説明

検出装置

イオン移動度分光計は、その入口開口部(6)の外側に予備濃縮器(7)を有する。実質的にどのガスも反応領域(3)に入ることを許されていない第一段階の間に、被測定物蒸気が吸着される。次に、予備濃縮器(7)が働いて、被測定物分子を脱着させ、イオン移動度分光計ハウジング(1)の外側に、脱着分子の試料室を形成する。次に、圧力パルス発生器が瞬間的に働いて、ハウジング(1)内の圧力を低下させ、開口部(6)を通して脱着した試料室(9)から少量の被測定物分子を引き込む。装置が別の吸着段階に入った後で、脱着した試料室(9)の被測定物分子の濃度が、正確に分析できなくなるほど低くなるまで、この動作を繰り返す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定物のガス又は蒸気が進入できるための開口部を有する、被測定物のガス又は蒸気を検出又は分析するための検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン移動度分光計又はIMS装置は、火薬や薬物やびらん剤や神経ガス等の物質を検出するために、よく使用されている。一般的に、IMS装置は、被検物又は被測定物質を含んだ気体のサンプルが、ガス又は蒸気として連続的に供給される検出セルを有する。このセルは、大気圧近傍で動作し、セル全体に渡って電圧勾配を形成するために電圧を印加された電極を有する。大気のサンプル内の分子は、例えば放射能源、紫外光源、又はコロナ放電等によってイオン化され、一端の静電ゲートによって、セルのドリフト領域に入れられる。イオン化された分子は、イオンの移動度に応じた速度で、セルの反対端へドリフトして進む。セルに沿って飛行時間を測定することによって、イオンを識別することが可能である。従来のIMS装置においては、クリーンなドライガスが連続的に反応領域又はイオン化領域を通って流れている。この構成は、連続的なサンプリングと、短い回復時間を可能にしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
被測定サンプルがサンプルガス中に低濃度でしか存在しない場合に、比較的低い信号対雑音比しか得られず、信頼性のある検出が非常に困難であった。
【0004】
低濃度の被測定物を良好な信号雑音比で検出可能とする検出装置及び検出方法を提供することが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の1態様によれば、被測定物の試料室を検出装置の外側に設け、被測定ガス又は被測定蒸気が流入しない期間によって区切られた間に、その試料室からその試料室より小さな開口部を通して被測定物を検出装置に供給することを特徴とする上記特定した種類の検出装置が提供される。
【0006】
検出装置は、好ましくは被測定物の試料室を検出装置の外側に設けるための予備濃縮器を有する。この予備濃縮器は、ポリジメチルシロキサンを有する。検出装置は、好ましくは被測定物を分析装置に供給するための、装置内部と接続した脈圧発生器を有する。分析装置は、イオン移動度分光計であって、開口部は反応領域に向かって開いており、反応領域はドリフト領域に向かって開いている。
【0007】
本発明の別の態様によれば、試料室に被測定物を準備するステップと、用意した試料室の体積より少ない量の被測定物分子を反応領域に導入するステップと、導入された被測定物分子の存在を検出するステップとからなり、被測定物の導入が実質的に被測定物が導入されない時間によって分断されることを特徴とする被測定サンプルガス又は蒸気の検出方法が提供される。
【0008】
被測定物の試料室は、好ましくは吸着動作や脱着動作によって準備される。被測定物は、好ましくは実質的に何も反応領域に流れていない間に吸着され、続いて脱着されて、圧力が瞬間的に低下した時に、脱着した被測定物分子が反応領域に引き込まれる。圧力は低下を繰り返して、脱着した被測定物の分子の一部を複数回にわたって引き込んで、徐々に被測定物の試料室にある被測定物分子を消費していく。被測定サンプルガス又は蒸気は、予備濃縮器によって再び吸着され、そして、分析の信頼性が低下する程度に被測定物の濃度が低下した時に圧力低下が停止し、検出可能な程度の被測定物の量が放出されるための十分な時間が経過した後に、脱着と圧力低下が再開される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係るIMS装置を、図式的に示した概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の分析装置は、右手端に向かうドリフト領域又は分析領域2と、その反対側の左手端に向かう反応領域又はイオン化領域3とを備えた全体的に筒状のハウジング1を有するイオン移動度分光計(IMS)の形をとっている。
【0011】
入口導管4が一端5で開放されて、サンプリングや分析用の空気や他のソースガス又は蒸気を取り込む。他端では、導管4がポンプ17と接続されて、サンプルが導管を通って引き込まれるようになっている。毛細管通路又はピンホールによって設けられた開口部6
は、導管と反応領域3との間を連絡して、対象物分子が導管から反応領域へ通過できるようになっている。開口部は、薄膜等で設けることもできる。入口導管4は、予備濃縮器7又は他の手段を有して、後で述べる目的のために、被測定ガス又は蒸気の試料室を準備する。
【0012】
反応領域3は、被測定分子をイオン化するためのいくつかの手段、例えば高電圧コロナ放電ポイント10を有する。反応領域3とドリフト領域2は、共に大気圧か又は大気圧より僅かに低い。反応領域3とドリフト領域2は、例えばBradbury Nielsonゲート11のような、光学的、従来型の静電気シャッタによって互いに分離されており、それによってドリフト領域へのイオンの流れが制御されている。ドリフト領域2は、対向して対になって領域の長手方向に直列に並んだ電極12を有している。電圧源13は、各電極対12に電圧を加え、加えられた電圧はドリフト領域2の長さ方向に沿って右に行くほど大きくなり、ゲート11を通過したイオンはこの電圧勾配に従って、ドリフト領域の長さ方向に沿って引き込まれる。ドリフト領域2の右手端に設けられたコレクタプレート14は、ドリフト領域を通過してきたイオンを収集する。イオンがコレクタプレート14に衝突した際に、各イオンによって生み出された電荷は、電気信号としてプロセッサユニット15に供給される。プロセッサユニット15は、信号を解析して検出された異なるイオンの移動度のスペクトル表現を生成し、これをディスプレイ又は他の代替手段16に供給する。
【0013】
ガスフローシステム20は、イオンの流れに対抗して、ハウジング1の内側に沿って清浄なドライエアの流れを提供する。ガスフローシステムは、分子ふるいフィルタ22、23をその入口と出口とに備えたポンプ21を有する。入口側フィルタ22は、入口側パイプ24と接続しており、入口側パイプ24はハウジング1の左手、反応領域3の入口端に向かって開いている。出口側フィルタ23は、出口側パイプ25と接続しており、出口側パイプ25は、ハウジング1の右手、ドリフト領域2の下流に向かって開いている。ポンプ21は、ガスがハウジング1のドリフト領域2の右手端に戻る前に、第一フィルタ22とポンプ21と第二フィルタ23を通って流れるように、反応領域3からガスを引き出す。
【0014】
検出装置は、米国特許番号6073498に記載された方法でハウジング1に接続されたラウドスピーカーに似た脈圧発生器8も有する。脈圧発生器8は間欠的に瞬間的に動作して、サンプル蒸気又はガスを少量だけ反応領域3に引き込んで、図示したような脈圧パターンを生成する。
【0015】
予備濃縮器7には、対象となる被測定蒸気を吸着し、脱着するための若干量の材料が設けられている。利用可能な一般的な材料としては、ポリジメチルシロキサンがある。予備濃縮器7の回りに邪魔板を設けて、拡散によるサンプルの損失を低減することができる。
予備濃縮器7は、入口ピンホール6に近接して設けられる。
【0016】
作動中、吸着フェーズの間、ポンプ17によってサンプリングされる空気が導管4に流れ込み、導管4の入口と出口の間を連続して空気が流れるようになっている。この吸着フェーズの間、被測定蒸気が予備濃縮器7によって吸着され、実質的に検出器ハウジング1にはガスが流れ込まない。次に、検出装置は脱着フェーズに移行し、その間ポンプ17は停止して、導管4への流れは停止して、収集したサンプルが流されるのを防止する。次に予備濃縮器7は加熱されるか、他の方法によって、吸着した被測定蒸気を予備濃縮器とピンホール入口6との間の試料室9に放出する。同時に、ポンプ21が停止するか、又は流れが実質的に低減して、ハウジング1に沿ったガスの流れを防止するか又は低減する。次に、脈圧発生器8が動作して、ハウジング1内の圧力を低減するパルスを生成する。これによって、少量の蒸気がジェットとして試料室9からピンホール6を通って反応領域3へと引き出される。脈圧パルスによって引き出された各蒸気は、反応領域3でイオン化され、イオン移動度スペクトルがプロセッサ15によって生成される。脈圧発生器8によって生じる各蒸気量は、実質的に予備濃縮器7によって集められた試料室9内の蒸気の静的体積より小さい。従って、試料室9内の被測定物の濃度が生成されるスペクトルが信頼性の無いレベルになるまで低減するまでに、脈圧発生器8は多くの蒸気サンプルを採取できる。もし試料室9内の被測定物の濃度が、スペクトル測定ができない程度に低下した場合には、検出器は再び吸着フェーズに移行する。
【0017】
被測定蒸気を準備した試料室から、多数回にわたって少量のサンプルを採取することによって、多くのスペクトルサンプルを得ることができる。これによって、長期間にわたる平均化と、信号対雑音比の向上が可能になる。これは、被測定物が非常に低濃度でのみ存在している場合に、特に有益である。このサンプルの少量採取は、サンプルが高濃度に存在した場合に、過剰な被測定物によって検出器が過負荷状態になるのを回避することができ、装置のダイナミックレンジを拡張することができる。もし、最初に採取した蒸気の濃度が高いと検出された場合に、装置は、追加の採取を止めるように設定することができる。また、本発明の構成は、高濃度の蒸気が存在する場合に、十分なイオン化ができなくなるという問題を回避することができる。少量を採取することによって、高濃度の蒸気は、対象物の検出ができるレベルにまで希釈される。
【0018】
サンプルを反応領域に引き込む時には、ガスフローシステム20によって生み出されるハウジング1内のガスの流れは停止していることが望ましいが、しかし、サンプルを分析するのに必要な時間だけ反応領域に滞在させて、その後洗い流すようにガスフローを設定することもできるので、これは本質的なことではない。装置には、反応領域内に独立したガスフロー経路を設けることができるので、ハウジング全体にわたってガスフローを停止する必要がないことにも留意すべきである。このような構成において、この独立したガスフローのみを停止して、ドリフト領域に沿った残りのガスフローを維持し続けることができる。別の構成において、各採取が実施される時にガスフローを停止し、各採取の間にガスフローを再開して、被測定物を洗い流すようにすることができる。代替的に、反応領域を通るガスフローは、数回の離散的な採取の期間にわたって停止させることができる。
【0019】
サンプルの試料室を確立するための種々の方法が存在する。蒸気を吸着させたり脱着させる収着材を有する小さな部屋を設けるために、マイクロマシンプロセスを用いることができる。吸着させた材料を脱着させるために熱を用いる代わりに、放射線や圧力、振動等を、単独又は幾つかのプロセスを組み合わせて用いることができる。
【0020】
本発明は、低濃度の被測定物質を良好な信号雑音比で検出可能とするものである。本発明は、特にイオン移動度分光計において有益であるが、その他の検出器に対しても利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定ガス又は蒸気が流入するための開口部(6)を有する前記被測定ガス又は蒸気を検出するか又は分析する検出装置(1)であって、
前記開口部(6)の外側に被測定物のための試料室(9)が設けられ、
前記被測定ガス又は被測定蒸気が流入しない期間によって分断されながら、前記開口部(6)を通して、前記試料室(9)から前記試料室(9)より小さな体積量の前記被測定物が、前記検出装置(1)に供給される
ことを特徴とする検出装置。
【請求項2】
前記検出装置(1)が、前記開口部(6)の外側の前記試料室(9)に前記被測定物を準備するための予備濃縮器(7)を有していることを特徴とする請求項1に記載の検出装置。
【請求項3】
前記予備濃縮器(7)が、ポリジメチルシロキサンを有していることを特徴とする請求項2に記載の検出装置。
【請求項4】
前記検出装置(1)が、前記被測定物のサンプルを前記検出装置(1)に供給するために前記検出装置(1)の内部と接続された脈圧発生器(8)を有していることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の検出装置。
【請求項5】
前記検出装置(1)がイオン移動度分光計で構成され、
前記開口部(6)が反応領域(3)に向かって開放され、そして、
前記反応領域(3)がドリフト領域(2)に向かって開放されている
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の検出装置。
【請求項6】
試料室(9)に被測定物を準備する工程と、前記試料室(9)の体積より少ない量の被測定物分子を反応領域(3)に導入する工程と、導入された被測定物分子の存在を検出する工程と、を順次有する被測定サンプルガス又は蒸気の検出方法において、
前記被測定物の導入を、実質的に被測定物が導入されない時間によって分断させることを特徴とする被測定サンプルガス又は蒸気の検出方法。
【請求項7】
前記被測定物の吸着動作と脱着動作とにより、前記試料室(9)に前記被測定物を準備することを特徴とする請求項6に記載の検出方法。
【請求項8】
実質的に前記反応領域(3)への流れが停止している間に、前記被測定物を吸着させ、次に、前記被測定物を脱着させて、圧力を瞬間的に減圧することにより、脱着した被測定物分子を反応領域に引き込むことを特徴とする請求項7に記載の検出方法。
【請求項9】
圧力を繰り返し減圧させて、脱着した前記被測定物分子を少量ずつ複数回にわたって引き込むことにより、前記試料室(9)内の前記被測定物分子を使い果たすことを特徴とする請求項8に記載の検出方法。
【請求項10】
前記被測定物のサンプルガス又はサンプル蒸気を予備濃縮によって再び吸着させ、前記試料室(9)内の前記被測定物の濃度が信頼性のある分析ができなくなるほど低下した時に、圧力減少を停止させ、そして、
検出可能な量の前記被測定物が蓄積されるのに十分な時間の経過後において、前記被測定物の脱着と圧力減少を再開させることを特徴とする請求項9に記載の検出方法。

【図1】
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【公表番号】特表2010−513898(P2010−513898A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−542189(P2009−542189)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【国際出願番号】PCT/GB2007/004711
【国際公開番号】WO2008/074986
【国際公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(507235789)スミスズ ディテクション−ワトフォード リミテッド (25)
【Fターム(参考)】