説明

植物由来の難消化性成分高含有素材

【課題】複数の難消化性成分を含み、飲食品、医薬品の分野で適用できる多様な生理機能をバランスよく有し、しかも作用効果の優れた新規な機能性素材を提供する。
【解決手段】植物由来原料をデンプン分解酵素処理および蛋白分解酵素処理し、次いで、固液分離を行って液体成分を除去することを特長とする、難消化性成分高含有素材の製造方法、該方法により得られる素材、ならびに該素材の飲食物、医薬品および飼料などにおける使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物由来原料をデンプン分解酵素処理および蛋白分解酵素処理し、次いで、固液分離を行って液体成分を除去することを特長とする難消化性成分高含有素材の製造方法、該方法により得られる素材、ならびに該素材の利用に関する。
【背景技術】
【0002】
食物繊維を多く摂取する人々ほど、心臓疾患、動脈硬化症、高血圧、高脂質血症、糖尿病、腸疾患などにかかり難いことは、多くの統計調査で疫学的に確認されている。
しかしながら、食物繊維の定義は、まだ曖昧さを残し必ずしも明確であるとはいい難い。例えば狭義的には、「植物由来で人の消化酵素で分解されない多糖類及びリグニン」と定義されている(非特許文献1)。日本では1980年に桐山が提案した「ヒトの消化酵素で消化されない食物中の難消化性成分の総体」(非特許文献2)とされ、「五訂日本食品標準成分表」などで用いられており、この定義は、動物起源のものも含むなど、非常に広い意味を含んでいる。そこで日本食物繊維研究会は、1998年に「ヒトの小腸内で消化・吸収され難く、消化管を介して健康の維持に役立つ生理作用を発現する食品成分」を何らかの生理機能を持つ物質の総称として、「ルメナコイド」と定義し、図1のように分類している。
【0003】
一般にルメナコイドに分類される物質の生理機能として知られているものには、
(1)胃内滞留時間の増大による小腸からのブドウ糖の急激な吸収抑制
(2)排便量と排便回数の増大による腸疾患、特に大腸ガンの予防
(3)化学物質など有害成分の吸着・拡散防止作用による毒性軽減作用
(4)胆汁酸の吸着によるコレステロール低下などの脂質代謝改善作用
(5)カサ効果により満腹感を与え、栄養の過剰摂取を抑制
(6)腸内細菌叢のバランスを改善することによるプレバイオティクス効果
等がある。
【0004】
これらルメナコイドに分類される食品成分のうち、フルクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖などの難消化性オリゴ糖、ソルビトール、マルチトールなどの糖アルコール、ポリデキストロース、難消化性デキストリンは、人工合成あるいは化学修飾物として開発された食品成分であり、天然成分あるいは天然成分から分離精製することにより調製される食物繊維、レジスタントスターチ、レジスタントプロテインとは、その原材料、製造法において、大きく異なるものである。
【0005】
また、天然成分由来のルメナコイドの内、食物繊維とは、セルロース、へミセルロース、ペクチンなどの植物性多糖類、アルギン酸、寒天などの海草多糖類、キチン、キトサンなどの動物性多糖類などが挙げられ、それぞれの成分に対する生理機能についての報告がある。
【0006】
レジスタントスターチは、「健康人の小腸管腔内において消化吸収されることのないデンプン及びデンプンの部分水解物の総称と定義(非特許文献3)された難消化性デンプンを意味する。一般的にアミロース含量の多いデンプンの方が、加熱調理後のレジスタントスターチ含量も多い傾向がある。これに関して、アミロース含量が30重量%以上のデンプンを湿熱処理することによる、レジスタントスターチ高含有素材の製造法が開示され(特許文献1)、この素材を有効成分とする脂質代謝改善剤も提案されている(特許文献2)。
【0007】
食物繊維様の生理機能を示す食品成分の内、唯一タンパク質成分のものがレジスタントプロテインである。これまでに大豆、そば、絹の各タンパク質に含まれる難消化性タンパク質として見つかっており、それぞれの生理機能について報告されている(非特許文献4、5)。具体的には、大豆の場合は、分離大豆タンパク質(SPI)をプロテアーゼ処理した残渣の不溶性タンパク質であり、そばの場合は、アルカリ抽出したそばタンパク質であり、絹の場合は、繭から絹糸を紡ぐときに熱水抽出により除去される水溶性タンパク質のセリシンである。例えばセリシンに関しては、セリシンを有効成分とする大腸ガン予防剤(特許文献3)、難消化性飲食品添加物(特許文献4)などが開示されている。
また関連技術として、最近、アルカリ抽出した米タンパク質の機能性についての報告がある(特許文献5)。
【0008】
このように、食物繊維及びその類似機能を有する食品成分には多種多様なものがあり、それぞれに共通した機能もあれば、特有の生理機能もある。また、その作用機序も多様である。
【特許文献1】特開平10−195105号公報
【特許文献2】特開平10−279487号公報
【特許文献3】特開2000−256210号公報
【特許文献4】特開2000−312568号公報
【特許文献5】特開2006−273840号公報
【非特許文献1】Trowell, H. C. : Am. J. Clin. Natr., 25, 926 (1972)
【非特許文献2】桐山ら:化学と生物、 18、95−105(1980)
【非特許文献3】不破:澱粉科学、38、51−54(1991)
【非特許文献4】岩見:ジャパンフードサイエンス、40(12)、40−44(2001)
【非特許文献5】加藤ら:日本栄養・食糧学会誌、53、71−75(2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
食物摂取の原則は、多様な食品からバランスのとれた栄養をとることにある。食物繊維においても多様な生理機能をバランスよく得るためには、ルメナコイドに分類される多様な食品成分を摂取することが望まれ、更に複数の難消化性成分を摂取することにより、相乗効果も期待できる。しかしながら、現在までに知られているルメナコイドは、すべて単一成分あるいは主要成分としてどこか1つに分類されるものであり、複数の難消化性食品成分を含む機能性素材はなかった。しかも、食物繊維およびその類似機能を有する食品成分は多いが、その機能や効果が不十分なもの、疑問視されるものも多く、その製造コストが高いものもある。
【0010】
したがって本発明の課題は、複数の難消化性成分を含み、飲食品、医薬品の分野で適用できる多様な生理機能をバランスよく有し、しかも作用効果の優れた新規な機能性素材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決せんと鋭意研究を重ねた。すなわち、本発明者らは、上記目的を達成するために難消化性成分としてレジスタントスターチとレジスタントプロテインに着目した。これらの成分の原材料となるデンプンとタンパク質は、広く植物性食品に普遍的に含まれる成分である。さらに本発明者らは鋭意研究を続けた結果、植物性素材あるいは植物由来原料をアミラーゼ処理及びプロテアーゼ処理した後、固液分離して得られた固形物は、食物繊維と類似した生理機能を有するレジスタントスターチ、レジスタントプロテインなど複数の難消化性成分を多く含むことを見出し、更に、この新規な素材は、コレステロール性胆石形成抑制効果、血清コレステロール低下作用、中性脂肪低下作用、動脈硬化指数低下作用、糞中へのコレステロール排泄効果、抗肥満作用、腸内環境改善効果などの多様な生理機能を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明は:
(1)植物由来原料をデンプン分解酵素処理および蛋白分解酵素処理し、次いで、固液分離を行って液体成分を除去することを特長とする、難消化性成分高含有素材の製造方法;
(2)植物由来原料が穀類、豆類またはいも類由来である(1)記載の方法;
(3)植物由来原料が米、麦、そば、とうもろこし、あわ、ひえ、きび、こうりゃん、小豆、大豆、えんどう豆、インゲン豆、レンズ豆、緑豆、じゃがいも、さつまいも、キャッサバ、タロイモ、ヤムイモ、キクイモ、およびこんにゃくいもからなる群から選択される1種またはそれ以上のものに由来する(1)記載の方法;
(4)植物由来原料が米粉、米糠、米粉糖化粕、酒粕、みりん粕、しょうちゅう粕、小麦粉、ビール粕、醤油粕、おから、および油かすからなる群より選択される1種またはそれ以上のものである(1)記載の方法;
(5)植物由来原料が米粉、米糠、米粉糖化粕、酒粕からなる群より選択される1種またはそれ以上のものである(1)記載の方法;
(6)デンプン分解酵素処理の前に原料中のデンプンをα化させることをさらに特長とする、(1)記載の方法;
(7)デンプン分解酵素および/または蛋白分解酵素が耐熱性のものである(1)記載の方法;
(8)デンプン分解酵素処理および/または蛋白分解酵素処理と並行して、他の酵素での処理あるいは微生物による発酵処理が行われる(1)記載の方法;
(9)(1)〜(8)のいずれかに記載の方法により得られる難消化性成分高含有素材;
(10)(9)記載の素材を含む飲食物;
(11)コレステロール性胆石形成抑制、血清コレステロール低下、中性脂肪低下、動脈硬化指数低下、糞中へのコレステロール排泄、または腸内環境改善のための、(9)記載の素材を含む医薬組成物。
(12)(9)記載の素材を含むサプリメント。
(13)(9)記載の素材を含む飼料または動物用医薬組成物。

を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、種々の生理作用、特に脂質レベル低下作用、抗肥満作用、抗胆石形成作用が顕著な難消化性成分高含有素材が、大量かつ安価に得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、1の態様において、植物由来原料をデンプン分解酵素処理および蛋白分解酵素処理し、次いで、固液分離を行って液体成分を除去することを特長とする、難消化性成分高含有素材(以下、「本発明の素材」または単に「素材」と称することがある)の製造方法に関するものである。本発明の方法により得られる素材は、難消化性成分、特に、食物繊維と類似した生理機能を有するレジスタントスターチ、レジスタントプロテインなど複数の難消化性成分を多く含むものであり、コレステロール性胆石形成抑制作用、血清コレステロール低下作用、中性脂肪低下作用、動脈硬化指数低下作用、糞中へのコレステロール排泄作用、抗肥満作用、腸内環境改善作用などの多様な生理機能を有するものである。しかも、本発明の素材は、安価な原料から大量に得ることができ、特に、植物性原料からの飲食物製造において得られる副産物(例えば、米糠、酒粕など)を原料とすることができるので、資源の有効利用にもつながる。
【0015】
本発明の素材の原料は植物由来であればいずれのものであってもよい。とりわけ、飲食物製造の原料として用いられている穀類、豆類、いも類などの植物に由来する原料が好ましい。これらの植物を例示すると、米(うるち米、もち米などを含む)、麦(小麦、大麦、エン麦、ライ麦などを含む)、そば、とうもろこし、あわ、ひえ、きび、こうりゃんなどの穀類;大豆、小豆、えんどう豆、インゲン豆、レンズ豆、緑豆などの豆類;じゃがいも、さつまいも、キャッサバ、タロイモ、ヤムイモ、キクイモ、こんにゃくいもなどのいも類が挙げられるが、これらに限定されない。これらの植物の好ましい利用部位はデンプンおよび蛋白が豊富な部位であればよく、穀類であれば穀粒、豆類であれば種子、いも類であれば地下茎が好ましい。
【0016】
本発明の素材の製造に好ましい植物由来原料としては米由来の原料が挙げられる。米は我が国の主食であり、酒造においても大量に使用されており、米由来の原料は供給が豊富である。食品加工や醸造における米由来の副産物を本発明の原料として利用することができる。食品加工や醸造における米由来の副産物としては、例えば米粉、米糠、米粉糖化粕、酒粕、みりん粕、しょうちゅう粕などが挙げられる。米以外の植物であっても、食品加工や醸造において生成する副産物を本発明の原料として利用することができる。例えば、ビール粕、醤油粕、おからなどを本発明の素材の原料として用いてもよい。
【0017】
例えば、米由来の原料を用いる場合には、蒸し米や炊きあげた米のほか、上述のように米粉、米糠、米粉糖化粕、酒粕、みりん粕、しょうちゅう粕などを用いることができる。また例えば、麦を原料とする場合には小麦粉、小麦ふすま、ビール粕など、とうもろこしを原料とする場合にはとうもろこし粉など、そばを原料とする場合にはそば粉などを用いることができる。豆類を原料とする場合には煮豆や豆粉、おから、醤油粕などを用いることができる。さらに、大豆、ひまわり、ナタネなどの植物種子から油を絞った後に得られる油かすを用いることもできる。上記は例示であって、他のものを適宜使用することができる。本発明の素材の製造に用いる植物由来原料は1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。
【0018】
上述のごとく、本発明の方法において、植物由来原料をデンプン分解酵素処理および蛋白分解酵素処理する。デンプン分解酵素処理と蛋白分解酵素処理はいずれを先に行ってもよく、同時に行ってもよい。デンプン分解酵素処理と蛋白分解酵素処理を同時に行うことによって、素材の製造時間を短縮し、工程や設備を簡略化することもできる。
【0019】
本発明に使用するデンプン分解酵素はいずれのものであってもよく、例えば、麹菌など糸状菌由来のデンプン分解酵素、枯草菌などの細菌由来のデンプン分解酵素などを用いてもよい。本発明の素材の製造に使用できるデンプン分解酵素としては、α−アミラーゼ、グルコアミラーゼなどのアミラーゼ、α−グルコシダーゼ、トランスグルコシダーゼなどのグルコシダーゼ、プルラナーゼ、イソアミラーゼなどの枝切り酵素、などが挙げられる。これらの酵素は精製品であっても、粗精製品であってもよい。パンクレアチンなどのようにデンプン分解酵素以外に蛋白分解酵素などの他の酵素を含むものを使用してもよい。市販のデンプン分解酵素剤を本発明に使用することもできる。市販のデンプン分解酵素剤としては、グルク100(アマノエンザイム社製)、グルクSB(アマノエンザイム社製)、グルクザイムAF6(アマノエンザイム社製)、コクゲンL(大和化成社製)、スピターゼCP−40FG(ナガセケムテックス社製)、スミチームS(新日本化学工業社製)、ビオザイムA(アマノエンザイム社製)、クライスターゼL1(大和化成社製)、コクラーゼ-G2(三共ライフテック社製)などがある。本発明の素材の製造に用いるデンプン分解酵素または酵素剤は1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。これらのデンプン分解酵素および市販のデンプン分解酵素剤は例示であり、原料の種類、処理量、目的とする素材などに応じて上記以外のものを適宜選択して用いることができる。
【0020】
本発明に使用する蛋白分解酵素はいずれのものであってもよく、例えば、麹菌など糸状菌由来の蛋白分解酵素、枯草菌などの細菌由来の蛋白分解酵素、植物由来のパパイン、動物由来のペプシン、トリプシンなどを用いてもよい。本発明の素材の製造に使用できる蛋白分解酵素としては、ペプチダーゼなども挙げられる。これらの酵素は精製品であっても、粗精製品であってもよい。パンクレアチンなどのように蛋白分解酵素以外にデンプン分解酵素などの他の酵素を含むものを使用してもよい。市販の蛋白分解酵素剤を本発明に使用することもできる。市販の蛋白分解酵素剤としては、ペプシン(和光純薬社製)、オリエンターゼ20A(エイチビィアイ社製)、オリエンターゼ90N(エイチビィアイ社製)、オリエンターゼONS(エイチビィアイ社製)、ニューラーゼF3G(アマノエンザイム社製)、プロテアーゼA「アマノ」G(アマノエンザイム社製)、プロテアーゼM「アマノ」G(アマノエンザイム社製)、スミチームAP(新日本化学工業社製)、スミチームLP(新日本化学工業社製)などがある。本発明の素材の製造に用いる蛋白分解酵素または酵素剤は1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。これらの蛋白分解酵素および市販の蛋白分解酵素剤は例示であり、原料の種類、処理量、目的とする素材などに応じて上記以外のものを適宜選択して用いることができる。
【0021】
また、デンプン分解酵素処理前に原料をα化させておくことも、アミラーゼの反応効率を上げる点から好ましい。α化には加熱処理を用いるのが一般的である。酒粕、ビール粕、醤油粕などのように醸造工程ですでにα化されているものを原料とする場合は、あらためてα化させる必要はない。
【0022】
本発明の素材の製造に使用するデンプン分解酵素および/または蛋白分解酵素が耐熱性のものであってもよい。耐熱性酵素は当業者によく知られており、市販もされている。市販の耐熱性デンプン分解酵素剤としてはコクゲンSD−T(大和化成社製)、クライスターゼT10S(大和化成社製)、ターマミル(ノボザイムズ社製)、ラクターゼTHR−100(洛東化成工業社製)などが挙げられ、市販の耐熱性蛋白分解酵素剤としてはプロテアーゼS「アマノ」G(アマノエンザイム社製)、サモアーゼPC10F(大和化成社製)などが挙げられる。これらは例示であり、原料の種類、処理量、目的とする素材などに応じて上記以外のものを適宜選択して用いることができる。耐熱性酵素を用いることによって、α化と同時に酵素処理を行うことができ、そのことにより素材の製造時間を短縮し、工程や設備を簡略化することもできる。
【0023】
本発明の素材の製造において、デンプン分解酵素および蛋白分解酵素に加えて、ペクチナーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、キシラナーゼ、マンナナーゼ、グルカナーゼなどの他の酵素で原料を並行処理してもよい。例えば、セルロシンTP25(エイチビィアイ社製)やセルロシンGM5(エイチビィアイ社製)、セルロシンAC40(エイチビィアイ社製)、セルロシンPC5(エイチビィアイ社製)、セルロシンME(エイチビィアイ社製)、YL−NL「アマノ」(アマノエンザイム社製)、ツニカーゼFN(大和化成社製)、キタラーゼM(ケイ・アイ化成社製)などの細胞壁溶解酵素剤を用いてもよい。他の酵素での並行処理は、デンプン分解酵素処理の前、後、あるいはデンプン分解酵素処理と同時に行うことができる。また他の酵素での並行処理は、蛋白分解酵素処理の前、後、あるいは蛋白分解酵素処理と同時に行うことができる。他の酵素あるいは他の酵素剤を用いるかわりに、微生物による発酵をデンプン分解酵素処理および蛋白分解酵素処理と並行して行ってもよい。微生物による発酵としては、酵母によるアルコール発酵、乳酸菌による乳酸発酵、酢酸菌による酢酸発酵などが挙げられる。微生物による並行発酵は、デンプン分解酵素処理の前、後、あるいはデンプン分解酵素処理と同時に行うことができる。また微生物による並行発酵は、蛋白分解酵素処理の前、後、あるいは蛋白分解酵素処理と同時に行うことができる。これらの他の酵素での処理、ならびに微生物による発酵に関する説明は例示説明であり、上記以外の酵素、酵素剤および微生物による発酵も当業者によく知られており、適宜選択して用いることができる。
【0024】
上述のようにしてデンプン分解酵素処理および蛋白分解酵素処理を行った後、反応物を固液分離して液体を除去して固体残渣を本発明の素材として得る。固液分離方法は当業者に公知の方法を用いることができ、例えば、遠心分離、ろ過、デカンテーションなどを用いることができる。必要な素材の量、沈殿の性質などの因子に応じて上記固液分離方法、あるいは上記以外の固液分離方法を、適宜選択し、あるいは組み合わせて用いることができる。
【0025】
このようにして得られた本発明の素材を、エタノール、ヘキサンなどの有機溶媒、あるいはリパーゼなどの脂質分解酵素などを用いて処理し、素材中に含有されている脂質成分を除去あるいは分解することにより、難消化性成分の割合を高めることができる。
【0026】
本発明は、もう1つの態様において、上記方法により得られる難消化性成分高含有素材に関する。固液分離により得られた本発明の素材をそのまま使用してもよく、乾燥させて粉末状あるいは顆粒状として用いてもよい。乾燥方法、粉末化方法、顆粒化方法などは当業者に公知の方法であってよい。得られた素材が着色している場合には活性炭処理などにより脱色してもよい。得られた素材をさらにエタノールなどで洗浄してもよい。これらの後処理および他の後処理は、目的に応じて当業者が適宜行うことができる。上述のごとく、本発明の素材はコレステロール性胆石形成抑制作用、血清コレステロール低下作用、中性脂肪低下作用、動脈硬化指数低下作用、糞中へのコレステロール排泄作用、抗肥満作用、腸内環境改善作用などの多様な生理機能を有するものである。しかも、本発明の素材は、安価な原料から大量に得ることができ、特に、植物性原料からの飲食物製造において得られる副産物(例えば、米糠、酒粕など)を原料とすることができるので、資源の有効利用に資するものである。
【0027】
本発明の素材をあらゆる飲食物に含有させることもできる。本発明の素材を含む飲食物は、コレステロール性胆石形成抑制作用、血清コレステロール低下作用、中性脂肪低下作用、動脈硬化指数低下作用、糞中へのコレステロール排泄作用、腸内環境改善作用などの様々な生理機能を発揮する。したがって、本発明の素材を飲食物に含ませることにより健康食品(いわゆるトクホを含む)を製造することができる。
【0028】
本発明の素材を有効成分として含有する医薬組成物を製造することもできる。本発明の医薬組成物は、コレステロール性胆石形成抑制作用、血清コレステロール低下作用、中性脂肪低下作用、動脈硬化指数低下作用、糞中へのコレステロール排泄作用、腸内環境改善作用などの様々な薬理効果を発揮する。本発明の医薬組成物は様々な剤形に処方することができ、経口処方が好ましい。例えば、粉剤、顆粒、錠剤、カプセル剤、懸濁液、シロップなどに処方することができる。これらの剤形の処方は製薬分野において公知の方法および材料を用いて作成することができる。
【0029】
本発明の素材を含むサプリメントを作成することもできる。本発明のサプリメントはコレステロール性胆石形成抑制作用、血清コレステロール低下作用、中性脂肪低下作用、動脈硬化指数低下作用、糞中へのコレステロール排泄作用、腸内環境改善作用などの様々な薬理効果を発揮する。本発明のサプリメントは粉剤、顆粒、錠剤、カプセル剤、懸濁液、シロップなどの摂食可能な形状にすることができる。これらのサプリケントの形状は当業者に公知の方法を用いて作成することができる。
【0030】
本発明の素材を含む飼料または動物用医薬組成物を作成することもできる。本発明の飼料はコレステロール性胆石形成抑制作用、血清コレステロール低下作用、中性脂肪低下作用、動脈硬化指数低下作用、糞中へのコレステロール排泄作用、腸内環境改善作用などの様々な作用効果を発揮する。本発明の動物用医薬組成物はコレステロール性胆石形成抑制作用、血清コレステロール低下作用、中性脂肪低下作用、動脈硬化指数低下作用、糞中へのコレステロール排泄作用、抗肥満作用、腸内環境改善作用などの様々な薬理効果を発揮する。本発明の飼料および動物用医薬組成物の形状は摂食可能な形態であればよく、例えば本発明の素材を既存の飼料に混ぜて摂食させることができ、また例えば粉剤、顆粒、錠剤、カプセル剤、懸濁液、シロップなどの形状であってもよい。本発明の素材はペットフードへの添加にも好適である。これらの飼料および動物用医薬組成物は当該分野にて公知の方法を用いて製造することができる。
【0031】
以下に実施例を示して本発明をより詳細かつ具体的に説明するが、実施例は単なる例示説明であり、本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0032】
米由来副産物の人工消化試験
清酒醸造の工程で産出される米糠、米粉糖化粕、酒粕などの米由来の副産物の人工消化試験を、消化酵素としてペプシン(和光純薬社製)とパンクレアチン(和光純薬社製)を用いて行い、消化されずに残った難消化成分の含有率(%)を測定した。
人工消化試験は、以下に示すフローチャートに従い行なった。
【0033】
検体 対照
乾燥試料 1.0g 1.0g
蒸留水 10ml 10ml
↓1N塩酸でpH 2に調整
ペプシン 10mg 無添加
↓37℃で4時間、攪拌
↓1N NaOHでpH 8に調整
パンクレアチン 20mg 無添加
↓37℃で16時間、攪拌
↓100℃、5分間煮沸で反応停止
↓60℃の95%エタノールを40ml添加後、1時間静置
↓No.5ろ紙で吸引ろ過し、さらに25mlの95%エタノールで洗浄ろ過
乾燥重量(検体:A、対照:B)を測定
【0034】
難消化成分含有率(%)は、含有率(%)=A/B x 100
(式中、Aは酵素消化後の不溶性残渣重量、Bは対照として酵素消化を行なわなかった時の不溶性残渣重量)により産出した。
【表1】

1)白糠1gを10mlの蒸留水に懸濁し、100℃で30分間α化(糊化)させた。
2)米粉糖化液を製造する過程で産出される粕。例えば、米粉を耐熱性α-アミラーゼを用いて糊化させながら液化、糖化を行い、圧搾後に残った残渣として得られ、これを乾燥したもの。
3)酒粕を乾燥したもの。
【0035】
表1に示すように、米由来の副産物中にヒトの消化酵素で消化されない難消化成分が18〜50%程度含まれていることが判った。また、米澱粉をα化することにより、消化性が高まることが明らかになった。ヒトが澱粉質を摂取するとき、ほとんどの場合、加熱調理するので米粉に含まれる難消化成分は、α化澱粉で測定するほうがより正しい含有率であると考えられる。なお、糖化粕、酒粕に含まれる澱粉質は、醸造工程において既にα化されているものと考えられる。
【0036】
そこで、米粉糖化粕と酒粕を消化酵素処理を行なうことにより、難消化成分を高含有する素材の調製を試みた。
【実施例2】
【0037】
米粉糖化粕からの難消化成分の調製
米粉糖化粕10kgを水90Lで懸濁し、オートクレーブ処理(121℃、15分間)にて滅菌処理を行なった後、遠心分離(7000rpm、5分間)を行い、上清を捨て残渣を集めた。この遠心残渣を0.1N 塩酸90Lに懸濁後、遠心分離(7000rpm、5分間)を行い洗浄した。この残渣をもう一度0.1N 塩酸90Lに懸濁し、10%NaOHでpH5.0に調整した。この懸濁液に糖化酵素剤としてグルク100(アマノエンザイム社製)を100g添加し、50℃、20時間酵素反応を行い(酵素反応1)、次に0.1N 塩酸でpH2.0に調整後、ペプシン(和光純薬社製)100gを添加し、37℃、4時間放置後の反応液(酵素反応2)を、更に10%NaOHでpH8.0に調整後、パンクレアチン(和光純薬社製)200gを添加し、37℃、20時間放置した(酵素反応3)。酵素処理後の懸濁液を遠心分離して得た残渣を0.1N 塩酸90Lで懸濁後、10% NaOHでpH6.8に調整(中和)した後、遠心分離(7000rpm、5分間)して集めた残渣をドラムドライヤーで乾燥し約980gの粉末を得た。この粉末を10倍量のエタノールに懸濁し、2時間攪拌後、ろ紙を用いて吸引ろ過後の残渣を乾燥して難消化成分粉末約720gを調製した。
【実施例3】
【0038】
酒粕からの難消化成分の調製1
酒粕10kgを水90Lに懸濁し、以下において実施例2と同様に調製した。唯一異なる処理は、酵素反応1において使用する酵素が、実施例2のグルク100の代わりに、糖化酵素剤としてグルクSB(アマノエンザイム社製)とグルクザイムAF6(アマノエンザイム社製)の2種類、細胞壁溶解酵素剤としてセルロシンTP25(エイチビィアイ社製)、セルロシンGM5(エイチビィアイ社製)の2種類、計4種類の酵素剤を各100g添加することである。酒粕には、米粉糖化粕と異なり、酵母、麹菌などの微生物が含まれており、これらの微生物も溶解して難消化成分を調製するためである。結果として、約570gの難消化成分粉末が調製できた。
【実施例4】
【0039】
酒粕からの難消化成分の調製2
酒粕使用量を15kgに増やして、実施例3と同様にもう一度、調製した結果、約960gの難消化成分粉末を調製した。
【0040】
【表2】

【0041】
表2に示すように、人工消化試験から算出した難消化成分含有率(%)は、調製前の糖化粕、酒粕の含有率が50%前後(表1)であるのに対して、いずれも80%を超えており、難消化成分を高含有する素材が調製できた。また、一般成分分析値を見るとタンパク質と炭水化物が主要成分であることから、難消化成分の主要成分もレジスタントプロテインとレジスタントスターチであることが、確認できた。
【実施例5】
【0042】
植物性素材の人工消化試験
米由来の副産物をペプシン、パンクレアチン処理及び、糖化酵素剤などと組み合わせて、酵素処理した不溶性の残渣中には、難消化成分が高含有していることから、米、酒粕以外の植物性食品からも同様に難消化成分高含有素材が調製できるのではないかと考え、まず、穀類、豆類、いも類に含まれる難消化成分の含有量を測定した。なお、これらの植物性素材は澱粉質が主要成分であるため、難消化成分含有率を正確に求めるために、全ての植物性素材は、実施例1の白糠と同様に、100℃で30分間α化した後、人工消化を行なった。
【0043】
【表3】

【0044】
表3に示すように試験をした全ての植物性素材には、米と同等あるいはそれ以上の難消化成分(14〜36%)を含んでいることが明らかとなったことから、米以外の植物性素材からも難消化成分高含有素材が十分に調製できることが確認できた。
【実施例6】
【0045】
植物性素材からの難消化成分の調製
広く植物性素材にもレジスタントプロテインとレジスタントスターチを主要成分とする難消化成分が含まれていることが、実施例5より確認できたので、酵素剤による植物性素材からの難消化成分の高含有調製法について検討した。また、酵素剤は、必ずしもペプシンやパンクレアチンなどの消化酵素を使用しなくても、植物性素材のタンパク質と澱粉に効率的に作用する酵素剤であれば、消化酵素に代替できるものと考え、食品用酵素剤として市販されているプロテアーゼ剤とアミラーゼ剤から選択した。
【0046】
(調製方法)
各植物性素材の粉末100gをマッキルベン緩衝液(pH4.0)1Lに懸濁し、100℃、30分間の加熱により澱粉のα化処理を行なった。この懸濁液に、プロテアーゼ剤としてオリエンターゼ20A(エイチビィアイ社製)とアミラーゼ剤としてグルク100(アマノエンザイム社製)を各2.0g添加し、50℃、3時間放置した後、100℃、5分間の加熱により反応を停止した。この反応液を遠心分離(7000rpm、15分間)し、上清を除き残渣を集めた。これに蒸留水1Lを加え再懸濁後、遠心分離する工程を2回繰り返すことにより、残渣を洗浄した後、凍結乾燥を行い、不溶性成分を調製した。
【0047】
(植物性素材由来不溶性成分の人工消化試験)
上記の方法で調製した酵素処理後の不溶性残渣に含まれる、植物性素材由来の難消化成分含有率を実施例1の方法で測定した。
【0048】
【表4】

【0049】
表4に示すように、プロテアーゼ剤とアミラーゼ剤を併用することにより、植物性素材のタンパク質と澱粉は、効率的に消化された結果、未消化の不溶性成分を6〜33%の範囲で回収できた。また、比較のために酒粕を同条件で処理した場合の回収率は、約30%を示し、米粉より約5倍回収率が高い結果となった。これは、清酒醸造工程中に、麹に含まれるアミラーゼ、プロテアーゼの作用を受け、難消化成分が既にある程度濃縮されていることが示唆される。
【0050】
また、回収した不溶性成分に含まれる難消化成分含有率は、酵素処理前の難消化成分含有率(表3)に比べて、何れの素材でも増加しており、とうもろこし、いも類では3倍以上含有率が増加した結果、70%以上の高含有素材が調製できた。以上のことより、どの植物性素材からも消化酵素を使用しなくても、アミラーゼ剤とプロテアーゼ剤の併用で、難消化成分高含有素材は、調製できることが証明された。また、難消化成分を調製する原材料としては、酒粕などのようにプロテアーゼとアミラーゼの両方、あるいはどちらか1つの酵素の作用を受け、レジスタントプロテイン、レジスタントスターチなどの難消化成分が少しでも濃縮されている植物性素材由来の原材料及び副産物を利用できれば、より効率的に製造できることが示唆された。
【実施例7】
【0051】
酒粕再醗酵物からの難消化成分の調製
酒粕再醗酵物とは、酒粕と仕込み水と酵母を混合した後、アルコール醗酵を行なうことにより得られる素材であり、食品、化粧品、医薬品などに利用される機能性素材である(特開2006−193496)。その製造工程において、プロテアーゼ剤とアミラーゼ剤も使用される場合がある。この方法で製造された酒粕再醗酵物に含まれる不溶性成分は、難消化成分を高含有していることが期待できる。そこで、アルコール発酵時にアミラーゼ剤とプロテアーゼ剤を添加して製造した酒粕再醗酵物の乾燥粉末からの難消化成分の調製を行なった。
【0052】
(酒粕再醗酵物の製造)
19kg液化酒粕と19Lの酵母懸濁液(1.0x10個/ml)を混合した。これに9.5g(酒粕の1/2000量)の糖化酵素(グルク100:アマノエンザイム社製)と23.75g(酒粕の1/800量)のプロテアーゼ剤(オリエンターゼ20A:エイチビィアイ社製)を加え、25℃(1日)→15℃一定で4日間醗酵させた。醗酵終了後、ドラムドライで乾燥し、約6.0kgの粉末を得た。
【0053】
(難消化成分の調製)
この乾燥粉末4.5kgに10倍量の水45Lを加え、懸濁後、100℃達温になるまで加熱し、水溶性成分を抽出後、連続遠心分離(15000rpm、AS−16−プラズマ型:巴工業社製)により、不溶性残渣を回収した。この操作をもう一度繰り返し行い回収された不溶性成分に10倍量の95%エタノールを加え、2時間攪拌後、ろ紙を用いて吸引ろ過の残渣を乾燥して、難消化成分約2.4kgを調製した。
【0054】
【表5】

【0055】
表5に示すように、酒粕再醗酵物の粉末には不溶性成分が50%以上含まれており、人工消化試験の結果、不溶性成分の70%以上が難消化成分であることが明らかとなった。
【0056】
実施例7の場合、製造工程中に、プロテアーゼが酒粕の1/800量、糖化酵素が1/2000量添加されているため、酒粕再醗酵物の製造と並行して、難消化成分も更に濃縮された結果、酒粕再醗酵物の不溶性成分中に70%以上の高純度で難消化成分が含まれることになったと考えられる。また、難消化成分の調製において、酵母添加によるアルコール発酵は、特に影響を及ぼさないことも確認できた。即ち、アルコール飲料と難消化成分高含有素材の同時調製が可能であり、再醗酵後のもろみを圧搾することにより、液体成分はアルコール飲料等として、固体成分は難消化成分として利用できる。
【実施例8】
【0057】
再醗酵酒粕からの難消化成分の調製
40kg液化酒粕と80Lの酵母懸濁液(5.0 x 107個/ml)を混合した。これに20g(酒粕の1/2000量)の糖化酵素(グルク100:アマノエンザイム社製)と50g(酒粕の1/800量)のプロテアーゼ剤(オリエンターゼ20A:エイチビィアイ社製)を加え、25℃で3日間放置するここにより、醗酵と難消化成分の調製を同時に行なった。醗酵終了後のもろみを圧搾機にかけ再醗酵酒粕14.9kgを得た。この酒粕に27Lの水を加え再懸濁し、ドラムドライヤーで乾燥し7.38kgの粉末を得た。この粉末に10倍量の95%エタノールを加え、2時間攪拌後、ろ紙を用いて吸引ろ過の残渣を乾燥して、難消化成分約5.9kgを調製した。
【0058】
【表6】

【0059】
糖化酵素とプロテアーゼ剤を添加した酒粕再醗酵もろみを圧搾して得られる再醗酵酒粕は、約50%の水分を含む難消化成分高含有素材である。表6に示すように、この再醗酵酒粕の乾燥粉末に含まれる難消化成分は、78.7%という高含有率であった。
【実施例9】
【0060】
レジスタントプロテインの定量
実施例7で調製した難消化成分高含有素材に含まれるレジスタントプロテイン(RP)含量を食物繊維の定量法であるプロスキー法を利用して測定した。即ち、常法通りに、実施例7の素材をα−アミラーゼ、プロテアーゼ、アミログルコシダーゼで酵素消化後、エタノールを加えて生じる未消化沈殿物に含まれるタンパク質が、RPであり、これは未消化沈殿物をケールダール分解することにより求められる。このようにして測定したRP含有量は、36.2%であった。言い換えれば、難消化成分71.4%の残りの35.2%は、RP以外の食物繊維(主としてレジスタントスターチ)で構成されていることになり、複数の難消化成分を含んでいることが実験的にも証明された。
【実施例10】
【0061】
マウスにおける胆石形成抑制効果1
日本クレア(株)より入手したICRマウス(4週齢・雄性)を固形飼料(CE−2)にて1週間予備飼育した後、実験に供した。
【0062】
平均体重が同等となるように各群8匹ずつの3群(対照群、試験群1:実施例2の難消化成分、試験群2:実施例3の難消化成分)に分けた。試験期間は3週間とし、飼料は自由摂取とした。飼料は米国国立栄養研究所(AIN)の組成に基づき、コレステロールを0.5%、コール酸ナトリウムを0.25%添加した。試験群にはそれぞれの発明品中に含まれるタンパク質および食物繊維を対照群のカゼインおよびセルロースの割合に置き換えて表7に示す配合で調整した。
【0063】
【表7】

【0064】
実験開始から3週間後に解剖した。断頭採血したのち開腹し、胆嚢中の胆石形成度を6段階(グレードA:胆石なし、グレードB:胆砂、グレードC:数個の胆石形成、グレードD:胆嚢中に胆石を20%形成、グレードE:胆嚢中に胆石を50%形成、グレードF:胆嚢中に胆石を75%以上形成)の指標で肉眼評価した。血清および肝臓の脂質は酵素法で測定した。またマウスの糞を採取し、凍結乾燥後、粉砕して、糞中脂質を酵素法で測定した。
【0065】
その結果、対照群は8匹全てのマウスにおいてコレステロール胆石の形成(グレードB以上)がみられたが、実施例2及び3で調製した難消化成分を摂取させた試験群1及び試験群2では、全てのマウスに胆石形成がみられなかった。更に、胆嚢中のTC(総コレステロール)値とBA(胆汁酸)値の比(TC/BA)と胆石形成評価を比較したところ、対照群では、胆石形成度が重症になるにつれTC/BA比が増加したが、難消化成分を摂取させた試験群1および試験群2では対照群に比べてTC/BAが低値を示した(図2)。
【0066】
肝臓の脂質レベル(表8)は、対照群に比べ試験群1および試験群2においてTCの有意な減少がみられた。また、A群及びB群では、糞乾燥重量が有意(有意差:p<0.05)に増加し、TCおよびBAの排泄率も有意に増加した(表9)。
【0067】
【表8】

【0068】
【表9】

【実施例11】
【0069】
マウスにおける胆石形成抑制効果2
日本クレア(株)より入手したICRマウス(4週齢・雄性)を固形飼料(CE−2)にて1週間予備飼育した後、実験に供した。
【0070】
平均体重が同等となるように各群10匹ずつの2群(対照群、試験群:実施例8の難消化成分)に分けた。試験期間は3週間とし、飼料は自由摂取とした。飼料は米国国立栄養研究所(AIN)の組成に基づき、コレステロールを0.5%、コール酸ナトリウムを0.25%添加した。試験群にはそれぞれの発明品中に含まれるタンパク質および食物繊維を対照群のカゼインおよびセルロースの割合に置き換えて実施例10と同様の配合割合で調整した。
【0071】
実験開始から3週間後に解剖した。断頭採血したのち開腹し、胆嚢中の胆石形成度を6段階(グレード1:胆石なし、グレード2:胆砂、グレード3:数個の胆石形成、グレード4:胆嚢中に胆石を20%形成、グレード5:胆嚢中に胆石を50%形成、グレード6:胆嚢中に胆石を75%以上形成)の指標で肉眼評価した。血清および肝臓の脂質は酵素法で測定した。またマウスの糞を採取し、凍結乾燥後、粉砕して、糞中脂質を酵素法で測定した。
【0072】
その結果、対照群は10匹中8匹のマウスにおいてコレステロール胆石の形成(グレードB以上)がみられたが、実施例8で調製した難消化成分を摂取させた試験群では、全てのマウスに胆石形成がみられなかった。更に、胆嚢中のTC(総コレステロール)値とBA(胆汁酸)値の比(TC/BA)と胆石形成グレードを比較したところ、対照群では、胆石形成グレードが2以上であり、TC/BA比も増加したが、難消化成分を摂取させた試験群では対照群に比べて胆石形成グレードは1であり、TC/BAも低値を示した(表10)
【0073】
【表10】

【0074】
肝臓の脂質レベル(表11)は、対照群に比べ試験群においてTC、PL(リン脂質)の有意な減少がみられた。また、試験群では、糞乾燥重量が有意(有意差:p<0.01)に増加し、TCの排泄率も有意に増加した(表12)。
【0075】
【表11】

【0076】
【表12】

【実施例12】
【0077】
ラットにおける脂質低下作用1
日本クレア(株)より入手したSprague Dawley(SD)ラット(4週齢・雄性)を固形飼料(CE−2)にて1週間予備飼育した後、実験に供した。
【0078】
平均体重が同等となるように各5匹ずつの2群(対照群、試験群:実施例4の難消化成分)に分けた。試験期間は3週間とし、飼料は自由摂取とした。飼料はAIN組成に基づき、コレステロールを0.5%、コール酸ナトリウムを0.1%添加した。試験群には実施例4の難消化成分中に含まれるタンパク質および食物繊維を対照群のカゼインおよびセルロースの割合に置き換えて表13に示す配合で調製した。
【0079】
【表13】

【0080】
実験開始から3週間後に解剖した。腹部大動脈より採血し、各臓器・各脂肪組織を摘出後、重量を測定した。血清および肝臓の脂質を酵素法で測定した。また糞を採取し、凍結乾燥後、粉砕して、糞中脂質を酵素法で測定した。
その結果、試験群では、血清中のTC(総コレステロール)、AI(動脈硬化指数)、TG(中性脂肪)において有意に減少し(表14)、肝臓のTC、TG、PL(リン脂質)においても有意に減少した(表15)。また、難消化成分の摂取により糞の排泄量が有意に増加し、TCの排泄率も有意(有意差:p<0.05)に増加した(表16)。
【0081】
【表14】

【0082】
【表15】

【0083】
【表16】

【実施例13】
【0084】
ラットにおける脂質低下作用2
日本クレア(株)より入手したSprague Dawley(SD)ラット(4週齢・雄性)を固形飼料(CE−2)にて1週間予備飼育した後、実験に供した。
【0085】
平均体重が同等となるように各5匹ずつの4群(対照群、試験群1:実施例7の難消化成分を100%配合、試験群2:50%配合、試験群3:20%配合)に分けた。試験期間は3週間とし、飼料は自由摂取とし、体重及び飼料摂取量を測定した。飼料はAIN組成に基づき、コレステロールを0.5%、コール酸ナトリウムを0.1%添加した。各試験群には実施例7の難消化成分中に含まれるタンパク質を対照群のカゼインにそれぞれ100%、50%、20%の割合で置き換え、さらにそれぞれの難消化成分添加量中に含まれる食物繊維を対照群のセルロースに置き換えて表17に示す配合で調製した。
【0086】
【表17】

【0087】
実験開始から3週間後に解剖した。腹部大動脈より採血し、各臓器・各脂肪組織を摘出後、重量を測定した。血清および肝臓の脂質を酵素法で測定した。また糞を採取し、凍結乾燥後、粉砕した。酵素法で糞中脂質を測定、ガスクロマトグラフィーにより糞中ステロールを測定した。
【0088】
その結果、血清TC(総コレステロール)では各試験群で濃度依存的に減少傾向を示した(図3)。肝臓TCでは試験群1で有意な(p<0.01)減少がみられ、濃度依存的に減少した(図4)。各脂肪重量では、試験群1において、睾丸周囲脂肪、総脂肪の減少傾向を示したことから、内臓脂肪蓄積抑制効果も期待できる(表18)。
【0089】
【表18】

【0090】
また、糞の排泄量が有意に増加し(図5)、それに伴いTCおよびBA(胆汁酸)の排泄率も有意に増加した(図6及び図7)。糞中中性ステロールではコプロスタノールの増加がみられた(図8)。更に盲腸内容物中の有機酸組成は、濃度依存的に酢酸、プロピオン酸が増える傾向を示し、試験群1と2では、イソ酪酸、イソ吉草酸が減少する傾向を示したことから、腸内環境改善効果が確認された(表19)。
【0091】
【表19】

【実施例14】
【0092】
ラットにおける肥満抑制効果
日本クレア(株)より入手したSprague Dawley(SD)ラット(4週齢・雄性)を固形飼料(CE−2)にて1週間予備飼育した後、実験に供した。
【0093】
平均体重が同等となるように各10匹ずつの2群(対照群、試験群:実施例8の難消化成分)に分けた。試験期間は6週間とし、飼料は自由摂取とした。飼料はAIN組成に基づいた。試験群には実施例8の難消化成分中に含まれるタンパク質、食物繊維、脂質を対照群のカゼイン、セルロース、コーンオイルの割合に置き換えて表20に示す配合で調製した。
【0094】
【表20】

【0095】
実験開始から6週間後に解剖した。腹部大動脈より採血し、各臓器・各脂肪組織および大腿腓腹筋を摘出後、重量を測定した。血清および肝臓の脂質を酵素法で測定した。
その結果、対照群に比べて試験群では、腹部脂肪、腎周囲脂肪、睾丸周囲脂肪のいずれも減少した。しかし、大腿腓腹筋重量は両群とも大きな違いはなく、実施例8の難消化成分を摂取することで、筋肉には影響を与えず、脂肪の蓄積を抑制することが示された(表21)。また試験群では、血清中のTG(中性脂肪)において有意に減少し(表22)、肝臓のTC(総コレステロール)、TG、PL(リン脂質)においても有意に減少した(表23)。
【0096】
【表21】

【0097】
【表22】

【0098】
【表23】

【実施例15】
【0099】
クッキーの試作(5%添加)
バター(75g)および実施例7の難消化成分高含有素材(12g)をミキサーで混ぜた。砂糖(30g)を加えてよく混ぜ、卵黄(1/2個)を少しずつ加えながら混ぜた。薄力粉(113g)を加えて木べらで手早く混ぜ合わせた。冷蔵庫で寝かせた後、10gずつに量り分け、丸く形成した。170℃のオーブンで20分間焼き、クッキーを製造した。
【実施例16】
【0100】
パンの試作(5%添加)
砂糖(6.5g)およびドライイースト(1g)を混ぜ、40℃の水(30ml)を加え予備発酵させた。強力粉(47.5g)、実施例7の難消化成分高含有素材(2.5g)、食塩(0.5g)、バター(7.5g)を混ぜ、予備発酵させておいたものと混ぜ合わせた。生地をひとまとめにして15分間捏ねた。軽く空気を抜き、生地を包み込むようにまとめ、40℃のオーブンで30分間一次発酵させた。軽く空気を抜いて生地を4等分にし、同様に包み込むようにまとめて40℃のオーブンで20分間二次発酵させた。180℃のオーブンで13分間焼き、パンを製造した。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明は、飲食物、とりわけ健康食品やいわゆるトクホ、サプリメント、医薬品、ならびに飼料および獣医用組成物の分野において有用な機能性素材を提供するので、これらの分野において利用可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】日本食物繊維研究会の提唱するルメナコイドの分類を示す図である。
【図2】胆石形成レベルと胆嚢中の総コレステロール(TC)と胆汁酸(BA)の比(TC/BA)の関係を示す図である。図中の異なるアルファベットは、有意差(p<0.05)を示す。
【図3】ラット血清中の総コレステロール(TC)濃度を示す図である。
【図4】ラット肝臓中の総コレステロール(TC)濃度を示す図である。
【図5】ラットの糞重量を示す図である。
【図6】ラットの糞中に排泄された総コレステロール(TC)の排泄率を示す図である。
【図7】ラットの糞中に排泄された胆汁酸(BA)の排泄率を示す図である。
【図8】ラットの糞中に排泄されたコプロスタノールの排泄量を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物由来原料をデンプン分解酵素処理および蛋白分解酵素処理し、次いで、固液分離を行って液体成分を除去することを特長とする、難消化性成分高含有素材の製造方法。
【請求項2】
植物由来原料が穀類、豆類またはいも類由来である請求項1記載の方法。
【請求項3】
植物由来原料が米、麦、そば、とうもろこし、あわ、ひえ、きび、こうりゃん、小豆、大豆、えんどう豆、インゲン豆、レンズ豆、緑豆、じゃがいも、さつまいも、キャッサバ、タロイモ、ヤムイモ、キクイモ、およびこんにゃくいもからなる群から選択される1種またはそれ以上のものに由来する請求項1記載の方法。
【請求項4】
植物由来原料が米粉、米糠、米粉糖化粕、酒粕、みりん粕、しょうちゅう粕、小麦粉、ビール粕、醤油粕、おから、および油かすからなる群より選択される1種またはそれ以上のものである請求項1記載の方法。
【請求項5】
植物由来原料が米粉、米糠、米粉糖化粕、酒粕からなる群より選択される1種またはそれ以上のものである請求項1記載の方法。
【請求項6】
デンプン分解酵素処理の前に原料中のデンプンをα化させることをさらに特長とする、請求項1記載の方法。
【請求項7】
デンプン分解酵素および/または蛋白分解酵素が耐熱性のものである請求項1記載の方法。
【請求項8】
デンプン分解酵素処理および/または蛋白分解酵素処理と並行して、他の酵素での処理あるいは微生物による発酵処理が行われる請求項1記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項記載の方法により得られる難消化性成分高含有素材。
【請求項10】
請求項9記載の素材を含む飲食物。
【請求項11】
コレステロール性胆石形成抑制、血清コレステロール低下、中性脂肪低下、動脈硬化指数低下、糞中へのコレステロール排泄、抗肥満または腸内環境改善のための、請求項9記載の素材を含む医薬組成物。
【請求項12】
請求項9記載の素材を含むサプリメント。
【請求項13】
請求項9記載の素材を含む飼料または動物用医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−189625(P2008−189625A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−28304(P2007−28304)
【出願日】平成19年2月7日(2007.2.7)
【出願人】(000204686)大関株式会社 (9)
【出願人】(591210622)ヤヱガキ醗酵技研株式会社 (14)
【Fターム(参考)】