説明

植物生長調節作用を示す新規化合物及びそれらの製造方法

【課題】 植物生長調節作用を有する新規化合物の開発。
【解決手段】 新規化合物である、3−(3−ターシャリアミル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、3−ターシャリアミル−4−ヒドロキシ桂皮酸、3−(3−イソプロピル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸及び3−イソプロピル−4−ヒドロキシ桂皮酸からなる群から選択される少なくとも一種を、植物の生長調節のために使用する。また、上記4種の新規化合物の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の生長促進又は抑制作用を示す新規化合物4種と、それらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者らは、廃プラスチックからの抽出物の生理作用を研究していた。その際に、従来公知の植物生長促進剤であるオーキシンともジベレリンとも異なる3−(4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸系化合物が、植物生長促進作用を示すことを見出した。そこで、3−(4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸系化合物であって、フェニル基に種々の置換基を有するものの合成を試みた。なお、3−(4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸のフェノール性水酸基が保護されてなる化合物については、特許文献1に開示がある。
【0003】
また、本発明者らは、前記プロピオン酸系化合物において、プロピオン酸の1位及び2位の炭素間が二重結合となった4−ヒドロキシ桂皮酸系化合物であって、フェニル基に種々の置換基を有するものの合成も試みた。なお、ベンゼン環の4位が置換された桂皮酸エステルについては、その製造方法が、特許文献2及び3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−29533
【特許文献2】特開平6−312956
【特許文献3】特開平7−252192
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、3−(4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸系化合物や、その関連化合物である4−ヒドロキシ桂皮酸系化合物であって、植物生長促進又は抑制作用を示す化合物を見出すことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、3−(4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸系化合物と、その関連化合物である4−ヒドロキシ桂皮酸系化合物であって、ベンゼン環に3−ターシャリアミル基が導入された化合物とイソプロピル基が導入された化合物とを合成した。そして、合成された化合物が植物生長促進又は抑制作用を示すか否かを検討し、その結果として、本件発明を完成させた。なお、以下に示す本件発明に係る化合物4種は、いずれも、Chemical Abstract及びSciFinder Scholarによると、新規化合物である。
【0007】
即ち、本発明は、下記式Aで示される3−(3−ターシャリアミル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸に関する。
【化1】

【0008】
また、本発明は、下記式Bで示される3−ターシャリアミル−4−ヒドロキシ桂皮酸に関する。
【化2】

【0009】
さらに、本発明は、下記式Cで示される3−(3−イソプロピル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸に関する。
【化3】

【0010】
加えて、本発明は、下記式Dで示される3−イソプロピル−4−ヒドロキシ桂皮酸に関する。
【化4】

【0011】
本発明は、上記式A乃至Dで示される化合物中の少なくとも一種を含有する植物生長調節剤に関する。ここで、「植物生長調節剤」とは、植物生長促進剤と植物生長抑制剤の両者を包含する概念である。同じ化合物であっても、対象とする植物の種類や使用時の濃度により、植物生長促進剤として働く場合と植物生長抑制剤として働く場合がある。
【0012】
本発明は、下記工程(I)乃至(III)を経る、3−(3−ターシャリアミル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸又は3−(3−イソプロピル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸の製造方法に関する:
(I)パラ位にアルデヒド基、オルト位に置換基(但し、置換基はターシャリアミル基又はイソプロピル基である)を有するフェノールのフェノール性水酸基に保護基を導入する工程;
(II)アルデヒド基をアクリル酸基に変換する工程;及び
(III)保護基をはずすと共に、アクリル基に水素添加をする工程。
【0013】
また、本発明は、下記工程(i)を経る、3−ターシャリアミル−4−ヒドロキシ桂皮酸又は3−イソプロピル−4−ヒドロキシ桂皮酸の製造方法に関する:
(i)パラ位にアルデヒド基、オルト位に置換基(但し、置換基はターシャリアミル基又はイソプロピル基である)を有するフェノールのアルデヒド基をアクリル酸基に変換する工程。
【0014】
上記二種類の製造方法の各々は、さらに、原料であるパラ位にアルデヒド基、オルト位に置換基(但し、置換基はターシャリアミル基又はイソプロピル基である)を有するフェノールを得るための、メタ位に当該置換基を有するフェノールのパラ位にアルデヒド基を導入する工程を含むものであってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、4種の新規化合物が提供される。これらの化合物は、植物の生長調節作用を示すので、植物生長調節剤の選択肢が広がる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】3−ターシャリアミル−4−ヒドロキシベンツアルデヒドのH−NMRのチャートである。
【図2】3−ターシャリアミル−4−ヒドロキシベンツアルデヒドのマススペクトルである。
【図3】3−ターシャリアミル−4−ベンジルオキシベンツアルデヒドのH−NMRのチャートである。
【図4】3−ターシャリアミル−4−ベンジルオキシ桂皮酸のH−NMRのチャートである。
【図5】3−(3−ターシャリアミル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸のH−NMRのチャートである。
【図6】3−(3−ターシャリアミル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸のマススペクトルである。
【図7】3−ターシャリアミル−4−ヒドロキシ桂皮酸のH−NMRのチャートである。
【図8】3−ターシャリアミル−4−ヒドロキシ桂皮酸のマススペクトルである。
【図9】3−イソプロピル−4−ヒドロキシベンツアルデヒドのH−NMRのチャートである。
【図10】3−イソプロピル−4−ヒドロキシベンツアルデヒドのマススペクトルである。
【図11】3−イソプロピル−4−ベンジルオキシ桂皮酸のH−NMRのチャートである。
【図12】3−(3−イソプロピル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸のH−NMRのチャートである。
【図13】3−(3−イソプロピル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸のマススペクトルである。
【図14】3−イソプロピル−4−ヒドロキシ桂皮酸のH−NMRのチャートである。
【図15】3−イソプロピル−4−ヒドロキシ桂皮酸のマススペクトルである。
【図16】化合物A及びBを使用して栽培したカイワレ大根の胚軸長の測定結果を示すグラフである。
【図17】化合物A及びBを使用して栽培したブロッコリーの胚軸長の測定結果を示すグラフである。
【図18】化合物A及びBを使用して栽培したマスタードの胚軸長の測定結果を示すグラフである。
【図19】化合物A及びBを使用して栽培したカイワレ大根の新鮮重量の測定結果を示すグラフである。
【図20】化合物A及びBを使用して栽培したブロッコリーの新鮮重量の測定結果を示すグラフである。
【図21】化合物A及びBを使用して栽培したマスタードの新鮮重量の測定結果を示すグラフである。
【図22】化合物A及びBを使用して栽培したカイワレ大根の乾燥重量の測定結果を示すグラフである。
【図23】化合物A及びBを使用して栽培したブロッコリーの乾燥重量の測定結果を示すグラフである。
【図24】化合物A及びBを使用して栽培したマスタードの乾燥重量の測定結果を示すグラフである。
【図25】化合物A,B,C及びDを使用して栽培したレタス種子根の長さの測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る化合物は、上記化学式A乃至Dで示される4種である。これらはいずれも、新規化合物である。以下においては、これらの各々について、化合物A、化合物B、化合物C、化合物Dということがある。
【0018】
化合物Aの分子式はC1420であり、分子量は238である。また、その外観は無色乃至白色針状結晶である。化合物Bの分子式はC1418であり、分子量は234である。また、その外観はやや着色した結晶である。化合物Cの分子式はC1216であり、分子量は208である。また、その外観は白色針状結晶である。化合物Dの分子式はC1214であり、分子量は206である。また、その外観はやや着色した結晶である。
【0019】
次に、これらの化合物の製造方法について説明する。先ず、化合物A及びC、すなわち本発明におけるプロピオン酸系化合物の製造方法について、以下の反応経路図を参照しながら説明する。
【0020】
【化5】

【0021】
本発明のプロピオン酸系化合物の製造方法では、パラ位にアルデヒド基、オルト位に置換基(但し、置換基はターシャリアミル基又はイソプロピル基である)を有するフェノール(化合物(2))、すなわち、3−ターシャリアミル−4−ヒドロキシベンツアルデヒド又は3−イソプロピル−4−ヒドロキシベンツアルデヒドを原料として用いる。
【0022】
ここで、化合物(2)を得る方法は限定されないが、化合物(2)は、例えば、2−ターシャリアミルフェノール又は2−イソプロピルフェノール(化合物(1))を出発物質として、工程(0)によって合成することができる。具体的には、クロロホルムと塩基(例えばNaOHやKOH)から発生させたジクロロカルベン(:CCl)を活性種として、ベンゼン環の炭素に結合している水素をアルデヒド基に変換する(ライマー・チーマン反応)。
【0023】
このほか、ガッターマン・コッホ反応、ガッターマン反応、ビルスマイヤー・ハック反応、ダフ反応、フリーデル・クラフツ反応、有機リチウムを中間体とする反応等の公知の反応により、芳香族基にアルデヒド基を導入する(ホルミル化する)ことができる。
【0024】
工程(I)は、化合物(2)のフェノール性水酸基に保護基を導入する工程である。この工程では、一般に水酸基の保護に使用されている基で、水酸基の水素を置換する。保護のために導入される基の具体例としては、ベンジル基、メチル基、p−メトキシベンジル基、tert−ブチル基、メトキシメチル基、トリメチリシリル基、トリエチリシリル基、tert−ブチルジメチリシリル基、アセチル基、ベンゾイル基、トリチル基等が挙げられる。保護基は、脱保護条件を加味して選択する。本発明においては、工程(III)で炭素−炭素二重結合への水素添加と同時に脱保護を行えるという観点から、ベンジル基で保護することが好ましい。
【0025】
工程(II)は、フェノール性水酸基が保護された化合物、例えば3−ターシャリアミル−4−ベンジルオキシベンツアルデヒドや3−イソプロピル−4−ベンジルオキシベンツアルデヒド(化合物(3))のアルデヒド基を、アクリル酸基に変換する工程である。ここでは、ジカルボン酸であるマロン酸を、アルデヒド基と反応させ、アクリル酸基に変換している。このようにして、3−ターシャリアミル−4−ベンジルオキシ桂皮酸又は3−イソプロピル−4−ベンジルオキシ桂皮酸(化合物(4))が得られる。
【0026】
工程(III)は、フェノール性水酸基の保護基をはずすと共に、アクリル基に水素添加をする工程である。これは、化合物(4)を触媒を用いた水素添加反応に供すればよい。この工程により、3−(3−ターシャリアミル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸又は3−(3−イソプロピル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸(化合物(5))が合成される。
【0027】
続いて、化合物B及びD、すなわち本発明における桂皮酸系化合物の製造方法について、以下の反応経路図を参照しながら説明する。
【0028】
【化6】

【0029】
本発明の桂皮酸系化合物の製造方法では、先に説明した化合物(2)、すなわち、3−ターシャリアミル−4−ヒドロキシベンツアルデヒド又は3−イソプロピル−4−ヒドロキシベンツアルデヒドから、一工程(工程(i))で、目的物質である3−ターシャリアミル−4−ヒドロキシ桂皮酸又は3−イソプロピル−4−ヒドロキシ桂皮酸を得る。化合物(2)の製造方法は、先に説明したとおりである。
【0030】
芳香族アルデヒドとカルボン酸無水物が、塩基性条件下、脱水縮合を生じる反応は、パーキン反応として知られている。
【0031】
本発明に係る製造方法を実施するに際し、反応時の条件は、反応毎に、有機合成の一般的な条件を参照して決定する。また、反応混合物からの目的物質の取得や精製は、溶媒抽出、クロマトグラフィーの利用、再結晶等の、公知の方法によればよい。
【0032】
本発明の新規化合物は、植物生長調節剤として有用である。前記したように、これらの化合物は、対象とする植物の種類により、又、その使用時の濃度により、生長促進剤として作用する場合もあれば、生長抑制剤として作用する場合もある。したがって、その使用時の濃度は、対象とする植物の種類や目的(促進か抑制か)に応じて決定することとなる。例えば、生長促進剤として使用する場合の濃度は0.1〜100ppm程度であり、生長抑制剤として使用する場合の濃度は10〜200ppm程度である。
【0033】
また、本発明の新規化合物は、水への溶解度が小さいため、予め有機溶媒に溶解させた上で、水で希釈したり、乳剤として使用することが好ましい。
【実施例】
【0034】
以下に、実施例により、本発明を具体的に説明する。先ず本発明化合物の合成について記載する。
【0035】
(実施例1)3−(3−ターシャリアミル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸[3−(3−tert.−Amyl−4−hydroxyphenyl)propionic acid;分子量:236](化合物A)の合成
[化5]に示した反応経路図に従って、化合物(1)から、目的とする化合物A(反応経路図では化合物(5)(但し、Rはターシャリアミル基である))を合成した。
【0036】
(1)3−ターシャリアミル−4−ヒドロキシベンツアルデヒド[3−tert.−Amyl−4−hydroxybenzaldehyde;分子量:192](化合物(2))の合成
2−ターシャリアミルフェノール(8.2g;0.05mol)(化合物(1))のメタノール(40ml)溶液に、水酸化ナトリウム(30g)の水(40ml)溶液を加えた。得られた溶液の内温が60℃となるように水浴の温度を調節し、当該溶液に、クロロホルム(10g)を1時間かけて滴下した。反応混合物を同温度に更に3時間保持し、その後氷冷した。得られた反応混合物に、4N塩酸を加え、pHを5〜6とした。次いで、不溶物を含めてクロロホルム抽出を行い、クロロホルム層を分取し、硫酸マグネシウムで乾燥した。クロロホルムを留去し、残渣を少量の塩化メチレンに溶解させた。この溶液をシリカゲルカラムムロマトグラフィーに付し、ヘキサン・酢酸エチル混液(4:1;容量比)にて溶出させ、目的物(4.8g;収率50%)(化合物(2))を得た。
得られた化合物(2)のH−NMRのチャートを図1に、またマススペクトルを図2に示す。
【0037】
(2)3−ターシャリアミル−4−ベンジルオキシベンツアルデヒド[3−tert.−Amyl−4−benzyloxybenzaldehyde;分子量:282](化合物(3))の合成
(1)で合成した化合物(2)(3.84g;0.02mol)、塩化ベンジル(2.77g;0.022mol)及び炭酸カリウム(4.14g;0.03mol)を、ジメチルホルムアミド(DMF;20ml)中において、120℃にて1時間反応させた。反応混合物を放冷させ、室温になったところで精製水(100ml)を添加した。次いで、不溶物を含めて酢酸エチル抽出を行い、酢酸エチル層を分取し、水及び食塩水にて洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。酢酸エチルを留去し、残渣として目的物(5.1g;収率90%)(化合物(3))を得た。
得られた化合物(3)のH−NMRのチャートを図3に示す。
【0038】
(3)3−ターシャリアミル−4−ベンジルオキシ桂皮酸[3−tert.−Amyl−4−benzyloxycinnamic acid;分子量:324](化号物(4))の合成
(2)で合成した化合物(3)(2.82g;0.01mol)、マロン酸(1.25g;0.012mol)及びピペリジン(100mg)を、ピリジン(10ml)中において、約100℃にて5時間反応させ、その氷冷した。得られた反応混合物に、2N塩酸を加え、pHを1〜2とした。次いで、不溶物を含めて酢酸エチル抽出を行い、酢酸エチル層を分取し、食塩水にて洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。酢酸エチルを留去し、残渣として目的物(化合物(4))(2.4g;収率74%)を得た。
得られた化合物(4)のH−NMRのチャートを図4に示す。
【0039】
(4)3−(3−ターシャリアミル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸[3−(3−tert.−Amyl−4−hydroxyphenyl)propionic acid;分子量:236](化合物(5))の合成
(1)〜(3)を繰り返し行い、得られた化合物(4)を合一させた。そのような化合物(4)(3.2g;0.01mol)を、テトラヒドロフラン(THF)・メタノール混液(5:1;容量比)50mlに溶解させた。得られた溶液に、10%パラジウム炭素触媒(500mg)を加え、加圧(4kg/cm)下で水素添加反応を行った。反応終了後、反応混合物をセライト濾過し、濾液を減圧下に濃縮した。残留物を少量の塩化メチレンに溶解させた。この溶液をシリカゲルカラムムロマトグラフィーに付し、クロロホルム・メタノール混液(50:1;容量比)にて溶出させ、目的物(化合物(5)(2.0g;収率84.7%)を得た。
【0040】
得られた化合物(5)は、白色針状結晶であり、シリカゲルGの薄層クロマトグラフィ(展開溶媒:クロロホルム/メタノール=10/1)で、単一スポット(Rf=0.7)であった。また、この化合物のH−NMRのチャートを図5に、マススペクトルを図6に示す。
【0041】
(実施例2)3−ターシャリアミル−4−ヒドロキシ桂皮酸[3−tert.−Amyl−4−hydroxycinnamic acid;分子量:234](化合物B)の合成
[化6]に示した反応経路図に従って、化合物(2)から、目的とする化合物B(反応経路図では化合物(6)(但し、Rはターシャリアミル基である))を合成した。
【0042】
実施例1(1)に記載の方法で合成した3−ターシャリアミル−4−ヒドロキシベンツアルデヒド(3.8g;0.02mol)、無水酢酸(10ml)及び炭酸カリウム(3.5g;0.025mol)を、油浴中、120〜130℃にて3時間反応させた。放冷後、反応混合物に蒸留水(20ml)を加えた。その後、減圧下に溶媒を留去し、残渣を10%水酸化ナトリウム水溶液(10ml)に溶解させた。この状態で、室温にて2時間反応させた。得られた反応混合物に10%塩酸を加え、pHを2〜3とした。次いで、不溶物を含めてクロロホルム抽出を行い、クロロホルム層を分取し、硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下にクロロホルムを留去し、残渣を少量の塩化メチレンに溶解させた。この溶液をシリカゲルカラムムロマトグラフィーに付し、クロロホルム・メタノール混液(20:1;容量比)にて溶出させ、目的物(化合物(6))(4.0g;収率85%)を得た。
【0043】
得られた化合物(6)は、やや着色した結晶であり、シリカゲルGの薄層クロマトグラフィ(展開溶媒:クロロホルム/メタノール=10/1)で、単一スポット(Rf=0.4)であった。また、この化合物のH−NMRのチャートを図7に、マススペクトルを図8に示す。
【0044】
(実施例3)3−(3−イソプロピル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸[3−(3−isopropyl−4−hydroxyphenyl)propionic acid;分子量:208](化合物C)の合成
[化5]に示した反応経路図に従って、化合物(1)から、目的とする化合物C(反応経路図では化合物(5)(但し、Rはイソプロピル基である))を合成した。
【0045】
(1)3−イソプロピル−4−ヒドロキシベンツアルデヒド[3−isopropyl−4−hydroxybenzaldehyde;分子量:164](化合物(2))の合成
2−イソプロピルフェノール(6.81g;0.05mol)のメタノール(40ml)溶液に、水酸化ナトリウム(30g)の水(40ml)溶液を加えた。得られた溶液の内温が60℃となるように水浴の温度を調節し、当該溶液に、クロロホルム(10g)を1時間かけて滴下した。反応混合物を同温度に更に3時間保持し、その後氷冷した。得られた反応混合物に、4N塩酸を加え、pHを5〜6とした。次いで、不溶物を含めてクロロホルム抽出を行い、クロロホルム層を分取し、硫酸マグネシウムで乾燥した。クロロホルムを留去し、残渣を少量の塩化メチレンに溶解させた。この溶液をシリカゲルカラムムロマトグラフィーに付し、ヘキサン・酢酸エチル混液(4:1;容量比)にて溶出させ、目的物(化合物(2))(4.1g;収率50%)を得た。
得られた化合物(2)のH−NMRのチャートを図9に、またマススペクトルを図10に示す。
【0046】
(2)3−イソプロピル−4−ベンジルオキシベンツアルデヒド[3−isopropyl−4−benzyloxybenzaldehyde;分子量:254](化合物(3))の合成
(1)で合成した化合物(2)(3.28g;0.02mol)、塩化ベンジル(2.77g;0.022mol)及び炭酸カリウム(4.14g;0.03mol)を、ジメチルホルムアミド(DMF;20ml)中において、120℃にて1時間反応させた。反応混合物を放冷させ、室温になったところで精製水(100ml)を添加した。次いで、不溶物を含めて酢酸エチル抽出を行い、酢酸エチル層を分取し、水及び食塩水にて洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。酢酸エチルを留去し、残渣として目的物(化合物(3))(5.1g;収率90%)を得た。
【0047】
(3)3−イソプロピル−4−ベンジルオキシ桂皮酸[3−isopropyl−4−benzyloxycinnamic acid;分子量:296](化合物(4))の合成
(2)で合成した化合物(3)(2.54g;0.01mol)、マロン酸(1.25g;0.012mol)及びピペリジン(100mg)を、ピリジン(10ml)中において、約100℃にて5時間反応させ、その氷冷した。得られた反応混合物に、2N塩酸を加え、pHを1〜2とした。次いで、不溶物を含めて酢酸エチル抽出を行い、酢酸エチル層を分取し、水及び食塩水にて洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。酢酸エチルを留去し、残渣として目的物(化合物(4))(2.07g;収率70%)を得た。
得られた化合物(4)のH−NMRのチャートを図11に示す。
【0048】
(4)3−(3−イソプロピル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸[3−(3−isopropyl−4−hydroxyphenyl)propionic acid;分子量:208](化合物(5))の合成
(1)〜(3)を繰り返し行い、得られた化合物(4)を合一させた。そのような化合物(4)(2.96g;0.01mol)を、テトラヒドロフラン(THF)・メタノール混液(5:1;容量比)50mlに溶解させた。得られた溶液に、10%パラジウム炭素触媒(500mg)を加え、加圧(4kg/cm)下で水素添加反応を行った。反応終了後、反応混合物をセライト濾過し、濾液を減圧下に濃縮した。残留物を少量の塩化メチレンに溶解させた。この溶液をシリカゲルカラムムロマトグラフィーに付し、クロロホルム・メタノール混液(50:1;容量比)にて溶出させ、目的物(化合物(5))(1.87g;収率90%)を得た。
【0049】
得られた化合物(5)は、白色針状結晶であり、シリカゲルGの薄層クロマトグラフィ(展開溶媒:クロロホルム/メタノール=10/1)で、単一スポット(Rf=0.7)であった。また、この化合物のH−NMRのチャートを図12に、マススペクトルを図13に示す。
【0050】
(実施例4)3−イソプロピル−4−ヒドロキシ桂皮酸[3−Isopropyl−4−hydroxycinnamic acid;分子量:206](化合物D)の合成
[化6]に示した反応経路図に従って、化合物(2)から、目的とする化合物D(反応経路図では化合物(6)(但し、Rはイソプロピル基である))を合成した。
【0051】
実施例3(1)に記載の方法で合成した3−イソプロピル−4−ヒドロキシベンツアルデヒド(1.64g;0.01mol)、無水酢酸(4.0g;0.039mol)及び炭酸カリウム(1.0g;0.0075mol)を、油浴中、120〜130℃にて3時間反応させた。放冷後、反応混合物に蒸留水(50ml)を加えた。その後、減圧下に溶媒を留去し、残渣を10%水酸化ナトリウム水溶液(30ml)に溶解させた。この状態で、室温にて2時間反応させた。得られた反応混合物に10%塩酸を加え、pHを2〜3とした。次いで、不溶物を含めてクロロホルム抽出を行い、クロロホルム層を分取し、硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下にクロロホルムを留去し、残渣を少量の塩化メチレンに溶解させた。この溶液をシリカゲルカラムムロマトグラフィーに付し、クロロホルム・メタノール混液(20:1;容量比)にて溶出させ、目的物(化合物(6))(0.8g;収率39%)を得た。
【0052】
得られた化合物(6)は、やや着色した結晶であり、シリカゲルGの薄層クロマトグラフィ(展開溶媒:クロロホルム/メタノール=10/1)で、単一スポット(Rf=0.4)であった。また、この化合物のH−NMRのチャートを図14に、マススペクトルを図15に示す。
【0053】
(実験例1)本発明化合物A及びBの植物の生長への影響
カイワレ大根、ブロッコリー及びマスタードの種子を使用し、そのスプラウト(新芽)の伸長等に対する化合物A及びBの影響を調べた。
【0054】
(1)実験条件
種子: カイワレ大根は5.0g/ポッド、ブロッコリーは2.5g/ポッド、マスタードは1.7g/ポッドの種子を使用した。
試験用液体: 0.1mg、1.0mg又は10mgの化合物(A又はB)を、ジメチルスルホキシド(DMSO)0.5mlに溶解させた。それに蒸留水99.5mlを加え、試験用液体100mlを調製した。従って、化合物の濃度は、1ppm、10ppm及び100ppmであった。コントロールとして、DMSOを0.5容量%含有する蒸留水を使用した。
【0055】
(2)栽培方法
i)種子を蒸留水に一晩浸漬させた。
ii)試験用液体100mlを入れたポッドにウレタンの保持板を入れ、その保持板上に、浸漬した種子を播いた。試験用液体1検体につき、3ポッド用意した。
iii)ポッドを発芽室(暗室;23℃)に1日(カイワレ大根の場合)又は2日(ブロッコリー及びマスタードの場合)放置して発芽させ、その後、ビニールハウス内で日光下で栽培した。
iv)播種から5日後に、植物の生長の程度を測定した。
【0056】
(3)測定方法及び結果
(3−1)胚軸長
各ポッドから3サンプルを採取した。従って、試験用液体1検体につき、9サンプルを採取したことになる。これらのサンプルについて、胚軸(スプラウトの茎の部分)の長さを測定した。
最大値と最小値を排除し、7サンプルの測定値の平均を求めた。
コントロールの測定値(これを100%とする)に対する、各試験用液体を使用した場合の測定値の割合を、図16(カイワレ大根)、図17(ブロッコリー)及び図18(マスタード)に示した。
【0057】
(3−2)新鮮重量
各試験用液体につき、3ポッド内の種子すべて(発芽しているものも発芽していないものも含む;但し、胚軸長測定用サンプルを除く)を集め、それらの総重量を測定した。
コントロールの測定値(これを100%とする)に対する、各試験用液体を使用した場合の測定値の割合を、図19(カイワレ大根)、図20(ブロッコリー)及び図21(マスタード)に示した。
【0058】
(3−3)乾燥重量
新鮮重量を測定した全サンプルを、90℃の乾燥機に入れた。1日乾燥させた後、重量を測定した。
コントロールの測定値(これを100%とする)に対する、各試験用液体を使用した場合の測定値の割合を、図22(カイワレ大根)、図23(ブロッコリー)及び図25(マスタード)に示した。
【0059】
(実験例2)本発明化合物A,B,C及びDの植物の生長への影響
レタスの種子を使用し、その根の伸長等に対する化合物A,B,C及びDの影響を調べた。
【0060】
(1)実験条件
種子: 一検体につき、レタスの種子6個を使用した。
試験用液体: 0.01mg、0.1mg、1.0mg又は10mgの化合物(A,B,C又はD)を、ジメチルスルホキシド(DMSO)0.5mlに溶解させた。それに蒸留水99.5mlを加え、試験用液体100mlを調製した。従って、化合物の濃度は、0.1ppm、1ppm、10ppm及び100ppmであった。コントロールとして、DMSOを0.5容量%含有する蒸留水を使用した。また、参照例として、蒸留水のみを使用した場合についても実験を行った。
【0061】
(2)栽培方法
i)濾紙(No.1)を敷いたシャーレに、試験用溶液2.5mlを加えた。
ii)レタスの発芽種子(根端:約3mm)6個を、濾紙上に間隔が均等となるように並べた。
iii)シャーレに蓋をし、発芽室(暗室;23℃)に1日放置した。
【0062】
(3)測定方法及び結果
各種子について、根の伸長長さを測定し、平均値を求めた。コントロールの測定値(これを100%とする)に対する、各試験用液体を使用した場合の測定値の割合を、図25に示した。いずれの化合物も、その濃度が100ppmの場合には、生長抑制剤として作用した。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明に係る新規化合物は、植物生長調節剤として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式Aで示される3−(3−ターシャリアミル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸。
【化1】

【請求項2】
下記式Bで示される3−ターシャリアミル−4−ヒドロキシ桂皮酸。
【化2】

【請求項3】
下記式Cで示される3−(3−イソプロピル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸。
【化3】

【請求項4】
下記式Dで示される3−イソプロピル−4−ヒドロキシ桂皮酸。
【化4】

【請求項5】
請求項1乃至4の化合物中の少なくとも一種を含有する植物生長調節剤。
【請求項6】
下記工程(I)乃至(III)を経る、3−(3−ターシャリアミル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸又は3−(3−イソプロピル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸の製造方法:
(I)パラ位にアルデヒド基、オルト位に置換基(但し、置換基はターシャリアミル基又はイソプロピル基である)を有するフェノールのフェノール性水酸基に保護基を導入する工程;
(II)アルデヒド基をアクリル酸基に変換する工程;及び
(III)保護基をはずすと共に、アクリル基に水素添加をする工程。
【請求項7】
さらに、工程(I)で使用するパラ位にアルデヒド基、オルト位に置換基(但し、置換基はターシャリアミル基又はイソプロピル基である)を有するフェノールを得るために、メタ位に当該置換基を有するフェノールのパラ位にアルデヒド基を導入する工程を実施する、請求項6に記載の3−(3−ターシャリアミル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸又は3−(3−イソプロピル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸の製造方法。
【請求項8】
下記工程(i)を経る、3−ターシャリアミル−4−ヒドロキシ桂皮酸又は3−イソプロピル−4−ヒドロキシ桂皮酸の製造方法:
(i)パラ位にアルデヒド基、オルト位に置換基(但し、置換基はターシャリアミル基又はイソプロピル基である)を有するフェノールのアルデヒド基をアクリル酸基に変換する工程。
【請求項9】
さらに、工程(i)で使用するパラ位にアルデヒド基、オルト位に置換基(但し、置換基はターシャリアミル基又はイソプロピル基である)を有するフェノールを得るために、メタ位に当該置換基を有するフェノールのパラ位にアルデヒド基を導入する工程を実施する、請求項8に記載の3−ターシャリアミル−4−ヒドロキシ桂皮酸又は3−イソプロピル−4−ヒドロキシ桂皮酸の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2011−201806(P2011−201806A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−69932(P2010−69932)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(310019590)
【Fターム(参考)】