説明

植物病害防除機能剤、及びそれを用いて植物を生育させる方法

【課題】中性電解水を、植物病害を防除する機能剤として利用する。
【解決手段】植物病害を防除する機能剤であって、振動モータ16dで発生した振動を、振動棒16eを介して、該振動棒に取り付けられた振動羽根16fへと伝達し、該振動羽根を振動させることにより、被処理水14に振動流動攪拌を生じさせるようにしてなる振動攪拌手段を用いて、塩化ナトリウム0.1重量%〜3重量%を含む水からなる前記被処理水14を振動流動攪拌しながら、前記被処理水14を電気分解することで、得られた中性電解水からなり、該中性電解水中の残留塩素濃度が1ppm〜500ppmである、ウィルス、カビまたは病害虫により引き起こされる植物病害を防除する機能剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物病害防除機能剤及びそれを用いて植物を生育させる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、各種のウィルス、カビ及び病害虫などによる病害にかかった植物、たとえば、野菜、花卉及び果樹などについては、その都度、汎用または専用の殺菌剤または殺虫剤などの農薬を用いて防除している。また、病害の予防のために、汎用または専用の農薬を散布することもある。
【0003】
しかし、一般的な農薬は、環境中に棲息する動物及び人などに対する悪影響があることもあり、農薬を使用する者が遵守すべき基準を定める省令(平成15年農林水産省・環境省令第5号)第6条において、住宅地等での農薬使用に対する厳しい制約が発令されている。近年では、環境保護の観点から、農薬を使用せずに植物生育をはかる所謂無農薬栽培が推奨されている。而して、全く病害防除を行わないときには、収穫量が低下する他に、生育そのものが不可能になることもある。従って、環境に対する影響の少ない植物病害の防除機能を有するものが切望されている。
【0004】
一方、国際公開WO2006/041001号公報[特許文献1]には、種々の機能性を持つ中性電解水及びその製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO2006/041001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1は、そこに記載された中性電解水が殺菌作用を持つことを開示している。
【0007】
本発明は、特許文献1に記載された中性電解水を、植物病害を防除する機能剤として利用することを目的とするものである。即ち、病気にかかった場合に限ることなく、病気にかかる前に定期的に機能剤を散布することにより、植物の健全な生育をはかるものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以上の如き目的を達成するものとして、
植物病害を防除する機能剤であって、
振動発生手段で発生した振動を、振動棒を介して、該振動棒に取り付けられた振動羽根へと伝達し、該振動羽根を振動させることにより、被処理水に振動流動攪拌を生じさせるようにしてなる振動攪拌手段を用いて、塩化ナトリウム0.1重量%〜3重量%を含む水からなる前記被処理水を振動流動攪拌しながら、前記被処理水を電気分解することで、得られた中性電解水(この中性電解水は、特殊な分子構造を持つと考えられる塩素酸[特定塩素化合物]が主成分であることを特長とするものである)からなり、
該中性電解水中の残留塩素濃度が1ppm〜500ppmである(この濃度は数年にわたり低下することがない)ことを特徴とする、
植物病害防除機能剤、
が提供される。
【0009】
本発明の一態様においては、前記植物病害は、ウィルス、カビまたは病害虫により引き起こされるものである。
【0010】
また、本発明によれば、上記の機能剤を植物に散布する(この機能剤の散布は動植物に全く無害である)ことを特徴とする、植物病害の防除方法、が提供される。
【0011】
本発明の一態様においては、前記機能剤の散布は噴霧により行われる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、特定の製法で製造され残留塩素濃度が1ppm〜500ppmである中性電解水を機能剤として使用するので、実質上環境動物に対する悪影響なしに植物病害を防除することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明による機能剤を製造するための装置における振動攪拌手段の一例を示す模式的断面図である。
【図2】振動攪拌手段を用いた機能剤製造装置の一例を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
【0015】
本発明の機能剤は、上記特許文献1に記載の製造方法により製造された中性電解水を使用する。特許文献1に記載の製造方法は、上記特許文献1に記載の製造装置を用いて製造することができる。この製造装置につき、以下、簡単に説明する。
【0016】
図1は、本発明による機能剤を製造するための装置における振動攪拌手段の一例を示す模式的断面図であり、上記特許文献1の図1に記載されているものである。ここでは、基台16aは、振動吸収部材41を介して電解槽10Aの上部に取り付けられた取り付け台40上に固定されている。また、基台16aには、垂直方向に上方へ延びた棒状のガイド部材43が固定され、該ガイド部材43はコイルバネ16b内に位置している。コイルバネ16b上には、ガイド部材43から離隔した振動部材16cが載置されており、該振動部材16c上には振動発生手段を構成する振動モータ16dが固定されている。
【0017】
振動部材16cには、振動棒16eの上端が取り付けられており、該振動棒16eは、取り付け台40に形成された貫通孔を通って、電解槽10A内へと延びている。電解槽10A内には被処理液14が収容される。該被処理液14に浸漬される振動棒16eの部分には、取付けナット16jにより振動羽根16fが複数段にて取り付けられている。
【0018】
振動モータ16dとそれを駆動するための整流器25との間には、振動モータ16dの振動周波数を制御するためのインバータ35が介在している。
【0019】
振動攪拌手段について更に説明する。上述のインバータ35により振動モータ16dを10〜200Hzとくに30〜45Hzで振動させ、この振動を振動棒16eを介して振動羽根16fに伝達し、該振動羽根16fを振動させる。この振動羽根16fは、しなりを生ずるので、その振動は、先端がはためくようなフラッタリングと呼ばれる形態となる。振動羽根16fの振動は、たとえば、先端の振幅が0.01〜5.0mmである。
【0020】
これにより、被処理液14中に強力な流動が発生する。このような流動を振動流動と呼び、これにより被処理液が強力に攪拌される。すなわち、振動攪拌手段は、振動発生手段(振動モータ16d)で発生した振動を、振動棒16eを介して、該振動棒16eに取り付けられた振動羽根16fへと伝達し、該振動羽根を振動させることにより、被処理水14に振動流動攪拌を生じさせる。
【0021】
被処理水14としては、塩化ナトリウム0.1重量%〜3重量%を含む水が用いられる。水としては、水道水、地下水、井戸水、蒸留水、軟水、イオン交換水及び逆浸透膜水などを用いることができる。また、被処理水14としては、塩化ナトリウム濃度を適宜調整した上で海水を用いてもよい。
【0022】
図2は、以上のような振動攪拌手段と実質上同様な機能を有する振動攪拌手段16を用いた機能剤製造装置の一例を示す模式的断面図であり、上記特許文献1の図6に記載されているものである。ここでは、電気分解のための手段を構成する陽極部材83及び陰極部材84は、それぞれ陽極ブスバー80及び陰極ブスバー82に支持され、被処理水14中に浸漬されている。陽極部材83と陰極部材84との間には、不図示の電気分解用電源を用いて、直流又はパルス電流により、1〜30V程度の電圧が印加され、5〜300A/dm程度の電流密度で電気分解が行われる。
【0023】
振動攪拌手段16において、振動棒16eとして、被処理水14の水面より上の位置において絶縁部材16e”を介在させたものが使用されている。これにより、電気分解のための電流が振動モータの方へと流れるのを防止することができる。また、振動棒16e及び振動羽根16fとして導電性を有するものを使用し、これらを通電線127を介して電気分解用電源の一方の電極と接続することで、被処理水14に浸漬された振動棒16eの部分及び振動羽根16fを陽極部材または陰極部材として使用することも可能である。
【0024】
通常、水の電気分解ではHやOがガス状で発生する。しかしながら、本発明では、振動攪拌手段が稼動しているため、発生した活性ガスやHやOが水中に分散し溶解し、ガスとして装置外へ出て行くことが少ない。
【0025】
振動流動下で希薄な食塩水を電気分解すると、発生したガスはナノ・マイクロバブルとなり、その結果、以上のようにして製造される中性電解水の主成分は、次亜塩素酸、亜塩素酸および塩素酸イオンを含有するものとなる。分子構造は明らかではないが、この塩素酸は一般的な塩素酸とは異なり、特定酸化化合物と考えられる。この中性電解水中の残留塩素濃度は、たとえば、1ppm〜5000ppmであるが、本発明では、とくに残留塩素濃度1ppm〜500ppmのものを用いる。中性電解水中の残留塩素濃度は、電気分解を継続するに従って上昇するので、装置の稼働時間を調整することで所要の残留塩素濃度の中性電解水を得ることができる。尚、以上のような装置は、塩濃度、電流密度、電解時間を自由に変更することができ、しかも連続的に中性電解水を製造することができることを特長とする。
【0026】
以上のような中性電解水の水素イオン指数pHは、6.5≦pH≦8.5の範囲内にあることが好ましく、6.5≦pH≦7.5の範囲内にあることがさらに好ましい。
【0027】
この中性電解水は、上記特許文献1に記載されているように、長期間持続する良好な殺菌性を有する。とくに、残留塩素濃度1ppm〜500ppmのものは、機能剤として病害の防除またはその予防のために植物に散布した場合にも、実質上環境動物に対する悪影響なしに、良好な病害防除機能を発揮することができる。残留塩素濃度が1ppm未満であると所要の植物病害防除の作用が小さくなり、残留塩素濃度が500ppmを超えると環境動物によっては悪影響がでるおそれが生ずる。残留塩素濃度は、好ましくは5ppm〜100ppmである。
【0028】
本発明の機能剤は、飲料水及び食品用途にも適するものであるから安全であり、中性であることから各種の容器や器具に対する化学的作用も少なく、効力が長持ちすることから容器に充填しての流通及び携行が可能であり、種々の場所で少しずつ使用することができる。これによれば、とくに、植物病害防除の際の作業性が良好なものとなる。
【0029】
前記植物病害としては、ウィルス、カビまたは病害虫により引き起こされるものが例示され、たとえば、各種野菜におけるうどんこ病、モザイク病、つる枯病、ヨトウムシ病害などが例示される。
【0030】
本発明による植物病害の防除方法は、以上のような機能剤を植物に散布することにより実施される。1回の散布量及び散布の頻度は、防除すべき病害の種類及び程度に応じて、適宜定めることができる。ここで、散布は、たとえば噴霧器による噴霧により行うことができる。現実に植物病害が生じている場合の駆除の他に、病害予防のために以上のような機能剤を散布することができる。本明細書では、予防及び駆除を総合して防除という。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により、本発明を説明する。
【0032】
[実施例1]
特許文献1に記載の手法に従って、以下のようにして、中性電解水を製造した。製造装置として、α−トリノ水製造装置−1型(30L)(日本テクノ株式会社製)を用いた。この装置の特徴は次の通りであった。
【0033】
振動モータ:75W,200V×3φ。振動羽根:ステンレス(SUS304)板4枚。振動棒:ステンレス(SUS304)丸棒2本。電解槽:耐熱プロピレン樹脂を被覆した容器(30L)500×290×305(単位:mm)。陽極部材:チタンラス網(白金めっき被覆)3枚。陰極部材:ステンレス(SUS304)板4枚。電極部材間距離:20mm。陽極部材と陰極部材とを接近して交互に配置。電極部材の面積は、陽極部材3枚が12dm、陰極部材4枚が16dm。整流器(トランジスター型):(株)中央製作所製PEM11−12V−200。インバータ:富士電機製富士インバータFVR−E9S。
【0034】
被処理水として、東京都水道水に食塩(第1級化学薬品)を溶解し、食塩(NaCl)濃度を5g/L(0.5重量%)としたものを用いた。
【0035】
交流200V×3相を利用し、これを整流器により、電圧12V、電流15Aの直流電流に変換した。インバータにより振動モータの振動数を45Hzに調整し、被処理水を6分間にわたって振動流動させつつ電気分解を行って、中性電解水を得た。この中性電解水における残留塩素濃度は10ppmであった。また、pHは7.4であった。
【0036】
得られた中性電解水を回復促進機能剤として使用して、損傷した生体表層部に塗布することにより、以下の事例に示すように、損傷した生体表層部の回復を促進させることができた。
【0037】
[実施例2]
製造装置として、α−トリノ水製造装置−2型(100L)(日本テクノ株式会社製)を用い、これに合わせて装置の稼働時間を調整したことを除いて、実施例1と同様にして中性電解水を得た。この中性電解水における残留塩素濃度は15ppmであった。また、pHは7.5であった。
【0038】
得られた中性電解水を回復促進機能剤として使用して、損傷した生体表層部に塗布することにより、以下の事例に示すように、損傷した生体表層部の回復を促進させることができた。
【0039】
[実施例3]
製造装置として、振動攪拌手段を構成する振動棒中に絶縁部材を介在させたものを用い、これに合わせて装置の稼働時間を調整したことを除いて、実施例1及び2と同様にして中性電解水を得た。この中性電解水における残留塩素濃度は20ppmであった。また、pHは7.5であった。
【0040】
得られた中性電解水を回復促進機能剤として使用して、損傷した生体表層部に塗布することにより、以下の事例に示すように、損傷した生体表層部の回復を促進させることができた。
【0041】
(事例1:うどんこ病の防除)
カボチャの葉が50mm〜100mm程度の大きさになった時に、うどんこ病の灰白色から白色の粉状のカビが発生したので、上記実施例1で得られた機能剤を葉面積10cmにつき0.5ミリリットル〜1ミリリットルの散布量で噴霧したところ、数分以内に白色のカビは消滅し、二度とカビが発生しなかった。また、カボチャは、葉や茎に全く異常がみられず、正常に生育し、果実を収穫できた。
【0042】
キュウリについても、上記カボチャと同様なうどんこ病に対して、同様にして、上記実施例1で得られた機能剤を葉面積10cmにつき0.5ミリリットル〜1ミリリットルの散布量で噴霧したところ、数分以内に白色のカビは消滅し、二度とカビが発生しなかった。また、キュウリは、葉や茎に全く異常がみられず、正常に生育し、果実を収穫できた。
【0043】
機能剤の病害防除作用は顕著であることが分かる。
【0044】
(事例2:モザイク病の防除)
キュウリモザイクウィルスによりキュウリに発生するモザイク病に対する機能剤の効果を確認するため、次のような比較試験を行った。
【0045】
茎が20cm程度の長さになり且つ葉も出揃いかけた同等な100個のキュウリ苗サンプルのうちの50個のサンプルにつき、上記実施例2で得られた機能剤を、6日に1回の割合で、1回に葉面積5cmにつき0.3ミリリットル〜0.5ミリリットルの散布量で噴霧したところ、全てのサンプルにつき、葉や茎に全く異常がみられず、正常に生育し、果実を収穫できた。尚、散布した機能剤の一部が土壌に落下し浸透するが、これによるサンプルの生育への影響はなかった。一方、他の50個のサンプルについては、機能剤散布を行わなかったところ、30個のサンプルがモザイク病にかかり、葉が黄色く枯れたり、茎が正常に成長できなかったりし、果実を収穫できなかった。
【0046】
機能剤の病害防除作用は顕著であることが分かる。
【0047】
(事例3:ヨトウムシの防除)
正常に生育途中のキャベツの葉裏に10cm当たり3〜4匹の分布密度で棲息している長さ2mm〜5mmの緑色のヨトウムシを駆除すべく、上記実施例3で得られた機能剤を、キャベツの葉面積10cmにつき1ミリリットル〜1.5ミリリットルの散布量で噴霧したところ、ヨトウムシの動きがあわただしくなり、やがて動かなくなったり、丸まってキャベツの葉から地面に落下した後に動かなくなったりして、死滅した。
【0048】
また、上記のヨトウムシが棲息していたキャベツの場所から5mの距離に位置しヨトウムシが棲息していないキャベツに対するヨトウムシによる病害を予防するために、5日に1回の割合で、上記実施例3で得られた機能剤を、キャベツの葉面積10cmにつき0.5ミリリットル〜1ミリリットルの散布量で噴霧したところ、ヨトウムシによる病害は全く発生せず、良好なキャベツが収穫できた。
【0049】
機能剤の病害防除作用は顕著であることが分かる。
【符号の説明】
【0050】
10A:電解槽
14:被処理液
16a:基台
16b:コイルバネ
16c:振動部材
16d:振動モータ
16e:振動棒
16e”:絶縁部材
16f:振動羽根
16j:取付けナット
25:整流器
35:インバータ
40:取り付け台
43:ガイド部材
80:陽極ブスバー
82:陰極ブスバー
83:陽極部材
84:陰極部材
127:通電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物病害を防除する機能剤であって、
振動発生手段で発生した振動を、振動棒を介して、該振動棒に取り付けられた振動羽根へと伝達し、該振動羽根を振動させることにより、被処理水に振動流動攪拌を生じさせるようにしてなる振動攪拌手段を用いて、塩化ナトリウム0.1重量%〜3重量%を含む水からなる前記被処理水を振動流動攪拌しながら、前記被処理水を電気分解することで、得られた中性電解水からなり、
該中性電解水中の残留塩素濃度が1ppm〜500ppmであることを特徴とする、
植物病害防除機能剤。
【請求項2】
前記植物病害は、ウィルス、カビまたは病害虫により引き起こされるものであることを特徴とする、請求項1に記載の植物病害防除機能剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の機能剤を植物に散布することを特徴とする、植物病害の防除方法。
【請求項4】
前記機能剤の散布は噴霧により行われることを特徴とする、請求項3に記載の植物病害の防除方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−73988(P2011−73988A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−224363(P2009−224363)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(392026224)日本テクノ株式会社 (8)
【Fターム(参考)】