説明

植物系バイオマスの利用システム

【課題】植物系バイオマスを多元的に活用することができる、植物系バイオマスの利用システムを提供する。
【解決手段】細片された生、乾燥後あるいは搾油後の植物系バイオマスから、メタノールを溶媒としてマイクロ波加熱により精油、香料、色素あるいは油脂を抽出する抽出手段1と、抽出後の植物系バイオマスを溶媒と分離させるための分離手段2と、分離された溶媒を蒸留するメタノール回収手段3と、分離された植物系バイオマスを触媒により分解してガス化するガス化手段4と、ガス化により得られた水素と一酸化炭素からメタノールを合成するメタノール合成手段5と、を備え、前記メタノール回収手段で回収されたメタノールを、前記精油抽出手段において再利用するとともに、不足するメタノールは、合成されたメタノールで賄うことを特徴とする植物系バイオマスの有効利用システムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物系バイオマスの利用システムに関する。詳細には、植物系バイオマスからメタノールを溶媒としてマイクロ波加熱により有用物質を抽出し、抽出後のバイオマスをガス化して、生成したCOと水素からメタノールを合成するとともに、得られたメタノールを前記の抽出に利用することで、植物系バイオマスを多元的に有効利用できる、植物系バイオマスの利用システムに関する。
【背景技術】
【0002】
バイオマスには、現状では確立された分類法はなく、その発生の起源に着目して、例えば、都市ごみ、食品残渣、下水汚泥などの産業系バイオマス、家畜糞尿などの動物系バイオマス、そして、栽培植物、伐採木や農作物残渣などの植物系バイオマスに分けることができる。
【0003】
これらのバイオマスの内、植物系バイオマスは様々な成分を含み、その中には付加価値の高い香料や精油、染料等の微量成分が存在するため、植物系バイオマスからのこれらの成分の抽出が、従来より行われてきた。また、大豆、なたね、パーム椰子等の油脂を含む植物系バイオマスから油脂分を圧搾等により搾油することも、従来より行われてきた。しかしながら、植物系バイオマスから香料や精油等を抽出した後の残渣、あるいは油脂を搾油した後の残渣は、大部分が廃棄物として処分され、一部が燃料や肥料等に利用されているにすぎない。
【0004】
一方、伐採木や間伐材等の植物系バイオマスは、そのまま薪として、あるいは木炭に変換して燃料に利用されてきた。そして、近年になって、これらの植物系バイオマスを熱分解によりガス化して、COや水素等の可燃性ガスを取り出して燃料として利用したり、あるいは、ガス化で生成するCOや水素を触媒を用いてメタノールや炭化水素に変換して燃料として利用することで、ガソリンや天然ガスに替わるエネルギー源とする方法が検討されており、二酸化炭素の排出抑制につながる化石燃料の代替技術として、期待が高まっている。
【0005】
しかしながら、伐採木や間伐材、あるいは製材工業で発生する端材やチップ等の植物系バイオマスをガス化して燃料を得ようとする場合には、ガス化の原料として、そのまま熱分解ガス化に供される場合がほとんどであり、これらの植物系バイオマス中に含まれる精油等の有用成分を取り出してからガス化に利用するものではなく、植物系バイオマスを多元的に有効利用しようとするものではない。
【0006】
また、大豆、なたね、パーム椰子等には、圧搾等による搾油後も搾りきれない油脂分が残存しているが、これらの植物系バイオマスをガス化して燃料を得る場合は、残存する油脂分が含まれた状態でガス化の原料に供されている。残存する油脂分をさらに取り出してからガス化するという、より多元的な植物系バイオマスの利用はなされていない。
【0007】
ところで、植物系バイオマスから精油や香料等を抽出する方法としては、水蒸気蒸留法、圧搾法、拭き取り法、油脂吸着法、温浸法(マセラション)、冷浸法(アンフルラージュ)、パーコレーション法、超臨界二酸化炭素抽出法、液化二酸化炭素抽出法など各種の方法が知られている。また、簡便な装置で効果的に精油等を抽出する方法として、マイクロ波を加熱源とする抽出方法が提案されている。例えば、エタノールやグリセリンなどを抽出溶媒としてマイクロ波加熱する方法(特許文献1参照)や、あるいは、凍結粉砕した動植物由来の材料を溶剤抽出する際に、熱エネルギーとしてマイクロ波を利用する方法(特許文献2参照)、粉砕した植物系バイオマスにマイクロ波を照射しながら、水蒸気を供給して精油を抽出する方法(特許文献3参照)等が開示されている。しかしながら、これらの方法は、植物系バイオマスから精油等を抽出する方法を開示するものであり、抽出残渣を植物系バイオマスとして有効に活用する方法やシステムに関する記載はない。
【0008】
植物系バイオマスから精油等を抽出した後、抽出残渣を植物系バイオマスとして利用する事例として、特許文献4には、植物系バイオマスを粉砕した後、水等を溶媒として、マイクロ波加熱により精油等を抽出し、抽出後の残渣を、マイクロ波加熱により熱分解し、生成したガスを燃料や原料ガスとして利用するシステムが提案されている。しかし、特許文献4においては、抽出後の残渣を熱分解し、生成したCOや水素からメタノールを合成する具体的な記載はなく、また、合成したメタノールをシステム内で抽出に活用することで多元的に植物系バイオマスを利用するシステムを示唆するものではない。
【0009】
植物系バイオマスをガス化して、メタノール等を合成する方法に関しては、例えば、特許文献5には、バイオマスを供給してガス化するバイオマスガス化炉、ガス精製装置、スチームリフォーミング手段、メタノール合成装置等を具備したバイオマスからのメタノール合成システムが開示されている。このシステムにおいては、バイオマスの部分燃焼で発生した熱およびガス化後のガスを冷却するために用いた冷却水から発生する高温水蒸気により、ガス化に必要な熱を供給して、バイオマスをガス化してCOと水素を発生させるとともに、ガス化で生成したメタン等の炭化水素やタール等を、スチームリフォーミング手段で水蒸気と反応させて、COと水素に改質し、メタノールの生成量の増大を図るものである。さらに、このシステムにおいては、システムを構成する装置を移動台車上に搭載して移動することができるような工夫がなされている。
【0010】
特許文献6には、燃焼部、ガス化部、ガス精製部、液体燃料製造部等からなるバイオマスからの液体燃料製造装置が開示されている。使用する触媒を変えることにより、液体燃料製造部で、メタノール、ジメチルエーテルあるいは炭化水素が合成される。この特許文献6の方法では、バイオマスはガス化部で電気炉により加熱されてガス化され、またガス化されなかった未反応のバイオマスは取り出された後、燃焼部で燃やされ、その燃焼熱はガス化部の補助熱源として用いられる。ガス化部の底部にはタール分解用触媒が設置されており、ガス化により発生したガス中のタール分が取り除かれ、さらにガス化により発生したガスは活性炭等の吸着剤を装着したガス精製部で不純物を除去された後、燃料製造部でメタノール等に変換される。この方法においても、装置の下部に移動台車を設けることで、装置を移動できるように工夫されている。
【0011】
しかしながら、特許文献5では、用いられるバイオマス原料についての特段の記載はなく、特許文献6では、未利用樹、間伐材、製材残材等の木質系バイオマス、建築廃材、下水汚泥、鶏糞等の廃棄物系バイオマス、雑草、牧草等の草本系バイオマスが原料として用いられることが記載されているが、これらのバイオマスは、そのままガス化に供されており、木質系バイオマスや草本系バイオマス等の植物系バイオマスから精油や残存油脂分等の有用物質を抽出するとともに、抽出後の植物系バイオマスをガス化してメタノール等の燃料に変換して、植物系バイオマスを多元的に有効利用することを狙ったものではない。
【0012】
また、特許文献7では、草木などの植物系バイオマスをガス化し、得られた水素と一酸化炭素から触媒を用いてメタノールを合成する際に、メタノール合成の原料となる水素の一部を、風力発電装置と水電解装置の組合せによって生成した水素によって補填する方法が開示されている。しかしながら、特許文献7では、銅・亜鉛系の触媒を用いて低圧操作が可能な小型のメタノール製造装置が記載されているだけであり、植物系バイオマスをシステムとして有効利用するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2004−89786号公報
【特許文献2】特表昭63−502090号公報
【特許文献3】特開2007−098383号公報
【特許文献4】特開2007−245095号公報
【特許文献5】特開2001−240878号公報
【特許文献6】特開2008−189704号公報
【特許文献7】特開2005−132739号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、栽培植物、伐採木や農作物残渣などの植物系バイオマスを多元的に、かつシステムとして有効利用するものであり、植物系バイオマスからマイクロ波加熱により精油や残油脂分等を抽出し、抽出後の植物系バイオマスをガス化し、生成したガスからメタノールを合成し、合成したメタノールを抽出溶媒として用いることにより、植物系バイオマスを多元的に活用することができる、植物系バイオマスの利用システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、本発明は、下記の構成のシステムを提供する。
【0016】
(1)細片状に粉砕された植物系バイオマスから、メタノールを溶媒としてマイクロ波加熱により精油、香料、色素あるいは油脂を抽出する抽出手段1と、
抽出後の植物系バイオマスと抽出液を分離するための分離手段2と、
分離された抽出液を蒸留してメタノールを回収するメタノール回収手段3と、
分離された植物系バイオマスを熱分解してガス化するガス化手段4と、
ガス化により得られた水素と一酸化炭素からメタノールを合成するメタノール合成手段5と、を備え、
前記抽出手段1で使用するメタノールを、前記メタノール合成手段5で得られるメタノールで賄うことを特徴とする植物系バイオマスの利用システム。
(2)前記植物系バイオマスが、生もしくは乾燥した植物系バイオマスまたは油脂を搾油した後の植物系バイオマスである、前記(1)に記載の植物系バイオマスの利用システム。
(3)前記抽出手段1において、抽出温度がメタノールの沸点である、前記(1)または(2)に記載の植物系バイオマスの利用システム。
(4)前記分離手段2において、該分離手段が濾過装置である、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の植物系バイオマスの利用システム。
(5)前記メタノール回収手段3で回収したメタノールを、前記抽出手段1で使用する、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の植物系バイオマスの利用システム。
(6)前記メタノール回収手段3の蒸留残渣から、抽出した精油、香料、色素あるいは油脂を回収する、前記(1)〜(5)のいずれかに記載の植物系バイオマスの利用システム。
(7)前記ガス化手段4において、酸素あるいは空気と水蒸気をガス化剤として用いる、前記(1)〜(6)のいずれかに記載の植物系バイオマスの利用システム。
(8)前記メタノール合成手段5において、酸化銅−酸化亜鉛−アルミナ系触媒を触媒として用いる、前記(1)〜(7)のいずれかに記載の植物系バイオマスの利用システム。
(9)前記メタノール合成手段5の前に、ガス精製手段7とガス圧縮手段8をさらに有する、前記(1)〜(8)のいずれかに記載の植物系バイオマスの利用システム。
【発明の効果】
【0017】
本発明の植物系バイオマスの利用システムによれば、植物系バイオマスから精油や残存油脂を効果的に抽出することができ、精油や残存油脂を抽出後の残渣のバイオマスをガス化して得られるCOと水素を用いてメタノールを製造することができる。そして、精油や残存油脂の抽出溶媒としてメタノールを使用するので、抽出溶媒自体を当該システムで製造して賄うことができる。すなわち、本発明の植物系バイオマスの利用システムは、植物系バイオマスのみを原料として、燃料あるいは化学原料としてのメタノールのみならず精油や油脂等の有用物質も併せて得ることができる植物系バイオマスの合理的な利用システムを提供するものである。
【0018】
抽出手段に用いるメタノールはシステムの稼動開始時に所定量供給する必要があるが、システムが稼動中は、抽出液から蒸留により回収して再利用されるため、揮散等により失われるメタノールのみを、当該システムで合成されるメタノールから補充すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る植物系バイオマスの利用システムの概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る植物系バイオマスの利用システムの好ましい実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明に係る植物系バイオマス利用の好ましい一例を示す概略システム図である。すなわち、本発明のシステムは、抽出手段1、分離手段2、メタノール回収手段3、ガス化手段4、メタノール合成手段5を主たる手段として備え、これら主たる手段の前後に、ガス冷却手段6、ガス精製手段7、ガス圧縮手段8、メタノールの蒸留手段9および粉砕手段10を配することで構成されたシステムである。
【0022】
抽出手段1は、原料とする植物系バイオマスの種類に応じて、それらの植物系バイオマスが含有する精油や香料、色素あるいは油脂等の有用物質を抽出する。
【0023】
抽出溶媒としてはメタノールを使用し、マイクロ波を照射することで加熱する。具体的には、例えば、抽出装置内に粉砕あるいは裁断した細片状の植物系バイオマスを入れ、該植物系バイオマスが浸る程度のメタノールを添加して、マイクロ波を照射する。マイクロ波の照射により、添加したメタノールならびに植物系バイオマスが保持する水が効果的に加熱され、植物系バイオマス中の精油や香料あるいは搾油後に残存した油脂等の有用成分がメタノールによって抽出される。
【0024】
植物系バイオマスは、その種類によって付着水分や内蔵水分が異なるため、生あるいは乾燥後のものを適宜用いることができるが、抽出手段1に導入する前に粉砕手段10で細片状に粉砕しておく。細片状にすることで抽出効率が高まり、短時間で有用物質を抽出できるため、有用物質が熱等で分解するのを防止できる。植物系バイオマスとしては、精油や香料成分を有する植物の枝、幹、葉、実、根や、木材、間伐材、伐採木、剪定枝、おがくず、樹皮、チップ、端材、流木、竹、笹、木質建築廃材、あるいは大豆、なたね、パーム椰子等から大豆油、なたね油、パーム油等を搾油した後の搾りカス等が挙げられる。
【0025】
なお、抽出手段1でマイクロ波を照射するために使用するマイクロ波発振器としては、特に限定されず、マグネトロン等の発振器や、固体素子を用いた発振器を適宜用いることができる。また、マイクロ波の出力は、電気的に制御しながら10W〜20kWの範囲とするのが望ましい。マイクロ波の周波数は0.5〜10GHzが望ましい。
【0026】
本発明の抽出手段1において、マイクロ波により加熱されて蒸発したメタノールは、凝縮装置等により凝縮させて、抽出手段1に還流させる。
【0027】
抽出が終了した後、植物系バイオマスと抽出液を取り出し、植物系バイオマスと抽出液を分離手段2により分離する。
【0028】
分離手段2としては、濾過装置が好ましく用いられる。濾過残となる植物系バイオマスはメタノールを用いて洗浄することもできる。分離手段2で用いる、濾過装置は特に限定されず、植物系バイオマスの大きさや形状あるいはメタノールの含浸状態に応じて、常圧濾過装置あるいは加圧濾過装置を適宜選択することができる。
【0029】
分離手段2によって抽出液と分離された植物系バイオマスは、ガス化手段4の前流に予備乾燥手段を設けて乾燥しても良い。本発明において、予備乾燥を行う場合には、その熱源として、後記する冷却手段6で発生する高温の水蒸気を利用することができる。
【0030】
しかし、本発明においては、植物系バイオマス中に含まれていた水は抽出液に移行しており、分離された植物系バイオマスに含まれる水は大幅に減少している。そのため、次のガス化手段4において、加熱による植物系バイオマスの温度上昇が妨げられる恐れは少なく、分離された植物系バイオマスを、予備乾燥を経ずにそのままガス化手段4に導入することができる利点がある。
【0031】
一方、分離手段2によって分離された抽出液には、抽出溶媒のメタノール、抽出された精油や油脂および水が含まれている。抽出液はメタノール回収手段3に導入され、メタノールを蒸留により回収する。メタノールは沸点が約65℃であるため、蒸留の際に抽出された精油や油脂等が分解する恐れがない。しかも、メタノールは水と共沸しないため、メタノールのみを回収することができ、バイオマス中の水分は蒸留残渣として残る。メタノール回収手段3により回収したメタノールは、抽出手段1において抽出溶媒として再利用する。
【0032】
メタノール回収手段3において蒸留でメタノールを回収した後の蒸留残渣(ボトム)は、静置分離槽に移して、静置分離する。この蒸留残渣には、精油や油脂等ならびに水が含まれているので、静置分離することにより、上層には精油や油脂等の抽出物が分離し、下層には水が分離するが、分離性を向上させるために水を添加してもよい。その後、上層から精油や油脂等を取り出し、取り出した後の精油や油脂は、常法にしたがって精製することで、製品とすることができる。下層の水は排水として処理をすればよい。
【0033】
分離手段2で分離された植物系バイオマスは、ガス化手段4によりガス化される。ガス化手段に用いられるガス化炉としては、固定床方式、流動床方式、噴流ガス方式のいずれも用いることができるが、原料バイオマスを微粉化する必要のない固定床方式が好適である。
【0034】
ガス化は公知の方法で実施される。例えば、固定床方式を用いる場合、精油や油脂等を抽出した後の植物系バイオマスを炉内に充填し、炉底よりガス化剤を供給し着火して燃焼させて熱ガスを発生させ、バイオマスを熱分解してガス化する。ガス化剤としては、酸素あるいは空気と水蒸気が用いられる。
【0035】
本発明において、ガス化剤として用いる水蒸気は、前記予備乾燥手段の場合と同様、冷却手段6で発生する高温の水蒸気を使用することができる。この高温の水蒸気は、植物系バイオマスをガス化手段4でガス化する際の熱ガスを加熱するための補助熱源として利用するとともに、熱分解により発生したガス中のCOと反応してCOと水素を発生させるシフト反応に使用される。シフト反応はバイオマスのガス化においては公知であり、COに対する水素のモル比を上げ、メタノール合成の収率を上げるために行われる。
【0036】
植物系バイオマスのガス化の進行とともに、重質炭化水素が縮合することで、ススやタール等の炭素物質が生成する。これらのススやタール等もガス化剤中の水蒸気と反応することで、COや水素等のガスが生成する。この反応は水性ガス化反応として知られているが、この反応は比較的遅い反応のため、植物系バイオマスのガス化において、ススやタール等の炭素物質が完全に反応して消失することはなく、通常、残渣としてガス化装置内に残留することになる。
【0037】
また、植物系バイオマス中には、窒素や硫黄等のヘテロ元素を含むタンパク質や核酸等の細胞内物質が存在し、植物系バイオマスのガス化により、これらの物質から窒素酸化物や硫黄酸化物が生成する。
【0038】
ガス化により生成した高温のガス(以下、生成ガスと称する。)は、冷却手段6により冷却される。冷却時に用いられた冷却水は、生成ガスとの熱交換により、高温の水蒸気となって排出される。この高温の水蒸気は、前記したように、ガス化手段4に供給されることで、本発明のシステム内で有効に利用することができる。
【0039】
冷却された生成ガスは、ガス精製手段7により不純物を取り除かれる。生成ガス中に含まれる不純物としては、生成ガスに同伴されて排出されるススやタール等の炭素物質の他、前記の窒素酸化物や硫黄酸化物が含まれる。
【0040】
ガス精製手段7による生成ガスの精製法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、生成ガスを水中に導入して不純物を取り除く湿式法あるいはサイクロンを用いて集塵する方法や活性炭等の吸着剤を用いて取り除く乾式法等により行うことができる。
【0041】
精製後の生成ガスは、ガス圧縮手段8によって、5〜10MPa程度に加圧した後、メタノール合成手段5に導入される。
【0042】
メタノール合成手段5では、公知の方法によってメタノールが合成される。すなわち、酸化銅−酸化亜鉛−アルミナあるいは酸化銅−酸化亜鉛−酸化クロム等を触媒として、230〜270℃、5〜10MPaの反応条件で実施される。
【0043】
メタノール合成手段5で生成したメタノールは、蒸留手段9で、未反応ガスと分離される。未反応ガスは、圧縮手段8を介してメタノール合成手段5に循環され、再度反応に供される。
【0044】
蒸留手段9で分離されたメタノールは、最終製品として燃料や化学原料等の用途に供されるが、その一部を、抽出手段1に供給して、抽出溶媒としてのメタノールの補充に使用する。本発明において、抽出溶媒のメタノールは、システムの稼動開始時に所定量を供給すれば、それ以降は、メタノール回収手段3で回収したメタノールを繰り返し使用する。したがって、分離手段2で植物系バイオマスに吸着することで失われたり、あるいは分離手段2やメタノール回収手段3の操作時の揮散等によって失われたりするメタノールを、蒸留手段9で得られたメタノールから補充するだけで、効果的にシステムを稼動することができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の植物系バイオマスの利用システムは、メタノールを抽出溶媒として用いることで、従来は廃棄されていた精油や残存油脂等の有用物質を得ることができ、しかも、抽出に必要なメタノールはシステム内で調達することができ、残りの合成メタノールは、燃料等として利用することができる。省エネルギー、かつ環境に優しいシステムである。
【符号の説明】
【0046】
1 抽出手段
2 分離手段
3 メタノール回収手段
4 ガス化手段
5 メタノール合成手段
6 冷却手段
7 ガス精製手段
8 ガス圧縮手段
9 蒸留手段
10 粉砕手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細片状に粉砕された植物系バイオマスから、メタノールを溶媒としてマイクロ波加熱により精油、香料、色素あるいは油脂を抽出する抽出手段と、
抽出後の植物系バイオマスと抽出液を分離するための分離手段と、
分離された抽出液を蒸留してメタノールを回収するメタノール回収手段と、
分離された植物系バイオマスを熱分解してガス化するガス化手段と、
ガス化により得られた水素と一酸化炭素からメタノールを合成するメタノール合成手段と、を備え、
前記抽出手段で使用するメタノールを、前記メタノール合成手段で得られるメタノールで賄うことを特徴とする植物系バイオマスの利用システム。
【請求項2】
前記植物系バイオマスが、生もしくは乾燥した植物系バイオマスまたは油脂を搾油した後の植物系バイオマスである、請求項1に記載の植物系バイオマスの利用システム。
【請求項3】
前記抽出手段において、抽出温度がメタノールの沸点である、請求項1または2に記載の植物系バイオマスの利用システム。
【請求項4】
前記分離手段において、該分離手段が濾過装置である、請求項1〜3のいずれかに記載の植物系バイオマスの利用システム。
【請求項5】
前記メタノール回収手段で回収したメタノールを、前記抽出手段で使用する、請求項1〜4のいずれかに記載の植物系バイオマスの利用システム。
【請求項6】
前記メタノール回収手段の蒸留残渣から、抽出した精油、香料、色素あるいは油脂を回収する、請求項1〜5のいずれかに記載の植物系バイオマスの利用システム。
【請求項7】
前記ガス化手段において、酸素あるいは空気と水蒸気をガス化剤として用いる、請求項1〜6のいずれかに記載の植物系バイオマスの利用システム。
【請求項8】
前記メタノール合成手段において、酸化銅−酸化亜鉛−アルミナ系触媒を触媒として用いる、請求項1〜7のいずれかに記載の植物系バイオマスの利用システム。
【請求項9】
前記メタノール合成手段の前に、ガス精製手段とガス圧縮手段をさらに有する、請求項1〜8のいずれかに記載の植物系バイオマスの利用システム。

【図1】
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【公開番号】特開2010−280849(P2010−280849A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−136432(P2009−136432)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】