説明

検体の決定に関する方法、混合物、キットおよび組成物

本発明は、標識試薬を用いた質量分析による検体の決定に関する方法、混合物、キットおよび組成物に関する。この標識試薬は、検体の官能基と反応して、標識された検体を形成する求核性反応基を含む。この標識試薬は、同重体化合物標識のセット、質量の異なる標識のセットであってもよく、同重体化合物標識と質量の異なる標識とを組み合わせたセットとして使用してもよい。また種々の一般式を有する化合物(同じ一般構造式を有するが、同位体によってコードされる化合物を含むセットを含む)を、同重体化合物のセットおよび/または質量が異なるセットの両方の形態で調製することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で使用する章の見出しは、単に構成のためだけに付されており、記載される主題をいかなる様式にも限定すると解釈されるべきではない。
【0002】
(分野)
本発明は、質量分析による検体の決定に関する方法、混合物、キットおよび組成物に関する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
(序論)
本発明は、質量分析による1つ以上の検体の決定に関する。検体は、アミン基またはヒドラジン基と反応して安定な付加物を形成可能な任意の目的分子であってよい。例えば、検体の反応基は、カルボン酸基、アルデヒド基またはケトン基であってもよく、アルデヒド基またはケトン基から形成する付加物を還元し、安定な標識された検体を形成させてもよい。検体の非限定例としては、限定されないが、生物的に重要なカルボン酸化合物(例えば、プロスタグランジン、脂肪酸、カルニチンなど)、タンパク質、ペプチド、炭水化物、脂質、アミノ酸、ステロイド、および1500ダルトン未満の質量を有し、適切な反応性官能基を含む他の低分子が挙げられる。検体は、複雑な混合物中で、検体を相対的および/または絶対的に定量することができるユニークな標識試薬を用いて決定される。標識試薬は、複雑な試料混合物を分析するためのセットとして使用することができ、標識試薬は、同重体化合物(同重体化合物異性体を含む)であってもよく、および/または固有の総質量を有する標識試薬を含んでもよい(すなわち、質量の異なる標識試薬は、「質量の異なるタグ」としても知られる)。
【0004】
例えば、生物学的に重要な化合物(例えば、カルボン酸化合物、例えば、プロスタグランジン、脂肪酸、カルニチンなど)の多重定性分析および多重定量分析は、同重体化合物タグおよび/または質量が異なるタグを利用して行うことができ、いくつかの実施形態では、三連四重極型の、線形のイオン捕捉装置を備えるマルチプルリアクションモニタリング(MRM)を利用して行うことができる。
【0005】
図1aを参照すると、同重体化合物のセットの標識試薬は、レポーター部分と、バランス(またはリンカー)部分と、反応基とを含んでいてもよく、反応基は、組成物の検体と反応する形態で、検体と置き換わる。この一般式の標識試薬および標識された検体の例は、例えば、同時公開され、権利者が共通の米国特許出願公開番号第US 2004−0219685 A1号、第US 2005−0114042 A1号、第US 2005−0147982 A1号、第US 2005−0147985 A1号、第US 2005−0147987 A1号、第US 2005−0148771 A1号、第US 2005−0148773 A1号および第US 2005−0148774 A1号に開示されている。
【0006】
いくつかの実施形態では、同重体化合物(同重体化合物異性体を含む)の標識試薬を使用し、2つ以上の異なるサンプルの検体を標識することができ、異なる標識試薬のセットは、全て同じ総質量を有するが、各レポーター部分は、このセットの各レポーター部分が固有の総質量を有するように、固有の同位体を含む形態でコードすることができる。試薬のセットはすべて同じ総質量を有するが、固有の総質量を有するレポーター部分を含むことができるため、バランス(balance)(またはリンカー)は、一般的に(必須ではないが)、1個以上の重い同位体元素を含み、このセットの各標識試薬のレポーター/リンカーの組み合わせが同じ総質量を有するように、各固有のレポーターの質量の「バランスをとって」もよい。
【0007】
いくつかの実施形態では、質量が異なる標識試薬(すなわち、質量が異なるタグ)を、例えば、2つ以上の異なるサンプルの検体を標識するのに使用することができ、このセットの異なる標識試薬は、すべて別個の質量を有する(すなわち、このセットの他の試薬と比較した場合、既知の質量差を有する)。このセットの試薬はすべて、既知の質量差を有していてもよく、2個の異なるサンプルの似た検体の相対量を定量するために、標識試薬をフラグメント化する必要はない。しかし、いくつかの実施形態では、標識試薬をフラグメント化することができる。
【0008】
以下にさらに詳細に記載するように、種々の一般式を有する化合物(同じ一般構造式を有するが、同位体によってコードされる化合物を含むセットを含む)を、同重体化合物のセットおよび/または質量が異なるセットの両方の形態で調製することができる。一般的に、これらのセットは、同重体化合物の標識のセットまたは質量が異なる標識のセットとして使用することができるが、本発明の一実施形態として包含される同じ実験で、同重体化合物の標識のセットを、質量が異なる標識試薬のセットと組み合わせて同時に使用することもできる。
【0009】
本明細書に十分に記載されるような、新規標識試薬(または標識された検体)の例を図1bに示す。置換されていない形態(RおよびRを除く)を記載しているが、標識試薬は、置換されていても置換されていなくてもよいことは理解されるべきである。この図では、特定の結合がフラグメント化され、標識試薬または標識された検体から、少なくとも固有のレポーター部分と、場合により、バランス部分とが放出されることが記載されている。同重体化合物の標識試薬で標識された、標識検体の場合、各固有のレポーターイオン(シグニチャイオン(signature ion)と呼ばれることもある)が質量分析計(典型的にはMS分析であり、nは1より大きな整数である)で観察され、このレポーターイオンを使用し、サンプルまたはサンプル混合物の検体の量を定量することができる。質量が異なる標識試薬で標識された、標識検体の場合、MS分析で、標識された検体の相対強度を求めることによって定量することができる。
【0010】
図4aには、図1bに示した基本構造を有するAI〜AIV(例えば、RおよびRは、他と独立して、水素またはメチルであってもよい)の標識試薬のセットを有する、4つの異なるコード化態様の標識試薬の2セットを示し、アスタリスク(*)は、適切な場合、12C原子が13C原子に置き換わっているか、14N原子が15N原子に置き換わっているか、または16O原子が18O原子に置き換わっていることを示す。これらのセットを利用し、4乗倍の実験を進めることができる。しかし、これより重い同位体元素で化合物をさらに置換すると、4つの異なる化合物を調製でき、4乗倍よりも多くの実験を行うことが可能になると推定される。
【0011】
一般的に、標識試薬、標識された検体、および標識試薬および/または標識された検体のいくつかの中間体は、式I
【0012】
【化1】

を有する化合物によってあらわすことができる(その塩形態および/または水和物形態を含む)。式中、Zは、水素であるか、または共有結合した検体であってもよく、X、R、R、Y、JおよびKであらわされる原子または基は、以下に詳細に記載されるとおりである。
【0013】
したがって、いくつかの実施形態では、検体は、検体と、式I’
【0014】
【化2】

〔式中、R、R、Y、JおよびKであらわされる原子または基は、以下に詳細に記載されるとおりである。〕
を有する化合物(その塩形態および/または水和物形態を含む)により表される標識試薬とを反応させることによって標識化することができる。いくつかの実施形態では、標識試薬は、異性体化合物および/または同重体化合物を含むセットで使用することができ、この場合、標識された検体は、同様に異性体および/または同重体化合物であってもよい。いくつかの実施形態では、質量が異なる化合物(すなわち、異なる総質量を有する標識試薬)を含むセットで標的試薬を使用することができる。いくつかの実施形態では、同重体化合物(同重体化合物異性体を含む)の標識試薬および質量が異なる標識試薬を一緒に使用する。
【0015】
さらに、いくつかの実施形態では、標識された検体は、式I”
【0016】
【化3】

〔式中、Z”は、標識試薬に共有結合した検体をあらわし、R、R、Y、JおよびKであらわされる原子または基は、以下に詳細に記載されるとおりである。〕
によってあらわすことができる(その塩形態および/または水和物形態を含む)。
【0017】
本明細書に記載されるように、2個、3個、4個またはそれ以上の同重体化合物の標識試薬および/または質量が異なる標識試薬があれば、4乗倍またはそれ以上の実験を行うことができる。例えば、それぞれ異なる状態に標識され、混合された4個の(またはそれ以上の)異なるサンプル中の検体を同時に特定および/または定量することができる。同重体化合物の標識のセットでは、同重体化合物のセットの異なる標識試薬それぞれに関連する固有のレポーターイオンの相対存在量を調べることによって、定量を行うことができる。質量の異なるセットでは、質量の異なるセットの異なる標識試薬それぞれに関連する標識された検体の相対存在量を調べることによって、定量を行うことができる。
【0018】
したがって、本発明の実施形態は、複雑なサンプル混合物の多重分析に特に適している。例えば、本発明のいくつかの実施形態は、プロテオーム解析および/またはゲノム解析に使用することができ、また、ゲノム解析および/またはプロテオーム解析に関連する相関試験にも使用することができる。本発明のいくつかの実施形態は、低分子の分析、例えば、カルニチン、炭水化物、脂質、ステロイド、ビタミン、プロスタグランジン、脂肪酸および/またはアミノ酸の分析に使用することもできる。同重体化合物の試薬および/または質量が異なる試薬を使用可能な試験分析としては、限定されないが、経時試験、バイオマーカー分析、多重プロテオーム解析、多次元タンパク質特定試験、アフィニティープルダウン(affinity pull−down)、翻訳後修飾(PTM)の決定(例えば、米国特許出願公開第US 2005−0208550 A1号を参照)および多重コントロール試験が挙げられる。
【0019】
以下に記載される図面は、説明するためだけのものであることを当業者は理解する。図面は、本発明の教示範囲をいかなる様式にも限定することを意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1aは、標識試薬または標識された検体の要素およびいくつかのフラグメンテーション特性を示す。図1bは、例示的なN−メチルピペラジン系標識試薬または標識検体の一般的な要素およびいくつかのフラグメンテーション特性を示す。図1cは、特定された一般式を有する標識された検体の一般的な要素およびいくつかのフラグメンテーション特性を示す。
【図2】図2は、2個の異なる標識試薬(すなわち、構造AおよびB)の一般構造を示す。
【図3】図3は、構造AおよびBの標識試薬で標識された検体(標識された検体A”およびB”とあらわす)の可能なフラグメンテーション特性を示し、これらから生成する可能なフラグメントの集団を示す。
【図4a】図4aは、それぞれ同じレポーターイオンセットを生成する、同重体化合物標識試薬の2種類の可能なセットを示す(それぞれ構造AおよびBに基づく)。
【図4b】図4bは、図4aに示したレポーターイオン114〜117の可能な構造を示し、コードされていない(すなわち、「コールド状態」)レポーターイオン113の可能な構造も示す。
【図5】図5aおよび図5bは、質量が異なる標識試薬の可能な2つのセットを示す(構造AおよびBにそれぞれ基づく)。
【図6】図6aおよび図6bは、構造AおよびBをそれぞれ有する例示的な化合物で標識検体を標識するプロセスを示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書に引用されるあらゆる文献および類似資料(限定されないが、特許、特許明細書、文献、書籍、論文およびインターネットウェブページを含む)は、その文献および類似資料のフォーマットにかかわらず、任意の目的およびあらゆる目的のために、本明細書に内容全体が参考として明らかに組み込まれる。
【0022】
(定義)
本明細書を解釈するために、以下の定義を適用し、適切な場合にはいつでも、単数形で使用されている用語は複数形の意味も含み、複数形で使用されている用語は単数の意味も含む。以下に記載される任意の定義が、任意の他の文献中の用語の用法と矛盾する場合には、明らかに反対の意味を意図している場合(例えば、その用語が元々使われている文献を解釈する場合)を除き、本明細書および関連する特許請求の範囲を解釈するために、以下に記載する定義が常に優先する。本明細書で「または」の使用は、他に言及されているか、または「および/または」の使用が明らかに不適切である場合を除き、「および/または」を意味する。本明細書で「1つの(a)」は、他に言及されているか、または「1つ以上」の使用が明らかに不適切である場合を除き、「1つ以上」を意味する。「含む(comprise)、「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(include)」、「含む(includes)」および「含む(including)」は、互換可能であり、限定することを意図したものではない。さらに、1つ以上の実施形態の記載が、用語「含む(comprising)」を使用している場合、いくつかの特定の場合に、実施形態または複数の実施形態は、用語「〜から本質的になる(consisting essentially of)」および/または「〜からなる(consisting of)」を使用して記載することができることを当業者は理解する。本教示内容が操作可能なままである限り、いくつかの実施形態では、工程の順序または特定の作業を行う順序は重要ではないことも理解すべきである。さらに、いくつかの実施形態では、2つ以上の工程または作業を同時に行うことができる。
【0023】
(a)本明細書で使用される場合、「検体」は、決定され得る目的の分子を指す。検体の非限定例としては、限定されないが、タンパク質、ペプチド(DNAまたはRNA)、炭水化物、脂質、アミノ酸、ステロイド、ビタミン、プロスタグランジン、脂肪酸、カルニチン、および1500ダルトン(Da)未満の質量を有する他の低分子が挙げられる。検体の供給源または検体を含むサンプルは、任意の供給源から得ることが可能であれば、限定されない。1つ以上の検体は、天然または合成のものであってよい。検体の供給源または検体を含むサンプルの非限定例としては、細胞または組織、またはこれらの培養物(または二次培養物)が挙げられる。検体の供給源の非限定例としては、限定されないが、クルードまたは加工した細胞溶解物、体液、クロマトグラフィー分離、1D電気泳動、2D電気泳動による分離またはキャピラリー電気泳動分離のような分離プロセスから得た組織抽出物、細胞抽出物またはフラクション(または一部分)が挙げられる。体液としては、限定されないが、血液、尿、糞便、髄液、脳脊髄液、羊水、リンパ液または腺分泌物が挙げられる。加工した細胞溶解物とは、細胞溶解物を、細胞を溶解するのに必要な処理に加えて、集めた物質を処理することによってさらに加工したものを意味する。例えば、サンプルは、1つ以上のタンパク質分解酵素で細胞溶解物を処理し、前駆体ペプチドおよび/またはタンパク質を消化することによって得られる1つ以上のペプチド検体を含む細胞溶解物であってもよい。
【0024】
(b)使用されている内容に基づいて明らかに意図していない場合を除き、(例えば、他に示す特定の構造を参照している場合)、「エステル」は、エステルおよび/またはチオエステルの両方を指す。
【0025】
(c)本明細書で使用される場合、「フラグメンテーション」は、共有結合の開裂を指す。
【0026】
(d)本明細書で使用される場合、「フラグメント」(名詞)は、フラグメンテーション生成物またはフラグメンテーションを起こす(動詞)操作を指す。
【0027】
(e)本明細書で使用される場合、「水和物形態」は、化合物または混合物の任意の水和状態または化合物の1つ以上の水和状態を指す。例えば、本明細書に記載の標識試薬は、ヘミ水和物、一水和物、二水和物などであってもよい。さらに、本明細書に記載の標的試薬のサンプルは、一水和物、二水和物およびヘミ水和物の形態を含んでもよい。
【0028】
(f)本明細書で使用される場合、ハロゲン基は、−F、−Cl、−Brまたは−Iを指す。
【0029】
(g)ある化合物を参照して本明細書で使用される場合、「同位体が濃縮された」は、1つ以上の重い同位体元素(例えば、重水素(「D」)、13C、15N、18O、37Clまたは81Brのような安定な同位体)を豊富に含む化合物(例えば標識試薬)を指す。いくつかの実施形態では、不安定な同位体を使用してもよい(例えば、14CまたはH)。「濃縮された」とは、重い同位体元素の量が、その元素の天然の同位体存在量を超えていることを意味する。種々の実施形態では、同位体が濃縮された化合物は、1箇所、2箇所、3箇所、4箇所、5箇所、6箇所、7箇所、8箇所、9箇所、10箇所、11箇所、12箇所、13箇所、14箇所、15箇所、16箇所、17箇所、18箇所、19箇所、20箇所、21箇所、22箇所、23箇所、24箇所、25箇所、26箇所、27箇所、28箇所、29箇所、30箇所またはそれ以上の同位体が濃縮された部位を含んでいてもよい。
【0030】
同位体の濃縮は100%有効ではないので、化合物サンプル中に、求める濃縮状態よりも少ない不純物が存在することがあり、この不純物の質量は目的とする値よりも小さい。同様に、過剰な濃縮(例えば、望ましくない濃縮)および天然にも同位体が存在するため、化合物サンプル中に、質量が目的の値よりも大きな不純物が存在することがある。いくつかの実施形態では、それぞれの組み込まれた重い同位体は、同位体純度が少なくとも80%で、同位体が濃縮された部位に存在してもよい。いくつかの実施形態では、それぞれの組み込まれた重い同位体は、同位体純度が少なくとも93%で、同位体が濃縮された部位に存在してもよい。いくつかの実施形態では、それぞれの組み込まれた重い同位体は、同位体純度が少なくとも96%で、同位体が濃縮された部位に存在してもよい。いくつかの実施形態では、それぞれの組み込まれた重い同位体は、同位体純度が少なくとも98%で、同位体が濃縮された部位に存在してもよい。
【0031】
(h)本明細書で使用される場合、「同位体が濃縮された部位」は、重い同位体元素が、その元素の軽い同位体元素と置き換わっている(例えば、12Cが13Cに、16Oが18Oに、14Nが15Nに、または水素が重水素に置き換わっている)化合物の位置を指す。
【0032】
(i)ある化合物を参照して本明細書で使用される場合、「軽い」は、重い同位体元素で濃縮されていない化合物を指す。ある原子を参照して本明細書で使用される場合、「軽い」は、原子の同位体のうち、最も質量の小さい同位体を指す。ある化合物を参照して本明細書で使用される場合、「重い」は、少なくとも1個の重い同位体元素が濃縮された化合物を指す。ある原子を参照して本明細書で使用される場合、「重い」は、原子の重い同位体元素を指す。
【0033】
(j)本明細書で使用される場合、「標識試薬」は、決定のために検体にマーキングするのに適切な部分を指す。標識との用語は、タグ、マークといった用語および他の等価な用語および句と同義である。例えば、標識された検体は、タグ化された検体またはマーキングされた検体とも称される。したがって、用語「標識」、「タグ」、「質量タグ」、「マーク」およびこれらの用語から誘導される用語は、同義語であり、互換可能であり、決定のために検体をマーキングするのに適している部分、またはすでにマーキングした部分を指す。標的試薬は、タグ化試薬、質量タグ化試薬、または単純に質量タグ(例えば質量が異なるタグ)と呼ばれることもある。
【0034】
(k)本明細書で使用される場合、「天然の同位体存在量」は、1つ以上の同位体の天然での推定存在量に基づく、化合物の1つ以上の重い同位体の濃度(または分布)を指す。例えば、生きている植物原料から得た天然化合物は、典型的には、12Cに対して約1.08%の13Cを含む。
【0035】
(l)本明細書で使用される場合、同重体化合物は、見かけの総重量が同じ、(重い同位体元素の同位体含有量および/または分布を除いて)構造的および化学的に区別できない化合物である。「化学的に区別できない」とは、同重体化合物が、同じ一般的な化学構造を含み(しかし、重い同位体元素の分布は異なる)、実質的に同じ化学反応性および分離性能を有することを意味する。
【0036】
(m)本明細書で使用される場合、「支持体」、「固体支持体」、「固体担体」または「樹脂」は、任意の固体相材料を意味する。固体支持体は、「支持体」、「合成支持体」、「固体相」、「面」、「膜」および/または「支持体」のような用語を包含する。固体支持体は、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフルオロエチレン、ポリエチレンオキシおよびポリアクリルアミドのような有機ポリマーならびにこれらのコポリマーおよびグラフトポリマーから構成されてもよい。固体支持体は、ガラス、シリカ、孔径制御されたガラス(CPG)または逆相シリカのような無機物であってもよい。固体支持体の形状は、ビーズ、球体、粒子、顆粒、ゲル、膜または面の形態であってもよい。面は、平面、実質的に平面または非平面であってもよい。固体支持体は、多孔性または非多孔性であってもよく、膨潤性または非膨潤性であってもよい。固体支持体は、ウェル、凹部または他の容器、管状のもの、ある特徴または配置を有する形態で構成されていてもよい。複数の固体支持体を、試薬を機械によって移動させるためにアドレス付加可能な種々の位置に、または検出方法および/または検出装置によって、整列させることができる。
【0037】
(n)本明細書で使用される場合、「サンプルまたはそのフラクション」または「サンプルフラクション」は、サンプルのフラクションを指すために使用することができる。サンプルのフラクションは、サンプルのフラクションを単純に抜き取ることによって作成するか、またはサンプルを2つ以上のサンプルにフラクション化する分離プロセスを行うことによって作成することができる。記載内容が他の内容を示していない限り、これらの句は、同義であり、互換可能であり、サンプルの任意の種類のフラクション(または一部分)の作成を指す。
【0038】
(o)本明細書で使用される場合、「シグニチャイオン」および「レポーターイオン」は、互換可能であり、両者とも、標識試薬または標識された検体をフラグメント化することにより、レポーター部分から生成した固有の質量を有するレポーターイオンを指す。検体を標識するのに使用する固有の標識試薬を特定するためにシグニチャイオンまたはレポーターイオンを使用し、MS/MS分析(またはMS分析)によるピーク強度と、分析対象のサンプル中に存在する標識された検体の量との相関関係を調べることができる。本明細書で使用される場合、シグニチャイオンまたはレポーターイオンは、単にレポーターと呼ばれることもある。本明細書で使用される場合、レポーター部分は、単にレポーターと呼ばれることもある。レポーター部分が、標識試薬、標識された検体またはこれらのフラグメントに結合する基を指し、レポーターイオンは、標識試薬、標識された検体またはこれらのフラグメントとレポーター部分との結合をフラグメント化した際に生成するフラグメントイオンを指すことが理解されるべきである。したがって、用語「レポーター」が使用される文章は、その目的とする意味を示していることがある。句「固有のレポーター部分」は、「固有の質量を有するレポーター部分」と同義であり、互換可能であり、「固有のレポーターイオン」は、「固有の質量を有するレポーターイオン」と同義であり、互換可能である。
【0039】
(p)本明細書で使用される場合、用語「塩形態」は、ある化合物の塩、またはある化合物の塩の混合物を含む。それに加え、ある化合物の双性イオン形態も、用語「塩形態」に含まれる。アミンまたは他の塩基性基を有する化合物の塩は、例えば、適切な有機酸または無機酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、酢酸、過塩素酸など)との反応によって得ることができる。四級アンモニウム基を有する化合物は、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、酢酸イオン、過塩素酸イオンなどの対イオンを含有してもよい。カルボン酸または他の酸性官能基を有する化合物の塩は、その化合物と適切な塩基(例えば、水酸化物塩基)とを反応させることによって調製することができる。したがって、酸性官能基を有する塩は、対カチオン、例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどを含有してもよい。
【0040】
(q)本明細書で使用される場合、「合成化合物」は、天然に存在する経路の操作を含むプロセスの操作によって作成される化合物を指す。したがって、合成化合物は、合成化学技術を用いて製造することができる。しかし、本明細書で使用される場合、「合成化合物」は、例えば、酵素法(例えば、同位体が濃縮された化合物を細菌または酵母のような微生物に供給し、改変して同位体が濃縮された標識試薬を製造する方法)によって製造される化合物をも含むことを意図している。
【0041】
(r)本明細書で使用される場合、「合成的に濃縮された(synthetically enriched)」または「合成的に濃縮された(enriched synthetically)」は、合成プロセスまたは天然プロセスの操作によって、本明細書に記載される同位体が濃縮された標識試薬または標識試薬の中間体のような合成化合物を製造することを指す。
【0042】
(s)ある原子または分子の質量が、原子の質量数の合計とほぼ同じであるか、原子質量単位の10分の1または100分の1とほぼ同じであると概算できることは、十分に納得できる。本明細書で使用される場合、「総質量」は、絶対質量を指し、さらに、使用した異なる種類の同位体の非常にわずかな質量差が検出可能であるか否かにかかわらず、レポーター部分および/またはリンカー部分の質量のバランスをとるために等価な機能を有する質量の近い異なる種類の原子の同位体を使用する(その結果、レポーター/リンカーの組み合わせの総質量が、異性体標識試薬および/または同重体化合物の標識試薬のセットまたはキット内で同じになる)という範囲内でおおよその質量を指す。
【0043】
例えば、酸素の一般的な同位体は、総質量が16.0(実際の質量15.9949)および18.0(実際の質量17.9992)であり、炭素の一般的な同位体は、総質量が12.0(実際の質量12.00000)および13.0(実際の質量13.00336)であり、窒素の一般的な同位体は、総質量が14.0(実際の質量14.0031)および15.0(実際の質量15.0001)である。これらの値は概算値であるが、あるセットの1つの標識内の同位体が濃縮された部位で18O同位体を使用する場合、例えば、そのセットの16Oを含む異なる標識は、その標識のほかの場所で、2個の12C炭素原子の代わりに2個の13C炭素原子を、2個の14N原子の代わりに2個の15N原子を、または1個の12C原子および14N原子の代わりに1個の13C原子および15N原子を組み込むことによって、18Oの分を補うために、さらに2質量単位(総質量が16.0の酸素同位体と比べて)を補うことができることが、当業者に理解される。この様式で、2個の13C原子(2個の12Cの代わり)、2個の15N原子(2個の14N原子の代わり)、1個の13C原子および1個の15N原子(12Cおよび14Nの代わり)または1個の18O原子(1個の16O原子の代わり)を使用する場合の実際の質量差は非常に小さいため、同重体化合物のセットの2個の異なる標識を同じ総質量にすることができ、セットまたはキットのすべての標識の質量を2ダルトン増加させることができ、このことは、分析の性質を妨害しない。
【0044】
同重体化合物の標識試薬および/または質量が異なる標識試薬のセットを作るために、ある構造内に同じ重い同位体元素を分布させることのみが考慮されるわけではないのは、明らかである。重い原子を何種類か混合し、同重体化合物または所望の総質量を有する質量が異なる標識を得ることが可能である。この様式で、本発明の実施形態で有用な同重体化合物の標識試薬および/または質量が異なる標識試薬の製造において、重い同位体元素およびその分布を選択する(組み合わせる)ことが考慮される。
【0045】
(t)本明細書で使用される場合、用語「アルキル」は、完全に飽和な直鎖または分枝鎖のC〜C炭化水素または環状C〜C炭化水素(すなわち、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基またはシクロヘキシルメチレン基のようなシクロアルキル基)を指す。本明細書で使用する場合、用語「アルキル」は、置換されていても置換されていなくてもよい基を指す。いくつかの実施形態では、用語「アルキル」は、アルキル鎖の1個以上のメチレン基が、−O−、−Si−または−S−のようなヘテロ原子と交換されている化合物を指すことも意図されている。いくつかの実施形態では、アルキル基は、完全に飽和な直鎖または分枝鎖のC〜C炭化水素または環状C〜C炭化水素であってもよい。
【0046】
(u)本明細書で使用される場合、用語「アルキレン」は、少なくとも2個の部分(例えば、−{CH}−(メチレン)、−{CHCH}−、(エチレン)
【0047】
【化4】

など)に対する少なくとも2箇所の結合点を含む、直鎖または分枝鎖のアルキル鎖または環状のアルキル基を指し、角括弧は結合点を示す。本明細書で使用される場合、用語「アルキレン」は、置換されていても置換されていなくてもよい基を指す。いくつかの実施形態では、用語「アルキレン」は、アルキレン基のアルキル鎖中で、1個以上のメチレン基(存在する場合)が、−O−、−Si−または−S−のようなヘテロ原子と交換されている化合物を指すことも意図されている。いくつかの実施形態では、アルキレン基は、C〜C10炭化水素であってもよい。いくつかの実施形態では、アルキレン基は、C〜C炭化水素であってもよい。
【0048】
(v)本明細書で使用される場合、用語「アルケニル」は、1個以上の二重結合を含む、直鎖または分枝鎖のC〜C炭化水素または環状C〜C炭化水素を指す。本明細書で使用される場合、用語「アルケニル」は、置換されていても置換されていなくてもよい基を指す。いくつかの実施形態では、用語「アルケニル」は、アルケニル基のアルキル鎖中で、1個以上のメチレン基(存在する場合)が、−O−、−Si−または−S−のようなヘテロ原子と交換されている化合物を指すことも意図されている。いくつかの実施形態では、アルケニル基は、1個以上の二重結合を含む、直鎖または分枝鎖のC〜C炭化水素または環状C〜C炭化水素であってもよい。
【0049】
(w)本明細書で使用される場合、用語「アルケニレン」は、少なくとも2個の部分に対する2箇所の結合点を含むアルケニル基を指す。本明細書で使用される場合、用語「アルケニレン」は、置換されていても置換されていなくてもよい基を指す。いくつかの実施形態では、用語「アルケニレン」は、アルケニレン基のアルキル鎖中で、1個以上のメチレン基(存在する場合)が、−O−、−Si−または−S−のようなヘテロ原子と交換されている化合物を指すことも意図されている。
【0050】
(x)本明細書で使用される場合、用語「アルキニル」は、1個以上の三重結合を含む、直鎖または分枝鎖のC〜C炭化水素または環状C〜C炭化水素を指す。本明細書で使用される場合、用語「アルキニル」は、置換されていても置換されていなくてもよい基を指す。いくつかの実施形態では、用語「アルキニル」は、アルキニル基のアルキル鎖中で、1個以上のメチレン基(存在する場合)が、−O−、−Si−または−S−のようなヘテロ原子と交換されている化合物を指すことも意図されている。いくつかの実施形態では、アルキニル基は、1個以上の三重結合を含む、直鎖または分枝鎖のC〜C炭化水素または環状C〜C炭化水素であってもよい。
【0051】
(y)本明細書で使用される場合、用語「アルキニレン」は、少なくとも2個の部分に対する2箇所の結合点を含むアルキニル基を指す。本明細書で使用される場合、用語「アルキニレン」は、置換されていても置換されていなくてもよい基を指す。いくつかの実施形態では、用語「アルキニレン」は、アルキニレン基のアルキル鎖中で、1個以上のメチレン基(存在する場合)が、−O−、−Si−または−S−のようなヘテロ原子と交換されている化合物を指すことも意図されている。
【0052】
(z)本明細書で使用される場合、用語「脂肪族」は、上に定義されるような、直鎖、分枝鎖または環状のアルキル部分、アルケニル部分およびアルキニル部分を指す。本明細書で使用する場合、用語「脂肪族」は、置換されていても置換されていなくてもよい基を指す。
【0053】
(aa)本明細書で使用される場合、用語「アリール」は、単独または別の部分の一部分として用いられ(例えば、アリールアルキルなど)、フェニルのような芳香族炭素環基を指す。アリール基は、芳香族炭素環が、別の芳香族炭素環と縮合した縮合多環芳香族環系(例えば、1−ナフチル、2−ナフチル、1−アントラシル、2−アントラシルなど)、または芳香族炭素環が、1つ以上の非芳香族炭素環と縮合した縮合多環芳香族環系(例えば、テトラヒドロナフチレン、インダンなど)を含む。本明細書で使用される場合、用語「アリール」は、置換されていても置換されていなくてもよい基を指す。
【0054】
(ab)本明細書で使用される場合、用語「ヘテロアリール」は、窒素、硫黄および酸素から他と独立して選択される1個、2個、3個または4個のヘテロ原子を含む芳香族ヘテロ環を指す。本明細書で使用される場合、用語「ヘテロアリール」は、置換されていても置換されていなくてもよい基を指す。ヘテロアリールは、1つ、または、2つのの環(例えば、シクロアルキル環、アリール環またはヘテロアリール環)と縮合していてもよい。分子に対するヘテロアリールの結合点は、ヘテロアリール環上、シクロアルキル環上、ヘテロシクロアルキル環上またはアリール環上にあってもよく、ヘテロアリール基は、炭素原子またはヘテロ原子を介して結合していてもよい。ヘテロアリール基の例としては、イミダゾリル、ピローリル、ピリジニル、ピリミジル、ピラジニル、ピリダジニル、キノリル、イソキノリニル、インダゾリル、インドリジニル、イミダゾピリジニル、ピラゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、インドリル、テトラヒドロインドリル、アザインドリル、イミダゾピリジル、キナゾリニル、プリニル、ピロロ[2,3]ピリミジルまたはピラゾロ[3,4]ピリミジルが挙げられ、これらは各々、場合により置換されていてもよい。
【0055】
(ac)本明細書で使用される場合、用語「アリーレン」は、少なくとも2個の部分に対する2箇所の結合点を含むアリール基またはヘテロアリール基を指す(例えば、フェニレンなど)。炭素環、非芳香族環に縮合したアリーレンの結合点は、芳香族環上、非芳香族環上のいずれにあってもよい。本明細書で使用される場合、用語「アリーレン」は、置換されていても置換されていなくてもよい基を指す。
【0056】
(ad)本明細書で使用される場合、用語「アリールアルキル」は、アルキレンリンカーを介して別の部分に結合したアリール基またはヘテロアリール基を指す。本明細書で使用される場合、用語「アリールアルキル」は、置換されていても置換されていなくてもよい基を指す。いくつかの実施形態では、用語「アリールアルキル」は、アリールアルキル基のアルキル鎖中で、1個以上のメチレン基(存在する場合)が、−O−、−Si−または−S−のようなヘテロ原子と交換されている化合物を指すことも意図されている。
【0057】
(ae)本明細書で使用される場合、用語「アリールアルキレン」は、少なくとも2個の部分に対する2箇所の結合点を含むアリールアルキル基を指す。第2の結合点は、芳香族環上またはアルキレン基上のいずれにあってもよい。本明細書で使用される場合、用語「アリールアルキレン」は、置換されていても置換されていなくてもよい基を指す。いくつかの実施形態では、用語「アリールアルキレン」は、アリールアルキレン基のアルキル鎖中で、1個以上のメチレン基(存在する場合)が、−O−、−Si−または−S−のようなヘテロ原子と交換されている化合物を指すことも意図されている。アリールアルキレンが置換されている場合、置換基は、アリールアルキレンの芳香族環またはアルキレン部分のいずれかまたは両方にあってもよい。
【0058】
(af)本明細書で使用される場合、用語「場合により置換された」および「置換されているかまたは置換されていない」は、同義であり、互換可能である。任意のアルキル基、アルキレン基、アルケニル基、アルケニレン基、アルキニル基、アルキニレン基、アリール基、アリールアルキル基、アリーレン基、ヘテロアリール基またはアリールアルキレン基の適切な置換基としては、本発明の実施形態で使用される反応条件下で安定な任意の置換基が挙げられる。適切な置換基の非限定例としては、アルキル(例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、secブチル、t−ブチル、シクロヘキシルなど)基、ハロアルキル(例えば、トリフルオロメチル、2,2,2−トリフルオロエチル−など)基、アルコキシ(例えば、メトキシ、エトキシなど)基、アリール(例えば、フェニル)基、アリールアルキル(例えば、ベンジル)基、ニトロ基、シアノ基、四級化可能な窒素原子またはハロゲン(例えば、フッ素、塩素、臭素および/またはヨウ素)基が挙げられる。
【0059】
それに加え、任意のアルキル基、アルキレン基、アルケニル基、アルケニレン基、アルキニル基、アルキニレン基、アリール基、アリールアルキル基、アリーレン基、ヘテロアリール基またはアリールアルキレン基の任意の一部分は、=Oまたは=Sで置換されていてもよい。
【0060】
(ag)本明細書で使用される場合、用語「活性エステル」は、塩基性条件下で、アミン、アルコールおよび特定のチオールと容易に反応し、それぞれアミド、エステルおよびチオエステルを生成する化合物を指す。さらなる参考文献を以下に挙げる。「活性エステル」が、有機化学分野で十分に確立された用語である証拠として、Leo A Paquette、Encyclopedia of Reagents for Organic Synthesis、第2巻、John Wiley and Sons、New York、1995。
【0061】
(ah)本明細書で使用される場合、用語「ヘテロ環」は、1つ以上の環に少なくとも2個の異なる元素の原子を含む任意の環状分子構造を指す。さらなる参考文献を以下に挙げる。「ヘテロ環」が、有機化学分野で十分に確立された用語である証拠として、Oxford Dictionary of Biochemistry and Molecular Biology、Oxford University Press、Oxford、1997。
【0062】
(ai)本明細書で使用される場合、用語「脱離基」は、置換反応中または交換反応中に反応基質の残りの部分または主要部分と考える部分から離れていく、荷電しているかまたは荷電していない任意の原子または基を指す。さらなる参考文献を以下に挙げる。「脱離基」が、有機化学分野で十分に確立された用語である証拠として、Oxford Dictionary of Biochemistry and Molecular Biology、Oxford University Press、Oxford、1997。
【0063】
(aj)本明細書で使用される場合、用語「保護基」は、分子が次に受ける反応に、分子内の官能基が関与するのを防ぐために、その官能基と反応し、結合するが、その後に除去され、保護されていない官能基を再生する化学基を指す。さらなる参考文献を以下に挙げる。「保護基」が、有機化学分野で十分に確立された用語である証拠として、Oxford Dictionary of Biochemistry and Molecular Biology、Oxford University Press、Oxford, 1997。
【0064】
(種々の実施形態の記載)
この「総論」の章に以下に記載する内容は、本明細書に記載する本発明の種々の実施形態のうちいくつか、または全てに関連することが理解されるべきである。
【0065】
(1.総論)
(標識試薬)
標識試薬は、レポーター部分と、バランス部分(またはリンカー部分)と、反応基とを含んでいてもよい(図1a)。標識試薬は、検体と反応し、標識された検体を生成することができる。いくつかの実施形態では、標識試薬は、セットとしてまとめられる。いくつかの実施形態では、セットは、異性体および/または同重体化合物であってもよい。いくつかの実施形態では、セットは、質量が異なっていてもよい。いくつかの実施形態では、セットは、同重体化合物および/または異性体であって、かつ、質量が異なる化合物であってもよい。
【0066】
いくつかの実施形態では、標識試薬は、図2に示されるように、一般構造AまたはBを有していてもよい。一般構造AおよびBを有する標識試薬は、図3に示されるように、検体と反応し、構造A”およびB”を形成することができる。いくつかの実施形態では、標識された検体は、質量分析計でフラグメント化することができる。いくつかの可能なフラグメントおよびそれぞれの質量を図3に記載している。一般構造AおよびBを有する同重体化合物の標識試薬の2つの可能なセットを図4aに記載しており、可能なレポーターイオンを図4bに記載している。一般構造AおよびBに基づく2セットの質量が異なるタグを図5aおよび5bに記載している。図6aおよび図6bには、一般構造AおよびBを有する標識試薬を用いて検体を標識する方法を示している。
【0067】
(反応基)
本方法、混合物、キットおよび/または組成物の実施形態で使用される1つ以上の標識試薬(又はその複数)の反応基(短縮して「RG」を用いてあらわされることもある)は、サンプルの1つ以上の反応性検体と反応可能な求核性基であってもよい。いくつかの実施形態では、反応基は、リンカー(バランス)と関連する原子または基を含むように考えられてもよいことが理解される。
【0068】
反応基が、以下に記載する特定の部分のいくつかによって表される場合、検体は、1つ以上のさらなる原子または基(リンカー(バランス)の一部分であるように考えられてもよいし、そうでなくてもよい)を介してリンカー(バランス)に結合してもよいことが理解される。
【0069】
反応基は、あらかじめ存在していてもよいし、系中で調製してもよい。反応基の系中での調製は、反応性検体が存在しない状態で行うか、または、反応性検体存在下で行ってもよい。いくつかの実施形態では、反応基は、保護基を系中で除去することによって、系中で発生させることができる。その結果、求核試薬および/または求電子試薬との反応によって検体の誘導体化に影響を与え得る任意の存在する試薬または新規に発生させた試薬が、本発明の方法、混合物、キットおよび/または組成物の実施形態で想定されている。
【0070】
標識試薬の反応基が求核試薬である場合、1つ以上の検体の適切な求電子試薬と反応させることができる。求核基と求電子基との多くの適切な対が知られており、化学分野および生化学分野で多く使用されている。検体(例えば、生物学的に重要なカルボン酸化合物(例えば、プロスタグランジン、脂肪酸、カルニチンなど)、タンパク質、ペプチド、炭水化物、脂質、ステロイド、または1500ダルトン未満の質量を有する他の低分子)とカップリングし、誘導体化に影響を与えることが可能な適切な求核基を含む試薬の非限定例は、Pierce Life Science & Analytical Research Products Catalog & Handbook(a Perstorp Biotec Company)、Rockford、IL 61105、USAに記載されている。他の適切な試薬は当該技術分野で周知であり、Sigma−Aldricのような多くの他の供給元から市販されている。
【0071】
いくつかの実施形態では、標識試薬の反応基は、アミン基またはヒドラジン基のような求核試薬であってもよい。いくつかの実施形態では、求核性反応基は、アミノアルキル基またはアルキルヒドラジン基であってもよい。
【0072】
(レポーター部分)
本発明の実施形態で使用される1つ以上の標識試薬のレポーター部分(短縮して「RP」を用いてあらわされることもある)は、決定可能な固有の質量(または質量分析計中での電荷質量比)を有する基であってもよい。したがって、いくつかの実施形態では、異性体および/または同重体化合物の標識試薬のセットの各レポーター部分は、固有の総質量を有し、対応するシグニチャイオンは、そのセットの標識試薬それぞれについて異なっている。
【0073】
異なるレポーター部分は、1つ以上の重い同位体元素を含み、固有の総質量を有していてもよい。例えば、炭素の同位体(12C、13Cおよび14C)、窒素の同位体(14Nおよび15N)、酸素の同位体(16Oおよび18O)、硫黄の同位体(32Sおよび34S)または水素の同位体(水素、重水素および三重水素)が存在し、レポーター部分の多様な基の調製に使用することができる。他の軽い同位体元素および重い同位体元素をレポーター部分に使用してもよいことを制限するものではない。軽い同位体元素および重い同位体元素を含むレポーター部分を調製するのに適した基本的な出発物質は、Cambridge Isotope Laboratories(マサチューセッツ州アンドーバー)(www.isotope.comの「basic starting materials」のリストを参照)およびIsotec(Sigma−Aldrichの一部門)のような種々の商業的な供給源から得ることができる。Cambridge Isotope LaboratoriesおよびIsotecは、顧客との合成契約に基づいて所望の化合物を調製することもある。同上。
【0074】
レポーター部分は、固定された電荷を有していてもよく、分析プロセス中にイオン化させることもできる。レポーター部分は、固定された電荷を有しているか、またはイオン化するため、標識試薬は、単離するか、または反応性検体を塩形態(または塩の混合物の形態)または双性イオン形態で標識するために使用してもよい。レポーター部分のイオン化(またはレポーターイオン)は、質量分析計での決定を容易にする。したがって、標識された検体中のレポーター部分の存在は、フラグメントイオン(シグニチャイオン(またはレポーターイオン)と呼ばれることもある)として決定することができる。
【0075】
イオン化すると、シグニチャイオン(すなわち、レポーターイオン)は、1つ以上の正電荷または負電荷を有することができる。したがって、このような基は質量分析計で容易にイオン化させることができるため、レポーターイオンは、1つ以上の酸性基および/または塩基性基を有することができる。例えば、レポーター部分は、レポーター部分が、正電荷または負電荷を有するレポーターイオンを生成するように、1つ以上の他の塩基性基または酸性基とバランスのとれた状態で、1つ以上の塩基性窒素原子(正電荷)および/または1つ以上のイオン化可能な酸性基(例えばカルボン酸基、スルホン酸基またはリン酸基)(負電荷)を有することができる。少なくとも1つの塩基性窒素を含むレポーター部分の非限定例としては、置換されているかまたは置換されていないモルホリン、ピペリジンまたはピペラジンを含有する化合物が挙げられる。
【0076】
固有のレポーター部分は、目的のサンプルと関連させ、サンプルの1つ以上の検体を固有のレポーター部分で標識することができる。この様式で、固有のレポーター部分(一般的に、質量分析計で、シグニチャイオン(すなわちレポーターイオン)として検出される)に関する情報を、このサンプルの検体のうち1つまたはすべてについての情報と関連づけることができる。
【0077】
しかし、固有のレポーター部分は、シグニチャイオンが決定されるときに、検体と物理的に結合している必要はない。むしろ、シグニチャイオンの固有の総質量は、例えば、標識された検体のイオンをフラグメント化し、娘フラグメントイオンおよびシグニチャイオンを発生させた後、タンデム質量分析計を用いた第2の質量分析で決定することができる。
【0078】
決定されたシグニチャイオンを使用し、サンプル由来の決定された検体からサンプルを特定することができる。さらに、固有のシグニチャイオンの量(濃度および/または個数としてあらわされることが多い)は、他のシグニチャイオンに対する相対値、または較正標準(例えば、特定のレポーター部分で標識された、サンプル中に予想される検体)と関連するシグニチャイオンに対する相対値のいずれかであり、この量を使用し、1つ以上のサンプル(使用してサンプル混合物を形成するもの)中の検体の相対的および/または絶対的な量(濃度および/または個数としてあらわされることが多い)を決定することができる。いくつかの実施形態では、内部較正標準を使用するのではなく、較正曲線を用いて、種々のシグニチャイオンのピーク強度を比較することによって、絶対的な定量を行うことができる。それゆえに、特定のサンプル中の1つ以上の検体の量のような情報を、それぞれの特定のサンプルを標識するのに使用するレポーター部分と関連づけることができる。1つ以上の検体の特定も行う場合、この情報は、異なるシグニチャイオンに関する情報と相関関係があり、1個のサンプルまたは複数のサンプル中の各標識された検体の特定および量を容易に決定することができる。
【0079】
いくつかの実施形態では、レポーター部分は、置換されているかまたは置換されていないN−アルキル化酢酸部分のメチレン炭素に共有結合した窒素原子を含んでいてもよく、酢酸部分のカルボン酸(またはチオカルボン酸)基のカルボニル基ではない置換されているかまたは置換されていないメチレン炭素は、レポーターの一部分である。したがって、いくつかの実施形態では、カルボン酸(またはチオカルボン酸)基を使用し、リンカーにレポーターを結合することができるが、この基はレポーターの一部分とは考えない。窒素原子は、1個、2個または3個の基でアルキル化されていてもよい。例えば、窒素原子を含む部分は、メチル、エチルまたはプロピル基のような置換された一級アミンであってもよく、またはジメチルアミン、ジエチルアミン、ジ−n−プロピルアミンまたはジイソプロピルアミンのような置換された二級アミンであってもよい。したがって、例えば、レポーター部分「RP」は、以下の式X、X、X、X、X、X、X、XまたはXによってあらわすことができ、レポーター部分「RP」は、以下の角括弧で区切られている。
【0080】
【化5】

レポーター部分は、置換されているかまたは置換されていないN−アルキル化酢酸部分のメチレン炭素に共有結合した環窒素原子を含む5、6または7員環へテロ環であってもよく、検体は、N−アルキル酢酸部分のカルボニル炭素を介して、(直接または間接的に)結合しており、カルボン酸基のカルボニル基ではない置換されているかまたは置換されていないメチレン炭素は、レポーターの一部分である。ヘテロ環は、芳香族であっても非芳香族であってもよい。したがって、レポーター部分は、式Y−J−であらわすことができ、Y基は、5、6または7員環へテロ環をあらわし、J基は、置換されているかまたは置換されていない酢酸部分の置換されているかまたは置換されていないメチレン基をあらわす。ヘテロ環は、置換されていても置換されていなくてもよい。例えば、へテロ環部分の置換基としては、アルキル基、アルコキシ基および/またはアリール基を挙げることができる。置換基は、保護されているかまたは保護されていない基(例えば、検体を支持体に結合するのに適したアミン基、ヒドロキシル基またはチオール基)を含んでいてもよい(図6を参照)。ヘテロ環は、1個以上のケイ素原子、窒素原子、酸素原子および/または硫黄原子のようなさらなるヘテロ原子を含んでいてもよい。したがって、例えば、レポーター部分「RP」は、以下の式X10、X11、X12、X13、X14、X15、X16、X17、X18、X19、X20、X21、X22、X23、X24、X25またはX26によってあらわすことができ、レポーター部分「RP」は、以下の角括弧で区切られている。
【0081】
【化6】

【0082】
【化7】

レポーター部分は、検体の分析に典型的な条件下で実質的にさらにフラグメント化しないように選択することができる。任意のエラーを防ぐために、これは必須ではない任意の特徴である。例えば、レポーターは、質量分析計中で標識された検体をフラグメント化させるのに加える解離エネルギー条件下で実質的にさらにフラグメント化しないように選択することができる。「実質的にさらにフラグメント化しない」とは、標識された検体の首尾よい決定に適用する場合、レポーターのフラグメントが、バックグラウンドノイズ上で検出するのが困難であるかまたは不可能であることを意味する。
【0083】
いくつかの実施形態では、レポーターイオンの総質量は、決定される検体または検体の予想されるフラグメントの質量と比較した場合に異なっているように故意に選択することができる(すなわち、「静穏域(quiet zone)」)。例えば、タンパク質またはペプチドが検体である場合、レポーターイオンの総質量は、天然に存在するアミノ酸またはペプチド、またはこれらの予想されるフラグメントと比較した場合に異なっているように選択することができる。このことにより、検体に依存して、同じ領域にある質量を有するサンプルの任意の可能な成分が存在せず、任意の分析の結果に信頼性が加わるため、検体の決定が容易になる。ペプチドについてバックグラウンドが小さいと予想される質量範囲の例を表1に示している。
【0084】
表1:ペプチド分析に関連する標識フラグメントイオンm/zを選択するための、可能な静穏域
【0085】
【表1】


【0086】
レポーター部分は、ポリマーでなくてもよい。レポーター部分は、250原子質量単位(amu)未満の質量を示すm/zを有するシグニチャイオンを生成するように選択することができる。レポーター部分は、200amu未満の質量を示すm/zを有するシグニチャイオンを生成するように選択することができる。レポーター部分は、150amu未満の質量を示すm/zを有するシグニチャイオンを生成するように選択することができる。このような低分子は、第1の質量分析で同じ領域にある質量を有するサンプルの他の成分が存在しない第2の質量分析で容易に決定することができる。これに関連して、第2の質量分析は、第1の質量分析で決定され、選択されたイオンについて、典型的には、タンデム質量分析計で(または、例えば、一段階装置でのポストソース分解によって)行うことができる。特定の電荷質量比を有するイオンを、可能なフラグメンテーションおよびさらなる質量分析のために、第1の質量分析から特異的に選別することができるため、第1の質量分析から得た選択されていないイオンは、第2の質量分析に向かって運ばれず、それゆえに、第2の質量分析のスペクトルを汚染しない。さらに、質量分析計の感度および検出器(定量用)の直線性は、この低い質量範囲では非常に優れている場合がある。さらに、質量分析技術の現在の状態は、この質量範囲での1ダルトン未満のベースライン質量解像度を可能にしている。これらすべての理由から、上述の特徴を有するレポーターは、本明細書に記載の方法を利用し、複雑な混合物から決定された検体をきわめて正確に定量することができる。
【0087】
(バランス(またはリンカー)部分)
本発明の実施形態で使用可能な1つ以上の標識試薬のバランス(またはリンカー)部分(短縮して「LK」を用いてあらわされることもある)は、検体との反応が起こるか否かに依存し、検体にレポーター部分を結合するか、またはレポーター部分を反応基に結合する。リンカーは、中性種を生成する(すなわち、質量分析計でニュートラルロスを受ける)ように選択することができ、この場合、リンカーをレポーター部分に結合する結合(RL結合)およびリンカーを検体に結合する結合(LA結合)の両方が質量分析計でフラグメント化する。リンカーは、解離エネルギーを受けるとさらにフラグメント化する(さらにフラグメント化し、リンカーの中性フラグメントのみを生成する)ように設計することができる。リンカーは、1つ以上の検出可能なフラグメントを生成するように設計することができる。
【0088】
同重体化合物の試薬セットに関し、リンカー部分は、混合物の各標識された検体のレポーター部分の総質量差、またはセットおよび/またはキットの標識試薬の総質量差を補う質量の1つ以上の重い同位体元素を含んでいてもよい。さらに、レポーター/リンカーの組み合わせ(すなわち、レポーター/リンカー部分)の集合体の総質量(すなわち、全体の総質量)は、混合物の各標識された検体について、またはセットおよび/またはキットの標識試薬について同じであってもよい。より特定的には、リンカー部分は、異なるサンプル由来の標識された検体のレポーター部分の総質量差を補うことができ(各サンプルは、同重体化合物のセットの異なる試薬で標識されている)、レポーター部分の固有の総質量は、それぞれの標識された検体の由来となるサンプルと相関関係にあり、レポーター/リンカーの組み合わせの集合体の総質量は、由来となるサンプルにかかわらず、サンプル混合物の各標識された検体について同じである。この様式で、標識し、混合してサンプル混合物を生成する場合、2個以上の異なるサンプル中の同一の検体の総質量は、同じ総質量を有することができる。
【0089】
例えば、検体を標識するためのセットおよび/またはキットの標識された検体または標識試薬は、同重体化合物であってもよい。それゆえに、特定の電荷質量比を有するイオン(サンプル混合物から得られる)が、サンプル混合物の最初の質量分析から質量分析計で選択され(すなわち、選択されたイオン)、サンプル混合物を構成する異なるサンプル由来の同じ検体が、サンプル混合物中のそれぞれの濃度および/または量に比例して、選択されたイオンであらわされる。したがって、リンカーは、レポーターを検体に結合させるだけではなく、固有のレポーター部分の異なる質量を補い、種々のサンプルの標識された検体のレポーター/リンカー部分の総質量を合わせる役割も果たすことができる(参照。図4aおよびこの図に示される同重体化合物の2セットの標識試薬)。
【0090】
リンカーが、標識試薬のレポーター部分の質量バランスとして作用するため、リンカーの原子数が大きいほど、セットおよび/またはキットの異性体の標識試薬/同重体化合物の標識試薬の可能な数が大きくなる。違う言い方をすると、一般的に、リンカーに含まれる原子の数が多いほど、同位体が、リンカーのほとんどの任意の位置で置換し、リンカー部分の異性体および/または同重体化合物を生成させることができるため、潜在的なレポーター/リンカーの組み合わせの数が多くなる。リンカー部分は、レポーター部分の異なる質量を相殺するのに使用され、これにより、固有の同重体化合物の標識試薬および/または質量が異なる標識試薬のセットを作成することができる。このような多様な標識試薬のセットは、同じサンプルおよび/または異なるサンプルの検体を多重分析するのに特に適している。
【0091】
セットおよび/またはキットの標識試薬の合計数は、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個またはそれ以上の数であってもよい。セットまたはキットの標識試薬の多様性は、レポーター部分およびリンカー部分の原子数、軽い同位体を置き換え可能な重い同位体元素、および同位体を合成的に配置可能な種々の合成形状によってのみ制限される。しかし、上に提案したように、多くの同位体が濃縮された基本出発物質は、Cambridge Isotope Laboratoriesやlsotecのような製造業者から容易に入手可能である。このような同位体が濃縮された基本出発物質を、同重体化合物および質量が異なる標識試薬(すなわち、異なる総質量を有する標識試薬)のセットを製造するのに使用する合成プロセスで使用することができ、または、同重体化合物および質量が異なる標識試薬のセットを製造するのに使用される合成プロセスで使用可能な同位体が濃縮された出発物質を製造するのに使用することができる。
【0092】
いくつかの実施形態では、標識試薬は、質量が異なるタグのセットを含む。これらのセットでは、リンカー部分は、リンカーが、典型的には、異なるレポーターの「バランスをとる」ために使用されるわけではないため、場合により、任意の重い同位体元素を含まない。この様式では、このセットの異なる試薬はそれぞれ固有の質量を有し、標識された検体から開裂する場合、質量分析計で固有のシグニチャイオンを生成可能な固有のレポーター部分を有する。
【0093】
標識試薬のセットで使用するのに適した標識試薬を調製するいくつかの例を、以下に詳細に記載する。例えば、リンカー部分は、式I
【0094】
【化8】

によってあらわすことができ、式中、X、K、RおよびRによってあらわされる原子または基を、以下にさらに詳細に記載する。
【0095】
(レポーター/リンカーの組み合わせ(すなわち、レポーター/リンカー部分))
標識試薬は、互いに直接結合したレポーター部分と、リンカー部分とを含むことができる。上述のように、いくつかの実施形態では、レポーター/リンカー部分は、標識試薬のセットおよび/またはキットの各標的試薬で、総質量が同じであってもよい(すなわち、同重体化合物の試薬のセット)。さらに、レポーター部分をリンカー部分に結合させる結合は、解離エネルギーがかけられると、選択されたイオンの少なくとも一部分でフラグメント化し、リンカー部分および/またはリンカー/検体部分からレポーターイオンを放出するように設計することができる(試薬のセットが同重体化合物であるか否かにかかわらない)。したがって、レポーターイオンの総質量(質量分析計でm/z比として観測される)およびそのイオン強度は、MS/MS分析で直接観察することができる。
【0096】
レポーター/リンカー部分は、セットまたはキットの種々の標識試薬中に、同じ重い同位体元素または異なる重い同位体元素の種々の組み合わせを含んでもよい。科学文献では、このことは、「コーディング」「同位体コーディング」と呼ばれることもあり、または単純に「エンコーディング」と呼ばれることもある。例えば、Abersoldらは、isotope Coded affinityタグ(ICAT;WO00/11208を参照)を開示している。一態様では、Abersoldらの試薬は、Abersoldが、異性体の標識試薬および/または同重体化合物の標識試薬のような2個以上の質量の同じ標識試薬を教示していないという点で、本発明の標識試薬のいくつかとは異なっている。むしろ、Abersoldらは、これらの標識試薬の「軽い」バージョンと「重い」バージョンについて開示している。本明細書に開示される質量が異なる標識試薬に関し、Abersoldの試薬は、質量分析計でフラグメント化して、検体のフラグメント(娘)イオンで観察可能なシグニチャイオンを放出することはない。したがって、Abersoldの試薬とは異なり、本明細書で開示される質量が異なる試薬は、1個のMS/MSスペクトルまたはこのスペクトルを作成するのに適した1個のデータセットの分析によって、検体を特定し、定量することができる。
【0097】
いくつかの実施形態では、レポーター部分および/リンカー部分は、標識試薬または標識された検体を支持体に固定するのに使用可能な原子または基を含むことができる。固定は、直接的であっても間接的であってもよい。例えば、直接的な固定は、レポーターおよび/またはリンカーと関連する原子または基(例えば、レポーターおよび/またはリンカーのアルキルアミン置換基)が、いくつかの実施形態では、支持体の反応基(例えば、開裂可能なリンカー)と直接相互作用し、固定される場合に起こる。対照的に、間接的な固定は、例えば、レポーターおよび/またはリンカーの置換基(例えば、レポーターおよび/またはリンカーのアルキルアミン置換基)が修飾され(例えば、ビオチン化され)、修飾された基が支持体の反応基(例えば、アビジンまたはストレプトアビジン)と相互作用し、固定される場合に起こる。その結果、本発明は、検体が、標識試薬に結合した支持体と反応し、各支持体が固有の標識試薬を含み、異なるサンプルが、異なる支持体と反応する実施形態、およびそれぞれの異なるサンプルが異なる標識試薬と反応し、反応生成物がその後に、同じまたは異なる支持体に固定される実施形態を想定している。いずれの場合であっても、サンプル混合物は、一般的に、質量分析によって分析するために、支持体から標識された検体を開裂させることによって得られる。
【0098】
(質量分析計/質量分析法(MS))
本発明の方法は、タンデム質量分析計、および分子イオンを選択し、フラグメント化する能力を有する他の質量分析計を用いて行うことができる。タンデム質量分析計(およびこれより機能の少ない一段階質量分析計)は、電荷質量(m/z)比によって、分子イオンを選択し、フラグメント化し、得られたフラグメント(娘)イオンのスペクトルを記録する能力を有する。より特定的には、娘フラグメントイオンのスペクトルは、選択されたイオンに解離エネルギーをかけることによって作成することができる(例えば、衝突誘起解離(CID))。例えば、特定のm/z比を有する標識されたペプチドに対応するイオンは、第1の質量分析から選択することができ、第2の質量分析でフラグメント化し、再分析することができる。このようなタンデム質量分析を実施可能な代表的な装置としては、限定されないが、磁気4セクター型、タンデム飛行時間型、三連四重極型、イオン捕捉型、およびハイブリッド四重極型飛行時間型(Q−TOF)の質量分析計が挙げられる。
【0099】
これらの種類の質量分析計を、限定されないが、エレクトロスプレーイオン化(ESI)およびマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)を含む種々のイオン化源と組み合わせて使用してもよい。検体が固定した電荷を有していない場合、イオン化源を使用し、第1の質量分析のために、荷電した化学種を生成させることができる。さらなる質量分析の装置およびフラグメンテーション法としては、MALDI−MS装置でのポストソース分解およびMALDI−TOF(飛行時間)−TOF MSを用いた高エネルギーCIDが挙げられる。近年のタンデム質量分析計に関する総説については、以下を参照されたい。R.AebersoldおよびD.Goodlett、Mass Spectrometry in Proteomics.Chem.Rev.101:269−295(2001)。
【0100】
(解離エネルギーによるフラグメンテーション)
質量分析計で生じるプロセスの結果、結合がフラグメント化することは十分に受け入れられている。さらに、結合のフラグメンテーションは、質量分析計で、イオンに解離エネルギーをかけることによって誘発させることができる。例えば、解離エネルギーは、衝突誘起解離(CID)によって質量分析計で発生させることができる。質量分析計でイオンをフラグメント化するのに使用可能な解離エネルギーの他の非限定例としては、限定されないが、衝突活性化解離(CAD)、光誘起解離(PID))、表面誘起解離(SID))、電子誘起解離(EID)、電子捕獲解離(ECD))、熱赤外/黒体赤外照射解離(BIRD)、ポストソース分解またはこれらの組み合わせが挙げられる。質量分析分野の当業者は、フラグメンテーションを生じさせる解離エネルギーを与える他の例示的な技術としては、限定されないが、光解離、電子捕獲および表面誘起解離が挙げられることを理解する。
【0101】
衝突誘起解離によって結合をフラグメント化するプロセスは、不活性ガスと衝突させながら、選択されたイオンの運動エネルギーを増大させ、衝突点で結合のフラグメンテーションが起こる工程を含む。例えば、運動エネルギーは、衝突セル中で、不活性ガス(例えば、窒素、ヘリウムまたはアルゴン)との衝突によって、移動させることができる。イオンに移動可能な運動エネルギーの量は、衝突セルに入ることができた気体分子の数に比例する。たくさんの気体分子が存在する場合、より多くの運動エネルギーを選択されたイオンに移すことができ、存在する気体分子が少ない場合には、移される運動エネルギーは小さい。
【0102】
それゆえに、質量分析計での解離エネルギーの適用を制御することができることは明らかである。特定の結合は、他の結合よりも不安定であることも十分に受け入れられている。検体またはレポーター/リンカー/コードされていない検出可能な標識部分の結合の不安定性は、検体の性質およびレポーター/リンカー/コードされていない検出可能な標識部分の性質に依存する。したがって、解離エネルギーは、検体および/または標識試薬(例えば、レポーター/リンカーの組み合わせ)が検出可能な様式でフラグメント化するように調整することができる。当業者は、標識された検体のイオンの少なくとも1部分をシグニチャイオン(すなわちレポーターイオン)および娘フラグメントイオンにフラグメント化するのに適切なレベルの解離エネルギーを達成するために、質量分析計の成分に対するこのような通常の調整を行う方法を理解する。
【0103】
例えば、第1の質量分析から選択され/単離されたイオンに、解離エネルギーを与えることができる。タンデム質量分析計では、抽出されたイオンに解離エネルギーをかけ、フラグメント化させ、第2の質量分析計に移動させる。選択されたイオンは、所定の電荷質量比を有することができる。電荷質量比は、質量分析計の特徴に依存して、ある範囲の電化質量比の範囲内にすることができる。衝突誘起解離が使用される場合、衝突セルを通すことによって、第1の質量分析計から第2の質量分析計にイオンを移動させ、そこで解離エネルギーを与え、フラグメントイオンを発生させることができる。例えば、分析のために第2の質量分析計に移されるイオンとしては、残りの(フラグメント化していない)選択されたイオンのいくつかまたは一部分(存在する場合)、および標識された検体のレポーターイオン(シグニチャイオン)および娘フラグメントイオンを挙げることができる。
【0104】
(コンピューターによるデータベース分析による、検体の決定)
いくつかの実施形態では、検体は、娘イオンのフラグメンテーションパターンに基づいて決定することができる。このパターンは、コンピューターによって既知の検体のスペクトルまたは「理論的な」検体のスペクトルと比較することによって分析される。例えば、低エネルギーCID条件下で、フラグメント化したペプチドイオンの娘イオンのスペクトルは、多くの別個のフラグメンテーション事象の合計であると考えられる。一般的な命名法は、開裂するアミド結合に対応する娘フラグメントイオンと、結合分裂後に電荷を保持しているペプチドフラグメントとを区別する(Reopstorffら、Biomed.Mass Spectrom.,11:601(1988))。分裂可能なアミド結合のN末端側で電荷が保持されることによって、b型イオンが生成される。分裂したアミド結合のC末端側に電荷が保持される場合、フラグメントイオンはy型イオンと呼ばれる。b型イオンおよびy型イオンに加え、CID質量スペクトルは、他の特徴的なフラグメントイオン(これらのイオンとしては、グルタミン、リジンおよびアルギニンから生じるアンモニアのニュートラルロス(−17amu)、またはセリンおよびスレオニンのようなヒドロキシル含有アミノ酸から生じる水のロス(−18amu)が挙げられる)を含有することがある。特徴的なフラグメントイオンおよびb型イオンおよびy型イオンは、すべて娘フラグメントイオンである。特定のアミノ酸は、低エネルギーCID状態で他の物質よりも容易にフラグメント化することが観察されている。このことは、特に、プロリン残基またはアスパラギン酸残基を含有するペプチドでは明らかであり、さらに、アスパルチル−プロリン結合を含有するペプチドでも明らかである(Mak,M.ら、Rapid Commun.Mass Spectrom.,12:837−842(1998))。したがって、Z”’−proダイマーまたはZ”’−aspダイマーのペプチド結合(ここで、Z”’は任意の天然アミノ酸であり、proはプロリンであり、aspはアスパラギン酸である)は、他の全てのアミノ酸ダイマーの組み合わせ間のペプチド結合と比較して、より不安定な傾向がある。
【0105】
それゆえに、ペプチドサンプルおよびタンパク質サンプルでは、低エネルギーCIDスペクトルは、b型イオンおよびy型イオン、同じペプチド由来の内部フラグメントイオン、イミニウム、および他のニュートラルロスイオンが重なった多くの冗長配列特異的な情報を含有している。このようなCIDスペクトルを解釈し、親ペプチドのアミノ酸配列をde novoで組み立てることは、非常に困難で時間がかかる作業であるが、できないことはない。配列決定のためのコンピューターによるde novo法の近年の進歩は、Huang,Y.,Ross,P,Smirnov,I,Martin,S.およびPappin,D.2003,Proceedings of 6th International Symposium on MS in Health and Life Sciences(2003年8月24〜28日、カルフォルニア州サンフランシスコ)に記載されている。ペプチド配列の特定における最も顕著な進歩は、ペプチドCIDスペクトルと、タンパク質配列およびDNA配列のデーターベースにすでに存在するペプチド配列とを関連づけるコンピューターアルゴリズムの開発であった。このようなアプローチは、SEQUEST(Eng,J.ら、J.Am.Soc.Mass Spectrom.,5:976−989(1994))およびMASCOT(Perkins,D.ら、Electrophoresis,20:3551−3567(1999))のようなプログラムによって例示されている。
【0106】
簡単にいうと、実験的なペプチドCIDスペクトル(MS/MSスペクトル)を、タンパク質配列またはゲノム配列のデータベースから得たペプチド配列からコンピューターによって作成した「理論的」な娘フラグメントイオンスペクトルと適合させるか、または関連付ける。この適合または関連づけは、MS/MSモードにおける娘フラグメントイオンの質量の予想値と、実測値との類似性に基づいている。適合または関連付けの程度は、フラグメントパターンの実験値と「理論値」とがどれほど一致するかによって点数であらわす。所与のペプチドアミノ酸配列を検索するデーターベースの制約は、1個のペプチドCIDスペクトルで、全ゲノム中または発現配列タグ(EST)のデータベースの任意の所与のタンパク質を特定するのに十分なほど識別性がある。他の総説としては、以下を参照されたい。Yates,J.R.Trends,Genetics,16:5−8(2000)およびYates,J.R.,Electrophoresis 19:893−900(1998)。
【0107】
したがって、MS/MSスペクトルの娘フラグメントイオン分析は、標識された検体を決定するだけではなく、決定された検体の由来となる検体を決定するために使用することもできる。例えば、MS/MS分析におけるペプチドの特定は、タンパク質の酵素的消化の結果、ペプチドが開裂するタンパク質を決定するために使用することができる。このような分析を他の検体(例えば、核酸、脂質ステロイドおよび/またはプロスタグランジン)に適用することができることも想定される。
【0108】
(RL結合およびLA結合)
レポーター部分の原子と、リンカー部分の原子との結合がRL結合である。リンカー部分の原子と、検体の原子との結合がLA結合である。いくつかの実施形態では、解離エネルギーを与えると、RL結合およびLA結合は選択されたイオンの少なくとも一部分でフラグメント化する。それゆえに、いくつかの実施形態では、RL結合およびLA結合が、標識された検体の選択されたイオンの少なくとも一部分でフラグメント化するように、質量分析計で解離エネルギーのレベルが調整される。
【0109】
RL結合のフラグメンテーションにより、検体からレポーター部分が放出され、その結果、レポーターイオンを、検体とは独立して決定することができる。LA結合のフラグメンテーションにより、RL結合がすでにフラグメント化されているか否かに依存して、検体からレポーター/リンカー部分が放出されるか、または検体からリンカーが放出される。いくつかの実施形態では、RL結合は、LA結合よりもさらに不安定である。いくつかの実施形態では、LA結合は、RL結合よりも不安定である。いくつかの実施形態では、RL結合およびLA結合は、同じ相対不安定性を有する。簡単に述べると、RL結合は、フラグメント化してレポーターイオンを放出するように設計されるが、LA結合は、本発明の種々の実施形態でフラグメント化してもフラグメント化しなくてもよい。
【0110】
いくつかの実施形態では、目的の検体がタンパク質またはペプチドの場合、RL結合およびLA結合の相対不安定性は、アミド(ペプチド)結合に関して調整することができる。RL結合、LA結合またはRL結合とLA結合の両方は、典型的なアミド(ペプチド)結合と比較して、より安定であっても、同程度の安定性であっても、より不安定であってもよい。例えば、解離エネルギー条件下で、RL結合および/またはLA結合は、Z”’−proダイマーまたはZ”’−aspダイマー(ここで、Z”’は任意の天然アミノ酸であり、proはプロリンであり、aspはアスパラギン酸である)のペプチド結合と比較して、フラグメント化しにくくてもよい。いくつかの実施形態では、RL結合およびLA結合は、典型的なアミド結合とほぼ同じレベルの解離エネルギーでフラグメント化してもよい。いくつかの実施形態では、RL結合およびLA結合は、典型的なアミド結合より大きな解離エネルギーでフラグメント化してもよい。
【0111】
いくつかの実施形態では、RL結合およびLA結合は、RL結合のフラグメンテーションによってLA結合のフラグメンテーションが起こるように、およびLA結合のフラグメンテーションによってRL結合のフラグメンテーションが起こるように存在してもよい。この様式で、RL結合およびLA結合の両方は、検体またはその娘フラグメントイオンのかなりの量が部分的な標識を含まないように、本質的に同時にフラグメント化してもよい。「検体のかなりの量」は、部分的に標識された検体の25%未満、好ましくは10%未満を、質量分析計(例えば、MS/MS分析)で決定可能であることを意味する。
【0112】
いくつかの実施形態では、質量スペクトル(例えば、MS/MS分析)で、検体の標識されたフラグメントと標識されていないフラグメントとを明確に区別することができ、この特徴は、検体の娘フラグメントイオンを分析するのに使用する質量計算に適用することが必要な標識の残りを補正する必要がないため、娘フラグメントイオンのスペクトルをコンピューターによって分析することによる検出の特定を単純化することができる。さらに、検体のフラグメントイオンが、いくつかの実施形態では、完全に標識されているかまたは標識されていないかのいずれかであり(部分的に標識されてはいない)ため、分裂した結合の同位体分布によって生じる娘フラグメントイオンの質量がほとんど分散していないか、全く分散しておらず、解離エネルギーを与えることによって生じる標識された検体のフラグメンテーションから、同位体は、部分的に標識された検体の1個の不安定な結合の片側に存在する。
【0113】
(検体の標識化)
上に記載したように、検体の官能基と標識試薬の反応基とを反応させることによって、検体を標識することができる。検体の官能基は、求電子基であってもよく、標識試薬の官能基は求核基であってもよい。求電子試薬と求核試薬が反応し、検体と標識試薬との共有結合が形成する。
【0114】
標識化反応は、溶液中で行うことができる。いくつかの実施形態では、検体または標識試薬のうち1つを支持体と結合させることができる。標識化反応は、水性条件下で行うこともある。水性条件は、タンパク質、ペプチドおよび/または核酸のような生体分子を標識するために選択することができる。標識化反応は、有機溶媒中または有機溶媒の混合物中で行うこともある。有機溶媒は、低分子の検体のために選択することができる。水および有機溶媒の混合物または有機溶媒は、広範囲で使用することができる。例えば、水および約5%〜約95%の1つ以上の有機溶媒の溶液(v/v)を調製し、検体を標識するために使用することができる。いくつかの実施形態では、水および約50%〜約95%の1つ以上の有機溶媒の溶液(v/v)を調製し、検体を標識するために使用することができる。いくつかの実施形態では、水および約65%〜約80%の1つ以上の有機溶媒の溶液(v/v)を調製し、検体を標識するために使用することができる。有機溶媒の非限定例としては、N,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトニトリル(ACN)、N−メチルピロリジン(NMP)およびアルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノールおよび/またはブタノール)が挙げられる。当業者は、標識試薬の性質および検体の性質によって、当該技術分野で入手可能な知識および本明細書で与えられる開示内容と、通常の実験とを組み合わせ、それ以上の知識を用いることなく、検体の標識化を容易にする適切な溶媒条件を決定することができる。
【0115】
標識化反応を行う場合、pHを調整してもよい。pHは4〜10の範囲であってもよい。この範囲の外側のpHであってもよい。一般的に、非水系反応の塩基性は、非求核性有機塩基を加えることによって調整することができる。適切な塩基の非限定例としては、N−メチルモルホリン、トリエチルアミンおよびN,N−ジイソプロピルエチルアミンが挙げられる。あるいは、含水溶媒のpHは、(N−[2−ヒドロキシエチル]ピペラジン−N’−[2−エタンスルホン酸)(HEPES)または4−モルホリンエタン−スルホン酸(MES)のような生物学的バッファーまたは炭酸ナトリウムおよび/または炭酸水素ナトリウムのような無機バッファーを用いて調整することができる。反応基の少なくとも1つが求電子試薬であるため、任意の求核基を含有しないバッファーを選択することが望ましい。当業者は、通常の実験を行って、標識試薬を用いた検体の標識を容易にするように標識化反応のpHを調整するのに使用可能な他のバッファーを特定することができる。したがって、当業者は、標識試薬の性質および検体の性質によって、当該技術分野で入手可能な知識および本明細書で与えられる開示内容と、通常の実験とを組み合わせ、それ以上の知識を用いることなく、適切な溶媒およびpHの条件を決定し、検体の標識化を容易にすることができる。
【0116】
(サンプルの加工)
本発明の特定の実施形態では、1つ以上の検体を標識する前に、標識と同時に、および標識した後に、サンプルを加工することができる。加工することにより、1つ以上の検体の標識化を容易にすることができる。加工によって、サンプル成分の分析を容易にすることができる。加工によって、サンプルの取り扱いを単純化することができる。加工によって、上述の2つ以上のことを容易にすることができる。
【0117】
例えば、サンプルを酵素または化学物質で処理することができる。酵素は、プロテアーゼ(タンパク質およびペプチドを分解するため)、ヌクレアーゼ(核酸を分解するため)またはいくつかの他の酵素であってもよい。酵素は、非常に予測しやすい分解パターンを有するように選択することができる。2つ以上のプロテアーゼ酵素および/または2つ以上のヌクレアーゼ酵素を一緒に使用するか、または他の酵素と共に使用し、サンプル成分を分解してもよい。
【0118】
例えば、タンパク質分解酵素であるトリプシンは、リジンとアルギニンとのペプチド結合および非特異的なアミノ酸のペプチド結合を開裂し、アミン末端(N末端)およびリジンまたはアルギニンのカルボキシル末端アミノ酸(C末端)を含むペプチドを生成するセリンプロテアーゼである。この様式で、タンパク質の開裂から得られるペプチドは予測可能であり、トリプシン消化サンプル中のこれらの存在および/または量は、その由来となるタンパク質の存在および/または量を示す指標となり得る。さらに、ペプチドの遊離アミン末端は、標識化を容易にする良好な求核試薬になり得る。他の例示的なタンパク質分解酵素としては、パパイン、ペプシン、ArgC、LysC、V8プロテアーゼ、AspN、プロナーゼ、キモトリプシンおよびカルボキシペプチダーゼ(例えば、カルボキシペプチダーゼA、B、Cなど)が挙げられる。
【0119】
例えば、タンパク質(例えば、タンパク質g)は、トリプシンのようなプロテアーゼで消化すると、3種のペプチドを生成する(例えば、ペプチドB、CおよびD)。したがって、タンパク質分解酵素(例えばトリプシン)で消化され、分析されてペプチドB、CおよびDを含有することが確認されたサンプルは、もともとタンパク質gを含んでいたと言えることになる。ペプチドB、CおよびDの量は、消化されたサンプル中のタンパク質gの量とも相関関係にある。この様式では、サンプル(またはそのフラクション)中のペプチドB、CおよびDのうち1つ以上の特定および/または量の決定を利用し、元々のサンプル(またはそのフラクション)中のタンパク質gを特定および/または定量することができる。
【0120】
酵素活性が予測可能であるため、既知の配列のタンパク質の分解から生じるペプチドの配列も予測することができる。この情報を用いて、「理論的な」ペプチド情報を作成することができる。それゆえに、実際のサンプルの質量分析から、娘フラグメントイオンのコンピューターによる分析(上述)で「理論的な」ペプチドフラグメントを決定し、これを利用して、1つ以上の未知サンプル中の1つ以上のペプチドまたはタンパク質を決定することができる(例えば、上述の「コンピューターによるデータベース分析による、検体の決定」の章を参照)。
【0121】
いくつかの実施形態では、サンプルの加工は、前駆体を、標識される1つ以上の検体に処理することを含んでもよい。例えば、標識される1つ以上の検体が、消化されたタンパク質由来のペプチドである場合、および標識試薬が、例えば、ペプチドまたはペプチド検体と反応するように選択される場合、サンプルのタンパク質(検体前駆体分子)を、標識化反応を容易にする様式で加工してもよい。この例では、タンパク質を還元剤(例えば、トリス[2−カルボキシエチル]ホスフィン(TCEP))で還元し、次いで、チオール基をブロック剤(例えば、メチルメタンチオスルホネート(MMTS))との反応によってブロックしてもよい。この様式では、タンパク質のチオール基がブロックされ、それゆえに、検体のアミンと標識試薬との間の標識化反応は妨害されない。
【0122】
特定の他の前駆体分子の処理が、容易に利用可能な試薬、および通常の実験によって適用可能なプロトコルを用いて行うことができることを当業者は理解する。正確な選択または試薬および条件は、標識される検体および標識試薬の性質によって選択することができる。
【0123】
いくつかの実施形態では、サンプルの加工は、標識試薬で標識されるか否かにかかわらず、検体または検体前駆体を固体支持体に固定することを含んでもよい。固定としては、共有結合による固定および吸着および他の共有結合ではない固定手段(例えば、静電固定)を挙げることができる。いくつかの実施形態では、固定によって、サンプルの複雑化を容易に減らすことができる。いくつかの実施形態では、固定によって、検体の標識を容易にすることができる。いくつかの実施形態では、固定によって、検体前駆体の標識を容易にすることができる。いくつかの実施形態では、固定によって、特定の性能を有する(例えば、システイン部分を含むか、または含まない)サンプル成分のフラクションの選択的な標識を容易にすることができる。いくつかの実施形態では、固定によって、容易に精製することができる。固定によって、2つ以上の上述のことを容易にすることができる。
【0124】
(サンプル混合物の分離を含む分離)
いくつかの実施形態では、標識された検体のサンプルまたはサンプル混合物の加工は、分離を含んでもよい。標識された検体、標識されていない検体、標識された検体前駆体または標識されていない標識前駆体、またはこれらのフラクションに対し、1つ以上の分離を行ってもよい。固相捕捉または他の分離プロセスの生成物から得た1つ以上のフラクションに対し、1つ以上の分離を行ってもよい。上述の2つ以上のものに対し、分離を行ってもよい。
【0125】
例えば、異なるサンプルから、異なる状態に標識された検体を含むサンプル混合物を調製することができる。異なる状態に標識されたとは、各標識が、特定可能な固有の性質を有する(例えば、MS/MS分析で固有の「シグニチャイオン」を生成する固有のレポーター部分を含む)ことを意味する。サンプル混合物を分析するために、サンプル混合物の成分を分離し、サンプル混合物のフラクションにのみ質量分析を行うことができる。この様式では、分離した検体につき、個々に質量を分析することができ、分析プロセスの感度を上げることができるため、分析の複雑化を実質的に低減することができる。もちろん、サンプル混合物の1つ以上のさらなるフラクションについて、分析を1回以上繰り返し、サンプル混合物のすべてのフラクションを分析することができる。
【0126】
サンプル混合物中の存在量に比例した濃度または量で、異なる状態に標識された同じ検体を共に溶出させる分離条件を利用し、サンプル混合物に添加した各サンプルの量が既知である場合に、サンプル混合物に含まれる各サンプル中の各標識された検体の量を決定することができる。したがって、いくつかの実施形態では、サンプル混合物を分離することによって、質量分析(例えばMS/MS分析)で決定されるシグナルと、サンプル混合物中の異なる状態に標識された検体の量との相関関係を維持しつつ、分析を単純化することができる。
【0127】
クロマトグラフィーによって分離を行うことができる。例えば、液体クロマトグラフィー/質量分析(LC/MS)を利用し、サンプルを分離し、質量分析することができる。さらに、目的の検体を分離するのに適した任意のクロマトグラフィー分離プロセスを使用することができる。例えば、クロマトグラフィー分離は、順相クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー(すなわち、アニオン交換クロマトグラフィーまたはカチオン交換クロマトグラフィー)、サイズ排除クロマトグラフィーまたはアフィニティークロマトグラフィーであってもよい。
【0128】
電気泳動によって分離を行うことができる。使用可能な電気泳動分離技術の非限定例としては、限定されないが、1D電気泳動分離、2D電気泳動分離および/またはキャピラリー電気泳動分離が挙げられる。
【0129】
同重体化合物の標識試薬または試薬のセットを使用し、サンプルの検体を標識することができる。同重体化合物の標識試薬は、標識試薬のセットの同重体化合物の標識が、本質的に区別できない(フラグメント化して検体からレポーターを除去するまでは、総質量で区別できない)ため、分離工程が行われる場合に、特に有用である。したがって、異なる同重体化合物の標識で標識された同じ組成物のすべての検体を、実際に同じ様式でクロマトグラフィー処理することができる(すなわち、同時溶出)。これらの検体は本質的に区別できないため、分離プロセスの溶出液は、サンプル混合物中の標識された検体の量に比例した量で、それぞれの同重体化合物で標識された検体を含む。さらに、サンプル混合物を調製する方法(サンプルの一部分および他の任意成分(例えば、較正標準)を加え、サンプル混合物を調製する)の知識から、サンプル混合物中の標識された検体の量を、元々のサンプル中の標識された検体の量と関連付けることができる。
【0130】
標識試薬は、質量が異なる標識試薬(すなわち、異なる総質量を有する標識試薬)であってもよい。質量が異なる標識試薬を使用し、例えば、2つ以上の異なるサンプルの検体を標識することができ、あるセットの異なる標識試薬はすべて別個の質量を有する(すなわち、そのセットの他の試薬と比較して既知の質量差を有する)。そのセットのすべての試薬が既知の質量差を有するため、2個の異なるサンプル中の似た検体の相対量を定量するために、標識試薬をフラグメント化する必要はない。しかし、いくつかの実施形態では、標識試薬はフラグメンテーション可能であってもよい。
【0131】
(検体の相対的および絶対的な定量)
いくつかの実施形態では、サンプル混合物中の、異なる状態に標識された同じ検体の相対的な定量が可能である。例えば、異なる状態に標識された検体の相対的な定量は、質量分析(例えば、第1の質量分析で観察されたもののうち、選択され、標識された検体の第2の質量分析)で決定されたレポーターイオン(すなわち、シグニチャイオン)の相対量(例えば、報告されたピークの面積および/または高さ)を比較することによって可能である。違う言い方をすれば、各レポーターイオンが、サンプル混合物を作成するのに使用した特定のサンプルに関する情報と相関関係にある場合、質量分析で観察された、他のレポーターイオンに対するレポーターイオンの相対量は、サンプル混合物中のその検体の相対量である。混合してサンプル混合物を形成する成分(例えば、混合してサンプル混合物を形成する各成分の量)が既知である場合、使用してサンプル混合物を調製する各サンプル中の検体の相対量を、選択された電荷質量比を有する標識された検体で測定されたレポーターイオンの相対量から算出することができる。このプロセスを、第1の質量分析で観察された、異なる状態に標識された検体すべてについて繰り返すことができる。この様式では、サンプル混合物を作製するため使用された各異なるサンプル中の各反応性検体の相対量(濃度および/または量であらわされることが多い)を決定することができる。
【0132】
他の実施形態では、検体の絶対的な定量も行うことができる。これらの実施形態では、既知の量の1つ以上の異なる状態に標識された検体(1つ以上の較正標準)をサンプル混合物に加えるか、レポーターイオンの強度を較正曲線と関係付けることができる。
【0133】
較正標準は、サンプル混合物を形成するために使用された任意のサンプルと比較した場合に、較正標準に対してレポーター部分が固有である場合に限り、サンプル混合物の検体を標識するのに使用する異性体の標識および/または同重体化合物の標識検体のセットで標識される予想された検体であってもよい。1つ以上の較正標準に対するレポーターイオンの相対量が、サンプル混合物の異なる状態に標識された検体に対するレポーターイオンの相対量と関連して決定されたら、サンプル混合物に添加した1つ以上の較正標準の量を参照して、サンプル混合物中のすべての異なる状態に標識された検体の絶対量(濃度および/または量であらわされることが多い)を算出することができる。この様式で、異なる状態に標識された検体の絶対量(この場合、検体の由来であるサンプル中に較正標準が存在する)を、サンプル混合物を調製した方法の知識に基づいて決定することもできる。
【0134】
あるいは、異なる既知の量の標識された検体を含む、標識された検体のそれぞれのサンプルを分析することによって標準曲線を作成することができる。分析対象の標識された検体(同重体化合物のセット)のレポーターイオンのピーク強度または標識された検体(質量が異なるセット)のピーク強度を、それぞれの既知の量の標識された検体についてプロットし、標準曲線を作成することができる。作成したら、未知のサンプルのレポーターイオンまたは標識された検体(適切な場合)の強度を標準曲線と比較し、試験サンプル中の検体の量を決定することができる。
【0135】
上述のことにもかかわらず、適切な場合、レポーター部分に含まれる天然に存在する同位体存在量または人工的に作成した同位体存在量について、レポーターイオン(シグニチャイオン)の強度の補正を行うことができる。レポーター部分のシグニチャイオン中の不純物の同位体存在量を補正する多くの様式が存在する。このような補正の例は、同時係属中の権利者が共通の米国特許仮出願公開番号第US 2005−0114042 A1号、名称「Method and Apparatus For De−Convoluting A Convoluted Spectrum」(2004年8月12日出願)に記載されている。基本的に、1個の標識試薬の同位体クラスターに関連する質量が大きめのピークおよび小さめのピークの強度は、数式および計算を用いて、標識試薬の重なる同位体クラスターの畳み込みされたスペクトルを逆畳み込みすることによって決定することができる。値を決定する方法にかかわらず、各レポーターイオン(すなわち、シグニチャイオン)の強度を正確に定量することに注意を払えば払うほど、元々のサンプル中の検体の相対的な定量および絶対的な定量の正確度も増す。
【0136】
(プロテオーム分析)
本発明の実施形態は、質量分析技術を用いた迅速かつ繰り返し可能な様式でサンプルを多重化し、分析し、再分析することができるため、複雑な分析に使用することができる。例えば、1つ以上のサンプル中の1つ以上の検体の量について、サンプル混合物を分析することができる。1つ以上の検体の量(濃度および/または量であらわされることが多い)を、サンプル混合物に含まれるサンプルについて決定することができる。サンプルの加工および質量分析を迅速に行うことができるため、これらの方法を何回も繰り返して行うことができ、サンプル混合物の多くの異なる状態に標識されたサンプルの量を、サンプル中に元々含まれていた検体の相対量および/または絶対量に関して決定できる。
【0137】
このような迅速な多重分析が有用である1つの適用例は、プロテオーム分析分野である。プロテオームは、生体プロセスの構造、機能および制御の観点で、ゲノム配列でコードされた情報を記述するための実験的アプローチであると考えられている。これにより、細胞または組織で発現する全タンパク質成分の全体的な分析を行うことができる。本発明の方法、混合物、キットおよび/または組成物の実施形態と組み合わせて使用する質量分析は、このような広範なタンパク質分析の可能なツールの1つである。
【0138】
例えば、9つの同重体化合物の標識試薬のセットを用いると、タンパク質発現の上方制御または下方制御を決定する実験において、例えば、特定の刺激剤に対する成長細胞の応答に基づき、9つの時間点を得ることができる。これより少ない時間点で実施し、1つ以上のコントロールを組み込むことも可能である。同じ多重実験を二連または三連で行うこともできる。あらゆる場合において、タンパク質発現の上方制御または下方制御は、場合により、1つ以上の任意のコントロールおよび/またはサンプルの繰り返しを用いて、1個の多重実験で決定することができる。さらに、サンプル混合物の加工は並行して行われ、結果を直接比較するため、プロトコルまたは実験条件におけるわずかな違いに適用するための補正が必要ない。したがって、これらの同重体化合物の標識試薬を使用可能な実験的分析としては、限定されないが、経時試験、バイオマーカー分析、多重プロテオーム解析、多次元タンパク質特定試験、アフィニティープルダウン(affinity pull−down)、翻訳後修飾(PTM)の決定および多重コントロール試験が挙げられる。
【0139】
(II 組成物)
いくつかの実施形態では、本発明は、式Iによってあらわされる組成物(その塩形態および/または水和物形態を含む)に関する。
【0140】
【化9】

式中、Y−J基は任意のレポーター基であってもよい。適切なレポーター基の特徴は、本明細書ですでに記載したとおりである。適切なレポーター基の特徴は、米国特許出願公開番号US 2004−0219685−A1号の特に41〜47パラグラフにも記載している。
【0141】
例えば、レポーターは、Y基と同様に5、6または7員環へテロ環を含んでもよく、ヘテロ環は、置換されているか、または置換されていなくてもよく、場合により、支持体に開裂可能に結合していてもよく、ヘテロ環は、共有結合を介してJ基に結合する少なくとも1個の窒素環原子を含む。J基は、式−CJ’−によってあらわされる、置換されているかまたは置換されていないメチレン基であってもよく、各J’は、他と独立して、水素、重水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、−R、−OR、−SR、−R’ORまたは−R’SRであってもよい。K基は、式−(CK’−または−((CK’−X−(CK’−であらわされる基であってもよく、nは0であるか、または2〜10の整数であり、各mは、他と独立して、1〜5の整数であり、pは1〜4の整数であり、各K’は、他と独立して、水素、重水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、−R、−OR、−SR、−R’ORまたは−R’SRである。R基およびR基に関し、以下のいずれかである。(1)Rが、水素、重水素またはRであり、Rが、水素、重水素またはRであるか;または(2)RとRとが一緒になって、2個の窒素原子を架橋する環を形成する式−(CR’−または−((CR’−X−(CR’−であらわされる基を構成し、qは1〜10の整数であり、各mは、他と独立して、1〜5の整数であり、pは1〜4の整数であり、各R’は、他と独立して、水素、重水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、−R、−OR、−SR、−R’ORまたは−R’SRである。X原子またはX基は、=O、=S、=NHまたは=NRであってもよい。X原子またはX基は、−O−または−S−であってもよい。Z基は、水素であるか、または共有結合した検体であってもよい。R、R、R、Rおよび/またはRは、それぞれ他と独立して、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリールまたはアリールアルキルであってもよい。例えば、R、R、R、Rおよび/またはRは、他と独立して、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチルまたはtert−ブチルであってもよい。R’、R’および/またはR’は、それぞれ他と独立して、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、アリーレンまたはアルキルアリーレンであってもよい。例えば、R’、R’および/またはR’は、それぞれ他と独立して、メチレン、エチレン、プロピレン、シクロプロピレン、n−ブチレン、シクロブチレン、n−ペンチレン、シクロペンチレン、n−ヘキシレンまたはシクロヘキシレンであってもよい。
【0142】
いくつかの実施形態では、Y−Jは、上述の式X、X、X、X、X、X、X、XまたはXによってあらわされる基であってもよい。いくつかの実施形態では、Y−Jは、上述の式X10、X11、X12、X13、X14、X15、X16、X17、X18、X19、X20、X21、X22、X23、X24、X25またはX26によってあらわされる基であってもよい。
【0143】
本組成物は、同位体が濃縮されて(すなわち、コードされて)いてもよい。本組成物は、1つ以上の重い同位体元素を含むように同位体が濃縮されていてもよい。本組成物は、2つ以上の重い同位体元素を含むように同位体が濃縮されていてもよい。本組成物は、3つ以上の重い同位体元素を含むように同位体が濃縮されていてもよい。本組成物は、4つ以上の重い同位体元素を含むように同位体が濃縮されていてもよい。
【0144】
5、6または7員環へテロ環は、少なくとも1個の窒素原子を含み、この原子にJ基が共有結合した任意の5、6または7員環へテロ環であってもよい。例えば、置換されているかまたは置換されていないモルホリン、ピペリジンまたはピペラジンであってもよい。可能な置換基は、「定義」の章ですでに記載しており、ヘテロ環は、1つ以上の上述の置換基を含んでもよい。例えば、置換基は、水素、重水素、メチル、−C(H)D、−C(H)D、−CDまたは他のアルキルであってもよい(それぞれの場合において、「D」は重水素である)。置換基は環のヘテロ原子に結合していてもよい。例えば、ヘテロ環は、N−メチルピペラジンであってもよい。ヘテロ環は、芳香族であっても非芳香族であってもよい。
【0145】
いくつかの実施形態では、レポーター部分は、支持体に開裂可能に結合していてもよい。種々の支持体は、当該技術分野で周知である。例えば、トリチル部分を含む種々の支持体は、市販されているか、または調製することができる(例えば、塩化トリチル支持体(トリチル−Cl)または2−クロロトリチルクロリド支持体)。
【0146】
例えば、標識試薬のレポーター部分のアミノ基、ヒドロキシル基またはチオール基を、適切な支持体の開裂可能なリンカーと反応させることができる。開裂可能なリンカーは、「立体的に嵩高い開裂可能なリンカー」であってもよい。開裂可能なリンカーの開裂によって、支持体から標識または標識された検体が放出する。立体的に嵩高い固体支持体の非限定例としては、塩化トリチル樹脂(トリチル−Cl、Novabiochem、P/N 01−64−0074)、2−クロロトリチルクロリド樹脂(Novabiochem、P/N 01−64−0021)、DHPP(Bachem、P/N Q−1755)、MBHA(Applied Biosystems、P/N 400377)、4−メチルトリチルクロリド樹脂(Novabiochem、P/N 01−64−0075)、4−メトキシトリチルクロリド樹脂(Novabiochem、P/N 01−64−0076)、ヒドロキシ−(2−クロロフェニル)メチル−PS(Novabiochem、P/N 01−64−0345)、Rink Acid Resin(Novabiochem P/N 01−64−0380、01−64−0202)、NovaSyn TGT アルコール樹脂(Novabiochem、P/N 01−64−0074)が挙げられる。多くの他の開裂可能なリンカーが当該技術分野で既知であり、市販の物質を用い、通常の実験および本明細書に与えられる教示内容を用い、適切な支持体を調製するのに使用することができる。
【0147】
したがって、いくつかの実施形態では、5、6または7員環のヘテロ環は、自身を適切な支持体に開裂可能に結合するのを容易にする原子または基を含んでもよい。例えば、その基は、アミノ基、ヒドロキシル基またはチオール基を含有する、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基またはアルキルアリーレン基であってもよい。上述の原子は、ピペラジン環の二級窒素であってもよい。例示的なピペラジン化合物およびその製造方法に関する記載は、公開された米国特許出願公開番号第US 2004−0219685 A1号にある。例えば、上述の支持体に結合したN−アルキルピペラジン酢酸化合物をジアミンと反応させ、ついで二酸と反応させ、標識試薬として使用可能な支持体に結合した化合物を生成させることができる。ここで、同位体によるコーディングは、反応剤の性質に基づいて可能である。
【0148】
再び式Iを参照し、Y−J基(支持体に開裂可能に結合しているか否かにかかわらない)は、レポーター部分を形成してもよい。レポーター部分は、少なくとも1箇所の同位体が濃縮された部位を含んでいてもよい。レポーター部分は、少なくとも2箇所の同位体が濃縮された部位を含んでいてもよい。レポーター部分は、3箇所、4箇所、5箇所、6箇所、7箇所、8箇所、9箇所、10箇所、11箇所、12箇所、13箇所、14箇所、15箇所、16箇所、17箇所、またはそれ以上の同位体が濃縮された部位を含んでいてもよい。
【0149】
レポーター部分は、固定された電荷を有していてもよく、質量分析計中にてイオン化させることもできる。例えば、塩基性基(例えばアミン基)を含有する化合物は、容易にプロトン化され、電荷が導入され、酸性化合物(例えば、カルボン酸基)は、容易に脱プロトン化され、電荷が導入される(Roth,Kennethら、「Charge Derivatization of Peptides for Analysis by Mass Spectrometry」,Mass Spectrometry Reviews,17:255−274(1998)を参照)。
【0150】
バランス(リンカー)部分は、式I
【0151】
【化10】

によってあらわされる基によって形成されてもよく、式中、R、R、XおよびKは、すでに定義したとおりである。バランス部分は、少なくとも1箇所の同位体が濃縮された部位を含んでもよい。バランス部分は、少なくとも2箇所の同位体が濃縮された部位を含んでいてもよい。バランス部分は、3箇所、4箇所、5箇所、6箇所、7箇所、8箇所、9箇所、10箇所、11箇所、12箇所、13箇所、14箇所、15箇所、16箇所、17箇所、またはそれ以上の同位体が濃縮された部位を含んでいてもよい。
【0152】
いくつかの実施形態では、本組成物は、式II
【0153】
【化11】

(その塩形態および/または水和物形態を含む)によってあらわすことができ、式中、Wは、6員環ヘテロ環の少なくとも1つのM基を置換している原子または基であり、この6員環の窒素のオルト位、メタ位またはパラ位に位置している。W基は、−N(H)−、−N(R”)−、−N(R”’)−、−P(R”)−、−P(R”’)−、−O−または−S−であってもよい。−N(R”’)−または−P(R”)−が選択される場合、この基は、本組成物を支持体に開裂可能に結合するために使用することができる。残りのM基はそれぞれ、他と独立して、−CM’−であってもよく、M’は、それぞれ他と独立して、水素、重水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、−R、−OR、−SR、−R’ORまたは−R’SRであってもよい。J基、K基、X基、R基、R基およびZ基は、すでに定義したとおりである。各R”は、他と独立して、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリールまたはアリールアルキルであってもよく、各R”’は、HN−R’−、H(R10)N−R’−、(R10N−R’−、HO−R’−、HS−R’−であるか、または支持体に化合物を開裂可能に結合する開裂可能なリンカーであってもよい。Rおよび/またはR10は、それぞれ他と独立して、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリールまたはアリールアルキルであってもよく、R’および/またはR’は、それぞれ他と独立して、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、アリーレンまたはアルキルアリーレンであってもよい。
【0154】
いくつかの実施形態では、本組成物は、式III
【0155】
【化12】

(その塩形態および/または水和物形態を含む)によってあらわすことができ、式中、sは0〜5の整数であってもよい。R基、R基およびZ基はすでに定義したとおりである。R11原子またはR11基は、水素、重水素、メチル、−C(H)D、−C(H)D、−CD、他のアルキルまたは−R”’であってもよく、R”’は、すでに定義したとおりである。例えば、本組成物は、以下に示す化合物V〜XIIまたはXXV〜XXXIIのうち1つから選択することができる(その塩形態および/または水和物形態を含む)。
【0156】
【化13】

【0157】
【化14】

【0158】
【化15】

〔式中、*は、適切な場合、12Cと置き換わった13C、14Nと置き換わった15Nまたは16Oと置き換わった18Oを含む同位体が濃縮された部位を示し、Zは、水素であるか、または共有結合した検体である。〕
いくつかの実施形態では、本組成物は、式IVによってあらわすことができる(その塩形態および/または水和物形態を含む)。
【0159】
【化16】

〔式中、R11およびZはすでに定義されたとおりである。〕
例えば、本組成物は、以下に示す化合物XV〜XXIIIまたはXXXV〜XXXXIのうち1つから選択することができる(その塩形態および/または水和物形態を含む)。
【0160】
【化17】

【0161】
【化18】

【0162】
【化19】

〔式中、*は、適切な場合、12Cと置き換わった13C、14Nと置き換わった15Nまたは16Oと置き換わった18Oを含む同位体が濃縮された部位を示し、Zは、水素であるか、または共有結合した検体である。〕
いくつかの実施形態では、本組成物は、式IIIによってあらわすことができる(その塩形態および/または水和物形態を含む)。
【0163】
【化20】

〔式中、R11およびZはすでに定義されたとおりである。〕
例えば、本組成物は、以下に示す化合物M〜MVまたはMVI〜MXIIIのうち1つから選択することができる(その塩形態および/または水和物形態を含む)。
【0164】
【化21】

【0165】
【化22】

【0166】
【化23】

〔式中、*は、適切な場合、12Cと置き換わった13C、14Nと置き換わった15Nまたは16Oと置き換わった18Oを含む同位体が濃縮された部位を示し、Zは、水素であるか、または共有結合した検体である。〕
上述のように、本組成物は、塩形態および/または水和物形態で存在してもよい。本組成物が、塩形態で存在するか否かは、典型的には、置換基の性質および数、ならびに存在する条件および/または単離される条件に依存する。アミンのような塩基性基は、酸で処理することによってプロトン化し、アミン塩を生成することは周知である。例えば、ピペラジンを含有する標識試薬は、1TFA塩、1HCl塩、2TFA塩または2HCl塩として得ることができる(例えば、米国特許出願公開番号第US 2005−0148771 A1を参照)。カルボン酸のような酸性基は、塩基で処理することによって脱プロトン化してカルボン酸塩を生成することも周知である。同上。アミンのような塩基性基およびカルボン酸のような酸性基を両方とも含む化合物は、双性イオン形態として存在してもよいことは周知である。存在する任意の溶液のpH、または単離する場合、単離溶液のpHに依存して、本組成物のこれらの官能基のすべての塩形態およびイオン化状態が考慮される。当業者は、本明細書で与えられる開示内容を用い、通常以上の実験を行うことなく、本明細書に開示する組成物の塩形態の電荷状態および任意の対イオンの性質を操作する方法を確実に理解する。
【0167】
組成物が水和物で存在するか否かは、存在する状態または単離する状態に依存してもよい。水和物は、単に、1つ以上の錯化した水分子を含む。本開示内容は、任意の可能な水和物形態またはこれらの組み合わせを想定している。
【0168】
上述のように、Z基は、共有結合した検体であってもよい。上述の検体は、検体と標的試薬との反応によって調製することができる。検体は、任意の検体であってもよい。例えば、Z基は、ペプチドまたはタンパク質であってもよい。
【0169】
Z基は、水素であってもよく、求核性反応基を含んでいてもよい。
【0170】
標識試薬は、同重体化合物の標識のセットおよび/または質量が異なる標識のセットのようなセットにまとめることができる。標識試薬の他の性質はすでに開示している。例えば、標識試薬は、同じサンプル中の1つ以上の検体、または2つ以上の異なるサンプル中の1つ以上の検体を多重分析するのに有用である。
【0171】
標識試薬は、同位体が濃縮されて(すなわち、エンコードされて)いてもよい。標識試薬は、1つ以上の重い同位体元素を含むように同位体が濃縮されていてもよい。標識試薬は、2つ以上の重い同位体元素を含むように同位体が濃縮されていてもよい。標識試薬は、3つ以上の重い同位体元素を含むように同位体が濃縮されていてもよい。標識試薬は、4つ以上の重い同位体元素を含むように同位体が濃縮されていてもよい。
【0172】
いくつかの実施形態では、本発明の組成物は、標識された較正標準であってもよい。本明細書で記載されるように、既知の量の較正標準を混合物に加え、目的の検体の絶対量の分析を容易にすることができる。したがって、いくつかの実施形態では、本発明は、同重体化合物の標識試薬および/または質量が異なる標識試薬で標識された検体(例えば、目的のペプチド)に関する。したがって、標識された較正標準は、本明細書に記載される標識試薬で標識された任意の検体であってもよい。標識試薬は、同重体化合物の標識試薬および/または質量が異なる標識試薬から選択されてもよい。
【0173】
(III.標識方法および分析方法)
本発明のいくつかの実施形態によれば、検体を標識し、決定することができる。標識された検体、検体自体、検体の1つ以上のフラグメントおよび/または標識のフラグメントは、質量分析によって決定することができる。いくつかの実施形態では、本発明の方法は、同じサンプル中の異なる検体を分析するのに使用することができ、2つ以上の異なるサンプル中の同じ検体および/または異なる検体を多重分析するのに使用することができる。2つ以上のサンプルを混合し、サンプル混合物を作成することができる。多重分析では、標識試薬を使用し、検体の由来となるサンプル混合物のサンプルを決定することができる。組み合わせてサンプル混合物を作成する2つ以上の各サンプル中の検体の絶対的および/または相対的な(例えば、異なるサンプル中の同じ検体に関する)量(濃度または量であらわされることが多い)を決定することができる。さらに、検体のフラグメント(例えば、娘フラグメントイオン)の分析を使用し、検体および/または検体の前駆体(例えば、分解して検体になる前駆体分子)を特定することができる。
【0174】
分析で使用するサンプルは、本明細書に開示の標識試薬で標識可能な検体を含む任意のサンプル(例えば、見出し「組成物」に記載されるもの)であってもよい。例えば、サンプルは、粗細胞溶解物、加工した細胞溶解物、体液、組織抽出物または細胞抽出物であってもよい。サンプルは、分離プロセスから得たフラクションであってもよい。他の可能な種類のサンプルは、本明細書にすでに記載した。
【0175】
サンプル中の検体は、標識試薬で標識可能な任意の検体であってもよい。例えば、検体は、ペプチドおよび/またはタンパク質であってもよい。他の可能な種類の検体は、本明細書にすでに記載した。
【0176】
上述のアプローチの特徴は、異なるサンプル由来の検体を、化学的に同重の化合物(同じ総質量を有する)か、または質量が異なるタグである固有の標識で異なる状態に標識する(すなわち、エンコードする)ことができ、検体の由来となるサンプルを特定することができる点にある。同重体化合物の標識試薬の場合、異なる状態に標識された検体は、すべて同じ(総)電荷質量比を有するため、質量分析計のMSモードでは区別できない。あるセットの標識試薬は、標識された検体が、第1の質量分析の前に混合物に適用される分離技術(例えば、クロマトグラフィーまたは電気泳動)によって区別できないように選択されることが多い。しかし、解離エネルギー(例えば、衝突誘起解離(CID))を与えると、標識は、フラグメント化し、質量分析計で質量(電荷質量比)によって分離可能な固有のレポーターイオンを与える。MS/MS(またはMS分析であり、nは1より大きな整数である)質量スペクトルによって観察される固有のレポーターイオンのそれぞれの相対量は、サンプル混合物中の標識された検体の相対量と相関関係にあり、暗に、由来となるサンプル中の検体の相対量と相関関係にある。したがって、レポーターイオン(すなわちシグニチャイオン)の相対強度を使用し、混合してサンプルを作成した2つ以上の異なるサンプル中の1つ以上の検体の相対量を決定することができる。レポーターイオンの情報から、2つ以上のサンプル中の1つ以上の検体の絶対量(濃度および/または量で表されることが多い)は、絶対的な定量が望ましい各検体の較正標準が、既知の量でサンプル混合物に組み込まれる場合、または、レポーターイオンまたは標識された検体の較正曲線が利用可能である場合に、誘導することができる。
【0177】
例えば、検体は、サンプルを加工するための酵素消化を用い、タンパク質分解から生じるペプチドであってもよい。タンパク質分解は、1つ以上のタンパク質分解酵素(例えば、トリプシン、パパイン、ペプシン、ArgC、LysC、V8プロテアーゼ、AspN、プロナーゼ、キモトリプシンまたはカルボキシペプチダーゼ)でサンプルを処理することによって達成することができる。サンプル混合物中のペプチドの特定および量を決定し、由来となるサンプルを特定し、場合により、そのサンプル由来の他のペプチドの決定と組み合わせることによって、分解したペプチドへの前駆体タンパク質を、由来となるサンプルに関し、特定および/または定量することができる。本方法が、1個以上のサンプル(すなわちサンプル混合物)中の1つ以上のタンパク質の多重分析を可能にするため、この方法は多重法である。
【0178】
その結果、いくつかの実施形態では、本発明は、それぞれ1つ以上の反応性検体を含む2つ以上のサンプルと、標識試薬のセットを含む異なる標識試薬とを反応させ、それぞれ1つ以上の標識された検体を含む2つ以上の異なる状態に標識されたサンプルを形成させる工程を含む。標識試薬は、同重体化合物の標識試薬および/または質量が異なる標識試薬のセットから選択されてもよい。
【0179】
例えば、上述のセットの異なる標識試薬は、式I’
【0180】
【化24】

(その塩形態および/または水和物形態を含む)によってあらわすことができ、Y、J、K、R、RおよびXであらわされる原子または基は、すでに定義したとおりである。いくつかの実施形態では、Yは、置換されているかまたは置換されていないモルホリン部分、ピペリジン部分またはピペラジン部分であってもよい。
【0181】
いくつかの実施形態では、あるセットの標識試薬は、同重体化合物および/または異性体であってもよく、このセットの異なる標識試薬は、それぞれ同じ総質量を有するが、Y−J基のJ基と、標識試薬の残りの部分との結合が質量分析計中でフラグメント化する場合、固有の質量を有するレポーターイオンが生成されるように、各異なる標識試薬のレポーター部分を形成するY−J基は、1箇所以上の同位体が濃縮された部位で固有にコードされる。いくつかの実施形態では、レポーター部分は、置換されているかまたは置換されていないピペリジン基、ピペラジン基またはモルホリン基を含んでいてもよい。
【0182】
いくつかの実施形態では、標識試薬は、セット内のすべての標識が異なる質量を有する、質量が異なるタグのセットであってもよい。これらの標識試薬は、分析が典型的にはMSモードで行われるため、必須ではないが、解離エネルギーをかけるとフラグメント化するように設計することができる。したがって、いくつかの実施形態では、Y−J基のJ基と、標識試薬の残りの部分との結合が質量分析計中でフラグメント化する場合、固有の質量を有するレポーターイオンが生成されるように、このセットの異なる標識試薬のそれぞれのY−J基は、1箇所以上の同位体が濃縮された部位で固有にコードされる。
【0183】
このセットが、同重体化合物(および/または異性体)であるか、または質量が異なっているかにかかわらず、標識試薬がレポーターイオンを生成可能である場合、標識試薬は、いくつかの実施形態では、それぞれが固有の質量を有するように選択することができる。その結果、固有の質量を有する各レポーターイオンを使用し、各標識された検体の由来となるサンプルを特定することができる。
【0184】
式I’の試薬は、求核性窒素を含み、この求核性窒素は、検体のカルボン酸部分と反応し、アミドを形成することができる。求核性窒素は、検体のアルデヒドまたはケトンとも反応するが、典型的には、シッフ塩基(shifts base)が還元され、安定な付加物を形成する。形成方法にかかわらず、サンプル混合物の標識された検体は、式I”
【0185】
【化25】

(その塩形態および/または水和物形態を含む)によってあらわすことができ、Y、J、K、R、RおよびXであらわされる原子または基は、すでに定義したとおりであり、Z”基は、共有結合した検体であってもよい。いくつかの実施形態では、変異のYは、置換されているかまたは置換されていないモルホリン基、ピペリジン基またはピペラジン基であってもよい。
【0186】
標識化プロセスによって、それぞれ1つ以上の標識された検体を含む、2つ以上の異なる状態に標識されたサンプルを製造することができる。各サンプルの検体が、サンプルに固有の標識試薬で標識されると、2つ以上の異なる状態に標識されたサンプルまたはその一部分を混合し、サンプル混合物を作成することができる。サンプル混合物は、場合により、1つ以上の較正標準を含んでいてもよい。
【0187】
混合してサンプル混合物を作成する各サンプルの体積および/または量を記録していてもよい。サンプル混合物の合計体積および/または合計量に対する、各サンプルの体積および/または量を使用し、サンプル混合物の分析から、各サンプル中の特定された検体の量(濃度および/または量であらわされることが多い)を決定するために使用可能な比率を決定することができる。それゆえに、サンプル混合物は、複雑な混合物を含んでいてもよく、同じ検体および/または異なる検体の相対量は、2つ以上の各サンプル中の検体の量を相対的に定量するか、または較正標準をサンプル混合物に加えて絶対的に定量することによって、特定および/または定量可能である。
【0188】
同重体化合物の標識試薬のセットの場合、混合物は、例えば、分光技術で分析することができる。第1の質量分析は、第1の質量分析計を用いて、サンプル混合物またはそのフラクションについて行う。次いで、第1の質量分析から得た特定の電荷質量比を有するイオンを選択することができる。選択されたイオンに解離エネルギー(例えば、衝突誘起解離(CID))を与え、選択されたイオンのフラグメンテーションを誘起する。標識された検体の選択されたイオンに解離エネルギーを与えることによって、選択されたイオンの少なくとも一部分でフラグメント化する。いくつかの実施形態では、両結合のフラグメンテーションによって、レポーター/リンカー部分がフラグメント化し、イオン化したレポーター部分(すなわち、レポーターイオンまたはシグニチャイオン)が検体から放出される。このような種々の標識試薬のフラグメンテーションの例を図1a〜1cに示す。解離エネルギーによる選択されたイオンのフラグメンテーションにより、検体の娘フラグメントイオンが生成される。イオン(残りの選択されたイオン、娘フラグメントイオンおよびイオン化したレポーター部分(すなわちシグニチャイオン))またはこれらのフラクションを、第2の質量分析器へと向かわせることができる。
【0189】
第2の質量分析計では、選択されたイオンおよびそのフラグメントについて、第2の質量分析を行うことができる。第2の質量分析は、選択された電荷質量比で存在する各固有のレポーターイオンの総質量(つまりm/z)および相対量と、サンプル混合物の少なくとも1つの標識された検体の娘フラグメントイオンのいくつかまたはすべての質量(総質量および/または絶対質量)を決定することができる。選択された電荷質量比で存在する各検体について、娘フラグメントイオンを使用し、選択された電荷質量比で存在する1つ以上の検体を特定することができる。例えば、この分析は、すでに「コンピューターによるデータベース分析による、検体の決定」の章に記載したように行うことができる。このように、いくつかの実施形態では、本方法は、第2の質量分析において、各シグニチャイオンの総質量および相対量を決定し、第2の質量分析において、娘フラグメントイオンのいくつかまたは全ての総質量および/または絶対質量を決定する工程をさらに含む。試薬が同重体化合物のセットであるか、質量が異なるセットであるか、または同重体化合物と質量が異なる試薬との組み合わせであるかにかかわらず、レポーターイオンおよび娘フラグメントイオンに関する関連情報が、同じデータセットまたはスペクトルに存在しているため、1個の質量スペクトルまたはこのスペクトルを作成するのに適した1個のデータセットの分析によって、検体の特定および定量が可能である。いくつかの実施形態では、本方法は、娘フラグメントイオンを分析することによって、選択された電荷質量比と関連する標識された検体(および/またはその前駆体)を決定する工程をさらに含む。
【0190】
いくつかの実施形態では、本プロセスの特定の工程を1回以上繰り返してもよい。例えば、いくつかの実施形態では、第1の質量分析から得た、選択された電荷質量比を有するイオンは、任意の前に選択された電荷質量比とは異なった値を有しており、上述のように、これを解離エネルギーで処理し、選択されたイオンの少なくともいくつかのイオン化したレポーター部分(すなわちシグニチャイオン)および娘フラグメントイオンを形成させる。選択されたイオン、レポーターイオンおよび/または娘フラグメントイオン、またはそれらのフラクションの第2の質量分析を行うことができる。第2の質量分析における各固有のシグニチャイオンの総質量および相対量、および娘フラグメントイオンの質量(総質量または絶対質量)も決定することができる。場合により、選択された電荷質量比と関連する標識された検体(または前駆体分子)は、娘フラグメントイオンを分析することによって決定することができる。この様式では、第1の質量分析から、1つ以上のさらなる検体を特定および/または定量するために、情報を利用することができる。
【0191】
いくつかの実施形態では、サンプル混合物がフラクション化されている(例えば、クロマトグラフィーまたは電気泳動で分離されている)場合、プロセスを1回以上繰り返すことが有用である場合もある。例えば、サンプルの1つ以上のさらなるフラクションについて、このプロセスを繰り返すことによって、サンプル混合物全体を分析することができる。いくつかの実施形態では、プロセス全体を1回以上繰り返し、繰り返しの各回で、特定の工程を上述のように1回以上繰り返してもよいことが想定されている。この様式では、サンプル混合物の内容物を詳しく調べ、可能な範囲で最も完全な程度まで決定することができる。プロセス全体を、2つ以上のサンプルの新しいセットについて繰り返してもよい。
【0192】
第1および第2の質量分析を、タンデム質量分析計で行ってもよいことを質量分析の当業者は理解する。タンデム質量分析を行うのに適した装置は、本明細書ですでに記載した。タンデム質量分析計が好ましいが、一段階質量分析計を使用してもよい。例えば、検体のフラグメンテーションは、コーン電圧フラグメンテーションによって誘起し、次いで、得られたフラグメントを一段階四重極質量分析計または飛行時間質量分析計で分析してもよい。他の例では、検体に、レーザー源を用いて解離エネルギーを与え、得られたフラグメントを、飛行時間型質量分析計またはタンデム飛行時間(TOF−TOF)型質量分析計でポストソース分解後に記録してもよい。
【0193】
上述のように、いくつかの実施形態では、標識試薬または標識試薬のセットを支持体に結合してもよい。したがって、標識された検体が支持体に再捕捉される場合を除き、上述の方法は、支持体に結合した試薬で実行することができる。この場合、いくつかの実施形態では、本発明は、上に開示したいずれかの方法の実施に関し、上述のセットの異なる標識試薬は、それぞれ支持体に結合しており、開裂可能なリンカーを介して支持体に結合している。その結果、異なるサンプルがそれぞれ、このセットの異なる標識試薬を保持する支持体と反応し、本方法は、サンプルを標識する工程の後で、標識されたサンプルを混合してサンプル混合物を調製する前に、(i)場合により、支持体を洗浄し、支持体に結合した標識試薬の反応基と反応しないサンプル成分を除去する工程と、(ii)開裂可能なリンカーを開裂させ、支持体から標識された検体を放出させ、各異なる状態に標識されたサンプルは、1つ以上の標識された検体を含み、特定のサンプルと関連する標識された検体が、これに結合した固有の質量を有するレポーター部分によって特定可能および/または定量可能である工程と、(iii)場合により、混合する前に、標識された検体の各サンプルを集める工程とをさらに含む。
【0194】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、サンプルの検体を標識する前に、各サンプルを少なくとも1つの酵素で、サンプルまたはサンプル混合物を部分的または完全な分解成分に消化する工程をさらに含んでもよい(上の「サンプルの加工」の章を参照)。例えば、酵素は、プロテアーゼ(タンパク質および/またはペプチドを分解するため)、ヌクレアーゼ(核酸を分解するため)であってもよい。2つ以上の酵素を一緒に使用し、サンプル成分をさらに分解してもよい。例えば、酵素は、トリプシン、パパイン、ペプシン、ArgC、LysC、V8プロテアーゼ、AspN、プロナーゼ、キモトリプシンまたはカルボキシペプチダーゼ(例えば、カルボキシペプチダーゼA、B、Cなど)のようなタンパク質分解酵素であってもよい。
【0195】
いくつかの実施形態では、これらの方法は、第1の質量分析を行う前に、サンプル混合物を分離する工程をさらに含んでもよい(「サンプル混合物の分離を含む分離」の章も参照)。この様式では、第1の質量分析は、サンプル混合物のフラクションについてだけ行ってもよい。分離は、クロマトグラフィーおよび/または電気泳動を含む、任意の分離方法で行うことができる。例えば、質量分析前に、液体クロマトグラフィー/質量分析(LC/MS)を利用し、サンプルを分離することができる。さらに、目的の検体を分離するのに適した任意のクロマトグラフィー分離プロセスを使用することができる。適切なクロマトグラフィー分離プロセスおよび電気泳動分離プロセスの非限定例は、すでに記載した。
【0196】
いくつかの実施形態では、本方法は、消化工程および分離工程を伴って行うことができる。これらの工程は任意であるが、一緒に行われることが多く、例えば、プロテオーム分析を行い、細胞中のタンパク質の上方制御および下方制御を決定する。いくつかの実施形態では、本方法の工程は、消化工程および/または分離工程を伴っても伴わなくても、1つのサンプル中、または2つ以上の各サンプル中(支持体に結合した標識試薬で標識されたサンプルを含む)の1つ以上の検体を特定および/または定量するために、1回以上繰り返してもよい。較正標準がサンプル混合物中に存在するか否かに依存し、特定の検体の定量は、他の標識された検体に対する相対的なものであってもよく、絶対的なものであってもよい。
【0197】
上述のように、娘フラグメントイオンの質量(総質量または絶対質量)を分析することによって、選択されたイオンに関連する検体を決定することができる。このような1種の決定法は、「コンピューターによるデータベース分析による、検体の決定」の章に記載した。検体が決定されたら、第2の質量分析における各固有のレポーターイオンの総質量および相対量に関する情報および娘フラグメントイオンの質量に関する情報が、サンプル混合物に関する他の情報の決定をもとにして、与えられる。
【0198】
レポーターイオンの相対量は、質量スペクトルのピーク強度によって決定することができる。いくつかの実施形態では、各固有のレポーターイオンの量は、質量分析計を用いて得たレポーターイオン(またはシグニチャイオン)のピーク高さまたはピーク幅(またはピーク面積)を分析することによって決定することができる。各サンプルを異なる標識試薬で標識することができ、固有のレポーターイオンを生成し、このレポーターイオンが、サンプル混合物を配合するのに使用した、特定の異なる状態に標識されたサンプルと相関関係にある固有のレポーター部分を各標識試薬は含んでいてもよいので、第2の質量分析における異なるレポーターイオンの決定を利用し、選択された検体のレポーターイオンの由来となる異なる状態に標識されたサンプルを特定することができる。複数のレポーターイオンが見つかる(例えば、本発明の多重法による)場合、各固有のレポーターイオンの相対量は、他のレポーターイオンに対して決定することができる。第2の質量分析で決定される各固有のレポーターイオンの相対量が、サンプル混合物中の検体の相対量と相関関係にあるため、そして、サンプル混合物を調製するのに使用したサンプルの比率が既知であるため、混合してサンプル混合物を形成する、異なる状態に標識されたサンプルそれぞれに含まれる検体の相対量(濃度および/または量であらわされることが多い)を決定することができる。さらに、決定される検体が、目的の別の化合物由来の副生成物である(例えば、検体が、タンパク質の消化によって得られたペプチドである場合のように、検体が分解反応の生成物である)場合、検体に関する定量情報を、元々の異なる状態に標識されたサンプルの成分と関連づけることができる。
【0199】
上述のように、異なる電荷質量比を有する選択されたイオンについて、この分析を1回以上繰り返し、混合してサンプル混合物を作成する各サンプルの1つ以上のさらなる検体の相対量を得てもよい。さらに、適切な場合、「検体の相対的および絶対的な定量」の章にすでに記載したように、天然に存在する同位体存在量または人工的に作成した同位体存在量について、固有のレポーターイオンに関連するピーク強度の補正を行うことができる。
【0200】
いくつかの実施形態では、検体は、サンプルまたはサンプル混合物中のペプチドであってもよい。サンプルまたはサンプル混合物中のペプチドの分析を利用し、サンプルまたはサンプル混合物中に存在し、1つ以上のサンプル中のタンパク質が第1の質量分析前に分解可能である、特定可能なタンパク質の量(濃度および/または量であらわされることが多い)を決定することができる。さらに、異なるサンプルから得た情報を、細胞の増殖、成長、分化および/または死に影響を与え得る異なる濃度の基質とともにインキュベートした場合、細胞中のタンパク質の量に与える影響を比較するなどの決定のために比較することができる。その他に、非限定例としては、病的な組織または細胞培養物および健康な組織および細胞培養物の発現したタンパク質成分を比較することが挙げられる。このことは、微生物またはウイルスのような感染剤で感染した後、または癌のような他の疾患状態の細胞、組織または生体液中で発現したタンパク質の濃度を比較することも包含してもよい。他の例では、タンパク質濃度の経時変化(時間経過)試験は、細胞または組織で発現したタンパク質成分に対する薬物治療の効果を調べるために行われてもよい。さらに他の例では、時間をかけて異なるサンプルから得た情報を利用し、疾患(例えば癌)または感染の結果、組織、臓器または生体液中の特定のタンパク質を検出し、その濃度を監視してもよい。このような試験は、1つ以上のコントロールサンプルを含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、このような試験を利用し、上述の目的物の2つ以上の特徴を決定することができる。
【0201】
固有のレポーター部分を含む較正標準を、選択された電荷質量比を有する検体に結合させ、この較正標準を、既知の量(濃度および/または量であらわされることが多い)でサンプル混合物に加え、較正標準に関連する固有のレポーターの量を利用し、混合してサンプル混合物を形成する各サンプル中の検体の絶対量(濃度および/または量であらわされることが多い)を決定することができる。サンプル混合物中の較正標準に関する固有のレポーターイオンに関連する検体の量が既知であり、選択されたイオンと関連する標識された検体について、すべての固有のレポーターイオンの相対量を決定することができるため、このことは可能である。各固有のレポーターイオンの相対量は、固有のレポーター部分(較正標準のレポーター部分を含む)について決定されるが、この相対量が、混合してサンプル混合物を形成する、各異なる状態に標識されたサンプルと関連する検体の量と比例するため、各サンプル中の検体の絶対量(濃度および/または量であらわされることが多い)を、サンプル混合物を製造するために使用されるサンプルの配合比率の計算値をもとに、決定することができる。適切な場合、天然に存在する同位体存在量または人工的に作成した同位体存在量について、各固有のレポーターイオンに関連するピーク強度の補正を行うことができる。このような分析法は、複雑な天然物の複数のサンプルのプロテオーム分析に特に有用であり、特に、第1の質量分析の前に行う、標識された検体の予備的分離(例えば、液体クロマトグラフィー分離または電気泳動分離)に特に有用である。
【0202】
例えば、サンプル混合物が、較正標準を100fmol/mL含み、較正標準に関連する固有のレポーターイオンの相対強度が1であり、第1のサンプルに関連する第1の他の固有のレポーターイオンの相対強度が半分であり、第2のサンプルに関連する第2の他の固有のレポーターの相対強度が2であった場合、混合してサンプル混合物を形成する第1の異なる状態に標識されたサンプル中の検体の量(サンプル1とサンプル2とを等量混合してサンプル混合物を形成したとする)は50fmol/mL(0.5×100fmol/mL)であり、混合してサンプル混合物を形成する第2の異なる状態に標識されたサンプル中の検体の量は、200fmol/mL(2×100fmol/mL)である。さらに、例えば、検体が、特定のタンパク質に関連するペプチドである場合、サンプル1中のタンパク質の量は、50fmol/mLであり、サンプル2中のタンパク質の量は、200fmol/mLであると推測される。したがって、較正標準が存在することにより、混合してサンプル混合物を形成する各異なる状態に標識されたサンプル中の標識された検体(およびいくつかの場合には、その前駆体)を絶対的に定量することができる。
【0203】
上述のように、いくつかの実施形態では、各固有のレポーターイオンに対応する固有の質量を有する各シグニチャイオンの絶対量は、較正曲線を参照して決定することができる。したがって、サンプル混合物の各異なるサンプル中の決定された検体の絶対量は、固有の質量を有する各異なるシグニチャイオンの絶対量を参照して決定することができる。
【0204】
上述のように、この分析を、異なる電荷質量比を有する選択されたイオンについて、1回以上繰り返し、混合してサンプル混合物を形成する各サンプル中の1つ以上のさらなる検体の絶対量を得てもよい。さらに適切な場合、上述のように、天然に存在する同位体存在量または人工的に作成した同位体存在量について、各固有のレポーターイオンと関連するピーク強度の補正を行うことができる。
【0205】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法は、式II’
【0206】
【化26】

(その塩形態および/または水和物形態を含む)によってあらわされる標識試薬を用いて行うことができ、式中、W、M、J、K、R、RおよびXは、すでに記載したとおりである。
【0207】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法は、式III’
【0208】
【化27】

(その塩形態および/または水和物形態を含む)によってあらわされる標識試薬を用いて行うことができ、s、R、RおよびR11は、すでに記載したとおりである。例えば、本方法は、以下に示す式V’〜XII’
【0209】
【化28】

【0210】
【化29】

(その塩形態および/または水和物形態を含む)によってあらわされる少なくとも1つの標識試薬を用いて行うことができ、RおよびRはすでに記載したとおりであり、記号*は、適切な場合、12Cと置き換わった13C、14Nと置き換わった15Nまたは16Oと置き換わった18Oを含む同位体が濃縮された部位を示す。
【0211】
いくつかの実施形態では、本方法は、式IV’
【0212】
【化30】

(その塩形態および/または水和物形態を含む)によってあらわされる少なくとも1つの標識試薬を用いて行うことができ、R11はすでに記載したとおりである。例えば、例えば、本方法は、以下に示す式XV’〜XXIII’
【0213】
【化31】

【0214】
【化32】

(その塩形態および/または水和物形態を含む)によってあらわされる少なくとも1つの標識試薬を用いて行うことができ、式中、*は、適切な場合、12Cと置き換わった13C、14Nと置き換わった15Nまたは16Oと置き換わった18Oを含む同位体が濃縮された部位を示す。
【0215】
いくつかの実施形態では、本方法は、式III
【0216】
【化33】

(その塩形態および/または水和物形態を含む)によってあらわされる少なくとも1つの標識試薬を用いて行うことができ、式中、R11はすでに記載したとおりである。例えば、例えば、本方法は、以下に示す式M’〜MV’
【0217】
【化34】

(その塩形態および/または水和物形態を含む)によってあらわされる少なくとも1つの標識試薬を用いて行うことができ、式中、*は、適切な場合、12Cと置き換わった13C、14Nと置き換わった15Nまたは16Oと置き換わった18Oを含む同位体が濃縮された部位を示す。
【0218】
上述のように、いくつかの実施形態では、本方法は、質量が異なるタグのセットを用いて行うことができる。それゆえに、いくつかの実施形態では、本方法は、サンプル混合物またはそのフラクションについて第1の質量分析を行う工程と、標識された検体に関連する相対ピーク強度を決定する工程とをさらに含んでもよい。娘イオンフラグメントを分析することによって検体の正体を判別することができるため、本方法は、標識された検体のイオンを解離エネルギーでフラグメント化し、娘イオンフラグメントを得る工程と、娘イオンフラグメントから検体を特定する工程とをさらに含んでもよい。
【0219】
いくつかの実施形態では、本方法は、以下に示す式XXV’〜XXXII’
【0220】
【化35】

または
【0221】
【化36】

(その塩形態および/または水和物形態を含む)によってあらわされる少なくとも1つの標識試薬を用いて行うことができ、式中、*は、適切な場合、12Cと置き換わった13C、14Nと置き換わった15Nまたは16Oと置き換わった18Oを含む同位体が濃縮された部位を示す。
【0222】
いくつかの実施形態では、本方法は、以下に示す式XXXV’〜XXXXI’
【0223】
【化37】

または
【0224】
【化38】

(その塩形態および/または水和物形態を含む)によってあらわされる少なくとも1つの標識試薬を用いて行うことができ、式中、*は、適切な場合、12Cと置き換わった13C、14Nと置き換わった15Nまたは16Oと置き換わった18Oを含む同位体が濃縮された部位を示す。
【0225】
いくつかの実施形態では、本方法は、以下に示す式MVI’〜MXIII’
【0226】
【化39】

または
【0227】
【化40】

(その塩形態および/または水和物形態を含む)によってあらわされる少なくとも1つの標識試薬を用いて行うことができ、式中、*は、適切な場合、12Cと置き換わった13C、14Nと置き換わった15Nまたは16Oと置き換わった18Oを含む同位体が濃縮された部位を示す。
【0228】
(プロテオームワークフロー)
いくつかの実施形態では、サンプルの検体の標識化は、サンプル加工工程を行う前に行ってもよい。いくつかの実施形態では、検体の標識化は、他のサンプルの加工工程の間に行ってもよい。いくつかの実施形態では、検体の標識化は、サンプル加工の最後の工程および/またはサンプルを調製する直前の工程である。
【0229】
非限定例としてプロテオーム分析を用い、使用可能な少なくともいくつかの可能なワークフローが存在する。以下の記載の理解を助けるために、前駆体タンパク質と検体ペプチドとを時おり対比している。しかし、種々の実施形態では、タンパク質および/またはペプチドのうち片方または両方が、本明細書に記載の考慮される検体であることが理解されるべきである。
【0230】
ある種類のワークフローでは、前駆体のタンパク質をペプチド検体に消化し、その後に標識してもよい。別の種類のワークフローでは、前駆体のタンパク質を標識試薬で標識し、次いで標識されたペプチド検体に消化してもよい。別の種類のワークフローでは、前駆体のタンパク質を固体支持体に捕捉し、消化し、次いで、支持体に結合したペプチドを標識化してもよい。場合により、ペプチド流を標識してもよい。別の種類のワークフローでは、前駆体のタンパク質を固体支持体に捕捉し、標識し、次いで、支持体に結合したタンパク質を消化し、標識されたペプチドを得てもよい。場合により、ペプチド流を標識してもよい。ワークフローにかかわらず、MS分析およびMS/MS分析前に望ましい場合、標識されたペプチドについて、さらなるサンプル加工工程(例えば、分離工程)を行ってもよい。
【0231】
(消化後に標識化を含む、例示的なワークフロー)
一例として、「コントロール」サンプルおよび分析対象の「試験」サンプルが存在してもよい。例えば、最終目的が、「コントロール」サンプルのタンパク質および「試験」サンプルのタンパク質のペプチドを(検体として)分析することである場合、サンプルのタンパク質を、いくつかの実施形態では、場合により還元し、場合によりシステインブロックし、酵素で消化し、後続の分析用に標識化可能な検体ペプチドを得てもよい。検体ペプチドは、いくつかの実施形態では、さらなるサンプル加工を行うことなく、標識(タグ化)されてもよい。標識化する方法にかかわらず、各異なるサンプルの検体は、固有の質量を有するレポーター部分をそれぞれ含む異なる標識試薬(例えば、異性体の標識および/または同重体化合物の標識の標識試薬のセット)を用いて標識してもよい。
【0232】
いくつかの実施形態では、標識化前および/または標識化後に、さらなるサンプル加工が望ましい。例えば、分離工程は、目的物ではない特定の種類のペプチドを排除し、サンプルの複雑性を下げるために行われる。標識されたサンプルを混合し、サンプル混合物を得てもよい。いくつかの実施形態では、質量分析前に、標識された検体ペプチドを分離(例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC))してもよい。
【0233】
別の例示的な実施形態は、ペプチド捕捉に関与する可能性があるシステインのチオール基をブロックし、再生する任意の工程を含む。疑いを排除するために、各異なるサンプルまたはサンプルフラクションをコードするためにさらなる異なる標識が利用可能な場合に限り、さらなるサンプルを加工してもよいことは自明である。
【0234】
いくつかの実施形態では、「コントロール」サンプルおよび「試験」サンプルを酵素で消化し、次いで、サンプル成分を開裂可能なリンカーを介して固体相に捕捉させてもよい。例えば、支持体は、開裂可能なリンカーと、ペプチドの部分と反応する反応基とを含んでいてもよい。
【0235】
いくつかの実施形態では、支持体を流れるペプチド(ペプチドが支持体の官能基と反応しないため)は、(廃棄される代わりに)集められ、同重体化合物の標識試薬および/または質量が異なる標識試薬のセットで標識され、支持体から集めた標識されたペプチドと別個にまたは一緒に分析されてもよい。固体支持体を流れるペプチドを、標識試薬のセットの同じ標識試薬または異なる標識試薬で標識してもよい。標識試薬にかかわらず、場合により、サンプル混合物と混合され、MS/MS分析によって分析される。独立して分析することもできる。支持体上に存在するときに、または支持体から開裂した後に、支持体上に保持されたペプチドを標識することができる。
【0236】
前駆体のタンパク質を捕捉するために、固体支持体を使用することもできる。例えば、並行経路を用いて2つのサンプルを加工してもよい。システイン部分を含まないタンパク質を、洗浄によって支持体から除去してもよく、場合により、集めてもよい(すなわち、流入)。タンパク質を、場合により、消化し、標識し、および/またはサンプル混合物と共に分析するか、または別個に分析してもよい。
【0237】
支持体に結合したタンパク質を消化してもよい。支持体に結合したシステイン含有ペプチドを標識試薬で標識し、支持体から開裂させてもよい。支持体に結合したシステイン含有ペプチドを、他の方法で最初に支持体から開裂させ、標識試薬で標識してもよい。異なるサンプル由来の標識されたペプチド(場合により、システイン部分を含まない標識されたペプチドを含む)を混合し、加工し、および/またはサンプル混合物と共に分析するか、または別個に分析してもよい。
【0238】
消化を行った結果、支持体から放出した任意のペプチドを集めることもできる。典型的には、これらは、チオール基を含まないペプチドである。これらのペプチドは、場合により、標識試薬で標識され、場合により、混合し、加工し、および/またはサンプル混合物と共に分析するか、または別個に分析してもよい。
【0239】
(標識後に消化を含む、例示的なワークフロー)
分析用に検体を捕捉するのに支持体を使うか使わないかにかかわらず、検体を標識試薬で標識する工程は、処理によって、標識が、本明細書に記載の標識された検体を定量する操作ができなくなる様式で改変しない限り、消化または他の化学処理の前後に行ってもよい。タンパク質サンプルの場合、還元し、サンプルタンパク質のシステインをブロックし、サンプルタンパク質のN−ε−リジン側鎖のアミン基を標識試薬で標識し、タンパク質を標識されたペプチドに消化してもよい。
【0240】
その由来にかかわらず、標識された検体を分析するか、さらに例えば、分離および/または支持体への固定によって加工してもよい(サンプル混合物の調製を含む)。標識されたタンパク質を、支持体から開裂させ、消化するか、または標識されたタンパク質を、支持体に結合したまま消化してもよい。後者の場合、支持体に結合した分解成分は、支持体から遊離した、システイン部分を含まないペプチドである。これらの分解成分を集め、場合により、別個に、または後者の放出された、システインを含む標識されたペプチドを含むサンプル混合物の一部分として分析してもよい。
【0241】
前駆体のタンパク質をペプチドに消化する前に標識する場合、消化パターンが変わることがある。例えば、トリプシンでの消化は、N−ε−リジン側鎖のアミン基が標識で修飾されているため、C末端アルギニンペプチドを優先的に与えると予想される。その結果、トリプシンの活性は、Arg−Cとよく似たものになる。リジン側鎖を含むC末端アルギニンペプチドのみが標識され、それゆえに、質量分析計で検出可能になるため、この方法は、さらなる加工および/または分析が行われるサンプルの複雑性をさらに下げる一方法となる。
【0242】
いくつかの実施形態では、タンパク質を還元し、標識試薬(すなわち、チオール特異的な標識試薬)でシステイン基を標識し、分析用にタンパク質を標識されたペプチドに消化することができる。標識されたペプチド検体を分析するか、または例えば、分離および/または支持体への固定によって、さらに加工してもよい。例えば、リジン側鎖のN−α−アミン基および/またはN−ε−アミン基と、支持体の官能基とを反応させることによって、標識されたペプチドを支持体に固定することができる。アミン官能基を含む化合物を固定するための開裂可能なリンカーを有する支持体としては、トリチルリンカー(Novabiochem(カリフォルニア州サンディエゴ)から入手可能な塩化トリチル支持体(トリチル−Cl)または2−クロロトリチルクロリド支持体を含む支持体が挙げられる。このワークフローは、上に記載したものとは別個のものである。標識された検体を、支持体から開裂させ、さらに加工し、および/または分析してもよい。このプロセスは、消化されたすべてのペプチドが、少なくともN−α−アミン基を含むと予想されるため、それほど複雑性が低下するわけではない。
【0243】
上述の例は、種々の可能なワークフローを排除することを意図したのものではない。単に例示を意図したものである。消化の前に標識を行う実施形態に関し、消化を行う前に、さらなるサンプル加工を行うこともできる。
【0244】
(まとめ)
プロテオーム分析およびペプチドおよび/またはタンパク質の検体としての決定について特定の例によって集中的に記載したが、記載されている概念は、過度の実験を行うことなく、上述のワークフローを適用可能な多くの種類の検体を包含することを意図している。したがって、本開示の範囲は、記載した特定の例のいずれかに限定されることを意図しているものではない。
【0245】
(IV.混合物)
いくつかの実施形態では、本発明は、混合物(すなわちサンプル混合物)に関する。例えば、混合物は、同重体化合物の標識された検体および/または質量が異なる標識された検体を含んでもよい。標識された検体の例示的な混合物およびその調製方法および/または分析方法は、上の「標識方法および分析方法」の章に記載している。
【0246】
混合物は、2つ以上の標識試薬をすべて、または一部分混合することによって作成することができ、各サンプルは、標識試薬のセットの異なる標識試薬で標識され、各標識試薬は、固有の(総)質量を有するレポーター部分を含む。各異なる標識試薬の固有のレポーター部分は、誘導される(すなわち、由来となる)2つ以上の標識された検体のそれぞれの標識化反応から特定することができる。標識試薬は、同位体でコードされた同重体化合物(および/または異性体)の標識試薬および/または質量が異なる標識試薬である。したがって、混合物の2つ以上の標識された検体は、同重体化合物(および/または異性体)および/または質量が異なる標識された検体であってもよい。上述の方法に関連する標識試薬および標識された検体の特徴は、すでに記載した。
【0247】
混合物の検体は、任意の検体であってもよい。例えば、混合物の検体は、ペプチドであってもよい。混合物の検体は、タンパク質であってもよい。混合物の検体は、ペプチドおよびタンパク質の混合物であってもよい。混合物の検体は、核酸分子であってもよい。混合物の検体は、炭水化物であってもよい。混合物の検体は、脂質であってもよい。混合物の検体は、プロスタグランジンであってもよい。混合物の検体は、脂肪酸であってもよい。混合物の検体は、カルニチンであってもよい。混合物の検体は、アミノ酸であってもよい。混合物の検体は、ビタミンであってもよい。混合物の検体は、ステロイドであってもよい。混合物の検体は、1500ダルトン未満の質量を有する低分子であってもよい。混合物の検体は、2つ以上の異なる種類の検体(例えば、(1)脂質およびステロイド;または(2)ペプチド、脂質、ステロイドおよび炭水化物)を含む。
【0248】
混合物は、本明細書に開示される新規レポーター/リンカー部分を含む、任意の種類の異なる状態に標識された検体を含んでもよい。例えば、混合物は、式I”
【0249】
【化41】

(その塩形態および/または水和物形態を含む)によってあらわされる少なくとも2つの異なる状態に標識された検体を含んでもよく、式中、Y、J、K、R、RおよびXであらわされる原子または基は、すでに定義したとおりであり、これらの特徴はすでに開示されており、式I^
【0250】
【化42】

によってあらわされる基は、特定のサンプルに関連するすべての標識された検体について同じであるが、式I^の基は、少なくとも1箇所の同位体が濃縮された部位を含み、この部位は、混合してサンプル混合物を形成する異なるサンプル由来の任意の他の標識された検体の同位体が濃縮された部位とは異なっている。Z”は共有結合した検体である。
【0251】
いくつかの実施形態では、2つの標識された検体はそれぞれ、異なるサンプル由来であってもよい。いくつかの実施形態では、Y−J基のJ基と、標識された検体の残りの部分との結合が質量分析計中でフラグメント化する場合、混合して混合物を形成する異なるサンプル由来の任意の他の標識された検体と関連する任意のレポーターイオンとは異なる総質量を有するレポーターイオンが生成され、固有のレポーターイオンが、サンプル由来の標識された検体からサンプルを特定可能なように、レポーター部分を形成可能な式I”の各異なる標識された検体のY−J基は、1箇所以上の同位体が濃縮された部位で固有にコードされる。Z”は共有結合した検体である。それぞれの異なる標識について、混合物の標識された検体のいくつかは同じであってもよく、標識された検体のいくつかは異なっていてもよい。
【0252】
いくつかの実施形態では、式I^
【0253】
【化43】

によってあらわされる基は、特定のサンプルに関連するすべての標識された検体について同じ総質量を有しているが、混合して混合物を形成する異なるサンプル由来の任意の他の標識された検体に関連する式I^の基の総質量とは異なっており、式I^の基の総質量は、サンプル由来の標識された検体からサンプルを特定可能である。
【0254】
いくつかの実施形態では、混合物は、式II”
【0255】
【化44】

(その塩形態および/または水和物形態を含む)によってあらわされる少なくとも2つの異なる状態に標識された検体を含んでいてもよく、式中、W、M、J、K、R、R、XおよびZ”は、すでに記載したとおりである。
【0256】
いくつかの実施形態では、混合物は、少なくとも2つの異なる状態に標識された検体を含んでいてもよく、少なくとも1つの標識された検体は、式III”
【0257】
【化45】

(その塩形態および/または水和物形態を含む)によってあらわされ、s、R、R、R11およびZ”は、すでに記載したとおりである。
【0258】
いくつかの実施形態では、混合物は、少なくとも2つの異なる状態に標識された検体を含んでいてもよく、少なくとも1つの標識された検体は、式V”、VI”、VII”、VIII”、IX”、X”、XI”またはXII”
【0259】
【化46】

(その塩形態および/または水和物形態を含む)によってあらわされ、式中、*は、適切な場合、12Cと置き換わった13C、14Nと置き換わった15Nまたは16Oと置き換わった18Oを含む同位体が濃縮された部位を示す。
【0260】
いくつかの実施形態では、混合物は、少なくとも2つの異なる状態に標識された検体を含んでいてもよく、少なくとも1つの標識された検体は、式XXV”、XXVI”、XXVII”、XXVIII”、XXIX”、XXX”、XXXI”またはXXXII”
【0261】
【化47】

または
【0262】
【化48】

(その塩形態および/または水和物形態を含む)によってあらわされ、式中、*は、適切な場合、12Cと置き換わった13C、14Nと置き換わった15Nまたは16Oと置き換わった18Oを含む同位体が濃縮された部位を示す。
【0263】
いくつかの実施形態では、混合物は、少なくとも2つの異なる状態に標識された検体を含んでいてもよく、少なくとも1つの標識された検体は、式IV”
【0264】
【化49】

その塩形態および/または水和物形態を含む)によってあらわすことができ、式中、R11およびZ”は、すでに記載したとおりである。
【0265】
いくつかの実施形態では、混合物は、少なくとも2つの異なる状態に標識された検体を含んでいてもよく、少なくとも1つの標識された検体は、式XV”、XVI”、XVII”、XVIII”、XIX”、XX”、XXI”、XXII”またはXXIII”
【0266】
【化50】

【0267】
【化51】

(その塩形態および/または水和物形態を含む)によってあらわされ、式中、*は、適切な場合、12Cと置き換わった13C、14Nと置き換わった15Nまたは16Oと置き換わった18Oを含む同位体が濃縮された部位を示す。
【0268】
いくつかの実施形態では、混合物は、少なくとも2つの異なる状態に標識された検体を含んでいてもよく、少なくとも1つの標識された検体は、式XXXV”、XXXVI”、XXXVII”、XXXVIII”、XXXIX”、XXXX”またはXXXXI”
【0269】
【化52】

【0270】
【化53】

(その塩形態および/または水和物形態を含む)によってあらわされ、式中、*は、適切な場合、12Cと置き換わった13C、14Nと置き換わった15Nまたは16Oと置き換わった18Oを含む同位体が濃縮された部位を示す。
【0271】
いくつかの実施形態では、混合物は、少なくとも2つの異なる状態に標識された検体を含んでいてもよく、少なくとも1つの標識された検体は、式III
【0272】
【化54】

(その塩形態および/または水和物形態を含む)によってあらわされ、R11およびZ”は、すでに記載したとおりである。
【0273】
いくつかの実施形態では、混合物は、少なくとも2つの異なる状態に標識された検体を含んでいてもよく、少なくとも1つの標識された検体は、式M”、MI”、MII”、MIII”、MIV”またはMV”
【0274】
【化55】

(その塩形態および/または水和物形態を含む)によってあらわされ、式中、*は、適切な場合、12Cと置き換わった13C、14Nと置き換わった15Nまたは16Oと置き換わった18Oを含む同位体が濃縮された部位を示す。
【0275】
いくつかの実施形態では、混合物は、少なくとも2つの異なる状態に標識された検体を含んでいてもよく、少なくとも1つの標識された検体は、式MVI”、MVII”、MVIII”、MIX”、MX”、MXI”、MXII”またはMXIII”
【0276】
【化56】

【0277】
【化57】

(その塩形態および/または水和物形態を含む)によってあらわされ、式中、*は、適切な場合、12Cと置き換わった13C、14Nと置き換わった15Nまたは16Oと置き換わった18Oを含む同位体が濃縮された部位を示す。
【0278】
(キット)
いくつかの実施形態では、本発明は、キットに関する。キットは、本明細書に記載の標識試薬と、1つ以上の他の試薬、容器、酵素、バッファーおよび/または説明書とを含んでいてもよい。キットは、2つ以上の標識試薬のセットと、1つ以上の他の試薬、容器、酵素、バッファーおよび/または説明書とを含んでいてもよい。例えば、キットは、2つ以上の異なるサンプル中の1つ以上の検体を定量するアッセイを行うために選択された少なくとも1つのさらなる試薬を含んでいてもよい。例えば、キットは、固有の総質量を有するレポーター部分を含む、標識された較正標準を含んでいてもよい。例えば、キットは、固有の総質量を有する標識部分を含む、標識された較正標準を含んでいてもよい。
【0279】
キットの2つ以上の標識試薬は、異性体および/または同重体化合物であってもよい。例えば、キットの1つ以上の標識試薬は、本明細書にすでに開示したような、式I’、II’、III’、IV’、V’、VI’、VII’、VIII’、IX’、X’、XI’、XII’、XIII’、XV’、XVI’、XVII’、XVIII’、XIX’、XX’、XXI’、XXII’および/またはXXIII”の化合物(化合物のセットを含む)を含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、キットは、本明細書にすでに開示したような、式I”、II”、III”、IV”、V”、VI”、VII”、VIII”、IX”、X”、XI”、XII”、XIII”、XV”、XVI”、XVII”、XVIII”、XIX”、XXX”、XXI”、XXII”および/またはXXIII”の標識された検体(例えば、較正標準)を含んでいてもよい。キットの標識試薬の他の性質はすでに開示した。キットは、例えば、同じサンプル中または2つ以上の異なるサンプル中の1つ以上の検体の多重分析に有用である。
【0280】
(VI.実例となる標識試薬)
以下に示す標識試薬AおよびBは、それぞれ、調製可能で利用可能な多くの可能な標識試薬の1つをあらわすことは理解されるべきである。当業者は、通常の実験を超える実験を行うことなく、本明細書に与えられた開示内容を用い、類似の化学構造を有する他の標識試薬を容易に製造できることを理解する。したがって、開示内容は、説明のためのものであり、いかなる様式も排除され、限定されることが意図されるものではない。
【0281】
【化58】

例示的な同位体でコードされた、製造可能な同重体化合物のセットAおよびBを示す。以下に示す標識試薬のセットが、それぞれ、調製可能で利用可能な多くの可能な標識試薬の1つをあらわすことは理解されるべきである。当業者は、通常の実験を超える実験を行うことなく、本明細書に与えられた開示内容を用い、類似の化学構造を有する他の標識試薬を容易に製造できることを理解する。したがって、開示内容は、説明のためのものであり、いかなる様式も排除され、限定されることが意図されるものではない。
【0282】
例示的なセットA
【0283】
【化59】

例示的なセットB
【0284】
【化60】

【0285】
【化61】


【0286】
例示的な同位体でコードされた、製造可能な質量が異なる化合物のセットCおよびDを示す。以下に示す標識試薬のセットが、それぞれ、調製可能で利用可能な多くの可能な標識試薬の1つをあらわすことは理解されるべきである。当業者は、通常の実験を超える実験を行うことなく、本明細書に与えられた開示内容を用い、類似の化学構造を有する他の標識試薬を容易に製造できることを理解する。したがって、開示内容は、説明のためのものであり、いかなる様式も排除され、限定されることが意図されるものではない。
【0287】
例示的なセットC
【0288】
【化62】

例示的なセットD
【0289】
【化63】

および
【0290】
【化64】

他の例示的な同位体でコードされた、記載される方法を用いて製造可能な化合物は、本明細書および関連する図面および特許請求の範囲に記載されている。
【0291】
本発明の教示内容を、種々の実施形態と組み合わせて記載したが、本教示内容がこれらの実施形態に限定されることを意図したものではない。対照的に、本教示内容は、当業者に理解されるように、種々の改変例、変更例および等価物を包含する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iであらわされる化合物およびその塩形態および/または水和物形態
【化65】

〔式中、
Yは、置換されているか、または置換されていなくてもよく、場合により、支持体に開裂可能に結合していてもよい5、6または7員環へテロ環であり、ここで、ヘテロ環は、少なくとも1個の環窒素原子を含み、この環窒素原子が、共有結合を介してJ基に結合しており;
Jは、式−CJ’−によってあらわされる基であり、各J’は、他と独立して、水素、重水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、−R、−OR、−SR、−R’ORまたは−R’SRであり;
Kは、式−(CK’−または−((CK’−X−(CK’−であらわされる基であり、nは0であるか、または2から10までの整数であり、各mは、他と独立して、1から5までの整数であり、pは1から4までの整数であり、各K’は、他と独立して、水素、重水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、−R、−OR、−SR、−R’ORまたは−R’SRであり;
(1)Rが、水素、重水素またはRであり、Rが、水素、重水素またはRであるか;または
(2)RとRとが一緒になって、2個の窒素原子を架橋する環を形成する式−(CR’−または−((CR’−X−(CR’−であらわされる基を構成し、qは1から10までの整数であり、各mは、他と独立して、1から5までの整数であり、pは1から4までの整数であり、各R’は、他と独立して、水素、重水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、−R、−OR、−SR、−R’ORまたは−R’SRであり;
は、=O、=S、=NHまたは=NRであり;
各Xは、他と独立して、−O−または−S−であり;
Zは、水素であるか、または共有結合した検体であり;
、R、R、Rおよび/またはRは、それぞれ他と独立して、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリールまたはアリールアルキルであり;
’、R’および/またはR’は、それぞれ他と独立して、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、アリーレンまたはアルキルアリーレンであり;
この化合物は、少なくとも1箇所の同位体が濃縮された部位を含む。〕。
【請求項2】
前記Y−J基が、少なくとも1箇所の同位体が濃縮された部位を含む、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
式I
【化66】

によってあらわされる基が、少なくとも1箇所の同位体が濃縮された部位を含み、
式中、
Kが、式−(CK’−または−((CK’−X−(CK’−であらわされる基であり、nは0であるか、または2〜10の整数であり、各mは、他と独立して、1〜5の整数であり、pは1〜4の整数であり、各K’は、他と独立して、水素、重水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、−R、−OR、−SR、−R’ORまたは−R’SRであり;
(1)Rが、水素、重水素またはRであり、Rが、水素、重水素またはRであるか;または
(2)RとRとが一緒になって、2個の窒素原子を架橋する環を形成する式−(CR’−または−((CR’−X−(CR’−であらわされる基を構成し、qは1から10までの整数であり、各mは、他と独立して、1から5までの整数であり、pは1から4までの整数であり、各R’は、他と独立して、水素、重水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、−R、−OR、−SR、−R’ORまたは−R’SRであり;
が、=O、=S、=NHまたは=NRであり;
各Xが、他と独立して、−O−または−S−であり;
、R、Rおよび/またはRが、それぞれ他と独立して、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリールまたはアリールアルキルであり;
’および/またはR’が、それぞれ他と独立して、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、アリーレンまたはアルキルアリーレンである、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
式Y−Jによってあらわされる基が、少なくとも1箇所の同位体が濃縮された部位を含み、式I
【化67】

によってあらわされる基が、少なくとも1箇所の同位体が濃縮された部位を含み、
式中、
Yが、置換されているか、または置換されていなくてもよく、場合により、支持体に開裂可能に結合していてもよい5、6または7員環へテロ環であり、ここで、ヘテロ環は、少なくとも1個の環窒素原子を含み、この環窒素原子が、共有結合を介してJ基に結合しており;
Jが、式−CJ’−によってあらわされる基であり、各J’は、他と独立して、水素、重水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、−R、−OR、−SR、−R’ORまたは−R’SRであり;
Kが、式−(CK’−または−((CK’−X−(CK’−であらわされる基であり、nは0であるか、または2から10までの整数であり、各mは、他と独立して、1から5までの整数であり、pは1から4までの整数であり、各K’は、他と独立して、水素、重水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、−R、−OR、−SR、−R’ORまたは−R’SRであり;
(1)Rが、水素、重水素またはRであり、Rが、水素、重水素またはRであるか;または
(2)RとRとが一緒になって、2個の窒素原子を架橋する環を形成する式−(CR’−または−((CR’−X−(CR’−であらわされる基を構成し、qは1から10までの整数であり、各mは、他と独立して、1から5までの整数であり、pは1から4までの整数であり、各R’は、他と独立して、水素、重水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、−R、−OR、−SR、−R’ORまたは−R’SRであり;
が、=O、=S、=NHまたは=NRであり;
各Xが、他と独立して、−O−または−S−であり;
、R、R、Rおよび/またはRが、それぞれ他と独立して、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリールまたはアリールアルキルであり;
’、R’および/またはR’が、それぞれ他と独立して、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、アリーレンまたはアルキルアリーレンである、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
式IIであらわされる請求項1に記載の化合物およびその塩形態および/または水和物形態
【化68】

〔式中、
Wは、6員環ヘテロ環の少なくとも1つのM基を置換している原子または基であり、この6員環の窒素のオルト位、メタ位またはパラ位に位置しており、−N(H)−、−N(R”)−、−N(R”’)−、−P(R”)−、−P(R”’)−、−O−または−S−であり;
残りの基Mは、それぞれ他と独立して、−CM’−であり、M’は、それぞれ他と独立して、水素、重水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、−R、−OR、−SR、−R’ORまたは−R’SRであり;
Jは、式−CJ’−によってあらわされる基であり、各J’は、他と独立して、水素、重水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、−R、−OR、−SR、−R’ORまたは−R’SRであり;
Kは、式−(CK’−または−((CK’−X−(CK’−であらわされる基であり、nは0であるか、または2から10までの整数であり、各mは、他と独立して、1から5までの整数であり、pは1から4までの整数であり、各K’は、他と独立して、水素、重水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、−R、−OR、−SR、−R’ORまたは−R’SRであり;
(1)Rが、水素、重水素またはRであり、Rが、水素、重水素またはRであるか;または
(2)RとRとが一緒になって、2個の窒素原子を架橋する環を形成する式−(CR’−または−((CR’−X−(CR’−であらわされる基を構成し、qは1から10までの整数であり、各mは、他と独立して、1から5までの整数であり、pは1から4までの整数であり、各R’は、他と独立して、水素、重水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、−R、−OR、−SR、−R’ORまたは−R’SRであり;
は、=O、=S、=NHまたは=NRであり;
各Xは、他と独立して、−O−または−S−であり;
各R”は、他と独立して、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリールまたはアリールアルキルであり;
各R”’が、HN−R’−、H(R10)N−R’−、(R10N−R’−、HO−R’−、HS−R’−であるか、または支持体に化合物を開裂可能に結合する開裂可能なリンカーであり;
Zは、水素であるか、または共有結合した検体であり;
、R、R、R、R、Rおよび/またはR10は、それぞれ他と独立して、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリールまたはアリールアルキルであり;
’、R’、R’、R’、R’および/またはR’は、それぞれ他と独立して、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、アリーレンまたはアルキルアリーレンである。〕。
【請求項6】
式IIIであらわされる請求項5に記載の化合物およびその塩形態および/または水和物形態
【化69】

〔式中、
sは0から5までの整数であり;
は、水素、重水素またはRであり;
は、水素、重水素またはRであり;
11は、水素、重水素、メチル、−C(H)D、−C(H)D、−CD、他のアルキルまたは−R”’であり;
Zは、水素であるか、または共有結合した検体であり;
R”’は、HN−R’−、H(R10)N−R’−、(R10N−R’−、HO−R’−、HS−R’−であるか、または支持体に化合物を開裂可能に結合する開裂可能なリンカーであり;
、Rおよび/またはR10は、それぞれ他と独立して、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリールまたはアリールアルキルであり;
各R’は、他と独立して、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、アリーレンまたはアルキルアリーレンである。〕。
【請求項7】
前記化合物が、式V、VI、VII、VIII、IX、X、XIまたはXII
【化70】

【化71】

によってあらわされ、
式中、
*は、適切な場合、12Cと置き換わった13C、14Nと置き換わった15Nまたは16Oと置き換わった18Oを含む同位体が濃縮された部位を示し;
は、水素またはRであり;
は、水素またはRであり;
Zは、水素であるか、または共有結合した検体であり;
および/またはRは、それぞれ他と独立して、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリールまたはアリールアルキルである、請求項6に記載の化合物およびその塩形態および/または水和物形態。
【請求項8】
前記化合物が、式XXV、XXVI、XXVII、XXVIII、XXIX、XXX、XXXIまたはXXXII
【化72】

または
【化73】

によってあらわされ、
式中、
*は、適切な場合、12Cと置き換わった13Cまたは14Nと置き換わった15Nを含む同位体が濃縮された部位を示し;
は、水素またはRであり;
は、水素またはRであり;
Zは、水素であるか、または共有結合した検体であり;
および/またはRは、それぞれ他と独立して、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリールまたはアリールアルキルである、請求項6に記載の化合物およびその塩形態および/または水和物形態。
【請求項9】
式IV
【化74】

〔式中、
11は、水素、重水素、メチル、−C(H)D、−C(H)D、−CDまたは−R”’であり;
Zは、水素であるか、または共有結合した検体であり;
R”’は、HN−R’−、H(R10)N−R’−、(R10N−R’−、HO−R’−、HS−R’−であるか、または支持体に化合物を開裂可能に結合する開裂可能なリンカーであり;
各R’は、他と独立して、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、アリーレンまたはアルキルアリーレンであり;
各R10は、他と独立して、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリールまたはアリールアルキルである。〕
によってあらわされる、請求項5に記載の化合物およびその塩形態および/または水和物形態。
【請求項10】
前記化合物が、式XV、XVI、XVII、XVIII、XIX、XX、XXI、XXIIまたはXXIII
【化75】

または
【化76】

によってあらわされ、
式中、
*は、適切な場合、12Cと置き換わった13C、14Nと置き換わった15Nまたは16Oと置き換わった18Oを含む同位体が濃縮された部位を示し;
Zは、水素であるか、または共有結合した検体である、請求項9に記載の化合物およびその塩形態および/または水和物形態。
【請求項11】
前記化合物が、式XXXV、XXXVI、XXXVII、XXXVIII、XXXIX、XXXXまたはXXXXI
【化77】

または
【化78】

によってあらわされ、
式中、
*は、適切な場合、12Cと置き換わった13Cまたは14Nと置き換わった15Nを含む同位体が濃縮された部位を示し;
Zは、水素であるか、または共有結合した検体である、
請求項9に記載の化合物およびその塩形態および/または水和物形態。
【請求項12】
式IIIであらわされる請求項5に記載の化合物およびその塩形態および/または水和物形態
【化79】

〔式中、
11は、水素、重水素、メチル、−C(H)D、−C(H)D、−CDまたは−R”’であり;
Zは、水素であるか、または共有結合した検体であり;
R”’は、HN−R’−、H(R10)N−R’−、(R10N−R’−、HO−R’−、HS−R’−であるか、または支持体に化合物を開裂可能に結合する開裂可能なリンカーであり;
各R’は、他と独立して、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、アリーレンまたはアルキルアリーレンであり;
各R10は、他と独立して、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリールまたはアリールアルキルである。〕。
【請求項13】
前記化合物が、式M、MI、MII、MIII、MIVまたはMV
【化80】

【化81】

によってあらわされ、
式中、
*は、適切な場合、12Cと置き換わった13C、14Nと置き換わった15Nまたは16Oと置き換わった18Oを含む同位体が濃縮された部位を示し;
Zは、水素であるか、または共有結合した検体である、請求項12に記載の化合物およびその塩形態および/または水和物形態。
【請求項14】
前記化合物が、式MVI、MVII、MVIII、MIX、MX、MXI、MXIIまたはMXIII
【化82】

【化83】

によってあらわされ、
式中、
*は、適切な場合、12Cと置き換わった13Cまたは14Nと置き換わった15Nを含む同位体が濃縮された部位を示し;
Zは、水素であるか、または共有結合した検体である、請求項12に記載の化合物およびその塩形態および/または水和物形態。
【請求項15】
前記化合物が2箇所以上の同位体が濃縮された部位を含む、請求項1から6、9または12のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項16】
Zが水素である、請求項1から15のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項17】
Zがペプチドおよび/またはタンパク質である、請求項1から15のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項18】
Zが、プロスタグランジン、脂肪酸、カルニチン、炭水化物、脂質、アミノ酸、ビタミンまたはステロイドである、請求項1から15のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項19】
前記化合物が較正標準である、請求項1から15のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項20】
(a)それぞれ1つ以上の反応性検体を含む2つ以上のサンプルと、標識試薬のセットを含む異なる標識試薬とを反応させ、それぞれ1つ以上の標識された検体を含む2つ以上の異なる状態に標識されたサンプルを形成させる工程と、
(b)前記2つ以上の異なる状態に標識されたサンプルまたはその一部分と、場合により、1つ以上の較正標準とを混合し、サンプル混合物を作成する工程とを含む方法であって、
前記異なる標識試薬のセットが、式I’
【化84】

であらわされる化合物およびその塩形態および/または水和物形態であり、
式中、
Yは、置換されているか、または置換されていなくてもよく、場合により、支持体に開裂可能に結合していてもよい5、6または7員環へテロ環であり、ここで、ヘテロ環は、少なくとも1個の環窒素原子を含み、この環窒素原子が、共有結合を介してJ基に結合しており;
Jは、式−CJ’−によってあらわされる基であり、各J’は、他と独立して、水素、重水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、−R、−OR、−SR、−R’ORまたは−R’SRであり;
Kは、式−(CK’−または−((CK’−X−(CK’−であらわされる基であり、nは0であるか、または2から10までの整数であり、各mは、他と独立して、1から5までの整数であり、pは1から4までの整数であり、各K’は、他と独立して、水素、重水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、−R、−OR、−SR、−R’ORまたは−R’SRであり;
(1)Rが、水素、重水素またはRであり、Rが、水素、重水素またはRであるか;または
(2)RとRとが一緒になって、2個の窒素原子を架橋する環を形成する式−(CR’−または−((CR’−X−(CR’−であらわされる基を構成し、qは1から10までの整数であり、各mは、他と独立して、1から5までの整数であり、pは1から4までの整数であり、各R’は、他と独立して、水素、重水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、−R、−OR、−SR、−R’ORまたは−R’SRであり;
は、=O、=S、=NHまたは=NRであり;
各Xは、他と独立して、−O−または−S−であり;
各標識試薬は、少なくとも1つの同位体が濃縮された部分を含み;
、R、R、Rおよび/またはRは、それぞれ他と独立して、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリールまたはアリールアルキルであり;
’、R’および/またはR’は、それぞれ他と独立して、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、アリーレンまたはアルキルアリーレンである、方法。
【請求項21】
前記標識試薬のセットが、すべて同重体化合物であり、異なる標識試薬のセットはそれぞれ、同じ総質量を有するが、Y−J基のJ基と、前記標識試薬の残りの部分との結合が質量分析計中でフラグメント化する場合、固有の質量を有するレポーターイオンが生成されるように、それぞれの異なる標識試薬のレポーター部分を形成するY−J基は、1箇所以上の同位体が濃縮された部位で固有にコードされる、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記標識試薬のセットが、すべて異なる質量を有する、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
Y−J基のJ基と、前記標識試薬の残りの部分との結合が質量分析計中でフラグメント化する場合、固有の質量を有するレポーターイオンが生成されるように、前記異なる標識試薬のセットのY−J基が、1箇所以上の同位体が濃縮された部位で固有にコードされる、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
(c)サンプル混合物またはそのフラクションについて第1の質量分析を行う工程と、
(d)第1の質量分析から得た所定の電荷質量比を有する標識された検体のイオンに解離エネルギーをかけ、所定のイオンの少なくともいくつかのレポーターイオンおよび娘フラグメントイオンを形成させる工程と、
(e)前記所定のイオン、前記レポーターイオンおよび/または前記娘フラグメントイオンまたはこれらのフラクションの第2の質量分析を行う工程とをさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
(f)前記第2の質量分析において、各レポーターイオンの総質量および相対量を決定し、前記娘フラグメントイオンのいくつかまたはすべての総質量および/または絶対質量を決定する工程をさらに含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
(g)前記娘フラグメントイオンを分析することによって、前記所定の電荷質量比と関連する標識された検体を決定する工程をさらに含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
(h)前記異なる状態に標識された検体の所定のイオンについて、異なる電荷質量比で、工程(d)から工程(f)まで、または工程(d)から工程(g)までを1回以上繰り返す工程をさらに含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
(l)工程(c)から工程(f)まで、工程(c)から工程(g)まで、または工程(c)から工程(h)までをそれぞれの回で、前記サンプル混合物の異なるフラクションを用いて1回以上繰り返す工程をさらに含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
工程(c)から(l)までを1回以上繰り返す工程をさらに含む、請求項26から28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記Y基が、置換されている、または、置換されていない、モルホリン部分、ピペリジン部分またはピペラジン部分である、請求項20から29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記固有の質量を有する各レポーターイオンが、サンプル由来の標識されたそれぞれの検体からサンプルを特定する、請求項21または23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
それぞれの異なるサンプルが、異なる標識試薬のセットを有する支持体と反応するように、前記異なる標識試薬のセットが、支持体に結合し、開裂可能なリンカーを介して前記支持体に結合し、工程(b)を行う前に、
(i)場合により、前記支持体を洗浄し、前記標識試薬の反応基と反応しないサンプル成分を除去する工程と、
(ii)前記開裂可能なリンカーを開裂させ、2つ以上の異なる状態に標識したサンプルの集合を放出させ、各サンプルは、1つ以上の標識された検体を含み、特定のサンプルと関連する標識された検体が、これに結合した固有の質量を有するレポーター部分によって特定可能および/または定量可能である工程と、
(iii)場合により、混合する前に、標識された検体の各サンプルを集める工程とをさらに含む、請求項20から31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
(c)各サンプルを少なくとも1つの酵素で、サンプルまたはサンプル混合物の部分的または完全な分解成分に消化する工程をさらに含む、請求項20から32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
(c)前記サンプル混合物を分離する工程をさらに含む、請求項20から33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記第2の質量分析における前記固有の質量を有する各レポーターイオンの相対量を、他のレポーターイオンに対して決定する、請求項25に記載の方法。
【請求項36】
前記特定された検体と関連する前記固有の質量を有する各レポーターイオンの相対量が、混合してサンプル混合物を形成する各異なる状態に標識されたサンプルの量と相関関係にあり、これにより、混合してサンプル混合物を形成する各2つ以上の異なる状態に標識されたサンプルにおける検体の相対量を決定する、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
(i)前記サンプル混合物が、決定される検体について既知の量の較正標準を含み、前記較正標準が、決定される検体について固有の質量を有するレポーター部分を含み、各固有のレポーター部分に対応する固有の質量を有する各レポーターイオンの絶対量が、前記較正標準と関連する固有のレポーターイオンの量を参照して決定され、
(ii)サンプル混合物のそれぞれの異なるサンプル中の前記決定される検体の絶対量が、固有の質量を有するそれぞれの異なるレポーターイオンの絶対量を参照して決定される、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
(i)各固有のレポーター部分に対応する固有の質量を有する各レポーターイオンの絶対量が、較正曲線を参照して決定され、
(ii)サンプル混合物のそれぞれの異なるサンプル中の前記決定される検体の絶対量が、固有の質量を有するそれぞれの異なるレポーターイオンの絶対量を参照して決定される、請求項35に記載の方法。
【請求項39】
少なくとも1つの標識試薬が式III’
【化85】

およびその塩形態および/または水和物形態によってあらわされ、
式中、
sは0から5までの整数であり;
は、水素、重水素またはRであり;
は、水素、重水素またはRであり;
11は、水素、重水素、メチル、−C(H)D、−C(H)D、−CD、他のアルキルまたは−R”’であり;
R”’は、HN−R’−、H(R10)N−R’−、(R10N−R’−、HO−R’−、HS−R’−であるか、または支持体に化合物を開裂可能に結合する開裂可能なリンカーであり;
、Rおよび/またはR10は、それぞれ他と独立して、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリールまたはアリールアルキルであり;
各R’は、他と独立して、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、アリーレンまたはアルキルアリーレンである、請求項21に記載の方法。
【請求項40】
少なくとも1つの標識試薬が、式V’、VI’、VII’、VIII’、IX’、X’、XI’またはXII’
【化86】

または
【化87】

およびその塩形態および/または水和物形態によってあらわされ、
式中、
*は、適切な場合、12Cと置き換わった13C、14Nと置き換わった15Nまたは16Oと置き換わった18Oを含む同位体が濃縮された部位を示し;
は、水素またはRであり;
は、水素またはRであり;
および/またはRは、それぞれ他と独立して、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリールまたはアリールアルキルである、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
少なくとも1つの標識試薬が、式IV’
【化88】

およびその塩形態および/または水和物形態によってあらわされ、
式中、
11は、水素、重水素、メチル、−C(H)D、−C(H)D、−CDまたは−R”’であり;
R”’は、HN−R’−、H(R10)N−R’−、(R10N−R’−、HO−R’−、HS−R’−であるか、または支持体に化合物を開裂可能に結合する開裂可能なリンカーであり;
各R’は、他と独立して、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、アリーレンまたはアルキルアリーレンであり;
各R10は、他と独立して、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリールまたはアリールアルキルである、請求項21に記載の方法。
【請求項42】
少なくとも1つの標識試薬が、式XV’、XVI’、XVII’、XVIII’、XIX’、XX’、XXI’、XXII’またはXXIII’
【化89】

【化90】

およびその塩形態および/または水和物形態によってあらわされ、
式中、
*は、適切な場合、12Cと置き換わった13C、14Nと置き換わった15Nまたは16Oと置き換わった18Oを含む同位体が濃縮された部位を示す、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
少なくとも1つの標識試薬が、式III
【化91】

によってあらわされ、
式中、
11は、水素、重水素、メチル、−C(H)D、−C(H)D、−CDまたは−R”’であり;
R”’は、HN−R’−、H(R10)N−R’−、(R10N−R’−、HO−R’−、HS−R’−であるか、または支持体に化合物を開裂可能に結合する開裂可能なリンカーであり;
各R’は、他と独立して、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、アリーレンまたはアルキルアリーレンであり;
各R10は、他と独立して、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリールまたはアリールアルキルである、請求項21に記載の方法。
【請求項44】
少なくとも1つの標識試薬が、式M’、MI’、MII’、MIII’、MIV’またはMV’
【化92】

【化93】

およびその塩形態および/または水和物形態によってあらわされ、
式中、
*は、適切な場合、12Cと置き換わった13C、14Nと置き換わった15Nまたは16Oと置き換わった18Oを含む同位体が濃縮された部位を示す、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
(c)サンプル混合物またはそのフラクションについて第1の質量分析を行う工程と、
(d)標識された検体と関連する相対ピーク強度を決定する工程とをさらに含む、請求項22または23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
(e)前記標識された検体のイオンを解離エネルギーでフラグメント化し、娘イオンフラグメントを形成させる工程と、
(f)前記娘イオンフラグメントから前記検体を特定する工程とをさらに含む、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記少なくとも1つの標識試薬が、式XXV’、XXVI’、XXVII’、XXVIII’、XXIX’、XXX’、XXXI’またはXXXII’
【化94】

【化95】

およびその塩形態および/または水和物形態によってあらわされ、
式中、
*は、適切な場合、12Cと置き換わった13Cまたは14Nと置き換わった15Nを含む同位体が濃縮された部位を示し;
は、水素またはRであり;
は、水素またはRであり;
および/またはRは、それぞれ他と独立して、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリールまたはアリールアルキルである、請求項45または46のいずれか1項に記載の方法。
【請求項48】
前記少なくとも1つの標識試薬が、式XXXV’、XXXVI’、XXXVII’、XXXVIII’、XXXIX’、XXXX’またはXXXXI’
【化96】

およびその塩形態および/または水和物形態によってあらわされ、
*は、適切な場合、12Cと置き換わった13Cまたは14Nと置き換わった15Nを含む同位体が濃縮された部位を示す、請求項45または46のいずれか1項に記載の方法。
【請求項49】
前記少なくとも1つの標識試薬が、式MVI’、MVII’、MVIII’、MIX’、MX’、MXI’、MXII’またはMXIII’
【化97】

およびその塩形態および/または水和物形態によってあらわされ、
式中、
*は、適切な場合、12Cと置き換わった13Cまたは14Nと置き換わった15Nを含む同位体が濃縮された部位を示す、請求項45または46のいずれか1項に記載の方法。
【請求項50】
少なくとも2つの標識された検体を含む混合物であって、この少なくとも2つの標識された検体が、異なるサンプル由来であり、この混合物の標識された検体は、それぞれ、式I”
【化98】

およびその塩形態および/または水和物形態によってあらわされ、
式中、Yは、置換されているか、または置換されていなくてもよい5、6または7員環へテロ環であり、ここで、ヘテロ環は、少なくとも1個の環窒素原子を含み、この環窒素原子が、共有結合を介してJ基に結合しており;
Jは、式−CJ’−によってあらわされる基であり、各J’は、他と独立して、水素、重水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、−R、−OR、−SR、−R’ORまたは−R’SRであり;
Kは、式−(CK’−または−((CK’−X−(CK’−であらわされる基であり、nは0であるか、または1から10までの整数であり、各mは、他と独立して、1から5までの整数であり、pは1から4までの整数であり、各K’は、他と独立して、水素、重水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、−R、−OR、−SR、−R’ORまたは−R’SRであり;
(1)Rが、水素、重水素またはRであり、Rが、水素、重水素またはRであるか;または
(2)RとRとが一緒になって、2個の窒素原子を架橋する環を形成する式−(CR’−または−((CR’−X−(CR’−であらわされる基を構成し、qは1から10までの整数であり、各mは、他と独立して、1から5までの整数であり、pは1から4までの整数であり、各R’は、他と独立して、水素、重水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、−R、−OR、−SR、−R’ORまたは−R’SRであり;
は、=O、=S、=NHまたは=NRであり;
各Xは、他と独立して、−O−または−S−であり;
Z”は、共有結合した検体であり;
、R、R、Rおよび/またはRは、それぞれ他と独立して、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリールまたはアリールアルキルであり;
’、R’および/またはR’は、それぞれ他と独立して、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、アリーレンまたはアルキルアリーレンであり;
ここで、式I^によってあらわされる基
【化99】

は、特定のサンプルに関連するすべての標識された検体について同じであるが、式I^の基は、少なくとも1箇所の同位体が濃縮された部位を含み、この部位は、混合して混合物を形成する異なるサンプル由来の任意の他の標識された検体の同位体が濃縮された部位とは異なっている、混合物。
【請求項51】
Y−J基のJ基と、前記標識された検体の残りの部分との結合が質量分析計中でフラグメント化する場合、混合して混合物を形成する異なるサンプル由来の任意の他の標識された検体と関連する任意のレポーターイオンとは異なる総質量を有するレポーターイオンが生成され、前記固有のレポーターイオンが、サンプル由来の標識された検体からサンプルを特定可能なように、レポーター部分を形成するY−J基が、1箇所以上の同位体が濃縮された部位で固有にコードされる、請求項50に記載の混合物。
【請求項52】
式I^
【化100】

によってあらわされる基が、特定のサンプルに関連するすべての標識された検体について同じ総質量を有しているが、混合して混合物を形成する異なるサンプル由来の任意の他の標識された検体に関連する式I^の基の総質量とは異なっており、式I^の基の総質量は、サンプル由来の標識された検体からサンプルを特定可能である、請求項50に記載の混合物。
【請求項53】
1つ以上の標識された検体がペプチドおよび/またはタンパク質である、請求項50から52のいずれか1項に記載の混合物。
【請求項54】
1つ以上の標識された検体が、プロスタグランジン、脂肪酸、カルニチン、炭水化物、脂質、アミノ酸、ビタミンおよび/またはステロイドである、請求項50から52のいずれか1項に記載の混合物。
【請求項55】
少なくとも1つの標識された検体が、式III”
【化101】

およびその塩形態および/または水和物形態によってあらわされ、
式中、
sは0から5までの整数であり;
は、水素、重水素またはRであり;
は、水素、重水素またはRであり;
11は、水素、重水素、メチル、−C(H)D、−C(H)D、−CD、他のアルキルまたは−R”’であり;
Z”は、共有結合した検体であり;
R”’は、HN−R’−、H(R10)N−R’−、(R10N−R’−、HO−R’−、HS−R’−であるか、または支持体に化合物を開裂可能に結合する開裂可能なリンカーであり;
、Rおよび/またはR10は、それぞれ他と独立して、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリールまたはアリールアルキルであり;
各R’は、他と独立して、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、アリーレンまたはアルキルアリーレンである、請求項50から52のいずれか1項に記載の混合物。
【請求項56】
1つ以上の標識された検体が、式V”、VI”、VII”、VIII”、IX”、X”、XI”またはXII”
【化102】

【化103】

およびその塩形態および/または水和物形態によってあらわされ、
式中、
*は、適切な場合、12Cと置き換わった13C、14Nと置き換わった15Nまたは16Oと置き換わった18Oを含む同位体が濃縮された部位を示し;
は、水素またはRであり;
は、水素またはRであり;
Z”は、共有結合した検体であり;
および/またはRは、それぞれ他と独立して、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリールまたはアリールアルキルである、請求項51に記載の混合物。
【請求項57】
少なくとも1つの標識された検体が、式XXV”、XXVI”、XXVII”、XXVIII”、XXIX”、XXX”、XXXI”またはXXXII”
【化104】

または
【化105】

およびその塩形態および/または水和物形態によってあらわされ、
式中、
*は、適切な場合、12Cと置き換わった13Cまたは14Nと置き換わった15Nを含む同位体が濃縮された部位を示し、
は、水素またはRであり;
は、水素またはRであり;
Z”は、共有結合した検体であり;
および/またはRは、それぞれ他と独立して、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリールまたはアリールアルキルである、請求項52に記載の混合物。
【請求項58】
少なくとも1つの標識された検体が、式IV”
【化106】

およびその塩形態および/または水和物形態によってあらわされ、
式中、
11は、水素、重水素、メチル、−C(H)D、−C(H)D、−CDまたは−R”’であり;
Z”は、共有結合した検体であり;
R”’は、HN−R’−、H(R10)N−R’−、(R10N−R’−、HO−R’−、HS−R’−であるか、または支持体に化合物を開裂可能に結合する開裂可能なリンカーであり;
各R’は、他と独立して、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、アリーレンまたはアルキルアリーレンであり;
各R10は、他と独立して、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリールまたはアリールアルキルである、請求項50から52のいずれか1項に記載の混合物。
【請求項59】
少なくとも1つの標識された検体が、式XV”、XVI”、XVII”、XVIII”、XIX”、XX”、XXI”、XXII”またはXXIII”
【化107】

【化108】

およびその塩形態および/または水和物形態によってあらわされ、
式中、
*は、適切な場合、12Cと置き換わった13C、14Nと置き換わった15Nまたは16Oと置き換わった18Oを含む同位体が濃縮された部位を示し;
Z”は、共有結合した検体である、請求項51に記載の混合物。
【請求項60】
少なくとも1つの標識された検体が、式XXXV”、XXXVI”、XXXVII”、XXXVIII”、XXXIX”、XXXX”またはXXXXI”
【化109】

およびその塩形態および/または水和物形態によってあらわされ、
式中、
*は、適切な場合、12Cと置き換わった13Cまたは14Nと置き換わった15Nを含む同位体が濃縮された部位を示し;
Z”は、共有結合した検体である、請求項52に記載の混合物。
【請求項61】
少なくとも1つの標識された検体が、式III
【化110】

およびその塩形態および/または水和物形態によってあらわされ、
式中、
11は、水素、重水素、メチル、−C(H)D、−C(H)D、−CDまたは−R”’であり;
Z”は、共有結合した検体であり;
R”’は、HN−R’−、H(R10)N−R’−、(R10N−R’−、HO−R’−、HS−R’−であるか、または支持体に化合物を開裂可能に結合する開裂可能なリンカーであり;
各R’は、他と独立して、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、アリーレンまたはアルキルアリーレンであり;
各R10は、他と独立して、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリールまたはアリールアルキルである、請求項50から52のいずれか1項に記載の混合物。
【請求項62】
少なくとも1つの標識された検体が、式M”、MI”、MII”、MIII”、MIV”またはMV”
【化111】

【化112】

およびその塩形態および/または水和物形態によってあらわされ、
式中、
*は、適切な場合、12Cと置き換わった13C、14Nと置き換わった15Nまたは16Oと置き換わった18Oを含む同位体が濃縮された部位を示し;
Z”は、共有結合した検体である、請求項51に記載の混合物。
【請求項63】
少なくとも1つの標識された検体が、式MVI”、MVII”、MVIII”、MIX”、MX”、MXI”、MXII”またはMXIII”
【化113】

【化114】

およびその塩形態および/または水和物形態によってあらわされ、
式中、
*は、適切な場合、12Cと置き換わった13Cまたは14Nと置き換わった15Nを含む同位体が濃縮された部位を示し;
Z”は、共有結合した検体である、請求項52に記載の混合物。
【請求項64】
請求項1から19のいずれか1項に記載の少なくとも1つの化合物を含むキット。
【請求項65】
2つ以上の異なるサンプル中の1つ以上の検体を定量するアッセイを行うために選択された、少なくとも1つの追加試薬をさらに含む、請求項64に記載のキット。
【請求項66】
前記化合物が、固有の総質量を有するレポーター部分を含む標識された較正標準である、請求項64に記載のキット。
【請求項67】
前記化合物が、固有の総質量を有する標識部分を含む標識された較正標準である、請求項64に記載のキット。
【請求項68】
式A
【化115】

によってあらわされ、少なくとも1箇所の同位体が濃縮された部位を含む、化合物。
【請求項69】
式B
【化116】

によってあらわされ、少なくとも1箇所の同位体が濃縮された部位を含む、化合物。
【請求項70】
式AI、AII、AIIIおよびAIV
【化117】

〔式中、*は、適切な場合、12Cと置き換わった13C、14Nと置き換わった15Nまたは16Oと置き換わった18Oを含む同位体が濃縮された部位を示す〕
によってあらわされる化合物を含む、同重体化合物のセット。
【請求項71】
式BI、BII、BIIIおよびBIV
【化118】

〔式中、*は、適切な場合、12Cと置き換わった13C、14Nと置き換わった15Nまたは16Oと置き換わった18Oを含む同位体が濃縮された部位を示す〕
によってあらわされる化合物を含む、同重体化合物のセット。
【請求項72】
式AIおよびAV
【化119】

および
【化120】

〔式中、*は、適切な場合、12Cと置き換わった13Cまたは置き換わった15Nを含む同位体が濃縮された部位を示す〕
によってあらわされる化合物を含む、異なる総質量を有する構造的に類似した化合物のセット。
【請求項73】
式BIおよびBV
【化121】

〔式中、*は、適切な場合、12Cと置き換わった13Cまたは置き換わった15Nを含む同位体が濃縮された部位を示す〕
によってあらわされる化合物を含む、異なる総質量を有する構造的に類似した化合物のセット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−543069(P2009−543069A)
【公表日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−518574(P2009−518574)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【国際出願番号】PCT/US2007/072503
【国際公開番号】WO2008/005846
【国際公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(509130413)アプライド バイオシステムズ, エルエルシー (48)
【Fターム(参考)】