説明

植物育成培地

【課題】植物を安定的に生産することを可能にする、水分コントロールが容易な植物育成培地を提供することを目的とする。
【解決手段】基材として湾曲面を物理的成分とする素材と、有機素材及び/又は無機素材とを含有する植物育成培地。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生産性の高い植物育成培地及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土耕栽培では、土壌病害や連作障害等があることから、土壌から隔離した隔離ベッド栽培やロックウール栽培等の固形培地耕が導入されている。
【0003】
固形培地耕に使用される固形培地は、有機培地と無機培地に大別される。有機培地としてはヤシ殻解砕物、ピートモス、バーグ等が挙げられ、一方、無機培地としてはロックウール、礫、火山礫、焼成多孔体等が挙げられる。
【0004】
ところで、従来の地床栽培においては、一般的に水と栄養は別々に供給するものの、水と栄養の摂取は同時に起こる。植物は、土壌溶液から栄養を、蒸散していく水の流れから取り込むので、水と栄養の供給は同時に検討すべきである。よって、植物の健全な生育を得るためには、必要な時に適正な質と量の養液を供給しなければならない。
【0005】
このようなことから、固形培地耕において液肥混入機を使用して、点滴灌水する養液栽培システムには、液肥混入機、電磁弁、タイマー、水量計、水分センサー等を設備し、目標とする生育、収量及び品質を得るために給液管理による生育制御が行われている。
【0006】
近年、トマトの栽培において容量が1L〜6L前後のポットで根域を独立させて栽培する独立ポット耕栽培が注目されている。独立ポット耕栽培には、ピートモスやヤシ殻解砕物又はそれらの混合物や粘土を造粒した後に1000℃以上の高温で焼成した多孔体等が利用されている。この独立ポット耕栽培は、固形培地耕において液肥混入機を使用して点滴灌水する養液栽培であり、根域を制限した少量培地耕であることから生育のコントロールが容易で草勢のコントロールも容易である。このことが栽植密度を高密度化でき得る要因となっている。なお、従来の地床栽培は2,000株〜2,500株/10aで2作/年であるが、3段密植栽培は6,250株/10a、あるいは1段密植栽培は8,000株〜10,000株/10aで4〜5作/年を栽培することが可能であることが報告されている。
【0007】
このようなことから、苗が従来の10倍と大量に必要になるために、安い種子や生産性の高い植物育成培地が求められている。ここでいう植物育成培地とは、播種に用いる培地を含む、植物を育成せしめるための培地をいう。
【0008】
ところで、従来において、植物育成培地の開発がなされている。
特許文献1は、pF2.0以下の有効水分量が適度に少なく、且つpF2.0〜3.2の有効水分量が多い水分保持特性を有する培地を、周辺土壌から隔離された状態とし、そこに栽培しようとする植物を植え付け、水又は液肥を供給して栽培することを含む、養液栽培による植物栽培方法を開示する。なお、pFとは水分が土壌に吸引されている強さをその吸引圧に相当する水柱の高さの対数で表したものである。特許文献1においては、使用する培地として、粒径0.1mm以下の粒子が5容量%以上50容量%以下の浄水場発生土を含む培地、また浄水場発生土、バーグ堆肥及びピートモスから成る培地が挙げられている。
【0009】
また、特許文献2は、嵩比重が軽く、保水性に優れ、且つ軽資材との分散性に優れ、育苗培土に好適な団粒構造ゼオライト、並びに当該団粒構造ゼオライトとピートモス等の軽資材とを含む育苗培土を開示する。
【0010】
さらに、特許文献3は、持続的な撥水防止効果があり、保存性に優れ、且つ超軽量の培土資材として、ピートモス等の撥水性有機資材にゼオライト等の粘土鉱物の粉状物、加熱により不溶化する水溶性高分子材料から成るバインダー及び水を加え、混合し、水分10重量%以下となるまで品温70℃以上150℃以下の温度で加熱乾燥させることで製造した高吸水性軽量培土を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003-92924号公報
【特許文献2】特開2000-336356号公報
【特許文献3】特開2005-341898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
固形培地耕に使用される固形培地は固相、気相及び液相の三相を有し、植物の栽培には通気と保水のバランスが取れた三相分布が最適である。なお、独立ポット耕栽培に主として使用されているヤシ殻解砕物の三相の一例としては、固相6%、気相28%及び液相66%が挙げられる。
【0013】
「トマトの独立ポット耕栽培システムの開発」(安田雅晴・越川兼行・勝山直樹, 岐阜県農業技術センター研究報告, 2009年, Vol. 9, pp. 11-16)は、独立ポット耕栽培にヤシ殻解砕物を使用するに当っては不織布以外を使用したポットは、排水が悪いため使用しないことを記載する。すなわち、ヤシ殻解砕物は気相率が少なく、通気性の改良が必要とされることが示唆されている。更には、ポット側面の周囲に苔の発生や養液の結晶がみられ不織布の通気性を阻害している。
【0014】
一方、硬質な多孔体培地を装入し液肥混入機を使用して点滴灌水する栽培方法について、特許文献1は、比較的糖度の高いトマトやメロン等を安定的に生産することは難しく、植物にとって極めて強い水分ストレスが与えられ、収量が大幅に減少することを記載する(段落番号「0007」及び「0008」)。さらに、「トマト養液栽培用培地としての土壌焼成多孔体の利用」(大石直記・小杉敏己・斉藤和夫, 静岡県農業試験場研究報告第42号(1997))は、粒径2mmの多孔体では保水率が高いため給液量をかなり減少させないと茎径等の生育を抑えることが困難であることを記載する。
【0015】
そこで、本発明は、上述した実情に鑑み、植物を安定的に生産することを可能にする、水分のコントロールが容易な植物育成培地を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、湾曲面を物理的成分とする素材を基材として、当該素材の凹に有機素材及び/又は無機素材を充填した加工物が通気性及び保水性の双方に優れ、水分のコントロールが容易な植物育成培地であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
本発明は、以下を包含する。
(1)基材として湾曲面を物理的成分とする素材と、有機素材及び/又は無機素材とを含有する植物育成培地。
【0018】
(2)有機素材及び/又は無機素材が湾曲面を物理的成分とする素材の凹に充填されていることを特徴とする、(1)記載の植物育成培地。
【0019】
(3)湾曲面を物理的成分とする素材がモミガラ又はソバガラである、(1)又は(2)記載の植物育成培地。
【0020】
(4)有機素材及び/又は無機素材が、有機物又はその粉砕物、粘土鉱物又はその粉状物及び鉱物又はその粉状物から成る群より選択される1種又は2種以上の混合物である、(1)〜(3)のいずれか1記載の植物育成培地。
【0021】
(5)有機物又はその粉砕物が、ピートモス又はヤシ殻解砕物である、(4)記載の植物育成培地。
【0022】
(6)粘土鉱物が、ゼオライト、ベントナイト及びカオリナイトから成る群より選択される、(4)記載の植物育成培地。
(7)さらに肥料を含有する、(1)〜(6)のいずれか1記載の植物育成培地。
【0023】
(8)湾曲面を物理的成分とする素材と有機素材及び/又は無機素材とを水の存在下で混合する工程と、前記混合物にバインダーを添加し、添着造粒成形加熱乾燥に供する工程とを含む、植物育成培地の製造方法。
【0024】
(9)有機素材及び/又は無機素材が湾曲面を物理的成分とする素材の凹に充填されることを特徴とする、(8)記載の方法。
【0025】
(10)湾曲面を物理的成分とする素材がモミガラ又はソバガラである、(8)又は(9)記載の方法。
【0026】
(11)有機素材及び/又は無機素材が、有機物又はその粉砕物、粘土鉱物又はその粉状物及び鉱物又はその粉状物から成る群より選択される1種又は2種以上の混合物である、(8)〜(10)のいずれか1記載の方法。
【0027】
(12)有機物又はその粉砕物が、ピートモス又はヤシ殻解砕物である、(11)記載の方法。
【0028】
(13)粘土鉱物が、ゼオライト、ベントナイト及びカオリナイトから成る群より選択される、(11)記載の方法。
【0029】
(14)前記混合工程において、肥料を添加することを含む、(8)〜(13)のいずれか1記載の方法。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、通気と保水のバランスが良く、水分のコントロールが容易な植物育成培地が提供される。本発明に係る植物育成培地は、水分のコントロールが容易であることに加え、分散性が良く、崩壊が少なく、病原菌の心配がなく、農業分野において有効な培地である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】単粒構造の模式図である。
【図2】団粒構造の模式図である。
【図3】本発明に係る植物育成培地の一例を示す模式図である。
【図4】実施例2及び3の本発明に係る植物育成培地のpF測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を詳細に説明する。
従来において、植物育成培地の素材として有機質系素材、非有機質素材又はこれらの混合素材が利用されてきた。例えば、有機質系素材としては、ピートモス、ヤシ殻解砕物、バーグ等が挙げられる。非有機質素材としては、ゼオライト、ベントナイト、カオリナイト等の粘土鉱物、赤土、黒土、マサ土、水田土壌、畑土壌等の一般土壌等が挙げられる。いずれにおいても、植物の生育には通気と保水のバランスが取れた培地が最適であり、上記素材を植物の生育に好ましい組み合わせの構成にしなくてはならない。また、土は単粒構造といわれる小さな土の粒子と、大小様々な土の塊から成る団粒構造に分けられる。単粒構造と団粒構造の模式図を、それぞれ図1及び図2に示す。
【0033】
土に充分に水をあたえてから、1〜2日後重力水(重力流去水)が自然に排出された状態の土が保持している水の量を圃場容水量と呼び、この水エネルギーは張力でpF1.6〜2.0の範囲である。重力水が排水され、重力水が入っていた孔隙が気相となり通気を容易にするものである。また、このpF1.6〜2.0の水分域は植物が最も養水分吸収を行いやすく、このことから養水分を過剰に吸収し、草勢のコントロールが困難となる。そこで、pF2.0〜2.2以上の水分域が必要となる。また、pF3.2〜3.3が植物の生長阻害点であることから、pF2.0〜2.2以下の水分量が少なく、pF2.0〜2.2以上からpF3.2〜3.3までの易有効水分が多い植物育成培地が求められる。
【0034】
図1及び図2から理解されるように、pF2.0以上の毛管水は団粒内に貯えられ、団粒間は重力水(すなわち、非毛管水)として空気で満たされた孔隙になる。単粒構造は、粒と粒の隙間が小さくなって水や空気が通りにくくなる。一方、団粒構造は団粒同士の比較的大きな隙間では通気性を保ち、内部構造は単粒同士のために保水性が高い。すなわち、団粒構造の土は、通気と保水のバランスが取れた理想的な植物の培地となる条件を備えている。このことが、古くから土の理想と言われてきた理由である。
【0035】
上述したように、良好な植物育成培地の第一条件は、作物の生育に欠かせない充分な水と酸素を絶え間なく根に与えることである。つまり、孔隙を通じて絶え間なく水と酸素を根に供給することである。換言すれば、植物育成培地は、通気と保水のバランスが取れていなければならない。この第一条件の他、植物育成培地に求められる条件に、分散性が良いこと、崩壊が少ないこと、病原菌の心配がないこと等が挙げられる。
【0036】
これらのことを植物育成培地に求められる条件として、新たな培地を検索するために従来から利用されてきた素材を構造単位として、肉眼的な判断で以下の4つの構造に大別する。
【0037】
(1)単粒構造:ゼオライト、ベントナイト、カオリナイト、赤土、黒土、マサ土、水田土壌、畑土壌等
(2)多孔構造(塊状):焼成多孔体、レキ、火山レキ
(3)板状構造:バーグ、バーミキュライト
(4)棒状(糸状)構造:ピートモス、ヤシ殻解砕物
次に、上記(1)〜(4)の素材を下記のように考察する。
【0038】
(1)の単粒構造については、上述したように、粒と粒の隙間が小さくなって水や空気が通りにくくなる。その対策として、大小の異なる径の粒子を混合するも、分散性が悪くなる。
【0039】
(2)の多孔構造については、特許文献1に述べられているように、比較的糖度の高いトマトやメロン等を安定的に生産することは難しく、植物にとって極めて強い水分ストレスが与えられ、収量が大幅に減少するとされている。
【0040】
(3)板状構造については、バーグは、樹皮の種類、堆積期間等により品質に差があるので注意する必要があることが知られている。バーミキュライトは、保肥力、保水力ともに大きく、通気性もよく、軽いので培地用素材として多く用いられているが、構造が崩壊されやすいことが知られている。構造が崩壊すれば、上記特性は発現しない。
【0041】
(4)棒状(糸状)構造については、ヤシ殻解砕物は、気相率が少なく通気性の改良を必要とされることが示唆されている。ピートモスは、ヤシ殻解砕物よりもさらに保水性は高く通気性に乏しいことが知られている。このような負の原因は、力学的強度に乏しいことから形状が変化しやすく湿乾によって体積が膨張したり収縮することにある。つまり、素材そのものの物性が持つ吸水性と素材の組み合わせによって成る孔隙が保水性となる。植物育成培地は、素材が固相を形成し、二次的に気相及び液相が形成されることから、力学的強度に乏しいために形状が変化し、吸水で体積の膨張があれば、気相率は保障されない。
【0042】
(1)〜(4)の素材の特性について考察の結果、単一素材では、長所はあるも欠点もあることから、特許文献1に開示されるように、浄水場発生土、バーグ堆肥、ピートモス等の紛粒混合タイプが利用されている。しかしながら、例えば有機素材と粘土鉱物を混合する行程において嵩比重の差や粒径の差に起因する分散性の低下が原因となり、植物個体の生育にバラつきが生じる。つまり、均質な生産性の高い植物育成培地の条件に合致しない。
【0043】
以上のことから単一素材の問題点を考慮するも、紛粒混合タイプの植物育成培地は、本発明の目的である植物を安定的に生産することを可能にする、水分のコントロールが容易な植物育成培地の条件に合致しない。
【0044】
そこで、本発明は、植物を安定的に生産することを可能にする、水分のコントロールが容易な植物育成培地を提供することを目的とし、鋭意研究した結果、湾曲面を物理的成分とする素材を基材として、当該素材の凹に有機素材及び/又は無機素材を充填した加工物が通気性及び保水性の双方に優れ、水分のコントロールが容易な植物育成培地であることを見出した。
【0045】
本発明に係る植物育成培地は、基材として湾曲面を物理的成分とする素材と、有機素材及び/又は無機素材とを含有し、有機素材及び/又は無機素材が湾曲面を物理的成分とする素材の凹に充填されているものである。本発明に係る植物育成培地は、基材が湾曲面を有することで、粒子間に孔隙が存在し、通気性と保水性とを両立させた構造を有する。また、基材が湾曲面を有し、当該基材の凹内部に有機素材及び/又は無機素材が充填されていることで、本発明に係る植物育成培地の粒子の構造の崩壊が軽減される。さらに、本発明に係る植物育成培地の粒子は、嵩比重及び粒径の差が少ないことから、分散性に優れている。
【0046】
ここで、湾曲面を物理的成分とする素材とは、湾曲面を有し、凹部(入り込んだ部分)を有する素材を意味する。湾曲面を物理的成分とする素材としては、例えばプラスチック等の合成素材、モミガラ(例えばイネやムギのモミガラ)、ソバガラ等の天然素材等が挙げられるが、モミガラ及びソバガラが好ましい。
【0047】
モミガラは、C/N比(炭素/窒素比)が70程度と比較的高く腐りにくい資材である。モミガラをそのまま利用すると、窒素飢餓となり、またアブシジン酸やモミラクトーンフェノール等の発芽抑制物質を含有しているため、発芽不良や立ち枯れの原因となる。従って、モミガラをそのまま培地として利用することができない。そこで、モミガラは、水洗い、発酵、炭化や灰化により、発芽抑制物質を洗浄や分解させた後、栽培関連で利用されている。さらに、モミガラは、排水性が過度に優れているが、保水性や保肥力に劣ることから、粘土鉱物や他の有機物と混合するも、比重が異なるために分散性に欠ける。このことから、混合割合は限定され、多量に利用することができない。
【0048】
しかしながら、湾曲面を物理的成分とするモミガラは力学的強度が高く、さらに断片であっても、湾状あるいは舟形で形状変化が極めて少ない。この特性は培地の気相率の変化の軽減要素になり得る。
【0049】
本発明者は、従来において水洗い、発酵、炭化や灰化工程を経てモミガラを利用していたが、これら工程はモミガラの力学的強度を弱くし、気相率の変化の要因となっていた。従って、これら工程を省いて、モミガラを利用することに着目した。
【0050】
一方、有機素材としては、有機物又はその粉砕物等が挙げられ、特にピートモス及びヤシ殻解砕物が好ましい。
【0051】
無機素材としては、粘土鉱物又はその粉状物、鉱物又はその粉状物等が挙げられる。粘土鉱物又はその粉状物としては、例えばゼオライト、ベントナイト、カオリナイト及びそれらの粉状物等が挙げられる。鉱物又はその粉状物としては、例えば火成岩、堆積岩、変成岩、一般土壌等が挙げられる。
【0052】
有機素材と無機素材は、単独で使用してもよく、あるいは2種以上の混合物を使用することもできる。例えば、ピートモス又はヤシ殻解砕物とゼオライトの混合物を、有機素材と無機素材との混合物として使用することができる。
【0053】
本発明に係る植物育成培地は、肥料(例えば、窒素、リン酸、カリウム等の肥料成分)や植物病原菌に抵抗性を有する微生物やその成育に有効に作用する成分を含有してもよい。
【0054】
本発明に係る植物育成培地は、湾曲面を物理的成分とする素材と有機素材及び/又は無機素材とを水の存在下で混合する工程と、得られた混合物にバインダーを添加し、添着造粒成形加熱乾燥に供する工程を含む方法(以下、「本方法」と称する)により製造することができる。
【0055】
先ず、本方法では、湾曲面を物理的成分とする素材と有機素材及び/又は無機素材とを水の存在下で混合する。湾曲面を物理的成分とする素材と、有機素材及び/又は無機素材との混合割合は、所望の通気性、保水性、排水性及び嵩比重を得るために、適宜決定することができる。湾曲面を物理的成分とする素材としてモミガラを使用し、且つ有機素材及び/又は無機素材としてピートモスと粉状ゼオライトとの混合物を使用した場合には、例えばモミガラとピートモスを体積比で1:1、モミガラとピートモスの混合物に対して粉状ゼオライトを10容量%(vol%)、並びにモミガラ、ピートモス及び粉状ゼオライトの混合物(全量)に対して水を20vol%として、モミガラ、ピートモス及び粉状ゼオライトを水の存在下で混合する。混合は、例えばコンクリートミキサーによって行うことができ、湾曲面を物理的成分とする素材の凹に有機素材及び/又は無機素材が十分に充填される(入れ込まれる)ように、例えば常温で10分程度行われる。なお、肥料等の追加成分を含有させる場合には、当該混合工程において湾曲面を物理的成分とする素材と有機素材及び/又は無機素材との混合物に追加成分を添加し、混合を行うことが好ましい。
【0056】
次いで、本方法では、湾曲面を物理的成分とする素材と有機素材及び/又は無機素材との混合物にバインダーを添加し、添着造粒成形加熱乾燥に供する。使用するバインダーとしては、加熱により不溶化する水溶性高分子材料である公知の結合材が挙げられ、例えばポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、デンプン等が挙げられる。湾曲面を物理的成分とする素材と有機素材及び/又は無機素材との混合物に対してバインダーは、例えば当該混合物500Lに対して3〜5kgの量で添加する。また、ここで、添着造粒成形加熱乾燥とは、各素材を混合する行程と造粒成形及び乾燥行程を意味する。すなわち、添着造粒成形加熱乾燥工程では、各素材を混合すると共に造粒成形及び乾燥が行われる。添着造粒成形加熱乾燥は、例えば品温を70〜150℃(好ましくは100〜120℃)とし、水分10重量%(wt%)になるまでロータリーキルン、造粒機等で行うことができる。
【0057】
このようにして、本方法により本発明に係る植物育成培地を製造することができる。本方法では、添着造粒成形加熱乾燥において水分10wt%未満まで乾燥することで、本発明に係る植物育成培地による肥料成分や微生物の分解や変質が少なく、また本発明に係る植物育成培地の保存性を高くすることができる。
【0058】
また、本発明に係る植物育成培地に肥料等の追加成分を適宜添加して使用することもできる。
【0059】
さらに、本発明に係る植物育成培地は、pF0〜2.0付近の過度な重力水域が減少し、pF2.2〜3.3域の易有効水分が増え、通気と保水のバランスが取れた植物育成培地であり、固形培地耕、独立ポット耕栽培等の養液栽培における培地として有効である。また、本発明に係る植物育成培地においては、基材が湾曲面を有し、当該基材の凹内部に有機素材及び/又は無機素材が充填されていることで、干渉が少なく、その構造体の崩壊が軽減される。従って、搬送等において崩壊することなく、ユーザーは本発明に係る植物育成培地を入手することができ、また使用期間において構造を一定に保ち、培地としての性能を維持することができる。さらに、本発明に係る植物育成培地の粒子は、嵩比重及び粒径の差が少ないことから分散性に優れている。
【実施例】
【0060】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0061】
〔実施例1〕本発明に係る植物育成培地の製造
モミガラ250Lにピートモス250L及び粉状ゼオライト20kgを水100Lの存在下において、コンクリートミキサーを用いて常温で10分間混合した。次いで、ポリビニルアルコール3kgを加え更に混合し、ロータリーキルンを用いて品温120℃で水分10wt%になるまで添着造粒成形加熱乾燥を行うことで、モミガラの凹にピートモス及び粉状ゼオライトの混合物が入り込んだ加工物(「本発明に係る植物育成培地」に相当する)を製造した。
このようにして製造した本発明に係る植物育成培地の模式図を図3に示す。
【0062】
〔実施例2及び3〕本発明に係る植物育成培地のpF測定評価
モミガラにヤシ殻解砕物及び粉状ゼオライトを水の存在下で混合し、ポリビニルアルコールを加え更に混合し、添着造粒成形加熱乾燥に供することで、モミガラの凹にヤシ殻解砕物及び粉状ゼオライトの混合物が入り込んだ加工物(「本発明に係る植物育成培地」に相当する)を製造した。実施例2ではモミガラとヤシ殻解砕物を体積比で2:1、実施例3ではモミガラとヤシ殻解砕物を体積比1:1として合計500Lとし、モミガラとヤシ殻解砕物、及び粉状ゼオライト20kgを水100Lの存在下において、コンクリートミキサーを用いて常温で10分間混合した。また、これら混合物に対するポリビニルアルコールの添加量は3kgであった。さらに、添着造粒成形加熱乾燥は、ロータリーキルンを用いて品温120℃で水分10wt%になるまで行った。
【0063】
得られた本発明に係る植物育成培地のpF0〜3.3を加圧式で、且つpF3.3〜7.0を遠心法(大起理化製作所製)で測定した。
【0064】
添着造粒成形加熱乾燥された本発明に係る植物育成培地のpF測定結果を表1及び図4に示す。なお、モミガラ及びモミガラ粉砕物のpF測定結果も表1及び図4に示す。図4においては、pF値の違いによる体積含水率(%v/v)を示す。図4において縦軸が体積含水率(%v/v)であり、横軸がpF値である。なお、図4において、矢印の箇所は、モミガラ及びモミガラ粉砕物の易有効水分を示す。また、表1は、基材とするモミガラ及びモミガラ粉砕物並びに実施例2及び3の本発明に係る植物育成培地の示される各pF測定値範囲における水分量(vol%)を表す。
【0065】
【表1】

【0066】
表1及び図4から理解されるように、モミガラのpF0〜2.2の水分量の割合は87%であり、pF2.2〜3.3の水分量の割合は1%であった。モミガラの粉砕物のpF0〜2.2の水分量の割合は83%であり、pF2.2〜3.3の水分量の割合は3%であった。モミガラ及びモミガラ粉砕物は、共に排水性が過度に優れ、保水性に劣ることが分かった。
【0067】
一方、実施例2及び3の本発明に係る植物育成培地は、共にモミガラにヤシ殻解砕物及び粉状ゼオライトを水の存在下で混合し、バインダー(ポリビニルアルコール)を加え更に混合し、添着造粒成形加熱乾燥に供することで、モミガラの凹にヤシ殻解砕物及び粉状ゼオライトの混合物が入り込んだ加工物であり、所望の排水性、保水性及び嵩比重を得るために、ヤシ殻解砕物の混合割合を変えて製造したものである。実施例2の本発明に係る植物育成培地のpF0〜2.2の水分量の割合は58%であり、pF2.2〜3.3の水分量の割合は13%であった。一方、実施例3の本発明に係る植物育成培地のpF0〜2.2の水分量の割合は52%であり、pF2.2〜3.3の水分量の割合は24%であった。
【0068】
このように、実施例2及び3の本発明に係る植物育成培地は、共にpF0〜2.0付近の過度な重力水域が減少し、pF2.2〜3.3域の易有効水分が増え、明らかに通気と保水のバランスが取れた植物育成培地に求められる条件に改善されていた。また、粒径及び単位構造が安定均一なモミガラを基材に利用することで、添着造粒成形加熱乾燥された加工物も粒径及び単位構造が容易に安定均一化することで分散性の良い植物育成培地となった。さらには、基材となるモミガラが湾状であり、モミガラの凹内部にヤシ殻解砕物及び粉状ゼオライトが入り込んでいることから、添着造粒成形加熱乾燥された粒子は干渉が少なく、崩壊が少なかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材として湾曲面を物理的成分とする素材と、有機素材及び/又は無機素材とを含有する植物育成培地。
【請求項2】
有機素材及び/又は無機素材が湾曲面を物理的成分とする素材の凹に充填されていることを特徴とする、請求項1記載の植物育成培地。
【請求項3】
湾曲面を物理的成分とする素材がモミガラ又はソバガラである、請求項1又は2記載の植物育成培地。
【請求項4】
有機素材及び/又は無機素材が、有機物又はその粉砕物、粘土鉱物又はその粉状物及び鉱物又はその粉状物から成る群より選択される1種又は2種以上の混合物である、請求項1〜3のいずれか1項記載の植物育成培地。
【請求項5】
有機物又はその粉砕物が、ピートモス又はヤシ殻解砕物である、請求項4記載の植物育成培地。
【請求項6】
粘土鉱物が、ゼオライト、ベントナイト及びカオリナイトから成る群より選択される、請求項4記載の植物育成培地。
【請求項7】
さらに肥料を含有する、請求項1〜6のいずれか1項記載の植物育成培地。
【請求項8】
湾曲面を物理的成分とする素材と有機素材及び/又は無機素材とを水の存在下で混合する工程と、
前記混合物にバインダーを添加し、添着造粒成形加熱乾燥に供する工程と、
を含む、植物育成培地の製造方法。
【請求項9】
有機素材及び/又は無機素材が湾曲面を物理的成分とする素材の凹に充填されることを特徴とする、請求項8記載の方法。
【請求項10】
湾曲面を物理的成分とする素材がモミガラ又はソバガラである、請求項8又は9記載の方法。
【請求項11】
有機素材及び/又は無機素材が、有機物又はその粉砕物、粘土鉱物又はその粉状物及び鉱物又はその粉状物から成る群より選択される1種又は2種以上の混合物である、請求項8〜10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
有機物又はその粉砕物が、ピートモス又はヤシ殻解砕物である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
粘土鉱物が、ゼオライト、ベントナイト及びカオリナイトから成る群より選択される、請求項11記載の方法。
【請求項14】
前記混合工程において、肥料を添加することを含む、請求項8〜13のいずれか1項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−27365(P2013−27365A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−166640(P2011−166640)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(592025340)
【Fターム(参考)】