説明

植物種特定のためのプログラム、情報処理方法及び装置

【課題】樹木に加えて土が一部に現れている状況においても特定の植物が存在しているか否かを判定できるようにする。
【解決手段】本方法は、(A)可視光領域のうち樹木の特徴が現れる第1の領域を少なくとも含む領域について、照合対象のスペクトルデータと樹木の基準スペクトルデータとの間の第1の類似度を算出するステップと、(B)近赤外光領域のうち樹木の特徴が現れる第2の領域を少なくとも含む領域について、照合対象のスペクトルデータと樹木の基準スペクトルデータとの間の第2の類似度を算出するステップと、(C)第1の類似度と第2の類似度とを重み付け加算して第3の類似度を算出するステップと、(D)第3の類似度と所定の閾値を比較するステップとを含む。そして、第2の類似度の重みより第1の類似度の重みが大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、植物種特定のための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の植生調査方法においては、主に2つの方法がある。第1の調査方法は、識別者が現地を踏破し、現地の状況を目視で判別する方法である。第2の調査方法は、衛星や航空機等から撮影された写真や画像を用いて識別者が判別する方法(すなわちリモートセンシング)である。これらの方法は、それぞれ単独で又は組み合わせて使用されている。
【0003】
第2の調査方法のリモートセンシングで使用されているセンサは、以前はパンクロマチック(白黒)であったが、最近ではマルチスペクトル(カラー)に移り変わってきており、専門家である識別者がマルチスペクトルの写真や画像を判読することによって植生の識別を行っている。
【0004】
また、最近では、GIS(Geographic Information System)による植生図作製が主流となっている。GISでは、予め用意された各植物種の樹冠形状や色を示す基準情報として正規植生指標(NDVI:Normalized Difference Vegetation Index)を用いて、カメラやセンサで撮影された画像をパターンマッチングすることによって、植物種を識別する。
【0005】
さらに、近年では、従来のマルチスペクトルの10倍以上の帯域で計測が可能なハイパースペクトルセンサを搭載した衛星(例えば衛星名:EO−1(センサ名:Hyperion)、衛星名:PROBA(センサ名:CHRIS))が地球環境衛星などとして打ち上げられ、ハイパースペクトルセンサによる計測も行われている。
【0006】
ハイパースペクトルセンサを使用することによって得られる情報量は、マルチスペクトルよりも飛躍的に増加している。また、航空機搭載型のハイパースペクトルセンサも開発されており、環境、農業分野を含む様々な分野で活用され始めている。
【0007】
このようなハイパースペクトルセンサの出力であるハイパースペクトルデータを用いて樹種の判別を行うことも試みられているが、様々な状況に対応できているわけではない。
【0008】
なお、樹種判別の従来手法として、森林現況を示す画像データを小班区画に分けて、画像データにおける各小班区画の樹種を判別する手法が知られている。
【0009】
また、樹種の解析適期を基に複数のバンドデータブロックを取得し、各バンドデータブロックの輝度値に対して上下限値を設定した各樹種の対象抽出マップを生成して各樹種のNDVIをマスク処理し、樹種分布を抽出する手法が知られている。
【0010】
また、上空から撮影した森林の画像データの輝度値を峰と谷とで平坦化し、平坦化した画像データの輝度値の空間変化に対して領域分割して樹冠形状及びそのテクスチャ特徴量を求め、既知の樹冠のテクスチャ特徴量をもとに樹種を判定する手法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2010−086276号公報
【特許文献2】特開2006−085517号公報
【特許文献3】特開2006−285310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本技術の目的は、一側面において、樹木に加えて土が一部に現れている状況においても特定の植物が存在しているか否かを判定できるようにするための技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本技術の一側面に係る情報処理方法は、(A)可視光領域のうち樹木の特徴が現れる第1の領域を少なくとも含む領域について、照合対象のスペクトルデータと樹木の基準スペクトルデータとの間の第1の類似度を算出するステップと、(B)近赤外光領域のうち樹木の特徴が現れる第2の領域を少なくとも含む領域について、照合対象のスペクトルデータと樹木の基準スペクトルデータとの間の第2の類似度を算出するステップと、(C)第1の類似度と第2の類似度とを重み付け加算して第3の類似度を算出するステップと、(D)第3の類似度と所定の閾値を比較するステップとを含む。そして、第2の類似度の重みより第1の類似度の重みが大きいという特徴がある。
【発明の効果】
【0014】
一側面においては、樹木に加えて土が一部に現れている状況においても特定の植物が存在しているか否かを判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、樹木と土が現れた区域についての撮影結果を模式的に示す図である。
【図2】図2は、スペクトルデータの一例を示す図である。
【図3】図3は、実施の形態に係る情報処理装置の機能ブロック図である。
【図4】図4は、実施の形態に係る処理フローを示す図である。
【図5】図5は、実施の形態に係る処理フローを示す図である。
【図6】図6は、比較結果格納部に格納されているデータの一例を示す図である。
【図7】図7は、実施例1の結果を示す図である。
【図8】図8は、実施例2の結果を示す図である。
【図9】図9は、実施例3の結果を示す図である。
【図10】図10は、実施例4の結果を示す図である。
【図11】図11は、比較例1の結果を示す図である。
【図12】図12は、比較例2の結果を示す図である。
【図13】図13は、比較例3の結果を示す図である。
【図14】図14は、比較例4の結果を示す図である。
【図15】図15は、比較例5の結果を示す図である。
【図16】図16は、実施例6の結果を示す図である。
【図17】図17は、実施例6の変形例を示す図である。
【図18】図18は、コンピュータの機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上でも述べたが、近年開発されたハイパースペクトルセンサ(ハイパースペクトルカメラとも呼ぶ)を使用することによって、従来のマルチスペクトルセンサよりも多くの情報を取得することができる。
【0017】
ハイパースペクトルセンサにより得られるハイパースペクトルデータは、画像の座標毎、すなわち画素毎に、波長情報と光強度情報とを含むスペクトルデータを含む。すなわち、画像としての2次元要素に、スペクトルデータとしての要素を併せ持った3次元的構成のデータである。
【0018】
一方、反射スペクトルは樹種に応じた特徴があるため、ハイパースペクトルデータを用いることにより、樹種の判別が可能になる。具体的には、判別したい樹木の基準スペクトルと照合対象のスペクトルデータを照らし合わせ、類似度を例えばスペクトラルアングルマッパー(Spectral Angel Mapper)やコサイン距離解析法などよく知られた方法により求める。そして、当該類似度が閾値を超える場合には、その画素内の樹木が当該基準スペクトルの樹木であると判定される。
【0019】
しかし、画素全体に樹木が広がっていればよいが、土が部分的に現れている場合もある。例えば、図1に示すように、丸で樹木を表し、四角で画素を表し、下地に土がある場合を想定する。図1における画素aの場合、画素内には、樹木以外に土もおおよそ30%現れているため、土のスペクトルによるノイズの影響で、樹木100%の場合のスペクトルが得られない。画素bの場合、画素内には、樹木以外に土もおおよそ20%含まれており、画素cの場合、画素内には樹木以外に土もおおよそ10%含まれている。そうすると、基準スペクトルとの単純な比較では、画素a乃至cについては、判別したい樹木と特定できなくなる。
【0020】
そこで、本実施の形態では、照合対象のスペクトルデータをおおよそ可視光領域(波長が400nm乃至700nm)のスペクトルデータと近赤外光領域(例えば波長が700nm乃至800nm)のスペクトルデータとに分離する。そして、それぞれを同領域についての基準スペクトルデータと照らし合わせてそれぞれについて類似度を算出し、それらを重み付け加算する。この重み付け加算における重みは、可視光領域の重みの方を近赤外光領域の重みよりも重くする。
【0021】
図2に、より具体的なスペクトルデータの一例を示す。図2において横軸は波長を表し、縦軸はスペクトル強度を表す。カーブfは土が100%の場合のスペクトルを表し、カーブeは樹木100%(例えば杉100%)の場合のスペクトル(基準スペクトル)を表し、カーブaは画素a、カーブbは画素b、カーブcは画素c、カーブdは樹木60%で土40%の場合を表している。このように、土の割合が高くなるほど基準スペクトルとの差が大きくなるが、その差の大きさは可視光領域Aの方が近赤外線領域Bよりも小さい。例えば、可視光領域における画素aのスペクトルと基準スペクトルとの間の類似度は、近赤外光領域における画素aのスペクトルと基準スペクトルとの間の類似度よりも大きい。これは、樹木と土のスペクトルを比べた場合、可視光領域Aの方が近赤外光領域Bよりもスペクトル形状の違いが小さい、すなわち類似度が高いためである。
【0022】
そこで、可視光領域Aと近赤外光領域Bにおいて、画素のスペクトル形状の類似度を算出する場合、領域Bよりも領域Aに対して大きな重みを設定して全体の類似度を算出する。そうすると、樹木の種別の識別精度が向上する。
【0023】
なお、以下でも述べるが、必ずしも可視光領域A全体、近赤外光領域B全体を評価しなければならないわけではないことも確認されている。その場合においても、設定すべき重みについては同様の関係を有する。
【0024】
次に、上記知見に基づき樹木の種別を特定するための、本実施の形態に係る情報処理装置100の機能ブロック図を図3に示す。情報処理装置100は、第1スペクトルデータ格納部11と、第2スペクトルデータ格納部12と、第1設定データ格納部13と、第1類似度算出部14と、第1類似度格納部15と、第2設定データ格納部16と、第2類似度算出部17と、第2類似度格納部18と、第3設定データ格納部19と、比較部20と、比較結果格納部21と、出力部22と、入力部23とを有する。
【0025】
入力部23は、例えばユーザからの指示に応じて、ハイパースペクトルセンサから得られたハイパースペクトルデータを第1スペクトルデータ格納部11に格納する。入力部23は、他のコンピュータからネットワークを介して、照合対象のハイパースペクトルデータを取得して第1スペクトルデータ格納部11に格納する場合もある。
【0026】
また、第2スペクトルデータ格納部12には、樹木の基準スペクトルデータが格納されている。1種類だけではなく複数種類の樹木(例えば杉と檜)の基準スペクトルデータが格納されることもある。
【0027】
さらに、第1設定データ格納部13には、類似度を算出する波長の範囲についてのデータが格納されている。この波長の範囲については後に詳しく述べるが、上でも述べたように、可視光領域のうち樹木の特徴が現れる第1の領域を少なくとも含む第1照合領域と、近赤外線領域のうち樹木の特徴が現れる第2の領域を少なくとも含む第2照合領域とが設定されている。
【0028】
第1類似度算出部14は、第1照合領域及び第2照合領域のそれぞれについて、照合対象のハイパースペクトルデータと基準スペクトルデータとの間の類似度を算出し、第1類似度格納部15に格納する。
【0029】
第2設定データ格納部16には、類似度の加算に用いる重み値が格納されている。第2類似度算出部17は、第2設定データ格納部16に格納されている重み値を用いて、第1類似度格納部15に格納されている類似度を重み付け加算し、加算結果を第2類似度格納部18に格納する。
【0030】
第3設定データ格納部19には、判定のための閾値が格納されており、比較部20は、第2類似度格納部18に格納されている加算結果と閾値とを比較して、その比較結果を比較結果格納部21に格納する。なお、比較部20は、第1類似度算出部14から処理に係る画素のデータを受信して、比較結果と共に比較結果格納部21に格納する。
【0031】
出力部22は、比較結果格納部21に格納されているデータを出力装置(例えば印刷装置や表示装置)に出力する。
【0032】
次に、図4乃至図6を用いて、情報処理装置100の処理内容を説明する。第1類似度算出部14は、第1スペクトルデータ格納部11に格納されている照合対象のハイパースペクトルデータにおける未処理の画素を1つ特定する(図4:ステップS1)。また、第1類似度算出部14は、第2スペクトルデータ格納部12に格納されている基準スペクトルデータの種別のうち未処理の種別を特定し、特定された種別の基準スペクトルデータを読み出す(ステップS3)。
【0033】
そして、第1類似度算出部14は、第1設定データ格納部13に格納されている第1照合領域について、照合対象のハイパースペクトルデータと基準スペクトルデータとの間の第1の類似度を算出し、第1類似度格納部15に格納する(ステップS5)。類似度の算出方法は、類似度を例えばスペクトラルアングルマッパー(Spectral Angel Mapper)やコサイン距離解析法などよく知られた方法を用いればよい。
【0034】
また、第1類似度算出部14は、第1設定データ格納部13に格納されている第2照合領域について、照合対象のハイパースペクトルデータと基準スペクトルデータとの間の第2の類似度を算出し、第1類似度格納部15に格納する(ステップS7)。
【0035】
そして、第2類似度算出部17は、第2設定データ格納部16に格納されている重み値を用いて、第1類似度格納部15に格納されている、第1照合領域のための第1の類似度と第2照合領域のための第2の類似度とを重み付け加算することで第3の類似度を算出して、第2類似度格納部18に格納する(ステップS9)。具体的には、第1の重み値×第1の類似度+第2の重み値×第2の類似度によって、第3の類似度を算出する。処理は、端子Aを介して図5の処理に移行する。
【0036】
図5の処理の説明に移行して、比較部20は、第2類似度格納部18に格納されている第3の類似度が、第3設定データ格納部19に格納されている閾値以上となっているか判断する(ステップS11)。第3の類似度が閾値未満であれば、今回用いられた基準スペクトルデータの種別の樹木には該当しないので、処理はステップS15に移行する。
【0037】
一方、第3の類似度が閾値以上であれば、今回用いられた基準スペクトルデータの種別の樹木に該当するので、比較部20は、特定された画素に対応付けて、今回用いられた基準スペクトルデータの種別のデータを比較結果格納部21に登録する(ステップS13)。そして処理はステップS15に移行する。なお、ステップS15ではなく、ステップS17に移行するようにしても良い。
【0038】
例えば図6に示すようなデータが、比較結果格納部21に格納される。図6の例では、画素の座標(場合によっては画素の識別子)に対応付けて、基準スペクトルデータの種別として杉や檜といった種別データが登録されるようになっている。
【0039】
その後、第1類似度算出部14は、第2スペクトルデータ格納部12において、基準スペクトルデータの未処理の種別が存在しているか判断する(ステップS15)。未処理の種別の基準スペクトルデータが存在していれば、端子Bを介して図4のステップS3に戻る。一方、未処理の種別の基準スペクトルデータが存在しない場合には、第1類似度算出部14は、第1スペクトルデータ格納部11において、未処理の画素が存在しているか判断する(ステップS17)。未処理の画素が存在している場合には、処理は端子Cを介して図4のステップS1に戻る。一方、未処理の画素が存在していない場合には、出力部22は、比較結果格納部21に格納されているデータを、出力装置(表示装置や印刷装置など)に出力する(ステップS19)。なお、情報処理装置100にネットワークを介して接続されている他のコンピュータに出力するようにしても良い。
【0040】
以上のような処理を実施することで、樹木に加えて土が一部に現れている場合においても正しく樹木を識別できるようになる。
【0041】
[実施例1]
ハイパースペクトルカメラ(HSC−1701、エバジャパン株式会社製)を用いて土と樹木が混在する画像(ハイパースペクトルデータ)を撮影した。この時、樹木が70%で土が30%の場合の画素のハイパースペクトルデータと、樹木の基準スペクトルデータとの間の類似度を、図7に示すように、第1照合領域(400nm−700nm)と第2照合領域(700nm−800nm)とについて算出した。
【0042】
この時、第1の重み値k1及び第2の重み値k2については、例えば以下のように算出する。具体的には、土の基準スペクトルデータと樹木の基準スペクトルデータとの間の類似度を、第1照合領域及び第2照合領域とについて算出する。今回の例では、以下のような結果が得られた。
400nm−700nm:類似度=0.879
700nm−800nm:類似度=0.572
【0043】
これを用いて、第1の重み値k1及び第2の重み値k2を以下のように算出する。当然ながら、k1+k2=1となる。
k1=0.879/(0.879+0.572)=0.61
k2=0.572/(0.879+0.572)=0.39
【0044】
そして、第3の類似度は、以下のように算出される。
第3の類似度=0.61×0.980+0.39×0.912=0.953
【0045】
ここで閾値を0.950とすると、第3の類似度は閾値0.950以上であるから、この画素は基準スペクトルデータの樹木であることが識別される。なお、400nm−800nm全体について類似度を算出すると0.935となり、閾値未満であるため、基準スペクトルデータの樹木であることが識別できない。
【0046】
[実施例2]
次に、第1照合領域を、500nm−600nmに変更する。500nm−600nmは、図2においてXで示すように、可視光領域において樹木の特徴が現れている領域である。この場合には、図8に示すような類似度が算出される。このように、第3の類似度が0.9504で閾値以上となるので、基準スペクトルデータの樹木であることが識別できる。
【0047】
[実施例3]
次に、第2照合領域を、720nm−780nmに変更する。720nm−780nmは、図2においてYで示すように、近赤外光領域において樹木の特徴が現れている領域である。この場合には、図9に示すような類似度が算出される。このように、第3の類似度が0.951で閾値以上となるので、基準スペクトルデータの樹木であることが識別できる。
【0048】
[実施例4]
次に、第2照合領域を、700nm−900nmに変更する。この場合には、図10に示すような類似度が算出される。このように、第3の類似度が0.954で閾値以上となるので、基準スペクトルデータの樹木であることが識別できる。なお、400nm−900nm全域で類似度を算出すると0.928となってしまうが、上で述べたような手法で第3の類似度を算出すれば、基準スペクトルデータの樹木であることが識別できる。
【0049】
なお、第1照合領域に、近赤外光領域における樹木の特徴が現れる領域Yを含めることは想定していないが、下側の400nm及び上側の700nmについては多少変動させても良い。すなわち、第1照合領域を広くとる場合には、可視光領域を包含し且つ当該可視光領域より少々広い領域を設定する場合もある。
【0050】
同様に、第2照合領域に、可視光領域における樹木の特徴が現れる領域Xを含めることは想定していないが、下側の700nm及び上側の900nmについては多少変動させても良い。すなわち、第2照合領域を広くとる場合には、近赤外光領域を包含し且つ当該近赤外光領域よりも少々広い領域を設定する場合もある。
【0051】
[比較例1]
次に、第1照合領域を、550nm−600nmに変更する。これは可視光領域において樹木の特徴が現れる領域Xよりも狭くなっている。この場合、図11に示すような類似度が算出される。このように、第3の類似度が0.924で閾値未満となるので、基準スペクトルデータの樹木であることが識別できていない。
【0052】
[比較例2]
次に、第2照合領域を、730nm−800nmに変更する。これは近赤外光領域における樹木の特徴が現れる領域Yの一部を欠いている場合である。この場合、図12に示すような類似度が算出される。このように、第3の類似度が0.949で閾値未満となるので、基準スペクトルデータの樹木であることが識別できない。
【0053】
[比較例3]
次に、第2照合領域を、700nm−1000nmに変更する。この場合、図13に示すような類似度が算出される。このように、第3の類似度が0.947で閾値未満となるので、基準スペクトルデータの樹木であることが識別できない。400nm−1000nm全領域について類似度を算出しても0.927となり、同様に基準スペクトルデータの樹木であることが識別できない。
【0054】
[比較例4]
次に、実施例1とは異なる種別の樹木が撮影された画素のハイパースペクトルデータについて、実施例1と同じ基準スペクトルデータと照合した場合を考える。
【0055】
そして、第1照合領域を、505nm−595nmに変更する。これは可視光領域において樹木の特徴が現れる領域Xよりも狭くなっている。この場合、図14に示すような類似度が算出される。このように、第3の類似度が0.952で閾値以上となってしまって、異なる種別の樹木であるにも拘わらず、基準スペクトルデータの樹木であると誤認識されてしまう。
【0056】
一方、500nm−600nmであれば、第3の類似度は0.949で閾値未満となるので、基準スペクトルデータの樹木でないと正しく判定される。
【0057】
このように、500nm−600nmは、可視光領域において樹木の特徴が現れる領域であって、少なくとも第1照合領域に含まれるべき領域である。
【0058】
[比較例5]
比較例4と同様に、実施例1とは異なる種別の樹木が撮影された画素のハイパースペクトルデータについて、実施例1と同じ基準スペクトルデータと照合した場合を考える。
【0059】
そして、第2照合領域を、725nm−775nmに変更する。これは近赤外光領域において樹木の特徴が現れる領域Yよりも狭くなっている。この場合、図15に示すような類似度が算出される。このように、第3の類似度が0.952で閾値以上となってしまって、異なる種別の樹木であるにも拘わらず、基準スペクトルデータの樹木であると誤認識されてしまう。
【0060】
一方、720nm−780nmであれば、第3の類似度は0.930で閾値未満となるので、基準スペクトルデータの樹木ではないと正しく判定される。
【0061】
このように、720nm−780nmは、近赤外光領域において樹木の特徴が現れる領域であって、少なくとも第2照合領域に含まれるべき領域である。
【0062】
[実施例5]
重み値については、上で述べたような算出方法だけではなく、以下のような算出方法を採用するようにしても良い。なお、k1+k2=1となる。
k1=2×0.879/(2×0.879+0.572)=0.75
k2=0.572/(2×0.879+0.572)=0.25
【0063】
このように第1照合領域についてより大きな重み値を設定する。
【0064】
そうすると、実施例1について第3類似度を算出すると、以下のようになる。
第3類似度=0.75×0.980+0.25×0.912=0.963
【0065】
このように実施例1よりも第3の類似度が大きな値となるため、正しく基準スペクトルデータの樹木であると識別できる。
【0066】
[実施例6]
樹木が60%で土が40%の場合の画素のハイパースペクトルデータと、樹木の基準スペクトルデータとの間の類似度を、図16に示すように、第1照合領域(400nm−700nm)と第2照合領域(700nm−800nm)とについて算出した。
【0067】
図16に示すように、第3の類似度は0.951で閾値以上となるので、基準スペクトルデータの樹木であると正しく判定できる。
【0068】
このように、樹木の比率が低くなると第3の類似度が下がってくるので、実施例5のような重み値を採用することも有効である。重み値を実施例5のように変更した場合の類似度を図17に示す。このように、第3の類似度が0.960となるので、基準スペクトルデータの樹木であると正しく判定でき、照合領域を狭くしても対応できる。
【0069】
なお、重み値については、算出式によって算出するだけではなく、経験的に適切である値を設定するようにしても良い。
【0070】
以上本技術の実施の形態及び実施例を説明したが、本技術はこれに限定されるものではない。例えば、図3に示した機能ブロック図は一例であって、必ずしも実際のプログラムモジュール構成やデータ格納部構成と一致しない場合もある。処理フローについても、処理結果が変わらない限り、処理順番を入れ替えたり、並列実施するようにしても良い。例えば、ステップS5とS7は並列実行も処理順番の入れ替えも可能である。
【0071】
また、ステップS11で第3の類似度が閾値未満であっても、例えば「杉ではない」ことを表すデータを比較結果格納部21に格納するようにしても良い。すなわち、各比較結果を格納するようにしても良い。
【0072】
なお、上で述べた情報処理装置100は、コンピュータ装置であって、図18に示すように、メモリ2501とCPU(Central Processing Unit)2503とハードディスク・ドライブ(HDD:Hard Disk Drive)2505と表示装置2509に接続される表示制御部2507とリムーバブル・ディスク2511用のドライブ装置2513と入力装置2515とネットワークに接続するための通信制御部2517とがバス2519で接続されている。オペレーティング・システム(OS:Operating System)及び本実施例における処理を実施するためのアプリケーション・プログラムは、HDD2505に格納されており、CPU2503により実行される際にはHDD2505からメモリ2501に読み出される。CPU2503は、アプリケーション・プログラムの処理内容に応じて表示制御部2507、通信制御部2517、ドライブ装置2513を制御して、所定の動作を行わせる。また、処理途中のデータについては、主としてメモリ2501に格納されるが、HDD2505に格納されるようにしてもよい。本技術の実施例では、上で述べた処理を実施するためのアプリケーション・プログラムはコンピュータ読み取り可能なリムーバブル・ディスク2511に格納されて頒布され、ドライブ装置2513からHDD2505にインストールされる。インターネットなどのネットワーク及び通信制御部2517を経由して、HDD2505にインストールされる場合もある。このようなコンピュータ装置は、上で述べたCPU2503、メモリ2501などのハードウエアとOS及びアプリケーション・プログラムなどのプログラムとが有機的に協働することにより、上で述べたような各種機能を実現する。
【0073】
以上述べた本実施の形態をまとめると以下のようになる。
【0074】
本実施の形態に係る情報処理方法は、(A)可視光領域のうち樹木の特徴が現れる第1の領域を少なくとも含む領域について、照合対象のスペクトルデータと樹木の基準スペクトルデータとの間の第1の類似度を算出するステップと、(B)近赤外光領域のうち樹木の特徴が現れる第2の領域を少なくとも含む領域について、照合対象のスペクトルデータと樹木の基準スペクトルデータとの間の第2の類似度を算出するステップと、(C)第1の類似度と第2の類似度とを重み付け加算して第3の類似度を算出するステップと、(D)第3の類似度と所定の閾値を比較するステップとを含む。そして、第2の類似度の重みより第1の類似度の重みが大きいという特徴がある。
【0075】
このようにすれば、一部に含まれる土の影響を抑制して正しく基準スペクトルデータの樹木であるかを判断できるようになる。
【0076】
また、上で述べた第1の領域が500nm以上600nm以下の領域である場合もある。最低限この領域を含むようにすれば適切に判定を行うことができるようになる。同様に、上で述べた第2の領域が720nm以上780nm以下の領域である場合もある。最低限この領域を含むようにすれば適切に判定を行うことができるようになる。
【0077】
さらに、第1の類似度の第1の重みと第2の類似度の第2の重みとの和が1である場合もある。
【0078】
さらに、可視光領域における、土のスペクトルデータと樹木の基準スペクトルデータとの間の第3の類似度d3と、近赤外光領域における、土のスペクトルデータと樹木の基準スペクトルデータとの間の第4の類似度d4とから、第1の重みk1がd3/(d3+d4)であり、第2の重みk2がd4/(d3+d4)である場合もある。このように、1を類似度で按分するようにしても良い。
【0079】
また、可視光領域における、土のスペクトルデータと樹木の基準スペクトルデータとの間の第3の類似度d3と、近赤外光領域における、土のスペクトルデータと樹木の基準スペクトルデータとの間の第4の類似度d4とから、第1の重みk1が2×d3/(2×d3+d4)であり、第2の重みk2がd4/(2×d3+d4)である場合もある。このように、可視光領域についての重みがさらに大きくなるように設定することも可能である。
【0080】
なお、上記情報処理方法をコンピュータに行わせるためのプログラムを作成することができ、当該プログラムは、例えばフレキシブルディスク、CD−ROM、光磁気ディスク、半導体メモリ、ハードディスク等のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体又は記憶装置に格納される。尚、中間的な処理結果はメインメモリ等の記憶装置に一時保管される。
【0081】
以上の実施例を含む実施形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0082】
(付記1)
可視光領域のうち樹木の特徴が現れる第1の領域を少なくとも含む領域について、照合対象のスペクトルデータと樹木の基準スペクトルデータとの間の第1の類似度を算出し、
近赤外光領域のうち樹木の特徴が現れる第2の領域を少なくとも含む領域について、前記照合対象のスペクトルデータと前記樹木の基準スペクトルデータとの間の第2の類似度を算出し、
前記第1の類似度と前記第2の類似度とを重み付け加算して第3の類似度を算出し、
前記第3の類似度と所定の閾値を比較する
処理をコンピュータに実行させ、
前記第2の類似度の重みより前記第1の類似度の重みが大きい
ことを特徴とするプログラム。
【0083】
(付記2)
前記第1の領域が500nm以上600nm以下の領域である
付記1記載のプログラム。
【0084】
(付記3)
前記第2の領域が720nm以上780nm以下の領域である
付記1又は2記載のプログラム。
【0085】
(付記4)
前記第1の類似度の第1の重みと前記第2の類似度の第2の重みとの和が1である
付記1乃至3のいずれか1つ記載のプログラム。
【0086】
(付記5)
前記可視光領域における、土のスペクトルデータと前記樹木の基準スペクトルデータとの間の第3の類似度d3と、前記近赤外光領域における、前記土のスペクトルデータと前記樹木の基準スペクトルデータとの間の第4の類似度d4とから、前記第1の重みk1がd3/(d3+d4)であり、前記第2の重みk2がd4/(d3+d4)である
付記4記載のプログラム。
【0087】
(付記6)
前記可視光領域における、土のスペクトルデータと前記樹木の基準スペクトルデータとの間の第3の類似度d3と、前記近赤外光領域における、前記土のスペクトルデータと前記樹木の基準スペクトルデータとの間の第4の類似度d4とから、前記第1の重みk1が2×d3/(2×d3+d4)であり、前記第2の重みk2がd4/(2×d3+d4)である
付記4記載のプログラム。
【0088】
(付記7)
可視光領域のうち樹木の特徴が現れる第1の領域を少なくとも含む領域について、照合対象のスペクトルデータと樹木の基準スペクトルデータとの間の第1の類似度を算出し、
近赤外光領域のうち樹木の特徴が現れる第2の領域を少なくとも含む領域について、前記照合対象のスペクトルデータと前記樹木の基準スペクトルデータとの間の第2の類似度を算出し、
前記第1の類似度と前記第2の類似度とを重み付け加算して第3の類似度を算出し、
前記第3の類似度と所定の閾値を比較する
処理をコンピュータが実行し、
前記第2の類似度の重みより前記第1の類似度の重みが大きい
ことを特徴とする情報処理方法。
【0089】
(付記8)
可視光領域のうち樹木の特徴が現れる第1の領域を少なくとも含む領域について、照合対象のスペクトルデータと樹木の基準スペクトルデータとの間の第1の類似度を算出し、近赤外光領域のうち樹木の特徴が現れる第2の領域を少なくとも含む領域について、前記照合対象のスペクトルデータと前記樹木の基準スペクトルデータとの間の第2の類似度を算出する第1類似度算出部と、
前記第1の類似度と前記第2の類似度とを重み付け加算して第3の類似度を算出する第2の類似度算出部と、
前記第3の類似度と所定の閾値を比較する比較部と、
を有し、
前記第2の類似度の重みより前記第1の類似度の重みが大きい
ことを特徴とする情報処理装置。
【符号の説明】
【0090】
11 第1スペクトルデータ格納部
12 第2スペクトルデータ格納部
13 第1設定データ格納部
14 第1類似度算出部
15 第1類似度格納部
16 第2設定データ格納部
17 第2類似度算出部
18 第2類似度格納部
19 第3設定データ格納部
20 比較部
21 比較結果格納部
22 出力部
23 入力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光領域のうち樹木の特徴が現れる第1の領域を少なくとも含む領域について、照合対象のスペクトルデータと樹木の基準スペクトルデータとの間の第1の類似度を算出し、
近赤外光領域のうち樹木の特徴が現れる第2の領域を少なくとも含む領域について、前記照合対象のスペクトルデータと前記樹木の基準スペクトルデータとの間の第2の類似度を算出し、
前記第1の類似度と前記第2の類似度とを重み付け加算して第3の類似度を算出し、
前記第3の類似度と所定の閾値を比較する
処理をコンピュータに実行させ、
前記第2の類似度の重みより前記第1の類似度の重みが大きい
ことを特徴とするプログラム。
【請求項2】
前記第1の領域が500nm以上600nm以下の領域である
請求項1記載のプログラム。
【請求項3】
前記第2の領域が720nm以上780nm以下の領域である
請求項1又は2記載のプログラム。
【請求項4】
可視光領域のうち樹木の特徴が現れる第1の領域を少なくとも含む領域について、照合対象のスペクトルデータと樹木の基準スペクトルデータとの間の第1の類似度を算出し、
近赤外光領域のうち樹木の特徴が現れる第2の領域を少なくとも含む領域について、前記照合対象のスペクトルデータと前記樹木の基準スペクトルデータとの間の第2の類似度を算出し、
前記第1の類似度と前記第2の類似度とを重み付け加算して第3の類似度を算出し、
前記第3の類似度と所定の閾値を比較する
処理をコンピュータが実行し、
前記第2の類似度の重みより前記第1の類似度の重みが大きい
ことを特徴とする情報処理方法。
【請求項5】
可視光領域のうち樹木の特徴が現れる第1の領域を少なくとも含む領域について、照合対象のスペクトルデータと樹木の基準スペクトルデータとの間の第1の類似度を算出し、近赤外光領域のうち樹木の特徴が現れる第2の領域を少なくとも含む領域について、前記照合対象のスペクトルデータと前記樹木の基準スペクトルデータとの間の第2の類似度を算出する第1類似度算出部と、
前記第1の類似度と前記第2の類似度とを重み付け加算して第3の類似度を算出する第2の類似度算出部と、
前記第3の類似度と所定の閾値を比較する比較部と、
を有し、
前記第2の類似度の重みより前記第1の類似度の重みが大きい
ことを特徴とする情報処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2013−90584(P2013−90584A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233532(P2011−233532)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】