温度センサ51が配設されている。なお、この温度センサ51は、上述したネット41を利用して所定箇所に取り付けることができる。
そして、これら複数の温度センサ51は、それぞれ、取り付けられた箇所の温度を測定し、その測定信号を制御手段5aに出力する。
制御手段5aは、これら複数の温度センサ51及び流体供給手段3と接続されており、温度センサ51からの測定信号に基づいて、流体供給手段3を制御する。
このような構成からなる局所暖房装置1aによれば、複数の温度センサ51によって所定の区画単位で生育植物近傍の温度を監視・測定して、温度の変化に応じたきめの細かい温度制御を自動的に行うことが可能となる。
【0099】
以下、図5に示すような局所暖房装置1aによる温水供給・循環の具体的な態様について説明する。
局所暖房装置1aは、複数の弁61〜67の操作によって、上述した局所暖房装置1とほぼ同様に、各ホース2に直列的/並列的に温水を流すことができる。
例えば、まず、弁61、弁62、弁63及び弁64を閉じ、弁65、弁66及び弁67を開くことにより、1段目〜6段目のホース2に直列的に温水を流すことができる。
また、弁61、弁66、弁63及び弁64を閉じ、弁62、弁67及び弁65を開くことにより、1段目を除いて、2段目〜6段目のホース2に直列的に温水を流すことができる。
以下、同様にして、弁61〜67の開閉の組み合わせにより、1段目〜6段目のホース2を任意の連続する段数だけ直列的につないで温水を流すことができる。
【0100】
また、局所暖房装置1aでは、弁61〜67の開閉の組み合わせにより、1段目〜6段目のホース2について、並列的に温水を供給して流すことができる。
具体的には、例えば複数段で構成されるホース2の全体の長さが長い場合、例えばホース2の全体の長さが数十mある場合に、図4で示した局所暖房装置1のように、6段目のホース2から1段目のホース2まで直列的に温水を流すと、下流側に位置するホース2を流れる水温が低くなり、必要な加温ができない場合があり得る。
そこで、このような場合には、図5に示す局所暖房装置1aでは、弁61、弁62、弁63、弁64及び弁65を開き、弁66及び弁67を閉じることにより、1段目と2段目のホース2、3段目と4段目のホース2、及び、5段目と6段目のホース2に並列的に温水を流すことができ、これによって、ホース2全体を直列的につないだ場合の温水の温度低下の問題を解消することができるようになる。
【0101】
また、上記のように複数段のホース2に並列的に温水を流す場合に、弁61〜67を遠隔操作可能な電磁弁により構成し、制御手段5aが、三つの温度センサ51からの測定信号にもとづいて、弁61、弁63及び弁65をON−OFF制御する構成とすることができる。
このようにすると、よりきめの細かい温度制御が可能となり、温度制御の精度を向上させることができ、例えば、大きく生長したトマトの全体に対して、ほぼ均一に加温を行うことが可能となる。
また、複数の弁61〜67を遠隔操作可能な電磁弁により構成することで、例えば制御手段5aの操作パネル等への入力操作を行うだけで弁61〜67の開閉動作・制御を行うことができるので、作業性や使い勝手を向上させることができる。
【0102】
さらに、図2で示したように、害虫を採取・補殺するための粘着テープ42がホース2の所定箇所(例えば5段目と6段目のホース2)の間に設けられる場合に、この所定箇所のホース2(6段目と5段目のホース2)にだけ温水を流し、この周囲の温度を虫が好む温度とすることにより、害虫を引き寄せて粘着テープ42により効率よく害虫を捕獲することができ可能となり、局所暖房装置1aに付加価値を付与・向上させることができるようになる。
このようにして、図5に示す局所暖房装置1aは、図2で示した局所暖房装置1とほぼ同様の効果を奏するとともに、温度制御の品質や精度、作業性、使い勝手、付加価値等を更に向上させることが可能となる。
【0103】
[局所暖房栽培方法]
次に、以上のような局所暖房装置1を用いて行う本実施形態の植物栽培方法の具体的な工程について説明する。
本実施形態に係る植物栽培方法は、以下のような各工程を経ることにより、同一の温室内において、同一種類の植物に対して、所定の区画単位で異なる生育・栽培温度を与えて同時栽培することができ、所望の小領域画単位や畝単位・栽培用ベッド単位で異なる生育速度で生育・収穫できるようにするものである。
【0104】
(1)植物の配設・定植工程
本実施形態の植物栽培方法では、まず、所定の広さを有する温室80内の同一空間内の所定箇所に、栽培対象となる特定種類の植物10を、所定の区画単位で配設・定植を行う。
具体的には、温室80の横方向(幅方向)に並列的に畝や水耕栽培用ベッド等の植物栽培用ベッド71を奥行き方向に沿って形成・設置し、各ベッド71単位で、同一種類の植物10を定植していく。
図6に示す例では、単棟型の温室80内に、3つの異なる区画にそれぞれトマトを定植した状態を示している。
同様に、図7に示す例では、連棟型の温室80内の各棟に、1つずつ区画を設け、それぞれトマトを定植した状態を示している。
このように、植物の畝や水耕栽培用ベッド単位で植物を定植することで、上述したように、局所暖房装置1をユニット化して畝・栽培用ベッド単位で設置することができ、畝単位・ベッド単位で、植物10に異なる温度で局所的な加温・暖房を行うことができる。
【0105】
また、定植する複数の各植物10は、局所暖房装置1により与える栽培温度毎に区画し、隣接する異なる栽培温度を与える植物10の区画間では、一定間隔を取るようにする。
具体的には、近接した区画間で異なる生育温度を与える植物は、区画同士を一定距離(例えば1m)以上離すようにする。
このようにすると、後述する局所暖房装置1により与えられる生育温度として、植物の種類に応じて、同一温室内で例えば5℃程度の相当の温度差はつけることが可能となり、効果的な局所暖房栽培を実施することができる。
【0106】
(2)局所暖房装置の配設・設置工程
次に、上記のように局所暖房装置1により与える生育温度毎に区画化して配設・定植した植物10の区画単位で、各植物の近傍に局所暖房装置1を配設する。
具体的には、植物10の区画毎に、畝・栽培用ベッドの周囲に、図3で示したような植物栽培用ユニット7の枠72を組み立てる。そして、その枠72に取付手段4を介してホース2を配管することにより、植物10の近傍所定箇所に温水が流れるホース2を配管・配設する。
区画単位で配管したホース2は、所望の生育速度・収穫時期に対応した所定温度の温水を供給するヒートポンプ等の流体供給手段3にそれぞれ接続される。
【0107】
ここで、ホース2の配管は、上述したように、生育対象となる植物10の生長過程・生育形態に合わせた配置・配管とする。
例えば、図6、図7に示す例では、栽培対象となる「トマト」に対応して、畝・ベッドに2列に定植されたトマトの苗木の間に、畝・ベッドと平行に延びるホース2を高さ方向(垂直方向)に複数段配管・配設する。
また、栽培対象が例えば「ナス」の場合には、1畝に1株を植え付け、生育途中から分岐させる栽培方法をとるため、2本仕立ての場合、Yの字のように枝を分けて伸長・生育する。この場合、Yの字・二股に生育する苗木の上下を通るように、畝・ベッドと平行に延びるホース2を複数段斜めに配管・配設する。
また、栽培対象が例えば「キュウリ」の場合には、丈の大きい(高い)苗に対して、トマトの場合とほぼ同様に、畝・ベッドに2列に定植されたトマトの苗木の間に、畝・ベッドと平行に延びるホース2を高さ方向(垂直方向)に複数段配管・配設する。
【0108】
図8に、植物10の種類(生長形態)に応じた局所暖房装置1のホース2の配管・配置例を模式的に示す。
図8(a)は、トマト、キュウリ、高級メロン、インゲン、サヤエンドウ等のように、垂直方向に生育・誘引される苗の場合であり、畝・ベッドと平行に延びるホース2を高さ方向(垂直方向)に複数段配管する。
図8(b)は、ナス、ピーマン、シシトウ等のように、生育過程でYの字・二股に分かれる苗の場合であり、枝分かれして二股に生育する苗木の上下を通るように、畝・ベッドと平行に延びるホース2を複数段斜めに配管・配設する。
【0109】
図8(c)は、ニラ、ホウレンソウ等のように、草丈の低い苗が面状に定植される場合であり、畝・ベッドと平行に延びるホース2を平面状に配管したものを、植物の上方を覆うように平面状に配置する。
なお、同図に示すように、植物の種類に応じて、苗は畝を形成して定植することもでき(同図下段参照)、また、耕地に直接定植することもできる(同図上段参照)。一般に、畝は地熱の蓄熱性・保温性に優れ、特に幼苗の生育は畝を用いることが好ましいが、植物の種類や耕地や温室の環境・条件等に応じて、畝を用いずに耕地に直接定植して栽培することも行われる。本実施形態に係る局所暖房装置1による栽培方法は、畝を用いる場合でもそうでない場合でも、いずれの場合にも適用することができる。
図8(d)は、キャベツ等の場合であり、図8(c)の場合と同様に、平面状に配管したホース2を植物の上方を覆うようにして配置する。
同図に示す場合も、図8(c)に示したものと同様、植物を畝を形成して定植してもよく(同図下段参照)、また、耕地に直接定植しても良い(同図上段参照)。
【0110】
図8(e)は、高畝に定植されるイチゴの例であり、これも図8(c)、(d)の場合とほぼ同様に、平面状に配管したホース2を植物の上方を覆うようにして配置する。
図8(f)は、アスパラガス等のように、植物の生育ポイントが先端以外の部分にある場合であり、畝・ベッドと平行に延びるホース2を植物の生育ポイント近傍に位置させて配管する。
図8(g)は、例えば一般消費者向けの果物狩り(例えばイチゴ狩り)用に
栽培用ベッドを台や脚部の上に設置する場合で、栽培用ベッドの高さに合わせてホース2を配設し、栽培用ベッドの上方全体を覆うようにホース2を配置する。
【0111】
図8(h)は、例えばキクなどの花卉類の場合であり、花卉の全体を局所加温できるように、畝・ベッドと平行に延びるホース2を、畝・ベッドの両端に壁状に垂直方向に複数段配管・配置したり、また、平面状に配管したホース2を植物の上方を覆うようにして配置する。
図8(i)は、台などに置かれて行われる鉢植え栽培の場合であり、この場合も、平面状に配管したホース2を植物の上方を覆うようにして配置する。
なお、上記のようなホース2の配管・配置作業は、通常は、植物10を畝や栽培用ベッド等に定植した後に行うが、予め所定の位置・形態にホース2を配管しておき、その後に、ホース2の位置に合わせて植物10を定植・配設することもできる。
【0112】
(3)局所暖房装置による局所的加温・暖房工程
次に、以上にようにして植物10の種類単位に植物近傍の所定箇所にホース2を配置した局所暖房装置1により、植物10の生育速度・収穫時期に合わせた異なる栽培温度を植物の所定の区画単位で与える。
まず、温室80で生育・栽培する植物10に対して、異なる生育速度・収穫時期に必要となる温度と量の温水を供給できるだけの能力のあるヒートポンプ給湯機などの流体供給手段3を設置しておく。
そして、図6、図7に示した例では、温室に3区画に区画化して定植したトマトに対して、トマトの正常な生育に必要となる最低温度(例えば10℃)以上確保できる熱量を供給できるようにカロリー計算を行い、その熱量を供給できる分の温水をヒートポンプ給湯機等の流体供給手段3から供給する。
【0113】
温水がホース2を流れることにより、そのホース2の近傍に位置するトマトが局所的に温められることになる。上述したように、通常、トマトは1畝に2列に並行して植付、栽培されるので、図6、図7に示すように、ホース2をその間に通すことで効率よくトマトを温めることができる。
例えば、図6、図7に示す例では、単棟温室の3区画、又は3連棟温室の中で、トマト苗を同じ日に定植し、1番目の区画・温室(図面左端)の最低温度を10℃、2番目の区画・温室(図面中央)の最低温度を15℃、3番目の区画・温室(図面右端)の最低温度を20℃に設定して、温水の供給制御を行って栽培を実行する。具体的には、1畝2列のトマト苗の間に配管した局所暖房装置1のホース2に対して、各区画・温室毎にホース2に供給する温水の温度を変えるようにする。
このようにすることで、図6、図7の例では、3番目の区画・温室のトマトが最初に収穫され、次に2番目の区画・温室、最後に1番目の区画・温室のトマトが収穫されることになる。
このとき、より明確に区画毎・温室毎に出荷を管理したい場合には、後述する間仕切りを実施することが好ましい(図7参照)。
【0114】
なお、植物の加温を行う場合に、ホース2に、植物(トマト)の葉や果実が直接触れると、低温やけどのように植物の葉や果実を傷めることがある。このため、特に図示はしないが、さらに輻射熱を遮蔽しないネットなどで植物の葉や果実とホース2とが直接触れないように保護することがより好ましい。
また、上述したように、各植物に最低限必要となる生育温度は、カロリー計算により、例えば、温室の構造、設置場所の気象条件等を基に伝熱計算を行い、温室内を適温に維持するのに必要な投入熱量を割り出すことができる。
【0115】
また、流体供給手段3による温水の供給制御は、上述したように、温水供給用のホース2の近傍の温度(気温)をセンサ51で監視し、一定温度以下(以上の場合は温水停止)になると、所定温度(例えば15℃)の温水の供給を開始し、センサの監視温度が一定温度以上(例えば17℃)(以下の場合は温水供給継続)になると温水の供給を停止する、という温水供給のON/OFFを繰り返すことにより行う。
なお、以上のような局所暖房装置1による加温・温度制御は、各植物10の定植から生育、収穫までの間、継続して行うが、植物10の種類に応じて設定・加温される温度は、生育過程において温度を変えることができる。
局所暖房装置1により与える温度を変更・調整することで、随時、収穫時期を早めたり遅らせたりすることが可能となる。例えば、長期天気予報などの情報から他の地域での収穫量が落ちると予想できる時期に収穫・出荷できるように生育速度をコントロールすることができ、これによって、販売単価が上昇して経営的なメリットを出すようなことが可能となる。
【0116】
(4)生物農薬の散布工程
上記のような局所暖房装置1による加温・温度制御と並行して、本実施形態では、温室80内に生物農薬を散布する。
上記のように局所暖房装置1により植物10単位で加温・栽培を行うことで、同一温室内で同一植物を異なる生育速度・収穫時期で生育・栽培が可能となるが、病虫害防除のために防除対策が必要となる。
その際、生物農薬は安全性が高く、かつ、使用可能な適用作物も幅広く登録がなされているので、例えば、図6、図7に示した複数の区画で異なる生育温度でトマトを同時に栽培している場合、生育温度の違いに関わらず生物農薬は同時に散布することができる。
【0117】
具体的には、本実施形態では、生物農薬としてバチルス菌を温室内に気中散布することができる。
生物農薬としては、出光興産製:ボトキラー(登録商標)水和剤などがあり、灰色カビ病やうどんこ病の防除に有効であり、生育初期から栽培後期・収穫期までいつでも使用・散布が可能である。
従って、生物農薬の散布は、植物10の定植後は、上述した局所暖房装置1による加温工程の前後でも、また、加温工程と同時並行しても行うことができ、必要なタイミングで随時散布することができる。
【0118】
ボトキラー水和剤は、バチルス菌を主成分とする水和剤であり、ダクト内投入法により温室内に気中散布することができる。
ダクト内投入法は、温室内全体に配置したダクトと温風装置(暖房機)又は専用の散布装置(送風機)等を接続し、温風装置や専用の散布装置等からダクト内に水和剤を投入して散布する方法で、生物農薬の主成分であるバチルス菌を風によって効率よく温室内の全体・隅々まで散布することができる。なお、ダクト内投入法で投入・散布するボトキラー水和剤は、例えば1日あたり10〜15g/10aとし、継続して毎日実施することが効果的であり、数ヶ月間継続することが望ましい。
また、ダクト内投入法等を用いて温室80内に生物農薬を散布する場合、生物農薬を散布する間は、温室80内の空間を間仕切り・区画化する間仕切り部材を除去しておく。このようにすると、間仕切りによって遮られることなく、生物農薬を温室80内の全体に満遍なく行きわたらせることができる。
【0119】
(5)有害生物に対する天敵生物の放飼工程
上記のような局所暖房装置1による加温・温度制御、生物農薬の散布と並行して、本実施形態では、温室80内に植物10の有害生物の天敵生物を放飼することができる。
上記のように、複数の異なる生育温度で植物10を同時栽培する本実施形態では、温室80内における病虫害防除のために防除対策が重要となるが、その場合、植物10の有害生物の天敵生物を温室80内で放飼・使用することが有用である。
天敵生物は、害虫駆逐に効果的であり、また、例えば野菜類での使用は登録・許可されているもので農薬登録上も問題がなく、上述した生物農薬と同様に、同一植物を異なる生育速度・収穫時期で生育・栽培する場合に利用することができ利便性が高い。
【0120】
ここで、天敵生物の一例としては、例えば、図6、図7で示したトマトや、その他ナス、キュウリ等の野菜を例にとると、有害生物としてアブラムシ、オンシツコナジラミ、アザミウマやハダニ類が発生した場合には、これらの天敵生物であるナミテントウムシ(対象害虫:アブラムシ)、オンシツツヤコバチ(対象害虫:オンシツコナジラミ)、ククメリスカブリダニ(対象害虫:アザミウマ)やチリカブリダニ(対象害虫:ハダニ)などを温室80内に放飼して使用することが有効である。
【0121】
また、天敵生物の放飼は、温室80内の全体を、放飼する天敵生物の活動温度域内にした後、実施することが好ましい。このようにすると、天敵生物の活動が活発化して、有害生物の駆逐・駆除を効果的に行うことができる。
また、天敵生物を放飼する際には、上述した生物農薬の散布の場合と同様、温室80内に設置されている間仕切り部材等は除去しておくことが望ましい。
なお、天敵生物の使用・放飼についても、生育初期から栽培後期・収穫期までいつでも可能であり、従って、植物10の定植後は、上述した局所暖房装置1による加温工程や生物農薬の散布工程の前後でも、また、それら加温工程・生物農薬散布工程と同時並行しても行うことができ、必要なタイミングで随時天敵生物を放飼することができる。
【0122】
(6)間仕切り部材による区画化工程
本実施形態では、複数の区画に定植した同一の植物10を、複数の異なる生育温度で、同一温室の同一空間内で同時栽培するものであるが、温室80内の空間は、植物10の所定の畝単位又はブロック単位で、所定の間仕切り部材によって間仕切りして区画化することができる。
上述した局所暖房装置1による局所暖房は、対象植物を直接的・局所的に加温して生育・栽培することができるもので、局所暖房装置1による植物毎・区画毎の温度制御が行われれば、温室内全体の温度制御をそれ程厳密に行う必要ななくなる。但し、ホース2からの輻射熱は、植物近傍の輻射温度を上昇させた後は、最終的には空気に移って拡散し、温室全体を暖めることになる。
従って、少なくとも近接した区画間で異なる生育温度を与える場合には、区画同士を簡単な仕切カーテンのような間仕切り部材で仕切ることが、より効果的な局所暖房栽培を行うためには望ましい。
【0123】
区画同士を簡易なシートやカーテン等で仕切れば、異なる種類の植物10の区画が近接して隣り合っていても、局所暖房による温度差は維持することができ、効果的に同一植物の異なる生育速度・収穫時期での同時栽培を実施することができる。
また、シートやカーテン等で間仕切り・区画化することで、後述する化学農薬を散布する場合の所謂ドリフトの問題を解消することもでき、化学農薬散布の観点からも間仕切り・区画化工程は有効・重要である。
具体的には、例えば隣接した畝同士の距離は1m程度の間隔を取り、一方の畝周辺の温度を15℃、もう一方の畝周辺を20℃、それ以外の温室空間を10℃に維持する場合に、各畝の間に簡易な仕切りカーテンやシート、衝立等を設置する。これによって、近接した空間同士の温度差による空気の比重差で起こる対流を防止して効果的な局所暖房栽培が可能となる。
【0124】
区画を仕切るカーテン等の仕切り部材、間仕切り部材としては、図7に示した仕切り部材80aのように、温室の天井からビニールシートを吊り下げてもよく、また、区画同士の間に衝立等を設けることでも良い。
なお、間仕切り部材による区画化は、植物10の定植及び局所暖房装置1の設置とともに、栽培初期段階から行っておくことが望ましいが、栽培過程の途中から間仕切り・区画化を行うことも勿論可能である。
特に、温室内の構造や作業負担、栽培規模等に応じて、当初は間仕切り部材による仕切りを行わず、生育過程の途中から仕切り・区画化を行うことが効果的な場合もあり、間仕切り・区画化工程は、臨機応変に柔軟に対応することが望ましい。従って、既に設置した間仕切り部材を適宜のタイミングで撤去することも当然に行える。
【0125】
(7)化学農薬の散布工程
上記のような局所暖房装置1による加温・温度制御、生物農薬の散布、天敵生物の放飼と並行して、本実施形態では、温室80内に化学農薬を散布することができる。
上記のように、複数の区画に定植した植物10を異なる生育温度で加温して同時栽培する本実施形態では、温室80内における病虫害防除のために防除対策が重要となり、上述した生物農薬の散布や有害生物の天敵生物の放飼・使用を実施することは、病虫害防除に有用である。
しかしながら、生物農薬や天敵生物のみですべての病虫害を防ぐことは実際的には困難であり、化学農薬の使用が効果を奏する場面も出てくる。
そこで、本実施形態では、生物農薬や天敵生物と併用し、あるいは、これらに換えて、化学農薬の散布を実施することができる。
【0126】
但し、化学農薬は、作物毎、病虫害毎等にかなり特異性があるとともに、同一の植物であっても生育過程において使用時期が限定されて、例えば幼苗の時期には使用が許可されているが、果実の段階では使用が禁止されるような場合も少なくない。このため、上述した生物農薬・天敵生物のようにトマト等の生育・栽培の全工程において一つの化学農薬を継続して使用・散布するようなことは困難な場合が多い。また、農薬取締法上でも、ポジティブリスト制度上問題となる。
そこで、化学農薬を使用・散布する場合には、上述した間仕切り部材による区画化により、植物の種類毎に間仕切り・区画化を行っておき、各植物単位で適正な化学農薬を使用・散布するようにする。
【0127】
例えば、図7に示したように、連棟型の温室各棟毎に仕切り部材80aを設置して間仕切りすることで、個々の作物毎に農薬を散布し、他の作物に農薬がかからないようにすることができる。これにより、化学農薬のドリフト(飛散)を防止することができる。
間仕切りに使用する仕切り部材・間仕切り部材としては、きちんとドリフトが起こらないように仕切ることができれば、素材等には特に限定はなく、一般的にはビニールやプラスチック、ガラス等を使用できる。
【0128】
ここで、化学農薬の散布・使用についても、農薬登録の適用範囲内であれば、生育初期から栽培後期・収穫期まで可能であり、従って、植物10の定植後、任意のタイミングで化学農薬を使用することができ、生物農薬や天敵生物との併用も可能である。
なお、温室80内に天敵生物を放飼した状態で化学農薬の散布を行う場合には、放飼した天敵生物に与える影響の少ない所定の化学農薬を散布することが望ましい。
【0129】
近年は、野菜等の栽培にあたり、できるだけ減農薬で栽培しようとする動きがあり、生物農薬や天敵生物を利用する場面が増える傾向にあり、天敵生物と化学農薬が併用される場合も今後増加すると考えられる。この場合、天敵生物も農薬で駆除される有害生物と同様に生物であり、有害生物同様に化学農薬の影響を受けることになる。このため、天敵生物をせっかく放飼しても、化学農薬の影響により死滅することがあり得る。そこで、天敵生物と化学農薬を併用する場合には、できるだけ天敵生物に影響が少ない化学農薬を使用することがのぞましい。
天敵生物に影響の少ない化学農薬としては、例えば、チェス水和剤(成分:ピメトロジン)、ウララDF(成分:フロニカミド)、オサダン水和剤(成分:酸化フェンブタスズ)、カスケード乳剤(成分:フルフェノクスロン)、デミリン水和剤(成分:ジフルベンズロン)、トリガード液剤(成分:シロマジン)、マッチ乳剤(成分:ルフェヌロン)、ニッソラン水和剤(成分:ヘキシチアゾクス)、BT剤などがある。
なお、化学農薬を全く使用しないようになった場合には、ドリフト除け用の間仕切り部材は取り除き、生物農薬や天敵生物を使用して異なる生育温度で同時栽培する同一種類の植物を共通して病虫害防除することが好ましい。
【0130】
(8)病虫害防除効果を有する資材・有害生物捕獲用の資材の配設・設置工程
本実施形態では、上記のような各工程に先立って、あるいは、各工程と並行して、異なる生育温度で同時栽培する植物10の近傍に、病虫害防除効果を有する資材を配設することができ、また、当該植物10の近傍に、有害生物を物理的に捕獲する資材を配設することができる。
上述したような生物農薬や化学農薬等の農薬以外にも、病虫害を防除する資材が存在する。従って、そのような資材を本実施形態で生育・栽培する植物10近傍に設置することは病虫害防除に更に効果的である。
【0131】
ここで、病虫害防除効果を有する資材・有害生物捕獲用の資材としては、例えば、粘着剤が塗布され、害虫を寄せ付けやすい色調のプラッチックでできたトラップ手段(粘着板、粘着シート、粘着テープ等)がある。そして、このような粘着板等のトラップ手段を植物10の近傍、より好ましくは局所暖房装置1のホース2が配置される付近の温かい領域に設置することで、より効率的に物理的に害虫をトラップ(付着)することができる(図2の粘着テープ42参照)。
なお、この種の粘着板・粘着シートとしては、例えば、出光興産製スマイルキャッチ(登録商標)、スマイルキャッチ・ロールなどが有効である。
【0132】
(9)温室内の湿度・二酸化炭素濃度を調整する工程
本実施形態では、上記のような各工程と並行して、あるいは各工程に先立って、上記のような異なる生育温度で植物10を同時栽培する温室80内の湿度を所定の値に維持するよう調整を行い、また、当該温室80内の二酸化炭素濃度を所定の値に維持するよう調整することができる。
上述のように、本実施形態では、同一温室において作物毎の温度に着目して局所暖房装置1を配設して、異なる生育温度により加温して複数に区画した同一種類の植物10の同時栽培を行うようにしてあるが、所望の生育速度・出荷時期に応じて適した湿度も違う場合がある。このため、温室80内の湿度コントロールを行うことにより、本実施形態に係る同時栽培をより効果的なものとすることができる。
また、温室80内の二酸化炭素濃度を調整することで、栽培植物の光合成を促進させて生育速度を調整したり収穫量を高めることが可能となる。なお、本実施形態に係る局所暖房装置1を設置して、温室80内ではA重油暖房機によるような強制的な空気循環が行われない場合は、微風とともにCO2を供給することで温室内の植物の光合成を促進させることができる。
【0133】
湿度・二酸化炭素濃度の調整は、温室80全体として湿度・二酸化炭素濃度を調整することができ、また、植物を定植する区画単位で異なる湿度・二酸化炭素濃度の調整を行うこともできる。
植物の区画単位で湿度調整・二酸化炭素濃度調整を行う場合には、上述したような間仕切り部材による植物単位の間仕切り・区画化を行っておく。
【0134】
ここで、植物毎に異なる好ましい生育湿度としては、季節・気象や栽培条件にもよるが、例えばトマトでは日中の相対湿度は60から80%、キュウリにおいてはトマトよりも少し高い65から85%などで気孔が開きやすくなることから、その範囲に湿度を維持・制御することが好ましい。
また、二酸化炭素濃度としては、空気中には平均的に350から400ppm程度存在するので、日中上記記載の植物毎の相対湿度条件で、それ以上の濃度、例えば500から1000ppmの濃度に作物の生育状況をみながら調節すれば生長がよくなり、高品質な果実を高収量で効率よく得ることが可能となる。
さらに、夜間は低温に伴い相対湿度100%になることで病害の発生が多くなることがあるが、局所暖房による葉、花や果実周辺の相対湿度を低下させたり、輻射熱による葉、花や果実表面に付着する結露を防止することにより病害の発生を予防する効果も期待できる。
【0135】
以上説明したように、本実施形態に係る植物栽培方法によれば、生育対象となる植物を局所的に加温・暖房できる局所暖房装置を用いた温室栽培方法を実施することで、同一温室内に置いて、同一種類の植物に対して異なる温度を加温して同時に生育・栽培することが可能となる。これにより、同一温室内において、所定の領域単位や畝単位・栽培用ベッド単位で、同一の植物に対して異なる生育温度を与えて栽培・生育を行うことができ、各区画単位で植物の生育速度・収穫時期を異ならせることができるようになる。
【0136】
このように同一温室内において、植物の区画単位で生育速度・収穫時期を異ならせることができる本実施形態によれば、例えば、収穫時期を少しずつずらせることで、労力(収穫作業)の平準化を図れることができ、直売などの小中規模の農家では、特定の野菜や果実を少しずつ毎日長期間に渡り出荷・販売することができるようになる。
また、一般的に、特定の野菜や果実の産地でも、収穫物は一時期に一気に収穫することになっているが、これを、一年を通して平準化できることにより、一気に収穫・出荷されることによる市場での過剰供給とそれによる価格暴落を回避でき、例えばトマト等の価格を安定させることが可能となる。
さらに、天候の長期予報などを参考にして、温室内温度をコントロールすることで、出荷調整も容易に行えるようになる。そして、その際に、これまでは温室全体を単位としてしか管理できなかった収穫時期を、温室内の一定領域単位・畝単位等の小規模単位ずつで温度管理(出荷管理)が可能となり、出荷調整によるリスクヘッジもできるようになる。
【0137】
また、苗生産業者・農家においても、同一温室内で同一の作物・品種の苗を生育・収穫時期を異ならせて育苗できれば、周年を通した継続的な収穫・出荷が可能となり効率的であり、効率的な育成・栽培が実現できる。さらに、苗は、一般的に春などに定植が集中する時期があることから、冬から春の低温時期に同一温室内で同一の作物を生育速度や収穫時期が異なるように育苗できれば、定植時期とその作業負担を一時期に集中させずに分散することができ、作業負担が軽減されるとともに、経営的にも有利となる。
従って、本実施形態に係る植物栽培方法は、特に小規模・中規模農家や副業経営農家などには好ましい結果が期待できるようになる。
【0138】
以上、本発明の植物栽培方法の好ましい実施形態について説明したが、本発明に係る植物栽培方法は上述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
例えば、本発明の植物栽培方法を実施するための温室として、上述した実施形態では、図1に示したような従来公知の温室を例にとって説明した。
しかしながら、本発明に係る植物栽培方法は、特に温室・ビニールハウスの構成・形態等には影響されず、例えば温室自体が温度循環機能を有する新規な温室や植物工場、植物プラント等において、本発明の植物栽培方法を実施することを妨げない。
【0139】
図9は、上述した本発明の一実施形態に係る植物栽培方法を実施するための温室設備の他の形態を模式的に示す説明図である。
同図に示す温室90は、ヒートポンプのCOP(Coefficient of Performance、消費電力に対する加熱能力)を向上させることができる熱循環システムを備えた温室構造となっている。
具体的には、まず、温室外に設置されるヒートポンプ3aがケーシング91に収納されており、このケーシング91がダクトを介して温室90と連通するようになっている。これにより、ヒートポンプ3aに取り込まれる温風は温室90から供給され、一方、ヒートポンプ3aにより冷却された空気(冷風)は温室90に供給されるようになり、温室90とヒートポンプ3aで熱循環・熱交換が行われることになる。
【0140】
また、温室90の外部近傍には太陽光発電を行う太陽光パネル92が備えられ、太陽光パネル92で発電された電力が、ヒートポンプ3aに供給されて駆動されるようになっている。
さらに、温室90の底面の地下部分には、養液タンク93が備えられ、この養液タンク93内の養液が、温水タンク3bから供給される温水により所定温度に維持・制御されて、温室90内の水耕栽培用ベッド(図3参照)に供給されるようになっている。
【0141】
以上のような構成からなる温室90では、温室90とヒートポンプ3aで熱循環・熱交換が行われて、無駄のない熱エネルギー消費ができ、きわめて効率的な温室90の温度制御と温水生成・蓄熱が可能となり、また、ヒートポンプ3aで必要となる駆動電力は太陽光パネル92によって発電供給され、さらに、温室栽培に必要となる養液についても、ヒートポンプ3aで生成・蓄熱される温水によって温度制御が行われ、ヒートポンプのCOPを大幅に向上させることができるようになっている。
このように、図9に示す温室90は、一切無駄のないエネルギーの生成・使用・再利用等が実現できるようになっており、このような新規かつ有用・有益な温室90においても、本発明に係る植物栽培方法を適用・実施することができ、同一の温室90内において異なる複数の生育温度で同一植物を同時に栽培することができる。
【産業上の利用可能性】
【0142】
本発明は、温室・ハウス栽培されるトマトやキュウリ、ナス、ピーマン等の野菜や、イチゴやミカン、メロン等の果物、花卉、観賞用植物、薬用植物等の育成・栽培に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0143】
1 局所暖房装置
2 ホース
3 流体供給手段
3a ヒートポンプ
3b 温水タンク
4 取付手段
5 制御手段
7 植物栽培用ユニット
10 植物
20 連結ホース
21 ジョイント
22 バルブ
31 供給用ホース
32 排出用ホース
41 ネット
42 粘着テープ
51 温度センサ
61、62、63、64、65、66、67 弁
71 植物栽培用ベッド
72 枠
73 支柱
74 位置決め手段
80 温室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一温室内に同一種類の植物を所定の区画単位で配設する工程と、
前記植物の近傍所定箇所に、当該植物に対して局所的に所定の栽培温度を与える局所暖房装置を配設する工程と、
前記局所暖房装置により、前記植物の所定の区画単位で異なる栽培温度を与える工程と、を有し、
同一温室における同一種類の植物の生育速度を前記所定の区画単位で異ならせて収穫時期を調整することを特徴とする植物栽培方法。
【請求項2】
前記植物の少なくとも一種類が野菜である請求項1記載の植物栽培方法。
【請求項3】
前記植物の少なくとも一種類が果実である請求項1又は2記載の植物栽培方法。
【請求項4】
前記植物の少なくとも一種類が花卉である請求項1乃至3のいずれか一項記載の植物栽培方法。
【請求項5】
前記植物の少なくとも一種類が観葉植物である請求項1乃至4のいずれか一項記載の植物栽培方法。
【請求項6】
前記植物の少なくとも一種類が薬用植物である請求項1乃至5のいずれか一項記載の植物栽培方法。
【請求項7】
前記温室内に生物農薬を散布する工程を有する請求項1乃至6のいずれか一項記載の植物栽培方法。
【請求項8】
前記生物農薬としてバチルス菌を温室内に気中散布する請求項7記載の植物栽培方法。
【請求項9】
前記生物農薬としてバチルス菌を主成分とする水和剤をダクト内投入法により温室内に気中散布する請求項8記載の植物栽培方法。
【請求項10】
前記温室内に前記植物の有害生物の天敵生物を放飼する工程を有する請求項1乃至9のいずれか一項記載の植物栽培方法。
【請求項11】
前記温室内を、放飼する前記天敵生物の活動温度域内にした後、当該天敵生物を放飼する請求項10記載の植物栽培方法。
【請求項12】
前記温室内に化学農薬を散布する工程を有する請求項1乃至11のいずれか一項記載の植物栽培方法。
【請求項13】
前記温室内に前記植物の有害生物の天敵生物を放飼する工程を有する場合に、
放飼した前記天敵生物に与える影響の少ない所定の化学農薬を散布する請求項12記載の植物栽培方法。
【請求項14】
前記植物の所定の区画単位で、前記温室内の空間を所定の間仕切り部材によって区画化する工程を有する請求項1乃至13のいずれか一項記載の植物栽培方法。
【請求項15】
前記所定の間仕切り部材が、ビニール又はプラスチック又はガラス素材からなる請求項14記載の植物栽培方法。
【請求項16】
前記温室内に生物農薬を散布する工程を有する場合に、
前記生物農薬を散布する間は、前記温室内の空間を区画する前記間仕切り部材を除去する請求項14又は15記載の植物栽培方法。
【請求項17】
前記植物の近傍に、病虫害防除効果を有する資材を配設する工程を有する請求項1乃至16のいずれか一項記載の植物栽培方法。
【請求項18】
前記植物の近傍に、有害生物を物理的に捕獲する資材を配設する工程を有する請求項1乃至17のいずれか一項記載の植物栽培方法。
【請求項19】
前記植物の前記局所暖房装置が配設されている近傍に、前記病虫害防除効果を有する資材又は有害生物を物理的に捕獲する資材を配設する請求項17又は18記載の植物栽培方法。
【請求項20】
前記温室内の湿度を所定の値に維持する請求項1乃至19のいずれか一項記載の植物栽培方法。
【請求項21】
前記温室内の二酸化炭素濃度を所定の値に維持する請求項1乃至20のいずれか一項記載の植物栽培方法。

【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−244705(P2011−244705A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118483(P2010−118483)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】