説明

検出方法および検出装置

【課題】蛍光標識の励起に起因して生じる光を検出する検出方法および装置において、検出の再現性、正確性を向上させ、安定した検出を行えるようにする。
【解決手段】センサチップの誘電体プレートの一面に形成されたセンサ部上に、被検出物質を含む試料液を接触させることにより、試料液に含有される被検出物質の量に応じた量の蛍光標識結合物質をセンサ部上に結合させ、センサ部に全反射条件が得られる入射角度で励起光を照射することにより、センサ部上に電場を発生せしめ、該電場により蛍光標識結合物質の蛍光標識を励起し、該励起に起因して生じる光を計測することにより、被検出物質の量を検出する場合において、センサ部上を撮影した画像を取得し、画像中の蛍光標識の数を計測し、計測した蛍光標識の数に基づいて被検出物質の量を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料液中の被検出物質を検出する検出方法および検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バイオ測定等において、蛍光法は高感度かつ容易な測定法として広く用いられている。蛍光法とは、特定波長の光に励起されて蛍光を発する被検出物質を含むと考えられる試料に、上記特定波長の励起光を照射し、このとき発せられる蛍光を検出することによって定性的または定量的に被検出物質の存在を確認する方法である。また、被検出物質自身が蛍光材料ではない場合、この被検出物質を有機蛍光色素等の蛍光標識で標識し、その後同様にして蛍光を検出することにより、その標識の存在をもって被検出物質の存在を確認する方法である。
【0003】
上記蛍光法において、試料を流しながら特定の被検出物質のみを効率よく検出できる等の理由から、以下に示す2つの方法により被検出物質をセンサ部表面に固定し、その後蛍光検出を行う手法が一般的である。このような手法の1つは、例えば被検出物質が抗原である場合に、センサ部表面に固定された1次抗体に、抗原を特異的に結合させ、次いで、蛍光標識が付与された、抗原と特異的に結合する2次抗体を、さらに上記抗原に結合させることにより、1次抗体―抗原―2次抗体という結合状態を形成し、2次抗体に付与されている蛍光標識からの蛍光を検出する、所謂サンドイッチ法である。また、もう1つは、例えば被検出物質が抗原である場合に、センサ部表面に固定された1次抗体に、抗原と蛍光標識が付与された2次抗体(前述の2次抗体と異なり、1次抗体と特異的に結合する)とを、競合的に1次抗体と結合させ、競合的に結合した2次抗体に付与されている蛍光標識からの蛍光を検出する、所謂競合法である。
【0004】
また、蛍光検出においてS/N比を向上できる等の理由から、上記のような方法によって間接的にセンサ部に固定された蛍光標識を、エバネッセント光により励起するエバネッセント蛍光法が提案されている。エバネッセント蛍光法は、励起光をセンサ部裏面から入射し、センサ部表面に染み出すエバネッセント光により蛍光標識を励起して、その蛍光標識から生じる蛍光を検出するものである。
【0005】
一方、エバネッセント蛍光法において、感度を向上させるため、プラズモン共鳴による電場増強の効果を利用する方法が、特許文献1、非特許文献1などに提案されている。この表面プラズモン増強蛍光法は、プラズモン共鳴を生じさせるため、センサ部に金属層を設け、この金属層に表面プラズモンを生じさせ、その電場増強作用によって、蛍光信号を増大させてS/N比を向上させるものである。
【0006】
また、エバネッセント蛍光法において、表面プラズモン増強蛍光法と同様に、センサ部の電場を増強する効果を有する方法として、光導波モードによる電場増強効果を利用する方法が非特許文献2に提案されている。この光導波モード増強蛍光分光法(OWF:Optical waveguide mode enhanced fluorescence spectroscopy)は、センサ部に金属層と、誘電体などからなる光導波層とを順次形成し、この光導波層に光導波モードを生じさせ、その電場増強効果によって、蛍光信号を増強させるものである。
【0007】
また、特許文献2および非特許文献3には、上記に示した蛍光法のように蛍光標識からの蛍光を検出するのではなく、その蛍光が金属層に新たに表面プラズモンを誘起することによって生じる放射光(SPCE: Surface Plasmon-Coupled Emission)を検出する方法が提案されている。
【0008】
以上のように、バイオ測定等における測定方法としては、種々の方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−307141号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/0053974号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】W.Knoll他、Analytical Chemistry 77(2005), p.2426-2431
【非特許文献2】2007年春季 応用物理学会 予稿集 No.3,P.1378
【非特許文献3】Thorsten Liebermann Wolfgang Knoll, "Surface-plasmon field-enhanced fluorescence spectroscopy" Colloids and Surfaces A 171(2000)115-130
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、上記のような検出装置では、一般的にはフォトダイオードやCCD等を用いてセンサ部を0次元的に計測し、センサ部において発生した蛍光量の総和を計測することにより、被検出物質の存在の確認を行っている。
【0012】
この場合、エバネッセント蛍光法の感度や、表面プラズモン共鳴や光導波モードによる電場増強の効果は、測定面から離れるに従って急激に減衰するため、この測定面から蛍光標識までの距離が僅かに変化するだけで発生する蛍光の強度に差が生じ、検出信号のばらつきが生じてしまうという問題がある。例えば、被検出物質がセンサ部において結合しているにも関わらず、センサ部表面から蛍光標識が離れてしまうと蛍光強度が低下するため、蛍光量の総和を計測する従来の手法では、結合した被検出物質の量が少ないように誤認してしまう。
【0013】
また、これ以外にも、センサ部のプリズムの形状不良や汚れ、表面プラズモン共鳴や光導波モードによる電場増強を行う場合にはそれらに必要な層の厚さのばらつき等といったセンサ部の個体差に起因して検出信号のばらつきが生じる場合や、励起光のビームプロファイルや光量の変動等といった検出装置の状態に起因して検出信号のばらつきが生じる場合や、蛍光標識から発生する蛍光強度のばらつきに起因して検出信号のばらつきが生じる場合もある。この場合も上記と同様に、蛍光量の総和を計測する従来の手法では、結合した被検出物質の量を誤認してしまう。
【0014】
このように、上記のような検出装置では、S/Nの改善は達成できても、種々の理由により検出信号のばらつきが生じるおそれがあるため、検出の再現性、正確性を向上させるのが困難であった。
【0015】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、蛍光標識の励起に起因して生じる光を検出する検出方法および装置において、検出の再現性、正確性を向上させ、安定した検出を行うことが可能な検出方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の検出方法は、センサチップの誘電体プレートの一面に形成されたセンサ部上に、被検出物質を含む試料液を接触させることにより、試料液に含有される被検出物質の量に応じた量の蛍光標識結合物質をセンサ部上に結合させ、センサ部に全反射条件が得られる入射角度で励起光を照射することにより、センサ部上に電場を発生せしめ、該電場により蛍光標識結合物質の蛍光標識を励起し、該励起に起因して生じる光を計測することにより、被検出物質の量を検出する検出方法において、センサ部上を撮影した画像を取得し、画像中の蛍光標識の数を計測し、計測した蛍光標識の数に基づいて被検出物質の量を検出することを特徴とするものである。
【0017】
なお、一般的に使用される蛍光標識の粒径は数nm以下と非常に小さいため、画像中の蛍光標識の数を計数することは、一般的な診断機器で採用されている光学的手段では極めて困難である。従って、本発明の検出方法においては、蛍光標識の粒径が20nm以上のものを用いることが好ましい。
【0018】
また、センサ部上に対する蛍光標識結合物質の結合の状態が異なる複数の画像を取得し、複数の画像間の差分に基づいて、複数の画像間における被検出物質の量の差を検出するようにしてもよい。
【0019】
また、画像中の所定の領域のみの蛍光標識を計測するようにしてもよい。
【0020】
また、蛍光標識結合物質の蛍光標識を、多光子吸収により励起させるようにしてもよい。
【0021】
また、センサチップとして、センサ部が、誘電体プレートに隣接する金属層を含む積層構造からなるものを用い、励起光の照射により金属層にプラズモンを励起して、プラズモンによって増強した光電場を発生せしめ、蛍光標識の励起に起因して生じる光として、励起によって蛍光標識から生じる蛍光を検出するようにしてもよい。
【0022】
プラズモン増強を利用した検出の場合には、試料中の蛍光標識結合物質と金属層とが接近し過ぎていると、蛍光標識結合物質内で励起されたエネルギーが蛍光を発生させる前に金属層へ遷移してしまい、蛍光が生じないという現象(いわゆる金属消光)が起こり得る。
【0023】
このような問題を解消するため、蛍光標識結合物質として、消光防止性物質を用いたり、センサチップとして、センサ部が、消光防止層を含む積層構造からなるものを用いることが好ましい。
【0024】
本発明の検出装置は、上記の検出方法に用いられる検出装置であって、センサチップを収容する収容部と、センサ部に励起光を照射する励起光照射光学系と、センサ部上を撮影して画像を取得する画像取得手段と、画像中の蛍光標識の数を計測し、計測した蛍光標識の数に基づいて被検出物質の量を検出する演算手段とを備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明の検出方法および検出装置によれば、センサチップの誘電体プレートの一面に形成されたセンサ部上に、被検出物質を含む試料液を接触させることにより、試料液に含有される被検出物質の量に応じた量の蛍光標識結合物質をセンサ部上に結合させ、センサ部に全反射条件が得られる入射角度で励起光を照射することにより、センサ部上に電場を発生せしめ、該電場により蛍光標識結合物質の蛍光標識を励起し、該励起に起因して生じる光を計測することにより、被検出物質の量を検出する場合において、センサ部上を撮影した画像を取得し、画像中の蛍光標識の数(サンドイッチ法の場合センサ部上に結合している抗原の数に相当)を計測し、計測した蛍光標識の数に基づいて被検出物質の量を検出することにより、蛍光の検出強度にばらつきが生じた場合でもこれに影響されないようにしたので、検出の再現性、正確性を向上させ、安定した検出を行うことが可能となる。
【0026】
また、センサ部上に対する蛍光標識結合物質の結合の状態が異なる複数の画像を取得し、複数の画像間の差分に基づいて、複数の画像間における被検出物質の量の差を検出するようにすれば、複数の画像間に共通に存在する誤差要因を排除して、検出に必要な情報のみを取得できるようになるので、より検出の再現性、正確性を向上させることが可能となる。
【0027】
また、例えば励起光の照射むらが生じている領域を除いた領域等、画像中の所定の領域のみの蛍光標識を計測するようにして、画像中の不良領域の信号を用いないようにすれば、より検出の再現性、正確性を向上させることが可能となる。
【0028】
また、蛍光標識結合物質の蛍光標識を、多光子吸収により励起させるようにすれば、センサ部表面に結合した蛍光標識結合物質のみからしか蛍光が発生しないようになり、検出に必要な情報のみを取得できるようになるので、より検出の再現性、正確性を向上させることが可能となる。
【0029】
また、粒径が数10nm程度の蛍光標識から発生する蛍光の強度はそれ程強くないため、センサチップとして、センサ部が、誘電体プレートに隣接する金属層を含む積層構造からなるものを用い、励起光の照射により金属層にプラズモンを励起して、プラズモンによって増強した光電場を発生せしめ、蛍光標識の励起に起因して生じる光として、励起によって蛍光標識から生じる蛍光を検出するようにすれば、プラズモンの電場増強作用によって、蛍光信号を増大させてS/N比を向上させることができる。
【0030】
プラズモン増強を利用した検出の場合には、試料中の蛍光標識結合物質と金属層とが接近し過ぎていると、蛍光標識結合物質内で励起されたエネルギーが蛍光を発生させる前に金属層へ遷移してしまい、蛍光が生じないという現象(いわゆる金属消光)が起こり得るため、蛍光標識結合物質として、消光防止性物質を用いたり、センサチップとして、センサ部が、消光防止層を含む積層構造からなるものを用いれば、金属消光の問題を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1の実施の形態の蛍光検出装置の模式図
【図2】上記蛍光検出装置のブロック図
【図3】上記蛍光検出装置に用いられるセンサチップの一例を示す模式図
【図4】図2の検体処理手段によりノズルチップを用いて検体が検体容器から抽出される様子を示す模式図
【図5】図2の検体処理手段によりノズルチップ内の検体が試薬セルに注入・撹拌される様子を示す模式図
【図6】図2の光照射手段および蛍光検出手段の一例を示す模式図
【図7】上記蛍光検出装置における取得画像の一例を示す図
【図8】上記蛍光検出装置における検出処理と従来の蛍光検出装置における検出処理との差を示す図
【図9】本発明の第2の実施の形態の蛍光検出装置における取得画像の一例を示す図
【図10】2光子吸収による励起限界距離を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照して本発明の第1の実施の形態を詳細に説明する。図1は本発明の第1の実施の形態の蛍光検出装置の模式図、図2は上記蛍光検出装置のブロック図、図3は上記蛍光検出装置に用いられるセンサチップの一例を示す模式図、図4は図2の検体処理手段によりノズルチップを用いて検体が検体容器から抽出される様子を示す模式図、図5は図2の検体処理手段によりノズルチップ内の検体が試薬セルに注入・撹拌される様子を示す模式図、図6は図2の光照射手段および蛍光検出手段の一例を示す模式図、図7は上記蛍光検出装置における取得画像の一例を示す図である。
【0033】
この蛍光検出装置1は、表面プラズモン共鳴を利用した免疫解析装置であって、蛍光検出装置1により分析を行う際、図1に示す検体が収容された検体容器CBと、検体および試薬を抽出する際に用いられるノズルチップNCと、試薬セルおよびマイクロ流路が形成されたセンサチップ10が装填される。なお、検体容器CB、ノズルチップNCおよびセンサチップ10はいずれも一度使用したら破棄される使い捨てのものである。そして、蛍光検出装置1は検体をセンサチップ10のマイクロ流路15に流しながら検体内の被検物質について定量的もしくは定性的な分析を行う。
【0034】
この蛍光検出装置1は、検体処理手段20、光照射手段30、蛍光検出手段40、データ分析手段50等を備えている。検体処理手段20は、ノズルチップNCを用いて検体を収容した検体容器CB内から検体を抽出し、抽出した検体を試薬と混合撹拌した検体溶液を生成するものである。
【0035】
ここで、図3はセンサチップ10の一例を示す模式図である。センサチップ10は、光透過性の樹脂等の誘電体プレートからなる本体11に注入口12、排出口13、試料セル14a、14b、流路15が形成された構造を有している。注入口12は流路15を介して排出口13に連通しており、排出口13から負圧をかけることにより検体は注入口12から注入されて流路15内に流れ排出口13から排出される。試料セル14a、14bは検体容器CB内の検体に混合する蛍光試薬(第2抗体)を収容する容器である。なお、試料セル14a、14bの開口部はシール部材により封止されており、検体と蛍光試薬とを混合する際にシール部材が穿孔されるようになっている。
【0036】
また、流路15内には検体内の被検物質を検出するためのセンサ部としてのテスト領域TRおよびテスト領域TRの下流側に設けられたコントロール領域CRが形成されている。このテスト領域TR上には第1抗体が固定されており、いわゆるサンドイッチ方式により標識化された抗体を捕捉する。また、コントロール領域CRには参照抗体が固定されており、コントロール領域CR上に検体溶液が流れることにより参照抗体が蛍光物質を捕捉する。なお、コントロール領域CRは2つ形成されており、非特異吸着を検出するためのいわゆるネガ型のコントロール領域CRと、検体差による反応性の違いを検出するためのいわゆるポジ型のコントロール領域CRとが形成されている。
【0037】
そして、分析の開始が指示された際、検体処理手段20は図4に示すようにノズルチップNCを用いて検体容器CBから検体を吸引する。その後、検体処理手段20は図5に示すように試料セル14aのシール部材を穿孔し試料セル14a内の試薬に検体を混合・撹拌させた後、検体溶液を再びノズルチップNCを用いて吸引する。この動作を試料セル14bについても同様に行う。すると、検体内に存在する被検物質(抗原)Aに試薬内の特異的に結合する第2の結合物質である第2抗体B2が表面に修飾された検体溶液が生成される。そして、検体処理手段20は、検体溶液を収容したノズルチップNCを注入口12上に設置し、排出口13からの負圧によりノズルチップNC内の検体溶液が流路15内に流入する。
【0038】
なお、検体処理手段20が検体と試薬とを混合した検体溶液を流路15内に供給する場合について例示しているが、流路15内に予め試薬を充填させておき、検体処理手段20が注入口12から検体のみを流入させるようにしてもよい。
【0039】
図6は光照射手段30および蛍光検出手段40の一例を示す模式図である。なお、図6においてはテスト領域TRに着目して説明するが、コントロール領域CRについても同様に励起光Lが照射されるものである。図2の光照射手段30は、センサチップ10の裏面側から励起光Lを全反射条件となる入射角度でプリズムを介してテスト領域TRの誘電体プレート17と金属膜16に照射するものである。蛍光検出手段40は、たとえばCCD、CMOS等からなり、テスト領域TRを2次元的に撮影して画像信号FSを取得するものである。
【0040】
そして、光照射手段30により励起光Lが誘電体プレート17と金属膜16との界面に対して全反射角以上の特定の入射角度で入射されることにより、金属膜16上の試料S中にエバネッセント波Ewが滲み出し、このエバネッセント波Ewによって金属膜16中に表面プラズモンが励起される。この表面プラズモンにより金属膜16表面に電界分布が生じ、電場増強領域が形成される。すると、金属膜16上に固着された第1抗体B1と結合した蛍光標識物質Fはエバネッセント波Ewにより励起され増強された蛍光を発生する。
【0041】
なお、プラズモン増強を利用した検出においては、金属消光が発生して感度が低下するおそれがあるため、例えばシリカ層やポリスチレン層等からなる消光防止層を金属層16上に設けるようにすれば、このような問題を解消することができる。また、蛍光標識物質Fについて、例えば、蛍光色素をポリスチレン粒子やシリカ粒子に内包したものや、金コロイド表面をポリスチレンでコーティングしたもの等といった、消光防止性物質としても、金属消光の問題を解消することができる。
【0042】
図2のデータ分析手段50は、蛍光検出手段40により検出された画像信号FSに基づいて、被検物質の分析を行うものである。具体的には、図7(A)に示すように画像信号FSが表す画像中の蛍光標識の数を計測し、計測した蛍光標識の数に基づいて被検物質の量を検出する。図7(B)は図7(A)に示す状態から5秒後の状態の画像であるが、画像中に表示される蛍光標識の数はセンサ部上に結合している抗原の数によって変化するため(サンドイッチ法の場合)、図7(B)に示すように時間経過とともに蛍光標識の数は変化する。データ分析手段50は、複数の画像信号FSを所定期間(たとえば5分間)において所定のサンプリング周期(たとえば5秒周期)で取得し、蛍光標識の数の時間変化率を解析することにより検体内の被検物質について定量的な分析を行う。
【0043】
このとき、例えば図7(A)および(B)に示す画像等、取得時間的に並んだ前後の画像間の差分画像を生成し、この画像に基づいて被検物質の量の差を検出するようにすれば、両画像間に共通に存在する誤差要因を排除して、検出に必要な情報のみを取得できるようになるので、より検出の再現性、正確性を向上させることが可能となる。なお、差分画像の生成については、上記に限らず、取得時間的に一番先頭の画像を基準として、残りの画像については全て一番先頭の画像との差分画像を生成するようにする等、どのような態様としてもよい。
【0044】
上記のようにして得られた分析結果は、モニタやプリンタ等からなる情報出力手段4から出力される。
【0045】
ここで、従来の蛍光検出装置に対する本実施の形態の蛍光検出装置の優位性についてさらに詳細に説明する。図8(A)はある6つのサンプル画像について従来の処理で被検物質の分析を行う場合の図、図8(B)は図8(A)と同じ6つのサンプル画像について本実施の形態の処理で被検物質の分析を行う場合の図である。
【0046】
従来のように、測定領域を0次元的に計測し、測定領域において発生した蛍光量の総和を計測することにより被検物質の分析を行う場合は、図8(A)に示すように、各サンプル毎に検出光量(ここでは画素信号値の総和)が得られるが、このうちサンプル6のようにセンサチップ10の個体差により散乱光が多く発生して全体的に明るく検出された場合、金属膜16上に固着された第1抗体B1と結合した蛍光標識物質Fの数は他のサンプルと比較して大差ないにも関わらず、検出光量は他のサンプルと比較して大きく変わることになり、正確な分析が行えない。
【0047】
これに対して、本実施の形態のように、画像信号FSが表す画像中の蛍光標識の数を計測し、計測した蛍光標識の数に基づいて被検物質の量を検出する場合は、図8(B)に示すように、金属膜16上に固着された第1抗体B1と結合した蛍光標識物質Fを個々に画像中で認識して、その数を計測することにより、例えばサンプル6のように他の外乱により検出光量が大きく変動した場合でも、正確な分析を行うことが可能となる。なお、蛍光標識物質Fを個々に画像中で認識する方法については、画像中の輝点を1つの蛍光標識物質Fとして認識する等、どのような方法を用いてもよい。
【0048】
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。図9は本発明の第2の実施の形態の蛍光検出装置における取得画像の一例を示す図である。
【0049】
本実施の形態の蛍光検出装置は、上記第1の実施の形態の蛍光検出装置と比較して、画像中の所定の領域のみの蛍光標識を計測するようにした点が異なるものであり、これ以外の点は上記第1の実施の形態と同様であるため、同様の点についての説明は省略する。
【0050】
図9に示すように、画像中に照明むら等の誤差要因が継続的に発生することが分かっている場合、例えば図9中の右側に示すように画像を16個の領域に分割し、誤差要因が発生している領域E1からE4およびE13からE16の領域を除いて、領域E5からE12のみの蛍光標識を計測するようにして、画像中の不良領域の信号を用いないようにすれば、より検出の再現性、正確性を向上させることが可能となる。
【0051】
なお、分割する領域の数や形状に限定はなく、どのような態様としてもよい。また、画像を分割せずに、必要な領域のみの蛍光標識を計測するように設定してもよい。
【0052】
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。図10は2光子吸収による励起限界距離を示すグラフである。
【0053】
本実施の形態の蛍光検出装置は、上記第1の実施の形態の蛍光検出装置と比較して、蛍光標識結合物質の蛍光標識を、2光子吸収により励起させるようにした点が異なるものであり、これ以外の点は上記第1の実施の形態と同様であるため、同様の点についての説明は省略する。
【0054】
図10に示すように、表面プラズモン増強蛍光法では、金属消光範囲を除いては金属膜16上から離れるほど発生する蛍光強度が著しく低下するが、それでも金属膜16上に固着された第1抗体B1と結合した蛍光標識物質F(例えば金属膜16から50nm程度の範囲に存在する蛍光標識物質F)だけでなく、第1抗体B1と結合せずに金属膜16近傍(例えば金属膜16から300nm程度までの範囲)に浮遊している蛍光標識物質Fについても蛍光が発生してしまうので、実際に結合した蛍光標識物質Fだけの信号を取得することは難しい。
【0055】
このような問題を解消するため、本実施の形態では、励起光として蛍光標識物質Fが発生する蛍光の約2倍の周波数の励起光を用いて、蛍光標識物質Fを2光子吸収により励起させる。
【0056】
2光子吸収により励起させる場合には、通常の励起と比較して蛍光の励起確率が著しく低下する。通常の蛍光検出では2光子吸収により蛍光を励起させるとほとんど信号を検出することができないが、表面プラズモン増強蛍光法においては検出信号を増強する効果があるため、金属膜16上からの距離が離れて光強度が低くなった領域では蛍光標識物質Fは励起させることはできないものの、金属膜16上からの距離が極めて近い範囲(例えば図10中に励起限界距離として示している距離)では蛍光標識物質Fを励起させることができる。従って、金属膜16上に固着された第1抗体B1と結合した蛍光標識物質Fだけが検出され、例えば、第1抗体B1と結合せずに金属膜16近傍(例えば金属膜16から150〜300nm程度の範囲)に浮遊している蛍光標識物質F等の不要な要素については検出されなくなるので、より検出の再現性、正確性を向上させることが可能となる。
【0057】
なお、励起に必要な光子数については、2光子に限らず、3光子以上の多光子としてもよいが、励起に必要な光子数が増えるほど蛍光の励起確率が著しく低下するため、本実施の形態のような蛍光検出装置の場合には、2光子とすることが好ましい。
【0058】
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。
【0059】
例えば、本発明の蛍光検出装置は、表面プラズモン増強蛍光法以外にも、エバネッセント蛍光法や光導波モード増強蛍光分光法等、種々の方式に対応させることが可能である。
【0060】
また、上記以外にも、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行なってもよいのは勿論である。
【符号の説明】
【0061】
1 蛍光検出装置
10 センサチップ
20 検体処理手段
30 光照射手段
40 蛍光検出手段
50 データ分析手段
CR コントロール領域
FS 蛍光信号
L 励起光
TR テスト領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサチップの誘電体プレートの一面に形成されたセンサ部上に、被検出物質を含む試料液を接触させることにより、該試料液に含有される被検出物質の量に応じた量の蛍光標識結合物質を前記センサ部上に結合させ、
前記センサ部に全反射条件が得られる入射角度で励起光を照射することにより、該センサ部上に電場を発生せしめ、
該電場により前記蛍光標識結合物質の蛍光標識を励起し、該励起に起因して生じる光を計測することにより、前記被検出物質の量を検出する検出方法において、
前記センサ部上を撮影した画像を取得し、
該画像中の前記蛍光標識の数を計測し、
計測した前記蛍光標識の数に基づいて前記被検出物質の量を検出することを特徴とする検出方法。
【請求項2】
前記蛍光標識の粒径が20nm以上のものを用いることを特徴とする請求項1記載の検出方法。
【請求項3】
前記センサ部上に対する前記蛍光標識結合物質の結合の状態が異なる複数の画像を取得し、
前記複数の画像間の差分に基づいて、前記複数の画像間における前記被検出物質の量の差を検出することを特徴とする請求項1または2記載の検出方法。
【請求項4】
前記画像中の所定の領域のみの前記蛍光標識を計測することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の検出方法。
【請求項5】
前記蛍光標識結合物質の蛍光標識を、多光子吸収により励起させることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の検出方法。
【請求項6】
前記センサチップとして、前記センサ部が、前記誘電体プレートに隣接する金属層を含む積層構造からなるものを用い、
前記励起光の照射により前記金属層にプラズモンを励起して、該プラズモンによって増強した光電場を発生せしめ、
前記蛍光標識の励起に起因して生じる前記光として、該励起によって該蛍光標識から生じる蛍光を検出することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の検出方法。
【請求項7】
前記蛍光標識結合物質として、消光防止性物質を用いることを特徴とする請求項6記載の検出方法。
【請求項8】
前記センサチップとして、前記センサ部が、消光防止層を含む積層構造からなるものを用いることを特徴とする請求項6または7記載の検出方法。
【請求項9】
請求項1から8いずれかに記載の検出方法に用いられる検出装置であって、
前記センサチップを収容する収容部と、
前記センサ部に前記励起光を照射する励起光照射光学系と、
前記センサ部上を撮影して画像を取得する画像取得手段と、
前記画像中の前記蛍光標識の数を計測し、計測した前記蛍光標識の数に基づいて前記被検出物質の量を検出する演算手段とを備えることを特徴とする検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図10】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−202742(P2012−202742A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65732(P2011−65732)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】