説明

検出装置及び被検査体

【課題】信頼性の高い検出結果を得ること。
【解決手段】所定の反応によって光応答性物質を生成する被検体が配置されるウェルが複数形成された基板を保持する基板保持部と、複数のウェルのうちの所定領域内の複数のウェルに配置された、複数の被検体により生成される、複数の光応答性物質からそれぞれ発生する光それぞれを検出する検出部を複数個と、当該反応の開始後、検出部によって検出される複数の光応答性物質からの光それぞれを、異なるタイミングで、複数個の検出部に順次検出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出装置及び被検査体に関する。
【背景技術】
【0002】
DNA配列を決定する手段として、例えばDNAマイクロアレイを利用した検査技術が知られている。この検査技術では、まずマイクロアレイチップと呼ばれる基板上に数千から数万の既知のDNAを配列させておき、当該既知のDNAのそれぞれに対して未知のDNAあるいはRNAを作用させる。その後、作用させた未知のDNAあるいはRNAがマイクロアレイチップ上の既知のDNAにハイブリダイズするかどうか、すなわち、基板上のどのDNAに対して相補的な配列を持つか、を検出することで、未知であったDNAの配列を決定することができる。
【0003】
近年では、このようなマイクロアレイチップを応用した検査技術が、被検体として酵素などの機能性生体分子の変異体を対象とし、より有用な分子を探索する場合にも利用されるようになってきた。その場合、従来のような限られた組み合わせでのDNA検出とは異なり、マイクロアレイチップに含まれるウェル数が108〜1010個という具合に非常に巨大な数だけ必要となってきている。
【0004】
このような検査技術では、被検体である機能性生体分子として、例えば所定の反応を触媒する酵素と、その反応によって光応答性物質へ変化する基質とが用いられる。このような酵素をマイクロチップの各ウェルに配置させ、各ウェルの酵素に対して基質を注入する。この基質としては、例えば各ウェルの酵素によって分解可能であって、分解後に蛍光発光性を有する基質が用いられる。このため、各ウェルでは分解後の基質から蛍光が発生することになる。
【0005】
上記検査技術では、例えば基質の注入後、顕微鏡やCCDカメラ等の撮像装置によって上記のマイクロアレイチップを撮像し、マイクロチップアレイに含まれるウェル一つ一つから発生する蛍光を計測する。その際、蛍光の光強度や当該光強度の時間変化量などを検出することにより、各ウェルに配置された酵素の優劣を決定する。従来では一度に計測できるウェル数は計測光学系の倍率と撮像素子の素子数や大きさから決定され、例えば10〜10程度のウェルを計測できる構成となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3912421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、検査の種類によっては、マイクロチップアレイに例えば10〜1010個という非常に大きな数のウェルを形成することが必要な場合もある。このような場合には、マイクロアレイチップ全体を同時に計測することが困難である。このため、マイクロアレイチップの小領域ごとに撮像、画像処理を行うことで被検体の優劣を調査することも検討されているが、現状で利用可能なウェル数と、要求されるウェル数とのあいだには大きな開きがあり、現実的ではないという問題があった。このように、従来の手法では、各ウェルの時間経過による光強度の変化を検出することが困難であり、信頼性の高い検出結果が得られないという問題があった。
【0008】
以上のような事情に鑑み、本発明は、信頼性の高い検出結果を得ることができる検出装置及び被検査体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、所定の反応によって光応答性物質を生成する被検体が配置されるウェルが複数形成された基板を保持する基板保持部と、複数のウェルのうちの所定領域内の複数のウェルに配置された、複数の被検体により生成される、複数の光応答性物質からそれぞれ発生する光それぞれを検出する検出部を複数個と、当該反応の開始後、検出部によって検出される複数の光応答性物質からの光それぞれを、異なるタイミングで、複数個の検出部に順次検出させる制御部とを備える検出装置を提供する。
【0010】
本発明の第二の態様に従えば、本発明の第一の態様に従う検出装置を用いて選別し、抽出された被検査体を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の態様によれば、信頼性の高い検出結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態に係る蛍光検出装置の構成を示す図。
【図2】蛍光検出装置の一部の構成を示す図。
【図3】蛍光検出装置に用いられる基板の構成を示す図。
【図4】蛍光検出器の構成を示す図。
【図5】蛍光検出器の構成を示す図。
【図6】蛍光検出装置の動作手順を示すフローチャート。
【図7】蛍光検出装置の動作の様子を示す図。
【図8】蛍光検出装置の動作の様子を示す図。
【図9】蛍光検出装置の動作の様子を示す図。
【図10】蛍光検出装置の動作の様子を示す図。
【図11】時間経過による光強度の変化をウェル毎に示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本実施形態に係る蛍光検出装置の全体構成を示す図である。
蛍光検出装置FDAは、いわゆるバイオアッセイ装置の一種であり、例えば機能性生体分子の優劣を検出するための装置である。本実施形態では、このような機能性生体分子として、例えば所定の基質に対する分解性能に優れた酵素を探す場合を例に挙げて説明する。
【0014】
このような酵素を探す場合、まず元になる酵素の設計図であるDNAを用意し、そのDNAの変異体を多数作る。これを元に合成される酵素のうち所定の基質の分解速度の速いもの、分解反応の寿命が長いものなど、酵素としての性能の良いものを抽出する。更に、この酵素のDNAを基にしてさらに変異体を多数作製し、そのDNAから造られる酵素の性能を同様に計測して良好なものを抽出する。
【0015】
このようなプロセスを繰り返すことで、従来の酵素、野性の酵素に比べて格段に性能の良い酵素を製作する。これを進化プロセスと呼ぶ。当該進化プロセスにより効率よく性能の良い酵素を製作するためには、極めて多くの種類(10〜1010種類)のDNA変異体を用意する必要がある。
【0016】
基質の分解性能の高いものを探す例として、植物一般からアルコール燃料を生成するようなセルロース分解反応がある。以下の検出動作では、基質として、酵素による分解の過程で蛍光発光性物質が生成されるような基質を用いる。つまり、分解前には蛍光発光性は無いが、分解されると蛍光発光性を有するような基質を用いる。
【0017】
この場合、分解性能を調査したい酵素Bにこの基質を供給することで、基質の分解反応の進行状態を蛍光で計測することができる。例えば、蛍光強度の時間変化は酵素の基質分解反応速度、蛍光強度が飽和するまでの時間は酵素の寿命に比例するので、蛍光強度とその変化を調べれば酵素の性能を得ることができる。
【0018】
本実施形態に係る蛍光検出装置FDAは、上記の酵素の性能を検出するものであり、図1に示すように、チャンバーCH、基板ステージST、ステージ駆動部SA、蛍光検出器DT、検出器駆動部DA及び基質供給部PRを有している。また、蛍光検出装置FDAは、上記各部を統括的に制御する制御部CONTを有している。蛍光検出装置FDAは、例えば作業台などの載置面上に配置されて用いられる。
【0019】
以下の各図において、蛍光検出装置FDAの構成を説明するにあたり、XYZ空間座標系を用いる場合がある。本実施形態では、蛍光検出装置FDAが載置される床面に平行な方向をそれぞれX方向及びY方向とし、当該床面(XY平面)に垂直な方向をZ方向とする。ただし、X軸及びY軸は、直交している。
【0020】
チャンバーCHは、内部に検出室RMを有しており、当該検出室RMを密閉可能な構成となっている。チャンバーCHには不図示の開閉部が設けられている。検出室RMは、当該開閉部を介してチャンバーCHの外部に接続されている。チャンバーCHは、検出室RMの環境を調整する環境調整部10を有している。環境調整部10は、検出室RMの雰囲気、圧力、温度などの環境条件を調整可能になっている。
【0021】
図1に示すように、上記の基板ステージST、蛍光検出器DT及び基質供給部PRは、検出室RMに配置されている。したがって、チャンバーCHは、これら基板ステージST、蛍光検出器DT及び基質供給部PRが配置される空間を密閉空間とすることが可能な構成となっている。
【0022】
図2は、チャンバーCHの検出室RMの一部の構成を示す斜視図である。
図1及び図2に示すように、基板ステージSTは、基板Sを保持する基板保持部である。基板ステージSTは、ステージ案内部SGに案内されて移動する構成となっている。ステージ案内部SGは、検出室RM内にX方向に平行に形成されている。したがって、基板ステージSTは、当該ステージ案内部SGに沿ってX方向に移動可能である。
【0023】
ステージ案内部SGにはX方向に沿ってスケール21が形成されている。基板ステージSTには当該スケール21を計測する計測部22が設けられている。計測部22は、計測結果を制御部CONTに出力する。制御部CONTでは、計測部22による計測結果に基づいて基板ステージSTのX方向の位置を求めることができるようになっている。このように、スケール21、計測部22及び制御部CONTにより、基板ステージSTのX方向における位置を検出する位置検出部23が構成されている。
【0024】
ステージ駆動部SAは、基板ステージSTを駆動するアクチュエータである。ステージ駆動部SAとしては、例えばリニアモータ機構などを用いることができる。ステージ駆動部SAは、制御部CONTの制御(移動量、移動のタイミングなど)に基づいて、基板ステージSTをX方向に移動させる。
【0025】
図3は、基板ステージSTに保持される基板Sの構成を示す図である。
図3に示すように、基板Sは、いわゆるマイクロチップアレイと呼ばれる板状部材であり、例えば矩形に形成されている。基板Sは、一方向に長手となるように形成されている。基板Sは、当該長手方向がX方向に平行になるように基板ステージSTに保持されている。基板Sの表面Saには複数(例えば10〜1010個)のウェルWが形成されている。
【0026】
複数のウェルWは、基板Sの形状に沿ってマトリクス状に配置されている。このように、マトリクス状に配置された複数のウェルWにより、基板Sにウェル列WRが形成されている。各ウェルWには、当該ウェルWを識別できるようにアドレスが設定されている。当該アドレスは、例えば制御部CONTの記憶部に記憶されている。
【0027】
各ウェルWは、Z方向視で例えば円形に形成されている。各ウェルWには、所定の反応によって光応答性物質を生成するさまざまな酵素の変異体B(図5等参照)が配置されている。酵素Bによって生成された光応答性物質からは、例えば蛍光が発生するようになっている。発生した蛍光は、ウェルW毎に基板Sの表面Saから放出されるようになっている。
【0028】
Y方向の寸法が90mmであり、X方向の寸法が180mmである矩形の領域が基板Sに設定されており、当該矩形領域にウェルWを配置する場合を例に挙げると、直径10μmのウェルWを5μmの間隔でY方向に並べた場合、例えば当該矩形領域のY方向には6000個のウェルWを配置させることができる。
【0029】
更に、X方向については、この6000個のウェルWを含む1つのウェル列WRを12000列並べることができる。したがって、基板Sに設定された90mm×180mmの領域には7200万個(7.2×10個)のウェルWを配置させることができる。なお、図3では8列ごとにウェル列WRの間隔がX方向に空いた構成となっているが、この配列に限られることは無く、例えばすべてのウェル列WRがX方向に同一の間隔で並んでいても良い。
【0030】
図1及び図2に戻って、蛍光検出器DTは、基板ステージSTの+Z側に配置されている。蛍光検出器DTは、基板Sの表面Saの画像を取得すると共に、当該画像に基づいて表面Saにおける蛍光の光強度を検出する検出部である。蛍光検出器DTは、第一検出器D1及び第二検出器D2を有している。このように、本実施形態では、蛍光検出器DTが複数設けられた構成となっている。第一検出器D1及び第二検出器D2は、X方向に並んで配置されている。本実施形態では、第一検出器D1は−X側に配置されており、第二検出器D2は+X側に配置されている。各蛍光検出器DT(第一検出器D1及び第二検出器D2)は、それぞれY方向が長手方向となるように形成されている。
【0031】
各蛍光検出器DTは、検出器案内部DGに案内されて移動する構成となっている。検出器案内部DGは、X方向に平行に形成されている。したがって、各蛍光検出器DTは、当該検出器案内部DGに沿ってX方向に移動可能である。検出器駆動部DAは、各蛍光検出器DTを駆動するアクチュエータである。検出器駆動部DAとしては、上記のステージ駆動部SAと同様、例えばリニアモータ機構などを用いることができる。
【0032】
検出器案内部DGにはX方向に沿ってスケール41が形成されている。各蛍光検出器DTには当該スケール41を計測する計測部42が設けられている。計測部42は、計測結果を制御部CONTに出力する。制御部CONTでは、計測部42による計測結果に基づいて各蛍光検出器DTのX方向の位置を求めることができるようになっている。このように、スケール41、計測部42及び制御部CONTにより、各蛍光検出器DTのX方向における位置を検出する位置検出部43が構成されている。
【0033】
図4は、各蛍光検出器DTの詳細な構成を示す図である。図5は、図4におけるA−A断面に沿った構成を示す図である。
図4及び図5に示すように、各蛍光検出器DTは、光源アレイ31、照明光学系アレイ32、ダイクロイックミラーアレイ33、投影光学系アレイ34、センサレンズアレイ35及び光センサアレイ36を有している。
【0034】
光源アレイ31は、複数の光源31aがY方向に並べられた構成となっている。各光源31aは、例えばレーザーダイオードやLEDなどを有する面光源である。光源アレイ31からは、例えば基板Sの表面Saを照明するための光が、+X方向に射出されるようになっている。
【0035】
照明光学系アレイ32は、複数の照明光学系32aがY方向に並べられた構成となっている。1つの上記光源31aに対して1つの照明光学系32aが対応するように設けられている。照明光学系アレイ32は、光源アレイ31からの光を平行光として+X方向に射出する。
【0036】
ダイクロイックミラーアレイ33は、複数のダイクロイックミラー33aがY方向に並べられた構成となっている。1つの照明光学系32aに対して、1つのダイクロイックミラー33aが対応するように設けられている。各ダイクロイックミラー33aは、XY平面に対してθY方向に傾いた状態で配置されている。各ダイクロイックミラー33aは、+X方向に進行する光を−Z方向に反射させると共に、+Z方向に進行する光を透過させるように形成されている。
【0037】
投影光学系アレイ34は、複数の投影光学系34aがY方向に並べられた構成となっている。1つのダイクロイックミラー33aに対して、1つの投影光学系34aが対応するように設けられている。各投影光学系34aは、対応するダイクロイックミラー33aで反射された光を基板Sに照射すると共に、基板Sからの蛍光をダイクロイックミラー33aへ射出する。
【0038】
センサレンズアレイ35は、複数のセンサレンズ35aがY方向に並べられた構成となっている。1つのダイクロイックミラー33aに対して、1つのセンサレンズ35aが対応するように設けられている。各センサレンズ35aは、ダイクロイックミラー33aを透過した光を光センサアレイ36側へ射出する。
【0039】
光センサアレイ36は、複数の光センサ36aがY方向に並べられた構成となっている。1つのセンサレンズ35aに対して、1つの光センサ36aが対応するように設けられている。各光センサ36aは、センサレンズ35aから射出された蛍光を受光し、蛍光の光強度に応じた電気信号を出力する。
【0040】
このように、光源アレイ31の光源31a、照明光学系アレイ32の照明光学系32a、ダイクロイックミラーアレイ33のダイクロイックミラー33a、投影光学系アレイ34の投影光学系34a、センサレンズアレイ35のセンサレンズ35a及び光センサアレイ36の光センサ36aは、1つのウェル列WRをY方向に全て覆う範囲に配置されている。このため、各蛍光検出器DTは、1つのウェル列WRを同時に検出できるようになっている。
【0041】
図1及び図2に戻って、基質供給部PRは、各ウェルW内に配置された酵素Bと反応を起こす基質をウェルWに供給する供給源である。基質供給部PRは、基板ステージSTの+Z側に配置されており、基板Sの表面Saに対向する位置に配置されている。基質供給部PRは、複数の蛍光検出器DTよりも当該基板ステージSTの移動方向の上流側(−X側)に設けられる。
【0042】
基質供給部PRは、Y方向に配列された複数のノズルNZを有している。複数のノズルNZは、基質供給部PRの−Z側の面に設けられており、−Z側に向けられている。このため、基板Sの表面Saに対して+Z側から基質が噴射されて各ウェルWに供給される構成となっている。
【0043】
複数のノズルNZは、例えばウェル列WRの各ウェルWに対向するようにノズル径及びノズルピッチ(Y方向)が設定されている。基質供給部PRは、制御部CONTの制御により、複数のノズルNZから基質を同時に噴射可能な構成となっている。したがって、1つのウェル列WRを構成する各ウェルWに対して、同一のタイミングで基質が供給されるようになっている。
【0044】
次に、上記のように構成された蛍光検出装置FDAの動作を説明する。
図6は、蛍光検出装置FDAの動作を示すフローチャートである。図7〜図10は、蛍光検出装置FDAの動作の過程を示す図である。
【0045】
まず、基板Sの各ウェルWに被検体となる酵素Bを配置し、当該基板Sを基板ステージSTに保持させる。なお、例えば図7に示すように、基質供給部PRのノズルNZと第一検出器D1の検出位置との第一距離がL1となっており、基質供給部PRのノズルNZと第二検出器D2の検出位置との第二距離がL2となっている。但し、ここではL2>L1である。
【0046】
制御部CONTは、基板Sが基板ステージSTに保持されるまで動作を待機させる(ステップ01のNO)。基板Sが基板ステージSTに保持されたことを確認した後(ステップ01のYES)、制御部CONTは、基板ステージSTが一定の移動速度Vで+X方向に移動するように、ステージ駆動部SAに基板ステージSTを駆動させる(ステップ02)。
【0047】
基板ステージSTの移動により、基板Sが基質供給部PRの−Z側に到達する。制御部CONTは、図7に示すように、基板Sの+X方向の先頭のウェル列WRが基質供給部PRのノズルNZの−Z側に到達したら(ステップ03のYES)、ノズルNZから基質を噴射させる(ステップ04)。なお、制御部CONTは、例えば位置検出部23及び位置検出部43の検出結果と基板ステージSTの移動速度Vとに基づいて、先頭のウェル列WRがノズルNZの−Z側に到達するタイミングを求めることができる。
【0048】
この動作により、当該先頭のウェル列WRの全ウェルWに対して同一のタイミングで基質が供給され、酵素Bの反応が各ウェルWで同一のタイミングで開始される。制御部CONTは、基板ステージSTを移動速度Vで移動させながら、第二列目以降のウェル列WRに対しても同様にノズルNZから基質を噴射させ、各ウェルWに当該基質を供給させる。このように、基質供給部PRにより、+X側のウェル列WRから順にウェル列WR毎に酵素Bの反応を開始させる。
【0049】
酵素Bの反応開始後、制御部CONTは基板ステージSTを移動速度Vで更に+X側に移動させる。制御部CONTは、図8に示すように、基板Sの+X方向の先頭のウェル列WRが第一検出器D1の−Z側に到達したら(ステップ05のYES)、第一検出器D1に当該先頭のウェル列WRを検出させる(ステップ06)。制御部CONTは、例えば位置検出部23及び位置検出部43の検出結果と基板ステージSTの移動速度Vとに基づいて、先頭のウェル列WRが第一検出器D1の−Z側に到達するタイミングを求めることができる。
【0050】
基質供給部PRのノズルNZと第一検出器D1の検出位置とが第一距離L1だけX方向に離れており、基板ステージSTが当該第一距離L1を移動速度Vで移動しているため、基板Sの先頭のウェル列WRは反応開始から第一時間T1(T1=L1/V)経過後に第一検出器D1の検出位置に到達することになる。
【0051】
なお、第一時間T1が予め設定されている場合には、制御部CONTは、反応開始から第一時間T1経過後に先頭のウェル列WRが第一検出器D1の検出位置に到達するように、例えば第一距離L1及び基板ステージSTの移動速度Vのうち少なくとも一方を調整する。
【0052】
制御部CONTは、第一検出器D1による検出結果から、酵素Bの反応によって発生する蛍光の光強度をウェルW毎に検出する。制御部CONTは、基板ステージSTを移動速度Vで移動させながら、第二列目以降のウェル列WRに対しても同様に第一検出器D1による検出を行わせ、ウェルW毎に蛍光の光強度を検出させる。第一検出器D1による検出結果は制御部CONTに送信され、当該制御部CONTにおいて記憶される。
【0053】
第一検出器D1による検出を行わせた後、制御部CONTは、移動速度Vを維持しつつ基板ステージSTを+X方向に移動させる。制御部CONTは、図9に示すように、基板Sの+X方向の先頭のウェル列WRが第二検出器D2の−Z側に到達したら(ステップ07のYES)、第二検出器D2に当該先頭のウェル列WRを検出させる(ステップ08)。制御部CONTは、例えば位置検出部23及び位置検出部43の検出結果と基板ステージSTの移動速度Vとに基づいて、先頭のウェル列WRが第二検出器D2の−Z側に到達するタイミングを求めることができる。
【0054】
基質供給部PRのノズルNZと第二検出器D2の検出位置とが第二距離L2だけX方向に離れており、基板ステージSTが当該第二距離L2を移動速度Vで移動しているため、基板Sの先頭のウェル列WRは反応開始から第二時間T2(T2=L2/V)経過後に第二検出器D2の検出位置に到達することになる。
【0055】
なお、第二時間T2が予め設定されている場合には、制御部CONTは、反応開始から第二時間T2の経過後に先頭のウェル列WRが第二検出器D2の検出位置に到達するように、例えば第二距離L2及び基板ステージSTの移動速度Vのうち少なくとも一方を調整する。
【0056】
制御部CONTは、第二検出器D2による検出結果から、酵素Bの反応によって発生する蛍光の光強度をウェルW毎に検出する。制御部CONTは、基板ステージSTを移動速度Vで移動させながら、図10に示すように、第二列目以降のウェル列WRに対しても同様に第二検出器D2による検出を行わせ、ウェルW毎に蛍光の光強度を検出させる。第二検出器D2による検出結果は制御部CONTに送信され、当該制御部CONTにおいて記憶される。
【0057】
上記のように第二距離L2>第一距離L1であるため、第二時間T2>第一時間T1となる。したがって、本実施形態では、それぞれのウェル列WRが、2つの異なる蛍光検出器DT(第一検出器D1及び第二検出器D2)によって、異なるタイミングで順次検出されることになる。
【0058】
第二検出器D2による検出の後、制御部CONTは、第一検出器D1及び第二検出器D2による検出結果から、基板Sの各ウェルWに配置された酵素Bの優劣を判断する(ステップ09)。具体的には、(1)蛍光の光強度及び(2)光強度の時間変化に基づいて酵素Bの優劣を判断する。
【0059】
例えば、第一検出器D1による検出結果と、第二検出器D2による検出結果とを個別に分析して、それぞれ光強度が高いほど優れた機能性生体分子であると判断することができる。そこで、例えば第一検出器D1及び第二検出器D2で個別に検出される光強度の閾値を予め設定しておき、制御部CONTが当該閾値を超える光強度が検出されたウェルWを特定するようにすることができる。
【0060】
また、例えば第一検出器D1での検出結果と第二検出器D2での検出結果とを比べて、時間経過による光強度の減少量が小さいほど優れた機能性生体分子であると判断することができる。そこで、例えば当該光強度の減少量について予め閾値を設定しておき、制御部CONTが当該閾値を下回るウェルWを特定するようにすることができる。このような優劣の判断はあくまでも一例であり、他の手順によって酵素Bの優劣を判断するようにしても勿論構わない。
【0061】
図11は、反応開始時刻からの経過時間と光強度とを示すグラフである。グラフの縦軸が光強度を示しており、グラフの横軸が経過時間を示している。横軸におけるグラフの原点は反応開始時刻である。図11では、例えば上記のウェルWの中から一例としてウェルW1〜ウェルW3を例に挙げて説明する。
【0062】
図11に示すように、ウェルW1では、反応開始時刻から時間Taが経過したところで光強度がピーク(ピーク値はQa)となっている。また、ウェルW2では、反応開始時刻から時間Tbが経過したところで光強度がピーク(ピーク値はQb。但し、Qa>Qb)となっている。また、ウェルW3では、反応開始時刻から時間Tcが経過してもピークには達しておらず、光強度が増加傾向を示している。なお、図11に示すグラフはあくまでも一例である。
【0063】
このように、酵素Bにおいては、反応開始時刻からの経過時間による光強度がウェルW毎に異なる特性を示すため、異なるタイミングで複数のウェルWを検出する必要性が高い。本実施形態では、このタイミングは、反応開始から第一時間T1が経過した時刻と、反応開始から第二時間T2が経過した時刻となる。
【0064】
以上のように、本実施形態によれば、酵素Bの反応の開始後、各蛍光検出器DTによって1つのウェル列WRを略同時に検出することができると共に、当該ウェル列WRの各ウェルWからの蛍光のそれぞれを、異なるタイミングで、複数個の蛍光検出器DTに順次検出させることとしたので、時間経過による光強度の変化をウェルWごとに検出することができる。これにより、信頼性の高い検出結果を得ることができる。
【0065】
本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。
例えば、上記実施形態では、基板ステージSTのみを+X方向に移動させることで基板ステージSTと各蛍光検出器DTとを相対移動させることとしたが、これに限られることは無く、例えば各蛍光検出器DTを移動させるようにしても構わない。また、基板ステージSTと各蛍光検出器DTとをそれぞれ移動させるようにしても構わない。
【0066】
また、上記実施形態では、検出動作中において、基板ステージSTの移動速度V、第一距離L1及び第二距離L2を一定として検出を行う場合を例に挙げて説明したが、これに限られることは無い。例えば制御部CONTが移動速度V、第一距離L1及び第二距離L2を変化させながら検出動作を行わせるようにしても構わない。
【0067】
また、上記実施形態では、各蛍光検出器DTが1つのウェル列WR毎に検出可能な構成(いわゆるラインセンサ)としたが、これに限られることは無く、複数のウェル列WRをまとめて検出可能な構成であっても構わない。
【0068】
また、上記実施形態では、蛍光検出器DTが第一検出器D1及び第二検出器D2の2つの検出器を有する構成としたが、これに限られることは無く、例えば3つ以上の検出器を有する構成であっても構わない。検出位置を多く設けることにより、信頼性の高い検出結果を得ることができる。
【0069】
また、上記実施形態では、2つの蛍光検出器DTが1つの検出器案内部DGによって共通して案内される構成となっているが、これに限られることは無く、例えば蛍光検出器DT毎に検出器案内部DGが個別に設けられた構成であっても構わない。この場合、それぞれの検出器案内部GDにスケール41が設けられた構成とすることができる。
【0070】
また、この場合、上記実施形態におけるステップ06に相当する検出を終えた第一検出器D1を+X方向に移動させ、第二検出器D2によるステップ08の検出が終わる前に当該第二検出器D2の+X側に配置させるようにし、第二検出器D2によるステップ08の検出を終えた後に基板ステージSTを+X側に移動させて、再度第一検出器D1による検出を行わせるようにしても構わない。この場合、2つの検出器によって3箇所以上の検出位置で検出を行うことができる。
【0071】
また、上記実施形態においては、制御部CONTによって酵素Bの優劣を判断した後、検出動作を終了する構成を例に挙げて説明したが、これに限られることは無い。例えば、制御部CONTによる判断の後、当該判断結果に応じて検出動作のパラメータ(例えば第一時間T1、第二時間T2など)を変更するようにしても構わない。
【0072】
また、上記実施形態によれば、基質供給部PRが複数のノズルNZを有し、当該ノズルNZからウェル列WRに対して基質を噴射する構成としたが、これに限られることは無い。例えば、各ウェルWに酵素B及び基質を配置させると共に基板Sを冷却して酵素Bによる基質の分解反応が起こらないようにしておき、反応を開始させる際にヒーターなどの加熱装置を用いて所定の温度まで基板Sを加熱し、酵素による反応を開始させる構成としても構わない。
【符号の説明】
【0073】
FDA…蛍光検出装置 S…基板 CH…チャンバー ST…基板ステージ SA…ステージ駆動部 DT…蛍光検出器 D1…第一検出器 D2…第二検出器 DA…検出器駆動部 PR…基質供給部 CONT…制御部 RM…検出室 W…ウェル WR…ウェル列 10…環境調整部 23、43…位置検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の反応によって光応答性物質を生成する被検体が配置されるウェルが複数形成された基板を保持する基板保持部と、
複数の前記ウェルのうちの所定領域内の複数の前記ウェルに配置された、複数の前記被検体により生成される、複数の前記光応答性物質からそれぞれ発生する光それぞれを検出する検出部を複数個と、
前記反応の開始後、前記検出部によって検出される複数の前記光応答性物質からの光のそれぞれを、異なるタイミングで、複数個の前記検出部に順次検出させる制御部と
を備える検出装置。
【請求項2】
複数の前記検出部は、所定方向に互いに所定距離離れて配置されており、
前記基板保持部と複数の前記検出部とを前記所定方向に相対移動させる駆動部を更に備える
請求項1に記載の検出装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記駆動部による前記相対移動の移動速度を調整可能である
請求項2に記載の検出装置。
【請求項4】
前記制御部は、複数の前記検出部の前記所定の距離を調整可能である
請求項2又は請求項3に記載の検出装置。
【請求項5】
前記基板保持部と複数の前記検出部との位置関係を検出する位置検出部を更に備え、
前記制御部は、前記位置検出部の検出結果に基づいて前記基板保持部及び複数の前記検出部のうち少なくとも一方を移動させる
請求項2から請求項4のうちいずれか一項に記載の検出装置。
【請求項6】
前記基板は、一方向に長手となるように形成されており、
前記基板保持部は、前記一方向が前記所定方向に平行になるように前記基板を保持する
請求項2から請求項5のうちいずれか一項に記載の検出装置。
【請求項7】
前記基板は、前記ウェルが前記基板の短手方向に複数並べられて形成されたウェル列を有し、
前記ウェル列は、前記基板の長手方向に複数並んで設けられている
請求項6に記載の検出装置。
【請求項8】
前記検出部は、前記ウェル列毎に、前記ウェル毎に配置された前記被検体から生成された前記光応答性物質から発生する光をそれぞれ略同時に検出可能なセンサを有する
請求項7に記載の検出装置。
【請求項9】
前記被検体と前記反応を起こす物質を前記ウェルに投入する反応開始部を備え、
前記制御部は、前記ウェル列毎に、前記物質をウェル毎に投入するように前記反応開始部を制御可能である
請求項7又は請求項8に記載の検出装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記反応が開始されてからの経過時間に応じて複数の前記検出部による検出のタイミングを調整可能である
請求項1から請求項9のうちいずれか一項に記載の検出装置。
【請求項11】
複数個の前記検出部を順次用いることによって前記異なるタイミングで取得した前記被検体ごとの検出結果に基づいて、複数の前記被検体の中から所望の条件を満たす前記被検体を特定する判断部を備える
請求項1から請求項10のうちいずれか一項に記載の検出装置。
【請求項12】
前記検出結果は、複数の前記検出部によって検出される前記光の光量及び当該光量の時間変化量のうち少なくとも一方を含む
請求項11に記載の検出装置。
【請求項13】
前記被検体は、機能性生体分子である
請求項1から請求項12のうちいずれか一項に記載の検出装置。
【請求項14】
前記機能性生体分子は酵素である
請求項13に記載の検出装置。
【請求項15】
前記基板保持部及び複数個の前記検出部は、密閉空間に配置され、
前記制御部は、前記密閉空間の環境条件を制御可能である
請求項1から請求項14のうちいずれか一項に記載の検出装置。
【請求項16】
請求項1から請求項15のいずれか一項に記載の検出装置を用いて選別し、抽出された被検査体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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