説明

検査器具

【課題】検体から採取した検出対象物の検出用マトリックスへのアプライ操作を、確実、効率的、かつ、安全に行う手段を提供すること。
【解決手段】
(1)表部における開口部分と底部における小孔を伴う、検体を抽出するための液体が収容されている液体収容部、(2)当該液体収容部の開口部分を封止する第一の封止部材と、底部小孔を封止する第二の封止部材、(3)検出用マトリックス、及び、(4)検出用マトリックスの検出シグナルを外部から可視化するための1以上の検出窓、を具える検査器具であって、液体収納部の底部小孔と検出用マトリックスは第二の封止部材を挟んだ状態が保たれており、当該第二の封止部材は直接又は間接に検出器具の外部に突出し、当該突出部分に引っ張り力を加えることにより、第二の封止部材における前記の小孔の封止部分が剥離して、検出用マトリックスと液体収納部の底部小孔が直接接触する検査器具、並びに、その使用方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫測定や腫瘍マーカーの測定等における検体中の測定対象物を検出するための検査器具と、当該器具の使用方法に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
従来の検査器具として、測定対象物を抽出した試料液を調製した後、これを不織布等の検出用マトリックスを介した検出部への移送後、抗原抗体反応等のシグナルを利用し、測定対象物の検出を行うものが知られている。
【0003】
本発明において提案する問題点は、検体から採取した検出対象物の検出用マトリックスへのアプライ操作である。この問題点を示唆する先行技術としては、例えば以下のものがある。
【0004】
特許文献1には、検体液を検出器具に適性にアプライするための、検出器具とは別個の検体採取用容器が開示されている。また、特許文献2には、掃除機で収集したアレルゲンを器具に内蔵された液体で抽出して当該抽出液でのシグナルを検出する、アレルゲン検査キットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−38797号公報
【特許文献2】特開平11−248705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように本発明の課題は、検体から採取した検出対象物の検出用マトリックスへのアプライ操作を、確実、効率的、かつ、安全に行う手段を提供することにある。
【0007】
例えばベッドサイドで簡易的な検査を行う場合があり、その際に用いられる検査用器具において望まれるいくつかの課題がある。簡易的な検査を行う場合には、検体提供者への苦痛等を考慮して検体の採取量は最低限とすることが望ましい場合がある。よって、得られた検体は可能な限り無駄なく検査に供する必要がある。また、複数の検体を検査する場合には、検体の取り違えの防止を図る必要がある。さらに迅速な検査のためには、コンタミを防止して検査の正確性を向上させると共に、可能な限り簡便な手順で検査を行う必要がある。
【0008】
特許文献1の検体採取用容器は、当該容器が検出器具とは別個の容器であり、検出器具を当該容器に着脱するための手間がかかり、しかもその過程において検体抽出液が漏出してしまうリスクが存在すると考えられる。また、特許文献2のアレルゲン検査キットでは、検出対象物がアレルゲン(ハウスダスト)のために掃除機による吸引操作が前提となり、開示された技術の構成を用いて、これを積極的な検体の抽出工程が必要な感染症検査等に応用することは困難である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、採取された検体の抽出の場と、当該抽出物のクロマトグラフィーによる展開の場を一体化して、一連の検出作業を一つの検出器具で行うことにより、上記の課題を解決することを見出して本発明を完成した。本発明では、検出器具において検体抽出操作を行うことを可能とし、かつ、当該抽出操作を経た検体抽出液の検出用マトリックスへのアプライをワンステップで行うことを可能とした。
【0010】
すなわち第一に、本発明は、(1)表部における開口部分と底部における小孔を伴う、検体を抽出するための液体が収容されている液体収容部、(2)当該液体収容部の開口部分を封止する外力による剥離又は破断が可能な第一の封止部材と、底部小孔を封止する外力による剥離が可能な第二の封止部材、(3)検体が抽出された当該液体を浸潤力により移動させるための移動部と検出対象物を検出するための検出部が設けられている検出用マトリックス、及び、(4)当該検出部を外部から可視化するための1以上の検出窓、を具える検査器具であって、液体収納部の底部小孔と検出用マトリックスの移動部は第二の封止部材を挟んだ状態が保たれており、当該第二の封止部材は直接又は間接に検出器具の外部に突出し、当該突出部分に引っ張り力を加えることにより、第二の封止部材における前記の小孔の封止部分が剥離して、検出用マトリックスと液体収納部の底部小孔が直接接触する、検査器具(以下、本発明の検査器具ともいう)を提供する発明である。
【0011】
本発明の検査器具においては、検出用マトリックスの移動部は、液体収容部の底部小孔の横断面積よりも広い面積部分を有し、当該の広い面積部分と底部小孔により第二の封止部材が挟み込まれていることが、検体抽出液の無駄を防ぐ上で好適である。
【0012】
また、液体収容部の底部小孔、第二の封止部材、及び、検出用マトリックスの移動部、による挟み込み部分が押圧部材による押圧力がかけられた状態であることが、検体抽出液の漏出の防止を行う上で好適である。そして、さらに第二の封止部材と検出用マトリックスの間における液体収容部の底部小孔の下部に相当する位置に、吸液浸潤部材が挟み込まれていることが、検体抽出液の漏出の防止をさらに完璧に行う上で好適である。
【0013】
また、第二の封止部材における液体収容部の底部小孔に対する封止部分は、当該第二の封止部材の容器における突出部分と長さ方向において逆側の折り畳まれてなる端部であり、当該突出部分に引っ張り力をかけることにより当該の逆側端部の折り畳み状態が解除されて、底部小孔と検出用マトリックスが直接接触することが、第二の封止部材の小孔からの剥離を円滑に行う上で好適である。
【0014】
さらに、液体収容部の内壁面に、綿棒等の採取棒における検出対象物の付着部分(例えば、綿棒の頭)を擦り取ることが可能な場が設けることが可能であり、かつ、好適である。
【0015】
また、マトリックスにおける水分の移動を促進する手段を設けることが可能である。具体的には、検出窓に対して検出用マトリックスの下流側に蒸散窓を設けることが例示される。
【0016】
第二に、本発明は、下記のステップ(1)〜(3)を含む本発明の検査器具の使用方法(以下、本発明の使用方法ともいう)を提供する発明である。
(1)液体収容部の第一の封止部材の一端を剥がして、又は、破断して、検体の付着した採取棒の先端を当該液体収容部に挿入して当該部中の液体に接触させて、検体の液中抽出を行うステップ、
(2)第二の封止部材の外部への突出部分に引っ張り力をかけて、当該封止部材を小孔から剥離させて、液体収容部における液中抽出物を検出用マトリックスの移動部に接触させるステップ、
(3)液中抽出物が検出用マトリックスに接触したことによる、当該液体の検出用マトリックスの移動部から検出部に向けての移動に伴う接触反応により顕れるシグナルを、検出窓を介して確認し、測定対象物の検出を行うステップ。
【0017】
本発明の検査器具には、付属物として、液体収容部の表部における開口部分を、第一の封止部材を剥離又は破断した後に封止するための蓋部材を備えることが、検査作業中の液中抽出物の飛散等による周辺環境への汚染の抑止を徹底することが可能となり好適である。すなわち、上記の本発明の使用方法において、ステップ(1)の検体の液中抽出の後に、前記蓋部材により液体収容部の表部における開口部分を封止するステップ[(2)’]を行うことにより、以降のステップ(2)と(3)を行うに際して、上記液体収容部の開口部分からの飛散等による周囲環境に対する汚染の抑止を徹底することが可能となる。当該蓋部材は「実質的に独立した付属物」として備えられることが通常であり、これは、実質的に検査器具の本体部分から独立して蓋部材が存在するという意味であり、例えば、検査器具本体と蓋部材が紐等により対になっている場合もこの「実質的に独立した」に含まれる。また、当初より上記表部開口部分が脱着可能な形態で当該蓋部材により封止されており、使用開始時に一旦取り外して、それを改めて必要時に再封止する形態を採ることも、この「実質的に独立した」に含まれる。
【0018】
上述した「採取された検体の抽出の場と、当該抽出物のクロマトグラフィーによる展開の場の一体化」は、第二の封止部材を外部からの引っ張り力により剥離することにより、本発明の検査器具において設けられた液体収容部において検体の抽出により得られた液中抽出物を、その下に載置された検出用マトリックスの移動部に液体収容部の底部の小孔を介して接触させることにより実現される。すなわち一つの検査器具において、「検体の液体収容部の液体における抽出→第二の封止部材の剥離と検出用マトリックスの前記液体への接触→検体液のマトリックス上流への移動→検出ゾーンにおける検出シグナルの確認」の一連のステップを行うことにより、上記の「場の一体化」が実現され、今般の課題を解決することができる。本発明の使用方法は、上記の一連のステップを規定するものである。
【0019】
本発明は、臨床検査、食品検査、環境検査、犯罪調査等の分野において、特に抗原抗体反応に基づき検出可能な対象であれば、どのような対象でも適用範囲となる。また、例えば、PCR法による特定の生物種(細菌、ウイルス等)の遺伝子増幅産物を検体として、核酸同士のハイブリダイズを検出原理とする方法も可能である。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、採取された検体の抽出の場と、当該抽出物のクロマトグラフィーによる展開の場を一体化して、一連の検出作業を一つの検出器具で行うことが可能な検体検査器具と、その使用方法が提供される。本発明の検査器具は、取り扱いや操作が容易であり、特に、イムノクロマトグラフィー法による検体検査を、簡便に、かつ、確実、迅速に行うことができる。また、周囲の環境に対する汚染も適切に防御することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の検査器具の長さ方向の側面から見た分解図である。
【図2−1】本発明の検査器具の第一の封止部材の平面図である。
【図2−2】本発明の検査器具の第二の封止部材の平面図である。
【図3】本発明の検査器具の全体斜視図である。
【図4】本発明の使用方法を示した長さ方向の側面方向から見た断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の形態を図1〜4を用いて説明する。ここに表された形態は一例であり、本発明の範囲内での必要に応じた設計変更を行うことも可能であり、無論のこと、当該設計変更がなされた態様もまた本発明の範囲内である。
【0023】
図1は本発明の検査器具1の長さ方向の側面から見た分解図であり、図3は当該検査器具1の全体斜視図である。検査器具1を構成する部品は、下筐体部材10、バネ11、検出用マトリックス20、吸液浸潤部材30、第二の封止部材40、上筐体部材50、及び、第一の封止部材60である。下筐体部材10と上筐体部材50は、互いに係合固定可能な構造となっている。
【0024】
下筐体部材10にはバネ11と検出用マトリックス20を載置固定可能な場(図示せず)が設けられている。当該場は、例えば検出用マトリックス20が載置された際に嵌まり込むスペースを形成する連続的又は非連続的な凸構造を、下筐体部材10において設けることで形成される。当該場におけるバネ11と検出用マトリックス20の載置は、載置された位置が固定されている限りは接着を伴っても伴わなくても良い。上筐体部材50には、表部における開口部分511と底部における小孔512を伴い、検体を抽出するための液体514が収容される、液体収容部51が設けられている。さらに当該液体収容部51の内壁面に、採取棒2における検出対象物の付着部分を擦り取ることが可能な場513が設けられている。上筐体部材50の液体収容部51の近傍はその内容積を確保するために厚手の構造となっており、逆に検出窓52の近傍は検出用マトリックス20をより容易に目視可能とするために当該部分はテーパーを伴う凹構造となっている。一つ以上の検出窓52は検出用マトリックスの検出部22を目視することが可能であれば、窓部分に透明ガラスや透明プラスチック等の透明部材が伴っていても良いし、何も部材を伴わなくても良い。さらに上筐体部材50の厚手構造側の下筐体部材10との係合部分の中央端部には、第二の封止部材40のスライド部分44を外部から引っ張ることを可能とするスライド穴53が設けられている。スライド穴53は、当該スライド部分44の妻手方向幅よりも広く、かつ、当該第二の封止部材40の厚みよりも厚くなっている。このようなスライド穴53は、例えば、下筐体部材10側に設けることも可能であり、下筐体部材10と上筐体部材50の双方で係合形成するように設けることも可能である。
【0025】
検出用マトリックスは、毛細管作用を示す材料で構成され、例えば、不織布、ニトロセルロース、セルロース、ガラス繊維等が挙げられる。また、単一の素材であっても、複数の素材が接着されてなるものであってもよい。検出用マトリックス20はその典型例であり、検出部22、移動部23、及び、吸収部24が、検出部22の一端と移動部23の他端、検出部22の他端と吸収部24は互いに接触した状態で固定されている。この固定は、各々のパーツを透水可能な状態で接着させて行うことも可能であるが、粘着テープを底面に配置して当該テープの粘着力により各々のパーツを長さ方向に順次固定することにより完便に検出用マトリックス20を作成することができる。仮に、移動部23の一端に液体が接触すると、毛細管現象により、移動部23、検出部22、及び、吸収部24の順番で移動する。そして、その過程において当該液の中の特定成分の検出が検出部22において行われる。少なくとも移動部22は、小孔512の横断面積よりも広い面積部分を有していることが、検体抽出液の無駄を防ぐ上で好適である。
【0026】
検出用マトリックス20と下部筐体部材10の間に配置されるバネ11は、本発明の検出器具における選択的な構成要件として用いられる「押圧部材」であり、検出用マトリックス20とその上部に位置する構造を、液体収容部51の底部小孔512の下部入り口に対する押圧力を与える部材である限り、他のものであってもよい。例えば、弾力性を有するゴムやスポンジ等を用いることも可能である。バネ11は、その押圧力により液体収容部51に由来する検体抽出液の漏出の防止性能を向上させることができる。
【0027】
図2は、シート状の第一の封止部材60(図2−1)と第二の封止部材40(図2−2)の各平面図を示している。第一の封止部材60は、液体収容部51の開口部分511を封止するためのシート状部材である。その一端部61は開口部分511の形状に合わせて、当該形状よりも一廻り大きな先尖形状となっており、他端62は引き剥がし開始部分であり、手力により引き剥がしをし易いように余裕を持った大きさとなっている。点線63は、選択的に採り入れることが可能な折り曲げ線又は切り取り線を示している。具体的には、当該点線部分の折り曲げ又は切り取りを容易にするための手段、すなわちミシン目等が施されていることにより、後述する本発明の使用方法におけるステップ(1)の液中抽出後、剥離された第一の封止部材60を液中抽出物の飛散防止を目的として再び元の封止状態に戻す場合に、当該点線部分63における折り曲げ又は切り取りが容易となる。折り曲げ又は切り取りは、第一の封止部材60の62部分による視界の妨げなく、検出窓52の目視を行うことを可能とするために行われる。なお当該点線を切り取り線とする場合には、他端62部分を引っ張って第一の封止部材60を剥ぎ取る際の引っ張り力を加えても容易には当該切り取り線が破れずに維持される程度の強度が要求される。また、第一の封止部材60を引っ張らずに綿棒2により破断する場合には、そもそも62部分自体の積極的な必要性は認められない。さらに、後述するように当該ステップ(1)の液中抽出後に、液体収容部51の表部における開口部分511を封止することが可能な蓋部材70を、当該開口部分に係合させることにより、液中抽出物の飛散防止と検出窓52の目視の容易化を実現することも可能である。
【0028】
第二の封止部材40の一端41近傍は、上筐体部材50の底部における小孔512を覆うための領域であり、好適な態様として当該小孔を覆うことが可能な十分な面積を有しており、他端42は手力により引っ張るための領域で摘みやすいように幅広になっている。なお、本例は上記の第二の封止部材の直接的な外部への突出態様であり、例えば、他端42近傍を本例のような第二の封止部材40の一部に替えて、他の部材、例えば引っ張りやすい形状や素材の紐部材等とする「外部への間接的な突出態様」とすることも可能である。さらに中間領域の一端41側にスライド穴53よりも幅広のストッパ領域43と他端42側に幅狭のスライド領域44が設けられている。第二の封止部材40の一端41は41’の状態へと折り込まれることにより、ループ状となって下部小孔512に接触している。この折り込みの方向は本例では下部小孔512の方向に向けて行っているが、逆に検出用マトリックス20側に向けて行ってもよい。剥離が前提の第一の封止部材と第二の封止部材は共に、薄くても丈夫であり、かつ、防水性と耐久性に優れている素材であることが好適である。このような素材としては、例えば、アルミ・ポリエチレンラミネートシート、アルミシート、プラスチックフィルム等を挙げることができる。第一の封止部材が剥離ではなく破断を行うことを前提とする場合には、押圧力により容易に破断する素材を用いることが必要である。実用性を鑑みると第一の封止部材は、本例のように剥離を前提とするものであることが好適である。
【0029】
本例では、第二の封止部材40と検出用マトリックス20の間における液体収容部51の底部小孔512の下部に相当する位置に、吸液浸潤部材30を介在させることができる。この吸液浸潤部材30は、下部小孔512からの検体抽出液を吸水してトラップしつつ、効率良く検出用マトリックス20の移動部22に浸潤させる素材であることが好適であり、例えば、ポリビニルアルコール、ポリウレタン等を基にする多孔質部材や、セルロース、グラスウール等を基にする繊維部材等を例示することができる。このような吸液浸潤部材を用いることにより、検体抽出液の漏出の防止をさらに完璧に行うことができる。
【0030】
さらに、上述した本発明の検査器具における各部分同士の、組み立て後の分解を防ぐために、必要に応じて分解防止手段を講ずることができる。例えば、上下の筐体部材が外れないように互いを係止することが可能な係止機構(例えば、凹構造と凸構造の組み合わせによる係止機構:図示せず)を設けることも可能である。また、上筐体部材50の検出用マトリックス20の吸収部24に対応する部位に蒸散窓(図示せず)を設けて、検出用マトリックス20における液体の移動をさらに促進することも可能である。さらに、必要に応じて本検査器具を用いやすくするためのデザイン上の工夫を行うこともできる。例えば、12にて表される細かい凹凸を伴う窪み形状は、本検査器具1を掴みやすくして、例えば、第一の封止部材60の引き剥がし時や第二の封止部材40の引っ張り時のスリップを防ぐための構造である。
【0031】
図4は、当該検査器具1の使用方法の長さ方向の側面から見た断面解説図である。
【0032】
図4(1)は、本発明の検査器具1の初期状態1において典型的な態様で使用する前の図3の全体斜視図に示した状態を示している。液体収容部51には検体を抽出するための液体514が収容されており、液体514と吸液浸潤部材30は第二の封止部材40により互いに隔離されて接触できない状態となっている。図4(2)は、綿棒2の差し込みを行った直後を示している。この差し込みを行う時点で、液体収容部51の第一の封止部材60は引き剥がされおり、綿棒2の差し込みが行われている。本図では、綿棒2を向かって右手方向から差し込んでいるが、その差し込みの方向は特に限定されない。例えば、第一の封止部材60の引き剥がしを行い、検体の抽出操作後に、当該第一の封止部材60で再び封止する場合は、第一の封止部材60はその一端部61を残して他端62のみ引き剥がしを行い、綿棒2を左手方向から差し込み、検体の抽出操作を完了して綿棒2を引き抜いた後に、前記部分剥離部分を再び元の状態に戻して再接着を行い再封止状態とすることができる。この場合には、第一の封止部材60の封止手段として用いられる接着剤は再封止可能な程度に、一回目の剥離後であっても相応の粘着力を発揮し得るものであることが必要である。またこのような第一の封止部材60による再封止を行う場合には、前述したように折り曲げ線又は切り取り線63が設けられていることにより、検出窓52の目視を行う際に妨げとなる62部分を、事前に折り曲げ又は除去することが容易となる。さらに上述のように、ここに図示した引き剥がしの他に、綿棒2により第一の封止部材60を破断して実質的に同一の検体抽出操作を行うことも可能である。
【0033】
これらの操作により液体収容部51中の検体を抽出するための液体514と、綿棒2の頭とが接触し、綿棒2の頭に付着した検体が当該液体514において抽出される。抽出される対象となる検体は特に限定されず、例えば、臨床検査用途に用いるのであれば、血液(全血、血清、血漿等)、リンパ液、尿、唾液、鼻汁、涙、糞便、肺洗浄液、骨髄液等、又は、これらの懸濁物や溶解物等が例示される。また、環境や食品の検査用途に用いるのであれば、検査対象となる土壌、水、食品等、又は、これらの懸濁物や溶解物等が挙げられる。さらに、細菌、ウイルス等の特定の生物種の核酸、特にPCR法等により得られた遺伝子増幅産物が挙げられる。また、液体514は、これらの検体を抽出するのに適した溶媒であれば限定されず、水、各種の緩衝液等の水性溶媒や、アルコール、アセトン、四塩化炭素等の有機溶媒等が例示される。液体収容部51の内壁面に凹凸構造513が設けられており、これにより綿棒2の頭を擦り取ることにより(矢印A)この頭部分に付着した検体の抽出を効率的に行うことができる。この凹凸構造513のような擦り取りを行うための場の位置と具体的な構造は、目的である検体の擦り取りの効率化を達成することが可能である限り特に限定されない。また、液体収容部51の底部近傍には綿棒2を差し込みやすくするための窪み構造(図示せず)を設けることができる。図4(3)は、上記の検体の抽出を終えて、液体抽出済みの綿棒2を液体収容部51から矢印Bの方向に抜き取る段階を示している。液体514’ は既に検出対象物を含有し得る状態となっている。以上の図4(1)〜(3)は、本発明の検出方法の「ステップ(1)」を示している。
【0034】
図4(4)は、本発明の検出方法の「ステップ(2)((2)’を含む)とステップ(3)」を示している。すなわち、蓋部材70を液体収容部51の表部における開口部分の外縁515に嵌合させて(矢印C)、当該開口部分を再封止する。この蓋部材70による再封止は本例のような第一の封止部材を全て剥ぎ取る場合は無論のこと、上述したような第一の封止部材60が当該部分に存在している場合にも行うことができる。第二の封止部材40の他端42を引っ張り力によって引っ張って、一端41’を含むループを解すことにより第二の封止部材40による隔離状態が解除され、下部小孔512と吸液浸潤部材30は直接接触し、抽出済みの液体514’は当該部材30において含浸状態となり、当該液体514’はこれと接触する検出用マトリックス20の移動部23にアプライされる(矢印E1)。次いで、検出用マトリックス20における毛細管現象により、液体514’は矢印E2方向への移動し、検出部22に担持された検出要素との接触反応により顕れるシグナルを、検出窓52を介して確認することによる、測定対象物の検出段階を示している。前記シグナルとは、典型的には検出対象物に関する抗原抗体反応に伴うシグナルであり、例えば、移動部23に担持され、水分の移動に伴い移動可能な状態となっている測定対象物に特異的な標識抗体、例えば金コロイドが担持された標識抗体に検出対象物が結合した状態で、検出部22に固定化された測定対象物に対して特異的な第2抗体でトラップされ、これが検出ゾーン22において目視可能な状態に金コロイドが蓄積することにより、液体514’における検出対象物を測定することができる。さらに残りの液体514’は随時吸収ゾーン24に吸収されることにより、上記の水分の移動は維持される。なお、上記の抗原抗体反応のシグナルとしては特に限定されずに、例えば、発色酵素、蛍光色素等による発色や蛍光が挙げられる。また、核酸のハイブリダイズ反応を用いる場合には、上記の標識抗体の代わりに、検出対象となる核酸に相補的な核酸を検出ゾーン22に固定化し、当該の相補的な核酸には、ハイブリダイズすることにより発光又は消光する手段を設けることによって、所望する核酸の測定を行うことができる。
【0035】
上述した態様は本発明の一態様であって、適宜必要に応じて他の態様を採ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
上述したように、本発明の検査器具では、検体の液体への抽出が器具内に設けられた構造中で行われ、かつ、当該抽出液と検出用マトリックスとの接触を同一の器具内で一ステップにて行うことが可能となる。すなわち、採取した検体を全て用いることが可能となり、検体の採取量を最小限とすることができる。また、全ての操作を実質的に同一の器具内で行うことができるので、複数の検体を検査する場合の検体の取り違えを防止することができる。さらに液体収容部の再封止を行うことにより、検体抽出液の外部環境への飛散等による汚染の抑止を徹底することが可能となる。そして、全体として検査ステップが簡便化されて迅速な検査が可能となり、かつ、検査の確実性は全く損なわれない。よって、本発明の検査器具と、当該検査器具の使用方法における産業上の利用性が十分に認められる。
【符号の説明】
【0037】
1 検査器具
2 綿棒
10 下筐体部材
11 バネ
20 検出用マトリックス
30 吸液浸潤部材
40 第二の封止部材
50 上筐体部材
51 液体収容部
511 液体収容部の表部における開口部分
512 液体収容部の底部における小孔
513 検出対象物の付着部分を擦り取ることが可能な場
514 検体を抽出するための液体
52 検出窓
60 第一の封止部材
70 蓋部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)表部における開口部分と底部における小孔を伴う、検体を抽出するための液体が収容されている液体収容部、(2)当該液体収容部の開口部分を封止する外力による剥離又は破断が可能な第一の封止部材と、底部小孔を封止する外力による剥離が可能な第二の封止部材、(3)検体が抽出された当該液体を浸潤力により移動させるための移動部と検出対象物を検出するための検出部が設けられている検出用マトリックス、及び、(4)当該検出部を外部から可視化するための1以上の検出窓、を具える検査器具であって、液体収納部の底部小孔と検出用マトリックスの移動部は第二の封止部材を挟んだ状態が保たれており、当該第二の封止部材は直接又は間接に検出器具の外部に突出し、当該突出部分に引っ張り力を加えることにより、第二の封止部材における前記の小孔の封止部分が剥離して、検出用マトリックスと液体収納部の底部小孔が直接接触する、検査器具。
【請求項2】
検出用マトリックスの移動部は、液体収容部の底部小孔の横断面積よりも広い面積部分を有し、当該の広い面積部分と底部小孔により第二の封止部材が挟み込まれている、請求項1に記載の検査器具。
【請求項3】
液体収容部の底部小孔、第二の封止部材、及び、検出用マトリックスの移動部、による挟み込み部分が押圧部材による押圧力がかけられた状態である、請求項1又は2に記載の検査器具。
【請求項4】
第二の封止部材と検出用マトリックスの間における液体収容部の底部小孔の下部に相当する位置に、吸液浸潤部材が挟み込まれている、請求項1〜3のいずれかに記載の検査器具。
【請求項5】
第二の封止部材における液体収容部の底部小孔に対する封止部分は、当該第二の封止部材の容器における突出部分と長さ方向において逆側の折り畳まれてなる端部であり、当該突出部分に引っ張り力をかけることにより当該の逆側端部の折り畳み状態が解除されて、底部小孔と検出用マトリックスが直接接触する、請求項1〜4のいずれかに記載の検査器具。
【請求項6】
液体収容部の内壁面に、採取棒における検出対象物の付着部分を擦り取ることが可能な場が設けられていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の検査器具。
【請求項7】
検出窓に対して検出用マトリックスの下流側に蒸散窓が設けられていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の検査器具。
【請求項8】
液体収容部の表部における開口部分を、第一の封止部材を剥離又は破断した後に封止可能な蓋部材が、付属物として備わっている、請求項1〜7のいずれかに記載の検査器具。
【請求項9】
下記のステップ(1)〜(3)を含む、請求項1〜7のいずれかに記載の検査器具の使用方法。
(1)液体収容部の第一の封止部材の一端を剥がして、又は、破断して、検体の付着した採取棒の先端を当該液体収容部に挿入して当該部中の液体に接触させて、検体の液中抽出を行うステップ、
(2)第二の封止部材の容器外部への突出部分に引っ張り力をかけて、当該封止部材を小孔から剥離させて、液体収容部における液中抽出物を検出用マトリックスの移動部に接触させるステップ、
(3)液中抽出物が検出用マトリックスに接触したことによる、当該液体の検出用マトリックスの移動部から検出部に向けての移動に伴う接触反応により顕れるシグナルを、検出窓を介して確認し、測定対象物の検出を行うステップ。
【請求項10】
下記のステップ(1)〜(4)を含む、請求項8に記載の検査器具の使用方法。
(1)液体収容部の第一の封止部材の一端を剥がして、又は、破断して、検体の付着した採取棒の先端を当該液体収容部に挿入して当該部中の液体に接触させて、検体の液中抽出を行うステップ、
(2)蓋部材により液体収容部の表部における開口部分を封止するステップ、
(3)第二の封止部材の容器外部への突出部分に引っ張り力をかけて、当該封止部材を小孔から剥離させて、液体収容部における液中抽出物を検出用マトリックスの移動部に接触させるステップ、
(4)液中抽出物が検出用マトリックスに接触したことによる、当該液体の検出用マトリックスの移動部から検出部に向けての移動に伴う接触反応により顕れるシグナルを、検出窓を介して確認し、測定対象物の検出を行うステップ。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−247231(P2012−247231A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117471(P2011−117471)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000224123)藤倉化成株式会社 (124)
【Fターム(参考)】