説明

検査方法および検査装置

【課題】異なる反射率を示すものが被検査物に含まれる場合でも、検査を実施することのできる検査方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、感度補正係数を前記被検査物の反射率毎に複数種類予め記憶する感度補正係数記憶工程と、被検査物の反射率の情報を取得する情報取得工程と、前記情報取得工程で取得した前記反射率の情報に対応する感度補正係数を、複数種類予め記憶した前記感度補正係数の中から対応感度補正係数として選択する感度補正係数選択工程と、前記被検査物で反射した反射光を受光して、該反射光の受光量に基づく出力信号を取得する信号取得工程と、前記信号取得工程で取得した前記出力信号を、前記対応感度補正係数を用いて補正する補正工程と、前記補正工程で補正した前記出力信号に基づいて前記被検査物の良否を判定する判定工程と、を含む検査方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検査物を検査する検査方法および検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モータなどの動力部品やコンプレッサ等の機能部品、インバータ等の電気部品、またギアやカム、スライダ等のメカ動作機構等を備える工業製品は、動作時に自身の振動に伴って何らかの動作音を発する。この動作音は、より小さく、より穏やかである程、使用者に好まれる傾向にある。
【0003】
そこで、組み立て途中、もしくは完成後に、工業製品の動作音について、人の聴覚による官能検査が行われる。
【0004】
しかし、昨今の製造現場では、自動化が進められており、官能検査は、機械による自動検査へと転換されることが期待されている。
【0005】
官能検査を自動化する際に、まず挙げられるのが、マイクロホンで動作音を検出する手法である。この手法では、マイクロホンで検出した動作音を解析することで、被検査物としての工業製品の検査を行う。
【0006】
しかし、この手法では、マイクロホンに被検査物の動作音以外が検出されないように、防音室等の大掛かりな設備が必要となる。大掛かりな設備は、製造現場の広さの制限や、コストの観点から導入が困難である場合が多い。
【0007】
それゆえ、このような大掛かりな設備を導入せずとも、官能検査の自動化を実現するための手法として、レーザ変位計を用いる従来の検査装置が特許文献1に記載されている。
【0008】
図6を用いて特許文献1に記載されている従来の検査装置100について説明する。
【0009】
従来の検査装置100では、測定用テーブル101に設置された被検査物102について、レーザ変位計103を用いて、被検査物102の振動を音波形として測定し、測定した音波形を振動解析部104へ入力する。そして、振動解析部104は、入力された音波形について周波数解析を行い、その解析結果を基に、被検査物102の検査を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−139343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
近年の工業製品は、同一品種の製品であっても、カラーバリエーションが異なったり、艶出し、艶消し加工が施されたりして、同一の光を照射した場合に、異なる反射率を示すものが存在することが多い。ただし、このような反射率の如何によって、被検査物102の実際の良否が変わることは無い。
【0012】
しかしながら、レーザ変位計103は、被検査物102からの反射光に基づき、被検査物102の振動に関する情報を取得するため、この取得する情報は、レーザ光を照射する被検査物102の表面の反射率によって大きく変化する。
【0013】
つまり、反射率によって取得する情報の変化する従来の検査装置100では、近年の工業製品のような異なる反射率を示すものが被検査物に含まれる場合に、検査を行うことができないという課題を有している。
【0014】
上記課題に鑑みて、本発明は、近年の工業製品のような異なる反射率を示すものが被検査物に含まれる場合でも、検査を実施することのできる検査方法、及び検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明の検査方法は、被検査物に測定光を照射し、前記被検査物で反射した反射光を受光して、該反射光の受光量に基づく出力信号を用いて前記被検査物の検査を行う検査方法であって、感度補正係数を前記被検査物の反射率毎に複数種類予め記憶する感度補正係数記憶工程と、前記被検査物の反射率の情報を取得する情報取得工程と、前記情報取得工程で取得した前記反射率の情報に対応する感度補正係数を、複数種類予め記憶した前記感度補正係数の中から対応感度補正係数として選択する感度補正係数選択工程と、前記被検査物で反射した反射光を受光して、該反射光の受光量に基づく出力信号を取得する信号取得工程と、前記信号取得工程で取得した前記出力信号を、前記対応感度補正係数を用いて補正する補正工程と、前記補正工程で補正した前記出力信号に基づいて前記被検査物の良否を判定する判定工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によれば、近年の工業製品のような異なる反射率を示すものが被検査物に含まれる場合でも、検査を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施の形態に係る検査方法を実施するための装置構成を示す模式図
【図2】実施の形態に係るセンサと被検査物と調節部とを示す構成図
【図3】実施の形態に係る検査方法のフローチャート
【図4】実施の形態に係るセンサを用いた場合に表面の色の異なる被検査物から出力される信号の違いを示したグラフを表す図
【図5】実施の形態に係る入力レンジと感度補正係数とを算出するフローチャート
【図6】従来の検査装置を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明において「反射率」の異なるものの例として、「色」の異なるものを用いる。ただし、「艶出し、艶消し、鏡面、粗面加工等の加工」の異なるものも「反射率」の異なるものに該当する。
【0019】
本実施の形態では、図1の検査装置1を用いて、被検査物2に対して検査方法を実施する。被検査物2は、動作時に振動し、振動に応じた動作音を発する工業製品である。このような被検査物2の一例として、本実施の形態では扇風機を用いる。
【0020】
まず、図1の検査装置1の概要について説明する。この段落では、各構成の詳細な動作の説明を省略し、各構成の詳細な動作の説明についてはこの段落以降に記載する。図1の検査装置1は、被検査物2の表面の色の情報を取得する情報取得部3と、アナログの信号を出力する検出手段4と、検出手段4から出力されるアナログの信号をデジタルの信号に変換するA/D(アナログ/デジタル)変換器5と、デジタルの信号から心理音響パラメータを算出すると共にこの心理音響パラメータに基づいて被検査物2の良否の判定を行う演算装置6と、良否の判定による検査結果を表示する表示部7と、を備える。
【0021】
次に、図1の検査装置1の構成毎に説明を行う。
【0022】
情報取得部3は、被検査物2の製品情報を取得する手段である。情報取得部3としては、例えばカメラやバーコードリーダを用いることが可能であり、被検査物2に付された製造番号やバーコード等を読み取ることで、被検査物2の製品情報を取得する。この製品情報には、被検査物2の表面の色の情報の他、機種、型番等の情報が含まれる。なお、被検査物2を撮像することで、直接、被検査物2の表面の色の情報を取得してもよい。
【0023】
検出手段4は、被検査物2の振動に応じた出力信号をA/D変換器5に出力するものである。検出手段4の構成及び、被検査物2の振動を検出する原理の詳細については後述する。
【0024】
A/D変換器5は、被検査物2の振動に応じて変化する検出手段4からのアナログの出力信号を、A/D変換してデジタルの出力信号に変換する。このとき、A/D変換器5は、検出手段4から入力される出力信号を一定時間、集録する。つまり、被検査物2の振動に応じて変化する検出手段4からの出力信号を、時間の情報と共に集録することで、波形データとして取得する。本実施の形態では、取得した波形データを、被検査物2の動作音の情報を示す音波形データとして扱う。
【0025】
また、A/D変換器5は、A/D変換時の入力レンジが所定の値に設定可能なものである。例えば、A/D変換器5に入力される検出手段4からの出力信号が0[mV]〜5[mV]の間で変動する電圧信号の場合に、入力レンジを0[mV]〜5[mV]に設定したり、入力される検出手段4からの出力信号が0[mV]〜10[mV]の間で変動する電圧信号の場合に、入力レンジを0[mV]〜10[mV]に設定したりできる。
【0026】
演算装置6は、記憶部6aと、選択部6bと、設定部6cと、制御部6dと、取得部6eと、補正部6fと、心理音響パラメータ算出部6gと、判定部6hと、を備える。ここでは、取得部6eと心理音響パラメータ算出部6gと判定部6hと制御部6dとの説明を行い、その他の部位の動作の説明は後述する。
【0027】
取得部6eは、A/D変換器5でA/D変換した検出手段4からの出力信号(音波形データ)を取得するものであり、心理音響パラメータ算出部6gは、取得部6eで取得した音波形データを周波数解析して、心理音響パラメータを算出するものである。
【0028】
心理音響パラメータとは、機械による定量的な検査の精度を、人の聴覚による官能検査の精度と同水準にするために考案されたもので、より人の聴覚と相関の高い評価量として提唱されているものである。心理音響パラメータの具体例には、ラウドネスやノイジネス等がある。ラウドネスは、人の聴覚で感じる音の大きさに高い相関を示し、ノイジネスは、人が感じる音のうるささに高い相関を示す数値とされており、これらの心理音響パラメータは、音波形データを周波数解析することで算出できる。これらの心理音響パラメータの算出方法の詳細は、E.Zwicker著、山田由紀子訳「心理音響学」に掲載されている。また、ラウドネスの求め方についてはISO532B、ノイジネスの求め方についてはISO3891で規格化されている。
【0029】
判定部6hは、心理音響パラメータ算出部6gで算出した心理音響パラメータに基づいて、被検査物2の良否の判定を行う。具体的には、算出した心理音響パラメータが予め設定したしきい値を超えるか否かを判定し、しきい値を超えた場合、不良品と判定し、しきい値以下の場合は、良品と判定する。例えば、ノイジネスの値におけるしきい値を21.3[sone]とし、被検査物2から算出したノイジネスの値が、このしきい値を上回るか否かで、被検査物2の良否の判定を行い、被検査物2の検査を行う。
【0030】
表示部7は、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ等で構成されたものである。
【0031】
さらに、検査装置1は、被検査物2と検出手段4との相対的な位置関係を調節する調節部8を備える。この調節部8は、検出手段4を保持する保持部と被検査物2の載置される載置部とを備える。また、調節部8には、モータと送りねじを組み合わせた自動ステージを用いる。調節部8である自動ステージの位置情報は、図示しないI/Oボードを介して制御部6dに入力され、制御部6dは入力された位置情報に基づいて調節部8の動作の制御を行う。調節部8は、制御部6dからの指令を受けて、被検査物2と検出手段4とが所望の位置関係になるように、両者の位置を制御する。なお、調節部8として自動ステージの他に、電空レギュレータとエアーシリンダを組み合わせた移動機構や、磁石と電磁石を組み合わせた移動機構等の距離調節装置を用いることも可能である。
【0032】
ここで、検出手段4について図2を用いて説明する。
【0033】
検出手段4は、被検査物2に測定光を照射する光源9と、被検査物2で反射した反射光を受信して、反射光の受光量に基づくアナログ信号を出力する受光素子11とを備える。
【0034】
この検出手段4は、光源9から放射された測定光を被検査物2に導く投光用光ファイバ10と、測定光の照射された被検査物2で反射した反射光を受光素子11に導く受光用光ファイバ12とを有する。
【0035】
投光用光ファイバ10の先端面(測定光の出射面)と受光用光ファイバ12の先端面(反射光の入射面)は、これらの先端面が面一となるように、シャンク13内で結束されている。なお、これらの先端面を検出手段4の先端と定義する。
【0036】
検出手段4の先端と被検査物2との距離が変化すると、受光用光ファイバ12に入射する反射光の光量が変化して、受光素子11で受光する反射光の光量が変化する。受光素子11は、受光した反射光の光量に基づく電気信号を出力するため、被検査物2と検出手段4の先端との距離の変化(被検査物2の振動)を、受光素子11からの電気信号の変化として捉えることができる。つまり、検出手段4は、被検査物2との距離に応じて出力信号を変化させるものである。
【0037】
光源9には、幅広い波長の測定光を照射するものを用いる。被検査物2の表面の色によって測定光の反射率が著しく変化するのを軽減するためである。具体的には、光源9に、色温度が5500Kの白色LEDを使用した。なお、色温度が約3000Kのタングステンハロゲン光源を光源9に用いてもよい。
【0038】
受光素子11には、幅広い波長の測定光(反射光)を受光するために十分な波長検出範囲を有するものが必要である。本実施の形態では、波長検出範囲が200〜1100nmのフォトダイオード11aを有するフォトディテクタを受光素子11に用いた。
【0039】
また、官能検査では、人が聞こえた音に基づいて検査を行うため、人の可聴域の上限付近にある20kHzの音も、人は検査に用いると考えられる。そこで、本実施の形態では、20kHz以上の周波数の音波形データを取得する。この場合、20kHzの音波形データを取得するためには、サンプリング定理より、その2倍である40kHzの周波数帯域が、フォトダイオード11aに求められる。このため、20kHz以上の音波形データを取得するために、フォトダイオード11aの周波数帯域を、40kHz以上とする。なお、一般的に、周波数帯域が高くなる程、フォトダイオード11aのコストは高くなる。このため、コストの観点から、フォトダイオード11aの周波数帯域は1MHz以下が好ましい。
【0040】
なお、ここでの反射率とは、被検査物2に測定光を照射したときに、光源9から照射した光量に対する、受光素子11で受光する反射光(被検査物2で反射した測定光)の光量の比である。
【0041】
次に、検出手段4を用いて被検査物2の振動を検出する方法について説明する。以下の説明において、図2に示した矢印のように、検出手段4の先端から被検査物2の表面までの垂直距離を作動距離(ワーキングディスタンス:WD)とし、このWDを検出手段4と被検査物2との距離とする。また、受光素子11は受光した反射光の光量に応じた(WDに応じた)電圧を出力するものとする。
【0042】
被検査物2が振動すると、WDが変動し、受光用光ファイバ12に入射する反射光の光量が変化する。このとき、入射する反射光の光量が変化すると、受光素子11から出力される電圧も変化する。この電圧の変動を、被検査物2の振動として検出手段4は捉えることができる。
【0043】
以上が、検出手段4の説明である。
【0044】
続いて、図1の検査装置1により実施する検査方法のフローについて、図3と図1とを用いて説明する。
【0045】
ステップS0では、リファレンスデータを予め記憶する。本実施の形態において、検出手段4からの出力信号は、被検査物2の表面の色に依存して変化する。そこで、本実施の形態では、詳細は後述するが、表面の色の影響を除去するため、被検査物2の表面の色に応じた条件で検査を行えるように、リファレンスデータを予め記憶しておく。具体的には、検出手段4からの出力信号を補正するための感度補正係数を被検査物2の表面の色毎に対応させて複数種類、予め記憶する(感度補正係数記憶工程)。
【0046】
さらに、詳細は後述するが、本実施の形態では、出力信号を補正することで、補正後の出力信号の分解能が変化してしまう場合がある。このため、補正後の出力信号における分解能の変化に合わせて、前もってA/D変換器5の入力レンジを変化させ、結果的に、被検査物2の表面の色に応じて補正した後の出力信号が一定の分解能となるようにしている。具体的には、A/D変換器5の入力レンジを被検査物2の表面の色に対応させて複数種類、予め記憶する(入力レンジ記憶工程)。このとき、補正した後の出力信号が一定の分解能となるような入力レンジを、被検査物2の反射率毎にそれぞれ算出して、予め記憶する。これらのリファレンスデータ(複数の感度補正係数と、複数の入力レンジ)は、記憶部6aに記憶される。
【0047】
ステップS1では、被検査物2から、その表面の色の情報を、情報取得部3で取得する(情報取得工程)。
【0048】
ステップS2では、ステップS0で複数種類、予め記憶した感度補正係数の中で、被検査物2の表面の色に対応する感度補正係数(対応感度補正係数)を選択する(感度補正係数選択工程)。さらに、ステップS0で複数種類、予め記憶した入力レンジの中で被検査物2の表面の色に対応する入力レンジ(対応入力レンジ)を選択する(入力レンジ選択工程)。なお、対応感度補正係数と対応入力レンジとの選択は、選択部6bにより行う。
【0049】
ステップS3では、A/D変換器5の入力レンジを、ステップS2で選択した対応入力レンジに設定する(入力レンジ設定工程)。A/D変換器5の入力レンジの設定は、設定部6cにより行う。
【0050】
ステップS4では、被検査物2に検出手段4から測定光を照射する(光照射工程)。検出手段4から測定光を照射する際の制御は、制御部6dにより行う。なお、このステップS4は、次のステップS5までに行えばよく、ステップS1〜ステップS3のいずれかのステップと同時、又は、いずれかのステップの前後に行えばよい。
【0051】
ステップS5では、ステップS4で測定光の照射されている被検査物2で反射した反射光を受光する検出手段4からの出力信号を、ステップS3で対応入力レンジに設定したA/D変換器5を用いてA/D変換して、変換出力信号として取得する(信号取得工程)。なお、検出手段4からの出力信号は、取得部6eが、A/D変換器5を介して取得する。
【0052】
ステップS6では、ステップS5で取得した検出手段4からの出力信号を、ステップS2で選択した対応感度補正係数を用いて補正する(補正工程)。この補正は、補正部6fにより行う。
【0053】
ステップS7とステップS8では、補正した検出手段4からの出力信号に基づいて被検査物2の良否の判定を行う(判定工程)。
【0054】
具体的には、ステップS7で、ステップS6で補正した検出手段4からの出力信号を周波数解析して心理音響パラメータを算出する(パラメータ算出工程)。この心理音響パラメータの算出は、心理音響パラメータ算出部6gにより行う。そして、ステップS8では、ステップS7で算出した心理音響パラメータに基づいて被検査物2の良否を判定することで、被検査物2の検査を行う。この判定は、判定部6hにより行う。
【0055】
ステップS9では、ステップS8での判定結果を、表示部7に表示する。
【0056】
以上のフローを経ることにより、検査装置1は、検査方法を実施する。この検査方法を実施するに際して、被検査物2の表面の色に対応させた入力レンジと感度補正係数とを用いて、被検査物2の検査を行う。これにより、表面の色が異なるものが被検査物2に含まれる場合でも、被検査物2の表面の色に依存しないで、一定の精度で検査を行うことができる。
【0057】
ここで、本実施の形態において、被検査物2の表面の色に対応した感度補正係数を用いる理由について説明する。
【0058】
近年の工業製品においては、同一品種の製品であってもカラーバリエーションの豊富な製品が多く、図1の検出手段4のような光学式のセンサを用いた場合に、被検査物2の表面の色により、検出手段4の感度が異なる場合がある。
【0059】
発明者らは、表面の色の異なる工業製品の具体例として、白色(高反射率)の樹脂からなる白色製品と灰色(低反射率)の樹脂からなる灰色製品とについて、A/D変換器5を介して測定される検出手段4からの電圧とWDとの関係を求めた。なお、白色製品と灰色製品とは、表面の色のみが異なる工業製品である。
【0060】
以下の説明において、WDを変化させつつ、白色製品で反射した反射光を受光した検出手段4からの出力信号をA/D変換器5で変換して取得部6eで取得する信号を白色信号とする。また、WDを変化させつつ、灰色製品で反射した反射光を受光した検出手段4からの出力信号をA/D変換器5で変換して取得部6eで取得する信号を灰色信号とする。また、被検査物2で反射した反射光を検出手段4で受光し、この検出手段4からの出力信号をA/D変換器5で変換して取得部6eで取得した信号を、「被検査物2からの変換出力信号」とする。
【0061】
図4において、横軸にWD[μm]、縦軸に電圧[mV]を示し、白色信号に関する曲線を「樹脂:白(反射率高)」として破線で示し、灰色信号に関する曲線を「樹脂:灰(反射率低)」として実線で示す(WDを0[μm](第1距離)から2[μm](第2距離)まで変化させた際に検出する電圧を示すグラフ)。なお、図4では、白色信号、灰色信号共にA/D変換器5の入力レンジの最大値V1を6[mV]、最小値を0[mV](入力レンジを0[mV]〜6[mV])とした。
【0062】
図4のように、白色信号と灰色信号とでは、WDが同じであっても、異なる電圧を示す。例えば、図4ではWDが0.35[μm]の場合に両者のピークが検出されるが、白色信号のピークの電圧Vaは5.2[mV]、灰色信号のピークの電圧Vbは1.8[mV]であった。このように、色が異なると、取得部6eで取得される信号の感度は異なることが理解できる。
【0063】
取得部6eで取得される信号の感度が色毎に異なれば、例えば、白色製品と灰色製品とが共に同じ振動を行っている場合であっても、両者からの信号は異なる信号として取得され、白色製品と灰色製品とで同じ精度で振動を検出できない場合が生じうる。つまり、色に応じた感度の違いが、検査の精度を低下させる原因となる場合がある。
【0064】
そこで、本実施の形態では、色に応じた感度の違いの影響を除去するため、WDと電圧との関係(波形)が白色信号と灰色信号とで同じになるように、色に対応する感度補正係数(対応感度補正係数)を用いて信号を補正する。例えば、白色信号を基準信号として、この基準信号の波形と一致するように灰色信号の波形を補正することで、色に依存する感度の影響を除去することができる。具体的には、白色信号におけるWDと電圧との関係と、灰色信号におけるWDと電圧との関係とは、一定の相関を示すため、灰色信号の電圧に対応感度補正係数(Va/Vb)を乗算すれば、WDと電圧との関係を補正後の灰色信号と白色信号とで一致させられる。
【0065】
つまり、図3のステップS6では、被検査物2の表面の色に依存して感度の変化する被検査物2からの変換出力信号を、対応感度補正係数を用いて補正することで、色に依存する感度の影響を除去して、一定の精度で振動を検出することを可能とする。このため、本実施の形態において、被検査物2の表面の色に依存しないで、一定の精度で検査を行うことが可能である。
【0066】
次に、本実施の形態において、被検査物2の表面の色に対応した入力レンジを用いる理由について説明する。
【0067】
白色信号と灰色信号とは、A/D変換器5によりデジタル信号に変換されている。このとき、A/D変換後のデジタル信号の分解能は、入力レンジをA/D変換時の量子化ビット数で乗算した値で与えられる。A/D変換時の量子化ビット数を16[bit]とすると、白色信号の分解能はV1/216、感度補正係数を用いて補正した後の灰色信号(補正後の灰色信号)の分解能はV1/216×(Va/Vb)となり、両者の分解能は異なる。
【0068】
心理音響パラメータは、A/D変換器5で変換後のデジタル信号を周波数解析して算出されるため、互いに分解能の異なる白色信号と補正後の灰色信号とからそれぞれ算出した心理音響パラメータは、一致するとは限らない。
【0069】
そこで、補正後の灰色信号の分解能が白色信号の分解能と一致するように、灰色信号を取得する際のA/D変換器5の入力レンジ(対応入力レンジ)を算出し、算出した対応入力レンジに設定したA/D変換器5を用いて灰色信号を取得する。なお、この対応入力レンジの具体例については、後述する。
【0070】
つまり、図3のステップS3で、被検査物2の表面の色に対応する対応入力レンジにA/D変換器5の入力レンジを設定し、ステップS4で、対応入力レンジに設定したA/D変換器5を用いることで、ステップS6で補正した後に、常に一定の分解能の変換出力信号を取得することができる。なお、ここでの入力レンジは最小値から最大値までの絶対値で与えられる。図4において、入力レンジの最小値は0なので、入力レンジは、その最大値V1となる。
【0071】
以上から、検査装置1による検査方法によって、被検査物2の表面の色に依存して感度が変化する被検査物2からの変換出力信号を、表面の色に依存する感度の影響を除去するように補正し、さらに、補正した信号の分解能を、表面の色の影響を受けずに一定の値とすることができる。これにより、被検査物2の表面の色に依存する感度の影響を除去した一定分解能の変換出力信号から、表面の色に依存しない心理音響パラメータを算出することができるため、表面の色に依存しない検査が可能となる。人の聴覚による官能検査では、被検査物2の表面の色に検査の精度が影響されることはない。すなわち、検査装置1による検査方法は、官能検査と同程度の精度で被検査物2の検査を行うことができる。
【0072】
ここで、灰色製品に対応する対応入力レンジと、対応感度補正係数とを算出する方法について図1と図4とを用いて説明する。この説明において、白色製品を基準品とし、白色信号を基準信号とし、白色信号の分解能を基準分解能とする。また、灰色製品を校正用サンプルとし、灰色信号をサンプル信号、灰色信号の分解能をサンプル分解能とする。また、基準信号と、校正用サンプルの電圧の最小値が0になるように校正し、A/D変換器5の入力レンジの最小値が常に0になるようにしている。
【0073】
サンプル信号の感度は、図4に示すように、基準信号の感度に比べて低い。この感度の違いを補正するための感度補正係数(校正用サンプルの表面の色に対応する対応感度補正係数)は、次の(数1)で算出される。
【0074】
【数1】

【0075】
この(数1)において、Rは、感度補正係数、Vaは、図4の基準信号におけるピークの電圧、Vbは、サンプル信号におけるピークの電圧を示す。なお、Vaと、Vbは、ピークの電圧でなくともよい。WDが等しい場合における基準信号とサンプル信号とからそれぞれ検出される電圧の値としてもよい(例えばWDが1[μm]の場合の基準信号の電圧をVa、WDが1[μm]の場合の基準信号の電圧をVbとしてもよい)。
【0076】
この(数1)より算出した感度補正係数Rを用いて、サンプル信号を補正する。具体的には、サンプル信号の電圧に、感度補正係数Rを乗算する。これにより、基準信号のWDと電圧との関係と、サンプル信号のWDと電圧との関係とを一致させることが可能となり、校正用サンプルの表面の色に依存する感度の影響を除去することができる。
【0077】
なお、Va、Vbはそれぞれ検出手段4から出力される電圧に起因する値であるため、それぞれを任意の値とすることができない。このため、Va、Vbを予め測定することでRを一義に決定することができる。
【0078】
次に、この感度補正係数Rを用いて、サンプル信号を補正した際に、サンプル分解能が基準分解能と等しくなるように、サンプル信号を取得する際のA/D変換器5の入力レンジ(校正用サンプルの表面の色に対応する対応入力レンジ)V2(図4に示す)を(数2)から算出する。
【0079】
【数2】

【0080】
(数2)において、V1は、基準信号を取得した際のA/D変換器5の入力レンジ(基準入力レンジ)である。この(数2)で与えられる入力レンジV2に設定したA/D変換器5を用いて取得したサンプル信号を、(数1)で与えられる感度補正係数Rを用いて補正することで、サンプル信号のサンプル分解能を基準分解能と一致させることができ、また、校正用サンプルの表面の色に依存するサンプル信号の感度の影響を除去することができる。
【0081】
ここで、これらの感度補正係数Rと入力レンジV2とを算出するフローについて、図5と図1とを用いて説明する。
【0082】
ステップS10では、基準品に検出手段4から測定光を照射し、基準品で反射した反射光(基準反射光)を検出手段4で受光する。このとき、基準品と検出手段4との距離(WD)を変化(例えば、0[μm](第1距離)から2[μm](第2距離)に変化)させることで、検出手段4から出力される電圧の信号(基準信号)のピークの値VaをA/D変換器5を介して取得部6eで取得する(第1工程)。
【0083】
ステップS11では、校正用サンプルに測定光を照射し、校正用サンプルで反射した反射光(サンプル反射光)を検出手段4で受光する。このとき、校正用サンプルと検出手段4との距離(WD)を、ステップS10と同じ量だけ変動させることで、検出手段4から出力される電圧の信号(サンプル信号)のピークの値VbをA/D変換器5を介して取得部6eで取得する(第2工程)。このとき、ステップS10とステップS11とではA/D変換器5の入力レンジを、基準信号を取得する際の入力レンジV1とする。
【0084】
ステップS12では、測定したVa、Vbとから(数1)に基づいて、感度補正係数Rを算出する(第3工程)。
【0085】
ステップS13では、算出したRとV1とから(数2)に基づいて、校正用サンプルの表面の色に対応する入力レンジV2を算出する(第4工程)。
【0086】
ステップS14では、算出したRとV2との値を、記憶部6aに記憶する(第5工程)。
【0087】
以上のステップS10〜ステップS14により、感度補正係数Rと入力レンジV2とを算出し、記憶部6aに記憶する。
【0088】
なお、このステップS10〜ステップS14は、図3のステップS0の際に実施する。具体的には、ステップS0の感度補正係数記憶工程では、反射率のみが異なる(複数の)被検査物2を用いて感度補正係数を複数種類予め算出して、この感度補正係数を複数種類予め記憶する。また、入力レンジ記憶工程では、反射率のみが異なる(複数の)被検査物2を用いて入力レンジを複数種類予め算出して、この入力レンジを複数種類予め記憶する。
【0089】
また、(数1)と(数2)とから、次の(数3)が与えられ、この(数3)により、入力レンジV2を算出した後に、(数2)から感度補正係数Rを算出してもよい。
【0090】
【数3】

【0091】
また、ここでは、基準品と表面の色の異なる1種類の校正用サンプル(灰色製品)とについて説明したが、さらに、表面の色の異なる校正用サンプル(例えば赤色製品)を用いる場合でも同様である。この場合、各色に対応した複数の入力レンジと、複数の感度補正係数とを、上述の図5のステップS10〜ステップS14により算出して予め記憶部6aに記憶する。そして、選択部6bは、情報取得部3で取得した被検査物2の表面の色の情報に従い、この色に対応した対応入力レンジを、記憶部6aに記憶している複数の入力レンジの中で選択する。さらに、選択部6bは、この色に対応した対応感度補正係数を、記憶部6aに記憶されている複数の感度補正係数の中で選択する。
【0092】
なお、検査を実施するに際して、検出手段4と被検査物2との距離を最適な位置に調節する。このとき、検出手段4と被検査物2(基準品、校正用サンプル)との距離が常に一定の距離(検出手段4を保持する保持部と被検査物2の載置される載置部との距離が一定)となるように、調節部8によりこれらの位置が調節される。この場合、検出手段4からの出力信号に基づいて、被検査物2との距離を測定してもよい。測距手段を新たに設けることなく、被検査物2と検出手段4との距離を測定することが可能である。
【0093】
以上、本実施の形態に係る検査装置1による検査方法は、被検査物2の表面の色に依存しないで、人の感覚による検査である官能検査と同程度の精度で、自動的に検査を実施することができる。
【0094】
なお、同一製品中に「艶消し」「艶出し」等の加工がされ、製品の表面の反射率の異なるものが被検査物2として存在する場合であっても、本実施の形態により、被検査物2の表面の反射率に依存しない検査を実施することができる。
【0095】
これらの、「艶消し」「艶出し」等の加工がされ、表面の反射率の異なるものが被検査物2として存在する場合に実施する本実施の形態における具体的な手順は、次の通りである。
【0096】
まず、図3のステップS0で、表面に「艶消し」「艶出し」等が加工された被検査物2の各加工(反射率)に対応させた感度補正係数と、各加工(反射率)に対応させた入力レンジとを、複数種類、予め図1の記憶部6aに記憶させる。
【0097】
次に、図3のステップS1で、被検査物2の表面の加工の情報(反射率の情報)を取得する。
【0098】
続いて、取得した被検査物2の表面の加工の情報(反射率の情報)に対応する対応感度補正係数と対応入力レンジとを、図3のステップS2で選択する。
【0099】
以下、上述した図3のステップS3〜ステップS9と同じフローにより、同一製品中に「艶消し」「艶出し」等の加工がされ、製品の表面の反射率の異なるものが被検査物2として存在する場合であっても、本実施の形態により、被検査物2の表面の反射率に依存しないで、一定の精度で検査を実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明は、動作中に振動を伴って音を発する工業製品(例えばモータ、コンプレッサ、インバータ、あるいはそれらを内蔵した製品、ギアやカム、スライダ等のメカ動作機構を持つ製品)等の検査に利用できる。
【符号の説明】
【0101】
1 検査装置
2 被検査物
3 情報取得部
4 検出手段
5 A/D変換器
6 演算装置
6a 記憶部
6b 選択部
6c 設定部
6d 制御部
6e 取得部
6f 補正部
6g 心理音響パラメータ算出部
6h 判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査物に測定光を照射し、前記被検査物で反射した反射光を受光して、該反射光の受光量に基づく出力信号を用いて前記被検査物の検査を行う検査方法であって、
感度補正係数を前記被検査物の反射率毎に複数種類予め記憶する感度補正係数記憶工程と、
前記被検査物の反射率の情報を取得する情報取得工程と、
前記情報取得工程で取得した前記反射率の情報に対応する感度補正係数を、複数種類予め記憶した前記感度補正係数の中から対応感度補正係数として選択する感度補正係数選択工程と、
前記被検査物で反射した反射光を受光して、該反射光の受光量に基づく出力信号を取得する信号取得工程と、
前記信号取得工程で取得した前記出力信号を、前記対応感度補正係数を用いて補正する補正工程と、
前記補正工程で補正した前記出力信号に基づいて前記被検査物の良否を判定する判定工程と、を含む検査方法。
【請求項2】
入力レンジを前記被検査物の反射率毎に複数種類予め記憶する入力レンジ記憶工程と、
前記情報取得工程で取得した前記反射率の情報に対応する入力レンジを、複数種類予め記憶した前記入力レンジの中で対応入力レンジとして選択する入力レンジ選択工程と、
A/D変換器の入力レンジを前記対応入力レンジに設定する入力レンジ設定工程と、を含み、
前記信号取得工程は、前記入力レンジ設定工程後の前記A/D変換器を用いて変換した前記出力信号を取得する
ことを特徴とする請求項1に記載の検査方法。
【請求項3】
前記感度補正係数記憶工程は、反射率のみが異なる複数の前記被検査物を用いて前記感度補正係数を複数種類予め算出して該感度補正係数を複数種類予め記憶し、
前記入力レンジ記憶工程は、反射率のみが異なる複数の前記被検査物を用いて前記入力レンジを複数種類予め算出して該入力レンジを複数種類予め記憶する
ことを特徴とする請求項2に記載の検査方法。
【請求項4】
前記判定工程は、前記出力信号を周波数解析して心理音響パラメータを算出し、該心理音響パラメータに基づいて前記被検査物の良否を判定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の検査方法。
【請求項5】
前記被検査物の反射率は、色の種類によって変化する反射率であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の検査方法。
【請求項6】
前記被検査物で反射した反射光を、周波数帯域が40kHz以上のフォトダイオードで受光することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の検査方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の検査方法により前記被検査物の良否を判定する演算装置を備える検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−32961(P2013−32961A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168925(P2011−168925)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】