説明

検出表面及びその形成方法

【課題】SPR測定装置において、生理活性物質を固定化するための検出表面は、化学定処理を繰り返し、操作が煩雑なために、そのセンサチップを製造するのに時間を要しており、使用する者が直接、自ら調製することが困難であったが、簡易な操作で調製し、固定化が可能な検出表面を提供する。
【解決手段】カルボキシ基含有ポリマーまたはカルボキシル基含有多糖類が金、銀、銅、白金またはアルミニウムのいずれかの金属表面に直接または、増粘剤とともに物理吸着法により造膜し、検出表面とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面プラズモン共鳴測定装置に用いられる検出表面に関連し、とりわけその簡便な形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance、略称SPR)現象を利用して試料の屈折率や屈折率変化を検出し、試料の性状を測定するSPR測定装置が知られている。
SPRとは、金属薄膜の表面での全反射により発生するエバネッセント波の波数と、素励起により金属薄膜の表面に発生するエネルギー波である表面プラズモン波の波数とが一致する場合に、エバネッセント波が表面プラズモン波の励起に使われて全反射の反射光強度が低下する現象である。SPR測定装置は、金属薄膜に誘電体を接触させると誘電体の屈折率に応じて表面プラズモン波の波数が変化することを利用して、SPRによる反射光強度の変化を測定することで、試料の屈折率や、屈折率変化を起こすような試料の性状変化を測定するようにしたものである。この装置は免疫反応などを利用した分子間相互作用の測定がタンパク質研究や臨床検査などの分野で利用され、蛍光物質などの標識物質を必要とすることなく、分子間相互作用を検出する方法として特徴がある。
【0003】
SPR測定装置の一例は光源から放射された光が偏光板を通過すると、P偏光光のみが通過する。このP偏光光は、入射側レンズで集光されてプリズムに入射される。プリズムの底面には被測定物に接する金属薄膜が設けられており、偏光板を通過したP偏光光をこのプリズムに入射角θで入射させ、金属薄膜を照射することによって、金属薄膜からの反射光の強度変化を光検出器であるCCD(Charge Coupled Device)センサで検出している。
すなわち、光源から放射された光は、プリズムと金属薄膜の境界でエバネッセント波となり、その波数はKev=Kp・np・sinθなる式で表される。(ここで、Kpは入射光の波数、npはプリズムの屈折率、θは入射角である。)一方、金属膜表面では、表面プラズモン波が生じ、その波数はKsp=(c/w)・√(εn2/(ε+n2))なる式で表される。(ここで、cは光速、wは角振動数、εは金属薄膜の誘電率、nは被測定物の屈折率である。)このエバネッセント波と表面プラズモン波の波数が一致する入射角θのとき、エバネッセント波は表面プラズモンの励起に用いられ、反射光として計測される光量が減少する。
【0004】
SPR現象はプリズムに設けた金属薄膜に接する被測定物の屈折率に依存するために、例えば被測定物を水とした場合、ある角度で極小を有する曲線として検出することができ、被測定物の濃度変化による屈折率変化を測定するばかりか、金属薄膜上に抗体などの生理活性物質である生体分子を固定化することにより、例えば抗原との結合による抗体の屈折率変化を測定することにより、抗原抗体反応の分子間相互作用の分析や特定物質の定量を行うことができる。抗原抗体反応のように特定の抗原について研究しようとする場合には、生理活性物質であるその抗体蛋白質を金属薄膜にその都度、固定化する必要がある。
【0005】
ここで金属薄膜上の検出表面(被測定物が形成された表面)の設計と調製が重要になる。
金属表面に生理活性物質を固定する方法として、金属と結合する官能基を化学的な結合方法によって導入する方法があり、特許第2815120号(特許文献1)に記載されている。
この方法は、金属をアルカンチオール溶液に浸漬すると、チオールが金と特異的に強い結合を形成し(化学吸着であるとされている)、アルキル基のファンデルワールス力によって分子が綺麗に整列し、集合し、金属の表面が化学的な結合方法によって有機膜に被覆されることから、金属表面に生理活性物質などの機能性分子を固定することが可能になる。この特許文献1を基礎に種々の改良発明が知られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許第2815120号(特許文献1)に記載された方法を用いて、個々の物質に対して親和性を有するプローブとしての生理活性物質を固定しようとするといくつかの処理プロセスが必要になる。特許文献1よるとこの方法は次の化学的プロセスを経る必要がある。
まず、金表面のへの化学吸着を含む基礎的結合を得るのに、
(1)金表面への16−メルカプトヘキサデカノールなどのアルカンチオールなどの化学吸着(20分のインキュベート時間)
(2)ヒドロキシル基のエピクロルヒドリン処理によるエポキシ活性化(4時間のインキュベート時間)
(3)固定化量を増やすための三次元構造をもったデキストランの導入(20時間のインキュベート時間)
(4)ブロモ酢酸によるカルボキシメチル基の導入(16時間のインキュベート)
のプロセスが必要である。
つぎに、この方法に基づき製造されたカルボキシメチル変性デキストラン表面にアミノ基を有する生理活性物質(例えばタンパク質やアミノ酸)を固定化するための手法としては、以下のような手法が開示されている。すなわち、カルボキシメチル変性デキストランにおけるカルボキシル基の一部を、反応性エステル機能を生ずるように例えばN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)及びN−(3−ジメチルアミノプロピル)−N'−エチルカルボジイミド(EDC)塩酸の水溶液で処理することにより変性し、活性化する。残留電荷すなわち未反応カルボキシル基は、生理活性物質の検出表面への濃縮に寄与する。このような検出表面に対し、アミノ基を含む生理活性物質(タンパク質やアミノ酸)の水溶液を接触させることで、アミノ基を含む生理活性物質をデキストランマトリックスに共有結合により結合させることができる。上記した方法により製造されたヒドロゲルは、アミノ基を含む生理活性物質を3次元的に固定化可能であるため、バイオセンサーの検出表面として優れた性能を示す。
【0007】
しかし、上記した方法によるヒドロゲルの製造方法は煩雑であり、長い製造時間を要し、更にエピクロルヒドリンは酸との混合で爆発する危険があり、ブロモ酢酸は遺伝毒性が懸念され、取り扱う試薬の安全性に危惧がある。
つまり基礎的結合を得る4ステップに40時間以上の時間を要するものであり、この検出表面を測定用チップとして製造する際に時間を要するものであった。
更にまた表面プラズモン共鳴測定装置を用いて免疫反応の研究、分子間相互作用の測定、タンパク質研究を行なう者が、その場で実施するには、あまりに煩雑で時間を要するものであった。
本発明は、化学吸着法によらない処理ステップ数の少ない簡易な金属薄膜上の検出表面を検討した結果、得られた。
【特許文献1】特許第2815120号
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、金、銀、銅、白金またはアルミニウムのいずれかの金属膜などの基板表面に三次元的にカルボキシル基を設ける方法として、カルボキシルメチルデキストランなどのカルボキシル基含有ポリマーをデンプン、ゼラチンまたは寒天などの直鎖多糖類などの増粘剤と混合して前記金属膜上に物理吸着させて、造膜する形成方法により、カルボキシル基を簡便に設けることができ、生理活性物質を固定化し、測定に供した場合にも、十分に使用に耐える検出表面が得られることを見出し、本発明である検出表面及びその形成方法を完成するに至った。
ここで物理吸着とは、金属表面との間に化学的な結合を伴わず、ファンデルワールス力による弱い吸着によるもので、増粘剤による接着効果も含むものである。
【0009】
本発明において物理吸着による造膜させる方法はカルボキシル基含有ポリマーと増粘剤とを混合させたのちに、基板上に展開し、その表面を平滑に処理することによって金属膜の表面に多数のカルボキシル基を配置することができる。
基板上に展開する方法としては、より簡便には滴下(ディップ塗布)する方法で可能であるが、より、再現性に優れた方法としては、スピンコート法が好ましい。その他にもエクストルージョンコート法、カーテンコート法、キャスティング法、スクリーン印刷法、スプレーコート法など等を用いることが可能である。
また、カルボキシル基含有樹脂と増粘剤との混合比率を変更することで、カルボキシル基の含有率をコントロールすることが可能である。増粘剤は、金属表面への吸着をより強固なものにする効果とともに、カボキシル基を三次元網状に配置させるのに効果がある。
しかし金属膜の表面に多数のカルボキシル基を配置することは、カルボキシル基含有ポリマー単独でも可能であり、該カルボキシル基含有ポリマーを溶媒に溶かしたのちに、上記の塗布方法を金属基板に施せばよい。
【0010】
本発明で用いるカルボキシル基含有合成ポリマーとしては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸およびこれらの共重合体、メタクリル酸共重合体、アクリル酸共重合体、マレイン酸共重合体、部分エステル化マレイン酸共重合、水酸基を有するポリマーに酸無水物を付加させたものなどがある。またカルボキシル基含有多糖類は、カルボキシメチルデキストラン、カルボキシメチルデンプン等が挙げられる。
これらの物質は、市販の試薬をそのまま使うことができ、例えばカルボキシメチルデキストランは保湿剤や化粧品用に販売されている名糖産業社製のカルボキシメチルデキストランナトリウム塩(商品名CMD,CMD−D40,CMD−Lなど)を用いることができる。
また増粘剤は、デンプン、ゼラチンまたは寒天などの直鎖多糖類などが好適であるが、金属表面への吸着をより強固にし、カボキシル基を三次元網状に配置させるのに効果があれば、前記に限定されない。
【0011】
このようにして造膜された金属表面への基礎的な結合方法ではすでにカルボキシメチル基が導入されており、更に生理活性物質を固定するには、常法にしたがって、
(1)N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)の添加による活性化
(2)固定すべき生理活性物質の添加によるカップリング
(3)エタノールアミンの添加による残余の活性基のブロッキング
のプロセスを経ることで可能である。
更にこのようにして固定化された生理活性物質を用いて、抗原抗体反応の分子間相互作用の分析や特定物質の定量を首尾よく行うことができる。この造膜された金属表面は、分析操作で用いる試薬や溶媒に対して安定であり、特別の支障はない。
【発明の効果】
【0012】
以上、本発明の検出表面およびその形成方法によれば、SPR測定装置において金属薄膜上に抗体などの生理活性物質である生体分子を固定化して検出表面とする場合に、金属表面への活性基の基礎的な結合はカルボキシルメチルデキストランなどのカルボキシル基含有ポリマーをデンプン、ゼラチンまたは寒天などの直鎖多糖類などの増粘剤と混合して金の薄膜上に物理吸着させる方法という簡便な方法で行なうことができるので、SPR測定装置の測定用チップを製造する経費や時間が大幅に軽減できる。また製造にあたっての危険な試薬を使うことも少なく安全性も高い。この検出表面は通常の実験室内の器具を用いて短時間で行なうことができるので、SPR測定装置を用いて免疫反応の研究、分子間相互作用の測定、タンパク質研究を行なう者が、金属薄膜を用いてその場で実施することができるという利点を生じる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施例について説明する。
本実施例において、検出表面の金属膜は、松浪硝子工業株式会社製のカバーグラス(カタログコード22−176−01)に金の脱落防止のために2nm以下のクロムを蒸着し、更に金を厚さ50nmになるように真空蒸着した金薄膜を用いた。
実施例1 増粘剤にデンプンを使用した例
カルボキシメチルデキストランと増粘剤にデンプンを使用した実施例を説明する。
<検出表面の作成>
1.金薄膜は使用する直前に予め0.1M 水酸化ナトリウム溶液に浸積して20分間超音波洗浄後し、純水に浸積して10分間超音波洗浄を2〜3回繰り返し、表面に付着した汚れを取り除いておく。洗浄の方法はアセトンなどの有機溶媒を使用した方法なども使用できる。
2.0.01gデンプン(馬鈴薯由来)を10mLの水に添加し、70℃で完全に溶解するまで加熱する。この溶解液1mLに0.025%の名糖産業社製のカルボキシメチルデキストランナトリウム塩(商品名CMD)1mLを添加し良く混合して混合液を調製する。
3.18mm角の上記の金薄膜のSPR用基板を用意し、マイクロピペットで上記混合液3μLを金薄膜上に滴下させたのち液滴の表面が平坦になるように延伸させて塗布法によりコーティングして乾燥した。
4.乾燥後、SPR用基板を純水10mLで2回洗浄し真空乾燥を行った。
このようにして得られた検出表面の模式図を図1に示す。本法でこのような検出表面を作製するのに要する時間は1時間程度で、従来法に比較し非常に短時間に作製が可能となる。このようにして得られた検出器表面の模式図を図1に示す。
【0014】
<生理活性物質の固定とそのセンサグラム>
SPR用基板にタンパク質を固定化する実施例を以下に示す。
図2は、固定化を行うために用いたSPR測定装置(東亜ディーケーケー株式会社製)の構成図である。図2において、検出表面をプリズム7に取り付け、SPR基板1とする。シリンジポンプ2にPBSバッファーを入れ、10μL/minの流速で送液しておく。
1.活性化処理:インジェクタ5から0.1mol/L N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)溶液と0.4mol/L 1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)溶液を等量混合した溶液を100μLサンプルとして注入し、流れるPBSバッファー液中に展開する。15分間放置し、この間に活性化が行なわれる。
2.インジェクタ5から固定化を行うタンパク質として0.125%ボビンアルブミン(BSA)をpH4.5の酢酸緩衝液に溶解した溶液を100μL注入し、流れるPBSバッファー液中に展開する。15分間放置し、この間に固定化が行なわれる。
3.最後に非特異吸着を防止するためのマスキング処理として、バッファー液をpHを8.5に調整した1mol/Lエタノールアミン塩酸塩溶液に切り換えて約15分間流した。得られたセンサグラムを図3に示す。
【0015】
<固定化量の測定>
タンパク質の固定化量は図2のSPR測定装置により測定した。SPR用基板1をプリズム7に乗せ、光源8からの光をレンズ9で収束してプリズム7に照射し、SPR用基板1で反射した光を、レンズ9‘と偏光板10を通しCCDカメラ11に投影した。CCDカメラ11で撮像した映像から、データ処理用コンピュータ12によりSPRの共鳴角の変化量を計算した。図3は、この固定化処理のセンサグラムを示す。
また、上記先行特許文献1に準拠して行なった場合を比較例として、カルボキシメチルデキストランが結合した表面として、Biacore社センサーチップCM-5(research grade)を、SPR測定装置に取り付けて上記1〜3の操作を行った結果を図3に併記した。
【0016】
横軸は、固定化処理の経過時間を示し、最初に活性化液を流したときの液の屈折率に対応するプラトー(高原状態)があり、生理活性物質のボビンアルブミン(BSA)を流したとき、最初、この固定化膜にボビンアルブミンが過剰に濃縮される形で入り込み、時間が経過するともに活性基の量に対応したボビンアルブミンが固定化されて残ることを示している。
BSAの固定化角度変化としては約7735RUで、従来の固定化法の29150RUと相対的に比較すると低めの値であったがその1/4程度の固定化量が得られ、実用上は十分な固定化量が得られている。
このように、カルボキシメチルデキストランとデンプンを混合して物理吸着させるだけで、非常に簡単な操作で、固定化性能に優れたバイオセンサーを作製することが可能であることが分かる。計算によるとこの固定化量は7.74ng/mm2であった。
【0017】
<抗原抗体反応の測定>
本法によりBSAが固定化された金薄膜を用いて、抗BSA抗体の測定を行った。測定手順は以下の通りである。
1.図2のSPR測定装置にBSAを固定化したSPR基板1を取り付け、シリンジポンプ2にPBSバッファーを入れ、50μL/minの流速で送液しておく。
2.角度が安定した時点で、1μg/mL抗BSA抗体をPBSバッファーに溶解した溶液を100μL注入し、抗原抗体反応による角度変化を測定する。
3.pH2.0 グリシンバッファー100μLを注入し、結合した抗BSA抗体を解離させる。
4.同様に2、5、10μg/mL抗BSA抗体溶液を用いて2、3の操作を繰り返し、抗体濃度と角度変化の関係を測定する。
【0018】
図4は抗体濃度と角度変化(RU)の関係を示したものである。また、比較のため従来法により同様な測定を行った結果を併記した。抗体濃度と角度変化は良好な直線関係が得られており、定量的に抗原抗体反応が測定できることが分かる。また、従来法と比較しても大きな差はなく、非常に簡単な操作で、固定化性能に優れたバイオセンサーを作製することが可能であることが分かる。
【0019】
実施例2 増粘剤にゼラチンを使用した例。
カルボキシメチルデキストランと増粘剤にゼラチンを使用した実施例を説明する。
<検出表面の作成>
1.金薄膜は使用する直前に予め0.1M 水酸化ナトリウム溶液に浸積して20分間超音波洗浄後し、純水に浸積して10分間超音波洗浄を2〜3回繰り返し、表面に付着した汚れを取り除いておく。洗浄の方法はアセトンなどの有機溶媒を使用した方法なども使用できる。
2.0.01gゼラチンを10mLの水に添加し、90℃で完全に溶解するまで加熱する。この溶解液1mLに0.25%の名糖産業社製のカルボキシメチルデキストランナトリウム塩(商品名CMD)1mLを添加し、8mLのエタノールを添加し良く混合して混合液を調製する。
3.18mm角の上記の金薄膜のSPR用基板を用意し、スピンコーターに取り付ける。マイクロピペットで上記混合液50μLを金薄膜上に滴下させたのち、1000rpmで20秒間スピンコートして乾燥した。
4.乾燥後、SPR用基板を純水10mLで2回洗浄し真空乾燥を行った。
<生理活性物質の固定とそのセンサグラム>
実施例1と同様に行なった。
【0020】
<固定化量の測定>
図5は、この固定化処理のセンサグラムを示す。
また、従来例に準拠して行なった場合を比較例として、カルボキシメチルデキストランが結合した表面として、Biacore社センサーチップCM-5(research grade)を、SPR測定装置に取り付け測定した結果を図5に併記した。
横軸は、固定化処理の経過時間を示し、最初に活性化液を流したときの液の屈折率に対応するプラトー(高原状態)があり、生理活性物質のボビンアルブミン(BSA)を流したとき、最初、この固定化膜にボビンアルブミンが過剰に濃縮される形で入り込み、時間が経過するともに活性基の量に対応したボビンアルブミンが固定化されて残ることを示している。
BSAの固定化角度変化としては約19630RUで、従来の固定化法の29150RUと比較すると低めの値であったが2/3程度の固定化量が得られた。
このように、カルボキシメチルデキストランとゼラチンを混合して物理吸着させるだけで、非常に簡単な操作で、固定化性能に優れたバイオセンサーを作製することが可能であることが分かる。計算によるとこの固定化量は19.63ng/mm2である。また、ゼラチンを使用した場合には、金薄膜がゼラチンでコートされ、ゼラチン自体はタンパク質であるため、他のタンパク質の非特異吸着を抑制する効果もある。
【0021】
本法によりBSAが固定化された金薄膜を用いて、抗BSA抗体の測定を行った。測定手順は実施例1に示した通りである。
図6は抗体濃度と角度変化(RU)の関係を示したものである。また、比較のため従来法により同様な測定を行った結果を併記した。抗体濃度と角度変化は良好な直線関係が得られており、定量的に抗原抗体反応が測定できることが分かる。また、従来法と比較すると感度は低いが実用上問題が生じるレベルではなく、非常に簡単な操作で、固定化性能に優れたバイオセンサーを作製することが可能であることが分かる。
【0022】
実施例3 増粘剤に寒天を使用した例
カルボキシメチルデキストランと増粘剤に直鎖多類として寒天を使用した実施例を説明する。
<検出表面の作成>
1.金薄膜は使用する直前に予め0.1M 水酸化ナトリウム溶液に浸積して20分間超音波洗浄後し、純水に浸積して10分間超音波洗浄を2〜3回繰り返し、表面に付着した汚れを取り除いておく。洗浄の方法はアセトンなどの有機溶媒を使用した方法なども使用できる。
2.0.005g寒天を10mLの水に添加し、90℃で完全に溶解するまで加熱する。この溶解液1mLに0.25%の名糖産業社製のカルボキシメチルデキストランナトリウム塩(商品名CMD)1mLを添加し、8mLのエタノールを添加し良く混合して混合液を調製する。
3.18mm角の上記の金薄膜のSPR用基板を用意し、スピンコーターに取り付ける。マイクロピペットで上記混合液50μLを金薄膜上に滴下させたのち、1000rpmで20秒間スピンコートして乾燥した。
4.乾燥後、SPR用基板を純水10mLで2回洗浄し真空乾燥を行った。
<生理活性物質の固定とそのセンサグラム>
実施例1と同様に行なった。
【0023】
<固定化量の測定>
図7は、この固定化処理のセンサグラムを示す。
また、従来例に準拠して行なった場合を比較例として、カルボキシメチルデキストランが結合した表面として、Biacore社センサーチップCM-5(research grade)を、SPR測定装置に取り付け測定した結果を図7に併記した。
横軸は、固定化処理の経過時間を示し、最初に活性化液を流したときの液の屈折率に対応するプラトー(高原状態)があり、生理活性物質のボビンアルブミン(BSA)を流したとき、最初、この固定化膜にボビンアルブミンが過剰に濃縮される形で入り込み、時間が経過するともに活性基の量に対応したボビンアルブミンが固定化されて残ることを示している。
BSAの固定化角度変化としては約20140RUで、従来の固定化法の29150RUと比較すると低めの値であったが2/3程度の固定化量が得られた。
このように、カルボキシメチルデキストランと寒天を混合して物理吸着させるだけで、非常に簡単な操作で、固定化性能に優れたバイオセンサーを作製することが可能であることが分かる。計算によるとこの固定化量は20.14ng/mm2である。
【0024】
本法によりBSAが固定化された金薄膜を用いて、抗BSA抗体の測定を行った。測定手順は実施例1に示した通りである。
図8は抗体濃度と角度変化(RU)の関係を示したものである。また、比較のため従来法により同様な測定を行った結果を併記した。抗体濃度と角度変化は良好な直線関係が得られており、定量的に抗原抗体反応が測定できることが分かる。また、従来法と比較すると感度は低いが実用上問題が生じるレベルではなく、非常に簡単な操作で、固定化性能に優れたバイオセンサーを作製することが可能であることが分かる。
【0025】
実地例4 カルボキシメチルデキストランを単独で用いた場合。
カルボキシメチルデキストランを単独で使用した実施例を説明する。
<検出表面の作成>
1.金薄膜は使用する直前に予め0.1Mの水酸化ナトリウム溶液に浸積して20分間超音波洗浄後し、純水に浸積して10分間超音波洗浄を2〜3回繰り返し、表面に付着した汚れを取り除いておく。洗浄の方法はアセトンなどの有機溶媒を使用した方法なども使用できる。
2.0.025gの名糖産業社製のカルボキシメチルデキストランナトリウム塩(商品名CMD)を10mLのエタノールに溶解し、0.25%CMDエタノール溶液を調製した。
3.18mm角の上記の金薄膜のSPR用基板を用意し、スピンコーターに取り付ける。マイクロピペットで上記混合液50μLを金薄膜上に滴下させたのち、1000rpmで20秒間スピンコートして乾燥した。
4.乾燥後、SPR用基板を純水10mLで2回洗浄し真空乾燥を行った。
<生理活性物質の固定とそのセンサグラム>
実施例1と同様に行なった。
【0026】
<固定化量の測定>
図9は、この固定化処理のセンサグラムを示す。
また、従来例に準拠して行なった場合を比較例として、カルボキシメチルデキストランが結合した表面として、Biacore社センサーチップCM-5(research grade)を、SPR測定装置に取り付け測定した結果を図9に併記した。
横軸は、固定化処理の経過時間を示し、最初に活性化液を流したときの液の屈折率に対応するプラトー(高原状態)があり、生理活性物質のボビンアルブミン(BSA)を流したとき、最初、この固定化膜にボビンアルブミンが過剰に濃縮される形で入り込み、時間が経過するともに活性基の量に対応したボビンアルブミンが固定化されて残ることを示している。
BSAの固定化角度変化としては約16700RUで、従来の固定化法の29150RUと比較すると低めの値であったが1/2強の固定化量が得られた。
このように、カルボキシメチルデキストランを物理吸着させるだけで、非常に簡単な操作で、固定化性能に優れたバイオセンサーを作製することが可能であることが分かる。計算によるとこの固定化量は16.7ng/mm2である。
【0027】
本法によりBSAが固定化された金薄膜を用いて、抗BSA抗体の測定を行った。測定手順は実施例1に示した通りである。
図10は抗体濃度と角度変化(RU)の関係を示したものである。また、比較のため従来法により同様な測定を行った結果を併記した。抗体濃度と角度変化は良好な直線関係が得られており、定量的に抗原抗体反応が測定できることが分かる。また、従来法と比較すると感度は低いが実用上問題が生じるレベルではなく、非常に簡単な操作で、固定化性能に優れたバイオセンサーを作製することが可能であることが分かる。
以上詳しく説明したように、本方法によれば従来の方法と比較し、非常に簡便な方法で金属薄膜にタンパク質を固定化することが可能であり、その結果、所望の性能が得られることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明にもとづく検出表面模式図である。
【図2】本発明にもとづく固定化のための操作図である。
【図3】増粘剤にデンプンを用いた場合の固定化処理のセンサグラムである。
【図4】増粘剤にデンプンを用いた場合の従来例との感度の比較を示す図である。
【図5】増粘剤にゼラチンを用いた場合の固定化処理のセンサグラムである。
【図6】増粘剤にゼラチンを用いた場合の従来例との感度の比較を示す図である。
【図7】増粘剤に寒天を用いた場合の固定化処理のセンサグラムである。
【図8】増粘剤に寒天を用いた場合の従来例との感度の比較を示す図である。
【図9】カルボキシ基含有ポリマー単独で固定化処理したときのセンサグラムである。
【図10】カルボキシ基含有ポリマー単独の場合の従来例との感度の比較を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
1・・・SPR基板
2・・・シリンジポンプ
3・・・バッファー液
4・・・切換え弁
5・・・インジェクタ
6・・・廃液
7・・・プリズム、
8・・・光源
9・・・レンズ
9‘・・・レンズ
10・・・偏光板
11・・・CCDカメラ
12・・・データ処理用コンピュータ














【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシ基含有ポリマーまたはカルボキシル基含有多糖類が金、銀、銅、白金またはアルミニウムのいずれかの金属表面に直接または、増粘剤とともに物理吸着法により、造膜された検出表面。
【請求項2】
該増粘剤がデンプンであることを特徴とする請求項1に記載する検出表面。
【請求項3】
該増粘剤がゼラチンであることを特徴とする請求項1に記載する検出表面。
【請求項4】
該増粘剤が寒天などの直鎖多糖類であることを特徴とする請求項1に記載する検出表面。
【請求項5】
カルボキシ基含有ポリマーまたはカルボキシル基含有多糖類が金、銀、銅、白金またはアルミニウムのいずれかの金属表面に直接または、増粘剤とともに物理吸着法により、造膜することを特徴とする検出表面の形成方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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