説明

植物育成用光源

【課題】赤色光、緑色光及び青色光の3色の光を同時に発光し、多種の植物の成長を促進する植物育成用光源を提供する。
【解決手段】赤色光、緑色光及び青色光を同時に発光する植物育成用光源であって、61種類の植物の光合成作用曲線の平均値として求めた平均光合成作用曲線Pに適合し、前記赤色光、緑色光及び青色光のエネルギー比を、当該エネルギー比の順で、青色光:緑色光:赤色光=24±4:32±4:44±4とした植物育成用光源。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の成長を促進する植物育成用光源に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、異常気象の影響により、気象の影響を受けずに植物の安定生産及び供給を目的とした植物工場が増えてきている。また、その土地の気候では栽培できない植物も植物工場では栽培できることも、植物工場が増えてきている1つの要因になっている。
植物工場では、温度、湿度、日射量などの自然生育条件を、エアコン、加除湿器、ランプなどを利用して人工的に作り出し、その条件で植物生産を行うことにより、露地栽培と変わらない品質の植物を栽培、周年安定供給可能している。
【0003】
しかしながら、上記自然育成条件を人工的に作り出すことは、エアコンなどの機械設備投資が必要となり、また機械を使用する上でランニングコストがかかることから、植物工場での植物、特に野菜類は、スーパーなどにならぶ露地植物よりも値段が高くなっているのが現状である。
そこで現在、植物工場ではコストをおさえるため、生産日数すべてに、生産植物にあわせた人工条件を作り出し、その人工条件下で生産することにより、生産日数を早め収穫回数を増しコストアップを抑えてきた。自然条件のように日々変わる天気とは違い、無駄を無くしたことで、レタスなどの野菜類は30日で出荷できるようになってきている。
【0004】
このように、より早い植物生産、より無駄のない植物生産は、植物工場を経営する上で重要であるため、ランニングコストのかからない省エネ機械の研究や、生産日数を縮めるうえで、植物成長の研究が盛んに行なわれている。
植物成長を考えるうえで、植物には、成長に大きく影響を及ぼす光合成作用というものがある。光合成は二酸化炭素、水、光を必要とし、光合成作用に最も合う光源を選定することが最適な光合成につながり、つまり、最短日数での生産(植物の最適な成長)につながる。
【0005】
近年では、赤色光、緑色光及び青色光の3色の光をバランス良く植物に照射することが植物の光合成の点から有効であることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平3−49530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、赤色光、緑色光及び青色光の3色の光を同時に発光し、多種の植物の成長を促進する植物育成用光源を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、赤色光、緑色光及び青色光を同時に発光する植物育成用光源であって、61種類の植物の光合成作用曲線の平均値として求めた平均光合成作用曲線に適合し、前記赤色光、緑色光及び青色光のエネルギー比を、当該エネルギー比の順で、青色光:緑色光:赤色光=24±4:32±4:44±4としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、61種類の植物の光合成作用曲線の平均値として求めた平均光合成作用曲線に適合し、赤色光、緑色光及び青色光のエネルギー比を、当該エネルギー比の順で、青色光:緑色光:赤色光=24±4:32±4:44±4としたため、植物61種以外の植物の育成に対しても有効な光合成作用曲線に適合するので、多種の植物の成長を促進する植物育成用光源が実現可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係るメタルハライドランプの構成を示す図。
【図2】平均光合成作用曲線を示す図。
【図3】添加物の構成を示す図。
【図4】本実施形態のメタルハライドランプの分光エネルギー分布を示す図。
【図5】植物育成試験の結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係るメタルハライドランプ1の構成を示す図である。このメタルハライドランプ1は、植物に人工光を照射して植物の成長を促す植物育成用装置の光源に用いて好適な植物育成用のランプである。
この図に示すように、メタルハライドランプ1は、発光管3、外球5及びランプ口金7を有し、発光管3の内部には一対の電極が封着され、また、発光用の添加物が封入されている。
【0012】
さらに詳述すると、発光管3には、透光性アルミナ管よりなる管内径が10mm、全長が55mmのアルミナ製発光管が用いられている。発光管3の両端部には、アルミナタングステンからなる導電性サーメットキャップが電極として封止材により封止されており、さらに、この発光管3には、始動用希ガスとしてアルゴン、ヨウ化リチウム、ヨウ化タリウムなどの添加物が所定量ずつ封入されている。
上記発光管3は、外球5及びランプ口金7により封じられており、外球5の内部空間9は真空に保たれている。
【0013】
一般に、波長400nm〜700nmの光(「光合成有効放射」と呼ばれる)が、植物の光合成のエネルギー源として有効であることが知られており、また、光合成有効放射の波長の光は、光合成のエネルギー源となるため強い光強度である必要がある。これに対して、本実施形態ではメタルハライドランプ1を植物育成用の光源として使用することで、高強度の光を植物に照射可能にしている。
【0014】
また、植物は、光合成有効放射の各波長に対して同じ効率で光合成を行っているのではなく、光合成作用曲線と呼ばれる感度曲線に則した効率で光合成を行っていることが、McCree(1972)やInada(1976)によって求められ、「The action spectrum, absorbance and quantum yield of photosynthesis in crop plants. Agric. Meteorol., 9, 191-216.」や「Action spectra for photosynthesis in higher plants. Plant & Cell Physiol., 17, 355-36」の文献に示されている。
【0015】
ここで、McCree(1972)とInada(1976)によって、草本類や木本類等の61種類の植物の各々の光合成作用曲線が示されているものの、任意の植物の育成に使用するには、どのような光合成作用曲線が最適であるかが示されていなかった。そのため、育成対象の植物に最適な光合成作用曲線をその都度実験等により求める必要があり、また、ある植物の光合成作用曲線に合わせて設計した光源を、他の植物の育成に使用した場合、必ずしも効果的な育成が達成できるとは限らなかった。
【0016】
そこで、本件発明者らは、実験等を行うことで、McCree(1972)とInada(1976)によって示されている、植物61種類の植物の光合成作用曲線の平均値として求めた光合成作用曲線(以下、「平均光合成作用曲線」と言う)に適合した光源が、上記植物61種以外の植物の育成に対しても有効であることを求めた。
【0017】
図2は、平均光合成作用曲線を示す図である。
この図に示すように、平均光合成作用曲線Pにおいては、波長400〜500nmの光(以下「青色光」と言う)、波長500〜600nm(以下「緑色光」と言う)、及び、波長600〜700nmの光(以下「赤色光」と言う)の夫々のエネルギーの比(相対値)が、
青色光:緑色光:赤色光=24:32:44
となり、このようなエネルギー比の光源を植物に照射することで、植物を効率良く育成することができる。
このとき、平均光合成作用曲線Pにおけるエネルギー比は、一般的な従来のメタルハライドランプのエネルギー比(例えば一般照明用では15:37:48、看板照明用では15:28:55)とは異なり、従来のメタルハライドランプをそのまま植物育成に用いたとしても、効率の良い育成は達成できない。
【0018】
また、従来のメタルハライドランプを植物育成用とするには、青色光のエネルギーを高める必要がある。しかしながら、平均光合成作用曲線Pにおいて最もエネルギー比の低い青色光を調整して、この平均光合成作用曲線Pのエネルギー比を実現することは困難である、という問題がある。
さらに、従来のメタルハライドランプにおいては、ヨウ化ジスプロシウム(DyI3)やヨウ化カルシウム(CaI)といった、波長400〜500nmの範囲に強い発光スペクトルを有する複数種類のハロゲン化金属を同時に添加物として用いて青色光を出しており、これらの添加物の量を調整して、青色光のエネルギーを調整することは非常に困難である、という問題もある。
【0019】
そこで本実施形態では、発光管3に封入する添加物に、波長600〜700nmに強い発光スペクトルを有するヨウ化リチウム(LiI)と、波長500〜600nmに強い発光スペクトルを有するヨウ化タリウム(TlI)とを含めた構成としている。
図3は、本実施形態のメタルハライドランプ1の発光管3に封入した添加物の種類と、それらの封入mol比の一例を示す図である。この図に示すように、本実施形態では、主として青色光を発光するハロゲン化金属であるDyI3−HoI3−NaI(2:2:1)及びCaIに加え、赤色光を発光するハロゲン化金属であるLiIと、緑色光を発光するハロゲン化金属であるTlIとを添加物として用いることで、青色光、緑色光及び赤色光の3色の光を同時に発光する構成としている。
そして、赤色光及び緑色光を夫々LiI及びTlIにより作り出す構成としているため、発光色と物質との対応が1対1の関係となり、これらLiI及びTlIの各々の量を調整することで赤色光及び緑色光のエネルギーを簡単に調整することが可能になる。
さらに、平均光合成作用曲線Pにおいて相対的にエネルギー比が高い赤色光及び緑色光のエネルギーを調整するため、比較的容易に平均光合成作用曲線Pのエネルギー比を実現することができる。
【0020】
本実施形態では、発光管3に封入する添加物の総量に対するLiIの含有量をmol比30〜50%(図示例では34.6%)とし、また、TlIの含有量をmol比5%以下(図示例では2.8%)としている。
このような成分比率の添加物を発光管3に封入して構成したメタルハライドランプ1の分光エネルギー分布を測定した結果を図4に示す。この図から求められる青色光、緑色光及び赤色光のエネルギー比は、青色光:緑色光:赤色光=22:30:48であり、平均光合成作用曲線Pに近似した比率の光源が実現されていることが示されている。
【0021】
ここで、ヨウ化リチウムを添加物として使用した場合、発光管の材質が一般的な石英であると、時間の経過に伴って、リチウムイオンが石英を透過し、リチウム発光が短時間で消滅したり発光特性が変化して、青色光、緑色光及び赤色光のエネルギー比が平均光合成作用曲線Pのエネルギー比から離れてしまい、効果的な植物育成ができなくなる。
そこで、本実施形態では、発光管3の材質に、アルミナを使用することで、ヨウ化リチウムの透過を防止することとしている。これにより、平均光合成作用曲線Pに近似した青色光、緑色光及び赤色光のエネルギー比を長期に亘り維持可能な、経時変化に対して優れた耐久性を有するメタルハライドランプ1が実現される。
そして、上記の構成のメタルハライドランプ1を植物育成に用いることで、長期に亘り効果的な育成が可能になる。
【0022】
図5は、本実施形態のメタルハライドランプ1を用いた育成試験結果を示す。
この育成試験においては、人工気象器の中で30日間に亘り9株のチリメンチシャを育成した。そして、株ごとに生体重、乾燥重、葉枚数などを測定し、9株の測定結果を平均値化した数値を図5に示している。
また、本実施形態のメタルハライドランプ1との比較用として、一般照明用のセラミックメタルハライドランプを試験に用いた。この試験に用いたメタルハライドランプ1、及び、セラミックメタルハライドランプは共に150W(ワット)点灯のランプであり、一般照明用のセラミックメタルハライドランプの分光エネルギー分布は青色光:緑色光:赤色光=15:37:48である。
そして、図5の結果に示されるように、一般照明用のセラミックメタルハライドランプよりも本実施形態のメタルハライドランプ1の方が生体重、乾体重とも重く、また、全ての測定値において増加がみられ、チリメンチシャの生育が良好である結果が得られた。
【0023】
このように、本実施形態によれば、透光性アルミナ製の発光管3を有し、この発光管3に封入する添加物に、赤色光を発光するヨウ化リチウム、緑色光を発光するヨウ化タリウム、及び、青色光を発光する物質を含む構成としたため、これらヨウ化リチウム及びヨウ化タリウムの封入量により赤色光、緑色光及び青色光のエネルギー比を簡単に調整することができる。
さらに、アルミナ製の発光管3を用いることで、ヨウ化リチウムの透過を防止し、青色光、緑色光及び赤色光のエネルギー比を長期に亘り維持可能な、経時変化に対して優れた耐久性を有するメタルハライドランプ1が実現される。
また、3色の光を同時に所定のエネルギー比でバランス良く発光可能であるため、これら3色の光のエネルギー比を調整するために複数のランプを用いる必要がなく、植物育成用のランプにかかるコストを抑えることができる。
【0024】
また、本実施形態によれば、赤色光、緑色光及び青色光のエネルギー比を、青色光:緑色光:赤色光=約24:約32:約44とする構成としたため、多種の植物に対して効率の良い育成を可能にするメタルハライドランプ1が提供される。
このような、エネルギー比は、ヨウ化リチウムの含有量を添加物に対してmol比30〜50%とし、ヨウ化タリウムの含有量を添加物に対してmol比5%以下とすることで容易に実現することができる。
【0025】
なお、上述した実施の形態は、あくまでも本発明の一態様を示すものであり、本発明の範囲内で任意に変形および応用が可能である。
例えば、上述した実施形態において、赤色光、緑色光及び青色光のエネルギー比は、青色光:緑色光:赤色光=約24:約32:約44が理想的であるが、この比から例えば4%程度増減した間の範囲であれば、多種の植物に対して、十分に効率の良い育成が可能である。
【符号の説明】
【0026】
1 メタルハライドランプ
3 発光管
5 外球
7 ランプ口金
P 平均光合成作用曲線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤色光、緑色光及び青色光を同時に発光する植物育成用光源であって、
61種類の植物の光合成作用曲線の平均値として求めた平均光合成作用曲線に適合し、
前記赤色光、緑色光及び青色光のエネルギー比を、当該エネルギー比の順で、
青色光:緑色光:赤色光=24±4:32±4:44±4
としたことを特徴とする植物育成用光源。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−59348(P2013−59348A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−275696(P2012−275696)
【出願日】平成24年12月18日(2012.12.18)
【分割の表示】特願2007−253284(P2007−253284)の分割
【原出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、経済産業省、「植物機能を活用した高度モノ作り基盤技術開発/植物利用高付加価値物質製造基盤技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000000192)岩崎電気株式会社 (533)
【Fターム(参考)】