説明

植物種子および微生物由来のステアリドン酸およびγ−リノレン酸を含む極性脂質リッチ画分の精製および使用方法

【課題】炎症状態、自己免疫状態、女性の健康状態(例えば、閉経期障害および月経前障害)ならびに乳児および動物における脂肪酸不均衡の治療において有効であるγ-リノレン酸(GLA)および/またはステアリドン酸(SDA)を含む極性脂質リッチ画分の製造および使用の提供。
【解決手段】ムラサキ科、アカバナ科、ユキノシタ科、ゴマノハグサ科またはアサ科の植物種由来である種子および微生物から、GLAおよび/またはSDAを含有する極性脂質リッチ画分の生成および使用、ならびに特に抽出、分離、合成および回収、ならびにヒトの食品適用、動物飼料、医薬品および化粧品におけるそれらの使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、種子および微生物からγ-リノレン酸(GLA)および/またはステアリドン酸(SDA)を含む極性脂質リッチ画分の製造および使用、特に抽出、分離、合成および回収の分野、ならびにヒト食品適用、動物飼料、医薬品および化粧品におけるそれらの使用の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ω-6およびω-3シリーズの多価不飽和脂肪酸は、生体の膜において構造的に重要であるが、更にエイコサノイド経路を通じおよびこれらの脂肪酸の遺伝子発現に対するそれらの影響により、細胞間連絡に直接および間接に参加している点で、生体活性脂質の特別なクラスを示している。これらの脂肪酸の2つ、GLA(γ-リノレン酸(gammalinolenic acid);C18:3n-6)およびSDA(ステアリドン酸(stearidonic acid);C18:4n-3)は、炎症状態、自己免疫状態、女性の健康状態(例えば、閉経期障害および月経前障害)ならびに乳児および動物における脂肪酸不均衡の治療において有効であることが示されている。最近の証拠により、一部の多価不飽和脂肪酸は、トリグリセリド型よりもリン脂質型で供給された場合に、より生体利用可能であることが示されている。GLAおよびSDAは歴史的には、種子から抽出された油の形状で栄養補助物質の市場に供給されてきた。しかし、最近の証拠により、一部の多価不飽和脂肪酸は、トリグリセリド型よりもリン脂質型のほうがより生体利用可能であることが示されている。これは、リン脂質の双極性の性質が、腸内においてそれらをより可溶性としかつ消化および吸収し易くするためであろう。これと同じリン脂質の双極性特性は、それらの乳化過程への参画能のために、GLAおよびSDAのようなこれらの脂肪酸を、クリームおよびローションのような外用塗布において、より機能性とするであろう。本発明者らは、GLAおよびSDAのリン脂質型での供給に重要な利点があり、これらの脂肪酸に富んだ極性脂質の回収の改善された方法も必要とされていることを提唱している。
【0003】
極性脂質の例は、リン脂質(例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ジホスファチジルグリセロール)、セファリン、スフィンゴ脂質(スフィンゴミエリンおよびスフィンゴ糖脂質)、ならびにグリセロ糖脂質を含む。リン脂質は、下記の主要構造単位から構成される:脂肪酸、グリセロール、リン酸、およびアミノアルコール。これらは一般に、植物、微生物および動物の膜の構造において重要な役割を果たしている、構造脂質であるとみなされている。極性脂質は、それらの化学構造のために、双極性の性質を示し、極性および非極性溶媒の両方における溶解度または部分溶解度を示す。本明細書の説明における極性脂質という用語は、天然の極性脂質に限定されるものではなく、化学修飾された極性脂質もさらに含む。油という用語は様々な意味を有するが、本明細書において使用される場合はこれはトリアシルグリセロール画分を意味すると考えられる。
【0004】
極性脂質、特にリン脂質の重要な特性のひとつは、これらは一般に多価不飽和脂肪酸(PUFA:2個またはそれよりも多い不飽和結合を有する脂肪酸)を含むことである。多くの植物、微生物および動物のシステムにおいて、これらは特に、ω-3およびω-6シリーズの高度不飽和脂肪酸(HUFA:4個またはそれよりも多い不飽和結合を有する脂肪酸)に富んでいる。これらの高度不飽和脂肪酸はトリアシルグリセロール型では不安定であると考えられるが、これらは、リン脂質に組込まれた場合は増強された安定性を示す。
【0005】
市販のPUFAリッチリン脂質の主要な給源は、ダイズおよびキャノーラ種子である。これらの生物材料は、これらが遺伝的に修飾されない限りは、認知可能な量のGLAまたはSDAは含まない。これらのリン脂質(通常レシチンと称される)は、これらの油料種子から、植物油抽出工程の副生物として日常的に回収される。例えば、ダイズまたはキャノーラ油の製造において、マメ(種子)は最初に熱処理され、その後圧搾、粉砕、および/または片状化(flake)され、引き続きヘキサンのような非極性溶媒で抽出される。ヘキサンは、種子からトリアシルグリセロール-リッチ画分を、可変量の極性脂質(レシチン)と共に除去する。その後抽出された油は、通常の油精製工程の一部として物理的または化学的のいずれかにより脱ガムし(レシチン除去)、沈殿したレシチンが回収される。しかしこの工程には2つの欠点、(1)種子は、ヘキサンによる抽出前に熱処理されなければならず、この加工処理の経費を増大し、かつタンパク質画分を変性し、これにより副生物としてのその価値を低くする点;ならびに、(2)ヘキサンのような非極性溶媒の使用は、対処すべき毒性および引火性の問題がある点が存在する。
【0006】
「脱ガム」工程において抽出された粗レシチンは、ステロールおよびグルコシドと共に最大約33%油(トリアシルグリセロール)を含有することができる。この油を粗レシチンから分離するひとつの好ましい方法は、アセトンによる抽出である。この油(トリアシルグリセロール)はアセトンに可溶性であり、レシチンはアセトンに可溶性ではない。このアセトン溶液は、沈殿物(レシチン)から遠心により分離され、かつこの沈殿物は、最初に流動床乾燥機および次に真空乾燥炉の下で乾燥され、残留アセトンを回収し、生成物が乾燥される。乾燥温度50℃〜70℃が通常使用される。得られる乾燥レシチンは、およそ2〜4重量%の油(トリアシルグリセロール)を含有する。70℃よりも高い処理温度は、リン脂質の熱的分解につながり得る。しかし、例え70℃より低い温度であっても、アセトンの存在は、リン脂質の五感完治品質を損なう生成物の形成につながる。これらの副生物は、生成物にカビ臭、およびピリッとした後味(pungent aftertaste)を与える。
【0007】
これらの脂肪酸の食品、栄養補助物質、薬学的および化粧用の適用において使用可能な生物材料由来のGLAおよびSDAが豊富な極性脂質およびリン脂質の効率的回収のための改善された方法が、必要とされている。更にこれらの画分は、ペットおよび水産養殖のための飼料中の成分として必要とされている。
【発明の概要】
【0008】
本発明に従い、種子および微生物のような天然の生物材料からγ-リノレン酸(GLA)および/またはステアリドン酸(SDA)に富んだ極性脂質を回収するための改善された方法、ならびにそれらの使用が提供される。
【0009】
本発明のひとつの態様において、γ-リノレン酸(GLA)および/またはステアリドン酸(SDA)の少なくとも1種に富んだヒト、動物、または水産養殖生物の栄養補助物質を提供する方法が提供される。この方法は、種子または微生物からのGLAおよび/またはSDAに富んだ極性脂質リッチ画分を製造する工程;ヒトまたは動物により消費可能な形態で、GLAおよび/またはSDAに富んだ極性脂質リッチ画分を提供する工程を含む。好ましい動物はペット動物である。
【0010】
別の本発明の態様において、γ-リノレン酸(GLA)および/またはステアリドン酸(SDA)の少なくとも1種の欠乏症を治療する方法が提供される。この方法は、種子または微生物からGLAおよび/またはSDAに富んだ極性脂質リッチ画分を製造する工程;ならびに、欠乏症を治療するためにGLAおよび/またはSDAに富んだ極性脂質リッチ画分を提供する工程を含む。この欠乏症は、炎症状態、自己免疫状態、女性の健康状態、または乳児の健康状態につながり得る。
【0011】
別の本発明の態様において、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息、および嚢胞性線維症を含むが、これらに限定されるものではない、肺の慢性炎症病態を治療する方法が提供される。この方法は、種子または微生物由来のGLAおよび/またはSDAに富んだ精製したリン脂質画分を製造する工程;GLA-および/またはSDAリッチリン脂質画分を、少なくとも1種のEPA-、GLA-またはSDA-リッチ油と配合する工程;ならびに、病態の治療のための、エアゾール送達システムを作成することなどによる、エアゾールを製造する工程を含む。
【0012】
別の本発明の態様において、火傷、UV照射、または他の皮膚障害により引き起こされた皮膚病変を治療する方法が提供される。この方法は、種子または微生物からのGLAおよび/またはSDAに富んだ精製リン脂質画分を製造する工程;GLA-および/またはSDAリッチリン脂質画分と、EPA-、GLA-またはSDA-リッチ油の少なくとも1種を配合する工程;ならびに、皮膚病変の治療のためのローションまたはクリームを製造する工程を含む。
【0013】
別の本発明の態様において、悪液質または脂肪吸収不良を治療する方法が提供される。この方法は、GLAおよび/またはSDAに富んだ精製リン脂質画分を製造する工程;GLA-および/またはSDA-リッチ極性脂質画分を、少なくとも1種の他の精製リン脂質と配合する工程;GLA-および/またはSDA-リッチ極性脂質画分を、DHA、EPA、GLA-またはSDA-リッチ油の少なくとも1種と配合する工程;ならびに、病態の治療のために液体または乾燥した栄養製品を製造する工程を含む。悪液質または脂肪吸収不良は、癌またはクローン病のような疾患の結果であり得る。少なくとも1種の他の精製リン脂質が、ダイズ、ナタネ、キャノーラ、トウモロコシ、ピーナッツ、アマニ(flaxseed)、リンシード(linseed)、ヒマワリ、ベニバナ、および卵などの給源から得られる。
【0014】
別の本発明の態様において、胃腸管のH.ピロリ(H.pylori)感染症の治療法が提供される。この方法は、種子または微生物由来のGLAおよび/またはSDAに富んだ精製リン脂質画分を製造する工程;GLA-および/またはSDAリッチリン脂質画分を、少なくとも1種のEPA-、GLA-またはSDA-リッチ油と配合する工程;ならびに、疾患の治療のために脂肪乳剤または栄養製品を製造する工程を含む。
【0015】
別の本発明の態様において、γ-リノレン酸(GLA)および/またはステアリドン酸(SDA)の少なくとも1種に富んだ脂肪配合物を供する方法が提供される。この方法は、種子または微生物由来のGLAおよび/またはSDAに富んだ極性脂質リッチ画分を抽出する工程;ならびに、GLAおよび/またはSDAに富んだ極性脂質リッチ画分を、別の油と混合する工程を含む。好ましくはこの別の油は、魚油、微生物油、植物油、GLA含有油、SDA含有油、およびそれらの混合物からなる群より選択される。
【0016】
本発明の別の態様において、γ-リノレン酸(GLA)およびステアリドン酸(SDA)の少なくとも1種に富んだ極性脂質の配合物を供する方法が提供される。この方法は、種子または微生物由来のGLAおよび/またはSDAに富んだ極性脂質リッチ画分を抽出する工程;ならびに、GLAおよび/またはSDAに富んだ極性脂質リッチ画分を、別の極性脂質と混合する工程を含む。好ましくは、この別の極性脂質は、ダイズ極性脂質、ナタネ極性脂質、ヒマワリ極性脂質、ベニバナ極性脂質、キャノーラ極性脂質、リンシード極性脂質、アマニ極性脂質、ピーナッツ極性脂質、卵黄極性脂質、およびそれらの混合物からなる群より選択される。
【0017】
本発明の別の態様において、種子または微生物由来のGLAおよび/またはSDAに富んだ極性脂質リッチ画分;ならびに、別の油を含有する、γ-リノレン酸(GLA)およびステアリドン酸(SDA)の少なくとも1種に富んだ脂肪配合物が提供される。好ましくはこの別の油は、魚油、微生物油、植物油、GLA含有油、SDA含有油、およびそれらの混合物からなる群より選択される。
【0018】
本発明の別の態様において、γ-リノレン酸(GLA)およびステアリドン酸(SDA)の少なくとも1種に富んだ極性脂質の配合物を供する方法が提供される。この方法は、種子または微生物からのGLAおよび/またはSDAに富んだ極性脂質リッチ画分を抽出する工程;ならびに、GLAおよび/またはSDAに富んだ極性脂質リッチ画分を、別の極性脂質と混合する工程を含む。好ましくは別の極性脂質は、ダイズ極性脂質、ナタネ極性脂質、ヒマワリ極性脂質、ベニバナ極性脂質、キャノーラ極性脂質、リンシード極性脂質、アマニ極性脂質、ピーナッツ極性脂質、卵黄極性脂質、およびそれらの混合物からなる群より選択される。
【0019】
本発明の別の態様において、種子または微生物から抽出された極性脂質リッチ画分に由来した少なくとも1種のγ-リノレン酸(GLA)およびステアリドン酸(SDA)に富んだ、精製リン脂質が提供される。好ましくは、GLAおよび/またはSDAに富んだリン脂質画分は、ヒトおよび動物により消費可能な形態である。
【0020】
好ましくは本発明の方法または製品の極性脂質リッチ画分は、栄養的、薬学的、および化粧用適用の成分として使用することができる。
【0021】
本明細書において使用される栄養的という用語は、栄養補助物質(ゲル-キャップ内、錠剤、液剤、乳剤、散剤またはいずれか他の形態)および食品を含む。薬学的という用語は、疾患または代謝不均衡の治療のために、摂食(特別な経腸的および非経口的栄養製品を含む)または経静脈的に注射もしくは受け取られる全ての化合物を含む。
【0022】
好ましくは、本発明の方法または製品の脂肪配合物は、栄養的、薬学的、または化粧用適用の成分として使用することができる。
【0023】
好ましくは本発明の方法または製品の極性脂質配合物は、栄養的、薬学的、または化粧用適用の成分として使用することができる。
【0024】
好ましくは、本発明の方法または製品の精製リン脂質は、栄養的、薬学的、または化粧用適用の成分として使用することができる。
【0025】
好ましくは、本発明の方法および製品において有用な種子は、ムラサキ科(Boraginaceae)、アカバナ科(Onagraceae)、ユキノシタ科(Saxifragaceae)、ゴマノハグサ科(Scrophulariaceae)、またはアサ科(Cannabaceae)の植物に由来し、より好ましくはこれらの種子は、ルリジサ(borage)、エキウム(echium)、マツヨイグサ(evening primrose)、およびクロスグリ(black currant)からなる群より選択される。
【0026】
好ましくは、本発明の方法および製品において有用な微生物は、真菌、微小藻類、および細菌から選択される。より好ましくは、これらの微生物は、モルティエラ属(Mortierella)、ケカビ属(Mucor)、ブラストクラジエラ属(Blastocladiella)、コウガイケカビ属(Choanephora)、コニディオボルス属(Conidiobolus)、ハエカビ属(Entomophthora)、マキエダカビ属(Helicostylum)、ヒゲカビ属(Phycomyces)、クモノスカビ属(Rhizopus)、ボーベリア属(Beauveria)、およびフハイカビ属(Pythium)からなる属より選択される。
【0027】
好ましくは、本発明の製品および方法のGLAは、極性脂質画分の総脂肪酸の少なくとも2重量%を構成する。
【0028】
好ましくは、本発明の製品および方法のSDAは、極性脂質画分の総脂肪酸の少なくとも2重量%を構成する。
【0029】
好ましくは、本発明の製品および方法の植物種子は、遺伝的に修飾されており、かつより好ましくはこれらの種子は、SDAおよびGLAの少なくともひとつの生産を増大するように遺伝的に修飾されている。
【0030】
好ましくは、本発明の方法および製品の種子は、キャノーラ、ナタネ、リンシード、アマニ、ヒマワリ、ベニバナ、ダイズ、ピーナッツ、およびトウモロコシからなる群より選択される。
【0031】
好ましくはこの極性脂質リッチ画分は、種子または微生物から、アルコールを用いて抽出される。
【0032】
別の本発明の態様において、極性脂質リッチ画分は、種子または微生物からの、ヘキサンおよび他の非極性溶媒を用いる油分抽出の副生物として、例えば、脱ガムにより、誘導される。
【0033】
好ましくは、この極性脂質リッチ画分は、種子または微生物から、重力または遠心分離抽出技術を用いて抽出される。
【発明を実施するための形態】
【0034】
発明の詳細な説明
極性脂質(リン脂質を含む)は、それらの双極性の性質により、湿潤剤および乳化剤として、商業的に非常に関心が持たれている。これらの特性は、リン脂質中のPUFAをより生体利用性とし、更にはそれらの安定性を増強することも補助する。これらの特性は、リン脂質を、栄養補助物質、食品、特殊調製粉乳、医薬品、および化粧品の適用における使用のための成分にとって理想的な形態としている。リン脂質の食事の恩典は、改善された吸収および改善された取込みの両方を含む。同じくリン脂質は、生体において広範な機能性を有し、これらは重要な細胞膜構成要素であり、良好な乳化剤であり、小腸の界面活性剤として作用することができ、コリン給源およびPUFA給源として利用される。
【0035】
GLAおよびSDAは、通常、ムラサキ科、アカバナ科、ユキノシタ科、ゴマノハグサ科、またはアサ科の植物の種子のヘキサン抽出により、栄養補助物質の市場のために製造される。これらの科は、ルリジサ、エキウム、マツヨイグサ、およびクロスグリを含む。これらのリン脂質は、脱ガム工程において除去され、これは中性脂肪、ステロール、グルコシド、およびリン脂質の複合混合物を含有する廃棄物を生成する。この物質は通常、それを処分するように、家畜動物飼料業者に販売されている。本発明者らの知る限りは、栄養補助物質、食品、ペットまたは水産養殖市場において利用可能なGLAおよび/またはSDAのリン脂質型は存在しない。
【0036】
ナタネに加え、SDAおよびGLAの微生物給源も存在するが、市販されているものはない。GLAおよび/またはSDAを含有することが分かっている微生物は、酵母および下記の真菌属である:モルティエラ、ケカビ、ブラストクラジエラ、コウガイケカビ、コニディオボルス、ハエカビ、マキエダカビ、クモノスカビ、ボーベリア、タムジニウム(Thamnidium)、チチタケ(Lactarius)、アンズタケ(Cantherellus)、ポリポルス(Polyporus)、グロムス(Glomnus)、ジゴルヒンカス(Zygorhynchus)、およびフハイカビ;ならびに、下記を含む藻類および藻類様微生物の属:クロレラ(Chlorella)、イヂュコゴメ(Cyanidium)、セネデスマス(Scenedesmnus)、クラミドモナス(Chlamydomonas)、イトクズモ(Ankistrodesmus)、アオノリ(Enteromorpha)、オオシスチス(Oocystis)、ドウナリエラ(Dunaliella)、ヘテロマスディクス(Heteromastix)、オクロモナス(Ochromonas)、プリムネシウム(Prymnesium)、イソクリシス(Isochrysis)、ディクラテリア(Dicrateria)、ヒバマタ(Fucus)、ゴンラウラックス(Gonlaulux)、アンフィディニウム(Amphidinium)、ペリジニウム(Peridinium)、ヘミセルミス(Hemiselmis)、カゲヒゲムシ(Cryptomonas)、クロオモナス(Chroomonas)、ロドオモナス(Rhodomonas)、ヘミセルミス(Hemiselmis)、ヤブレツボカビ(Thraustochytrium)、およびラビンチュラ(Schizochytium)がある。この適用目的のために、先のヤブレツボカビ科ウルケニア(Ulkenia)属の一員は、ヤブレツボカビ属の一部であると見なされる。微生物は、リン脂質の良好な給源であり、その理由はこれらは、リン脂質生成を最適化しかつトリグリセリド(油)生成を最小化する方法で培地において増殖することができるからである。他方本発明において使用される方法は、油およびリン脂質の両方が、食品、飼料、栄養補助物質、化粧品または医薬品の適用において直接使用することができる形態で個別に回収されることを可能にする。
【0037】
GLAおよびSDAリン脂質は、油料種子から、前述の脱ガム工程により回収することができる。しかしこれは注記したように、中性脂質、ステロール、グルコシドなどを含む多くの他の化合物を含有する複合物質を生成する。
【0038】
本発明の好ましい態様は、GLA-およびSDA-リッチリン脂質を回収するために、アルコールおよび遠心を使用する。この回収にとって好ましい方法は、下記参考文献に記されており、これらはその全体が本明細書に参照として組入れられている:
i. PCT出願 PCT/IB01/00841、国際公開公報第01/76715号、名称「Method for the Fractionation of Oil and Polar Lipid-Containing Native Raw Materials」、2001年4月12日出願;
ii. PCT出願 PCT/IB01/00963、国際公開公報第01/76385号、名称「Method for the Fractionation of Oil and Polar Lipid-Containing Native Raw Materials Using Water-Soluble Organic Solvent and Centrifugation」、2001年4月12日出願。
【0039】
これらは好ましい抽出法であるが、本発明ではあらゆる適当な抽出法を使用することができる。これらの好ましい手法によりGLA-およびSDAリッチリン脂質画分が抽出されたならば、これらは、成分として直接使用することができるか、またはこれらは更に精製され、かつ様々な形態のクロマトグラフィー、分子蒸留、および特別な精製技術のような周知の技術により、リン脂質のクラスに分離されることもある。リン脂質豊富な極性脂質または精製リン脂質豊富な画分は、別の脂質もしくは油、例えば魚脂質、微生物脂質、植物脂質、GLA含有脂質、SDA含有脂質、およびそれらの混合物と混合することもでき、または栄養補助物質、飼料もしくは食品の成分として使用する前に、ダイズもしくは卵黄レシチン、ヒマワリレシチン、ピーナッツレシチン、またはそれらの混合物のような、別のリン脂質画分(レシチン)と混合することもできる。これらのリン脂質の混合物も、外用塗布(例えば、皮膚状態の治療)または火傷、UV照射、または他の皮膚に損傷を及ぼす過程により引き起こされた皮膚病変のために、クリームまたはローションに混入することができる。これらの混合物は、悪液質および重度の脂肪吸収不良の治療または胃腸管のH.ピロリ感染症の治療のために、液体もしくは噴霧乾燥した栄養製品または脂肪乳剤を製造するように処理することもでき、あるいは、肺の慢性炎症病態(例えば、COPD、喘息、嚢胞性線維症)を治療するためにエアゾール(スプレー)の製造に使用することができる。
【0040】
本発明の利点は、トリグリセリド型よりも、より生体活性がありかつ機能性の型(リン脂質)でGLAおよびSDAを提供することであり、かつこれらのリン脂質を油料種子および微生物から回収するために、より良い工程(a)熱処理を必要としない;b)毒性溶媒(ヘキサンなど)を使用しない、およびc)アセトンの使用による人工物および香味低下(off-flavor)がない)を含む。
【0041】
以下の実施例は、例証を目的として提供されるが、本発明の範囲を限定することは意図されていない。
【実施例】
【0042】
実施例1
リン脂質を、4種の油料種子から抽出し、リン脂質の総脂肪酸含量を、ガスクロマトグラフィーにより決定した。これらの結果を、表1に示した。認められるように、これらの種子のリン脂質画分は、GLAおよび/またはSDAの送達に使用することができ、ならびにこの形態でこれらの生体活性脂肪酸は、より安定し、より生体利用可能であり、かつより機能的であった。
【0043】
(表1)GLAおよびSDAを含む4種の油料種子から抽出されたリン脂質の総脂肪酸含量

【0044】
本発明は、様々な態様において、実質的に本明細書に描写および説明されたような、成分、方法、工程、システム、および/または装置を含んでおり、それらの様々な態様、部分組合せおよび部分集合を含んでいる。当業者は、本発明の開示を理解した後には、いかにして本発明を実行しかつ使用するかを理解するであろう。本発明は、様々な態様において、本明細書において描写および/もしくは説明されない項目が存在しない装置および工程を提供すること、または本明細書の様々な態様において、例えば性能を改善し、容易さを実現しおよび/もしくは履行の経費を削減するために、先の装置もしくは工程において使用されるもののような項目が存在しない装置および工程を含む。
【0045】
前述の本発明の考察は、例示および説明を目的として提示されている。前述のことは、本発明において明らかにされたひとつまたは複数の形態に本発明を制限することを意図するものではない。本発明の説明は、ひとつまたは複数の態様の説明ならびにある種の変形および修飾を含んでいるが、別の変形および修飾も、本発明の開示を理解した後には、当技術分野内および当業者の知識内であるように、本発明の範囲内である。これは請求されたものの変更、互換および/または同等の構造、機能、範囲または工程は、本明細書において開示されるか否かにかかわらず、あらゆる特許請求可能な対象を公に記すことを意図することなく、このような変更、互換および/または同等の構造、機能、範囲または工程を含む、許可される程度に別の態様を含む権利を得ることが意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
γ-リノレン酸(GLA)およびステアリドン酸(SDA)の少なくとも1種で強化したヒト、動物、または水産養殖生物の栄養補助物質を提供する方法であって、以下の工程を含む方法:
(a)種子または微生物から、GLAおよび/またはSDAで強化した極性脂質リッチ画分を製造する工程;および
(b)ヒトおよび動物により消費可能な形態で、GLAおよび/またはSDAで強化した極性脂質リッチ画分を提供する工程。
【請求項2】
以下の工程を含む、γ-リノレン酸(GLA)およびステアリドン酸(SDA)の少なくとも1種の欠乏症を治療する方法:
(a)種子または微生物から、GLAおよび/またはSDAで強化した極性脂質リッチ画分を製造する工程;および
(b)欠乏症を治療するために、GLAおよび/またはSDAで強化した極性脂質リッチ画分を提供する工程。
【請求項3】
欠乏症が、炎症状態、自己免疫状態、女性の健康状態、または乳児の健康状態を生じる、請求項2記載の方法。
【請求項4】
COPD、喘息、または嚢胞性線維症を非制限的に含む、肺の慢性炎症病態を治療する方法であって、以下の工程を含む方法:
(a)種子または微生物から、GLAおよび/またはSDAで強化した精製リン脂質画分を製造する工程;
(b)GLA-および/またはSDAリッチリン脂質画分を、EPA-、GLA-またはSDA-リッチ油の少なくとも1種と配合する工程;および
(c)該病態の治療のためにエアゾールを製造する工程。
【請求項5】
以下の工程を含む、火傷、UV照射、または他の皮膚障害により引き起こされた皮膚病変を治療する方法:
(a)種子または微生物から、GLAおよび/またはSDAで強化した精製リン脂質画分を製造する工程;
(b)GLA-および/またはSDAリッチリン脂質画分と、EPA-、GLA-またはSDA-リッチ油の少なくとも1種を配合する工程;および
(c)該皮膚病変の治療のためのローションまたはクリームを製造する工程。
【請求項6】
以下の工程を含む、悪液質または脂肪吸収不良を治療する方法:
(a)GLAおよび/またはSDAで強化した精製リン脂質画分を製造する工程;
(b)GLA-および/またはSDA-リッチ極性脂質画分を、少なくとも1種の他の精製リン脂質と配合する工程;
(c)GLA-および/またはSDA-リッチ極性脂質画分を、DHA、EPA、GLA-またはSDA-リッチ油の少なくとも1種と配合する工程;および
(d)該病態の治療のために液体または乾燥した栄養製品を製造する工程。
【請求項7】
以下の工程を含む、胃腸管のH.ピロリ感染症の治療法:
(a)種子または微生物から、GLAおよび/またはSDAで強化した精製リン脂質画分を製造する工程;
(b)GLA-および/またはSDAリッチリン脂質画分を、少なくとも1種のEPA-、GLA-またはSDA-リッチ油と配合する工程;および
(c)該疾患の治療のために脂肪乳剤または栄養製品を製造する工程。
【請求項8】
以下の工程を含む、γ-リノレン酸(GLA)およびステアリドン酸(SDA)の少なくとも1種で強化された脂肪配合物を提供する方法:
(a)種子または微生物から、GLAおよび/またはSDAで強化した極性脂質リッチ画分を抽出する工程;および
(b)GLAおよび/またはSDAで強化した極性脂質リッチ画分を、別の油と混合する工程。
【請求項9】
前記別の油が、魚油、微生物油、植物油、GLA含有油、SDA含有油、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
以下の工程を含む、γ-リノレン酸(GLA)およびステアリドン酸(SDA)の少なくとも1種で強化された極性脂質の配合物を提供する方法:
(a)種子または微生物から、GLAおよび/またはSDAで強化した極性脂質リッチ画分を抽出する工程;および
(b)GLAおよび/またはSDAで強化した極性脂質リッチ画分を、別の極性脂質と混合する工程。
【請求項11】
前記別の極性脂質が、ダイズ極性脂質、ナタネ極性脂質、ヒマワリ極性脂質、ベニバナ極性脂質、キャノーラ極性脂質、リンシード極性脂質、アマニ極性脂質、ピーナッツ極性脂質、卵黄極性脂質、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項10記載の方法。
【請求項12】
γ-リノレン酸(GLA)およびステアリドン酸(SDA)の少なくとも1種で強化された脂肪配合物であって、
(a)種子または微生物からのGLAおよび/またはSDAで強化した極性脂質リッチ画分;および
(b)別の油
を含む配合物。
【請求項13】
前記別の油が、魚油、微生物油、植物油、GLA含有油、SDA含有油、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項12記載の油。
【請求項14】
以下の工程を含む、γ-リノレン酸(GLA)およびステアリドン酸(SDA)の少なくとも1種で強化された極性脂質の配合物:
(a)種子または微生物からのGLAおよび/またはSDAで強化した極性脂質リッチ画分を抽出する工程;および
(b)GLAおよび/またはSDAで強化した極性脂質リッチ画分を、別の油と混合する工程。
【請求項15】
前記別の極性脂質が、ダイズ極性脂質、ナタネ極性脂質、ヒマワリ極性脂質、ベニバナ極性脂質、キャノーラ極性脂質、リンシード極性脂質、アマニ極性脂質、ピーナッツ極性脂質、卵黄極性脂質、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項14記載の方法。
【請求項16】
種子または微生物から抽出された極性脂質リッチ画分に由来した少なくとも1種のγ-リノレン酸(GLA)およびステアリドン酸(SDA)で強化された精製リン脂質。
【請求項17】
GLAおよび/またはSDAで強化したリン脂質画分が、ヒトおよび動物により消費可能な形態である、請求項16記載の精製リン脂質。
【請求項18】
栄養的、薬学的、および化粧用適用の成分としての、前記請求項のいずれか1項記載の方法または製品の極性脂質リッチ画分。
【請求項19】
栄養的、薬学的、および化粧用適用の成分としての、前記請求項のいずれか1項記載の方法または製品の脂肪配合物。
【請求項20】
栄養的、薬学的、または化粧用適用の成分としての、前記請求項のいずれか1項記載の方法または製品の極性脂質配合物。
【請求項21】
栄養的、薬学的、または化粧用適用の成分としての、前記請求項のいずれか1項記載の方法または製品の精製リン脂質。
【請求項22】
種子が、ムラサキ科、アカバナ科、ユキノシタ科、ゴマノハグサ科またはアサ科の植物種由来である、前記請求項のいずれか1項記載の方法または製品。
【請求項23】
種子が、ルリジサ、エキウム、マツヨイグサ、およびクロスグリからなる群より選択される、前記請求項のいずれか1項記載の方法または製品。
【請求項24】
微生物が、真菌、微小藻類および細菌から選択される、前記請求項のいずれか1項記載の方法または製品。
【請求項25】
微生物が、モルティエラ属、ケカビ属、ブラストクラジエラ属、コウガイケカビ属、コニディオボルス属、ハエカビ属、マキエダカビ属、ヒゲカビ属、クモノスカビ属、ボーベリア属、およびフハイカビ属からなる群より選択される、前記請求項のいずれか1項記載の方法または製品。
【請求項26】
GLAが、極性脂質画分の総脂肪酸の少なくとも2重量%を含む、前記請求項のいずれか1項記載の方法または製品。
【請求項27】
SDAが、極性脂質画分の総脂肪酸の少なくとも2重量%を含む、前記請求項のいずれか1項記載の方法または製品。
【請求項28】
前記植物種子が遺伝的に修飾されている、前記請求項のいずれか1項記載の方法または製品。
【請求項29】
種子が、SDAおよびGLAの少なくとも1種の製造を増大するように遺伝的に修飾されている、前記請求項のいずれか1項記載の方法または製品。
【請求項30】
種子が、キャノーラ、ナタネ、リンシード、アマニ、ヒマワリ、ベニバナ、ダイズ、ピーナッツ、およびトウモロコシからなる群より選択される、前記請求項のいずれか1項記載の方法または製品。
【請求項31】
極性脂質リッチ画分が、種子および微生物から、アルコールを用いて抽出される、前記請求項のいずれか1項記載の方法または製品。
【請求項32】
極性脂質リッチ画分が、種子または微生物からの、ヘキサンおよび他の非極性溶媒を用いる油分抽出の副生物として誘導される、前記請求項のいずれか1項記載の方法または製品。
【請求項33】
極性脂質リッチ画分が、種子または微生物から、重力または遠心抽出技術の使用により抽出される、前記請求項のいずれか1項記載の方法または製品。

【公開番号】特開2010−229144(P2010−229144A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−127566(P2010−127566)
【出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【分割の表示】特願2002−588990(P2002−588990)の分割
【原出願日】平成14年5月14日(2002.5.14)
【出願人】(508004410)マーテック バイオサイエンシーズ コーポレーション (26)
【Fターム(参考)】