説明

植物水分蒸散量の計測方法および装置

【課題】 植物の水分ストレス状態を緑葉からの蒸散量あるいは蒸散速度から読み取る方法において、その測定を高感度かつ迅速に行うことにある。
【解決手段】 植物緑葉の裏面から蒸散する水分をガラス板上に強制的に連続して結露させる。そして、ガラス板を長手方向に全反射しながら透過する光量の変化と、ガラス板表面の結露によって散乱して表面に飛び出す光量の変化から、その結露量の時間変化を読みとる。このことにより、植物緑葉の裏面に多く存在する気孔からの蒸散量あるいは蒸散速度を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の葉から蒸散する水分量を、光計測技術を使って計測する方法と、その装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、植物の葉から蒸散する水分量、あるいはその蒸散速度は、湿度を計測する技法を応用して計測されている。その代表的な方法として、電子部品である水蒸気センサを用いる方法などがある。
【0003】
この電子部品である水蒸気センサを用いる方法は、例えば、水分の存在に対して電気抵抗や静電容量などの電子特性が変化する半導体材料などから形成されるセンサ・デバイスを準備し、これを植物緑葉の裏面に固定する。そして、緑葉裏面に存在する気孔から蒸散する水分が、先のセンサ・デバイスを透過することなどによって生じた電子特性の変化を読み取り、目的の蒸散量、あるいは蒸散速度を計測するものである。
【0004】
なお、電子部品である水蒸気センサを用いるこの方法が引用文献2に開示されているが、電子部品の感度域によっては、草本類などで蒸散の比較的多い植物の測定には適するが、木本類などで蒸散量の比較的少ない植物の測定では、測定限界以下となり、正しい測定値が出てこないなどの問題がある。また、この水蒸気センサが電子部品であるため、蒸散量が極端に激しいとき、水分に直接曝される電子部品が回復不可能な性能劣化を起こすこともある。このため、蒸散が激しいときには測定できないなどの問題もある。
【0005】
気体中の水分量などを安定して測定する方法として、引用文献3〜9の鏡面冷却式露点計などを利用した方法がある。この鏡面冷却式露点計の基本的な測定方式は、内部に持つ鏡面をゆっくりと冷却し、その鏡面に結露が発生した時の温度を読み取る方式である。このため、植物緑葉などから連続して放出される水分量を時間を追って計測するのは難しい。
【0006】
吸湿性の塩化コバルト紙を植物の葉に貼付させて、その紙の色の変化から植物用体内水分ストレス表示する技術が特許文献1に開示されているが、これでは人間の目視によって確認する方法であり、正確な植物水分蒸散量の計数的な計測はできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−232572号公報
【特許文献2】特開2009−115671号公報
【特許文献3】特開1993−099846号公報
【特許文献4】特開1994−058891号公報
【特許文献5】特開2003−194756号公報
【特許文献6】特開2006−126097号公報
【特許文献7】特開2007−192715号公報
【特許文献8】特開2009−150808号公報
【特許文献9】特開2010−107338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
植物緑葉の裏面に多く存在する気孔からの蒸散量あるいは蒸散速度を計測する場合、蒸散量が極端に少ない時、その蒸散量を高感度に測定する必要がある。また同時に、蒸散量が極端に多い時でも、蒸散する水分によってセンサ・デバイスの性能を劣化させることなく、使用できる必要がある。
本発明が解決しようとする課題は、植物緑葉からの蒸散量あるいは蒸散速度を計測する方法において、蒸散量が少ない時でも高感度に測定でき、かつ、蒸散量が多い時でも、その水分によって劣化しにくいセンサ・デバイスを実現することにある。加えて、そのセンサ・デバイスを用いて、植物の水分蒸散量の計測方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決した本発明の構成は、
1) 植物の葉からの水分の蒸散量を計測する装置であって、
被測定気体で満たされる一部の開口部を除いて密閉された空間に配置されるガラス板と、同ガラス板を冷却する冷却手段と、ガラス板に光を入射する発光部と、同発光部から入射された光が前記ガラス板を通過して出てきた透過光を受光する第1の受光部と、前記発光部から入射された光が前記ガラス板の被測定気体に曝されている面にできた露によって散乱透過して出てきた散乱透過光を受光する第2の受光部と、前記の第1及び第2の受光部の受光量の結露量に応じた変化及び結露量と葉からの水分の蒸散量の関係を予め記憶して、第1と第2の受光部の計測の光量から結露量を算出して葉からの水分の対応蒸散量を求める結露量測定装置と、からなる葉からの水分蒸散量の計測装置
2) 前記1)記載の計測装置を用い、空間の開口部に木の葉を押し当てて閉鎖し、冷却手段を用いてガラス板を冷却してガラス表面を結露させ、その状態で発光部から光を入射させ、第1と第2の受光部の光量を結露量測定装置に入力して、光量差から結露量と水分の蒸散量を算出する植物の葉からの水分の蒸散量の計測方法
3) 前記1)の計測装置を近接して二装置設け、一方の計測装置の空間の開口部を閉鎖し、又二つの計測装置の空間を開閉可能として連通させる換気口を設ける装置とし、
換気口を開いて空間を開放した後、全ての換気口を閉じ、一方の空間の開口部に木の葉の面を押し当てて閉鎖し、更に二つの空間の冷却手段でガラス板を冷却してガラス板表面に結露を発生させ、その後、各空間の発光部LDを作動させてガラス板に光を入射させ、各空間の第1,第2の受光部の受光量を結露量測定装置に入力し、開口部を閉鎖した受光部の受光量から計算した蒸散量を、開口部に葉を押し当てた空間の受光部の受光量から計算した蒸散量から差し引いて、大気の湿度の影響を少なくした植物の葉からの水分の蒸散量の計測方法
4) 前記1)の計測装置において、その空間を空間仕切りで二つに分割し、分割された一方の空間に開口部があるようにし、分割された各室の空間を共通のガラス板とそれを冷却する冷却装置でもって冷却し、一つの発光部で共通のガラス板へ光を入射し、第1と第2の受光部を分割した各室に配置し、第1と第2の受光部の受光量を結露量測定装置に入力させるようにした、葉からの水分蒸散量の計測装置
にある。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、例えば水蒸気センサなどの様に、直接に水分に曝される電子部品が無い。このため、蒸散する水分によってセンサ・デバイスの性能が劣化するような問題が生じない。また、本発明によれば、結露量によって、植物緑葉からの蒸散量あるいは蒸散速度を計測する。このため、蒸散量が少ない時でも高感度に測定できる。
本発明は、このように、蒸散量が多い時でも、その水分によって劣化しにくいセンサ・デバイスの提供を可能にする。加えて、そのセンサ・デバイスを用いて、植物の水分蒸散量の高感度に計測する装置の提供を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の植物の水分蒸散量の計測方法と装置の実施例1を示す説明図である。
【図2】図2は、実施例1の二つの受光部の透過光量の時間的変化を示す動作説明図である。
【図3】図3は、実施例2の装置と方法を示す説明図である。
【図4】図4は、実施例3の装置と方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図を用いて、実施例を説明する。
【実施例】
【0013】
(実施例1)
図1は、本発明の実施例1の方法と装置を示している。
まず、図中で破線の四角で囲った部分である被測定気体で満たされる一部の開口部Kを除いて密閉された空間Sの中に、ペルチェ素子Peを用いた冷却手段を取り付けたガラス板Gを配置する。ガラス板Gの表面温度を測定する温度センサー(図示せず)を設けている。この温度センサーは、想定外の異常温度を検出するためのものである。
そして、ガラス板Gの長手方向にレーザ・ダイオードや発光ダイオードなどの光源の発光部LDから、光を入射する。また同時に、このガラス板Gの中を長手方向に透過して出てきた光を捉える第1の受光部PDと、このガラス板Gの前面に飛び出してくる光を捉える第2のPDを準備する。
【0014】
図1に示した被測定気体で満たされる空間Sに設けた開口部Kを水分蒸散の被測定物Leの葉で塞いだ状態で、ガラス板Gをペルチェ素子Peで冷却すれば、ガラス板Gに水分が結露して、次第にその結露量が増加する。この時のガラス板G表面に付く露と、2つの受光部PD,PDでの受光量の時間変化を模式的に表したのが図2である。
ガラス板G表面に露が無い状態では、発光部LDから入射した光は、ガラス板Gの中を全反射するなどして伝搬し、第1の受光部PDに到達する。また、このとき、ガラス板Gから表面に飛び出した光の一部は、受光部PDに到達する。
ガラス板Gが冷却され、その表面に露が形成すると、ガラス板Gの中を全反射するなどして伝搬していた光の一部は、露によって表面に散乱される。このため、露の成長にともない、受光部PDでの受光量は減少し、受光部PDでの受光量は増加する。
そして、露の量がある程度以上になると、受光部PDと受光部PDでの受光量の変化は殆ど無くなる。
これら2つの受光部PD,PDでの受光量の変化具合から、結露量を推定する。あらかじめ、空間S中の水の蒸散量とPD,PDの受光量差の関係を記憶させ、結露量測定装置KSでもって受光部PD,PDから蒸散量が特定できるようにする。
【0015】
受光部PD,PDでの受光量d,dと発光部LDの発光信号lは、結露量測定装置KSに入力される。結露量測定装置KSは、コンピュータとメモリとプログラムソフトを用いて蒸散量を計算するソフトが記憶されている。予め、受光量d,dのデータから木の葉の蒸散量Tの式として受光量d,dとの下記の関係式を想定し、その係数a,a,a,aを実験的に求めておく。そして、実際の計測における受光部PD,PDの受光量d,dを下式に代入して蒸散量Tを求める。蒸散速度は、蒸散量の時間的変化として算出される。
【0016】
受光部PDの受光量データをd、受光部PDの受光量データをdとするとき、蒸散量Tは、次式で算出される。
T=a(d−d+a(d−d+a(d−d)+a
尚、ここで、この多項式の係数(a,a,a,a)は実験的に求められる値である。
【0017】
前述の実施例1において、光源の発光部LDの波長を、水による吸収が強いものにすれば、受光部PDで検出される受光量は、露による吸収の影響を受け、少ないものとなる(図2中のPD(ただし、λ’)と記載された破線のグラフ)。この特性を活用して、複数波長の発光部LDを用いれば、より高精度に結露量を推定することが可能となる。
【0018】
(実施例2)
図3は、実施例1の装置を2台近接して設け、一方の空間Sの開口部Kを閉鎖して使用する実施例2を示す。
2つの結露量測定部である空間Sには、外気を取り入れるための開閉可能な換気口B,B,Bを持っている。また、一方の空間Sには実施例1と同じ開口部Kを設けている。
尚、発光部LD,受光部PD,PDは各空間Sに設けているが省略している。
2つの結露量測定部の中の被測定気体で満たされる空間S,Sの中に含まれる気体を外気と充分に交換した後、開閉可能な換気口B,B,Bを閉じると同時に、開口部Kを被測定物Leで塞ぐ。
その後、結露量測定部1の空間Sと結露量測定部2の空間Sに含まれるそれぞれのガラス板G,Gを冷却することで、被測定気体で満たされる空間S,Sの内部にある水蒸気をガラス板G,G表面に結露させる。
その後、発光部LDから光を入射し、各空間Sの第1,第2の受光部PD,PDの各光量のデータを結露量測定装置KSに入力させ、一方の空間は外気の湿度による蒸散量が計測され、それを被測定物Leを押し当てて開口部Kを閉鎖した方の蒸散量から差し引くことで、葉のみの水分の蒸散量を計測するものである。
これらの結露量を測定することで、植物緑葉からの蒸散量を測定する。
【0019】
(実施例3)
図4は、本発明の実施例3を示す説明図である。実施例3は、図3に示した実施例2を簡略化する形で実現した、植物緑葉の蒸散量計の別の実施例として、そのセンサ部分のみを示している。
2つの結露量測定部の受光部PD,PDは、それぞれのガラス板を一体のガラス板Gで構成し、ガラス板Gを冷却するそれぞれの冷却手段を一つのペルチェ素子Peを用いた冷却手段で構成し、そして当該ガラス板Gに光を入射する発光部LDを一つとし、さらに、当該ガラス板を通過して出てきた透過光を受光するそれぞれの受光部PDを省略している。
また、一体のガラス板Gが使用されているので、2つの結露量測定部のそれぞれの被測定気体で満たされる空間Sを構成するため、被測定気体で満たされる空間の仕切りMがある。
この構成で、2つの被測定気体で満たされる空間S,Sの内部にある水蒸気をガラス板G表面に結露させれば、それぞれの水蒸気量の違いによって、それぞれの結露量が異なる。そして結果として、露によって散乱透過して出てきた散乱透過光を受光するそれぞれの受光部PD21,PD22において受光量に差異が生じる。
この差異から水蒸気量の違いを推定して葉の蒸散量を算出する。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、植物緑葉からの蒸散量あるいは蒸散速度を計測する方法、およびその装置の製造方法として産業に寄与する。また、この測定の対象物は、植物緑葉だけに留まらない。本発明は、あらゆる物質からの蒸散量あるいは蒸散速度を計測する方法、およびその装置の製造方法として産業に寄与する。
【符号の説明】
【0021】
S 空間
K 開口部
G ガラス板
Pe ペルチェ素子
LD 発光部
PD,PD,PD21,PD22 受光部
,B,B 換気口
H 放熱器
Le 被測定物
KS 結露量測定装置
M 仕切り

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の葉からの水分の蒸散量を計測する装置であって、
被測定気体で満たされる一部の開口部を除いて密閉された空間に配置されるガラス板と、同ガラス板を冷却する冷却手段と、ガラス板に光を入射する発光部と、同発光部から入射された光が前記ガラス板を通過して出てきた透過光を受光する第1の受光部と、前記発光部から入射された光が前記ガラス板の被測定気体に曝されている面にできた露によって散乱透過して出てきた散乱透過光を受光する第2の受光部と、前記の第1及び第2の受光部の受光量の結露量に応じた変化及び結露量と葉からの水分の蒸散量の関係を予め記憶して、第1と第2の受光部の計測の光量から結露量を算出して葉からの水分の対応蒸散量を求める結露量測定装置と、からなる葉からの水分蒸散量の計測装置。
【請求項2】
請求項1記載の計測装置を用い、空間の開口部に木の葉を押し当てて閉鎖し、冷却手段を用いてガラス板を冷却してガラス表面を結露させ、その状態で発光部から光を入射させ、第1と第2の受光部の光量を結露量測定装置に入力して、光量差から結露量と水分の蒸散量を算出する植物の葉からの水分の蒸散量の計測方法。
【請求項3】
請求項1の計測装置を近接して二装置設け、一方の計測装置の空間の開口部を閉鎖し、又二つの計測装置の空間を開閉可能として連通させる換気口を設ける装置とし、
換気口を開いて空間を開放した後、全ての換気口を閉じ、一方の空間の開口部に木の葉の面を押し当てて閉鎖し、更に二つの空間の冷却手段でガラス板を冷却してガラス板表面に結露を発生させ、その後、各空間の発光部LDを作動させてガラス板に光を入射させ、各空間の第1,第2の受光部の受光量を結露量測定装置に入力し、開口部を閉鎖した受光部の受光量から計算した蒸散量を、開口部に葉を押し当てた空間の受光部の受光量から計算した蒸散量から差し引いて、大気の湿度の影響を少なくした植物の葉からの水分の蒸散量の計測方法。
【請求項4】
請求項1の計測装置において、その空間を空間仕切りで二つに分割し、分割された一方の空間に開口部があるようにし、分割された各室の空間を共通のガラス板とそれを冷却する冷却装置でもって冷却し、一つの発光部で共通のガラス板へ光を入射し、第1と第2の受光部を分割した各室に配置し、第1と第2の受光部の受光量を結露量測定装置に入力させるようにした、葉からの水分蒸散量の計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−50444(P2013−50444A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−167552(P2012−167552)
【出願日】平成24年7月27日(2012.7.27)
【出願人】(000214191)長崎県 (106)
【Fターム(参考)】