説明

検出装置および検出方法

【課題】空気中の浮遊する生物由来の粒子をサイズに応じて検出することができる検出装置を提供する。
【解決手段】検出装置1は、ファン300と捕集器100A,…と測定器400とそれらを制御するための制御装置500とを備える。捕集器400は検出対象の生物由来の粒子の粒子径の属する粒子径の範囲のうちの最小の粒子径が分離粒子径となる、サイクロン形状を有し、さらに、放電電極と、外筒の底面に設けられた集塵孔を塞ぐように設けられた捕集用部材とを有する。制御装置500がファン300を回転させることで検出装置1内に空気が導入されて捕集器で分離粒子径よりも大きい粒子が分離され、その後に放電電極に所定の電圧を印加することによって分離された粒子が捕集用部材の表面に吸着し、測定器400で捕集用部材の表面に吸着された粒子から生物由来の粒子の量を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は検出装置および検出方法に関し、特に、空気中に浮遊する生物由来の粒子を検出する検出装置および検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気中の粒子を除去する方法として、たとえば特開平9−10625号公報(以下、特許文献1)は電気集塵機を利用する方法を開示している。他の方法として、サイクロンなどの分離装置を用いる方法も挙げられる。
【0003】
さらに、高効率に集塵する方法として、特開2008−30028号公報(以下、特許文献2)は、複数のサイクロンを直列に用いる方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−10625号公報
【特許文献2】特開2008−30028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図21は、いわゆる塵埃といわれる、粒子状の汚染物質の分類を説明するための図である。図21を参照して、粒子状の汚染物質のうちの生物由来の固体粒子には、アレルギーの原因となり得る物質(以下、アレルゲンとも称する)と微生物とがある。さらに、アレルゲンには、花粉およびダニの死骸・ふんが含まれ、微生物には細菌と真菌とが含まれる。これらはそれぞれ、人体に及ぼす影響も異なるため、それぞれの量を個別に測定する必要がある。
【0006】
しかしながら、これら文献1、2で開示されているような従来の集塵方法では、アレルゲンも微生物も併せて検出されてしまい、それぞれの量を個別に測定することができないという問題があった。
【0007】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであって、空気中の浮遊する生物由来の粒子をサイズに応じて検出することができる検出装置および該検出装置における検出方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明のある局面に従うと、検出装置は導入された空気から生物由来の粒子を検出するための検出装置であって、当該検出装置内に外部空気を導入するために、所定の流速の気流を発生させるための気流発生装置と、生物由来の粒子径の範囲の粒子を分離して捕集するための、捕集用部材と放電電極とを含んだ、1以上の捕集器と、捕集された粒子の量を測定するための測定器と、気流発生装置の動作を制御し、その後に放電電極に所定の電圧を印加して測定器で捕集部材によって捕集された粒子の量を測定するための制御装置とを備える。
【0009】
好ましくは、捕集器は、捕集用部材および放電電極を内包可能なサイクロン形状を有する、
好ましくは、測定器は、発光素子と、蛍光を受光するための受光素子と、捕集用部材を加熱するためのヒータとを含み、放電電極に所定の電圧を印加する制御の後の捕集用部材に対して測定器において加熱処理を実行させ、加熱の前後での、発光素子で照射された捕集用部材からの蛍光量の変化量に基づいて、捕集用部材で捕集された生物由来の粒子量を算出する。
【0010】
好ましくは、捕集器に含まれる捕集用部材は着脱可能であって、検出装置は、捕集用部材を捕集器から測定器に移動させるための手段をさらに備える。
【0011】
好ましくは、捕集器は、捕集器に含まれる放電電極を、捕集器の内側と捕集器の外周側との間で移動させるための駆動機構をさらに含み、制御装置は、気流発生装置を動作させる制御の実行前に放電電極を捕集器の外周側まで移動させ、気流発生装置を動作させる制御の後、放電電極に所定の電圧を印加する制御の実行前に、放電電極を捕集器の外周側から捕集器の内側まで移動させる。
【0012】
好ましくは、検出装置は、1以上の捕集器として、導入された外部空気から生物由来の粒子の粒子径の属する粒子径の範囲のうちの最大の粒子径よりも粒子径の大きい粒子を分離するための第1の捕集器と、導入された外部空気から生物由来の粒子の粒子径の属する粒子径の範囲のうちの最小の粒子径よりも粒子径の大きい粒子を分離するための第2の捕集器とを備える。測定器は、制御装置における放電電極に所定の電圧を印加する制御の後の第2の捕集器に含まれる捕集用部材の表面に吸着された粒子から生物由来の粒子の量を測定する。
【0013】
本発明の他の局面に従うと、検出方法はサイクロンを含んだ検出装置を用いて検出装置に導入された空気から生物由来の粒子を検出する検出方法であって、サイクロンに空気を導入することで、導入された空気から分離粒子径よりも大きい粒子を分離するステップと、放電電極に印加することで、分離された粒子を帯電させて、放電電極と電位差を有する捕集用部材に粒子を吸着させるステップと、粒子が吸着した捕集用部材を発光素子で照射して捕集用部材表面からの蛍光量を受光するステップと、捕集用部材を加熱し、加熱の後の捕集用部材を発光素子で照射して捕集用部材表面からの蛍光量を受光するステップと、加熱の前後での蛍光量の変化量に基づいて、捕集用部材で捕集された生物由来の粒子量を算出するステップとを備える。
【発明の効果】
【0014】
この発明によると、空気中の浮遊する生物由来の粒子をサイズに応じて検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】分離機構としてのサイクロンの原理を説明するための図である。
【図2】本実施の形態にかかる検出装置における検出原理を説明する図である。
【図3】発明者による実験後の外筒底面を撮影した写真である。
【図4】本実施の形態にかかる検出装置の構成の具体例を示す図である。
【図5】検出装置に含まれる捕集器の構成の具体例を示す図である。
【図6】捕集器に含まれる放電電極の形状の他の例を表わした図である。
【図7】検出装置に含まれる測定器の構成の具体例を示す図である。
【図8】生物由来の粒子としての大腸菌を200℃にて5分間加熱処理したときの、加熱処理前および加熱処理後の蛍光スペクトルの測定結果を示す図である。
【図9】大腸菌を200℃にて5分間加熱処理したときの、加熱処理前および加熱処理後の蛍光顕微鏡写真である。
【図10】生物由来の粒子としてのバチルス菌を200℃にて5分間加熱処理したときの、加熱処理前および加熱処理後の蛍光スペクトルの測定結果を示す図である。
【図11】バチルス菌を200℃にて5分間加熱処理したときの、加熱処理前および加熱処理後の蛍光顕微鏡写真である。
【図12】生物由来の粒子としてのアオカビ菌を200℃にて5分間加熱処理したときの、加熱処理前および加熱処理後の蛍光スペクトルの測定結果を示す図である。
【図13】アオカビ菌を200℃にて5分間加熱処理したときの、加熱処理前および加熱処理後の蛍光顕微鏡写真である。
【図14】生物由来の粒子としてのスギ花粉を200℃にて5分間加熱処理したときの、加熱処理前および加熱処理後の蛍光顕微鏡写真である。
【図15】蛍光を発する埃を200℃にて5分間加熱処理したときの、加熱処理前および加熱処理後の蛍光スペクトルの測定結果を示す図である。
【図16】蛍光を発する埃を200℃にて5分間加熱処理したときの、加熱処理前および加熱処理後の蛍光顕微鏡写真である。
【図17】蛍光を発する埃を200℃にて5分間加熱処理したときの、加熱処理前および加熱処理後の蛍光スペクトルの比較結果を示す図である。
【図18】検出装置に含まれる制御装置の測定制御部の構成の具体例を示す図である。
【図19】検出装置での検出動作の流れを示すフローチャートである。
【図20】加熱処理前後での蛍光強度の増大量と生物由来の粒子の濃度との対応関係を示す図である。
【図21】粒子状の汚染物質の分類を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品および構成要素には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。
【0017】
<検出装置の概要および分離の原理>
図21に示されたように、空気中に浮遊する固体粒子のうちの生物由来の粒子には、アレルギーの原因となる物質(以下、アレルゲンとも称する)と微生物とが含まれ、さらに、アレルゲンには花粉およびダニの死骸・ふんが含まれ、微生物には細菌と真菌とが含まれる。
【0018】
本実施の形態にかかる検出装置では、導入された空気中の微生物、ダニの死骸・ふん、および花粉の量をそれぞれ検出する。
【0019】
微生物、ダニの死骸・ふん、および花粉について、粒子径および粒子密度をそれぞれ表1に示す。表1に示されたように、微生物、ダニの死骸・ふん、および花粉は、それぞれ、粒子径および粒子密度が異なる。
【0020】
【表1】

【0021】
この特性を利用してそれぞれの粒子の量を測定するために、本実施の形態にかかる検出装置は分離機構を有した捕集器を含む。当該分離機構で、検出対象となる粒子のサイズに応じた粒子をその他のサイズの粒子から分離した上で、その中から生物由来の粒子を検出する。
【0022】
分離機構として好適にはサイクロンが用いられる。図1は、分離機構としてのサイクロンの原理を説明するための図である。図1(A)は側面から見た概略図、図1(B)は上面から見た概略図である。
【0023】
サイクロンは、上下方向に延伸し、少なくとも上面が閉じられた円筒(外筒)に、それよりも直径が小さい、同じ方向に延伸した円筒(内筒)が、中心を外筒と同じくする位置に外筒の上面より差し込まれた形状を有する。内筒の上下端は開放されて、上端はサイクロンの排出孔を形成している。本実施の形態においては検出対象を分離するため、外筒の下端は閉じられている。
【0024】
図1において、直径Dcは外筒の直径を指し、直径Ddは内筒の直径、つまり排出孔の直径を指し、高さhはサイクロン分離室としての外筒の高さ、つまり外筒の底面から内筒の下端までの長さを指す。
【0025】
上記外筒の上部には、インレットとも呼ばれる、外部空気を導入するための筒状の導入管が、断面の接線方向に挿入された形状を有する。導入管の両端は開放され、外筒と反対側の端部はサイクロンの導入孔を形成している。図1において、面積Aiは導入孔の断面積を指す。
【0026】
サイクロンで粒子を分離する際、サイクロンに導入孔から外部空気が導入される。導入孔は外筒の断面の接線方向に導入された導入管の開放口であるため、外部の気流発生装置によってその方向に外部空気が一定の流速viで導入されることによって、導入された空気は、外筒の内側に沿って回転し、回転中心に向かう気流(旋回流)が生じる。
【0027】
導入された空気に粒子が含まれると、該粒子には、回転による遠心力が生じると共に、流体抵抗力(抗力)が作用する。遠心力が勝ると粒子は外筒内壁側に移動し、抗力が勝ると内筒側に移動する。さらに、遠心力で外筒内壁に接触することで外筒内壁との間の摩擦が作用する。摩擦によって該粒子の回転速度が徐々に落ち、該粒子自身の重力が排気孔に向かう吸引力に勝ると、該粒子は外筒内壁に沿って落下する。
【0028】
すなわち、サイクロンに導入された空気中の粒子のうち、粒子径が所定の長さ(分離粒子径)よりも大きい粒子が図1(A)で点線の矢印に示されるように外筒の下部に、小さい粒子が図1(A)で実線の矢印に示されるように上部に、それぞれ分離される。そして、上部に分離された分離粒子径Dpcよりも小さい粒子が、排気孔から外へ向かう吸引力によって生じる上昇気流により排気孔から排出される。つまり、分離粒子径Dpcよりも大きい粒子が分離されて外筒の底面に残る。
【0029】
導入される空気の速度(流速vi)が速いほど、また外筒の直径Dcが小さく回転半径が小さいほど、粒子に作用する遠心力は大きくなる。一方、同じ密度の粒子で同じ回転速度で回転する粒子径を比較すると、粒子径が大きいほど該粒子に作用する遠心力が大きくなり、落下、すなわち空気から分離されやすくなる。この原理によって得られる、サイクロンにおける分離粒子径Dpc(m)は、以下の式(1)で規定されている。
【0030】
【数1】

【0031】
ただし、ρpは粒子の密度(kg/m3)、ρは流体の密度(kg/m3)、μは空気粘度(Pa・s)、viは導入される空気の導入孔での流速(m/s)、Aiは導入孔の断面積(m2)、Ddはサイクロン内筒径(m)、Dcはサイクロン外筒径(m)、およびhはサイクロン分離室高さ(m)を指す。
【0032】
この原理を利用して、サイクロンである分離機構は、その形状や流速を検出対象とする粒子に応じた分離粒子径Dpcとなるように設定されることで、捕集器に導入された空気から検出対象とする粒子を分離する。検出対象としない粒子を含んだ空気は捕集器外に排気される。分離された検出対象の粒子から生物由来の粒子を検出してその量を測定することで、上記のそれぞれの粒子の量が検出される。
【0033】
なお、捕集器の有する分離機構は分離粒子径Dpcよりも大きい粒子を空気中から分離し、その分離粒子径よりも小さい粒子を含んだ空気を排気することで当該小さい粒子を通過させる機構である。そこで、本実施の形態にかかる検出装置は、それぞれ粒子径の検出領域に応じた分離粒子径を設定した複数の捕集器を、設定された分離粒子径の大きさが大きい順に上流側から流路に対して直列に組み合わせて、上記3種類の粒子のそれぞれの量を測定する。
【0034】
図2は、本実施の形態にかかる検出装置における検出原理を説明する図である。詳しくは図2を参照して、粒子径30μmよりもやや小さい粒子径D1以上の領域を第1の検出領域、粒子径5μm付近の粒子径D2から粒子径D1までの領域を第2の検出領域、および粒子径D2以下の領域を第3の検出領域と設定する。第1の検出領域は主に花粉を検出対象とした検出領域であり、第2の検出領域は主にダニの死骸・ふんを検出対象とした検出領域であり、第3の検出領域は主に微生物を検出対象とした検出領域である。
【0035】
第1の捕集器における分離粒子径をD1と設定することで第1の捕集器では粒子径D1よりも大きい粒子が分離されて捕集され、その他の粒子、つまり、粒子径D1よりも小さい粒子を含んだ空気が排気される。
【0036】
第1の捕集器に対して下流側に直列に接続した第2の捕集器における分離粒子径をD2と設定することで、第2の捕集器では粒子径D1よりも小さい粒子を含んだ空気から粒子径D2よりも大きい粒子が分離されて捕集される。つまり、粒子径がD2からD1の間にある粒子が分離されて捕集され、その他の粒子、つまり、粒子径がD2よりも小さい粒子を含んだ空気が排気される。
【0037】
第2の捕集器に対して下流側に直列に第3の捕集器を接続しておくことで、第3の捕集器には粒子径がD2よりも小さい粒子を含んだ空気が導入される。つまり、第3の捕集器では、粒子径がD2よりも小さい粒子が捕集される。
【0038】
なお、本例のように最下流の捕集器100の検出領域が粒子径の最大径のみ特定される領域である場合(粒子径D2よりも小さい粒子、等)、当該最下流の捕集器100は分離の必要がないため、サイクロンである分離機能を備えず、集塵機能のみを備えてもよい。
【0039】
各捕集器の有する集塵機構で分離された検出対象の粒子が基板上に捕集される。基板上の粒子から生物由来の粒子の量を検出することで、それぞれの検出領域に該当する粒子径の生物由来の粒子の量が検出される。
【0040】
なお、以降では、分離機構としてサイクロンを用いる例について説明する。しかしながら、分離機構はサイクロンに限定されるものではない。他の例として、フィルタを用いてもよいし、バーチャルインパクタが用いられてもよい。
【0041】
バーチャルインパクタを採用する例の場合、導入された外部空気が噴出ノズル内で加速されて、噴出ノズルから対向ノズルへ向かう方向に噴出される。噴出された空気中の粒子には噴出ノズルから対向ノズルに向かう方向に慣性力が作用する。一方、噴出ノズルから対向ノズルへ向かう方向とは異なる向きに第2の気流を発生されることで、噴出ノズルから噴出された空気中の粒子には第2の気流の方向へ向かう吸引力が生じる。そして、噴出ノズルから噴出された空気中の粒子のうち、第2の気流方向の吸引力よりも慣性力が勝る粒子は対向ノズル方向に進み、慣性力よりも第2の気流方向の吸引力が勝る粒子は第2の気流方向へ進むことで、これら粒子が分離される。
【0042】
<課題の説明>
図1に説明されたサイクロンでは、旋回流で生じる遠心力によって、分離粒子径Dpcよりも粒子径の大きい粒子は外筒の壁面を旋回しながら下降し、底面に堆積する。
【0043】
分離された粒子はさらに生物由来の粒子を検出する処理に用いられるため、分離した粒子を外筒底面のできるだけ中央部に集めておく必要がある。
【0044】
発明者はサイクロンで分離された粒子の外筒内での分布を確認するために、サイクロンを用いて、空気中の花粉を分離する実験を行なった。分離実験に際して、発明者は、成型しやすい装置として、外筒の形状が円錐形状ではなく円筒形状のサイクロンを用いた。
【0045】
図3は、発明者による実験後の外筒底面を撮影した写真である。サイクロンがこの形状の場合、図3に示されるように、分離された粒子は底面の縁と反転上昇流が通過する中央部とに分布することが分かった。つまり、底面中央部のみならず、底面の縁にも堆積することが分かった。これは、底面付近には反転流や渦流が起こり、壁面より落下し底面の縁部に堆積した一部が、この流れによって中央部に集められるため、と考えられる。発明者はこの実験に加えてサイクロンによる粒子分離のシミュレーションも行ない、その際にも、縁部より中央部に集まる粒子の動きが観察されている。
【0046】
そのため、発明者は、外筒底面をそのまま次段階である生物由来の粒子を検出する処理に用いると検出対象の粒子が存在する面積が広がり、検出処理を行なう範囲が広くなったり、検出精度が落ちたりするという課題が生じることを見出した。
【0047】
そこで、本実施の形態にかかる検出装置は、外筒の形状が円錐形状ではなく円筒形状(または略円筒形状)である、成型しやすいサイクロンを用いて分離した粒子から生物由来の粒子を検出する処理を容易にするため、当該サイクロンを利用して設定した範囲に分離された粒子を集め、それによって精度よく生物由来の粒子を検出することを目的としている。
【0048】
<装置の全体構成>
上の課題を解決するため、本実施の形態にかかる検出装置1は、分離機構と集塵機構とを有する捕集器を含む。
【0049】
図4は、本実施の形態にかかる検出装置1の構成の具体例を示す図である。
図4を参照して、検出装置1は、エア管200で直列に接続された捕集器100A,100B,100C(これらを代表させて捕集器100と称する)と、気流発生装置としてのファン300と、測定器400と、これらを制御するための、CPU(Central Processing Unit)51およびメモリ52を有する制御装置500とを含む。
【0050】
捕集器100は、それぞれ、導入孔101および排気孔102を有する。捕集器100Aの排気孔102と捕集器100Bの導入孔101とがエア管200で接続され、捕集器100Bの排気孔102と捕集器100Cの導入孔101とがエア管200で接続されている。これによって、捕集器100Aの導入孔101から捕集器100Cの排気孔102までが連続した1本の流路を構成する。
【0051】
ファン300は上記流路のいずれの位置に配備されてもよいが、本例では図2に示されたように、捕集器100Aの導入孔101の近傍に配備されるものとする。
【0052】
制御装置500は、捕集器100、ファン300、および測定器400と電気的に接続され、これらの駆動を制御する。
【0053】
詳しくは、制御装置500は、捕集器100での集塵動作を制御するための機能である捕集制御部502と、図示しないファンモータの動作を制御してファン300による検出装置1への空気の導入の開始/終了や流量を制御するための機能であるファン制御部501と、後述する測定器400での測定動作を制御するための機能である測定制御部503とを含む。
【0054】
ファン300が制御装置500での制御に従って駆動されることで、検出装置1外の空気が捕集器100Aの導入孔101から装置内に導入し、図中の矢印で表わされた向きにエア管200を経て各捕集器100を順に移動して、捕集器100Cの排気孔102から装置外に排気される。これにより、上記経路が流路として機能する。なお、以降の説明において、上記流路の捕集器100A側を「上流」または「上流側」、および捕集器100C側を「下流」または「下流側」とも称する。
【0055】
なお、制御装置500は、後述する捕集器100から測定器400まで基板を搬送するための機構にも電気的に接続され、この駆動も制御する。
【0056】
<捕集器の構成>
図5は、捕集器100の構成の具体例を示す図である。図5(A)を参照して、捕集器100は、図1を用いて説明された分離機構としてのサイクロンの形状を有する。すなわち、上端が閉じられた円筒形(または略円筒形)の外筒に、それよりも直径が小さい内筒が差し込まれた形状を有しており、開いた内筒の上端が排気孔102を構成している。つまり、内筒が排気管として機能する。
【0057】
捕集器100Aの内筒径Dd、つまり排気孔102の孔径、外筒径Dc、および導入孔101の断面積Aiは、分離粒子径Dpcが粒子径D1となるような大きさである。また、捕集器100Bの内筒径Dd、つまり排気孔102の孔径、外筒径Dc、および導入孔101の断面積Aiは、分離粒子径Dpcが粒子径D2となるような大きさである。
【0058】
制御装置500は、この形状の捕集器100Aの分離粒子径Dpcが粒子径D1となり、この形状の捕集器100Bの分離粒子径Dpcが粒子径D2となる流速viでそれぞれの導入孔101に空気を導入するような駆動量でファン300を駆動させる。これによって、捕集器100A,100B,100Cの順に検出装置1外の空気が流速viで導入され、捕集器100Aでは上記第1の検出領域である粒子径D1以上の粒子が導入された空気から分離され、捕集器100Bでは上記第2の検出領域である粒子径D2から粒子径D1までの粒子が導入された空気から分離され、捕集器100Cには上記第3の検出領域である粒子径D2以下の粒子が導入される。
【0059】
さらに、捕集器100は、集塵機構として、針状電極である放電電極17と、外筒の底面に着脱可能に設けられた捕集治具12、および高圧電源2を含む。外筒の底面の中央付近には図示しない集塵孔が設けられ、捕集治具12は当該集塵孔を塞ぐように取り付けられる。
【0060】
放電電極17は高圧電源2の負極に電気的に接続される。高圧電源2の正極は接地される。これにより、捕集器100内に導入された空気中の浮遊粒子は放電電極17付近にて負に帯電される。
【0061】
捕集治具12は、導電性の透明の皮膜を有する、ガラス板などからなる支持基板である。皮膜は接地される。これにより、放電電極17と捕集治具12と間に電位差が発生し、これらの間に図5(A)の矢印Eに示される向きの電界が構成される。負に帯電された空気中の浮遊粒子は静電気力で捕集治具12の方向に移動して導電性の皮膜に吸着され、捕集治具12上に捕集される。
【0062】
捕集治具12は、後述する測定器400へ移動させるための駆動機構に接続されており、当該駆動機構が駆動することによって捕集器100の底面から離れ、測定器400へ移動する。
【0063】
支持基板は、ガラス板には限定されず、その他、セラミック、金属等であってもよい。また、支持基板表面に形成される皮膜は、透明に限定されない。他の例として、支持基板は、金属皮膜をセラミック等の絶縁材料の上に形成して構成されてもよい。また、支持基板が金属材料の場合は、その表面に皮膜を形成する必要もない。具体的には、支持基板として、シリコン基板、SUS(Stainless Used Steel)基板、銅基板などが利用できる。
【0064】
好ましくは、図5(A)に示されるように、捕集器100には、針状電極である放電電極17を可動とするための駆動部17Aがさらに含まれる。駆動部17Aは、制御装置500と電気的に接続され、その制御信号に従って駆動して放電電極17を放電状態と収納状態とに切替える。
【0065】
図5(B)には、放電電極17の収納状態が示されている。図5(B)を参照して、一例として駆動部17Aは捕集器100の外筒の外側またはその壁面に極めて近い位置に設けられ、放電電極17を掛持する部材の放電電極17とは逆側の端を、底面と平行または略平行の面内で可動に把持している。そして、制御装置500からの制御信号に従って当該部材を移動させて、図5(B)に示されたように、放電電極17が捕集器100の内壁に極めて近い位置となる状態とさせる。この状態を放電電極17の収納状態と称する。
【0066】
検出装置1において分離処理を行なう際、つまり、捕集器100に外部空気を導入して旋回流を生じさせている際に放電電極17を収納状態とすることで、放電電極17が旋回流の妨げとなることを抑えることができ、より精度よく粒子の分離が可能となる。
【0067】
なお、放電電極17の収納状態は図5(B)に表わされた状態に限定されるものではなく、他の収納状態であってもよい。そして、駆動部17Aは、他の収納状態となるような駆動部であってよい。他の収納状態としては、たとえば、捕集器100の外部に完全に移動させた状態であってもよいし、放電電極17を掛持する部材と同じ向きにした上で当該部材を捕集器100の内壁に沿って上方向または下方向に向けた状態であってもよい。
【0068】
なお、放電電極17は、一例として針状電極が挙げられている。針状電極である放電電極17を用いることによって、帯電した粒子を捕集治具12の放電電極17に対面する、(後述する)発光素子の照射領域15に対応したきわめて狭い範囲に吸着させることができる。
【0069】
図6は、放電電極17の形状の他の例を表わした図である。放電電極17の形状の他の例として、たとえば、図6(A)に示されるような捕集器100の断面と同じサイズのメッシュ形状の部材で掛持されたメッシュ状の電極であってもよいし、図6(B)に示されるような内筒下端から掛持されたリング状の電極であってもよい。または、内筒下端そのものが電極として利用されてもよい。
【0070】
このような形状とすることで、検出装置1において分離処理を行なう際に収納状態としなくても、生じる旋回流の妨げとなることを抑えることができる。
【0071】
<測定器の構成>
図7は、測定器400の構成の具体例を示す図である。図7を参照して、測定器400は、加熱機構としてのヒータ91と、光源である発光素子6と、受光素子9と、受光素子9の受光方向に備えられ、捕集機構により捕集治具12上に捕集された浮遊微粒子に発光素子6から照射することにより生じる蛍光を受光素子9に集光するための集光レンズ(またはレンズ群)8とを含む。その他、発光素子6の照射方向に備えられ、発光素子6からの光を平行光にする、または所定幅とするためのレンズ(またはレンズ群)、アパーチャ、照射光が受光素子9に入り込むのを防ぐためのフィルタ(またはフィルタ群)などが含まれてもよい。これらの構成は従来技術を応用できる。集光レンズ8は、プラスチック樹脂製またはガラス製でよい。
【0072】
また、測定器400には、捕集器100からその底部に設けられた捕集治具12を測定器400内まで移動させるための、制御装置500と電気的に接続された図示しない駆動機構が含まれる。制御装置500からの制御信号に従って当該駆動機構が駆動することで、捕集治具12は図7に示されるように測定器400内まで移動してセットされる。
【0073】
ヒータ91は、測定器400内にセットされた捕集治具12上に吸着されている空気中の浮遊粒子を加熱し得る位置であって、少なくとも加熱時には発光素子6、受光素子9等のセンサ機器から何かによって隔てられる位置に配備される。好ましくは、図7に表わされたように、捕集治具12を間に挟んで発光素子6、受光素子9等のセンサ機器から遠い側に配備される。このようにすることにより加熱時にヒータ91は捕集治具12によって発光素子6、受光素子9等のセンサ機器から隔てられ、それにより発光素子6、受光素子9等への熱の影響を抑えることができる。
【0074】
ヒータ91は制御装置500に電気的に接続され、制御装置500からの制御信号に従って加熱量(加熱時間、加熱温度等)が制御される。ヒータ91としては、好適にはセラミックヒータが用いられる。以降の説明ではヒータ91としてセラミックヒータが想定されているが、その他、遠赤外線ヒータや遠赤外線ランプなどであってもよい。
【0075】
発光素子6は制御装置500に電気的に接続され、制御装置500からの制御信号に従って発光が制御される。発光素子6は、半導体レーザまたはLED素子を含む。波長は、微生物を励起して蛍光を発させるものであれば、紫外または可視いずれの領域の波長でもよい。好ましくは、特開2008−508527号公報に開示されているように、微生物中に含まれ、蛍光を発するトリプトファン、NaDH、リボフラビン等が効率よく励起される300nmから450nmである。受光素子9は、従来用いられている、フォトダイオード、イメージセンサなどが用いられる。
【0076】
受光素子9は制御装置500に電気的に接続されて、受光量に比例した電流信号を制御装置500に対して出力する。従って、導入された空気中に浮遊し、捕集治具12表面に捕集された粒子に発光素子6から光が照射されることによって該粒子から発光された蛍光は、受光素子9において受光され、制御装置500においてその受光量が検出される。
【0077】
発光素子6の発光は捕集治具12の表面に照射され、捕集治具12上に照射領域15を形成する。照射領域15の形状に限定はなく、円形、楕円形、四角形などであってよい。照射領域15は特定のサイズに限定されないが、好ましくは、円の直径または楕円の長軸方向の長さまたは四角形の1辺の長さが約0.05mmから50mmである。
【0078】
測定器400内にセットされた捕集治具12表面に触れる位置には、捕集治具12表面をリフレッシュするためのブラシ60が設けられる。ブラシ60は、制御装置500によって制御される図示しない移動機構に接続され、図中の両側矢印に示されるように、すなわち、捕集治具12上を往復するように移動する。これにより、捕集治具12表面に付着した埃や微生物が取り除かれる。
【0079】
<捕集器での検出原理>
ここで、捕集器100における検出原理について説明する。
【0080】
特開2008−508527号公報にも開示されているように、空気中に浮遊する生物由来の粒子は、紫外光または青色光が照射されることで蛍光を発することは従来から知られている。しかし、空気中には化学繊維の埃など同様に蛍光を発するものが浮遊しており、蛍光を検出するのみでは、生物由来の粒子からのものであるか化学繊維の埃などからのものであるかが区別されない。
【0081】
図8〜図17は、生物由来の粒子と化学繊維の埃などとのそれぞれに対して加熱処理を施し、加熱の前後で実際に測定された蛍光の変化を示している。測定の結果より、埃は加熱処理によって蛍光強度が変化しないのに対して、生物由来の粒子は加熱処理によって蛍光強度が増加することが見出された。
【0082】
具体的に、図8は、生物由来の粒子としての大腸菌を200℃にて5分間加熱処理したときの、加熱処理前(曲線79)および加熱処理後(曲線72)の蛍光スペクトルの測定結果である。図8に表わされた測定結果より、加熱処理を施すことによって大腸菌からの蛍光強度が大幅に増加していることが分かった。また、図9(A)に示された加熱処理前の蛍光顕微鏡写真と、図9(B)に示された加熱処理後の蛍光顕微鏡写真との比較によっても、加熱処理を施すことによって大腸菌からの蛍光強度が大幅に増加していることが明らかとなっている。
【0083】
同様に、図10は、生物由来の粒子としてのバチルス菌を200℃にて5分間加熱処理したときの加熱処理前(曲線73)および加熱処理後(曲線74)の蛍光スペクトルの測定結果であり、図11(A)が加熱処理前、図11(B)が加熱処理後の蛍光顕微鏡写真である。また、図12は、生物由来の粒子としてのアオカビ菌を200℃にて5分間加熱処理したときの加熱処理前(曲線75)および加熱処理後(曲線76)の蛍光スペクトルの測定結果であり、図13(A)が加熱処理前、図13(B)が加熱処理後の蛍光顕微鏡写真である。また、生物由来の粒子としてのスギ花粉を200℃にて5分間加熱処理したときの、図14(A)が加熱処理前、図14(B)が加熱処理後の蛍光顕微鏡写真である。これらに示されるように、他の生物由来の粒子でも大腸菌と同様に加熱処理によって蛍光強度が大幅に増加することが分かった。
【0084】
これに対して、図15(A)および図15(B)は、それぞれ、蛍光を発する埃を200℃にて5分間加熱処理したときの加熱処理前(曲線77)および加熱処理後(曲線78)の蛍光スペクトルの測定結果であり、図16(A)が加熱処理前、図16(B)が加熱処理後の蛍光顕微鏡写真である。図15(A)に示された蛍光スペクトルと図15(B)に示された蛍光スペクトルとを重ねると図17に示されるように、これらはほぼ重なることが検証された。すなわち、図17の結果や図15(A)と図15(B)との比較に示されるように、埃からの蛍光強度は加熱処理の前後において変化がないことが分かった。
【0085】
捕集器100における検出原理として上述の現象が応用される。すなわち、空気中では、埃と、生物由来の粒子が付着した埃と、生物由来の粒子とが混合されている。上述の現象を基にすると、捕集した粒子に蛍光を発する埃が混ざっている場合、加熱処理前に測定される蛍光スペクトルには、生物由来の粒子からの蛍光と蛍光を発する埃からの蛍光とが含まれ、生物由来の粒子を化学繊維の埃などから区別して検出することができない。しかしながら、加熱処理を施すことで生物由来の粒子だけが蛍光強度が増加し、蛍光を発する埃の蛍光強度は変化しない。そのため、加熱処理前の蛍光強度と所定の加熱処理後の蛍光強度との差を測定することで、生物由来の粒子の量を求めることができる。
【0086】
<機能構成>
図4に示されたように、制御装置500は、捕集器100での集塵動作を制御するための捕集制御部502と、ファン300による検出装置1への空気の導入の開始/終了や流量を制御するためのファン制御部501と、測定器400での測定動作を制御するための測定制御部503とを含む。
【0087】
具体的に、ファン制御部501は、予め記憶している制御量で図示しないファンモータを駆動させて、所定時間、または操作者からの終了の指示があるまで、ファン300を回転させる。これによって、分離動作が行なわれる。すなわち、捕集器100A,100B,100Cにこの順で外部空気が導入される。捕集器100では旋回流が生じて、それによって、それぞれ、第1の検出領域の粒子径の粒子、第2の検出領域の粒子径の粒子、および第3の検出領域の粒子径の粒子が分離されて底面に堆積される。
【0088】
捕集制御部502は高圧電源2と放電電極17との間に設けられる図示しないスイッチおよび/または高圧電源2と捕集治具12と間に設けられる図示しないスイッチに電気的に接続されて、その開閉を制御する。捕集制御部502が当該スイッチを閉塞することで集塵動作が行なわれる。すなわち、当該スイッチが閉塞されることで、放電電極17から放電され、放電電極17付近の粒子が負に帯電される。また、放電電極17と捕集治具12と間に電位差が発生することで生じた電界によって負に帯電された粒子が捕集治具12の方向に移動する。これにより、捕集器100内の粒子が捕集治具12の放電電極17に対応した位置に吸着する。
【0089】
また、捕集制御部502は駆動部17Aに電気的に接続されて、その駆動を制御する。これにより、放電電極17が放電状態と収納状態とに切替わる。
【0090】
測定制御部503は、受光素子9からの信号に基づいて生物由来の粒子の量を算出する。また、所定のタイミングで発光素子6に発光をさせる。
【0091】
図18は、制御装置500の測定制御部503の構成の具体例を示す図である。図18は、測定制御部503の機能の一部が主に電気回路であるハードウェア構成で実現される例が示されている。しかしながら、制御装置500の機能のすべてが、制御装置500に含まれるCPU51がメモリ52に記憶されているプログラムを実行することによって実現される、ソフトウェア構成であってもよいし、制御装置500の機能のすべてが主に電気回路であるハードウェア構成で実現されてもよい。
【0092】
図18を参照して、測定制御部503は、大きくは、受光素子9からの信号を処理するための信号処理部30と、測定器400の制御や算出処理などを行なうための検出処理部40とから構成される。
【0093】
信号処理部30は、受光素子9に接続される電流−電圧変換回路34と、電流−電圧変換回路34に接続される増幅回路35とを含む。
【0094】
検出処理部40は、記憶部42、クロック発生部47、および制御部49を含む。さらに、検出処理部40は図示しない検出動作の開始の指示を入力するためのスイッチからの入力信号を受け付けるための入力部44と、ヒータ91や捕集治具12の移動機構を駆動させるための駆動部48とを含む。
【0095】
捕集治具12上に捕集された粒子に対して発光素子6から照射されることで、照射領域15にある当該粒子からの蛍光が、受光素子9に集光される。受光素子9から、受光量に応じた電流信号が信号処理部30に対して出力される。電流信号は、電流−電圧変換回路34に入力される。
【0096】
電流−電圧変換回路34は、受光素子9から入力された電流信号より蛍光強度を表わすピーク電流値Hを検出し、電圧値Ehに変換する。電圧値Ehは増幅回路35で予め設定した増幅率に増幅され、検出処理部40に対して出力される。検出処理部40は信号処理部30から電圧値Ehの入力を受け付けて、順次、記憶部42に記憶させる。
【0097】
クロック発生部47はクロック信号を発生させ、制御部49に対して出力する。制御部49は、クロック信号に基づいたタイミングでヒータ91のNO/OFFを行なったり、捕集治具12を移動させたりするための制御信号を駆動部48に対して出力する。
【0098】
制御部49は算出部41を含む。算出部41は、記憶部42に記憶された電圧値Ehを用いて、導入された空気中の微生物量を算出する。
【0099】
<検出動作>
図19は、本実施の形態にかかる検出装置1での検出動作の流れを示すフローチャートである。図19のフローチャートに示された動作は、制御装置500のCPU51がメモリ52に記憶されているプログラムを読み出して実行することによって実現される。
【0100】
図19を参照して、図示しないスイッチから検出動作の開始を指示する操作信号が入力されるなどによって検出動作が開始すると、ステップS05でCPU51は操作信号などに基づいて検出対象とする粒子径の領域を決定する。そして、ステップS10でCPU51は分離動作を実行する。
【0101】
ステップS10では、CPU51は予め記憶している駆動量で、予め設定されている捕集時間、図示しないファンモータを駆動させる。これによって、上記捕集時間、所定の流速viで捕集器100A,100B,100Cの順に外部空気が導入され、それぞれの捕集器100で順に、設定されている分離粒子径Dpcよりも大きな粒子径の粒子、つまり、それぞれの捕集器100に設定されている検出領域の粒子径の粒子が分離される。なお、このとき、CPU51は、放電電極17を収納状態とする。
【0102】
上記捕集時間が終了するとステップS10の分離動作が終了する。すなわち、ファンモータの駆動を終了する。
【0103】
その後、ステップS20でCPU51は、集塵動作を実行する。ステップS20では、放電電極17を放電状態とした後、予め設定されている時間、高圧電源2と放電電極17との間に設けられる図示しないスイッチおよび/または高圧電源2と捕集治具12と間に設けられる図示しないスイッチを閉塞する。これによって、放電電極17から放電され、放電電極17付近の粒子が負に帯電される。また、放電電極17と捕集治具12と間に電位差が発生することで生じた電界によって負に帯電された粒子が捕集治具12の方向に移動し、捕集治具12表面の照射領域15に対応した狭い範囲に捕集される。
【0104】
上記設定されている時間が終了するとステップS20の集塵動作が終了する。すなわち、上記スイッチを開放し、放電電極17からの放電を終了する。
【0105】
なお、この説明ではステップS20においてCPU51が放電電極17を収納状態から放電状態とした後に放電し、捕集治具12に集塵するものとしているが、ステップS20でCPU51は、さらに、付加的な動作を行なって放電による集塵を補助してもよい。
【0106】
付加的な動作は、たとえば放電のみで捕集治具12上への集塵が不完全であった場合などに行なわれる。具体的な動作として、CPU51は、図示しないファンモータを駆動させて捕集器100内に微弱な空気流を発生させたり、図示しない駆動機構を駆動させて捕集器100自体に振動を加えたり、などの動作を行なってもよい。
【0107】
その後、ステップS30でCPU51は、測定動作を実行する。ステップS30では、検出対象とする粒子径の対応した捕集器100に備えられた捕集治具12を当該捕集器100から測定器400に移動させる(ステップS31)。その後、発光素子6に発光させ、規定の測定時間、受光素子9により蛍光を受光させる(ステップS32)。発光素子6からの光は、捕集治具12の表面の照射領域15に照射され、捕集された粒子から蛍光が発光される。その蛍光強度F1に応じた電圧値が検出処理部40に入力されて記憶部42に記憶される。これにより、加熱前の蛍光量S1が測定される。
【0108】
なお、上記測定時間はCPU51に予め記憶されているものであってもよいし、図示しないスイッチの操作などによって入力、変更されるものであってもよい。
【0109】
このとき、別途設けたLED等の発光素子(図示せず)からの発光の、捕集治具12表面の粒子が捕集されない反射領域(図示せず)からの反射光を、別途設けた受光素子(図示せず)で受光し、その受光量を参照値I0として用いてF1/I0を記憶部42に記憶してもよい。参照値I0に対する比率を算出することで、発光素子や受光素子の温度、湿度等の環境条件や劣化等による特性変動に起因する蛍光強度の変動を補償することができるという利点が生じる。
【0110】
上記測定時間が終了すると、CPU51は受光素子9での受光を終了し、捕集治具12を予め規定した加熱処理時間、予め規定された温度で加熱する(ステップS33)。
【0111】
上記加熱処理時間が終了すると、CPU51はヒータ91での加熱を終了し、上記ステップS32と同様にして加熱後の捕集治具12の表面からの蛍光強度F2に応じた電圧値が検出処理部40に入力されて記憶部42に記憶される(ステップS34)。これにより、加熱後の蛍光量S2が測定される。
【0112】
なお、CPU51は、上記ステップS33での加熱の後、捕集治具12を冷却するための動作を行ってもよい。捕集治具12を冷却するための動作としては、図示しない冷却機構(たとえばファン等)が測定器400に設けられる場合には、当該機構を駆動させる動作が該当する。また、捕集治具12をいったん測定器400階に移動させて外部の空気を触れさせることで冷却する動作であってもよい。また、上記加熱処理時間の後に所定の冷却時間をおいた後に、続く測定を行なうようにしてもよい。
【0113】
上記ステップS34で加熱後の蛍光量S2を測定すると、CPU51は、捕集治具12表面のリフレッシュ動作を実行する(ステップS35)。ステップS35でCPU51は捕集治具12表面でブラシ60を所定回数往復移動させる。
【0114】
上記ステップS35のリフレッシュ動作が完了すると、CPU51は捕集治具12を測定器400から捕集器100に移動させる(ステップS36)。これにより、開始の指示を受けると直ちに次の集塵動作(S20)を開始することができる。
【0115】
その後、CPU51は、記憶された蛍光強度F1と蛍光強度F2とを用いて、検出された生物由来の粒子の量を算出する(ステップS37)。詳しくは、CPU51は、記憶された蛍光強度F1と蛍光強度F2との差分を増大量△Fとして算出する。上述のように、増大量△Fは生物由来の粒子量(粒子数または濃度等)に関連している。CPU51は、予め、図20に表わされたような、増大量△Fと生物由来の粒子量(濃度)との対応関係を記憶しておく。そして、CPU51は、算出された増大量△Fと当該対応関係とを用いて得られる濃度を、算出対象としている捕集器100に導入された空気中の、当該捕集器100で分離される粒子径の生物由来の粒子の濃度として算出する。
【0116】
増大量△Fと生物由来の粒子の濃度との対応関係は、予め実験的に決められる。たとえば、1m3の大きさの容器内に、大腸菌やバチルス菌やカビ菌などの微生物の一種を、ネブライザを利用して噴霧し、微生物濃度をN個/m3に維持して、当該検出装置1を用いて、上述の検出方法により上記捕集時間の間微生物を捕集する。そして、所定加熱量で捕集した微生物に対してヒータ91によって加熱処理を施し、加熱前後の蛍光強度の増大量△Fを測定する。種々の微生物濃度について同様の測定がなされることで、図20に示された増大量△Fと濃度(個/m3)との関係が得られる。
【0117】
増大量△Fと生物由来の粒子の濃度との対応関係は、図示しないスイッチの操作などによって入力されることで算出部41に記憶されてもよい。また、いったん算出部41に記憶された該対応関係が捕集制御部502により更新されてもよい。
【0118】
算出部41は、増大量△Fが差分△F1と算出された場合、図20の対応関係から増大量△F1に対応する値を特定することで生物由来の粒子の濃度N1(個/m3)を算出する。
【0119】
ただし、増大量△Fと生物由来の粒子の濃度との対応関係は、粒子の種類(たとえば菌種)によって異なる可能性がある。そこで、算出部41は、いずれかの生物由来の粒子を標準と規定して、増大量△Fと当該生物由来の粒子の濃度との対応関係を記憶する。これにより、様々な環境における生物由来の粒子の濃度が、標準を基準として換算された生物由来の粒子の濃度として算出される。その結果、様々な環境を比較することが可能となり、環境管理が容易となる。
【0120】
なお、上述の例では増大量△Fには、所定の加熱量の加熱処理の前後の蛍光強度の差分が用いられているが、これらの比率が用いられてもよい。
【0121】
<変形例>
以上の例では、図4に示されたように、測定器400は捕集器100とは別に設けられ、捕集器100から捕集治具12が図示しない駆動機構によって測定器400まで運ばれるものとしている。このようにすることで、装置全体の構成を簡略化することができる。
【0122】
しかしながら、装置構成は図4に示された構成に限定されない。
他の例として、各捕集器100に測定器400が備えられていてもよい。すなわち、各捕集器100に測定器400が接して設けられ、捕集器100と測定器400との間の壁面に捕集治具12が移動可能な通路が設けられていてもよい。このようにすることで、捕集器100から離れた位置にある測定器400まで捕集治具12を移動させるための駆動機構を不要とすることができる。なお、この場合、ヒータ91を捕集治具12と共に可動として加熱は捕集器100内で行なわれ、測定器400では蛍光を測定する動作が行なわれるようにしてもよい。このようにすることで、発光素子6や受光素子9の加熱によるダメージを抑えることができる。
【0123】
<実験>
発明者は、この検出装置1に含まれる捕集器100を用いて空気中から花粉を分離して捕集する実験を行なった。実験では、10mgの花粉を1m3の捕集器100をセットしたチャンバ内に噴霧した後に、捕集器100で分離動作および集塵動作を行なった。捕集治具12上の花粉の量は、目視で数を数えた。実験条件としては、高圧電源2の電圧を5kV、捕集器100の導入孔101に空気を導入する流量を20L(リットル)/min、針状電極である放電電極17から捕集治具12の表面までの距離を10mm、および分離動作のためにファン300を稼動する時間を5分とした。そして、集塵動作を行なわず分離動作のみの場合の捕集治具12の表面上の花粉の数、および分離動作の後に集塵動作を行なった場合の捕集治具12の表面上の花粉の数を数えた。
【0124】
実験の結果、集塵動作を行なわず分離動作のみの場合の捕集治具12の表面上の花粉の数が156個と数えられ、分離動作の後に集塵動作を行なった場合の捕集治具12の表面上の花粉の数が2800個と数えられた。
【0125】
この実験の結果より、集塵動作によって捕集治具12の表面に効率的に花粉が集められることが確認された。そしてその結果、捕集治具12を用いて測定器400で測定動作を行なった場合に、集塵動作を行なった方が高精度で生物由来の粒子の量を測定できることがわかった。
【0126】
<実施の形態の効果>
本実施の形態にかかる検出装置1が、捕集器100において分離動作を行なった後に集塵動作を行なうことで、捕集治具12上に効率的に粒子を集めて捕集することができる。そのため、その後の測定動作によって、高精度で生物由来の粒子の量を測定することができる。
【0127】
また、検出装置1では、設定された分離粒子径の大きい順に上流側から複数の捕集器100が直列に組み合わされることで、分離動作によって、上流側の捕集器100から順に、それぞれ、粒子径の大きい検出領域ごとの粒子が分離されることになる。そのため、検出対象として粒子径の範囲を特定して、その範囲にある粒子のうちの生物由来の粒子の量、つまり、特定した生物由来の粒子の量を測定することが可能になる。
【0128】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0129】
1 検出装置、2 高圧電源、6 発光素子、8 集光レンズ、9 受光素子、12 捕集治具、15 照射領域、17 放電電極、17A,48 駆動部、30 信号処理部、34 電圧変換回路、35 増幅回路、40 検出処理部、41 算出部、42 記憶部、44 入力部、47 クロック発生部、49 制御部、52 メモリ、60 ブラシ、72,73,74,75,76,77,78,79 曲線、91 ヒータ、100,100A,100B,100C 捕集器、101 導入孔、102 排気孔、200 エア管、300 ファン、400 測定器、500 制御装置、501 ファン制御部、502 捕集制御部、503 測定制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導入された空気から生物由来の粒子を検出するための検出装置であって、
当該検出装置内に外部空気を導入するために、所定の流速の気流を発生させるための気流発生装置と、
前記生物由来の粒子径の範囲の粒子を分離して捕集するための、捕集用部材と放電電極とを含んだ、1以上の捕集器と、
前記捕集された粒子の量を測定するための測定器と、
前記気流発生装置の動作を制御し、その後に前記放電電極に所定の電圧を印加して前記測定器で前記捕集部材によって捕集された前記粒子の量を測定するための制御装置とを備える、検出装置。
【請求項2】
前記捕集器は、前記捕集用部材および前記放電電極を内包可能なサイクロン形状を有する、請求項1に記載の検出装置。
【請求項3】
前記測定器は、
発光素子と、
蛍光を受光するための受光素子と、
前記捕集用部材を加熱するためのヒータとを含み、
前記放電電極に所定の電圧を印加する制御の後の前記捕集用部材に対して加熱処理を実行し、前記加熱の前後での、前記発光素子で照射された前記捕集用部材からの蛍光量の変化量に基づいて、前記捕集用部材で捕集された前記生物由来の粒子量を算出する、請求項1または2に記載の検出装置。
【請求項4】
前記捕集器に含まれる前記捕集用部材は着脱可能であって、
前記捕集用部材を前記捕集器から前記測定器に移動させるための手段をさらに備える、請求項1〜3のいずれかに記載の検出装置。
【請求項5】
前記捕集器は、前記捕集器に含まれる前記放電電極を、前記捕集器の内側と前記捕集器の外周側との間で移動させるための駆動機構をさらに含み、
前記制御装置は、前記気流発生装置を動作させる制御の実行前に前記放電電極を前記捕集器の外周側まで移動させ、前記気流発生装置を動作させる制御の後、前記放電電極に所定の電圧を印加する制御の実行前に、前記放電電極を前記捕集器の外周側から前記捕集器の内側まで移動させる、請求項1〜4のいずれかに記載の検出装置。
【請求項6】
前記1以上の捕集器として、前記導入された外部空気から前記生物由来の粒子の粒子径の属する粒子径の範囲のうちの最大の粒子径よりも粒子径の大きい粒子を分離するための第1の捕集器と、前記導入された外部空気から前記生物由来の粒子の粒子径の属する粒子径の範囲のうちの最小の粒子径よりも粒子径の大きい粒子を分離するための第2の捕集器とを備え、
前記測定器は、前記制御装置における前記放電電極に所定の電圧を印加する制御の後の前記第2の捕集器に含まれる前記捕集用部材の表面に吸着された粒子から前記生物由来の粒子の量を測定する、請求項1〜5のいずれかに記載の検出装置。
【請求項7】
サイクロンを含んだ検出装置を用いて前記検出装置に導入された空気から生物由来の粒子を検出する検出方法であって、
前記サイクロンに空気を導入することで、前記導入された空気から分離粒子径よりも大きい粒子を分離するステップと、
放電電極に印加することで、前記分離された粒子を帯電させて、前記放電電極と電位差を有する捕集用部材に前記粒子を吸着させるステップと、
前記粒子が吸着した前記捕集用部材を発光素子で照射して前記捕集用部材表面からの蛍光量を受光するステップと、
前記捕集用部材を加熱し、前記加熱の後の前記捕集用部材を発光素子で照射して前記捕集用部材表面からの蛍光量を受光するステップと、
前記加熱の前後での前記蛍光量の変化量に基づいて、前記捕集用部材で捕集された前記生物由来の粒子量を算出するステップとを備える、検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図12】
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【図15】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図3】
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【図9】
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【図11】
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【図13】
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【図14】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−233796(P2012−233796A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−102768(P2011−102768)
【出願日】平成23年5月2日(2011.5.2)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】