説明

植物発酵抽出物配合物

【課題】骨粗鬆症に対してイソフラボン単独よりも予防・改善効果がある飲料である植物発酵抽出物配合物を提供すること。
【解決手段】食用植物を植物に共生する通性嫌気性グラム陰性菌によって発酵させて、同時に該通性嫌気性グラム陰性菌を培養することによって得られる抽出物及び植物性イソフラボンを含むことを特徴とする植物発酵抽出物配合物。該植物性イソフラボンは、大豆イソフラボン抽出物又は乳製品であってもよい。他にカルシウム、ビタミンC、ビタミンB、ビタミンD及び葉酸を含んでいてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、代謝機能などに改善効果を示す植物発酵抽出物配合物に関し、特に、骨代謝を改善する植物発酵抽出物配合物に関する。
【背景技術】
【0002】
骨粗鬆症予防は重要な高齢化社会の対策課題であるがしかし、未だ充分な対策がとられていないので、新しい機能に基づく骨粗鬆症予防食品に向けて骨代謝を改善する飲料の開発を行っている。具体的提案として、イソフラボン(骨粗鬆症予防への有効性が認められている女性ホルモンと同様の機能を持つ)を多く含む豆乳をベースに、骨代謝機能の活性化作用をもつ小麦発酵抽出物(有効成分:グラム陰性細菌であるパントエア・アグロメランスのリポ多糖)と、骨形成に必須のカルシウム、カルシウムの吸収を促進するビタミンD、そして、栄養素の働きを円滑にする作用を持つ葉酸を強化した高付加価値の栄養機能食品の開発を行った。
【0003】
我々は小麦粉の水抽出物には自然免疫を賦活化する有効な成分が含まれていることを明らかにしている(特許文献1)。この成分は小麦に共生するグラム陰性菌であるパントエア・アグロメランスの膜成分であるリポ多糖である。この成分は自然免疫の中心的細胞であるマクロファージの活性化制御作用を持つことが特徴であり、骨代謝は、マクロファージの一種の破骨細胞が正しく働くことで正常に保たれている。ニワトリ頭頂骨及び大腿骨を用いたカルシウムの吸収と放出を放射性同位体元素を利用して測定したところ、リポ多糖投与によって、カルシウム放出の増大(一般的には破骨細胞(骨組織マクロファージ)の活性化によると推定される)とカルシウム吸収の増大(一般的には骨芽細胞の活性化によると推定される)が認められた(非特許文献1)。このことから、動物においてリポ多糖に骨代謝機能の活性化効果があることはすでに知られている。しかしながらリポ多糖の骨粗鬆症予防又は改善効果については動物においても確認されていない。
【0004】
豆乳の有効成分であるイソフラボンは、大豆等に含まれている成分であることから日常的に摂取されているものである。イソフラボンの効果として、骨粗鬆症や乳癌、更年期障害等の予防・改善効果があるといわれている(非特許文献2、非特許文献3参照)。また、イソフラボンは、植物性エストロゲンとも呼ばれるように、女性ホルモンのエストロゲン様作用(骨芽細胞の働きを促進して破骨細胞の働きを抑制する)を持っているため、加齢と共にそれまで骨の状態維持を担っていたエストロゲンが減少していく女性、特に骨量減少が著しく増えるといわれている閉経後約5年間(早期)においてには、骨粗鬆症予防や更年期障害改善に適した成分といえる。
【0005】
また、上述したようにリポ多糖とイソフラボンはそれぞれ骨代謝への作用機序が異なるため、併用することで、どのような効果が得られるかは報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2005/030938号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Kohtaro Kawashima, et al,"Homeostasis as Regulated by Activated Macrophage. VIII. LPSw(a Lipopolysaccharide from Wheat Flour) Can Regulate Bone Resorptionof Chick Embryo", Chem. Pharm. Bull., 40(5), 1271-1273 (1992)
【非特許文献2】加藤一彦他、「大豆イソフラボンの長期投与による骨密度への影響」、大豆たん白質研究、Vol.5、134-137 (2002)
【非特許文献3】Motoki Iwasaki, et al,"Plasma Isoflavone Level and Subsequent Risk of Breast Cancer AmongJapanese Women: A Nested Case-Control Study From the Japan Public HealthCenter-Based Prospective Study Group", Journal of Clinical OncologyVol.26, No.10, 1677-1683 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、現代人の日常生活においては、実際に骨粗鬆症を改善できるほどの量のイソフラボンを摂取できていないのが現状である。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑み、骨粗鬆症に対してイソフラボンよりも一層予防・改善効果がある飲料である植物発酵抽出物配合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の植物発酵抽出物配合物は、食用植物を植物に共生する通性嫌気性グラム陰性菌によって発酵させて、同時に該通性嫌気性グラム陰性菌を培養することによって得られる抽出物(以下、「植物発酵抽出物」と言う。)及び大豆イソフラボンを含むことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の植物発酵抽出物配合物は、植物発酵抽出物及び大豆イソフラボン抽出物を含むことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の植物発酵抽出物配合物は、植物発酵抽出物及び大豆イソフラボン抽出物、カルシウム、ビタミンC、ビタミンB又は葉酸を含むことを特徴とする植物発酵抽出物配合物。
【0013】
また、前記植物発酵抽出物配合物は、医薬品、ペット用医薬品、医薬部外品、食品、機能性食品、ペット用飼料又は食品であることが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、骨密度低下による骨粗鬆症の予防・改善効果を誘導できる。さらに、これを配合した医薬品、ペット用医薬品、医薬部外品、食品、機能性食品、ペット用飼料及び食品などを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】骨密度相対値の変化のグラフ
【図2】BAP相対値の変化のグラフ
【図3】NTX相対値の変化のグラフ
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
I:植物発酵抽出物と乳酸菌殺菌菌体混合物
本件において、我々は、植物発酵抽出物と大豆イソフラボンの混合品が単独では得られない効果を発現できることを見出し、安全で骨粗鬆症予防に有効な医薬部外品、食品、機能性食品、ペット用飼料等を提供できる。
【0017】
II:発明の重要な点のまとめ
免疫賦活作用や代謝機能改善作用を持つ物質としての植物発酵抽出物と骨の健康維持に役立つ大豆イソフラボンの組み合わせが新規である。
【実施例1】
【0018】
<試験方法>
40歳以上80歳未満の女性を試験対象として、試験品群:22名(小麦発酵抽出物配合の粉末豆乳飲料を摂取)と、対照品群:26名(小麦発酵抽出物非配合の粉末豆乳飲料を摂取)に分け、計48名で実施した。被験者には3か月間毎日、1日1包を朝食時に摂取し、試飲タイミングと体調をセルフチェックシートに記録してもらった。摂取前、摂取後、摂取終了後約2か月(追跡調査)に、骨密度測定、血液検査、アンケート調査を提携病院にて実施した。統計解析はエクセル統計2008の多重分析・二元配置(対応あり、post-hocはTukey)を用い、p<0.05を有意とした。
(年齢構成)
試験品群:40代11名、50代 5名、60代 6名、70代 0名:合計22名、平均52.3±7.6歳。
対照品群:40代10名、50代12名、60代3名、70代 1名:合計26名、平均52.8±8.6歳。
(閉経)
試験品群:閉経前 10名、閉経後 12名
対照品群:閉経前 11名、閉経後 15名
【0019】
<小麦発酵抽出物の製造方法>
(1) パントエア・アグロメランスは小麦粉より定法に従い単離する。なお、一度、単離同定すれば、この菌を50%グリセロール等で保存が可能である。
(2) 0.05〜5%の食塩、0.005〜1モルのリン酸緩衝液、または、混合塩類溶液(0.5〜10%のリン酸第二ナトリウム、0.05〜5%のリン酸第一カリウム、0.05から5%の塩化ナトリウム、0.05〜5%の塩化アンモニウム)等を調製する。
(3) 0.05〜10%の濃度になるように小麦粉を水に懸濁する。
(4) 0.2〜3モルの塩化マグネシウム溶液を調製する。
(5) 0.2〜3モルの塩化カルシウム溶液を調製する。
(6) 2から5を場合によってはオートクレーブ等で滅菌操作を行う。
(7) 2から5を適量混合し、水を加え、0.1〜5%の小麦粉を含む懸濁液とする。場合によってはアルカリ溶液や酸性溶液を加えpHを中性にする。
(8) 7に場合によっては培地1リットルあたり10〜50000単位アミラーゼを加えて10℃から80℃で1〜24時間保温して、小麦でんぷんを部分消化させるのもよい。
(9) 7乃至8に1で単離したパントエア・アグロメランスを添加する。
【0020】
(10) 9を1〜40℃で発酵させる。場合によっては静置や震盪してもよい。また、数時間おきに撹拌を行うことでもよい。
(11) 10を6時間から一週間発酵させる。発酵が進むと小麦粉水溶液が黄色に着色してくる。
(12) 11の発酵途中に適宜アルカリ溶液を加え、pHを中性にすることや、小麦粉懸濁液や無機塩類を添加することもよい。
(13) 発酵を終了させ、遠心分離(1000〜5000rpm、10〜60分間)等の操作により固形分を沈殿物として回収する。
(14) 13を水または塩類緩衝液等で懸濁し、これを80〜140℃で10分から6時間加熱処理する。さらに、これを遠心分離や活性炭処理、濾過すること等で、固形分を除去してもよい。除去した沈殿に再度水や緩衝液を加え、加熱抽出を数回繰り返してもよい。これを乾燥させれば粉末とすることも出来る。
(15) 14で製造した小麦発酵抽出物は用途によってはさらに簡便な精製を追加することが出来る。すなわち、14の抽出物に、最終濃度0.05〜1モル/lになるように塩化ナトリウム等の塩を加え、その後、エタノール等の溶媒を抽出物の1〜3倍量添加すると沈殿が生じる。これを遠心分離機等で回収してもよい。この沈殿をさらに、エタノール等の溶媒で洗浄してもよい。これを乾燥させれば、粉末とすることも出来る。
【0021】
<サンプル調整>
試験品サンプルは、粉末豆乳 5,000mg、発芽大豆粉末 1,250mg、デキストリン 4,446mg、粉末油脂 25mg、大豆イソフラボン抽出物 30mg、貝殻カルシウム1,621mg、小麦発酵抽出物(製造方法(14)の粉末)60mg、ビタミンC 45mg、ビタミンB群(ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ニコチン酸アミド、パントテン酸カルシウム) 2.25mg、ビタミンD 0.5mg、葉酸 20mgを混合した。これを1包あたり12.5グラムになるように分包した。この小麦発酵抽出物は、登録商標IP-PA1として自然免疫応用技研株式会社から発売されており、その摂取推奨量は0.3〜1mg/kg体重/日であることから、大人の体重を60kgと想定して60mgとした。この小麦発酵抽出物に含まれるリポ多糖(LPS)の量は600μgになる。
対照品サンプルは、小麦発酵抽出物を非配合とした点が異なる他は試験品サンプルと同じである。
【0022】
<結果1.骨密度低下抑制効果>
各群の骨密度の変化を測定した。各人の摂取前の測定値を100%として3か月間の摂取後と追跡調査時(摂取終了から約2か月後)の相対値を「骨密度相対値の変化のグラフ」として図1に示した。
1:摂取前、2:摂取後、3:追跡調査、*:p<0.05、**:p<0.01
摂取後、追跡調査時において試験品群の方が対照品群よりも骨密度相対値が有意に高くなっていた。従って、小麦発酵抽出物配合の粉末豆乳飲料の方が、骨密度低下の抑制に効果があることが観察された。
【0023】
<結果2.骨形成の増加効果>
各群の骨形成マーカーである骨型アルカリフォスタファーゼ(BAP)の変化を測定した。各人の摂取前の測定値を100%として摂取後と追跡調査時の相対値を「BAP相対値の変化のグラフ」として図2に示した。
1:摂取前、2:摂取後、3:追跡調査
摂取後において、試験品群の方が対照品群よりもBAPが増加する傾向がみられた。従って、小麦発酵抽出物配合の粉末豆乳飲料の方が、骨形成増加に有効である可能性が観察された。
【0024】
<結果3.骨分解の抑制効果>
各群の骨形成マーカーであるI型コラーゲン架橋N−テロペプチド(NTX)の変化を測定した。各人の摂取前の測定値を100%として摂取後と追跡調査時の相対値を「NTX相対値の変化のグラフ」として図3に示した。
1:摂取前、2:摂取後、3:追跡調査
摂取後、追跡調査時において、試験品群の方が対照品群よりもNTXの増加が抑制される傾向がみられた。従って、小麦発酵抽出物配合の粉末豆乳飲料の方が、骨分解抑制に有効である可能性が観察された。
【0025】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではない。
実施例で用いた小麦発酵抽出物の有効成分はリポ多糖である。そして、小麦粉をパントエア・アグロメランスによって発酵させて得られる小麦発酵抽出物に限らず、一般に食用植物をグラム陰性細菌によって発酵させて得られる植物発酵抽出物もやはりリポ多糖が有効成分であり、共通している。したがって、小麦発酵抽出物に代えて一般に植物発酵抽出物を配合することによって同様の効果を奏すると考えられる。
【0026】
イソフラボンは由来植物が異なっても構造が共通している。したがって、実施例で用いている大豆イソフラボン抽出物に代えて、一般にイソフラボンを含むことによっても同様の効果を奏すると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食用植物を植物に共生する通性嫌気性グラム陰性菌によって発酵させて、同時に該通性嫌気性グラム陰性菌を培養することによって得られる抽出物(以下、「植物発酵抽出物」と言う。)及びイソフラボンを含むことを特徴とする植物発酵抽出物配合物。
【請求項2】
植物発酵抽出物及び大豆イソフラボンを含むことを特徴とする植物発酵抽出物配合物。
【請求項3】
植物発酵抽出物及び大豆イソフラボン抽出物を含むことを特徴とする植物発酵抽出物配合物。
【請求項4】
植物発酵抽出物及び乳製品を含むことを特徴とする植物発酵抽出物配合物。
【請求項5】
植物発酵抽出物及び大豆イソフラボン抽出物、カルシウム、ビタミンC、ビタミンB、ビタミンD及び葉酸を含むことを特徴とする植物発酵抽出物配合物。
【請求項6】
前記植物発酵抽出物配合物は、医薬品、ペット用医薬品、医薬部外品、食品、機能性食品、ペット用飼料又は食品であることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の植物発酵抽出物配合物。
【請求項7】
前記植物発酵抽出物が、小麦粉を植物に共生する通性嫌気性グラム陰性菌によって発酵させて、同時に該通性嫌気性グラム陰性菌を培養することによって得られる抽出物であることを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載の植物発酵抽出物配合物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−240946(P2012−240946A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111334(P2011−111334)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(390025210)
【出願人】(500315024)有限会社バイオメディカルリサーチグループ (12)
【Fターム(参考)】