説明

椎体再建用セメント注入具

【課題】椎弓根側から注入される骨セメントが椎体の側壁に存在している亀裂等から椎体外に漏出し難い方法で骨セメントを注入する。
【解決手段】椎弓根に形成された導入孔を介して椎体内に挿入される挿入管4と、該挿入管4を介して流動性の骨セメントを椎体内に供給するセメント供給部2とを備え、挿入管4の先端が閉塞されるとともに、該挿入管4の先端部に半径方向に開口する1以上の吐出口6が設けられている椎体再建用セメント注入具1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、椎体再建用セメント注入具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、椎体再建用の骨セメントの注入具としては、椎弓根に形成された導入孔を介して挿入される挿入管の先端から流動性の骨セメントを注入するものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
この注入具により骨セメントを注入するには、挿入管の先端に取り付けたバルーンを椎体内において膨らませて骨セメントの注入スペースを確保した後、バルーンを取り去って、確保された注入スペースに骨セメントを注入する方法や、バルーン内に骨セメントを注入して膨らませる方法がある。
【0003】
【特許文献1】特開2006−263184号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、圧壊した椎体は、特に、椎弓根とは反対側の側壁に亀裂や破損が存在するため、バルーンを取り去って骨セメントを注入する方法では、椎弓根側から注入した骨セメントが、その注入方向の前方に存在する亀裂等から椎体外に漏出し易いという不都合がある。また、バルーン内に骨セメントを注入して膨らませる方法では、そのような不都合が少ないが、破損させることなく最後まで骨セメントを注入することを可能とするバルーンの実現は困難であり、注入途中で破損した場合には、バルーンを取り去る場合と同様の不都合が発生する。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、椎弓根側から注入される骨セメントが椎体の側壁に存在している亀裂等から椎体外に漏出し難い方法で骨セメントを注入することができる椎体再建用セメント注入具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、椎弓根に形成された導入孔を介して椎体内に挿入される挿入管と、該挿入管を介して流動性の骨セメントを椎体内に供給するセメント供給部とを備え、前記挿入管の先端が閉塞されるとともに、該挿入管の先端部に半径方向に開口する1以上の吐出口が設けられている椎体再建用セメント注入具を提供する。
【0007】
本発明によれば、挿入管を椎弓根に形成された導入孔に挿入し、その先端を椎体内の空間に配置した状態で、セメント供給部を作動させることにより、骨セメントが挿入管を介して椎体内に供給される。挿入管の先端は閉塞されているので、供給されてきた骨セメントが、挿入管の長手方向の先端から長手方向に吐出されることがない。したがって、挿入管の長手方向の前方に存在している椎体の亀裂等に向けて直接骨セメントが吐出されることが防止され、亀裂を介した椎体外への骨セメントの漏出を抑制することができる。
【0008】
また、挿入管の先端部には、半径方向に1以上の吐出口が開口しているので、挿入管を介して供給されてきた骨セメントは、これらの吐出口を介して挿入管の半径方向に吐出される。挿入管の半径方向には圧壊した椎体の終板が近接しているので、挿入管の半径方向に骨セメントを吐出させることで、終板の間隔を広げる方向に圧力をかけることが可能となり、椎体の再建を容易にすることができる。
【0009】
上記発明においては、前記挿入管の先端が弾性材料からなるキャップにより閉塞されるとともに、前記吐出口が前記キャップに設けられていることとしてもよい。
このようにすることで、弾性材料からなるキャップは、挿入管内を供給されてきた骨セメントの圧力によって膨張させられ、椎体内に存在する海綿骨等を押し退けて、骨セメントを充填するスペースを形成する。また、弾性材料からなるキャップが骨セメントの圧力によって膨張させられると、キャップに設けられている吐出口が拡大し、骨セメントの吐出を容易にすることができる。これにより、キャップから半径方向外方に吐出された骨セメントによって椎体の終板を広げる方向に押圧し、椎体を整復することが可能となる。
【0010】
また、上記発明においては、前記吐出口が、前記キャップの周壁に軸方向に沿って形成されたスリットからなることとしてもよい。
このようにすることで、キャップが骨セメントの圧力によって変形すると、スリットからなる吐出口が開いて、キャップの半径方向外方に多量の骨セメントを吐出させることができる。
【0011】
また、上記発明においては、前記吐出口が、周方向に間隔をあけて複数設けられていることとしてもよい。
このようにすることで、キャップを変形し易くすることができ、吐出口を大きく開放して、多量の骨セメントを半径方向外方に吐出させることができる。
【0012】
また、上記発明においては、前記吐出口が、前記挿入管側に揺動端を有する片持ち梁状の弁体により開閉されることとしてもよい。
このようにすることで、セメント供給部から挿入管を介して供給されて来た骨セメントが、キャップの吐出口から吐出される際に、骨セメントの圧力によって弁体の揺動端を変位させ、吐出口を大きく開放することができる。弁体の揺動端は挿入管側に配置されているので、キャップの先端側に吐出されようとする骨セメントが堰き止められ、亀裂等の存在する方向への骨セメントの吐出を回避して、椎体外への漏出をより確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、椎弓根側から注入される骨セメントが椎体の側壁に存在している亀裂等から椎体外に漏出し難い方法で骨セメントを注入することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の一実施形態に係る椎体再建用セメント注入具1について、図1および図2を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る椎体再建用セメント注入具1は、図1に示されるように、アクリルセメント(PMMA)やリン酸カルシウム系セメント(CPC)のような流動性の骨セメントを収容して吐出可能なシリンジ状のセメント供給部2と、該セメント供給部2の吐出口3に接続された細長い挿入管4と、該挿入管4の先端に取り付けられたキャップ5とを備えている。
【0015】
セメント供給部2は、シリンダ2aに対してピストン2bを押し込むことにより、内部に収容されている骨セメントを吐出口3から押し出すことができるようになっている。
前記挿入管4は、椎弓根を貫通して形成される導入孔の口径よりも小さい外径寸法を有する細長い直管状の部材であって、その一端が前記セメント供給部2の吐出口3に接続されている。
【0016】
前記キャップ5は、例えば、シリコーンゴムにより構成され、一端を閉塞された円筒状部材であって、挿入管4の他端に取り付けられることにより、その開口部を閉塞している。
また、キャップ5には、その周壁に、周方向に間隔をあけて複数、例えば、4箇所に、長手方向に沿って形成されたスリットからなる吐出口6が設けられている。
【0017】
このように構成された本実施形態に係る椎体再建用セメント注入具1の作用について、以下に説明する。
本実施形態に係る椎体再建用セメント注入具1を用いて、圧壊した椎体の再建を行うには、まず、公知の方法により、椎弓根に導入孔を貫通形成し、椎体内の後壁を温存しながら髄腔に存在する海綿骨等を除去する。
【0018】
次いで、本実施形態に係る椎体再建用セメント注入具1の挿入管4を、導入孔を介して椎体内に挿入していく。これにより、挿入管4の先端に取り付けられているキャップ5が、髄腔内に配置される。
【0019】
この状態で、シリンダ2aに対してピストン2bを押し込むことにより、セメント供給部2内に収容されている骨セメントを吐出させる。セメント供給部2の吐出口3から吐出された骨セメントは、吐出口3に接続された挿入管4を介して導入孔内を髄腔に向けて導かれる。そして、挿入管4先端のキャップ5に到達すると、骨セメントはキャップ5によって堰き止められ、それ以上の挿入管4の長手方向に沿う移動を制限される。
【0020】
キャップ5は、シリコーンゴムのような弾性材料により構成されているので、堰き止められた骨セメントAの圧力が高まると、図2に示されるように、キャップ5が弾性変形して半径方向外方に膨らみ、スリットからなる吐出口6が広げられる。吐出口6は、周壁に周方向に間隔をあけて設けられているので、骨セメントAは図2に矢印Bで示されるように、半径方向外方に向かって吐出させられる。
【0021】
図2に矢印Cで示されるキャップ5の先端からさらに前方に向かう方向には、椎体に亀裂等が多く存在する領域が配置されている。本実施形態に係る椎体再建用セメント注入具によれば、矢印Cの方向に向けて挿入管4の先端から吐出された骨セメントAがキャップ5によって堰き止められるので、亀裂等が多く存在する領域に向けて直接吐出されることが防止される。その結果、勢いよく吐出された骨セメントAが椎体の亀裂等から椎体外部に漏出する不都合の発生を防止することができる。
【0022】
また、図2に矢印Bで示される方向には、椎体が圧壊することにより近接してしまった上下の終板が存在しているので、その方向に向けて骨セメントAを吐出させることにより、加圧された骨セメントAによって終板を椎体の髄腔内から押圧して整復することができる。この場合において、キャップ5を弾性変形可能な材質により構成することにより、骨セメントAの圧力によりキャップ5を弾性変形させて吐出口を広げ、骨セメントAを少ない流動抵抗でスムーズに吐出させることができる。
【0023】
なお、本実施形態においては、直線的なスリット状の吐出口6を有する場合を例示して説明したが、これに代えて、図3(a)に示されるように、キャップ5に設けた略U字状の切り込み7により、挿入管4側に揺動端8aを有する片持ち梁状の弁体8を有する吐出口6を構成することにしてもよい。
この場合には、弁体8の基端側において弾性変形し、他の部分においては弾性変形しない材質のキャップ5を採用することが好ましい。
【0024】
このようにすることで、キャップ5内の骨セメントAの圧力が高まると、図3(b)に示されるように、弁体8が弾性変形させられて吐出口6が開かれ、骨セメントAがキャップ5の半径方向外方に向けて吐出されることになる。この場合に、弁体8は挿入管4側の揺動端8aを揺動させることにより吐出口6を開くので、吐出口6はキャップ5の後端側から開かれる。
【0025】
したがって、骨セメントAは、キャップ5によって一旦堰き止められたものが、開かれた吐出口6から吐出されるので、矢印B′に示されるように、半径方向外方の斜め後方に向けて吐出される。これにより、矢印Cの方向、すなわち、亀裂等が多く存在する領域のある方向への骨セメントAの吐出をさらに効果的に抑制して、椎体外への骨セメントAの漏出を防止することができる。
【0026】
また、このように構成することによっても、骨セメントAの圧力によって、吐出口6が開かれるので、骨セメントAを吐出する際の流動抵抗が低減され、スムーズに吐出することができるという利点がある。
【0027】
また、本実施形態においては、キャップ5がシリコーンゴムのような弾性材料により構成されていることとした。シリコーンゴムは生体親和性を有するので好ましいが、これに限定されるものではなく、生体親和性および弾性を有する他の樹脂材料等を採用してもよいことは言うまでもない。
また、弾性変形することなく大きさの変化しない吐出口6を有するキャップ5を備えるものを採用してもよい。また、キャップ5と挿入管4とが一体的に構成されていてもよい。
また、吐出口6を周方向に間隔をあけて4箇所設けることとしたが、これに限定されることなく、他の任意の数の吐出口6を設けることとしたもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態に係る椎体再建用セメント注入具を示す斜視図である。
【図2】図1の椎体再建用セメント注入具の先端からの骨セメントの吐出の様子を示す部分的な斜視図である。
【図3】図1の椎体再建用セメント注入具の変形例を示す部分的な斜視図であり、(a)吐出口が閉じられた状態、(b)吐出口が開かれた状態をそれぞれ示す図である。
【符号の説明】
【0029】
A 骨セメント
1 椎体再建用セメント注入具
2 セメント供給部
4 挿入管
5 キャップ
6 吐出口
8 弁体
8a 揺動端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
椎弓根に形成された導入孔を介して椎体内に挿入される挿入管と、
該挿入管を介して流動性の骨セメントを椎体内に供給するセメント供給部とを備え、
前記挿入管の先端が閉塞されるとともに、該挿入管の先端部に半径方向に開口する1以上の吐出口が設けられている椎体再建用セメント注入具。
【請求項2】
前記挿入管の先端が弾性材料からなるキャップにより閉塞されるとともに、前記吐出口が前記キャップに設けられている請求項1に記載の椎体再建用セメント注入具。
【請求項3】
前記吐出口が、前記キャップの周壁に軸方向に沿って形成されたスリットからなる請求項2に記載の椎体再建用セメント注入具。
【請求項4】
前記吐出口が、周方向に間隔をあけて複数設けられている請求項3に記載の椎体再建用セメント注入具。
【請求項5】
前記吐出口が、前記挿入管側に揺動端を有する片持ち梁状の弁体により開閉される請求項2から請求項4のいずれかに記載の椎体再建用セメント注入具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−284300(P2008−284300A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−134613(P2007−134613)
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【出願人】(304050912)オリンパステルモバイオマテリアル株式会社 (99)
【Fターム(参考)】