説明

検体検査装置及び方法

【課題】溶血のレベルによらず乳びレベルを高精度に判定することを可能にする。
【解決手段】先ず乳び検査モードにおいて、赤色を強調するための利得制御信号をカメラ51に与え、カメラ51のR信号利得を増加させかつG信号及びB信号の各利得をゼロにするように色信号増幅器(RGB増幅器)の利得を設定する。そして、この状態で検体の透過画像をカメラ51により撮像し、その画像データをモノクロ画像に変換した後その濃淡レベルを検出して乳びレベルの判定を行う。次に、溶血検査モードにおいて、標準値の利得制御信号をカメラ51に与え、カメラ51のRGB増幅器の利得を標準値に設定する。そして、この状態で検体の透過画像をカメラ51により撮像し、その画像データから色信号(RGB信号)のレベルを検出して溶血レベルを判定するようにしたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば生化学分析の分野において血液等の検体を検査するために用いられる検体検査装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種血液検査等を行う検体検査装置として、例えば採血を行った後の血液から遠心分離処理によって検体として血清を採取し、検体に試薬を注入して反応を検知することで分析処理を行う分析装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。一般にこの種の装置では、検体である血清が乳び(濁り)・溶血状態の場合に、分析処理に先立ち目視等により検体の状態を検出することが行われている。しかしながら、黙視検査では検査能率が低くまた高精度の検査結果を得るには熟練を要する。
【0003】
そこで最近では、検体を照明してその透過光をカメラ等の画像センサにより検出し、その画像の色又は濃淡をもとに乳び及び溶血の状態を判定することが提案されている。例えば、画像の明るさを複数段階に変化させながらその各段階においてRGB成分をそれぞれ検出し、この検出されたRGB成分の値が予め設定した条件に該当するか否かを判定するものである。しかしながらこの方法では、暗い条件下で検体の画像を取得すると赤み成分が増長してしまい、その影響により「弱乳びでかつ溶血無し」の場合と「乳び無しでかつ弱溶血」の場合とを識別することが困難となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−76185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、上記のような問題を回避するために、乳びと溶血とを別々に検査することも考えられている。この場合、乳びレベル(濁り具合)の検出には画像の濃淡に基づく検査が用いられる。
ところが、カラー画像をもとに乳び判定のための濃淡検査を行うと、溶血のレベルにより変化する赤色成分の量が濃淡の変化となって画像に現れ、この結果実際には乳びレベルに差がなくても異なる乳びレベルと判定されることがあり、依然として検査精度が低く、さらなる改善が望まれている。
【0006】
この発明は上記事情に着目してなされたもので、その目的とするところは、溶血のレベルによらず乳びのレベルを高精度に判定することを可能にした検体検査装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するためにこの発明の第1の観点は、先ず検体容器に収容された検体を照明してこの検体による透過光を撮像し、上記検体が有する色成分のうち赤色成分の信号レベルを強調した第1の画像データを得る。そして、この第1の画像データをモノクロ画像データに変換し、この変換されたモノクロ画像データから画像の濃淡レベルを検出して、この検出された濃淡レベルに基づいて前記検体の乳びレベルを判定するようにしたものである。
【0008】
したがって、たとえ検体に溶血が含まれる場合でも、上記赤色成分の強調処理により、モノクロ画像データに変換した状態では上記溶血の赤色成分によるモノクロ画像の濃淡は低濃度となる。すなわち、モノクロ画像データ上において、溶血による赤色成分の濃淡は、溶血が含まれていない場合の検体の色、例えば黄色と同等の濃淡レベルとなり、溶血の影響は排除されたことと等価になる。このため、たとえ検体に溶血が含まれる場合でも、その影響を受けずに乳びの濃淡判定を正確に行うことが可能となる。
【0009】
上記赤色成分を強調する手段又は過程としては、赤、緑、青の3原色信号(R,G,B信号)のうち赤信号(R信号)の信号レベルを増幅させ、かつ緑信号(G信号)及び青信号(B信号)の各レベルを減衰させる手段又は過程を採用するとよい。このようにすると、カメラの色信号増幅器の利得を制御することで赤色画像データを得ることが可能となり、例えば赤色照明を検体に照射したり、赤色フィルタを介して検体の画像を受光する場合に比べ、大掛かりな照明ユニットを用いることなく比較的簡単な構成で検査装置を実現できる利点がある。
【0010】
また、この発明の第2の観点は、上記乳びレベルの判定後に、検体が有する色成分の信号レベルを忠実に含む第2の画像データを取得し、この取得された第2の画像データから色信号成分を検出して、この検出された色信号成分をもとに溶血のレベルを判定するものである。
このようにすると、乳びレベルの判定処理に続いて、検体が有する色成分の信号レベルを忠実に含む第2の画像データをもとに溶血レベルを判定することが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
すなわちこの発明によれば、溶血のレベルによらず乳びレベルを高精度に判定することを可能にした検体検査装置及び方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の第1の実施形態に係わる検体検査装置の全体構成を示す平面図。
【図2】この発明の第1の実施形態に係わる検体検査装置の全体構成を示す側面図。
【図3】図1及び図2に示した検体検査装置のうち乳び・溶血検査ユニットの構成を示す図。
【図4】検体容器の外観を示す側面図。
【図5】図1及び図2に示した検体検査装置の要部であるデータ処理ユニットの構成を示すブロック図。
【図6】図5に示したデータ処理ユニットによる乳び・溶血検査処理手順とその処理内容を示すフローチャート。
【図7】図6に示した乳び・溶血検査処理に用いる赤色フィルタリングの原理を説明するための図。
【図8】図6に示した乳び・溶血検査処理により得られる検査結果の一例を示す図。
【図9】従来方法による検査結果の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照してこの発明に係わる検体検査装置及び検査方法の実施形態を説明する。
[第1の実施形態]
図1及び図2はこの発明の第1の実施形態に係わる検体検査装置の全体構成を示すもので、図1はその平面図、図2は側面図である。なお、各図中の矢印X,Y,Zはそれぞれ直交する3方向を示すもので、X軸は搬送経路による搬送方向、Y軸は搬送経路の幅方向、Z軸は上下方向にそれぞれ対応している。
【0014】
検体検査装置10は、検体の分析処理に先立ち検体の乳び状態及び溶血状態を検査するもので、装置本体11と、搬送ユニット20と、読取ユニット30と、ラベル剥離ユニット40と、乳び・溶血検体検査ユニット50と、検体を照明する照明ユニット60とを備えている。
【0015】
搬送ユニット20は、搬送経路20aに沿って検体容器としての試験管25を搬送するためのもので、装置本体11の上部に設けられたコンベヤ式のホルダ搬送機構により構成される。具体的には、一対のガイドレール21と、搬送ベルト22と、搬送ローラ23とを備えている。ガイドレール21は、図中X軸方向に延びる搬送経路20aに沿って一定幅に設置されている。搬送ベルト22は、ガイドレール21間において搬送経路20aにわたって配置されている。搬送ローラ23は、搬送ベルト22の裏側で回転駆動して搬送ベルト22を送る。
【0016】
試験管25を保持するホルダ24は、一対のガイドレール21間において立位状態に支持され、搬送ベルト22の移動に伴って搬送される。試験管25は、図3に示すように上端が開口されかつ下端が閉塞された透明なガラス円筒体からなり、内部には血清等の検体が収容される。試験管25の外周側面には、ラベル27が接着剤又は粘着剤により貼付されている。ラベル27には検体25aの識別情報(ID)等を示すバーコード27aが表示されている。
【0017】
読取ユニット30は、試験管25の側面に貼付されたラベル27の識別情報(ID)を読み取るためのもので、搬送経路20aの側部に設けられている。そして、搬送部20によって試験管25が搬送される過程で、その側面に貼付されたラベル27からバーコード27aを複数の読取装置31により読み取り、これにより検体に関する各種情報を取得する。読取装置31はまた、バーコード27aにより示される検体25aの識別情報に加え、バーコード27aの位置情報やラベル27の有無も検出する。読取装置31で取得された各種情報は図示しない記憶部に記憶され、データ処理ユニット12による処理に使用される。
【0018】
ラベル剥離ユニット40は、上記ラベル27の一部を剥離させるためのもので、搬送経路20a側部に設置されたベース部41と、一対のアーム部42と、削り板43とを備えている。一対のアーム部42は、搬送経路20aの両側部において相対向するように配置され、搬送経路20aに向かって延びている。削り板43は、上記一対のアーム部42の先端にそれぞれ設けられている。削り板43は、所定の幅及び長さを有する板状部材からなり、その先端部43aが下方に折曲するとともに、先端側に向かって厚みが薄くなるようにテーパ状に形成されている。そして、鋭利に形成された先端部43aがラベル27に当接した状態で下降移動することにより、試験管25のラベル27を一部削り取る。ベース部41は、上記アーム部42を移動可能に支持するとともに、アーム部42及び削り板43を介してラベル27の接着部分に超音波振動を与え、これにより上記ラベル27を剥離し易くする。図4(a),(b)は上記ラベル27の一部剥離処理後の試験管25の一例を示したもので、27bが剥離処理により形成された窓部を示している。
【0019】
乳び・溶血検体検査ユニット50は、ラベル剥離ユニット40よりも下流側の搬送経路20aの側部に設けられ、カメラ51と、このカメラ51を支持する支持機構52とを備えている。照明ユニット60は、上記搬送経路20aを挟んで相対向する位置に設置され、図3に示すように光源61と、スリット62と備えている。光源61は、例えば発光ダイオード(Light Emitting Diode;LED)を使用したもので、試験管25の側方から上記剥離処理後の窓部27bを通して検体25aに対し白色光からなる照明光を照射する。
【0020】
カメラ51は、例えばCCD(Charge Coupled Device)又はCMOS(Complementary MOS)を用いたカラー画像センサにより構成される。そして、上記試験管25の側方において、上記照明ユニット60から照射された照明光の上記検体25aによる透過光を、上記剥離処理後の窓部27bを通して受光し、その画像データをデータ処理ユニット12へ出力する。また、カメラ51は撮像信号に含まれる3原色信号(RGB信号)を個別に増幅する色信号増幅器を備えている。この色信号増幅器は、外部から供給される利得制御信号によりR信号、G信号及びB信号のそれぞれについて利得が調節可能となっている。
【0021】
ところで、データ処理ユニット12は以下のように構成される。図5はその構成を示すブロック図である。
すなわち、データ処理ユニット12は、インタフェース部13と、制御部14と、記憶部15を備えている。このうち記憶部15は、記憶媒体としてハードディスク又はNAND型フラッシュメモリを用いたもので、後述する検査結果を表すデータを記憶するために使用される。
【0022】
インタフェース部13は、カメラインタフェース131と、出力インタフェース132とを有している。カメラインタフェース131は、カメラ51から出力される画像データを受信してバッファメモリに一時保存する機能を有する。またカメラ51に対し撮像制御信号及び利得制御信号を送出する機能と、照明ユニット60に対し照明のオンオフ制御信号を送出する機能も有する。出力インタフェース132は、図示しない検体分析装置、或いはパーソナル・コンピュータ等の情報端末やプリンタに対し検査データを送信する機能を有する。
【0023】
制御部14は、例えばCPU(Central Processing Unit)及びDSP(Digital Signal Processor)を備え、この発明を実視するために必要な制御機能として、濃淡検査処理部141と、溶血検査処理部142と、カメラ制御部143と、検査結果出力部144とを備えている。なお、これらの処理部及び制御部はいずれもプログラムを上記CPU又はDSPに実行させることにより実現される。
【0024】
濃淡検査処理部141は、乳び検査モードにおいて、上記カメラインタフェース131から検体の画像データを読み込み、この読み込んだ画像データをモノクロ画像データに変換する。そして、この変換されたモノクロ画像データの濃淡レベルを検出して、この検出された濃淡レベルをもとに乳びのレベル判定を行い、その判定結果を表すデータを乳び検査データとして、上記読取ユニット30により読み取られた検体の識別情報(Identification;ID)と関連付けて記憶部15に格納する処理を行う。
【0025】
溶血検査処理部142は、溶血検査モードにおいて、上記カメラインタフェース131から検体の画像データを読み込み、この読み込んだ画像データから色信号(RGB信号)のレベルを検出する。そして、この検出された色信号レベルをもとに溶血レベルを判定し、その判定結果を表すデータを溶血検査データとして、上記読取ユニット30により読み取られた検体の識別情報(ID)と関連付けて記憶部15に格納する処理を行う。
【0026】
カメラ制御部143は以下の処理機能を有する。
(1) 試験管25が乳び・溶血検体検査ユニット50による検査位置に搬送された場合に、先ず乳び検査モードを設定し、この状態で赤色を強調するための利得制御信号をカメラインタフェース131を介してカメラ51に与え、これによりカメラ51のR信号利得を増加させかつG信号及びB信号の各利得をゼロに設定するように色信号増幅器(RGB増幅器)を制御する。そして、撮像制御信号をカメラインタフェース131を介してカメラ51に与えることにより、カメラ51に検体の撮像動作を行わせる処理。
【0027】
(2) 上記乳び検査モードによる検査処理の終了後に、続いて溶血検査モードを設定し、この状態で標準値の利得制御信号をカメラインタフェース131を介してカメラ51に与え、これによりカメラ51のRGB増幅器の利得を標準値に設定する。そして、撮像制御信号をカメラインタフェース131を介してカメラ51に与えることにより、カメラ51に検体の撮像動作を行わせる処理。
【0028】
(3) 上記カメラ51の撮像動作に同期して、照明ユニット60に対しカメラインタフェース131を介して照明のオンオフ制御信号を与え、これにより撮像動作期間にのみ照明ユニット60の照明を点灯させる処理。
【0029】
検査結果出力部144は、1個の検体に対する上記乳び及び溶血の検査が終了するごと、或いは予定されている個数の検体群に対する上記乳び及び溶血の検査が終了した後に、上記記憶部15から各検体についての乳び及び溶血の検査データを検体IDと共に読み出す。そして、この読み出された乳び及び溶血の検査データと検体IDを相互に関連付けた状態で、出力インタフェース132から図示しない検体分析装置や情報端末等へ送信させる処理を行う。
【0030】
次に、以上のように構成された検体検査装置による乳び及び溶血の検査動作を、データ処理ユニット12の処理手順に従い説明する。図6はこのデータ処理ユニット12の処理手順と処理内容を示すフローチャートである。
【0031】
(1)乳び検査処理
制御部14は、ステップS61において、乳び・溶血検体検査ユニット50による検査位置に検体がセットされたか否かを監視している。この状態で、試験管25が搬送ユニット20により乳び・溶血検体検査ユニット50による検査位置に搬送され、この状態が図示しないセンサから通知されたとする。
【0032】
そうすると制御部14は、ステップS62でカメラ制御部143を起動し、このカメラ制御部143の制御の下で先ず乳び検査モードを設定し、赤色を強調するための利得制御信号を出力する。この利得制御信号は、カメラインタフェース131を介してカメラ51に与えられ、これによりカメラ51の色信号増幅器はR信号利得を増加させかつG信号及びB信号の各利得をゼロにするように利得が制御される。そして、この状態で照明オン制御信号及び撮像制御信号を出力する。照明オン制御信号はカメラインタフェース131から照明ユニット60に与えられ、これにより照明ユニット60の光源61は点灯する。また、カメラ制御信号はカメラインタフェース131からカメラ51に与えられ、これによりカメラ51は検体の撮像動作を行う。この結果、上記照明の検体による透過光像がカメラ51により撮像され、その画像データがカメラ51からカメラインタフェース131に送られて一時保存される。
【0033】
このとき、カメラ51の色信号増幅器の利得は、先に述べたようにR信号利得を増加させかつG信号及びB信号の各利得をゼロにするように設定されている。このため、上記カメラ51から出力される画像データは赤色信号成分のみが強調され、あたかも赤色照明を行った場合と等価な赤色画像データとなる。
【0034】
制御部14は、続いてステップS63により濃淡検査処理部141を起動し、上記カメラインタフェース131から上記一時保存されている検体の画像データを読み込む。そしてステップS64により、上記読み込んだ画像データをモノクロ画像データに変換する。続いてステップS65により、上記変換されたモノクロ画像データからその濃淡レベルを検出し、この検出された濃淡レベルをもとにステップS66において乳びのレベルを判定する。この乳びのレベル判定は、例えば上記検出された濃淡レベルを予め設定した複数のしきい値と比較することにより、「乳び無し」、「弱乳び」、「中乳び」、「強乳び」の4段階で行われる。そして、上記得られた乳びの判定結果を表すデータは、ステップS67において検体の識別情報(ID)と関連付けられて記憶部15に格納される。
【0035】
ところで、上述したように検体の画像データは赤色信号成分のみが強調された赤色画像データとなっている。すなわち、画像データに赤色成分が含まれていても、この赤色成分は白や黄色と差のない信号レベルに補正されている。このため、この赤色画像データをモノクロ画像データに変換した場合、このモノクロ画像データにおいて上記赤色成分の濃淡レベルは黄色成分と同等のレベルとなる。
【0036】
図7(a)は白色照明を行った場合のカラー画像とそのモノクロ画像の色のイメージを、また(b)は赤色照明を行った場合のカラー画像とそのモノクロ画像の色のイメージをそれぞれ示している。同図からも明らかなように、白色照明を行った場合にモノクロ画像Amにおいて濃淡レベルの差となって現れる赤色成分は、赤色照明を行った場合にはモノクロ画像Bmに濃淡レベルの差として現れない。なお、この図7(a),(b)は、「OPTEX FA社、2010総合カタログ、P.1207、LED照明テクニカルガイド」に詳しく記載されている。
【0037】
したがって、上記したように赤色強調画像データをモノクロ画像データに変換してその濃淡レベルを検出すれば、赤色成分の影響が低減又は排除された濃淡レベルをもとに乳びレベルを判定することができる。すなわち、たとえ検体に溶血による赤色成分が含まれていても、溶血の影響を受けることなく乳びのレベルを判定することが可能となる。
【0038】
図8は、本実施形態の乳び検査方法による検査結果の一例を示すものである。同図において、(b)は「強溶血」の検体に対する濃淡レベルの検出結果の一例を示すもので、濃淡レベルの検出値“245”は、(a)に示す「溶血無し」の検体に対する濃淡レベル検出値“255”とほぼ同等の値となる。このため、検体が強溶血であっても、その影響をほとんど受けることなく濃淡レベルに基づく乳びレベルの判定が可能となる。なお、図8(c)及び(d)はそれぞれ「弱乳び」及び「中乳び」の検体についての濃淡レベルの検出値を示したもので、(a)及び(b)に示した「乳び無し」の場合と比較すると、濃淡レベルには顕著な差が現れる。
【0039】
ちなみに、図9(a)〜(d)は、上記図8(a)〜(d)と同一条件の検体について赤色強調処理を行わずに濃淡レベルを検出した場合の検出結果を例示したもので、同図(b)に示すように「強溶血」の場合の濃淡レベルは“60”となり、(c)に示す「弱乳び」の場合“51”と差が小さくなる。したがって、この濃淡レベルをもとに乳びレベルを判定すると、(b)の検体については「弱乳び」と誤判定する確率が高くなる。
【0040】
(2)溶血検査
乳び検査が終了すると、制御部14は次に溶血検査モードを設定する。そして、先ずステップS68において、カメラ制御部143の制御の下で標準値の利得制御信号を出力する。この利得制御信号は、カメラインタフェース131を介してカメラ51に与えられ、これによりカメラ51の色信号増幅器の利得はR,B,Gとも標準値に初期設定される。
【0041】
そして、この状態で照明オン制御信号及び撮像制御信号を出力する。照明オン制御信号はカメラインタフェース131から照明ユニット60に与えられ、これにより照明ユニット60の光源61は点灯する。また、カメラ制御信号はカメラインタフェース131からカメラ51に与えられ、これによりカメラ51は検体の撮像動作を行う。この結果、上記照明の検体による透過光像がカメラ51により撮像され、その画像データがカメラ51からカメラインタフェース131に送られて一時保存される。このとき、カメラ51の色信号増幅器の利得は、先に述べたようにR,B,Gとも標準値に設定されている。このため、上記カメラ51から出力される画像データは検体の色に対し忠実なR,B,G信号を含む標準画像データとなる。
【0042】
制御部14は、続いてステップS69により溶血検査処理部142を起動し、上記カメラインタフェース131から上記一時保存されている検体の標準画像データを読み込む。そしてステップS70により、上記読み込んだ標準画像データからR,G,Bの各信号レベルを検出し、この検出されたR,G,Bの各信号レベルをもとに、ステップS71により溶血のレベルを判定する。この溶血のレベル判定は、例えば上記検出された色信号レベルを予め設定した色信号のパターンと比較することにより、「溶血無し」、「弱溶血」、「中溶血」、「強溶血」の4段階で行われる。そして、上記得られた溶血の判定結果を表すデータは、ステップS72において検体の識別情報(ID)と関連付けられて記憶部15に格納される。
【0043】
以上詳述したように第1の実施形態では、先ず乳び検査モードにおいて、赤色を強調するための利得制御信号をカメラ51に与え、カメラ51のR信号利得を増加させかつG信号及びB信号の各利得をゼロにするように色信号増幅器(RGB増幅器)の利得を設定する。そして、この状態で検体の透過画像をカメラ51により撮像し、その画像データをモノクロ画像に変換した後その濃淡レベルを検出して乳びレベルの判定を行う。次に、溶血検査モードにおいて、標準値の利得制御信号をカメラ51に与え、カメラ51のRGB増幅器の利得を標準値に設定する。そして、この状態で検体の透過画像をカメラ51により撮像し、その画像データから色信号(RGB信号)のレベルを検出して溶血レベルを判定するようにしている。
【0044】
したがって、乳び検査モードにおいては、赤色強調処理が施された画像データをモノクロ画像に変換してその濃淡レベルをもとに乳びレベルが判定される。このため、たとえ検体に溶血による赤色成分が含まれていても、その影響を受けることなく乳びのレベルを判定することが可能となる。
また、画像データの赤色強調処理を、カメラ51が備える色信号増幅器の利得を制御することにより行っているので、例えば赤色照明や赤色光学フィルタを用いる場合に比べ、大掛かりな照明ユニットを用意することなくこの発明を実現できる利点がある。
【0045】
[第2の実施形態]
前記実施形態では、カメラ51の色信号増幅器の利得を制御して、R信号レベルを増幅しかつG信号及びB信号の各信号レベルを減衰させることにより、赤色画像データを得るようにした。しかし、これに限らず、画像データに対し画像の色フィルタリング処理を行うことにより赤色画像を生成するようにしてもよい。
【0046】
例えば、カメラ51の色信号増幅器の利得を変化させずに、つまり利得を標準値に設定した状態で検体の色に対し忠実な色信号レベルを有する標準画像データをカメラ51から取得し、この画像データを画像メモリに記憶する。そして、先ず上記画像メモリに記憶された画像データに対し、赤色画素の信号レベルを増加させかつ緑色画素及び青色画素の信号レベルを減少させる色のフィルタリング処理を行って赤色画像データを生成する。そして、この赤色画像データをモノクロ画像データに変換してその濃淡レベルを検出し、その検出レベルに基づいて乳びレベルを判定する。次に、上記画像メモリに記憶された標準画像データをそのまま使用して色信号レベルを検出し、この検出された色信号レベルに基づいて溶血のレベルを判定する。このようにすると、乳び検査過程及び溶血検査過程においてそれぞれ検体を撮像する必要がなくなり、検体の撮像動作は1回で済む。このため、1個の検体に対する検査時間を短縮することが可能となる。
【0047】
[第3の実施形態]
前記実施形態では、先ず赤色画像データを用いた乳び検査を行い、続いて標準画像データを用いた溶血検査を行った。しかしながら、これに限定されるものではなく、例えば先ず標準画像データを用いて溶血検査を行い、しかるのち赤色画像データを用いて乳び検査を行うようにしてもよい。
【0048】
この場合、標準画像データを用いた溶血検査において溶血レベルの判定結果が得られるので、この溶血レベルの判定結果を利用して乳び検査を効率良く行うことが可能となる。例えば、溶血検査において「溶血無し」と判定された場合には、乳び検査では赤色画像データを新たに取得することなく、溶血検査で使用した標準画像データを用いて濃淡レベルに基づく乳びレベルの判定を行うことが可能となる。
【0049】
また、溶血検査において「溶血有り」と判定された場合には、そのときのR信号検出レベルに応じてカメラ51の色信号増幅器のR信号利得を可変制御するとよい。このようにすると、カメラ51から出力される画像データの赤色度を検体に含まれる溶血レベル、つまり赤色成分の信号レベルに応じて最適な値に設定することができ、これにより画像データに含まれる赤色成分の影響をより適切に排除することが可能となる。
【0050】
[その他の実施形態]
その他、赤色が強調された画像データ(赤色画像データ)を取得するための具体的な手法や、検体の種類、検体検査装置の構成、検査処理手順と検査処理内容等についても、この発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施可能である。
要するにこの発明は、上記各実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、各実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【符号の説明】
【0051】
10…検体検査装置、11…装置本体、12…データ処理ユニット、13…インタフェース部、14…制御部、15…記憶部、20…搬送ユニット、20a…搬送経路、20b…分岐部、20c…分岐路、23…搬送ローラ、24…ホルダ、25…試験管、27…ラベル、27a…バーコード、30…読取ユニット、31…読取装置、40…ラベル剥離ユニット、41…ベース部、42…アーム部、43…削り板(削り部)、43a…先端部、50…乳び・溶血検体検査ユニット、51…カメラ、60…照明ユニット、61…光源、62…スリット、131…カメラインタフェース、132…出力インタフェース、141…濃淡検査処理部、142…溶血検査処理部、143…カメラ制御部、144…検査結果出力制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体容器に収容された検体を照明し、この検体による透過光を撮像してその画像データを得る撮像手段と、
前記検体が有する色成分のうち赤色成分の信号レベルを強調した第1の画像データを得るべく前記撮像手段を制御する第1の制御手段と、
前記撮像手段により得られた第1の画像データをモノクロ画像データに変換する変換手段と、
前記変換されたモノクロ画像データから画像の濃淡レベルを検出し、この検出された濃淡レベルに基づいて前記検体の乳びレベルを判定する乳び判定手段と
を具備することを特徴とする検体検査装置。
【請求項2】
前記第1の制御手段は、赤、緑、青の3原色信号のうち、赤信号の信号レベルを増幅させかつ緑信号及び青信号の各レベルを減衰させるべく、前記撮像手段の色信号増幅器の利得を制御することを特徴とする請求項1記載の検体検査装置。
【請求項3】
前記検体が有する色成分の信号レベルを忠実に含む第2の画像データを得るべく前記撮像手段を制御する第2の制御手段と、
前記撮像手段により得られた第2の画像データから色信号成分を検出し、この検出された色信号成分をもとに溶血のレベルを判定する手段と
を、さらに具備することを特徴とする請求項1記載の検体検査装置。
【請求項4】
検体容器に収容された検体を照明してこの検体による透過光をカメラにより撮像し、前記検体が有する色成分のうち赤色成分の信号レベルを強調した第1の画像データを得る過程と、
前記得られた第1の画像データをモノクロ画像データに変換する過程と、
前記変換されたモノクロ画像データから画像の濃淡レベルを検出し、この検出された濃淡レベルに基づいて前記検体の乳びレベルを判定する過程と
を具備することを特徴とする検体検査方法。
【請求項5】
前記第1の画像データを得る過程は、赤、緑、青の3原色信号のうち、赤信号の信号レベルを増幅させかつ緑信号及び青信号の各レベルを減衰させるべく、前記カメラの色信号増幅器の利得を制御することを特徴とする請求項4記載の検体検査方法。
【請求項6】
前記検体容器に収容された検体を照明してこの検体による透過光をカメラにより撮像し、前記検体が有する色成分の信号レベルを忠実に含む第2の画像データを得る過程と、
前記得られた第2の画像データから色信号成分を検出し、この検出された色信号成分をもとに溶血のレベルを判定する過程と
を、さらに具備することを特徴とする請求項4記載の検体検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−47589(P2012−47589A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189812(P2010−189812)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(309007184)あおい精機株式会社 (9)
【Fターム(参考)】