説明

植物病害防除剤、農薬及び肥料

【課題】 広範囲にわたる植物病害菌に対する抗菌作用を有し、植物病害の防除ができる甘草の油性抽出物由来の植物病害防除剤、これを含む農薬及び肥料を提供する。
【解決手段】 甘草の油性抽出物を含有することを特徴とする植物病害防除剤、グラブリジンを有効成分とする植物病害防除剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、甘草の油性抽出物、特にグラブリジンを有効成分とする植物病害防除剤、ならびに農薬及び肥料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
甘草(Licorice)は生薬として知られ、現在では主に食品用甘味料や医薬品・医薬部外品等の原料として使用されている。特に、その水溶性成分であるグリチルリチンには、抗炎症作用、抗潰瘍作用及び抗アレルギー作用等の優れた薬理作用があることから、広く食品、医薬品及び化粧品等に利用されている。甘草及びその成分のグラム陽性菌及び食品の腐敗原因となる一部の真菌類に対する抗菌作用については既に知られている。(非特許文献1〜4参照)。また、甘草抽出物を配合した土壌改良剤(特許文献1参照)及び甘草抽出物を含有する植物生長促進剤及び該植物生長促進剤を使用した肥料(特許文献2参照)が知られている。
しかしながら、甘草抽出物について、特定の植物病原菌に対する抗菌性は確認されていない。
【0003】
【特許文献1】特開平8−245959号公報
【特許文献2】特開2000−309502号公報
【非特許文献1】築山良一、「食品と開発」、37巻、2002年、6号、p59−61
【非特許文献2】ケンゾー オカダ(Kenzo Okada)、Chem.Pharm.Bull.Vol.37,No.9,p2528−2530,1989
【非特許文献3】サチオ デミズ(Sachio Demizu)、Chem.Pharm.Bull.Vol.36,No.9,p3474−3479,1988
【非特許文献4】竹中 眞ら、研究成果情報 総合農業 1996年、p191−192
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、広範囲にわたる植物病原(害)菌に対する抗菌作用を有し、植物病害の防除ができる甘草の油性抽出物由来の植物病害防除剤、これを含む農薬及び肥料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、農業において問題になっている数種の植物病原菌に対する抗菌作用について鋭意研究を重ねてきた。その結果、甘草の油性抽出物に抗菌作用を見出し、本発明をなすに至ったものである。さらに、抗菌性を有する有効成分が、グラブリジンであることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0006】
従って、本発明は、
[1].甘草の油性抽出物を含有することを特徴とする植物病害防除剤、
[2].グラブリジンを有効成分とする植物病害防除剤、
[3].[1]又は[2]記載の植物病害防除剤を含有してなる農薬、
[4].[1]又は[2]記載の植物病害防除剤を含有してなる肥料を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、甘草の油性抽出物、グラブリジンを有効成分とする、安全性が高く、優れた植物病害防除効果を有する植物病害防除剤、これを含有してなる農薬及び肥料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明につきさらに詳細に説明する。
本発明の第1の発明は、甘草の油性抽出物を含有する植物病害防除剤である。
本発明の植物病害防除剤の原料となる甘草は、マメ科Glycyrrihiza属に属する植物で、例えば、G.glabra、G.uralensis、G.inflata等が挙げられ、本発明においては、G. glabraを使用することが好ましい。また、使用部位は根、根茎、葉、茎のいずれの部位でも原料として使用することができ、根及び/又は根茎を原料として使用することが好ましい。また、これらは、生のものを使用しても乾燥させたものを使用してもよいが、工業的に製造されているグリチルリチンの抽出原料となっている乾燥根及び乾燥根茎、グリチルリチン等を得るために水で抽出した後の水抽出残渣を原料として使用することもできる。なお、甘草は生産地の名前を冠して呼ばれることが多く、例えば、東北甘草、西北甘草、新疆甘草、モンゴル産甘草、ロシア産甘草、アフガニスタン産甘草等を挙げることができる。
【0009】
また、甘草の水抽出残渣とは、上記の甘草の抽出方法は特に限定されず、冷水、温水又は熱水で、中性又は微アルカリ性で抽出した後の固形残渣が挙げられ、これらを組み合わせ、繰り返して抽出した後の固形残渣でもよい。抽出後の残渣は、含水及び乾燥状態のいずれでもよい。甘草又は甘草水抽出残渣から、本発明に係る甘草油性抽出物を得るためには、各種の有機溶媒を単独あるいは組み合わせて使用して抽出すればよい。
【0010】
前記有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルエーテル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、含水メタノール、含水エタノール、含水プロパノール等が挙げられる。さらには、超臨界流体として二酸化炭素を用いることもできる。これらの有機溶媒の中では、エタノール又は含水エタノールを使用するのが食品衛生法上、問題が少ないため好ましい。
【0011】
甘草又は甘草水抽出残渣から上述した有機溶媒で甘草の油性抽出物を得るための条件は特に限定されるものではないが、標準的な方法を示すと、抽出原料に対し2〜10倍質量の有機溶媒を加え、撹拌しながら常温で抽出する方法及び加熱還流して抽出する方法がある。また、これらの方法をそれぞれ単独で、又は組み合わせて繰り返し操作すれば、抽出効率が向上し、より好ましい。
【0012】
得られた抽出液は、遠心分離及び濾過により不溶物を取り除いた後、甘草油性抽出物として、そのまま使用することもできるし、さらに常法により、濃縮して使用することもできる。これらは、目的とする生理的効果が低下しない範囲で脱臭及び脱色等の精製を適宜行ってもよい。この精製工程には、活性炭、合成吸着樹脂及びイオン交換樹脂等を用いることが一般的である。また、適当な方法で抽出液を乾燥させれば、甘草の油性抽出物として、黄褐色の抽出物粉末を得ることができる。
【0013】
本発明においては、このようにして得られた液状抽出物をそのまま、又は液状抽出物を濃縮したもの、さらには液状抽出物の粉末、固形の乾燥物が甘草油性抽出物として利用される。また、得られた甘草油性抽出物を有機溶媒及び界面活性剤等で扱いやすい製剤にしてよい。
【0014】
本発明の植物病害防除剤は、植物病原菌に対する抗菌作用を有するものであり、特に真核生物に属する植物病原菌(一般に糸状菌)に対する抗菌性を有するものである。真核生物に属する病原菌には穀類、いも類、豆類、野菜、果樹、花き、特用作物、飼料作物等多数の農作物を侵し、今まで報告されている病害数(作物と病原菌の組み合わせ)は3,000以上にのぼる。主要な病原菌としては、イネではいもち病(ピリキュラリ オリゼ:Pyricularia oryzae)、苗腐病菌(ピシウム グラミニコラ:Pythium graminicola)、紋枯病菌(リゾクトニア ソラニ:Rhizoctonia solani)、ばか苗病菌(ジベレラ フジクロイ:Gibbera fujikuroi)、ごま葉枯病(コクリオボラス ミヤベナス:Cochliobolus miyabeanus)、苗立枯病菌(リゾープス オリゼ:Rhizopus oryzae)、ムギ類の赤かび病菌(フザリウム グラミネアルム:Fusarium graminicola)、ダイズの紫斑病菌(サーコスポラ キクチイ:Cercospora kikuchii)、野菜では各種野菜共通に発生する灰色かび病菌(ボトリチス シネレア:Botrytis cinerea)、うどんこ病菌(一例:スファエロテカ フリギニア:Sphaerotheca fuliginea)、菌核病菌(一例:スクレロチニア スクレロチオルム:Sclerotinia sclerotiorum)、炭疽病菌(一例:コレトトリカム オルビキュラレ:Colletotrichum orbiculare)、疫病菌(一例:ファイトフソラ メロニス:Phytophthora melonis)、各種立枯性病害を起疽こすフザリウム病菌(一例:フザリウム オキシスポラム:Fusarium oxysporum)、個別にはトマトの葉かび病菌(フルビア フルバ:Fulvia fulva)、輪紋病菌(アルタナリア ソラニ:Alternaria solani)、褐色輪紋病菌(コリネスポラ カシコラ:Corynespora cassiicola)、斑点病菌(ステムフィリウム リコペルシイシイ:Stemphylium lycopersici)、ナスの褐紋病菌(ホーモプシス ベサンス:Phomopsis vexans)、すすかび病菌(マイコベロシネラ ナトラシ:Mycovellosiella nattrassii)、褐色円星病菌(パラサーコスポラ エゲヌラ:Paracercospora egenula)、キュウリ(スイカ等を含む)のべと病菌(シュードペロノスポラ キュベンシス:Pseudoperonospora cubensis)、褐斑病菌(コリネスポラ カシコラ:Corynespora cassiicola)、つる枯病菌(ディディメラ ブリオネ:Didymella bryoniae)、ピーマンの斑点病菌(サーコスポラ カプシィシィ:Cercospora capsici)、ホウレンソウの萎凋病菌(フザリウム オキシスポラム フォルマスペシーズ スピナシエ:Fusarium oxysporum f.sp. spinaciae)、ネギの黒斑病(アルタナリア ポリ:Alternaria porii)、果樹では、リンゴの斑点落葉病菌(アルタナリア マリ:Alternaria mali)、黒星病菌(ベンチュリア イネクアリス:Venturia inaequalis)、ナシの黒斑病菌(アルタナリア キクチアナ:Alternaria kikuchiana)、赤星病菌(ギムノスポランギウム アシアチウム:Gymnosporangium asiatium)、カンキツの黒点病菌(ディアポルテ シトリ:Diaporthe citri)、青カビ病菌(ペニシリウム イタリカム:Penicillium itaricum)、ブドウの晩腐病菌(グロメレラ シンギュラータ:Glomerella cingulata)、べと病菌(プラズモパラ ビチコラ:Plasmopara viticola)、等が挙げられる。この中でも、キュウリの炭疽病及び褐斑病、トマトの葉かび病、褐色輪紋病及び斑点病、ピーマンの斑点病、スイカのつる枯病、ネギの黒斑病の原因菌、イネのいもち病、各種野菜に共通に発生する灰色かび病、ナスのすすかび病、カンキツの青カビ病の病原因菌等に効果的である。
【0015】
本発明の第2の発明は、グラブリジンを有効成分であることを特徴とする植物病害防除剤である。グラブリジンの取得方法は、特に制限されない。グラブリジンは、精製された市販のものを用いてもよいし、カンゾウ等の植物から抽出してもよい。抽出方法としては、特に限定されず、エタノール等の有機溶媒で、抽出温度及び時間を適宜調整して抽出することができる。グラブリジンは、甘草の油性抽出物を精製して得られるものでもよく、精製は、例えば、液−液分配抽出、各種クロマトグラフィー、膜分離等で行うことができる。
【0016】
グラブリジンを有効成分であることを特徴とする植物病害防除剤において、植物病害、病原菌は上記と同様のものを挙げることができる。
【0017】
本発明の植物病害防除剤は、そのまま又は任意の農薬成分や肥料成分と混合し農薬や肥料として用いることができる。その他の成分としては、界面活性剤、乳化剤、増量剤、保湿等が挙げられる。剤型は特に限定されないが、液剤、水溶剤、粉剤、粒剤、水和剤、乳剤、フロアブル剤、マイクロカプセル剤等にすることができる。使用方法としては、これらをそのまま、又は水で希釈し散布する方法が挙げられる。
【0018】
本発明の植物病害防除剤は、チッソ、リン酸、カリウムの3要素を含む複合肥料と混合して製剤化し、これを圃場に散布することにより、病害防除と施肥を同時に行うことができる。また、葉面散布肥料(液状又は粉末状の複合肥料)等を用いて混合製剤に加工し、これらを水に溶解して作物の葉面に直接散布することにより病害防除と施肥を同時に行うことができる。さらに、マンガン、ホウ素、鉄、銅、亜鉛、モリブデン、塩素、ニッケル等の必要とされる微量要素を含む微量要素肥料と混合して製剤化し、それを散布することにより、病害防除と微量要素欠乏症を同時に解決することができる。このほか、各種有機質肥料と混合して使用することもできる。
【0019】
農薬や肥料として用いる場合、甘草の油性抽出物を含有する植物病害防除剤の場合の配合量は、農薬全量中の0.1〜90質量%が好ましく、より好ましくは1〜50質量%であり、肥料全量中0.1〜90質量%が好ましく、より好ましく1〜50質量%である。グラブリジンを有効成分とする植物病害防除剤の場合の配合量は、農薬全量中の0.1〜90質量%が好ましく、より好ましくは1〜50質量%であり、肥料全量中0.1〜90質量%が好ましく、より好ましく1〜50質量%である。
【0020】
本発明の植物病害防除剤は、化学合成農薬による薬剤耐性菌の出現や副作用の問題がなく、安心して使用することができる。さらに、薬剤の残留による人体や環境に対する影響がないため、野菜、樹木、花等の植物に対する病害防除に大きく貢献できる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例及び処方例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。下記の例において特に明記のない場合は「%」は質量%である。
【0022】
[実施例1]
甘草(Glycyrrhiza glabra)の根茎を粉砕し、チップ状にした。この甘草チップ1.0kgを10Lのエタノールで一晩抽出した後、固液分離した。得られた抽出濾液を減圧濃縮し、析出したタール状成分をデカンデーションにより除去した。得られた上清液に対し活性炭10gを加えて脱色・消臭し、これを濾過した。得られた濾液を減圧濃縮し、エタノール濃度70%になるように調製して甘草油性抽出物エキス約1.0Lを得た。この甘草油性抽出物エキスの固形分(甘草油性抽出物)濃度は2.0%であった。
【0023】
[実施例2]
甘草(Glycyrrhiza glabra)の根茎を粉砕し、チップ状にした。この甘草チップ1.0kgを10Lのエタノールで一晩抽出した後、固液分離した。得られた抽出濾液を減圧濃縮し、析出したタール状成分をデカンデーションにより除去した。得られた上清液に対し活性炭10gを加えて脱色・消臭し、これを濾過した。得られた濾液を減圧濃縮し、凍結乾燥させて固形物19.7gを得た。得られた固形物を細かく粉砕し、粉末状の甘草油性抽出物を得た。
【0024】
[実施例3]
製造例1で得られた甘草油性エキスを固形分として10質量部相当になるエキス量に、サポニンとしてキラヤ抽出物(丸善製薬(株)製、キラヤニンC−100、固形分20質量%)を固形分として15質量部、溶解助剤としてプロピレングリコールを75質量部加えて60℃に加温して撹拌し、均一に混合した。この混合液を減圧濃縮し、エキス中に含まれていた水及びエタノールを留去することにより、9%の甘草油性抽出物を含有する甘草油性抽出物製剤1を得た。この甘草油性抽出物製剤1についてHPLC分析を行った結果、グラブリジン含量1%であった。
【0025】
[実施例4]
製造例2で得られた甘草油性抽出物粉末の10質量部に、適量のエタノールを40質量部加えて完全に溶解させた。さらにこの溶液にキラヤ抽出物(丸善製薬(株)製、キラヤニンC−100、固形分20%)を固形分として15質量部加えて60℃に加温して撹拌し、均一に混合した。この混合液に水を加えることで、8%の甘草油性抽出物を含有する甘草油性抽出物製剤2を得た。この甘草油性抽出物製剤2についてHPLC分析を行った結果、グラブリジン含量1%であった。
【0026】
下記に、グラブリジン含量のHPLC分析条件を示す。
<HPLC分析>
カラム:Nucleosil−II 5C18 HG
溶 媒:アセトニトリル:水:酢酸(体積比):60:38:2
流 速:1.0mL/min
検 出:282nm
温 度:40℃
注入量:20μL
【0027】
実施例1〜4について下記(1)抗菌作用評価、(2)接種試験を行った。
(1)抗菌作用評価
植物病原菌に対する培地上での菌糸伸長抑制率を測定することで評価を行った。
<検定培地の調製>
70体積%エタノールに溶解した甘草油性抽出物(実施例1)1%溶液を用いて、甘草油性抽出物1000μg/mLの濃度に調製したPDA培地(ニッスイ製)を調製した(添加区)。比較対照区には、同量の70体積%エタノールのみを添加したPDA培地を用いた。
<ディスクの調製>
植物病原菌を、別に用意したPDA平板培地(培地量10mL)を用い、25℃で数日間前培養し、菌糸先端部分を直径5mmのコルクボーラーで打ち抜き、ディスクとした。
<培養>
ディスクを菌糸の面を下にして検定培地中央に置き、25℃で培養した。
<菌糸伸長量の測定>
対照区において、菌糸がシャーレの7割程度に伸長した時期に測定した。十字の線が引かれたディスク中央を基準とし、各植物病原菌の菌糸直径を測定した。1サンプルにつきシャーレ2〜4枚を用いて、菌糸直径を1シャーレにつき2ヶ所測定し、これを平均して平均直径を算出した。測定結果から下記式(1)に基づいて菌糸伸長量を算出した。

菌糸伸長量=[菌糸平均直径(mm)−ディスクの直径(mm)]/2 (1)
【0028】
<菌糸伸長抑制率>
下記式(2)により、菌糸伸長抑制率(%)を算出した。なお、菌糸伸長抑制率がマイナスである場合は、添加区の菌糸が伸長したことを示している。
菌糸伸長抑制率(%)=
[1−(添加区の菌糸伸長量)/(対照区の菌糸伸長量)]×100 (2)
【0029】
植物病原菌株としては、キュウリの炭疽病及び褐斑病、トマトの葉かび病、褐色輪紋病及び斑点病、ピーマンの斑点病、スイカのつる枯病、並びにネギの黒斑病の原因菌を用いた。
【0030】
【表1】

【0031】
(2)接種試験
発生する病斑数を測定することで病害防除評価を行った。
<対象植物>
キュウリ(品種:つや太郎)、トマト(品種:強力米寿2号)及びピーマン(品種:エース)を用いた。キュウリ、トマト及びピーマンは、素焼き鉢(5寸)に移植して1〜2ヶ月栽培し、草丈が50cm程度に伸長した時期に試験に用いた。
<植物病原菌胞子液の調製>
植物病原菌株は、ピーマンでは斑点病、トマトでは褐色輪紋病、キュウリでは炭疽病及び褐斑病の病原菌株を用いた。キュウリ、トマト及びピーマンの病原菌はPDA培地に移植し25℃で培養した。この胞子懸濁液1滴(約20μL)をスライドグラスに滴下し、顕微鏡下で検鏡して概ね104個/mLの胞子濃度になるように蒸留水で調整し、植物病原菌胞子液を得た。
【0032】
<試験方法(実施例3の甘草油性抽出物製剤)>
甘草油性抽出物製剤として0.2%(甘草油性抽出物として0.02%)の水溶液と植物病原菌胞子液とを等量混合し、甘草油性抽出物製剤として0.1%になるように懸濁液を調製した。この懸濁液を小型ガラス製噴霧器とコンプレッサーを用いて、植物1株あたり20〜60mL(葉から散布液が滴り落ちる程度)散布した。1処理につき、3鉢供試した。直ちに恒温接種箱に搬入し、25℃、湿度100%で2日間保湿した。その後、ガラス室に移し、約1週間後の病斑数を目視で測定した。対照区は甘草油性抽出物製剤水溶液の代わりに、同量の蒸留水と植物病原菌胞子液とを等量混合した懸濁液を用いた。
<試験方法(実施例4の甘草油性抽出物製剤)>
甘草油性抽出物製剤として0.1%(甘草油性抽出物として0.01%)の水溶液を植物1株あたり20〜60mL(葉から散布液が滴り落ちる程度)散布した。1処理につき、3鉢供試した。数時間後、葉の表面が乾いた後、植物病原菌胞子液を植物1株当たり10〜20mL噴霧し、直ちに恒温接種箱に搬入し、25℃、湿度100%で2日間保湿した。その後、ガラス室に移し、約1週間後の病斑数を目視で測定した。対照区は、甘草油性抽出物製剤水溶液を無散布で、植物病原菌胞子液散布のみとした。
【0033】
<指数の算出>
各菌株の病斑数から平均病斑数を算出した。甘草油性抽出物製剤を含む懸濁液を散布した区分(添加区)の平均病斑数における、植物病原菌のみを散布した区分(対照区)の平均病斑数を100としたときの相対数を、指数として下記式(3)により算出した。
指数=(添加区の平均病斑数/対照区の病斑数)×100 (3)
【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
【表4】

【0037】
【表5】

【0038】
表1より、実施例1の甘草油性抽出物における菌糸伸長抑制率は、対照と比較して有意に高い。また、表2〜5より、実施例3又は4の甘草油性抽出物製剤における病斑数は、対照区(病原菌のみ)における病斑数と比較して有意に少ない。これらの結果より、甘草油性抽出物は強い抗菌作用を有しており、このことに起因して、強い植物病害防除作用が確認された。
【0039】
[試験例1]
甘草油性抽出物に含まれているフラボノイド類であるグラブリジンについて、トマト褐色輪紋病の原因菌の胞子発芽に対する抑制率(%)を測定し、抗菌作用の評価を行った。グラブリジンについては、実施例1の甘草油性抽出物よりシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製したもの(純度99%)を用いた。グラブリジンを100%エタノールに10mg/mLの割合で溶かし、それを蒸留水で倍々希釈した。各希釈液と同量のトマト褐色輪紋病菌胞子液(上記(2)接種試験の植物病原菌胞子液の調製法)を混合し、混合液中のグラブリジン濃度を1.6〜25.0μg/mLとした。この混合液をスライドグラスに滴下し、25℃・100%湿度条件下に置き、24時間後に顕微鏡で発芽胞子数を計測した(添加区)。対照区は、グラブリジンを含まない同エタノール濃度の混合液を用いた。下記式(4)により胞子発芽抑制率(%)を算出した。
胞子発芽抑制率(%)=
[1−(添加区の発芽胞子数)/(対照区の発芽胞子数)]×100 (4)
【0040】
【表6】

【0041】
[試験例2]
上記の(2)接種試験と同様の方法で、甘草油性抽出物に含有しているフラボノイド類であるグラブリジンについて、トマト褐色輪紋病の原因菌に対する病斑数及び指数を測定し、病害防除の評価を行った。なお、グラブリジンについては、実施例2の甘草油性抽出物よりシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製したもの(純度99%)を用いた。
【0042】
【表7】

【0043】
表6より、グラブリジンにおける高い菌糸伸長抑制率が確認された。表7より、グラブリジンによる強い植物病害防除作用が確認された。
以上の結果より、グラブリジンは、甘草油性抽出物に含有する植物病害防除を示す有効成分であることが確認された。
【0044】
[処方例1]
下記組成の農薬を常法に基づいて調製した。
実施例3の甘草油性抽出物製剤 50質量部
エタノール 10質量部
水 40質量部
計 100質量部
【0045】
[処方例2]
下記組成の肥料を常法に基づいて調製した。
実施例2の甘草油性抽出物 1質量部
海藻粉末 5質量部
貝殻粉末 10質量部
腐葉土 84質量部
計 100質量部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
甘草の油性抽出物を含有することを特徴とする植物病害防除剤。
【請求項2】
グラブリジンを有効成分とする植物病害防除剤。
【請求項3】
請求項1又は2記載の植物病害防除剤を含有してなる農薬。
【請求項4】
請求項1又は2記載の植物病害防除剤を含有してなる肥料。

【公開番号】特開2006−298877(P2006−298877A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−126494(P2005−126494)
【出願日】平成17年4月25日(2005.4.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年3月16日 日本植物病理学会発行の「平成17年度 日本植物病理学会大会 プログラム・講演要旨予稿集」に発表
【出願人】(591082421)丸善製薬株式会社 (239)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】