説明

検体薄片が載ったスライドガラスを調製するためのシート

【課題】取り扱いに便利で、安価で廃棄制限もなく、必要時必要な数量の薄片を無駄なく素早く提供することができ、迅速な試験を必要とする免疫染色やin situ分析に好適であり、かつ、部分的な剥離や染色の不均一性などの問題のない、検体薄片が載ったスライドガラスを調製するためのシート、そのようなシートにおいて提供される検体薄片、ならびに、そのようなシートを用いて作製されたスライドガラスを提供することを、本発明の課題とする。
【解決手段】上記課題は、シート基材と、シート基材の表面に積層された接着剤層と、接着剤層の表面の一部に積層された被覆層と、被覆層の表面に配置された組織または細胞の検体薄片とを有するシートであって、接着剤層の表面に被覆層が積層されない接着部を有するシートを提供することによって、解決された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療診断の分野に属する。より具体的には、本発明は、免疫染色などに用いる検体薄片が載ったスライドガラスを調製するためのシートに関する。
【背景技術】
【0002】
病気の診断や組織内部の観察のため、動植物の組織を薄片化し、さらに染色などを行ったものを顕微鏡で観察することが行われている。その際に作製される試料ブロックとして、動植物から採取・摘出した組織または臓器(以下、組織等と称する)をパラフィンに包埋したパラフィン組織ブロックがあり、培養細胞等の細胞を固定、脱水、パラフィン処理したパラフィン細胞ブロックがある(以下、パラフィンブロックと総称する)。また、目的に応じて、そのまま凍結した凍結ブロックが使用される。試料ブロックとしては、例えば、パラフィンブロックおよび凍結ブロック等のドナーブロック中の組織等の病巣部等に中空針を刺入して直径0.6〜3mmの円筒形組織芯(以下、コアという。)を採取し、このコアを別の直方体パラフィンブロックに格子点状に配置したもの(以下、アレイブロックという)がある。
【0003】
従来、試料ブロックは、矩形の浅い木製ないしステンレス製の整理箱に格子状の仕切り板を嵌め込み、仕切り板によって形成された各区画領域に試料ブロックを投入し、常温または低温で保存されている。そして、免疫染色やin situ分析を行うとき、即ちパラフィンブロック又は凍結ブロックから切り出された組織薄切り片やアレイブロックから切り出された薄切りコア(以下、薄片という。)が必要になった場合、試料ブロックを整理箱から取り出し、ミクロトームや凍結切片作製装置の鋭利なナイフで薄切りし、パラフィンブロックではこの薄片を水槽に浮かべてスライドガラスで掬い取り、凍結ブロックではそのままスライドガラスに貼り付けていた。ここで、試料ブロックがアレイブロックであれば、掬い取る薄片または貼り付ける薄片に複数個の薄切りコアが包埋または凍結されているから、スライドガラス上に多数の薄切りコアが格子状に配列されたもの(以下、組織アレイという。)となる。上記のような方法は熟練を要し、薄片の欠落を発生するという問題があった。
【0004】
このような問題に対処するために、粘着テープ薄切り方式(特許文献1)が開発されている。粘着テープ薄切り方式は、粘着テープを試料ブロックの上面に押し付け、テープが粘着固定した部分のわずかな下方位置で鋭利なナイフを水平方向に移動させて、粘着テープとともに薄片を切り取るというものである。この粘着テープは、切り取った薄片を貼り付けた状態のまま染色、脱水、透徹等の操作を行ったあと、天地逆にし、表面に封入剤層を形成したスライドガラスに密着させて、粘着テープとスライドガラスの間に薄片を封止することにより、顕微鏡観察をするための検査用スライドを作成していた(特許文献1)。
【0005】
特許文献1に記載の粘着テープ薄切り方式は、必要時に試料ブロックから薄片を切り出し、染色処理等を行ってから検査用スライドを作成するものであるから、各種の研究や検査に素早く対応ができない。また、粘着テープとスライドガラスの間に薄片を封止するものであるから、全体としての形状及び重量が大きくなって整理箱への収容数が制限されるという問題がある。また、検査用スライドの主材料がガラスであるから破損しやすく取り扱いが面倒であるという問題がある。また、テープを剥がす必要性が生じた場合、粘着テープから薄片を剥がすことが困難であるという問題がある。
【0006】
一方、スライドグラスの本質的な欠点である割れやすいという欠点を克服するため、スライドガラスに代わる吸水性の低い薄膜状の高分子支持体、具体的には、厚さ50〜300μmのポリエチレンテレフタレート又ポリエチレンナフタレートの高分子支持体が知られている。この支持体は、その表面に組織切片又は細胞を接着させ、組織切片又は細胞を染色した後、顕微鏡観察に使用する(特許文献2)。
【0007】
特許文献2の高分子支持体は、単にスライドガラスの代わりとして使用するものである。更に組織アレイの場合は、一枚のスライドガラスに多数の薄切りコアが接着固定されているが、実際の検査・研究で必要な薄切りコアはそのうちの一部で十分なことが多々あり、上記試験用スライドでは不要なコアについても同時免疫染色等の処理を行うことになり、貴重な薄切りコアが無駄になるという問題があった。
【0008】
さらに改良された手法として、組織や細胞を包埋したブロックから切り出した薄片を裏面に接着層を有するテープ上に載せ、このテープ自体をスライドガラスに貼り付け、コントロールスライドを作製し、組織免疫染色することで、病理診断する手法がある(特許文献3)。しかしながら、この手法においても、染色時の環境によりテープのスライドグラスからの部分的な剥離や染色の不均一性などの問題が認められた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006-38848号公報
【特許文献2】特開2001-215181号公報
【特許文献3】国際公開パンフレットWO2008/123410
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
取り扱いに便利で、安価で廃棄制限もなく、必要時必要な数量の薄片を無駄なく素早く提供することができ、迅速な試験を必要とする免疫染色やin situ分析に好適であり、かつ、部分的な剥離や染色の不均一性などの問題のない、検体薄片が載ったスライドガラスを調製するためのシート、そのようなシートにおいて提供される検体薄片、ならびに、そのようなシートを用いて作製されたスライドガラスを提供することを、本発明の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
テープ/シールを使用して保存された組織・細胞ブロックからの切り出し薄片を、自動免疫染色機などで染色する際にテープ/シール素材の影響を受けない方法を鋭意検討した。その結果、薄片を載せる部分をのり消し、テープから薄片をスライドガラスに転写することにより、簡便にコントロール薄片が載ったスライドガラスの作製方法を見出すことによって上記課題が解決された。
【0012】
本発明は、例えば、以下を提供する:
(項目1)
組織または細胞の検体薄片が載ったスライドガラスを調製するためのシートであって、
該シートは、
シート基材と、
該シート基材の表面に積層された接着剤層と、
該接着剤層の表面の一部に積層された被覆層と、を有し、
該接着剤層の表面に該被覆層が積層されない接着部が形成され、
該被覆層の表面に配置された検体薄片を該スライドガラスに当接し、該スライドガラスを加熱することにより、該検体薄片を該スライドガラス側へ転写することが可能である、シート。
(項目2)
組織または細胞の検体薄片が載ったスライドガラスを調製するためのシートであって、
該シートは、
シート基材と、
該シート基材の表面に積層された接着剤層と、
該接着剤層の表面の一部に積層された被覆層と、
該被覆層の表面に配置された組織または細胞の検体薄片と、を有し、
該接着剤層の表面に該被覆層が積層されない接着部が形成され、
該被覆層の表面に配置された検体薄片を該スライドガラスに当接し、該スライドガラスを加熱することにより、該検体薄片を該スライドガラス側へ転写することが可能である、シート。
(項目3)
項目1または2に記載のシートであって、ここで、加熱後の前記検体薄片と前記被覆層との間の粘着力は、該検体薄片と前記スライドガラスとの間の粘着力よりも弱い、シート。
(項目4)
前記シート基剤が、ポリエチレンテレフタレート(Polyethylene terephthalate)から構成される、項目1または2に記載のシート。
(項目5)
前記被覆層が、シリコンコート、界面活性剤、フッ素コートおよび低密度ポリエチレン、並びに、シリコン、界面活性剤、フッ素および低密度ポリエチレンの一種または二種以上でコートした紙からなる群から選択される、項目1または2に記載のシート。
(項目6)
前記被覆層が、シリコンおよび低密度ポリエチレンからなる群から選択される物質でコートした紙である、項目5に記載のシート。
(項目7)
項目1または2に記載のシートであって、ここで、前記接着剤層が、フィブリンのり、ゼラチンのり、ポリペプチド系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、および、ウレタン系接着剤からなる群から選択される、シート。
(項目8)
項目1または2に記載のシートであって、前記検体薄片がコントロールとして用いられる、シート。
(項目9)
検体薄片が載ったスライドガラスの製造方法であって、以下の工程:
(1)項目2に記載のシートを提供する工程;
(2)前記該接着部を介して、該シートをスライドガラス上に接着させる工程;
(4)該シートが接着された該スライドガラスを加熱する工程;ならびに、
(5)該シートのシート基材を該スライドガラスから剥離する工程、
を包含する方法。
(項目10)
前記フィルム層が、ポリエチレンテレフタレートから構成される、項目9に記載の方法。
(項目11)
前記被覆層が、シリコンコート、界面活性剤、フッ素コートおよび低密度ポリエチレン並びにシリコン、界面活性剤、フッ素および低密度ポリエチレンの一種または二種以上でコートした紙からなる群から選択される、項目9に記載の方法。
(項目12)
前記被覆層が、シリコンおよび低密度ポリエチレンからなる群から選択される物質でコートした紙である、項目11に記載の方法。
(項目13)
項目9に記載の方法であって、ここで、前記接着剤層が、フィブリンのり、ゼラチンのり、ポリペプチド系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、ウレタン系接着剤のいずれかである、方法。
(項目14)
項目9に記載の方法であって、前記検体薄片がコントロールとして用いられる、方法。
(項目15)
項目9に記載の方法によって製造された、検体薄片が載ったスライドガラス。
(項目16)
項目1または2に記載のシート、あるいは、項目15に記載のスライドガラスを備えたことを特徴とする、顕微鏡観察用具。
(項目17)
病理組織検査の精度管理用のコントロールとして使用するための、項目15に記載のスライドガラス。
(項目18)
病理組織検査の精度管理用のコントロールとして使用するための、項目16に記載の顕微鏡観察用具。
(項目19)
項目15に記載のスライドガラスを、病理組織検査の精度管理用のコントロールとして使用する方法。
(項目20)
項目16に記載の顕微鏡観察用具を、病理組織検査の精度管理用のコントロールとして使用する方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のシートを接着部によってスライドガラスに接着させ、その後、スライドガラスを加熱すると、シート上の検体薄片が加熱されて、スライドガラスに対する接着力が向上する。次いで、シートのシート基材をスライドガラスから剥離すると、検体薄片が被覆層との界面より剥離し、スライドガラスに転写される。
【0014】
このように、本発明によって、取り扱いに便利で、安価で廃棄制限もなく、必要時必要な数量の薄片を無駄なく素早く提供することができ、迅速な試験を必要とする免疫染色やin situ分析に好適であり、かつ、部分的な剥離や染色の不均一性などの問題のない、検体薄片が載ったスライドガラスを調製するためのシート、そのようなシートにおいて提供される検体薄片、ならびに、そのようなシートを用いて作製されたスライドガラスが提供される。
【0015】
本発明を用いることによって、組織片、細胞片の転写がほぼ完全に行われ、かつ、実質的に、染色時の検体への影響がない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のシート(検体薄片を含まない)の図である。
【図2】本発明のシート(検体薄片を含む)の図である。
【図3】本発明の検体薄片を含むシートを、接着部(4)を介してスライドガラスに固定した状態を示す図である。
【図4】両端部全体にわたって接着部を有する、本発明のシートの図である。
【図5】両端部の一部に接着部を有する、本発明のシートの図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係るシートは、
(1)シート基材と、
シート基材の表面に積層された接着剤層と、
接着剤層の表面の一部に積層された被覆層と、
被覆層の表面に配置された組織または細胞の検体薄片と、を有するか、あるいは、
(2)シート基材と、
シート基材の表面に積層された接着剤層と、
接着剤層の表面の一部に積層された被覆層と、を有することを特徴とするものである。
【0018】
本発明が対象とする検体薄片としては、組織などの試料ブロックから切り出された薄片又は細胞ブロックの薄片が挙げられるがこれらに限定されない。
【0019】
本発明において試料ブロックとは、動植物から採取・摘出した組織等を、パラフィンに包埋したパラフィン組織ブロック、アクリル樹脂等の樹脂に包埋した樹脂ブロック、試料をそのまま凍結した凍結ブロック、培養細胞等の細胞を固定、脱水、パラフィン処理といった組織の包埋処理に準じた方法で作製されたパラフィン細胞ブロックも包含する。
【0020】
好ましい試料ブロックは、パラフィン組織ブロックおよびパラフィン細胞ブックである。
【0021】
また、細胞ブロックの薄片とは、検体となる細胞を培養して得られる細胞塊および浮遊細胞のゲル化物等をフィルム又はシート状にしたものをいい、本発明の対象を凍結ブロック及び包埋処理したものに限定しないことを明確にする趣旨である。
【0022】
ここでいう接着とは、薄片のような被着体を接合したときに、接着剤層が固化した状態となって接合の機能を果たすものである。接着剤層は、溶剤乾燥型、化学反応型、ホットメルト型などを使用することができる。後続する溶剤処理を考慮すると化学反応型が望ましい。化学反応型として、熱硬化型、嫌気硬化型、紫外線硬化型、縮合反応型、付加反応型、ラジカル重合型などがある。また、接着剤は、免疫染色やin situ分析等に先立って行われる各種の処理によって影響を受けるものであってはならず、薄片の染色に使用する染色液に染色されないことが望ましい。更に薄片を脱水、透徹、封入等で使用する有機溶剤に浸漬しても溶解せず、かつ膨大の少ない透明な層を形成するものが望ましい。接着剤は、生体適合性の良いものが好ましく、例えば、フィブリン糊、ゼラチン糊、ポリ−L−リジンなどのポリペプチド系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、ウレタン系接着剤、合成ゴムなどを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0023】
本発明に使用するシート基材の材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、アタクティックポリスチレン、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート、トリアセチルセルロース、ポリメチルメタクリレート、ポリスルフォン、ポリアリレートなどから選ばれる1または2種以上の高分子を主成分とするフィルムが挙げられる。好ましいのはポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンナフタレートを主成分とするフィルムである。
【0024】
シート基材の形状は限定されない。例えば、矩形状(長方形、正方形)に形成してもよく、楕円形状、円形状に形成してもよい。シート基材の寸法は、任意に設定することができる。
【0025】
シート基材に、後述する接着部を形成するための耳片を形成してもよい(図5)。その場、シート基材の縁部を外側へ延出して、一対の耳片をシート基材の対向する位置に設けるのがよい。耳片は複数(3以上)設けることもできる。耳片の形状は限定されず、半円形、長方形などとすることができる。
【0026】
検体薄片は、例えば、病理組織検査で使用される組織、培養した細胞等を対象とし、パラフィンブロック、樹脂ブロック、凍結ブロック及び包埋処理した細胞ブロックから薄切りされた厚さ10μm以下、好ましくは、2〜5μm厚の薄切り切片である。また、細胞ブロックの場合には上記のように包埋処理したものの他に、培養細胞塊や浮遊細胞等をゲル化物とし、シート状またはフィルム状とした薄片でもよい。また、培養する細胞は、不死化した細胞、遺伝子導入された細胞のいずれでもよい。
【0027】
本発明で用いる被覆層は、シリコンコート、界面活性剤、フッ素コート、低密度ポリエチレン、シリコンコート、界面活性剤、フッ素コートおよび低密度ポリエチレン並びにシリコン、界面活性剤、フッ素および低密度ポリエチレンの一種または二種以上でコートした紙からなる群から選択される、好ましくは、シリコンおよび/または低密度ポリエチレンでコートした紙である。検体薄片を転写する際には、皺や凹凸があると免疫染色の結果が安定しなくなることから、被覆層の表面は平坦であることが好ましい。
【0028】
(シートの製法)
本発明のシートは次のようにして製造することができる。
・図1に示すように、シート基材(1)の全面に亘って接着剤を塗布して接着剤層(2)を形成する。次に、この接着剤層の表面の一部に被覆層(3)を積層する。典型的には、被覆層は、接着剤層のほぼ中央部に積層される。従って、接着剤層の両端部には被覆層が積層されないので、接着剤層の両端部が露出し、その露出した部分に接着部(4)が形成される。
・シート基材に耳片が形成される場合には、耳片を除くシート基材の中央部に被覆層を積層することにより、耳片に積層された接着剤層が露出して接着部(4)が形成される。
・シートが検体薄片(5)を有する場合には、上記被覆層の表面に検体薄片(5)を配置する。検体薄片(5)の表面の大きさは、被覆層の表面の大きさとほぼ同程度またはやや小さく形成される。
【0029】
検体薄片を備えるシートを、接着部を介してスライドガラス上に固定し、このスライドガラスを加熱して検体薄片のパラフィンなどの包埋剤を溶解させることにより、検体薄片をスライドガラスに転写することができる。転写後、検体薄片を含まないシート自体を剥離する。本発明においては、スライドガラスの替わりに、透明プレート体を使用することが可能である。透明プレート体としては、検体薄片の転写の際の加熱に耐えられる限り、有色透明、無職透明な硬質系の樹脂が挙げられるが、これに限定されない。
【0030】
上記シートを用いることにより、顕微鏡観察用具を素早く作成することができる。例えば、上記シートの検体薄片としてコントロールを提供し、患者由来の組織を同一の透明プレート体に配置して免疫染色を行うことによって、免疫染色自体が成功しているか否かを確認するポジティブコントロールとして使用することができる。さらに、コントロールとして、標的抗原の濃度が異なるいくつかの試料を配置した場合、患者由来の組織における標的抗原の半定量が可能となる。例えば、癌などで特異的に発現するタンパク質を定性的または半定量的に測定することができる。
【0031】
本発明で使用する接着剤は、シート基材とスライドガラスのような透明プレート体とを接着するものであり、多種多様なものが市販されている。例えば、紫外線硬化型のアクリル系接着剤など上記した接着剤層に使用される接着剤の他、キシレンにカナダバルサムを溶解したものなどを例示することができる。
【0032】
本発明の一つの局面では、シートは、例えば図1に示すように、シート基材(1)と、該シート基材の表面に積層された接着剤層(2)と、該接着剤層の表面の一部に積層された被覆層(3)と、を有し、該接着剤層の表面に該被覆層が積層されない接着部(4)が形成される。
【0033】
本発明の別の局面では、シートは、例えば図2に示すように、シート基材(1)と、該シート基材の表面に積層された接着剤層(2)と、該接着剤層の表面の一部に積層された被覆層(3)と、被覆層の表面に配置された組織または細胞の検体薄片(5)とを有し、該接着剤層の表面に該被覆層が積層されない接着部(4)が形成される。典型的には、接着剤層のほぼ中央部に被覆層が積層され、従って、接着剤層の両端部には被覆層が積層されないので、接着剤層の両端部が露出し、その露出した部分が接着部となる。
【0034】
該被覆層の表面に配置された検体薄片をスライドガラス(6)に当接し、該スライドガラスを加熱し、パラフィンなどの包埋剤を溶解することにより、検体薄片をスライドガラス側へ転写することが可能である。加熱条件は、特に限定されないが、好ましくは、40℃〜70℃、さらに好ましくは、55℃〜65℃である。時間は、加熱温度にもよるが、10〜120分、好ましくは、30〜60分である。
【0035】
本発明のシートでは、図4に示すように、両端部全体にわたって接着部(4)を有してもよく、また、図5に示すように、両端部の一部に接着部(4)を有してもよい。また、図5に示すように、接着部(4)は、突出分を形成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0036】
免疫染色は病理診断をはじめ、医療の診断方法として欠く事のできない技法であるが、一定の頻度でエラーを生じるのとともに、半定量的判断を強いられることが今後増加する。これらに対し、明瞭な対照検体がないのが現状であり、各施設で検証のされていない不完全な対照を同時に染色する不完全な検証方法が世界的に行われているのが現状である。これに対し、本発明は、病理診断の精度向上に大きく貢献するものと考えられる。
【符号の説明】
【0037】
1.シート基材
2.接着剤層
3.被覆層
4.接着部
5.検体薄片
6.スライドガラス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織または細胞の検体薄片が載ったスライドガラスを調製するためのシートであって、
該シートは、
シート基材と、
該シート基材の表面に積層された接着剤層と、
該接着剤層の表面の一部に積層された被覆層と、を有し、
該接着剤層の表面に該被覆層が積層されない接着部が形成され、
該被覆層の表面に配置された検体薄片を該スライドガラスに当接し、該スライドガラスを加熱することにより、該検体薄片を該スライドガラス側へ転写することが可能である、シート。
【請求項2】
組織または細胞の検体薄片が載ったスライドガラスを調製するためのシートであって、
該シートは、
シート基材と、
該シート基材の表面に積層された接着剤層と、
該接着剤層の表面の一部に積層された被覆層と、
該被覆層の表面に配置された組織または細胞の検体薄片と、を有し、
該接着剤層の表面に該被覆層が積層されない接着部が形成され、
該被覆層の表面に配置された検体薄片を該スライドガラスに当接し、該スライドガラスを加熱することにより、該検体薄片を該スライドガラス側へ転写することが可能である、シート。
【請求項3】
請求項1または2に記載のシートであって、ここで、加熱後の前記検体薄片と前記被覆層との間の粘着力は、該検体薄片と前記スライドガラスとの間の粘着力よりも弱い、シート。
【請求項4】
前記シート基材が、ポリエチレンテレフタレートから構成される、請求項1または2に記載のシート。
【請求項5】
前記被覆層が、シリコンコート、界面活性剤、フッ素コートおよび低密度ポリエチレン並びにシリコン、界面活性剤、フッ素および低密度ポリエチレンの一種または二種以上でコートした紙からなる群から選択される、請求項1または2に記載のシート。
【請求項6】
前記被覆層が、シリコンおよび低密度ポリエチレンからなる群から選択される物質でコートした紙である、請求項5に記載のシート。
【請求項7】
請求項1または2に記載のシートであって、ここで、前記接着剤層が、フィブリンのり、ゼラチンのり、ポリペプチド系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、および、ウレタン系接着剤からなる群から選択される、シート。
【請求項8】
請求項1または2に記載のシートであって、前記検体薄片がコントロールとして用いられる、シート。
【請求項9】
検体薄片が載ったスライドガラスの製造方法であって、以下の工程:
(1)請求項2に記載のシートを提供する工程;
(2)前記該接着部を介して、該シートをスライドガラス上に接着させる工程;
(4)該シートが接着された該スライドガラスを加熱する工程;ならびに、
(5)該シートのシート基材を該スライドガラスから剥離する工程、
を包含する方法。
【請求項10】
前記フィルム層が、ポリエチレンテレフタレートから構成される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記被覆層が、シリコンコート、界面活性剤、フッ素コートおよび低密度ポリエチレン並びにシリコン、界面活性剤、フッ素および低密度ポリエチレンの一種または二種以上でコートした紙からなる群から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記被覆層が、シリコンおよび低密度ポリエチレンからなる群から選択される物質でコートした紙である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項9に記載の方法であって、ここで、前記接着剤層が、フィブリンのり、ゼラチンのり、ポリペプチド系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、ウレタン系接着剤のいずれかである、方法。
【請求項14】
請求項9に記載の方法であって、前記検体薄片がコントロールとして用いられる、方法。
【請求項15】
請求項9に記載の方法によって製造された、検体薄片が載ったスライドガラス。
【請求項16】
請求項1または2に記載のシート、あるいは、請求項15に記載のスライドガラスを備えたことを特徴とする、顕微鏡観察用具。
【請求項17】
病理組織検査の精度管理用のコントロールとして使用するための、請求項15に記載のスライドガラス。
【請求項18】
病理組織検査の精度管理用のコントロールとして使用するための、請求項16に記載の顕微鏡観察用具。
【請求項19】
請求項15に記載のスライドガラスを、病理組織検査の精度管理用のコントロールとして使用する方法。
【請求項20】
請求項16に記載の顕微鏡観察用具を、病理組織検査の精度管理用のコントロールとして使用する方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−158364(P2011−158364A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−20793(P2010−20793)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【出願人】(305060567)国立大学法人富山大学 (194)
【出願人】(307048756)株式会社パソロジー研究所 (6)
【Fターム(参考)】