説明

検体をイオンモビリティスペクトロメーターの中に導入するための方法およびシステム

イオンモビリティスペクトロメーターを用いて検体を含有する試料を導入、分析するための方法およびシステムが述べられている。このシステムは、受信された温度の指示値に従って試料の温度を調整するための温度モジュールと、受信された分割比の指示値に従って分割比を調整するための分割比モジュールを含む。イオンモビリティ分析器は検体のイオン移動度を定量する。イオンモビリティ分析器は検体のプラズマグラムを収集して、検体を同定し、定量する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンモビリティスペクトル法を用いる定量分析、特にイオンモビリティスペクトロメーターにおける熱的に蒸発させた試料の導入に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬分野において試料を分析するための迅速な方法は、気相イオン移動度に基づいて化学物質をキャラクタリゼーションする分析技術である、イオンモビリティスペクトル法である。検体イオンの移動度は、イオンが電場の影響の下で外周圧力のガスの中を移動する時の移動速度を計算することにより求められる。この方法は、他の方法、例えば液体クロマトグラフィ(LC)よりも2桁まで高速とすることができ、そしてはるかに安価とすることができる。更には、LCと異なり、イオンモビリティスペクトル法はこの試験の施行に高度な熟練者を必要としない。
【0003】
イオンモビリティスペクトル法においては、検体、例えば医薬化合物はイオン化され、次にドリフト管の中に入れられる。イオンは電場の下流に泳動し、捕集器電極に衝突し、電流を生じる。イオン電流は増幅され、イオンモビリティスペクトルまたはプラズマグラムとして表示され、時間に対するイオン電流を示す。このようなプラズマグラムは医薬化合物のキャラクタリゼーションに使用可能である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
それゆえ、イオンモビリティスペクトル法は2つの主要な段階を包含する:第1の段階において、試料が準備され、そして分析器の中に入れられ、そして第2の段階において、試料が分析される。第2の段階における若干の変形は存在するが、分析のために試料を準備し、入れるのにそれほど多くの選択肢は使用可能でない。
【0005】
しばしば、導入段階は溶剤中の検体の溶液を使用することを伴う。
残念なことには、分析段階時の溶剤の存在は、劣った再現性と不要信号の多いプラズマグラムを生じる可能性がある。それゆえ、再現性を増大させることにより、分析に使用可能な溶剤の数を増加させることにより、あるいは試料サイズの可変性を拡大させることにより導入段階を改善することができるいかなる異なる方法も最も歓迎されるものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
検体を含有する試料をイオンモビリティ分析器により導入し、分析するシステムおよび方法が述べられている。イオンモビリティ分析器の中に試料を入れるのに可変温度蒸発器(VTV)が使用される。VTVを用いる一つの実施形態においては、VTV温度が溶剤の沸点以下で液体試料を注入し、試料をガス流下で蒸発させて、溶剤を排気し、次に温度を急速に上昇し、検体を蒸発させる。
【0007】
VTVを使用することによって、再現性の改善された結果が得られ、また多数の溶剤の使用も可能となる。使用可能な溶剤が多数存在する結果、イオンモビリティスペクトル法を用いて更に広い範囲の検体が有効にキャラクタリゼーション可能である。
【0008】
それゆえ、特に検体と、多分溶剤を含有する試料をキャラクタリゼーションするためのイオンモビリティスペクトロメーターを下記に説明する。イオンモビリティスペクトロメーターは排気口を含み、試料を保持するための試料ユニットを含む。イオンモビリティスペクトロメーターは、受信される温度の指示値に従って試料ユニットの温度を調整するための温度モジュールと、受信される分割比の指示値に従って分割比を調整するための分割比モジュールを更に含む。分割比は、試料ユニットからイオンモビリティ分析器に送達されるガスの流量に対する排気口から排出されるガスの流量の比を特性値とするものである。イオンモビリティスペクトロメーターは、試料ユニットから受け取られる検体のイオン移動度を求めるためのイオンモビリティ分析器と、試料ユニットからイオンモビリティ分析器まで検体を接続し、移送するための接続器素子を更に含む。イオン移動度は試料のキャラクタリゼーションに使用可能である。前出のシステムによって溶剤の排気が可能となるために、大きな試料容積が使用可能である。更には、分割比モジュールの使用はこの装置のダイナミックレンジを拡張することができる。
【0009】
N検体成分{c1,c2,...,cN}を含有する試料をイオンモビリティ分析器により分析するための方法であって、Nが1以上の整数であり、i<jならば成分ciがcjよりも低い脱着温度を有し、そして溶剤の脱着温度がc1の脱着温度以下である方法もこの明細書に述べられている。この方法は、試料を試料ユニット中に保持し、そして試料ユニットの温度を溶剤の少なくとも脱着温度まで調整して、脱着を可能とさせることを含んでなる。この方法は、試料ユニットの温度をc1の脱着温度の少なくとも温度まで調整して、これを脱着させ、そして分析のために試料ユニットからイオンモビリティ分析器までc1を移送することを含んでなる。更に、この方法は、試料ユニットの温度をc2の脱着温度の少なくとも温度まで調整して、これを脱着させ、そして分析のために試料ユニットからイオンモビリティ分析器までc2を移送することを含んでなる。N>2の場合には、すべてのN成分がイオンモビリティ分析器まで移送されるまで調整および移送の段階を繰り返す。溶剤とN成分からなる群の少なくとも1つの構成員の分割比は、分割比モジュールにより受信される分割比の指示値に従って調整され得る。
【0010】
本発明を更によく理解し、そしてこれをどのようにして実施に移すかを更に明確に示すために、例として添付の図面が参照される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は検体のキャラクタリゼーションのためのイオンモビリティスペクトロメーター10のブロック図を示す。イオンモビリティスペクトロメーター10は排気口14を有する試料ユニット12を収めたプログラム可能な温度蒸発器11を含む。イオンモビリティスペクトロメーター10は、温度モジュール16、分割比モジュール18、イオンモビリティ分析器20、および接続器素子21も含む。イオンモビリティスペクトロメーター10は、入力素子22および/またはコントローラー24を更に含むことができる。
【0012】
試料ユニット12は検体と溶剤を含有する試料を保持する。検体は適当な溶剤に溶解可能であり、溶剤を排気口14から排気して、溶剤の容積を低下させることができる。下記に更に詳細に述べるように、排気される溶剤量は、試料ユニット12からイオンモビリティ分析器20に送達されるガスの流量に対する排気口14から排出されるガスの流量の比を特性値とする分割比により決定される。
【0013】
温度モジュール16は、受信される温度の指示値に従って試料ユニット12の温度を調整する。これらの温度の指示値はコントローラー24により決定され、そして温度モジュール16に送信される。コントローラー24は、使用者により入力素子22、例えばコンピューターに接続されたキーボードから入力される試料の物理的特性に基づいてこれらの指示値を決定する。別法としては、温度指示値は入力素子22を用いて使用者により入力可能である。コントローラー24は温度の指示値を処理し、次に対応する制御信号を温度モジュール16まで送信することができる。
【0014】
分割比モジュール18は受信される分割比の指示値に従って分割比を調整する。分割比の指示値はコントローラー24により決定され、分割比モジュール18に送信可能である。コントローラー24は、使用者により入力素子22から入力される試料の物理的特性に基づいてこれらの指示値を決定する。別法としては、分割比の指示値は入力素子22を用いて使用者により入力可能である。コントローラー24は分割比の指示値を処理し、次に対応する制御信号を分割比モジュール18に送信することができる。
【0015】
イオンモビリティ分析器20は試料ユニット12から受け取られる検体のイオン移動度を求める。接続器素子21は、試料ユニット12からイオンモビリティ分析器21まで検体を接続し、移送する。これから取得されるイオン移動度を使用して、検体をキャラクタリゼーションすることができる。
【0016】
一つの実施形態においては、コントローラー24は、溶剤と検体の物理的特性に基づいて温度の指示値と分割比の指示値を決定する。通常、温度および分割比の指示値の決定にコントローラー24により使用される物理的特性は、沸点と溶剤および検体の分子量を含む。別法としては、適当な温度および/または分割比は使用者により入力素子22から直接に入力可能である。
【0017】
図2は図1のプログラム可能な温度蒸発器11の概略図を示す。前に挙げたように、プログラム可能な温度蒸発器11は、試料ユニット12、温度モジュール16および分割比モジュール18を含む。試料ユニット12は試料チャンバー38と入口ポート40を含み、入口ポートはセプタム41を含むことができる。試料ユニット12は、キャリアガス制御バルブ42、キャリアガス流ライン44、流量センサー46、パージ流ライン48および圧力センサー50を更に含む。温度モジュール16は温度センサー52、冷却素子およびヒーター54を含む。分割比モジュール18は分割制御バルブ56と分割流ライン58を含む。
【0018】
セプタム41を含む入口ポート40は、試料を試料チャンバー38の中に入れる開口として機能する。キャリアガス、例えば窒素はキャリアガス流ライン44から試料チャンバー38中に流入し、そして分析器20(図1に図示)に試料を同伴する。キャリアガス制御バルブ42は試料チャンバー38の中へのキャリアガスの流量を制御する。流量センサー46はキャリアガスの流量を測定する。一つの実施形態においては、流量センサー46は、入口ポート40で圧力を測定することによりキャリアガスの流量を取得し、そして対応する流量を計算する。
【0019】
好ましくは、キャリアガスは、システム10のいかなる成分とも反応しない不活性ガスである。例えば、酸素は酸化能力のために有害な影響を及ぼし得、それゆえ避けるのがよい。結果として、システム10のフロントエンド、すなわち試料ユニット12、温度モジュール16、および/または接続器素子21は大気に対して実質的に閉鎖可能である。
【0020】
パージ流ライン48によって、分析時にセプタム41から「流出する」不要な蒸気の除去が可能である。圧力センサー50は、パージ流ライン48のガス圧力を測定して、パージ流量を適当な限度内に確実に保つようにする。
【0021】
温度センサー52は試料チャンバー38の温度を測定する。冷却素子53と加熱素子54は、コントローラー24から決定、受信される温度の指示値に従って試料チャンバー38の温度を変化させる。別法としては、温度の指示値は使用者により入力素子22により直接に入力可能である。例えば、冷却素子53は窒素ガスを40−50psiで使用して、試料チャンバー38を冷却することができ、そして加熱素子54は抵抗加熱素子であることができる。
【0022】
分割制御バルブ56は、分割流ライン58により排気口14から排気される試料ガスの量を制御する。分割制御バルブ56は、コントローラー24により決定され、受信される分割比の指示値に従って排気されるガスの量を増減することができる。別法としては、分割比情報は入力素子22によって使用者により直接に入力可能である。
【0023】
オートローダー57を使用して、試料を入口ポート40からチャンバー38の中に装填することができる。
【0024】
図3は図1のイオンモビリティ分析器20および接続器素子21の概略図を示す。接続器素子21は移送ライン71と加熱コイル72を含む。イオンモビリティ分析器20は、入口ナット74、入口カバー76、オリフィス80を含む入口ライニング78、および入口スリーブ82を含む。イオンモビリティ分析器20は、イオン化器84、ゲート85、ドリフト管86および検出器88を更に含む。
【0025】
移送ライン71は、試料チャンバー38からイオンモビリティ分析器20の入口ライニング78まで検体を移送する。一つの実施形態においては、移送ライン71は長さ約7cmであり、非被覆シリカで構成される。移送ライン71は加熱コイル72により取り囲まれて、試料チャンバー38から入口ライニング78まで移送される間、検体を適当な温度に、例えば25−400℃に、更に通常には250−300℃に維持する。ガラスライニングであってよい入口ライニング78は、入口スリーブ82により取り囲まれている。入口ライニング78は、移送ライン71を入口ライニング78の内側に接近させることができるように、オリフィス80も含む。入口ライニング78は、メンテナンスあるいは診断の問題のためには入口カバー76を取り外すことにより接近可能である。
【0026】
試料ガス、例えば空気または窒素は入口ライニング78の中に圧入されて、検体をイオン化器84とドリフト管86に向けて同伴する。入口ナット74は移送ライン71を所定の位置に固定する。イオン化器84は検体をイオン化するための放射線源を含むことができる。イオン化器84とドリフト管86の間の電子ゲート85は通常閉じられているが、周期的に、ゲート85は短時間開かれて、分析のためにイオンのパルスをドリフト管86の中に入れる。検出器88はドリフト管86の遠端に到達するイオンを検出する。検体イオンの移動度は、イオンが電場の影響の下でドリフト管86中の外周圧力のガスの中を移動する時の移動速度を計算することにより求められる。イオンモビリティスペクトル法におけるイオン化器84、ドリフト管86および検出器88の操作は当業者には既知であり、それゆえ更に詳述されない。
【0027】
操作としては、検出器88は、レディ信号をオートローダー57(図2に図示)を送信して、試料を準備する。オートローダー57は、試料ユニット12からレディ信号を受信した後、試料を試料ユニット12の中に注入する。オートローダー57は、試料を注入しながら信号を試料ユニット12に送信して、操作を開始する。引き続いて、オートローダー57は後注入遅延時間モードに入り、スタンバイとされる。次に、検出器88は、ドリフト管中外周圧力で測定されるイオンの速度からイオン移動度データを取得する。イオン移動度は検体に特性的であり、それゆえ検体の同定に使用可能である。加えて、検出器88により受信される信号の強度は、試料中に存在する検体の量を指示値するものである。
【0028】
本発明の原理はこの定量法の再現性を改善する。加えて、本発明により教示されるように、蒸発器の温度の制御および可変性によって、比較的低揮発性である溶剤、例えば水および種々のアルコールを含む溶剤の範囲を拡大することが可能になる。
【0029】
図4Aは、本発明の一つの実施形態における試料ユニット12の時間に対する温度のプロット60を示す。第1の段階の溶剤を除去する時間0からt1までは、温度モジュール16は、試料ユニット12の温度を溶剤の沸点Tb,sol以上の第1の温度まで上昇させ、次に実質的に維持する。第2の段階の分析が行われるt1からt2までは、温度モジュール16は、試料ユニット12の温度を第1の温度よりも高い第2の温度まで上昇させ、次に実質的に維持する。第2の温度は、通常、検体の沸点Tb,anよりも高い。
【0030】
図4Bは時間に対する分割比の第2のプロット62を示す。分割比モジュール18は、第1の段階のt0からt3までは、分割比を第1の範囲内に維持し、そして第2の段階のt3からt4までは、分割比を第2の範囲内に維持する。一つの実施形態においては、第1の範囲は第2の範囲の値に等しいか、あるいは大きい値を有する。通常、第1の段階時の分割比は10よりも大きく、一方第2の段階時の分割比は10-2未満である。
【0031】
第1の段階時溶剤の大部分は排気口14から排気される。溶剤の放出に必要とされる第1の段階の期間は、溶剤と検体の物理的特性、例えば各々の沸点により決定される。この期間は分析器に導入される試料の量にも依存し、異なる分析器は異なる試料サイズにより最良の動作を行う。図4Aおよび4Bに図示するプロット60および62の特別のプロフィールは例示であるということを理解すべきである。プロット60および62のいくつかの他のプロフィールも使用可能である。例えば、第1の段階時の温度はTb,solにおいて、あるいはこの近傍で保持可能であり、そしてこれ以上では必ずしも保持可能ではない。加えて、第1の段階および第2の段階におけるプロットの関数形は線形である必要はない。別の例においては、分割比は分析時全体でゼロに維持可能である。
【0032】
図5Aおよび5Bは温度および分割比に対する別の可能なプロフィールを示す。プロット64は、溶剤の沸点以下の温度において液体試料を入口ポート41の中に装填した場合の試料ユニット12の時間に対する温度を示す。試料をガス流下で蒸発させて、溶剤を排気する。次に、時間t5において、温度を急速に上昇して、検体を蒸発させる。試料の装填と温度の急速な上昇の間には遅延が存在しても、しなくともよい。プロット65は時間に対する分割比を示す。排気口14は分析全体に開放されている。
【0033】
試料がいくつかの検体成分を含有する場合、本発明の原理が使用可能である。このような場合には、更に複雑なプロフィールを使用して、以降の分析のために継続する脱着温度において各検体成分を優先的に脱着させることができる。脱着温度は沸騰温度の一般化であり、そして顕著な量の物質がガスに転換され、そしてキャリアガスにより分析器の中に同伴される温度を指す。ある条件下では、検体成分は、ある温度においてあるいは沸点以下で著しく脱着あるいは蒸発し始めることができ、このような温度が脱着温度である。このように、脱着温度においては、充分な検体成分が試料から取り出されて、イオンモビリティ分析器を用いて正確な測定を可能とする。
【0034】
試料は溶剤とN検体成分{c1,c2,...,cN}を含有し、ここで成分ciはi<jならばcjよりも低い脱着温度を有し、そして溶剤の脱着温度はc1の脱着温度以下であるものとする。このような条件下で好適であることができる一つの可能なプロフィールは、溶剤の脱着温度以下のある固定した値で開始する温度に対応する。次に、この温度を溶剤の脱着または蒸発を可能とさせる範囲まで上昇させる。別法としては、試料ユニットの初期温度は溶剤の脱着温度よりも高いが、成分c1の脱着温度よりも低いこともあり得る。ゼロから若干大きい量までの範囲であることができる待ち時間の後、次に、温度をc1の少なくとも脱着温度まで、またはc2の脱着温度以下まで上昇させる。成分c1の分析に使用され得る待ち時間の後、次に、温度をc2の少なくとも脱着温度まで、またはc3の脱着温度以下まで上昇させるなどcN成分が脱着するまで行う。各検体成分は、脱着されるにしたがって分析のためにキャリアガスにより分析器の中に同伴される。このようにして、各成分は、この分析において存在する干渉の量を低減しながら別々に分析される。加えて、溶剤とN検体成分からなる群の少なくとも1つの構成員の分割比は、上述のように分割比モジュールにより受信された分割比の指示値に従って調整され得る。このように、本発明の原理は、イオンモビリティ分析器の中への検体の導入に対して非制御加熱に比較して検体の更に制御された脱着を使用者に提供する。
【0035】
溶剤が存在しない場合には、あるいは溶剤の脱着温度がcNに対する脱着温度よりも高い場合には、この方法は、温度を少なくともc1の脱着温度、またはc2の脱着温度以下に調整することにより開始することができる。待ち時間の後、温度をc2の少なくとも脱着温度まで、またはc3の脱着温度以下まで上昇させ、以下cN成分が脱着するまで行う。各検体成分は、脱着されるにしたがって分析のためにキャリアガスにより分析器の中に同伴される。加えて、N検体成分からなる群の少なくとも1つの構成員の分割比は、上述のように分割比モジュールにより受信された分割比の指示値に従って調整され得る。
【0036】
分割比モジュール18のタイミングは、通常、温度モジュール16のタイミングと無関係であるということを特記しなければならない。しかしながら、他の実施形態においては、分割比モジュール18のタイミングは温度モジュール16のタイミングに依存的であることができる。
【0037】
プロット60において反映される加熱によって、再現性と使用可能な溶剤の数を増大しながら、スペクトロメーター10の中への大容積の液体試料の導入が可能となる。
【0038】
特に、一部の溶剤の存在は得られるプラズマグラムを変化させることができるために、試料ユニットに入る容積を制御することにより、良好な再現性が達成可能である。本発明によって、試料を排気して、溶剤を制御可能かつ急速な方法で除去することが可能となる。急速な排気は、他の要素、例えば外周温度および湿度が結果に影響を及ぼす時間を低減させることも示唆する。
【0039】
更には、本発明の原理は、システム10のフロントエンドを大気ガスに対して実質的に閉じることにより、不活性なキャリアガスを使用することにより、そして試料ユニット12の温度を制御することにより実験結果の再現性を増大させる。これらの段階は、また、入口ライニング78とプログラム可能な温度蒸発器11の表面の両方の完全性も維持し、このことはシステム10の再現性感度も改善する。本発明の前に挙げた特徴は、確率的および系統的誤差の両方も低減させる。
【0040】
加えて、本発明は、有意味的に測定可能な検体の量または濃度の範囲を指す、有効なダイナミックレンジを増大させることができる。この量または濃度が最大限度を超える場合には、信号の飽和が起こり、検体の更なる増加が検体に特性的な測定信号の変化を殆ど、あるいは全く生じさせない。本発明の原理の教示を使用する場合には、ダイナミックレンジ外にある検体の量を含有する初期の溶液容積がなお使用可能である。容積を分割して、検体の量をダイナミックレンジ内のレベルまで低下させることにより、システム10のダイナミックレンジを有効に増大させ、大容積の試料が使用可能である。
【0041】
本明細書で説明し、例示した実施形態に本発明から逸脱せずに種々の変更形態および適応を加えることができるということを理解すべきである。例えば、実質的に区分一定である温度および分割比の曲線プロフィールを述べたが、分析対象の試料にとって適当である種々の他のプロフィールが使用可能である。特に、このプロフィールに対する非線形の関数形が使用可能である。更には、検体と溶剤の溶液の形の試料が上述されているが、試料は溶剤無しで試料ユニット12の中に導入され得るということを理解すべきである。例えば、固体検体試料を導入し、次に蒸発させることができる。試料が蒸発可能であるという前提ならば、検体はガスまたは液体としても試料ユニットの中に導入され得る。有利なこととしては、本発明の原理を用いて試料内の一つだけではなく、いくつかの成分が分析可能であるということも理解すべきである。本発明の範囲は添付の特許請求の範囲で定義されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は検体のキャラクタリゼーションのためのイオンモビリティスペクトロメーターのブロック図を示す。
【図2】図2は図1のプログラム可能な温度蒸発器の概略図を示す。
【図3】図3は図1のイオンモビリティ分析器と接続器素子の概略図を示す。
【図4】図4Aおよび4Bは本発明の一つの実施形態における試料ユニットの時間に対する温度および分割比のプロットを示す。
【図5】図5Aおよび5Bは本発明のもう一つの実施形態における試料ユニットの時間に対する温度および分割比のプロットを示す。
【符号の説明】
【0043】
10 イオンモビリティスペクトロメーター
12 試料ユニット
14 排気口
16 温度モジュール
18 分割比モジュール
20 分析器
22 入力素子
24 コントローラー
40 入口ポート
42 キャリアガス制御バルブ
44 キャリアガス流ライン
46 流量センサー
48 パージ流ライン
50 圧力センサー
52 温度センサー
53 冷却素子
54 ヒーター
74 入口ナット
76 入口カバー
78 入口ライニング
82 入口スリーブ
85 ゲート
86 ドリフト管
88 検出器


【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体を含有する試料を分析するためのイオンモビリティスペクトロメーターであって、
排気口を含み、試料を保持するための試料ユニット;
受信された温度の指示値に従って試料ユニットの温度を調整するための温度モジュール;
試料ユニットから受け取られる検体のイオン移動度を求めるためのイオンモビリティ分析器;
試料ユニットから、試料のキャラクタリゼーションに使用されるイオン移動度を与えるイオンモビリティ分析器に検体を接続し、移送するための接続器素子;および
試料ユニットから、イオンモビリティ分析器に送達されるガスの流量に対する排気口から排出されるガスの流量の比を特性値とする分割比を受信される分割比の指示値に従って調整するための分割比モジュール
を含んでなるイオンモビリティスペクトロメーター。
【請求項2】
試料が溶剤も含む請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
温度の指示値と分割比の指示値を入力するための入力素子を更に含んでなる請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
温度モジュールに温度の指示値を、そして分割比モジュールに分割比の指示値を送信するためのコントローラーを更に含んでなる請求項2に記載のシステム。
【請求項5】
コントローラーが試料の物理的特性に基づいて温度の指示値と分割比の指示値を決定する請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
試料を導入して、試料を蒸発させた後で、温度モジュールが試料ユニットの温度を上昇させる請求項2に記載のシステム。
【請求項7】
温度モジュールが、
第1の段階において、試料ユニットの温度を溶剤の沸点以上の第1の温度まで上昇させ、次に実質的に維持し、そして
第2の段階において、試料ユニットの温度を第1の温度よりも高い第2の温度まで上昇させ、次に実質的に維持する請求項2に記載のシステム。
【請求項8】
第2の温度が検体の沸点よりも高い請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
分割比モジュールが第1の段階時で分割比を第1の範囲内に維持し、そして第2の段階時で分割比を第2の範囲内に維持し、第1の範囲が第2の範囲の値に等しいか、あるいは大きい値を有する請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
第1の段階時の分割比が10よりも大きい請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
第2の段階時の分割比が10-2未満である請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
試料ユニットが
温度モジュールが試料を加熱する間、試料を収めるための試料チャンバー;
試料を試料チャンバーに入れるようにしたセプタムを有する入口ポート;
キャリアガスを試料チャンバーに流入させて、試料チャンバーから分析器まで試料を同伴するようにしたキャリアガス流ライン;
キャリアガス流ライン中のキャリアガスの流量を測定するための流量センサー;および
試料チャンバーの中へのキャリアガス流を制御するためのキャリアガス制御バルブ
を含む請求項2に記載のシステム。
【請求項13】
試料ユニットがセプタムから流出する不要な蒸気を除去するためのパージ流ラインを更に含む請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
大気が試料ユニット、温度モジュールおよび接続器素子の少なくとも一つに入らないようにされている請求項2に記載のシステム。
【請求項15】
大気が中に入らないようにシステムが閉じられている請求項2に記載のシステム。
【請求項16】
検体を含有する試料をイオンモビリティ分析器により分析するための方法であって、
検体を含有する試料を排気口を含む試料ユニット中に保持し;
温度モジュールが受信される温度の指示値に従って試料ユニットの温度を調整し;
試料ユニットからイオンモビリティ分析器に送達されるガスの流量に対する排気口から排出されるガスの流量の比を特性値とする分割比を分割比モジュールにより受信される分割比の指示値に従って調整し;そして
試料ユニットからイオンモビリティ分析器まで検体を移送する
ことを含んでなる方法。
【請求項17】
試料ユニットから受け取られる検体のイオン移動度をイオンモビリティ分析器により求め、イオン移動度が試料のキャラクタリゼーションに使用されることを更に含んでなる請求項16に記載の方法。
【請求項18】
試料が溶剤も含む請求項17に記載の方法。
【請求項19】
温度の指示値と分割比の指示値を入力素子により入力することを更に含んでなる請求項18に記載の方法。
【請求項20】
コントローラーにより温度モジュールに温度の指示値を送信し;そして
コントローラーにより分割比モジュールに分割比の指示値を送信することを更に含んでなる請求項18に記載の方法。
【請求項21】
コントローラーが温度の指示値を決め;そして
コントローラーが試料の物理的特性に基づいて分割比の指示値を決める
ことを更に含んでなる請求項20に記載の方法。
【請求項22】
試料を試料ユニットに導入して、試料を蒸発させた後で、温度モジュールにより試料ユニットの温度を上昇させる請求項18に記載の方法。
【請求項23】
第1の段階において、温度モジュールが試料ユニットの温度を溶剤の沸点以上の第1の温度まで上昇させ、次に実質的に維持し、そして
第2の段階において、温度モジュールが試料ユニットの温度を第1の温度よりも高い第2の温度まで上昇させ、次に実質的に維持する
ことを更に含んでなる請求項18に記載の方法。
【請求項24】
更なる上昇の段階において、第2の温度が検体の沸点よりも高い請求項23に記載の方法。
【請求項25】
分割比モジュールが第1の段階時で分割比を第1の範囲内に維持し、そして
分割比モジュールが第2の段階時で分割比を第2の範囲内に維持し、第1の範囲が第2の範囲の値に等しいか、あるいは大きい値を有する
ことを含んでなる請求項24に記載の方法。
【請求項26】
分割比を第1の範囲内に維持する段階において、第1の段階時の分割比が10よりも大きい請求項25に記載の方法。
【請求項27】
分割比を第2の範囲内に維持する段階において、第2の段階時の分割比が10-2未満である請求項26に記載の方法。
【請求項28】
温度モジュールが試料を加熱する間、試料を試料チャンバー中に収め;そして
セプタムを有する入口ポートから試料チャンバーに試料を入れるようにし;
キャリアガスをキャリアガス流ラインから試料チャンバーに流入させて、試料チャンバーから分析器まで試料を同伴するようにし;
キャリアガス流ライン中のキャリアガスの流量を測定し;そして
試料チャンバーの中へのキャリアガス流を制御する
ことを含んでなる請求項18に記載の方法。
【請求項29】
セプタムから流出する不要な蒸気を除去することを更に含む請求項28に記載の方法。
【請求項30】
移送する段階において、検体が接続器素子により試料ユニットからイオンモビリティ分析器に移送され、大気が試料ユニット、温度モジュールおよび接続器素子の少なくとも一つに入らないようにされていることを更に含んでなる請求項18に記載の方法。
【請求項31】
N検体成分{c1,c2,...,cN}を含有する試料をイオンモビリティ分析器により分析するための方法であって、
試料を試料ユニット中に保持し;
試料ユニットの温度をc1の脱着温度の少なくとも温度まで調整して、これを脱着させ;
分析のために試料ユニットからイオンモビリティ分析器までc1を移送し;
試料ユニットの温度をc2の脱着温度の少なくとも温度まで調整して、これを脱着させ;
分析のために試料ユニットからこのイオンモビリティ分析器までc2を移送し;そして
N>2の場合には、すべてのN成分がイオンモビリティ分析器に分析のために移送されるまで調整および移送の段階を繰り返す
ことを含んでなり、
Nが1以上の整数であり、そして成分ciがi<jならばcjよりも低い脱着温度を有する
方法。
【請求項32】
試料ユニットが排気口を有し、分割比モジュールにより受信される分割比の指示値に従ってN成分からなる群の少なくとも1つの構成員の分割比を調整することを更に含んでなり、分割比が試料ユニットからイオンモビリティ分析器に送達されるガスの流量に対する排気口から排出されるガスの流量の比を特性値とする請求項31に記載の方法。
【請求項33】
N検体成分の少なくとも1つが溶剤に溶解し、そして溶剤の脱着温度がc1の脱着温度以下であり、
試料ユニットの温度をc1の脱着温度の少なくともそれに調整する段階の前に、試料ユニットの温度を溶剤の少なくとも脱着温度まで調整して、これを脱着させることを更に含んでなる請求項31に記載の方法。
【請求項34】
試料ユニットが排気口を有し、溶剤およびN成分からなる群の少なくとも1つの構成員の分割比を分割比モジュールにより受信される分割比の指示値に従って調整することを更に含んでなり、分割比が試料ユニットからこのイオンモビリティ分析器に送達されるガスの流量に対するこの排気口から排出されるガスの流量の比を特性値とする請求項33に記載の方法。
【請求項35】
試料ユニットにより受け取られるN検体成分の少なくとも1つのイオン移動度をイオンモビリティ分析器により求めることを更に含んでなり、イオン移動度がこの試料のキャラクタリゼーションに使用される請求項32に記載の方法。
【請求項36】
試料ユニットにより受け取られるN検体成分の少なくとも1つのイオン移動度をイオンモビリティ分析器により求めることを更に含んでなり、イオン移動度が試料のキャラクタリゼーションに使用される請求項34に記載の方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−508551(P2007−508551A)
【公表日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−534408(P2006−534408)
【出願日】平成16年10月8日(2004.10.8)
【国際出願番号】PCT/US2004/033332
【国際公開番号】WO2005/036130
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(506118696)スミスズ ディテクション インコーポレイティド (1)
【Fターム(参考)】