検出装置
【課題】 流体試料を光学デバイス表面に効率的に吸着させ、あるいは検出後には効率的に脱離させることができる検出装置を提供すること。
【解決手段】 検出装置100は、光学デバイス20,170と、光学デバイスが配置される空間に導入される流体試料をイオン化するイオン化部80と、流体試料がイオン化により帯電した電荷とは逆極性の電荷を持つように光学デバイスを帯電させる帯電部90と、光学デバイスに光を照射する光源50と、光学デバイスに静電吸着された流体試料に含まれる特定物質からの光を検出する光検出部60と、を有する。帯電部90は、光検出部での検出期間の終了後に、流体試料がイオン化により帯電した電荷と同極性の電荷を持つように光学デバイスを帯電させることもできる。
【解決手段】 検出装置100は、光学デバイス20,170と、光学デバイスが配置される空間に導入される流体試料をイオン化するイオン化部80と、流体試料がイオン化により帯電した電荷とは逆極性の電荷を持つように光学デバイスを帯電させる帯電部90と、光学デバイスに光を照射する光源50と、光学デバイスに静電吸着された流体試料に含まれる特定物質からの光を検出する光検出部60と、を有する。帯電部90は、光検出部での検出期間の終了後に、流体試料がイオン化により帯電した電荷と同極性の電荷を持つように光学デバイスを帯電させることもできる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料流体中の特定物質を検出する検出装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療診断や農水産物・食品などの検査などに用いられるセンサーの需要が増大しており、小型で高速にセンシング可能なセンサー技術の開発が求められている。このような要求に応えるために、電気化学的な手法をはじめ様々なタイプのセンサーが検討されている。これらの中で、集積化が可能であり、低コスト、さらに測定環境を選ばないといった理由から、表面プラズモン共鳴(SPR:Surface Plasmon Resonance)を用いたセンサーに対する関心が高まっている。
【0003】
ここで、表面プラズモンとは、表面固有の境界条件により光とカップリングを起こす電子波の振動モードである。表面プラズモンを励起する方法としては、金属表面に回折格子を刻み、光とプラズモンを結合させる方法やエバネッセント波を利用する方法がある。例えば、SPRを利用したセンサーとしては、全反射型プリズムと、当該プリズムの表面に形成された標的物質に接触する金属膜と、を具備して構成されるものがある。このような構成により、抗原抗体反応における抗原の吸着の有無など、標的物質の吸着の有無を検出している。
【0004】
ところで、金属表面に伝搬型の表面プラズモンが存在する一方、金属微粒子には局在型の表面プラズモンが存在する。局在型の表面プラズモン、つまり、表面の微細構造上に局在する表面プラズモンが励起された際には、著しく増強された電場が誘起されることが知られている。
【0005】
更に、金属微粒子や金属ナノ構造を用いた局在表面プラズモン共鳴(LSPR:Localized Surface Plasmon Resonance)によって形成される増強電場にラマン散乱光が照射されると表面増強ラマン散乱(SERS:Surface Enhanced Raman Scattering)現象によってラマン散乱光が増強されることが知られており、高感度のセンサー(検出装置)が提案されている。この原理を用いることで、各種の微量な物質を検出することが可能になる。
【0006】
検出対象の例として、大気中に含まれる微量な物質を検出する、人間の呼気中に含まれる微量な物質を検出することでその物質と相関のある病気の危険度診断をする、などが色々な提案がなされている。具体的には、セキュリティ分野では空港・港湾・交通機関などで行われる、麻薬や爆発物の探知や、可燃性危険物の探知をする等の用途がある。医療・健康の分野では、インフルエンザに代表される感染病の原因である各種ウイルスを検出するもの、口腔ガスに含まれる硫化水素、メチルメルカプタン、ジメチルスルフィドを検出し歯周病かを判定するもの、呼気ガスに含まれる一酸化窒素(NO)を検出することで喘息の検査をするもの、呼気ガスに含まれる揮発性有機化合物(VOC)を検出することでがんのスクリーニング検査をするもの、呼気ガスに含まれるアセトンを検出することで脂肪燃焼モニターをするもの、呼気に含まれるイソプレンを検出することでコレステロールモニターをする等の用途がある。室内の空気に含まれる揮発性有機化合物(VOC)例えばベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、スチレン、ホルムアルデヒドなどを検査する等の用途もあり、様々な物質についての市場性が期待されている。
【0007】
生体関連の物質を検出する方法として、生体物質との親和性の高いアパタイトと金属微細構造を複合化する方法が特許文献1に示されている。毒性が高い気体または蒸発した有害物質または戦争薬剤を検出する検出器が特許文献2に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−186443号公報
【特許文献2】特開2010−509599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1では、貴金属ナノ粒子を分散させた状態でマトリックスのアパタイト粒子の表面に配置して複合化させた複合体であって、生体親和性を有し、貴金属ナノ粒子の分散状態を安定して保ち、検出物質を吸着して貴金属ナノ粒子周辺に保持する特性を有する貴金属ナノ粒子複合体を用いている。しかし、金属ナノ粒子間の距離及び金属ナノ粒子のレーザー光を照射した時に生じる増強電場の適切な範囲に標的分子をアパタイト粒子に吸着させることができるかは、複合体の製造方法によって決まってしまい、制約が生じる。
【0010】
特許文献2では、水素末端を有する基材に有害物質または戦争薬剤が吸着されると、基板表面の電気抵抗が変化し、それにより目的物質を検出している。基板表面の浄化にはオゾンガスが用いられている。しかし、浄化のためだけにオゾンガスを用意するとコストアップとなる。
【0011】
本発明の幾つかの態様は、流体試料を光学デバイスに効率的に吸着することができる検出装置を提供することを目的とする。
【0012】
本発明の他の幾つかの態様は、光学デバイスに吸着された流体試料を効率よく脱離させて清浄化することができる検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)本発明の一態様は、
光学デバイスと、
前記光学デバイスが配置される空間に導入される流体試料をイオン化するイオン化部と、
前記流体試料中の特定物質がイオン化により帯電した電荷とは逆極性の電荷を持つように前記光学デバイスを帯電させる帯電部と、
前記光学デバイスに光を照射する光源と、
前記光学デバイスに静電吸着された前記流体試料に含まれる特定物質からの光を検出する光検出部と、を有する検出装置に関する。
【0014】
本発明の一態様によれば、イオン化部によりイオン化された流体試料は、特定物質がイオン化により帯電した電荷とは逆極性の電荷を持つように帯電部により帯電された光学デバイスに、静電吸着される。よって、光学デバイスに光源から光を照射すると、光学デバイスに静電吸着された流体物質からの光が光学デバイスより出射され、このうち特定物質からの光を光検出部にて検出することで、流体試料中の特定物質を測定できる。
【0015】
(2)本発明の一態様では、
前記光学デバイスが配置されるチャンバーと、
前記チャンバー内に前記流体試料を吸引する吸引部と、
をさらに有し、
前記吸引部での吸引開始後に、前記イオン化部及び前記帯電部を駆動することができる。こうすると、流体試料が導入される前に存在した流体がイオン化されて光学デバイスを汚染することがない。
【0016】
(3)本発明の一態様では、前記イオン化部及び前記帯電部を、前記光源から光が照射されて前記光検出部が検出動作を実施する検出期間中は、駆動停止することができる。
【0017】
光学デバイス部は、一度帯電すると電荷を保持することができるので、帯電部の駆動を停止しても検出期間中に静電吸着力を保持することができる。よって、帯電部の駆動停止後は新たなイオン化動作は必ずしも必要がなく、イオン化部の駆動も停止することができる。さらに、帯電部が検出期間中も駆動され続けると、抵抗熱が大きくなって流体試料を脱離させる要因になるので、検出期間中は帯電部の駆動を停止するのが良い。
【0018】
(4)本発明の一態様では、前記吸引部は、前記イオン化部及び前記帯電部が駆動停止される前に駆動停止することができる。こうすると、流体試料の流速が低下するので、流体試料が光学デバイスに静電吸着される効率を高めることができる。
【0019】
(5)本発明の一態様では、
前記帯電部は、前記光検出部での検出期間の終了後に、前記流体試料がイオン化により帯電した電荷と同極性の電荷を持つように前記光学デバイスを帯電させることができる。こうすると、検査終了後も光学デバイスに吸着されている流体試料を、同一極性同士の反発により、光学デバイスから脱離させることができる。こうして、次回の検出に備えて、光学デバイスを清浄にすることができる。
【0020】
(6)本発明の他の態様は、
光学デバイスと、
前記光学デバイスが配置される空間に導入される流体試料をイオン化するイオン化部と、
前記光学デバイスに光を照射する光源と、
前記光学デバイスに吸着された前記流体試料に含まれる前記特定物質からの光を検出する光検出部と、
前記光検出部での検出期間の終了後に、前記流体試料がイオン化により帯電した電荷と同極性の電荷を持つように前記光学デバイスを帯電させる帯電部と、
を有する検出装置に関する。
【0021】
本発明の他の態様では、検査終了後も光学デバイスに吸着され、かつイオン化されて電荷を持つ流体試料を、その電荷と同一極性の電荷を持つように光学デバイスを帯電させることで、同一極性同士の反発により、光学デバイスから流体試料を脱離させることができる。
【0022】
(7)本発明の一態様及び他の態様では、前記光学デバイスは、前記特定物質のラマン散乱光を発生させ、前記光検出部は、前記特定物質のラマン散乱光を検出することができる。ラマン散乱光は検出対象の物質を反映した信号の一例であり、流体試料中にて検出対象の物質の有無を判定できる。
【0023】
(8)本発明の一態様及び他の態様では、前記光学デバイスは、1〜1000nmの凸部を有する金属ナノ構造を備えることができる。こうすると、金属ナノ構造の凸部の周囲に増強電場が形成され、増強電場で増強されるラマン散乱光の信号強度が強くなる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係る検出装置の概要を示す図である。
【図2】図1に示す検出装置で実施される第1〜第3モードのタイミングチャートである。
【図3】図1に示すイオン化部の一例を示すブロック図である。
【図4】図3に示す圧電トランスの共振特性を示す図である。
【図5】図5(A)はレイリー散乱光とラマン散乱光の発生を示す図であり、図5(B)はアセトアルデヒドのラマンスペクトルを示す図であり、図5(C)は金属ナノ粒子の近傍に生ずる増強電場を示す図である。
【図6】図6(A)は吸引部と光学デバイスの拡大断面図、図6(B)及び図6(C)は光学デバイスでの増強電場の形成を示す断面図及び平面図である。
【図7】図1の検出装置の全体概要を示すブロック図である。
【図8】図1に示す帯電部の一例を示す図である。
【図9】図7の検出装置の制御系ブロック図である。
【図10】図10(A)及び図10(B)は、ラマンスペクトルのピーク抽出を説明する図である。
【図11】図11(A)〜図11(E)は、図1に示す光学デバイスの製造方法を示す図である。
【図12】図11に示す光干渉露光を実施する装置の図である。
【図13】図11とは異なる方法で光学デバイスを製造する方法を示す図である。
【図14】表面増強赤外分光法に用いられる光学デバイスの概略説明図である。
【図15】図14の光学デバイスに入射する赤外線の特性図である。
【図16】図14の光学デバイスにて反射される赤外線の特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお以下に説明する本実施形態は特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0026】
1.検出装置の基本構成
図1は、本実施形態の検出装置の構成例を示す。図1において、検出装置100は、光学デバイス20と、光源50と、光検出部60と、イオン化部80と、帯電部90とを有することができる。イオン化部80は、光学デバイス20が配置される空間(例えばチャンバー10内の空間)に導入される流体試料をイオン化する。帯電部90は、流体試料がイオン化により帯電した電荷とは逆極性の電荷を持つように光学デバイス20を帯電させる。光源50は、光学デバイス20に光を照射する。光源50からの光は、所定波長帯域にスペクトル強度を有する光が好ましい。光検出部60は、光学デバイス20に静電吸着された特定物質を反映する光を検出する。
【0027】
本実施形態によれば、イオン化部80により流体試料がイオン化される。このイオン化により、流体試料は電荷を持つように帯電される。光学デバイス20は、特定物質がイオン化により帯電した電荷とは逆極性の電荷を持つように帯電部90により帯電される。よって、特定物質を含む流体試料は光学デバイス20に静電吸着される。ここで、光学デバイス20に光源50から光を照射すると、光学デバイス20に静電吸着された流体試料を反映する光が光学デバイス20より出射され、このうちの特定物質を反映する光が分光されて光検出部60にて検出される。こうして、検出装置100は流体試料中の特定物質を検出できる。
【0028】
帯電部90は、光検出部60での検出終了後に、流体試料がイオン化により帯電した電荷と同極性の電荷を持つように光学デバイス20を帯電させるようにすることができる。こうすると、検査終了後も光学デバイス20に吸着されている流体試料を、同一極性同士の反発により、光学デバイス20から脱離させることができる。こうして、次回の検出に備えて、光学デバイス20を清浄にすることができる。
【0029】
光学デバイス20に吸着された流体試料を脱離させるには外力を要し、例えばファン40での吸引力を高めて脱離させることができる。本実施形態では、光学デバイス20に流体試料を静電吸着させていることから、電荷同士の反発力を利用することで、ファン40の吸引力を高めずに脱離させることができる。
【0030】
なお、帯電部90は、光学デバイス20を正負の両極性に切り換えて帯電させることができることが好ましい。こうすると、検出前に流体試料を光学デバイス20に静電吸着できると共に、検出終了後には光学デバイス20から流体試料を同極電荷同士の反発によって脱離させることができる。これに限らず、帯電部20は、光学デバイス20を正負のいずれか一方にのみ帯電させることができるものであってもよい。この場合、イオン化された流体試料に対して、検出前の吸着及び検出後の脱離のいずれか一方を帯電部90によって促進することができる。
【0031】
光学デバイス20は、光源50からの光が照射されることで、吸着している流体試料を反映した光を出射するものである。本実施形態では、流体試料は例えば大気であり、検査対象の特定物質は大気中の特定気体分子(試料分子)とすることができるが、これに限定されない。
【0032】
光学デバイス20が配置されるチャンバー10は、排気側に吸引部例えばファン40を有することができる。吸引部40はチャンバー10内を負圧にして流体試料をチャンバー10内に吸引するものであれば、例えばポンプ等であっても良い。チャンバー10にはさらに、吸気バルブ12と排気バルブ13を有することができる。この場合、制御部70は、ファン40の駆動を制御し、さらにはバルブ12,13の駆動制御により、チャンバー10を開放/閉鎖の各状態に設定することができる。ただし、バルブ12,13は必ずしも設ける必要はない。
【0033】
また、光学デバイス20と、光源50及び/又は光検出部60との間に、光学系30を設けることができる。光源50は、例えば光学系30を構成する例えばハーフミラー320と対物レンズ330を介して、光学デバイス20に光を照射する。光検出部60は、光学デバイス20に吸着された流体試料が反映された光を、ハーフミラー320及び対物レンズ330を介して検出する。
【0034】
2.制御モード
制御部70は、制御モードとして、図2に示す第1,第2,第3モードを有する。第1モードは、チャンバー10内に吸引された流体試料を光学デバイス20に吸着させる吸着モードであり、第1工程とも称する。第2モードとは、第1モード後にチャンバー20を光源50から光学デバイス20に光を出射し、流体試料中の特定物質を反映した光を光検出部60にて検出する検出モードであり、第2工程とも称する。第3モードとは、光学デバイス20に吸着された流体試料を脱離して、チャンバー10から流体試料を排出する脱離モードであり、第3工程とも称する。制御部70は、例えば時間制御又は光検出部60からの信号に基づく制御により、図2に示す第1,第2,第3モードを切換え制御することができる。
【0035】
2.1.第1モード(吸着モード)
2.1.1.流体試料のイオン化
図2では、吸引部40、光源50、イオン化部80及び帯電部90の駆動タイミングと、各制御モードとの関係の一例が示されている。第1モード(吸着モード)では、予め制御部70によりバルブ12,13が開放制御されており、時刻toに吸引部(ファン)40が駆動制御される。それにより、チャンバー10内に流体試料が導入される。
【0036】
加えて、制御部70は時刻t1にイオン化部80を駆動制御して、流体試料をイオン化する。ここで、図3は、イオン化部80の一例であるマイナスイオン発生回路を示す。流体試料中の気体分子をイオン化する方法には、水破砕方式、コロナ放電方式、電子放射方式などがある。ここでは、比較的エネルギーが小さくオゾンや窒素酸化物の発生が少ない電子放射方式を採用して説明を進めるが、イオン化の方法を電子放射方式に限定するものではない。
【0037】
電子放射方式でのイオン化原理を説明すると、針状に尖らせたマイナス電極84にパルス性の高電圧を印加して、空気中に直接電子を放出させる。放出された電子が周りの酸素或いは水分と結合して、マイナスイオンを形成することができる。これがイオン化の原理である。
【0038】
O2→O2++e−の反応で発生した電子e−は付近の酸素と結合し、e−+O2→O2−酸素のマイナスイオンとなる。さらにこれらの酸素のマイナスイオンが水分と結合してO2−(H2O)n等のマイナスイオンクラスタを構成する。一方で、プラス電荷を持ったO2+は、針状電極84で電荷を供給され、この電荷は回路コモンを介して大地にリターンされる。
【0039】
図3に示すように、圧電トランス83を用いると比較的小型で高電圧を発生することができる。例えば可変抵抗器81Aにより発振周波数が可変である発振回路81と、圧電トランス83を駆動するドライバー回路82とによって、圧電トランス83の共振周波数にマッチした周波数で圧電トランス83を駆動する。それにより、圧電トランス83は高電圧のパスル電圧を発生することができる。マイナスのみを使用するので、ダイオード85で整流している。こうすると、マイナスの高電圧パルスによって電子が空気中に放射され、その電子によって周囲の酸素分子などがマイナスイオン化される。
【0040】
圧電トランス83を利用することで、−1kV〜−6kV位の高電圧を発生させることができ、マイナスイオンの発生量は数千個〜数100万個/mL(無風)にも達する。
【0041】
図4には、圧電トランス83の共振特性の例を示してある。圧電トランス83の圧電体の共振周波数fr近傍の周波数で駆動すると、大きな電圧利得が得られ効率が良い。
【0042】
本実施態様では、上述したイオン化原理により、チャンバー10内に吸引される特定物質を含む流体試料をマイナスイオン化している。
【0043】
2.1.2.流体試料の吸着
制御部70は時刻t2に帯電部90を駆動制御して、流体試料がイオン化により帯電したマイナス電荷とは逆極性のプラス電荷を持つように光学デバイス20を帯電させる。そうすると、マイナスの電荷を持つ流体試料中の試料分子はプラス電荷を持つ光デバイス20にクーロン力により引き寄せられて静電吸着される。
【0044】
ここで、一般に試料分子の「吸着」という現象は、試料分子が光学デバイス20に衝突する衝突分子の数(分圧)が支配的である現象であり、物理吸着及び化学吸着の一方又は双方を含む。吸着エネルギーは試料分子の運動エネルギーに依存し、ある値を乗り越えると衝突して「吸着」現象を呈し、吸着には外力は不要である。
【0045】
本実施形態では、上述した「吸着」現象に加えて、試料分子と光学デバイス20との間に外力としてクーロン力を作用させることで、試料分子をより効率よく光学デバイス20に静電吸着させることができる。こうして、外力を作用させない吸着モードと比較して、光学デバイス20に流体試料を吸着させるまでに要する時間を短縮し、もって検出時間を短縮することができる。
【0046】
なお、本実施形態では、吸引部40にて吸引が開始される時刻t0より後の時刻t1,t2に、イオン化部80及び帯電部90を順次駆動開始することができる。こうすると、流体試料がチャンバー10に導入される前に存在した流体がイオン化されて、光学デバイス20を汚染することがない。ただし、時刻t0,t1,t2は同時刻であっても良い。
【0047】
本実施形態では、イオン化済みの流体試料を光学デバイス20に静電吸着させることから、イオン化部80を時刻t1に駆動して先ずイオン化し、帯電部90を時刻t1後の時刻t2に駆動開始して静電吸着させている。ただし、時刻t1,t2は同時刻であってもよい。
【0048】
また、図2によれば、イオン化部80及び帯電部90の駆動が停止される第1モードの終了時刻t4より前の時刻t3にて、吸引部40の駆動を停止している。こうすると、チャンバー10内の流体試料の流速が低下するので、光学デバイス20へ流体試料を静電吸着する効率を増加させることができる。吸引部40の駆動停止後にバルブ12,13を閉鎖させてチャンバー10を閉鎖空間とすると、吸着効率はさらに高まる。
【0049】
また、図2によれば、イオン化部80及び帯電部90は、吸引部40が流体試料の吸引を停止した後も駆動される期間(t3−t4)を有することができる。この期間(t3−t4)では、流体試料の流速が低下するので、流体試料が光学デバイス20に静電吸着される効率を高めることができる。より好ましくは、期間(t3−t4)で吸気バルブ12及び排気バルブ13を閉じてチャンバー10を閉鎖空間とすると、チャンバー10に閉じ込められた流体試料が光学デバイス20に静電吸着され、吸着効率をさらに高めることができる。
【0050】
2.2.第2モード(検出モード)
検出モードでは、図2の時刻t5にて光源50から例えば所定波長にスペクトルピークを有する光が出射され、光学デバイス20に入射される。そうすると、光学デバイス20に吸着された流体試料に固有の波長の散乱光が発生する。光検出部60は、各種の試料分子を含む流体試料の中から、特定物質の散乱光のみを分光して受光する。それにより、光検出部60は特定物質を検出することができる。
【0051】
その際、本実施形態では、外力を要しない「吸着」現象に加えて、試料分子と光学デバイス20との間に外力としてクーロン力を作用させて吸着効率を高めているので、吸着量に比例して特定物質の検出信号強度を高めることができる。
【0052】
制御部70は、例えば光検出部60から信号を受信することで、検出動作の停止時期を判断することができ、時刻t6にて光源50の駆動を停止して、検出期間を終了することができる。制御部70は、これに限らず計時によって終了時刻t6を決定することができる。
【0053】
ここで、本実施形態では、図2に示すように、イオン化部80及び帯電部90を、光源50から光が照射されて光検出部60が検出動作を実施する検出期間中は、駆動停止している。図2では検出動作を開始する時刻t5の前の時刻t4に駆動停止しているが、t4=t5としても良い。光学デバイス20は、一度帯電すると電荷を保持することができるので、帯電部90の駆動を停止しても検出期間中に静電吸着力を保持することができる。よって、帯電部90の駆駆動停止後は新たなイオン化動作は必ずしも必要がなく、イオン化部80の駆動を停止しても良い。他の理由として、帯電部が検出期間中も駆動され続けると、抵抗熱が大きくなって流体試料を脱離させる要因になるので、検出期間中は帯電部90の駆動を停止するのが良い。ただし、検出期間にイオン化部80及び帯電部90を駆動停止するものに限定されない。
【0054】
2.3.第3モード(脱離モード)
特定物質(標的物質)の検出を終了すると、1)流体試料が自然に拡散し排出される、2)積極極的に排出を促す、3)次の検出に備えて使用済みの光学デバイス20等を交換する、という3つ方法がある。本実施形態では流体試料を積極的に排出して光学デバイス20を繰り返し使用するため、光学デバイス20に吸着された流体試料を外力により脱離させている。
【0055】
そのために、図2に示すように、検出期間が終了した時刻t6の後の時刻t7(t7=t6でも可)に、吸引部40を駆動してチャンバー10内を吸引すると共に、帯電部90を再駆動する。帯電部90は、流体試料がイオン化により帯電したマイナス電荷と同じマイナス電荷を持つように光学デバイス20を帯電させるようにする。こうすると、検査終了後も光学デバイス20に吸着されている流体試料を、同一極性同士の反発により、光学デバイス20から脱離させることができる。こうして、次回の検出に備えて、光学デバイス20を清浄にすることができる。
【0056】
この脱離モードでは、図2に示すように光源50から光を出射させることもできる。こうすると、脱離モード中に亘って光検出部60は光学デバイス20から特定物質に固有の散乱光を受光できる。制御部70は、光検出部60の出力をモニターする。特定物質に固有の散乱光の信号レベルを閾値と比較することで、脱離モードの終了時刻t8を制御部70は取得することができる。ただし、脱離モードでは光源50及び帯電部90を駆動停止しても良い。その際、制御部70は時間管理によって脱離モードの終了時刻t8を設定できる。
【0057】
この脱離モードは、検出モードの後だけでなく、吸着モードの前に実施しても良い。例えば繰り返し検出を行う場合には、脱離モード、吸着モード及び検出モードを一サイクルとして、複数サイクルを繰り返し実施することができる。これにより、リアルタイム検出が可能となる。
【0058】
3.光検出の原理と構造の一例
図5(A)〜図5(C)及び図6(A)〜図6(C)を用いて、流体試料を反映した光検出原理の一例としてラマン散乱光の検出原理の説明図を示す。図5(A)及び図6(A)に示すように、光学デバイス20に吸着される検出対象の試料分子1に入射光(振動数ν)が照射される。一般に、入射光の多くは、レイリー散乱光として散乱され、レイリー散乱光の振動数ν又は波長は入射光に対して変化しない。入射光の一部は、ラマン散乱光として散乱され、ラマン散乱光の振動数(ν−ν’及びν+ν’)又は波長は、試料分子1の振動数ν’(分子振動)が反映される。つまり、ラマン散乱光は、検査対象の試料分子1を反映した光である。入射光の一部は、試料分子1を振動させてエネルギーを失うが、試料分子1の振動エネルギーがラマン散乱光の振動エネルギー又は光エネルギーに付加されることもある。このような振動数のシフト(ν’)をラマンシフトと呼ぶ。
【0059】
図5(B)に、標的分子に固有の指紋スペクトルとして、アセトアルデヒドの例を示す。この指紋スプクトルによって、検出した物質がアセトアルデヒドと特定することが可能である。しかしながら、ラマン散乱光は非常に微弱であり、微量にしか存在しない物質を検出することは困難であった。
【0060】
図6(B)は、図1の光学デバイス20の拡大図である。図6(A)に示すように入射光が対向基板202の平坦面から入射される場合、対向基板202は入射光に対して透明な材料が用いられる。光学デバイス20は、基板200上に導体膜201を有する。導体膜201は帯電部90に接続されている。光学デバイス20は、第1構造として、例えば誘電体から成る複数の凸部210を有する。
【0061】
複数の凸部210上の第2構造として、複数の凸部210には、例えばAuまたはAg等の金属ナノ粒子(金属微粒子)220が例えば蒸着、スパッタ等により形成され、その際に導体膜201を同時に形成することができる。結果として、光学デバイス20は、1〜1000nmの凸部を有する金属ナノ構造250を有することができる。1〜1000nmの凸部を有する金属ナノ構造250とは、基板200の上面を当該サイズの凸部構造(基板材で)を持つように加工する他に、導体膜201上に当該サイズの金属微粒子を蒸着・スパッタ等で固着させて形成できる。
【0062】
図6(B)及び図6(C)に示すように、二次元パターン状の金属ナノ粒子220に入射光が入射された領域240では、隣り合う金属ナノ粒子220間のギャップGに、増強電場230が形成される。特に、図5(C)に示すように、入射光の波長よりも小さな金属ナノ粒子220に対して入射光を照射する場合、入射光の電場は、金属ナノ粒子220の表面に存在する自由電子に作用し、共鳴を引き起こす。これにより、自由電子による電気双極子が金属ナノ粒子220内に励起され、入射光の電場よりも強い増強電場230が形成される。これは、局在表面プラズモン共鳴(LSPR:Localized Surface Plasmon Resonance)とも呼ばれる。この現象は、入射光の波長よりも小さな1〜1000nmの凸部を有する金属ナノ粒子220等の電気伝導体に特有の現象である。
【0063】
図6(A)〜図6(C)では、光学デバイス20に入射光を照射した時に表面増強ラマン散乱(SERS: Surface Enhanced Raman Scattering)が生ずる。つまり、増強電場230に試料分子1が入り込むと、その試料分子1によるラマン散乱光は増強電場230で増強されて、ラマン散乱光の信号強度は、強くなる。このような表面増強ラマン散乱では、試料分子1が微量であっても、検出感度を高めることができる。
【0064】
4.検出装置の具体的な構成
図7は、本実施形態の検出装置の具体的な構成例を示す。図7に示される検出装置100も、図1に示すチャンバー10、光学デバイス20と、光学系30と、吸引部40と、光源50と、光検出部60と、制御部70を含む処理部71と、イオン化部80と、帯電部90(図7では省略)とを有している。
【0065】
例えば単一波長で直線偏光の光源50は、例えばレーザー光源であり、小型化の観点から好ましくは垂直共振型面発光レーザーを用いることができるが、これに限定されない。
【0066】
光源50からの光は、光学系30を構成するコリメーターレンズ310により平行光にされる。コリメーターレンズ310の下流に偏光制御素子を設け、直線偏光に変換しても良い。ただし、光源50として上述のように面発光レーザーを採用し、直線偏光を有する光を発光可能であれば、偏光制御素子を省略することができる。
【0067】
コリメーターレンズ310により平行光された光は、ハーフミラー(ダイクロイックミラー)320により光学デバイス20の方向に導かれ、対物レンズ330で集光され、光学デバイス20に入射する。光学デバイス20には、図6(B)及び図6(C)に示す金属ナノ粒子220が形成される。光学デバイス20から例えば表面増強ラマン散乱によるレイリー散乱光及びラマン散乱光が放射される。光学デバイス20からのレイリー散乱光及びラマン散乱光は、対物レンズ330を通過し、ハーフミラー320によって光検出部60の方向に導かれる。
【0068】
光学デバイス20からのレイリー散乱光及びラマン散乱光は、集光レンズ340で集光されて、光検出部60に入力される。光検出部60では先ず、光フィルター610に到達する。光フィルター610(例えばノッチフィルター)によりラマン散乱光が取り出される。このラマン散乱光は、さらに分光器620を介して受光素子630にて受光される。分光器620は、例えばファブリペロー共振を利用したエタロン等で形成されて通過波長帯域を可変とすることができる。分光器620を通過する光の波長は、制御部70により制御(選択)することができる。受光素子630によって、試料分子1に特有のラマンスペクトルが得られ、得られたラマンスペクトルと予め保持するデータと照合することで、試料分子1を特定することができる。
【0069】
チャンバー10は、吸引口14Aと接続される吸引流路14Bと、排出口15Aと接続される排出流路15Bとを有する。試料分子1を含む流体試料は、吸引口14A(搬入口)からチャンバー10の内部に導入され、排出口15Aからチャンバー10の外部に排出される。吸引口14A側に除塵フィルター14Cを設けることができる。図7では、検出装置100は、ファン40を排出口15A付近に有し、ファン40を作動させると、チャンバー10内の圧力(気圧)が低下する。これにより、試料分子1と共に流体試料がチャンバー10に吸引される。流体試料は、吸引流路14Bを通り、光学デバイス20付近の流路を経由して排出流路15Bから排出される。このとき、試料分子1の一部が光学デバイス20の表面(電気伝導体)に吸着する。
【0070】
図7において、流体試料を吸引及び排出する吸引経路14B及び排気経路15Bの形状については、外部からの光が光学デバイス20に入らないように、かつ、流体試料に対する流体抵抗が小さくなるようになっている。外部からの光が光学デバイス20に入らないようにすることで、ラマン散乱光以外の雑音となる光が入らず、信号のS/N比が向上する。吸引経路14B及び排気経路15Bの流路形状と共に、流路を形成する材料も、光を反射し難いような材料、色、表面形状を選択することが必要となる。また、吸引経路14B及び排気経路15Bは、流体試料に対する流体抵抗が小さくなるようにすることで、この装置の近傍の流体試料が多く収集でき、高感度な検出が可能になる。吸引経路14B及び排気経路15Bの形状は、できるだけ角部をなくし滑らかな形状にすることで、角部での滞留がなくなる。
【0071】
検査対象物質である試料分子1は、例えば麻薬やアルコールや残留農薬等の希薄な分子や、ウイルス等の病原体等を想定することができ、特に本実施形態はこれらの試料分子1をリアルタイムで検出するのに適している。
【0072】
図8は、図1に示す帯電部90の一例を示している。帯電部90は、電源91と、制御部70により制御される3ステートスイッチ92とを有し、光学デバイス20の導体膜210Aを、プラス電荷またはマイナス電荷を持つように帯電し、さらにはフローティング状態に設定する。図8に示す状態では、光学デバイス20はプラス電荷を持つように帯電される。スイッチ92の可動端子を、図8に示す導体膜201に接続された別の固定端子に接続すると、光学デバイス20はマイナス電荷を持つように帯電される。スイッチ92の可動端子を固定端子に対して非接触とすると、光学デバイス20はフローティング状態となり、この状態が帯電部90の動作停止状態である。
【0073】
図9は、図7の検出装置100の制御系ブロック図である。図9に示されるように、検出装置100は、例えばインターフェイス120、表示部130及び操作部140等をさらに含むことができる。また、処理部71は、図9に示すように制御部としての例えばCPU(Central Processing Unit)70、RAM(Random Access Memory)72、ROM(Read Only Memory)73等を有することができる。さらに、検出装置100では、光源ドライバー52、分光ドライバー622、受光回路632、ファンドライバー42、イオン化部80、帯電部90及び電力供給部150等を処理部71に接続している。処理部71は、図7に示される各部へ命令を送ることができる。さらに、処理部71は、ラマンスペクトルによる分光分析を実行することができ、処理部71は、標的物である試料分子1を特定することができる。なお、処理部71は、ラマン散乱光による検出結果、ラマンスペクトルによる分光分析結果等をインターフェイス120及び端子121を介して接続される外部機器(図示せず)に送信することができる。
【0074】
電力供給部150として、一次電池、二次電池などが利用できる。一次電池の場合には、CPU70がROM73に格納されている規定の電圧以下になったことを判断して、電池交換を表示部130に表示をする。二次電池の場合には、規定の電圧以下であれば、CPU70は表示部130に充電の表示をする。操作者は、その表示を見て、端子151に充電器を接続して、規定の電圧になるまで充電をすることで繰返し使用することができる。
【0075】
図10(A)及び図10(B)は、ラマンスペクトルのピーク抽出の概要説明図を示す。図10(A)は、ある物質に励起レーザーを照射した時に検出されるラマンスペクトルを示し、ラマンシフトを波数で表している。図10(A)の例では、第1のピーク(883cm−1)と第2のピーク(1453cm−1)が特徴的と考えられる。得られたラマンスペクトルと予め保持するデータ(第1のピークのラマンシフト及び光強度、第2のピークのラマンシフト及び光強度等)と照合することで、流体試料中の検出対象物質を特定することができる。
【0076】
図10(B)は、分光素子620で受光素子630が第2のピークの周辺のスペクトルを検出した時の信号強度(白丸)を示す。分光素子620が10cm−1程度で解像度が細かい場合には、第2のピークのラマンシフト(黒丸)を正確に特定し易くなる。
【0077】
5.光学デバイスの製造方法
図11(A)〜図11(E)に、光学デバイス20製造方法の一例を示す。基板200が石英基板である例を示すが、他の材質の基板200でも同様に上述した第1構造を形成することが可能であり、石英に限定されるものではない。図11(A)に示すように、清浄な石英基板200に対して、レジスト200Aをスピンコートなどの装置で塗布し乾燥させる。
【0078】
図11(B)に示すようにレジスト200Aに所望のパターン200Bを形成するために、レーザー干渉露光する。本実施形態では、金属ナノ構造250の寸法は、照射する光の波長(ここでは可視光から近赤外光の領域)より小さい寸法であるから、露光装置としては、電子ビーム露光法や紫外レーザーを使った光干渉露光法などが使用することができる。電子ビーム露光法は、露光の自由度が高い反面、量産性には限界がある。そこで、量産性に優れている紫外レーザーを使った光干渉露光法を採用した。例えば、干渉露光の光源として連続発振のYVO4レーザー(波長266nm、最大出力200mW)を用いることができる。ポジ型レジストを使用し、レジスト膜厚は1μmとした。レジストの露光パターンは、一方のパターンを格子状とし、他方のパターンも格子状として、両者の交差する角度によって色々なパターンが形成することができ、レーザーの波長の半分の大きさまで小さくすることが可能である。両者の干渉縞の潜像をレジスト中に形成し、レジストを現像して図11(B)に示す所望のパターン200Bを形成する。
【0079】
その後、図11(C)に示すように、レジストパターン200Bで保護されていない部分をエッチングして、基板200に凹部を設ける。さらに、図11(D)に示すように、基板上に残ったレジストパターンを除去する。それにより、基板200上に凸部210が残る。
【0080】
第1構造である凸部210を形成した後、スパッタ装置や蒸着装置などで金属膜(導体膜)201を形成する。最初は全体に薄く金属膜201が形成されるが、段々と凹凸の凸付近に多く金属が付着するようになり、結果として図11(E)に示す金属ナノ粒子220の形状になる。金属ナノ粒子220のギャップGは、金属膜201の膜厚によって制御することができる。このギャップGの大小が金属ナノ粒子220を保持する構造となっているので、重要なパラメータである。この金属としては、例えば金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、Pd(パラジウム)、Pt(白金)、Rh(ロジウム)、Ru(ルテニウム)、Ta(タンタル)、Ti(チタン)、W(タングステン)、Mo(モリブデン)もしくはこれらの合金或いは複合体が用いられる。
【0081】
図12には、紫外レーザーを利用した光干渉露光法の概略構成図が示してある。光源160としては、連続発振(CW)できる波長266nm、出力200mWの紫外レーザーを用いた。レーザー光源160から出たレーザー光は、シャッター161を経由してミラー162で折り返し、ハーフミラー163で両側に分岐する。夫々についてミラー164A,164Bで折り返し、対物レンズ165A,165Bとピンホール166A,166Bを経由させ、ビームを広げる。広がった紫外レーザーをマスク167A,167Bに照射させ干渉縞を作り、レジストを塗布した基板200に照射させる。この時、干渉縞の露光構成によって色々なパターンの露光が可能になる。このパターンは、CCDカメラ169で撮像することで、モニター169Aにてモニタリングすることができる。
【0082】
図13(A)〜図13(C)には、図12で説明した光干渉露光法とは別の製造方法を示す。図13(A)に示す先ず清浄な表面の石英や硼珪酸ガラスなどの基板200に、蒸着法やスパッタリング法で、図13(B)に示す金属の薄い導体膜201を形成する。この導体膜201は帯電部90に接続され、金属ナノ構造250にバイアス電圧を与えるためのものであり、Au(金)、Ag(銀)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)などが選ばれる。導体膜201は、できるだけ均一で平坦な膜が望ましい。次に蒸着機で金属アイランド221を形成する。金属アイランド221を形成するには、基板200上の導体膜201に到達した金属原子が表面拡散をして落ち着いていくので、あまり表面拡散長が大きいとアイランドにはならず、アイランド同士が繋がった膜状になってしまう。表面拡散長は、基板200の温度と、基板200と蒸着する金属の濡れ性に影響を受ける。基板200の温度が低いほど表面拡散長は小さくなる。具体的には、Ag圧力はおよそ10−3(Pa)、成膜レートは約0.02nm/秒、基板200は加熱なしの条件で形成したアイランド構造の例を、図13(D)に電子顕微鏡の写真として示す。1つのアイランドはおよそ10〜50nmくらいの大きさで、ランダムに形成されている。これらの金属アイランド221にレーザー光を照射すると、光の波長よりアイランド221の大きさが小さいため、光の電場によって自由電子が共鳴した状態になり強い双極子モーメントを持ち、結果として強い増強電場が形成されることになる。金属アイランド221を形成する金属の種類は、Au(金)、Ag(銀)、Al(アルミニウム)、Cu(銅)、Pd(パラジウム)、Pt(白金)、Rh(ロジウム)、Ru(ルテニウム)、Ta(タンタル)、Ti(チタン)、W(タングステン)、Mo(モリブデン)のいずれか、或いは複合的構成でも良く、標的分子に応じて選択することができる。
【0083】
6.その他の変形例
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できる。
【0084】
本発明は、SERS強度を検出するものに限らない。例えば、表面増強赤外分光法(SEIRAS:Surface Enhanced Infrared Absorption Spectroscopy)を用いることがで
きる。この場合、光学デバイス20を図14に示す光学デバイス170に置き換える。この光学デバイス170は、例えば直角プリズム171の底面に金属薄膜172を形成したものである。直角プリズム171は、例えばCaF2等の赤外線を通過させる材料で形成される。金属薄膜172の材料はAg,Cu等の金属薄膜であれば良い。
【0085】
図15に示す特性を有するP偏光の赤外線IR1を、例えば第1反射ミラー180にて反射させて、光学デバイス170に対して金属薄膜172の法線Lに対して角度θで入射させる。入射赤外線IR1を金属薄膜172で全反射させて得られる反射赤外線IR2には、その界面から試料側に少しもぐり込んだ位置で反射されるエバネッセント波が存在し、それにより試料分子や標準分子のスペクトルを計測できる。この反射赤外線IR2の特性を図16に示す。反射赤外線IR2は、第2反射ミラー181で反射されて、図1等に示す光検出部60に入射される。
【符号の説明】
【0086】
10 チャンバー、12,13 バルブ、20,170 光学デバイス、30 光学系、40 吸引部(ファン)、50 光源、60 光検出部、70 制御部、80 イオン化部(マイナスイオン発生回路)、84 針状電極、90 帯電部、100 検出装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料流体中の特定物質を検出する検出装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療診断や農水産物・食品などの検査などに用いられるセンサーの需要が増大しており、小型で高速にセンシング可能なセンサー技術の開発が求められている。このような要求に応えるために、電気化学的な手法をはじめ様々なタイプのセンサーが検討されている。これらの中で、集積化が可能であり、低コスト、さらに測定環境を選ばないといった理由から、表面プラズモン共鳴(SPR:Surface Plasmon Resonance)を用いたセンサーに対する関心が高まっている。
【0003】
ここで、表面プラズモンとは、表面固有の境界条件により光とカップリングを起こす電子波の振動モードである。表面プラズモンを励起する方法としては、金属表面に回折格子を刻み、光とプラズモンを結合させる方法やエバネッセント波を利用する方法がある。例えば、SPRを利用したセンサーとしては、全反射型プリズムと、当該プリズムの表面に形成された標的物質に接触する金属膜と、を具備して構成されるものがある。このような構成により、抗原抗体反応における抗原の吸着の有無など、標的物質の吸着の有無を検出している。
【0004】
ところで、金属表面に伝搬型の表面プラズモンが存在する一方、金属微粒子には局在型の表面プラズモンが存在する。局在型の表面プラズモン、つまり、表面の微細構造上に局在する表面プラズモンが励起された際には、著しく増強された電場が誘起されることが知られている。
【0005】
更に、金属微粒子や金属ナノ構造を用いた局在表面プラズモン共鳴(LSPR:Localized Surface Plasmon Resonance)によって形成される増強電場にラマン散乱光が照射されると表面増強ラマン散乱(SERS:Surface Enhanced Raman Scattering)現象によってラマン散乱光が増強されることが知られており、高感度のセンサー(検出装置)が提案されている。この原理を用いることで、各種の微量な物質を検出することが可能になる。
【0006】
検出対象の例として、大気中に含まれる微量な物質を検出する、人間の呼気中に含まれる微量な物質を検出することでその物質と相関のある病気の危険度診断をする、などが色々な提案がなされている。具体的には、セキュリティ分野では空港・港湾・交通機関などで行われる、麻薬や爆発物の探知や、可燃性危険物の探知をする等の用途がある。医療・健康の分野では、インフルエンザに代表される感染病の原因である各種ウイルスを検出するもの、口腔ガスに含まれる硫化水素、メチルメルカプタン、ジメチルスルフィドを検出し歯周病かを判定するもの、呼気ガスに含まれる一酸化窒素(NO)を検出することで喘息の検査をするもの、呼気ガスに含まれる揮発性有機化合物(VOC)を検出することでがんのスクリーニング検査をするもの、呼気ガスに含まれるアセトンを検出することで脂肪燃焼モニターをするもの、呼気に含まれるイソプレンを検出することでコレステロールモニターをする等の用途がある。室内の空気に含まれる揮発性有機化合物(VOC)例えばベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、スチレン、ホルムアルデヒドなどを検査する等の用途もあり、様々な物質についての市場性が期待されている。
【0007】
生体関連の物質を検出する方法として、生体物質との親和性の高いアパタイトと金属微細構造を複合化する方法が特許文献1に示されている。毒性が高い気体または蒸発した有害物質または戦争薬剤を検出する検出器が特許文献2に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−186443号公報
【特許文献2】特開2010−509599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1では、貴金属ナノ粒子を分散させた状態でマトリックスのアパタイト粒子の表面に配置して複合化させた複合体であって、生体親和性を有し、貴金属ナノ粒子の分散状態を安定して保ち、検出物質を吸着して貴金属ナノ粒子周辺に保持する特性を有する貴金属ナノ粒子複合体を用いている。しかし、金属ナノ粒子間の距離及び金属ナノ粒子のレーザー光を照射した時に生じる増強電場の適切な範囲に標的分子をアパタイト粒子に吸着させることができるかは、複合体の製造方法によって決まってしまい、制約が生じる。
【0010】
特許文献2では、水素末端を有する基材に有害物質または戦争薬剤が吸着されると、基板表面の電気抵抗が変化し、それにより目的物質を検出している。基板表面の浄化にはオゾンガスが用いられている。しかし、浄化のためだけにオゾンガスを用意するとコストアップとなる。
【0011】
本発明の幾つかの態様は、流体試料を光学デバイスに効率的に吸着することができる検出装置を提供することを目的とする。
【0012】
本発明の他の幾つかの態様は、光学デバイスに吸着された流体試料を効率よく脱離させて清浄化することができる検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)本発明の一態様は、
光学デバイスと、
前記光学デバイスが配置される空間に導入される流体試料をイオン化するイオン化部と、
前記流体試料中の特定物質がイオン化により帯電した電荷とは逆極性の電荷を持つように前記光学デバイスを帯電させる帯電部と、
前記光学デバイスに光を照射する光源と、
前記光学デバイスに静電吸着された前記流体試料に含まれる特定物質からの光を検出する光検出部と、を有する検出装置に関する。
【0014】
本発明の一態様によれば、イオン化部によりイオン化された流体試料は、特定物質がイオン化により帯電した電荷とは逆極性の電荷を持つように帯電部により帯電された光学デバイスに、静電吸着される。よって、光学デバイスに光源から光を照射すると、光学デバイスに静電吸着された流体物質からの光が光学デバイスより出射され、このうち特定物質からの光を光検出部にて検出することで、流体試料中の特定物質を測定できる。
【0015】
(2)本発明の一態様では、
前記光学デバイスが配置されるチャンバーと、
前記チャンバー内に前記流体試料を吸引する吸引部と、
をさらに有し、
前記吸引部での吸引開始後に、前記イオン化部及び前記帯電部を駆動することができる。こうすると、流体試料が導入される前に存在した流体がイオン化されて光学デバイスを汚染することがない。
【0016】
(3)本発明の一態様では、前記イオン化部及び前記帯電部を、前記光源から光が照射されて前記光検出部が検出動作を実施する検出期間中は、駆動停止することができる。
【0017】
光学デバイス部は、一度帯電すると電荷を保持することができるので、帯電部の駆動を停止しても検出期間中に静電吸着力を保持することができる。よって、帯電部の駆動停止後は新たなイオン化動作は必ずしも必要がなく、イオン化部の駆動も停止することができる。さらに、帯電部が検出期間中も駆動され続けると、抵抗熱が大きくなって流体試料を脱離させる要因になるので、検出期間中は帯電部の駆動を停止するのが良い。
【0018】
(4)本発明の一態様では、前記吸引部は、前記イオン化部及び前記帯電部が駆動停止される前に駆動停止することができる。こうすると、流体試料の流速が低下するので、流体試料が光学デバイスに静電吸着される効率を高めることができる。
【0019】
(5)本発明の一態様では、
前記帯電部は、前記光検出部での検出期間の終了後に、前記流体試料がイオン化により帯電した電荷と同極性の電荷を持つように前記光学デバイスを帯電させることができる。こうすると、検査終了後も光学デバイスに吸着されている流体試料を、同一極性同士の反発により、光学デバイスから脱離させることができる。こうして、次回の検出に備えて、光学デバイスを清浄にすることができる。
【0020】
(6)本発明の他の態様は、
光学デバイスと、
前記光学デバイスが配置される空間に導入される流体試料をイオン化するイオン化部と、
前記光学デバイスに光を照射する光源と、
前記光学デバイスに吸着された前記流体試料に含まれる前記特定物質からの光を検出する光検出部と、
前記光検出部での検出期間の終了後に、前記流体試料がイオン化により帯電した電荷と同極性の電荷を持つように前記光学デバイスを帯電させる帯電部と、
を有する検出装置に関する。
【0021】
本発明の他の態様では、検査終了後も光学デバイスに吸着され、かつイオン化されて電荷を持つ流体試料を、その電荷と同一極性の電荷を持つように光学デバイスを帯電させることで、同一極性同士の反発により、光学デバイスから流体試料を脱離させることができる。
【0022】
(7)本発明の一態様及び他の態様では、前記光学デバイスは、前記特定物質のラマン散乱光を発生させ、前記光検出部は、前記特定物質のラマン散乱光を検出することができる。ラマン散乱光は検出対象の物質を反映した信号の一例であり、流体試料中にて検出対象の物質の有無を判定できる。
【0023】
(8)本発明の一態様及び他の態様では、前記光学デバイスは、1〜1000nmの凸部を有する金属ナノ構造を備えることができる。こうすると、金属ナノ構造の凸部の周囲に増強電場が形成され、増強電場で増強されるラマン散乱光の信号強度が強くなる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係る検出装置の概要を示す図である。
【図2】図1に示す検出装置で実施される第1〜第3モードのタイミングチャートである。
【図3】図1に示すイオン化部の一例を示すブロック図である。
【図4】図3に示す圧電トランスの共振特性を示す図である。
【図5】図5(A)はレイリー散乱光とラマン散乱光の発生を示す図であり、図5(B)はアセトアルデヒドのラマンスペクトルを示す図であり、図5(C)は金属ナノ粒子の近傍に生ずる増強電場を示す図である。
【図6】図6(A)は吸引部と光学デバイスの拡大断面図、図6(B)及び図6(C)は光学デバイスでの増強電場の形成を示す断面図及び平面図である。
【図7】図1の検出装置の全体概要を示すブロック図である。
【図8】図1に示す帯電部の一例を示す図である。
【図9】図7の検出装置の制御系ブロック図である。
【図10】図10(A)及び図10(B)は、ラマンスペクトルのピーク抽出を説明する図である。
【図11】図11(A)〜図11(E)は、図1に示す光学デバイスの製造方法を示す図である。
【図12】図11に示す光干渉露光を実施する装置の図である。
【図13】図11とは異なる方法で光学デバイスを製造する方法を示す図である。
【図14】表面増強赤外分光法に用いられる光学デバイスの概略説明図である。
【図15】図14の光学デバイスに入射する赤外線の特性図である。
【図16】図14の光学デバイスにて反射される赤外線の特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお以下に説明する本実施形態は特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0026】
1.検出装置の基本構成
図1は、本実施形態の検出装置の構成例を示す。図1において、検出装置100は、光学デバイス20と、光源50と、光検出部60と、イオン化部80と、帯電部90とを有することができる。イオン化部80は、光学デバイス20が配置される空間(例えばチャンバー10内の空間)に導入される流体試料をイオン化する。帯電部90は、流体試料がイオン化により帯電した電荷とは逆極性の電荷を持つように光学デバイス20を帯電させる。光源50は、光学デバイス20に光を照射する。光源50からの光は、所定波長帯域にスペクトル強度を有する光が好ましい。光検出部60は、光学デバイス20に静電吸着された特定物質を反映する光を検出する。
【0027】
本実施形態によれば、イオン化部80により流体試料がイオン化される。このイオン化により、流体試料は電荷を持つように帯電される。光学デバイス20は、特定物質がイオン化により帯電した電荷とは逆極性の電荷を持つように帯電部90により帯電される。よって、特定物質を含む流体試料は光学デバイス20に静電吸着される。ここで、光学デバイス20に光源50から光を照射すると、光学デバイス20に静電吸着された流体試料を反映する光が光学デバイス20より出射され、このうちの特定物質を反映する光が分光されて光検出部60にて検出される。こうして、検出装置100は流体試料中の特定物質を検出できる。
【0028】
帯電部90は、光検出部60での検出終了後に、流体試料がイオン化により帯電した電荷と同極性の電荷を持つように光学デバイス20を帯電させるようにすることができる。こうすると、検査終了後も光学デバイス20に吸着されている流体試料を、同一極性同士の反発により、光学デバイス20から脱離させることができる。こうして、次回の検出に備えて、光学デバイス20を清浄にすることができる。
【0029】
光学デバイス20に吸着された流体試料を脱離させるには外力を要し、例えばファン40での吸引力を高めて脱離させることができる。本実施形態では、光学デバイス20に流体試料を静電吸着させていることから、電荷同士の反発力を利用することで、ファン40の吸引力を高めずに脱離させることができる。
【0030】
なお、帯電部90は、光学デバイス20を正負の両極性に切り換えて帯電させることができることが好ましい。こうすると、検出前に流体試料を光学デバイス20に静電吸着できると共に、検出終了後には光学デバイス20から流体試料を同極電荷同士の反発によって脱離させることができる。これに限らず、帯電部20は、光学デバイス20を正負のいずれか一方にのみ帯電させることができるものであってもよい。この場合、イオン化された流体試料に対して、検出前の吸着及び検出後の脱離のいずれか一方を帯電部90によって促進することができる。
【0031】
光学デバイス20は、光源50からの光が照射されることで、吸着している流体試料を反映した光を出射するものである。本実施形態では、流体試料は例えば大気であり、検査対象の特定物質は大気中の特定気体分子(試料分子)とすることができるが、これに限定されない。
【0032】
光学デバイス20が配置されるチャンバー10は、排気側に吸引部例えばファン40を有することができる。吸引部40はチャンバー10内を負圧にして流体試料をチャンバー10内に吸引するものであれば、例えばポンプ等であっても良い。チャンバー10にはさらに、吸気バルブ12と排気バルブ13を有することができる。この場合、制御部70は、ファン40の駆動を制御し、さらにはバルブ12,13の駆動制御により、チャンバー10を開放/閉鎖の各状態に設定することができる。ただし、バルブ12,13は必ずしも設ける必要はない。
【0033】
また、光学デバイス20と、光源50及び/又は光検出部60との間に、光学系30を設けることができる。光源50は、例えば光学系30を構成する例えばハーフミラー320と対物レンズ330を介して、光学デバイス20に光を照射する。光検出部60は、光学デバイス20に吸着された流体試料が反映された光を、ハーフミラー320及び対物レンズ330を介して検出する。
【0034】
2.制御モード
制御部70は、制御モードとして、図2に示す第1,第2,第3モードを有する。第1モードは、チャンバー10内に吸引された流体試料を光学デバイス20に吸着させる吸着モードであり、第1工程とも称する。第2モードとは、第1モード後にチャンバー20を光源50から光学デバイス20に光を出射し、流体試料中の特定物質を反映した光を光検出部60にて検出する検出モードであり、第2工程とも称する。第3モードとは、光学デバイス20に吸着された流体試料を脱離して、チャンバー10から流体試料を排出する脱離モードであり、第3工程とも称する。制御部70は、例えば時間制御又は光検出部60からの信号に基づく制御により、図2に示す第1,第2,第3モードを切換え制御することができる。
【0035】
2.1.第1モード(吸着モード)
2.1.1.流体試料のイオン化
図2では、吸引部40、光源50、イオン化部80及び帯電部90の駆動タイミングと、各制御モードとの関係の一例が示されている。第1モード(吸着モード)では、予め制御部70によりバルブ12,13が開放制御されており、時刻toに吸引部(ファン)40が駆動制御される。それにより、チャンバー10内に流体試料が導入される。
【0036】
加えて、制御部70は時刻t1にイオン化部80を駆動制御して、流体試料をイオン化する。ここで、図3は、イオン化部80の一例であるマイナスイオン発生回路を示す。流体試料中の気体分子をイオン化する方法には、水破砕方式、コロナ放電方式、電子放射方式などがある。ここでは、比較的エネルギーが小さくオゾンや窒素酸化物の発生が少ない電子放射方式を採用して説明を進めるが、イオン化の方法を電子放射方式に限定するものではない。
【0037】
電子放射方式でのイオン化原理を説明すると、針状に尖らせたマイナス電極84にパルス性の高電圧を印加して、空気中に直接電子を放出させる。放出された電子が周りの酸素或いは水分と結合して、マイナスイオンを形成することができる。これがイオン化の原理である。
【0038】
O2→O2++e−の反応で発生した電子e−は付近の酸素と結合し、e−+O2→O2−酸素のマイナスイオンとなる。さらにこれらの酸素のマイナスイオンが水分と結合してO2−(H2O)n等のマイナスイオンクラスタを構成する。一方で、プラス電荷を持ったO2+は、針状電極84で電荷を供給され、この電荷は回路コモンを介して大地にリターンされる。
【0039】
図3に示すように、圧電トランス83を用いると比較的小型で高電圧を発生することができる。例えば可変抵抗器81Aにより発振周波数が可変である発振回路81と、圧電トランス83を駆動するドライバー回路82とによって、圧電トランス83の共振周波数にマッチした周波数で圧電トランス83を駆動する。それにより、圧電トランス83は高電圧のパスル電圧を発生することができる。マイナスのみを使用するので、ダイオード85で整流している。こうすると、マイナスの高電圧パルスによって電子が空気中に放射され、その電子によって周囲の酸素分子などがマイナスイオン化される。
【0040】
圧電トランス83を利用することで、−1kV〜−6kV位の高電圧を発生させることができ、マイナスイオンの発生量は数千個〜数100万個/mL(無風)にも達する。
【0041】
図4には、圧電トランス83の共振特性の例を示してある。圧電トランス83の圧電体の共振周波数fr近傍の周波数で駆動すると、大きな電圧利得が得られ効率が良い。
【0042】
本実施態様では、上述したイオン化原理により、チャンバー10内に吸引される特定物質を含む流体試料をマイナスイオン化している。
【0043】
2.1.2.流体試料の吸着
制御部70は時刻t2に帯電部90を駆動制御して、流体試料がイオン化により帯電したマイナス電荷とは逆極性のプラス電荷を持つように光学デバイス20を帯電させる。そうすると、マイナスの電荷を持つ流体試料中の試料分子はプラス電荷を持つ光デバイス20にクーロン力により引き寄せられて静電吸着される。
【0044】
ここで、一般に試料分子の「吸着」という現象は、試料分子が光学デバイス20に衝突する衝突分子の数(分圧)が支配的である現象であり、物理吸着及び化学吸着の一方又は双方を含む。吸着エネルギーは試料分子の運動エネルギーに依存し、ある値を乗り越えると衝突して「吸着」現象を呈し、吸着には外力は不要である。
【0045】
本実施形態では、上述した「吸着」現象に加えて、試料分子と光学デバイス20との間に外力としてクーロン力を作用させることで、試料分子をより効率よく光学デバイス20に静電吸着させることができる。こうして、外力を作用させない吸着モードと比較して、光学デバイス20に流体試料を吸着させるまでに要する時間を短縮し、もって検出時間を短縮することができる。
【0046】
なお、本実施形態では、吸引部40にて吸引が開始される時刻t0より後の時刻t1,t2に、イオン化部80及び帯電部90を順次駆動開始することができる。こうすると、流体試料がチャンバー10に導入される前に存在した流体がイオン化されて、光学デバイス20を汚染することがない。ただし、時刻t0,t1,t2は同時刻であっても良い。
【0047】
本実施形態では、イオン化済みの流体試料を光学デバイス20に静電吸着させることから、イオン化部80を時刻t1に駆動して先ずイオン化し、帯電部90を時刻t1後の時刻t2に駆動開始して静電吸着させている。ただし、時刻t1,t2は同時刻であってもよい。
【0048】
また、図2によれば、イオン化部80及び帯電部90の駆動が停止される第1モードの終了時刻t4より前の時刻t3にて、吸引部40の駆動を停止している。こうすると、チャンバー10内の流体試料の流速が低下するので、光学デバイス20へ流体試料を静電吸着する効率を増加させることができる。吸引部40の駆動停止後にバルブ12,13を閉鎖させてチャンバー10を閉鎖空間とすると、吸着効率はさらに高まる。
【0049】
また、図2によれば、イオン化部80及び帯電部90は、吸引部40が流体試料の吸引を停止した後も駆動される期間(t3−t4)を有することができる。この期間(t3−t4)では、流体試料の流速が低下するので、流体試料が光学デバイス20に静電吸着される効率を高めることができる。より好ましくは、期間(t3−t4)で吸気バルブ12及び排気バルブ13を閉じてチャンバー10を閉鎖空間とすると、チャンバー10に閉じ込められた流体試料が光学デバイス20に静電吸着され、吸着効率をさらに高めることができる。
【0050】
2.2.第2モード(検出モード)
検出モードでは、図2の時刻t5にて光源50から例えば所定波長にスペクトルピークを有する光が出射され、光学デバイス20に入射される。そうすると、光学デバイス20に吸着された流体試料に固有の波長の散乱光が発生する。光検出部60は、各種の試料分子を含む流体試料の中から、特定物質の散乱光のみを分光して受光する。それにより、光検出部60は特定物質を検出することができる。
【0051】
その際、本実施形態では、外力を要しない「吸着」現象に加えて、試料分子と光学デバイス20との間に外力としてクーロン力を作用させて吸着効率を高めているので、吸着量に比例して特定物質の検出信号強度を高めることができる。
【0052】
制御部70は、例えば光検出部60から信号を受信することで、検出動作の停止時期を判断することができ、時刻t6にて光源50の駆動を停止して、検出期間を終了することができる。制御部70は、これに限らず計時によって終了時刻t6を決定することができる。
【0053】
ここで、本実施形態では、図2に示すように、イオン化部80及び帯電部90を、光源50から光が照射されて光検出部60が検出動作を実施する検出期間中は、駆動停止している。図2では検出動作を開始する時刻t5の前の時刻t4に駆動停止しているが、t4=t5としても良い。光学デバイス20は、一度帯電すると電荷を保持することができるので、帯電部90の駆動を停止しても検出期間中に静電吸着力を保持することができる。よって、帯電部90の駆駆動停止後は新たなイオン化動作は必ずしも必要がなく、イオン化部80の駆動を停止しても良い。他の理由として、帯電部が検出期間中も駆動され続けると、抵抗熱が大きくなって流体試料を脱離させる要因になるので、検出期間中は帯電部90の駆動を停止するのが良い。ただし、検出期間にイオン化部80及び帯電部90を駆動停止するものに限定されない。
【0054】
2.3.第3モード(脱離モード)
特定物質(標的物質)の検出を終了すると、1)流体試料が自然に拡散し排出される、2)積極極的に排出を促す、3)次の検出に備えて使用済みの光学デバイス20等を交換する、という3つ方法がある。本実施形態では流体試料を積極的に排出して光学デバイス20を繰り返し使用するため、光学デバイス20に吸着された流体試料を外力により脱離させている。
【0055】
そのために、図2に示すように、検出期間が終了した時刻t6の後の時刻t7(t7=t6でも可)に、吸引部40を駆動してチャンバー10内を吸引すると共に、帯電部90を再駆動する。帯電部90は、流体試料がイオン化により帯電したマイナス電荷と同じマイナス電荷を持つように光学デバイス20を帯電させるようにする。こうすると、検査終了後も光学デバイス20に吸着されている流体試料を、同一極性同士の反発により、光学デバイス20から脱離させることができる。こうして、次回の検出に備えて、光学デバイス20を清浄にすることができる。
【0056】
この脱離モードでは、図2に示すように光源50から光を出射させることもできる。こうすると、脱離モード中に亘って光検出部60は光学デバイス20から特定物質に固有の散乱光を受光できる。制御部70は、光検出部60の出力をモニターする。特定物質に固有の散乱光の信号レベルを閾値と比較することで、脱離モードの終了時刻t8を制御部70は取得することができる。ただし、脱離モードでは光源50及び帯電部90を駆動停止しても良い。その際、制御部70は時間管理によって脱離モードの終了時刻t8を設定できる。
【0057】
この脱離モードは、検出モードの後だけでなく、吸着モードの前に実施しても良い。例えば繰り返し検出を行う場合には、脱離モード、吸着モード及び検出モードを一サイクルとして、複数サイクルを繰り返し実施することができる。これにより、リアルタイム検出が可能となる。
【0058】
3.光検出の原理と構造の一例
図5(A)〜図5(C)及び図6(A)〜図6(C)を用いて、流体試料を反映した光検出原理の一例としてラマン散乱光の検出原理の説明図を示す。図5(A)及び図6(A)に示すように、光学デバイス20に吸着される検出対象の試料分子1に入射光(振動数ν)が照射される。一般に、入射光の多くは、レイリー散乱光として散乱され、レイリー散乱光の振動数ν又は波長は入射光に対して変化しない。入射光の一部は、ラマン散乱光として散乱され、ラマン散乱光の振動数(ν−ν’及びν+ν’)又は波長は、試料分子1の振動数ν’(分子振動)が反映される。つまり、ラマン散乱光は、検査対象の試料分子1を反映した光である。入射光の一部は、試料分子1を振動させてエネルギーを失うが、試料分子1の振動エネルギーがラマン散乱光の振動エネルギー又は光エネルギーに付加されることもある。このような振動数のシフト(ν’)をラマンシフトと呼ぶ。
【0059】
図5(B)に、標的分子に固有の指紋スペクトルとして、アセトアルデヒドの例を示す。この指紋スプクトルによって、検出した物質がアセトアルデヒドと特定することが可能である。しかしながら、ラマン散乱光は非常に微弱であり、微量にしか存在しない物質を検出することは困難であった。
【0060】
図6(B)は、図1の光学デバイス20の拡大図である。図6(A)に示すように入射光が対向基板202の平坦面から入射される場合、対向基板202は入射光に対して透明な材料が用いられる。光学デバイス20は、基板200上に導体膜201を有する。導体膜201は帯電部90に接続されている。光学デバイス20は、第1構造として、例えば誘電体から成る複数の凸部210を有する。
【0061】
複数の凸部210上の第2構造として、複数の凸部210には、例えばAuまたはAg等の金属ナノ粒子(金属微粒子)220が例えば蒸着、スパッタ等により形成され、その際に導体膜201を同時に形成することができる。結果として、光学デバイス20は、1〜1000nmの凸部を有する金属ナノ構造250を有することができる。1〜1000nmの凸部を有する金属ナノ構造250とは、基板200の上面を当該サイズの凸部構造(基板材で)を持つように加工する他に、導体膜201上に当該サイズの金属微粒子を蒸着・スパッタ等で固着させて形成できる。
【0062】
図6(B)及び図6(C)に示すように、二次元パターン状の金属ナノ粒子220に入射光が入射された領域240では、隣り合う金属ナノ粒子220間のギャップGに、増強電場230が形成される。特に、図5(C)に示すように、入射光の波長よりも小さな金属ナノ粒子220に対して入射光を照射する場合、入射光の電場は、金属ナノ粒子220の表面に存在する自由電子に作用し、共鳴を引き起こす。これにより、自由電子による電気双極子が金属ナノ粒子220内に励起され、入射光の電場よりも強い増強電場230が形成される。これは、局在表面プラズモン共鳴(LSPR:Localized Surface Plasmon Resonance)とも呼ばれる。この現象は、入射光の波長よりも小さな1〜1000nmの凸部を有する金属ナノ粒子220等の電気伝導体に特有の現象である。
【0063】
図6(A)〜図6(C)では、光学デバイス20に入射光を照射した時に表面増強ラマン散乱(SERS: Surface Enhanced Raman Scattering)が生ずる。つまり、増強電場230に試料分子1が入り込むと、その試料分子1によるラマン散乱光は増強電場230で増強されて、ラマン散乱光の信号強度は、強くなる。このような表面増強ラマン散乱では、試料分子1が微量であっても、検出感度を高めることができる。
【0064】
4.検出装置の具体的な構成
図7は、本実施形態の検出装置の具体的な構成例を示す。図7に示される検出装置100も、図1に示すチャンバー10、光学デバイス20と、光学系30と、吸引部40と、光源50と、光検出部60と、制御部70を含む処理部71と、イオン化部80と、帯電部90(図7では省略)とを有している。
【0065】
例えば単一波長で直線偏光の光源50は、例えばレーザー光源であり、小型化の観点から好ましくは垂直共振型面発光レーザーを用いることができるが、これに限定されない。
【0066】
光源50からの光は、光学系30を構成するコリメーターレンズ310により平行光にされる。コリメーターレンズ310の下流に偏光制御素子を設け、直線偏光に変換しても良い。ただし、光源50として上述のように面発光レーザーを採用し、直線偏光を有する光を発光可能であれば、偏光制御素子を省略することができる。
【0067】
コリメーターレンズ310により平行光された光は、ハーフミラー(ダイクロイックミラー)320により光学デバイス20の方向に導かれ、対物レンズ330で集光され、光学デバイス20に入射する。光学デバイス20には、図6(B)及び図6(C)に示す金属ナノ粒子220が形成される。光学デバイス20から例えば表面増強ラマン散乱によるレイリー散乱光及びラマン散乱光が放射される。光学デバイス20からのレイリー散乱光及びラマン散乱光は、対物レンズ330を通過し、ハーフミラー320によって光検出部60の方向に導かれる。
【0068】
光学デバイス20からのレイリー散乱光及びラマン散乱光は、集光レンズ340で集光されて、光検出部60に入力される。光検出部60では先ず、光フィルター610に到達する。光フィルター610(例えばノッチフィルター)によりラマン散乱光が取り出される。このラマン散乱光は、さらに分光器620を介して受光素子630にて受光される。分光器620は、例えばファブリペロー共振を利用したエタロン等で形成されて通過波長帯域を可変とすることができる。分光器620を通過する光の波長は、制御部70により制御(選択)することができる。受光素子630によって、試料分子1に特有のラマンスペクトルが得られ、得られたラマンスペクトルと予め保持するデータと照合することで、試料分子1を特定することができる。
【0069】
チャンバー10は、吸引口14Aと接続される吸引流路14Bと、排出口15Aと接続される排出流路15Bとを有する。試料分子1を含む流体試料は、吸引口14A(搬入口)からチャンバー10の内部に導入され、排出口15Aからチャンバー10の外部に排出される。吸引口14A側に除塵フィルター14Cを設けることができる。図7では、検出装置100は、ファン40を排出口15A付近に有し、ファン40を作動させると、チャンバー10内の圧力(気圧)が低下する。これにより、試料分子1と共に流体試料がチャンバー10に吸引される。流体試料は、吸引流路14Bを通り、光学デバイス20付近の流路を経由して排出流路15Bから排出される。このとき、試料分子1の一部が光学デバイス20の表面(電気伝導体)に吸着する。
【0070】
図7において、流体試料を吸引及び排出する吸引経路14B及び排気経路15Bの形状については、外部からの光が光学デバイス20に入らないように、かつ、流体試料に対する流体抵抗が小さくなるようになっている。外部からの光が光学デバイス20に入らないようにすることで、ラマン散乱光以外の雑音となる光が入らず、信号のS/N比が向上する。吸引経路14B及び排気経路15Bの流路形状と共に、流路を形成する材料も、光を反射し難いような材料、色、表面形状を選択することが必要となる。また、吸引経路14B及び排気経路15Bは、流体試料に対する流体抵抗が小さくなるようにすることで、この装置の近傍の流体試料が多く収集でき、高感度な検出が可能になる。吸引経路14B及び排気経路15Bの形状は、できるだけ角部をなくし滑らかな形状にすることで、角部での滞留がなくなる。
【0071】
検査対象物質である試料分子1は、例えば麻薬やアルコールや残留農薬等の希薄な分子や、ウイルス等の病原体等を想定することができ、特に本実施形態はこれらの試料分子1をリアルタイムで検出するのに適している。
【0072】
図8は、図1に示す帯電部90の一例を示している。帯電部90は、電源91と、制御部70により制御される3ステートスイッチ92とを有し、光学デバイス20の導体膜210Aを、プラス電荷またはマイナス電荷を持つように帯電し、さらにはフローティング状態に設定する。図8に示す状態では、光学デバイス20はプラス電荷を持つように帯電される。スイッチ92の可動端子を、図8に示す導体膜201に接続された別の固定端子に接続すると、光学デバイス20はマイナス電荷を持つように帯電される。スイッチ92の可動端子を固定端子に対して非接触とすると、光学デバイス20はフローティング状態となり、この状態が帯電部90の動作停止状態である。
【0073】
図9は、図7の検出装置100の制御系ブロック図である。図9に示されるように、検出装置100は、例えばインターフェイス120、表示部130及び操作部140等をさらに含むことができる。また、処理部71は、図9に示すように制御部としての例えばCPU(Central Processing Unit)70、RAM(Random Access Memory)72、ROM(Read Only Memory)73等を有することができる。さらに、検出装置100では、光源ドライバー52、分光ドライバー622、受光回路632、ファンドライバー42、イオン化部80、帯電部90及び電力供給部150等を処理部71に接続している。処理部71は、図7に示される各部へ命令を送ることができる。さらに、処理部71は、ラマンスペクトルによる分光分析を実行することができ、処理部71は、標的物である試料分子1を特定することができる。なお、処理部71は、ラマン散乱光による検出結果、ラマンスペクトルによる分光分析結果等をインターフェイス120及び端子121を介して接続される外部機器(図示せず)に送信することができる。
【0074】
電力供給部150として、一次電池、二次電池などが利用できる。一次電池の場合には、CPU70がROM73に格納されている規定の電圧以下になったことを判断して、電池交換を表示部130に表示をする。二次電池の場合には、規定の電圧以下であれば、CPU70は表示部130に充電の表示をする。操作者は、その表示を見て、端子151に充電器を接続して、規定の電圧になるまで充電をすることで繰返し使用することができる。
【0075】
図10(A)及び図10(B)は、ラマンスペクトルのピーク抽出の概要説明図を示す。図10(A)は、ある物質に励起レーザーを照射した時に検出されるラマンスペクトルを示し、ラマンシフトを波数で表している。図10(A)の例では、第1のピーク(883cm−1)と第2のピーク(1453cm−1)が特徴的と考えられる。得られたラマンスペクトルと予め保持するデータ(第1のピークのラマンシフト及び光強度、第2のピークのラマンシフト及び光強度等)と照合することで、流体試料中の検出対象物質を特定することができる。
【0076】
図10(B)は、分光素子620で受光素子630が第2のピークの周辺のスペクトルを検出した時の信号強度(白丸)を示す。分光素子620が10cm−1程度で解像度が細かい場合には、第2のピークのラマンシフト(黒丸)を正確に特定し易くなる。
【0077】
5.光学デバイスの製造方法
図11(A)〜図11(E)に、光学デバイス20製造方法の一例を示す。基板200が石英基板である例を示すが、他の材質の基板200でも同様に上述した第1構造を形成することが可能であり、石英に限定されるものではない。図11(A)に示すように、清浄な石英基板200に対して、レジスト200Aをスピンコートなどの装置で塗布し乾燥させる。
【0078】
図11(B)に示すようにレジスト200Aに所望のパターン200Bを形成するために、レーザー干渉露光する。本実施形態では、金属ナノ構造250の寸法は、照射する光の波長(ここでは可視光から近赤外光の領域)より小さい寸法であるから、露光装置としては、電子ビーム露光法や紫外レーザーを使った光干渉露光法などが使用することができる。電子ビーム露光法は、露光の自由度が高い反面、量産性には限界がある。そこで、量産性に優れている紫外レーザーを使った光干渉露光法を採用した。例えば、干渉露光の光源として連続発振のYVO4レーザー(波長266nm、最大出力200mW)を用いることができる。ポジ型レジストを使用し、レジスト膜厚は1μmとした。レジストの露光パターンは、一方のパターンを格子状とし、他方のパターンも格子状として、両者の交差する角度によって色々なパターンが形成することができ、レーザーの波長の半分の大きさまで小さくすることが可能である。両者の干渉縞の潜像をレジスト中に形成し、レジストを現像して図11(B)に示す所望のパターン200Bを形成する。
【0079】
その後、図11(C)に示すように、レジストパターン200Bで保護されていない部分をエッチングして、基板200に凹部を設ける。さらに、図11(D)に示すように、基板上に残ったレジストパターンを除去する。それにより、基板200上に凸部210が残る。
【0080】
第1構造である凸部210を形成した後、スパッタ装置や蒸着装置などで金属膜(導体膜)201を形成する。最初は全体に薄く金属膜201が形成されるが、段々と凹凸の凸付近に多く金属が付着するようになり、結果として図11(E)に示す金属ナノ粒子220の形状になる。金属ナノ粒子220のギャップGは、金属膜201の膜厚によって制御することができる。このギャップGの大小が金属ナノ粒子220を保持する構造となっているので、重要なパラメータである。この金属としては、例えば金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、Pd(パラジウム)、Pt(白金)、Rh(ロジウム)、Ru(ルテニウム)、Ta(タンタル)、Ti(チタン)、W(タングステン)、Mo(モリブデン)もしくはこれらの合金或いは複合体が用いられる。
【0081】
図12には、紫外レーザーを利用した光干渉露光法の概略構成図が示してある。光源160としては、連続発振(CW)できる波長266nm、出力200mWの紫外レーザーを用いた。レーザー光源160から出たレーザー光は、シャッター161を経由してミラー162で折り返し、ハーフミラー163で両側に分岐する。夫々についてミラー164A,164Bで折り返し、対物レンズ165A,165Bとピンホール166A,166Bを経由させ、ビームを広げる。広がった紫外レーザーをマスク167A,167Bに照射させ干渉縞を作り、レジストを塗布した基板200に照射させる。この時、干渉縞の露光構成によって色々なパターンの露光が可能になる。このパターンは、CCDカメラ169で撮像することで、モニター169Aにてモニタリングすることができる。
【0082】
図13(A)〜図13(C)には、図12で説明した光干渉露光法とは別の製造方法を示す。図13(A)に示す先ず清浄な表面の石英や硼珪酸ガラスなどの基板200に、蒸着法やスパッタリング法で、図13(B)に示す金属の薄い導体膜201を形成する。この導体膜201は帯電部90に接続され、金属ナノ構造250にバイアス電圧を与えるためのものであり、Au(金)、Ag(銀)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)などが選ばれる。導体膜201は、できるだけ均一で平坦な膜が望ましい。次に蒸着機で金属アイランド221を形成する。金属アイランド221を形成するには、基板200上の導体膜201に到達した金属原子が表面拡散をして落ち着いていくので、あまり表面拡散長が大きいとアイランドにはならず、アイランド同士が繋がった膜状になってしまう。表面拡散長は、基板200の温度と、基板200と蒸着する金属の濡れ性に影響を受ける。基板200の温度が低いほど表面拡散長は小さくなる。具体的には、Ag圧力はおよそ10−3(Pa)、成膜レートは約0.02nm/秒、基板200は加熱なしの条件で形成したアイランド構造の例を、図13(D)に電子顕微鏡の写真として示す。1つのアイランドはおよそ10〜50nmくらいの大きさで、ランダムに形成されている。これらの金属アイランド221にレーザー光を照射すると、光の波長よりアイランド221の大きさが小さいため、光の電場によって自由電子が共鳴した状態になり強い双極子モーメントを持ち、結果として強い増強電場が形成されることになる。金属アイランド221を形成する金属の種類は、Au(金)、Ag(銀)、Al(アルミニウム)、Cu(銅)、Pd(パラジウム)、Pt(白金)、Rh(ロジウム)、Ru(ルテニウム)、Ta(タンタル)、Ti(チタン)、W(タングステン)、Mo(モリブデン)のいずれか、或いは複合的構成でも良く、標的分子に応じて選択することができる。
【0083】
6.その他の変形例
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できる。
【0084】
本発明は、SERS強度を検出するものに限らない。例えば、表面増強赤外分光法(SEIRAS:Surface Enhanced Infrared Absorption Spectroscopy)を用いることがで
きる。この場合、光学デバイス20を図14に示す光学デバイス170に置き換える。この光学デバイス170は、例えば直角プリズム171の底面に金属薄膜172を形成したものである。直角プリズム171は、例えばCaF2等の赤外線を通過させる材料で形成される。金属薄膜172の材料はAg,Cu等の金属薄膜であれば良い。
【0085】
図15に示す特性を有するP偏光の赤外線IR1を、例えば第1反射ミラー180にて反射させて、光学デバイス170に対して金属薄膜172の法線Lに対して角度θで入射させる。入射赤外線IR1を金属薄膜172で全反射させて得られる反射赤外線IR2には、その界面から試料側に少しもぐり込んだ位置で反射されるエバネッセント波が存在し、それにより試料分子や標準分子のスペクトルを計測できる。この反射赤外線IR2の特性を図16に示す。反射赤外線IR2は、第2反射ミラー181で反射されて、図1等に示す光検出部60に入射される。
【符号の説明】
【0086】
10 チャンバー、12,13 バルブ、20,170 光学デバイス、30 光学系、40 吸引部(ファン)、50 光源、60 光検出部、70 制御部、80 イオン化部(マイナスイオン発生回路)、84 針状電極、90 帯電部、100 検出装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学デバイスと、
前記光学デバイスが配置される空間に導入される流体試料をイオン化するイオン化部と、
前記流体試料がイオン化により帯電した電荷とは逆極性の電荷を持つように前記光学デバイスを帯電させる帯電部と、
前記光学デバイスに光を照射する光源と、
前記光学デバイスに静電吸着された前記流体試料に含まれる特定物質からの光を検出する光検出部と、
を有することを特徴とする検出装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記光学デバイスが配置されるチャンバーと、
前記チャンバー内に前記流体試料を吸引する吸引部と、
をさらに有し、
前記吸引部での吸引開始後に、前記イオン化部及び前記帯電部が駆動されることを特徴とする検出装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記イオン化部及び前記帯電部は、前記光源から光が照射されて前記光検出部が検出動作を開始する前に、駆動停止されることを特徴とする検出装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記吸引部は、前記イオン化部及び前記帯電部が駆動停止される前に駆動停止されることを特徴とする検出装置。
【請求項5】
請求項3または4において、
前記帯電部は、前記光検出部での検出期間の終了後に、前記流体試料がイオン化により帯電した電荷と同極性の電荷を持つように前記光学デバイスを帯電させることを特徴とする検出装置。
【請求項6】
光学デバイスと、
前記光学デバイスが配置される空間に導入される流体試料をイオン化するイオン化部と、 前記光学デバイスに光を照射する光源と、
前記光学デバイスに吸着された前記流体試料に含まれる前記特定物質からの光を検出する光検出部と、
前記光検出部での検出期間の終了後に、前記流体試料がイオン化により帯電した電荷と同極性の電荷を持つように前記光学デバイスを帯電させる帯電部と、
を有することを特徴とする検出装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかにおいて、
前記光学デバイスは、前記特定物質のラマン散乱光を発生させ、
前記光検出部は、前記特定物質のラマン散乱光を検出することを特徴とする検出装置。
【請求項8】
請求項7において、
前記光学デバイスは、1〜1000nmの凸部を有する金属ナノ構造を備えることを特徴とする検出装置。
【請求項1】
光学デバイスと、
前記光学デバイスが配置される空間に導入される流体試料をイオン化するイオン化部と、
前記流体試料がイオン化により帯電した電荷とは逆極性の電荷を持つように前記光学デバイスを帯電させる帯電部と、
前記光学デバイスに光を照射する光源と、
前記光学デバイスに静電吸着された前記流体試料に含まれる特定物質からの光を検出する光検出部と、
を有することを特徴とする検出装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記光学デバイスが配置されるチャンバーと、
前記チャンバー内に前記流体試料を吸引する吸引部と、
をさらに有し、
前記吸引部での吸引開始後に、前記イオン化部及び前記帯電部が駆動されることを特徴とする検出装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記イオン化部及び前記帯電部は、前記光源から光が照射されて前記光検出部が検出動作を開始する前に、駆動停止されることを特徴とする検出装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記吸引部は、前記イオン化部及び前記帯電部が駆動停止される前に駆動停止されることを特徴とする検出装置。
【請求項5】
請求項3または4において、
前記帯電部は、前記光検出部での検出期間の終了後に、前記流体試料がイオン化により帯電した電荷と同極性の電荷を持つように前記光学デバイスを帯電させることを特徴とする検出装置。
【請求項6】
光学デバイスと、
前記光学デバイスが配置される空間に導入される流体試料をイオン化するイオン化部と、 前記光学デバイスに光を照射する光源と、
前記光学デバイスに吸着された前記流体試料に含まれる前記特定物質からの光を検出する光検出部と、
前記光検出部での検出期間の終了後に、前記流体試料がイオン化により帯電した電荷と同極性の電荷を持つように前記光学デバイスを帯電させる帯電部と、
を有することを特徴とする検出装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかにおいて、
前記光学デバイスは、前記特定物質のラマン散乱光を発生させ、
前記光検出部は、前記特定物質のラマン散乱光を検出することを特徴とする検出装置。
【請求項8】
請求項7において、
前記光学デバイスは、1〜1000nmの凸部を有する金属ナノ構造を備えることを特徴とする検出装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図15】
【図16】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図15】
【図16】
【図13】
【公開番号】特開2013−32982(P2013−32982A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169428(P2011−169428)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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