説明

植物活力剤の製造方法と植物活力剤を用いた植物育成方法

【課題】農作物栽培、緑地管理の省力化、減農薬化の有力な技術手段として、海洋天然資源であるキトサンを原料とした、安全かつ安価であって効率的に植物を促進させることが可能な植物活力剤の製造方法と植物活力剤を用いた植物育成方法を提供する。
【解決手段】キトサンの処理溶液からなる植物活力剤の製造方法であって、キトサン粉末の溶解液を放射線照射した後に、もしくは放射線照射したキトサン粉末を溶解した後に、過酸化水素水を添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物活力剤の製造方法と植物活力剤を用いた植物育成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、海洋天然資源であるキトサンの低分子化物を植物培養に利用して植物の生育を促進させることは知られている。キトサンの低分子量化にあたっては、加水分解・酵素で分解する方法があるが、この方法では低分子量化に長い時間を要しかつ高コストという問題があった。本出願人は、短時間で低分子量化が可能な方法としてキトサンに放射線を照射する方法を提案しており、放射線照射したキトサンを植物培養に利用することで植物の生育の促進を図ることを報告している(例えば、特許文献1参照)。ここで、キトサンをより効果的に低分子量化できれば、さらにコストダウンが図れ、しかも植物の生育を効率よく促進させることができると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−49164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、農作物栽培、緑地管理の省力化、減農薬化の有力な技術手段として、海洋天然資源であるキトサンを原料とした、安全かつ安価であって効率的に植物を促進させることが可能な植物活力剤の製造方法と植物活力剤を用いた植物育成方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下のことを特徴としている。
【0006】
第1には、キトサンの処理溶液からなる植物活力剤の製造方法であって、キトサン粉末の溶解液を放射線照射した後に、もしくは放射線照射したキトサン粉末を溶解した後に、過酸化水素水を添加することを特徴とする。
【0007】
第2には、上記第1の発明において、キトサンの処理溶液が、キトサン粉末が3〜15w/v%の割合で溶解している溶解液を放射線照射した後に、過酸化水素水(31w/v%濃度基準)を0.1〜5v/v%の割合で添加したものであることを特徴とする。
【0008】
第3には、上記第1の発明において、キトサンの分解生成物の溶液が、放射線照射したキトサン粉末が3〜15w/v%の割合で溶解している溶解液に、過酸化水素水(31w/v%濃度基準)を0.1〜5v/v%の割合で添加したものであることを特徴とする。
【0009】
第4には、上記第1から第3のいずれかの発明において、照射する放射線が、γ線、電子線またはX線であることを特徴とする。
【0010】
第5には、上記第1から第4のいずれかの方法で得られた植物活力剤を用いることを特徴とする。
【0011】
第6には、上記第5の発明において、植物活力剤を前記キトサン粉末もしくは放射線照射したキトサン粉末基準でキトサン濃度1〜100ppmに希釈して用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来の栽培や管理手法を変えることなく安全かつ低コストで高効率に植物の栽培および管理を容易に行うことができ、農作物栽培や緑地管理を行う上で重要な因子となる生育速度、生存率を向上させることが可能な植物活力剤を簡便に製造することができる。また、本発明では放射線照射した後に過酸化水素水を添加しているため、過酸化水素水の作用によるキトサン分解生成物の分子量のコントロールや過酸化水素水の添加濃度の調整を容易に行うことができる。したがって、植物への植物活力剤の添加方法や植物の栽培形態に応じてキトサンの処理溶液を適宜調整して使い分けて使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】シードパック水耕テストにおける花き類へのキトサンの処理溶液の添加効果を示す図である。
【図2】シードパック水耕テストにおける芝類へのキトサンの処理溶液の添加効果を示す図である。
【図3】ノウバウエルポットテストにおける茎葉菜類へのキトサンの処理溶液の散布効果を示す図である。
【図4】シクラメン萎ちょう病へのキトサンの処理溶液の散布効果を示す図である。
【図5】ポット栽培テストにおける芝類へのキトサンの処理溶液の散布効果を示す図である。
【図6】シードパック水耕テストにおける芝類へのキトサンの処理溶液の添加効果を示す図である。
【図7】シードパック水耕テストにおける茎葉菜類へのキトサンの処理溶液の添加効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、エビやカニ等の甲殻類に含まれるキチンを脱アセチル化して得られたキトサンを溶液状態もしくは乾燥(粉末)状態で放射線照射し、次いで過酸化水素水を添加したものをキトサンの処理溶液として得る。このように本発明では、キトサンへの放射線照射および過酸化水素水の添加を必須としており、これによって得たキトサンの処理溶液が従来品よりも植物の生育促進に顕著な効果を示す。その理由としては、放射線照射および過酸化水素水を併用することにより、植物の生育を促進するのに最適な分子量までキトサンが低分子量化されたためと考えられる。放射線照射および過酸化水素水の添加のいずれか一方を欠いた場合でも植物促進の効果はみられるが、本発明で得られるキトサンの処理溶液にみられるような効果にはおよばない。
【0015】
キトサンに照射する放射線は、γ線、電子線、エックス線等であり、線量5〜300kGyの範囲でキトサンに照射することが考慮される。
【0016】
キトサンへの放射線照射は、本発明では上記のとおり、キトサンを溶液状態もしくは乾燥(粉末)状態で行っている。溶液状態で行う場合、例えば、粉末状のキトサンを酢酸、蓚酸やラク酸等の弱酸性液に溶解してキトサン溶解液を調製した後、このキトサン溶解液に放射線を照射している。ここで、キトサン溶解液のキトサン濃度は特に限定されるものではないが、後工程で過酸化水素水を添加して効果的に低分子量化し、植物を効率的に促進させることが可能な植物活力剤を得るという観点からは、3〜15w/v%、より好ましくは5〜10w/v%の割合に調製することが望ましい。キトサンをいずれの状態にして放射線照射するかは、コスト、処理効率や管理のしやすさ等から適宜選択すればよい。溶液状態で放射線照射する場合には、キトサン濃度や相状態にもよるが、例えば、キトサン濃度が3〜15w/v%のキトサン溶解液には5〜100kGy程度の低線量で済むという利点がある。また、後工程では過酸化水素水を添加するだけで済むなど、後工程の簡略化が図れるという利点もある。乾燥状態で放射線照射する場合には、100〜300kGy程度の高線量であることが望まれるが、大量処理が容易であるという利点がある。
【0017】
過酸化水素水の添加は、キトサンへの放射線照射を溶液状態で行った場合には、放射線照射した後のキトサン溶解液に過酸化水素水を適量添加するようにする。キトサンへの放射線照射を乾燥状態で行った場合には、後工程で添加する過酸化水素水で効果的に低分子量化するためにも、放射線照射したキトサンの粉末を、例えば、3〜15w/v%、より好ましくは5〜10w/v%の割合で酢酸、蓚酸やラク酸等の弱酸性液に溶解してキトサン溶解液を調製した後、このキトサン溶解液に過酸化水素水を適量添加するようにする。
【0018】
過酸化水素水の添加量は、例えば、キトサン粉末が3〜15w/v%の割合で溶解している溶解液を放射線照射した後に過酸化水素水を添加する場合、過酸化水素水(31w/v%濃度基準)を0.1〜5v/v%、より好ましくは0.5〜1v/v%の割合で添加することが望ましい。放射線照射したキトサンの粉末が3〜15w/v%の割合で溶解している溶解液に過酸化水素水を添加する場合にも過酸化水素水(31w/v%濃度基準)を0.1〜5v/v%、より好ましくは0.5〜1v/v%の割合で添加することが望ましい。過酸化水素水をその範囲よりも多量に添加しても過酸化水素水の作用によるキトサンの低分子量化の効果はあまり向上せず、また、過酸化水素水の添加量が過少である場合には植物の生育を促進するのに最適な分子量までキトサンを低分子量化することができず好ましくない。
【0019】
以上のようにして得られたキトサンの処理溶液は植物活力剤として顕著な効果を奏する。例えば、このキトサンの処理溶液をそのまま、もしくは必要に応じて水で希釈し、これを植物に散布もしくは潅注することにより、植物の組織培養が効果的に行われ、また、植物の害虫や病原菌に対しても有効な抗菌活性を示すなど抗菌剤としての効果を奏して植物の生育が促進され、農作物栽培や緑地管理を行う上で重要な因子となる生育速度、生存率を向上させることができる。キトサンの処理溶液の希釈は、例えば、前記キトサン粉末もしくは放射線照射したキトサン粉末を基準にキトサン濃度1〜100ppm、好ましくは10〜100ppm程度にすることが可能であり、10ppmのような低濃度でも植物の生育促進に顕著な効果がみられる。
【0020】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において各種の変更が可能である。以下、本発明の実施例を具体的に説明する。
【実施例】
【0021】
<実施例1>
カンパニュラ、カーネーションについて、初期生育期の生存率に対するキトサンの処理溶液の添加効果を調べた。
【0022】
キトサンは脱アセチル化度80%の市販品を用い、これを2.5v/v%氷酢酸水溶液に溶解してキトサン濃度5.0w/v%の溶解液を得た。この溶解液にγ線(50kGy)を照射した後、過酸化水素水(31w/v%)を1.0v/v%の割合で添加してキトサンの処理溶液を得た。このキトサンの処理溶液の分子量を測定したところ、2×10であった。また、放射線照射する前のキトサンの溶解液(過酸化水素水添加なし)の分子量、その溶解液に放射線を照射した後の溶解液(過酸化水素水添加なし)の分子量、および放射線照射する前のキトサンの溶解液に過酸化水素水(31w/v%)を1.0v/v%の割合で添加した溶解液の分子量についても測定したところ、キトサンの処理溶液の分子量が最も小さく、放射線を照射した後の溶解液の分子量が2番目に小さく、最も分子量が大きいのが放射線照射する前のキトサンの溶解液であることを確認した。この結果から放射線照射と過酸化水素水を併用することにより、キトサンが最も低分子量化されたことがわかる。
【0023】
以上のようにして得たキトサンの処理溶液を、溶解液調製時のキトサンを基準にして100ppm(0.01w/v%)に水で希釈した溶液(以下、「照射キトサン」と表記)を準備し、以下の試験に用いた。
【0024】
脱イオン水中に種子を浸漬し、同時期に発芽したものを検体とした。多湿条件となる水耕培地に発芽した検体を移植し、照射キトサンを添加した培地を用いて、カンパニュラについては48日間、カーネーションについては22日間栽培したときの各50株あたりの生存率の測定結果(シードパック水耕テストにおける花き類への照射キトサンの添加効果)を、表1および図1に示した。また、キトサンの処理溶液を培地に添加しなかった測定結果(「ブランク」と表記)と、キトサン濃度5.0w/v%の溶解液にγ線を照射せずに過酸化水素水(31w/v%)を1.0v/v%の割合で添加したものを、溶解液調製時のキトサンを基準にして100ppmに水で希釈した溶液(「未照射キトサン」と表記)を培地に添加した測定結果も併せて表1および図1に示した。
【0025】
【表1】

【0026】
表1および図1の結果から、照射キトサンの添加により初期生育期の生存株数が増えることが明らかとなった。また、照射キトサンの添加は、未照射キトサンの添加に比べて効果が増すことが明らかとなった。
<実施例2>
ペレニアルライグラスについて、発芽後の初期生育に対するキトサンの処理溶液の添加効果を調べた。
【0027】
キトサンの処理溶液は、実施例1で用いた希釈溶液としての「照射キトサン」と「未照射キトサン」を用いた。なお、実施例2ではそれぞれ「γ線照射100ppm」、「電子線照射100ppm」と表記する。
【0028】
また、実施例1で用いたキトサンを乾燥状態で電子線(210kGy)を照射し、電子線照射したキトサンの濃度が10.0w/v%になるように2.5v/v%氷酢酸水溶液に溶解した溶解液を調製し、さらにこの溶解液に過酸化水素水(31w/v%)を1.0v/v%の割合で添加してキトサンの処理溶液を得た。このキトサンの処理溶液の分子量を測定したところ、1×10であった。
【0029】
以上のようにして得たキトサンの処理溶液を、溶解液調製時のキトサンを基準にして100ppm(0.01w/v%)に水で希釈した溶液(以下、実施例2において「電子線照射100ppm」と表記)を準備した。
【0030】
また、電子線照射したキトサンを10.0w/v%になるように溶解し、かつ、過酸化水素水を添加していない溶解液の分子量、電子線照射していないキトサンを10.0w/v%になるように溶解し、かつ、過酸化水素水を添加していない溶解液の分子量、並びに、電子線照射をしていないキトサンを10.0w/v%になるように溶解し、かつ、過酸化水素水(31w/v%)を1.0v/v%の割合で添加した溶解液の分子量についても測定したところ、実施例1と同様に、電子線照射と過酸化水素水を併用することにより、キトサンが最も低分子量化することを確認した。
【0031】
実施例1に示した方法で発芽させた検体を水耕培地に移植し、γ線照射100ppm、未照射100ppm、電子線照射100ppmをそれぞれ添加した培地を用いて、14日間栽培したときの、各50株あたりの草丈、根長の測定結果(シードパック水耕テストにおける芝類への照射キトサンの添加効果)を表2および図2に示した。また、キトサンの処理溶液を培地に添加しなかった測定結果(「ブランク」と表記)も併せて表2および図2に示した。
【0032】
【表2】

【0033】
表2および図2の結果から、根長・草丈ともに、各キトサンの処理溶液の添加によって、初期生育が促進されることが明らかになった。また、γ線照射100ppmおよび電子線照射100ppmの添加は、未照射100ppmの添加に比べて効果的であることが明らかとなった。さらに、γ線照射100ppmと電子線照射100ppmでは、電子線照射100ppmの添加がより効果的であることが明らかとなった。
<実施例3>
コマツナ・ミズナ・ホウレンソウ・シュンギクの生育に対するキトサンの処理溶液の添加効果を調べた。
【0034】
キトサンの処理溶液は、実施例1で用いた希釈溶液としての「照射キトサン」を用いた。
【0035】
ノウバウエルポットに、市販の育苗培土(N―P―K:180mg−120mg−220mg/1L)に播種し、発芽後に間引きを行った後、照射キトサンを250ml/m2散布して、それぞれ33日間栽培したときの、各8株あたりの茎葉乾燥重量の測定結果(ノウバウエルポットテストにおける茎葉菜類への照射キトサンの添加効果)を表3および図3に示した。また、キトサンの処理溶液を培地に添加しなかった測定結果(「ブランク」と表記)も併せて表3および図3に示した。
【0036】
【表3】

【0037】
表3および図3の結果から、いずれの場合にも、照射キトサンの添加によって、茎葉部の生育が促進されることが明らかとなった。
<実施例4>
シクラメンの夏期の萎ちょう病(糸状菌、Fusarium.oxysporum)発症に対するキトサンの処理溶液の添加効果を調べた。
【0038】
キトサンの処理溶液は、実施例1で用いた希釈溶液としての「照射キトサン」を用いた。
【0039】
慣行栽培株に照射キトサンを250ml/m2散布して、53日間栽培したときの、各100株あたりの萎ちょう病発症株(廃棄株)数の推移(シクラメンへの照射キトサンの添加効果)を表4および図4に示した。
【0040】
【表4】

【0041】
表4および図4の結果から、調査日数の経過とともに、照射キトサンの添加が萎ちょう病の発症を抑制することが明らかとなった。
<実施例5>
イチゴの夏期の輪斑病(糸状菌、Dendrophoma.obscurans)発症に対するキトサンの処理溶液の添加効果を調べた。
【0042】
キトサンの処理溶液は、実施例1で用いた希釈溶液としての「照射キトサン」を用いた。
【0043】
慣行栽培株に照射キトサンを300ml/m2散布し、52日間栽培したときの、各50株あたりの輪斑病の病斑数の推移(イチゴへの照射キトサンの添加効果)を表5に示した。
【0044】
【表5】

【0045】
表5の結果から、各調査日で、発症株数の変化は無いものの、照射キトサンの添加が、輪斑病の発症を抑制することが明らかとなった。
<実施例6>
クリーピングベントグラスの初期生育に対するキトサンの処理溶液の添加効果を調べた。
【0046】
キトサンの処理溶液は、実施例1で用いた希釈溶液としての「照射キトサン」を用いた。
【0047】
プランタポットに、市販の青森砂を用いて発芽させ、発芽後に100ppm照射キトサンを300ml/m2散布し、57日間栽培したときの、各8サンプルあたりの芽数、根長の測定結果(ポット栽培テストにおける芝類への照射キトサンの添加効果)を表6および図5に示した。
【0048】
【表6】

【0049】
表6および図5の結果から、芽数、根長ともに、照射キトサンの添加によって促進されることが明らかとなった。
<実施例7>
芝類のペレニアルライグラスの生育に対するキトサンの処理溶液の添加効果を調べた。
【0050】
キトサンは脱アセチル化度80%の市販品を用い、これを2.5v/v%氷酢酸水溶液に溶解してキトサン濃度5.0w/v%の溶解液を得た。この溶解液にγ線(50kGy)を照射した後、過酸化水素水(31w/v%)を0.5v/v%の割合で添加してキトサンの処理溶液を得た。このキトサンの処理溶液の分子量を測定したところ、2×10であった。
【0051】
以上のようにして得たキトサンの処理溶液を、溶解液調製時のキトサンを基準にして100ppm(0.01w/v%)、50ppm(0.005w/v%)、10ppm(0.001w/v%)に水で希釈した溶液(表7および図6では「γ+H」と表記)をそれぞれ準備し、以下の試験に用いた。
【0052】
また、前記キトサンを2.5v/v%氷酢酸水溶液に溶解してキトサン濃度5.0w/v%の溶解液とし、この溶解液にγ線(50kGy)を照射したものを、溶解液調製時のキトサンを基準にして100ppm(0.01w/v%)、50ppm(0.005w/v%)、10ppm(0.001w/v%)に水で希釈した溶液(表7および図6では「γ線」と表記)をそれぞれ準備し、以下の試験に用いた。
【0053】
脱イオン水中に種子を浸漬し、同時期に発芽した検体を水耕培地に移植し、キトサンの処理溶液を100ppm、50ppm、10ppmに希釈した溶液を添加した培地を用いて、ペレニアルライグラスを7日間栽培したときの、各15株あたりの植物体乾燥重・根長・草丈の測定結果(シードパック水耕テストにおける芝類への過酸化水素水を加えた照射キトサンの添加効果)を表7および図6に示した。
【0054】
【表7】

【0055】
表7および図6の結果から、根部の生育・植物体乾燥重ともに、過酸化水素水の添加が照射キトサンの植生育促進効果をさらに高めることが明らかとなった。また、γ線照射キトサンの生育促進効果は添加濃度が低くなるにつれて低下していくのに対し、過酸化水素水を加えた場合は、10ppm程度でも根部・葉身の生育、植物体乾燥重が低下せず、低濃度の添加でも生育促進効果を維持できることが明らかとなった。
<実施例8>
茎葉菜類のコマツナの生育に対するキトサンの処理溶液の添加効果を調べた。
【0056】
キトサンは脱アセチル化度80%の市販品を用い、これを乾燥状態で電子線(210kGy)を照射し、電子線照射したキトサンの濃度が10.0w/v%になるように2.5v/v%氷酢酸水溶液に溶解した溶解液を調製し、さらにこの溶解液に過酸化水素水(31w/v%)を1.0v/v%の割合で添加してキトサンの処理溶液を得た。このキトサンの処理溶液の分子量を測定したところ、1×10であった。
【0057】
以上のようにして得たキトサンの処理溶液を、溶解液調製時のキトサンを基準にして100ppm(0.01w/v%)、25ppm(0.0025w/v%)、10ppm(0.001w/v%)に水で希釈した溶液(表8および図7では「EB+H」と表記)をそれぞれ準備し、以下の試験に用いた。
【0058】
また、前記キトサンを乾燥状態で電子線(210kGy)を照射し、電子線照射したキトサンの濃度が10.0w/v%になるように2.5v/v%氷酢酸水溶液に溶解したものを、溶解液調製時のキトサンを基準にして100ppm(0.01w/v%)、25ppm(0.0025w/v%)、10ppm(0.001w/v%)に水で希釈した溶液(表8および図7では「EB」と表記)をそれぞれ準備し、以下の試験に用いた。
【0059】
実施例7に示した方法で発芽させた検体を水耕培地に移植し、キトサンの処理溶液を100ppm、25ppm、10ppmに希釈した溶液を添加した培地を用いて、コマツナについては6日間、栽培したときの、各15株あたりの植物体乾燥重の測定結果(シードパック水耕テストにおける茎葉菜類への過酸化水素水を加えた照射キトサンの添加効果)を表8および図7に示した。また、キトサンの処理溶液を培地に添加しなかった測定結果(「ブランク」と表記)と、電子線照射しなかったキトサンを10.0w/v%になるように2.5v/v%氷酢酸水溶液に溶解た溶解液を調製し、さらに過酸化水素水(31w/v%)を1.0v/v%の割合で添加したキトサンの処理溶液(「未照射」と表記)を、溶解液調製時のキトサンを基準にして100ppm、25ppm、10ppmに水で希釈した溶液をそれぞれ培地に添加した測定結果も併せて表8および図7に示した。
【0060】
【表8】

【0061】
表8および図7の結果から、植物全体の生育で、いずれも未照射、未添加に比べて生育が促進されることが明らかとなった。照射キトサンの比較では、いずれの濃度においても、過酸化水素水を加えた場合には、電子線照射のみの場合よりもさらに生育が促進されることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キトサンの処理溶液からなる植物活力剤の製造方法であって、キトサン粉末の溶解液を放射線照射した後に、もしくは放射線照射したキトサン粉末を溶解した後に、過酸化水素水を添加することを特徴とする植物活力剤の製造方法。
【請求項2】
キトサンの処理溶液が、キトサン粉末が3〜15w/v%の割合で溶解している溶解液を放射線照射した後に、過酸化水素水(31w/v%濃度基準)を0.1〜5v/v%の割合で添加したものであることを特徴とする請求項1に記載の植物活力剤の製造方法。
【請求項3】
キトサンの分解生成物の溶液が、放射線照射したキトサン粉末が3〜15w/v%の割合で溶解している溶解液に、過酸化水素水(31w/v%濃度基準)を0.1〜5v/v%の割合で添加したものであることを特徴とする請求項1に記載の植物活力剤の製造方法。
【請求項4】
照射する放射線が、γ線、電子線またはX線であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の植物活力剤の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかの方法で得られた植物活力剤を用いることを特徴とする植物育成方法。
【請求項6】
植物活力剤を前記キトサン粉末もしくは放射線照射したキトサン粉末基準でキトサン濃度1〜100ppmに希釈して用いることを特徴とする請求項5に記載の植物育成方法。

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−208995(P2010−208995A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−57119(P2009−57119)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(306033656)株式会社アズビオ (2)
【Fターム(参考)】