説明

検査方法および検査システム

【課題】ラックやピンホールなどの不良を確実に検出することができる検査方法および検査システムを提供する。
【解決手段】電解質と燃料極とからなるハーフセルHCの状態で、アルコール噴射器2により電解質に対してアルコールを噴射し、カメラ3によりアルコールが付着した電解質を撮像し、画像処理部42によりカメラ3で生成された画像データに対して画像処理を行い、判定部43により画像処理部42の処理結果に基づいて電解質に不良が生じているか否かを判定する。これにより、クラックやピンホールなどの不良を確実に検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池のセルを検査する検査方法および検査システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、規模の大小にかかわらず高い効率が得られることから、燃料電池が次世代のコジェネレーションシステムに用いられる発電手段として注目されている。燃料電池は、酸素などの酸化剤ガスと水素などの燃料ガスとの化学反応を利用した電池であり、空気極と呼ばれる陽極と、燃料極と呼ばれる陰極とで電解質を挟んだ単セルを、複数重ね合わせたスタック構造を用いている。一組のセル(単セル)で得られる電気の電圧は、約0.7Vであるが、複数の単セルを重ね合わせて用いることで、所望とする電圧の供給が可能である。
【0003】
このような燃料電池において、電解質は、燃料極と空気極にそれぞれ供給される燃料と酸化剤ガスが混合しないようにするために緻密な膜でなければならないとともに、良好なイオン導電性を実現するために膜厚を薄くする必要がある。ところが、電解質を薄くすると、クラックやピンホールが発生する可能性が高くなる(例えば、特許文献1参照。)。このクラックやピンホールは、燃料と酸化剤ガスの混合をもたらすので、燃料電池の発電効率や耐久性の低下を引き起こしてしまう。このため、従来より、電解質と燃料極とからなるハーフセルの作成工程時に、電解質にクラックやピンホールなどの不良が発生しているか否かを検査する作業が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−299690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来では、電解質にクラックやピンホールなどの不良が発生しているか否かの確認を作業者の目視で行っていたので、作業者によって精度の誤差が大きくなり、場合によってはクラックやピンホールが発生している電解質を見逃すことがあった。
【0006】
そこで、本発明は、クラックやピンホールなどの不良を確実に検出することができる検査方法および検査システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述したような課題を解決するために、本発明に係る検査方法は、電解質と、この電解質の一方の面に設けられた空気極と、電解質の他方の面に設けられた燃料極からなる平板状の燃料電池用単セルの検査方法であって、電解質に対してアルコールを噴射する噴射ステップと、この噴射ステップによりアルコールが付着した電解質を撮像する撮像ステップと、この撮像ステップにより生成された画像データに対して画像処理を行う画像処理ステップと、この画像処理ステップにより生成された処理結果に基づいて電解質に不良が生じているか否かを判定する判定ステップとを有することを特徴とするものである。
【0008】
上記検査方法において、判定ステップは、判定ステップは、処理結果における電解質に対応する領域内で、周囲と特性が異なる部分が存在する場合、不良が生じていると判定するようにしてもよい。
【0009】
また、上記検査方法において、噴射ステップは、電解質と燃料極とからなるハーフセルの状態で、電解質に対してアルコールを噴射するようにしてもよい。
【0010】
また、本発明に係る検査装置は、電解質と、この電解質の一方の面に設けられた空気極と、電解質の他方の面に設けられた燃料極からなる平板状の燃料電池用単セルの検査システムであって、電解質に対してアルコールを噴射する噴射器と、この噴射器によりアルコールが付着した電解質を撮像するカメラと、このカメラにより生成された画像データに対して画像処理を行う画像処理部と、この画像処理部により生成された処理結果に基づいて電解質に不良が生じているか否かを判定する判定部とを備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電解質に対してアルコールを噴射し、このアルコールが付着した電解質を撮像し、この撮像により生成された画像データに対して画像処理を行い、この処理結果に基づいて電解質に不良が生じているか否かを判定することにより、クラックやピンホールなどの不良を確実に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明に係る検査システムの構成を模式的に示す図である。
【図2】図2は、本発明に係る検査システムの動作を示すフローチャートである。
【図3】図3は、アルコール付着前のハーフセルの状態を示す図である。
【図4】図4は、アルコール付着後のハーフセルの状態を示す図である。
【図5】図5は、図4に対して画像処理を施した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0014】
<検査システムの構成>
図1に示すように、本実施の形態に係る検査システムは、電解質と燃料極とからなるハーフセルHCを搬送する搬送装置1と、この搬送装置1により搬送されてきたハーフセルHCに対してアルコールを噴射するアルコール噴射器2と、このアルコール噴射器2によりアルコールが付着したハーフセルHCを撮像するカメラ3と、検査システム全体の動作を制御する制御装置4とを備えている。
【0015】
搬送装置1は、ベルトコンベア等の公知の搬送装置から構成される。このような搬送装置1は、制御装置4からの指示に基づいて、外部からのハーフセルHCの搬入、搬入したハーフセルHCを所定の方向に搬送、ハーフセルHCの選択的な搬出を行う。
【0016】
アルコール噴射器2は、アルコールを噴射する公知の噴射器から構成される。このようなアルコール噴射器2は、搬送装置1の上流側の搬送装置1上方に配設され、制御装置4からの指示に基づいて駆動する。
【0017】
カメラ3は、CCD(Charge Coupled Device)カメラやCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)カメラなどの公知の撮像手段から構成される。このようなカメラ3は、搬送装置1のアルコール噴射器2よりも下流側の搬送装置1上方に配設され、制御装置4からの指示に基づいて鉛直下方を撮像する。このカメラ3により撮像された画像データは、制御装置4に送られる。
【0018】
制御装置4は、搬送システムの各構成要素に接続され、各種データの送受信を行うインターフェース(I/F)I/F部41と、カメラ3から送られてくる画像データに対してエッジ検出等の画像処理を行う画像処理部42と、この画像処理部42の処理結果に基づいてハーフセルHCにクラックやピンホールが存在するか否かを判定する判定部43と、検査システムの動作に必要な各種データや動作プログラムを記憶する記憶部44と、搬送システムの各構成要素から受信するデータ、判定部43による判定結果および記憶部44に記憶された情報などに基づいて、I/F部41を介して各構成要素にその動作を制御する制御信号を送出することにより搬送システム1全体の動作を制御する主制御部45とを備えている。
【0019】
このような制御装置4は、CPU等の演算装置と、メモリ、HDD(Hard Disc Drive)等の記憶装置と、キーボード、マウス、ポインティングデバイス、ボタン、タッチパネル等の外部から情報の入力を検出する入力装置と、インターネット、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)等の通信回線を介して各種情報の送受信を行うI/F装置と、CRT(Cathode Ray Tube)、LCD(Liquid Crystal Display)またはFED(Field Emission Display)等の表示装置を備えたコンピュータと、このコンピュータにインストールされたプログラムとから構成される。すなわちハードウェア装置とソフトウェアとが協働することによって、上記のハードウェア資源がプログラムによって制御され、上述したI/F部41、画像処理部42、判定部43、記憶部44および主制御部45が実現される。なお、上記プログラムは、フレキシブルディスク、CD−ROM、DVD−ROM、メモリカードなどの記録媒体に記録された状態で提供されるようにしてもよい。
【0020】
<検査システムの動作>
次に、本実施の形態に係る検査システムの動作について、図2を参照して説明する。
【0021】
まず、制御装置4の主制御部45は、搬送装置1に、外部からハーフセルHCを搬入させ、このハーフセルHCをアルコール噴射器2近傍にまで搬送させる(ステップS1)。
【0022】
ハーフセルHCがアルコール噴射器2近傍に搬送されると、主制御部45は、アルコール噴射器2にアルコールを噴射させる(ステップS2)。すると、アルコール噴射器2近傍に搬送されたハーフセルHCには、アルコールが付着することとなる。アルコール付着前のハーフセルHCは、図3に示すように、表面の濃淡が薄いためにクラックやピンホールの存在がわかりにくい。一方、アルコールが付着したハーフセルHCは、図4に示すように、表面の濃淡が濃くなるのでクラックやピンホールの存在がわかりやすい。特に、クラックやピンホールの周囲は、他の部分よりも濃くなるので、よりクラックやピンホールなどの不良を検出しやすくなる。
【0023】
アルコールが噴射されると、主制御部45は、搬送装置1によりそのハーフセルHCをカメラ3の鉛直下方に搬送させたのち、カメラ3に撮像させる(ステップS3)。すると、例えば、図4に示すようなアルコールが付着したハーフセルHCの画像データが生成されることとなる。この画像データは、制御装置4に送出される。
【0024】
撮像が行われ画像データが送られてくると、制御装置4の画像処理部42は、その画像データに対して画像処理を行う(ステップS4)。この画像処理としては、例えばエッジ抽出が行われる。これにより、例えば図5に示すような、隣り合う画素において、濃度の差分が所定の閾値を超えた箇所と超えていない箇所とが、濃淡や色調などの特性が異なるように区別して表示される。図5の場合、ハーフセルHCの縁部、および、クラックやピンホールは、他の領域よりも濃く表示されることとなる。
【0025】
画像処理が行われると、制御装置4の判定部43は、その画像処理の処理結果に基づいて、撮像されたハーフセルHCにクラックやピンホールが存在するか否かを判定する(ステップS5)。上述したように、処理結果においては、ハーフセルHCの縁部、および、クラックやピンホールが他の領域よりも濃く表示されている。したがって、濃く表示されたハーフセルHCの縁部からハーフセルHC全体の領域を認識した後、この領域内部に濃く表示された箇所、すなわちクラックやピンホールが1つでも存在するか否かを確認する。
【0026】
撮像したハーフセルHCにピンホール等が存在すると判定された場合(ステップS5:YES)、主制御部45は、搬送装置1によりそのハーフセルHCを廃棄用のラックに搬送させて廃棄する(ステップS8)。これにより、クラックやピンホールがあるハーフセルHCを出荷するのを防ぐことができる。
【0027】
一方、撮像したハーフセルHCにピンホール等が存在しない都判定された場合(ステップS5:NO)、主制御部45は、搬送装置1によりそのハーフセルHCを搬出用のラックに搬送させる(ステップS6)。
【0028】
搬出または廃棄が行われると、主制御部45は、未検査のハーフセルが存在するか否かを確認する(ステップS7)。
【0029】
未検査のハーフセルHCが存在する場合(ステップS7:NO)、主制御部45は、ステップS1の処理に戻る。
【0030】
一方、未検査のハーフセルHCが存在しない場合(ステップS7:YES)、主制御部45は、動作を終了する。
【0031】
以上説明したように、本実施の形態によれば、電解質と燃料極とからなるハーフセルHCの状態で、アルコール噴射器2により電解質に対してアルコールを噴射し、カメラ3によりアルコールが付着した電解質を撮像し、画像処理部42によりカメラ3で生成された画像データに対して画像処理を行い、判定部43により画像処理部42の処理結果に基づいて電解質に不良が生じているか否かを判定することにより、クラックやピンホールなどの不良を確実に検出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、燃料電池の電解質など薄膜のクラックやピンホールを検出する各種装置やシステムに適用することができる。
【符号の説明】
【0033】
1…搬送装置、2…アルコール噴射器、3…カメラ、4…制御装置、41…I/F部、42…画像処理部、43…判定部、44…記憶部、45…主制御部,HC…ハーフセル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質と、この電解質の一方の面に設けられた空気極と、前記電解質の他方の面に設けられた燃料極からなる平板状の燃料電池用単セルの検査方法であって、
前記電解質に対してアルコールを噴射する噴射ステップと、
この噴射ステップにより前記アルコールが付着した前記電解質を撮像する撮像ステップと、
この撮像ステップにより生成された画像データに対して画像処理を行う画像処理ステップと、
この画像処理ステップにより生成された処理結果に基づいて前記電解質に不良が生じているか否かを判定する判定ステップと
を有することを特徴とする検査方法。
【請求項2】
前記判定ステップは、前記処理結果における前記電解質に対応する領域内で、周囲と特性が異なる部分が存在する場合、不良が生じていると判定する
ことを特徴とする請求項1記載の検査方法。
【請求項3】
前記噴射ステップは、前記電解質と前記燃料極とからなるハーフセルの状態で、前記電解質に対してアルコールを噴射する
ことを特徴とする請求項1または2記載の検査方法。
【請求項4】
電解質と、この電解質の一方の面に設けられた空気極と、前記電解質の他方の面に設けられた燃料極からなる平板状の燃料電池用単セルの検査システムであって、
前記電解質に対してアルコールを噴射する噴射器と、
この噴射器により前記アルコールが付着した前記電解質を撮像するカメラと、
このカメラにより生成された画像データに対して画像処理を行う画像処理部と、
この画像処理部により生成された処理結果に基づいて前記電解質に不良が生じているか否かを判定する判定部と
を備えることを特徴とする検査システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−2569(P2012−2569A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−135963(P2010−135963)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】