説明

検出器

【課題】媒質の熱物性値の検出の精度を向上させることができる検出器を提供する。
【解決手段】通電により発熱するヒータ300と、ヒータ300を支持する支持部500を有し、ヒータ300と媒質との熱交換により、前記媒質の熱物性値を検出する検出器において、支持部500に設けられた空洞部600にヒータ300を配置した架橋構造を有し、通電開始後熱平衡状態に達するまでの間に検出を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体・液体等の媒体の熱伝導度等の熱物性値を検出する検出器に関するものであり、特に電熱器として機能する検出器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の「電熱器の製造方法」は、第5(b)図においてヒータ部が電熱材料のみで直線形状のヒータについて開示したものであるが、ヒータ周囲の気体への熱伝導を開示したものではないので、伝導効率も考慮されていない。
【0003】
特許文献2の「電熱器」は、電極部へのヒータからの熱放散を低減する方法について開示したものであり、第12図にその効果が示されている。しかし、温度差と検出量との関係において、電極部の温度をヒータ温度に近づけた考慮はされていない。
【0004】
特許文献3の「雰囲気センサの構造」は、熱温度分布の均一化を図る(段落0018)ためヒータのパターンの間隔を広くすることについて開示している。しかし、ヒータと熱物性の異なる薄膜絶縁体12と一体であるため、ヒータと雰囲気の熱伝導のみを効率よく検出する考慮はなされていない。
【0005】
特許文献4の「流量検出素子および流量センサ」は、支持部への熱伝導量を低減させるために、発熱抵抗の間隔を調整することについて記述されている(段落0025)が、流体の熱伝導について考慮しても、発熱抵抗自身の熱伝導の効率について考慮されたものではない。
【0006】
特許文献5の「熱交換器」は、熱交換器のフィンピッチ等と熱伝導率の関係を示した技術内容について開示してあるが、センサに適用するには短時間経過における過渡現象の考慮が必要である。
【特許文献1】特公平2−13739号公報
【特許文献2】特公平6−32267号公報
【特許文献3】特許第3086314号公報
【特許文献4】特開平11−201792号広報
【特許文献5】特公平5−77959号公報
【0007】
従来の検出器の構造を図15に図示する。この検出器は基板100(Si)上に電気絶縁層200(SiO2)を積層し、さらに電気導電性材料(Pt)からなるヒータ300、電極P1、P2、接続リード400のパターンを配し、さらに電気絶縁層200を積層し、ヒータ300と接する近傍の電気絶縁層200をエッチング除去した後、基板100をエッチングして空洞部600を形成する微細加工工程を経て、ヒータ300が空洞部600に架橋する構造である。支持部500は架橋しているヒータ300を支える機能を有している。図15の検出器の電極P1、P2、にボンディングワイヤ等の集積回路パッケージング手段により適宜電気配線をつなげ、図16に図示した定温度制御駆動回路に組み込み、電極P1、P2、接続リード400を通じてヒータ300へ、図16の定温度設定抵抗によりヒータ300が所望の温度になるように電力を印加する。ヒータ300が所望の温度になるまで、ヒータ300と周囲空間700の気体・液体等の媒質との温度勾配、周囲空間700の気体・液体等の媒質の熱伝導率に応じて、ヒータ300から周囲空間700の気体・液体等の媒質へ熱伝導するため、ヒータ300自身の温度は周囲空間700と温度勾配を持ちつつ熱平衡状態に達するまで過渡的に上昇していく。その過渡的に上昇していく温度変化は電極P2で検出する出力電圧に反映される。よって、その出力電圧の推移を、つまり、ヒータ300の消費電力の推移を測定することにより熱伝導する媒質への熱伝導量を検出することができる。図16に図示した定温度制御駆動回路を搭載した装置を電極P1、P2に接続することにより、ヒータ300の所望の温度において、ヒータ300と周囲空間700の気体・液体等の媒質との温度勾配に応じて、熱伝導する量をこの装置により消費電力の推移として測定することができる。これによって周囲空間700の気体・液体等の媒質の熱伝導率が求められ、あるいは前もって所定の熱伝導率である媒質で検量しておけば、測定した値と比較することによって、その媒質と他の媒質との混合比率(濃度)として求めることが出来る。
【0008】
ヒータ300より生じる熱は周囲の媒質へ熱伝導するだけでなく、ヒータ300の支持部500に対しても熱伝導してしまう。検出値の精度を高めるためには、できるだけ接触する支持部500の領域は少なくした方が良い。そのために空洞部600を設けた構造をとっている。さらに、ヒータ300の発熱量を過不足なく検出量に効率よく反映させるために、ヒータ300の温度をできるだけ高くし、媒質の温度はできるだけ低くすることが望ましい。ニュートンの冷却の法則で示されているように、物体の温度Tが単位時間内に変化する割合は、現在の物体の温度Tと物体を取り囲む周囲との温度差に比例するので、温度差が大きいほど、熱伝導量は多くなるという熱伝導原理によるものである。
【0009】
ただ、図15のように複線配置されたヒータ300の場合では、複線配置した隣接したヒータ300同士(間隔D1)の影響による周囲の媒質の温度上昇が検出値の精度に影響を及ぼす点について懸念される。従って、電圧を印加し続ければ、経過と共にやがてはヒータ300によって周囲の媒質の温度が急激に上昇してしまうおそれがある。この点についてはそもそも空洞部600に対し1直線に配置したヒータを用いれば隣接したヒータが存在しないので、複線配置した隣接したヒータ同士の影響による周囲の媒質の温度上昇は無くなるところである。しかし、ヒータを1直線に配置した構造は検出する出力電圧の値が小さすぎて精度の良い検出が困難になる。また、出力電圧の値を大きくするためにヒータが1直線であるとヒータを細く長くしなければならない。さらに、通常はヒータ自身の耐久性に支障をきたすので、検出器の作り易さを鑑みてヒータ自身を補強する被覆手段が用いられていた。しかし、ヒータ自身を補強する被覆手段の分が熱容量となり、ヒータと周囲の媒質への熱伝導量を検出することにおいて伝導時間、伝導量を余分に消費してしまうため、そこで図15のようなヒータ300のような被覆手段を用いない構造が採用されていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図15に示す従来の構造では(b)に示すように、ヒータ間隔D1が4μmと狭まっている場合、(c)に示すように、ヒータ表面位置S1及びヒータ近傍位置S2(S1から2μm離れている)の温度を、通電開始時刻から測定すると図17のグラフに示すようになる。位置S1では11msecで200℃の熱平衡状態に達し、位置S2では熱伝導のため徐々に昇温し、S1とS2の温度差が11msecでは140℃のところ30msecでは110℃に減少する。すると、図18のグラフに示すように、ヒータ隣接間隔D1が4μmの場合、11msec経過後の出力電圧Voutは7.8Vにまで低下してしまう。ヒータ隣接間隔が小さすぎるため温度差が小さく、隣接ヒータの影響が大きいためである。
【0011】
一方、検出は所定の時間間隔で行わなければならないが、ヒータ300から生じる熱によって周囲の媒質の温度が上昇しないようにしなければならない。ヒータ300の熱によって周囲の媒質の温度が上昇してしまうことによりヒータ300と周囲の媒質との温度差が小さくなり、ヒータ300からの熱伝導量は減少して検出量が低下する、というヒータ300による周囲の媒質への熱影響のことを考慮しなければならない。
【0012】
また、媒質自体が高温度である場合、ヒータ300と周囲の媒質の温度差は当然小さくなり、熱伝導率が小さくなる。このとき検出する出力電圧が媒質の温度変化に対して非直線性を示してしまうので、高精度に温度補償するための温度を検量して補正する手間をかけたり、複雑な補償回路を使用しなければならない。このような事態を解消するには、ヒータによって周囲の媒質の温度が上昇しないような、ヒータの配置、形状や通電、検出方法を考えることは当然であるが、特に検出タイミングについて考慮する必要がある。
【0013】
そこで本発明では上記事情を考慮して媒質の熱物性値の検出の精度を向上させることができる検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成する本発明の態様は、通電により発熱する第1の発熱手段と、前記第1の発熱手段を支持する支持手段を有し、前記第1の発熱手段と媒質との熱交換により、前記媒質の熱物性値を検出する検出器において、前記支持手段に設けられた空洞部に前記第1の発熱手段を配置した架橋構造を有し、通電開始後熱平衡状態に達するまでの間に検出を行うことを特徴とする。
【0015】
ここで、前記第1の発熱手段を二以上有し、隣接した第1の発熱手段同士の間隔を、当該第1の発熱手段による発熱の拡散長の2倍以上にすることを特徴とする。
【0016】
また、通電により発熱し、前記支持手段の温度を調節する第2の発熱手段を有し、前記第1の発熱手段による発熱のタイミングと、前記第2の発熱手段による発熱のタイミングを略同一にすることを特徴とする。
【0017】
また、前記第1の発熱手段を通電するために、当該第1の発熱手段と電極を接続している接続手段と、前記接続手段を被覆する被覆手段を有することを特徴とする。
【0018】
また、前記第1の発熱手段は立体的形状を有し、前記媒質の熱量を検出する感温手段を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の検出器は検出タイミングを考慮した簡便な手段により、検出量も多くなり計測精度を向上させることができる。簡便な手段故、通電に要する電圧は必要最小限で済み、発熱手段へのオーバーロード低減化、再現性の安定性が向上する。また、短時間で検出することになるので、周囲の媒質における過渡変動を詳細にとらえることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。説明する際には本明細書と同時に提出する図面を参照する。
【0021】
本形態の検出器の構造を図1に図示する。この検出器は基板100(Si)上に電気絶縁層200(SiO2)を積層し、さらに電気導電性材料(Pt)からなるヒータ300、電極P1、P2、接続リード400のパターンを図1のように1直線上に配し、さらに電気絶縁層200を積層し、ヒータ300と接する近傍の電気絶縁層200をエッチング除去した後、基板100をエッチングして空洞部600を形成する微細加工工程を経て、ヒータ300が空洞部600に架橋する構造である。支持部500は架橋しているヒータ300を支える機能を有している。媒質の熱伝導量を測定する原理は上述の通りである。図16に図示した定温度制御駆動回路を搭載した装置が電極P1、P2に接続されており、この装置により消費電力の推移を測定する。
【0022】
ヒータ300の材料がPtである場合は、検出量と微細加工の歩留まりを考慮すると、ヒータは厚さ0.1〜1μm、幅1〜5μmである。この場合、ヒータ300の断面積が小さいほど内部で発生する熱の、外部への熱伝導に対する効率が良い。ヒータ300の断面積が大きいと、ヒータ300内部の熱が外部に伝わりにくく、内部の熱がロスになるからである。
【0023】
空洞部600上に1直線に沿って配置したヒータ300は長さ1〜5mmであって、長いほど熱伝導量は多く検出量も大きいが、あまりにも長い場合、材料、厚さ、幅、温度を考慮するとおおよそ1.5mmを越える場合、は中間位置で強度や変形を防ぐために支持部を設ける場合がある。
【0024】
また、ヒータの支持部500は強度や変形を防ぐためにヒータ300となる電熱材料以外の電気絶縁膜(電気絶縁層200を覆う膜でありSiO2、Si3N4、Al2O3を使用する。)によるブリッジやダイヤフラムで支える構造であることが多いが、ヒータ300の支持部500への熱放散は周囲の媒質への熱放散ではないので、できるだけ支持部500は少なくした方が良い。ゆえに、ブリッジやダイヤフラムで電熱材料を支えることなく、できるだけ電熱材料のみであることがより好ましい。なお、基板100の外形は厚さ0.2〜0.4mm、横0.5〜1mm、縦1.5〜6mmであり、ヒータ300が長いほど基板100の外形は縦長になる。
【0025】
検出器として周囲の媒質の熱物性の情報を得るためには、図16の定温度駆動制御回路による一定抵抗値制御によってヒータ300の温度を50〜500℃の適当な値に設定し、媒質への熱伝導による熱供給量を、定温度設定抵抗(一定抵抗値)への消費電力等の電気信号増大量として得るようにする。乾燥空気25℃の媒質においては、室温25℃から50〜500℃へのヒータ熱平衡状態到達の時間はヒータ熱平衡状態到達の温度に対応して0.1〜50msecとなる。
【0026】
一例として、乾燥空気25℃の媒質において、材料をPt、厚さ0.5μm、幅3μm、長さ1mmのヒータ300を使用し、基板100の外形を厚さ0.3mm、横0.7mm、縦2mmとして、図16の定温度駆動制御回路によってヒータ300を200℃定温度制御した。その結果を図2〜図5のグラフに示す。
【0027】
まず、図2に示すように、室温25℃から200℃へのヒータ熱平衡到達の時間は10msecとなる。次に、図1(c)のヒータ表面位置S1とヒータ近傍位置S2(S1から2μm離れている)位置の温度を、通電開始時刻から測定すると、位置S1では10msecで200℃の熱平衡状態に達し、位置S2では熱伝導のため徐々に昇温し、S1とS2の温度差が10msecでは150℃のところ30msecでは125℃に減少する。すると図3グラフに示すように10msec出力電圧Voutがでは4.0Vのところ、30msecでは3.8Vになり、約5%減少してしまう。
【0028】
熱平衡状態に到達以後はヒータ300の温度は上昇しないが、周囲の媒質の温度は上昇するので、温度差は小さくなり熱伝導量は減少して検出量が下がってゆく。従って、熱平衡状態に達する時刻までに検出することによって熱伝導量を多くし、検出量を大きくすることができる。
【0029】
ここで図4に示すように、位置S2の温度が低下するように休止時間を設け駆動して図中の「検出タイミング」において検出すれば、繰り返し精度よく間欠的に継続して測定できる。また、図1の検出器を複数設置して互いにタイミングをずらして駆動することによって、それぞれの検出をあわせれば、温度が低下できる休止時間を保って検出間欠時間の短い測定をすることも可能である。
【0030】
さらに、例えば媒質が乾燥空気と水素の混合媒質である場合は、図5に示すように、出力電圧Voutの温度依存性で温度について見ると、検出タイミングが30msecでは検出タイミングが10msecのときと比べて混合媒質が高温度になるほど出力電圧の変化が小さくなる。つまり、検出タイミング30msecでは10msecにおいてよりも混合媒質の温度について1次の比例関係にないことがわかる。従って、検出する出力電圧は熱平衡状態に達する時刻までに検出することによって媒質の高温度領域までの直線性が改善され、測定範囲を広げることできるがわかる。例えば、燃料電池システムにおいて空気中に漏洩する水素の濃度測定では−20〜60℃の温度範囲であり、燃料電池セル内の水素に対する水蒸気濃度を測定することにおいては0〜100℃である。このように広範囲かつ高温度の条件のもとに高精度に測定することができる。
【0031】
以上の説明から、本形態の検出器は検出タイミングを考慮した簡便な手段により、検出量も多くなり計測精度が向上した。また、必要最小限の電力印加で検出することにより無駄な電圧印加が無くなった。これにより、ヒータへのオーバーロードが低減でき安定良く再現性がえられた。また、短時間で検出することにより周囲の媒質の過渡変動を詳細にとらえることができた。また、温度が低下するように駆動して検出することにより、繰り返し精度よく間欠的に継続して測定できた。また、温度依存性が改善されることにより温度補償精度が向上するとともに、温度検量取得の手間が簡単になり、補償回路も不要である。そして、測定範囲が広がることにより検出器の用途が広げられる。
【0032】
本形態の検出器の他の構造を図6に図示する。基本的な構造は図1のものと同様であるのでその説明を省略する。相違するところはヒータ300、電極P1、P2、ヒータ300間を連結する接続リード400のパターンがコの字状に配置されているところと、当該パターンが折り返している箇所が支持部500により支持されている点である。その結果、空洞部600にヒータ300が2本配置されている。微小サイズの検出器を大量生産ができるように半導体微細加工技術を活用して集積度を向上させるのであれば尚更である。そのため、微小なサイズのチップ内にできるだけ大きく検出領域を設ける必要があり、つまり、ヒータを複線配置する必要がある。
【0033】
空洞部600上に配置したヒータ300は1本あたり長さ0.2〜0.8mmであって、ヒータ間隔D2は10〜20μmである。基板100の外形は厚さ0.2〜0.4mm、横0.5〜1mm、縦0.5〜1.5mmとなる。室温25℃から50〜500℃へのヒータ300による熱平衡状態到達の時間はヒータ熱平衡状態到達の温度に対応して0.1〜50msecとなる。
【0034】
検出器周囲の媒質の熱物性の情報を得る方法も図16の定温度駆動制御回路を用いる点は同様であるが、ヒータ300が複線なので、ヒータの抵抗値は多くなり出力電圧が大きくなる点に留意する。
【0035】
一例として、乾燥空気25℃の媒質において、材料をPt、厚さ0.5μm、幅3μm、長さ1mm、ヒータ隣接間隔D2は15μm、基板100の外形を厚さ0.3mm、横0.7mm、縦1.5mmとして、図16の定温度駆動制御回路によってヒータ300を200℃定温度制御した。その結果を図7〜図9のグラフに示す。
【0036】
まず、図7に示すように、室温25℃から200℃へのヒータ300熱平衡到達の時間は11msecとなる。次に、図6(c)のヒータ表面位置S1とヒータ近傍位置S2(S1から2μm離れている)位置の温度を、通電開始時刻から測定すると、位置S1では11msecで200℃の熱平衡状態に達し、位置S2では熱伝導のため徐々に昇温し、S1とS2の温度差が11msecでは150℃のところ30msecでは125℃に減少する。この値は、隣接ヒータがない場合の検出器の経過時刻−温度差特性(図2)とほぼ同一であって、隣接ヒータの影響が少ないものと判断できる。
【0037】
また、従来のようにヒータ間隔D1が4μmと狭い場合(図15)、図17に示すように、位置S1とS2の温度差が140℃(11msec)から110℃(30msec)であったので、図6の構造の検出器は温度差が大きい状態を維持している。また、図8の出力電圧Voutの推移を比較してみると、ヒータ隣接間隔D2が15μmの場合は7.9V(11msec)のところヒータ隣接間隔D1では7.8Vであり約2%減少してしまう。よって、ヒータ隣接間隔を4μmより広げたほうが良い。
【0038】
その条件は、図9のヒータ表面の温度と媒質の温度の関係からすれば、隣接ヒータ間の中央位置での媒質の温度が、ヒータからの熱伝導によって上昇しないようにすればよい。即ち、ヒータを一定温度に維持するときのヒータ表面からの熱伝導距離をヒータの熱拡散長(=熱伝導速度×時間)として、隣接するヒータからの影響を考慮すると、隣接間隔は拡散長の2倍以上必要である。拡散長は温度差、時間、媒質の熱伝導率によって依存する。さらには、通電時間が短いほうが隣接ヒータ間距離を短くすることが出来ることがわかる。すなわち、媒質への拡散長個所でヒータからの温度上昇を受けない期間で、温度差がもっとも大きくなるタイミングは、ヒータの最高温度時に到達する通電開始後熱平衡状態に達するまでの間である。
【0039】
一例として、大気中の水蒸気量を計測する検出器の場合を想定すると、25℃の空気の熱伝導率26.1mW/mK、温度勾配150K、時間11msecとして熱拡散長は6μmであるので、熱平衡に至るヒータ加熱時間の熱量を含めてもヒータ間隔は10〜20μm以上あれば良いことになる。ヒータ隣接間隔15μmは、室温付近の通常居住雰囲気の水蒸気量を計測する場合、ほぼ最適な間隔といえる。
【0040】
さらに図8のグラフを見ると、ヒータ隣接間隔D2が15μmの場合の出力電圧Voutは、11msecでは7.9Vのところ30msecでは7.5Vになり約5%減少してしまう。熱平衡状態に到達した後はヒータの温度は上昇しないが周囲の媒質の温度は上昇するので、温度差は小さくなり熱伝導量は減少し検出量が下がってゆく。従って、上記のヒータ隣接間隔は拡散長の2倍以上必要であることに加えて、熱平衡状態に達する時刻までに検出することによって熱伝導量を多く、検出量を大きくできる。
【0041】
これによって、例えば室温付近の通常居住雰囲気の水蒸気量を計測する場合には、ヒータ隣接間隔が15μmであって、ヒータ加熱時間を11msecにして11msecまでに検出すれば、ほぼ最適な条件といえる。さらに、図4を用いて説明したように、位置S2の温度が低下するように休止時間を設け駆動して検出すれば、繰り返し精度よく間欠的に継続して測定できるし、他のヒータを設置して交互に駆動すれば、より時間間隔の短い測定ができる。
【0042】
なお、図6では複線のヒータを2本のヒータで示したが、図10に示すようにそれ以上の本数も可能である。この場合、空洞部600を上下に2箇所設けるようにし、ヒータ300の中間位置を支持部500で支持するようにすることでヒータ300の安定性を保つ。
【0043】
以上の説明から、図6の検出器は検出タイミングを考慮した簡便な手段により、検出量も多くなり計測精度が向上した。また、必要最小限の電力印加で検出することにより無駄な電圧印加が無くなった。これにより、ヒータへのオーバーロードが低減でき安定良く再現性がえられた。また、短時間で検出することにより周囲の媒質の過渡変動を詳細にとらえることができた。また、温度が低下するように駆動して検出することにより、繰り返し精度よく間欠的に継続して測定できた。また、熱伝導量が多くなることにより検出量も多くなり計測精度が向上した。また精度が向上することによりさらに基板の寸法が微小になり、微小個所に装着できた。また、温度依存性が改善されることにより温度補償精度が向上するとともに、温度検量取得の手間が簡単になり、補償回路も不要である。そして、測定範囲が広がることにより検出器の用途が広げられる。
【0044】
また、本形態の検出器の他の構造を図11に図示する。基本的な構造は図1のものと共通するのでその説明を省略する。相違するところは空洞部600を設ける際に、それらの間に支持部500を設けたこと、つまり、電気絶縁層200をエッチングする箇所を一部省略したことと、電極P3、P4、支持部ヒータ800のパターンが配置されている点である。その結果、一直線上に配置されたヒータ300、電極P1、P2、接続リード400のパターンが中央位置で支持部500により支持されている。電極P3において電圧を印加し支持部ヒータ800を発熱させると、この熱は支持部500の温度を調節するように機能する。そして、電圧P4により出力電圧を検出し、支持部ヒータ800における消費電力の推移を測定する。
【0045】
ヒータ300から支持部500への熱放散は周囲の媒質への熱放散ではないので、できるだけ支持部500の領域は少なくした方が良い。その上、周囲空間700の媒質の熱伝導率と比較してヒータ300の熱伝導率が無視できない場合、支持部500もヒータ300の温度に近づけてヒータ300から支持部500への熱流を少なくする必要がある。また、支持部500の温度が上昇すると、支持部500周囲の媒質への熱伝導が生じ、その分の検出量が障害となるので、支持部500から媒質への熱伝導を少なくする必要がある。
【0046】
ヒータ300の材料がPtなどの金属材料の場合、周囲空間700の気体などの媒質と比較し熱伝導率がはるかに大きいため、支持部500への熱伝導量が周囲の気体などの媒質へ伝導するよりも大きくなる傾向にある。そこで、支持部500や電極P1、P2に接続する接続リード400近傍の温度がヒータ300と近い温度であれば、ヒータ300と温度差が少ないので熱伝導量は少なく、検出量は小さくなるので、これらを傍熱する電極P3、P4、支持部ヒータ800のパターンを併設した。
【0047】
媒質の熱伝導量の検出を行う際には、ヒータ300による加熱のタイミングと支持部500を傍熱するためのタイミングは基本的にはほぼ同一に行えばよい。ただ、支持部500は空洞部600に架橋したヒータ300よりも熱容量が大きいので同一のタイミングに加熱するには、ヒータ300より熱平衡到達時間を要するので、ヒータの通電開始時刻より適宜早めか投入電力を多くするとより効果がある(図12のグラフ参照)。
【0048】
しかし、支持部500の温度が上昇すると、支持部500周囲の媒質への熱伝導が生じる。支持部500や電極P1、P2に接続する接続リード400近傍は、周囲の媒質と異なる熱物性であって、周囲の媒質の状態のみを計測するときには障害となるので、その影響を除外する必要がある。そのために、接続リード400をヒータ300に比較して幅を広げるか厚くするか短くして接続リード400分の抵抗値を小さくし、接続リード分の検出量を減じるようにすると良い。また、接続リード400をヒータ300より熱絶縁性の高いSiO2等の被覆を施すことによって、周囲の媒質への熱伝導をさらに低減させることによって影響は小さくすることができる。さらには、熱絶縁性の高いSiO2等の被覆よりも一層断熱性に優れている樹脂材料等の高分子有機材料膜や多孔質構造のAl2O3膜を被覆することにより、効果は増す。
【0049】
また、図13は図11の変形例であり、図1の検出器に支持部ヒータ800、電極P3、P4を併設したパターンを図示したものである。温度差の大きい領域だけ選択的に効率が高くなり、周囲の媒質の熱伝導だけに限られることにより、基板100の材料の熱伝導情報を取り除いて周囲の媒質の情報を得ることができる。
【0050】
以上の説明から、上述した効果に加え、さらに接続リード400近傍の温度をヒータ300の温度に近づけ、接続リード400近傍の周囲の媒質への熱伝導量を減じたことにより、周囲の媒質の熱伝導情報だけを測定することができ、高精度な測定ができた。
【0051】
図14は上述した検出器に使用されたヒータ300を立体形状にした熱伝導型のフローセンサの構成を図示したものである。上述した検出器は、発熱時の放熱量を消費電力相当で測定する方式であったが、熱伝導量を測定する媒質が一定速度で流れるものである場合、上述した検出器に係る発明の発明特定事項を利用して、熱が媒質を伝わって伝導する熱量を感温部900で測定する方式を採ったほうが良い。感温部900はコイルのような形状であり、ヒータ300の両端において同心軸上に配置されている。このとき周囲の媒質の温度が上昇しないようにヒータ300の配置、形状や通電方法を工夫した。
【0052】
つまり、ヒータ300は熱平衡状態に達する時刻以前で通電を止め、ヒータ300が複線配置されている場合、各ヒータ300の隣接間隔は1つのヒータの熱拡散長の少なくとも2倍以上になるようにした。また、図14には図示していないが、支持部ヒータ800を使用し、支持部500の接続リード400の近傍を加熱し、断熱材料を付加しても良い。
【0053】
このような構成により、上述した効果に加え、流体への熱伝導に無駄が無くなることにより、より小さな電力で微小流量や高温度流体の流量が高精度に測定できた。
【0054】
なお上述した形態は本発明を実施するための最良のものであるがこれに限定する趣旨ではない。従って、本発明の要旨を変更しない範囲において種々変形することがかのうである。
【産業上の利用可能性】
【0055】
空気中の水蒸気量を計測する絶対湿度センサ、可燃性ガス漏れ検知器や燃料電池用水素ガス漏洩個所検知器のような空気中に漏洩する水素を検知してベース気体中に存在するベース気体以外の気体濃度を測定するガス濃度センサ、熱伝導率検出器方式のガスクロマトグラフに用いられるベース気体の熱伝導率と異なる熱伝導率の気体の熱伝導度ガス分析センサ、気体用のサーマルフローセンサ、液体用のサーマルフローセンサ、結露センサ等といった製品の開発が望まれる。
【0056】
ヒータ温度を50〜500℃の適当な値に設定すると良い。媒質の熱伝導率や媒質の温度ならびに測定しようとする値にもよるが、気体や液体のサーマルフローセンサであれば50〜150℃、絶対湿度センサであれば150〜400℃、ガス濃度センサであれば200〜500℃、ガス分析センサであれば50〜500℃の範囲で温度を切り替えて用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本形態の検出器の構造を図示したものである。(a)は正面図であり、(b)(c)はBB断面図である。特に、(c)はヒータ表面位置S1、ヒータ近傍位置S2を図示したものである。
【図2】図1の検出器の位置S1と位置S2における温度の時間変化を表すグラフである。
【図3】図1の検出器のヒータ300からの出力電圧の時間変化を表すグラフである。
【図4】間欠駆動による位置S1と位置S2における温度の時間変化を表すグラフである。
【図5】空気中に含まれる水素濃度に対する出力電圧の温度依存性を表すグラフである。
【図6】本形態の検出器の他の構造を図示したものである。(a)は正面図であり、(b)(c)はCC断面図である。特に、(c)はヒータ表面位置S1、ヒータ近傍位置S2を図示したものである。
【図7】図6の検出器の位置S1と位置S2における温度の時間変化を表すグラフである。
【図8】図6の検出器のヒータ300からの出力電圧の時間変化を表すグラフである。
【図9】ヒータ表面からの距離と温度差との関係を表すグラフである。
【図10】本形態の検出器の他の構造を図示したものである。
【図11】本形態の検出器の他の構造を図示したものである。(a)は正面図であり、(b)はDD断面図である。(c)はEE断面図である。
【図12】ヒータ300と支持部ヒータの駆動タイミングと検出タイミングを表したグラフである。
【図13】本形態の検出器の他の構造を図示したものである。
【図14】ヒータ300を立体形状にした熱伝導型のフローセンサの構成を図示したものである。
【図15】従来の検出器の構造を図示したものである。(a)は正面図であり、(b)(c)はAA断面図である。特に、(c)はヒータ表面位置S1、ヒータ近傍位置S2を図示したものである。
【図16】従来及び本形態の検出器を組み込んだ定温度制御駆動回路の回路図である。
【図17】従来の検出器の位置S1と位置S2における温度の時間変化を表すグラフである。
【図18】従来の検出器のヒータ300からの出力電圧の時間変化を表すグラフである。
【符号の説明】
【0058】
100 基板
200 電気絶縁層
300 ヒータ
400 接続リード
500 支持部
600 空洞部
700 周囲空間
800 支持部ヒータ
900 感温部
P1 電極
P2 電極
P3 電極
P4 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電により発熱する第1の発熱手段と、
前記第1の発熱手段を支持する支持手段を有し、
前記第1の発熱手段と媒質との熱交換により、前記媒質の熱物性値を検出する検出器において、
前記支持手段に設けられた空洞部に前記第1の発熱手段を配置した架橋構造を有し、通電開始後熱平衡状態に達するまでの間に検出を行うことを特徴とする検出器。
【請求項2】
前記第1の発熱手段を二以上有し、
隣接した第1の発熱手段同士の間隔を、当該第1の発熱手段による発熱の拡散長の2倍以上にすることを特徴とする請求項1に記載の検出器。
【請求項3】
通電により発熱し、前記支持手段の温度を調節する第2の発熱手段を有し、
前記第1の発熱手段による発熱のタイミングと、前記第2の発熱手段による発熱のタイミングを略同一にすることを特徴とする請求項1または2に記載の検出器。
【請求項4】
前記第1の発熱手段を通電するために、当該第1の発熱手段と電極を接続している接続手段と、
前記接続手段を被覆する被覆手段を有することを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の検出器。
【請求項5】
前記第1の発熱手段は立体的形状を有し、
前記媒質の熱量を検出する感温手段を有することを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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