説明

検出器および赤外顕微鏡

【課題】容易に着脱でき、交換の際に光学調整の負担を軽減できる検出器およびその検出器を備えた赤外顕微鏡を提供すること。
【解決手段】検出器18は、赤外顕微鏡の筐体に対してスライド自在に設けられるケース50と、スライド方向に沿って筐体からの赤外光を内部に導く採光口56と、ケース50に内蔵され赤外光を検出する検出中心部とを備える。ケース50は、筐体側の雌コネクタと接続して検出データを出力する雄コネクタ58と、スライド方向に沿ってケースを移動させる引きねじ52、突っ張りねじ54と、ケースを筐体に固定する押えねじ64とを有する。コネクタ同士の接続が解除される解除位置と、コネクタ同士が接続される接続位置とを結ぶ線は、スライド方向と平行である。ケース50は、引きねじ52によって解除位置から接続位置までスライドされた状態で、押えねじ64によって筐体に固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外光を検出する検出器、この検出器を備えた赤外顕微鏡に関し、特に検出器の着脱機構の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、試料上の微小部位の光学情報を取得できる赤外顕微鏡が知られている。赤外顕微鏡は、例えば、固体表面に付着した有機物などの分子構造などを調べる際、ステージに保持された試料の微小部位に赤外光を照射し、その透過または反射した赤外光を検出器で検出して、吸収スペクトルなどを測定することができる(特許文献1参照)。
通常、赤外光の検出器には、検出したい波長領域に応じてMCT検出器、InSb検出器、TGS検出器などが採用される。また、検出器には、単素子型、複数の検出素子を一列に配列させたリニアアレイ型などがある。単素子型は、微小部位の1点を高感度で測定する場合に適する。リニアアレイ型は、微小部位の所定範囲を高速で測定する場合に適する。検出器の種類とその波長領域について一例を下記に示す。
リニアアレイMCT検出器 : 7000 〜 750cm-1
リニアアレイInSb検出器: 10000 〜 1900cm-1
ワイドバンドMCT検出器 : 7800 〜 450cm-1
InSb検出器 : 11500 〜 1850cm-1
TGS検出器 : 7800 〜 400cm-1
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−298576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、試料の種類を変えたり、測定条件を変更したりする場合に、複数の検出器の中から適切な検出器を選択したいという使用者の要望が多く、特許文献1に記載の赤外顕微鏡には、2種類の検出器を搭載したものもあるが、内蔵できる検出器の数には限界がある。
一方、一つの検出素子が矩形である場合、検出素子の一辺の長さは1mm以下と小さいため(例えば200μm)、検出器を本体側に取り付ける際、検出器ごとに本体側に対する光軸を調整する必要があった。素子の中心と光軸とのずれが数十μm以下となるように調整しなければならない。従って、使用者が検出器を交換する場合、検出器の光学調整が大きな負担となる。
本発明の目的は、測定装置に対して容易に着脱させることができ、かつ、交換の際に光学調整の負担を軽減できる検出器およびその検出器を備えた赤外顕微鏡を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らが検出器の着脱機構について鋭意検討を進めた結果、赤外光の光軸に沿って検出器をスライド移動させれば、検出器の光軸がずれにくいことに着目し、検出器のスライド方向に沿って信号線の接続機構を設けることにより、検出器を測定装置に対して容易に着脱させることができ、かつ、光学調整の負担を軽減できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、前記目的を達成するために本発明にかかる検出器は、測定装置に対して着脱自在な検出器であって、前記測定装置に対してスライド自在に設けられるケースと、前記ケースのスライド方向に沿って前記測定装置からの赤外光を前記ケースの内部に導く導光部と、前記ケースに内蔵され、導光された赤外光を検出する検出中心部と、前記ケースに設けられ、前記測定装置側の第1接続部と接続して前記検出中心部からのデータを出力する第2接続部と、前記ケースを前記スライド方向にスライドさせる送り部と、前記ケースを前記測定装置に固定する固定部と、を備える。前記第1接続部と前記第2接続部との接続が解除される解除位置と、前記第1接続部と前記第2接続部とが接続される接続位置とを結ぶ線は、前記スライド方向と平行になるように設けられる。前記ケースは、前記送り部によって前記解除位置から前記接続位置まで送られた状態で、前記固定部によって前記測定装置に固定されることを特徴とする。
【0007】
以上の構成において、検出器を取り付ける際、まず、検出器を解除位置に載置し、送り部を用いてケースをスライド方向に移動させる。この際、第2接続部は、ケースと一体となってスライド方向に移動し、接続位置において測定装置に固定された第1接続部と接続する。さらに、固定部によってケースを測定装置に固定する。赤外光はスライド方向に沿って導光されるため、ケースをスライド方向に解除位置から接続位置まで移動させても、検出器の光軸がずれない。また、測定時の検出器の正規位置に合わせて、ケースの接続位置を設定しておけば、検出器をスライドさせて正規位置にセットすると同時に接続部同士の接続も完了する。一方、取り外しの際は、まず、固定部を解除し、次に、送り部によってケースを解除位置まで移動させればよい。解除位置では第2接続部の接続が解除されるので、検出器を測定装置から取り外すことができる。
このように本発明の検出器によれば、検出器の着脱作業と、接続部同士の接続、接続解除とを同時に実施でき、検出器の交換作業が容易となる。さらに、光軸の位置出し精度が交換前後で維持されるので、光学調整の負担も軽減される。
【0008】
また、本発明の検出器では、前記送り部は第1ねじと第2ねじとを備える。第1ねじは、前記スライド方向に沿って前記ケースを貫通して設けられ、一端に取り付けられたツマミを回すと、他端の雄ねじが前記測定装置の雌ねじと螺合するように設けられている。第2ねじは、前記スライド方向に沿って前記ケースを貫通し、かつ、前記ケースに螺合して設けられ、一端に取り付けられたツマミを回すと、他端の雄ねじが前記測定装置に当接するように設けられていることが好ましい。
【0009】
上記の検出器によれば、取り付けの際、検出器を解除位置に載置した状態で第1ねじのツマミを回し、他端の雄ねじを測定装置側の雌ねじに螺合させる。螺合が進行するにつれて、ケースは徐々に接続位置まで移動し、第2接続部を第1接続部に接続させることができる。一方、取り外しの際は、第1ねじを雌ねじから解除させて、検出器がまだ接続位置にある状態で第2ねじのツマミを回し、他端の雄ねじを測定装置に当接させる。さらにツマミを回せば、ケースが第2ねじによって、解除位置の方向に押され、第2接続部の接続を解除できる。従って、使用者が第1ねじおよび第2ねじを操作するだけで、検出器の着脱が可能となり、簡単な構成で検出器の交換を容易に実施できる。
【0010】
さらに、本発明の検出器では、前記ケースは、前記スライド方向に沿って案内される被案内部を有する。この被案内部は、前記スライド方向に沿って前記測定装置に複数配列された位置決め部と係合することが好ましい。
上記の検出器によれば、測定装置側の位置決め部と係合する被案内部を設けたので、スライド方向に直交する方向へのケースの移動が確実に規制され、交換後に検出器の位置を確実に再現させることができる。
【0011】
本発明の赤外顕微鏡は、請求項1記載の検出器を備え、試料に赤外光の干渉光を照射し、試料の測定部位を反射もしくは透過する赤外光を前記検出器で検出することで前記測定部位の吸収スペクトルを測定する。そして、前記測定部位からの赤外光を集光する顕微手段と、前記顕微手段から前記検出器の導光部まで赤外光を導く光路と、前記検出器からのデータを処理する処理手段と、前記検出器、前記顕微手段および前記処理手段を支持する筐体とを備えることを特徴とする。
上記の赤外顕微鏡によれば、前述の検出器を備えているので、検出器を容易に交換することができ、交換の際に面倒な光学調整の負担が軽減され、使用者にとっての使い勝手が向上し、異なる検出器を用いた広範囲の測定条件での測定を効率よく行える。
【発明の効果】
【0012】
本発明の検出器、およびこの検出器を備えた赤外顕微鏡によれば、前述したように、検出器を容易に着脱できる。さらに、光軸などの位置出し精度が交換前後で維持されるため、交換の際に光学調整の負担が軽減され、使用者の利便性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態にかかる赤外顕微鏡の概略構成の説明図である。
【図2】前記赤外顕微鏡に設けられる検出器の外観を示す斜視図であり、(A)は引きねじ、突っ張りねじ側から見た図を示し、(B)は赤外光の採光口側から見た図を示す。
【図3】前記赤外顕微鏡の上部の外観を示す斜視図であり、(A)は検出器を取り付ける前の状態を示し、(B)は検出器を取り付けた状態を示す。
【図4】前記赤外顕微鏡における位置出しピンとキー溝との位置関係を説明する平面図である。
【図5】前記検出器の接続および接続解除の手順を説明するための平面断面図であり、(A)はコネクタの接続前の状態を示し、(B)は接続された状態を示し、(C)は接続解除の途中の状態を示し、(D)は解除された状態を示す。
【図6】本発明の変形例にかかる検出器のカム機構を説明するための平面断面図であり、(A)はコネクタの接続前の状態を示し、(B)は接続された状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づき本発明の好適な実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態にかかる測定装置としての赤外顕微鏡の概略構成図である。
同図に示す赤外顕微鏡10は、検出器18の着脱機構を備え、使用者自身で検出器18を交換できるものである。
【0015】
赤外顕微鏡10は、光照射手段12と、試料14の被測定面上に光を集光し、該被測定面からの反射光を集光するカセグレン型対物鏡16(本発明の顕微手段に相当し、以下、対物鏡と示す。)と、反射光を検出する検出器18と、検出器18へ向かう光を被測定面からの光に制限するアパーチャー20と、試料14からアパーチャー20へと至る光路上に設置された検出側スキャンミラー22と、光照射手段12から試料14へ至る光路上に設置された照射側スキャンミラー24とを備えている。
【0016】
光照射手段12は、赤外光源26と、干渉計28を有する。赤外光源26からの光は、干渉計28により干渉光となり、照射側スキャンミラー24へと向かう。そして、照射側スキャンミラー24により反射され、対物鏡16へと送られ、対物鏡16から試料14に光が照射される。このとき、照射側スキャンミラー24の反射面の向きをコントローラー30によって制御し、試料14上の照射領域を調整する。また、試料14からの反射光は対物鏡16により集光され、検出側スキャンミラー22へと送られる。検出側スキャンミラー22では、被測定面上の所定範囲からの反射光のみがアパーチャー20の開口に向かうように調整されている。すなわちアパーチャー20では被測定面上の所定範囲以外からの反射光を遮断する。アパーチャー20を透過した光は集光鏡32によって集光され、検出器18で検出される。検出されたデータは処理手段としてのデータ処理回路34にて処理され、コンピュータ36により記憶・処理される。そして、照射側スキャンミラー24及び検出側スキャンミラー22の反射面の向きを変更し、被測定面上の所定範囲内の個々の測定部位からの反射光を順次検出し、これを繰り返すことにより、被測定面の二次元マッピング測定を行う。
なお、図1のように反射型の赤外顕微鏡10を用いて本発明を説明したが、これに限られず、本発明の赤外顕微鏡としては、干渉光を試料14に対して対物鏡16とは反対側から照射して試料14の透過光を検出器18で検出する、いわゆる透過型でもよい。
【0017】
以上の構成のうち、光照射手段12、カセグレン型対物鏡16、アパーチャー20および検出器18、つまり、光源から検出器までの光路上に配置される各構成は、筐体40の内部に配置され、赤外顕微鏡10の本体部を構成する。なお、光照射手段12については、筐体40の外部に別置きで設置し、光照射手段12で発生する干渉光を筐体40の内部に導光する構成としてもよい。
【0018】
図2は検出器18の外観を示す斜視図であり、図2(A)は、引きねじ52および突っ張りねじ54側から見た図を示す。図2(B)は、赤外光の採光口56側から見た図を示す。
同図において、検出器18は、略直方体の形状のケース50を有する。ケース50は樹脂製でも金属製でもよく、少なくとも内部に図示しない検出中心部を収納できる大きさと剛性を備えていればよい。すなわちケース50には、検出器18の種類ごとに異なった検出中心部が収納されている。説明上、例えばリニアアレイMCT検出器を検出器18Aとし、InSb検出器を検出器18Bとする。各検出器18A,18Bのケース50は、検出中心部の種類に関わらず共通した大きさ、形状を有する。
【0019】
ケース50は、図2(B)に示す前面(X軸の正方向の端面)に、赤外光を検出中心部に導光する導光部としての採光口56と、検出中心部に接続された雄コネクタ58とを有する。第2接続部としての雄コネクタ58は、後述する雌コネクタ78(第1接続部)と接続可能であり、検出中心部からのデータを出力する。雄コネクタ58の接続方向は、採光口56の光軸方向(X軸方向)と平行になるように設けられる。採光口56は、円筒状の筒部57を有し、ケース50前面から突出している。
【0020】
ケース50は、図2(A)に示す背面(X軸の負方向の端面)に、引きねじ52と突っ張りねじ54と第1の取っ手62とを有する。引きねじ52は本発明の第1ねじに相当し、X軸方向にケース50を貫通して設けられ、背面側のねじ頭にツマミを有する。突っ張りねじ54は本発明の第2ねじに相当し、X軸方向にケース50を貫通するように設けられ、かつ、ケース50に螺合されており、背面側のねじ頭にツマミを有する。X軸の正方向に限界まで挿入した際、各先端53,55がケース50前面から突出するように、各ねじ52,54の長さが設定されている。引きねじ52および突っ張りねじ54は本発明の送り部を構成し、ケース50をスライド方向に移動させるために設けられている。
【0021】
また、ケース50は、上面(Z軸の正方向の端面)に、押えねじ64と第2の取っ手66とを有する。固定部としての押えねじ64は、Z軸方向にケース50を貫通して設けられ、上面側のねじ頭にツマミを有する。第2の取っ手66は、ケース50背面に設けられた第1の取っ手62とともに、検出器18を着脱する際に使用される。
【0022】
図3は赤外顕微鏡10の上部の外観を示す斜視図であり、本図にて検出器18の着脱機構を説明する。図3(A)は、検出器18を取り付ける前の状態を示し、図3(B)は、検出器18を取り付けた状態を示す。
赤外顕微鏡10の上部は、ヘッドカバー42および後部カバー44で覆われている。ヘッドカバー42の下部には、筐体40に固定された対物鏡16が配置され、対物鏡16の下方には、試料台が配置される。
【0023】
後部カバー44は、上方(Z軸の正方向)および側方(X軸の負方向)が部分的に切り欠かれており、内部の筐体40の一部が露出している。この露出部分に略直方体の空間である収納部70が形成されている。
収納部70は、X軸に直交する側面部71と、Y軸に直交する一対の前面部72、背面部73と、Z軸に直交する底面部74によって区画形成されている。
【0024】
検出器18は、その前面が側面部71に対向するようにして、収納される。側面部71には、検出器18の筒部57が挿入される円孔75と、引きねじ52に螺合される雌ねじ77とが形成されている。円孔75の内部には、円孔75よりも小さく赤外光を検出器18に導光する導孔76が筐体40に形成されている。対物鏡16で集光された赤外光は、ヘッドカバー42および後部カバー44の内部の光路を通って導孔76に達するようになっている。
前面部71の上部には、雌コネクタ78が設けられ、その接続方向はX軸に平行となっている。また、底面部74は、押えねじ64に螺合される雌ねじ79と、X軸に沿って配列された2本の位置出しピン80とを有する。
【0025】
(位置再現性)
図4は、収納部70の位置出しピン80と、ケース50が有するキー溝68との位置関係を説明する平面図である。同図にて収納部70を実線で示し、検出器18を一点鎖線または2点鎖線で示す。キー溝68は本発明の被案内部に相当し、位置出しピン80は本発明の位置決め部に相当する。
ケース50の底面には、X軸方向に沿ったキー溝68が形成されている。取り付けの際、上方に突出する位置出しピン80とキー溝68とが係合するように、検出器18を底面部74(図中、一点鎖線で示す位置)に載置する。そして、検出器18は、位置決めピン80に案内されてX軸方向にスライドし、正規の位置(図中、二点鎖線で示す位置)に収納される。このように、ケース50は、収納部70内の筐体40に対してスライド自在に設けられ、測定時の正規位置と、検出器を筐体40から離脱させる位置との間を移動できるようになっている。
本実施形態では、収納部70に位置出しピン80を設け、検出器18にキー溝68を設けたことで、検出器18のY軸方向の移動が規制され、交換後にY軸方向の検出器位置が確実に再現される(位置再現性)。これによって、光軸の位置出しなどの光学調整の負担が軽減される。
【0026】
(検出器およびコネクタの同時着脱)
図5は、検出器18の着脱手順を説明するための平面断面図である。図5(A)と図5(B)に基づいて検出器18の取り付け手順を説明し、図5(C)と図5(D)に基づいて検出器18の取り外し手順を説明する。なお、図5(A),(D)に示す検出器18の位置は、雄コネクタ58と雌コネクタ78との接続が解除される解除位置である。図5(B),(C)に示す検出器18の位置は、コネクタ58,78が接続された接続位置である。検出器18の解除位置と接続位置とを結ぶ線は、検出器18のスライド方向と平行になるように設けられている。
【0027】
取り付けの際、まず、検出器18を収納部70の底面部74に載置して図5(A)の状態にする。ここで位置出しピン80とキー溝68とは係合された状態となっている。次に、引きねじ52のツマミを回して、先端53を側面部71の雌ねじ77に螺合させる。引きねじ52は、ケース50に対して螺合されておらず、X軸方向に自在に移動できる。螺合が進行するにつれて、検出器18はX軸方向にスライドし、図5(B)のように雄コネクタ58と雌コネクタ78とが接続する。検出器18が正規位置までスライドすると、同時にコネクタの接続も完了する。雌ねじ77は、送り部である引きねじ52を保持する保持部として機能する。引きねじ52が回転しない限り、ケース50のX軸方向への移動は規制される。最後に押えねじ64(図3参照)のツマミを回して、底面部74の雌ねじ79に螺合させ、検出器18を底面部74にも固定する。押えねじ64によって、検出器18のZ軸方向の移動を規制する。
【0028】
一方、取り外しの際は、まず、押えねじ64による固定を解除する。また、引きねじ52と雌ねじ77との螺合を解除し、図5(C)の状態にする。次に、突っ張りねじ54のツマミを回して、先端55を側面部71に当接させる。なお、突っ張りねじ54は、ケース50に形成された雌ねじ59に螺合されており、ツマミを回すとケース50に対して先端55が突出するようになっている。先端55が側面部71と当接したら、さらにツマミを回す。これによって、検出器18がX軸の負方向にスライドし、同時に雄コネクタ58が雌コネクタ78から外れ、図5(D)のようにコネクタの接続解除が完了する。この解除位置で検出器18を収納部70から取り外すことができる。
このように、検出器18の着脱機構を備えた赤外顕微鏡10を用いれば、比較的簡単な構成によって、検出器18の移動と、コネクタ同士の接続、接続解除とを同時に実行することができ(同時着脱)、検出器10の交換が容易となる。
【0029】
(検出器の種類の自動認識)
コネクタ同士が接続されると、データ処理回路34が検出器18の識別番号などを読み取り、検出器18の種類が自動的に認識される。データ処理回路34は、検出器18の種類に応じて最適な測定パラメータを選択することができる。
例えば、複数の赤外受光素子が一次元もしくは二次元状に配列された検出器18A(リニアアレイMCT検出器)を用いて、被測定面のマッピング測定を高速で実行した後、検出器を検出器18B(InSb検出器)に交換して、特定の測定部位を異なる波長領域で、ポイント測定するといったケースがある。従来、検出器を交換した場合には、検出器特有の動作仕様や波長領域に応じた最適な測定パラメータを再設定する必要があった。
【0030】
これに対して本実施形態の検出器18の着脱機構を備えた赤外顕微鏡10を用いれば、検出器18の種類が自動認識され、交換後の検出器の種類に応じた最適な測定パラメータが自動的に設定されるので、測定パラメータの再設定といった手間を省くことができる。
【0031】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、前記実施形態では送り部として引きねじ52、突っ張りねじ54を示し、使用者がつまみを回してこれらを操作すると説明したが、送り部を電動モータによって自動で駆動させるようにしてもよい。
【0032】
また、本発明の送り部として、引きねじ52および突っ張りねじ54に代えてカム機構を採用してもよい。図6を用いて本発明の変形例であるカム機構81を説明する。その他の構成は前述の実施形態と略同様である。同図(A)は、検出器19が解除位置にある状態を示し、同図(B)は、検出器19が接続位置にある状態を示す。
カム機構81は、扇形の板状部材であり、筐体40に設けられた回転軸82を中心に回転自在なカム部材83、および、検出器19に固定された引き込みピン84を有して構成される。回転軸82は、扇形の円弧の略中心となる位置に設けられている。また、カム部材83は、厚み方向に貫通するカム溝85を有する。カム溝85は、回転軸82周りにカーブを描くように形成されている。カム溝85から回転軸82までの寸法は、カーブに沿って連続的に変化している。つまり、カム溝85の一端(図中のAで示す溝の開口部分)における寸法の方が、カム溝85の他端(図中のBで示す溝の奥の方の部分)における寸法よりも大きくなっている。
【0033】
また、図6(A)のように検出器19が解除位置に載置された際、カム溝85の一端Aと引き込みピン84とが係合するように、カム部材83の回転軸82の位置が設定されている。カム部材83を回転させた場合、引き込みピン84とカム溝85との係合位置がカーブに沿って移動し、これに伴って検出器19がX軸の正方向にスライドするようになっている。係合位置がカム溝85の他端Bまで達すると、図6(B)のように検出器19が接続位置に達するようになっている。なお、同図(A)中に一点鎖線で示すカム部材83の位置は、検出器19を収納部70に載置し、または収納部70から取り出す際の位置を示す。筐体40にはカム部材83の回転を規制するストッパー86が設けられている。
【0034】
このようなカム機構81を備えた検出器の着脱機構において、検出器19を収納部70に載置し、カム部材83を回転させると、検出器19が解除位置から接続位置までスライドし、コネクタ同士58,78が接続する。また、カム部材83を反対方向に回転させれば、コネクタ58,78同士の接続が解除され、検出器19が解除位置までスライドする。従って、カム部材83を回転させる操作だけで、検出器19のスライドと、コネクタ同士の接続、接続解除とを同時に実施することができる。
なお、カム部材83を検出器19に設けて、引き込みピン84を筐体40に設けても、同様の効果が得られる。
【0035】
また、接続部として、雄コネクタ58と雌コネクタ78とを示したが、本発明の接続部としては、機械的な接続機構を備えたものであれば、上記のコネクタに限られない。
また、本発明の赤外顕微鏡10を波数拡張型のフーリエ変換赤外分光光度計と組み合わせることで、広い波長領域での測定が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は赤外光を検出する検出器に利用できる。特に、検出器の着脱機構を備えた赤外顕微鏡に利用できる。
【符号の説明】
【0037】
10 赤外顕微鏡(測定装置)
14 試料
16 対物鏡(顕微手段)
18,19 検出器
34 データ処理回路(処理手段)
40 筐体
50 ケース
52 第1ねじである引きねじ(送り部)
54 第2ねじである突っ張りねじ(送り部)
56 採光口(導光部)
58 雄コネクタ(第1接続部)
64 押えねじ(固定部)
68 キー溝(被案内部)
77 雌ねじ
78 雌コネクタ(第2接続部)
80 位置決めピン(位置決め部)
81 カム機構(送り部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定装置に対して着脱自在な検出器であって、
前記測定装置に対してスライド自在に設けられるケースと、
前記ケースのスライド方向に沿って前記測定装置からの赤外光を前記ケースの内部に導く導光部と、
前記ケースに内蔵され、導光された赤外光を検出する検出中心部と、
前記ケースに設けられ、前記測定装置側の第1接続部と接続して前記検出中心部からのデータを出力する第2接続部と、
前記ケースを前記スライド方向にスライドさせる送り部と、
前記ケースを前記測定装置に固定する固定部と、
を備え、
前記第1接続部と前記第2接続部との接続が解除される解除位置と、前記第1接続部と前記第2接続部とが接続される接続位置とを結ぶ線は、前記スライド方向と平行になるように設けられ、
前記ケースは、前記送り部によって前記解除位置から前記接続位置まで送られた状態で、前記固定部によって前記測定装置に固定されることを特徴とする検出器。
【請求項2】
請求項1記載の検出器において、前記送り部は、
前記スライド方向に沿って前記ケースを貫通して設けられ、一端に取り付けられたツマミを回すと、他端の雄ねじが前記測定装置の雌ねじと螺合するように設けられた第1ねじと、
前記スライド方向に沿って前記ケースを貫通し、かつ、前記ケースに螺合して設けられ、一端に取り付けられたツマミを回すと、他端の雄ねじが前記測定装置に当接するように設けられた第2ねじと、を有することを特徴とする検出器。
【請求項3】
請求項1または2記載の検出器において、
前記ケースは、前記スライド方向に沿って案内される被案内部を有し、
前記被案内部は、前記スライド方向に沿って前記測定装置に複数配列された位置決め部と係合することを特徴とする検出器。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の検出器を備え、試料に赤外光の干渉光を照射し、試料の測定部位を反射もしくは透過する赤外光を前記検出器で検出することで前記測定部位の吸収スペクトルを測定する赤外顕微鏡において、
前記測定部位からの赤外光を集光する顕微手段と、
前記顕微手段から前記検出器の導光部まで赤外光を導く光路と、
前記検出器からのデータを処理する処理手段と、
前記検出器、前記顕微手段および前記処理手段を支持する筐体とを備えることを特徴とする赤外顕微鏡。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−223846(P2010−223846A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−73105(P2009−73105)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000232689)日本分光株式会社 (87)
【Fターム(参考)】