説明

検出物質の電気化学的検出方法、被検物質の電気化学的検出方法及び検出セット

【課題】捕捉物質が固定された作用電極を用いる従来の電気化学検出法により得られる測定感度等における原理的な利点を有し、かつ作用電極を再利用することができる又は被検物質の大きさによらず検出することができる、検出物質の電気化学的検出方法、被検物質の電気化学的検出方法及び検出セットを提供する。
【解決手段】液体試料中の標識物質を含む検出物質を、標識物質を含む検出物質を捕捉する捕捉物質が存在しない作用電極121に誘引し、標識物質を含む検出物質を、電気化学的に検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出物質の電気化学的検出方法、被検物質の電気化学的検出方法及び検出セットに関する。より詳しくは、核酸、タンパク質等の被検物質の検出や定量等や、これらを利用する疾病の臨床検査、診断等に有用な、検出物質の電気化学的検出方法、被検物質の電気化学的検出方法及び検出セットに関する。
【背景技術】
【0002】
疾病の臨床検査や診断は、生体試料中に含まれる前記疾病に関連する遺伝子やタンパク質等を、遺伝子検出法や免疫学的検出法等の検出法によって検出することにより行なわれている。前記検出法としては、例えば、イムノクロマトグラフィー法、ラテックス凝集法、酵素免疫法、化学発光免疫法、PCR法等が挙げられる。
【0003】
一方、検出感度、定量性、簡易性等を向上させることを目的として、光化学的に活性な標識物質を光励起させることにより生じる電流や、電気化学的に活性な標識物質に対する電圧印加により生じる光又は電流を、遺伝子やタンパク質等の被検物質の検出に利用する方法が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2等を参照)。
【0004】
前記特許文献1には、光化学的に活性な増感色素で標識された標識被検物質に光を照射し、当該標識被検物質中に含まれる増感色素が光励起して生じる電流を測定することにより、被検物質を検出すること(以下、「光電気化学検出」)が記載されている。前記特許文献1に記載の方法では、前記標識被検物質と、この標識被検物質と直接的又は間接的に結合可能な捕捉物質を表面に備えた作用電極とを接触させる。これにより、当該標識被検物質を、前記捕捉物質を介して作用電極に固定させる。つぎに、この作用電極及び対電極を電解質媒体に接触させ、前記作用電極に固定化された標識被検物質に光を照射して前記増感色素を光励起させる。その後、光励起された増感色素から作用電極への電子移動に起因して作用電極と対電極との間に流れる光電流を測定することにより、被検物質が特異的に検出される。
【0005】
また、前記特許文献2には、目的遺伝子の塩基配列に対して相補的な塩基配列を有する一本鎖の核酸からなるプローブが表面に固定化された電極と、二本鎖核酸に特異的に結合し、かつ電気化学的に活性な標識物質を含む二本鎖認識物質とを用いる遺伝子検出法が開示されている。前記特許文献2に記載の方法では、一本鎖に変性された核酸を含む試料とプローブと二本鎖認識物質とを接触させる。そして、目的遺伝子に対応する核酸とプローブとのハイブリダイゼーションにより形成された、二本鎖核酸に結合した二本鎖認識物質に含まれる標識物質に基づく酸化還元電流や電気化学発光を測定することにより、目的遺伝子が検出される。
【0006】
これらの検出法では、電気化学的又は光化学的に活性な標識物質を介して被検物質を検出する。そのために、被検物質の量に応じて作用電極の近傍に標識物質が存在するように、被検物質を捕捉するための捕捉物質が表面に固定化された作用電極が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4086090号公報
【特許文献2】特許第2573443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、捕捉物質が固定化された作用電極は、その再利用が困難である。なぜなら、捕捉物質が固定化された作用電極の再利用を行なうためには、洗浄により、作用電極上の捕捉物質以外の物質を取り除く必要があるからである。しかし、洗浄に際して、作用電極から、捕捉物質も取り除かれてしまう場合がある。また、洗浄に用いられる洗浄剤等によって、作用電極上の捕捉物質が変性してしまう場合がある。そのため、捕捉物質が固定化された作用電極の再利用時は、測定結果に影響するおそれがある。したがって、通常、捕捉物質が固定化された作用電極を含む検出部は、測定ごとに使い捨てされる。結果として、捕捉物質が固定化された作用電極を用いる検出系は、1測定あたりのコストが高くなるという欠点がある。
また、捕捉物質が固定化された作用電極を用いる検出系は、被検物質が大きい場合には、立体障害のために作用電極の近傍に標識物質を存在させることが困難となり、検出性能が低下することがある。
【0009】
本発明は、前述の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、捕捉物質が固定された作用電極を用いる従来の電気化学検出法により得られる測定感度等における原理的な利点を有し、かつ作用電極を再利用することができる、検出物質の電気化学的検出方法、被検物質の検出方法及び検出セットを提供することにある。
また、本発明は、被検物質の大きさによらず、被検物質を検出することができる、検出物質の電気化学的検出方法、被検物質の検出方法及び検出セットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、標識物質を含む検出物質を、特定の液体試料等によって作用電極の表面の近傍に移送させることで、この標識物質を電気化学的に検出することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
本発明の第1の側面に係る検出物質の電気化学的検出方法は、標識物質を含む検出物質を電気化学的に検出する方法であって、液体試料中の標識物質を含む検出物質を、標識物質を含む検出物質を捕捉する捕捉物質が存在しない作用電極に誘引する工程と、標識物質を含む検出物質を、電気化学的に検出する工程と、を含む検出物質の電気化学的検出方法である。
【0012】
また、本発明の第2の側面に係る被検物質の電気化学的検出方法は、被検物質を電気化学的に検出する方法であって、固相上に、標識物質と被検物質とを含む複合体を形成する工程と、複合体が形成された固相を単離する工程と、単離工程で得られた、固相上に形成された複合体から、標識物質を含む検出物質を分離する工程と、分離された標識物質を含む検出物質を、標識物質を含む検出物質を捕捉する捕捉物質が存在しない作用電極に誘引する工程と、標識物質を含む検出物質を、電気化学的に検出する工程と、を含む被検物質の電気化学的検出方法である。
【0013】
さらに、本発明の第3の側面に係る被検物質の電気化学的検出方法は、電気化学的又は光化学的に活性な被検物質を電気化学的に検出する方法であって、固相上に、被検物質を固定する工程と、被検物質が固定された固相を単離する工程と、単離工程で得られた被検物質が固定された固相から、被検物質又は被検物質の一部を分離する工程と、分離された被検物質又は被検物質の一部を、被検物質又は被検物質の一部を捕捉する捕捉物質が存在しない作用電極に誘引する工程と、被検物質又は被検物質の一部を、電気化学的に検出する工程と、を含む被検物質の電気化学的検出方法である。
【0014】
本発明の第4の側面に係る検出キットは、被検物質を電気化学的に検出するための検出セットであって、被検物質を捕捉する第1の捕捉物質が固定された固相と、被検物質を捕捉する結合物質が標識物質で標識された標識結合物質と、結合物質から分離された標識物質を含む検出物質を捕捉する第2の捕捉物質が存在しない作用電極と導電性材料からなる対極とを備えた検査チップと、を含む検出キットである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の標識物質を含む検出物質の電気化学的検出方法、被検物質の電気化学的検出方法及び検出セットによれば、標識物質を含む検出物質を作用電極の近傍に移送させることができる。そのため、作用電極上に、標識物質を含む検出物質を捕捉するための捕捉物質が固定化されていなくても、標識物質を含む検出物質又は被検物質を電気化学的に検出することができる。したがって、本発明の標識物質を含む検出物質の電気化学的検出方法、被検物質の電気化学的検出方法及び検出セットは、捕捉物質が固定された作用電極を用いる従来の電気化学検出法により得られる測定感度等における原理的な利点を有する。
しかも、用いられる作用電極には、洗浄等によりダメージを受ける捕捉物質が存在しないため、簡便な処理で当該作用電極を再利用可能な状態に戻すことができる。したがって、本発明の標識物質を含む検出物質の電気化学的検出方法、被検物質の電気化学的検出方法及び検出セットは、作用電極を再利用することができるという優れた効果を奏する。これにより、一度、検出に用いられた作用電極を再利用することができるので、捕捉物質が固定された作用電極を用いる従来の電気化学検出法と比べて、経済性が向上し、低コストでの臨床検査や診断が可能になる。
【0016】
また、上述した第2〜4の側面に係る本発明の被検物質の電気化学的検出方法及び検出セットでは、固相上に形成された標識物質と被検物質とを含む複合体から、標識物質を含む検出物質を分離する。そして、分離された標識物質を含む検出物質を、捕捉物質が存在しない作用電極を用いて、電気化学的に検出する。したがって、本発明の被検物質の電気化学的検出方法及び検出セットによれば、被検物質の大きさによらず、被検物質を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】固相上に形成された被検物質と検出物質とを含む複合体の概略説明図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る検出物質の電気化学的検出方法及び被検物質の電気化学的検出方法に用いられる検出装置を示す斜視図である。
【図3】図2に示される検出装置の構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の一実施の形態に係る検出物質の電気化学的検出方法及び被検物質の電気化学的検出方法に用いられる検査チップを示す斜視図である。
【図5】図4に示される検査チップを示す断面図である。
【図6】図4に示される検査チップの上基板を下面側から見た斜視図である。
【図7】図4に示される検査チップの下基板を上面側から見た斜視図である。
【図8】図4に示される検査チップの電極部分の一例を模式的に表した概略図である。
【図9】図4に示される検査チップの電極部分の他の例を模式的に表した概略図である。
【図10】図4に示される検査チップの電極部分の他の例を模式的に表した概略図である。
【図11】本発明の一実施の形態に係る検出物質の電気化学的検出方法の処理手順を示す工程説明図である。
【図12】本発明の他の実施の形態に係る検出物質の電気化学的検出方法の処理手順を示す工程説明図である。
【図13】本発明の一実施の形態に係る被検物質の電気化学的検出方法の処理手順を示す工程説明図である。
【図14】本発明の他の実施の形態に係る被検物質の電気化学的検出方法の処理手順を示す工程説明図である。
【図15】図13に示される被検物質の電気化学的検出方法の変形例の処理手順を示す工程説明図である。
【図16】図14に示される被検物質の電気化学的検出方法の変形例の処理手順を示す工程説明図である。
【図17】実施例1において、実験番号1〜3での光電流の測定結果を示すグラフである。
【図18】実施例2において、実験番号4〜6での光電流の測定結果を示すグラフである。
【図19】実施例3において、実験番号7〜9での光電流の測定結果を示すグラフである。
【図20】実施例4において、実験番号10〜12での光電流の測定結果を示すグラフである。
【図21】実施例5において、実験番号13〜16での光電流の測定結果を示すグラフである。
【図22】実施例6において、実験番号17及び18での光電流の測定結果を示すグラフである。
【図23】実施例7において、実験番号19及び20での光電流の測定結果を示すグラフである。
【図24】実施例8における被検物質の電気化学的検出方法の処理手順を示す工程説明図である。
【図25】実施例8において、実験番号21〜24での光電流の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[用語の定義]
本発明の実施の形態を説明するにあたり、まず、本明細書で用いられる用語の定義を示す。
本明細書において、「標識物質を含む検出物質」とは、「標識物質21aのみ」又は「標識物質21aと、誘引用修飾物質21b、被検物質10を捕捉する結合物質22、被検物質10、被検物質10を捕捉するための捕捉物質32及びこれらのいずれかの物質の一部からなる群より選ばれた少なくとも1つとを含む物質」をいう(図1参照)。なお、「標識物質21aと誘引用修飾物質21bとからなる物質」を「修飾標識物質」(図1中、23)ともいう。また、「被検物質10を捕捉する結合物質22が標識物質21aで標識された物質」を「標識結合物質」(図1中、24)ともいう。「標識結合物質」は、被検物質10を捕捉し、かつ標識物質として利用可能な物質を用いる場合、被検物質10を捕捉する結合物質22又は標識物質21aと等価となり得る。
【0019】
また、「固相」(図1中、31)とは、被検物質の単離に用いられる支持体をいう。かかる固相31は、被検物質10を捕捉するための捕捉物質32を介して、被検物質10を捕捉する。
【0020】
さらに、「誘引液」とは、検出物質、検出物質を作用電極の近傍に誘引させるための液体試料に用いられる溶媒をいう。
【0021】
[検出装置の構成]
つぎに、本発明の標識物質を含む検出物質の電気化学的検出方法及び被検物質の電気化学的検出方法に用いられる検出装置の一例を添付図面により説明する。
図2は、本発明の一実施の形態に係る標識物質を含む検出物質の電気化学的検出方法及び被検物質の電気化学的検出方法に用いられる検出装置を示す斜視図である。この検出装置101は、光化学的に活性な物質を標識物質として用い、光電気化学的に前記標識物質を含む検出物質を検出する電気化学的検出方法に用いる検出装置である。
【0022】
検出装置101は、検査チップ104が挿入されるチップ受入部103と、検出結果を表示するディスプレイ102とを備えている。
【0023】
図3は、図2に示される検出装置の構成を示すブロック図である。検出装置101は、光源105と、電流計(電流測定部)106と、電源(電位印加部)109と、A/D変換部107と、制御部108と、ディスプレイ102とを備えている。
光源105は、検査チップ104の作用電極の近傍に移送させた標識物質を含む検出物質に光を照射し、当該標識物質を励起させる。電流計106は、励起された標識物質から放出される電子に起因して検査チップ104内を流れる電流を測定する。電源109は、検査チップ104に設けられた電極に対して所定の電位を印加する。A/D変換部107は、電流計106によって測定された電流値をデジタル変換する。制御部108は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等から構成され、光源105、電流計106、電源109、及びディスプレイ102の動作を制御する。また、制御部108は、A/D変換部107でデジタル変換された電流値を予め作成された電流値と検出物質の量との関係を示す検量線に基づき、標識物質を含む検出物質の量を概算する。ディスプレイ102は、制御部108で概算された標識物質を含む検出物質の量を表示する。
【0024】
なお、本発明において、前記標識物質を含む検出物質を後述の酸化還元電流・電気化学発光検出法にしたがって検出する場合、検出装置は、光源105を備えていなくともよい(図示せず)。
前記標識物質を含む検出物質を電気化学発光により検出する場合、検出装置は、標識物質から生じる光等を検出するためのセンサをさらに備えていればよい。
【0025】
[検査チップの構成]
つぎに、本発明の一実施の形態に係る標識物質を含む検出物質の電気化学的検出方法及び被検物質の電気化学的検出方法に用いられる検査チップ104の構成を説明する。
図4は、検査チップ104の斜視図、図5は、検査チップ104の断面図(図4のA-A線での断面図)である。
【0026】
検査チップ104は、上基板113と、上基板113の下方に設けられた下基板114と、上基板113と下基板114とに挟まれた間隔保持部材112とを備えている。
図6は、上基板113を下面側から見た斜視図である。上基板113は矩形状に形成され、上基板113の表面(下面)には、作用電極121と、作用電極121に接続されている電極リード122とが形成されている。作用電極121はほぼ四角形状に形成されて上基板113の一側部(図6の左側)に配置され、電極リード122は作用電極121から上基板113の他側部(図6の右側)に向けて延びている。
【0027】
図7は、下基板114を上面側からみた斜視図である。下基板114は、上基板113と略同一寸法の矩形状に形成され、下基板114の表面(上面)には、対極124と、この対極に接続された電極リード125と、参照電極128と、この参照電極128に接続された電極リード129とが形成されている。
【0028】
対極124の電極リード125と参照電極128の電極リード129とは、それぞれ下基板114の一側部から他側部へ向けて延びている。対極124、及び参照電極128の各電極リード125,129は、下基板114の他側部において互いに並列するように配置されている。
【0029】
図4及び図5に示すように、上基板113と下基板114とは、各々に形成された電極部分が上下方向に対向するように、一側部において重複して配置されている。そして、上基板113と下基板114とが重複(対向)する部分には間隔保持部材112が介在している。上基板113と下基板114とに形成された電極リード122,125,129は、上基板113と下基板114とが重複する部分からはみ出して外部に露出している。
【0030】
図6及び図7に示すように、間隔保持部材112は、矩形の環状体形状に形成され、絶縁体であるシリコーンゴムからなっている。この間隔保持部材112は、作用電極121と、対極124及び参照電極128とが互いに対向する領域を取り囲むように配置されている。上基板113と下基板114との間にはシリコーンゴム112の厚さに相当する間隔が形成され、これによって各電極121,124,128の間には試料や電解液を収容するための空間130(図5参照)が形成されている。上基板113に形成された試料注入口111は、当該空間130内に、標識物質を含む検出物質又は被検物質、電解液、液体試料等を注入することが可能なように上基板113を貫通して形成されている。
【0031】
なお、本実施の形態では、上基板113の表面に作用電極121を形成し、下基板114の表面に対極124と参照電極128とを形成している。しかし、作用電極121、対極124、及び参照電極128の配置関係は、各電極が他の電極と接触せずに間隔保持部材112の枠内に配置されている限り、特に制限されない。例えば、同一基板上に、作用電極121と、対極124と、参照電極128とが配置されていてもよい。また、参照電極128を配置せず、対極124が参照電極128の役割を兼ねてもよい。
【0032】
図8は、検査チップ104の電極部分の一例を模式的に表した概略説明図である。図8に示される検査チップは、後述の酸化還元電流・電気化学発光検出法に用いられる。
この場合、作用電極121は、用いられる溶液等に対して安定であり、かつ導電性を有する電極であればよい。
【0033】
一方、検査チップを後述の光電気化学検出法に用いる場合、作用電極121として、図9に示されるように、上基板113の表面に形成された導電層132と、この導電層132の表面に形成された電子受容層(半導体層;半導体電極)133とから構成された電極を用いることができる。
導電層132は、導電性材料からなる。
電子受容層133は、電子を受容可能な物質を含んでいる。また、作用電極121の電極リード122は、導電層132に接続されている。
【0034】
この作用電極121の電子受容層133上には、従来の電気化学的検出方法に用いられる装置とは異なり、標識物質を含む検出物質を捕捉するための捕捉物質は設けられていない。このように、かかる作用電極121は、洗浄等によりダメージを受ける捕捉物質を有していないため、作用電極121は、簡便な処理で再利用可能な状態に戻すことができる。かかる作用電極121を有する検査チップ104は、再利用することができるので、捕捉物質が固定化された作用電極を有する従来の検査チップと比べて、経済性が高くなっている。そのため、標識物質を含む検出物質又は被検物質を電気化学的に検出するのに要するコストを低減させることができる。したがって、低コストでの臨床検査や診断が可能になる。
【0035】
なお、後述の光電気化学検出法に用いる検査チップにおいては、作用電極121は、図10に示されるように、上基板113の表面に形成された電子受容層(半導体層;半導体電極)133から構成されていてもよい。
これらの作用電極の構成は、検査チップの用途、電気化学的検出方法の種類等に応じて適宜選択することができる。なお、かかる作用電極の構成については、下記の電気化学的検出方法とともに説明する。
【0036】
[検出物質の電気化学的検出方法]
本発明の検出物質の電気化学的検出方法は、標識物質を含む検出物質を電気化学的に検出する方法であって、液体試料中の標識物質を含む検出物質を、標識物質を含む検出物質を捕捉する捕捉物質が存在しない作用電極に誘引する工程と、標識物質を含む検出物質を、電気化学的に検出する工程と、を含むことを特徴とする。本発明の検出物質の電気化学的検出方法には、上述した検出装置及び検査チップを用いることができるが、本発明は、上述した検出装置及び検査チップにより限定されるものではない。以下、「検出物質の電気化学的検出方法」を、「方法(A)」と表記する場合がある。
【0037】
方法(A)は、標識物質を含む検出物質を捕捉するための捕捉物質が存在しない作用電極(図8、図9及び図10の作用電極121参照)が用いられる点に1つの大きな特徴がある。かかる作用電極は、再利用することができるので、方法(A)によれば、標識物質を含む検出物質の検出を低コストで行なうことができる。
【0038】
また、方法(A)は、標識物質を含む検出物質を捕捉する捕捉物質が存在しない作用電極の近傍に、標識物質を含む検出物質を移送させる点にも1つの特徴がある。これにより、標識物質を含む検出物質を電気化学的に検出することができる。
【0039】
方法(A)では、前記標識物質としては、電気化学的又は光化学的に活性な物質が用いられる。電気化学的に活性な物質は、当該物質に基づく酸化還元電流及び/又は電気化学発光を用いて検出される。一方、光化学的に活性な物質は、当該物質が光により励起されることにより放出される電子を用いて検出される。かかる方法(A)は、標識物質の検出技術の種類によって、光電気化学検出法(図11参照)及び酸化還元電流・電気化学発光検出法(図12)に大別することができる。
【0040】
1.光電気化学検出法
光電気化学検出法では、まず、標識物質を含む検出物質を準備する〔図11中、(A)を参照〕。図11においては、標識物質を含む検出物質として、標識物質21aと誘引用修飾物質21bとからなる修飾標識物質23aを用いる場合を例として挙げて説明している(なお、図13及び図15においても同様である)。光電気化学検出法では、標識物質21aとして、光を照射することにより励起状態となり電子を放出する標識物質が用いられる。
【0041】
標識物質21aとして、金属錯体、有機蛍光体、量子ドット及び無機蛍光体からなる群より選択された少なくとも1つを用いることができる。
前記標識物質の具体例としては、金属フタロシアン、ルテニウム錯体、オスミウム錯体、鉄錯体、亜鉛錯体、9−フェニルキサンテン系色素、シアニン系色素、メタロシアニン色素、キサンテン系色素、トリフェニルメタン系色素、アクリジン系色素、オキサジン系色素、クマリン系色素、メロシアニン系色素、ロダシアニン系色素、ポリメチン系色素、ポルフィリン系色素、フタロシアニン系色素、ローダミン系色素、キサンテン系色素、クロロフィル系色素、エオシン系色素、マーキュロクロム系色素、インジゴ系色素、BODIPY系色素、CALFluor系色素、オレゴングリーン系色素、ロードル(Rhodol)グリーン、テキサスレッド、カスケードブルー、核酸(DNA、RNA等)、セレン化カドミウム、テルル化カドミウム、Ln23:Re、Ln22S:Re、ZnO、CaWO4、MO・xAl23:Eu、Zn2SiO4:Mn、LaPO4:Ce、Tb、Cy3、Cy3.5、Cy5、Cy5.5、Cy7、Cy7.5及びCy9(いずれも、アマシャムバイオサイエンス社製);Alexa Fluor 355、Alexa Fluor 405、Alexa Fluor 430、Alexa Fluor 488、Alexa Fluor 532、Alexa Fluor546、Alexa Fluor 555、Alexa Fluor 568、Alexa Fluor 594、Alexa Fluor 633、Alexa Fluor 647、Alexa Fluor 660、Alexa Fluor 680、Alexa Fluor 700、Alexa Fluor 750及びAlexa Fluor 790(いずれも、モレキュラープローブ社製);DY−610、DY−615、DY−630、DY−631、DY−633、DY−635、DY−636、EVOblue10、EVOblue30、DY−647、DY−650、DY−651、DY−800、DYQ−660及びDYQ−661(いずれも、Dyomics社製);Atto425、Atto465、Atto488、Atto495、Atto520、Atto532、Atto550、Atto565、Atto590、Atto594、Atto610、Atto611X、Atto620、Atto633、Atto635、Atto637、Atto647、Atto655、Atto680、Atto700、Atto725及びAtto740(いずれも、Atto−TEC GmbH社製);VivoTagS680、VivoTag680及びVivoTagS750(いずれも、VisEnMedical社製)等が挙げられる。なお、前記LnはLa、Gd、Lu又はYを示し、Reはランタニド族元素を示し、Mはアルカリ土類金属元素を示し、xは0.5〜1.5の数を示す。標識物質の他の例については、例えば、特許第4086090号公報、特開平7−83927号公報、特願2008−154179号公報等を参照することができる。
【0042】
誘引用修飾物質21bとしては、例えば、DNA、RNA等の核酸等が挙げられる。
【0043】
なお、標識物質を含む検出物質は、作用電極へ誘引可能であれば、誘引用修飾物質21bを標識物質21aに結合させなくてもよい。
【0044】
標識物質を含む検出物質は、作用電極121への誘引が容易であることから、標識物質で標識された核酸(標識核酸)であることが好ましい。
【0045】
光電気化学検出法では、つぎに、作用電極121に、標識物質を含む検出物質を誘引する〔図11中、(B)、「誘引工程」〕。
かかる誘引工程は、標識物質を含む検出物質を、捕捉物質が存在しない作用電極との間で電子輸送が可能な領域に誘引する工程である。前記誘引工程では、標識物質を含む検出物質を作用電極に固定する。
【0046】
ここで、「捕捉物質が存在しない作用電極との間で電子輸送が可能な領域」は、通常、作用電極から0〜10nmの範囲の領域である。
【0047】
光電気化学検出法に用いられる作用電極121は、標識物質21aの光励起により放出される電子を受容可能な電極である。したがって、作用電極121の構成及び材料は、標識物質21aとの間で電子輸送が生じるものであればよい。
【0048】
作用電極121は、図9に示されるように、導電層132と、この導電層132の表面に形成された電子受容層133とから構成されていてもよく、図10に示されるように、電子受容層133のみから構成されていてもよい。
【0049】
電子受容層を構成する電子受容物質は、光励起された標識物質21aからの電子注入が可能なエネルギー準位をとり得る物質であればよい。ここで、「光励起された標識物質からの電子注入が可能なエネルギー準位」とは、例えば、電子受容性物質として半導体を用いる場合には、伝導帯(コンダクションバンド)を意味する。すなわち、電子受容物質は、標識物質21aの最低非占有分子軌道(LUMO)のエネルギー準位よりも低いエネルギー順位を有すればよい。
【0050】
電子受容物質としては、例えば、シリコン、ゲルマニウム等の単体半導体;チタン、スズ、亜鉛、鉄、タングステン、ジルコニウム、ハフニウム、ストロンチウム、インジウム、セリウム、イットリウム、ランタン、バナジウム、ニオブ、タンタル等の酸化物を含む酸化物半導体;チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸バナジウム、ニオブ酸カリウム等のペロブスカイト型半導体;カドニウム、亜鉛、鉛、銀、アンチモン、ビスマス等の硫化物を含む硫化物半導体;カドミウム、鉛のセレン化物からなる半導体;カドミウムのテルル化物を含む半導体;亜鉛、ガリウム、インジウム、カドミウム等のリン化合物からなる半導体;ガリウム砒素、銅−インジウム−セレン化物、銅−インジウム−硫化物等の化合物を含む半導体が挙げられる。なお、前記半導体は、真性半導体及び不純物半導体のいずれであってもよい。
【0051】
前記半導体のなかでは、酸化物半導体が好ましい。前記酸化物半導体のうち、真性半導体のなかでは、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ニオブ、酸化インジウム、酸化タングステン、酸化タンタル及びチタン酸ストロンチウムが好ましい。また、前記酸化物半導体のうち、不純物半導体のなかでは、スズを含む酸化インジウム及びフッ素を含む酸化スズが好ましい。スズを含む酸化インジウム又はフッ素を含む酸化スズは、電子受容物質としてのみならず導電性基材としても機能する性質を有する。そのため、これらの材料を使用することにより導電性基材を用いることなく電子受容層のみで作用電極として機能させることができる。
【0052】
さらに、導電層132を構成する導電性基材は、ガラス、プラスチック等の非導電性物質からなる非導電性基材の表面に導電性を有する材料からなる導電材層が設けられた複合基材であってもよい。かかる導電材層の形状は、薄膜状及びスポット状のいずれであってもよい。
前記複合基材を用いる場合、電子受容層133は、前記導電材層上に形成される。導電材層を構成する導電性を有する材料としては、例えば、白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム等の金属;炭素、炭化物、窒化物等の導電性セラミックス;スズを含む酸化インジウム、フッ素を含む酸化スズ、アンチモンを含む酸化スズ、ガリウムを含む酸化亜鉛、アルミニウムを含む酸化亜鉛等の導電性の金属酸化物等が挙げられる。これらのなかでは、好ましくはスズを含む酸化インジウム及びフッ素を含む酸化スズである。
導電性基材は、導電性を確保できる材料であれば、特に限定されない。したがって、導電性基材には、それ自体では支持体としての強度を有しない導電材層も包含される。
なお、前述のように、電子受容層133に用いられる電子受容物質が導電性基材としても機能する物質である場合、作用電極121は、かかる導電層132を有しなくてもよい。
【0053】
なお、作用電極121には、シランカップリング剤等を用いた表面処理が施されていてもよい。かかる表面処理により、作用電極121の表面を親水性又は疎水性を有するように適宜調節することができる。前記シランカップリング剤としては、例えば、アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)等のカチオン性シランカップリング剤等が挙げられる。
【0054】
作用電極121への標識物質を含む検出物質の誘引は、検出物質、誘引液及び作用電極との間の疎水性相互作用若しくは親水性相互作用、又は、作用電極又は対極に電圧を印加することによる電気泳動効果を利用すること等により行なうことができる。
【0055】
本誘引工程は、例えば、
1) 誘引液の疎水性・親水性を変更することにより、検出物質と作用電極121との間の疎水性相互作用若しくは親水性相互作用を大きくすること〔すなわち、標識物質を含む検出物質を、極性の違いによって、捕捉物質が存在しない作用電極(作用電極121)に誘引すること〕(誘引方法1)、
2) 標識物質を含む検出物質の電荷に応じて、正又は負の電圧を作用電極121に印加することにより、電気泳動効果を大きくすること〔すなわち、標識物質を含む検出物質を、電気泳動効果を利用することによって、捕捉物質が存在しない作用電極(作用電極121)に誘引すること〕(誘引方法2)
等によって行なうことができる。前記の誘引方法1及び誘引方法2は、それぞれ単独で行なってもよく、両者を組み合わせて行なってもよい。
【0056】
誘引方法1では、誘引用修飾物質21bとして核酸を用いる場合、誘引液は、検出物質と作用電極121との間の疎水性相互作用又は親水性相互作用を大きくして、作用電極121の近傍に検出物質を誘引しやすくする観点から、カオトロピックイオンを含有することが好ましい。
【0057】
前記カオトロピックイオンとしては、例えば、ヨウ化物イオン、臭化物イオン、グアニジンイオン、チオシアン酸イオン、トリブロモ酢酸イオン、トリクロロ酢酸イオン、過塩素酸イオン、ジクロロ酢酸イオン、硝酸イオン、塩化物イオン、酢酸イオン、バリウムイオン、カルシウムイオン、リチウムイオン、セシウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン等が挙げられる。
【0058】
誘引液がカオトロピックイオンを含有する場合、誘引液中におけるカオトロピックイオンの濃度は、用いられるカオトロピックイオンの種類により異なる。前記濃度は、通常1.0〜8.0mol/Lである。カオトロピックイオンがグアニジンイオンである場合、誘引液中におけるカオトロピックイオンの濃度は、通常、4.0〜7.5mol/Lである。また、チオシアン酸イオンである場合、誘引液中におけるカオトロピックイオンの濃度は、通常、3.0〜5.5mol/Lである。
【0059】
なお、標識物質21a又は誘引用修飾物質21bとして核酸(DNA、RNA等)を用いる場合、慣用の核酸抽出・精製方法を利用して、標識物質を含む検出物質を、作用電極121の近傍に誘引させることができる。
【0060】
前記核酸抽出・精製方法としては、液相を用いる方法、核酸結合用担体を用いる方法等が挙げられる。液相を用いる方法としては、例えば、フェノール/クロロホルム抽出法(Biochimica et Biophysica acta、1963年発行、第72巻、pp.619−629)、アルカリSDS法(Nucleic Acid Research、1979年発行、第7巻、pp.1513−1523)、塩酸グアニジンを含有する緩衝液にエタノールを加え核酸を沈降させる方法(Analytical Biochemistry、162、1987、463)等が挙げられる。核酸結合用担体を用いる方法としては、ガラス粒子とヨウ化ナトリウム溶液とを用いて核酸をガラス粒子に吸着させ、単離する方法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA、76−2:615−619,1979)や、シリカ粒子とカオトロピックイオンを用いる方法〔例えば、J.Clinical.Microbiology、1990年発行、第28巻、pp.495−503、特許第2680462号公報等を参照〕等が挙げられる。シリカ粒子とカオトロピックイオンを用いる方法では、まず、核酸が結合するシリカ粒子と試料中の核酸を遊離する能力を有するカオトロピックイオンを含む溶液とを試料と混合して核酸をシリカ粒子に結合させる。つぎに、夾雑物質を洗浄により除去する。その後、シリカ粒子に結合した核酸を回収する。前記方法によれば、簡便、かつ迅速に核酸を抽出することができる。しかも、かかる方法は、DNAの抽出だけではなく、より不安定であるRNAの抽出にも好適であり、純度の高い核酸が得られるという点で非常に優れている。
そこで、標識物質を含む検出物質が、標識物質21a又は誘引用修飾物質21bとして核酸を含む場合、前記核酸抽出・精製方法に用いられる溶媒を誘引液として用いることにより、検出物質を作用電極121の近傍に誘引させることができる。この場合、カオトロピックイオンとして、グアニジンイオン、ヨウ化物イオン、臭化物イオン、チオシアン酸イオン又はこれらの任意の組み合わせを用い、作用電極として核酸を結合する電極(例えば、スズを含む酸化インジウム等)を用いることが好ましい。
【0061】
また、標識物質を含む検出物質が、標識物質21a又は誘引用修飾物質21bとして核酸(DNA、RNA等)を含む場合、誘引液は、必要に応じて、緩衝液を含有していてもよい。前記緩衝液は、核酸を安定に保持するために一般に用いられる緩衝液であればよい。前記緩衝液は、核酸を安定に保持する観点から、中性付近、すなわちpH5.0〜9.0において緩衝能を有することが好ましい。前記緩衝液としては、例えば、トリス−塩酸塩、四ホウ酸ナトリウム−塩酸、リン酸二水素カリウム−四ホウ酸ナトリウム緩衝液等が挙げられる。緩衝液の濃度は、1〜500mmol/Lであることが好ましい。
【0062】
一方、誘引方法2では、標識物質を含む検出物質の電荷に応じて、正又は負の電圧を作用電極に印加する。例えば、標識物質を含む検出物質が、標識物質21a又は誘引用修飾物質21bとして核酸を含む場合、核酸は負に荷電している。したがって、作用電極121に正の電圧を印加することにより、標識物質を含む検出物質を作用電極121の近傍に誘引させることができる。
【0063】
光電気化学検出法では、つぎに、作用電極121の近傍に存在する標識物質を含む検出物質に光を照射して標識物質21aを励起させ、光電流を測定することにより、検出物質を検出する〔図11中、(C)、「検出工程」〕。
【0064】
本検出工程では、誘引工程において誘引液を用いた場合、必要に応じて、誘引液を、電気化学的な検出に適した電解液に置換することができる。この場合、電解液の存在下において、標識物質を含む検出物質を電気化学的に検出する。
なお、誘引液が、酸化された状態の標識物質21aに電子を供給する性質を有し、検出物質の電気化学的な検出が可能である場合、検出工程において、この誘引液をそのまま用いてもよい。
【0065】
前記電解液として、酸化された状態の標識物質21aに電子を供給しうる塩からなる電解質と、非プロトン性極性溶媒、プロトン性極性溶媒又は非プロトン性極性溶媒とプロトン性極性溶媒との混合物とを含む溶液を用いることができる。この電解液は、所望により、他の成分をさらに含んでいてもよい。
【0066】
電解質としては、例えば、ヨウ化物、臭化物、金属錯体、チオ硫酸塩、亜硫酸塩、これらの混合物等が挙げられる。前記電解質の具体例としては、LiI、NaI、KI、CsI、CaI2等の金属ヨウ化物;テトラアルキルアンモニウムヨーダイド、ピリジニウムヨーダイド、イミダゾリウムヨーダイド等の4級アンモニウム化合物のヨウ素塩;LiBr、NaBr、KBr、CsBr、CaBr2等の金属臭化物;テトラアルキルアンモニウムブロマイド、ピリジニウムブロマイド等の4級アンモニウム化合物の臭素塩;フェロシアン酸塩、フェリシニウムイオン等の金属錯体;チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸アンモニウム、チオ硫酸カリウム、チオ硫酸カルシウム等のチオ硫酸塩;亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸アンモニウム、亜硫酸鉄、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸カルシウム等の亜硫酸塩;及びこれらの混合物等が挙げられる。これらのなかでは、テトラプロピルアンモニウムヨーダイド及びCaI2が好ましい。
【0067】
電解液の電解質濃度は、好ましくは0.001〜15Mである。
【0068】
プロトン性極性溶媒として、水、水を主体に緩衝液成分を混合した極性溶媒等を用いることができる。
非プロトン性極性溶媒としては、アセトニトリル(CHCN)等のニトリル類;プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート等のカーボネート類、1,3−ジメチルイミダゾリノン、3−メチルオキサゾリノン、ジアルキルイミダゾリウム塩等の複素環化合物;ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン等が挙げられる。非プロトン性極性溶媒のなかでは、アセトニトリルが好ましい。プロトン性極性溶媒及び非プロトン性極性溶媒は、単独で、又は両者を混合して用いることができる。プロトン性極性溶媒と非プロトン性極性溶媒との混合物は、水とアセトニトリルとの混合物が好ましい。
【0069】
標識物質を含む検出物質への光の照射には、標識物質を光励起することができる波長の光を照射できる光源を用いることができる。かかる光源は、標識物質の種類等に応じて、適宜選択することができる。前記光源としては、例えば、蛍光灯、ブラックライト、殺菌ランプ、白熱電球、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、キセノンランプ、水銀−キセノンランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、LED(白色LED、青色LED、緑色LED、赤色LED等)、レーザー(炭酸レーザー、色素レーザー、半導体レーザー)、太陽光等が挙げられる。前記光源のなかでは、蛍光灯、白熱電球、キセノンランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、LED又は太陽光が好ましい。また、検出工程においては、必要に応じて、分光器やバンドパスフィルタを用いて特定波長領域の光のみを標識物質を含む検出物質に照射してもよい。
【0070】
標識物質を含む検出物質に由来する光電流の測定には、例えば、電流計、ポテンショスタット、レコ−ダ及び計算機を備える測定装置等を用いることができる。
本検出工程では、光電流を定量することにより、検出物質の量を調べることができる。
【0071】
なお、本光電気化学検出法に用いられる作用電極121上には、標識物質を含む検出物質を捕捉する捕捉物質が存在しない。したがって、作用電極121を簡便な処理で洗浄することができ、再利用することができる。
作用電極の洗浄は、紫外線―オゾン洗浄(UV-O3洗浄)等により行なうことができる。前記UV-O3洗浄では、紫外線による有機化合物の分解とO3の生成及び分解の過程における強力な酸化作用により有機化合物が分解され、電極の表面から除去される。
また、標識物質21a又は誘引用修飾物質21bとして核酸を用いた場合、適切な溶液中で、作用電極上にマイナスの電圧を印加することで、検出物質を作用電極から解離させることもできる。これは、核酸がマイナスに帯電しているからである。前記溶液としては、例えば、リン酸緩衝生理的食塩水(PBS)、TEB〔組成:10mMトリス塩酸緩衝液、1mM EDTA〕水等が挙げられる。
【0072】
2.酸化還元電流・電気化学発光検出法
酸化還元電流・電気化学発光検出法においても、前記光電気化学検出法の場合と同様に、まず、標識物質を含む検出物質を準備する。図12においては、標識物質を含む検出物質として、標識物質21aと誘引用修飾物質21bとからなる修飾標識物質23bを用いる場合を例として挙げて説明する(なお、図14及び図16においても同様である)。酸化還元電流・電気化学発光検出法では、標識物質21aとして、電圧を印加することにより酸化還元電流を生じる標識物質又は電圧を印加することにより発光する標識物質が用いられる。
【0073】
電圧を印加することにより酸化還元電流を生じる標識物質としては、例えば、電気的に可逆的な酸化還元反応を起こす金属を中心金属として含む金属錯体等が挙げられる。このような金属錯体としては、例えば、トリス(フェナントロリン)亜鉛錯体、トリス(フェナントロリン)ルテニュウム錯体、トリス(フェナントロリン)コバルト錯体、ジ(フェナントロリン)亜鉛錯体、ジ(フェナントロリン)ルテニュウム錯体、ジ(フェナントロリン)コバルト錯体、ビピリジンプラチナ錯体、タ−ピリジンプラチナ錯体、フェナントロリンプラチナ錯体、トリス(ビピリジル)亜鉛錯体、トリス(ビピリジル)ルテニュウム錯体、トリス(ビピリジル)コバルト錯体、ジ(ビピリジル)亜鉛錯体、ジ(ビピリジル)ルテニュウム錯体、ジ(ビピリジル)コバルト錯体等が挙げられる。
また、酸化還元電流・電気化学発光検出法においても、誘引用修飾物質としても利用可能な核酸を標識物質として用いてもよい。標識物質として核酸を用いた場合、核酸由来の酸化還元電流として、アデニン、チミン、グアニン、シトシン又はウラシルに由来する酸化還元電流を利用することができる。
【0074】
電圧を印加することにより発光する標識物質としては、例えば、ルミノ−ル、ルシゲニン、ピレン、ジフェニルアントラセン、ルブレン等が挙げられる。
これらの標識物質の発光は、例えば、ホタルルシフェリン、デヒドロルシフェリンのようなルシフェリン誘導体、フェニルフェノ−ル、クロロフェノ−ルのようなフェノ−ル類若しくはナフト−ル類のようなエンハンサ−を用いることにより増強することが可能である。
【0075】
酸化還元電流・電気化学発光検出法では、つぎに、作用電極121に、標識物質を含む検出物質を誘引する〔図12中、(B)、「誘引工程」〕。
【0076】
かかる誘引工程は、捕捉物質が存在しない作用電極によって標識物質を電子励起可能な領域に誘引する工程である。
【0077】
作用電極121への標識物質を含む検出物質の誘引は、前記光電気検出法における誘引工程と同様の操作により行なうことができる。
【0078】
ここで、「捕捉物質が存在しない作用電極によって標識物質を電子励起可能な領域」は、電圧を印加することにより作用電極から標識物質に電子が移動し、当該標識物質を電子励起状態にすることができる領域である。前記領域は、通常、作用電極から0〜10nmの範囲の領域である。
【0079】
酸化還元電流・電気化学発光検出法に用いられる作用電極121(図9参照)としては、例えば、グラファイト、グラシーカーボン、パイロリティックグラファイト、カーボンペースト、カーボンファイバー等からなる炭素電極、白金、白金黒、金、パラジウム、ロジウム等からなる貴金属電極、酸化チタン、酸化スズ、酸化マンガン、酸化鉛等からなる酸化物電極、電子重要物質としてのSi、Ge、ZnO、CdS、TiO2、GaAs等からなる半導体電極、チタンからなるチタン電極等が挙げられる。
【0080】
なお、酸化還元電流・電気化学発光検出法に用いられる作用電極121には、前記光電気化学検出法に用いられる作用電極121と同様に、例えば、アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)等のカチオン性シランカップリング剤等のシランカップリング剤等を用いた表面処理が施されていてもよい。かかる表面処理により、作用電極121の表面を親水性又は疎水性を有するように適宜調節することができる。
【0081】
酸化還元電流・電気化学発光検出法では、つぎに、作用電極121の近傍に存在する標識物質を含む検出物質に電圧を印加する。そして、標識物質に基づく酸化還元電流又は光を測定することにより、検出物質を検出する〔図12中、(C)、「検出工程」〕。なお、図12中の(C)は、光を測定する場合を例として挙げて示している。
【0082】
本検出工程では、誘引工程において誘引液を用いた場合、光電気化学検出法の場合と同様に、必要に応じて、誘引液を、電気化学的な検出に適した電解液に置換することができる。この場合、電解液の存在下において、標識物質を含む検出物質を電気化学的に検出する。
【0083】
本検出工程において、酸化還元電流を測定する場合、酸化還元電流の測定には、例えば、ポテンショスタット、ファンクションジェネレータ、レコ−ダ及び計算機を備える測定装置等を用いることができる。
この場合、酸化還元電流を定量することにより、検出物質の量を調べることができる。
【0084】
本検出工程において、標識物質に基づく光を測定する場合、当該光の測定には、フォトンカウンタ等を用いることができる。また、この場合、電極の代わりに、光ファイバ−の先端に透明電極を形成することにより得られる光ファイバ−電極を用いて間接的に検出することもできる(特許第2573443号公報を参照)。
【0085】
本酸化還元電流・電気化学発光検出法に用いられる作用電極121上にも、標識物質を含む検出物質を捕捉する捕捉物質が存在しない。したがって、光電気化学検出法に用いられる作用電極121の場合と同様に、簡便な処理で作用電極121を洗浄することができ、再利用することができる。
作用電極の洗浄は、光電気化学検出法における作用電極の洗浄と同様の操作により行なうことができる。
【0086】
[被検物質の電気化学的検出方法]
本発明の被検物質の電気化学的検出方法は、被検物質を電気化学的に検出する方法であって、固相上に、標識物質と被検物質とを含む複合体を形成する工程と、複合体が形成された固相を単離する工程と、単離工程で得られた、固相上に形成された複合体から、標識物質を含む検出物質を分離する工程と、分離された標識物質を含む検出物質を、標識物質を含む検出物質を捕捉する捕捉物質が存在しない作用電極に誘引する工程と、標識物質を含む検出物質を、電気化学的に検出する工程と、を含むことを特徴とする。
本発明の被検物質の電気化学的検出方法には、上述した検出装置及び検査チップを用いることができる。しかし、本発明は、上述した検出装置及び検査チップにより限定されるものではない。以下、「被検物質の電気化学的検出方法」を、「方法(B)」と表記する場合がある。
【0087】
方法(B)では、前記標識物質としては、電気化学的又は光化学的に活性な物質が用いられる。かかる方法(B)は、方法(A)の場合と同様に、標識物質の検出技術の種類によって、光電気化学検出法(図13参照)及び酸化還元電流・電気化学発光検出法(図14)に大別することができる。
【0088】
方法(B)は、被検物質の量に応じた標識物質を含む検出物質を得る工程〔「被検物質捕捉工程」(図13及び図14中の(A))、「検出物質付加工程」(図13及び図14中の(B))、「単離工程」(図13及び図14中の(C))並びに「分離工程」(図13及び図14中の(D))〕が含まれている点で、方法(A)と異なっている。
なお、方法(B)では、誘引工程〔図13及び図14中の(E)を参照〕及び検出工程〔図13及び図14中の(F)を参照〕は、方法(A)における誘引工程及び検出工程と同様である。また、方法(B)に用いられる標識物質、誘引用修飾物質、誘引液、作用電極、電解液等は、方法(A)に用いられる標識物質、誘引用修飾物質、誘引液、作用電極、電解液等と同様である。
【0089】
以下、方法(B)において、被検物質の量に応じた標識物質を含む検出物質を得る工程について説明する。
【0090】
方法(B)では、まず、被検物質10を、捕捉物質(第1の捕捉物質)32を介して固相31上に捕捉する〔図13及び図14中の(A)、「被検物質捕捉工程」〕。本被検物質捕捉工程では、固相31上に第1の捕捉物質32と被検物質10とを含む複合体が形成される。このとき、被検物質10以外の成分は、第1の捕捉物質32に捕捉されておらず、遊離している。
【0091】
固相31は、磁気分離、溶液置換等により、単離可能なものであればよい。かかる固相31としては、例えば、磁気ビーズ、基板等が挙げられる。
【0092】
第1の捕捉物質32は、被検物質10の種類に応じて適宜選択される。例えば、被検物質10が核酸である場合、第1の捕捉物質32は、かかる核酸にハイブリダイズする核酸プローブ又は前記核酸に対する抗体であればよい。また、被検物質10がタンパク質又はペプチドである場合、第1の捕捉物質32は、かかるタンパク質又はペプチドに対する抗体、タンパク質に対するリガンド、ペプチドに対するレセプタータンパク質等であればよい。
【0093】
第1の捕捉物質32による被検物質10の捕捉は、第1の捕捉物質32と被検物質10とが結合する条件下で行なうことができる。第1の捕捉物質32と被検物質10とが結合する条件は、被検物質10の種類、固相31の種類等に応じて適宜選択することができる。
例えば、被検物質が核酸である場合、第1の捕捉物質32による被検物質10の捕捉は、リン酸緩衝生理的食塩水等の溶液中で行なうことができる。第1の捕捉物質32による被検物質10の捕捉は、例えば、マイクロチューブ(例えば、エッペンドルフチューブ等)中で行なうことができる。
【0094】
その後、標識物質を含む検出物質(標識結合物質24)を被検物質10に付加する〔図13及び図14の(B)、「検出物質付加工程」〕。
被検物質10への標識物質を含む検出物質(標識結合物質24)の付加は、標識結合物質24に含まれる結合物質22と被検物質10とが結合する条件下で行なうことができる。結合物質22と被検物質10とが結合する条件は、被検物質10の種類等に応じて適宜選択することができる。
例えば、被検物質が核酸である場合、被検物質10への標識物質を含む検出物質(標識結合物質24)の付加は、リン酸緩衝生理的食塩水等の溶液中で行なうことができる。被検物質10への標識物質を含む検出物質(標識結合物質24)の付加は、例えば、マイクロチューブ(例えば、エッペンドルフチューブ等)中で行なうことができる。
なお、被検物質10が核酸である場合、被検物質の捕捉に関与しない部分に制限酵素で切断可能な認識配列を含み、かつ標識物質が結合された核酸(「切断可能な核酸」ともいう)を用いることができる。この場合、固相31上では、第1の捕捉物質32と被検物質10と標識物質とを少なくとも含む複合体が形成される。したがって、後述の分離工程で制限酵素を用いることにより、被検物質の量に応じた標識物質を含む検出物質を簡単に得ることができる。
また、被検物質10が核酸であり、かつ標識物質を含む検出物質に核酸が含まれる場合には、後述の分離工程において、固相31上に形成された複合体を加熱してもよい。これにより、被検物質の量に応じた標識物質を含む検出物質を簡単に得ることができる。
【0095】
なお、検出物質付加工程では、標識物質を含む検出物質として、固相31上に形成された第1の捕捉物質32と被検物質10とを含む複合体を認識して捕捉する物質を用いてもよい。
例えば、被検物質10が核酸であり、第1の捕捉物質32が核酸を含む場合、標識物質を含む検出物質として、二本鎖核酸を認識する挿入剤(intercalating agents)を用いることができる挙げることができる。前記挿入剤は、その分子中にフェニル基等の平板状挿入基を有している。この平板状挿入基は、二本鎖核酸(被検物質10と第1の捕捉物質32との複合体)の塩基対と塩基対との間に介入する。これにより、前記挿入剤は、前記二本鎖核酸と結合する。
前記挿入剤のなかには、電気化学的変化を生じる挿入剤(電気化学的に活性な物質)や光学的変化を生じる挿入剤(光化学的に活性な物質)がある。これらの挿入剤が結合した二本鎖核酸は、前記挿入剤の電気化学的変化又は光学的変化を測定することによって検出することができる。したがって、電気化学的変化を生じる挿入剤又は光学的変化を生じる挿入剤を標識物質として用いてもよい。前記挿入剤としては、特に限定されないが、例えば、エチジウム、エチジウムブロマイド、アクリジン、アミノアクリジン、アクリジンオレンジ、プロフラビン、エリブチシン、アクチノマイシンD、ドーノマイシン、マイトマイシンC等を用いることができる。また、その他の使用可能な挿入剤としては、特開昭62−282599号公報、特許第2573443号公報等に記載の挿入剤等が挙げられる。
【0096】
つぎに、複合体が形成された固相31を単離する〔図13及び図14の(C)、「単離工程」〕。
【0097】
本単離工程では、固相31の単離方法は、固相31の種類等に応じて適宜選択することができる。
例えば、固相31が磁気ビーズである場合、磁石に固相31(磁気ビーズ)が引き寄せられる。この場合、磁石を用いることにより、固相31(磁気ビーズ)を簡単に単離することができる。
また、固相31が基板である場合、基板上の溶液を新しい溶液に置換することにより、被検物質10以外の成分を除去することができる。この場合、基板上の溶液の置換により、固相31を簡単に単離することができる。
【0098】
つぎに、単離工程で得られた、固相31上に形成された複合体から、標識物質を含む検出物質(図13及び図14の(D)中、修飾標識物質23)を分離する〔図13及び図14の(D)、「分離工程」〕。
【0099】
本分離工程では、前記検出物質付加工程で用いられた標識物質を含む検出物質(標識結合物質24)の種類に応じた分離方法により、標識物質を含む検出物質を分離する。
【0100】
例えば、被検物質10が核酸であり、被検物質と相補的な配列を有する核酸が修飾された標識物質が用いられる場合、固相31上に形成された複合体を含む溶液を加熱することにより、被検物質の量に応じた標識物質を含む検出物質を簡単に固相から分離することができる。
また、標識物質に前記切断可能な核酸が修飾されている場合、制限酵素で前記切断可能な核酸中の認識配列を切断することにより、被検物質の量に応じた標識物質を含む検出物質を得ることができる。
上述のように、標識物質を含む検出物質に核酸が含まれる場合には、誘引工程において、核酸抽出・精製に用いられる溶液(例えば、キアジェン社製、商品名:PB buffer等)を用いることができる。この場合、まず、前記溶液を、分離工程で回収された前記液相に添加する。そして、得られた混合物を作用電極121上に滴下する。これにより、標識物質を含む検出物質(修飾標識物質23)を作用電極121の近傍に誘引させることができる。
被検物質が核酸以外の物質である場合、標識物質21a又は誘引用修飾物質21bとして核酸を用いてもよい。これにより、前記と同様に簡便に被検物質の検出を行なうことができる。
【0101】
なお、方法(B)では、図15及び図16に示されるように、単離工程の後に、検出物質付加工程を行なってもよい。
【0102】
さらに、本発明の被検物質の電気化学的検出方法には、電気化学的又は光化学的に活性な被検物質を電気化学的に検出する方法であって、固相上に、被検物質を固定する工程と、被検物質が固定された固相を単離する工程と、単離工程で得られた被検物質が固定された固相から、被検物質又は被検物質の一部を分離する工程と、分離された被検物質又は被検物質の一部を、被検物質又は被検物質の一部を捕捉する捕捉物質が存在しない作用電極に誘引する工程と、被検物質又は被検物質の一部を、電気化学的に検出する工程と、を含む被検物質の電気化学的検出方法も含まれる〔方法(C)という〕。
【0103】
方法(C)によれば、具体的には、被検物質10が核酸である場合、まず、被検物質10を磁気ビーズ等の固相31に固定された第1の捕捉物質32を介して当該固相31上に固定化する。つぎに、得られた固相31を単離することにより被検物質10以外の成分を除去する。そして、被検物質10と第1の捕捉物質32とを含む複合体が形成された固相31に加熱処理又は制限酵素処理を施して被検物質10又は被検物質10の一部(あるいは、標識物質)を分離する。その後、検出物質を、誘引液を用いて作用電極の近傍に誘引させ、酸化還元電流を測定して、被検物質10を検出する。
【0104】
[検出キット]
本発明の検出キットは、被検物質を電気化学的に検出するための検出セットであって、被検物質を捕捉する第1の捕捉物質が固定された固相と、被検物質を捕捉する結合物質が標識物質で標識された標識結合物質と、結合物質から分離された標識物質を含む検出物質を捕捉する第2の捕捉物質が存在しない作用電極と導電性材料からなる対極とを備えた検査チップと、を含むことを特徴とする。
かかる検出キットは、標識物質と被検物質とを含む複合体が形成された固相から、標識物質を含む検出物質を分離する分離剤をさらに含んでいてもよい。
【0105】
前記固相、標識結合物質及び検査チップは、前述のとおりである。
【0106】
分離剤は、被検物質及び第1の捕捉物質の種類等に応じて適宜選択することができる。例えば、被検物質が核酸である場合、分離剤として、制限酵素等を用いることができる。
【実施例】
【0107】
以下、実施例等により、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本実施例においては、被検物質の光電気化学検出法に関する実施例を示す。
【0108】
(実施例1)
極性の違いを利用することにより、標識物質を含む検出物質を作用電極の近傍に誘引することができるかどうかを検証した。
【0109】
(1)作用電極部の作製
二酸化ケイ素(SiO2)からなる基板上に、スパッタリングにより、スズを含む酸化インジウムからなる厚さ200nmの半導体層を形成し、半導体電極部を得た。前記半導体電極部には、電流計と接続するための半導体電極リードを接続した。
【0110】
(2)対極部の作製
二酸化ケイ素(SiO2)からなる基板上に、スパッタリングにより、白金薄膜からなる厚さ200nmの導電層を形成し、対極部を得た。この対極部には電流計と接続するための対極リードを接続した。
【0111】
(3)標識物質を含む検出物質の調製
標識物質を含む検出物質として、24ヌクレオチド長のDNA(誘引用修飾物質)とAlexa 750(インビトロジェン社製)(標識物質)とからなる複合体(標識物質と誘引用修飾物質とからなる修飾標識物質)を使用した。
【0112】
(4)誘引液及び電解液の調製
標識物質を作用電極の近傍へ誘引させるための誘引液と、電気化学検出に用いるための電解液は、必ずしも同一である必要はないが、本実施例においては、同一の液体で固定・検出が可能である液体(「誘引電解液」ともいう)及び標識物質を含む検出物質の組み合わせを使用した。なお、本実施例では、誘引電解液に用いられる溶媒として非プロトン性極性溶媒を用いた。
【0113】
アセトニトリルとエチレンカーボネートとを体積比で2:3となるように混合し、非プロトン性極性溶媒を得た。かかる非プロトン性極性溶媒を誘引電解液に用いる溶媒とした。
【0114】
また、前記非プロトン性極性溶媒に、電解質塩として、テトラプロピルアンモニウムヨーダイドをその濃度が0.6Mとなるように溶解させた。得られた溶液に、さらに電解質として、ヨウ素をその濃度が0.06Mとなるように溶解させ、誘引電解液を得た。
【0115】
(5)光電流の測定
標識物質を含む検出物質を固定した作用電極部を有する基板の周囲に、厚さ0.2mmの側壁となるようにシリコーンゴムを配置した。
【0116】
電解液で検出物質の濃度を0M(実験番号1)又は1nM(実験番号2)となるように調整し、検出液を得た。なお、「検出液」とは、電気化学的な検出を行なう際、測定の対象となる液体をいう。前記シリコーンゴムで形成された空間に、前記検出液10μLを充填した。そして、前記検出液が充填された空間を、作用電極部を有する基板の上方から、対極部を有する基板で密封した。これにより、作用電極部と対極部とを電解液に接触させた。つぎに、作用電極リードと対極リードとを電流計に接続した。
【0117】
作用電極部側から対極部に向けて、光源(波長781nm、出力13mWのレーザー光源)から光を照射した。光照射により、標識物質が励起され、電子を生じる。そして、前記電子が半導体層に輸送されることにより、作用電極部と対極部との間に電流が流れる。そこで、この電流を測定した。
【0118】
なお、実験番号2においては、実験番号1で用いた作用電極とは異なる作用電極を用いた。また、実験番号2で用いた作用電極をエタノールで洗浄、風乾させた後、シリコーンゴムで形成された空間内へ検出物質を含まない検出液を充填し、再度測定を行なった(実験番号3)。
【0119】
実施例1において、実験番号1〜3での光電流の測定結果を図17に示す。
【0120】
図17に示された結果から、検出物質を含む検出液(実験番号2)において、標識物質を含む検出物質由来の光電流が流れたことがわかる。したがって、前記修飾標識物質、誘引電解液及び作用電極との間の極性の違いを利用して、標識物質を含む検出物質を検出できることが示唆される。
また、図17に示された結果から、検出物質を含まない検出液(実験番号3)において、実験番号2と同程度の光電流が流れたことがわかる。したがって、実験番号2で得られた光電流は、作用電極に誘引された標識物質を含む検出物質に由来していることがわかる。また、誘引された検出物質は溶液を置換した後も作用電極上に保持されていることがわかる。
【0121】
(実施例2)
実施例1における非プロトン性極性溶媒の代わりに、プロトン性極性溶媒である水を用いた。また、カオトロピックイオンを含む誘引電解液として、ヨウ化カルシウムをその濃度が1.5Mとなるように水で溶解させて得られた液体を用いた。さらに、検出液として、検出物質の濃度が0M(実験番号4)又は1μM(実験番号5)の検出液を用いた。これらの点を除き、実施例1と同様に操作を行なった。そして、極性の違いを利用することにより、標識物質を含む検出物質を作用電極の近傍に誘引することができるかどうかを検証した。
【0122】
なお、光電流の測定に際し、実験番号5においては、実験番号4で用いた作用電極とは異なる作用電極を用いた。また、実験番号5で用いた作用電極をエタノールで洗浄、風乾させた後、シリコーンゴムで形成された空間内へ検出物質を含まない検出液を充填し、再度測定を行なった(実験番号6)。
【0123】
実施例2において、実験番号4〜6での光電流の測定結果を図18に示す。
【0124】
図18に示された結果から、検出物質を含む検出液(実験番号5)において、標識物質を含む検出物質由来の光電流が流れたことがわかる。したがって、誘引電解液に用いられる溶媒として、プロトン性極性溶媒が用いた場合であっても、当該検出物質を検出できることが示唆される。
また、図18に示された結果から、検出物質を含まない検出液(実験番号6)において、実験番号5と同程度の光電流が流れたことがわかる。したがって、実験番号5で得られた光電流は、作用電極に誘引された標識物質を含む検出物質に由来していることがわかる。また、誘引された検出物質は溶液を置換した後も作用電極上に保持されていることがわかる。
【0125】
(実施例3)
本実施例では、標識物質を含む検出物質として、Alexa750(インビトロジェン社)を用いた。また、検出液として、検出物質の濃度が0M(実験番号7)又は1μM(実験番号8)の検出液を用いた。これらの点を除き、実施例1と同様に操作を行なった。そして、標識物質を含む検出物質が標識物質のみからなるものである場合においても、検出物質を作用電極の近傍に誘引できるかどうかを検証した。
【0126】
なお、光電流の測定に際し、実験番号8においては、実験番号7で用いた作用電極とは異なる作用電極を用いた。また、実験番号8で用いた作用電極をエタノールで洗浄、風乾させた後、シリコーンゴムで形成された空間内へ検出物質を含まない検出液を充填し、再度測定を行なった(実験番号9)。
【0127】
実施例3において、実験番号7〜9での光電流の測定結果を図19に示す。
【0128】
図19に示された結果から、検出物質を含む検出液(実験番号8)において、標識物質を含む検出物質由来の光電流が流れたことがわかる。したがって、この結果から、標識物質を含む検出物質として、標識物質のみを用いた場合であっても、当該検出物質を検出できることが示唆される。
また、図19に示された結果から、検出物質を含まない検出液(実験番号9)において、実験番号8と同程度の光電流が流れたことがわかる。したがって、実験番号8で得られた光電流は、作用電極に誘引された標識物質を含む検出物質に由来していることがわかる。また、誘引された検出物質は溶液を置換した後も作用電極上に保持されていることがわかる。
また、実験番号2(図17)は、実験番号8(図19)に比べて、検出物質濃度に対する光電流値が大きいことから、DNAは、作用電極に標識物質を誘引させる誘引用修飾物質として機能することがわかる。
【0129】
(実施例4)
簡便な処理により作用電極を洗浄することにより、作用電極を再利用することができるかどうかを検証した。
【0130】
実施例1において、標識物質を含む検出物質の濃度が10nMとなるように調整された検出液を用いたことを除き、実施例1と同様の操作を行なうことにより、光電流を測定した(実験番号10:初回測定)。
【0131】
また、再利用のための洗浄処理として、先ず、実験番号10で用いた作用電極をエタノールで洗浄し、風乾した。つぎに、リン酸緩衝生理的食塩水で、シリコーンゴムで形成された空間内の溶液を置換し、作用電極に直流電圧(−1V)を2分間印加した。その後、作用電極をエタノールで洗浄し、風乾させた。
洗浄処理の後、前記作用電極を用い、検出物質の濃度が0nMである検出液について、光電流を測定した(実験番号11)。
【0132】
さらに、実験番号11で用いた作用電極をエタノールで洗浄、風乾させた。その後、前記作用電極を用い、検出物質の濃度が10nMである検出液について、光電流を測定した(実験番号12:再測定)。
【0133】
実施例4において、実験番号10〜12での光電流の測定結果を図20に示す。
【0134】
図20に示された結果から、作用電極を洗浄した場合でも標識物質を含む検出物質由来の光電流が流れたこと(実験番号12)が確認できたことから、本発明の方法によれば、作用電極が再利用できることがわかる。
【0135】
(実施例5)
測定を行なう前に再利用のための洗浄処理を行なった同一の作用電極を用いて、検出物質の濃度が0nM(実験番号13)、0.1nM(実験番号14)、1nM(実験番号15)又は10nM(実験番号16)である検出液を測定したことを除き、実施例1と同様の操作を行なうことにより、光電流を測定した。なお、再利用のための洗浄処理を、実施例4における実験番号11の場合と同様に行なった。
【0136】
実施例5において、実験番号13〜16での光電流の測定結果を図21に示す。
【0137】
図21に示された結果から、検出物質の濃度が高くなるにつれて、光電流が増加したことから、本発明の方法によれば、標識物質を含む検出物質を定量できることがわかる。
【0138】
(実施例6)
実施例1の(1)で得られた作用電極の光照射部の表面に対して、シランカップリング剤であるAPTESにより表面処理を施した。
【0139】
実施例1において、APTESで表面が処理された作用電極を用い、標識物質を含む検出物質の濃度が1nMである検出液を用いたことを除き、実施例1における実験番号1と同様の操作を行ない、光電流を測定した(実験番号18)。
【0140】
また、前記において、APTESで表面が処理されていない作用電極を用いたことを除き、前記と同様にして、光電流を測定した(実験番号17)。
【0141】
実施例6において、実験番号17及び18での光電流の測定結果を図22に示す。
【0142】
図22に示された結果から、表面処理を施した作用電極を用いた場合においても、標識物質を含む検出物質由来の光電流を検出することができることが示唆される。
【0143】
(実施例7)
誘引液がカオトロピックイオンを含まない場合においても、検出物質を作用電極近傍に誘引できるかどうかを検証した。
本実施例では、標識物質を含む検出物質として、被検物質を捕捉する結合物質(抗マウスIgG抗体)が標識物質〔インビトロジェン社製、Alexa 750〕で標識された標識結合物質を用いた。また、誘引液の溶媒として、カオトロピックイオンを含まないプロトン性溶媒と非プロトン性溶媒との混合液〔トリス緩衝食塩液(TBS)とアセトニトリル(AN)とエチレンカーボネート(EC)との混合液(TBS:AN:EC(体積比)=5:2:3)を用いた。電解液に用いられる溶媒として非プロトン性溶媒〔アセトニトリルとエチレンカーボネートとの体積比が2:3である混合液〕を用いた。前記非プロトン性極性溶媒に、電解質塩として、テトラプロピルアンモニウムヨーダイドをその濃度が0.6Mとなるように溶解させた。得られた溶液に、さらに電解質として、ヨウ素をその濃度が0.06Mとなるように溶解させ、電解液を得た。
【0144】
実施例1の(1)で得られた作用電極部を有する基板の周囲に、厚さ0.2mmの側壁となるようにシリコーンゴムを配置した。前記シリコーンゴムで形成された空間に、標識物質を含む検出物質の濃度が0g/mL(実験番号19)又は1μg/mL(実験番号20)である誘引液10μLを注入した。そして、前記誘引液が充填された空間を、作用電極部を有する基板の上方から、カバーガラスで密封し、10分間静置させた。その後、カバーガラス及びシリコーンゴムを外し、作用電極をエタノールで洗浄、風乾させた(誘引工程)。
【0145】
つぎに、作用電極部を有する基板の周囲に、厚さ0.2mmの側壁となるようにシリコーンゴムを配置した。前記シリコーンゴムで形成された空間に、電解液10μLを注入した。そして、前記電解液が充填された空間を、作用電極部を有する基板の上方から、実施例1の(2)で得られた対極部を有する基板で密封した。これにより、作用電極部と対極部とを電解液に接触させた。つぎに、作用電極リードと対極リードとを電流計に接続した。
【0146】
作用電極部側から対極部に向けて、光源(波長781nm、出力13mWのレーザー光源)から光を照射した。これにより、標識物質が励起され、励起された標識物質から発生した電子が半導体層に輸送され、作用電極部と対極部との間に電流が流れる。そこで、この電流を測定した。
【0147】
実施例7において、実験番号19及び20での光電流の測定結果を図23に示す。
【0148】
図23に示された結果から、実験番号20において、標識物質を含む検出物質由来の光電流が流れたことがわかる。したがって、誘引液がカオトロピックイオンを含まない場合であっても、標識物質を含む検出物質を検出することができることが示唆される。
また、本実施例では、誘引工程後、検出物質を含まない検出液へ溶液を置換し、検出物質由来の光電流を検出している。したがって、実験番号20で得られた光電流は、作用電極に誘引された標識物質を含む検出物質に由来していることがわかる。また、誘引された検出物質は溶液置換後も作用電極上に保持されていることがわかる。
【0149】
(実施例8)
本実施例では、固相上に、標識物質と被検物質とを含む複合体を形成する工程と、複合体が形成された固相を単離する工程と、単離工程で得られた、固相上に形成された複合体から、標識物質を含む検出物質を分離する工程とを含む、「被検物質の電気化学的検出方法」(「方法(B)」)により、被検物質を定量できるかどうかを検証した。
【0150】
(1)被検物質
本実施例では、被検物質として、マウスIgG(シグマ社製)を使用した。
【0151】
(2)捕捉物質が修飾された固相の調製
捕捉物質として抗マウスIgG抗体(カッペル社製)を用い、固相として、アミノ基修飾されたビーズ(住友ベークライト社製、アフィニティビーズ粒径5μm)を使用した。前記ビーズ37mgをタンパク質固定化用緩衝液(住友ベークライト社製)1mLと混合し、抗マウスIgG抗体をその濃度が100μg/mLになるように添加し、得られた混合物を37℃で4時間攪拌した。つぎに、遠心分離操作により、上澄み液を除去し、沈殿物をPBSで洗浄した。その後、不活性化用緩衝液(住友ベークライト社製)1mLを添加し、室温で1時間攪拌した。遠心分離操作により、上澄み液を除去し、沈殿物をPBSで洗浄した。これらの手順により、捕捉物質が修飾された固相を調製した。
【0152】
(3)標識結合物質の調製
標識結合物質として、捕捉物質に用いるものと同様の抗マウスIgG抗体に、Alexa 750(標識物質)(インビトロジェン社製)が結合されたものを用いた。
【0153】
上記したもの以外の作用電極部及び対極部は、実施例1で用いたものと同様のものを用いた。また、誘引液及び電解液については実施例7で用いたものと同様のものを用いた。
【0154】
(4)処理手順
本実施例における処理手順を図24に基づき説明する。
【0155】
(a)被検物質捕捉工程
1% Tweenを混合したトリス緩衝液(TBST)を溶媒として用いた。この溶媒に、被検物質であるマウスIgGを、その濃度が0.01ng/mL(実験番号21)、0.1ng/mL(実験番号22)、1ng/mL(実験番号23)又は10ng/mL(実験番号24)となるように添加して500μLの混合物を得た。マイクロチューブ内にて、前記混合物を、捕捉物質が修飾された固相と混合し、得られた混合物を室温で1時間攪拌することにより、固相上に被検物質を捕捉した(図24(A)参照)。
【0156】
(b)単離工程
前記被検物質捕捉工程において被検物質を捕捉した固相を、遠心分離によって単離し、TBSTで洗浄した(図24(B)参照)。
【0157】
(c)検出物質付加工程
TBSTを溶媒として用いた。この溶媒に上記した標識結合物質をその濃度が1μg/mLとなるように添加して500μLの混合物を得た。得られた混合物をマイクロチューブに添加し、混合し、室温で1時間攪拌した。その後、遠心分離により、固相−捕捉物質−被検物質−標識結合物質からなる複合体を単離した(図24(C)参照)。
【0158】
(d)分離工程
遠心分離操作により、前記検出物質付加工程で得られた複合体をTBSTで洗浄した後、溶媒をTBSTからTBSへ置換し、前記複合体を含む混合物の最終液量が10μLとなるように調整した。その後、前記混合物を60℃で15分間加熱することにより、標識結合物質を複合体より分離した。加熱により被検物質と捕捉物質との結合が切断される場合と被検物質と結合物質との結合が切断される場合とが生じ得るが、いずれの場合でも標識結合物質が分離されてくることとなる。ついで、遠心分離により上澄みを採取した(図24(D)参照)。
【0159】
以降の誘引工程及び検出工程については、シリコーンゴムで形成された空間に、採取した溶液(上澄み)5μLを作用電極へ滴下後、誘引溶媒5μLを添加したことを除き、実施例7に記載した方法により行った(図24(E)及び(F)参照)。
【0160】
実施例8において、実験番号21〜24での光電流の測定結果を図25に示す。図25に示された結果から、被検物質の濃度が高くなるにつれて、光電流が増加したことから、本発明の方法(B)によっても、被検物質を定量できることがわかった。
【符号の説明】
【0161】
10 被検物質
21a 標識物質
21b 誘引用修飾物質
22 結合物質
23 修飾標識物質
24 標識結合物質
30 複合体
31 固相
32 捕捉物質
101 検出装置
102 ディスプレイ
103 チップ受入部
104 検査チップ
105 光源
106 電流計(電流測定部)
107 A/D変換部
108 制御部
109 電源(電位印加部)
112 間隔保持部材
113 上基板
114 下基板
121 作用電極
122 電極リード
124 対極
125 電極リード
128 参照電極
129 電極リード
130 空間
132 導電層
133 電子受容層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標識物質を含む検出物質を電気化学的に検出する方法であって、
液体試料中の標識物質を含む検出物質を、標識物質を含む検出物質を捕捉する捕捉物質が存在しない作用電極に誘引する工程と、
標識物質を含む検出物質を、電気化学的に検出する工程と、
を含む検出物質の電気化学的検出方法。
【請求項2】
標識物質は、電気化学的又は光化学的に活性な物質である、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
標識物質は、金属錯体、有機蛍光体、量子ドット、無機蛍光体及び核酸からなる群より選択された少なくとも1つである、
請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
標識物質を含む検出物質が、標識物質で標識された核酸である、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
液体試料が、カオトロピックイオンを含有する、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
カオトロピックイオンが、ヨウ化物イオン、臭化物イオン、グアニジンイオン、チオシアン酸イオン、トリブロモ酢酸イオン、トリクロロ酢酸イオン、過塩素酸イオン、ジクロロ酢酸イオン、硝酸イオン、塩化物イオン、酢酸イオン、バリウムイオン、カルシウムイオン、リチウムイオン、セシウムイオン、カリウムイオン及びマグネシウムイオンからなる群より選択された少なくとも1つである、
請求項5記載の方法。
【請求項7】
液体試料が、アセトニトリル、水又はアセトニトリルと水との混合物を含有する、
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
誘引工程は、標識物質を含む検出物質を、前記捕捉物質が存在しない作用電極との間で電子輸送が可能な領域、又は、前記捕捉物質が存在しない作用電極によって標識物質を電子励起可能な領域に誘引する工程である、
請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
誘引工程は、標識物質を含む検出物質を、極性の違いによって、捕捉物質が存在しない作用電極に誘引する工程である、
請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
誘引工程は、標識物質を含む検出物質を作用電極に固定する工程を含む、
請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
誘引工程は、標識物質を含む検出物質を電気泳動により、捕捉物質が存在しない作用電極に誘引する工程を含む、
請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
検出工程が、電解液の存在下において、標識物質を含む検出物質を電気化学的に検出する工程である、請求項1〜11いずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
電解液が、アセトニトリル(CHCN)、水又はアセトニトリルと水との混合物を含有する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
検出工程が、標識物質を含む検出物質を光電気化学的に検出する工程である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
作用電極が、半導体を含む、請求項14記載の方法。
【請求項16】
作用電極が、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ニオブ、酸化インジウム、酸化タングステン、酸化タンタル及びチタン酸ストロンチウムからなる群より選択された少なくとも1つを含む、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
作用電極が、スズを含む酸化インジウム又はフッ素を含む酸化スズを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
被検物質を電気化学的に検出する方法であって、
固相上に、標識物質と被検物質とを含む複合体を形成する工程と、
複合体が形成された固相を単離する工程と、
単離工程で得られた、固相上に形成された複合体から、標識物質を含む検出物質を分離する工程と、
分離された標識物質を含む検出物質を、標識物質を含む検出物質を捕捉する捕捉物質が存在しない作用電極に誘引する工程と、
標識物質を含む検出物質を、電気化学的に検出する工程と、を含む被検物質の電気化学的検出方法。
【請求項19】
形成工程が、被検物質と、被検物質を捕捉する捕捉物質が固定化された固相と、被検物質を捕捉する結合物質が標識物質で標識された標識結合物質とを接触させ、固相上に、標識物質と被検物質とを含む複合体を形成する工程である、
請求項18記載の方法。
【請求項20】
単離工程が、複合体が形成された固相を試料中の他の成分から単離する工程である、
請求項18又は19に記載の方法。
【請求項21】
固相が、磁性粒子である請求項18〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
単離工程が、複合体が形成された固相を磁気分離によって液相から単離する工程である、
請求項21に記載の方法。
【請求項23】
電気化学的又は光化学的に活性な被検物質を電気化学的に検出する方法であって、
固相上に、被検物質を固定する工程と、
被検物質が固定された固相を単離する工程と、
単離工程で得られた被検物質が固定された固相から、被検物質又は被検物質の一部を分離する工程と、
分離された被検物質又は被検物質の一部を、被検物質又は被検物質の一部を捕捉する捕捉物質が存在しない作用電極に誘引する工程と、
被検物質又は被検物質の一部を、電気化学的に検出する工程と、
を含む被検物質の電気化学的検出方法。
【請求項24】
被検物質が、核酸である請求項23に記載の方法。
【請求項25】
被検物質を電気化学的に検出するための検出セットであって、
被検物質を捕捉する第1の捕捉物質が固定された固相と、
被検物質を捕捉する結合物質が標識物質で標識された標識結合物質と、
結合物質から分離された標識物質を含む検出物質を捕捉する第2の捕捉物質が存在しない作用電極と導電性材料からなる対極とを備えた検査チップと、
を含む検出セット。
【請求項26】
標識物質と被検物質とを含む複合体が形成された固相から、標識物質を含む検出物質を分離する分離剤をさらに含む、請求項25に記載の検出セット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2012−68235(P2012−68235A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177514(P2011−177514)
【出願日】平成23年8月15日(2011.8.15)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】