説明

検出システム

【課題】常設された危険物質の検査エリアにおいて爆発物等の危険物質の発見が見逃された場合であっても、迅速かつ容易に爆発物等の危険物質を発見したりその所持者を特定したりすること。
【解決手段】試料を採取する試料採取装置302と、試料採取装置302により採取された試料に混入する爆発物を吸着する吸着剤または試料に混入する爆発物を溶解する溶媒を有する試料捕集装置361と、試料採取装置302および試料捕集装置361を据え付けたワゴン9と、試料捕集装置361により吸着剤に吸着した爆発物または溶媒に溶解した爆発物を検出する検出装置とを備える検出システム300を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、空港内や公共施設内に危険物質が持ち込まれることを防止する危険物質検出装置として、検査対象から採取した試料を加熱・気化することにより危険物質を検出する技術が知られている(特許文献1参照)。
特許文献1によれば、試料となる爆発物の粉末等が付着していると考えられる箇所、例えばパソコンのキーボードや鞄のハンドル等を検査片で拭き取ることにより試料を採取し、検査片等ごとに加熱・気化した試料を質量分析装置に導入して検出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−301749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、空港等を中心に広く用いられているものの、主に税関や入場ゲート等の常設された危険物質の検査エリアにおいて、機内に持ち込まれる手荷物や機内に乗り込む乗客等を検査するようになっている。そのため、この検査エリアで危険物質が見逃されてしまうと、その後に危険物質を発見したりその所持者を特定したりすることが困難となる。また、危険物質を持ち込もうとする者にとっても、この検査エリアを回避して機内に危険物質を持ち込むための様々な手段を考え出そうと試みるものと考えられる。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、常設された危険物質の検査エリアにおいて爆発物等の危険物質の発見が見逃された場合であっても、迅速かつ容易に爆発物等の危険物質を発見したりその所持者を特定したりすることができる検出システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明の参考例としての発明は、試料を採取する試料採取部と、該試料採取部により採取された試料を分析する試料分析部と、前記試料採取部および前記試料分析部を据え付けた台車とを備える検出装置を提供する。
【0007】
本発明によれば、試料分析部により、試料採取部によって採取された試料が分析される。これらの試料採取部および試料分析部は台車に据え付けられているので、本発明に係る検出装置は可搬性を有する。したがって、試料を採取する対象、位置または時間等を変えながら試料分析を行うことができる。
【0008】
例えば、検出装置を列車内の通路に沿って移動させながら、乗客や荷物等、あるいは、車内の雰囲気から試料を採取して分析することで、列車内に爆発物等の危険物質が持ち込まれていないかを列車の走行中に検査することができる。したがって、駅や空港等において税関や入場ゲート等に常設されている検査エリアで爆発物等の危険物質の発見が見逃された場合であっても、迅速かつ容易に爆発物等の危険物質やその所持者を発見することができる。
【0009】
上記発明においては、前記試料採取部が、雰囲気を吸引して試料とする試料吸引部を備えることとしてもよい。
このように構成することで、試料分析部により、試料吸引部によって吸引された雰囲気が分析される。
【0010】
例えば、荷物等に紛れて爆発物等の危険物質が列車内に持ち込まれていた場合には、爆発物等の危険物質からの蒸気が列車内の雰囲気に混入している可能性がある。したがって、列車内の荷物やその所持者の周辺の雰囲気を分析することによって、その爆発物等の危険物質を検出することが可能になる。
【0011】
また、上記発明においては、前記試料採取部が、固体に付着した物質を該固体から分離して試料とする試料分離部を備えることとしてもよい。
このように構成することで、試料分析部により、試料分離部によって固体から分離された物質が分析される。
【0012】
例えば、列車の車内改札や車内販売により乗客から受け取った切符、紙幣、硬貨またはクレジットカード等に付着した物質を分析することができる。乗客が爆発物等の危険物質に触れていた場合には、その者が所持していた切符、紙幣、硬貨またはクレジットカード等に爆発物等の危険物質が付着している可能性がある。したがって、切符等に付着した物質を分析することによって、爆発物等の危険物質を検出することが可能になる。
【0013】
本発明の参考例としての発明は、上記検出装置と、該検出装置の位置情報を検出する位置情報検出部とを備える検出システムを提供する。
本発明によれば、例えば、検出装置によって列車内で爆発物等の危険物質が検出された場合に、位置情報検出部により、列車内のどの位置で爆発物等の危険物質が検出されたかを把握することが可能となる。
【0014】
本発明の参考例としての発明は、輸送機関に据え付けられる検出装置であって、前記輸送機関の客室内部または荷室内部の気体を採取して試料とする試料採取部と、該試料採取部により採取された試料中における危険物質の有無を分析する試料分析部とを備える検出装置を提供する。
本発明によれば、輸送機関内部において、客室内部または荷室内部の気体が試料採取部によって採取され、その気体中における危険物質の有無が試料分析部によって分析される。
【0015】
例えば、荷物等に紛れて爆発物等の危険物質が列車内に持ち込まれていた場合には、爆発物等の危険物質からの蒸気が列車内の気体に混入している可能性がある。したがって、客室内部または荷室内部の気体中における危険物質の有無を分析することで、列車内に爆発物等の危険物質が持ち込まれていないかを列車の走行中に検査することができる。
【0016】
本発明は、試料を採取する試料採取部と、該試料採取部により採取された試料に混入する爆発物を吸着する吸着剤または前記試料に混入する爆発物を溶解する溶媒を有する試料捕集部と、前記試料採取部および前記試料捕集部を据え付けた台車と、前記試料捕集部により前記吸着剤に吸着した爆発物または前記溶媒に溶解した爆発物を検出する検出部とを備える検出システムを提供する。
【0017】
本発明によれば、試料捕集部において、試料採取部によって採取された試料に混入する爆発物が吸着剤に吸着したり、または、溶媒に溶解したりするので、試料に混入する爆発物を濃縮させることができる。したがって、蒸気圧が低いために検出されにくい爆発物であっても、検出部により検出し易くすることができる。
【0018】
これらの試料採取部および試料捕集部は、台車に据え付けられているので可搬性を有する。したがって、試料を採取する対象、位置または時間等を変えながら試料を採取することができる。例えば、試料採取部および試料捕集部を列車内の通路に沿って移動させながら、乗客や荷物等、あるいは、車内の雰囲気から試料を採取することができる。これにより、列車内に爆発物等の危険物質が含まれていないかを列車の走行中に高い検出効率で検査することができる。
【0019】
本発明の参考例としての発明は、客室内部または荷室内部の気体を採取して試料とする試料採取部と、該試料採取部により採取された試料中における危険物質の有無を分析する試料分析部とを備える輸送機関を提供する。
【0020】
本発明によれば、輸送機関内部において、客室内部または荷室内部の気体が試料採取部によって採取され、その気体中の危険物質の有無が試料分析部によって分析される。したがって、輸送機関内に爆発物等の危険物質が持ち込まれていないかを検査することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、常設された危険物質の検査エリアにおいて爆発物等の危険物質の発見が見逃された場合であっても、迅速かつ容易に爆発物等の危険物質を発見したりその所持者を特定したりすることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の参考実施形態に係る危険物質検出装置を示す該略図である。
【図2】図1の危険物質検出装置の充電コネクタが充電ソケットに接続される様子を示す図である。
【図3】図1の危険物質検出装置が列車内を搬送される様子を示す図である。
【図4】本発明の第2の参考実施形態に係る危険物質検出システムを示す該略図である。
【図5】図4の危険物質検出システムを示す別の図である。
【図6】本発明の第2の参考実施形態の変形例に係る危険物質検出装置を示す該略図である。
【図7】本発明の第3の参考実施形態に係る危険物質検出システムを示す該略図である。
【図8】本発明の第3の参考実施形態に係る危険物質検出システムを示す別の該略図である。
【図9】図7の危険物質検出システムによる検出情報と監視カメラによるカメラ情報とを組み合わせて危険物質を監視する様子を示す図である。
【図10】本発明の第1実施形態に係る危険物質検出システムを示す該略図である。
【図11】図10の危険物質検出システムの試料捕集部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[第1の参考実施形態]
以下、本発明の参考例としての第1の参考実施形態に係る危険物質検出装置(検出装置)について、図面を参照して説明する。
本実施形態に係る危険物質検出装置1は、図1〜図3に示すように、列車2等の輸送機関内において、爆発物等の危険物質が持ち込まれていないかを検査するための装置である。なお、危険物質とは、例えば、トリニトロトルエン、トリアセトントリパーオキサイド、ニトログリセリン、へキソーゲン(トリメチレントリニトラミン;RDX)、ペンスリット(ペンタエリスリトールテトラナイトレート;PETN)、ニトロメタン、エチレングリコールジニトラート(EGDN)、オクトーゲン(HMX)、5‐ニトロ‐2,4‐ジヒドロ‐1,2,4‐トリアゾール‐3‐オン(NTO)、ヘキサメチレントリパーオキサイドジアミン(HMTD)、モノアミノトリニトロベンゼン(MATB)、ジアミノトリニトロベンゼン(DATB)、トリアミノトリニトロベンゼン(TATB)等の爆発物等を挙げることができる。
【0024】
具体的には、危険物質検出装置1は、略直方体形状に形成された危険物質検出装置本体7と、危険物質検出装置本体7が据え付けられたワゴン(台車)9とを備え、可搬性を有するようになっている。なお、ワゴン9には、車掌3がワゴン9を搬送するための持ち手11と、タイヤ13とが設けられている。
【0025】
危険物質検出装置本体7は、車内改札を行う際に切符5に付着している物質を試料として採取するサンプリング容器(試料分離部,試料採取部)15と、サンプリング容器15により採取された試料を分析して爆発物等の危険物質を検出する検出装置(試料分析部)17を有する試料分析システム19と、この試料分析システム19を駆動するための蓄電器21とを備えている。
【0026】
なお、危険物質検出装置本体7には、検出装置17による分析結果(以下、「検出情報」という。)が表示される表示部(図示せず)が設けられている。この表示部は、車掌3が持ち手11側に立って危険物質検出装置1を搬送する際に、車掌3からは見え易く、かつ、周りの他の者からは見えにくいように、例えば、サンプリング容器15の近傍に設けられることが望ましい。
【0027】
サンプリング容器15は、車掌3によって切符5が挿入され易いように、危険物質検出装置本体7の上端面の持ち手11寄りに設置されている。サンプリング容器15には、切符挿入口23が設けられており、切符5が挿入されると乗車駅や下車駅等の切符情報が読み取られるようになっている。
【0028】
また、サンプリング容器15には、図示しない気化ヒータが切符挿入口23から挿入された切符5を加熱可能に配置されている。このサンプリング容器15は、切符5に付着している物質を気化ヒータによって大気圧条件下で加熱気化して切符5から分離させ、気化した物質を試料として採取するようになっている。
【0029】
試料分析システム19は、検出装置17の他に、サンプリング容器15から検出装置17へ試料を導入させるための試料導入装置25を備えている。
試料導入装置25は、サンプリング容器15に一端が接続された差動排気配管27と、この差動排気配管27の他端に接続された差動排気ポンプ29と、差動排気配管27と検出装置17とを接続するキャピラリ管31とを備えている。
【0030】
差動排気配管27は、サンプリング容器15と差動排気ポンプ29とが流通可能になるように接続されている。なお、差動排気配管27は、サンプリング容器15側の流路(すなわち、上流側の流路)の流路断面積が、差動排気ポンプ29側の流路(すなわち、下流側の流路)の流路断面積に比べて小さく形成されていることが望ましい。このようにすることで、差動排気ポンプ29側の流路内部の圧力を低くしても、大気圧条件下のサンプリング容器15内部との圧力差を保ち易くすることができる。
【0031】
また、差動排気配管27には、差動排気配管27の内壁に熱が伝達するように配管周りに配管用ヒータ(図示略)が配置され、差動排気配管27全体の内壁が加熱されるようになっている。なお、配管用ヒータは、例えば、公知のリボンヒータであり、試料導入装置25の作動中において、100℃以上200℃以下で加熱されるようになっている。
【0032】
また、差動排気配管27の差動排気ポンプ29側には、差動排気ポンプ29の排気流量を制御する調整弁(図示略)が設けられている。差動排気配管27は、石英から形成することとしてもよいし、あるいは、差動排気配管27の内壁を石英で覆うこととしてもよい。このようにすることで、試料が差動排気配管27の内壁に付着滞留するのを防止することができる。
【0033】
差動排気ポンプ29は、図示しない吸気口と排気口とを備え、吸気口が差動排気配管27の下流側の端部に流通可能に接続されている。また、差動排気ポンプ29は、差動排気配管27内の気体を吸気口から吸引して排気口から外部に排出することにより、差動排気配管27内を排気して減圧するようになっている。
【0034】
キャピラリ管31は、例えば、内径が約0.3mm、外径が約0.4mmであって、長さが約10cmからなる石英製の細管である。また、キャピラリ管31は、一端が差動排気配管27に接続され、他端が検出装置17内のイオン化チャンバ(図示略)に直結されている。このキャピラリ管31は、差動排気配管27の下流側の配管内部と検出装置17のイオン化チャンバ内部との圧力差を保ちつつ、これらを流通可能に接続するようになっている。
【0035】
検出装置17は、例えば、質量分析法により試料分析を行う質量分析装置である。この検出装置17は、キャピラリ管31が接続されるイオン化チャンバ(図示略)と、イオン化チャンバから送られてきた試料のイオンを検出する検出部(図示略)と、検出装置17内を減圧状態に維持する真空ポンプ33とを備えている。なお、質量分析法は、分解能が高く、かつ、誤報率が低い。
【0036】
イオン化チャンバは、キャピラリ管31を介して送られてきた気流に含まれる試料をイオン化して、イオンを生成させるようになっている。
検出部は、イオン化チャンバにより生成されたイオンを質量の違いによって分離して検出し、試料の構造および組成等を分析するようになっている。
【0037】
なお、検出部によって得られた検出情報は、切符情報とともに表示部に表示されるようになっている。また、これらの検出情報および切符情報は、図3に示すように、車掌室または運転室4の警報盤35に送信されて表示されたり、他の乗務員37が所持する携帯端末39に送信されたりするようになっている。
【0038】
真空ポンプ33は、検出装置17内、特にイオン化チャンバ内を約10−3Paの高真空状態に維持するようになっている。これにより、イオン化チャンバにおいて生成されたイオンが、安定かつ分解せずに検出部に送られるようになっている。なお、検出装置17内の圧力は、キャピラリ管31と差動排気ポンプ29との間に設けられた圧力計(図示略)によって測定することができるようになっている。また、検出装置17の外周周りにはヒータ(図示略)が設けられ、検出装置17の壁面およびイオン化チャンバが加熱されるようになっている。
【0039】
蓄電器21には、充電コネクタ41が備えられている。この蓄電器21は、例えば、列車2内もしくは駅等に備えられた充電設備の充電ソケット43に充電コネクタ41が接続されることで充電可能とされている。
【0040】
このように構成された本実施形態に係る危険物質検出装置1の作用について説明する。
車掌3により、蓄電器21が充電された危険物質検出装置1が列車2内の通路を搬送され、車内改札が行われる。この際、乗客から手渡された切符5に付着する物質が試料として採取され、爆発物等の危険物質が含まれていないかを検査される。
【0041】
具体的には、乗客から受け取った切符5がサンプリング容器15の切符挿入口23に挿入されると、乗車駅や下車駅等の切符情報が記録される。また、気化ヒータの作動により、切符5の表面に付着している物質が大気圧条件下で加熱気化されて、試料としてサンプリング容器15に採取される。
【0042】
この状況で、検出装置17においては、真空ポンプ33の作動により、イオン化チャンバ内が約10−3Paの高真空状態に維持される。なお、検出装置17内の圧力は、キャピラリ管31と差動排気ポンプ29との間に設けられた圧力計によって測定することができる。
【0043】
一方、差動排気配管27においては、差動排気ポンプ29の作動により差動排気配管27内が排気されて減圧状態とされ、サンプリング容器15において採取された試料が気流とともに差動排気配管27内に吸引される。差動排気配管27内に吸引された試料を含む気流は、配管用ヒータが100℃以上200℃以下に熱せられて差動排気配管27全体の内部が加熱されることにより、試料が内壁に付着滞留することなく差動排気配管27内を通過する。この気流の一部は、差動排気配管27の下流側からキャピラリ管31を通って検出装置17に導入される。
【0044】
ここで、調整弁の弁機構を調整して差動排気ポンプ29の排気流量を制御し、例えば、差動排気配管27内に約100sccmの流量で試料を含む気流を吸引する。そして、差動排気配管27の下流側の配管内の圧力を50Pa以上70kPa以下の減圧状態に維持する。また、差動排気ポンプ29の作動により、気流を約98sccmの流量で排気口から外部に排出するとともに、その気流の一部をキャピラリ管31を介して約2sccmの流量で検出装置17に導入させる。
【0045】
このようにすることで、差動排気配管27の下流側の配管内部と約10−3Paに維持される検出装置17のイオン化チャンバ内部との圧力差が、大気圧条件下のサンプリング容器15内部と検出装置17のイオン化チャンバ内部との圧力差に比べて小さくなるので、差動排気配管27の下流側の配管内とイオン化チャンバ内との圧力差を圧力損失の少ない流路を用いて保つことができる。
【0046】
すなわち、内径が0.3mm,管長が10cmのキャピラリ管31を用いて、差動排気配管27と検出装置17との圧力差を保つことができる。これにより、キャピラリ管31を通過するのに掛かる時間を大幅に削減することができ、サンプリング容器15において採取された試料を検出装置17へ短時間で導入することが可能となる。
【0047】
検出装置17においては、質量分析法によって試料分析が行われる。具体的には、イオン化チャンバに導入された試料がイオン化されて、イオンが検出部へと送られる。そして、検出部により、イオンが質量の違いによって分離されて検出され、試料の構造および組成等が分析される。
【0048】
検出装置17により得られた検出情報は、切符情報とともに表示部に表示される。これにより、車掌3は、検出情報をその場で把握することができ、さらに、その切符の所持者の乗車駅や下車駅等を把握することができる。また、表示部は車掌3以外の周りの者からは見えにくいように設けられているので、切符5から爆発物等の危険物質が検出された場合に、車掌3は周囲に気付かれることなく爆発物等の危険物質の所持者を特定し、迅速な対応を取ることができる。
【0049】
また、検出情報および切符情報は、車掌室または運転室4の警報盤35に送信されて表示されたり、他の乗務員37が所持する携帯端末39に送信されたりする。したがって、切符5から爆発物等の危険物質が検出されたことを運転室4や他の乗務員37に知らせて、迅速な対応を取ることができる。また、検出装置17へ試料を短時間で導入させることが可能な試料分析システム19を採用したことにより、サンプリング容器15において採取された試料が差動排気配管27内に吸引されてから、約1秒後に検出装置17においてイオンの検出信号を得ることができる。
【0050】
以上説明したように、本実施形態に係る危険物質検出装置1によれば、危険物質検出装置本体7がワゴン9に据え付けられているので、この危険物質検出装置1を列車2内の通路に沿って移動させながら危険物質の有無を検査することができる。したがって、駅や空港等において税関や入場ゲート等に常設されている検査エリアで爆発物等の危険物質の発見が見逃された場合であっても、迅速かつ容易に爆発物等の危険物質やその所持者を発見することができる。
【0051】
また、車内改札と危険物質の検査とを同時に行うことで、人物の特定や乗車駅および下車駅等の情報をまとめて入手することができる。さらに、爆発物等の危険物質が検出されたことをその所持者に気付かれることなく車掌3が把握したり、他の乗務員37や運転室4に知らせたりすることができる。したがって、騒ぎを大きくすることなく迅速に警戒処置を取ることが可能となる。
【0052】
なお、本実施形態においては、検出装置17による検出情報が表示部に表示されたり、運転室4の警報盤35等に送信されたりすることを例示して説明したが、例えば、携帯電話機等のバイブレーションのように、振動によって車掌3や他の乗務員37に知らせることとしてもよい。また、検出情報が駅や管理室等に送信されることとしてもよい。また、本実施形態においては、危険物質検出装置1が危険物質の検査と車内改札による切符情報のチェックとを兼ねることとしたが、危険物質の検査のみを行うこととしてもよい。
【0053】
[第2の参考実施形態]
次に、本発明の参考例としての第2の参考実施形態に係る危険物質検出システム(検出システム)100について、図4および図5を参照して説明する。
本実施形態に係る危険物質検出システム100は、危険物質検出装置101が列車2内の雰囲気を試料とする点と、危険物質検出装置101の位置をモニタする位置センサ(位置情報検出部)151が列車2の天井に備えられる点で、第1の参考実施形態と異なる。
以下、第1の参考実施形態に係る危険物質検出装置1と構成を共通する箇所には、同一符号を付して説明を省略する。
【0054】
危険物質検出装置101は、列車2内の雰囲気を吸引して試料とするサンプリング口(試料吸引部)115を備えている。このサンプリング口115は、危険物質検出装置本体107の上端面に設けられ、差動排気配管27に流通可能に接続されている。なお、本実施形態に係る危険物質検出装置101は、車内改札による切符5の切符情報をチェックする機能は備えていないものとする。
【0055】
位置センサ151は、列車2の天井に所定の間隔をあけて複数配置され、列車2の通路に沿って搬送される危険物質検出装置101をそれぞれ上方からモニタするようになっている。これらの各位置センサ151は、取得した危険物質検出装置101の位置情報を、検出装置17による検出情報と関連付けて車掌室または運転室4の警報盤35や駅の管理室等に送信するようになっている。
【0056】
このように構成された本実施形態に係る危険物質検出システム100の作用について説明する。
検査員103により、危険物質検出装置101が列車2内の通路を搬送されると、真空ポンプ33および差動排気ポンプ29の作動により、列車2内の雰囲気がサンプリング口115から差動排気配管27に試料として吸引される。そして、吸引された試料が、検出装置17へ導入されて試料分析が行われる。
【0057】
例えば、荷物に紛れて列車2内に爆発物等の危険物質が持ち込まれていた場合には、爆発物等の危険物質からの蒸気が列車2内の雰囲気に混入している可能性がある。したがって、列車2内の荷物やその所持者の周辺の雰囲気を分析することによって、爆発物等の危険物質を検出することが可能となる。
【0058】
検出装置17によって取得された検出情報は、表示部に表示されるとともに、車掌室または運転室4の警報盤35に送信されたり、他の乗務員37が所持する携帯端末39に送信されたりする。
また、位置センサ151においては、危険物質検出装置101の位置が常にモニタされている。位置センサ151によって取得された危険物質検出装置101の位置情報は、検出装置17の検出情報と関連付けられて、車掌室または運転室4の警報盤35や他の乗務員37の携帯端末39に送信される。
【0059】
以上説明したように、本実施形態に係る危険物質検出システム100によれば、車内改札時に限られず、検査員103が列車2の通路に沿って危険物質検出装置101を搬送しながら巡回することにより、列車2内の雰囲気を試料として吸引し分析することができる。したがって、列車2内に爆発物等の危険物質が持ち込まれていないかの検査を定期的に行うことができる。
【0060】
また、位置センサ151により危険物質検出装置101の位置が常にモニタされるので、爆発物等の危険物質が検出された位置を特定し易くすることができる。さらに、危険物質検出装置101の位置情報が検出情報と関連付けられて運転室4の警報盤35や駅の管理室に送信されるので、列車2内のどの位置で爆発物等の危険物質が検出されたかを車外においても把握することができる。
【0061】
なお、本実施形態においては、位置センサ151が列車2の天井に設けられていることとしたが、例えば、列車2の座席に配置されることとしてもよい。このようにすることで、危険物質検出装置101が列車2内を搬送される際に、最も近い座席に配置された位置センサによって座席番号等の座席情報を得ることができる。したがって、例えば、指定席のように予め座席に座る乗客が決まっているような場合には、その乗客の乗車駅および下車駅が分かる。これにより、人物を特定し易くすることができる。
また、危険物質検出装置101の位置情報や座席情報を駅構内に設置された監視カメラによるカメラ情報と組み合わせ、爆発物等の危険物質の所持者を総合的に判断することとしてもよい。
【0062】
また、本実施形態に係る危険物質検出システム100は、以下のように変形することができる。
例えば、危険物質検出装置101´は、図6に示すように、危険物質検出装置本体107´が商品16の車内販売に使用するワゴン109´に据え付けられることとし、サンプリング口115の他に、乗客から受け取った紙幣、硬貨またはクレジットカード等に付着した物質を試料とするサンプリング容器15を備えることとしてもよい。なお、サンプリング口115は、雰囲気を吸引する際に商品16が妨げとならない位置、例えば、危険物質検出装置本体107´の進行方向に対向した前面部分に設けることとすればよい。また、サンプリング容器15は、クレジットカードリーダの機能を備えているとより好ましい。
【0063】
このようにすることで、車内販売員が危険物質の検査の検査員103を兼ねることができ、乗客から受け取った紙幣、硬貨またはクレジットカード等から爆発物等の危険物質を検出することが可能となる。また、サンプリング容器15がクレジットカードリーダの機能を備えていれば、検出装置17による検出情報とクレジットカードからの人物情報とを照合させて、爆発物等の危険物質の所持者の特定をより行い易くすることができる。
【0064】
[第3の参考実施形態]
次に、本発明の参考例としての第3の参考実施形態に係る危険物質検出システム200について、図7〜図9を参照して説明する。
本実施形態に係る危険物質検出システム200は、図7〜図9に示すように、危険物質検出装置201が列車(輸送機関)2の天井6等に据え付けられ、列車2内の雰囲気を吸引して試料とする点で第1の実施形態と異なる。なお、危険物質検出装置201は、所定の間隔をあけて複数設けられることが望ましい。
以下、第1の参考実施形態に係る危険物質検出装置1または第2の参考実施形態に係る危険物質検出システム100と構成を共通する箇所には、同一符号を付して説明を省略する。
【0065】
危険物質検出装置201は、列車2内の雰囲気を吸引して試料とするサンプリング口(図示略)を備えており、天井の、例えば、荷物置き用の棚8付近に設置されている。なお、危険物質検出装置201は、例えば、エアコン内部に設けられることとしてもよい。このようにすることで、エアコンの吸気によって列車2内の雰囲気が吸引されるので、試料の採取効率を向上させることができる。
また、列車2内には監視カメラが設置されていることとしてもよい。
【0066】
このように構成された本実施形態に係る危険物質検出システム200の作用について説明する。
危険物質検出装置201が起動されると、真空ポンプ33および差動排気ポンプ29の作動により、列車2内の雰囲気がサンプリング口から試料として吸引されて、差動排気配管27を介して検出装置17に導入される。そして、検出装置17により試料中における爆発物等の危険物質の有無が分析される。この場合に、危険物質検出装置201は、荷物置き用の棚8付近に設置されているので、荷物10内に爆発物等の危険物質が入っていたり、荷物10に爆発物等の危険物質が付着していたりした場合に、爆発物等の危険物質からの蒸気を吸引し易くすることができる。
【0067】
各危険物質検出装置201の検出装置17により得られた検出情報は、それぞれ車掌室または運転室4の警報盤35に集約されたり、乗務員37が所持する携帯端末39に送信されたりする。これにより、列車2の各車両の状況を運転室4の車掌や乗務員37が把握することができ、列車2全体を監視することができる。
【0068】
さらに、検出装置17により得られた検出情報は駅や管理室にも送信される。この場合に、図9に示すように、駅に設置されている監視カメラ12や列車2内に設けられている監視カメラにより、不審者14を監視することとしてもよい。このようにすることで、検出装置17の検出情報と監視カメラ12からの不審者情報とを組み合わせて総合判断することにより、爆発物等の危険物質を持ち込んだと考えられる人物を絞り込み易くすることができる。したがって、爆発物等の危険物質の検出効率を向上させるとともに、その所持者をより特定し易くすることができる。
【0069】
以上説明したように、本実施形態に係る危険物質検出システム200によれば、危険物質検出装置201が列車2内に所定間隔をあけて複数設置されるので、常時、列車2内に爆発物等の危険物質が持ち込まれていないか検査することが可能となる。
なお、本実施形態においては、危険物質検出装置201が荷物置き用の棚8付近に設置されていることを例示して説明したが、例えば、座席付近に設けることとしてもよい。このようにすることで、座席に座った乗客の髪の毛や衣服等に付着した爆発物等の危険物質を検出し易くすることができる。
【0070】
次に、本発明の一実施形態に係る危険物質検出システム300について、図10および図11を参照して説明する。
本実施形態に係る危険物質検出システム300は、図10に示すように、ワゴン9に据え付けられた可搬性を有する試料採取装置302と、列車2内に別途設けられる検出装置17(図示略)とを備えている。
【0071】
この危険物質検出システム300は、例えば、検査員103が試料採取装置302を搬送しながら列車2内を巡回して雰囲気を試料として採取し、試料採取装置302によって採取された試料を列車2内に別途設けられた検出装置17によって分析することで、列車2内に爆発物等の危険物質が持ち込まれていないかを検査することができるようになっている。
以下、第1の参考実施形態に係る危険物質検出装置1または第2の参考実施形態に係る危険物質検出システム100と構成を共通する箇所には、同一符号を付して説明を省略する。
【0072】
試料採取装置302は、略直方体形状に形成された試料採取装置本体308と、試料採取装置本体308が据え付けられたワゴン9とを備えている。
試料採取装置本体308は、雰囲気を吸引して試料とするサンプリング口115と、このサンプリング口115により吸引された試料を捕集する試料捕集装置(試料捕集部)361と、この試料捕集装置361を駆動するための蓄電器21とを備えている。
【0073】
試料捕集装置361は、雰囲気をサンプリング口115から吸引するための吸引ポンプ371と、サンプリング口115と吸引ポンプ371とを流通可能に接続する配管363上に設けられたカートリッジ365と、配管362にカートリッジ365を接続するための吸気側切替バルブ367および排気側切替バルブ369とを備えている。
【0074】
吸引ポンプ371は、図示しない吸気口と排気口とを備え、吸気口が配管362の下流側の端部と流通可能に接続されている。また、吸引ポンプ371は、サンプリング口115から吸引された配管362内の気体を吸気口から取り入れて排気口から外部に排出するようになっている。
【0075】
カートリッジ365は、試料に混入している爆発物を吸着する吸着剤、または、試料に混入する爆発物を溶解する溶媒が充填される容器である。また、カートリッジ365は、吸気側切替バルブ367および排気側切替バルブ369の開閉を切り替えることで配管362に容易に脱着されるようになっている。例えば、図11に示すように、カートリッジ365は、3つに枝分かれした配管362にそれぞれ脱着可能に接続されている。なお、各カートリッジ365は、複数のカートリッジ365を接続するホルダ(図示略)にセットされている。
【0076】
ここで、吸着剤としては、例えば、米国ローム・アンド・ハース社製のXAD4(スチレン系)、XAD7HP(アクリル系)、または、FPX66(スチレン系)等からなるフィルタが用いられる。また、溶媒としては、例えば、メタノール、アセトニトリル、ヘキサンまたはこれらの混合液等が用いられる。
【0077】
このように構成された本実施形態に係る危険物質検出システム300の作用について説明する。
例えば、吸着剤を採用する場合、吸着剤が収容されたカートリッジ365を予めホルダにセットして、各配管362にカートリッジ365をそれぞれ接続する。
検査員103によって試料採取装置302が列車2内を搬送され、吸引ポンプ371の作動によって配管362内の気体が排気口から排気されることにより、列車2内の雰囲気がサンプリング口115から配管362へ試料として吸引される。
【0078】
荷物等に紛れて爆発物が列車2内に持ち込まれていた場合には、爆発物からの蒸気が列車2内の雰囲気に混入している可能性がある。したがって、配管362に吸引された気流が各カートリッジ365を通過する際に、列車2内の雰囲気に混入していた爆発物をカートリッジ365に収容されている吸着剤に吸着させて濃縮させることができる。
【0079】
このようにして、列車2の車両ごとにカートリッジ365が交換されながら、試料に混入している爆発物が試料捕集部361によって捕集される。この場合に、カートリッジ365は、吸気側切替バルブ367および排気側切替バルブ369の開閉によって配管362との脱着が容易なので、カートリッジ365の交換時間を短縮することができる。また、列車2の車両ごとにカートリッジを交換することで、車両ごとに爆発物の有無を検査し、爆発物の所持者を特定し易くすることができる。
【0080】
試料採取装置302によって各車両の試料が捕集されると、検査員103により、列車2内に別途用意されている検出装置17によって各カートリッジ365に捕集された爆発物が検出される。具体的には、吸着剤に吸着された爆発物は、吸着剤から加熱・脱着される。そして、気化した爆発物が検出装置17に導入されて検出される。
なお、試料採取装置302による試料の採取および検出装置17による検出は、駅と駅との間ごとに行われることが望ましい。このようにすることで、爆発物の所持者が下車する前にその人物を特定することが可能となる。
【0081】
以上説明したように、本実施形態に係る危険物質検出システム300によれば、試料に混入している爆発物を吸着剤に吸着させることにより、爆発物を濃縮させて捕集することができる。したがって、蒸気圧が低いために検出しにくいような爆発物であっても、検出装置17により検出し易くすることができる。これにより、列車2内に爆発物が持ち込まれていないかを列車2の走行中に高い検出効率で検査することができる。
【0082】
なお、本実施形態においては、吸着剤を用いて爆発物を捕集することを例示して説明したが、これに代えて、溶媒を用いて爆発物を捕集した場合には、爆発物が溶解している溶媒ごと気化するか、溶媒と爆発物とを分留した後、爆発物を気化することとすればよい。
【0083】
以上、本発明の一実施形態および参考実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではない。
例えば、上記各実施形態においては、検出装置17として質量分析装置を採用して質量分析法により危険物質を検出することを例示して説明したが、これに代えて、オンモビリティースペクトル分析法(IMS)、ルミノール科学傾向反応分析、ラマン分光分析またはガスクロマトグラフ質量分析法(GC‐MS)等により危険物質を検出することとしてもよい。なお、本発明の上記一実施形態において、ガスクロマトグラフ質量分析法を採用した場合には、溶媒に試料を溶かし込んだまま試料分析を行うことができる。
【符号の説明】
【0084】
1 危険物質検出装置(検出装置)
9 ワゴン(台車)
15 サンプリング容器(試料分離部,試料採取部)
17 検出装置(試料分析部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を採取する試料採取部と、
該試料採取部により採取された試料に混入する爆発物を吸着する吸着剤または前記試料に混入する爆発物を溶解する溶媒を有する試料捕集部と、
前記試料採取部および前記試料捕集部を据え付けた台車と、
前記試料捕集部により前記吸着剤に吸着した爆発物または前記溶媒に溶解した爆発物を検出する検出部とを備える検出システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2011−227104(P2011−227104A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−179852(P2011−179852)
【出願日】平成23年8月19日(2011.8.19)
【分割の表示】特願2007−333911(P2007−333911)の分割
【原出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度 文部科学省科学技術総合研究委託業務、「重要課題解決型研究等の推進 テロ対策のための爆発物検出・処理統合システムの開発」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】