説明

検体採取液容器

【課題】 検査者のウイルスによる汚染や感染リスク、あるいは煩雑な作業性という欠点を解消した検体採取液容器を提供する。
【解決手段】 上端及び下端が開口した筒状容器と、該筒状容器内に液密性の溶解液室を設けるために、筒状容器内に摺動自在に挿入されたストッパーと該筒状容器の上端に着脱自在に取り付けられるキャップとを有し、かつ、該筒状容器の下端に液密に取り付けられたアダプタを有する検体採取液容器であって、筒状容器は下端の内径がストッパーの外径よりも若干大きく、アダプタは、筒状容器の溶解液室を圧迫したときに押し下げられたストッパーを収容し、筒状容器の下端内壁とストッパーの外面との間に空隙が形成され、さらに、下端に滴下口を備えたことを特徴とする検体採取液容器である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はウイルスなどの細菌検査のための検体採取液容器に関する。より詳しくはインフルエンザなどのウイルスを検出するための反応試薬容器へ滴下する検体採取液を調製するときに、検査者がウイルスによる汚染や感染におけるリスクを防止しうる構造を備えた検体採取液容器に関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザ等のウイルス抗原検査の1つとして、近年、ベッドサイドで検査ができるインフルエンザ抗原検査キットが使用されてきている。さらに、該検出キットによりインフルエンザのA型・B型の判定も迅速に検出可能となってきている。このような検査キットは、一般にイムノクロマトグラフィー法、フロースルー法、EIA法などが利用されている。いずれの方法においても、予め患者から採取した検体から調製した検体採取液を反応試薬容器、例えば反応試薬カセットに滴下することにより実施される。具体的には、患者の鼻腔や咽頭から粘液を吸引装置により吸引するかあるいは綿棒で拭い取った後に、溶解液にて溶解して検体採取液を調製し、反応試薬容器へ滴下する。
このような検体採取液を調製する容器としては、予め溶解液が充填されたキャップ付き容器のキャップを滴下口キャップに付け替えて滴下するものを挙げることが出来る(特許文献1)。例えば、スクイズチューブ内に検体処理液をまず調製し、次いで検体を採取した綿棒を検体処理液に浸して検体を処理し、検体採取液を調製する。さらに、スクイズチューブに滴下口キャップ(滴下チップ)をはめ込み、スクイズチューブを反転させて、滴下口キャップ(滴下チップ)から反応試薬容器の検体滴下部へ試料を滴下する。
【特許文献1】特開2004−109015号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記タイプの容器では、検体採取液容器をそのまま滴下用容器とすることができ、1滴目から検体毎のばらつきの少ない均一に抽出された液を反応試薬に滴下することができる。また、滴下口キャップ(滴下チップ)にフィルタを取り付けておけば、粘性の高い膿汁や固形物が含まれていても目詰まりすることがない。しかしながら、この場合、滴下口キャップ(滴下チップ)を取り付けるのに、検体採取液が周辺に飛び散るなどして付着した場合や滴下口キャップ(滴下チップ)が小さい場合などには、検査者がウイルスに感染するリスクが著しく高まる。
また、滴下口に取り付ける専用のキャップがない場合には、滴下後の容器を廃棄する際に、廃棄容器内に検体採取液が拡がり、廃棄物処理の際にも感染のリスクが高まってしまう。さらには、滴下口キャップ(滴下チップ)を検体の数だけ別途予め準備しておかなければならない等、煩雑な作業が伴う。そこで、本発明の課題は検査者のウイルスによる汚染や感染リスク、あるいは煩雑な作業性という欠点を解消した検体採取液容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題を解決するため種々鋭意検討を行った結果、筒状容器において、綿棒などの採取棒を挿入する開口部と反対側に滴下口を一体に構成し、検体採取液を調製した後、筒状容器を反転することなく、直ちに検体採取液を滴下できるような検体採取液容器を見出し、本発明に到達した。
【0005】
すなわち、本発明は、上端及び下端が開口した筒状容器と、該筒状容器内に液密性の溶解液室を設けるために、筒状容器内に摺動自在に挿入されたストッパーと該筒状容器の上端に着脱自在に取り付けられるキャップとを有し、かつ、該筒状容器の下端に液密に取り付けられたアダプタを有する検体採取液容器であって、筒状容器は下端の内径がストッパーの外径よりも若干大きく、アダプタは筒状容器の溶解液室を圧迫したときに押し下げられたストッパーを収容し、筒状容器の下端内壁とストッパーの外面との間に空隙が形成され、さらに、下端に滴下口を備えたことを特徴とする検体採取液容器である。
【0006】
また、本発明の検体採取液容器は滴下口に隣接して上方に高粘度液をトラップするためのフィルタが設けられている。さらに、本発明の検体採取液容器は滴下口に着脱自在に取り付けられる滴下口用キャップが設けられている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の検体採取液容器は摺動自在にストッパーを挿入し、さらに滴下口を有することにより反応試薬容器への滴下液を調製する際に、検査者がウイルスによる汚染や感染などのリスクを防止することが可能である。また、操作の煩雑さを低減させることも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に係る検体採取液容器を図面を用いて具体的に説明する。図1は本発明の検体採取液容器の縦断面図であり、図2は本発明の検体採取液容器に開口部から検体を採取した綿棒を挿入した状態を示す縦断面図である。図3は図1の検体採取液容器の筒状容器の溶解液室を外部から圧迫し、ストッパーが押し下げられ、検体採取液が筒状容器の内面とストッパーの外面との空隙を通り、滴下口から滴下する状態を示す概略図である。
【0009】
本発明の検体採取液容器1は図1に示すように、上端及び下端が開口した筒状容器2と、該筒状容器内に液密性の溶解液室7を設けるために、筒状容器2内に摺動自在に挿入されたストッパー3と該筒状容器2の上端に着脱自在に取り付けられるキャップ4とを有し、かつ、該筒状容器2の下端に液密に取り付けられたアダプタ5を有する。
【0010】
筒状容器2は上端にキャップ4を通常、螺合可能な開口部を有し、下端には内径がストッパー3の外径よりも若干大きい部分を有する。また、該下端部分にはアダプタ5を内挿することができる。
筒状容器2は、その下端近くに摺動自在なストッパー3が挿入され、かつ、上端に着脱自在にキャップ4が取り付けられている。ストッパー3とキャップ4が取り付けられることにより、筒状容器2内に溶解液室7が形成される。溶解液室7には検体(鼻腔ぬぐい液、鼻腔吸引液、咽頭ぬぐい液など)を溶解する液が充填されている。通常、溶解液は水であって、反応試薬に滴下した際の検体との反応性を高めるために、界面活性剤が添加されている。さらに防腐剤として、アジ化ナトリウムなどが添加されている。
筒状容器2内で処理された検体採取液を押し出すためには、筒状容器2を外部から圧迫し、筒状容器2の筒部を変形させて溶解液量に対して相対的に溶解液室の容積を小さくすることに限らず、他の物理的手段により押し出すか、溶解液室にある気体を圧縮して内圧を上昇させるなどの操作を行なってもよい。
したがって、筒状容器2は容器内の状態が確認でき、かつ繰り返し圧迫しても白化しない透明性と可撓性を有することが好ましく、このような素材としてはポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル樹脂などが好適に用いられる。
【0011】
ストッパー3およびキャップ4は、筒状容器2の溶解液室の液密性を保持して組み立てられているので、溶解液が筒状容器2から外部に漏出する危険性はない。
ストッパー3は一般に製造時や長期保存時において傾いて液密性を損なわない程度の形状、好ましくは長さ(寸法)が小さい円筒形状を有し、検体を添加する前は上記筒状容器2の内壁に密接している。しかし、ストッパー3が摺動して筒状容器2の下端方向へ移動すると、内壁との間に空隙を形成する。この空隙は筒状容器の溶解液室の変形を解除したときでも塞がらないようになっている。
ストッパー3の素材としては、ノルマルブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、イソブチレンゴム、熱可塑性エラストマーなどの弾性材料が挙げられるが、通常、熱可塑性エラストマーが用いられる。
また、摺動を円滑にする目的でストッパー3には環状リブが設けられていても良い。
【0012】
キャップ4は、筒状容器2に着脱自在に取り付けられており、通常、螺合される。また、液密性を保持するために筒状容器の開口端内壁と接合するスリーブが通常、設けられている。
【0013】
アダプタ5は、筒状容器2の下端に接続される筒状部材であり、筒状容器2の溶解液室7を圧迫したときに押し下げられたストッパー3を収容し、筒状容器2の下端内壁とストッパー3の外面との間に空隙を形成し、さらに、下端に滴下口8を備える。検体採取液を調製する前、アダプタ5内には通常、空気のみが存在している。
アダプタ5は筒状容器2に液密性を保持して取り付けられていれば、溶着されていても、あるいは溶剤で接着されていても、さらには圧入される状態で接合されていても良い。このような素材としてはポリエチレン、ポリプロピレン、ABS樹脂、ポリスチレン、BS樹脂、ポリカーボネート樹脂等が用いられる。
【0014】
アダプタ5の内腔に、滴下口8に隣接して上方にフィルタ6が設けられている。フィルタ6は患者から採取された検体が高い粘性のものであったり、固形物を含んでいたりする場合に、滴下口が目詰まりしないようにトラップされる程度の口径を有するものである。ろ過有効面積と目の粗さは自由に選択することができる。このような素材としてはポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素系樹脂、ナイロン樹脂等の他、無機材料等が用いられるが、通常、ポリエチレン焼結体が用いられる。
【0015】
滴下口8には着脱自在に取り付けられる滴下口用キャップ9が設けられている。滴下口用キャップ9は、滴下口8に着脱自在に取り付けられていても良く、素材としてはポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル樹脂等が用いられる。また、アダプタ5と一体に形成されていても良い。さらに検体採取液容器を専用の容器立てに複数立てておくことが出来るように、専用の容器立ての直径を筒状容器2の胴径と略同じ大きさとしてもよい。
【0016】
検体採取液の調製に際しては、図2に示すように、まず開口部のキャップ4を上に向けた状態で開放し、患者より採取した検体の付着した綿棒などの採取棒を、上端開口部から筒状容器2の溶解室中に挿し入れて、検体を溶解液により溶解抽出し、検体採取液を調製する。
【0017】
次に、図3に示すように再度、筒状容器2の開口部にキャップ4を取り付け、容器2の反対側に位置する滴下口8を反応試薬容器に向けてから、筒状容器2の溶解液室のある胴部を圧迫すると、その押圧による内部の圧力上昇により、ストッパー3が下方へ前進し、アダプタ5内に移動し収容される。収容されたストッパー4の外面とアダプタ5の内壁の間には、溶解液室7内の検体採取液がその間を通って滴下出来る空隙が設けられている。したがって、検体採取液はこの空隙を通り、滴下口8から外部に導かれ、反応試薬容器に滴下することが出来る。
【0018】
本発明の検体採取液容器は、インフルエンザウイルスなどのウイルス検査に限ることなく、他の病原体を含む一般的な生体検査に利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の検体採取液容器の使用前の状態を示す縦断面図である。
【図2】本発明の検体採取液容器の溶解調整時の状態を示す縦断面図である。
【図3】本発明の検体採取液容器の滴下時の状態を示す概略図である。
【符号の説明】
【0020】
1 検体採取液容器
2 筒状容器
3 ストッパー
4 キャップ
5 アダプタ
6 フィルタ
7 溶解液室
8 滴下口
9 滴下口用キャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上端及び下端が開口した筒状容器と、該筒状容器内に液密性の溶解液室を設けるために、筒状容器内に摺動自在に挿入されたストッパーと該筒状容器の上端に着脱自在に取り付けられるキャップとを有し、かつ、該筒状容器の下端に液密に取り付けられたアダプタを有する検体採取液容器であって、筒状容器は下端の内径がストッパーの外径よりも若干大きく、アダプタは筒状容器の溶解液室を圧迫したときに押し下げられたストッパーを収容し、筒状容器の下端内壁とストッパーの外面との間に空隙が形成され、さらに、下端に滴下口を備えたことを特徴とする検体採取液容器。
【請求項2】
前記アダプタの内腔に滴下口に隣接して上方にフィルタが設けられている、請求項1に記載の検体採取液容器。
【請求項3】
前記滴下口に着脱自在に取り付けられる滴下口用キャップが設けられている、請求項1または2に記載の検体採取液容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−250860(P2006−250860A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−70840(P2005−70840)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】