説明

検体の検出

検体を検出するための方法において、a)検体に交流電圧を印加するステップであって、交流電圧が、電気化学インピーダンス分光法(EIS)によって検体の有無を見分けるのに十分な複数の重畳された周波数を備えるステップと、b)EISデータから検体の同定および/または量を決定するステップとを含む方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体に関するデータを得るために、機能向上された電気化学インピーダンス分光(EIS)技法を使用して検体を検出するための方法に関する。この方法は、既知のEISアッセイ法よりも高速で行うことができ、したがって、結果取得時間(TTR)を改良し、臨床環境でのそのようなアッセイの開発を促すことができるので有利である。
【背景技術】
【0002】
検体を検出するための方法は、生化学分析の分野でよく知られている。従来の方法では、通常は検体に蛍光標識を付け、蛍光標識は、検体を識別するために例えば蛍光検出によって検出することができる。
【0003】
ここ数年、DNA検出の分野において、ナノ粒子が標識として使用されている。これらの標識は、標識付けを可能にすると共に、結合に関係するいかなる系においても機能する可能性があり、したがって、生きた細胞系、ならびにタンパク質および核酸に有用となり得る。ナノ粒子は、コスト、使いやすさ、感度、および選択性を含めた、より従来の蛍光標識のいくつかの制限を克服することが判明している(Fritzsche W, Taton T A,Nanotechnology 14(2003)R63−R73“Metal nanoparticles as labels for heterogeneous,chip−based DNA detection”)。ナノ粒子は、光学的検出、電気的検出、電気化学的検出、および重力測定による検出を含めたいくつかの異なるDNA検出法で使用されている(Fritzsche W,Taton T A,Nanotechnology 14(2003)R63−R73“Metal nanoparticles as labels for heterogeneous,chip−based DNA detection”)。コロイド状の金タグの電気化学的ストリッピング検出に基づいた、DNAハイブリダイゼーションの検出における金ナノ粒子の使用は、成功例がある(Wang J,Xu D,Kawde A,Poslky R,Analytical Chemistry(2001),73,5576−5581“Metal Nanoparticle−Based Electrochemical Stripping Potentiometric Detection of DNA hybridization”)。また、量子ドットとも呼ばれる半導体ナノ結晶、および金ナノ粒子の使用も、DNAハイブリダイゼーション研究のための蛍光標識として良好に使用されている(West J,Halas N,Annual Review of Biomedical Engineering,2003,5:285−292“Engineered Nanomaterials for Biophotonics Applications:Improving Sensing,Imaging and Therapeutics”)。
【0004】
従来の蛍光標識の代わりにDNA検出法においてナノ粒子を使用することによって見出される利点にも関わらず、依然として、検出法の感度、選択性、および特に速度を改良する必要がある。各検出法はある程度の感度および選択性を有するが、それらはそれぞれ様々な限界を有し、様々な不正確さを生み出し、何れも、特に短い結果取得時間(例えば約10分)が望まれる臨床環境試験に関しては、望まれるほど速くはない。
【0005】
そのような方法に加え、DNAを検出する際には、ナノ粒子標識付けが電気泳動と組み合わされている(国際公開第2009/112537号パンフレット参照)。電気泳動は、電極表面上でのDNAと相補的プローブとの結合を速めるために採用される。この方法は、既知のアッセイ法よりも向上された速度および感度をもたらすことができるので有利である。
【0006】
また、これに加えて、臨床環境で、特にDNAに関して安価であり単純な検出法がますます必要とされている。コストを低減し、方法を単純化し、検出の速度を改良するために、標識付けを完全になくすことが知られている。標識を使用しない検出法はこれらの利点を有するが、標識がもたらす検出の融通性および感度を実現するのは難しい。
【0007】
従来、検体に関するデータを得るための電気化学インピーダンス分光(EIS)技法は、標識を用いた技法と標識を用いない技法どちらも考察されている。以下の参考文献に、背景の詳細が記載されている。
【0008】
バイオセンシングへのEISの適用の検討−Daniels,J.S.,Pourmanda,N.,“Label−Free Impedance Biosensors:Opportunities and Challenges”,Electroanalysis,19,2007,1239−1257
【0009】
バイオセンシングへのEISの適用の検討−Katz,E.,Willner,I.,“Probing Biomolecular Interactions at Conductive and Semiconductive Surfaces by Impedance Spectroscopy:Routes to Impedimetric Immunosensors,DNA−Sensors,and Enzyme Biosensors”,Electroanalysis 15,2003,913−947
【0010】
KCl溶液中での様々な寸法のナノスケール電極のインピーダンススペクトルの特徴付け−Laureyn,W.,Van Gerwen,P.,Suls,J.,Jacobs,P.,Maes,G.,Electroanalysis,13,2001,204−211
【0011】
酵素活性の検出のためのACインピーダンスおよび分光分析−Laureyn,W.,Van Gerwen,P.,Suls,J.,Jacobs,P.,Maes,G.,Electroanalysis,13,2001,204−211
【0012】
一体型システム内でのACインピーダンスおよびIDE−Zou,Z.,Kai,J.,Rust,M.J.,Han,J.,Ahn,C.H.,“Functionalized nano inter digitated electrodes arrays on polymer with integrated microfluidics for direct bio−affinity sensing using impedimetric measurement.”Sens.Acts.A,136,2007,518−526
【0013】
“In situ hybridization of PNA/DNA studied label−free by electrochemical impedance spectroscopy,”J Liu,S.Tian,P.Nielsen,W.Knoll,Chem.Commun.,2005,2969−2971
【0014】
ここから分かるように、ACインピーダンス測定(しばしば電気化学インピーダンス分光法またはEISとも呼ばれる)は、典型的には、2つの電極間に小さな正弦波振幅(約10mV)のAC電圧摂動を印加し、AC周波数の関数として電極間で得られる電流を測定することを含み、その測定から、周波数の関数としてインピーダンスを計算することができる。そのようなインピーダンススペクトルの変化は、特に櫛型電極(IDE)、例えば櫛型マイクロ電極(IME)や櫛型ナノ電極(INE)を使用するときに、電極上での特定の表面フィルムにおけるプローブ−標的結合を、標識を用いずに高感度で測定するための方法を提供することが実証されている。しかし、これらの測定は、通常は、検体と電極または電極に取り付けられたプローブとの結合の平衡に依拠する。なぜなら、この平衡が、層内で結合されている標的の量を決定するからである。したがって、EIS応答は平衡熱力学に従う。この処置は、測定前に完全なプローブ−標的の関連付けを保証するために、長時間(しばしば数時間)かかる、時として高温での平衡を必要とする。これは、高速の結果取得時間(TTR)を妨げる。
【0015】
これに加えて、IDEのインピーダンス応答が理論的に考察されている。分析は、典型的には、適切な電気的等価回路を使用して行われ、広い周波数範囲にわたる応答に適合し、等価電気回路素子(抵抗、コンデンサ、Warburg素子など)に関するパラメータを与え、そこから、電気化学的応答の変化を示唆する特徴的な物理パラメータ(例えば拡散係数、濃度、層厚さ)を抽出することができる。さらに、通常は、各周波数での逐次測定が採用される。これらの要因が長い分析および測定時間の原因となるので、これらの要因が合わさって、上で論じた比較的大きな結果取得時間を延ばす。
【0016】
したがって、既知のEIS方法、特に標識を用いない方法は、典型的には遅く、本発明で必要とされる臨床環境での使用のための満足な結果取得時間を提供しない。
【0017】
本発明の狙いは、上記の従来技術に関連付けられる問題を克服することである。特に、本発明の狙いは、良好な感度および選択性で検体を検出するための方法において、速度および結果取得時間も改良され、安価であり、簡単に実施できる方法を提供することである。
【0018】
したがって、本発明は、検体を検出するための方法において、
a)検体に交流電圧を印加するステップであって、交流電圧が、電気化学インピーダンス分光法(EIS)によって検体の有無を見分けるのに十分な複数の重畳された周波数を備えるステップと、
b)EISデータから検体の同定および/または量を決定するステップと
を含む方法を提供する。
【0019】
本発明のこの第1の態様は、好ましくは、重畳され、ステップ(a)において印加される1組の周波数を決定するために、統計分析を利用する。このようにして周波数を決定するための統計的方法は、当技術分野でよく知られており、当業者は、本発明による方法で使用するために1組の周波数を決定するために任意の既知の方法を採用することができる。そのような方法は、例えば、World Scientific Publications Co.Pte.Ltd.(Singapore)によるF.James編の“Statistical methods in Experimental physics”(第2版)(2006)ISBN 981−256795で見ることができる。
【0020】
必要に応じて、1組の周波数を決定する他の方法を採用することもできる。例えば、特定のシステム(例えば特定の電極/溶液/検体の組合せ)に関して、その特定のシステムに関する標準として十分なものとなる1組の周波数を見出すために経験的な方法を事前に採用することができる。このとき、この標準は、方法が行われるたびに所要の周波数を計算することなく、そのシステムで採用することができる。採用できる実現可能な1組の周波数を生成し、TTRに悪影響を及ぼさないという前提の下で、リアルタイムで、または事前に任意の他の方法を採用することもできる。
【0021】
1組の周波数を決定するために使用される方法には関係なく、その組は、EISを使用して検体の有無を見分けるのに十分となるように必要な少なくとも最小数の周波数を含むべきである。当然、必要に応じて、その最小数に加えてさらなる周波数を採用することもできる。
【0022】
この方法は、いくつかの実施形態では、1組の周波数に加えて、または1組の周波数の代わりに他のパラメータの決定を含み、これらのパラメータはそれ自体、1組の周波数を定義し、したがって検体の存在および/または量の検出を実現する助けとなる。各場合に、周波数および/またはパラメータは、データ分析による最速の結果取得時間の提供に鑑みて選択される。
【0023】
典型的には、1組の周波数および/またはパラメータは、検体の有無を見分けるのに十分なものである。1組の周波数の仕様は特に限定されず、それらは、1組の特定の個々の周波数として定義することができ、ある範囲内の1組の周波数として定義することもでき、および/または単一の周波数およびそこからの間隔として定義することもでき、その間隔が、組に含まれるさらなる周波数を定義する。
【0024】
重畳された周波数を使用するEIS測定の結果の分析は、好ましくは統計的であり、等価回路解析法を採用する必要はなく、このことが、典型的にはより高速の判別を可能にする。しかし、TTRに悪影響を及ぼさないという前提の下で、等価回路法および任意の他の方法も排除しない。高速フーリエ変換(FFT)解析を使用して、必要なEISデータを抽出することができ、この情報は、検体情報を提供するために採用される。そのようなFFT技法は当技術分野でよく知られており、当業者は、必要に応じて任意のそのような技法を本発明に採用することができる。
【0025】
上述したように、好ましくは、検体の有無に関する情報をEISデータから得ることができ、より好ましくは、存在する検体の量を決定することもできる。
【0026】
本発明は、EISバイオセンシングおよび判別を、限られた周波数範囲にわたる少数の点(実施例1(下記参照)では1桁の周波数にわたって7点)を使用して実現することができることを裏付ける。これは、必要な周波数を含む多重波形(実施例1では多重正弦波)のEIS摂動と、必要な情報を抽出するために使用される高速フーリエ変換(FFT)解析との同時適用を可能にする。そのような処置は、市販の機器を使用して数秒以内での測定および分析を可能にし、これは、高速でロバストな検出のための現実的な時間尺度でのEIS測定を可能にする。
【0027】
本発明で任意の検体を検出することができ、検出法は、関連する検体のタイプに依存する。検体の中には、電極に直接結合することができるものがあり、また、電極の表面上でプローブまたは相補的分子に結合することができる検体(例えばDNA)もある。本発明で採用される1組の周波数は、対象の各特定のシステムに関して生じる結合のタイプ、およびシステム自体の物理的性質(電極タイプ、電極組成、電極寸法、検体組成、溶媒/液体媒体タイプ、電解液など)に依存する。上述したように、同様のシステムに関しては、標準的な周波数の組を採用することができ、新規のシステムまたは検体に関しては、リアルタイムの統計的計算を採用することができる。
【0028】
本発明はさらに、検体を検出するための方法において、
a)検体に交流電圧を印加するステップと、
b)検体にわたってEIS測定の変化の速度を求めるステップと、
c)変化速度のデータから検体の同定および/または量を決定するステップと
を含む方法を提供する。
【0029】
本発明のこの第2の態様では、EIS測定が、電子移動抵抗Retの測定であると特に好ましい。リアルタイムで行われる典型的なEIS測定に関して、プローブフィルム形成およびプローブ−標的ハイブリダイゼーションに対して特に感度が高い1つのパラメータは、系内に存在する酸化還元対(例えば[Fe(CN)3−/4−)の電子移動抵抗Retである。このパラメータは当技術分野でよく知られており、EISスペクトルのナイキストプロットにおける半円形状の幅から計算することができる。
【0030】
本発明のこの態様は、IDE測定プロトコルを提供して、電極表面との検体結合、またはプローブ−検体ハイブリダイゼーションによる検体結合に関するEIS応答のインサイチュでの速度論的測定を可能にする。複数の重畳された周波数の採用と同様に、はるかに短いEIS測定時間になる。また、第1の態様と同様に、任意の検体を検出することができ、検出法の詳細は、対象の検体のタイプに依存する。検体の中には、電極に直接結合することができるものがあり、また、電極の表面上でプローブまたは相補的分子に結合することができる検体もある。Retデータの正確な特性は、対象の各特定のシステムに関して考えられる結合のタイプに依存する。
【0031】
上で示唆したように、本発明のこの態様では、酸化還元プローブの2つの酸化状態(例えばヘキサシアノ鉄(III)酸塩およびヘキサシアノ鉄(II)酸塩)が溶液中に存在することが好ましい。これは、外部基準電極を使用せずに2つのIDE間に電位を印加することができる方法および手段全体にわたって、IDEでのDC電位が酸化還元プローブの還元電位によって一定に保たれることを保証する。これは、EIS応答を測定するために、IDEでの2つの電極間に小さな振幅のEIS摂動電圧を簡単に印加できるようにする。そのような測定は、溶液にさらしたときに経時的にEIS応答を測定できるようにする。
【0032】
上述したように、現在知られているEISプロトコルは、電極/検体結合(またはプローブが電極に取り付けられている場合には検体/プローブ結合)の平衡への接近を測定する。これは、平衡を示唆する一定値に対してEIS信号を変化(典型的には増加)させる。この場合、測定が溶液中で行われるので、平衡のための時間および平衡EIS信号は、リアルタイムで決定され、最適な平衡測定をもたらす。しかし、結果取得時間は遅い。なぜなら、結果を求めることができるようにするには、事前に完全な平衡が必要とされるからであり、そのような平衡は、検体の結合および解放の速度によって制御される時間のかかるプロセスであることが多い。本発明の第2の態様では、上述したように、溶液中の検体の濃度を決定するために、EIS信号の増加の速度を使用して分析する。例えば、電極/検体結合(またはプローブ/検体結合)が速度論的に測定される。これは、数分以下のはるかに高速のTTRを用いて実現することができ、完全な平衡に達する必要はない。
【0033】
本発明では、EISデータは、好ましくは、複素インピーダンス(x+iy)から導出されたデータパラメータを備える。これらのパラメータは、当技術分野でよく知られており、以下のうちの1つまたは複数から選択することができる。
・実数成分(x)
・虚数成分(y)
・母数または絶対値[r=|z|=(x+y1/2
・角度[θ=tan−1(y/x)]
・基本成分1
・基本成分2
【0034】
本明細書で採用する重畳された周波数の数は、所要の精度での検体の同定および/または量を与えるためにEISを使用する分析に適しているという前提の下で、特に限定されない。典型的には、重畳された周波数の最小数は2〜20である。より好ましくは、重畳された周波数の最小数は、少なくとも3〜10、すなわち少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、または少なくとも10である。より好ましくは、重畳された周波数の数は、約7である。
【0035】
本発明はさらに、検体を検出するための方法において、
a)検体に交流電圧を印加するステップと、
b)検体にわたってEIS測定の変化の速度を求めるステップと、
c)変化速度のデータから検体の同定および/または量を決定するステップと
を含む方法を提供する。
【0036】
本発明では、採用されるEIS測定のタイプは特に限定されない。しかし、好ましくは、EIS測定は、電子移動抵抗Retの測定である。典型的には、EIS測定は、ナイキストプロットにおける半円形状の幅を求めることから計算される測定である。一般に、この手法を使用してRetを計算することができる。
【0037】
上述したように、本発明は液体媒体中で行うことが好ましい。好ましくは、プロセスを補助するように液体媒体が選択される。酸性媒体が好ましく、液体媒体は、好ましくはHSOを含む。
【0038】
添付図面を参照しながら本発明をさらに詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】マクロ金電極(小さなZ値)および櫛型マイクロ(IME)電極からのEISデータの典型的なナイキストプロットを示す図である。
【図2】マクロ電極と櫛型電極の両方に関して、陽性対照試料と固定化プローブに関するデータについて、周波数に対する実数成分(x)、虚数成分(y)、母数(r)、角度(θ)、基本成分1、および基本成分2のプロットを示す図である。
【図3】約23秒の同時のFFT解析を用いた通常の単一正弦波の逐次EIS測定における金タンパク質マクロ電極(6700pM抗体)のEIS応答を示す図である(黒−2分間の記録時間;赤−9秒間の5個の多重正弦波のEIS測定;青−9秒毎の15個の多重正弦波EIS測定)。
【図4】69merHCV DNAプローブで修飾され、1mM MCHでブロッキングされた金電極(菱形)と、1μMの相補的標的(ITI025)とのハイブリダイゼーション(正方形)とのナイキストプロットの比較を示す図である。インピーダンス測定は、IDE対の電極間の印加dc電位を0Vにして、10mMの[Fe(CN)3−と10mMの[Fe(CN)4−(およびプローブまたは標的)を含む2xSSC中で行った。
【図5】69merHCV DNAプローブで修飾され、1mM MCHでブロッキングされた金電極(菱形)、1μMの非相補的標的(ITI012)とのハイブリダイゼーション(正方形)、ならびに1nM(三角形)および50nM(円形)の相補的標的(ITI025)とのハイブリダイゼーションのナイキストプロットの比較を示す図である。インピーダンス測定は、IDE対の電極間の印加dc電位を0Vにして、10mMの[Fe(CN)3−と10mMの[Fe(CN)4−(およびプローブまたは標的)を含む2xSSC中で行った。
【図6】プローブ(チオール化DNA)層形成中(菱形)、MCHでのブロッキング後(正方形)、1μMの相補的標的とのハイブリダイゼーション中(三角形)、およびハイブリダイゼーション後の洗浄中(円形)の、時間に対するRetのEIS測定を示す図である。
【図7】相補的標的(50nM)結合および20nM QD培養のEIS測定後の蛍光測定を示す図である。PMT設定は180である。
【図8】インピーダンス測定プロテアーゼ活性のEIS測定の概略図である。プロテアーゼ(例えばMMP8またはMMP9)の活性を測定するために、それらそれぞれの基質(ペプチド)を、ACインピーダンス(A)を測定するのに適した電極またはデバイスに固定化する。系は、概略的なグラフに(A)で示される初期インピーダンス挙動を示す。所望のプロテアーゼを含む試料を含む系の培養(B)は、固定化されたペプチドの短縮をもたらし、これは、インピーダンス信号の変化、例えば概略的なグラフに(C)で示されるRet値の減少をもたらす。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明の2つの態様の方法は、既知の方法に勝る以下のようないくつかの特定の利点を有する。臨床環境要件に適合された数秒から数分の高速の結果取得時間(TTR);様々なプローブ−標的システムに対する手法の広い適用可能性;データ収集を向上するための高速の多重正弦波EISとの適合性;電子的制御および測定とのEIS検出の適合性;標識を用いない検出。
【0041】
本発明による方法の2つの態様において検出対象となる検体は、特に限定されないが、好ましくは生体分子である。好ましくは、検体は、細胞、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、ペプチド断片、アミノ酸、DNA、およびRNAから選択される。本発明の方法は、特にDNAおよびRNA検出に有用である。
【0042】
本発明の方法を使用して、単一の検体を検出することも、複数の異なる検体を同時に検出することもできる。
【0043】
好ましくは、本発明の方法は、標識を用いない方法であり、すなわち検出を補助するために検体に標識付けする必要がない。しかし、状況によっては標識を採用することもできる。例えば、複数の異なる検体を同時に検出するためにこの方法が使用されるとき、異なる検体それぞれに、その検体に関係付けることができる1つまたは複数の異なる標識を付けることができる。あるいは、複数の検体を空間的分離によって検出することができ、例えば、1つの表面上にそれらの検体のための1組のプローブを配列することによって検出することができる。複数の異なる検体の検出は、多重化としても知られている。
【0044】
本発明の電気化学的検出法では、検体は、溶液として、または液体媒体中の懸濁液として調べられる。液体媒体は、EISを使用する分析に適しているという前提の下で、特に限定されない。好ましくは、液体媒体は、EIS測定を容易にするために電解液を含む。電解液は、PBSなど不活性イオンを含む溶媒または緩衝液である。典型的には、次いで、酸化還元活性種が、はるかに低い濃度で添加される。電解液は、特に限定されず、当技術分野で知られている任意の電解液を含むことができる。しかし、Fe(II)/Fe(III)電解液系など、遷移金属の酸化還元系を含む電解液が好ましい。[Fe(CN)3−/4−が特に好ましい。
【0045】
異なる検体に標識付けするために複数の異なる標識が使用される場合、好ましくは、各標識は、電気化学的検出法に関して異なる酸化電位を有し、したがって得られるデータにおいて異なる信号ピークを生成する。例えば、異なる検体のための標識として金属ナノ粒子を使用するとき(下記参照)、各検体に対して、異なる酸化電位を有する異なる金属を使用することができる。
【0046】
好ましい実施形態では、電極に印加される交流電位は、特に限定されず、採用される媒体に応じて決まる。したがって、実際には、EISに関する上限の振幅は、溶媒の限界によって定められる(水の場合、約1〜2Vのrms振幅を与えると、約2V)。したがって、水性媒体中では、電位は、+1.0〜+2.0V、好ましくは+1.2V〜+1.8Vにすることができる。系内で酸化還元種を使用するときには、酸化種と還元種の両方が存在し、これにより、典型的には250mV未満の振幅が使用される。より好ましい実施形態では、電極間に印加される交流電圧は、約10mVの二乗平均平方根(rms)振幅である。これは、例えば等価回路解析のために応答を線形化することができるようにする。より高い振幅の応答を使用することもできる(統計的方法を採用して特徴信号を抽出する場合、特徴信号は異なる/有利であることがある)。
【0047】
好ましい実施形態では、電気的検出法はチップ上で行われる。光学的検出のために標識が使用される本発明の多重化実施形態では、検体が異なる標識を付けられているとき、光学的検出と電気的検出を1つのチップ上で同時に行うことができる。あるいは、検体が2つのアリコートに分離されており、別々に標識付けされている場合、1つのチップ上で光学的検出および電気的検出を行うために、標識付けした後にそれらを組み合わせることができ、または2つの別個のチップ上で別々に電気的検出を行うことができる。
【0048】
本発明の一実施形態では、検体は核酸であり、標識付けステップは、標識付けされたプライマ、および標識付けされたヌクレオチドを用いたプライマ伸長を使用して行われる。標識付けされて伸長されたプライマは、光学的検出および電気的検出のためにプローブにハイブリダイゼーションすることができる。これは、電気的検出用の標識を検出用の電極に近接して位置決めするので、特に有利である。
【0049】
EISを使用して、存在する検体の量をボルタンメトリによって定量化することができる。定量データは、信号ピークから積分によって得ることができ、すなわち、生成された各信号ピークに関してグラフの下の面積を求めることによって得ることができる。
【0050】
標識付けを採用する実施形態
本発明のいくつかの好ましい実施形態では、特に多重化が望まれるときに標識が採用される。言及される標識は、特に限定されないが、好ましくは、ナノ粒子、単一分子、特定のヌクレオチドやアミノ酸など標的の固有成分、および化学発光酵素である。適切な化学発光酵素は、HRPおよびアルカリホスファターゼを含む。蛍光標識は、それらの標識の光学的検出が本発明の電気化学的方法と容易に組み合わされるので、特に好ましい。
【0051】
好ましくは、標識はナノ粒子である。ナノ粒子は、電気的検出法で良く機能するので、本発明のこれらの実施形態で特に有利である。表面に対するナノ粒子の近接性は特に重要ではなく、このことが、アッセイをより融通性のあるものにする。好ましい実施形態では、ナノ粒子は、分子の集合体を含む。なぜなら、光学的検出法および電気的検出法において、分子の集合体は、単一分子が使用されるときよりも大きい信号を生み出すからである。
【0052】
好ましくは、ナノ粒子は、金属、金属ナノシェル、金属二元化合物、および量子ドットから選択される。好ましい金属または他の元素の例は、金、銀、銅、カドミウム、セレン、パラジウム、および白金である。好ましい金属二元化合物および他の化合物の例としては、CdSe、ZnS、CdTe、CdS、PbS、PbSe、HgI、ZnTe、GaAs、HgS、CdAs、CdP、ZnP、AgS、InP、GaP、GaInP、およびInGaNが挙げられる。
【0053】
金属ナノシェルは、薄い金属シェルによって取り囲まれたコアナノ粒子を備える球状ナノ粒子である。金属ナノシェルの例は、薄い金シェルによって取り囲まれた硫化金またはシリカのコアである。
【0054】
量子ドットは、高い吸光性のルミネセンスナノ粒子である半導体ナノ結晶である(West J,Halas N,Annual Review of Biomedical Engineering,2003,5:285−292“Engineered Nanomaterials for Biophotonics Applications:Improving Sensing,Imaging and Therapeutics”)。量子ドットの例は、CdSe、ZnS、CdTe、CdS、PbS、PbSe、HgI、ZnTe、GaAs、HgS、CdAs、CdP、ZnP、AgS、InP、GaP、GaInP、およびInGaNナノ結晶である。
【0055】
上記の標識の任意のものを抗体に取り付けることができる。
【0056】
標識のサイズは、好ましくは直径200nm未満、より好ましくは直径100nm未満、さらに好ましくは直径2〜50nm、さらに好ましくは直径5〜50nm、さらに好ましくは直径10〜30nm、最も好ましくは15〜25nmである。
【0057】
本発明の方法が複数の検体を検出する目的のものであるとき、異なる検体がそれぞれ、その検体に関係付けることができる1つまたは複数の異なる標識を付けられる。本発明のこの態様では、標識は、それらの組成および/またはタイプにより異なることがある。例えば、標識がナノ粒子であるとき、標識は、異なる金属ナノ粒子でよい。ナノ粒子が金属ナノシェルであるとき、異なる標識を生成するためにコアおよびシェル層の寸法を変えることができる。代替または追加として、標識は、異なる物理的特性、例えばサイズ、形状、および表面粗さを有する。一実施形態では、標識は、同じ組成および/またはタイプ、ならびに異なる物理的特性を有することができる。
【0058】
異なる検体のための異なる標識は、好ましくは、光学的検出法および電気的検出法において互いに区別可能である。例えば、標識は、異なる発光周波数、異なる散乱信号、および異なる酸化電位を有することがある。
【0059】
多重化など、標識付けが採用される本発明の実施形態では、方法は、典型的には、標識付けされた検体を生成するために検体に1つまたは複数の標識を付けるさらなる初期ステップを含む。
【0060】
検体に標識付けするための手段は特に限定されず、多くの適切な方法が当技術分野でよく知られている。例えば、検体がDNAまたはRNAであるとき、標識結合プライマ、ハイブリダイゼーション後の配位子もしくは反応部位への標識付け、または標識付けされていない標的と標識−オリゴヌクレオチドコンジュゲートプローブの「サンドイッチ」ハイブリダイゼーションによって標識付けすることができる(Fritzsche W,Taton T A,Nanotechnology 14(2003)R63−R73“Metal nanoparticles as labels for heterogeneous,chip−based DNA detection”)。
【0061】
オリゴヌクレオチドをナノ粒子にコンジュゲートするための多くの異なる方法が当技術分野で知られており、例えば、チオール修飾およびジスルフィド修飾オリゴヌクレオチドは、金ナノ粒子表面、スルフィドおよびトリスルフィド修飾コンジュゲート、オリゴチオールナノ粒子コンジュゲート、Nanoprobeのホスフィン修飾ナノ粒子からのオリゴヌクレオチドコンジュゲートと自発的に結合する(Fritzsche W,Taton T A,Nanotechnology 14(2003)R63−R73“Metal nanoparticles as labels for heterogeneous,chip−based DNA detection”の図2参照)。
【0062】
一実施形態では、DNA鎖またはRNA鎖は、どちらもビオチン標識されることがある。ビオチン標識された標的鎖は、オリゴヌクレオチドプローブでコーティングされた磁気ビーズにハイブリダイゼーションすることができる。このとき、ストレプトアビジンでコーティングされた金ナノ粒子が、捕獲された標的鎖に結合することができる(Wang J,Xu D,Kawde A,Poslky R,Analytical Chemistry(2001),73,5576−5581“Metal Nanoparticle−Based Electrochemical Stripping Potentiometric Detection of DNA hybridization”)。磁気ビーズは、ハイブリダイゼーションしていないDNAの磁気的除去を可能にする。
【0063】
本発明のEIS法は、多くの異なる特定の方法で採用することができる。しかし、それらは、インピーダンス測定プロテアーゼ活性検出など、プロテアーゼ検出に特に適している。図8は、この実施の様子を示す概略図である。プロテアーゼの活性を測定するために、その基質(特定のペプチド)が、ACインピーダンス(A)を測定するのに適した電極またはデバイス、例えば本発明の方法で使用されるデバイスに固定化される。系は、概略的なグラフに(A)で示される初期インピーダンス挙動を示す。所望のプロテアーゼを含む試料を含む系の培養(B)は、固定化されたペプチドの短縮をもたらし、これは、インピーダンス信号の変化、例えば概略的なグラフに(C)で示されるRet値の減少をもたらす。このタイプの構成では、(メディエータ、例えばヘキサシアノ鉄(II)酸塩/ヘキサシアノ鉄(III)酸塩を用いる、および用いない)ファラデーモードまたは非ファラデーモードでシステムを動作させることができることがある。
【0064】
本発明のこの態様の利点は、プロテアーゼ活性を測定するために試験中に追加の試薬を加える必要がないことである。このシステムは、同じ試料および反応空間内で多くのプロテアーゼを測定することができるので、多重化できる可能性がある。また、このシステムは、速度論的なインピーダンス測定を多重化して行うことができるので、従来のシステムよりもはるかに高速となる可能性がある。
【0065】
任意のプロテアーゼを検出することができ、プロテアーゼのタイプは特に限定されない。しかし、いくつかの実施形態では、創傷に関連付けられるプロテアーゼが採用される。典型的には、これらのプロテアーゼは、治癒していない創傷に存在するものである。特に興味深い2つのプロテアーゼは、MM8とMM9である。
【0066】
単に例として、本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0067】
実施例1−多重周波数解析のためのEISパラメータの考察
本発明の第1の態様の方法で使用するための最適なパラメータを得るために、任意のEISセットアップを採用することができる。しかし、典型的には、パラメータができるだけ最適に近くなることを保証するために、最終的な分析に関連する電極、電解液、液体媒体、検体(および使用される場合にはプローブ)が採用される。
【0068】
この実施例では、Abtechからの市販の金IDE上でのプローブ−標的ハイブリダイゼーションを研究した。電気化学的洗浄サイクルを使用し、清浄な金電極の安定なサイクリックボルタモグラム(CV)特性が見られるまで、30〜40回の完全なサイクルにわたって、50mMの水性HSO溶液中のAg/AgClを基準とした−0.6V〜+1.65Vの間の線形電位掃引を、50mVの掃引速度でIDE対の両方の電極に加えた。DNA(69−mer ITI021)溶液を調製する前に、ジスルフィドで保護されたヌクレオチドの開裂後に、DNAプローブを、MicroSpin(商標)G−25カラム(Amersham Biosciences(Buckinghamshire, UK))に通すことによって5mMのTCEP溶液を用いて浄化した。
【0069】
マクロ金電極と櫛型マイクロ(IME)電極の両方に関して、EISに関する大きな周波数範囲のナイキストプロットをプロットした。これらを図1に示す。それぞれが、相補的標的結合に関する異なる信号を示す。
【0070】
陽性対照試料(相補的標的が結合されているプローブ)と、陰性対照試料(プローブのみ、または非相補的標的を有するプローブ)との差を、複素インピーダンスから導出されるパラメータに関して比較した。複素インピーダンスは、x+iyと書くことができ、ここでiは(−1)1/2である。これらは以下のものである。
・実数成分(x)
・虚数成分(y)
・母数または絶対値[r=|z|=(x+y1/2
・角度[θ=tan−1(y/x)]
・基本成分1
・基本成分2
【0071】
これらの量それぞれに関して、周波数の対数に対してプロットすることによって、これらの差を検査した(図2参照)。
【0072】
図2は、大きな(マクロ)電極と小さな(櫛型マイクロ)電極との両方に関して、実数成分と母数が同様の情報を提供し、特に周波数範囲の下端で、陽性対照試料と固定化プローブからのEIS信号を最も良く判別することを示す。虚数成分は、周波数範囲の中央でEIS信号を最も良く判別する。
【0073】
TTRを最適化するために、本発明は、すべての実験条件に関して異なるEISデータを最も良く判別する測定の最も有用な周波数範囲および最小数を選択する。等価回路など適合モデルを採用する必要はない。この実施例での統計分析は、陽性対照試料と固定化プローブのEIS信号間の倍率変化を使用して、マクロ金電極と櫛型マイクロ電極(IME)の両方に関して7点最適周波数範囲を決定した。
【0074】
それらの結果を表1にまとめる。
【0075】

【0076】
両タイプの電極に関して、母数データおよび実数成分は、約1桁の周波数にわたり、EIS測定に関する非常に似た最適周波数範囲を与えることに注目すべきである。両タイプの電極に関して、虚数成分は、やはり1桁の周波数にわたり、実数および母数データに関するものよりもわずかに高い周波数で最適な信号を与える。マクロからIMEへの電極寸法の非常に大きな変化は、測定のための最適な周波数範囲にはほとんど影響がなく、応答が電極面積とはほぼ無関係であることに合致し、これはEIS測定を単純化する。倍率変化を使用した相補的ハイブリダイゼーションとモックハイブリダイゼーションの示差分析は、相補的ハイブリダイゼーションと固定化プローブの信号(表2)のものと同様の最適な周波数範囲を与え、同じ測定範囲を使用することができることを裏付けた。
【0077】

【0078】
これらのデータを高速で得ることができるようにするために、多重正弦波技法を採用して、必要な複数の周波数に同時にFFTを適用して結果を分析し、これらのデータを抽出している。図3は、タンパク質マクロ電極実験システムについて、5個の多重正弦波(1桁の周波数にわたる)と15個の多重正弦波(2桁の周波数にわたる)のEIS測定に関して、測定された応答に対する従来使用されている単一正弦波の逐次適用の方法でのEISナイキストプロットの比較を示す。実験データ収集、分析、および表示は、逐次適用に関して数分でPC上で実現された。5個の正弦波に関しては約7秒、15個の正弦波に関しては約23秒であった。この多重正弦波実験に関する成分周波数は、統計分析によって決定される周波数範囲にわたるように選択されており、これは、図示されるEISナイキストプロットにおける電荷移動の半円形状にわたる。すべてのデータの非常に近い対応関係(典型的には0.05%以内)は、多重正弦波EIS手法が、測定の精度を損なわずに、数秒のEIS測定および分析(したがってTTR)に適合するより高速のEISパラメータをもたらすことを示す。
【0079】
実施例2−EISを使用するリアルタイム速度論測定の検査
この実施例では、Abtechからの市販の金IDE上でのプローブ−標的ハイブリダイゼーションの速度論を研究した。電気化学的洗浄サイクルを使用し、清浄な金電極の安定なサイクリックボルタモグラム(CV)特性が見られるまで、30〜40回の完全なサイクルにわたって、50mMの水性HSO溶液中のAg/AgClに対する−0.6V〜+1.65Vの間の線形電位掃引を、50mVの掃引速度でIDE対の両方の電極に加えた。DNA(69−mer ITI021)溶液を調製する前に、ジスルフィドで保護されたヌクレオチドの開裂後に、DNAプローブを、MicroSpin(商標)G−25カラム(Amersham Biosciences(Buckinghamshire, UK))に通すことによって5mMのTCEP溶液を用いて浄化した。
【0080】
洗浄の直後に、チオール化DNAプローブ層を、室温で、2xSSC緩衝液およびそれぞれ10mMの[Fe(CN)3−と[Fe(CN)4−(10mMの[Fe(CN)3−/4−)中の10μMのDNA溶液中に浸漬した。EIS測定は、電極をDNA溶液中に浸漬した直後に開始し、3〜4時間続けた。前述したように、[Fe(CN)3−と[Fe(CN)4−が等濃度で存在することにより、各電極のDC電位が[Fe(CN)3−/4−の還元電位で一定に保たれることが保証されるので、これらの実験全体にわたって、DC電圧を0Vにして、IDE対の電極間に10mVのRMS振幅の正弦電圧を印加した。次いで、修飾した表面を、数分間2xSSCで洗浄し、室温で30分間、水中のMCH1mMでブロッキングした。2xSSC緩衝液での10〜20分間の洗浄後、電極EIS信号を、10mMの[Fe(CM)3−/4−を含む2xSSC緩衝液中で再び測定し、ブロッキングステップ後の変化を調べた。次いで、電極を、10mMの[Fe(CN)3−/4−を含む2xSSC中に溶解された標的(相補的または非相補的)DNA中に浸漬して、再び0VのDCでEIS測定を行った。
【0081】
図4は、1μMの相補的標的(ITI025)とのハイブリダイゼーションの前後での、これらの69−merチオール化DNA修飾プローブ電極の典型的なインピーダンスプロットを示す。高周波数の半円が、マクロ電極とIDE電極の両方に共通の特徴であり、電極表面でのプローブフィルム層を通る電荷移動に関する情報を与える。1μMの相補的標的の追加後、予想通り、プローブ層内での相補的標的−プローブ結合により、この高周波数での半円の直径が増加し、その一方で、より低い周波数での拡散特徴は実質的に変化せず、これは、(予想通り)電極間での拡散に対する影響がほとんどないことを示す。
【0082】
図5は、同様に調製されたIDEの別の例を示す。この場合には、ブロッキング後に陰性対照を行った。すなわち、数時間にわたって、2xSSC中に1μMの非相補的(ITI012)標的と10mMの[Fe(CN)3−/4−を含む溶液中でEISを監視した。予想通り、インピーダンス信号の変化は観察されず、非相補的標的−プローブ結合は示されなかった。この後、電極を2xSSC緩衝液中でリンスし、2xSSC中に1μMの相補的標的DNAと10mMの[Fe(CN)3−/4−を含む溶液中で応答を測定した。1時間後、応答が安定したとき、電極を50nMの標的溶液中に浸漬して、一晩測定した。プローブと1nM標的の相違は小さいが有意であり、50nMに関しては相違が明確に見られる。したがって、EISは、平衡するまで待つ確立された方法を使用して相補的標的の結合を調べている。
【0083】
次に、図6は、リアルタイムで行った典型的なEIS測定を示す。すなわち、プローブフィルム形成およびプローブ−標的ハイブリダイゼーションに対して感度が高いパラメータは、[Fe(CN)3−/4−に関する電子移動抵抗Retであり、これは、EISスペクトルそれぞれのナイキストプロットにおける半円形状の幅を求めることから計算されている。これは、この図では時間の関数としてプロットされている(電子移送に対するRetとして)。
【0084】
これらのデータは、多くの情報を含み、プローブフィルムの確立(菱形)、ブロッキングおよび洗浄(正方形)、プローブ−標的ハイブリダイゼーションの速度論的推移(三角形)を示す。金電極がプローブフィルム溶液にさらされるとき(菱形)、Retの値は、プローブフィルム形成により、最初の約1時間にわたって上昇し、次いで3〜4時間後に定常状態値に低下して、安定な表面フィルムを示す。プローブ溶液を除去して洗浄することによって、観察される値の変化がほとんどないので、この安定性が裏付けられる。[Fe(CN)3−/4−を含む緩衝液(正方形)中で経時的に抵抗を測定するとき、残りの金表面をブロッキングするためにメルカプトヘキサノール(MCH)を添加しても、抵抗の変化はほとんど生じず、これも安定なプローブフィルムを示す。安定なプローブフィルムを確立した後、次いで、速度論的技法を使用して、相補的標的およびヘキサシアノ鉄(III)酸塩/ヘキサシアノ鉄(II)酸塩を含む溶液中でのプローブ−標的結合を監視する。プローブフィルムをこの溶液にさらすと(三角形)、相補的標的−プローブ結合によりRetの即時の上昇が見られる。初期応答は即時であり、最初の時点がRetの増加を示し、最初の1時間以内で値は2倍を超える。この方法は、数秒毎に、速度論的にEIS応答の測定を可能にする(多重正弦波IDF参照)。プローブ−標的結合の増加の速度は、典型的には、標的濃度の1次である(標的濃度に確実に依存する)ことが予想される。したがって、このとき、EISの上昇の速度の分析は、数秒から数分の時間尺度で標的濃度を与えることができる。この後、インピーダンスは、数時間にわたってよりゆっくりと増加し、平衡応答に向けて長時間かけて接近し、これは平衡測定のTTRを制限すると考えられる。標的溶液を除去し、洗浄し、次いで[Fe(CN)3−/4−を含む緩衝液中で応答を測定すると(円形)、Retの遷移変化後、値は、前に観察された値に始めに戻り、これは、応答がプローブ−標的結合を示唆していることを示す。
【0085】
プローブ層形成およびハイブリダイゼーションが金電極で行われたことを確認するために、アビジン標識付きの標的を使用し、このとき、ストレプトアビジン標識されたQdot(QD緩衝液中で20nM)で培養した(室温で1時間)。
【0086】
得られた蛍光画像(図7)から、予想通り、最高の蛍光強度の領域がIDEの金フィンガ上にあることは明らかである。これは、ハイブリダイゼーション後に観察されたRetの増加が、金IDE表面上でのフィルムにおけるプローブ−標的ハイブリダイゼーションに起因するものであることを裏付ける。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体を検出するための方法において、
a)前記検体に交流電圧を印加するステップであって、前記交流電圧が、電気化学インピーダンス分光法(EIS)によって前記検体の有無を見分けるのに十分な複数の重畳された周波数を備えるステップと、
b)EISデータから前記検体の同定および/または量を決定するステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記EISデータが、複素インピーダンス(x+iy)から導出されたデータパラメータを備え、前記パラメータが、
・実数成分(x)
・虚数成分(y)
・母数または絶対値[r=|z|=(x+y1/2
・角度[θ=tan−1(y/x)]
・基本成分1
・基本成分2
の1つまたは複数から選択されることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法において、前記複数の周波数が、統計分析によって、および/または経験的な方法によって、ステップ(a)の前に決定されることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の方法において、重畳された周波数の最小数が2〜20であることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法において、重畳された周波数の数が少なくとも3〜10であることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法において、重畳された周波数の数が少なくとも7であることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか1項に記載の方法において、ステップ(b)が、EISデータに対してフーリエ変換を行うステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項8】
検体を検出するための方法において、
d)前記検体に交流電圧を印加するステップと、
e)前記検体にわたってEIS測定の変化の速度を求めるステップと、
f)変化速度のデータから前記検体の同定および/または量を決定するステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法において、前記EIS測定が、電子移動抵抗Retの測定であることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項8または9に記載の方法において、前記EIS測定が、ナイキストプロットにおける半円形状の幅を求めることから計算される測定であることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1乃至10の何れか1項に記載の方法において、EIS測定を補助するために電解液がシステムに追加されることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法において、前記電解液が遷移金属錯体であることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項11に記載の方法において、前記遷移金属錯体が、[Fe(CN)3−/4−系を含むことを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項1乃至13の何れか1項に記載の方法において、EIS測定を補助するために液体媒体がシステムで採用されることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法において、前記液体媒体がHSOを含むことを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項1乃至15の何れか1項に記載の方法において、前記方法が2つ以上の検体を分析する目的のものであり、さらに、標識によって互いに区別できるように標識付けされた検体を形成するために、各検体に1つまたは複数の標識を付けるステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法において、前記1つまたは複数の標識が、光学的検出および/または電気的検出に適していることを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法において、前記標識が、ナノ粒子、単一分子、化学発光酵素、および蛍光体から選択されることを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法において、前記標識が、分子および/または原子の集合体を含むナノ粒子であることを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法において、前記ナノ粒子が、金属、金属ナノシェル、金属二元化合物、および量子ドットから選択されることを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項20に記載の方法において、前記ナノ粒子が、CdSe、ZnS、CdTe、CdS、PbS、PbSe、HgI、ZnTe、GaAs、HgS、CdAs、CdP、ZnP、AgS、InP、GaP、GaInP、およびInGaNから選択される金属化合物であることを特徴とする方法。
【請求項22】
請求項21に記載の方法において、前記ナノ粒子が、金、銀、銅、カドミウム、セレン、パラジウム、および白金から選択されることを特徴とする方法。
【請求項23】
請求項18乃至22の何れか1項に記載の方法において、前記ナノ粒子が、直径100nm未満であることを特徴とする方法。
【請求項24】
請求項1乃至23の何れか1項に記載の方法において、前記光学的検出法が、吸着された色素からの発光検出、吸光検出、光散乱検出、スペクトルシフト検出、表面プラズモン共鳴撮像、および表面増強ラマン散乱から選択されることを特徴とする方法。
【請求項25】
請求項17乃至24の何れか1項に記載の方法において、前記光学的検出が発光検出であり、前記標識を活性化し、前記標識からの発光の周波数および強度を検出することができる光で、前記標識付けされた検体を照射するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項26】
請求項25に記載の方法において、前記光がレーザ光であることを特徴とする方法。
【請求項27】
請求項25または26に記載の方法において、前記光が、赤外光、可視光、およびUV光から選択されることを特徴とする方法。
【請求項28】
請求項27に記載の方法において、前記光が白色光であることを特徴とする方法。
【請求項29】
請求項1乃至28の何れか1項に記載の方法において、前記検体が、細胞、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、ペプチド断片、アミノ酸、DNA、およびRNAから選択される1つまたは複数の化合物を含むことを特徴とする方法。
【請求項30】
請求項29に記載の方法において、前記検体がプロテアーゼであり、好ましくは創傷治癒に関連付けられるプロテアーゼ、より好ましくはMM8またはMM9であることを特徴とする方法。
【請求項31】
請求項30に記載の方法において、前記検体が、インピーダンス測定プロテアーゼ活性検出を使用して検出されることを特徴とする方法。
【請求項32】
創傷治癒を検出する方法において、請求項30または31に記載のプロテアーゼ検出法を行うステップを含むことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2013−513790(P2013−513790A)
【公表日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−542509(P2012−542509)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【国際出願番号】PCT/EP2010/069043
【国際公開番号】WO2011/069997
【国際公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(507194084)アイティーアイ・スコットランド・リミテッド (30)
【Fターム(参考)】