説明

椎間ケージ

【課題】 身体の斜め後方から挿入し、その状態のままで正常なLordosisが確保できる椎間ケージであり、手術時間の短縮や傷跡の小ささを確保して患者にとって優しい低侵襲手術を可能にする椎間ケージを提供する。
【解決手段】 後彎している腰椎の損傷した椎間板に代えて斜め後方から挿入してその状態のままで留置しておく椎間ケージにおいて、後彎程度に応じて本体部の上面及び下面を挿入方向後端側を先端側よりも漸低する傾斜面にするとともに、表面に挿入状態のときに左右方向に向延する突条を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脊椎における損傷した椎間板に代えて椎体間に挿入される椎間ケージに関するものである。
【背景技術】
【0002】
椎間板ヘルニア、分離すべり症、変性すべり症、椎間板症等によって椎間板が変形若しくは損傷すると、上下に隣接する椎体間の間隔が短くなり、椎体から抜け出ている神経根を圧迫してこの神経根が届いている該当部位の疼痛やしびれ或いは麻痺といった神経障害を起こす。このような場合、当該椎間板の損傷した全部又は一部を摘出して樹脂、金属、セラミックス、カーボン、人工骨等からなる人工の椎間板(これを椎間ケージという)を挿入する手術を行う。椎間板を椎間ケージで置換することで、椎体間の間隔が正規に戻るとともに、併せて、当該脊椎の正常な前彎又は後彎が再建され(これをLordosisという)、神経障害が改善されるからである。
【0003】
椎間ケージには種々の構造のものがあるが、その一例として下記特許文献1及び2に示されるものがある。特許文献1に示されるものは、挿入側先端の厚みが後端の厚みよりも厚くなったものであり(後端にかけて漸低している)、上面及び下面にスパイクのような独立した突起が設けられたものである。これに対して、特許文献2に示されるものは、上面及び下面を後方ほど漸低する点は同じであるが、上面及び下面に突起に変えて突条を形成するとともに、挿入側の中間部分を頂部とする凸状のアールに形成したものである。
【0004】
しかし、両者に共通するのは、椎間ケージを挿入した後に回転させて前後に向ける点である。周知のとおり、脊椎の真後ろには神経が通っている椎孔があり、この方向からは椎間ケージを挿入することはできない。したがって、通常は斜め後方から挿入することになるが、これによると、回転させるのに熟練を要する上に回転時に隣接する上下の椎体を傷付ける虞もある。また、手術時間も長くなるし、治癒にも時間がかかる上に傷跡も大きくなり、近年叫ばれている低侵襲手術に反する。一方で、仮に、挿入したままで留置しておくとすれば、後端に漸低する傾斜面は斜めに向き、一部において椎体との間に隙間ができ、Lordosisを確保できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−095685号公報
【特許文献2】特開2004−073547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、椎間ケージの形状に立体的な工夫を凝らすことで、挿入したままで留置できる、つまり、回転や調整をすることなく、正常なLordosisが確保できるようにしたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題の下、本発明は、請求項1に記載した、後彎している腰椎の損傷した椎間板に代えて斜め後方から挿入してその状態のままで留置しておく椎間ケージにおいて、後彎程度に応じて本体部の上面及び下面を挿入方向後端側を先端側よりも漸低する傾斜面にするとともに、表面に挿入状態のときに左右方向に向延する突条を形成したことを特徴とする椎間ケージを提供したものである。
【0008】
また、本発明は、以上の椎間ケージにおいて、請求項2に記載した、上面及び下面を中心面に対して対称にした手段、請求項3に記載した、挿入方向後端側の幅を先端側の幅に対して漸細にした手段、請求項4に記載した、本体部に上下に貫通する前後方向の長孔を形成するとともに、側面部に長孔に臨む孔を形成した手段、請求項5に記載した、突条の間が凹面に形成されるものであり、凹面の傾斜が先端側の方が後端側の方より急である手段を提供するとともに、請求項1〜4までの椎間ケージにおいて、損傷した椎間板が前彎している胸椎のものであり、前彎程度に応じて本体部の上面及び下面を挿入方向先端側を後端側よりも漸低する傾斜面にするとともに、表面に挿入状態のときに左右方向に向延する突条を形成した手段を提供する。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明によると、椎間ケージを挿入した状態のままで留置しておいても、その本体部は後彎の状態に沿った形態になって全面的に接触するものになり、正常なLordosisを確保できる。この点で、患者の負担を減らす低侵襲手術を可能にする。また、ずれを防ぐ突条も左右方向に向いたものになり、前後方向(特に、後方)への荷重に対して抑止効果が高く、再手術等の必要性を減らす。
【0010】
請求項2の手段によると、より正常なLordosisを確保できるとともに、製作も容易になり、請求項3の手段によると、椎体間への挿入が容易になる。請求項4の手段によると、椎間ケージ内の骨の生長を促進するものになるし、請求項5の手段によると、後彎しているが故に後方への大きな荷重に対して抑止効果の高いものになる。請求項6の手段によると、前彎している胸椎にも対応できるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る椎間ケージの斜視図である。
【図2】本発明に係る椎間ケージの平面図である。
【図3】本発明に係る椎間ケージの側面図である。
【図4】本発明に係る椎間ケージの後面図である。
【図5】本発明に係る椎間ケージを斜め後方から見た斜面図である。
【図6】腰椎の説明図である。
【図7】本発明の椎間ケージを椎体の間に挿入した状態の平面図である。
【図8】本発明に係る椎間ケージを椎体の間に挿入した状態の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態をもっとも症例の多い腰椎を例にとって図面を参照して説明する。まず、腰椎がどのようになっているかを図6の腰椎を側面から見た説明図、図7の断面平面図で説明しておくと、腰椎は第一から第五までの椎体1が重なり(2は仙骨)、その間に椎間板3が存在している。椎体1の後方には神経4が通る椎孔(馬尾)5が形成されており、椎孔5の後部には中心一本の棘突起6と斜め横二本の横突起7が形成されている。さらに、椎孔5からは神経根8が突出している。
【0013】
図1は本発明に係る腰椎に挿入される椎間ケージの斜視図、図2は平面図、図3は側面図、図4は後面図、図5は斜め後方略45°の方向から見た後面図であるが、この椎間ケージAは、樹脂を素材として略直方体の細長い形状をしているものである。その本体部9の中心には上下に貫通する前後方向の長孔10が形成され、側面部には長孔10に臨む複数の孔11が形成されている。この場合、先端は紡錘形、後尾は漸細になっており、全体的には略砲弾形をしている。また、後面には挿入用の手術器具が連係される上下方向のアリ溝12が形成されている。
【0014】
さらに、本体部9の上面13及び下面14とも、全体的には外方が緩やかな凸になった彎曲に形成されており、各々の表面には長手方向軸に対して斜めに向延した複数の突条15が形成されている。この椎間ケージAは、腰椎の損傷した椎間板3に代えて挿入されるものであるが、その挿入方向は、前後線に対して40〜45°の斜め後方から挿入され、その状態のままで留置されるものである。そして、腰椎は後彎していることから、椎間板3に代わる椎間ケージAは前方を厚く、後方を薄くしている。
【0015】
この椎間ケージAが挿入された状態を見てみると、図2及び図7において、前方側となる(a)と(b)、後端のコーナーとなる(c)と(d)の四つの点をとってみる。この場合、(a)と(b)は前後方向では同じ位置、(c)と(d)は(c)の方が前方、(d)の方が後方になる。したがって、(a)と(b)とではは同じ厚み、(c)の厚みは(d)の厚みより厚くすることになる。そして、上面13及び下面14ともに後端側を先端側に対して漸低する傾斜面にするのであるが、この場合でも、(a)と(c)の段差よりも(b)と(d)の段差の方を大きくしている。
【0016】
加えて、突条15は(a)〜(b)の方に向延する向き(身体の左右方向)に形成してある。突条15の間は凹面16に形成されるが、この場合でも、凹面16の傾斜は前方側の方を急にしている(突条15の直後は一種の崖になっている)。このように、前方と後方とで厚みに差をつけるのは、後彎している腰椎の曲率半径に適合させるためであり、Lordosisを確保するためである。したがって、どの椎間板3を置換するかで厚み及び差も異なるし、上面13と下面14とでも厚みや彎曲に差をつけることもある。
【0017】
次に、以上の椎間ケージAによる置換手術について説明する。まず、損傷した椎間板3に該当する位置の皮膚を切開して身体の斜め後方略40〜45°から器具を挿入して椎間板2に突き刺し、その損傷した部分を除去する。このとき、同時に椎間ケージAの挿入路を確保する(この場合、椎間板3の損傷は中央の髄核の部分が多いことから、比較的正常な周囲の線維輪はそのまま残しておく)。なお、除去した骨は椎間ケージAの長孔10に充填しておく。
【0018】
そして、除去した椎間板3の上下に存在する椎体1を治具(図示省略)で固定しておき、確保した挿入路から椎間ケージAを挿入する。このときの斜め後方の角度は略とあるように大体の目安であって、これに限定されるものではないが、後記する事項には留意が必要である。なお、椎間ケージAが略砲弾形をしているのは、この挿入を容易にする効果がある。
【0019】
ところで、挿入方向として斜め後方の角度を選択するのは、後方には臓器等が存在しないからであるが、真後ろからでは神経4が通っている椎孔5が存在しており、挿入はできない。したがって、この方向を避け、上記した角度としているのであるが、この方向はもともと椎間孔(図示省略)が存在して削る骨の量が少なくて済み、かつ、椎孔5から十分離れているからである。椎間ケージAが挿入されると、治具を外し、皮膚を縫合して手術は終了する。
【0020】
このとき、挿入された椎間ケージAはその状態のままでよく、原則として回転させたり、位置を調整したりはしない。ところで、図7において、挿入した椎間ケージAは幅が狭いように見受けられるが、上記したように、椎間板3の周囲の線維輪は残存させている場合が多いのでこの程度で十分である。治具が外されると、上面13と下面14に形成された突条15がそれぞれ椎体1に食い込み、ずれが阻止される(図8)。なお、残存している椎間板3があれば、これもずれの阻止に寄与する。
【0021】
この場合、突条15を左右に向延させていると、前後方向、特に、後彎しているために後方へのずれを効果的に阻止できる。このとき、凹面16の上記した形状はこの阻止力を更に向上させる効果がある。この点から、突条15の向延方向と椎間ケージAの挿入方向とは相関関係があることになる。なお、ずれを阻止する点からいえば、突条14はスパイクのように独立した突起であってもよい。これによると、左右へのずれも阻止できる。手術後は長孔10や孔11から骨が入り込み、これが生長して本来の椎間板3に近いものになる。
【0022】
ところで、上記した椎間ケージAの(a)〜(d)の寸法及びその差は置換しようとする椎間板3に対応したものにするのはいうまでもない。加えて、この椎間ゲージAは腰椎に限らず、彎曲方向が上記とは逆に前彎している胸椎であってもよい。ただ、胸椎の場合は(a)〜(d)の寸法及びその差は上記とは逆になる。さらに、素材についても樹脂とは限らず、金属、セラミックス、カーボン、人工骨であってもよいのは上記したとおりである。
【符号の説明】
【0023】
A 椎間ケージ
1 椎体
2 仙骨
3 椎間板
4 神経
5 椎孔
6 棘突起
7 横突起
8 神経根
9 椎間ケージの本体部
10 長孔
11 孔
12 アリ溝
13 上面
14 下面
15 突条
16 凹面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
後彎している腰椎の損傷した椎間板に代えて斜め後方から挿入してその状態のままで留置しておく椎間ケージにおいて、後彎程度に応じて本体部の上面及び下面を挿入方向後端側を先端側よりも漸低する傾斜面にするとともに、表面に挿入状態のときに左右方向に向延する突条を形成したことを特徴とする椎間ケージ。
【請求項2】
上面及び下面を中心面に対して対称にした請求項1の椎間ケージ。
【請求項3】
挿入方向後端側の幅を先端側の幅に対して漸細にした請求項1又は2の椎間ケージ。
【請求項4】
本体部に上下に貫通する前後方向の長孔を形成するとともに、側面部に長孔に臨む孔を形成した請求項1〜3いずれかの椎間ケージ。
【請求項5】
突条の間が凹面に形成されるものであり、凹面の傾斜が先端側の方が後端側の方より急である請求項1〜4いずれかの椎間ケージ。
【請求項6】
損傷した椎間板が前彎している胸椎のものであり、前彎程度に応じて本体部の上面及び下面を挿入方向先端側を後端側よりも漸低する傾斜面にするとともに、表面に挿入状態のときに左右方向に向延する突条を形成した請求項1〜4いずれかの椎間ケージ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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