説明

植物種子発芽率向上剤

【課題】 植物種子に作用して発芽率促進効果作用を示し、また、植物根に作用して生長促進作用を示し、環境や生態系に悪影響を及ぼさず、低コストで使用が簡便な微生物資材を提供する。
【解決手段】 本発明は、微生物を植物種子に作用させることによって、植物種子の発芽率を向上させ、また発芽した根に作用して植物の生長を促進するものであって、トリコデルマ属またはバチルス属に属し、植物種子発芽率向上作用(及び更に生長促進作用)を有する微生物を有効成分とする植物種子発芽率向上剤を提供する。有効成分微生物としては、例えば、Trichoderma atroviride SKT−1(FERM P−16510)、同SKT−2(FERM P−16511)、同SKT−3(FERM P−17021)、Bacillus sp. D747(FERM BP−8234)等が例示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物種子発芽率向上剤に関するものであり、更に詳細には、本発明は、植物種子発芽率向上作用と植物生長促進作用を併せ持つ微生物を利用するものであって、その微生物を植物種子または植物生育土壌に適用することによって植物種子の発芽率を向上させ、植物の生長を促進する方法に関する。さらに、これらの微生物を付着せしめた新規植物種子自体にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
農業の近代化に伴い、近年、栽培品種の多くは雑種第一代(F1)の種子が苗生産に用いられている。この種子は高価であるため、特にその発芽率の向上が求められている。しかしながら、発芽率の向上はF1の種子のみに限定されるものではなく、各種の植物種子について、その発芽率を向上させることは、農業及び園芸の技術分野において極めて重要な課題となっている。
【0003】
従来より発芽率の向上については研究が行われており、いくつかの提案がなされている(特許文献1、2、3)。しかしながら、これらはいずれも化合物を利用するものであって、微生物を利用するものではない。
【0004】
一方、植物の生長を促進することも農業および園芸の分野において極めて重要な課題であり、これまでにも植物生長促進作用のある化合物として植物生長ホルモンや植物生長調節物質などが報告されている。また、近年では、植物根にシュードモナス属(例えば、非特許文献1)などの細菌やフォーマ属糸状菌(例えば、非特許文献2)などの土壌微生物を作用させることによって植物の生長促進を図る試みが行われている。
【特許文献1】特許第3476172号公報
【特許文献2】特開平10−87413号公報
【特許文献3】特開平10−182313号公報
【非特許文献1】「Phytopathology」、68、1377〜1383
【非特許文献2】「拮抗微生物による作物病害の生物防除」、p.200、全国農村教育協会)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
既述したように、植物種子の発芽率の向上が重要な課題であることは多言をようしないが、発芽した植物根についてもこの生長を促進することも重要な課題である。このような技術の現状に鑑み、本発明は、これらの課題のひとつを解決するだけでなく、両方の課題を同時に解決するという非常に困難な技術課題をあえて設定した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、しかも化合物系農業用資材の利用が安全性の面や環境汚染の面等から敬遠される現状に鑑み、微生物資材の利用によって解決することとした。すなわち、本発明は、未発芽の種子に作用させて発芽率を向上させ、かつ発芽した植物根に作用し、植物生長促進作用を併せ持つ微生物資材を開発することを課題とした。
【0007】
発明者らは、これらの課題を解決するため莫大な数の微生物のスクリーニングを行い、鋭意検討を行った結果、トリコデルマ属糸状菌とバチルス属細菌に植物種子発芽率向上作用があることを見いだした。さらにこれらの微生物は発芽した植物体の生長促進作用も有することを見出し、この有用新知見に基づき更に研究を行い、遂に本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、トリコデルマ属又はバチルス属に属し、植物種子発芽率向上作用を有する微生物を有効成分としてなること、を特徴とする植物種子発芽率向上剤、また、該微生物が更に生長促進作用を有するものであること、を特徴とする請求項1に記載の植物種子発芽率向上剤に関するものである。
【0009】
また、本発明は、トリコデルマ属又はバチルス属に属し植物種子発芽率向上作用及び/又は生長促進作用を有する微生物を有効成分とすることにより、植物種子発芽率向上作用及び/又は生長促進作用を有する植物種子発芽率向上剤としてなることを特徴とし、植物種子発芽率向上及び/又は生長促進のために用いられるものである旨の表示を付した植物種子発芽率向上剤を提供するほか、更に次のものも提供することができる。
【0010】
例えば、本発明は上記植物種子発芽率上剤を植物種子もしくは植物生長土壌に適用することを特徴とする植物種子発芽率向上方法を提供する。また上記植物種子発芽率向上剤を植物種子もしくは植物生育土壌に適用することを特徴とする植物体の生長を促進する方法も提供する。さらに本発明は、これら方法を使用して生長させた植物およびその収穫物も提供する。本発明は、上記植物種子発芽率向上剤で処理した植物種子自体を提供するものである。
【0011】
以下において本発明の植物種子発芽率向上剤および植物生長促進方法について詳細に説明する。本発明の植物種子発芽率向上剤には植物種子発芽率向上作用と植物生長促進作用を併せ持ち、あるいは少なくともいずれかの作用を有し、且つ、植物に対して病害作用を有しない微生物ならば、いずれの微生物を用いても特にその種類は制限されない。
【0012】
本発明において使用可能な微生物としては、例えば、トリコデルマ(Trichoderma)属又はバチルス(Bacillus)属に属し、植物種子発芽率向上作用及び/又は生長促進作用を有する微生物であれば、すべての微生物が適宜使用可能である。
【0013】
上記トリコデルマ属菌としては、例えば、糸状菌であるトリコデルマ・アトロビリデ(Trichoderma atroviride)が挙げられ、上記バチルス属菌としては、例えば、細菌であるバチルス・エスピー(Bacillus sp.)D747が挙げられる。
【0014】
本発明において、トリコデルマ・アトロビリデとしては、具体的には例えば、トリコデルマ・アトロビリデ SKT−1菌株、トリコデルマ・アトロビリデ SKT−2菌株、トリコデルマ・アトロビリデ SKT−3菌株から選ばれる少なくともひとつが使用可能である。
【0015】
これらの菌株の内、SKT−1は芝(ノシバ)根圏から分離した菌株であり、また、SKT−2はサラダナ根圏から分離した菌株であって、植物種子発芽率向上作用及び生長促進作用を併有する点で従来既知の菌株とは明らかに区別することができ、きわめて特徴的であるので、前者の菌株(SKT−1)をトリコデルマ・アトロビリデ(Trichoderma atroviride)SKT−1と命名し、後者の菌株(SKT−2)をトリコデルマ・アトロピリデ(Trichoderma atroviride)SKT−2と命名した。また、SKT−1に変異を誘発させて得られた殺菌剤べノミル高度耐性変異菌(SKT−3)についても、親株のSKT−1と同等の非常にすぐれた作用を有しており、これをトリコデルマ・アトロビリデ(Trichoderma atroviride)SKT−3と命名した。
【0016】
これら本発明に係る新規微生物、トリコデルマ・アトロビリデ(Trichoderma atroviride)SKT−1菌株、トリコデルマ・アトロビリデ(Trichoderma atroviride)SKT−2菌株及びトリコデルマ・アトロビリデ(Trichoderma atroviride)SKT−3菌株は、工業技術院生命工学工業技術研究所(現、特許生物寄託センター)に寄託し、各々以下の寄託番号が付与されている。
トリコデルマ・アトロビリデSKT−1:FERM P−16510
トリコデルマ・アトロビリデSKT−2:FERM P−16511
トリコデルマ・アトロビリデSKT−3:FERM P−17021
【0017】
トリコデルマ・アトロビリデ(Trichoderma atroviride)SKT−1菌株、トリコデルマ・アトロビリデ(Trichoderma atroviride)SKT−2菌株及びトリコデルマ・アトロビリデ(Trichoderma atroviride)SKT−3菌株は、以下の性質を有する。
【0018】
(1)培地上での性質
ポテトデキストロース培地(PDA:ジャガイモ200.0g、グルコース20.0g、寒天20.0g、蒸留水1000ml)上及び2%麦芽エキス培地(麦芽エキス20.0g、寒天20.0g、蒸留水1000ml)上での生育は良好で、菌糸伸長は早い。はじめ気生菌糸少なく白色、しだいに羊毛状の気生菌糸を生じ、分生子形成に従って緑色〜暗緑色となる。
【0019】
(2)形態的性質
分生子柄は気生菌糸より生じ、多くは綿毛状にかたまる。輪生状或るいは不規則に分枝、各分枝は下方のものほど伸びて分枝をくりかえし、全体としては円すい形を呈する。各分枝はほぼ直角に分かれ先端はフィアライドとなる。フィアライドは分生子柄先端に2〜4個(平均3個)が規則正しく対生または輪生し、フィアライド先端は細くなる。分生子はフィアライド頂端に塊状に形成される。球形〜亜球形で表面は小さいトゲ状であり、SKT−1菌株、SKT−3菌株は2.5〜4.0×2.5〜3.5μm、SKT−2菌株は3.0〜4.0×2.7〜3.5μmである。
【0020】
(3)生理学的性質
生育温度は10〜35℃であり、最適温度は30℃付近である。pH4.0〜8.0の間で生育可能であり、最適pHは5.0〜7.0である。
【0021】
また、本発明における有効成分としては、バチルスsp.D747菌株が例示される。このD747菌株は、静岡県小笠郡菊川町の空気中から単離された菌株であって、現在、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターにおいて、Bacillus sp.D747(FERM BP−8234)として国際寄託されている。
【0022】
このバシルス エスピーD747株の細菌的性質は以下に示す通りである。なお、菌学的性質の試験はBergey’s Manual of systematic Bacteriology、volume 1(1984)に基づいて行った。
【0023】
(A)形態学的性質
形態: 桿菌
大きさ: 幅1.0〜1.2μm、長さ3〜5μm
運動性: +
鞭毛の着生状態: 周鞭毛
内生胞子: +
胞子の位置: 中央
胞子の膨張: −
【0024】
(B)培養的性質
コロニーの色: 白色〜薄い茶色
肉汁寒天平板培養:白色〜クリーム色のコロニーを形成し、表面はしわ状
【0025】
(c)生理学的性質
グラム染色性: +
硝酸塩の還元: +
MR試験: −
VP試験: +
インドールの生成: −
澱粉の加水分解: +
クエン酸の資化性: +
無機窒素源: +
オキシダーゼ: −
カタラーゼ: +
生育pH
6.8、肉エキス培地: +
5.7、肉エキス培地: +
生育温度
30℃: +
50℃: −
生育NaCl濃度
2%: +
5%: +
7%: +
好気的生育: +
嫌気的生育: −
O−Fテスト: F
卵黄反応: −
グルコースからの酸生成: +
マンニトールからの酸生成: −
L−アラビノースからの酸生成: −
D−キシロースからの酸生成: −
グルコースからのガス生成: −
β−ガラクトシダーゼ: −
NaCl及びKCl要求性: −
【0026】
本発明では上記菌株をそのまま用いることが好ましいが、その変異株を用いることも可能である。変異株は胞子などの休眠体や栄養細胞などの栄養体に紫外線を照射したり、エチルメタンスルホネートやN−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン等の変異誘発剤で処理したりすることによって取得することもできる。また、自然界からスクリーニングして選択した菌株のほか、細胞融合で得られた菌株、遺伝子組換えなどの遺伝子操作によって得られた菌株も適宜利用可能である。
【0027】
上記例示に係るトリコデルマ属及びバシルス属菌株は、植物種子発芽率向上作用と植物生長促進作用の両方の作用を併有するものであるが、本発明においては、上記作用の内一方の作用を有する微生物も使用可能である。したがって、本発明では植物種子発芽率向上作用と植物生長促進作用を併せ持つ微生物や上記のような方法で得られた変異株のいずれか1種を単独で用いてもよいし、2種類以上を混合しても良く、その数や組み合わせは何ら制限されない。
【0028】
本発明の植物種子発芽率向上剤には微生物菌体をそのまま使用しても良いし、固体培地や液体培地で培養した培養物を使用しても良い。本発明の作用を効果的に発現させるためには植物種子や植物生育土壌に、当該微生物を処理した後も植物根圏で死滅せずに、生存、増殖する方が好ましい。従って適当な培地で 増殖性に富む生長段階まで培養した菌体や、保存安定性や定着性に優れた製剤化を施された菌体を本発明の植物種子発芽率向上剤に使用するのが望ましい。
【0029】
微生物を培養する培地として、例えば麦芽エキス培地(麦芽エキス20g、ペプトン1g、ブドウ糖20g、蒸留水1000ml)やブドウ糖ブイヨン培地(肉エキス10g、NaCl5g、ペプトン10g、ブドウ糖10g、蒸留水1000ml)を例示できる。
【0030】
微生物を培養する方法としては固体培地や液体培地で培養した培養物を使用しても良く、固体培地での培養では植物由来の固形成分と多孔質担体を含有する培地を用いて培養することもできる。植物由来の固形成分としては穀類や豆類などやこれらの粕を用いることができる。具体的にはふすま、米ぬか、大麦、脱脂大豆、おから、でんぷんなど植物由来の固形成分を単独もしくは二種以上を混合して用いることができる。これらの培地に配合する多孔質担体としてはゼオライト、モンモリロナイト、アタパルジャイト、パーライト、軽石、炭などの鉱物性多孔質担体やパーク、ケナフなどの植物性多孔質担体を挙げることができる。多孔質担体も単独もしくは二種以上を混合して用いることができる。
【0031】
液体培地での培養では上記に記載した麦芽エキス培地やブドウ糖ブイヨン培地などを使用することができる。
【0032】
培養によって得られた菌体を含む培養物は、そのまま本発明の植物種子発芽率向上剤として使用しても良いし、乾燥して用いても良い。また培養物を粉砕し、造粒、粉末化、錠剤化したものも用いることができる。また増量剤として多孔質担体を用いて造粒化、粉末化、錠剤化することも可能である。さらにでんぷんなどの有機物を増量剤として造粒化、粉末化、錠剤化することも可能である。
【0033】
上記したように、本発明に係る植物種子発芽率向上剤は、上記した微生物菌株について、菌体または培養物を単独で用いるほか、不活性な液体または固体の担体で希釈し、必要に応じて界面活性剤、その他の補助剤を加えた薬剤として用いてもよい。具体的な製剤例としては、粒剤、粉剤、水和剤、懸濁製剤、乳剤等の剤型等があげられる。
【0034】
好ましい担体の例としては、タルク、ベントナイト、クレー、カオリン、珪藻土、ホワイトカーボン、バーミキュライト、消石灰、珪砂、硫安、尿素、多孔質な固体担体、水、イソプロピルアルコール、キシレン、シクロヘキサノン、メチルナフタレン、アルキレングリコールなどの液体担体等があげられる。界面活性剤および分散剤としては、例えばジナフチルメタンスルホン酸塩、アルコール硫酸エステル塩、アルキルアリールスルホン酸塩、リグニンスルホン酸塩、ポリオキシエチレングリコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノアルキレート等があげられる。補助剤としては、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、アラビアゴム、オキシタンガム等、保護剤としてはスキムミルク、pH緩衝剤等があげられる。
【0035】
さらには、培養して得られた微生物菌体をカプセル封入して本発明の植物種子発芽率向上剤として使用することも可能である。例えばアルギン酸ナトリウム水溶液とカルシウムなどの陽イオンと反応することによって形成したゲル中に、微生物菌体を含有させて粒形化することも可能である。また増量剤として多孔質担体を用いて造粒化、粉末化、錠剤化することも可能である。さらにでんぷんなどの有機物を増量剤として造粒化、粉末化、錠剤化することも可能である。
【0036】
これらの微生物菌体、培養物、カプセル封入剤、造粒体、粉末体、錠剤体は、植物種子に塗布、浸漬、噴霧、糖衣あるいはまぶしても良いし、植物培土に混合したり、種子周りに入れても良い。いずれにせよ植物種子発芽率向上作用を有する微生物菌体と未発芽種子が接触することが必須条件となる。
【0037】
本発明の植物種子発芽向上剤の適用量は、植物種子1粒あたり微生物菌体が10〜1011cfu(コロニーフォーミングユニット:コロニー形成単位)となることが好ましい。培土への適用量としては培土100gあたり10〜1011cfuとなる量が好ましい。いずれの施用方法の場合も更に好ましくは102〜1010cfuとなる量が好ましい。これら適用量より少ない場合には植物種子発芽向上効果の発現が不安定になりやすく、また適用量より多い場合には、施用量あたりの効果を得ることができず、経済的に不利になる。
【0038】
本発明に係る植物種子発芽率向上剤は、任意の植物に適用することができ、その種類は限定されない。したがって、農業、園芸、医薬、林業等の分野において有用な植物のいずれかに対しても適用することができる。また、本発明の好適な実施態様のひとつは、培養して得られた上記微生物菌体を植物種子に作用させるか、植物生育土壌と混合して適用する。
【発明の効果】
【0039】
本発明の植物種子発芽率向上剤は植物種子発芽率向上作用と植物生長促進効果を併せ持つことから、一度適用するだけで2つの効果を期待することができる。このような効果は農作物生産において、コスト削減と作業簡易化に役立つ。また、本発明の植物生長促進効果は環境や生態系に悪影響を及ぼさないことから安全性も高いという利点がある。
【0040】
具体的には、本発明によれば、次のような著効が奏される。すなわち、本発明の植物種子発芽率向上剤を適用することによって、植物種子の発芽率を大いに向上させることができる。後述する実施例から明らかなように、本発明の効果は植物種子もしくは植物生長培土に微生物を適用するだけの簡単な作業によって、植物種子の発芽率を向上させることができる。従って、本発明の有用性は極めて高い。
【0041】
また、本発明の植物種子発芽率向上剤は、単に植物種子の発芽率を向上させる効果のみならず、植物生長促進効果も示す。従って本発明の植物生長促進効果を持つ植物種子発芽率向上剤を適用すれば、従来施用していた発芽促進のための資材と生長促進のために使用していた肥料成分を使用せずに、1剤の処理によって発芽率向上作用と生長促進作用を期待することができる。安全性の面でも問題点はない。
【0042】
更に、本発明によれば、上記微生物を種子に付着せしめる微生物処理した植物種子自体も提供することができ、このような種子を使用すれば更に格別の処理をすることなく、高い発芽率で発芽しそして生長が促進され、ますます農業の省力化が図れるという著効が奏される。
【0043】
そして更に、本発明には、本発明の植物種子発芽向上剤を適用して生長させた植物とその収穫物も含まれる。例えば、本発明の植物種子発芽率向上剤を適用して生長させた園芸用植物や、本発明の植物種子発芽率向上剤を適用して生長させた植物から収穫した野菜、果実、穀物、樹木および本発明の植物種子発芽率向上剤を適用させて生長させた薬草から取得した薬効成分はすべて本発明に含まれる。
【実施例】
【0044】
以下に実施例を記載して本発明を具体的に説明する。以下の実施例に記載される成分、施用量、施用割合、手法などは本発明の技術的概念を逸脱しない限り適宜変更することができ、本発明の範囲を以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0045】
(実施例1:糸状菌の培養1)
静岡県内の土壌より分離されたトリコデルマ アトロビリデ SKT−1(FERM P−16510)をポテト−デキストロース液体培地(DIFCO社製)で27℃、6日間培養し、遠心分離機により培養菌体のみを得た。これを蒸留水にて106cfu/mlに調整した。
【0046】
(実施例2:糸状菌の培養2)
静岡県内の土壌より分離されたトリコデルマ アトロビリデ SKT−1(FERM P−16510)を大麦培地で27℃、7日間培養後、ワーリングブレンダーで粉砕化を行い、菌体と培地成分混合物を得た。この時の菌体の濃度は108cfu/gであった。
【0047】
(実施例3:細菌の培養3)
静岡県内の空気中より分離されたバチルス エスピー D747(FERM BP−8234)をブドウ糖ブイヨン液体培地で27℃、2日間培養し、遠心分離機により培養菌体のみを得た。これを蒸留水にて108cfu/mlに調整した。
【0048】
(実施例4:細菌の培養2)
静岡県内の空気中より分離されたバチルス エスピー D747(FERM BP−8234)をブドウ糖ブイヨン液体培地で27℃、2日間培養し、遠心分離機により培養菌体のみを得た。得られた菌体を凍結乾燥法にて粉末化した。このときの菌体の濃度は1011cfu/gであった。
【0049】
(実施例5)
市販されているシュンギク、パセリ、ニガウリの種子を実施例1および3で調整した菌液に5分間浸漬し、浸漬種子を得た。この種子を育苗培土に播種し、温室内で育苗した。播種2週間後に発芽率および植物生長促進効果を調査した。
【0050】
(実施例6)
市販されているシュンギク、パセリ、ニガウリの種子を実施例2および4で調整した菌体1gを水100mlに懸濁した菌液に5分間浸漬し、浸漬種子を得た。この種子を育苗培土に播種し、温室内で育苗した。播種2週間後に発芽率および植物生長促進効果を調査した。
【0051】
<比較例1>
実施例5と同様に市販されているシュンギク、パセリ、ニガウリの種子を水道水に5分間浸漬し、浸漬種子を得た。この種子を育苗培土に播種し、温室内で育苗した。播種2週間後に発芽率および植物生長促進効果を調査した。
【0052】
(実施例7)
市販されているシュンギク、パセリ、ニガウリの種子を育苗培土に播種し、覆土する前に培土および種子表面に実施例1および3で調整した菌液を500ml/m2の割合で散布した。散布後、覆土を行い、温室内で育苗し、播種2週間後に発芽率および植物生長促進効果を調査した。
【0053】
(実施例8)
市販されているシュンギク、パセリ、ニガウリの種子を育苗培土に播種し、覆土する前に培土および種子表面に実施例2および4で調整した菌体1gを水100mlに懸濁した菌液を500ml/m2の割合で散布した。散布後、覆土を行い、温室内で育苗し、播種2週間後に発芽率および植物生長促進効果を調査した。
【0054】
<比較例2>
実施例7と同様に市販されているシュンギク、パセリ、ニガウリの種子を育苗培土に播種し、覆土する前に培土および種子表面に水道水を500ml/m2の割合で散布した。散布後、覆土を行い、温室内で育苗し、播種2週間後に発芽率および植物生長促進効果を調査した。
【0055】
発芽率は、子葉が地上部において完全に展開しているものを発芽とみなして、以下の式(1)により算出した。
(式1)
発芽率(%)=(発芽数/播種数)×100
【0056】
また、植物生長促進効果は、地上部の植物体の長さを測定することにより評価した。実施例5〜8および比較例1〜2の発芽率の結果を表1、表2に、生長促進効果の結果を表3、表4にそれぞれ示した。
【0057】
(表1)
FERM P−16510菌株による発芽率(%)
―――――――――――――――――――――――
シュンギク パセリ ニガウリ
―――――――――――――――――――――――
実施例5 71 81 87
実施例6 66 75 87
比較例1 50 43 50
―――――――――――――――――――――――
実施例7 72 52 82
実施例8 64 67 72
比較例2 55 33 41
―――――――――――――――――――――――
【0058】
(表2)
FERM BP−8234菌株による発芽率(%)
―――――――――――――――――――――――
シュンギク パセリ ニガウリ
―――――――――――――――――――――――
実施例5 57 59 72
実施例6 55 67 75
比較例1 50 43 50
―――――――――――――――――――――――
実施例7 61 48 65
実施例8 60 55 68
比較例2 55 33 41
―――――――――――――――――――――――
【0059】
(表3)
FERM P−16510菌株による生長促進効果
―――――――――――――――――――――――
シュンギク パセリ ニガウリ
―――――――――――――――――――――――
実施例5 6.7 3.7 18.1
実施例6 7.0 3.5 17.7
比較例1 5.9 3.3 14.5
―――――――――――――――――――――――
実施例7 6.9 3.6 17.2
実施例8 7.5 3.5 16.9
比較例2 5.7 3.1 15.0
―――――――――――――――――――――――
表中の数字は地上部長(mm)
【0060】
(表4)
FERM BP−8234菌株による生長促進効果
―――――――――――――――――――――――
シュンギク パセリ ニガウリ
―――――――――――――――――――――――
実施例5 6.5 3.5 16.1
実施例6 6.4 3.5 15.9
比較例1 5.9 3.3 14.5
―――――――――――――――――――――――
実施例7 6.1 3.6 16.3
実施例8 6.2 3.5 16.3
比較例2 5.7 3.1 15.0
―――――――――――――――――――――――
表中の数字は地上部長(mm)
【0061】
これらの結果から明らかなように、トリコデルマ・アトロビリデSKT−1(FERM P−16510)およびバチルス エスピーD747(FERM BP−8234)を培養して得られた菌体を未発芽の種子に作用させることは、植物種子の発芽率を向上させ、かつ発芽した植物根に作用し、植物生長促進効果を示すことが明らかである。また、トリコデルマ・アトロビリデSKT−2(FERM P−16511)及び同SKT−3(FERM P−17021)も同様にすぐれた効果を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリコデルマ属又はバチルス属に属し植物種子発芽率向上作用を有する微生物を有効成分としてなること、を特徴とする植物種子発芽率向上剤。
【請求項2】
該微生物が更に植物の生長促進作用を有するものであること、を特徴とする請求項1に記載の植物種子発芽率向上剤。
【請求項3】
トリコデルマ属に属する微生物がトリコデルマ・アトロビリデであること、を特徴とする請求項1又は2に記載の植物種子発芽率向上剤。
【請求項4】
トリコデルマ・アトロビリデがトリコデルマ・アトロビリデ SKT−1菌株、トリコデルマ・アトロビリデ SKT−2菌株、トリコデルマ・アトロビリデ SKT−3菌株から選ばれる少なくともひとつであること、を特徴とする請求項3に記載の植物種子発芽率向上剤。
【請求項5】
バチルス属に属する微生物が、バチルス・エスピー D747であること、を特徴とする請求項1又は2に記載の植物種子発芽率向上剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の植物種子発芽率向上剤で植物種子又は植物生育土壌を処理すること、を特徴とする植物種子発芽率向上方法。
【請求項7】
植物種子に作用して発芽率を向上させ、また、発芽した根に作用して生長を促進すること、を特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の植物種子発芽率向上剤で処理してなる植物種子。

【公開番号】特開2006−124280(P2006−124280A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−310814(P2004−310814)
【出願日】平成16年10月26日(2004.10.26)
【出願人】(000000169)クミアイ化学工業株式会社 (86)
【Fターム(参考)】