説明

植物苗の病害虫防除設備

【課題】既設の農業用ハウスを利用して、一度に大量の処理が要求され且つ草丈の低いイチゴ苗に特に好適な、化学合成農薬に頼らない、そして温湯を使用しない、病害虫防除設備を提案する。
【解決手段】農業用ハウス(1)内に設定された病害虫防除エリア(6)の長手方向の一端に、前記病害虫防除エリア(1)内に向かって水平に加熱空気を送出するファン・ヒーターユニット(7A,7B)が設置され、このファン・ヒーターユニット(7A,7B)の少なくとも加熱空気送出側に水を噴霧する加湿手段(14)が配設され、前記病害虫防除エリア(6)内を当該エリア(6)の長手方向水平に流動した水蒸気を前記ファン・ヒーターユニット(7A,7B)の吸気側に戻す水蒸気戻し用流路(8)が併設された構成。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イチゴ等の植物の育苗期間中の病害虫防除のための設備に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食の安全・安心志向の高まる中、病害虫防除における化学合成農薬の使用量の削減は避けて通れない課題となっている。以下、イチゴを例にとって説明すると、イチゴの作期は長く病虫害も数多い。安定生産のためには農薬による防除が欠かせないが、化学農薬に耐性のついた病害虫が多く、有効な薬剤が減少しているため、薬剤に頼らない防除法の開発が望まれている。イチゴのような促成作型においては、無病害虫苗の定植により、本圃施設内へのハダニ、アブラムシ、うどんこ病等の病害虫の持ち込みを減少させることが出来、さらに生物農薬の効果を安定させられることが明らかとなっている。そのため、苗の無病害虫化は本圃での減農薬達成には重要な手段であるが、現状では育苗期間中の病害虫防除は化学農薬に頼っており、上述のように薬剤耐性のため、防除困難になりつつある。そこで化学農薬に替わる植物苗の病害虫防除法として、50℃前後の温湯にポット苗を浸漬し、ハダニやうどんこ病菌などの表在性微小害虫や病原菌を防除する方法や、株の中心部に寄生するシクラメンホコリダニの防除方法として、55℃±2℃の温湯を株のクラウン部へ灌注処理する方法など、温湯を利用する病害虫防除方法が検討されている。しかしながら、これら従来周知の温湯利用の方法では、実用上種々の問題点があり、これらの問題点を解消するために本発明者らは、非特許文献1で示すように、適温の加熱水蒸気流を使用する新規な病害虫防除方法を提案した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】特願2010−62116
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
即ち、従来の温湯利用の処理方法では、イチゴ苗のように一度に大量の苗を処理する必要がある場合、大型水槽が必要となる、1株ごとの処理になる場合には多大な労力が必要となる、大量の水を加熱する際に莫大なエネルギーが必要となる、定植後の圃場に大量の温湯を散布する場合には湿害の発生が懸念される、作業効率が悪い、などの種々の問題点があった。このような問題点を解消するために、本発明者らは、非特許文献1で示すように、植物苗を囲む処理空間内に、所要温度に調整した加熱水蒸気流を、前記植物苗の上側を水平に流動するように生成させ、当該加熱水蒸気流中に前記植物苗を、熱傷害を受けない範囲内の時間だけ曝しておくことを特徴とする植物苗の病害虫防除方法を提案したのであるが、当該処理方法を実施するのに好適で実用的な設備についての提案が十分になされていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記のような新規な植物苗の病害虫防除方法を実施するのに好適で実用的な設備を提案するものであって、請求項1に記載の本発明に係る植物苗の病害虫防除設備は、後述する実施例との関係を理解し易くするために、当該実施例の説明において使用した参照符号を括弧付きで付して示すと、植物育成用ハウスや短日処理用暗黒ハウスなどの農業用ハウス(1)内に設定された病害虫防除エリア(6)の長手方向の一端に、前記病害虫防除エリア(1)内に向かって水平に加熱空気を送出するファン・ヒーターユニット(7A,7B)が設置され、このファン・ヒーターユニット(7A,7B)の少なくとも加熱空気送出側に水を噴霧する加湿手段(14)が配設され、前記病害虫防除エリア(6)内を当該エリア(6)の長手方向水平に流動した水蒸気を前記ファン・ヒーターユニット(7A,7B)の吸気側に戻す水蒸気戻し用流路(8)が併設された構成となっている。
【0006】
上記本発明を実施する場合、具体的には請求項2に記載のように、農業用ハウス(1)内の前記病害虫防除エリア(6)は、少なくともその長手方向の一端を、前記農業用ハウス(1)内を長手方向の中間位置で分割する仕切り手段(4)によって仕切ることにより形成することが出来る。又、請求項3に記載のように、前記病害虫防除エリア(6)は、農業用ハウス(1)内の前記病害虫防除エリア(6)とハウス天井との間に水平に張設された仕切りシート(5)の下側に形成することが出来る。
【0007】
前記水蒸気戻し用流路(8)は、前記農業用ハウス(1)の外側でダクトなどにより形成することも可能であり、又、送風機などを併用して構成することが出来るが、請求項4に記載のように、前記水蒸気戻し用流路(8)は、ファン・ヒーターユニット(7A,7B)の送出側と吸気側との差圧のみを利用する構成として、農業用ハウス(1)内で前記病害虫防除エリア(6)の外側に配設することが出来る。この場合、請求項5に記載のように、前記水蒸気戻し用流路(8)は、農業用ハウス(1)内の前記病害虫防除エリア(6)とハウス天井部との間に水平に張設された上下2段の仕切りシート(5,27)の間に形成された水平流路(19)を有する構成とするか又は、請求項6に記載のように、農業用ハウス(1)内の前記病害虫防除エリア(6)とハウス両側壁部(2a,2b)との間に当該ハウス側壁部(2a,2b)に沿って設置され且つその長さ方向適当間隔おきに排気口(25)を備えた左右一対のダクト(23a,23b)を備えた構成とすることが出来る。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に記載の本発明の構成によれば、農業用ハウス内に設定された病害虫防除エリアに露地植えされている植物苗や農業用ハウス内に直置き又は棚利用で載置された育苗容器に植え込まれている植物苗に対して、ファン・ヒーターユニットと加湿手段とを稼働させて生成した適温の加熱水蒸気流を所要時間だけ曝すことにより、所期通りの病害虫防除処理が行えるのであるが、この病害虫防除処理のための処理空間として、植物育成用ハウスや短日処理用暗黒ハウスなど各種の農業用ハウスをそのまま利用することが出来、専用の処理室を設置する場合と比較して、設備コストの大幅な低減が可能になる。又、設置された専用の処理室に対して植物苗が植え込まれた育苗容器を可動棚などで搬入出する手間が無くなり、ファン・ヒーターユニットと加湿手段の能力を高めさえすれば、農業用ハウス内に設定する病害虫防除エリアを大面積にするか又は、農業用ハウス内の全域を病害虫防除エリアに設定して、大量の植物苗に対する病害虫防除処理も可能である。しかも、病害虫防除エリアに対して送給した蒸気を適温適湿の加熱水蒸気に調整して循環利用するのであるから、ランニングコストも抑制出来る。
【0009】
尚、大量の植物苗を育成又は管理する既設の農業用ハウスは、その長さが長大な大型のものが多いが、このような大型の既設農業用ハウスを利用する場合、請求項2に記載の構成によれば、当該既設農業用ハウスの全長に関係なく、その長手方向の一定領域だけを簡単に蒸熱処理室として利用することが出来る。又、利用する既設農業用ハウスの天井高が高い場合、請求項3に記載の構成によれば、蒸熱処理対象の病害虫防除エリアの高さを低く抑えることが出来る。このように請求項2や3に記載の構成によれば、併用するファン・ヒーターユニットや加湿手段の能力を比較的小さくして設備コストを下げることが出来ると共に、蒸熱処理対象の病害虫防除エリアの長さや高さを絞ることにより、ムラの無い良好な蒸熱処理が容易に行える。
【0010】
又、請求項4に記載の構成によれば、病害虫防除エリアに対して送給した蒸気を循環利用するための水蒸気戻し用流路中に電動ファンを介装する場合と比較して、設備コストを下げることが出来ると共に、当該水蒸気戻し用流路を農業用ハウスの外に配設する場合と比較して、農業用ハウスの壁部に開口部を設ける必要がなくなるだけでなく、水蒸気戻し用流路を流通する使用済み蒸気の温度低下を抑制し、再加熱のエネルギーを少なくしてランニングコストも下げることが出来る。
【0011】
上記のように水蒸気戻し用流路を農業用ハウス内に設けることによる効果は大きいが、この場合、請求項5に記載の構成によれば、シートの張設だけで水蒸気戻し用流路の大部分を簡単に構成することが出来るので、設備コストを一層下げることが出来る。しかも、水蒸気戻し用流路が蒸熱処理対象の病害虫防除エリアの上側を覆う断熱層として機能するので、ムラの無い蒸熱処理の実現とランニングコストの低減にも役立つ。勿論、利用する既設の農業用ハウスが特に横巾の大きなものである場合は、請求項6に記載の構成の採用により、水蒸気戻し用流路を簡単且つ確実に構成することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の第1実施例を示す縦断側面図である。
【図2】図2は、同上設備の横断平面図である。
【図3】図3は、同上設備の縦断正面図である。
【図4】図4は、同上設備の縦断背面図である。
【図5】図5は、本発明の第2実施例を示す縦断側面図である。
【図6】図6は、同上設備の横断平面図である。
【図7】図7は、同上設備の縦断正面図である。
【図8】図8は、同上設備の縦断背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の第1実施例を図1〜図4に基づいて説明すると、1は植物育成用ハウスや短日処理用暗黒ハウスなどの汎用の農業用ハウスであって、透光性又は遮光性の合成樹脂製シートを縦断面かまぼこ形に張設して形成した周壁部2と、その長手方向の両端を透明又は半透明の合成樹脂製シートで塞いで形成した端壁部3とから成り、一般的には長手方向両端の端壁部3の少なくとも一方に出入り口が形成されている。この農業用ハウス1内には、一端の端壁部3と、ハウス長手方向の中間適当位置に張設されて当該農業用ハウス1を長手方向に分割する仕切り手段4と、床面から一定高さに水平に張設された水平仕切りシート5と、当該農業用ハウス1の左右両側壁部2a,2bとで囲まれた病害虫防除エリア6が形成されている。前記仕切り手段4は、農業用ハウス1の周壁部2から垂下する合成樹脂製シートのカーテン4aによって形成することが出来るが、合板などの板材から構成することも出来る。
【0014】
病害虫防除対象の植物苗が植え込まれた多数の育苗容器Pは、前記病害虫防除エリア6内の床面上に載置されている。換言すれば、植物苗の育成のために農業用ハウス1内の床面全域に載置された育苗容器Pの内、前記病害虫防除エリア6内に位置するものが病害虫防除対象となっている。勿論、図示省略しているが、育苗容器Pを使用しないで、農業用ハウス1内の床面に形成された植え床に直接植え付けられて育成されている植物苗に対しても、前記病害虫防除エリア6内に位置するものを病害虫防除対象とすることが出来る。又、前記病害虫防除エリア6内の床面上に載置した棚の上に育苗容器Pを支持させても良い。
【0015】
上記病害虫防除エリア6内のハウス長手方向の一端部、図示例では農業用ハウス1の端壁部3に隣接する箇所には、ハウス巾方向に並列する2台のファン・ヒーターユニット7A,7Bが設置され、病害虫防除エリア6の上側には水蒸気戻し用流路8が設けられている。2台のファン・ヒーターユニット7A,7Bは、病害虫防除エリア6とほぼ同一高さの架台9の内側に取り付けられたもので、モーター10で駆動されるファン部11と、このファン部11の送気側に隣接するヒーター部12、及びファン部11からヒーター部12を経由して病害虫防除エリア6内に向かって送出される加熱空気を、病害虫防除エリア6内の中間高さ(植物苗より少し上側になる高さ)でハウス巾方向に扁平状に広げて水平に送出するための送気フード13から構成されている。ファン・ヒーターユニット7A,7Bの台数は、農業用ハウス1内に形成される病害虫防除エリア6の左右横巾と使用するファン・ヒーターユニットの能力に応じて決定すれば良く、3台又は3台以上でも良いし、場合によっては1台であっても良い。又、並列する複数のファン・ヒーターユニットを使用する場合、これら並列する複数のファン・ヒーターユニットを共通の1台の架台に取り付けることが出来る。
【0016】
各ファン・ヒーターユニット7A,7Bには、その送気フード13の上側前縁部において加湿手段14が取り付けられている。加湿手段14は、送水ポンプを含む送水ユニット15から圧送されてくる水を、エアーコンプレッサーを含む送気ユニット16から供給される圧力エアーを利用して病害虫防除エリア6内に向かって噴霧する複数の加湿ノズル17を、病害虫防除エリア6の巾方向適当間隔おきに並設したものである。
【0017】
前記水蒸気戻し用流路8は、病害虫防除エリア6の天井を形成する前記水平仕切りシート5と、当該水平仕切りシート5の上側に一定間隔を隔てて水平に張設された上側水平仕切りシート18との間に形成された水平流路19と、前記水平仕切りシート5の仕切り手段4の側の端縁と当該仕切り手段4との間に形成されて前記水平流路19の一端と病害虫防除エリア6の一端とを上下方向に連通させる開口部20と、各ファン・ヒーターユニット7A,7Bの架台9の上側に付設されて、前記水平流路19の他端と各ファン・ヒーターユニット7A,7Bのファン部11の吸気側空間(架台9の内側空間)とを連通させるエルボ型フード21から構成されている。
【0018】
尚、前記水平流路19のエルボ型フード21の開口部に連通する2箇所を除く端部は、例えば上側水平仕切りシート18の端部を垂下させるなどして塞いでも良いが、塞がなくとも、各ファン・ヒーターユニット7A,7Bの架台9を、エルボ型フード21が取り付けられている上側を除いて、その左右両側と背面が解放された枠組み構造とすることにより、前記水平流路19の端部を、エルボ型フード21を経由する流路と架台9の左右両側と背面を経由する流路とで各ファン・ヒーターユニット7A,7Bのファン部11の吸気側空間に連通させることが出来る。勿論、場合によっては、架台9の上側も開放しておくことにより、エルボ型フード21を設けないで水蒸気戻し用流路8を構成することも出来る。
【0019】
上記構成によれば、ファン・ヒーターユニット7A,7Bのファン部11をモーター10により稼働して、送気フード13から病害虫防除エリア6内に向かって水平に送出する気流を生成させる同時に、ファン・ヒーターユニット7A,7Bのヒーター部12を稼働させると共に、送水ユニット15及び送気ユニット16を稼働させて加湿手段14の各加湿ノズル17から水を噴霧させると、病害虫防除エリア6内を仕切り手段4の方に向かって流通した後、開口部20、水平流路19、及びエルボ型フード21から成る水蒸気戻し用流路8を経由してファン部11の吸気側に戻る循環流路を流通する加熱水蒸気流が生成される。従って、先の非特許文献1に記載のように、前記加熱水蒸気の循環流路中の適当箇所、例えば1つの架台9の内部空間に付設した温湿度センサーからの加熱水蒸気流の現在温湿度情報と、入力された時間設定情報などに基づいて、制御装置22により、ファン・ヒーターユニット7A,7Bのファン部11のモーター10やヒーター部12、そして加湿手段14を稼働させる送水ユニット15及び送気ユニット16の運転を自動制御することにより、病害虫防除エリア6内の育苗容器Pに植え付けられた処理対象の植物苗を所定の温度の加熱水蒸気流に所要時間だけ曝し、所期の病害虫防除処理を行うことが出来る。
【0020】
尚、1つの病害虫防除エリア6に対する病害虫防除処理が完了したならば、この病害虫防除処理のために農業用ハウス1内に設置した各部材、即ち、仕切り手段4、水平仕切りシート5、上側水平仕切りシート18、及びエルボ型フード21や温湿度センサーを備えた架台9と共にファン・ヒーターユニット7A,7Bを取り除くことにより、この病害虫防除エリア6を開放して農業用ハウス1内を通常の植物苗の育成空間として継続利用出来る。勿論、取り外した各部材は、他の農業用ハウス1内や、前記病害虫防除エリア6に対して仕切り手段4の反対側の農業用ハウス1内に設置して、次の病害虫防除エリア6を形成し、当該次の病害虫防除エリア6に対して上記のように病害虫防除処理を実行することが出来る。
【0021】
次に本発明の第2実施例を図5〜図8に基づいて説明すると、この第2実施例では、水蒸気戻し用流路8の前記水平流路19が、病害虫防除エリア6と農業用ハウス1の左右両側壁部2a,2bとの間に、ハウス長手方向に沿って配設された左右一対のダクト23a,23bによって構成されている。このダクト23a,23bは、ファン・ヒーターユニット7A,7Bのある側の端部が、ハウス巾方向に沿った接続用ダクト24a,24bによって、ファン・ヒーターユニット7A,7Bの吸気側に接続されている。前記ダクト23a,23bは、ファン・ヒーターユニット7A,7Bから遠ざかるほど内部空間が段階的に狭められた角筒状のものであって、その上側板部に、長さ方向適当間隔おきに排気口25が設けられている。勿論、ダクト23a,23bは円筒状のものであっても良く、その場合は、真上ではなく、斜め内向きに開口する排気口25を設けることが出来る。
【0022】
2台のファン・ヒーターユニット7A,7Bは、共通の1つの架台26の前側辺上部に並列状態で取り付けられ、この架台26の下半部の左右両側に前記接続用ダクト24a,24bが接続され、当該架台26の下半部の前後両側は閉じられ、当該架台26の上半部は、ファン・ヒーターユニット7A,7Bが取り付けられた前側を除く周囲が開放されている。又、2台のファン・ヒーターユニット7A,7Bは、加湿手段14を備えた共通の1つの巾広の送気フード13を備えている。病害虫防除エリア6は、前記架台26と仕切り手段4との間でファン・ヒーターユニット7A,7Bより少し上側のレベルに水平に張設された水平仕切りシート27の下側に形成されている。
【0023】
この第2実施例の設備では、ファン・ヒーターユニット7A,7Bと加湿手段14によって生成される適温の加熱水蒸気は、ファン・ヒーターユニット7A,7Bに共通の巾広の送気フード13から送出され、病害虫防除エリア6内を仕切り手段4のある側に向かって水平に流動すると共に、左右一対のダクト23a,23bの排気口25から吸引され、これらダクト23a,23b内及び接続用ダクト24a,24b内を経由して、共通の架台26の内側のファン・ヒーターユニット7A,7Bの吸気側に戻るように循環流動することになり、病害虫防除エリア6内の育苗容器Pに植え付けられた処理対象の植物苗を所定の温度の加熱水蒸気流に所要時間だけ曝し、所期の病害虫防除処理を行うことが出来る。
【0024】
又、この第2実施例においても、病害虫防除エリア6内の植物苗に対する病害虫防除処理が完了すれば、仕切り手段4や水平仕切りシート27を取り外し、左右一対のダクト23a,23bと接続用ダクト24a,24b、及びファン・ヒーターユニット7A,7Bと加湿手段14を架台26と共に搬出することにより、病害虫防除エリア6を開放して農業用ハウス1内を通常の植物苗の育成空間として継続利用出来る。勿論、取り外した各部材は、先の第1実施例と同様に転用することが出来る。尚、設備の解体及び設置が容易になるように、ダクト23a,23bを長さ方向複数に分割可能に構成し、これらダクト23a,23bと接続用ダクト24a,24bとを分離可能に構成すると共に、接続用ダクト24a,24bは架台26に対して着脱自在に構成するのが望ましい。
【0025】
尚、本発明装置では、ファン・ヒーターユニットの少なくとも加熱空気送出側に水を噴霧する加湿手段が必要であるが、この加湿手段は、水圧のみで水をノズルから噴霧するタイプのものであっても良い。更に、農業用ハウス1に水を噴霧して加湿する加湿手段が設けられているときは、この農業用ハウス1が備える加湿手段を、本発明装置に必要な加湿手段に利用することも出来る。勿論、本発明装置にも加湿手段を設けて、この本発明装置の加湿手段と農業用ハウス1が備える加湿手段の両方を稼働させて加湿を図ることも出来る。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の植物苗の病害虫防除設備は、既設の農業用ハウスをそのまま利用することが出来、しかも一度に大量の処理が要求され且つ草丈の低い植物苗、特にイチゴ苗の、化学合成農薬に頼らない、そして温湯を使用しない、病害虫防除のための設備として活用出来る。
【符号の説明】
【0027】
1 農業用ハウス
2 周壁部
3 端壁部
4 仕切り手段
4a カーテン
5,27 水平仕切りシート
6 病害虫防除エリア
7A,7B ファン・ヒーターユニット
8 水蒸気戻し用流路
9,26 架台
10 モーター
11 ファン部
12 ヒーター部
13 送気フード
14 加湿手段
15 送水ユニット
16 送気ユニット
17 加湿ノズル
18 上側水平仕切りシート
19 水平流路
20 開口部
21 エルボ型フード
22 制御装置
23a,23b ダクト
24a,24b 接続用ダクト
25 排気口
P 育苗容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
農業用ハウス内に設定された病害虫防除エリアの長手方向の一端に、前記病害虫防除エリアに向かって水平に加熱空気を送出するファン・ヒーターユニットが設置され、このファン・ヒーターユニットの少なくとも加熱空気送出側に水を噴霧する加湿手段が配設され、前記病害虫防除エリアを当該エリアの長手方向水平に流動した水蒸気を前記ファン・ヒーターユニットの吸気側に戻す水蒸気戻し用流路が併設されている、植物苗の病害虫防除設備。
【請求項2】
農業用ハウス内の前記病害虫防除エリアは、少なくともその長手方向の一端が、前記農業用ハウス内を長手方向の中間位置で分割する仕切り手段によって仕切られることにより形成されている、請求項1に記載の植物苗の病害虫防除設備。
【請求項3】
農業用ハウス内の前記病害虫防除エリアは、農業用ハウス内の前記病害虫防除エリアとハウス天井との間に水平に張設された仕切りシートの下側に形成されている、請求項1又は2に記載の植物苗の病害虫防除設備。
【請求項4】
前記水蒸気戻し用流路は、前記ファン・ヒーターユニットの送出側と吸気側との差圧のみを利用するもので、農業用ハウス内で前記病害虫防除エリアの外側に配設されている、請求項1又は2に記載の植物苗の病害虫防除設備。
【請求項5】
前記水蒸気戻し用流路は、農業用ハウス内の前記病害虫防除エリアとハウス天井部との間に水平に張設された上下2段の仕切りシートの間に形成された水平流路を有する、請求項4に記載の植物苗の病害虫防除設備。
【請求項6】
前記水蒸気戻し用流路は、農業用ハウス内の前記病害虫防除エリアとハウス両側壁部との間に当該ハウス側壁部に沿って設置され且つその長さ方向適当間隔おきに排気口を備えた左右一対のダクトを備えている、請求項4に記載の植物苗の病害虫防除設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−191854(P2012−191854A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56181(P2011−56181)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(311005943)株式会社FTH (3)
【Fターム(参考)】