説明

検査方法、検査装置

【課題】 微細なクラック等であっても確実にその存在を検出し、高精度な検査を行うことのできる検査方法、検査装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 フェライト磁石を打撃したときの打撃音の検出信号に含まれる周期的な変動である「うなり」に基づいて、フェライト磁石にクラック等が生じているか否かを判定するようにし、減衰時間よりもはるかに微細な変動を利用して判定を行うことで、高精度な検出、判定を行う。特に、「うなり」の成分のみを抽出し、「うなり」の変動の面積を特徴量として抽出して判定を行うのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト焼結磁石等における不良品選別を行うのに適した検査方法、検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁石として主流となっているフェライト(焼結)磁石を製造するには、原料を所定の配合比で混合したものを仮焼してフェライト化させ、得られた仮焼体をサブミクロンサイズまで粉砕し、フェライト粒子からなる材料粉末を得る。次いで、材料粉末を磁場中で金型によって圧縮成形して成形体を得た後、この成形体を焼結することで、フェライト磁石となる焼結体を得る。
【0003】
このようにして得られた焼結体は、クラック等の不良が生じていないか、検査・選別が行われた後、良品のみが出荷される。
検査を行う手法としては、目視による検査が主流であるが、目視検査では、言うまでも無く手間がかかり、さらには、焼結体の表面のみに入ったヘアライン状の微細なクラック等を見落としてしまうこともある。確実性を向上させるには、アルコール等を塗布し、微細なクラックが目立つようにして検査を行うこともできるが、これでは、アルコールの塗布にさらに手間がかかる。
【0004】
これに対し、焼結体を共鳴台上に落下させ、その共鳴音を解析することで、良否の判定を行うことが行われている(例えば、特許文献1参照。)。
しかしながら、焼結体を共鳴台上に落下させるような手法では、落下時の衝撃により、本来良品である焼結体が破損してしまうこともある。また、落下して共鳴台に当たる箇所により、焼結体が発する音が異なり、安定した判定が行えず、特に上記したようなヘアライン状の微細なクラック等の存在は検出できないという問題もある。
そこで、製品に打撃部材で打撃を与え、発生した打撃音の減衰度によって、製品の良否を判定することも行われている(例えば、特許文献2、3参照。)。
【0005】
【特許文献1】特開平7−134118号公報
【特許文献2】特開平3−92758号公報
【特許文献3】特開2000−55893号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2、3に開示された技術のように、打撃音の減衰度を用いて判定を行う場合は、打撃音の検出信号(電圧)レベルがピーク値から所定のレベルに減衰するまでに要する減衰時間を検出し、この減衰時間が所定のしきい値を上回るか否かで製品の良否の判定を行う。
しかしながら、焼結体の表面のみに極浅いクラックがあるような場合、減衰時間では、クラックのない良品と差異がなく、製品の良否判定が正確に行えないことがある。
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、微細なクラック等であっても確実にその存在を検出し、高精度な検査を行うことのできる検査方法、検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記のような課題を解決すべく鋭意検討を行った本発明者は、製品に打撃部材で打撃を与えることで発生した打撃音には、周期的な変動成分が含まれていることに着目した。この周期的な変動は、打撃音が減衰する過程で、その減衰に要する時間よりも短い周期で生じているもので、検査対象物の異なる部位で、互いに異なる周波数の振動が生じ、これらの振動が互いに干渉することで生じているものと考えられる。
【0008】
これに基づいてなされた本発明の検査方法は、検査対象物を打撃部材で打撃することで発生した打撃音に基づき、検査対象物の検査を行う方法であって、打撃部材で検査対象物を打撃するステップと、打撃部材で検査対象物を打撃することで発生した打撃音に含まれる打撃音の周期的な変動に基づき、検査対象物の良否を判定するステップと、を含むことを特徴とする。
すなわち、前記の周期的な変動を含む打撃音を電気的に処理することで得られる検出波形に基づいて、検査対象物の良否を判定するのである。例えば、検出波形の周波数、周期、振幅等のパラメータに基づき、判定を行うことができる。
特に有効なものは、検査対象物の良否を判定するステップで、検出波形を用いて形成される領域の面積に基づき、検査対象物の良否を判定する手法である。例えば、時間軸と検出出力との関係から得られる検出波形を表す線図上において、検出波形と、予め設定した所定の基準レベルとによって囲まれた領域の面積に基づき、良否判定を行うことができる。この場合、基準レベルとしては、例えば、検出出力が「0」等、一定の値を用いることもできるが、前記の周期的な変動を特徴量として有効に用いるには、変動の影響を受けない部分の面積をなるべく排除するのが好ましい。
このためには、例えば、予め、良品である検査対象物を打撃部材で打撃して打撃音を発生させて、打撃音に含まれる打撃音の周期的な変動の周期Tを検出しておき、検査対象物の良否を判定するステップでは、検査すべき検査対象物を打撃することで得られる検出波形を、周期Tを有した基準波形を用いてフィルタ処理し、フィルタ処理後に得られる第二の検出波形の面積に基づき、検査対象物の良否を判定するのが良い。
【0009】
また、検査対象物の良否の判定には、上記のごとく、良品を打撃したときのデータを基準として用いるのが有効である。このような良品を打撃としたときのデータは、上記したような検出波形の面積に限らず、他のパラメータを特徴量とした場合にも採用することが可能である。この場合、本発明は、予め、良品である検査対象物を打撃部材で打撃して打撃音を発生させたときの検出波形を比較波形として取得しておき、検査対象物の良否を判定するステップでは、検査すべき検査対象物を打撃することで得られる検出波形と、比較波形とに基づいて、検査対象物の良否を判定することを特徴とするものとできる。この場合、例えば、検出波形と比較波形の周波数、周期、振幅等のパラメータの差異に基づき、判定を行うこと等もでき得る。
【0010】
本発明の検査装置は、検査対象物を打撃することで発生した打撃音に基づき、検査対象物の検査を行う装置であって、検査対象物を保持する保持部と、保持部に保持された検査対象物を打撃するための打撃部材と、打撃部材で検査対象物を打撃することで発生した打撃音に含まれる打撃音の周期的な変動に基づき、検査対象物の良否を判定する判定部と、を備えることを特徴とする。このような検査装置によれば、上記のような検査方法を実現できる。
【0011】
なお、本発明は、フェライト磁石となる焼結体だけでなく、鋳造品等、様々な製品の検査に適用することが可能である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、検査対象物を打撃部材で打撃したときの打撃音に含まれる周期的な変動を用いることで、良否判定を高精度に行うことが可能となる。その結果、微細なクラック等であっても確実にその存在を検出し、高精度な検査を行うことが可能となる。もちろん、共鳴台上に落下させるときのように、検査時にクラックが生じるようなことも回避できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
図1は、本実施の形態におけるフェライト磁石の製造工程の流れの一例を示す図である。なお、本実施の形態で示すフェライト磁石の製造工程はあくまでも一例に過ぎず、適宜変更を加えることが可能なのは言うまでもない。
この図1に示すように、フェライト磁石を製造するには、まず原料を所定の配合比で混合したものを仮焼してフェライト化させる(ステップS101、S102)。原料としては、酸化物粉末、または焼成により酸化物となる化合物、例えば炭酸塩、水酸化物、硝酸塩等の粉末を用いる。仮焼は、通常、空気中等の酸化性雰囲気中で行えば良い。
【0014】
次いで、得られた仮焼体を粗粉砕工程を経ることで粉砕し(ステップS103)、フェライト粒子からなる仮焼粉末を得る。次いでこの仮焼粉末に適宜添加物を添加し、微粉砕工程を経てサブミクロンサイズまで粉砕し(ステップS104)、主としてマグネトプランバイト型フェライトからなる微粉砕粉末を得る。粗粉砕工程、微粉砕工程は、湿式で行っても乾式で行ってもよい。ただし、仮焼体は一般に顆粒から構成されるので、粗粉砕工程を乾式で行い、次いで微粉砕工程を湿式で行うのが好ましい。その場合、粗粉砕工程で仮焼体を所定以下の粒径となるまで粗粉砕した後、微粉砕工程で粗粉砕粉と水とを含む粉砕用スラリーを調製し、これを用いて所定以下の粒径となるまでの微粉砕を行う。
【0015】
この後、湿式で磁場中成形を行う場合、微粉砕粉末を分散媒に分散させることで所定濃度のスラリーを調製し、これを磁場中成形する。微粉砕工程で湿式粉砕を行った場合、脱水工程(ステップS105)にてスラリーを濃縮することで、所定濃度のスラリーを調製するようにしても良い。
ここで、分散媒としては、水、あるいはヘキサン、トルエン、p-キシレン、メタノール等を用いることができる。
【0016】
そして、このスラリーを混練した後(ステップS106)、スラリーを型に注入し、所定方向の磁場をかけながら圧縮成形することで磁場中成形を行う(ステップS107)。
この後、得られた成形体を焼成して焼結させることで、フェライト磁石を得る(ステップS108)。この後、所定形状への加工を経て、製品としてのフェライト磁石が完成する(ステップS109〜S110)。
【0017】
図2は、完成したフェライト磁石(検査対象物)100を検査するための検査装置10の構成を示す図である。本実施の形態において、検査対象物となるフェライト磁石100は、例えば瓦状断面を有したセグメント型のものとするが、これに限るものではない。
図2に示すように、検査装置10は、フェライト磁石100を保持する保持部20と、保持部20に保持されたフェライト磁石100を打撃する打撃部30と、打撃部30でフェライト磁石100を打撃することで生じた打撃音を拾うマイクロフォン40と、マイクロフォン40で拾った打撃音に基づき、フェライト磁石100の良品・不良品の判定を行う判定装置50とを主に備えている。
【0018】
検査装置10においては、検査対象となるフェライト磁石100は、コンベア等の搬送装置によって順次保持部20に供給される。
保持部20では、例えば、フェライト磁石100の中心部を吸着パッド21で吸着保持するようになっている。
【0019】
打撃部30は、ロータリーソレノイド31によって保持された棒状の支持ロッド32の先端部に、保持部20で保持されたフェライト磁石100を打撃するための打撃部材33が設けられた構成となっている。
【0020】
ロータリーソレノイド31は、検査装置10の基台11に支持された取付ベース34に設けられている。ロータリーソレノイド31は、電圧が印加されることで、回転軸31aが所定方向に回転し、電圧の印加を停止すると内蔵された弾性部材の弾性力によって回転軸31aが逆方向に回転し、元の位置に復帰するようになっている。本実施の形態において、ロータリーソレノイド31は、電圧が印加されたときに、図2において反時計回りに回転駆動されるようになっている。
【0021】
支持ロッド32は、例えば中空の金属製パイプから形成され、その基端部側が、ブラケット35を介し、ロータリーソレノイド31の回転軸31aに取り付けられている。これにより、支持ロッド32は、ロータリーソレノイド31の作動により、ロータリーソレノイド31の回転軸31aに支持された基端部側を中心として回転するようになっている。
【0022】
支持ロッド32の回転動作は、ロータリーソレノイド31に電圧を印加したときの回転方向、つまり図2において反時計回りに対しては、取付ベース34に設けられた前方側ストッパ36により規制され、ロータリーソレノイド31に対する電圧の印加を停止したときの回転方向、つまり図2において時計回りに対しては、取付ベース34に設けられた後方側ストッパ37により規制される。
ここで、前方側ストッパ36は、支持ロッド32に対し、先端部の打撃部材33と基端部の回転軸31aに支持された部分との中間部に位置するよう設けられている。より詳しくは、前方側ストッパ36は、支持ロッド32に対し、先端部の打撃部材33と基端部の回転軸31aの中間よりも回転軸31a寄りの位置で支持ロッド32に当たるように設けられている。
【0023】
打撃部材33は、このような支持ロッド32の先端部に、取付ブラケット38を介して設けられている。この打撃部材33は、取付ブラケット38に対し、ロータリーソレノイド31に電圧を印加して回転駆動させたときの回転方向前方側に突出するように設けられ、その先端部33aは略半球状に形成されている。図3に示すように、この打撃部材33は、支持ロッド32を前方側ストッパ36に当てて静止させた状態で、先端部33aが、保持部20に保持されたフェライト磁石100に対し、所定寸法C、例えばC=2〜3mm、離間した状態となるよう設けられている。
【0024】
このような打撃部30は、ロータリーソレノイド31に電圧が印加されると、支持ロッド32がロータリーソレノイド31の回転軸31aと一体に所定方向に回転する。すると、支持ロッド32は前方側ストッパ36に当たり、これによって支持ロッド32は、支持ロッド32および質量のある打撃部材33の慣性力により、打撃部材33が設けられた先端部側が回転方向前方に向けて弾性変形して撓む。すると、静止状態で支持ロッド32を前方側ストッパ36に当てたときにはフェライト磁石100に対し所定寸法離間した状態となる打撃部材33が、前方側ストッパ36に当たった後も回転方向前方にさらに変位し、保持部20に保持されたフェライト磁石100を打撃する。
【0025】
打撃直後、弾性変形していた支持ロッド32が元の状態に復元することで、打撃部材33がフェライト磁石100から離間する。このとき、フェライト磁石100の打撃により、打撃部材33自体も弾性変形する。したがって、打撃部材33は、それ自体の弾性変形で生じる反発力によっても、フェライト磁石100から離間する。
このような動作からして、支持ロッド32を前方側ストッパ36に当てて静止させた状態で打撃部材33の先端部33aとフェライト磁石100との間に形成される隙間の寸法Cは、ロータリーソレノイド31の作動により支持ロッド32が回転して前方側ストッパ36にあたって弾性変形したときに、その弾性変形量が最大(振幅が最大)となる寸法と略等しくするのが好ましい。これにより、打撃部材33でフェライト磁石100を打撃した直後に、支持ロッド32に生じた弾性変形が元の状態に復元しはじめるため、打撃部材33をフェライト磁石100から速やかに離間させることができる。
【0026】
この後、ロータリーソレノイド31に対する電圧の印加を停止すると、ロータリーソレノイド31は逆方向に回転する。これによって、支持ロッド32が後方側ストッパ37に当たるまで回転し、支持ロッド32および打撃部材33は元の位置に戻る。
【0027】
なお、上記のような支持ロッド32の弾性変形を利用してフェライト磁石100を打撃する打撃部30の構成は、打撃部材33でフェライト磁石100を打撃し、打撃音を発生させることができるのであれば、他のいかなる構成に変更しても良い。
【0028】
このようにして発生した打撃音は、マイクロフォン40にて拾音され、判定装置50にて打撃音に基づいてフェライト磁石100の良否が判定される。その具体的手法について説明する。ここで、図4は、判定装置50にてフェライト磁石100の良否を判定するための処理全体の流れを示す。
図4に示すように、マイクロフォン40では、上記のようにして打撃部材33がフェライト磁石100を打撃したときの打撃音を拾う(ステップS201)。拾われた打撃音は、電気信号として判定装置50に送られる。
判定装置50では、マイクロフォン40から送られてきた電気信号を、内蔵する騒音計に送り、騒音計では、電気信号に基づき、マイクロフォン40で拾った打撃音の音量の時間的変化を検出する(ステップS202)。
【0029】
検出された音量の時間的変化は、波形解析される(ステップS203)。
図5は、この波形解析処理の詳細な流れを示すものである。この図5に示すように、検出された音量の時間的変化を表す電気信号はA/D変換された後、波形解析に不要な成分がフィルタ処理で除去される(ステップS301、S302)。
続いて、波形解析に不要な成分をフィルタ処理で除去した後の電気信号から得られる波形を2乗平均処理し、図6に示すような一次処理波形波形(検出波形)W1を得る(ステップS303)。
図6に示すように、得られる一次処理波形W1は、振幅が時間の経過とともに減衰しつつ、細かい周期で変動している。これは、フェライト磁石100の異なる部位において、互いに異なる周波数f1、f2で変動が生じており、その周波数f1の振動と周波数f2の振動とが干渉し合うことで、いわゆる「うなり」が生じているためと推察される。以下、本明細書中においては、この変動を「うなり」と称する。
【0030】
次いで、一次処理波形W1から、一次処理波形W1の勾配成分を減算し、図7(a)に示すような波形W2を得る(ステップS304)。
続いて、波形W2にフィルタ処理をかける。このときのフィルタ処理には、予めクラック等の生じていない良品のフェライト磁石100において、上記と同様にして図6に示したような一次処理波形W1を得ておき、この一次処理波形W1の「うなり」の周期Tと同周期の正弦波を比較波形W0として用いる。この比較波形W0を用い、波形W2をフィルタ処理し、さらにその振幅成分の絶対値を取る(ステップS305)。これにより、図7(b)に示すような二次処理波形(第二の検出波形)W3が得られる。
そして、得られた二次処理波形W3の面積S(図7(b)における斜線部分)を算出する(ステップS306)。これにより、波形解析処理が終わる。
【0031】
続いて、算出された面積Sの値が、予め決められたしきい値を基準とし、所定以上であるか否かを判定する(ステップS204)。その結果、面積Sの値が、所定以上であると判定された場合には、そのフェライト磁石100を良品として判定し、所定未満であると判定された場合には、そのフェライト磁石100を不良品であると判定する。
【0032】
上記のようにして得られた判定結果は、検査装置10のコントローラ(図示無し)に送出される。
検査装置10のコントローラ(図示無し)では、判定装置50によるフェライト磁石100の判定結果を確認する(ステップS205)。その確認結果に基づき、打撃部30で打撃したフェライト磁石100が不良品であるときには、検査装置10のコンベア等の搬送装置から、そのフェライト磁石100を排除し、不良品として排出する(ステップS206)。
【0033】
上述した検査装置10においては、フェライト磁石100を打撃したときの打撃音の検出信号に含まれる「うなり」に基づいて、フェライト磁石100にクラック等が生じているか否かを判定するようにした。このように、従来用いていた減衰時間よりもはるかに微細な変動を利用して判定を行うことで、高精度な検出、判定が行える。特に、図7(a)に示したように「うなり」の成分のみを抽出し、さらに図7(b)に示すように、その変動の「面積」を特徴量として抽出するのが、検出の高精度化に有効に寄与している。
その結果、クラック等の不良の有無を確実に検査することが可能となる。もちろん、共鳴台上に落下させる場合のように、検査時にクラックが生じるようなことも回避できる。
【実施例】
【0034】
ここで、上記手法の効果を確認したのでその結果を示す。
フェライト磁石100としては、図8に示したような、瓦状断面のものを用いた。フェライト磁石100の湾曲方向内周面側の曲率半径R1は23.05mm、外周面側の曲率半径R2は28.9mm、その開き角θは120°、図8において紙面に直交する方向の長さは42mmとした。
このようなフェライト磁石100において、クラック等の発生のない良品と、内周面側の表面に長さ10mm程度の僅かなクラックが生じている不良品とを用意した。
そして、それぞれのフェライト磁石100の隅部近傍を、図2に示したような検査装置10の打撃部材33で打撃した。
【0035】
そのときの打撃音をマイクロフォン40で拾い、判定装置50にて、図4、図5に示したような処理により、フェライト磁石100の良否判定を行った。これにはまず、検出された音量の時間的変化を表す電気信号から、図9(a)、図10(a)に示すような波形を取得した。図9(a)は、良品であるフェライト磁石100の取得波形、図10(a)は不良品であるフェライト磁石100の取得波形である。
この取得波形から波形解析に不要な成分をフィルタ処理で除去した後、これを2乗平均処理、平滑化処理して、一次処理波形W1を得た。図9(b)は、良品であるフェライト磁石100の一次処理波形W1、図10(b)は不良品であるフェライト磁石100の一次処理波形W1である。
【0036】
次いで、一次処理波形W1から、一次処理波形W1の勾配成分を減算した。さらに、クラック等の生じていない良品のフェライト磁石100を打撃したときの一次処理波形W1の「うなり」の周期Tと同周期の比較波形W0を用いてフィルタ処理し、その振幅成分の絶対値を取って、図9(c)、図10(c)に示す二次処理波形W3を得た。
そして、得られた二次処理波形W3の面積Sを算出した。
【0037】
また、比較のため、図9(b)、図10(b)に示した一次処理波形W1において、検出信号がピーク値から減衰するまでの減衰時間tを検出した。
【0038】
その結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
表1に示すように、本発明の手法により算出された「うなり」の面積は、良品であるフェライト磁石100では1265、不良品であるフェライト磁石100では400であった。これに対し、従来の手法に相当する減衰時間tは、良品であるフェライト磁石100では83msec、不良品であるフェライト磁石100では87msecであった。このように、減衰時間tでは、良品であるフェライト磁石100と不良品であるフェライト磁石100の差はほとんどなく、これらを層別することは困難であるが、「うなり」の面積は、良品であるフェライト磁石100と不良品であるフェライト磁石100とで明らかに相違しており、良品・不良品の確実な判定ができることが確認された。
【0041】
なお、上記実施の形態において詳細な構成を示した、フェライト磁石100を打撃する打撃部30をはじめとする検査装置10各部の機械的構成や、判定装置50において不良判定を行うための処理手法については、適宜他の構成とすることが可能である。
また、判定装置50においては、従来の減衰時間を用いた判定を行うようにし、減衰時間による判定と、「うなり」を用いた判定の双方を行うようにしても良い。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本実施の形態におけるフェライト磁石の製造工程を示す図である。
【図2】フェライト磁石を打撃したときの打撃音により良否判別を行う検査装置の要部を示す図である。
【図3】打撃部を示す拡大図である。
【図4】打撃音により良否判別を行うときの流れを示す図である。
【図5】「うなり」を用いた波形解析処理の流れを示す図である。
【図6】「うなり」を含んだ打撃音の検出波形の例を示す図である。
【図7】(a)は勾配成分を除去した波形の例を示す図、(b)はフィルタ処理により抽出した「うなり」の面積を示す図である。
【図8】実施例で用いたフェライト磁石を示す図である。
【図9】良品であるフェライト磁石を打撃したときの実施例の結果を示す図であり、(a)は、打撃音の取得波形、(b)は一次処理波形の例を示す図、(c)はフィルタ処理により抽出した二次処理波形および「うなり」の面積を示す図である。
【図10】不良品であるフェライト磁石を打撃したときの実施例の結果を示す図であり、(a)は、打撃音の取得波形、(b)は一次処理波形の例を示す図、(c)はフィルタ処理により抽出した二次処理波形および「うなり」の面積を示す図である。
【符号の説明】
【0043】
10…検査装置、20…保持部、30…打撃部、33…打撃部材、40…マイクロフォン、50…判定装置、100…フェライト磁石(検査対象物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物を打撃部材で打撃することで発生した打撃音に基づき、前記検査対象物の検査を行う方法であって、
前記打撃部材で前記検査対象物を打撃するステップと、
前記打撃部材で前記検査対象物を打撃することで発生した前記打撃音に含まれる前記打撃音の周期的な変動に基づき、前記検査対象物の良否を判定するステップと、
を含むことを特徴とする検査方法。
【請求項2】
予め、良品である検査対象物を前記打撃部材で打撃して前記打撃音を発生させ、前記打撃音を電気的に処理することで得られる検出波形を比較波形として取得しておき、
前記検査対象物の良否を判定するステップでは、検査すべき前記検査対象物を打撃することで得られる前記検出波形と、前記比較波形とに基づいて、前記検査対象物の良否を判定することを特徴とする請求項1に記載の検査方法。
【請求項3】
前記検査対象物の良否を判定するステップでは、前記打撃音を電気的に処理することで得られる検出波形を用いて形成される領域の面積に基づき、前記検査対象物の良否を判定することを特徴とする請求項1または2に記載の検査方法。
【請求項4】
予め、良品である検査対象物を前記打撃部材で打撃して前記打撃音を発生させて、前記打撃音に含まれる前記打撃音の周期的な変動の周期Tを検出しておき、
前記検査対象物の良否を判定するステップでは、検査すべき前記検査対象物を打撃することで得られる前記検出波形を、前記周期Tを有した基準波形を用いてフィルタ処理し、フィルタ処理後に得られる第二の検出波形の面積に基づき、前記検査対象物の良否を判定することを特徴とする請求項3に記載の検査方法。
【請求項5】
検査対象物を打撃することで発生した打撃音に基づき、前記検査対象物の検査を行う装置であって、
前記検査対象物を保持する保持部と、
前記保持部に保持された前記検査対象物を打撃するための打撃部材と、
前記打撃部材で前記検査対象物を打撃することで発生した前記打撃音に含まれる前記打撃音の周期的な変動に基づき、前記検査対象物の良否を判定する判定部と、
を備えることを特徴とする検査装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2006−266694(P2006−266694A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−81049(P2005−81049)
【出願日】平成17年3月22日(2005.3.22)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】