説明

植物由来の生分解性天然素材

【課題】生分解性と機械的強度の両面の性質を備えた、天然の生分解性素材、該天然の生分解性素材から製造された生分解性フィルム又は容器、及び、該生分解性素材を製造するためのバインダー、及びそれらの製造方法を提供すること。
【解決手段】
コウリャンデンプンを培養原料とし、該原料にバチルス属に属する微生物を添加・培養し、高分子粘着性の物質を採取することにより、石油由来の高分子化合物には存在しない水酸基を有するセルロース様の性質を持ち、しかも、ポリプロピレン様の構造を有する天然高分子物質を得る。該天然高分子物質をバインダーとして、これにデンプン及び/又は貝殻粉末を混合することにより、セルロースに匹敵する生分解性を有し、しかもポリプロピレンの特性を備えた機械的強度の生分解性素材を得ることができる。この生分解性素材を用いて製造したフィルム又は容器は、優れた生分解性と機械的強度の両面の性質を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物由来であり、かつポリプロピレンの特徴を備えた天然高分子物質、該天然高分子物質を用いて製造されるセルロース様の生分解曲線とポリプロピレンの特徴を備え、生分解性と機械的強度の両面の性質を備えた生分解性フィルム又は容器製造用等の製造に用いられる生分解性天然素材、該天然高分子物質を主要成分とする生分解性素材製造用のバインダー、該生分解性天然素材から製造された生分解性のフィルム又は容器、及びそれらの製造方法からなる。
【背景技術】
【0002】
近年、食品や化粧品、或いは医薬品等の包装、容器、更には鉢等の園芸用品、或いは農業用資材において、プラスチック製品が使用されている。これらの使用済みプラスチック製品は、燃やすか或いはゴミとしてそのまま投棄される。しかし、これらの廃物を燃やすには、莫大な費用と、また、排ガスのような環境問題を発生する。一方、これらの廃物をそのまま投棄する場合には、これらの廃物は、自然の中で分解されにくいため、ゴミの山を築き、やはり、環境問題を発生する。そこで、昨今、自然の中での分解を容易とした、生分解性のプラスチック材料が研究され、開発されている。
【0003】
生分解性のプラスチック材料としては、生分解性のある植物材料等を、生分解性のバインダーで結合したものや、合成生分解性プラスチックを用いたもの、又は、微生物或いは微生物の生産する生分解性の高分子材料を用いるもの等、種々のものが開示されている。生分解性のある植物材料等を用いるものとしては、例えば、特開2000−229312号公報、特開2000−355008号公報、特開2001−79816号公報、及び特開2002−249981号公報に、籾殻を主成分とする植物原料粉末に、澱粉、ロジン、ダンマー、コパール、ゼラチン、シェラック等の生分解性物質からなるバインダーを用いて、加熱加圧によって圧縮成形する生分解性材料製容器について開示されている。また、特開2000−229661号公報には、葦、藁、とうもろこし、竹、コーリャン、ケナフ、椰等の葉、茎、殻、皮等を、ゼラチン湖などの食用湖を繋ぎの糊としてトレー、皿、パック、カップ等の生分解性容器を製造することについて記載されている。
【0004】
また、特開2000−327839号公報には、籾殻等の植物原料粉末に、米糠等の穀類の糠等を混合・成形し、生分解性材料製容器を製造することについて、特開2002−23262号公報には、トウモロコシ、豆類、芋、古米・雑穀、雑草等の植物繊維に、砂糖キビ、パイナップル又は海藻類等の天然素材を微細化した主材を混合し、柿シブ、コンニャク粉、松ヤニ、ウルシ等の天然素材からなるバインダーを用いて形成した生分解性プラスチックについて、特開2006−122317号公報には、古紙繊維を、澱粉糊、酵母粕、又はポリエステル系樹脂、ポリ乳酸系樹脂、天然ゴム系樹脂、ポリビニルアルコール等の生分解性バインダー結着して生分解性シートを製造することについて開示されている。
【0005】
更に、特開平7−102114号公報には、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート等のセルロースエステルと、デンプン類と可塑剤を混合して、生分解性のセルロースエステル系組成物について開示されている。合成生分解性プラスチックを用いたものとしては、例えば、特開平4−335060号公報、特開平6−340753号公報、特開2000−72961号公報、特開2001−49098号公報、及び、特開2004−299711号公報には、ポリ乳酸、ポリ乳酸のコポリマー、ポリ乳酸の樹脂混合物を用いた生分解性の樹脂組成物及び成形体について開示されている。
【0006】
また、微生物或いは微生物の生産する生分解性の高分子材料を用いるものとしては、例えば、酵母菌体を用いるものとして、特開2002−97301号公報には、加熱及び加圧により樹脂化させた酵母からなる生分解性樹脂組成物が、特開2002−167470号公報には、酵母に、ポリヒドロキシブチレートのような微生物が生産する樹脂、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリグルコール酸、ポリ乳酸、ポリビニルアルコール等の化学合成樹脂、酢酸セルロース、熱可塑化澱粉等の天然物変性樹脂等の生分解性プラスチックを混合した生分解性プラスチックが、特開平7−285108号公報には、古紙を乾式解繊した繊維に、酵母粕を混合し、加圧・加熱した木質生分解性材料が開示されている。
【0007】
更に、微生物の生産する生分解性の高分子材料を用いるものとしては、例えば、特開2005−133224号公報に、脱リグニンしたイナワラ、ムギワラ、砂糖キビのカス(バガス)、ケナフ、イビルイビル等のパルプ繊維に、アルカリゲネス・フエカリスが産生するβ−1,3−Dグルコシド多糖類、或いは黒酵母(Aureobasidium pullulans)が産生するマルトトリオース多糖類のような糖類(ガスバリア性の改善)、及びカイコの吐き出す絹糸のフィブロンやクモの吐き出すタンパク質様物質(水蒸気透過性低減)を混合し、食品容器等の成形材料として用いる生分解性樹脂成形材料について、特開2006−42699号公報には、甜菜,砂糖キビの抽出物のようなシュクロースを含む原料から、糸状菌アミロミセス・ルキシーによって、L−乳酸を製造し、L−乳酸を脱水縮合してポリ乳酸を製造するか、L−乳酸から一旦環状ラクチド(二量体)を合成し、精製を行なったのち、開環重合を行なってポリ乳酸を製造し、生分解性プラスチックについて、開示されている。
【0008】
また、微生物の生産する生分解性の高分子材料としては、バシラス・メガテリウム(Bacillus megaterium)が生産する、3−ヒドロキシ酪酸のホモポリマーであるポリ−3−ヒドロキシ酪酸のポリエステルが古くから知られている(M.Lemoigne,Ann.Inst.Pasteur,39,144,1925)。このポリ−3−ヒドロキシ酪酸の硬くて、脆い性質を改善するものとして、特開平5−93049号公報、及び、特開平7−265065号公報には、アエロモナス・キャビエ(Aeromonas caviae)を用いて、オレイン酸等の脂肪酸やオリーブオイル等の油脂から発酵法により、3−ヒドロキシ酪酸と3−ヒドロキシヘキサン酸との共重合ポリエステルを製造し、生分解性材料として用いることが開示されている。
【0009】
以上のように、生分解性の高分子材料の開発について多くの研究がなされ、種々の原料から、各種の方法により、生分解性高分子材料を製造する方法が開示されているが、従来のものは、生分解の容易性とフィルムや容器等への利用に際して必要とされる機械的強度等の両面から、実用上要求される高分子材料の特性において、十分に満足し得る特性を具備したものは開発されていない。したがって、これらの生分解性の材料の実用化が十分に行なわれていないというのが現状である。
【0010】
【特許文献1】特開平4−335060号公報
【特許文献2】特開平5−93049号公報
【特許文献3】特開平6−340753号公報
【特許文献4】特開平7−102114号公報
【特許文献5】特開平7−265065号公報
【特許文献6】特開平7−285108号公報
【特許文献7】特開2000−72961号公報
【特許文献8】特開2000−229312号公報
【特許文献9】特開2000−229661号公報
【特許文献10】特開2000−327839号公報
【特許文献11】特開2000−355008号公報
【特許文献12】特開2001−49098号公報
【特許文献13】特開2001−79816号公報
【特許文献14】特開2002−23262号公報
【特許文献15】特開2002−97301号公報
【特許文献16】特開2002−167470号公報
【特許文献17】特開2002−249981号公報
【特許文献18】特開2004−299711号公報
【特許文献19】特開2005−133224号公報
【特許文献20】特開2006−142699号公報
【特許文献21】特開2006−122317号公報
【非特許文献1】M.Lemoigne,Ann.Inst.Pasteur,39,144,1925
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、生分解性と機械的強度の両面の性質を備えた、実用上優れた特性を有する天然の生分解性素材、及び、該天然の生分解性素材から製造された生分解性フィルム、容器等、及び、該生分解性素材を製造するためのバインダー、及びそれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく、天然物質からの生分解性素材の製造について鋭意探索する中で、コウリャンデンプンを培養原料とし、該原料にバチルス属に属する微生物を添加・培養し、高分子粘着性の物質を採取することにより、石油由来の高分子化合物には存在しない水酸基を有するセルロース様の性質を持ち、しかも、ポリプロピレン様の構造を有する天然高分子物質を得ることができ、この天然高分子物質をバインダーとして、及び、この天然高分子物質に、デンプン及び/又は貝殻粉末を混合することにより、セルロースに匹敵する生分解性を有し、しかもポリプロピレンの特性を備えた機械的強度の生分解性素材を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明の生分解性素材を用いてフィルムや容器を製造することにより、優れた生分解性と機械的強度、及びその他の実用上望ましい特性を有する生分解性フィルムや容器を製造することができる。本発明において用いられるバチルス属に属する微生物としては、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)、バチルス・プミルス(Bacillus pumilus)、及びバチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)が挙げられるが、これらの微生物から選択された少なくとも2種の混合微生物を用いることが好ましい。特に、好ましくは、バチルス・ズブチリス、バチルス・プミルス及びバチルス・チューリンゲンシスから選択された3種の混合微生物を用いるのが好ましい。
【0014】
本発明においては、発酵工程において、菌の増殖を促進し、胞子の形成を促すことが望ましく、菌の増殖や胞子の形成を促進するために、珪酸又は珪酸マグネシウムを添加することが好ましい。本発明の製造方法によって製造される天然高分子物質は、赤外吸収スペクトル分析(IR)により、水酸基及びポリプロピレン基の吸収スペクトルを示し(図1)、該天然高分子物質の構造は、構成単位分子式が、(C1116)nで表され、式(1)で示される化合物と推定される。
【0015】
【化1】

【0016】
本発明は、本発明の製造方法によって製造された天然高分子物質を、生分解性天然素材の製造用のバインダーとして用いる態様を包含する。そして、該バインダーと、デンプン及び/又は貝殻粉末を混合して、成形することにより天然生分解性フィルム又は容器製造用の生分解性天然素材を製造することができる。本発明においては、該生分解性天然素材を用いて、成形することにより天然素材からなる生分解性フィルム又は容器を製造することができる。本発明において、生分解性フィルムを製造する場合には、生分解性素材全重量に対して、デンプンを5〜10重量%、貝殻粉末を5〜10重量%、及び、本発明のバインダーを80〜90重量%の範囲で混合して、成形することが好ましい。また、生分解性容器を製造する場合には、生分解性素材全重量に対して、デンプンを50〜60重量%、貝殻粉末を10〜20重量%、及び、請求項7記載のバインダーを30〜40重量%の範囲の割合で混合して、成形するのが好ましい。
【0017】
即ち、具体的には、本発明は、
(a),デンプンを培養原料とし、該原料にバチルス属に属する微生物を添加・培養し、採取することで得られ、粘着性を有することを特徴とする高分子物質や、
(b),上記デンプンは、好ましくは、穀物デンプン、特に好ましくは、コウリャンデンプンであることを特徴とする高分子物質や、
(c),上記デンプンは、とうもろこしデンプン、いもデンプン等、他のデンプンの少なくとも1つを配合する高分子物質や、
(d),上記各高分子物質は、更に、珪酸又は珪酸マグネシウムが培養段階で添加されている高分子物質や、
(e),更に、培養原料として、コウリャンデンプン1kgを用い、栄養源としてナツメの果肉の摩砕物を添加し、水10〜15wt%を添加し、これに培養微生物として、バチルス・ズブチリス、バチルス・プミルス及びバチルス・チューリンゲンシスからなる3種の混合微生物を略同じ比率で添加し、更に、珪酸マグネシウム約100gを添加した約40℃の温度条件下で培養を行い、この状態のものを、60〜98℃の熱湯又は糖水で掻き混ぜることにより得られることを特徴とする上記(d)記載の高分子物質、からなる。
【0018】
また、本発明は、
(f),ポリプロピレンに近似した性状で、セルロース様のOH基をもち、粘着性を有することを特徴とする高分子物質や、
(g),ポリプロピレンに近似した構造で、OH基をもち、粘着性を有することを特徴とする高分子物質、からなる。
【0019】
また、本発明は、
(h),上記高分子物質の少なくとも1つを成分とすることを特徴とするバインダー、からなる。
【0020】
また、本発明は、
(i),上記バインダーを用いて成形されていることを特徴とする生分解性天然素材や、
(j),デンプンに、上記バインダーを混合し、成形したことを特徴とする生分解性天然素材や、
(k),上記生分解性天然素材であって、ペレット状であることを特徴とする生分解性天然素材、からなる。
【0021】
また、本発明は、
(l),上記いずれかの生分解性天然素材を用いて調整され、通気性を有することを特徴とする生分解性天然素材調製品や、
(m),上記いずれかの生分解性天然素材を用いて調整され、NSF International(米国)でのISO 14855生分解性試験において、セルロースと略同程度の生分解率を有することを特徴とする生分解性天然素材調製品や、
(n),上記生分解性天然素材調製品が、25日経過で70%以上であることを特徴とする生分解性天然素材調製品、からなる。
【0022】
また、本発明は、
(o),上記生分解性天然素材を、インフレーション成形手段を用いて成形したことを特徴とするフィルム状物品や、
(p),上記フィルム状物品であって、成形環境が、120〜210℃の条件で、二軸延伸したことを特徴とするフィルム状物品、からなる。
【0023】
また、本発明は、
(q),上記フィルム状物品において、JIS Z 1702(1994 包装用ポリエチレンフィルム)の7.5引張試験に準拠し、試験室の温度、湿度はJIS K 7100に従って調製したもので、引張り強度が、縦方向が、45.6〜48.5Mpa、横方向が、33.1〜46.1Mpaであることを特徴とするフィルム状物品や、
(r),上記フィルム状物品において、JIS K 7126(プラスチックフィルム及びシートの気体透過度試験方法:試験方法の種類:A法(差圧法)、試験温度:23±2℃)に従って調製したもので、酸素透過度が、フィルムの厚みが0.040〜0.042mmにおいて、5.57×10−12〜5.50×10m−12mol/m・s・Paであることを特徴とするフィルム状物品や、
(s),上記フィルム状物品において、JIS K 7126(プラスチックフィルム及びシートの気体透過度試験方法:試験方法の種類:A法(差圧法)、試験温度:23±2℃)に従って調製したもので、二酸化炭素透過度が、フィルムの厚みが0.040〜0.042mmにおいて、2.02×10−11〜1.99×10−11mol/m・s・Paであることを特徴とするフィルム状物品や、
(t),上記フィルム状物品であって、耐熱性及び耐冷性が、略130℃では、外観、指触とも変化・変形が無く、140℃では、外観変化はないが、指触によりわずかに変形し、−40℃以上では、外観、指触とも変化・変形のないことを特徴とするフィルム状物品、からなる。
【0024】
また、本発明は、
(u),上記生分解性天然素材を、真空成形手段を用いて成形したことを特徴とするトレイ状物品や、
(v),上記生分解性天然素材を、真空圧成形手段を用いて成形したことを特徴とするカップ状物品、からなる。
【0025】
なお、参考までに、原出願では、下記の発明を提案している。即ち、
〔1〕コウリャンデンプンを培養原料とし、該原料にバチルス属に属する微生物を添加・培養し、高分子粘着性の物質を採取することを特徴とする生分解性素材形成用天然高分子物質の製造方法や、
〔2〕バチルス属に属する微生物が、バチルス・ズブチリス、バチルス・プミルス、及びバチルス・チューリンゲンシスから選択された少なくとも2種の混合微生物であることを特徴とする上記〔1〕記載の天然高分子物質の製造方法や、
〔3〕バチルス属に属する微生物が、バチルス・ズブチリス、バチルス・プミルス及びバチルス・チューリンゲンシスから選択された3種の混合微生物であることを特徴とする上記〔2〕記載の天然高分子物質の製造方法や、
〔4〕培養工程において、珪酸又は珪酸マグネシウムを添加することを特徴とする上記〔1〕〜〔3〕のいずれか記載の天然高分子物質の製造方法からなる、発明である。
【0026】
また、原出願では、
〔5〕上記〔1〕〜〔3]のいずれか記載の天然高分子物質の製造方法によって製造される、赤外吸収スペクトル分析〔IR〕により、水酸基及びポリプロピレン基の吸収スペクトルを示すことを特徴とする天然高分子物質や、
〔6〕天然高分子物質の構造が、構成単位分子式が、〔C1116〕nで表され、式(1)で示される化合物の推定構造式を有することを特徴とする上記〔5〕記載の天然高分子物質や、
〔7〕上記〔5〕又は〔6〕に記載の天然高分子物質を主要成分とする生分解性天然素材の製造用のバインダーや、
〔8〕デンプン及び/又は貝殻粉末に、上記〔7〕記載のバインダーを混合して、成形したことを特徴とする天然生分解性フィルム又は容器製造用の生分解性天然素材や、
〔9〕デンプンが、化学的に変性したデンプンであることを特徴とする上記〔8〕記載の天然生分解性フィルム又は容器製造用の生分解性天然素材からなる、発明である。
【0027】
更に、原出願では、
〔10〕貝殻粉末に、上記〔7〕記載のバインダーを混合し、ペレット状に成形することを特徴とする上記〔8〕又は〔9〕記載の天然生分解性フィルム又は容器製造用の生分解性天然素材や、
〔11〕デンプン及び貝殻粉末に、上記〔7〕記載のバインダーを混合し、成形することを特徴とする天然素材からなる生分解性フィルム又は容器や、
〔12〕生分解性素材全重量に対して、デンプンを5〜10重量%、貝殻粉末を5〜10%、及び、上記〔7〕記載のバインダーを80〜90重量%の範囲で混合して、成形したことを特徴とする上記〔11〕記載の天然素材からなる生分解性フィルムや、
〔13〕生分解性素材全重量に対して、デンプンを50〜60重量%、貝殻粉末を10〜20%、及び、上記〔7〕記載のバインダーを30〜40重量%の範囲の割合で混合して、成形したことを特徴とする上記〔11〕記載の天然素材からなる生分解性容器からなる、発明である。
【発明の効果】
【0028】
本発明の生分解性天然素材を用いることにより、セルロースに匹敵する生分解性を有し、しかもポリプロピレンの特性を備えた機械的強度の特性を備えた、天然素材からなる生分解性フィルム又は容器を提供することができる。これらの生分解性フィルム又は容器は、従来、難しかった、これらの成形品において実用上要求される生分解性と機械的強度の両面の特性を兼ね備えることができ、生分解性フィルム又は容器の実用化に向けて、大きく道を開くものである。また、本発明の生分解性天然素材は、その特性に基いて、上記のような特性とともに、通気性を持たせることができ、特に食品類のための容器或いは包装材として優れた特性を有する容器或いは包装材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明は、コウリャンデンプンを培養原料とし、該原料にバチルス属に属する微生物を添加・培養し、高分子粘着性の物質を採取することにより生分解性素材形成用に用いられる天然高分子物質を製造する方法よりなる。該天然高分子物質をバインダーとして、デンプン及び/又は貝殻粉末を混合して、成形することにより生分解性天然素材を調製し、該生分解性天然素材を、成形することにより、天然素材からなる生分解性フィルム又は容器を製造する。
【0030】
(培養原料)
本発明において、培養原料としては、コウリャンデンプンを用いる。本発明においては、該コウリャンデンプンに、とうもろこしデンプン、いもデンプン等、他のデンプンを適宜配合することができる。
【0031】
(用いる微生物)
本発明において、コウリャンデンプンを培養原料とて、天然高分子物質を製造するために用いる微生物としては、バチルス属に属する微生物を用いるが、該微生物としては、バチルス・ズブチリス、バチルス・プミルス、及びバチルス・チューリンゲンシスから選択された少なくとも2種以上の混合微生物を用いることが好ましい。特に、好ましくは、バチルス・ズブチリス、バチルス・プミルス及びバチルス・チューリンゲンシスから選択された3種の混合微生物を用いるのが好ましい。これらの3種の混合微生物の混合割合を適宜調製することにより、製造される天然高分子物質の特性を調整することができる。これらのバチルス属に属する微生物は、従来、堆肥や、汚泥等における分解処理のための微生物として使用されている微生物であり(特開2003−190993号公報、特開2003−342092号公報、特開2004−65190号公報)、第三者が容易に入手することができるものである。
【0032】
(天然高分子物質の製造)
本発明において、天然高分子物質を製造するには、コウリャンデンプンを培養原料とし、該原料にバチルス属に属する微生物を添加・培養し、高分子粘着性の物質を採取することにより行なわれる。該培養に用いられる条件は、基本的には、通常、バチルス属に属する微生物を培養する条件を採用することができる。本発明は、バチルス属に属する微生物を培養することにより天然高分子物質を生産し、採取するものであるが、該バチルス属に属する微生物による天然高分子物質の生産は、該微生物の培養における胞子形成期に高生産されることから、胞子形成が促進される条件で培養するのが好ましい。その条件として、培養工程において、培養液に、珪酸又は珪酸マグネシウム(珊瑚の化石粉又は貝殻)を添加する。微生物の胞子形成には、珪酸が必要であり、マグネシウムは、微生物の増殖速度を促進する。したがって、これらの成分を添加することにより、胞子形成を促進することができる。
【0033】
(天然高分子物質)
本発明の製造方法によって製造される天然高分子物質は、赤外吸収スペクトル分析(IR)による図1の吸収スペクトルを示す。該吸収スペクトルは、石油由来の合成高分子物質には含まれない、セルロース様の水酸基の存在による吸収が示される。また、ポリプロピレン基の存在を示す吸収が示される。これらの特徴により、本発明で製造される天然高分子物質は、セルロースに匹敵する生分解性を有天然高分子物質を用いて製造した生分解性天然素材は、セルロースに似た通気性を具備させることができる。本発明で取得される天然高分子物質は、該物質を主要成分とする生分解性天然素材の製造用のバインダーとして用いることができる。本発明の天然高分子物質の構造は、構成単位分子式が、(C1116)nで表され、式(1)で示される化合物と推定される。
【0034】
【化2】

【0035】
(生分解性天然素材)
本発明においては、本発明のバインダーに、デンプン及び/又は貝殻粉末を混合して、成形し、天然生分解性フィルム又は容器製造用の生分解性天然素材として、調製される。
該成形は、通常、ペレット状に成形されるが、粒状、或いは、粉状であっても差し支えない。該生分解性天然素材の調製に混合されるデンプンとしては、とうもろこしデンプンやジャガイモデンプン等適宜のデンプンを用いることができるが、該デンプンの分子構造を変化させ、ネット状分子構造を持つように加工(改質)した化工デンプンを用いるのが好ましい。該化工デンプンとしては、酸化デンプン、エステル化デンプン、エーテル化デンプン、及び、架橋デンプン等を挙げることができる。貝殻粉末の添加は、貝殻の主成分である炭酸カルシウムと珪酸カルシウムを添加することにより、成形品の強度と質感を向上させる効果を有する。
【0036】
本発明において、生分解性天然素材の調製に際しての、デンプン、貝殻粉末及びバインダーの配合割合は、表1に示す配合割合となる。
【0037】
【表1】

【0038】
すなわち、生分解性フィルムを製造する場合には、生分解性素材全重量に対して、デンプンを5〜10重量%、貝殻粉末を5〜10%、及び、本発明のバインダーを80〜90重量%の範囲で混合して、成型する。また、生分解性容器を製造する場合には、生分解性素材全重量に対して、デンプンを50〜60重量%、貝殻粉末を10〜20%、及び、本発明のバインダーを30〜40重量%の範囲の割合で混合して、成型する。
【0039】
(生分解性フィルム及び容器の製造)
本発明において、生分解性フィルム及び容器の製造は、本発明の生分解性素材を用いて、公知の成形手段により、フィルム或いは容器に成形し、実施することができる。本発明においては、特に、限定されないが、生分解性素材は、好ましくはペレットの状態で調製される。該生分解性素材のペレットや、生分解性フィルムの製造においては、生分解性素材の粉末を、加熱・加圧して成形するため、原料を伸ばして成形することが特徴であり、該成形方法を用いることにより、良好な物性の成形調製品を得ることができる。本発明で用いられる成形方法としては、フィルム類の成形においては、例えば、インフレーション成型による方法を、容器類の成型においては、例えば、真空成型(トレイ類の成型)、真空圧空成型(カップ類の成型)による方法を用いることができる。
【0040】
(生分解性フィルム及び容器の特徴)
本発明において製造される生分解性フィルム及び容器は、セルロースに匹敵する生分解性を有し、しかもポリプロピレンの特性を備えた機械的強度の特性を備えた、天然素材からなる生分解性フィルム又は容器を提供する。また、本発明において製造される生分解性フィルム及び容器は、植物材料に由来するため、石油由来の合成プラスチックにはない通気性の製品を得ることができる。この通気性は、例えば、本発明のフィルム又は容器を、果物や野菜の包装や容器に用いた場合には、その通気性によって、内部のエチレンガス等を効率よく排出することができ、また、フィルムや容器が曇りにくいという効果も期待できる。したがって、このようなフィルムや容器を用いることにより、商品の流通現場で、商品の賞味期限を延ばすことができたり、或いはその通気性により防曇り加工を施す必要がない等の実用上の効果を得ることができる。
【0041】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0042】
[生分解性天然素材の製造]
(天然高分子物質の製造)
培養原料としてコウリャンデンプン1kgを用い、栄養源としてナツメの果肉の摩砕物を添加し、水10〜15wt%を添加し、これに培養微生物として、バチルス・ズブチリス、バチルス・プミルス及びバチルス・チューリンゲンシスからなる3種の混合微生物を略同じ比率で添加し、約40℃の温度条件下で培養を行なった。培養に際しては、増殖速度を速め、胞子の形成を促進するために珪酸マグネシウム(貝殻粉)約100gを添加した。培養開始後、48時間を過ぎると、胞子が形成され、胞子の細胞壁は粘着性の物質で覆われる。この状態のものを、60〜98℃の熱湯又は糖水で掻き混ぜることにより、物性の安定した高粘性の高分子物質を得ることができた。
【0043】
(天然高分子物質の同定)
調製した高分子物質を、赤外線吸収スペクトル分析(IR分析)を用いて同定した。吸収スペクトルを図1に示す。図の吸収スペクトルに示されるように、高分子物質は、石油からの合成プラスチックには含まれない水酸基の吸収があり、また、プロピレンのようなアルケンの吸収を示すことから、セルロースのようなOH基を持ち、ポリプロピレンのような構造を持つ、新規な高分子物質であることが同定された。
【0044】
(生分解性天然素材の製造)
上記実施例で製造した天然高分子物質をバインダーとして、生分解性天然素材を製造した。すなわち、トウモロコシデンプン及びイモデンプンの混合物1.2kgに、貝殻粉末約100gを混合し、これに上記高分子物質からなるバインダー約100〜200gを混合し、これを115〜120℃で加熱・加圧成型して、ペレット状とし、容器製造用の生分解性天然素材調製品を製造した。
【0045】
(生分解性天然素材の生分解性試験)
上記生分解性天然素材調製品を用いて、生分解性試験を行なった。該生分解性試験は、NSF International(米国)でのISO14855生分解性試験によった。結果を、図2に示す。図2に示されるように、本発明の実施例によって製造された生分解性天然素材は、75日間で生分解率77.8%であり、対照材料であるセルロースとの生分解率の差は僅かであった、対照材料であるセルロースとの生分解率の差が僅かであることと、それぞれのグラフの傾きがほぼ同じでということは、本発明の生分解性天然素材と植物の主成分であるセルロースの生分解率及び生分解速度がほぼ同じということであり、本発明の生分解性天然素材の優れた生分解性が証明された。
【実施例2】
【0046】
[生分解性天然素材を用いて調製された調製品(フィルム)の物性試験]
上記実施例1で調製された生分解性天然素材を用いて、インフレーション成形法により、フィルムを成形した。該フィルムの成形は、通常、120〜210℃の条件を用いて行なわれる。該方法を用い、約210℃で、二軸延伸によって調製したフィルムについて、以下の物性試験を行なった。
【0047】
(引張り強度試験)
試験方法:JIS Z 1702(1994 包装用ポリエチレンフィルム)の7.5引張試験に準拠し、縦及び横方向について測定回数5回の平均値を算出した。但し、試験速度は500mm/min、試験室の温度、湿度はJIS K 7100に従い、温度は23±2℃、湿度は、50±5%とする。
結果:結果を、表2に示す。表に示されるように、本発明の生分解性天然素材を用いて調製したフィルムはポリエチレンフィルムに匹敵する優れた引張り強度を示した。
【0048】
【表2】

【0049】
(通気試験)
試験方法:JIS K 7126(プラスチックフィルム及びシートの気体透過度試験方法:試験方法の種類:A法(差圧法)、試験温度:23±2℃)。
結果:結果を、表3に示す。表に示されるように、本発明の生分解性天然素材を用いて調製したフィルムは、優れた通気性を有する。
【0050】
【表3】

【0051】
(耐熱、耐冷試験)
試験方法:試料を下記温度条件に保った恒温槽中に1時間静置し、取り出して30分放置後に目視による外観変化及び指触による変形の判定を行なった。温度条件:130℃、140℃、150℃、−30℃、−40℃、−50℃の6条件。
結果:以下のとおり、優れた耐熱性及び耐冷性を示した。
130℃:外観、指触とも変化・変形無し。
140℃:外観変化はないが、指触によりわずかに変形が確認された。
150℃:外観変化はないが、指触による変形が確認された。
−30℃:外観、指触とも変化・変形無し。
−40℃:外観、指触とも変化・変形無し。
−40℃:外観、指触とも変化・変形無し。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明によって製造された天然高分子物質の赤外線吸収スペクトル分析(IR分析)による吸収スペクトルを示す図である。
【図2】本発明によって製造された生分解性天然素材の、NSF International(米国)でのISO14855生分解性試験の結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デンプンを培養原料とし、該原料にバチルス属に属する微生物を添加・培養し、採取することで得られ、粘着性を有することを特徴とする高分子物質。
【請求項2】
デンプンは、好ましくは、穀物デンプン、特に好ましくは、コウリャンデンプンであることを特徴とする請求項1記載の高分子物質。
【請求項3】
デンプンは、とうもろこしデンプン、いもデンプン等、他のデンプンの少なくとも1つを配合することを特徴とする請求項1又は2記載の高分子物質。
【請求項4】
珪酸又は珪酸マグネシウムが培養段階で添加されている請求項1〜3記載のいずれか1つの高分子物質。
【請求項5】
培養原料として、コウリャンデンプン1kgを用い、栄養源としてナツメの果肉の摩砕物を添加し、水10〜15wt%を添加し、これに培養微生物として、バチルス・ズブチリス、バチルス・プミルス及びバチルス・チューリンゲンシスからなる3種の混合微生物を略同じ比率で添加し、更に、珪酸マグネシウム約100gを添加した約40℃の温度条件下で培養を行い、この状態のものを、60〜98℃の熱湯又は糖水で掻き混ぜることにより得られることを特徴とする請求項4記載の高分子物質。
【請求項6】
ポリプロピレンに近似した性状で、セルロース様のOH基をもち、粘着性を有することを特徴とする高分子物質。
【請求項7】
ポリプロピレンに近似した構造で、OH基をもち、粘着性を有することを特徴とする高分子物質。
【請求項8】
請求項1−7記載の高分子物質の少なくとも1つを成分とすることを特徴とするバインダー。
【請求項9】
請求項8記載のバインダーを用いて成形されていることを特徴とする生分解性天然素材。
【請求項10】
デンプンに、請求項8記載のバインダーを混合し、成形したことを特徴とする生分解性天然素材。
【請求項11】
請求項9又は請求項10記載の生分解性天然素材であって、ペレット状であることを特徴とする生分解性天然素材。
【請求項12】
請求項9〜11記載のいずれかの生分解性天然素材を用いて調整され、通気性を有することを特徴とする生分解性天然素材調製品。
【請求項13】
請求項9〜11記載のいずれかの生分解性天然素材を用いて調整され、NSF International(米国)でのISO 14855生分解性試験において、セルロースと略同程度の生分解率を有することを特徴とする生分解性天然素材調製品。
【請求項14】
生分解率が、25日経過で70%以上であることを特徴とする、請求項11記載の生分解性天然素材調製品。
【請求項15】
請求項9〜11記載のいずれかの生分解性天然素材を、インフレーション成形手段を用いて成形したことを特徴とするフィルム状物品。
【請求項16】
請求項15記載のフィルム状物品であって、成形環境が、120〜210℃の条件で、二軸延伸されていることを特徴とするフィルム状物品。
【請求項17】
請求項15記載のフィルム状物品において、JIS Z 1702(1994 包装用ポリエチレンフィルム)の7.5引張試験に準拠し、試験室の温度、湿度はJIS K 7100に従って調製したもので、引張り強度が、縦方向が、45.6〜48.5Mpa、横方向が、33.1〜46.1Mpaであることを特徴とするフィルム状物品。
【請求項18】
請求項15〜17記載のいずれかのフィルム状物品において、JIS K 7126(プラスチックフィルム及びシートの気体透過度試験方法:試験方法の種類:A法(差圧法)、試験温度:23±2℃)に従って調製したもので、酸素透過度が、フィルムの厚みが0.040〜0.042mmにおいて、5.57×10−12〜5.50×10−12mol/m・s・Paであることを特徴とするフィルム状物品。
【請求項19】
請求項15〜17記載のいずれかのフィルム状物品において、JIS K 7126(プラスチックフィルム及びシートの気体透過度試験方法:試験方法の種類:A法(差圧法)、試験温度:23±2℃)に従って調製したもので、二酸化炭素透過度が、フィルムの厚みが0.040〜0.042mmにおいて、2.02×10−11〜1.99×10−11mol/m・s・Paであることを特徴とするフィルム状物品。
【請求項20】
請求項15〜17記載のいずれかのフィルム状物品であって、耐熱性及び耐冷性が、略130℃では、外観、指触とも変化・変形が無く、140℃では、外観変化はないが、指触によりわずかに変形し、−40℃以上では、外観、指触とも変化・変形のないことを特徴とするフィルム状物品。
【請求項21】
請求項9〜11記載のいずれかの生分解性天然素材を、真空成型手段を用いて成形したことを特徴とするトレイ状物品。
【請求項22】
請求項9〜11記載のいずれかの生分解性天然素材を、真空圧成型手段を用いて成形したことを特徴とするカップ状物品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−184467(P2008−184467A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−42132(P2008−42132)
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【分割の表示】特願2006−324458(P2006−324458)の分割
【原出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(503097428)
【Fターム(参考)】