説明

検体を提供する哺乳動物における肝臓腫瘍性病変の存在を検出するために有効なマイクロRNA

【課題】化学物質の肝臓発癌性を正確かつ簡便に評価するための癌検定方法、また肝臓癌の素因について哺乳動物個体をスクリーニングする方法の提供。
【解決手段】哺乳動物における肝臓腫瘍性病変の存在を検出するために有効な、特定のマイクロRNA。また、哺乳動物における肝臓腫瘍性病変の検定方法であって、(1)哺乳動物が提供する検体に含まれる、以下のマイクロRNA群から選ばれる1以上のマイクロRNAの含有量を測定する第一工程、及び(2)第一工程で得られた前記検体に含まれるマイクロRNAの含有量の測定値を当該マイクロRNAの含有量の対照値と比較し、その差異に基づいて前記検体を提供する哺乳動物における肝臓腫瘍性病変の有無を評価する第二工程を有する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体を提供する哺乳動物における肝臓腫瘍性病変の存在を検出するために有効なマイクロRNA等に関する。
【背景技術】
【0002】
癌が遺伝子の関わる異常を原因とする疾病であることが次第に明らかになりつつあるが、癌に対する羅患率、死亡率は未だ高い。このような状況において、様々な化学物質の発癌性の有無を事前に確認しておくための安全性試験は極めて重要である。従来、化学物質の発癌性を検定する代表的な方法としては、種々の哺乳動物(例えば、ラット)を多数用い、且つ、長期間の動物飼育を要する安全性試験において、解剖後に採取される組織等のサンプルについて、病理組織学的手法により発癌性病変の有無を評価する方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
【非特許文献1】OECD Guidelines for the Testing of Chemicals -Test No.451: Carcinogenicity Studies, ULR: http://puck.sourceoecd.org/vl=3881281/cl=27/nw=1/rpsv/ij/oecdjournals/1607310x/v1n4/s57/p1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような哺乳動物を用いた安全性試験では、病理組織学的手法を用いるために高度な専門技術レベルが不可欠となり、また経時的に発癌性病変の有無を評価する汎用的な方法はこれまでになかった。具体的には、化学物質の発癌標的となる割合の最も高い器官又は組織の一つである肝臓の場合には、良性腫瘍状態である肝細胞腺腫、又は、悪性腫瘍若しくは肝がん状態である肝細胞癌等のような腫瘍性病変になる前段階である過形成状態の腫瘍性病変にあって、肝細胞腺腫になる直前の病変(以下、前駆病変と記すこともある。)は当該肝細胞腺腫の組織学的特徴に類似した組織変化を呈してくるため、当該病変(即ち、前駆病変)の診断は従来法のみでは場合によっては必ずしも十分に満足のゆくものではなかった。
そこで、化学物質の肝臓発癌性をできるだけ正確かつ簡便に評価するための癌検定方法の開発が切望されている。また、肝臓癌の素因について哺乳動物個体をスクリーニングする方法が必要とされており、またさらに、肝臓癌の治療方法も非常に望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる状況の下、本発明者らは鋭意検討した結果、肝臓腫瘍性病変が存在する哺乳動物由来の血液において、特定のマイクロRNAの含有量が正常生体由来の検体に含まれる当該マイクロRNAの含有量に比べ高い値を示すことを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明は、
1.検体を提供する哺乳動物における肝臓腫瘍性病変の存在を検出するために有効なマイクロRNAであり、以下のマイクロRNA群から選ばれる1以上のマイクロRNA(以下、本マイクロRNAと記すこともある。);
<マイクロRNA群>
miR-34a、miR-331、miR-98、miR-338、miR-652
2.肝臓腫瘍性病変が、過形成状態である前駆病変、良性腫瘍状態である肝細胞腺腫、又は、悪性腫瘍若しくは肝がん状態である肝細胞癌であることを特徴とする前項1記載のマイクロRNA;
3.哺乳動物における肝臓腫瘍性病変の検定方法であって、
(1)哺乳動物が提供する検体に含まれる、以下のマイクロRNA群から選ばれる1以上のマイクロRNAの含有量を測定する第一工程、及び
(2)第一工程で得られた前記検体に含まれるマイクロRNAの含有量の測定値を当該マイクロRNAの含有量の対照値と比較し、その差異に基づいて前記検体を提供する哺乳動物における肝臓腫瘍性病変の有無を評価する第二工程
を有することを特徴とする方法(以下、本発明方法と記すこともある。);
<マイクロRNA群>
miR-34a、miR-331、miR-98、miR-338、miR-652
4.肝臓腫瘍性病変が、過形成状態である前駆病変、良性腫瘍状態である肝細胞腺腫、又は、悪性腫瘍若しくは肝がん状態である肝細胞癌であることを特徴とする前項3記載の方法;
5.検体が、血液若しくはその内容物が含まれる生体試料であることを特徴とする前項3又は4記載の方法;
6.マイクロRNAの含有量の対照値が、当該マイクロRNAの正常生体由来の検体に含まれる含有量の値であることを特徴とする前項3〜5のいずれかに記載される方法;
7.第二工程において、マイクロRNAの含有量の測定値が対照値の2倍以上、又は、対照値と比較し統計学的に有意な高値であることを指標とし、当該指標に基づいて前記検体における肝臓腫瘍性病変の有無を評価する工程であることを特徴とする前項3〜6のいずれかに記載される方法;
8.物質の肝発癌に係る促進活性若しくは抑制活性の検定方法であって、
(1)哺乳動物と被験物質とを接触させる第一工程、
(2)第一工程で前記被験物質と接触させた哺乳動物が提供する検体に含まれる、以下のマイクロRNA群から選ばれる1以上のマイクロRNAの含有量を測定する第二工程、及び
(3)第二工程で得られたマイクロRNAの含有量の測定値を当該マイクロRNAの含有量の対照値と比較し、その差異に基づいて前記被験物質の肝発癌に係る促進活性若しくは抑制活性を評価する第三工程
を有することを特徴とする方法(以下、本発明肝発癌活性検定方法と記すこともある。);
<マイクロRNA群>
miR-34a、miR-331、miR-98、miR-338、miR-652
9.マイクロRNAの含有量の対照値が、当該マイクロRNAの正常生体由来の検体に含まれる含有量の値であることを特徴とする前項8記載の方法;
10.第三工程において、マイクロRNA群の含有量の測定値が対照値の2倍以上若しくは2分の1以下、又は、対照値と比較し統計学的に有意な高値若しくは低値であることを指標とし、前記被験物質の肝発癌に係る促進活性若しくは抑制活性を評価することを特徴とする前項8又は9記載の方法;
11.前項7〜10のいずれかに記載される方法により評価された肝発癌に係る促進活性若しくは抑制活性に基づき肝発癌に係る促進活性若しくは抑制活性を有する物質を選抜する工程を有することを特徴とする肝発癌に係る促進活性若しくは抑制活性を有する物質の探索方法;
12.哺乳動物が提供する検体における肝臓腫瘍性病変の有無を評価するための指標を提供する試薬としての、以下のマイクロRNA群から選ばれる1以上のマイクロRNAの使用;
<マイクロRNA群>
miR-34a、miR-331、miR-98、miR-338、miR-652
13.哺乳動物が提供する検体について、請求項3〜7のいずれかに記載される方法により検出された当該哺乳動物が有する肝臓腫瘍性病変の有無に係るデータ情報を入力・蓄積・管理する手段、前記データ情報を所望の結果を得るための条件に基づき照会・検索する手段、及び、照会・検索された結果を表示・出力する手段を具備することを特徴とするシステム;
等を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によって、検体を提供する哺乳動物における肝臓腫瘍性病変の存在を検出するために有効なマイクロRNA等が提供可能となる。本発明は、化学物質の肝臓発癌性をできるだけ正確かつ簡便に評価するための癌検定方法となりうる。また、肝臓癌の素因について哺乳動物個体をスクリーニングする方法や、またさらに、肝臓癌の治療方法にも応用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、特定のマイクロRNA群から選ばれる1以上のマイクロRNAの含有量と肝臓腫瘍性病変の存在との間の関係を示唆する直接的エビデンスを新たに見出したことに基づくものである。見出された知見とは、具体的には例えば、(1)肝臓腫瘍性病変が存在するラットの血液において、特定のマイクロRNAの含有量が、肝臓腫瘍性病変が存在しないラットの血液におけるマイクロRNAの含有量と顕著に異なり、増大していること、加えて(2)その含有量の変動を示す特定のマイクロRNAは、偶然にも、良性腫瘍状態である肝細胞腺腫、又は、悪性腫瘍若しくは肝がん状態である肝細胞癌等のような腫瘍性病変になる前段階である過形成状態の腫瘍性病変にあって、肝細胞腺腫になる直前の病変(即ち、前駆病変)のみが存在するラットの血液において、特定のマイクロRNAの含有量が、前駆病変を含めた肝臓腫瘍性病変が存在しないラットの血液におけるマイクロRNAの含有量と異なり、増大していること、等である。
【0008】
本発明は、検体を提供する哺乳動物における肝臓腫瘍性病変の存在を検出するために有効なマイクロRNAであり、以下のマイクロRNA群から選ばれる1以上のマイクロRNA(即ち、本マイクロRNA)を含む。
<マイクロRNA群>
miR-34a(配列番号1:uggcagugucuuagcugguugu)、miR-331(配列番号2:gccccugggccuauccuagaa)、miR-98(配列番号3:ugagguaguaaguuguauuguu)、miR-338(配列番号4:uccagcaucagugauuuuguuga)、miR-652(配列番号5:aauggcgccacuaggguugug)
【0009】
本発明において「肝臓腫瘍性病変」としては、例えば、(1)悪性腫瘍若しくは肝がん状態である肝細胞癌等のような腫瘍性病変になる前段階である過形成状態の腫瘍性病変にあって、肝細胞腺腫になる直前の病変(即ち、過形成状態である前駆病変)、(2)良性腫瘍状態である肝細胞腺腫、又は、(3)悪性腫瘍若しくは肝がん状態である肝細胞癌等を挙げることができる。
【0010】
本発明において「マイクロRNA」(以下、miRNAと記すこともある。)は、広範囲にわたる種のゲノムにおいて同定されている短い非コードRNAである。マイクロRNAは、1993年に最初にシノラディス・エレガンスにおいて発見され、その後全ての多細胞生物で発見された。マイクロRNAは、遺伝子発現の負の調節因子であり、タンパク質コードmRNAの3’非翻訳領域内の塩基配列との塩基対の完全若しくは不完全な相互作用によって主に機能すると考えられている。2006年までに326種のマイクロRNAがヒトにおいて発見された。これらのマイクロRNAのそれぞれの役割は未だ知られていないが、特定のマイクロRNAは、脂肪細胞の分化、卵母細胞の成熟、多能性細胞状態の維持、インスリン分泌の調節等の多様な細胞過程の調節に関わっていると推測されている。
【0011】
本発明において「検体」とは、例えば、血液若しくはその内容物が含まれる生体試料をあげることができ、具体的には、例えば、被験哺乳動物から採取された血液そのもの、或いは、血清、血漿等の血液成分が含まれる生体試料又はそれらから分離されたマイクロRNAを含む試料等をあげることができる。これらの試料はそのまま検体として用いてもよく、また、かかる試料から分離、分画、固定化等の種々の操作により調製された試料を検体として用いてもよい。
本発明において含有量が測定されるマイクロRNAは、上記のマイクロRNA群(以下、本マイクロRNA群と記すこともある。)から選ばれる1以上のマイクロRNA(即ち、本マイクロRNA)である。
尚、本発明において含有量が測定されるマイクロRNAは、例えば、配列表に示される塩基配列等の公知の塩基配列と全く同一の塩基配列を有する遺伝子のほか、前記の遺伝子の塩基配列に、生物の種差、個体差若しくは器官、組織間の差異等により天然に生じる変異による塩基の欠失、置換若しくは付加が生じた塩基配列を有する遺伝子も含まれる。
【0012】
本マイクロRNAの含有量の測定は、生体試料におけるRNAの含有量を測定するのに適切な方法、例えば、単位量の検体あたりの本マイクロRNAの転写物量を測定する方法等の通常の方法(具体的には、増幅に基づく方法やハイブリダイゼーションに基づく方法等)を使用して測定することができる。
本マイクロRNAの含有量を測定するには、例えば、マイクロRNA定量的リアルタイム−ポリメラーゼチェイン反応(以下、定量的RT−PCRと記すこともある。)、マイクロRNAマイクロアレイ法等により実施することができる。
【0013】
増幅に基づく方法では、増幅反応(例えば、ポリメラーゼチェイン反応)における鋳型として、本マイクロRNAを使用する。本マイクロRNAの含有量は、本マイクロRNAの逆転写の後、その逆転写産物のポリメラーゼチェイン反応による増幅によって測定することもできる。本マイクロRNAの含有量は、内部標準、例えば、同じ試料内に存在する含有量に変動がないマイクロRNAの存在量、又は、予め検体に混ぜ込んだ量が既知である検体の動物種とは異なる他の動物種由来のマイクロRNAと比較して定量化することができる。定量的増幅では、濃度が既知である本マイクロRNAの増幅産物の量と元の試料における鋳型の量と比較することにより試料中の含有量を求めることができる。TaqManプローブを使用する定量的RT‐PCRの方法は、当該技術分野で周知であり、例えば、Chen C et al.(2005) Real-time quantification of microRNAs by stem-loop RT-PCR.Nucleic Acids Res.33(20):e179.、Lao K et al.(2006) Multiplexing RT-PCR for the detection of multiple miRNA species in small samples., Biochem Biophys Res Commun.343(1):85-89.等に記載されている。
【0014】
ハイブリダイゼーションに基づく方法としては、例えば、ノーザンブロット解析、溶液ハイブリダイゼーション、RNアーゼ保護検定(Hui Wand et al.(2007) Direct and sensitive miRNA profiling from low-input total RNA RNA 13:151-159)も当業者に周知である。
【0015】
検体に含まれる複数の本マイクロRNAの含有量を同時に測定するのに適切な方法としては、例えば、マイクロアレイに基づく方法等を挙げることができる。当該方法を使用して、例えば、本マイクロRNA群に含まれる全てのマイクロRNAの含有量を測定する場合がある。このような方法は、1組の本マイクロRNAに特異的な1組のプローブオリゴヌクレオチドを含むマイクロチップフォーマット(即ち、マイクロアレイ)において、オリゴライブラリーを作成する手順を伴う。このようなマイクロアレイを使用して、検体に含まれる複数の本マイクロRNAの含有量は、RNAを逆転写して1組の標的オリゴヌクレオチドを生成し、それらの標的オリゴヌクレオチドをマイクロアレイ上のプローブオリゴヌクレオチドにハイブリダイズして、ハイブリダイゼーションプロファイル又は発現プロファイルを作成することにより、測定される。次いで、検体のハイブリダイゼーションプロファイルを対照検体のハイブリダイゼーションプロファイルと比較し、どのマイクロRNAにおいて含有量が変化したのかを測定することができる。因みに、マイクロアレイ法の例は、米国特許出願第2005/0277139号等に記載されている。
【0016】
また、増幅に基づく方法を使用して、本マイクロRNAのコピー数を測定することもできる。当該方法において、対応するマイクロRNAの塩基配列は、増幅反応(例えば、PCR)の鋳型の役割を果たす。定量的増幅では、増幅産物の量が元の検体における鋳型の量に比例する。適切な対照に対する比較により、使用される特異的プローブに対応する本マイクロRNAのコピー数の指標が得られる。TaqManプローブを使用した定量的RT−PCRの方法は、当該技術分野で周知であり、例えば、Heid et al., 1996, Real time quantitative PCR., Genome Res., 10:986‐994等に記載されている。
【0017】
また、TaqManに基づく方法を使用して、本マイクロRNAを定量化することもできる。TaqManに基づく方法では、5’蛍光色素及び3’消光剤を含む蛍光発生オリゴヌクレオチドプローブが使用される。当該プローブはPCR産物にハイブリダイズするが、3’末端における遮断剤によりそれ自体は伸長することができない。次のサイクルでPCR産物が増幅されると、ポリメラーゼ(例えば、AmpliTaq)の5’ヌクレアーゼ活性は、TaqManプローブの開裂をもたらす。当該開裂によって、5’蛍光色素と3’消光剤とが分離し、それによって増幅の機能として蛍光が増大する(例えば、http://www2.perkin‐elmer.comを参照)。
【0018】
適切な増幅方法の他の例として、リガーゼ連鎖反応(LCR)(Wu and Wallace, Genomics, 4:560, 1989、Landegren et al., Science, 241:1077, 1988、Barringer et al., Gene, 89:117, 1990)、転写増幅(Kwoh et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 86:1173,1989)、自立配列複製(Guatelli et al., Proc Nat Acad Sci, USA 87:1874, 1990)、ドットPCR、リンカーアダプターPCR等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0019】
本マイクロRNAのコピー数を測定する1つの効果的な方法は、マイクロアレイに基づくプラットフォームを使用する。マイクロアレイ技術は高分解能が得られるため、使用される場合がある。例えば、伝統的なCGHのマッピング分解能は一般的に20Mbと限られているのに対して、マイクロアレイに基づくCGHでは、マッピング分解能の向上が達成される。各種のマイクロアレイ方法の詳細は、例えば、米国特許第6,232,068号、Pollack et al., Nat. Genet., 23(1):41‐6, (1999)等に記載されている。
【0020】
検体の「発現プロファイル」又は「ハイブリダイゼーションプロファイル」は、本質的には前記検体の状態のフィンガープリントであり、2つの状態にはいずれかの特定のマイクロRNAが同じように発現されている場合があり、いくつかのマイクロRNAの含有量を測定することによって、当該検体に固有のマイクロRNA発現プロファイルの作成が同時に可能となることがある。即ち、異なる状態の検体の発現プロファイルを比較することによって、これらの状態のそれぞれにおいてどのマイクロRNAがより重要であり、効果的であるかに関する情報が得られる。当該情報の使用は、例えば、特定の治療において、(例えば、特定の患者の長期の予後を改善するように化学療法薬が作用するかどうかを判定するために)評価される場合がある。同様に、診断は、患者由来の検体を既知の発現プロファイルと比較することにより実施又は確認される場合がある。更に、これらのマイクロRNA発現プロファイルによって、肝臓腫瘍性病変発現プロファイルを抑制するか又は予後不良プロファイルを予後良好プロファイルに変える医薬品のスクリーニングが可能となろう。
【0021】
本マイクロRNAの含有量の測定方法についてさらに説明する。
本マイクロRNAの含有量であるmiRNA量は、例えば、本マイクロRNAの塩基配列に基づいて設計、調製されたプローブ又はプライマーを使用して、通常の遺伝子工学的方法、例えば、定量的RT−PCR、マイクロRNAマイクロアレイ法等を用いることによって測定することができる。具体的には、例えば、Chen C et al. (2005) Real-time quantification of microRNAs by stem-loop RT-PCR. Nucleic Acids Res. 33 (20): e179.、Hui Wand et al. (2007) Direct and sensitive miRNA profiling from low-input total RNA, RNA 13: 151-159、J. Sambrook, E. F. Frisch, T. Maniatis著;モレキュラー・クローニング第2版(Molecular Cloning 2nd edition)、コールドスプリング・ハーバー・ラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory)発行、1989年等に記載された方法に準じて行うことができる。この際、検体に含まれる含有量が恒常的に一定であることが知られているマイクロRNAや、検体中に予め一定量混ぜ込む人工マイクロRNA(以下、総じて内部対照RNAと記すこともある。)の量を同時に測定しても良い。そして、内部対照RNAの量若しくはその指標値あたりの本マイクロRNAのmiRNA量又はその指標値を算出することにより、本マイクロRNAの含有量を求めてもよい。
【0022】
(1.マイクロRNAの定量的RT−PCR)
本マイクロRNAの含有量を測定しようとする検体から以下の方法でmiRNAを調製する。
例えば、まず、マイクロRNAが含まれる検体から、塩酸グアニジン/フェノール法、SDS−フェノール法、グアニジンチオシアネート/CsCl法等の汎用的な方法によってmiRNAを含む全RNAを抽出する。例えばISOGEN(ニッポンジーン製)等の市販のキットを利用して全RNAを抽出してもよい。
抽出された全RNAから、例えば、以下のようにしてmiRNAを調製する。まず、オリゴdTをリガンドとして有するポリAカラムを5倍カラム容量以上のLoading buffer[20mMトリス塩酸緩衝液(pH7.6)、0.5M NaCl、1mM EDTA、0.1%(w/v)SDS]を用いて、平衡化し、続いて前述の方法で調製された全RNAをカラムにかけ、10倍カラム容量のloading bufferで洗浄する。さらに5倍カラム容量のWashing buffer[20mMトリス塩酸緩衝液(pH7.6)、0.1M NaCl、1mM EDTA、0.1%(w/v)SDS]で洗浄する。続いて、3倍カラム容量のelution buffer[10mMトリス塩酸緩衝液(pH7.6)、1mM EDTA、0.05%(w/v)SDS]でmRNAを溶出させることによってmiRNAを得る。
また、例えば、PARISTMキット(Applied Biosystems)等の市販のキットを利用して全RNAを抽出してもよい。当該方法は検体が血液若しくはその内容物が含まれる生体試料の場合に特に好ましい。
尚、前記の全RNAの抽出において、目的のマイクロRNAの含有量の測定を邪魔しない人工マイクロRNAを一定量混ぜ込み、目的のマイクロRNAの含有量を測定する際の内部対照として使用してもよい。このような人工マイクロRNAとしては、例えば、ショウジョウバエのマイクロRNA(例えば、miR-3、miR-6)等を挙げることができる。
抽出された全RNAからのマイクロRNAの含有量の測定は、例えば、TaqManTM MicroRNA Assays(Applied Biosystems)等の市販キットを利用して、目的のマイクロRNAと混ぜ込んだ人工マイクロRNAのCt値を求め、得られたCt値を元に市販キットの説明に従い測定値を算出すればよい。
【0023】
(2.マイクロRNAマイクロアレイ解析)
本マイクロRNAの含有量の測定には、例えば、ナイロンメンブラン等のメンブランフィルター等に本マイクロRNAのcDNAをスポットして作製されるマクロアレイ、スライドガラス等に、本マイクロRNAのcDNAをスポットして作製されるマイクロアレイ、スライドガラス上に本マイクロRNAの塩基配列の部分配列を有するオリゴヌクレオチド(通常18〜25merの鎖長)を光化学反応を利用して固定して作製されるプローブアレイ等、公知の技術に基づいたマイクロアレイを利用することができる。これらのマイクロアレイの作製は、例えばゲノム機能研究プロトコール 実験医学別冊(羊土社刊)等に記載された方法に準じて行うことができる。またAffymetrix社等から市販されているGenechip等を利用することもできる。
また、例えば、Rat マイクロRNA Microarray Kit (8x15K)(Agilent Technologies)等の市販キットを利用して、当該キットに添付される説明書に記載される方法に従い、目的のマイクロRNAのシグナルを数値化し、含有量を測定してもよい。当該方法は検体がラット由来の血液若しくはその内容物が含まれる生体試料の場合に適する。
【0024】
以下、マイクロアレイを用いて本マイクロRNAの含有量を測定する方法の一例を示す。
(2−1.サンプル調製)
本マイクロRNAの含有量を測定しようとする検体から上記(1.マイクロRNAの定量的RT−PCR)に記載された方法と同様の方法でmiRNAを調製する。調製されたmiRNA100ngに、例えばmiRNA Complete Labeling and Hyb Kit(Agilent社)中のCIP 0.5μL及び10xCIP Buffer 0.4uLを添加し、さらに全量が4μLとなるようにDnase/Rnase free水を加え、37℃、30分間脱リン酸化する。次いで、2.8μlのDMSOを添加し、100℃、5-10分間熱変性させた後、直ちに2分間氷冷する。上記Kitに含まれる10xT4 LigaseBuffer 1.0uL,Cyanine-pCp 3.0μL及びT4 RNA Ligase 0.5μLを混合しておき、氷冷後のサンプルに添加する。16℃、2時間ライゲーション反応を行った後、真空濃縮機を用いてサンプルを完全乾固させる。これにDnase/Rnase free水 18μLを加え、乾固したRNAを完全に溶解させる。これに上記Kitに含まれる10xGene Expression Blocking Agent 4.5μLと2xHi-RPM Hybridization Buffer 22.5μLを加え、100℃、5分間保温後、直ちに5分間氷冷する。卓上遠心機でスピンダウンした後、全量をアレイとのハイブリダイゼーションに使用する。予め55℃にセットしたオーブン中でアレイを回転(回転数:20rpm)させながら20時間ハイブリダイゼーションさせる。
【0025】
(2−2.マイクロアレイによる定量)
上記のサンプルを卓上遠心機でスピンダウンした後、全量を用いて、予め55℃にセットしたオーブン中でアレイを回転(回転数:20rpm)させながら20時間ハイブリダイゼーションさせる。Gene Expression Wash Pack(Agilent社)に含まれる洗浄バッファー1の中でアレイを室温で5分間洗浄する。このとき、バッファーはスターラーで中程度の回転数で撹拌しておく。さらに、予め37℃に温めておいた洗浄バッファー2の中でアレイを5分間洗浄する。このときも同様にバッファーはスターラーで中程度の回転数で撹拌しておく。アレイを洗浄バッファーから引き上げる。マイクロアレイ上のシグナル量をスキャナーにより測定することによって、本マイクロRNAの量、即ち、本マイクロRNAの発現量を測定することができる。上記のほかに、市販のマイクロアレイ及びサンプル調整用キット(アフィメトリックス社)等を用いることもできる。
【0026】
本発明検出方法においては、前記のマイクロRNA群から選ばれる1以上のマイクロRNAの含有量を、上述のようにして測定する。含有量を測定するマイクロRNAを複数選ぶ場合には、前記のマイクロRNA群から選ばれる1以上のマイクロRNAを複数選んでもよい。
【0027】
本マイクロRNAの含有量の測定は、上述のようにして、単位量の検体あたりの本マイクロRNAの含有量を測定する方法等により行うことができる。
【0028】
上記のようにして得られた前記検体に含まれる本マイクロRNAの含有量の測定値を、当該マイクロRNAの含有量の対照値と比較し、その差異に基づいて前記検体における肝臓腫瘍性病変の有無を評価する。
【0029】
本マイクロRNAの含有量の対照値としては、例えば、前記被験物質と接触させていない正常生体由来の検体に含まれる含有量の値をあげることができる。正常生体由来の検体は、正常生体由来の血液若しくはその内容物が含まれる生体試料における当該マイクロRNAの含有量の値を好ましくあげることができる。ここで正常生体とは、例えば、被験物質と接触していない生体で病理組織学的検査において異常の認められない生体を意味する。かかる対照値は、正常生体由来の検体に含まれる本マイクロRNAの含有量を、被験物質と接触させた哺乳動物由来の検体に含まれる当該マイクロRNAの含有量と併行して測定して求めてもよいし、別途測定して求めてもよい。例えば、被験物質と接触させる前の哺乳動物由来の検体の一部を採取して本マイクロRNAの含有量を測定し、得られた値を対照値とすることもできる。
例えば、被験物質と接触させた哺乳動物由来の検体に含まれる本マイクロRNAの含有量の測定値が、正常生体由来の検体に含まれる本マイクロRNAの含有量の値の2倍以上、又は、対照値と比較し統計学的に有意な高値であれば、検体中に肝臓腫瘍性病変を有すると評価することができる。
【0030】
本発明肝発癌活性検定方法においては、まず、哺乳動物と被験物質とを接触させる。哺乳動物としては、例えば、イヌ、ネコ等の愛玩動物、ウシ、ウマ、ヒツジ等の家畜、ラット、マウス、ウサギ等の実験動物、サル、ヒト等の霊長類等を挙げることができる。
本発明肝発癌活性検定方法において、哺乳動物と被験物質との接触は、例えば、哺乳動物に被験物質を投与することにより行ってもよい。哺乳動物は、天然の動物のほか、トランスジェニック動物、遺伝子ノックアウト動物等であってもよい。哺乳動物への被験物質の投与方法としては、例えば、経口(強制又は飲料水や餌に混じ)、筋肉内、静脈内、皮下、腹腔内、経気道等により行うことができる。投与量、投与回数及び投与期間は、例えば、全身状態、全身諸器官組織等に重篤な影響を及ぼさない範囲内(例えば投与量は、最大耐量)とすればよい。
【0031】
次に、上記のようにして被験物質と接触させた哺乳動物由来の検体に含まれる、前記のマイクロRNA群から選ばれる1以上のマイクロRNAの含有量を、上述のようにして測定する。含有量を測定するマイクロRNAを複数選ぶ場合には、前記のマイクロRNA群から選ばれる1以上のマイクロRNAを複数選んでもよい。
本マイクロRNAの含有量の測定は、上述のようにして、単位量の検体あたりの本マイクロRNAの含有量を測定する方法等により行うことができる。
【0032】
対照値に比較した、検体に含まれる本マイクロRNAの含有量の変化によって、検体を提供する哺乳動物における肝臓腫瘍性病変が存在することが示される。いくつかの実施形態において、検体に含まれる目的のマイクロRNAの含有量は、対照値よりも高い。本明細書で使用される通り、検体に含まれる本マイクロRNAの含有量が対照値よりも多い場合、本マイクロRNAの含有量は「増加」される。
【0033】
複数の本マイクロRNAの含有量が肝臓腫瘍性病変と関連していることから、肝臓腫瘍性病変の存在は、本マイクロRNAの含有量のいずれか1つを測定することによって、または測定の際に本マイクロRNAの含有量のいずれかの組み合わせを測定することによって、検定することができる。
【0034】
本マイクロRNAの含有量の変化は、検体を提供する哺乳動物における過形成状態である前駆病変、良性腫瘍状態である肝細胞腺腫、又は、悪性腫瘍若しくは肝がん状態である肝細胞癌を検出することができる。そのため、本発明はまた、良性腫瘍状態である肝細胞腺腫、又は、悪性腫瘍若しくは肝がん状態である肝細胞癌を生じる危険性がある哺乳動物が提供する検体をスクリーニングする方法であって、前記検体において肝臓腫瘍性病変に関連する少なくとも1つの本マイクロRNAの含有量又は本マイクロRNAの含有量の組合せを評価する手順を含む方法も提供する。従って、前記検体に含まれる本マイクロRNAの含有量又は本マイクロRNAの含有量の組合せが、対照値に比較して変化することは、前記検体を提供する哺乳動物に肝臓腫瘍性病変を生じる危険性があることを示す。このようなスクリーニングのために使用される検体は、正常であるかまたは前癌性であることが疑われるかのいずれかの肝臓組織を含む哺乳動物から提供されるものでよい。
【0035】
上記のようにして被験物質と接触させた哺乳動物が提供する検体から得られた本マイクロRNAの含有量の測定値を、当該マイクロRNAの含有量の対照値と比較し、その差異に基づいて前記被験物質の肝発癌に係る促進活性若しくは抑制活性を評価する。
本マイクロRNAの含有量の対照値としては、例えば、前記被験物質と接触させていない正常生体由来の検体に含まれる含有量の値をあげることができる。正常生体由来の検体は、正常生体由来の血液若しくはその内容物が含まれる生体試料における当該マイクロRNAの含有量の値を好ましくあげることができる。ここで正常生体とは、例えば、被験物質と接触していない生体で病理組織学的検査において異常の認められない生体を意味する。かかる対照値は、正常生体由来の検体に含まれる本マイクロRNAの含有量を、被験物質と接触させた哺乳動物由来の検体に含まれる当該マイクロRNAの含有量と併行して測定して求めてもよいし、別途測定して求めてもよい。例えば、被験物質と接触させる前の哺乳動物由来の検体の一部を採取して本マイクロRNAの含有量を測定し、得られた値を対照値とすることもできる。
例えば、被験物質と接触させた哺乳動物由来の検体に含まれる本マイクロRNAの含有量の測定値が、正常生体由来の検体に含まれる本マイクロRNAの含有量の値の2倍以上、又は、対照値と比較し統計学的に有意な高値であれば、前記被験物質との接触による肝臓腫瘍性病変組織を構成する肝細胞の発生を意味し、当該被験物質は肝発癌に係る促進活性を有すると評価することができる。
一方、例えば、被験物質と接触させた哺乳動物由来の検体に含まれる本マイクロRNAの含有量の測定値が、正常生体由来の検体に含まれる本マイクロRNAの含有量の2分の1以下、又は、対照値と比較し統計学的に有意な低値であれば、前記被験物質との接触による肝臓腫瘍性病変組織を構成する肝細胞の発生抑制を意味し、当該被験物質は肝発癌に係る抑制活性を有すると評価することができる。因みに、このような場合の実施形態において、検体に含まれる目的の本マイクロRNAの含有量は、対照値よりも低い。本明細書で使用される通り、検体に含まれる本マイクロRNAの含有量が対照値よりも少ない場合、本マイクロRNAの含有量は「減少」する。対照値における相対的な本マイクロRNAの含有量は、1つ以上の本マイクロRNAの含有量に対して測定することができる。
【0036】
さらに、上記のような本発明肝発癌活性検定方法は、「肝発癌に係る促進活性若しくは抑制活性を有する物質」の探索等に利用することができる。具体的には、本発明肝発癌活性検定方法により評価された肝発癌に係る促進活性若しくは抑制活性に基づき「肝発癌に係る促進活性若しくは抑制活性を有する物質」を選抜することによって、「肝発癌に係る促進活性若しくは抑制活性を有する物質」を探索することができる。
選抜された肝発癌に係る促進活性を有する物質は、例えば、肝癌モデル哺乳動物の作製等に利用することもできる。また選抜された肝発癌に係る抑制活性を有する物質は、例えば、肝発がん予防剤、肝発がん治療剤等に利用することもできる。
【0037】
本発明肝発癌活性検定方法により評価された肝発癌に係る促進活性若しくは抑制活性に基づき選抜された「肝発癌に係る促進活性若しくは抑制活性を有する物質」は、当該技術分野で既知の技法に従って、哺乳動物への投与前に、「医薬品」と通常呼ばれる薬学的組成物として調製することができる。従って、本発明は、肝臓腫瘍を治療するための薬学的組成物を包含する。
【0038】
本発明の薬学的組成物は、少なくとも無菌であり且つ発熱物質がないことを特徴とする。本明細書で使用される場合、薬学的「組成物」又は「製剤」は、ヒト及び獣医学的使用のための製剤を包含する。本発明の薬学的組成物を調製する方法は、例えば、Remington's Pharmaceutical Science, 17th ed., Mack Publishing Company, Easton, Pa. (1985)に記載されている。
【0039】
本発明の薬学的組成物は、薬学的に許容される担体と混合された少なくとも1つの「肝発癌に係る促進活性若しくは抑制活性を有する物質」(例えば、0.1〜90重量%)又はその生理的に許容される塩を含む。また、本発明の薬学的組成物は、リポソーム又は薬学的に許容される担体によってカプセル化された少なくとも1つの「肝発癌に係る促進活性若しくは抑制活性を有する物質」を含んでよい。
【0040】
適切な薬学的に許容される担体としては、例えば、水、緩衝用水、生理食塩液、0.4重量%生理食塩水、0.3重量%グリシン、ヒアルロン酸等を挙げることができる。
【0041】
本発明の薬学的組成物は、従来の薬学的賦形剤及び/又は添加剤を含んでもよい。適切な薬学的賦形剤としては、例えば、安定剤、抗酸化剤、モル浸透圧調整剤、緩衝剤、pH調整剤等を挙げることができる。適切な添加剤としては、例えば、生理的に生体適合性を有する緩衝剤(例えば、塩酸トロメタミン)、キレート剤(例えば、DTPAやDTPA‐ビスアミド)、カルシウムキレート錯体(例えば、カルシウムDTPA、CaNaDTPA‐ビスアミド)の添加剤、場合により、カルシウム塩又はナトリウム塩(例えば、塩酸カルシウム、アスコルビン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、乳酸カルシウム)の添加剤等を挙げることができる。本発明の薬学的組成物は、液体形態で使用するためにパッケージすることができ、また凍結乾燥することもできる。
【0042】
本発明の固体の薬学的組成物としては、例えば、従来の無毒性で固体の薬学的に許容される担体(例えば、マンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、ナトリウムサッカリン、滑石、セルロース、グルコース、スクロース、炭酸マグネシウムなどの医薬品グレード)等を使用することができる。
【0043】
例えば、経口投与のための固体の薬学的組成物は、上記の担体及び賦形剤のいずれか、並びに10重量%〜95重量%、好ましくは25重量%〜75重量%の少なくとも1つの「肝発癌に係る促進活性若しくは抑制活性を有する物質」を含んでよい。エアゾール(吸入)投与のための薬学的組成物は、0.01重量%〜20重量%、好ましくは1重量%〜10重量%の、上記の通りのリポソーム及び噴射剤の中にカプセル化した少なくとも1つの「肝発癌に係る促進活性若しくは抑制活性を有する物質」を含んでよい。また、例えば、鼻腔内送達のためのレシチン等の担体を所望により含んでよい。
【0044】
本発明は、上記説明の如く、検体を提供する哺乳動物における肝臓腫瘍性病変の有無を評価するための指標を提供する試薬としての、前記のマイクロRNA群(即ち、miR-34a、miR-331、miR-98、miR-338、miR-652)から選ばれる1以上のマイクロRNAの使用
を含み、またさらに、哺乳動物が提供する検体について、本発明方法により検出された当該哺乳動物が有する肝臓腫瘍性病変の有無に係るデータ情報を入力・蓄積・管理する手段(以下、手段aと記すこともある。)、前記データ情報を所望の結果を得るための条件に基づき照会・検索する手段(以下、手段bと記すこともある。)、及び、照会・検索された結果を表示・出力する手段(以下、手段cと記すこともある。)を具備することを特徴とするシステムをも含むものである。
【0045】
まず、手段aについて説明する。手段aは、前記のとおり、本発明方法により検出された当該哺乳動物が有する肝臓腫瘍性病変の有無に係るデータ情報を入力した後、入力された当該情報を蓄積・管理する手段である。かかる情報は、入力手段1により入力され、通常記憶手段2に記憶される。入力手段としては、例えばキーボード、マウス等の当該情報の入力可能なものが挙げられる。当該情報の入力及び蓄積・管理が完了すれば、次の手段bに進む。尚、当該情報の蓄積・管理には、コンピュータ等のハードウェアとOS及びデータベース管理等のソフトウエアとを用いて、データ構造を有する情報を入力し、適当な記憶装置、例えば、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、ハードディスク等のコンピュータ読取可能な記録媒体に蓄積することにより、大量のデータを効率良く蓄積し管理すればよい。
【0046】
手段bについて説明する。手段bは、前記のとおり、手段aにより蓄積・管理された前記データ情報を所望の結果を得るための条件に基づき照会・検索する手段である。かかる情報は、入力手段1により照会・検索のための条件が入力され、通常記憶手段2に記憶された上記情報の中で当該条件に合致したものを選択すれば、次の手段cに進む。選択された結果は、通常、記憶手段2に記憶され、さらに表示・出力手段3により表示可能となっている。
【0047】
手段cについて説明する。手段cは、前記のとおり、照会・検索された結果を表示・出力する手段である。表示・出力手段3としては、例えばディスプレイ、プリンタ等が挙げられ、当該結果をコンピュータのディスプレイ装置に表示するか、印刷等により紙上に出力するか等すればよい。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を挙げてさらに詳細に本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
実施例1 フェノバルビタール誘発肝細胞癌を有するラットの血液を検体とする肝臓腫瘍性病変の検定方法
(1)血液の採取
5週齢のFisher344ラット(以下、F344ラットと記すこともある。)にN-nitrosodiethylamine (以下、NDENと記すこともある。)200mg/kgを腹腔内へ投与した後、2週間後から36週間、Sodium Phenobarbital(フェノバルビタール)500ppmを基礎飼料に混じ投与した。投与後、これらの薬剤が投与されたF344ラットとこれらの薬剤が投与されず基礎飼料のみが与えられたF344ラットとの両者から血液を採血した。採取された血液から通常の方法により、血清を調製した。
(2)全RNAの採取
(1)で得られた各血清からPARISTMキット(Applied Biosystems)を用いて全RNAを抽出した。
(3)マイクロRNAマイクロアレイ解析
(2)で抽出した全RNAからRat miRNA Microarray Kit (8x15K)(Agilent Technologies)等の市販キットを用い、標準プロトコールに従い、目的のマイクロRNAのシグナルを数値化し、抽出した全RNA中に含まれる目的のマイクロRNAの含有量を測定した。
(4)肝臓腫瘍性病変の有無の評価
検体中での本マイクロRNA全て(miR-34a、miR-331、miR-98、miR-338、miR-652)の含有量は、正常な肝臓を有するF344ラットと肝細胞癌を有するF344ラットとは明確に区別され、当該含有量の差異に基づいて前記検体における肝臓腫瘍性病変の有無が評価可能であることが判明した。
【0050】
実施例2 DDT誘発肝細胞癌を有するラットの血液を検体とする肝臓腫瘍性病変の検定方法
(1)血液の採取
5週齢のF344ラットにNDEN 200mg/kgを腹腔内へ投与した後、2週間後から36週間、1,1-bis(p-chlorophenyl)-2,2,2-trichloroethane(以下、DDTと記すこともある。)500ppmを基礎飼料に混じ投与した。投与後、これらの薬剤が投与されたF344ラットとこれらの薬剤が投与されず基礎飼料のみが与えられたF344ラットとの両者から血液を採血した。採取された血液から通常の方法により、血清を調製した。
(2)全RNAの採取
(1)で得られた各血清からPARISTMキット(Applied Biosystems)を用いて全RNAを抽出した。
(3)マイクロRNAマイクロアレイ解析
(2)で抽出した全RNAからRat miRNA Microarray Kit (8x5K)(Agilent Technologies)等の市販キットを用い、標準プロトコールに従い、目的のマイクロRNAのシグナルを数値化し、抽出した全RNA中に含まれる目的のマイクロRNAの含有量を測定した。
(4)肝臓腫瘍性病変の有無の評価
検体中での本マイクロRNA全て(miR-34a、miR-331、miR-98、miR-338、miR-652)の含有量は、正常な肝臓を有するF344ラットと肝細胞癌を有するF344ラットとは明確に区別され、当該含有量の差異に基づいて前記検体における肝臓腫瘍性病変の有無が評価可能であることが判明した。
【0051】
実施例3 クロフィブレート誘発肝細胞腺腫を有するラットの血液を検体とする肝臓腫瘍性病変の検定方法
(1)血液の採取
5週齢のF344ラットにNDEN 200mg/kgを腹腔内へ投与した後、2週間後から36週間、Clofibrate(クロフィブレート)3000ppmを基礎飼料に混じ投与した。投与後、これらの薬剤が投与されたF344ラットとこれらの薬剤が投与されず基礎飼料のみが与えられたF344ラットとの両者から血液を採血した。採取された血液から通常の方法により、血清を調製した。
(2)全RNAの採取
(1)で得られた各血清からPARISTMキット(Applied Biosystems)を用いて全RNAを抽出した。
(3)マイクロRNAマイクロアレイ解析
(2)で抽出した全RNAからRat miRNA Microarray Kit (8x15K)(Agilent Technologies)等の市販キットを用い、標準プロトコールに従い、目的のマイクロRNAのシグナルを数値化し、抽出した全RNA中に含まれる目的のマイクロRNAの含有量を測定した。
(4)肝臓腫瘍性病変の有無の評価
検体中での本マイクロRNA全て(miR-34a、miR-331、miR-98、miR-338、miR-652)の含有量は、正常な肝臓を有するF344ラットと肝細胞腺腫を有するF344ラットとは明確に区別され、当該含有量の差異に基づいて前記検体における肝臓腫瘍性病変の有無が評価可能であることが判明した。
【0052】
実施例4 フェノバルビタール誘発肝細胞腺腫又はその前駆病変を有するラットの血液を検体とする肝臓腫瘍性病変の検定方法
(1)血液の採取
5週齢のF344ラットにNDEN 200mg/kgを腹腔内へ投与した後、2週間後から26週間、フェノバルビタール 500ppmを基礎飼料に混じ投与した。投与後、これらの薬剤が投与されたF344ラットとこれらの薬剤が投与されず基礎飼料のみが与えられたF344ラットとの両者から血液を採血した。採取された血液から通常の方法により、血清を調製した。
(2)全RNAの採取
(1)で得られた各血清にショウジョウバエ由来miR-3と同じ塩基配列を有する人工マイクロRNAを0.2fmolの濃度で混ぜ込んだ後、得られた各血清からPARISTMキット(Applied Biosystems)を用いて全RNAを抽出した。
(3)マイクロRNA定量的RT−PCRによる解析
(2)で抽出した全RNAからTaqManTM MicroRNA Assays(Applied Biosystems)等の市販キットを用い、標準プロトコールに従い、目的のマイクロRNAと混ぜ込んだ人工マイクロRNAのCt値を求め、得られたCt値を元に測定値を算出した。
(4)肝臓腫瘍性病変の有無の評価
検体中での本マイクロRNA全て(miR-34a、miR-331、miR-98、miR-338、miR-652)の含有量は、正常な肝臓を有するF344ラットと、肝細胞腺腫を有するF344ラット又はその前駆病変を有するF344ラットとは明確に区別され、当該含有量の差異に基づいて前記検体における肝臓腫瘍性病変の有無が評価可能であることが判明した。
【0053】
実施例5 クロフィブレート誘発肝細胞腺腫又はその前駆病変を有するラットの血液を検体とする肝臓腫瘍性病変の検定方法
(1)血液の採取
5週齢のF344ラットにNDEN 200mg/kgを腹腔内へ投与した後、2週間後から26週間、クロフィブレート 3000ppmを基礎飼料に混じ投与した。投与後、これらの薬剤が投与されたF344ラットとこれらの薬剤が投与されず基礎飼料のみが与えられたF344ラットとの両者から血液を採血した。採取された血液から通常の方法により、血清を調製した。
(2)全RNAの採取
(1)で得られた各血清にショウジョウバエ由来miR-3と同じ配列を有する人工マイクロRNAを0.2fmolの濃度で混ぜ込んだ後、PARISTMキット(Applied Biosystems)を用いて全RNAを抽出した。
(3)マイクロRNA定量的RT−PCRによる解析
(2)で抽出した全RNAからTaqManTM MicroRNA Assays(Applied Biosystems)等の市販キットを用い、標準プロトコールに従い、目的のマイクロRNAと混ぜ込んだ人工マイクロRNAのCt値を求め、得られたCt値を元に測定値を算出した。
(4)肝臓腫瘍性病変の有無の評価
検体中での本マイクロRNA全て(miR-34a、miR-331、miR-98、miR-338、miR-652)の含有量は、正常な肝臓を有するF344ラットと、肝細胞腺腫を有するF344ラット又はその前駆病変を有するF344ラットとは明確に区別され、当該含有量の差異に基づいて前記検体における肝臓腫瘍性病変の有無が評価可能であることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によって、検体を提供する哺乳動物における肝臓腫瘍性病変の存在を検出するために有効なマイクロRNA等が提供可能となる。本発明は、化学物質の肝臓発癌性をできるだけ正確かつ簡便に評価するための癌検定方法となりうる。また、肝臓癌の素因について哺乳動物個体をスクリーニングする方法や、またさらに、肝臓癌の治療方法にも応用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体を提供する哺乳動物における肝臓腫瘍性病変の存在を検出するために有効なマイクロRNAであり、以下のマイクロRNA群から選ばれる1以上のマイクロRNA。
<マイクロRNA群>
miR-34a、miR-331、miR-98、miR-338、miR-652
【請求項2】
肝臓腫瘍性病変が、過形成状態である前駆病変、良性腫瘍状態である肝細胞腺腫、又は、悪性腫瘍若しくは肝がん状態である肝細胞癌であることを特徴とする請求項1記載のマイクロRNA。
【請求項3】
哺乳動物における肝臓腫瘍性病変の検定方法であって、
(1)哺乳動物が提供する検体に含まれる、以下のマイクロRNA群から選ばれる1以上のマイクロRNAの含有量を測定する第一工程、及び
(2)第一工程で得られた前記検体に含まれるマイクロRNAの含有量の測定値を当該マイクロRNAの含有量の対照値と比較し、その差異に基づいて前記検体を提供する哺乳動物における肝臓腫瘍性病変の有無を評価する第二工程
を有することを特徴とする方法。
<マイクロRNA群>
miR-34a、miR-331、miR-98、miR-338、miR-652
【請求項4】
肝臓腫瘍性病変が、過形成状態である前駆病変、良性腫瘍状態である肝細胞腺腫、又は、悪性腫瘍若しくは肝がん状態である肝細胞癌であることを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項5】
検体が、血液若しくはその内容物が含まれる生体試料であることを特徴とする請求項3又は4記載の方法。
【請求項6】
マイクロRNAの含有量の対照値が、当該マイクロRNAの正常生体由来の検体に含まれる含有量の値であることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載される方法。
【請求項7】
第二工程において、マイクロRNAの含有量の測定値が対照値の2倍以上、又は、対照値と比較し統計学的に有意な高値であることを指標とし、当該指標に基づいて前記検体における肝臓腫瘍性病変の有無を評価する工程であることを特徴とする請求項3〜6のいずれかに記載される方法。
【請求項8】
物質の肝発癌に係る促進活性若しくは抑制活性の検定方法であって、
(1)哺乳動物と被験物質とを接触させる第一工程、
(2)第一工程で前記被験物質と接触させた哺乳動物が提供する検体に含まれる、以下のマイクロRNA群から選ばれる1以上のマイクロRNAの含有量を測定する第二工程、及び
(3)第二工程で得られたマイクロRNAの含有量の測定値を当該マイクロRNAの含有量の対照値と比較し、その差異に基づいて前記被験物質の肝発癌に係る促進活性若しくは抑制活性を評価する第三工程
を有することを特徴とする方法。
<マイクロRNA群>
miR-34a、miR-331、miR-98、miR-338、miR-652
【請求項9】
マイクロRNAの含有量の対照値が、当該マイクロRNAの正常生体由来の検体に含まれる含有量の値であることを特徴とする前項8記載の方法;
【請求項10】
第三工程において、マイクロRNA群の含有量の測定値が対照値の2倍以上若しくは2分の1以下、又は、対照値と比較し統計学的に有意な高値若しくは低値であることを指標とし、前記被験物質の肝発癌に係る促進活性若しくは抑制活性を評価することを特徴とする請求項8又は9記載の方法。
【請求項11】
請求項7〜10のいずれかに記載される方法により評価された肝発癌に係る促進活性若しくは抑制活性に基づき肝発癌に係る促進活性若しくは抑制活性を有する物質を選抜する工程を有することを特徴とする肝発癌に係る促進活性若しくは抑制活性を有する物質の探索方法。
【請求項12】
哺乳動物が提供する検体における肝臓腫瘍性病変の有無を評価するための指標を提供する試薬としての、以下のマイクロRNA群から選ばれる1以上のマイクロRNAの使用。
<マイクロRNA群>
miR-34a、miR-331、miR-98、miR-338、miR-652
【請求項13】
哺乳動物が提供する検体について、請求項3〜7のいずれかに記載される方法により検出された当該哺乳動物が有する肝臓腫瘍性病変の有無に係るデータ情報を入力・蓄積・管理する手段、前記データ情報を所望の結果を得るための条件に基づき照会・検索する手段、及び、照会・検索された結果を表示・出力する手段を具備することを特徴とするシステム。

【公開番号】特開2011−160677(P2011−160677A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−23981(P2010−23981)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】