説明

植物種特定のためのプログラム、情報処理方法及び装置

【課題】成長度合いが異なっていても特定の植物が存在しているか否かを判定できるようにする。
【解決手段】本情報処理方法は、測定波長領域のうちクロロフィル含有量の変動による影響が現れる所定領域以外の領域について、照合対象のスペクトルデータと樹木の基準スペクトルデータとの間の類似度を算出する算出処理と、算出された類似度を所定の閾値とを比較する処理とを含む。これにより、クロロフィル含有量の変動による影響を排除でき、正しく樹種を特定できるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、植物種特定のための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の植生調査方法においては、主に2つの方法がある。第1の調査方法は、識別者が現地を踏破し、現地の状況を目視で判別する方法である。第2の調査方法は、衛星や航空機等から撮影された写真や画像を用いて識別者が判別する方法(すなわちリモートセンシング)である。これらの方法は、それぞれ単独で又は組み合わせて使用されている。
【0003】
第2の調査方法のリモートセンシングで使用されているセンサは、以前はパンクロマチック(白黒)であったが、最近ではマルチスペクトル(カラー)に移り変わってきており、専門家である識別者がマルチスペクトルの写真や画像を判読することによって植生の識別を行っている。
【0004】
また、最近では、GIS(Geographic Information System)による植生図作製が主流となっている。GISでは、予め用意された各植物種の樹冠形状や色を示す基準情報として正規植生指標(NDVI:Normalized Difference Vegetation Index)を用いて、カメラやセンサで撮影された画像をパターンマッチングすることによって、植物種を識別する。
【0005】
さらに、近年では、従来のマルチスペクトルの10倍以上の帯域で計測が可能なハイパースペクトルセンサを搭載した衛星(例えば衛星名:EO−1(センサ名:Hyperion)、衛星名:PROBA(センサ名:CHRIS))が地球環境衛星などとして打ち上げられ、ハイパースペクトルセンサによる計測も行われている。
【0006】
ハイパースペクトルセンサを使用することによって得られる情報量は、マルチスペクトルよりも飛躍的に増加している。また、航空機搭載型のハイパースペクトルセンサも開発されており、環境、農業分野を含む様々な分野で活用され始めている。
【0007】
このようなハイパースペクトルセンサの出力であるハイパースペクトルデータを用いて樹種の判別を行うことも試みられているが、様々な状況に対応できているわけではない。
【0008】
なお、樹種判別の従来手法として、森林現況を示す画像データを小班区画に分けて、画像データにおける各小班区画の樹種を判別する手法が知られている。
【0009】
また、樹種の解析適期を基に複数のバンドデータブロックを取得し、各バンドデータブロックの輝度値に対して上下限値を設定した各樹種の対象抽出マップを生成して各樹種のNDVIをマスク処理し、樹種分布を抽出する手法が知られている。
【0010】
また、上空から撮影した森林の画像データの輝度値を峰と谷とで平坦化し、平坦化した画像データの輝度値の空間変化に対して領域分割して樹冠形状及びそのテクスチャ特徴量を求め、既知の樹冠のテクスチャ特徴量をもとに樹種を判定する手法が知られている。
【0011】
このほかにも様々な方法が存在しているが、同一種別の植物の中でも成長度合いに着目したものはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2010−086276号公報
【特許文献2】特開2006−085517号公報
【特許文献3】特開2006−285310号公報
【特許文献4】特開2009−281931号公報
【特許文献5】特開2001−357380号公報
【特許文献6】特開平4−329340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本技術の目的は、一側面において、成長度合いが異なっていても特定の植物が存在しているか否かを判定できるようにするための技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本技術に係る情報処理方法は、測定波長領域のうちクロロフィル含有量の変動による影響が現れる所定領域以外の領域について、照合対象のスペクトルデータと樹木の基準スペクトルデータとの間の類似度を算出する算出処理と、算出された類似度を所定の閾値とを比較する処理とを含む。
【発明の効果】
【0015】
一側面においては、成長度合いが異なっていても特定の植物が存在しているか否かを判断できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、スペクトルデータの一例を示す図である。
【図2】図2は、第1の実施の形態に係る情報処理装置の機能ブロック図である。
【図3】図3は、第1の実施の形態に係る処理フローを示す図である。
【図4】図4は、比較結果格納部に格納されるデータの一例を示す図である。
【図5】図5は、実施例1の結果を示す図である。
【図6】図6は、実施例2の結果を示す図である。
【図7】図7は、比較例1の結果を示す図である。
【図8】図8は、比較例2の結果を示す図である。
【図9】図9は、比較例3の結果を示す図である。
【図10】図10は、比較例4の結果を示す図である。
【図11】図11は、第2の実施の形態に係る情報処理装置の機能ブロック図である。
【図12】図12は、第2の実施の形態に係る処理フローを示す図である。
【図13】図13は、第2の実施の形態に係る処理フローを示す図である。
【図14】図14は、実施例3の結果を示す図である。
【図15】図15は、実施例4の結果を示す図である。
【図16】図16は、コンピュータの機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[実施の形態1]
上でも述べたが、近年開発されたハイパースペクトルセンサ(ハイパースペクトルカメラとも呼ぶ)を使用することによって、従来のマルチスペクトルセンサよりも多くの情報を取得することができる。
【0018】
ハイパースペクトルセンサにより得られるハイパースペクトルデータは、画像の座標毎、すなわち画素毎に、波長情報と光強度情報とを含むスペクトルデータを含む。すなわち、画像としての2次元要素に、スペクトルデータとしての要素を併せ持った3次元的構成のデータである。
【0019】
一方、反射スペクトルは樹種に応じた特徴があるため、ハイパースペクトルデータを用いることにより、樹種の判別が可能になる。具体的には、判別したい樹木の基準スペクトルと照合対象のスペクトルデータを照らし合わせ、類似度を例えばスペクトラルアングルマッパー(Spectral Angel Mapper)やコサイン距離解析法などよく知られた方法により求める。そして、当該類似度が閾値を超える場合には、その画素内の樹木が当該基準スペクトルの樹木であると判定される。
【0020】
図1に、同一種別の植物について成長度合いの異なるスペクトルデータを示す。図1において、横軸は波長を表し、縦軸はスペクトル強度を表す。図1では、成長度小、成長度中、成長度大の場合のそれぞれについてスペクトルデータを示しているが、700nmより上の領域においてはほとんど差が無く、600nmより下の領域においても差は大きくない。しかし、おおよそ660nm付近の領域ではそのスペクトル形状が大きく異なっている。これは、成長度合いが異なると、葉中のクロロフィル含有量が異なるためである。従って、単純にスペクトルデータ同士の類似度を算出すると、類似度が低くなるため、同一種別ではないと判定される可能性がある。
【0021】
そこで、本実施の形態では、クロロフィル含有量の変動による影響が現れる領域(例えば最小でも650nm以上670nm以下の領域、最大でも620nm以上700nm以下の領域)を除外した上で、スペクトルデータについての類似度を算出するものとする。これによって、同一樹種について異なる成長度合いの樹木があったとしても、正しく樹種を特定できるようになる。
【0022】
具体的には、図2に示すような情報処理装置100を用いる。この情報処理装置100は、入力部11と、第1スペクトルデータ格納部12と、第2スペクトルデータ格納部13と、第1設定データ格納部14と、類似度算出部15と、類似度格納部16と、比較部17と、第2設定データ格納部18と、比較結果格納部19と、出力部20とを有する。
【0023】
入力部11は、例えばユーザからの指示に応じて、ハイパースペクトルセンサから得られたハイパースペクトルデータを第1スペクトルデータ格納部12に格納する。入力部11は、他のコンピュータからネットワークを介して、照合対象のハイパースペクトルデータを取得して第1スペクトルデータ格納部12に格納する場合もある。
【0024】
また、第2スペクトルデータ格納部13には、樹木の基準スペクトルデータが格納されている。1種類だけではなく複数種類の樹木(例えば杉と檜)の基準スペクトルデータが格納されることもある。なお、基準スペクトルデータについては、どの成長度合いの樹木についてのスペクトルデータであってもよい。例えば成長度小の樹木についてのスペクトルデータを用いる。
【0025】
さらに、第1設定データ格納部14には、類似度を算出すべき領域(波長の範囲とも呼ぶ)又は類似度を算出する際に除外すべき領域についてのデータが格納されている。上でも述べたように、クロロフィル含有量の変動による影響が現れる領域を除外する領域として設定する。例えば最小でも650nm以上670nm以下の領域、最大でも620nm以上700nm以下の領域が、除外すべき領域として設定される。
【0026】
類似度算出部15は、第1設定データ格納部14に格納されている領域について、又は除外すべき領域以外の領域について、照合対象のハイパースペクトルデータと基準スペクトルデータとの間の類似度を算出し、類似度格納部16に格納する。
【0027】
第2設定データ格納部18には、判定のための閾値が格納されており、比較部17は、類似度格納部16に格納されている加算結果と閾値とを比較して、その比較結果を比較結果格納部19に格納する。なお、比較部17は、類似度算出部15から処理に係る画素のデータ及び樹種のデータなどを受信して、比較結果と共に比較結果格納部19に格納する。
【0028】
出力部20は、比較結果格納部19に格納されているデータを出力装置(例えば印刷装置や表示装置)に出力する。
【0029】
次に、この情報処理装置100の処理内容について図3及び図4を用いて説明する。まず、類似度算出部15は、第1スペクトルデータ格納部12に格納されている照合対象のハイパースペクトルデータにおける未処理の画素を1つ特定する(図3:ステップS1)。また、類似度算出部15は、第2スペクトルデータ格納部12に格納されている基準スペクトルデータの種別のうち未処理の種別を特定し、特定された種別の基準スペクトルデータを読み出す(ステップS3)。
【0030】
そして、類似度算出部15は、第1設定データ格納部14に格納されているデータから類似度を算出すべき領域を特定し、当該領域について、照合対象のハイパースペクトルデータと基準スペクトルデータとの間の類似度を算出し、類似度格納部16に格納する(ステップS5)。類似度の算出方法は、類似度を例えばスペクトラルアングルマッパー(Spectral Angel Mapper)やコサイン距離解析法などよく知られた方法を用いればよい。また、類似度を算出すべき領域については、第1設定データ格納部14にそのものが格納されていればそれを用いればよい。また、除外すべき領域のデータが第1設定データ格納部14に格納されている場合には、測定波長領域から除外すべき領域を除外した領域を特定する。
【0031】
そして、比較部17は、類似度格納部16に格納されている類似度が、第2設定データ格納部18に格納されている閾値以上となっているか判断する(ステップS7)。類似度が閾値未満であれば、今回用いられた基準スペクトルデータの種別の樹木には該当しないので、処理はステップS11に移行する。
【0032】
一方、類似度が閾値以上であれば、今回用いられた基準スペクトルデータの種別の樹木に該当するので、比較部17は、特定された画素に対応付けて、今回用いられた基準スペクトルデータの種別のデータを比較結果格納部19に登録する(ステップS9)。そして処理はステップS11に移行する。なお、ステップS11ではなく、ステップS13に移行するようにしても良い。
【0033】
例えば図4に示すようなデータが、比較結果格納部19に格納される。図4の例では、画素の座標(場合によっては画素の識別子)に対応付けて、基準スペクトルデータの種別として杉や檜といった種別データが登録されるようになっている。
【0034】
その後、類似度算出部15は、第2スペクトルデータ格納部13において、基準スペクトルデータの未処理の種別が存在しているか判断する(ステップS11)。未処理の種別の基準スペクトルデータが存在していればステップS3に戻る。一方、未処理の種別の基準スペクトルデータが存在しない場合には、類似度算出部15は、第1スペクトルデータ格納部12において、未処理の画素が存在しているか判断する(ステップS13)。未処理の画素が存在している場合にはステップS1に戻る。一方、未処理の画素が存在していない場合には、出力部20は、比較結果格納部19に格納されているデータを、出力装置(表示装置や印刷装置など)に出力する(ステップS15)。なお、情報処理装置100にネットワークを介して接続されている他のコンピュータに出力するようにしても良い。
【0035】
このようにすれば、成長度合いが異なる同一種別の樹木が混在する場合においても正しく樹種を特定できるようになる。
【0036】
[実施例1]
ハイパースペクトルカメラ(HSC−1701、エバジャパン株式会社製)を用いて、測定波長領域400nm以上900nm以下についてスペクトルデータを測定した場合を考察する。なお、この測定波長領域はこの領域でなければならないわけではなく、上限値も下限値も変更しても良い。なお、基準スペクトルデータについては、成長度小の植物についてのスペクトルデータとする。
【0037】
そして、本実施例では、除外すべき領域として650nm以上670nm以下の領域が指定されているものとする。そうすると、同種の成長度中の植物についてのスペクトルデータに対する類似度は0.965となり、閾値0.95以上となるので、図5に示すように、正しく判定できている。また、同種の成長度大の植物についてのスペクトルデータに対する類似度は0.955となり、閾値0.95以上となっているので、図5に示すように、正しく判定できている。このように、本実施例における除外すべき領域は適切である。
【0038】
[実施例2]
実施例1と同様の前提の下、除外すべき領域として620nm以上700nm以下の領域が指定されているものとする。そうすると、同種の成長度中の植物についてのスペクトルデータに対する類似度は0.985となり、閾値0.95以上となっているので、図6に示すように、正しく判定できている。また、同種の成長度大の植物についてのスペクトルデータに対する類似度は0.972となり、閾値0.95以上となっているので、図6に示すように、正しく判定できている。このように、本実施例における除外すべき範囲は適切である。
【0039】
[比較例1]
実施例1の同様の前提の下、除外すべき領域が設定されていないものとする。そうすると、同種の成長度中の植物についてのスペクトルデータに対する類似度は0.935となり、閾値0.95未満となっているので、図7に示すように、間違った判定がなされている。また、同種の成長度大の植物についてのスペクトルデータに対する類似度は0.922となり、閾値0.95未満となっているので、図7に示すように、間違った判定がなされている。このように、上で述べたような除外すべき範囲の設定を行うべきである。
【0040】
[比較例2]
実施例1と同様の前提の下、除外すべき領域として655nm以上670nm以下の領域が指定されているものとする。そうすると、同種の成長度中の植物についてのスペクトルデータに対する類似度は0.952となり、閾値0.95以上となっているので、図8に示すように、正しく判定できている。しかし、同種の成長度大の植物についてのスペクトルデータに対する類似度は0.935となり、閾値0.95未満となっているので、図8に示すように、間違った判定がなされている。このように、本実施例における除外すべき範囲は狭すぎる。
【0041】
[比較例3]
実施例1と同様の前提の下、除外すべき領域として650nm以上665nm以下の領域が指定されているものとする。そうすると、同種の成長度中の植物についてのスペクトルデータに対する類似度は0.952となり、閾値0.95以上となっているので、図9に示すように、正しく判定できている。しかし、同種の成長度大の植物についてのスペクトルデータに対する類似度は0.935となり、閾値0.95未満となっているので、図9に示すように、間違った判定がなされている。このように、本実施例における除外すべき範囲は狭すぎる。
【0042】
[比較例4]
実施例1と同様の前提の下、異なる種別の樹木のスペクトルデータについて、異なる領域を除外すべき領域として設定する。除外すべき領域が、610nm以上700nm以下の領域である場合、基準スペクトルデータとの類似度は0.951となる。異なる種別の樹木にも拘わらず、閾値0.95以上となっているので、図10に示すように、間違った判定がなされている。また、除外すべき領域が、620nm以上710nm以下の領域である場合、基準スペクトルデータとの類似度は0.953となる。異なる種別の樹木にも拘わらず、閾値0.95以上となっているので、図10に示すように、間違った判定がなされている。なお、除外すべき領域が、620nm以上700nm以下の領域であれば、基準スペクトルデータとの類似度は0.945となり、閾値0.95未満であるので、正しく判定できている。このように、620nm以上700nm以下の領域より広い領域を除外すべき領域として用いることは適切ではない。
【0043】
[実施の形態2]
次に、本実施の形態に係る情報処理装置200の機能ブロック図を図11に示す。なお、第1の実施の形態と同じ構成要素については同じ符号を付している。
【0044】
本実施の形態に係る情報処理装置200は、入力部11と、第1スペクトルデータ格納部12と、第2スペクトルデータ格納部13と、第3設定データ格納部22と、第1類似度算出部21と、第1類似度格納部23と、第2類似度算出部24と、第2類似度格納部25と、比較部17と、第2設定データ格納部18と、比較結果格納部19と、出力部20とを有する。
【0045】
このように、第3設定データ格納部22と、第1類似度算出部21と、第1類似度格納部23と、第2類似度算出部24と、第2類似度格納部25とが新たに導入されている。
【0046】
第3設定データ格納部22は、クロロフィル含有量の変動による影響が現れる領域の下側の第1の領域のデータと、上側の第2の領域のデータとを格納する。例えば、650nm以上670nm以下の領域が除外すべき領域であれば、650nm以下の第1の領域のデータと、670nm以上の第2の領域のデータとが、第3設定データ格納部22に格納されている。また、620nm以上700nm以下の領域が除外すべき領域であれば、620nm以下の第1の領域のデータと、700nm以上の第2の領域のデータとが、第3設定データ格納部22に格納されている。本実施の形態でも、除外すべき領域は、第1の実施の形態と同様であり、その除外すべき領域から第1の領域及び第2の領域が設定される。
【0047】
第1類似度算出部21は、第3設定データ格納部22に格納されている第1の領域及び第2の領域の各々について、照合対象のハイパースペクトルデータと基準スペクトルデータとの間の類似度である第1の類似度及び第2の類似度を算出し、第1類似度格納部23に格納する。
【0048】
第2類似度算出部24は、第1類似度格納部23に格納されている第1の類似度及び第2の類似度の平均値を算出し、第2類似度格納部25に格納する。
【0049】
その他の構成要素については、第1の実施の形態と同様である。
【0050】
次に、図12及び図13を用いて、情報処理装置200の処理内容について説明する。第1類似度算出部21は、第1スペクトルデータ格納部12に格納されている照合対象のハイパースペクトルデータにおける未処理の画素を1つ特定する(図12:ステップS31)。また、第1類似度算出部21は、第2スペクトルデータ格納部13に格納されている基準スペクトルデータの種別のうち未処理の種別を特定し、特定された種別の基準スペクトルデータを読み出す(ステップS33)。
【0051】
そして、第1類似度算出部21は、第3設定データ格納部22に格納されている第1の領域、すなわち除外すべき所定領域の下側の領域について、照合対象のハイパースペクトルデータと基準スペクトルデータとの間の第1の類似度を算出し、第1類似度格納部23に格納する(ステップS35)。類似度の算出方法は、類似度を例えばスペクトラルアングルマッパー(Spectral Angel Mapper)やコサイン距離解析法などよく知られた方法を用いればよい。
【0052】
また、第1類似度算出部21は、第3設定データ格納部22に格納されている第2の領域、すなわち除外すべき所定領域の上側の領域について、照合対象のハイパースペクトルデータと基準スペクトルデータとの間の第2の類似度を算出し、第1類似度格納部23に格納する(ステップS37)。
【0053】
そして、第2類似度算出部24は、第1類似度格納部23に格納されている第1の領域のための第1の類似度と第2の領域のための第2の類似度との平均値を算出することで、第3の類似度を算出して、第2類似度格納部25に格納する(ステップS39)。そして処理は、端子Aを介して図13の処理に移行する。
【0054】
図13の処理の説明に移行して、比較部17は、第2類似度格納部25に格納されている第3の類似度が、第2設定データ格納部18に格納されている閾値以上となっているか判断する(ステップS40)。第3の類似度が閾値未満であれば、今回用いられた基準スペクトルデータの種別の樹木には該当しないので、処理はステップS43に移行する。
【0055】
一方、第3の類似度が閾値以上であれば、今回用いられた基準スペクトルデータの種別の樹木に該当するので、比較部17は、特定された画素に対応付けて、今回用いられた基準スペクトルデータの種別のデータを比較結果格納部19に登録する(ステップS41)。そして処理はステップS43に移行する。なお、ステップS43ではなく、ステップS45に移行するようにしても良い。比較結果格納部19に格納されるデータは、第1の実施の形態と同様に図4に示すようなデータである。
【0056】
その後、第1類似度算出部21は、第2スペクトルデータ格納部13において、基準スペクトルデータの未処理の種別が存在しているか判断する(ステップS43)。未処理の種別の基準スペクトルデータが存在していれば、端子Bを介して図12のステップS33に戻る。一方、未処理の種別の基準スペクトルデータが存在しない場合には、第1類似度算出部21は、第1スペクトルデータ格納部12において、未処理の画素が存在しているか判断する(ステップS45)。未処理の画素が存在している場合には、処理は端子Cを介して図12のステップS31に戻る。一方、未処理の画素が存在していない場合には、出力部20は、比較結果格納部19に格納されているデータを、出力装置(表示装置や印刷装置など)に出力する(ステップS47)。なお、情報処理装置200にネットワークを介して接続されている他のコンピュータに出力するようにしても良い。
【0057】
以上のような処理を実施する場合においても、成長度合いが異なる樹木が混在していても、正しく樹種を特定できるようになる。
【0058】
[実施例3]
実施例1と同じハイパースペクトルカメラを用いて、測定波長領域400nm以上900nm以下についてスペクトルデータを測定した場合を考察する。なお、この測定波長領域はこの領域でなければならないわけではなく、上限値も下限値も変更しても良い。なお、基準スペクトルデータについては、成長度小の植物についてのスペクトルデータとする。
【0059】
そして、本実施例では、除外すべき領域として650nm以上670nm以下の領域であるものとする。そうすると、第1の領域は400nm乃至650nm以下の領域となる。また、第2の領域は670nm以上900nm以下の領域となる。
【0060】
そして、同種の成長度中の植物についてのスペクトルデータに対する、第1の領域についての第1の類似度を算出すると0.963となり、第2の領域についての第2の類似度を算出すると0.972となり、平均値である第3の類似度は0.968となる。閾値が0.95であるから、図14に示すように正しく判定できている。
【0061】
また、同種の成長度大の植物についてのスペクトルデータに対する、第1の領域についての第1の類似度を算出すると0.948となり、第2の領域についての第2の類似度を算出すると0.958となり、平均値である第3の類似度は0.953となる。閾値が0.95であるから、図14に示すように正しく判定できている。
【0062】
[実施例4]
実施例3と同じ前提の下、除外すべき領域として620nm以上700nm以下の領域であるものとする。そうすると、第1の領域は400nm乃至620nm以下の領域となる。また、第2の領域は700nm以上900nm以下の領域となる。
【0063】
そして、同種の成長度中の植物についてのスペクトルデータに対する、第1の領域についての第1の類似度を算出すると0.984となり、第2の領域についての第2の類似度を算出すると0.988となり、平均値である第3の類似度は0.986となる。閾値が0.95であるから、図15に示すように正しく判定できている。
【0064】
また、同種の成長度大の植物についてのスペクトルデータに対する、第1の領域についての第1の類似度を算出すると0.971となり、第2の領域についての第2の類似度を算出すると0.977となり、平均値である第3の類似度は0.974となる。閾値が0.95であるから、図15に示すように正しく判定できている。
【0065】
第2の実施の形態では、領域を分割する際に、除外すべき領域を、第1の領域と第2の領域との間の離隔領域として設定して、除外すべき領域の影響を排除している。従って、第1の実施の形態の比較例で示したように除外すべき領域が適切でなければ、第1の領域及び第2の領域の設定も適切ではなくなるので、第2の実施の形態においても、第1の実施の形態と同様の除外すべき領域を想定して第1の領域及び第2の領域を設定する。
【0066】
以上本技術の実施の形態を説明したが、本技術はこれに限定されるものではない。例えば、図2及び図11に示した機能ブロック図は一例であって、必ずしも実際のプログラムモジュール構成やデータ格納部構成と一致しない場合もある。処理フローについても、処理結果が変わらない限り、処理順番を入れ替えたり、並列実施するようにしても良い。例えば、ステップS35とS37は並列実行も処理順番の入れ替えも可能である。
【0067】
また、ステップS7又はS40で類似度が閾値未満であっても、例えば「杉ではない」ことを表すデータを比較結果格納部19に格納するようにしても良い。すなわち、各比較結果を格納するようにしても良い。
【0068】
なお、上で述べた情報処理装置100及び200は、コンピュータ装置であって、図16に示すように、メモリ2501とCPU(Central Processing Unit)2503とハードディスク・ドライブ(HDD:Hard Disk Drive)2505と表示装置2509に接続される表示制御部2507とリムーバブル・ディスク2511用のドライブ装置2513と入力装置2515とネットワークに接続するための通信制御部2517とがバス2519で接続されている。オペレーティング・システム(OS:Operating System)及び本実施例における処理を実施するためのアプリケーション・プログラムは、HDD2505に格納されており、CPU2503により実行される際にはHDD2505からメモリ2501に読み出される。CPU2503は、アプリケーション・プログラムの処理内容に応じて表示制御部2507、通信制御部2517、ドライブ装置2513を制御して、所定の動作を行わせる。また、処理途中のデータについては、主としてメモリ2501に格納されるが、HDD2505に格納されるようにしてもよい。本技術の実施例では、上で述べた処理を実施するためのアプリケーション・プログラムはコンピュータ読み取り可能なリムーバブル・ディスク2511に格納されて頒布され、ドライブ装置2513からHDD2505にインストールされる。インターネットなどのネットワーク及び通信制御部2517を経由して、HDD2505にインストールされる場合もある。このようなコンピュータ装置は、上で述べたCPU2503、メモリ2501などのハードウエアとOS及びアプリケーション・プログラムなどのプログラムとが有機的に協働することにより、上で述べたような各種機能を実現する。
【0069】
以上述べた本実施の形態をまとめると以下のようになる。
【0070】
本実施の形態に係る情報処理方法は、測定波長領域のうちクロロフィル含有量の変動による影響が現れる所定領域以外の領域について、照合対象のスペクトルデータと樹木の基準スペクトルデータとの間の類似度を算出する算出処理と、算出された類似度を所定の閾値とを比較する処理とを含む。
【0071】
このようにすることで、クロロフィル含有量の変動による影響を排除することができるようになるので、成長度合いが異なる樹木が混在していても、樹種を正確に判定できるようになる。
【0072】
また、上で述べた算出処理が、所定領域の下限値以下の第1の領域について、照合対象のスペクトルデータと樹木の基準スペクトルデータとの間の第1の類似度を算出する処理と、所定領域の上限値以上の第2の領域について、照合対象のスペクトルデータと樹木の基準スペクトルデータとの間の第2の類似度を算出する処理と、第1の類似度と第2の類似度との平均の類似度を算出する処理を含むようにしても良い。このように所定領域を離隔領域として設定して測定波長領域を分割するようにしても、クロロフィル含有量の変動による影響を排除することができるようになる。
【0073】
なお、上で述べた所定領域が、650nm以上670nm以下の領域を包含する領域であって、620nm以上700nm以下の領域が最も広い領域である場合もある。このような範囲であれば適切に判定できることが分かっている。
【0074】
なお、上記情報処理方法をコンピュータに行わせるためのプログラムを作成することができ、当該プログラムは、例えばフレキシブルディスク、CD−ROM、光磁気ディスク、半導体メモリ、ハードディスク等のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体又は記憶装置に格納される。尚、中間的な処理結果はメインメモリ等の記憶装置に一時保管される。
【0075】
以上の実施例を含む実施形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0076】
(付記1)
測定波長領域のうちクロロフィル含有量の変動による影響が現れる所定領域以外の領域について、照合対象のスペクトルデータと樹木の基準スペクトルデータとの間の類似度を算出する算出処理と、
算出された前記類似度を所定の閾値とを比較する処理と
を含む処理をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【0077】
(付記2)
前記算出処理が、
前記所定領域の下限値以下の第1の領域について、前記照合対象のスペクトルデータと前記樹木の基準スペクトルデータとの間の第1の類似度を算出し、
前記所定領域の上限値以上の第2の領域について、前記照合対象のスペクトルデータと前記樹木の基準スペクトルデータとの間の第2の類似度を算出し、
前記第1の類似度と前記第2の類似度との平均の類似度を算出する
処理を含む付記1記載のプログラム。
【0078】
(付記3)
前記所定領域が、650nm以上670nm以下の領域を包含する領域であって、620nm以上700nm以下の領域が最も広い領域であることを特徴とする付記1又は2記載のプログラム。
【0079】
(付記4)
測定波長領域のうちクロロフィル含有量の変動による影響が現れる所定領域以外の領域について、照合対象のスペクトルデータと樹木の基準スペクトルデータとの間の類似度を算出する算出部と、
算出された前記類似度を所定の閾値とを比較する比較部と
を有する情報処理装置。
【0080】
(付記5)
前記算出部が、
前記所定領域の下限値以下の第1の領域について、前記照合対象のスペクトルデータと前記樹木の基準スペクトルデータとの間の第1の類似度を算出し、
前記所定領域の上限値以上の第2の領域について、前記照合対象のスペクトルデータと前記樹木の基準スペクトルデータとの間の第2の類似度を算出し、
前記第1の類似度と前記第2の類似度との平均の類似度を算出する
付記4記載の情報処理装置。
【0081】
(付記6)
前記所定領域が、650nm以上670nm以下の領域を包含する領域であって、620nm以上700nm以下の領域が最も広い領域であることを特徴とする付記4又は5記載の情報処理装置。
【0082】
(付記7)
測定波長領域のうちクロロフィル含有量の変動による影響が現れる所定領域以外の領域について、照合対象のスペクトルデータと樹木の基準スペクトルデータとの間の類似度を算出する算出処理と、
算出された前記類似度を所定の閾値とを比較する処理と
を含む処理をコンピュータが実行する情報処理方法。
【符号の説明】
【0083】
11 入力部
12 第1スペクトルデータ格納部
13 第2スペクトルデータ格納部
14 第1データ設定データ格納部
15 類似度算出部
16 類似度格納部
17 比較部
18 第2設定データ格納部
19 比較結果格納部
20 出力部
21 第1類似度算出部
22 第3設定データ格納部
23 第1類似度格納部
24 第2類似度算出部
25 第2類似度格納部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定波長領域のうちクロロフィル含有量の変動による影響が現れる所定領域以外の領域について、照合対象のスペクトルデータと樹木の基準スペクトルデータとの間の類似度を算出する算出処理と、
算出された前記類似度を所定の閾値とを比較する処理と
を含む処理をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項2】
前記算出処理が、
前記所定領域の下限値以下の第1の領域について、前記照合対象のスペクトルデータと前記樹木の基準スペクトルデータとの間の第1の類似度を算出し、
前記所定領域の上限値以上の第2の領域について、前記照合対象のスペクトルデータと前記樹木の基準スペクトルデータとの間の第2の類似度を算出し、
前記第1の類似度と前記第2の類似度との平均の類似度を算出する
処理を含む請求項1記載のプログラム。
【請求項3】
前記所定領域が、650nm以上670nm以下の領域を包含する領域であって、620nm以上700nm以下の領域が最も広い領域であることを特徴とする請求項1又は2記載のプログラム。
【請求項4】
測定波長領域のうちクロロフィル含有量の変動による影響が現れる所定領域以外の領域について、照合対象のスペクトルデータと樹木の基準スペクトルデータとの間の類似度を算出する算出部と、
算出された前記類似度を所定の閾値とを比較する比較部と
を有する情報処理装置。
【請求項5】
前記算出部が、
前記所定領域の下限値以下の第1の領域について、前記照合対象のスペクトルデータと前記樹木の基準スペクトルデータとの間の第1の類似度を算出し、
前記所定領域の上限値以上の第2の領域について、前記照合対象のスペクトルデータと前記樹木の基準スペクトルデータとの間の第2の類似度を算出し、
前記第1の類似度と前記第2の類似度との平均の類似度を算出する
請求項4記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記所定領域が、650nm以上670nm以下の領域を包含する領域であって、620nm以上700nm以下の領域が最も広い領域であることを特徴とする請求項4又は5記載の情報処理装置。
【請求項7】
測定波長領域のうちクロロフィル含有量の変動による影響が現れる所定領域以外の領域について、照合対象のスペクトルデータと樹木の基準スペクトルデータとの間の類似度を算出する算出処理と、
算出された前記類似度を所定の閾値とを比較する処理と
を含む処理をコンピュータが実行する情報処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−109424(P2013−109424A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252083(P2011−252083)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】