説明

検出方法、および該検出方法に用いられる磁性体含有誘電体粒子

【課題】磁性粒子による結合物の局在化を利用した検出方法の実用性を高める。
【解決手段】被検出物質Aと特異的に結合する第1の結合物質B1に、磁性粒子Mを内包すると共に液体試料中で極性を示す官能基が表面修飾された磁性体含有誘電体粒子Pが付与されてなる磁性付与結合物質Bmと、被検出物質Aと特異的に結合する第2の結合物質B2に光応答性標識Oが付与されてなる標識結合物質Boとを、被検対象である液体試料Sと混合して結合反応させ、試料セル10内に磁界を発生させて、局所領域に磁性付与結合物質Bmを引き寄せ、磁性付与結合物質Bmを引き寄せた状態で、局所領域を含む所定領域Eのみに励起光を照射して、所定領域に存在する光応答性標識Oから光信号を生じさせ、光信号を検出する。ここで、磁性体含有誘電体粒子Pにおける磁性粒子Mの体積含有率は50%以下とし、誘電体材料として励起光に対し透明な材料を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中の被検出物質を検出する検出方法および該検出方法に用いられる磁性体含有誘電体粒子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バイオ測定においては、例えば、試料に含まれる被検出物質である抗原を検出するため、基板上に被検出物質と特異的に結合する1次抗体を固定しておき、基板上に試料を供給することにより、1次抗体に被検出物質を特異的に結合させ、次いで、被検出物質と特異的に結合する、蛍光標識が付与された2次抗体を添加し、被検出物質と結合させることにより、1次抗体―被検出物質―2次抗体の、所謂サンドイッチを形成し、2次抗体に付与されている蛍光標識からの蛍光を検出するサンドイッチ法や、競合法などのアッセイ方法がよく知られている。
【0003】
また、蛍光標識からの蛍光検出の方法としては、基板表面で全反射する励起光を基板裏面から入射し、基板表面に染み出すエバネッセント波により蛍光を励起してその蛍光を検出する方法(エバネッセント蛍光法)が知られている。
【0004】
一方、エバネッセント蛍光法において、感度を向上させるため、プラズモン共鳴による電場増強の効果を利用する方法が特許文献2、非特許文献1などに提案されている。表面プラズモン増強蛍光法は、プラズモン共鳴を生じさせるため、基板上に金属層を設け、基板と金属層との界面に対して基板裏面から、全反射角以上の角度で励起光を入射し、この励起光の照射により金属層に表面プラズモンを生じさせ、その電場増強作用によって、蛍光信号を増大させてS/Nを向上させるものである。
【0005】
同様に、エバネッセント蛍光法において、センサ部の電場を増強する効果を有するものとして、導波モードによる電場増強効果を利用する方法が非特許文献2に提案されている。この光導波モード増強蛍光分光法(OWF:Optical waveguide mode enhanced fluorescence spectroscopy)は、基板上に金属層と、誘電体などからなる光導波層とを順次形成し、基板裏面から全反射角以上の角度で励起光を入射し、この励起光の照射により光導波層に光導波モードを生じさせ、その電場増強効果によって、蛍光信号を増強させるものである。
【0006】
また、特許文献3および非特許文献3には、表面プラズモンによる増強された電場において励起された蛍光標識からの蛍光を検出するのではなく、その蛍光が金属層に新たに表面プラズモンを誘起して生じる放射光(SPCE: Surface Plasmon-Coupled Emission)をプリズム側から取り出す方法が提案されている。
【0007】
このように、バイオ測定等においては、蛍光標識された被検出物質を検出するための種々の検出方法が提案されている。
【0008】
一方、上記のような基板に固定された1次抗体とサンドイッチ形成させて蛍光検出を行う場合、サンドイッチ結合体と未反応の二次抗体とを分離する必要があることから、一般的には、測定に際して未反応の二次抗体を洗浄する洗浄工程を要する。洗浄工程は手間であると共に測定に時間がかかる原因となっている。また、洗浄工程において被検出物質の一部は廃棄される上清とともに除去されることもあるため、被検出物質が微量成分の場合には、検出感度の低下をもたらす場合がある。また、被検出物質と一次抗体の反応は、一次抗体を結合した固相表面と被検出物質を含む溶液(液相)との反応であるために反応効率が悪く、高速化の妨げとなっている。
【0009】
これに対し特許文献4では、洗浄工程を要せず、被検出物質を定量することができ、しかも固相と液相に基づく反応の遅延問題を解決して、高速化を実現するための方法が提案されている。詳細には、1次抗体を磁性粒子、2次抗体を蛍光色素にて標識し、基板上に1次抗体を固定することなく、液相中にて、1次抗体−被検出物質−1次抗体結合体を形成させ、この結合体を磁石を用いて局在化させることにより未反応の2次抗体と分離し、洗浄工程を経ることなく、局在化させた結合体に対してエバネッセント光を照射して蛍光信号を測定する方法が開示されている。
【0010】
なお、この特許文献4においては、明細書段落[0030]に、液体試料中における分散性の点から、つまり粒子同士が自己凝集しないようにするという観点から、磁性粒子の大きさが100nm(0.1μm)以下が好ましいと記載されている。
また同様に、特許文献5においても、磁性粒子を用いたセンシング方法が提案されており、磁性粒子として、粒子径が100nm以下の微粒子を用いる例が挙げられている。
【0011】
しかしながら本発明者の実験によれば100nm以下の磁性粒子では、結合体の速やかな局在化(濃縮)、すなわち実用レベルの数分程度での濃縮を再現することができなかった。
【0012】
一方、特許文献6には、数十nmの磁性粒子を用い、磁性粒子単体と、該磁性粒子が被検出物質とを含む複合体との磁石に対する応答性の違い、すなわち濃縮速度の違いにより、両者を分離して、複合体からの信号測定を行う方法が記されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2005−77338号公報
【特許文献2】特開平10−307141号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2005/0053974号明細書
【特許文献4】特開2005−77338号公報
【特許文献5】特開平5−264547号公報
【特許文献6】特開平1−272970号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】W.Knoll他、Analytical Chemistry 77(2005), p.2426-2431
【非特許文献2】2007年春季 応用物理学会 予稿集 No.3,P.1378
【非特許文献3】Thorsten Liebermann Wolfgang Knoll, "Surface-plasmon field-enhanced fluorescence spectroscopy" ColL0ids and Surfaces A 171(2000)115-130
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、磁性粒子による局在化を用いた検出方法は、液相での反応が可能、かつ結合物質と未反応の二次抗体との分離のための洗浄工程を不要な点で、バイオ測定法として極めて魅力的でありながら、アイディアのまま実用化されてこなかった。
【0016】
この原因を鋭意研究した結果、本発明者らは、磁性粒子を用いた結合体の局在化を実用化するにあたり次のような問題点を見出した。
1)磁性粒子の保存環境等により、検出方法に使用する前に磁性粒子が磁化されて磁性粒子同士がくっついてしまい、使用時に分散性が低下してしまう恐れがある。
2)磁性粒子が金属材料を含む場合、磁性粒子が光応答性標識と近接すると、光信号を吸収してしまう現象、所謂金属消光が生じ、検出される光信号量を低下させてしまう場合があり、信号の定量性の低下(バラツキ)に繋がる。
3)磁性粒子が鉄酸化物を主材料とする場合、有機物等を表面修飾させるのが困難である。
【0017】
本発明は上記事情を鑑みて、上記問題を解決し、磁性粒子による結合体の局在化を利用した、実用化に耐えうる検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の検出方法は、被検出物質と特異的に結合する第1の結合物質に、磁性粒子を内包すると共に液体試料中で極性を示す官能基が表面修飾された磁性体含有誘電体粒子が付与されてなる磁性付与結合物質と、前記被検出物質と特異的に結合する第2の結合物質および前記被検出物質と競合して前記第1の結合物質と特異的に結合する第3の結合物質のいずれか一方の結合物質に光応答性標識が付与されてなる標識結合物質とを用意し、
被検対象である液体試料、前記磁性付与結合物質および前記標識結合物質を混合して結合反応させ、
前記磁性付与結合物質と前記標識結合物質とが混合された前記液体試料を保持する試料セル内に磁界を発生させて、該試料セル内の局所領域に、前記磁性付与結合物質を引き寄せ、
該局所領域に該磁性付与結合物質を引き寄せた状態で、該局所領域を含む所定領域のみに励起光を照射して、該所定領域に存在する前記光応答性標識から光信号を生じさせ、
該光信号を検出し、該光信号の検出量に基づいて前記液体試料中の前記被検出物質の量を求める検出方法であって、
前記磁性体含有誘電体粒子の誘電材料が前記励起光に対して透明であり、かつ、前記磁性体含有誘電体粒子における前記磁性粒子の体積含有率が50%以下であることを特徴とする。
【0019】
前記誘電材料としては、SiO2あるいは、光透過性樹脂が好ましい。
光透過性樹脂としては、光透過性に優れるポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、シクロアレフィン系樹脂が特に好ましい。
【0020】
前記体積含有率が25%以下であることがより好ましい。
【0021】
前記磁性体含有誘電体粒子における前記官能基としては、塩基性官能基としてアミノ基、第四級アンモニウム基等を用いてもよいし、マイナス電荷に帯電するように酸性官能基、例えばカルボキシル基、スルホン酸基やリン酸基等を用いてもよい。
【0022】
ここで、サンドイッチ法によるアッセイの場合、前記磁性付与結合物質と、前記被検出物質と、前記第2の結合物質に光応答性標識が付与されてなる前記標識結合物質との結合体(所謂、サンドイッチ結合体)の最大長が200nm以上であることが好ましい。また、競合法によるアッセイの場合、前記磁性付与結合物質と、前記第3の結合物質に光応答性標識が付与されてなる前記標識結合物質との結合体(所謂、競合結合体)の最大長が200nm以上であるが好ましい。ここで、最大長とは、結合体の長径であり、基本的に該結合体を構成する複数要素をつなぎあわせた合計の長さとする。
【0023】
前記磁性体含有誘電体粒子の粒子径は、100nm以上、好ましくは150nm以上、1μm以下であることが好ましい。
【0024】
誘電体粒子に内包される磁性粒子は、単数であっても複数であってもよく、磁石等により生じる磁界により前記局所領域に引き寄せられる磁性体であればよいが、特には、鉄系磁性材料または白金系磁性材料からなるものが好ましい。
【0025】
前記励起光として、赤外光を用いることが望ましい。
【0026】
前記光応答性標識としては、励起光の照射により光信号として蛍光を生じるものであってもよいし、励起光の照射により光信号として散乱光を生じるものであってもよい。さらには、励起光の照射により光信号として局在プラズモンを生じるものであってもよい。具体的には、蛍光色素分子、蛍光色素分子を誘電体材料により内包する蛍光微粒子、または金属微粒子等が挙げられる。金属微粒子は、励起光の照射を受けて散乱光を生じ、また、その表面に局在プラズモンを生じうる。この場合、散乱光を光信号として検出するようにしてもよいし、局在プラズモンを光信号として、該局在プラズモンに起因する放射光を検出するようにしてもよい。
【0027】
前記試料セルとして、前記液体試料と接触する試料接触面を有する壁の一部が透明な誘電体プレートにより構成されてなるものを用い、該試料接触面近傍領域を、前記局所領域とし、前記誘電体プレートからなる壁の外側から、該誘電体プレートの前記試料接触面に対して全反射条件で光を照射することにより、該試料接触面側に生じるエバネッセント光を、前記励起光として用いることができる。
【0028】
前記試料セルとして、前記誘電体プレートの前記試料接触面に金属膜が成膜されてなるものを用いてもよし、さらに該金属膜上に光導波層を備えてなるものを用いてもよい。
【0029】
前記光信号を検出する方法としては、該光信号を直接検出してもよいし、該光信号を間接的に検出してもよい。
【0030】
光信号を間接的に検出する方法としては、前記試料セルとして、金属膜が成膜された誘電体プレートを備えたものを用いた場合、前記励起光の照射により前記光応答性標識から生じた光信号が前記金属膜に表面プラズモンを励起し、該表面プラズモンの励起に起因して放射される放射光を検出することにより間接的に前記光信号を検出する方法が好適である。また、前記試料セルとして、金属膜上に光導波層を備えた誘電体プレートを備えたものを用いた場合、前記励起光の照射により前記光応答性標識から生じた光信号が前記光導波層の光導波モードを励起し、該光導波モードの励起に起因して放射される放射光を検出することにより間接的に前記光信号を検出する方法が好適である。
光応答性標識が蛍光を生じるものである場合、蛍光が光信号として金属膜に表面プラズモンを、あるいは光導波層の光導波モードを励起する。一方、光応答性標識が金属微粒子である場合、励起光により金属微粒子の表面に生じる局在プラズモンが光信号として、金属膜に表面プラズモンを、あるいは光導波層の光導波モードを励起する。
【0031】
本発明の磁性体含有誘電体粒子は、磁性粒子を内包すると共に、液体試料中で極性を示す官能基が表面修飾されており、誘電体材料が前記励起光に対して透明であり、かつ、前記磁性粒子の体積含有率が50%以下であることを特徴とするものである。
【0032】
前記誘電体材料はSiO2あるいは、光透過性樹脂が好ましい。
光透過性樹脂としては、光透過性に優れるポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、シクロアレフィン系樹脂であることが好ましい。
【0033】
前記磁性粒子の体積含有率は25%以下であることが好ましい
【0034】
前記官能基がカルボキシル基であることが特に好ましい。粒子径は100nm以上、1μm以下であることが好ましい。また、前記磁性粒子が、鉄系磁性体材料または白金系磁性体材料からなるものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0035】
本発明の検出方法によれば、磁性粒子を誘電体内に内包すると共に、液体試料中で極性を生じる官能基が表面修飾された磁性体含有誘電体粒子を用いており、保存環境により、誘電体粒子中の磁性粒子が磁化されて、誘電体粒子同士がくっついたとしても、液体試料中では、表面の官能基の極性により反発して分散性を向上させることができる。また、磁性粒子が誘電体内に内包されているため、磁性粒子自体と光応答性標識とをある程度離間させることができるので磁性粒子に金属材料が用いられている際に生じる金属消光を抑制することができ、信号強度の低下および信号量のバラツキを抑制することができる。さらに、磁性粒子の表面に表面修飾させる場合と比較して、誘電体粒子への有機物等の表面修飾は容易に行うことができるため、官能基の表面修飾および第1の結合物質の付与を磁性体材料に関わらず容易に行うことができる。
【0036】
また、磁性体含有誘電体粒子の誘電体として励起光に対して透明なものを用いているので、誘電体粒子の誘電体材料部分においては励起光が吸収等により減衰されるのを抑制することができる。さらに、磁性体含有誘電体粒子における磁性体の含有率を50%以下であるので、試料セル内の局所領域に、磁性付与結合物質を引き寄せた際に、磁性体による局所領域上における屈折率の変化や着色を抑制すると共に、磁性体粒子による散乱光を抑制することができ、光信号のS/Nを向上させることができる。
【0037】
特に、サンドイッチ法によるアッセイの場合、サンドイッチ結合体の最大長を200nm以上とすれば、また、競合法によるアッセイの場合、競合結合体の最大長を200nm以上とすれば、濃縮性を高め、測定時間を実用レベル(数分程度)にすることができる。
【0038】
さらに、磁性体含有誘電体粒子の粒子径を100nm以上とすれば、結合体としての大きさを容易に200nm以上とすることができるため、濃縮性を高め、測定時間を実用レベル(数分程度)にすることができる。
【0039】
[背景技術]の項に述べた通り、本発明者らの実験によれば、100nm以下の微粒子を用いた場合、ブラウン運動による擾乱を大きく受けるために、濃縮速度が遅く測定に十分な濃縮が行われるまでに時間がかかりすぎるという問題があった。他方、特許文献1に、分散性の点から粒子径は100nm以下が望ましい、と記載されている通り、100nmを超えると分散性が低下するという問題がある。すなわち、磁性粒子の分散と濃縮(ブラウン運動に勝つ力を得る)とを両立することが極めて困難であった。これに対し、本発明においては、液体試料中で極性を有する官能基を表面に備えた磁性体含有誘電体粒子を用いたことにより、液体試料中での分散性を担保しつつ、結合体の最大長を200nm以上とし、磁性体含有誘電体粒子の粒子径を100nm以上、1μm以下程度とすることにより濃縮性を高めることができ、分散性と濃縮性を両立させて実用性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】磁性体含有誘電体粒子の構成を示す模式図
【図2】磁気濃縮指数の測定方法を説明するための図
【図3A】磁気濃縮指数の粒子径依存性を示す図
【図3B】磁性体含有微粒子の吸光スペクトルを示す図
【図4A】磁性体含有誘電体粒子の磁気濃縮前の分散状態を示す暗視野顕微鏡写真
【図4B】磁性体含有誘電体粒子の磁気濃縮時の状態を示す暗視野顕微鏡写真
【図4C】磁性体含有誘電体粒子の磁気濃縮後の再分散状態を示す暗視野顕微鏡写真
【図5A】磁性粒子の磁気濃縮前の分散状態を示す暗視野顕微鏡写真(比較例)
【図5B】磁性粒子の磁気濃縮時の状態を示す暗視野顕微鏡写真(比較例)
【図5C】磁性粒子の磁気濃縮後の再分散状態を示す暗視野顕微鏡写真(比較例)
【図6A】濃縮時のセンサ部における磁性粒子と蛍光色素の数を示す概念図(比較例)
【図6B】濃縮時のセンサ部における磁性体含有微粒子と蛍光色素の数を示す概念図
【図7】局所領域上の屈折率と全反射との関係についてのシミュレーション結果を示す図
【図8】本発明の第1実施形態の検出方法を実施するための検出装置を示す概略構成図
【図9A】本発明の第1実施形態による検出方法の手順を示す図(磁界印加前)
【図9B】本発明の第1実施形態による検出方法の手順を示す図(磁界印加後)
【図10】本発明の第2実施形態の検出方法を実施するための検出装置を示す概略構成図
【図11】本発明の第3実施形態の検出方法を実施するための検出装置を示す概略構成図
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、各図において説明の便宜上、各部の寸法は実際のものとは異ならせている。
【0042】
「磁性体含有誘電体粒子」
まず、本発明の検出方法で用いられる磁性体含有誘電体粒子Pについて説明する。図1に示すように、磁性体含有誘電体粒子Pは、1または複数の磁性粒子Mを内包すると共に、液体試料中で極性を示す官能基が表面修飾されている。
【0043】
磁性粒子Mの形状は特に制限なく、球状、ロッド状等が挙げられるが、粒子径は100nm以下であるものが好ましく、複数内包させる場合には15〜40nm程度の大きさのものが好適である。磁性粒子の材質は、特に制限されず、四三酸化鉄、三二酸化鉄、各種フェライト、または、鉄、マンガン、ニッケル、コバルト、クロム、白金(Pt)などの金属およびこれらの合金からなる磁性体が挙げられる。特には、酸化鉄などの鉄系磁性体材料、白金を含む合金などの白金系磁性体材料が好ましい。
【0044】
誘電体材料としては、後述する励起光に対して透明な材料であればよく、SiO2や光透過性樹脂が特に好ましい。光透過性樹脂材料としてはポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、シクロオレフィン系樹脂などが挙げられる。ここで、励起光に対し透明とは、励起光ピーク波長に対し、透過率が85%以上であることをいうこととする。
【0045】
官能基としては、図1に示すように、マイナス電荷に帯電するように酸性官能基であるカルボキシル基を用いるものとしたが、その他、液体試料中で極性を示すものであればよく、塩基性官能基としてアミノ基、第四級アンモニウム基等を用いてもよく、酸性官能基として、スルホン酸基やリン酸基等を用いても良い。
【0046】
磁性体含有誘電体粒子Pの形状は特に制限なく、球状、ロッド状などが挙げられる。また粒子径は、100nm以上、さらには150nm以上、1μm以下であることが好ましい。なお、ここで粒子径とは粒子の最大径をいうものとする。
【0047】
磁性体含有誘電体粒子Pの好ましい粒子径は以下の実験から導き出したものである。
図2に示すように、実験では、溶液5中に、磁性体含有誘電体粒子Pを分散させた後、サンプル容器6の底面下方に磁石7を配置して磁気分離(濃縮)処理を行った。サンプル容器6の底面厚さは1mm程度であり、磁石7による底面での磁束密度は144.1mTであった。その磁気分離処理前後において、サンプル溶液5の上澄み液をピペット8で吸引し、その上澄み液について、波長500nmでの吸光度(透明度)を測定した。
【0048】
磁気分離処理前後の吸光度としては、磁石を配置してから1分後のサンプル溶液についての吸光度Aと、磁石を配置する前のサンプル溶液についての吸光度Bとを測定した。測定値から磁気濃縮指数=100×(B−A)/B(%)を求めた。
【0049】
磁性体含有誘電体粒子Pの濃縮能力(磁気濃縮指数)の粒子径依存性を図3に示す。図3において、縦軸は磁気濃縮指数であり、数値が大きいほど濃縮能力が高い(すなわち濃縮処理後の透明度が高い)ことを示している。
【0050】
なお、同様に誘電体に含有されていない磁性体粒子についても同様の測定を行った。その結果を図3に併せて示している。
【0051】
図3に示すように、粒子径100nm以下の場合、磁気分離処理1分では誘電体粒子Pはほとんど濃縮(局在化)されず、一方、粒子径100nmを超えると徐々に濃縮指数が大きくなり、粒子径が150nm程度で濃縮指数が約50%、粒子径200nmで80%、300nm以上の場合、磁気分離処理1分でほぼ透明度磁気濃縮指数がほぼ100%となっており、濃縮が速やかになされていることが明らかになった。
【0052】
すなわち、上記実験から粒子径は200nm以上でないと、実用的なレベル(ここでは1分と想定した。)での粒子の局在化が困難であると考えられる。なお、200nm以上であれば、1μm程度までは十分に実用レベルと考えられるが、大きくなりすぎると、分散性が低下するという問題がある。分散性の観点からは、粒子径は小さいほどよい。したがって、粒子径は200nm程度が最適である。
【0053】
上記濃縮能力については、誘電体に含有されていない磁性体粒子であっても同様の結果が得られた。
本実験においては、各粒子径の磁性体含有誘電体粒子としては、いずれも磁性体の体積含有率が30数%程度のものを用いている。また、磁性体粒子は体積含有率が100%に相当する。磁性体の体積含有率に関わらず同様の結果が得られており、濃縮においては、磁性体の含有率が30数%程度であっても十分に濃縮可能であるといえると同時に、粒子径のサイズが重要なファクターであることが明らかである。
【0054】
但し、上記測定は磁性体含有誘電体粒子のみで濃縮能力を測定している。現実には、抗原抗体反応によるサンドイッチ結合体あるいは競合結合体を形成した状態で、濃縮させることから、このサンドイッチ結合体あるいは競合結合体などの結合体全体でのサイズ(最大長)が200nm以上であればよいと考えられる。すなわち、磁性体含有誘電体粒子の粒子径は、200nmより小さいものであっても、実用レベルの濃縮速度を達成可能であり、アッセイ法等に応じて標識結合物質等との結合体としてのサイズが200nm以上となる粒子径であればよい。
【0055】
被検出物質がT4抗体である場合、サンドイッチ結合体を構成する抗体は15nm程度、抗体のサイズは数nm(〜10nm)程度となる。例えば、磁性体含有誘電体粒子が100nmの場合、このときに用いる標識結合物質の標識として、100nm程度の蛍光ビーズを用いることで、結合体の最大長が、200nm以上が容易に実現できる。また、好ましくは磁性体含有誘電体粒子が160nm程度であれば、標識結合物質の標識として、cy−3、cy−5のような、蛍光色素(〜1nm)を用いても、最大長が200nm程度となる。
【0056】
また、粒子径900nmの磁性体含有誘電体粒子について、磁気分離処理前後の分散液における吸光度を測定した結果を図3Bに示す。吸光度の測定は上記と同様の方法で行った。
図3Bに示すように、粒子径900nmの磁性体含有誘電体粒子は速やかに濃縮され、上澄みは濃縮後透明化することが分かる。一方、磁気分離処理前の吸光度には波長依存性があることが明らかになった。なお、本実験は、鉄系の磁性体材料を用いて行ったが、白金系磁性材料を用いた場合にも、ほぼ同様の波長依存性が観測される。
【0057】
波長700nm以上の赤外光波長において吸光度が小さくなることから、本発明の検出方法においては、励起光として赤外光を用いることが好ましい。光信号検出時には、濃縮されるため上澄み液は透明化するが、センサ部においては、引き寄せられた磁性体含有誘電体が多数存在するため、磁性体による吸収度の小さい波長が適するからである。
【0058】
磁性体含有誘電体粒子の分散性について説明する。
図4A〜4Cは、本発明に用いられる粒子径150nmの磁性体含有誘電体粒子の溶液中への分散時(図4A)、磁界印加による磁気濃縮時(図4B)、その後磁界の印加を排除した再分散時(図4C)の粒子の状態についての暗視野顕微鏡写真である。
【0059】
比較のため、図5A〜図5Cに、磁性体含有誘電体粒子と同一粒子径の磁性粒子について、溶液中への分散時(図5A)、磁界印加による磁気濃縮時(図5B)、その後磁界の印加を排除した再分散時(図5C)の粒子の状態についての暗視野顕微鏡写真を示す。なお、磁性体含有誘電体粒子と磁性粒子とは、それぞれに好適かつ公知の文献等にて広く知られた方法で、表面修飾されている。すなわち、磁性体含有誘電体粒子は特開2007−45982号公報の段落[0003]、Gang Xie 他、J. Appl. Polm. Sci. 87, (2003) pp.1733-1738、日方幹雄、エアロゾル研究 22(2007),pp.282-288のpp.283「3.1 粒子の合成」の章に記されている「スチレンのような荷電を有しないモノマーを、アクリル酸のようなカルボキシル基を有するモノマーと共重合することでカルボキシル基を有する磁性ポリマー粒子が合成する」方法を用い、磁性粒子の場合は、「成田麻子他,高分子論文集 65(2008), pp.321-333 pp.325 」の「3.1分散性の制御」の章、およびその参照文献59)である「D. Maity, D.C. Agrawal ,Journal of Magnetism and Magnetic Materials 308 (2007) 46-55」に記載された方法を用いて、それぞれ官能基であるカルボキシル基を表面修飾させている。
図4A〜4Cおよび図5A〜5Cにおいて、明るく(白く)表示されているのが粒子である。
【0060】
図5Aから、磁性粒子は、最初の分散時においても部分的な凝集が生じており、一方、磁性体含有誘電体粒子は、最初の分散時は、ほとんど凝集することなく、均一に分散されている。
【0061】
図4Bおよび図5Bから、磁界が印加されると、磁性体含有誘電体粒子も磁性粒子も磁力線に沿って濃縮され局在化していることがわかる。なお、磁性体含有誘電体粒子は、磁性粒子と比較して磁力線に沿ってより線状に局在化している。
【0062】
図5Cから、磁界が解除されたとき、磁性粒子は互いにくっつき合った状態となっているのが認められる。一方、図4Cは全体的に明るく1粒ずつの粒子としては認識しがたいが、磁性体含有誘電体粒子は、互いにくっつき合うことなく、再分散が開始され雲状になっていることがわかる。
【0063】
磁性粒子の分散性が磁性体含有誘電体粒子の分散性が低いのは、それぞれに好適な表面修飾方で官能基を修飾した場合でも、磁性粒子に表面に修飾される官能基の絶対数が磁性体含有誘電体粒子のそれに較べ格段に少ないために、官能基の極性による粒子同士の反発よりも磁化による引力が大きいことに起因すると考えられる。
【0064】
このように、磁性体含有誘電体粒子は、磁性粒子と比較して非常に分散性が高く、保存環境等により一旦磁化される場合があったとしても、試料液中においては凝集することなく分散させることができると考えられる。
【0065】
以下に説明する本発明の検出方法においては、上述の磁性体含有誘電体粒子を用いていることから、表面修飾が容易であり、高い分散性を得ることができる。また、光信号検出の際に光応答性標識が励起された際、光応答性標識が金属材料に近接している場合、エネルギー移動に伴う金属消光が生じるが、磁性体含有誘電体粒子においては、磁性粒子が誘電体に内包されているため、光応答性標識からある程度の距離をおくことができ、金属消光を抑制することができる。
【0066】
さらに、抗原抗体反応等の免疫測定においては、抗原(被検体)に対し、反応を充分に行われるために、抗体(磁性付与結合物質)を過剰に添加するのが一般的である。図6Aは、基板9上における、抗体に磁性粒子を付与したものを用いた場合の磁性粒子Mと蛍光色素(あるいは蛍光色素含有粒子)Oとの数の関係を概念的に示したものである。単純に、ダイナミックレンジを3桁確保しようとするとき、その下限で検出されるべき検体数に対して、少なくとも1000倍以上、一般には10万倍程度の抗体を添加する。このとき、10万個の磁性粒子に対し光信号応答性標識の数は1個であり、励起光の磁性粒子による散乱光の方が標識からの光信号(例えば、蛍光色素からの蛍光量)よりも大きくなってしまう。また、磁性粒子が密に並ぶことによって、センサ部において着色(マグネタイトの場合茶色、白金系磁性体の場合黒色)して屈折率が上昇し、全反射光を照射した場合にエバネッセント光が発生しなくなる場合がある。
【0067】
図3に示した通り、ブラウン運動に勝つための磁石による濃縮能力は、磁性体の体積含有率100%の磁性粒子と磁性体の体積含有率が30数%の磁性体含有誘電体粒子とでほとんど差がなく、その粒径に大きく依存している。上述の磁性粒子による散乱光や着色の問題を回避するためには、磁性体含有誘電体粒子における磁性体の体積含有率を小さくすることが好ましい。
【0068】
図6Bは、本発明の磁性体含有誘電体粒子を抗体に付与したものを用いた場合の、基板9上における、磁性体含有誘電体粒子Pと蛍光色素(あるいは蛍光色素含有粒子)Oとの数の関係を概念的に示したものである。図6Aの場合と比較すると磁性体の量が少なくなるため、散乱光や着色が抑制されると考えられる。
特には、磁性体含有誘電体粒子における磁性体の体積含有率は50%以下、さらには、25%以下であることが好ましい。
【0069】
本発明者は、以下のシミュレーションによって、散乱光や着色の影響を抑制するための、好ましい体積含有率を明らかにした。
【0070】
基板上に磁性体含有誘電体粒子が密に配置(具体的には、φ200nmの粒子を最密充填に近い、70%(基板表面に対する面積比)で配置)された状態で励起光の全反射角を求めるシミュレーションを行った。結果を図7に示す。
シミュレーションは、基板として比較的高屈折率な材料であるSF2(n=1.65)を用いた場合、および一般的な材料であるBK7(n=1.52)を用いた場合について行った。
また、磁性体として四三酸化鉄(n=2.42)を用い、誘電体材料としてSiO(n=1.44)を用いるものとし、励起光として波長633nmのレーザ光を用いるものとした。
【0071】
図7に示すように、基板としてSF2を用いたとき、磁性体の体積含有率が50%を超えると、いかなる入射角に対しても全反射をしなくなることが明らかになった。さらに、基板としてBK7を用いたとき、磁性体の体積含有率が25%を超えると、いかなる入射角に対しても全反射しなくなることが明らかになった。
上述の結果から、屈折率が比較的高い材料を基板として用いれば、体積含有率が50%程度までは許容できることがわかった。また、実用的には、一般的な材料を基板として用いることが好ましいことから、体積含有率25%以下が望ましいと考えられる。励起光波長、基板材料、磁性体材料は、上記に限るものではないが、実用上想定される材料については、各材料の組み合わせ等を検討すると、50%以下、好ましくは25%以下の体積含有率の磁性体を含有する磁性体含有誘電体粒子を用いればよいと考えられる。
【0072】
「第1実施形態の検出方法」
本発明の第1の実施形態にかかる検出方法は、被検出物質である抗原が検査対象である生体試料(尿、血液、鼻水)などに含まれているか否か、および/またはその量(濃度)を検出するバイオセンシング方法である。図8は、本検出方法を実施するための検出装置1の概略構成を示す全体図であり、図9A、図9Bは、検出方法の手順を説明するための図である。
【0073】
本検出方法において用いられる試料セル10は、液体試料Sと接触する試料接触面を有する壁の一部である、底面が透明な誘電体プレート11により構成されてなり、その誘電体プレート11の試料接触面側には、金属膜12が蒸着等により成膜形成されている。なお、この金属膜12が設けられた領域はセンサ部14を構成する。金属膜12の厚みは、金属膜12の材料と、励起光の波長により表面プラズモンが強く励起されるように適宜定めることが望ましい。例えば、励起光として780nmに中心波長を有するレーザ光を用い、金属膜として金(Au)膜を用いる場合、金属膜の厚みは50nm±20nmが好適である。さらに好ましくは、47nm±10nmである。なお、金属膜は、Au、Ag、Cu、Al、Pt、Ni、Ti、およびこれらの合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属を主成分とするものが好ましい。
【0074】
図8に示す検出装置1は、試料セル10の所定領域のみに励起光を照射するための励起光照射光学系20と、試料セル10の上方に配置され、蛍光を検出する光検出器30と、試料セル10の金属膜12近傍の局所領域に、試料セル10内で形成されたサンドイッチ結合体を、引き寄せる(濃縮する)ために、磁界を印加する磁界印加手段35とを備えている。
【0075】
励起光照射光学系20は、試料セル10の誘電体プレート11の裏面から、レーザ光L0を誘電体プレート11と金属膜12との界面で全反射する入射角度で、レーザ光L0を入射させることにより、金属膜12上に励起光としてのエバネッセント光を生じさせるものである。エバネッセント光の滲み出し領域Eはレーザ光L0の界面から波長程度であり、この滲み出し領域が、励起光が照射される所定領域に相当する。励起光照射光学系20は、レーザ光L0を出力する半導体レーザ(LD)等からなる光源21と、誘電体プレート11に一面が接触するように配置されたプリズム22とを備えている。プリズム22は、誘電体プレート11と金属膜12との界面でレーザ光L0が全反射するように誘電体プレート11内にレーザ光L0を導光するものである。なお、プリズム22と誘電体プレート11とは、一体的に構成されていてもよいし、屈折率マッチングオイルを介して接触されていてもよい。光源21は、レーザ光L0が、プリズム22を介して、誘電体プレートと金属膜との界面に、全反射角以上で、かつ金属膜で表面プラズモン共鳴を生じさせる特定の角度で入射するように配置構成されている。レーザ光L0は、前述の特定の角度を含むファンビームとして入射させるようにしてもよい。光源21とプリズム22との間に必要に応じて導光部材をさらに配置してもよい。なお、レーザ光L0は、表面プラズモンを誘起するようにp偏光で界面に対して入射される。
【0076】
光検出器30としては、具体的には、CCD、PD(フォトダイオード)、フォトマルチプライア、c−MOS等を適宜用いることができる。
【0077】
磁界印加手段35は、電磁石であってもよいし、永久磁石であってもよい。電磁石を用いれば、磁性粒子を引き寄せたいときに必要に応じてコイルに電流を流し磁界を生じさせることができる。永久磁石を用いる場合には、磁性粒子を引き寄せたいときに、図8に示すセンサ部14下方の位置に磁石を配置し、磁界を印加したくないときには、センサ部近傍に磁界が生じない程度に磁石を離間させればよい。永久磁石としては、アルニコ磁石、フェライト磁石、MK鋼、KS鋼、サマリウムコバルト磁石、ネオジム磁石などが挙げられるが、これらに限るものではない。
【0078】
本実施形態の検出方法によるバイオセンシング方法の手順を説明する。図9Aおよび図9Bは、試料セルへの磁界印加前後を示す模式図である。
【0079】
本検出方法においては、まず、被検出物質Aと特異的に結合する第1の結合物質B1に、上述した、磁性粒子Mを内包すると共に液体試料中で極性を示す官能基が表面修飾された磁性体含有誘電体粒子Pが付与されてなる磁性付与結合物質Bmと、被検出物質Aと特異的に結合する第2の結合物質B2に光応答性標識Oが付与されてなる標識結合物質Boとを用意する。ここで、第1の結合物質B1および第2の結合物質B2は、被検出物質Aである抗原に対し、互いに別の部位(エピトープ)に結合する1次抗体および2次抗体である。抗体を磁性体含有誘電体粒子Pに固定するには、表面修飾されているカルボキシル基を利用したアミンカップリング法を用いることができる。
【0080】
光応答性標識Oとしては、蛍光色素分子を用いる。なお、本発明において、光応答性標識Oは、励起光の照射を受けて光信号を生じるものであれば蛍光色素分子に限るものではなく、蛍光色素分子が透明材料で内包されてなる蛍光微粒子、量子ドットなど、励起光の照射により蛍光を生じるものの他、金属微粒子のような励起光の照射により散乱光や局在プラズモンを生じるものを用いてもよい。
【0081】
次に、図9Aに示すように、被検対象である液体試料S、磁性付与結合物質Bmおよび標識結合物質Boを混合して結合反応させる。なお、液体試料Sへの磁性付与結合物質Bm、標識結合物質Boの混合のタイミングは特に制限されず、同時であってもよいし、逐次であってもよい。液体試料中に抗原Aが存在する場合、磁性付与結合物質Bm(1次抗体B1)−抗原A−標識結合物質Bo(2次抗体B1)のサンドイッチ結合体が形成される。
【0082】
その後、図9Bに示すように、磁性付与結合物質Bmと標識結合物質Boとが混合された液体試料Sを保持する試料セル10内に磁界を発生させて、試料セル10内の局所領域である金属膜12表面に、磁性付与結合物質Bmを引き寄せ、金属膜12表面に磁性付与結合物質Bmを引き寄せた状態で、光信号の検出を行う。
【0083】
磁性付与結合物質Bmを局所領域に引き寄せると、結果としてその磁性付与結合物質Bmとサンドイッチ結合体を構成している抗原Aおよび標識結合物質Boがその局所領域を含む所定領域内に引き寄せられることとなる。一方、未反応の標識結合物質Boは、所定領域へ引き寄せられることなく、液体試料中を浮遊している。すなわち、混合された標識結合物質のうち、所定領域には抗原Aと反応した標識結合物質Boのみが局在化されている。なお、液体試料中を浮遊している未反応の標識結合物質Boは、測定時間短縮の観点から未洗浄の方が好ましいが、用途によっては洗い流しても構わない。
【0084】
そこで、局所領域を含む所定領域のみに励起光を照射して、所定領域に存在する光応答性標識Oから光信号を生じさせれば、抗原と結合した標識のみからの信号を取得することができる。
【0085】
励起光照射光学系20により、レーザ光L0を、誘電体プレート11と金属膜12との界面に全反射条件で入射させる。レーザ光L0が界面で全反射する際、金属膜12表面にはエバネッセント光が滲み出すと共に、表面プラズモンが生じる。表面プラズモンによりバネッセント光が増強され、この増強されたエバネッセント光により、光応答性標識Oである蛍光色素分子が励起されて蛍光Lfが生じる。すなわち、本実施形態において、エバネッセント光が光応答性標識である蛍光色素分子を励起する励起光であり、金属膜12表面を含むエバネッセント光の滲み出し領域Eが所定領域に相当する。
【0086】
光検出器30により蛍光Lfを検出する。蛍光Lfも表面プラズモン共鳴による電場増強の効果を受け強度が強められるため、S/Nのよい信号を取得することができる。
【0087】
この蛍光Lfの検出量に基づいて、被検出物質の量を求める。被検出物質の量(濃度)は、予め用意されている、蛍光の検出量と濃度との検量線に基づいて求めることができる。なお、ここでの被検出物質の量を求めることには、被検出物質の存在の有無を求めることも含む。
【0088】
本実施形態の検出方法は、液相において結合反応を行うため、固相との結合を含む結合反応を行う場合と比較して反応速度が速い。また、粒子の分散性がよいので、反応速度のさらなる向上効果が得られる。既述の磁性体含有誘電体粒子を用いて、サンドイッチ結合体をセンサ部へ効果的に引き寄せることにより、被検出物質である抗原と反応した標識結合物質と、未反応の標識結合物質とを容易に分離することができる。100nm以上の粒子径の磁性体含有誘電体粒子を用い、サンドイッチ結合体を200nm以上とすれば、磁界印加時の濃縮速度(局所領域への局在化の速度)を実用レベルとすることができる。さらに、光信号検出の際に光応答性標識が励起された際、光応答性標識が金属材料に近接している場合、エネルギー移動に伴う金属消光が生じるが、本発明の磁性体含有誘電体粒子においては、磁性粒子が誘電体に内包されているため、光応答性標識からある程度の距離をおくことができ、金属消光を抑制することができ、光信号のS/Nの向上効果、信号量のバラツキ抑制効果も得られる。
【0089】
なお、本実施形態においては、誘電体プレート11上に金属膜12を備え、表面プラズモン共鳴による電場増強の効果が生じるようにしてS/Nの向上を図っているが、金属膜12がなく、単なるエバネッセント蛍光法においても、本発明の検出方法は適用でき、磁性体含有誘電体粒子を用いた場合の上記効果を同様に得ることができる。
【0090】
「第2実施形態の検出方法」
第2の実施形態の検出方法およびその検出方法を実施するための検出装置2を図10を参照して説明する。以下の図面において、第1実施形態と同じ構成要素には同じ参照符号を付し、詳細な説明を省略する。図10に示す検出装置2は、光検出器30の配置が、第1の実施形態の装置1と異なり、光信号の検出方法が異なる。
【0091】
本実施形態においては、光検出器30が、蛍光が金属層に新たに表面プラズモンを誘起することによって誘電体プレート11の金属膜形成面と反対の面側から放射される、新たに誘起された表面プラズモンからの放射光Lpを検出するように、試料セル10のセンサ部14下方に配置されている。
【0092】
本実施形態の検出方法によるセンシングの手順は第1の実施形態と同様である。光応答性標識Oからの光信号である蛍光を直接検出するのではなく、該蛍光が金属膜12表面に新たに表面プラズモンを励起することにより生じる放射光Lpを検出することにより、間接的に光信号を検出する点で第1の実施形態と異なる。
【0093】
本実施形態の方法では、試料セル10において、液体試料Sと磁性付与結合物質Bmと標識結合物質Boを混合し、結合反応によりサンドイッチ結合体を形成させた後、磁石35を誘電体プレート11の下方に配置することにより、サンドイッチ結合体をセンサ部14に引き寄せる。サンドイッチ結合体をセンサ部14に引き寄せた状態で、第1の実施形態と同様に、励起光照射光学系20によりレーザ光L0を照射する。
【0094】
励起光照射光学系20により、レーザ光L0を、誘電体プレート11と金属膜12との界面に全反射条件で入射させる。レーザ光L0が界面で全反射する際、金属膜12表面にはエバネッセント光が滲み出すと共に、表面プラズモンが生じる。表面プラズモンによりバネッセント光が増強され、この増強されたエバネッセント光により、光応答性標識Oである蛍光色素分子が励起されて蛍光Lfが生じる。この蛍光Lfは表面プラズモンにより増強されており、この増強された蛍光Lfにより、金属膜12の表面に新たな表面プラズモンが生じ、該表面プラズモンに起因する放射光Lpが放射される。この放射光Lpを誘電体プレート11の下面側から特定の角度で射出され、これを光検出器30により検出することにより、標識結合物質と結合した被検出物質の有無および/または量を検出することができる。
【0095】
放射光Lpは蛍光が金属膜の特定の波数の表面プラズモンと結合する際に生じるものであり、蛍光の波長に応じてその結合する波数は定まり、その波数に応じて放射光の出射角度が定まる。通常レーザ光L0の波長と蛍光の波長とは異なることから、蛍光により励起される表面プラズモンは、レーザ光L0により生じた表面プラズモンとは異なる波数のものとなり、レーザ光L0の入射角度とは異なる角度で放射光Lpは放射される。
【0096】
本実施形態においても、磁性体含有誘電体粒子Pと第1の結合物質Bとからなる磁性付与結合物質Bmを用いたアッセイを行い、磁性体含有誘電体粒子Pを磁石等の磁界印加手段によりセンサ部に引き寄せた状態で蛍光を生じさせ、この増強された蛍光に起因する放射光を検出するので、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0097】
さらに、本実施形態では、センサ表面で生じる蛍光に起因する光をセンサ裏面側から検出するので、蛍光Lfが光吸収の大きい溶媒を通過する距離を数十nm程度と削減することができる。したがって、例えば血液における光吸収をほぼ無視することができ、血液を遠心分離し赤血球などの着色成分を除去したり、血球フィルタを通して血清あるいは血漿状態にしたりするという前処理を行うことなく測定が可能となる。
【0098】
「第3実施形態の検出方法」
第3の実施形態の検出方法およびその検出方法を実施するための検出装置3を図11を参照して説明する。図11に示す第3の実施形態の検出装置3の構成は、第1の実施形態の検出装置1の構成と同じであるが、本実施形態で用いられる試料セル10’は、金属膜12の表面にさらに光導波層13を備えたセンサ部14を有している点で、第1および第2の実施形態で用いられている試料セル10と異なる。
【0099】
本実施形態の検出方法によるセンシングの手順は第1および第2の実施形態と同様であり、センサ部14上における電場増強の原理が異なるのみである。
【0100】
本実施形態においては、励起光照射光学系20により、誘電体プレートと金属膜との界面に全反射条件でレーザ光L0を入射した際、第1および第2の実施形態の場合と同様にセンサ部14上に励起光としてエバネッセント光を生じる。また、このエバネッセント光が光導波層13の光導波モードを励起することにより、光導波層13表面に滲み出してしるエバネッセント光が増強される。本実施形態においては、エバネッセント光が、この光導波モードの励起により増強される点で第1の実施形態と異なる。
【0101】
光導波層13の層厚は、特に制限されることはなく、光導波モードが誘起されるように、レーザ光L0の波長、入射角度および光導波層15の屈折率等を考慮して定めればよい。例えば、レーザ光L0として780nmに中心波長を有するレーザ光を用い、光導波層15として1層のシリコン酸化膜からなるものを用いる場合には、500〜600nm程度が好ましい。なお、光導波層15は、1層以上の誘電体等の光導波材料からなる内部光導波層を含む積層構造であってもよく、この積層構造は、金属層側から順に内部光導波層および内部金属層の交互積層構造であることが好ましい。
【0102】
なお、光導波モードによる電場増強の効果により、蛍光色素分子から生じる蛍光も増強されたものとなる。光検出器30によって、この蛍光Lfを検出することにより、標識結合物質と結合した被検出物質の有無および/または量を検出することができる。
【0103】
本実施形態においても、磁性体含有誘電体粒子Pと第1の結合物質B1とからなる磁性付与結合物質Bmを用いたアッセイを行い、磁性体含有誘電体粒子Pを磁石等の磁界印加手段によりセンサ部に引き寄せた状態で蛍光を検出するので、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0104】
なお、第3の実施形態の検出方法で用いた、光導波層13を備えた試料セル10’を用い、第2の実施形態の検出方法のように、センサ部14の下方からの放射光を検出するよう構成することもできる。その場合、光応答性標識である蛍光色素分子からの光信号である蛍光が、光導波層13の光導波モードを新たに励起し、この光導波モードの励起に伴う放射光を検出することにより光信号を間接的に検出することとなる。
【0105】
各実施形態で例示したように、本発明の検出方法は、所定領域内の光応答性標識が励起されることによって生じる光信号を検出するものであるが、光信号の検出は、光応答性標識から生じる光信号(上記実施形態では蛍光)を直接検出してもよいし、間接的に検出してもよい。
【0106】
上記各実施形態においては、全て非競合法であるサンドイッチ法によるアッセイを用いたセンシング方法を例として説明したが、本発明の検出方法はサンドイッチ法のみならず、競合法によるアッセイを用いたセンシング方法にも適用することができる。競合法によるアッセイの場合には、被検出物質である抗原Aと競合して、第1の結合物質(1次抗体)と結合する第3の結合物質(競合抗原)に、光応答性標識を付与した標識結合物質を用いればよい。
【0107】
また、上記各実施形態においては、光応答性標識として蛍光色素分子を用いたが、他の好ましい例としては、金属微粒子が挙げられる。標識として利用される金属微粒子は、少なくとも表面が金属膜で覆われた微粒子であって、光の照射により表面に局在プラズモンを生じる粒子径のものであればよい。金属微粒子の形状は特に制限なく、球状およびロッド状等が挙げられる。金属微粒子は、エバネッセント光を散乱して散乱光を生じるので、これを光信号として検出すればよい。また、あるいは、金属微粒子(または、その表面の金属膜)の材料として、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)等およびこれらの合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属を主成分とするものを用いた場合、励起光の照射により金属微粒子の表面に局在プラズモンが生じる。この局在プラズモンを光信号として、金属膜に表面プラズモンを、あるいは光導波層に光導波モードを励起させ、該励起に伴う放射光を検出するよう構成してもよい。なお、この場合、金属微粒子の粒子径は、局在プラズモンを効果的に励起することから、励起光の波長より小さいことが好ましい。
【0108】
なお、所定領域にのみ励起光を照射する励起光照射光学系としては、上記実施形態において説明した、エバネッセント光を生じさせる光学系が一般的であるが、光応答性標識として、例えば蛍光、特に2光子吸収で励起されて蛍光を発する高分子を用いる場合、非常に高いエネルギーの光が照射されなければ2光子吸収励起が生じないため、NAの大きな対物レンズ等によりレーザ光を、サンドイッチ結合体を局在化させた所定領域に収束させ、その領域でのみ2光子吸収を生じさせる励起光として機能させるよう構成された励起光照射光学系を用いてもよい。
【符号の説明】
【0109】
1、2、3 検出装置
10、10’ 試料セル
11 誘電体プレート
12 金属膜
13 光導波層
14 センサ部
20 励起光照射光学系
21 光源
22 プリズム
30 光検出器
35 磁界印加手段
A 抗原(被検出物質)
1次抗体(第1の結合物質)
2次抗体(第2の結合物質)
Bm 磁性付与結合物質
Bo 標識結合物質
0 レーザ光
Lf 蛍光
Lp 放射光
M 磁性粒子
O 光応答性標識
P 磁性体含有誘電体粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検出物質と特異的に結合する第1の結合物質に、磁性粒子を内包すると共に液体試料中で極性を示す官能基が表面修飾された磁性体含有誘電体粒子が付与されてなる磁性付与結合物質と、前記被検出物質と特異的に結合する第2の結合物質および前記被検出物質と競合して前記第1の結合物質と特異的に結合する第3の結合物質のいずれか一方の結合物質に光応答性標識が付与されてなる標識結合物質とを用意し、
被検対象である液体試料、前記磁性付与結合物質および前記標識結合物質を混合して結合反応させ、
前記磁性付与結合物質と前記標識結合物質とが混合された前記液体試料を保持する試料セル内に磁界を発生させて、該試料セル内の局所領域に、前記磁性付与結合物質を引き寄せ、
該局所領域に該磁性付与結合物質を引き寄せた状態で、該局所領域を含む所定領域のみに励起光を照射して、該所定領域に存在する前記光応答性標識から光信号を生じさせ、
該光信号を検出する検出方法であって、
前記磁性体含有誘電体粒子の誘電材料が前記励起光に対して透明であり、かつ、前記磁性体含有誘電体粒子における前記磁性粒子の体積含有率が50%以下であることを特徴とする検出方法。
【請求項2】
前記誘電材料がSiO2であることを特徴とする請求項1記載の検出方法。
【請求項3】
前記誘電材料が光透過性樹脂であることを特徴とする請求項1記載の検出方法。
【請求項4】
前記体積含有率が25%以下であることを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の検出方法。
【請求項5】
前記磁性体含有誘電体粒子の粒子径が100nm以上、1μm以下であることを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載の検出方法。
【請求項6】
前記励起光として、赤外光を用いることを特徴とする請求項1から5いずれか1項記載の検出方法。
【請求項7】
請求項1から6いずれか1項記載の検出方法において用いられる磁性体含有誘電体粒子であって、
磁性粒子を内包すると共に、液体試料中で極性を示す官能基が表面修飾されており、
誘電体材料が前記励起光に対して透明であり、かつ、前記磁性粒子の体積含有率が50%以下であることを特徴とする磁性体含有誘電体粒子。
【請求項8】
前記誘電体材料がSiO2であることを特徴とする請求項7記載の磁性体含有誘電体粒子。
【請求項9】
前記誘電材料が光透過性樹脂であることを特徴とする請求項7記載の磁性体含有誘電体粒子。
【請求項10】
前記磁性粒子の体積含有率が25%以下であることを特徴とする請求項7から9いずれか1項載の磁性体含有誘電体粒子。
【請求項11】
前記官能基がカルボキシル基であることを特徴とする請求項7から10いずれか1項記載の磁性体含有誘電体粒子。
【請求項12】
粒子径が100nm以上、1μm以下であることを特徴とする請求項7から11いずれか1項記載の磁性体含有誘電体粒子。
【請求項13】
前記磁性粒子が、鉄系磁性体材料または白金系磁性体材料からなるものであることを特徴とする請求項7から12いずれか1項記載の磁性体含有誘電体粒子。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6A】
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【図6B】
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【公開番号】特開2012−159325(P2012−159325A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17459(P2011−17459)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】