説明

検査容器、検査装置、並びに検査方法

【課題】予め小型の検査容器に試薬が封入されており、容器ごと携帯型の測定装置にセットして臨床現場で検査を実施できる検査装置を提供すること。
【解決手段】マイクロチューブ1は、円筒管を3つに区画して、検体貯留部12、試薬セル13、試薬セル14を形成したものである。検体貯留部12と試薬セル13は血漿分離フィルタ15で区画され、試薬セル13,14は空気層17などの試薬分離構造部で区画される。試薬セル13,14には試薬R1,R2が予め封入される。検体貯留部12に血液を入れると、血漿成分が分離されて試薬セル13に移送され、試薬R1と反応する。反応後、空気層17を破壊して試薬R2と反応させる。試薬R1,R2による前処理後の反応物は、マイクロチューブ1ごと測定装置2にセットされ、吸光度測定を行う。マイクロチューブ1内に攪拌チップなどを封入しておいてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液などの検体(試料)に試薬を加えて反応させ、反応物に対して一般生化学検査、免疫検査などの検査を行うための検査容器および検査装置並びに検査方法に関するものである。さらに詳しくは、小型の検査容器に必要な試薬を予め封入しておき、この検査容器に検体を入れて試薬と反応させたのち、検査容器ごと測定装置にセットしてその場で測定を行って検査結果を確認できる臨床用の検査容器および検査装置並びに検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
血液検査などの臨床検査は、患者から採取した検体(血液)を病院検査室や外部検査センターに送り、大型検査装置や据え置き型検査装置で検査を行うのが一般的である。このような検査方法では、診療現場において採血後にその場ですぐ検査を実施して検査結果を確認することができず、迅速な診断を行うことができなかった。また、採取した検体(血液)を試薬と混合する過程で検体に異物が混入したり、検査従事者が検体に接触して病原体に感染するなどのアクシデントが発生するおそれがあった。
【0003】
そこで、特許文献1に記載されているように、容器中にフィルタと試薬が予めセットされた臨床検査キットが提案されている。この臨床検査キットでは、有底の管状の容器本体の内部を血液分離フィルタおよび血球停止フィルタなどのフィルタ層で上下に仕切ってある。容器の底部には液状や粉末状などの試薬がセットされており、試薬とフィルタ層との間には、もう1つ別の仕切り層が設けられている。容器本体の上端開口には栓体が取り付けられ、容器本体を減圧状態に密閉している。試料となる血液は、栓体に取り付けた真空採血針などから減圧状態の容器内に導入される。導入した血液中の血漿あるいは血清は、フィルタ層によって分離された後、仕切り壁の貫通孔を通って試薬の上に滴下し、試薬と反応する。特許文献1の臨床検査キットは、このような構成により、容器内に直接採血するだけで血漿あるいは血清を分離して試薬と反応させることができる。よって、臨床検査などにおける前処理を迅速かつ容易に行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−003482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の臨床検査キットでは、血漿あるいは血清に試薬を加えて反応させたのち、反応物に対してさらに別の試薬を加えて反応させるなどの複数段階の前処理を行うことはできなかった。また、特許文献1には、前処理後の反応物に対する各種測定を、診療現場において迅速かつ容易に行うための構成は提案されていなかった。
【0006】
本発明の課題は、このような点に鑑みて、血液などの検体を導入した容器内において、容器外からの操作のみによって少なくとも2段階の検体と試薬との反応を行い、更に、この容器ごと測定装置にセットして検査を行うことが可能な検査容器および検査装置、並びに、このような検査容器および検査装置により実施可能な検査方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の検査容器は、
検体を貯留する検体貯留部と、
第1試薬が封入されている第1試薬貯留部と、
第2試薬が封入されている第2試薬貯留部と、
前記検体貯留部および前記第1試薬貯留部の間に配置された検体分離構造部と、
前記第1試薬貯留部および前記第2試薬貯留部の間に配置された試薬分離構造部とを有し、
前記検体貯留部は前記検体を当該検体貯留部に導入するための検体導入部を備え、
前記検体分離構造部は、前記検体に含まれる所定の目的成分のみを分離して前記第1試薬貯留部内に移送できる構成であり、
前記試薬分離構造部は、前記検査容器外から所定の外力あるいは外部操作を加えることにより、前記第1試薬貯留部と前記第2試薬貯留部を区画している状態から、前記第1試薬貯留部の内容物と前記第2試薬貯留部の内容物とを混合可能な状態に変化することを特徴とする。
【0008】
このように、本発明の検査容器では、検体貯留部、第1試薬貯留部、および第2試薬貯留部が互いに区画されて配置されているので、血液などの検体を、検体貯留部から第1試薬貯留部と第2試薬貯留部に、順次、導入することができる。具体的には、検体貯留部内に検体を導入すると、この検体中の目的成分のみが検体分離構造部によって分離されて第1試薬貯留部に移送される。従って、第1試薬貯留部において目的成分と第1試薬を反応させることができる。また、目的成分と第1試薬との反応後に、検査容器外から所定の外力あるいは外部操作を加えることにより、試薬分離構造部の状態を変化させて、第1試薬貯留部の内容物(反応物)と、第2試薬貯留部の内容物(第2試薬)を混合させることができる。従って、第1試薬と反応させた後の反応物を、さらに、第2試薬と反応させるという2段階の前処理を行うことができる。
【0009】
このように、本発明では、検査容器に検体を入れて、検体および試薬を検査容器に封入したままで容器外から外力などを加えたり操作を行うだけで、検体中から目的成分を分離し、この目的成分と第1、第2試薬とを順次反応させる2段階の前処理を行うことができる。従って、生化学検査などを行うために必要な前処理を、検査容器に封入したままで、検体の採取現場などの所望の場所において、迅速かつ容易に行うことができる。
【0010】
本発明において、管状の容器本体を有し、当該容器本体の内部には、その長さ方向の一端から他端に向けて、前記検体貯留部、前記検体分離構造部、前記第1試薬貯留部、前記試薬分離構造部、および前記第2試薬貯留部がこの順序に配置されており、前記容器本体の前記一端に前記検体導入部が形成されているとよい。このようにすれば、1本の管状体の内部に検査容器の構造を収めることができ、構成を単純にすることができる。
【0011】
本発明において、前記試薬分離構造部は、前記第1試薬貯留部と前記第2試薬貯留部を区画する仕切り層を有し、当該仕切り層は、空気層、前記第1試薬および前記第2試薬が透過しない材質の膜体あるいは栓体、のいずれかであるとよい。このように、空気層で試薬を区画すれば、構成部材点数を削減でき、検査容器の構成を単純にすることができる。また、膜体や栓体などにより仕切り層を形成すれば、第1試薬および第2試薬を確実に区画することができる。
【0012】
本発明において、管状の容器本体と、管状あるいは袋状の試薬容器とを有し、前記容器本体の内部には、その長さ方向の一端から他端に向けて、前記検体貯留部、前記検体分離構造部、および前記第1試薬貯留部がこの順序に配置されており、前記第1試薬貯留部の前記他端側の部位に前記試薬容器が内蔵されており、当該試薬容器が前記試薬分離構造部であり、当該試薬容器の内部が前記第2試薬を貯留する前記第2試薬貯留部であるとよい。また、前記試薬容器は、前記第1試薬貯留部と前記第2試薬貯留部を仕切っている仕切り層を備え、当該仕切り層は、前記第1試薬および前記第2試薬が透過しない材質で形成されているとよい。このような構成にすると、第2試薬を検査容器の最も内側に収納できるので、第2試薬に対する光や外気温、あるいは衝撃などの影響を少なくできる。また、試薬容器を破壊したときに第1試薬と第2試薬が混ざりやすい。
【0013】
本発明において、前記試薬分離構造部は、所定の外力あるいは外部操作を加えることにより作動して前記仕切り層の少なくとも一部を破壊する破壊部材を有しているとよい。このようにすると、仕切り層が破壊された部分において第1試薬貯留部と前記第2試薬貯留部が連通されるので、第1試薬貯留部と第2試薬貯留部の内容物を混合することができる。
【0014】
本発明において、前記破壊部材は、前記第1試薬貯留部または前記第2試薬貯留部にその一部が前記検査容器外から挿入されているピストンであり、当該ピストンが前記仕切り層側に圧入されることにより、前記仕切り層が突き破られるようにするとよい。このようにすると、ピストンによって仕切り層を確実に破ることができる。
【0015】
本発明において、前記試薬分離構造部は、前記第1試薬貯留部と前記第2試薬貯留部の間に挟まれた反応層を有し、当該反応層内の圧力は、前記第1試薬貯留部内の圧力および前記第2試薬貯留部内の圧力よりも小さいとよい。このようにすると、反応層を、試薬や反応物を第1、第2試薬貯留部からオーバーフローさせるための逃げ部として機能させることができる。また、反応層内の圧力を第1、第2試薬貯留部に対して小さい圧力、すなわち、負圧(もしくは真空)にすれば、反応層内に試薬などがスムーズに導入される。
【0016】
本発明において、前記検査容器内における前記第1試薬貯留部の内容物と前記第2試薬貯留部の内容物との混合領域に、所定の外力あるいは外部操作を加えることにより作動する攪拌部材が配置されているとよい。このようにすると、攪拌部材を作動させて各内容物を十分に混合させることができる。これにより、検体中の目的成分と試薬を十分に反応させて正確な検査結果を得ることができる。また、検体や試薬が少量でも確実に反応させることができる。
【0017】
本発明において、前記攪拌部材は、前記検査容器全体が移動したことによる慣性力に基づいて、あるいは、前記検査容器外に配置された磁界発生機構により発生した磁界に基づいて作動するように構成してもよい。より具体的には、前記攪拌部材は、前記検査容器内に前記検査容器外から挿入されているピストン、または、前記検査容器内に予め封入されている球体、オリフィス、およびばね部材のいずれかであるとよい。このようにすると、慣性力や磁界により、攪拌部材を検査容器内に封入したまま作動させることができる。また、攪拌部材としてピストンを用いれば、手動でピストンを動かして攪拌できるので、反応過程を確認しながら攪拌量を自由に調整することもできる。
【0018】
本発明において、前記検査容器は、前記目的成分と前記第1試薬および前記第2試薬との反応物が貯留される貯留領域に、前記検査容器の外部から吸光度測定のための検査光を照射できる構成であり、且つ、前記貯留領域において吸光度測定に必要な光路長を確保できるように構成されているとよい。このようにすると、検査容器内に第1、第2試薬との反応後の反応物を封入したままで、この反応物に対して吸光度測定を行うことができる。よって、測定作業を迅速かつ容易に行うことができ、測定後の反応物の廃棄も容易である。
【0019】
本発明において、前記検査容器内において前記目的成分と前記第1試薬および前記第2試薬との反応物が貯留される貯留領域に、前記検査容器外に接続するための電極を設けるとよい。このようにすると、検査容器内に前処理後の反応物を封入したままで、反応物の電気的特性の測定を行うことができる。よって、測定作業を迅速かつ容易に行うことができ、測定後の反応物の廃棄も容易である。
【0020】
本発明において、前記検体導入部は、前記検体貯留部内外を連通する孔部であり、当該孔部は、前記検体を毛細管現象により直接吸い込み可能な毛細管形状、前記検体が保持された検体保持具を前記検体貯留部内に挿入可能な形状、前記検体を採取するための検体採取具を取付可能な形状、のいずれかの形状にすることができる。また、前記検体が血液であるときには、前記検体分離構造部として血漿分離フィルタを用いることができる。
【0021】
また、本発明の検査装置は、上記各構成の検査容器と、前記検体に含まれる前記目的成分と前記第1試薬および前記第2試薬との反応物に対して、前記検査容器に封入したままの状態で生化学検査に関する所定の測定を行うことが可能な測定装置と、を備えたことを特徴とする。このような構成により、検体中の目的成分の分離および第1、第2試薬との反応、すなわち、検体の前処理を、検査容器内に入れたままで行うことができる。さらに、前処理後の反応物に対する測定を、検査容器に入れたままで、測定装置によって行うことができる。従って、この検査容器および検査装置さえあれば、検体の採取現場などの所望の場所で、必要な検査をその場で容易かつ迅速に行うことができる。また、前処理中および測定中の反応物は容器内に封入されたままであるので、測定後の反応物の廃棄が容易である。なお、測定装置は携帯可能なものでもよい。
【0022】
本発明において、前記測定装置は、前記検査容器を保持する保持部と、当該保持部に保持された前記検査容器全体の回転、加速、減速、振動、あるいは、前記検査容器外に配置された磁石または超音波振動子の作動、の少なくともいずれかを行う可動部と、前記検査容器に測定用電流を印加あるいは検査光を照射すると共に前記検査容器からの前記測定用電流あるいは検査光に対する応答出力を検知する測定部と、前記応答出力に基づいて算出された測定値が表示される表示部と、前記保持部、前記可動部、前記測定部、前記表示部の少なくともいずれかに対する操作を行うための操作部と、を備える。このように構成すれば、検査容器に対して可動部により外力を加えたり操作を行って検査容器の内部に封入された機構などを作動させることができる。また、検査容器外から検査容器内の反応物の物性を測定できる。また、測定値をその場で表示して検査結果を確認できる。
【0023】
また、本発明の検査方法は、
検体貯留部、第1試薬貯留部、および第2試薬貯留部が互いに区画されて1列に配置されており、前記第1試薬貯留部には第1試薬が予め封入され、前記第2試薬貯留部には第2試薬が予め封入されている検査容器を用いた検査方法であって、
前記検体貯留部内に検体を取り込む検体取り込み工程と、
前記検体貯留部と前記第1試薬貯留部とを区画する検体分離構造部により、前記検体貯留部内に取り込まれた検体に含まれる所定の目的成分のみを前記第1試薬貯留部内に移送する検体移送工程と、
前記第1試薬貯留部内において、前記目的成分を前記第1試薬と混合させて反応させる第1反応工程と、
前記第1試薬貯留部と前記第2試薬貯留部を区画している試薬分離構造部に所定の外力あるいは外部操作を加えることにより、前記第1試薬と前記目的成分との反応物を前記第2試薬と混合させて反応させる第2反応工程と、を行うことを特徴とする。
【0024】
このように、本発明では、検体に含まれる目的成分を第1試薬貯留部に導入して第1試薬と反応させた後、反応物を第2試薬貯留部に導入して、さらに第2試薬と反応させることができる。つまり、2種類の試薬を検体に含まれる目的成分と順次反応させる2段階の前処理を、検査容器に封入したままで行うことができる。従って、臨床検査などにおける前処理を、容易かつ迅速に行うことができる。
【0025】
本発明において、前記第2反応工程における反応物を、前記検査容器に封入したままの状態で測定装置にセットして、生化学検査に関する所定の測定を行うとよい。このようにすると、第1、第2試薬による前処理後の反応物に対する測定を、検査容器に入れたままで、測定装置によって行うことができる。よって、この検査容器および検査装置さえあれば、検体の採取現場などの所望の場所で、必要な検査をその場で簡易かつ迅速に行うことができる。また、前処理中および測定中の反応物は容器内に封入されたままであるので、測定後の反応物の廃棄が容易である。なお、測定装置は携帯可能なものでもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明では、検体および試薬を検査容器に封入した状態で、検体に含まれる目的成分を分離して第1試薬貯留部に導入し、第1試薬と反応させた後、反応物を第2試薬貯留部に導入して、さらに第2試薬と反応させることができる。つまり、2種類の試薬との反応を2段階に分けて行う前処理を、検査容器に検体および試薬を封入したままで行うことができる。従って、生化学検査などを行うために必要な前処理を、検体の採取現場などの所望の場所において、迅速かつ容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】第1実施形態に係る検査装置の説明図およびマイクロチューブの断面図である。
【図2】第1実施形態に係る検査方法のフローチャートである。
【図3】第1実施形態に係る測定装置のブロック図である。
【図4】第2実施形態に係る検査装置の説明図およびマイクロチューブの断面図である。
【図5】第3実施形態に係る検査装置の説明図およびマイクロチューブの断面図である。
【図6】第4実施形態に係るマイクロチューブの断面図である。
【図7】改変例の攪拌部材の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を適用した検査容器および検査装置の実施の形態について説明する。
【0029】
(第1実施形態)
図1(a)は本実施形態に係る検査装置の概略構成を示す説明図、図1(b)はマイクロチューブの断面図、図2は本実施形態に係る検査方法のフローチャート、図3は測定装置のブロック図である。
【0030】
図1(a)に示すように、検査装置Aは、試薬が予め封入されている試薬一体型のマイクロチューブ1(検査容器)と、このマイクロチューブ1をセットして回転させることにより遠心力を発生させたり、マイクロチューブ1を加振したり、あるいは吸光度測定などを行うための測定装置2を備えている。本実施形態の検査装置Aは、臨床検査に必要なさまざまな生化学検査を行うために用いられる。例えば、患者の血液を検体とする生化学検査では、血液中の所望の成分(例えば、血漿成分)を分離して試薬を反応させる前処理を行い、前処理後の反応物に対して吸光度測定などを行って血液中の成分濃度などを測定する。マイクロチューブ1は、その内部に予め試薬が封入されており、血液を入れると血漿成分を分離して試薬と反応させることができる構造になっている。また、マイクロチューブ1は、前処理後の反応物を封入したまま測定装置2にセットすることができ、マイクロチューブ1の外側から検査光を照射して吸光度測定を行うことができる構造になっている。
【0031】
(検査容器の構成)
図1(b)に示すように、マイクロチューブ1は、外径3mm×長さ50mm程度の大きさの細長い小型の容器本体11(管状体)を備える。マイクロチューブ1は、一端側を閉鎖した直線状の円筒管である容器本体11の内部をその長さ方向に3つに区画して、その開放端側の端部の区画を血液などの検体を入れるための検体貯留部12とし、その隣の区画を試薬R1(第1試薬)を入れるための試薬セル13(第1試薬貯留部)とし、閉鎖側の端部の区画を試薬R2(第2試薬)を入れるための試薬セル14(第2試薬貯留部)としている。なお、マイクロチューブ1の形状および寸法は、中に入れる検体や試薬の容量などに応じて、適宜変更可能である。
【0032】
容器本体11は、内部に封入される試薬R1,R2などと反応しない材質で形成されており、例えば、ガラス管やアクリル等の樹脂製の管などが用いられる。また、容器本体11は、外部から内部の反応状態を確認したり、吸光度測定用の検査光を外部から照射可能にするために、少なくともその一部については、光透過性のある材質により形成されている。本実施形態では、容器本体11全体が透明な材質により形成されている。
【0033】
検体貯留部12は、容器本体11の軸線方向に延びる内径(D1)を約1mmの筒状の空間である。検体貯留部12の試薬セル13側の端部には、血漿分離フィルタ15(検体分離構造部)が配置されており、試薬セル13と仕切られている。血漿分離フィルタ15は、血液中の血漿成分(目的成分)のみが透過可能な材質及び構造であり、例えば、血球が通過できない程度の隙間をもつ多孔質膜や、ガラス繊維膜などが用いられる。また、血漿成分の吸引速度が血球成分の吸引速度よりも早い構造体などを用いて、血漿成分を分離する構成にしてもよい。
【0034】
なお、血漿分離フィルタ15の代わりに、血漿分離機能を有するキャピラリーチップを検体貯留部12と試薬セル13の間に取り付けて、このキャピラリーチップ内に検体貯留部12から血液を流入させる構造にしてもよい。また、キャピラリーチップと検体貯留部12とを一体に形成し、キャピラリーチップ内に検体導入口16から直接血液が流入するようにしてもよい。
【0035】
検体貯留部12における試薬セル13とは反対側の端部には、血液などの検体を検体貯留部12内に導入するための検体導入口16(検体導入部)が形成されており、外部に連通されている。本実施形態における検体導入口16は、血液を採取した採血管を検体貯留部12内に挿入可能な寸法の孔である。
【0036】
検体導入口16は、検体の導入方法に応じた構成にすることができる。例えば、検体導入口16を毛細管形状にしたり孔状の検体導入口16内に網状体などをセットすれば、ランセットなどによって患者の皮膚上に滲出させた血液の表面に検体導入口16を接触させるだけで、毛細管現象により血液を吸い込ませることができる。毛細管形状にする場合には、吸い込み口側が広がったテーパー状の毛細管形状にすることにより、吸引力を高めることができる。また、検体導入口16に無痛針などの血液採取具を一体に取り付けることにより、血液の採取時に、直接血液を検体貯留部12内に導入できるようにしてもよい。このようにすれば、血液採取具を別途準備する必要がなくなる。なお、汚染防止のために、不使用時には、検体導入口16にキャップやシール、栓体などの封止部材を取り付けるようにするとよい。
【0037】
検体貯留部12は、検査に必要な少量の検体(血液)を導入可能な容積を有している。本実施形態では、検体貯留部12の内径D1を約1mmとしているので、検体導入口16から血漿分離フィルタ15の表面までの長さL1を約1.3mmにすることにより、検体貯留部12に約1μlの検体を導入できる。なお、検体貯留部12の内径や長さを適宜変更することにより、1μlより多い量、あるいは少ない量の検体を貯留できるようにしてもよい。
【0038】
試薬セル13,14は、容器本体11内において検体貯留部12と同軸上に形成された筒状の空間である。試薬セル13,14は空気層17(試薬分離構造部/仕切り層)によって仕切られている。容器本体11における空気層17が設けられた部位の内壁面11aには、疎水加工処理が施されている。本実施形態では、試薬セル13,14の内径D2,D3をいずれも約2mmとし、試薬セル13,14の長さL2,L3をいずれも約15.9mmとしている。これにより、試薬セル13,14は、それぞれ、約50μlの試薬をセット可能な容積となっている。試薬セル13,14には、マイクロチューブ1の製造時に、予め、液状の試薬R1,R2が封入されている。
【0039】
試薬セル13,14は、その内部において血漿成分と試薬R1,R2が混合される混合領域として機能すると共に、混合後の反応物が貯留される貯留領域となり、反応物に対して吸光度測定を行うための測定用セルとして機能する。
【0040】
なお、本実施形態では、試薬R1,R2を仕切る仕切り層が空気層17であるが、仕切り層として、PTFE膜(ポリテトラフルオロエチレン膜)などの膜体あるいはガラス層などを取り付けてもよい。また、仕切り層として、液圧、遠心力、振動などにより外れる栓体、あるいは、液圧、遠心力、振動などにより開く弁装置を取り付けた膜体や栓体などを用いても良い。
【0041】
(検査方法/検体の前処理方法)
以上のような構成のマイクロチューブ1を用いて、図2に示すフローチャートのS1〜S4の各工程を行うことにより、本実施形態の検査方法における検体(血液)の前処理を行うことができる。
【0042】
(1)検体取り込み工程:S1
まず、診療現場において患者から血液を採取し、その場で、採取した血液をマイクロチューブ1の検体導入口16から検体貯留部12内に入れる。本実施形態では、血液が内部に保持された採血管を検体導入口16に挿入して、採血管内から必要量の血液を検体貯留部12内に移す。
【0043】
(2)検体移送工程:S2
(1)において検体貯留部12内に導入された血液は、血漿分離フィルタ15側に流れて血漿分離フィルタ15の表面に接触し、血漿成分のみが試薬セル13側に移送される。移送された血漿成分は、試薬セル13内に流入して試薬R1と混合される。ここで、血液と血漿分離フィルタ15を接触させただけでは血漿成分が試薬セル13側にスムーズに移送されない場合には、図1(b)に示すように測定装置2にマイクロチューブ1をセットし、矢印X方向にマイクロチューブ1を回転させて遠心力などを発生させる。これにより、血漿成分を試薬セル13側に移送できる。
【0044】
(3)第1反応工程:S3
試薬セル13内に流入した血漿成分は、試薬R1と混合され、反応する。ここで、血漿成分と試薬R1を十分に混合させて十分に反応させるために、マイクロチューブ1を所定の方向に向かって回転あるいは加減速させたり、振動を与えたり、外部から衝撃を与えたり、あるいは、超音波振動子を作動させて超音波により加振するとよい。なお、このような外力や外部操作による運動や加振、あるいは衝撃などは、この工程では、血漿成分と試薬R1を攪拌して混合させることが可能な程度の強さで与えればよく、試薬セル13,14の間を仕切る空気層17を破壊しない程度の強さとする。血漿成分と試薬R1の混合後、所定の反応時間の経過により、試薬セル13内において血漿成分と試薬R1が十分に反応する。
【0045】
(4)第2反応工程:S4
血漿成分と試薬R1が十分に反応したら、続いて、空気層17を破壊して試薬セル13,14を連通させる。空気層17を破壊するためには、例えば、マイクロチューブ1を十分に早く高速回転させて大きな遠心力を発生させたり、空気層17に強い衝撃を与えたり、空気層17の部位に集中的に超音波を照射することが考えられる。このような外力や外部操作に基づいて空気層17が破壊されると、試薬セル13,14が連通され、試薬セル13,14内の内容物が混合される。そして、第1反応工程時と同様に、空気層17の破壊後に更にマイクロチューブ1に振動などを加えることにより、血漿成分と試薬R1との反応物(以下、一次反応物という)と試薬R2を攪拌して十分に混合させる。そして、所定の反応時間の経過により、一次反応物と試薬R2を十分に反応させる。これにより、二次反応物が生成される。以上により、検体(血液)の前処理が完了する。
【0046】
(測定装置の構成)
次に、以上説明したマイクロチューブ1をセットして回転させたり、加振したり、あるいは吸光度測定などを行うための測定装置2について説明する。測定装置2は、縦約100mm×横約150mm×厚さ約50mm程度の携帯可能な大きさに形成されている。図1(a)に示すように、測定装置2の外殻部材であるケース21の上面には、マイクロチューブ1を保持可能な可動部材22と、各種データを表示するための小型液晶モニタなどの表示部23と、この測定装置2に対する各種操作を行うためのボタンやテンキーなどの操作部24などが設けられている。
【0047】
図3は測定装置2のブロック図である。この図に示すように、測定装置2は、可動部材22に保持されているマイクロチューブ1に回転、加速、減速などの各種運動を行わせたり、あるいは衝撃や振動などを与えるための可動部25と、マイクロチューブ1に封入された内容物(二次反応物)に対して吸光度測定を行うための測定部26(吸光度測定手段)と、操作部24からの入力に基づいて、表示部23、可動部25、および測定部26を制御するための制御部27を備えている。また、これら以外にも、測定装置2は、バッテリや、データの入出力用の接続端子、測定結果を印刷して出力するための小型プリンタなどを備えていてもよい。
【0048】
本実施形態では、マイクロチューブ1にセットされる試薬の種類などを変えることにより、様々な検査項目のための前処理を行うことが可能である。つまり、さまざまな組み合わせの試薬を封入したマイクロチューブ1を検査項目に応じた種類数だけ予め製造しておくことにより、診療現場において患者ごとに必要な種類のマイクロチューブ1を適宜選び、必要な項目だけ検査を行うことができる。また、測定装置2に検査の種類に応じた制御プログラムを記憶させておくことにより、例えば、操作部24において検査の種類を入力するだけで、前処理時における各工程においてマイクロチューブ1に与える回転や振動などを自動で制御できる。また、後述する吸光度測定において測定部26から照射する検査光の波長成分を検査の種類に応じて自動的に変えることができる。
【0049】
可動部25は、ケース21の内部に配置された駆動用のモータや動力伝達機構などを備えており、動力伝達機構などを介して可動部材22に連結されている。可動部材22および可動部25は、可動部材22に保持されたマイクロチューブ1を、3次元空間内において自在に動かすことができるように構成されている。例えば、マイクロチューブ1を、その軸方向あるいは軸方向と直交する方向に進退動させたり、マイクロチューブ1をその中心軸あるいは中心軸と直交する回転軸まわりに回転させたりすることができる。また、マイクロチューブ1に、これらの運動を組み合わせた運動を行わせることができる。
【0050】
また、可動部25は、可動部材22の近傍に設置された図示しない振動板などの加振部材およびこの加振部材を動かすための振動用モータ、および、可動部材22に保持されたマイクロチューブ1に所定の衝撃力で衝撃を加えるための図示しない衝撃部材および衝撃用モータ、などを備えていてもよい。さらに、可動部25は、図示しない超音波発振子を備えていてもよい。可動部25は、これらの構成を備えることにより、マイクロチューブ1に所望の強さの振動や衝撃を所望のタイミングで与えることが可能となる。
【0051】
測定部26は、マイクロチューブ1に吸光度測定用の特定波長の検査光を照射するための光源ユニットと、マイクロチューブ1内の光路を通ってマイクロチューブ1の外部に射出された透過光を受光するための受光ユニットなどを備えた分光光度計26aと、光源ユニットからの照射光を受光可能な位置にマイクロチューブ1を保持可能な測定孔26bを有する。測定孔26bは、例えば、ケース21の表面に開口しており、その内径がマイクロチューブ1の外径よりもわずかに大きい細長い直線状の孔である。また、測定孔26bは、マイクロチューブ1を試薬セル14側から挿入した場合に、測定用セルとなる試薬セル13,14が完全に挿入された位置でマイクロチューブ1を保持する構造になっている。
【0052】
光源ユニットは、白色レーザ光源とバンドパスフィルタを備えており、このバンドパスフィルタを通過した特定波長の光を検査光として射出する。なお、バンドパスフィルタに代えて、ダイクロイックプリズムを用いて特定波長の光を射出する構成にしてもよい。受光ユニットは、フォトダイオード、フォトトランジスタまたはフォトマルチプレクサなどの受光素子と、マイクロチューブ1からの透過光を受光素子に導くための光ファイバなどを備えている。
【0053】
光源ユニットおよび受光ユニットは、測定孔26b内の所定の位置に光源ユニットの光照射部および受光ユニットの受光素子が露出するように配置されている。光照射部および受光素子の配置は、照射された光がマイクロチューブ1内に入射して外部に射出されるまでに通る光路の長さが、吸光度測定に必要な光路長以上の長さになるような位置に設定されている。なお、マイクロチューブ1が小さいため、測定用セルである試薬セル13から試薬セル14までの長さが必要な光路長よりも短くなってしまう場合には、測定孔26b内の所定位置に反射面や光屈折面を設けることにより、一旦マイクロチューブ1外に出た透過光を反射あるいは屈折させてマイクロチューブ1内に戻し、必要な光路長が確保できようにすることができる。なお、マイクロチューブ1における容器本体11の内周面を反射面や光屈折面となるように加工したり、あるいは容器本体11内に反射部材を配置するなどの構成により、容器本体11内において検査光を必要な方向に必要な回数だけ反射あるは屈折させて、光路長を確保できるようにしてもよい。
【0054】
(検査方法/吸光度測定)
以上のような構成のマイクロチューブ1および測定装置2を用いて行われる、本実施形態の検査方法における吸光度測定について説明する。この測定は、図2に示すS5の工程を実施することにより行われる。この工程は、患者の採血が行われた診療現場において、検体(血液)の前処理工程(S1〜S4)に引き続いて行われる。
【0055】
(5)測定工程:S5
本工程では、前処理後の二次反応物が封入された状態のマイクロチューブ1を、測定孔26bにセットする。そして、操作部24を操作して分光光度計26aを作動させ、光源ユニットから特定波長の検査光をマイクロチューブ1に照射する。測定部26の分光光度計26aは、受光ユニットにより透過光を検出して、その強度および波長成分のデータを制御部27に出力する。制御部27は、測定部26からのデータに基づいて検体に含まれる成分の濃度などを算出し、測定結果を表示部23に表示する。このようにして、吸光度測定工程が完了し、検査が完了する。
【0056】
(本実施形態の効果)
以上のように、本実施形態では、小型のマイクロチューブ1に2種類の試薬R1,R2を分離した状態で封入しておくことができる。また、このマイクロチューブ1は、患者から採取した血液などの検体を少量だけ入れることにより、マイクロチューブ1内において血液中から血漿成分などを分離し、更に、分離した血漿成分と試薬R1,R2を順次反応させる前処理を行うことができる。つまり、血液検査のための前処理を、患者から採血したその現場で、迅速かつ容易に行うことができる。また、試薬が最初からマイクロチューブ1にセットされているので、取り扱いが容易である。
【0057】
本実施形態では、前処理後の反応物をマイクロチューブ1に封入したまま携帯型の測定装置2にセットして吸光度測定を行うことができるので、採血したその現場において、すぐに検査を行うことができ、すぐに検査結果を知ることができる。また、前処理および吸光度測定を、試薬や検体(血液)をマイクロチューブ1に封入したまま行うので、検査後における試薬や検体の廃棄が容易である。また、このような構成では、臨床検査で行う検査項目ごとに、それぞれ必要な試薬を封入したマイクロチューブ1を適宜準備しておくことができる。よって、臨床現場において、各患者ごとに、必要な項目の検査だけを適宜選択して行うことができる。これにより、臨床検査における検査担当者および患者の負担が少なくなる。
【0058】
(第2実施形態)
図4(a)は第2実施形態の検査装置A1の概略構成を示す説明図、図4(b)は第2実施形態のマイクロチューブ3の断面図である。以下、本実施形態について、第1実施形態とは異なる点のみ説明する。本実施形態のマイクロチューブ3は、試薬セル31と試薬セル32との間に、所定の容積の反応層33を設けたものである。反応層33における試薬セル31,32側の面には、それぞれ、PTFE膜(ポリテトラフルオロエチレン膜)などの試薬R1,R2を透過しない膜体からなる仕切り層34,35が設けられている。これにより、使用前の状態では、試薬R1,R2が反応層33内に侵入しない。また、反応層33内の圧力は、試薬セル31,32内の圧力よりも低くなるように予め減圧されている。なお、反応層33内を真空にしておいてもよい。
【0059】
仕切り層34,35を弾力性のある膜体にすれば、試薬セル31,32内の液体の容積が増加するなどして液圧が高くなった場合に、仕切り層34,35が反応層33側に膨らんで容積増加分を吸収できる。また、仕切り層34あるいは35に弁装置などを設けてこの弁装置が試薬セル31,32側の液圧が高くなったら開くようにすれば、反応層33側に試薬セル31,32の内容物を適宜オーバーフローさせることもできる。また、反応層33は、このような逃げ空間として機能させるだけでなく、試薬セル31,32側から試薬や検体を流入させてこの中で混合し、反応させるための反応チャンバとして機能させることができる。すなわち、仕切り層34,35を破壊して、反応層33内に試薬セル31,32の内容物を流れ込ませて混ぜることができる。
【0060】
本実施形態では、反応層33内に、仕切り層34,35を破壊し、且つ、反応層33内に流れ込んだ液体を攪拌することができる攪拌チップ36(破壊部材/攪拌部材)が封入されている。攪拌チップ36は、仕切り層34,35側に向かって突出する突起部36a,36bを有しており、反応層33内をマイクロチューブ3の軸方向に摺動可能な形状である。マイクロチューブ3全体を軸方向に振動させると、攪拌チップ36は、慣性力によって、反応層33内を試薬セル31側または試薬セル32側に動く。これにより、突起部36a,36bによって仕切り層34,35が突き破られ、反応層33と試薬セル31,32が連通する。そして、反応層33内に試薬セル31,32の内容物が流れ込んだ後、さらにマイクロチューブ3を振るなどして攪拌チップ36を動かすことにより、反応層33内あるいは試薬セル31,32内の液体を攪拌して十分混合させることができる。
【0061】
本実施形態では、攪拌チップ36が鉄などの磁性物で形成されており、測定装置4が、この攪拌チップ36を反応層33内で動かすための磁界発生機構41を備えている。磁界発生機構41は、測定装置4におけるマイクロチューブ3の保持位置に隣接して取り付けられた磁石41aと、この磁石を所定の方向に振動させるための図示しない振動機構を備えている。マイクロチューブ3が測定装置4にセットされた状態で磁界発生機構41を駆動させると、攪拌チップ36が封入された反応層33の近傍で磁石41aが動いて所定の磁界を発生させる。これにより、マイクロチューブ3に封入された攪拌チップ36を磁界による遠隔操作で作動させることができ、攪拌チップ36で仕切り層34,35を破ったりマイクロチューブ3内の液体を混ぜることができる。なお、磁界発生機構41は、上記のような磁石を用いたもの以外に、電流を流して所定の磁界を発生させるものでもよい。測定装置4により攪拌チップ36を振動させれば、振動の大きさやタイミングを細かく制御できる。
【0062】
また、本実施形態では、マイクロチューブ3の検体導入口37に、血液を血漿分離フィルタ15側へ圧送するためのピストン38が取り付けられている。測定装置4は、このピストン38を動かすためのピストン駆動機構42を備えている。ピストン駆動機構42は、マイクロチューブ3を測定装置4にセットした状態においてピストン38の先端を保持可能なピストン駆動部材42aと、このピストン駆動部材42aをマイクロチューブ3の軸方向に進退動させるための図示しない駆動機構を備えている。これにより、ピストン駆動部材42aを所望の位置まで動かして血液を血漿分離フィルタ15側へ圧送し、血漿成分を試薬セル31側へ移送することができる。
【0063】
なお、反応層33の外周壁に穴を設け、ピストンなどを挿入しておくことも考えられる。このようにすれば、このピストンを反応層33の外部に引き出すことで、反応層33内を減圧して試薬セル31,32の内容物を吸引できる。
【0064】
(第3実施形態)
図5(a)は第3実施形態の検査装置A2の概略構成を示す説明図、図5(b)は第3実施形態のマイクロチューブ5の断面図である。以下、本実施形態について、第1、第2実施形態とは異なる点のみ説明する。本実施形態のマイクロチューブ5は、試薬セル51と試薬セル52との間に、反応層53が設けられている。反応層53は、上記第2実施形態における反応層33と同様に、試薬セル51,52との間を膜体54,55によって仕切ったものであるが、その内部には、攪拌チップなどは封入されていない。また、マイクロチューブ5の検体導入口56には、上記第2実施形態におけるピストン38と同様のピストン57が取り付けられている。
【0065】
本実施形態では、試薬セル52における反応層53とは反対側の端面に開口が形成されており、この開口を気密に閉鎖するように、ピストン58(破壊部材/試薬分離構造部)が取り付けられている。ピストン58はマイクロチューブ5の軸方向に沿って試薬セル52内を進退動可能である。すなわち、ピストン58と試薬セル52によってシリンダ機構が構成されている。ピストン58の試薬セル52内に挿入されている部分の先端58aは、尖った形状になっている。
【0066】
ピストン58を試薬セル52内に進入させると、その先端58aによって膜体55が突き破られ、反応層53と試薬セル52が連通する。そして、さらにピストン58を進入させると、細長く延びたピストン58の先端が膜体54を突き破り、反応層53と試薬セル51が連通する。これにより、反応層53内に試薬セル51,52の内容物が流れ込む。試薬セル51,52の内容物が流れ込んだ反応層53内でピストン58を進退動させることにより、反応層53に流れ込んだ液体を攪拌してもよい。なお、試薬セル52内にピストン58を進入させるために、ピストン58が試薬セル52に進入するにつれて、進入した容積分の試薬R2がピストン58の内部に導入される構成にしてもよい。
【0067】
ピストン57,58の作動は手動で行うことも可能であるが、本実施形態の測定装置6は、ピストン57,58を動かすためのピストン駆動機構61,62を備えている。ピストン駆動機構61は上記第2実施形態におけるピストン駆動機構42と同様の構成である。ピストン駆動機構62は、マイクロチューブ5を測定装置6にセットした状態でピストン58の基端部を保持可能なピストン駆動部材62aと、このピストン駆動部材62aをピストン駆動機構61におけるピストン駆動部材61aとは逆方向に進退動させるための図示しない駆動機構を備えている。これにより、ピストン駆動部材62aを所望の位置まで動かして、膜体54,55を突き破ることができる。
【0068】
なお、膜体54,55の代わりにガラス壁や栓体などを設けて、ピストン58によってガラス壁を壊したり栓体に孔を空けても良い。そのためには、栓体の一部が試薬セル52側からの押圧によって外れるようにしておくなどの構成が考えられる。また、ピストン58の進入によって試薬セル52内の液圧を高めて、液圧によって膜体を破ったり栓体の一部を外すなどの構成にすることも考えられる。また、膜体や栓体の一部に弁装置を設けて、この弁装置が、試薬セル52側の液圧が高まったときに開くような構成にしてもよい。
【0069】
(第4実施形態)
図6は第4実施形態のマイクロチューブ7の断面図である。本実施形態のマイクロチューブ7は、容器本体71よりも一回り小さく、両端が閉鎖されているガラス管などの管容器72(試薬容器/試薬分離構造部)に試薬R2が封入され、試薬R1の中に浮かんでいる。本実施形態では、血漿成分などを試薬R1と混合させた後、管容器72の内外を仕切る仕切り層73を破壊することにより、試薬R2をさらに混合させる。仕切り層73の破壊は、第2実施形態における攪拌チップや第3実施形態におけるピストンのような破壊部材により行うことができる。なお、本実施形態において、ガラス管などの管容器72の代わりに、PTFE膜などの膜体で形成した袋状の試薬容器に試薬R2を封入して、試薬R1の中に浮かべても良い。
【0070】
(改変例)
上記各実施形態は、以下のように改変することができる。
(1)試薬R1,R2が封入されている試薬セル、あるいは、反応槽を設けた場合には反応層内に、図7(a)〜(c)に示すような攪拌部材を封入しておいてもよい。図7(a)に示す攪拌部材は、直径が容器本体11の内径よりも小さい球体状のビーズ81である。このようなビーズ81を封入しておけば、容器本体11を振ったり振動させるだけで、ビーズ81を試薬などの液体中で動かすことができ、攪拌することができる。また、図8(b)に示す攪拌部材は、円盤状のオリフィス82である。このオリフィス82には貫通孔82aが多数形成されている。容器本体11を振ったり振動させると、オリフィス82が容器本体11内を摺動し、貫通孔82aを試薬などの液体が通過する。このときオリフィス82の表裏面の近傍で渦が発生するので、試薬などを混合できる。また、図8(c)に示す攪拌部材は、一端が容器本体11内に固定されたつるまきばね83である。容器本体11を振ったり振動させると、つるまきばね83が慣性力で伸縮し、試薬中を動いて攪拌する。なお、つるまきばね83以外にも、慣性力で伸縮可能な弾性部材であれば、攪拌部材として使用できる。また、これらの攪拌部材の全体あるいは一部分を磁性体で作れば、第2実施形態における攪拌チップ36と同様に、外部で磁界を発生させて攪拌部材を容器本体11内で動かし、攪拌することができる。
【0071】
(2)上記各実施形態の検査装置における測定装置が、吸光度測定を行うための上記測定部26のような測定手段に代えて、あるいは吸光度測定を行うための測定手段に加えて、マイクロチューブ内の溶液の電気的特性を測定するための測定手段を備えているとよい。また、この場合、マイクロチューブ側にも電極部を設けるとよい。電極部は、血漿成分と試薬R1,R2との反応物の貯留領域、すなわち、上記各実施形態における試薬セルあるいは反応層などに設けられる。電極部は、その一端が試薬セル内あるいは反応層内に露出しており、他端はマイクロチューブの外部に露出している。マイクロチューブを測定装置にセットすることにより、マイクロチューブの電極部が測定装置側の電極に接続されるようにすれば、マイクロチューブ内の溶液に対して測定用電流を印加できる。また、流れた電流などを検出して溶液の電気的特性を測定できる。
【符号の説明】
【0072】
1,3,5,7…マイクロチューブ(検査容器)、2,4,6…測定装置、11,71…容器本体、11a…内壁面、12…検体貯留部、13,31,51…試薬セル(第1試薬貯留部/混合領域/貯留領域)、14,32,52…試薬セル(第2試薬貯留部/混合領域/貯留領域)、15…血漿分離フィルタ(検体分離構造部)、16,37,56…検体導入口(検体導入部)、17…空気層(試薬分離構造部/仕切り層)、21…ケース、22…可動部材、23…表示部、24…操作部、25…可動部、26…測定部(吸光度測定手段)、26a…分光光度計、26b…測定孔、27…制御部、33,53…反応層(混合領域/貯留領域)、34,35,73…仕切り層、36…攪拌チップ(破壊部材/攪拌部材)、36a,36b…突起部、38,58…ピストン、41…磁界発生機構、41a…磁石、42,61,62…ピストン駆動機構、42a,61a,62a…ピストン駆動部材、54,55…膜体、57…ピストン(破壊部材/攪拌部材)、58a…先端、72…管容器(試薬容器)、81…ビーズ(攪拌部材)、82…オリフィス(攪拌部材)、82a…貫通孔、83…つるまきばね(攪拌部材)、A,A1,A2…検査装置、R1…試薬(第1試薬)、R2…試薬(第2試薬)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体を貯留する検体貯留部と、
第1試薬が封入されている第1試薬貯留部と、
第2試薬が封入されている第2試薬貯留部と、
前記検体貯留部および前記第1試薬貯留部の間に配置された検体分離構造部と、
前記第1試薬貯留部および前記第2試薬貯留部の間に配置された試薬分離構造部とを有し、
前記検体貯留部は前記検体を当該検体貯留部に導入するための検体導入部を備え、
前記検体分離構造部は、前記検体に含まれる所定の目的成分のみを分離して前記第1試薬貯留部内に移送できる構成であり、
前記試薬分離構造部は、前記検査容器外から所定の外力あるいは外部操作を加えることにより、前記第1試薬貯留部と前記第2試薬貯留部を仕切っている状態から、前記第1試薬貯留部の内容物と前記第2試薬貯留部の内容物とを混合可能な状態に変化することを特徴とする検査容器。
【請求項2】
請求項1に記載の検査容器において、
管状の容器本体を有し、
当該容器本体の内部には、その長さ方向の一端から他端に向けて、前記検体貯留部、前記検体分離構造部、前記第1試薬貯留部、前記試薬分離構造部、および前記第2試薬貯留部がこの順序に配置されており、
前記容器本体の前記一端に前記検体導入部が形成されていることを特徴とする検査容器。
【請求項3】
請求項2に記載の検査容器において、
前記試薬分離構造部は、前記第1試薬貯留部と前記第2試薬貯留部を仕切っている仕切り層を備え、
当該仕切り層は、空気層、または、前記第1試薬および前記第2試薬が透過しない材質の膜体あるいは栓体であることを特徴とする検査容器。
【請求項4】
請求項1に記載の検査容器において、
管状の容器本体と、
管状あるいは袋状の試薬容器とを有し、
前記容器本体の内部には、その長さ方向の一端から他端に向けて、前記検体貯留部、前記検体分離構造部、および前記第1試薬貯留部がこの順序に配置されており、
前記第1試薬貯留部の前記他端側の部位に前記試薬容器が内蔵されており、
当該試薬容器が前記試薬分離構造部であり、当該試薬容器の内部が前記第2試薬を貯留する前記第2試薬貯留部であることを特徴とする検査容器。
【請求項5】
請求項4に記載の検査容器において、
前記試薬容器は、前記第1試薬貯留部と前記第2試薬貯留部を仕切っている仕切り層を備え、
当該仕切り層は、前記第1試薬および前記第2試薬が透過しない材質で形成されていることを特徴とする検査容器。
【請求項6】
請求項3ないし5のいずれかの項に記載の検査容器において、
前記試薬分離構造部は、所定の外力あるいは外部操作を加えることにより作動して前記仕切り層の少なくとも一部を破壊する破壊部材を有していることを特徴とする検査容器。
【請求項7】
請求項6に記載の検査容器において、
前記破壊部材は、前記第1試薬貯留部または前記第2試薬貯留部にその一部が前記検査容器外から挿入されているピストンであり、当該ピストンが前記仕切り層側に圧入されることにより、前記仕切り層が突き破られることを特徴とする検査容器。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかの項に記載の検査容器において、
前記試薬分離構造部は、前記第1試薬貯留部と前記第2試薬貯留部の間に挟まれた反応層を有し、当該反応層内の圧力は、前記第1試薬貯留部内の圧力および前記第2試薬貯留部内の圧力よりも小さいことを特徴とする検査容器。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかの項に記載の検査容器において、
前記検査容器内における前記第1試薬貯留部の内容物と前記第2試薬貯留部の内容物との混合領域に、所定の外力あるいは外部操作を加えることにより作動する攪拌部材が配置されていることを特徴とする検査容器。
【請求項10】
請求項9に記載の検査容器において、
前記攪拌部材は、前記検査容器全体が移動したことによる慣性力に基づいて、あるいは、前記検査容器外に配置された磁界発生機構により発生した磁界に基づいて作動することを特徴とする検査容器。
【請求項11】
請求項9に記載の検査容器において、
前記攪拌部材は、前記検査容器内に前記検査容器外から挿入されているピストン、または、前記検査容器内に予め封入されている球体、オリフィス、およびばね部材のいずれかであることを特徴とする検査容器。
【請求項12】
請求項9ないし11のいずれかの項に記載の検査容器において、
前記攪拌部材が、前記仕切り層の少なくとも一部を突き破るための突起部を有することを特徴とする検査容器。
【請求項13】
請求項1ないし12のいずれかの項に記載の検査容器において、
前記検査容器は、前記目的成分と前記第1試薬および前記第2試薬との反応物が貯留される貯留領域に、前記検査容器の外部から吸光度測定のための検査光を照射できる構成であり、且つ、前記貯留領域において吸光度測定に必要な光路長を確保できるように構成されていることを特徴とする検査容器。
【請求項14】
請求項1ないし13のいずれかの項に記載の検査容器において、
前記検査容器内における前記目的成分と前記第1試薬および前記第2試薬との反応物が貯留される貯留領域に、前記検査容器外に接続するための電極が設けられていることを特徴とする検査容器。
【請求項15】
請求項1ないし14のいずれかの項に記載の検査容器において、
前記検体導入部は、前記検体貯留部内外を連通する孔部であり、
当該孔部は、前記検体を毛細管現象により直接吸い込み可能な毛細管形状、前記検体が保持された検体保持具を前記検体貯留部内に挿入可能な形状、前記検体を採取するための検体採取具を取付可能な形状、のいずれかであることを特徴とする検査容器。
【請求項16】
請求項1ないし15のいずれかの項に記載の検査容器と、
前記検体に含まれる前記目的成分と前記第1試薬および前記第2試薬との反応物に対して、前記検査容器に封入したままの状態で生化学検査に関する所定の測定を行うことが可能な測定装置と、を備えたことを特徴とする検査装置。
【請求項17】
請求項16に記載の検査装置において、
前記測定装置は、前記検査容器の回転、加速、減速、振動、あるいは、前記検査容器外に配置された磁界発生機構または超音波振動子の作動、の少なくともいずれかを行う可動部と、
前記検査容器に検査光を照射して当該検査光に対する応答出力を検知する吸光度測定手段、前記検査容器に測定用電流を印加して前記測定用電流に対する応答出力を検知する電気特性測定手段、の少なくとも一方を備えた測定部と、
前記応答出力に基づいて算出された測定値が表示される表示部と、
前記可動部、前記測定部、前記表示部の少なくともいずれかに対する操作を行うための操作部と、を備えることを特徴とする検査装置。
【請求項18】
検体貯留部、第1試薬貯留部、および第2試薬貯留部が互いに区画されて1列に配置されており、前記第1試薬貯留部には第1試薬が予め封入され、前記第2試薬貯留部には第2試薬が予め封入されている検査容器を用いた検査方法であって、
前記検体貯留部内に検体を取り込む検体取り込み工程と、
前記検体貯留部と前記第1試薬貯留部とを区画する検体分離構造部により、前記検体貯留部内に取り込まれた検体に含まれる所定の目的成分のみを前記第1試薬貯留部内に移送する検体移送工程と、
前記第1試薬貯留部内において、前記目的成分を前記第1試薬と混合させて反応させる第1反応工程と、
前記第1試薬貯留部と前記第2試薬貯留部を区画している試薬分離構造部に所定の外力あるいは外部操作を加えることにより、前記第1試薬と前記目的成分との反応物を前記第2試薬と混合させて反応させる第2反応工程と、を行うことを特徴とする検査方法。
【請求項19】
請求項18に記載の検査方法において、
前記第2反応工程における反応物を、前記検査容器に封入したままの状態で測定装置にセットして、生化学検査に関する所定の測定を行うことを特徴とする検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−79983(P2013−79983A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−19298(P2013−19298)
【出願日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【分割の表示】特願2007−322929(P2007−322929)の分割
【原出願日】平成19年12月14日(2007.12.14)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】