説明

検査器具

【課題】イムノクロマトグラフィー法による検体検査を、簡便に、かつ、確実、迅速に行うための検体検査器具を提供する。
【解決手段】(1)被覆部材20により液体が封入されている液体収容部11、被覆部材の表側に一端部が配置されている検出用マトリックス30、検出窓421、及び、被覆部材を破断するための変形部材43が具えられた本体40、並びに、(2)本体上をスライド可能であり、スライドの過程で変形部材を液体収容部の方向に向けて押圧することが可能な押圧部材53が裏側に設けられているスライド部材50を具える検査器具であって、スライド部材の液体収容部11方向へのスライドにより、液体収容部を覆いつつ、押圧部材53は変形部材43に接触することにより、液体収容部へと曲げ込まれて変形し、被覆部材20が破断して、マトリックスの一端は液体収容部中の液体に接触させることを特徴とする検査器具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫測定や腫瘍マーカーの測定等における検体中の測定対象物を検出するための検査器具と、当該器具の使用方法に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
従来の検査器具として、測定対象物を抽出した試料液を調製した後、これを不織布等のマトリックスを介した検出部への移送後、抗原抗体反応等のシグナルを利用し、測定対象物の検出を行うものが知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、検体を抽出した検体液を調製した後、不織布等のマトリックスにより移送される展開液上に滴下し、それらが移送された検出部において抗原抗体反応等を利用して検出する試験用具が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、検体を綿棒にて採取し、これを抽出用の液体が入った容器中に投入して測定対象物を液中にて抽出した後、これに測定対象物に対する標識物を担持している不織布等のマトリックスを接触させることにより検出をする試験用具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3237540号公報
【特許文献2】特開2010−14507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えばベッドサイドで簡易的な検査を行う場合があり、その際に用いられる検査用器具において望まれるいくつかの課題がある。簡易的な検査を行う場合には、検体提供者への苦痛等を考慮して検体の採取量は最低限とすることが望ましい場合がある。よって、得られた検体は可能な限り無駄なく検査に供する必要がある。また、複数の検体を検査する場合には、検体の取り違えの防止を図る必要がある。さらに迅速な検査のためには、コンタミを防止して検査の正確性を向上させると共に、可能な限り簡便な手順で検査を行う必要がある。
【0007】
これらの点について、上記の先行技術文献の内容を検討すると、簡易的な検査を行うための検査器具に望まれる条件を未だに満たしていないと思われる。すなわち、特許文献1の技術では、検体液の調製を個別に行う必要がある。検査器具の構造において設けられている収容部の液体は展開液であり、この展開液が吸収材上を移動して必須要件として設けられている蒸散窓にまで達することが前提となっており、検体液は別途吸収材上に滴下する必要がある。そのため、特に展開液として揮発性の悪い溶媒を用いる場合は、検出対象物が検出部に達するまでに相当の時間がかかってしまう。また、検体液を別途調製することは、煩雑であり、環境の汚染の可能性が高くなるだけではなく、得られた検体液全てを利用することは困難であり、かつ、予定された検体液を予定外量用いてしまうような誤操作の可能性が認められる。さらに、複数の検体を扱う場合には器具の取り違えの原因となる。また、特許文献2の技術の場合には、得られた検体液全てを利用することは可能であるが、標識物が担持されたマトリックスが外部環境に露出することになり、外部からの汚染等により検査結果が影響を受ける可能性が生まれてくる。
【0008】
本発明は、これらの先行技術の課題を受けて、取り扱いや操作が容易であり、特に、イムノクロマトグラフィー法による検体検査を、簡便に、かつ、確実、迅速に行うための検体検査器具を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、採取された検体の抽出の場と、当該抽出物のクロマトグラフィーによる展開の場を一体化して、一連の検出作業を一つの検出器具で行い、かつ、好ましくは外界と検出内容物の接触を可能な限り排除することにより、上記の課題を解決することを見出して本発明を完成した。
【0010】
すなわち本発明は、第一に下記の検査器具(本発明の検査器具)を提供するものである。
(1)検体を抽出するための液体が被覆部材により封入されている液体収容部、当該被覆部材の表側に一端部が配置されている検出用マトリックス、当該マトリックスの検出ゾーンを外部から可視化するための一以上の検出窓、及び、当該マトリックスの当該一端部と係合し得る前記被覆部材を破断するための変形部材、が具えられた本体、並びに、
(2)当該本体上を長さ方向においてスライド可能であり、スライドの過程で上記変形部材を上記液体収容部の方向に向けて押圧することが可能な押圧部材が裏側に設けられているスライド部材、を具える検査器具であって、
スライド部材(2)は、本体(1)の上記検出窓を覆い、かつ、上記液体収容部表面の全部又は一部は覆わない状態にて固定されており、当該スライド部材(2)の上記液体収容部方向へのスライドにより、当該スライド部材(2)は上記液体収容部を覆いつつ、上記押圧部材は上記変形部材に接触することにより、当該変形部材が上記マトリックスの一端部に係合しながら上記液体収容部へと曲げ込まれて変形し、当該変形力により当該液体収容部の被覆部材が破断して、上記マトリックスの一端は当該液体収容部中の液体に接触し、当該液体を上記マトリックスの他端方向へと移動させることを特徴とする、検査器具。
【0011】
さらに本発明の検出器具の一態様として、上記本体(1)は、液体収容部及びマトリックス載置部が設けられた基部材と、当該基部材のマトリックス載置部側から被せ合わせることが可能な構造を有する、検出窓及び変形部材を具える蓋部材からなる態様が挙げられる。本態様においては、検出用マトリックスの一端が上記液体収容部の被覆部材の表側に位置するように上記マトリックス載置部上に載置された状態で、当該蓋部材がマトリックス載置部側から被せられた状態でなることが好適である。また、液体収容部の内壁面に、綿棒等の採取棒における検出対象物の付着部分(例えば、綿棒の頭)を擦り取ることが可能な場を設けることが可能であり、かつ、好適である。
【0012】
さらに、マトリックスにおける水分の移動を促進する手段を設けることが可能である。具体的には、本体(1)の検出窓に対して検出用マトリックスの下流側に蒸散窓を設けることが例示される。また、本体(1)の検出窓に対して検出用マトリックスの下流側に液体導出部を設けることも可能である。
【0013】
さらに本発明は、第二に下記のステップ(1)〜(4)を含む、本発明の検査器具の使用方法(本発明の使用方法)を提供するものである。
(1)本発明の検査器具の「本体(1)」の液体収容部の被覆部材の一端を剥がして、又は、破断して、検体の付着した採取棒の先端を当該液体収容部に挿入して当該部中の液体に接触させて、検体の液中抽出を行うステップ、
(2)検体の液中抽出後に検出棒を液体収容部から除去するステップ、
(3)本発明の検査器具の「スライド部材(2)」を液体収容部方向へと移動させて、スライド部材の裏側に設けられた押圧部材との接触によって、「本体(1)」の変形部材を検出用マトリックスの一端部と共に液体収容部へと曲げ込んで、検体が抽出された液体と接触させると共に、移動したスライド部材により液体収容部を外界から遮断するステップ、
(4)検体が抽出された液体が検出用マトリックスに接触したことによる、当該液体の検出用マトリックスの一端側から他端側に向けての移動に伴う検出ゾーンとの接触反応により顕れるシグナルを、検出窓を介して確認し、測定対象物の検出を行うステップ。
【0014】
上述した「採取された検体の抽出の場と、当該抽出物のクロマトグラフィーによる展開の場の一体化」は、本発明の検査器具の本体(1)に具えられた液体収容部、に封入された液体に対して、検出用マトリックスを、検査器具の使用前は双方が隔離された状態を保ち、使用時にスライド部材(2)を液体収容部の方向に向けてスライドさせることにより、前記液体収容部を封止する被覆部材を破断させ、同時に前記検出用マトリックスを検体抽出後の液体収容部中の液体に接触させることが可能な機構、を一つの検査器具において設けることにより実現される。一つの検査器具において、「検体の液体収容部の液体における抽出→スライド部材のスライドによる被覆部材の破断と検出用マトリックスの前記液体への接触→検体液のマトリックス上流への移動→検出ゾーンにおける検出シグナルの確認」の一連のステップを行うことにより、上記の「場の一体化」が実現され、上記の課題を解決することができる。さらに、本発明の検査器具における好適な態様である「外界と検出内容物の遮断」は、スライド部材(2)が使用前においては本体(1)の検出窓を覆い、使用時には上記の破断機構の作動と同時に、当該スライド部材(2)が液体収容部を覆うことにより実現することができる。本発明の使用方法は、上記の一連のステップを規定するものである。
【0015】
本発明は、臨床検査、食品検査、環境検査、犯罪調査等の分野において、特に抗原抗体反応に基づき検出可能な対象であれば、どのような対象でも適用範囲となる。また、例えば、PCR法による特定の生物種(細菌、ウイルス等)の遺伝子増幅産物を検体として、核酸同士のハイブリダイズを検出原理とする方法も可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、採取された検体の抽出の場と、当該抽出物のクロマトグラフィーによる展開の場を一体化して、一連の検出作業を一つの検出器具で行い、かつ、好ましくは外界と検出内容物の接触を可能な限り排除することが可能な検体検査器具と、その使用方法が提供される。本発明の検査器具は、取り扱いや操作が容易であり、特に、イムノクロマトグラフィー法による検体検査を、簡便に、かつ、確実、迅速に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の検査器具の斜視分解図である。
【図2】本発明の検査器具の斜視全体図である。
【図3】本発明の検査器具の上面全体図である。
【図4】本発明の検査器具の使用方法の断面解説図である。
【図5】本発明の検査器具に用いられるマトリックスの長手方向の側面図である。
【図6】抽出液導出部を示す図面である。
【図7】液体収容部の別態様を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態を図1〜7を用いて説明する。ここに表された形態は一例であり、本発明の範囲内での必要に応じた設計変更を行うことも可能であり、無論のこと、当該設計変更がなされた態様もまた本発明の範囲内である。
【0019】
図1は、本発明の検査器具1の斜視分解図であり、図2は、その斜視全体図である。図2(1)は初期状態の本発明の検査器具を示しており、図2(2)はスライド操作後の本発明の検査器具を示している。
【0020】
図1と図2において、本発明の検査器具1を構成する本体には、ケース10、被覆部材20、マトリックス30及び蓋部材40が相当する。スライド部材50は、いわばスライド移動可能な第二の蓋部材として存在する。ケース10は、その長さ方向の両側面下端を縁取る底縁部材13が設けられている。また、ケース10は、長さ方向に向かって幅広の部分101と幅狭の部分102に分かれており、幅広の部分101における底縁部材13の終端部は、底縁からの垂直構造のストッパ131となっている。当該の幅広の部分101には液体収容部11が凹構造として設けられている。また、幅狭の部分102にはマトリックス載置部12が設けられている。マトリックス載置部12には、マトリックス30が載置された際に嵌まり込む形状を5つの突出部材12a、12b、12c、12d及び12eが、その外延を形成するように設けられているが、他の態様、例えば上記の嵌まり込み形状を象ったコの字型の突出部材とすることも可能である。なお、ケース10の内部は、形成素材で充填されていてもよいが、素材量の節約のために必要に応じて中空部を設けた構造であってもよい。後述するように、本実施例ではケース10の内部は検出器具として妥当な強度を保たせつつ素材量を節約するために中空部が設けられた一例を示している。
【0021】
液体収容部11には、検体を抽出するための液体14が入っている(図4にて図示)。被覆部材20は、液体収容部の外縁111がなす形状面を覆い、液体14が外部に漏れ出すことのないように封入することができる形状と素材であり、かつ、当該素材は先端の尖った若しくは薄い硬性部材に担持された外力により破断容易な素材であり、その限りでは形状と素材は特に限定されない。被覆部材20の形状は、好ましくは前記外縁111がなす形状面と略同一の形状であり、素材はアルミ箔等の金属箔、プラスチックシート等が例示される。好ましくは、少なくとも液体収容部11のケース末端近傍部分を被覆した部分を剥離することが可能な手段により、被覆部材20はケース10に接着されている。
【0022】
マトリックス30は、毛細管作用を示す材料で構成され、例えば、不織布、ニトロセルロース、セルロース、ガラス繊維等が挙げられる。また、単一の素材であっても、複数の素材が接着されてなるものであってもよい。マトリックス30は、検出部31が後述する検出窓421に重なり、かつ、一端32が上記の被覆部材20の表側にかかるように、マトリックス載置部12に載置される。この載置は、接着を伴っても伴わなくても良い。マトリックス30上に設けられた検出ゾーン31は、検出窓421と重なり合うことが必要である。なお、図5は、マトリックス30の長手方向の側面図の例示である。検出ゾーン31、移動ゾーン34、及び、吸収ゾーン35が、粘着テープ33の長手方向に沿って接着しており、検出ゾーン31の一端と移動ゾーン34の他端、検出ゾーン31の他端と吸収ゾーン35は互いに接触している。仮に、移動ゾーン34の一端32に水分が接触すると、毛細管現象により、移動ゾーン34,検出ゾーン31、及び、吸収ゾーン35の順番で移動する。そして、その過程において当該水分の中の特定成分の検出が検出ゾーン31において行われる。
【0023】
蓋部材40は、幅広甲高の摘み部分41と、スライド部材50の嵌合部42と、当該嵌合部40において前記摘み部分41の逆側に設けられた変形部材43からなっている。嵌合部42には、マトリックス30の検出ゾーンを目視するための検出窓421が設けられている。検出窓421は、目視で透明であれば窓部分に透明ガラスや透明プラスチック等の透明部材が伴っていても良いし、何も部材を伴わなくても良い。変形部材43は、矢印44方向からの押圧力によって下部方向に下がって、ケース10に設けられた液体収容部11の被覆部材20を破断可能な構造であれば特に限定されない。本実施例では、嵌合部42から斜め上方向に突出した部分431と、当該部分431の上端から斜め下方向に伸びる部分432と、当該部分432の先端部を構成する垂直下に伸びる爪部分433からなっているが、例えば、これが全体としてアーチ状の構造となっていてもよい。矢印44に従う押圧力が変形部材43にかかることにより、爪部分423が下方向に下がり、上記マトリックス30の一端32に係合しつつ、これらが一緒に被覆部材20に接触し、さらなる降下力により当該被覆部材20を破断することができる。また、蓋部材40がケース10の幅狭の部分102に対して外側から嵌合することにより、ケース10の幅広の部分110と、蓋部材40の嵌合部42における側面部422は連続面Aを形成する。
【0024】
スライド部材50は、蓋部51と長手方向の両側面部52からなる、妻手(短辺)方向の両側面部が開放された構造の蓋状部材であり、蓋部材40に対して嵌合可能な大きさと形状となっている。蓋部51の裏面には押圧部材53が設けられている。押圧部材52の位置と形状は、第1には、ケース10に嵌合させた状態の蓋部材40における嵌合部42に、スライド部材50を、蓋部材40の摘み部分41に密着させて嵌合させた際には変形部材43に接触しないように設けることが必要である。第2に、この初期状態におけるスライド部材50を、上記のケース10の幅広の部分101と蓋部材40が形成する連続した側面Aと、スライド部材50の両側面52が接触した状態で、ケース10の底縁部材13に案内されつつ液体収容部11方向へとスライドさせた際に、当該両側面52のスライド進行方向先端部に段状に設けられたストッパ係合部54がケース10のストッパ131によって係止されるまでの間に、当該押圧部材53は変形部材43と接触することにより、矢印44方向の押圧力を生じ、当該変形部材43により被覆部材20が破断されることが必要である。スライド部材50の蓋部51のスライド進行方向の先端部511は、スライド後の液体収容部11の外界との接触性を少なくするために、前面の開口面積をスライド部材50のスムーズなスライド移動が可能な限度で狭められており、これは本発明のより好ましい態様である。また、初期状態において、スライド部材50が不意にスライドしないようにスライドストップ機構を設けることができる。例えば、スライド部材50と摘み部分41との間に、着脱可逆又は不可逆の係止部材(図示せず)を設けることが可能であり、かつ、好ましい。
【0025】
さらに、上述した本発明の検査器具における各部分同士の、組み立て後の分解を防ぐために、必要に応じて分解防止手段を講ずることができる。例えば、蓋部材40がケース10から外れないように互いを係止することが可能な係止機構(例えば、凹構造と凸構造の組み合わせによる係止機構:図示せず)を設けることも可能である。また、蓋部材40の摘み部分41に蒸散窓(図示せず)を設けて、マトリックス30における液体の移動をさらに促進することも可能である。さらに、図6に示すように抽出液導出部15を設けることによってもマトリックス30における液体の移動を促進することが可能である。液体導出部15は、ケース10において蓋部材40の下部に位置するように設けられた凹構造であり、その深さは液体収容部11の深さよりも深いことが好適である。液体導出部の最深部近傍までマトリックス30の終端(水分が移動する下流側の橋)を曲げ込んだ位置に設けることによって、いわゆるサイフォンの原理によりマトリックス30における上流から下流側への水分の移動を促進させることができる。
【0026】
図3は、本発明の検査器具1の初期状態とスライド操作後を表した上面全体図であり、図4は、当該検査器具1の使用方法の断面解説図である。図3と図4は連関しているので、双方を参照しながら説明する。
【0027】
図3(1)は、本発明の検査器具1の初期状態1−1において典型的な態様で使用を行おうとしている寸前の状態を上面全体図として示している。すなわち、採取棒である綿棒2を矢印Bの方向から、その先端部を液体収容部の中に向けて差し込む寸前を示している。
【0028】
図4(1)は、上記の綿棒2の差し込みを行った直後を示している。この差し込みを行う時点で、液体収容部11の被覆部材20は一端から剥離されている(20−1)、又は、綿棒2の突っ込み力により破断している(図示せず)。この操作により液体収容部11中の検体を抽出するための液体14と、綿棒2の頭とが接触し、綿棒2の頭に付着した検体が当該液体14において抽出される。抽出される対象となる検体は特に限定されず、例えば、臨床検査用途に用いるのであれば、血液(全血、血清、血漿等)、リンパ液、尿、唾液、鼻汁、涙、糞便、肺洗浄液、骨髄液等、又は、これらの懸濁物や溶解物等が例示される。また、環境や食品の検査用途に用いるのであれば、検査対象となる土壌、水、食品等、又は、これらの懸濁物や溶解物等が挙げられる。さらに、細菌、ウイルス等の特定の生物種の核酸、特にPCR法等により得られた遺伝子増幅産物が挙げられる。また、液体14は、これらの検体を抽出するのに適した溶媒であれば限定されず、水、各種の緩衝液等の水性溶媒や、アルコール、アセトン、四塩化炭素等の有機溶媒等が例示される。なお、後述する図4(2)にて示されるように、液体収容部11の底部には綿棒2を差し込みやすくするための窪み構造111が設けられている。この窪み構造111に向けて綿棒2の差し込みを行うことにより、差し込みがスムーズになり、液体14が周囲を汚染する危険を減ずることができる。
【0029】
上記の図3(1)と図4(1)は、本発明の使用方法の「ステップ(1)」を図示するものである。
【0030】
図4(2)では、前記の綿棒2を液体14中に抽出した後で抜き取った後を示している。一度剥離された被覆部材20の一端は、再び元の状態に戻っている(20−2)が、液体14は、検体が抽出された検体溶液14’となっている。
【0031】
上記の図4(2)は、本発明の使用方法の「ステップ(2)」を図示するものである。
【0032】
図4(3)は、スライド部材50を矢印C方向へと移動させて、スライド部材50の裏側に設けられた押圧部材53との接触によって、変形部材43をマトリックスの一端部32と共に液体収容部11へと曲げ込んで、前記の抽出済みの液体14’と接触させると共に、移動したスライド部材50により液体収容部11を外界から遮断する段階を示している。スライド部材50を矢印C方向へと移動させることにより押圧部材53が、変形部材43の部分431に接触して押圧されることにより、矢印D方向へと屈曲し、それに伴い、さらに内向きに屈曲した部分432が下方向へと向かい、その先端の爪部分433が、被覆部材20−2に接触して、共に曲げ込まれたマトリックスの一端部32と共に、これを破断する。そして、この曲げ込み移動により、当該一端部32は、液体収容部11において存在する、前記の抽出済みの液体14’と接触する。そして、スライド部材50の矢印Cの進行方向の先端部511は、前面の開口面積がスライド部材50のスムーズなスライド移動が可能な限度で狭められているために、スライド部材50が、ストッパ係合部54がケース10のストッパ131によって係止される際には、当該先端部511とケース10の間の間隙は十分に狭くなっている。これにより、液体収容部11は外界から実質上遮断された状態となる。
【0033】
上記の図4(3)は、本発明の使用方法の「ステップ(3)」を図示するものである。
【0034】
図4(4)は、抽出済みの液体14’がマトリックス30の一端部32に接触したことにより、液体14’がマトリックスの一端32側から他端側に向けての移動、すなわち、マトリックス30における毛細管現象による、液体14’のマトリックス30における矢印F方向への移動、により検出ゾーンに担持された検出要素との接触反応により顕れるシグナルを、検出窓421を介して確認することによる、測定対象物の検出段階を示している。前記シグナルとは、典型的には検出対象物に関する抗原抗体反応に伴うシグナルであり、例えば、移動ゾーン34に担持され、水分の移動に伴い移動可能な状態となっている測定対象物に特異的な標識抗体、例えば金コロイドが担持された標識抗体に検出対象物が結合した状態で、検出ゾーン31に固定化された測定対象物に対して特異的な第2抗体でトラップされ、これが検出ゾーン31において目視可能な状態に金コロイドが蓄積することにより、液体14’における検出対象物を測定することができる。さらに残りの液体14’は随時吸収ゾーン35に吸収されることにより、上記の水分の移動は維持される。なお、上記の抗原抗体反応のシグナルとしては特に限定されずに、例えば、発色酵素、蛍光色素等による発色や蛍光が挙げられる。また、核酸のハイブリダイズ反応を用いる場合には、上記の標識抗体の代わりに、検出対象となる核酸に相補的な核酸を検出ゾーン31に固定化し、当該の相補的な核酸には、ハイブリダイズすることにより発光又は消光する手段を設けることによって、所望する核酸の測定を行うことができる。
【0035】
上記の図4(4)は、本発明の使用方法の「ステップ(4)」を図示するものである。
【0036】
さらに図3(2)は、上記のステップ(3)と(4)の双方に相当し、検査器具1が使用状態である1−2となっている状態を示している。
【0037】
上述した態様は本発明の一態様であって、適宜必要に応じて他の態様を採ることができる。例えば、図7に示すように、液体収容部11の綿棒2を挿入するための場112の壁面に細かい凸部1121を設けて当該壁面を全体として細かな凹凸構造とすることにより、当該凹凸構造に検出対象物と接触させた綿棒2の頭を擦りつけることにより、検出対象物を無駄なく、かつ、効率的に液体14において抽出することが可能となる。この凹凸構造は特に限定されるものではなく、綿棒2の頭を効果的に擦ることが可能なものであれば特に限定されず、例えば、場112の壁面に沿った線状の凸構造等が例示される。なお、図7における構造Gは、押圧部材53によって液体収納部11内に押し込まれるマトリックス30の一端32を含んだ構造全体の模式構造である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
上述したように、本発明の検査器具では、検体の液体への抽出が器具内に設けられた構造中で行われ、かつ、当該抽出液とマトリックスとの接触を同一の器具内で一ステップにて行うことが可能となる。すなわち、採取した検体を全て用いることが可能となり、検体の採取量を最小限とすることができる。また、全ての操作が外界から実質的に遮断された同一の器具内で行うことができるので、複数の検体を検査する場合の検体の取り違えを防止し、周囲への検体の飛沫等による汚染も防ぐことができる。そして、何よりも全体として検査ステップが簡便化されて迅速な検査が可能となり、かつ、検査の確実性は全く損なわれない。よって、本発明の検査器具と、当該検査器具の使用方法における産業上の利用性が十分に認められる。
【符号の説明】
【0039】
1 検査器具
2 綿棒
10 ケース
11 液体収容部
12 マトリックス載置部
14 液体
15 液体導出部
20 被覆部材
30 マトリックス
40 蓋部材
41 摘み部分
42 嵌合部
421 検出窓
43 変形部材
50 スライド部材
53 押圧部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)検体を抽出するための液体が被覆部材により封入されている液体収容部、当該被覆部材の表側に一端部が配置されている検出用マトリックス、当該マトリックスの検出ゾーンを外部から可視化するための一以上の検出窓、及び、当該マトリックスの当該一端部と係合し得る前記被覆部材を破断するための変形部材、が具えられた本体、並びに、
(2)当該本体上を長さ方向においてスライド可能であり、スライドの過程で上記変形部材を上記液体収容部の方向に向けて押圧することが可能な押圧部材が裏側に設けられているスライド部材、を具える検査器具であって、
スライド部材(2)は、本体(1)の上記検出窓を覆い、かつ、上記液体収容部表面の全部又は一部は覆わない状態にて固定されており、当該スライド部材(2)の上記液体収容部方向へのスライドにより、当該スライド部材(2)は上記液体収容部を覆いつつ、上記押圧部材は上記変形部材に接触することにより、当該変形部材が上記マトリックスの一端部に係合しながら上記液体収容部へと曲げ込まれて変形し、当該変形力により当該液体収容部の被覆部材が破断して、上記マトリックスの一端は当該液体収容部中の液体に接触し、当該液体を上記マトリックスの他端方向へと移動させることを特徴とする、検査器具。
【請求項2】
本体(1)は、液体収容部及びマトリックス載置部が設けられた基部材と、当該基部材のマトリックス載置部側から被せ合わせることが可能な構造を有する、検出窓及び変形部材を具える蓋部材からなり、検出用マトリックスの一端が上記液体収容部の被覆部材の表側に位置するように上記マトリックス載置部上に載置された状態で、当該蓋部材がマトリックス載置部側から被せられた状態でなることを特徴とする、請求項1に記載の検査器具。
【請求項3】
本体(1)の検出窓に対して検出用マトリックスの下流側に蒸散窓が設けられていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の検査器具。
【請求項4】
本体(1)の検出窓に対して検出用マトリックスの下流側に液体導出部が設けられていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の検査器具。
【請求項5】
液体収容部の内壁面に、採取棒における検出対象物の付着部分を擦り取ることが可能な場が設けられていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の検査器具。
【請求項6】
下記のステップ(1)〜(4)を含む、請求項1〜5のいずれかに記載の検査器具の使用方法。
(1)本体(1)の液体収容部の被覆部材の一端を剥がして、又は、破断して、検体の付着した採取棒の先端を当該液体収容部に挿入して当該部中の液体に接触させて、検体の液中抽出を行うステップ、
(2)検体の液中抽出後に検出棒を液体収容部から除去するステップ、
(3)スライド部材(2)を液体収容部方向へと移動させて、スライド部材の裏側に設けられた押圧部材との接触によって、本体(1)の変形部材を検出用マトリックスの一端部と共に液体収容部へと曲げ込んで、検体が抽出された液体と接触させると共に、移動したスライド部材により液体収容部を外界から遮断するステップ、
(4)検体が抽出された液体が検出用マトリックスに接触したことによる、当該液体の検出用マトリックスの一端側から他端側に向けての移動に伴う接触反応により顕れるシグナルを、検出窓を介して確認し、測定対象物の検出を行うステップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−230025(P2012−230025A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99065(P2011−99065)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000224123)藤倉化成株式会社 (124)
【Fターム(参考)】