説明

植物系材料の加水分解用触媒及び糖類の製造方法

【課題】植物系材料を加水分解する際に、その反応速度を向上させ、反応温度が高くない条件(室温に近い温度条件)下での活性が高く、繰り返しの使用にも耐えうる長寿命の触媒を提供する。
【解決手段】植物系材料の加水分解反応に用いられる触媒であって、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、ゼオライト、酸化シリコンおよび酸化チタンからなる群より選択される1種または2種以上を含む固体酸化物担体に硫酸根またはリン酸根が担持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに記載する実施の形態は、植物系材料の加水分解用触媒に係り、さらにその触媒を用いて植物系材料から糖類を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹木や潅木草本類などの植物系材料は、カーボンニュートラルな環境負荷の低いエネルギー源、あるいは機能性材料への転換等、多くの利用可能性が考えられている。
【0003】
植物系材料は、主にセルロース、ヘミセルロース、リグニンから成り、強固な構造を有することから、分解することが非常に難しい。このため、植物系材料の利用はこれまでほとんど行われていない。
【0004】
しかし、植物系材料は世界でもっとも存在量が豊富な材料の一つであり、その有効利用が強く望まれている。植物系材料の有効利用を図るためには、植物系材料の強固な構造を分解し、低分子化させることが望ましい。
【0005】
例えばセルロースは、グルコースがβ−1,4グルコシド結合で結合した直鎖状の高分子であり、この結合を取り除くための分解方法が検討されている。セルロースの分解方法として、酸、高温高圧、酵素、固体触媒を用いる方法が知られている。
【0006】
酸による方法は、硫酸等の酸を使用することでセルロースを加水分解する方法である。この方法は、糖化率が高く、反応効率も高く、実証試験も行われている。しかし、この方法は、高濃度の硫酸を用い、生成した糖の過分解による収率低下と発酵阻害物の生成、耐酸性材料使用の必要性、廃酸の処理などの多くの問題点がある。
【0007】
高温高圧による方法は、反応速度が非常に速く、数秒単位でセルロースを加水分解することが可能である。しかし、この方法は多くのエネルギーと大規模な設備が必要となり、生成する糖類の選択性が低いという問題点がある。また、反応時間により過分解が進み、収率の低下を引き起こすというデメリットもある。
【0008】
酵素による方法は、低温で行えることおよび過分解が起こらず収率が高いなどの利点がある。また、酵素による方法は酸を使う方法に比べて環境調和型でもあることから研究開発が活発に行われている。しかし、この方法は現状コストが非常に高いという問題点がある。さらに酵素を木質などに直接加えてもセルロースはリグニンとヘミセルロースにより強固に保護されているため、ほとんど反応が進まない。このため、リグニン/ヘミセルロースによる保護を取り除いて酵素反応を受けやすくするために、植物系材料に対して何らかの前処理を施すことが必要不可欠である。また、この方法は糖の収率が低く、反応時間が長いなどの問題点がある。
【0009】
固体触媒による方法は、カーボン類固体酸触媒、金属担持触媒、光触媒、クラスター酸触媒など種々の触媒を用いるセルロース分解反応がある。これらの触媒は、反応温度が高くない条件(室温に近い温度条件)下で植物系材料を加水分解することを可能にする。また、生成した糖類と触媒の分離が容易な点でも大きなメリットがある。
【0010】
カーボン類固体酸触媒は、数ナノメートルのカーボンシートで構成されたアモルファスカーボンからなり、カーボンシートには高密度の強酸性のスルホン酸基が結合している。このカーボン類固体酸触媒は、熱的・化学的に安定であり、そのスルホン酸基は芳香族スルホン酸の1万倍以上の酸強度を有している。この触媒は砂糖、デンプン、セルロースといった安価で豊富な天然有機物を低温で部分的に炭化した後、硫酸・発煙硫酸でスルホン化することにより調製される。このカーボン類固体酸触媒は高い触媒活性を示し、バイオディーゼルの高効率合成に有望な触媒であるとされている。
【0011】
金属担持触媒は、無機酸化物または活性炭からなる担体に遷移金属を担持させたものである。この金属担持触媒を用いて高温、水素加圧下でセルロースを加水分解すると、生成物として糖アルコール(ソルビトール等)が得られる。ソルビトールは低カロリーの甘味料として使われており、イソソルビドやエチレングリコールなどのプラスチック原料の合成中間体となる。また、酵素によりバイオエタノールを生成させることが可能である。
【0012】
さらに、植物系材料の加水分解に用いられる触媒として光触媒が提案されている。光触媒は、酸化シリコン系材料からなる。光触媒を用いる方法では、植物系材料を加水分解すると水素が発生することが確認されていると報告されている。
【0013】
また、さらに植物系材料の加水分解に用いられる触媒としてクラスター酸触媒が提案されている。クラスター酸触媒の存在下ではリンタングステン酸などのヘテロポリ酸を用いた植物系材料の加水分解が可能である。クラスター酸触媒を用いる方法では、糖化前処理に数日間を有するが、高い糖収率を示すと報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】WO2008/001696号公報
【特許文献2】WO2007/100052号公報
【特許文献3】特開2009−207485号公報
【特許文献4】特開2009−291145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ここに記載する実施の形態は、上記の課題を解決するためになされたものであり、植物系材料を加水分解する際に、その反応速度を向上させ、反応温度が高くない条件(室温に近い温度条件)下での活性が高く、繰り返しの使用にも耐えうる長寿命の触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決するために、実施の形態に係る植物系材料の加水分解用触媒は、植物系材料の加水分解反応に用いられる触媒であって、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、ゼオライト、酸化シリコンおよび酸化チタンからなる群より選択される1種または2種以上を含む固体酸化物担体に硫酸根またはリン酸根が担持されていることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】加水分解反応試験装置の一例を示す模式図。
【図2】加水分解反応試験装置の他の一例を示す模式図。
【図3】種々の硫酸根担持触媒の存在下でセルロースを加水分解したときの転化率の結果をそれぞれ示すグラフ図。
【図4】種々のリン酸根担持触媒の存在下でセルロースを加水分解したときの転化率の結果をそれぞれ示すグラフ図。
【図5】種々の硫酸根担持触媒および種々のリン酸根担持触媒の存在下でセルロースを加水分解したときの酸量減少率を表形式でそれぞれ示す図。
【図6】単糖及び低分子の多糖類を生成するために用いられる反応器を示す模式図。
【図7】種々の硫酸根担持触媒の存在下でセルロースを加水分解したときの糖類の収率の結果をそれぞれ示すグラフ図。
【図8】種々のリン酸根担持触媒の存在下でセルロースを加水分解したときの糖類の収率の結果をそれぞれ示すグラフ図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
ここに記載する実施の形態を以下に説明する。
【0019】
(1)実施の形態に係る植物系材料の加水分解用触媒は、植物系材料の加水分解反応に用いられる触媒であって、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、ゼオライト、酸化シリコンおよび酸化チタンからなる群より選択される1種または2種以上を含む固体酸化物担体に硫酸根またはリン酸根が担持されていることを特徴とする。
【0020】
実施形態の触媒を反応溶液中に添加し、これを撹拌すると、担持された硫酸根またはリン酸根の存在により表面が固体酸性を示し、反応物にプロトンを供与することにより植物系材料の加水分解反応が促進される。この加水分解反応には固体酸化物担体の構造と材質が寄与しているものと推測されている。すなわち、固体酸化物担体は、金属アルコキシドを用いるゾルゲル法により製造される微細な構造体からなり、その表面に開口する多数の細孔を有している。これらの細孔は、大部分が直径2nm未満のミクロ孔であり、一部に直径2nm以上50nm未満のメソ孔と直径50nm以上のマクロ孔を含む。例えばゼオライトは主にミクロ孔を含む多孔質結晶体である。
【0021】
このような微細構造の固体酸化物担体が植物系材料の加水分解反応を促進させると考えられ、これにより従来の高温高圧条件による加水分解と比べて低い温度と圧力(常圧〜1 MPa以下)条件下で植物系材料を加水分解することが可能になる。なお、固体酸化物担体は、前処理として空気中あるいは窒素中で150℃から650℃で1時間から5時間熱処理を行うことが望ましい。また、これらの固体酸化物担体は、湿式混合法により2種または3種の酸化物を含む複合酸化物として調製した後に、上述の熱処理を行なっても製造することができる。
【0022】
(2)上記(1)の触媒において、植物系材料はセルロース、ヘミセルロースを示し、リグニンを含む場合であってもよい。
【0023】
例えばセルロースを加水分解すると、グルコース、フルクトースなどの単糖類、マルトース、セロビオース、スクロースなどの二糖類、およびオリゴ糖、グルカンなどの低分子量の多糖類がそれぞれ生成されるが、これら以外に分解はしているものの直鎖の切れかたが不十分なために多糖類よりも分子量がはるかに大きい高分子副生成物も生じている。これらの高分子副生成物は利用価値が低いものであるため再分解処理するか又は廃棄される。よって、有価物である糖類よりも分子量の小さい低分子量の生成物の収率をできるだけ増やすことが望まれる。ここに記載する実施形態の触媒は、上述したように固体酸化物担体が金属アルコキシドを用いるゾルゲル法または湿式混合法により製造され、表面に開口する多数の細孔をもつ微細な構造をなしている。このような微細構造の固体酸化物は植物系材料の加水分解反応を促進させ、分子量の小さい糖類(単糖類、二糖類、低分子量の多糖類)の収率を増加させることが可能になる(図7と図8)。
【0024】
(3)上記(1)の触媒において、植物系材料の加水分解反応後において、硫酸根またはリン酸根からなる酸量の減少率が20%以下であることが好ましい。
【0025】
加水分解処理1回当たりの酸量の減少率が20%を超えると、固体酸化物担体に対して不足する硫酸根またはりん酸根を担持させる処理を頻繁に行なう必要があり、触媒としての繰り返し使用に耐えられないからである(図5)。
【0026】
(4)上記(1)〜(3)の触媒において、植物系材料の加水分解反応を150℃以下の温度で進行させることが好ましい。
【0027】
実施形態の触媒の存在下において、反応溶液を加熱して150℃以下の温度条件で植物系材料を加水分解反応させると、室温下での反応と比べて転化率が高くなる(図3と図4)。
【0028】
(5)実施の形態に係る糖類の製造方法は、(a)酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、ゼオライト、酸化シリコンおよび酸化チタンからなる群より選択される1種または2種以上を含む固体酸化物担体に硫酸根またはリン酸根が担持された触媒を準備するとともに、植物系材料を準備し、(b)前記植物系材料と前記触媒をそれぞれ反応溶液中に添加し、前記反応溶液を撹拌して前記植物系材料と前記触媒を混合するとともに、前記担持された硫酸根またはリン酸根の存在により表面が固体酸性を示し、これにより反応物にプロトンを供与し、(c)前記反応溶液を加熱して、前記触媒の存在下で前記植物系材料を加水分解反応させ、糖類を得ることを特徴とする。
【0029】
上記固体酸化物担体は、金属アルコキシドを用いるゾルゲル法または湿式混合法により製造され、表面に開口する多数の細孔をもつ微細な構造体からなるものである。このような微細構造の固体酸化物担体が植物系材料の加水分解反応を促進させるので、従来の高温高圧条件での加水分解と比べて低い温度と圧力(常圧〜1 MPa以下)条件下で植物系材料を加水分解することが可能になる。
【0030】
(6)上記(5)の方法において、前記(c)工程における前記植物系材料の加水分解反応後の触媒は、硫酸根またはリン酸根からなる酸量の減少率が20%以下であることが好ましい。
【0031】
加水分解処理1回当たりの酸量の減少率が20%を超えると、固体酸化物担体に対して不足する硫酸根またはリン酸根を担持させる処理を頻繁に行なう必要があり、触媒として繰り返し使用に耐えられないからである(図5)。
【0032】
(7)上記(5)または(6)の方法において、前記(c)工程において反応溶液を150℃以下の温度に加熱することが好ましい。
【0033】
実施形態の方法によれば、従来の方法に比べて低い温度条件下でも植物系材料の加水分解反応が促進される。とくに実施形態の触媒の存在下において150℃以下の温度で植物系材料を加水分解反応させると、室温下での反応に比べて転化率が高くなる(図3と図4)。
【実施例】
【0034】
以下に上述した実施の形態に関連する実施例を説明する。
【0035】
(触媒の調製)
実施例の触媒に用いられる担体は、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、ゼオライト、酸化シリコンおよび酸化チタンからなる群より選択される1種または2種以上の固体酸化物から構成される。これらの固体酸化物担体に硫酸根またはリン酸根を担持させることにより実施例の触媒A1,B1,C1,D1,E1,A2,B2,C2,D2,E2がそれぞれ調製される。
【0036】
固体酸化物担体として、ゼオライトのように高い結晶性を有する多孔質結晶体を用いるほか、酸化ジルコニウムなどの金属酸化物を用いてもよい。金属酸化物は、湿式混合法または金属アルコキシドを用いるゾルゲル法により調製される。
【0037】
調製した固体酸化物担体に対して、前処理として空気または窒素雰囲気中で150〜650℃の温度に1〜5時間加熱保持する熱処理が施される。
【0038】
これらの固体酸化物担体は、湿式混合により2種または3種の複合酸化物として調製するようにしてもよい。湿式混合法で調整した試料は、上述と同様の熱処理が施される。
【0039】
また、上述の湿式混合法以外の他の方法として、金属アルコキシドを用いたゾルゲル法により2種または3種の複合酸化物を調整するようにしてもよい。この方法で調整した複合酸化物に対しても上述と同様の熱処理を行なう。
【0040】
上記固体酸化物担体の試料をリン酸または硫酸を含む酸溶媒中に浸漬し、空気または窒素雰囲気中で25〜110℃の温度に1〜48時間加熱保持する。その後、試料を酸溶媒中から引き上げ、純水中にて洗浄し、乾燥させる。
【0041】
上記リン酸または硫酸の濃度は0.05〜10.0mol/Lの間とし、溶媒には純水を用いる。なお、純水の代わりに低級アルコールを溶媒に用いることもできる。
【0042】
乾燥後、空気または窒素雰囲気の炉中で150〜800℃の温度に2〜6時間加熱保持する熱処理を行う。
【0043】
上記熱処理における昇温速度は、1℃/分〜10℃/分の条件で行う。
【0044】
上記熱処理後の触媒は、そのまま反応に用いてもよいが、乳鉢やボールミル等で粉砕して使用してもよい。
【0045】
比較例として、上記の固体酸化物の代わりに活性炭を上述と同様にして調製した担体を準備した。この活性炭担体に上述と同様に硫酸根またはリン酸根を担持させ、比較例1,2の触媒F1,F2をそれぞれ作製した。
【0046】
(触媒の評価試験)
上述のように調製した試料について、図1または図2に示す加水分解反応装置を用いてそれぞれ評価した。先ず評価に用いた加水分解反応装置を説明する。
【0047】
図1に示す加水分解反応装置1は、反応容器3と、反応容器3内の気化物を冷却・凝縮させる冷却器2と、反応容器3内の固液混合物4,5を加熱するオイルバス7とを備えている。反応容器3は、フラスコ状の形状を有し、内部に反応溶液4、固体混合物5および磁気撹拌子6が収容されている。反応容器3の下半部はオイルバス7内の油71中に浸漬され、内容物である反応溶液4と固体混合物5が所望温度に加熱されるようになっている。温度計8の検出端81がオイルバス7内の油71中に浸漬され、油71の温度が測定され、温度測定信号が図示しない制御器に送られるようになっている。制御器は、温度測定信号が入ると、メモリから設定目標温度を呼び出し、呼び出した設定目標温度と測定温度とを比較して両者の差分を求め、求めた差分に基づいて演算により加熱制御量を求め、求めた加熱制御量に対応する制御信号をオイルバス7のヒータ(図示せず)に送り、ヒータによる油71の加熱量をコントロールするようになっている。磁気撹拌子6は、図示しない磁場形成手段から作用する磁気力を受けて反応容器3の内部で回転し、容器3内の反応溶液4および固体混合物5を撹拌するものである。
【0048】
反応溶液4には純水を用いることが望ましいが、水道水や工業用水を用いてもよいし、あるいはアルコール類などの有機溶媒を用いるようにしてもよい。また、有機溶媒を水に溶かした水溶液を反応溶液4としてもよい。固体混合物5は植物系材料と加水分解用触媒とを混合したものからなる。植物系材料は、粉砕機や製粉機などにより細分化および/または粉化された樹木や草本類からなり、セルロース、ヘミセルロース、リグニンを含む粉体または微小砕片である。加水分解用触媒は、上述した湿式混合法または金属アルコキシドを用いたゾルゲル法により調製された固体酸化物担体に硫酸根またはリン酸根を担持させたものである。
【0049】
反応容器3の上部開口には冷却器2の下部が差し込まれ、加熱された反応容器3の内容物4,5から揮発する溶媒蒸気など気化物が冷却器3で冷却・凝縮され、その凝縮液が反応容器3内に戻されることにより反応溶液4の濃度が実質的に変わらないようにしている。この場合に、冷却器2内で冷却されて凝縮した液体が反応容器3の内部に戻されやすくするために、冷却器2の下端部が漏斗状に形成されている。
【0050】
図2に示す加水分解反応装置1Aは、上記の冷却器2を備えた反応容器3の代わりに小型リアクタ9を有している。小型リアクタ9は、円筒状の形状を有し、内部に反応溶液(純水)、植物系材料、加水分解用触媒および磁気撹拌子(図示せず)が収容されている。反応容器3の下半部はオイルバス7内の油71中に浸漬され、内容物である反応溶液と植物系材料と触媒とが所望の温度に加熱されるようになっている。温度計8の検出端81がオイルバス7内の油71中に浸漬され、油71の温度が測定され、温度測定信号が図示しない制御器に送られるようになっている。
【0051】
上述した装置1または1Aを用いて、温度を20℃〜150℃、反応時間を2時間から24時間、容器内圧力を1MPa以下とする条件で、各触媒試料について加水分解評価試験を行った。
【0052】
加水分解評価試験終了後、溶媒部分と固体部分に分離する。このとき、遠心分離機あるいは吸引ろ過により分離する。
【0053】
分離後の固体部分は、100〜120℃の温度で2〜10時間ゆっくりと乾燥させる。
【0054】
乾燥後、重量測定により反応前後の重量を比較する。比較により、植物系材料の転化率を算出する。転化率IR(%)は下式(1)により求めた。
【0055】
IR={(W1−W2)/W2}×100 …(1)
但し、W1は反応前の試料の重量、W2は反応後の試料の重量をそれぞれ示す。
【0056】
分離後の溶媒部分は、エバポレーターを用いて濃縮させる。
【0057】
溶媒部分は、液体クロマトグラフ装置(HPLC)等により成分を分析した。
【0058】
次に、実施例の触媒A1,B1,C1,D1,E1,A2,B2,C2,D2,E2について詳しく説明する。
【0059】
(実施例1,6)
硝酸ジルコニル水和物をエタノール中に分散させ、完全に溶解するまで撹拌した。その後、硝酸ジルコニル/エタノール溶媒に硝酸ジルコニルに対して6倍のモル量となるように水をゆっくりと加え、撹拌させた。15分間撹拌した後、0.05 mol/Lの硫酸水溶液をゆっくりと少量加え、80 ℃で撹拌させた。その後、溶媒がゲル化し、湿潤ゲルが得られたら50 ℃の乾燥機内で完全に固化するまで静置し、調製した。
【0060】
これらの試料について、ボールミルで12時間粉砕処理し、窒素雰囲気下300 ℃で3時間焼成した後、1.0 mol/Lの硫酸水溶液中にそれぞれ分散させ、8時間撹拌した。このとき撹拌は80 ℃に保ちながら窒素雰囲気中で処理を行った。その後、純水で3回洗浄し、吸引ろ過により固体を回収した。その後、乾燥機にて110℃で5時間ゆっくりと乾燥させた。その後、空気中で500 ℃、4時間熱処理を行った。このようなゾルゲル法により所望の酸化ジルコニウム担体が得られた。
【0061】
上述したゾルゲル法により調製した酸化ジルコニウム担体に硫酸根を担持させて実施例1の触媒A1を作製した。同様のゾルゲル法により調製した酸化ジルコニウム担体にリン酸根を担持させて実施例6の触媒A2を作製した。
【0062】
(実施例2,3,4,7,8,9)
酸化アルミニウム担体、ナトリウム-Y型ゼオライト担体、および酸化シリコン担体は和光純薬(株)製の試料をそれぞれ用いた。入手したこれらの担体試料に硫酸根またはリン酸根をそれぞれ担持させ、酸化アルミニウム担体に硫酸根を担持させた実施例2の触媒B1、ナトリウム-Y型ゼオライト担体に硫酸根を担持させた実施例3の触媒C1、酸化シリコン担体に硫酸根を担持させた実施例4の触媒D1、酸化アルミニウム担体にリン酸根を担持させた実施例7の触媒B2、ナトリウム-Y型ゼオライト担体にリン酸根を担持させた実施例8の触媒C2、酸化シリコン担体に硫酸根を担持させた実施例9の触媒D2をそれぞれ作製した。
【0063】
(実施例5,10)
酸化チタン担体は石原産業(株)製の試料を用いた。入手した担体試料に硫酸根またはリン酸根をそれぞれ担持させ、酸化チタン担体に硫酸根を担持させた実施例5の触媒E1、酸化チタン担体にリン酸根を担持させた実施例10の触媒E2をそれぞれ作製した。
【0064】
(比較例1,2)
比較例では、上記の固体酸化物に代えて、日本エンバイロケミカル製の活性炭を担体に用いた。この活性炭担体に上記と同様にして硫酸根またはリン酸根を担持させ、比較例の触媒試料を調製した。すなわち、活性炭担体に硫酸根を担持させた比較例1の触媒F1と、同様の活性炭担体にリン酸根を担持させた比較例2の触媒F2とをそれぞれ作製した。
【0065】
上記実施例1〜10の触媒A1,B1,C1,D1,E1,A2,B2,C2,D2,E2または比較例1,2の触媒F1,F2と植物系材料であるセルロースとを重量比12:1で混合し、装置1の反応容器3または装置1Aの小型リアクタ9のなかに入れ、これに純水を加えた。加水分解試験の反応条件として、温度を100℃または150℃とし、12時間反応させた。
【0066】
加水分解反応装置1または1Aを用いる触媒の評価試験において、反応試験後のセルロース転化率を用いて実施例1〜10の触媒および比較例1,2の触媒をそれぞれ評価した結果を図3と図4にそれぞれ示した。
【0067】
図3中において符号A11,B11,C11,D11,E11,F11は触媒A1,B1,C1,D1,E1,F1をそれぞれ用いて反応温度100℃でセルロースを加水分解したときの転化率の結果を、符号A12,B12,C12,D12,E12,F12は触媒A1,B1,C1,D1,E1,F1をそれぞれ用いて反応温度150℃でセルロースを加水分解したときの転化率の結果をそれぞれ示す。150℃で反応させた場合、容器内部の圧力は0.6MPaとした。
【0068】
また、図4中において符号A21,B21,C21,D21,E21,F21は触媒A2,B2,C2,D2,E2,F2をそれぞれ用いて反応温度100℃でセルロースを加水分解したときの転化率の結果を、符号A22,B22,C22,D22,E22,F22は触媒A2,B2,C2,D2,E2,F2をそれぞれ用いて反応温度150℃でセルロースを加水分解したときの転化率の結果をそれぞれ示す。150℃で反応させた場合、容器内部の圧力は0.6MPaとした。
【0069】
図3と図4から明らかなように、セルロース転化率は、すべて反応温度が高いほうが高い値となった。また、リン酸根を担持した触媒A2,B2,C2,D2,E2,F2のほうが硫酸根を担持した触媒A1,B1,C1,D1,E1,F1よりも総じて転化率が高くなった。とくに実施例6の触媒A2では80%を大きく上回るセルロース転化率となることが確認された。
【0070】
これに対して、比較例1の触媒F1では20〜30%程度の低い転化率となり、比較例2の触媒F2では10〜15%程度とさらに低い転化率となることが確認された。
【0071】
図5に加水分解試験後における各触媒の硫酸根またはリン酸根からなる酸量の減少率を調べた結果をそれぞれ示した。これらは反応前後の酸量をアンモニア昇温脱離法により測定し、反応前後における酸量の減少量から減少率を求めた。その結果、硫酸根を担持した触媒A1,B1,C1,D1,E1(実施例1〜5)よりもリン酸根を担持した触媒A2,B2,C2,D2,E2(実施例6〜10)のほうが酸量の減少率が低く、触媒の安定性が高いことがわかった。実施例1〜10の触媒A1,B1,C1,D1,E1, A2,B2,C2,D2,E2はすべて酸量の減少率が20%を下回る結果となった。一方、比較例1,2の触媒F1,F2はともに酸量の減少率が20%を大きく上回った。
【0072】
図6に単糖及び低分子の多糖類を生成させるための反応器10を示す。反応器10は、触媒16とセルロース17の混合物18を撹拌・混合するための撹拌フィン11を備えている。
【0073】
触媒16と植物系材料であるセルロース17を反応器10に入れ、さらに純水を加えた。撹拌フィン11を高速で回転させることにより、反応溶液18中で触媒16とセルロース17とを十分に撹拌・混合し、単糖及び低分子の多糖類を生成させた。撹拌後、固体と液体部分を分離し、液体部分については液体高速クロマトグラフ(HPLC)を用いて分析した。その結果を図7と図8に示した。
【0074】
図7に硫酸根を担持した触媒A1,B1,C1,D1,E1,F1を用いたセルロースの加水分解後における糖類の収率(%)を示した。図8にリン酸根を担持した触媒A2,B2,C2,D2,E2,F2を用いたセルロースの加水分解後における糖類の収率(%)を示した。
【0075】
これらの結果から、比較例1,2の触媒F1,F2と比べて実施例の触媒A1,B1,C1,D1,E1, A2,B2,C2,D2,E2はすべて高い糖類の収率を示すことが確認された。単糖についてはグルコース、多糖類についてはオリゴ糖類やグルカンが検出された。
【0076】
以上説明したように、本発明によれば固体酸化物を化学的に修飾した触媒は植物系材料に高い加水分解効果を発揮し、糖生成を可能とする。
【0077】
ここに記載した実施形態の触媒は、水中で植物系材料と本発明に係る触媒を150℃以下という低温で反応させることにより、植物系材料を効果的に加水分解することができる。
【0078】
また、実施形態の触媒は、反応後においても触媒表面の酸点が失われにくく、繰り返し触媒を使用しても寿命が大きく劣化することがない。このため、低コスト、低エネルギーで植物系材料を分解させることができる。
【0079】
さらに、実施形態の触媒は、水中で植物系材料と本発明に係る触媒の反応により得られた分解物は単糖あるいは低分子からなる多糖を生成させることができる。この触媒の製造方法は金属アルコキシドを用いることにより低温で合成することができ、微細な細孔を有する。さらに、得られた分解物は単糖あるいは低分子からなる多糖であり、高い選択性を示す。
【符号の説明】
【0080】
1,1A…加水分解反応装置、2…冷却器、3…反応容器、
4…反応溶液(純水または有機溶媒)、
5…固体混合物(植物系材料と触媒の混合物)、
6…磁気撹拌子、7…オイルバス、8…温度計、9…小型リアクタ、
10…反応器(リアクタ)、11…撹拌羽根、
16…触媒、17…植物系材料(セルロースなど)、
18…反応溶液。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物系材料の加水分解反応に用いられる触媒であって、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、ゼオライト、酸化シリコンおよび酸化チタンからなる群より選択される1種または2種以上を含む固体酸化物担体に硫酸根またはリン酸根が担持されていることを特徴とする植物系材料の加水分解用触媒。
【請求項2】
前記植物系材料がセルロース、ヘミセルロース、またはリグニンを含むことを特徴とする請求項1記載の触媒。
【請求項3】
前記植物系材料の加水分解反応後において、前記硫酸根またはリン酸根からなる酸量の減少率が20%以下であることを特徴とする請求項1記載の触媒。
【請求項4】
前記植物系材料の加水分解反応を150℃以下の温度で進行させることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の触媒。
【請求項5】
(a)酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、ゼオライト、酸化シリコンおよび酸化チタンからなる群より選択される1種または2種以上を含む固体酸化物担体に硫酸根またはリン酸根が担持された触媒を準備するとともに、植物系材料を準備し、
(b)前記植物系材料と前記触媒をそれぞれ反応溶液中に添加し、前記反応溶液を撹拌して前記植物系材料と前記触媒を混合するとともに、前記担持された硫酸根またはリン酸根の存在により表面が固体酸性を示し、これにより反応物にプロトンを供与し、
(c)前記反応溶液を加熱して、前記触媒の存在下で前記植物系材料を加水分解反応させ、糖類を得ることを特徴とする糖類の製造方法。
【請求項6】
前記(c)工程における前記植物系材料の加水分解反応後の前記触媒は、前記硫酸根またはリン酸根からなる酸量の減少率が20%以下であることを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記(c)工程において前記反応溶液を150℃以下の温度に加熱することを特徴とする請求項5または6記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−6142(P2013−6142A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139762(P2011−139762)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】