説明

検査方法及び検査装置

【課題】検査装置において採取した測定データそのものの信頼性を、検査装置自身が判定可能な検査方法及び検査装置を提供すること。
【解決手段】時間等の基準変数の変化に対応して順次採取した検査対象の測定データYi(i=1〜n、nは自然数)を用いて検査対象の状態が正常か否かを判断する合否判定ステップを有する検査方法において、合否判定ステップとは別に、コンピュータにより測定データYiの信頼性を判定する信頼性判定ステップを有している。信頼性判定ステップは、過去に採取した測定データYiについて同一基準変数毎に求めた標準偏差σiと平均値μiとを用い、今回採取した合計n個の測定データYiのうちN個(2≦N≦n)について、それぞれが対応するμi±mσi(1≦m≦3)の信頼範囲を超えるか否かの判定を基礎として信頼性の有無又は程度を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、振動や騒音等の検査対象について測定データを採取して合否を判定する検査方法及び検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車用のA/T(オートマチックトランスミッション)の製品検査の一つとして、A/Tを回転駆動させながらその振動又は騒音(ギアノイズ)の測定を行う検査がある。この検査においては、検査対象の測定データとして振動又は騒音のデータを採取し、これら生データあるいは統計処理後のデータが所定の閾値を超えるか否か等により、合否が判定される。具体的な検査手法としては、これまでも様々な技術が提案されている(例えば特許文献1)。
【0003】
しかしながら、精度の高い検査は、例えば、採取する測定データそのものの信頼性に依存する。すなわち、例えば、音の測定データを採取する際に、そのセンサ(マイク)が故障又は不調の場合には、測定データとして本来は正常となるはずなのに異常となるようなデータが採取されたり、その逆の本来は異常となるはずなのに正常となるようなデータが採取されることがある。この場合には、検査結果も当然に質の低いものとなってしまう。
このような不具合は、頻繁に検査装置を点検すると共に、基準の模擬データ等を用いたテスト検査によって検査装置そのものの信頼性を確認することによってある程度回避可能である。しかし、点検やテスト検査の頻度を上げることにも限界があり、あらたな何らかの方策が求められていた。
【0004】
【特許文献1】特開2006−258535
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、検査装置において採取した測定データそのものの信頼性を、検査装置自身が判定可能な検査方法及び検査装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、例えば時間、周波数、次数等の基準変数の変化に対応して順次採取した検査対象の測定データYi(i=1〜n、nは自然数)を用いて検査対象の状態が正常か否かを判断する合否判定ステップを有する検査方法において、
上記合否判定ステップとは別に、コンピュータにより上記測定データYiの信頼性を判定する信頼性判定ステップを有しており、
該信頼性判定ステップは、
過去に採取した測定データYiについて同一基準変数毎に求めた標準偏差σiと平均値μiとを用い、
今回採取した合計n個の上記測定データYiのうちN個(2≦N≦n)について、それぞれが対応するμi±mσi(1≦m≦3)の信頼範囲を超えるか否かの判定を基礎として信頼性の有無又は程度を判定することを特徴とする検査方法にある(請求項1)。
【0007】
本発明の検査方法においては、本来の合否判定ステップとは別に、上記信頼性判定ステップを実施する。この信頼性判定ステップにおいては、上記のごとく、過去に採取した測定データYiによって同一基準変数毎に求めた標準偏差σiと平均値μiとを用いる。
【0008】
すなわち、例えば、過去にM回分の合格例の検査の実績があるとすると、その1回目の検査の測定データとしてY11、Y12、・・・Y1i・・・Y1nのn個のデータがあり、さらに2回目の検査の測定データとしてY21、Y22・・・Y2i、・・・Y2nのn個のデータがあり、また、M回目の検査の測定データとしてYM1、YM2、・・・YMi、・・・YMnのn個のデータがあることとなる。この場合、同じ基準変数に対応する過去の測定データとしては、それぞれM個存在していることとなるので、そのM個のデータによって標準偏差σiと平均値μiとを求めることができる。
【0009】
すべての測定データについて求めた場合、n個の標準偏差σiと平均値μiとが得られる。なお、n個すべての標準偏差σiと平均値μiを用いてもよいし、一部のみ(N個)を用いてもよい。
これらの標準偏差σiと平均値μiとは、後述するごとく、本発明の検査方法の1つのステップとして算出して用いても良いが、予め計算して固定値として記憶したものを用いてもよい。
【0010】
そして、上記信頼性判定ステップでは、今回の検査において採取した上記測定データYiのうちN個を判定に用いる。N個は、採取したすべての個数(n個)でもよいし、適当な数に減らしたものでもよい。そして、各測定データYiについて、それぞれが対応するμi±mσi(1≦m≦3)の信頼範囲を超えるか否かの判定を行う。具体的な判定方法としては、様々な判定方法をとりうるが、本発明では、上記の標準偏差σiと平均値μiを基にして判定を行う。
【0011】
このように、本発明の検査方法では、過去の測定データの標準偏差σiと平均値μiを用いて、今回の測定データの信頼性そのものを判定するという信頼性判定ステップを積極的に採用している。そのため、本来の合否判定ステップの結果そのものが信頼できるか否かを上記信頼性判定ステップの結果から判断することができる。
【0012】
すなわち、上記合否判定ステップの結果がいずれの結果であっても、上記信頼性判定ステップの結果が信頼性無し或いは信頼性が低いという結果であった場合には、上記合否判定ステップの結果がそのまま使用できないことを判断できる。逆に、上記合否判定ステップの結果がいずれの結果であっても、上記信頼性判定ステップの結果が信頼性有り或いは信頼性が高いという結果であった場合には、上記合否判定ステップの結果をそのまま使用できると判断できる。
【0013】
さらに、上記信頼性判定ステップの結果が信頼性無し或いは信頼性が低いという結果となった場合には、その検査装置の故障又は不調があるか、或いは、検査対象そのものの特性によるものかを確かめる再検査或いは装置の点検等をすべきであると判断できる。
このように、本発明の検査方法を用いれば、上記のような従来できない判断を加えられるので、上記合否判定ステップによる判定の信頼性を従来よりも格段に向上させることができる。
【0014】
第2の発明は、時間等の基準変数の変化に対応して順次採取した検査対象の測定データYi(i=1〜n、nは自然数)を用いて検査対象の状態が正常か否かを判断する合否判定手段とを有する検査装置において、
上記合否判定手段とは別に、コンピュータにより上記測定データYiの信頼性を判定する信頼性判定手段を有しており、
該信頼性判定手段は、
過去に採取した測定データYiによって同一基準変数毎に求めた標準偏差σiと平均値μiとを用い、
今回採取した合計n個の上記測定データYiのうちN個(2≦N≦n)について、それぞれが対応するμi±mσi(1≦m≦3)の信頼範囲を超えるか否かの判定を基礎として信頼性の有無又は程度を判定するよう構成されていることを特徴とする検査装置にある(請求項8)。
【0015】
本発明の検査装置は、上記合否判定手段に加えて上記信頼性判定手段を有している。そして、この信頼性判定手段においては、上述した検査方法における信頼性判定ステップを実行することができ、上述した作用効果をそのまま得ることができる。
そのため、本発明の検査装置においては、上記信頼性判定手段を実行した結果が信頼性無し或いは信頼性が低いという結果となった場合には、検査装置の故障又は不調があるか、或いは、検査対象そのものの特性によるものかを確かめる再検査或いは装置の点検等をすべきであると判断できる。
そのため、本発明の検査装置を用いれば、上記のような従来できない判断を加えられるので、上記合否判定手段による判定結果の信頼性を従来よりも格段に向上させることができると共に、検査装置自身の信頼性判定手段の判定結果からそのセンサ部等の機能の低下或いは不具合が発生している可能性を認知することができ、その発生時の早期対応を可能とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
第1の発明の検査方法における上記信頼性判定ステップにおいて用いる信頼範囲は、μi±mσi(1≦m≦3)の範囲、つまり、(μi−mσi)〜(μi+mσi)の範囲として定め、その範囲内に測定データYiが入ればそのデータはある程度の信頼性があると判断できる。なお、信頼範囲は、上記mの値を小さくればするほど狭くなって判定が厳しくなる。そして、本発明では、mは上記のごとく1以上3以下の範囲とし、必ずしも自然数でなくてもよい。mが1未満の場合には、判定基準が厳しすぎて妥当な判定が困難となるおそれがあり、一方、3を超える場合には、判定基準が緩すぎて妥当な判定が困難となるおそれがある。
【0017】
また、上記信頼範囲の設定を2段階あるいはそれ以上の複数段階設けることによって、信頼性の程度を複数段階に分類して、よりきめ細かい判定を行うことも可能である。
また、本発明では、n個の測定データYi群全体の信頼性を、複数個(N個)の測定データYiを用いて判断する。N個は、最も好ましくは測定データYiの全体の個数n個と同じとすることが好ましく、判定を行うハードウエアであるコンピュータの性能等に妥当なように設計することができる。
【0018】
そして、具体的な判定方法としては、様々な方法をとりうる。
すなわち、上記信頼性判定ステップでは、少なくとも、今回採取した上記測定データYiのうちN個について、それぞれが対応するμi±mσi(1≦m≦3)の信頼範囲を超えるか否かの判定をすると共に、上記N個のうち上記信頼範囲を超える個数Aを求め、A/Nの値が基準値B(0<B<1)を超えるか否かを判定して、信頼性の有無又は程度を判定することができる(請求項2)。
この場合には、N個の測定データYiのうち上記信頼性範囲を超える個数Aを求めて判定するので、非常にシンプルな計算によって判定が可能である。ここで、上記信頼範囲を超える個数Aを求めることに代えて、信頼範囲内の個数(N−A)を求め、さらに、上記基準値Bを(1−B)に代えても技術的意義は同じであり、このような場合も上記の技術的範囲に含まれる(以下、同様)。
【0019】
また、上記信頼性判定ステップでは、今回採取した上記測定データYiのうちN個について、それぞれに対応するμi±aσi(1≦a<3)の第1信頼範囲を超えるか否かの判定をすると共に、上記N個のうち上記第1信頼範囲を超える個数A1を求め、A1/Nの値が基準値B1(0<B1<1)を超えるか否かを判定し、
上記A1/N≧B1の場合には、さらに、今回採取した上記測定データYiのうちN個について、それぞれに対応するμi±bσi(a<b≦3)の第2信頼範囲を超えるか否かの判定をすると共に、上記N個のうち上記第2信頼範囲を超える個数A2を求め、A2/Nの値が基準値B2(0<B2<1)を超えるか否かを判定して、信頼性の有無又は程度を判定することができる(請求項3)。
【0020】
この場合には、2段階の判定を行うので、きめの細かい判定が可能である。例えば、上記A1/NがB1未満の場合には、測定データ群が非常に信頼性が高いレベルのものであるという判定をすることができる。また、A1/N≧B1の場合でも、A2/NがB2未満の場合には、測定データ群がある程度高いレベルの信頼性を有するものであるという判定をすることができる。そして、A1/N≧B1の場合で、さらにA2/N≧B2の場合には、測定データ群の信頼性が最も低いにあると判定することができる。
【0021】
また、上記標準偏差σiと上記平均値μiは、予め記憶しておいた固定値を用いることができる(請求項4)。
すなわち、過去に同じ検査対象の測定データYiの採取を多数回行った実績がある場合には、それらの過去の実績から予め算出した標準偏差σiと平均値μiを記憶しておき、その固定値を常に用いて判定に用いることができる。この場合には、同じ検査対象の場合に、その正常な実績値が経時的にもほとんど変化がない場合に十分に精度の高い判定を行うことができる。
【0022】
また、上記標準偏差σiと上記平均値μiは、上記信頼性判定ステップを行う際に、記憶された過去の測定データを用いてあらためて算出することもできる(請求項5)。この場合には、例えば、正常な実績値が、ある程度のトレンドを持ってシフトしていく場合、例えば、常時改善されて正常な値そのものの平均値がよい方向に変化していく傾向がある場合等には、定期的に基準となる上記標準偏差σiと上記平均値μiの値を見直した方が好まし場合がある。
【0023】
より具体的には、例えば、正常な新しい測定データが100回分蓄積されるたびにあらためて上記標準偏差σiと上記平均値μiを算出し、その後、あらたに100回分のデータが蓄積される度にその100回分のデータから上記標準偏差σiと上記平均値μiを算出し直して更新する方法がある。また、正常な1回分の新しい実績データが蓄積されるたびに、最も古い回の測定データを削除して上記標準偏差σiと上記平均値μiを算出し直して更新する方法もある。
【0024】
また、例えば、上記検査対象は、被検査物から発生する振動又は騒音とすることができる(請求項6)。検査対象が振動又は騒音である場合には、特に、その実績データそのものが正常に採取された信頼性の高いものであるか否かということの判断が難しく、熟練した検査員がそのデータを検証しても判断が難しい場合が多い。そのため、上記標準偏差σiと上記平均値μiという統計的な処理をしたデータを用いて上記の信頼性判定ステップを取り入れることの有効性が非常に高い。
【0025】
また、例えば、上記被検査物は、A/T(オートマチックトランスミッション)であると共に、上記基準変数は該A/Tの出力軸の回転数であり、上記測定データYiは、上記回転数が予め定めた値になる毎に測定することができる(請求項7)。
すなわち、A/Tは、運転時のギアノイズを抑制することが重要であり、特定の回転数に対するギアノイズ(ギアの噛み合い時の振動又は騒音)を測定して、その実測値から合否を判定する検査が行われる。そして、この場合にも、上述した信頼性判定ステップを取り入れることによって、ギアノイズの検査自体の信頼性を従来よりも向上させることができる。
【0026】
次に、上記第2の発明の検査装置においては、上述した第1の発明の検査方法における上述した内容に対応する構成を備えることが好ましい。
すなわち、上記信頼性判定手段は、少なくとも、今回採取した上記測定データYiのうちN個について、それぞれが対応するμi±mσi(1≦m≦3)の信頼範囲を超えるか否かの判定をすると共に、上記N個のうち上記信頼範囲を超える個数Aを求め、A/Nの値が基準値B(0<B<1)を超えるか否かを判定して、信頼性の有無又は程度を判定するよう構成することができる(請求項9)。
【0027】
また、上記信頼性判定手段は、今回採取した上記測定データYiのうちN個について、それぞれに対応するμi±aσi(1≦a<3)の第1信頼範囲を超えるか否かの判定をすると共に、上記N個のうち上記第1信頼範囲を超える個数A1を求め、A1/Nの値が基準値B1(0<B1<1)を超えるか否かを判定し、
上記A1/N≧B1の場合には、さらに、今回採取した上記測定データYiのうちN個について、それぞれに対応するμi±bσi(a<b≦3)の第2信頼範囲を超えるか否かの判定をすると共に、上記N個のうち上記第2信頼範囲を超える個数A2を求め、A2/Nの値が基準値B2(0<B2<1)を超えるか否かを判定して、信頼性の有無又は程度を判定するよう構成することもできる(請求項10)。
【0028】
また、上記標準偏差σiと上記平均値μiは、予め記憶しておいた固定値を用いることができる(請求項11)。
また、上記標準偏差σiと上記平均値μiは、上記信頼性判定手段を実行する際に、記憶された過去の測定データを用いてあらためて算出するよう構成されていることもできる(請求項12)。
【0029】
また、上記検査対象が被検査物から発生する振動又は騒音である場合には、上述したごとく特に有効である(請求項13)。
そして、上記被検査物は、A/T(オートマチックトランスミッション)であると共に、上記基準変数は該A/Tの出力軸の回転数であり、上記測定データYiは、上記回転数が予め定めた値になる毎に測定すること、すなわち、上記検査装置がA/Tのギアノイズ検査装置とすることができる(請求項14)。
【0030】
もちろん、本発明の検査方法及び検査装置は、A/Tのギアノイズの検査方法及び検査装置の他に、例えば、質量、密度、位置、時間、角度、速度、加速度、角速度、長さ、厚さ、面積、体積、流量、液位、重量、力、応力、圧力、トルク、運動量、慣性モーメント、エネルギー、光の強度、温度、熱量、電荷、電圧、電流、磁荷、磁界、磁束等の検査方法及び検査装置に適用可能であり、いずれの検査方法及び装置においても、上述した信頼性判定ステップ又は信頼性判定手段を具備することによる作用効果を得ることができる。
【実施例】
【0031】
(実施例1)
本発明の実施例に係る検査方法及び検査装置につき、図1〜図5を用いて説明する。
本例の検査装置1は、A/Tのギアノイズ検査装置である。
検査装置1は、図1に示すごとく、回転駆動手段811〜816によって被検査物80としてのA/Tを回転させ、該被検査物80から生じる検査対象としての振動又は騒音(ギアノイズ)を採取して振動波形又は音圧波形の採取信号として出力するセンサ部71と、該センサ部71から受けた上記採取信号に演算処理を加えて所望の形態の測定データYiを、基準変数Xiに対応させて出力する演算部72とを有し、さらに、検査対象の状態が正常か否かを判断する合否判定ステップを実行する合否判定手段及び測定データYiの信頼性を判定する信頼性判定ステップを実行する信頼性判定手段を備えた測定用コンピュータ(測定用PC)73を有するA/Tギアノイズ検査装置である。
【0032】
さらに詳説すると、検査装置1は、A/Tである被検査物80を駆動する機械系8と、これを制御する制御装置70と、制御装置70に接続された上記演算部72及び該演算部72に接続されたセンサ部71と、演算部72に接続された測定用PC73とを有している。測定用PC73には、さらに後処理用コンピュータ(後処理用PC)74及びデータ用サーバ75が接続されている。各コンピュータには、入力装置としてのキーボードと出力装置としての表示用ディスプレイ装置及びプリンタが接続されている(図示略)。
【0033】
機械系8は、同図に示すごとく、駆動モータ811、吸収モータ813、815及びこれらを被検査物80に接続する軸体812、814、816とを有してなる。これら駆動モータ及び軸体811〜816を含む部分が回転駆動装置として機能する。
【0034】
また、上記機械系8に接続された制御装置70は、所定のパターンで上記被検査物80の回転数を変化させるように上記駆動モータ811を制御するように構成され、さらに、被検査物80の回転数データを回転計818及び回転計819から採取し、上記演算部72にそれを伝達できるようになっている。
【0035】
また、上記センサ部71としては、本例では、マイクを用い、ギアノイズを採取できるようにした。なお、このセンサ部71としては、複数接続可能であり、上記演算部72は、複数の処理チャンネルそれぞれについて併行して演算可能に構成されている。本例では1チャンネルだけを例にとって説明する。また、このセンサ部71は、本来は、被検査物80の種類に応じて予め規定されている箇所にセットさせる。
【0036】
また、上記演算部72は、同図に示すごとく、センサ部71から受けた上記採取信号の周波数分析を行うFFTアナライザよりなる。
また、上記検査装置1は、制御装置70の指示によって、所定のパターンで上記被検査物80の回転数を変化させながら運転するように構成されている。
【0037】
そして、図2に示すごとく、演算部72のFFTアナライザにおいて演算された測定データYiは、測定用PC72内の記憶装置に送信され、データ処理ファイル731に一旦格納され、合否判定手段及び信頼性判定手段を実行する際にはこのデータ処理ファイル731を用いて実施する。そして、その判定後には測定データYiをこの測定用PC73内のデータ格納ファイル732から後処理用PC74のデータ格納ファイル741に移され、さらにデータバックアップファイル742に移されて長期保存されるように構成されている。
【0038】
また、本例の検査装置1は、測定用PC73において、被検査物80の種類に応じて測定条件を設定するように構成されている。具体的には、A/Tは、その種類によって、ギア比、次数、及びパラメータを変更して上記合否判定ステップを実施するので、その条件を測定開始前に測定用PC73において設定する。
【0039】
具体的には、図3に示すごとく、ステップS101において、検査員により測定用PC73上における測定開始スイッチがオンされた後、ステップS102において、測定方法を示す番号の入力を測定用PC73が受ける。この測定方法は、表1に示すごとく、その番号、ギヤ比、次数等の測定条件、及びパラメータを含むものであり、少なくとも複数の種類のものが予め登録され、測定用PC73内の記憶装置に記憶されている。
【0040】
ステップS103においては、入力された番号が表1に示す登録されたものか否かが判断され、登録されたものである場合には、ステップS110において測定開始状態となる。この状態で演算部72から測定データYiの入力を受けることによって実際の処理が始まる。
【0041】
一方、ステップS103において、入力された番号が表1に示す登録されたものでないと判断された場合には、ステップS104においてパラメータの入力・設定を受け付ける状態となる。そして、ステップS105においてパラメータの入力・設定が完了した後、ステップS106において測定条件の入力・設定を受け付ける状態となる。そして、ステップS107において測定条件の入力・設定が完了した後、ステップS108において今回の測定方法を記憶装置に登録した後、ステップS109において測定開始状態となる。この状態で演算部72から測定データYiの入力を受けることによって実際の処理が始まることとなる。
【0042】
また、検査装置1は、上述したごとく、検査対象の状態が正常か否かを判断する合否判定ステップを実行する合否判定手段及び測定データYiの信頼性を判定する信頼性判定ステップを実行する信頼性判定手段を、測定用PC73内に備えている。
上記測定データYiは、それぞれの基準変数Xi(回転数)に対応して(Xi、Yi)として扱われる。そのため、1回の検査を実施すると、(X1、Y1)、(X2、Y2)・・・(Xi、Yi)・・・(Xn、Yn)というn個のデータが得られる。
【0043】
そして、上記合否判定手段は、例えば、それぞれの上記Xiに対応するYiの値の閾値を予め定めておき、それを超えるものが所定個数以上となった場合に不合格であるとする手法などの様々なを採用することができる。この合否判定手段は、従来と同様の手法で合否を判定するものであるので、本例での詳しい説明は省略する。
【0044】
一方、信頼性判定手段は、従来にない手段であり、過去に採取した測定データYiによって同一基準変数Xi毎に求めた標準偏差σiと平均値μiとを用い、今回採取した合計n個の上記測定データYiのうちN個(2≦N≦n)について、それぞれが対応するμi±mσi(1≦m≦3)の信頼範囲を超えるか否かの判定を基礎として信頼性の有無又は程度を判定するよう構成されている。本例における標準偏差σiと平均値μiとは、過去に蓄積した実績から算出した値を固定値として記憶したものを用いる。
【0045】
図4に示すごとく、上記信頼性判定手段が行う信頼性判定ステップは、まず、サブステップS201において、今回採取した上記測定データYiのN個(本例ではn個)すべてについて、それぞれに対応するμi±2σiの第1信頼範囲を超えるか否かの判定をすると共に、上記n個のうち上記第1信頼範囲を超える個数A1を求め、A1/Nの値αを算出する。次いで、サブステップS202において、A1/Nの値αが基準値B1(B1=0.3)を超えるか否かを判定する。
【0046】
A1/N<B1の場合には、サブステップS203において、さらに、A1/Nの値αが0.1を超えるか否かを判定する。
α≦0.1の場合には、サブステップS204において、今回の測定データYiが「90%以上の信頼性を有する」と判定し、その内容を測定用PC73のディスプレイ装置に表示する。
α>0.1の場合には、サブステップS205において、今回の測定データYiが「70〜90%の信頼性を有する」と判定し、その内容を測定用PC73のディスプレイ装置に表示する。
【0047】
一方、サブステップS202の判定がA1/N≧B1の場合には、サブステップS206において、今回採取した上記測定データYiのN個すべてについて、それぞれに対応するμi±3σiの第2信頼範囲を超えるか否かの判定をすると共に、上記N個のうち上記第2信頼範囲を超える個数A2を求め、A2/Nの値βを算出する。次いで、サブステップS207において、A2/Nの値βが基準値B2(B2=0.5)を超えるか否かを判定する。
【0048】
β≦0.5の場合には、サブステップS208において、今回の測定データYiが「50〜70%の信頼性を有する」と判定し、その内容を測定用PC73のディスプレイ装置に表示する。
β>0.5の場合には、サブステップS209において、今回の測定データYiが「50%以下の信頼性しかなく、再検査が妥当である」と判定し、その内容を測定用PC73のディスプレイ装置に表示する。
【0049】
以上のように、本例の検査装置1を用いた検査方法においては、本来の合否判定ステップとは別に、上記信頼性判定ステップを実施する。そして、この信頼性判定ステップを実施することにより、上記のごとく、今回の測定データYiが「90%以上の信頼性を有する」、「70〜90%の信頼性を有する」、「50〜70%の信頼性を有する」、または「50%以下の信頼性しかなく、再検査が妥当である」という4段階の判定を行うことができる。
そのため、本来の合否判定ステップの結果そのものが信頼できるか否かを上記信頼性判定ステップの結果から判断することができる。
【0050】
すなわち、上記合否判定ステップの結果がいずれの結果であっても、上記信頼性判定ステップの結果が「50%以下の信頼性しかなく、再検査が妥当である」という最低レベルの信頼性しかないという判定結果結果であった場合には、上記合否判定ステップの結果がそのまま使用できないことを判断できる。
【0051】
一方、上記信頼性判定ステップの結果が「90%以上の信頼性を有する」という最高レベルの信頼性が得られた場合には、上記合否判定ステップの結果を非常に信頼できるため、そのまま使用できると判断できる。
また、上記信頼性判定ステップの結果が「70〜90%の信頼性を有する」という2番目に高いレベルの信頼性が得られた場合には、上記合否判定ステップの結果を信頼できるため、そのまま使用できると判断できる。
また、上記信頼性判定ステップの結果が「50〜70%の信頼性を有する」という2番目に低いレベルの信頼性が得られた場合には、上記合否判定ステップの結果を上記の2つの結果と較べて信頼性は低いものの、信頼できるとしてそのまま使用できると判断できる。
【0052】
このように、本例においては、上記のような従来できない判断を加えられるので、上記合否判定ステップによる判定の信頼性を従来よりも格段に向上させることができる。
【0053】
ここで、本実施例において測定した測定データの例を図5に示す。同図は、横軸にA/Tの回転数(rpm)を、縦軸にギアノイズ(dB)を取り、過去の測定データをプロットしたものである。そして、その全てのデータについての平均値μiと標準偏差σi×3の値(3σi)をあわせてプロットしたものである。−3σiについてはプロットしていないが、上述した第2信頼範囲は、この3σiと図示しない−3σiに挟まれる領域内となる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】実施例1における、検査装置の構成を示す説明図。
【図2】実施例1における、測定データを格納するファイル構成を示す説明図。
【図3】実施例1における、測定用PCでの測定開始までのステップを示す説明図。
【図4】実施例1における、信頼性判定ステップの流れを示す説明図。
【図5】実施例1における、測定した測定データの例を示す説明図。
【符号の説明】
【0055】
1 検査装置
70 制御装置
71 センサ部
72 演算部(FFTアナライザ)
73 測定用PC
8 機械系
80 被検査物(A/T)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準変数の変化に対応して順次採取した検査対象の測定データYi(i=1〜n、nは自然数)を用いて検査対象の状態が正常か否かを判断する合否判定ステップを有する検査方法において、
上記合否判定ステップとは別に、コンピュータにより上記測定データYiの信頼性を判定する信頼性判定ステップを有しており、
該信頼性判定ステップは、
過去に採取した測定データYiについて同一基準変数毎に求めた標準偏差σiと平均値μiとを用い、
今回採取した合計n個の上記測定データYiのうちN個(2≦N≦n)について、それぞれが対応するμi±mσi(1≦m≦3)の信頼範囲を超えるか否かの判定を基礎として信頼性の有無又は程度を判定することを特徴とする検査方法。
【請求項2】
請求項1において、上記信頼性判定ステップでは、少なくとも、今回採取した上記測定データYiのうちN個について、それぞれが対応するμi±mσi(1≦m≦3)の信頼範囲を超えるか否かの判定をすると共に、上記N個のうち上記信頼範囲を超える個数Aを求め、A/Nの値が基準値B(0<B<1)を超えるか否かを判定して、信頼性の有無又は程度を判定することを特徴とする検査方法。
【請求項3】
請求項1において、上記信頼性判定ステップでは、今回採取した上記測定データYiのうちN個について、それぞれに対応するμi±aσi(1≦a<3)の第1信頼範囲を超えるか否かの判定をすると共に、上記N個のうち上記第1信頼範囲を超える個数A1を求め、A1/Nの値が基準値B1(0<B1<1)を超えるか否かを判定し、
上記A1/N≧B1の場合には、さらに、今回採取した上記測定データYiのうちN個について、それぞれに対応するμi±bσi(a<b≦3)の第2信頼範囲を超えるか否かの判定をすると共に、上記N個のうち上記第2信頼範囲を超える個数A2を求め、A2/Nの値が基準値B2(0<B2<1)を超えるか否かを判定して、信頼性の有無又は程度を判定することを特徴とする検査方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項において、上記標準偏差σiと上記平均値μiは、予め記憶しておいた固定値を用いることを特徴とする検査方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項において、上記標準偏差σiと上記平均値μiは、上記信頼性判定ステップを行う際に、記憶された過去の測定データを用いてあらためて算出することを特徴とする検査方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項において、上記検査対象は、被検査物から発生する振動又は騒音であることを特徴とする検査方法。
【請求項7】
請求項6において、上記被検査物は、A/T(オートマチックトランスミッション)であると共に、上記基準変数は該A/Tの出力軸の回転数であり、上記測定データYiは、上記回転数が予め定めた値になる毎に測定することを特徴とする検査方法。
【請求項8】
基準変数の変化に対応して順次採取した検査対象の測定データYi(i=1〜n、nは自然数)を用いて検査対象の状態が正常か否かを判断する合否判定手段を有する検査装置において、
上記合否判定手段とは別に、コンピュータにより上記測定データYiの信頼性を判定する信頼性判定手段を有しており、
該信頼性判定手段は、
過去に採取した測定データYiによって同一基準変数毎に求めた標準偏差σiと平均値μiとを用い、
今回採取した合計n個の上記測定データYiのうちN個(2≦N≦n)について、それぞれが対応するμi±mσi(1≦m≦3)の信頼範囲を超えるか否かの判定を基礎として信頼性の有無又は程度を判定するよう構成されていることを特徴とする検査装置。
【請求項9】
請求項8において、上記信頼性判定手段は、少なくとも、今回採取した上記測定データYiのうちN個について、それぞれが対応するμi±mσi(1≦m≦3)の信頼範囲を超えるか否かの判定をすると共に、上記N個のうち上記信頼範囲を超える個数Aを求め、A/Nの値が基準値B(0<B<1)を超えるか否かを判定して、信頼性の有無又は程度を判定するよう構成されていることを特徴とする検査装置。
【請求項10】
請求項8において、上記信頼性判定手段は、今回採取した上記測定データYiのうちN個について、それぞれに対応するμi±aσi(1≦a<3)の第1信頼範囲を超えるか否かの判定をすると共に、上記N個のうち上記第1信頼範囲を超える個数A1を求め、A1/Nの値が基準値B1(0<B1<1)を超えるか否かを判定し、
上記A1/N≧B1の場合には、さらに、今回採取した上記測定データYiのうちN個について、それぞれに対応するμi±bσi(a<b≦3)の第2信頼範囲を超えるか否かの判定をすると共に、上記N個のうち上記第2信頼範囲を超える個数A2を求め、A2/Nの値が基準値B2(0<B2<1)を超えるか否かを判定して、信頼性の有無又は程度を判定するよう構成されていることを特徴とする検査装置。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれか1項において、上記標準偏差σiと上記平均値μiは、予め記憶しておいた固定値を用いることを特徴とする検査装置。
【請求項12】
請求項8〜11のいずれか1項において、上記標準偏差σiと上記平均値μiは、上記信頼性判定手段を実行する際に、記憶された過去の測定データを用いてあらためて算出するよう構成されていることを特徴とする検査装置。
【請求項13】
請求項8〜12のいずれか1項において、上記検査対象は、被検査物から発生する振動又は騒音であることを特徴とする検査装置。
【請求項14】
請求項13において、上記被検査物は、A/T(オートマチックトランスミッション)であると共に、上記基準変数は該A/Tの出力軸の回転数であり、上記測定データYiは、上記回転数が予め定めた値になる毎に測定することを特徴とする検査装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−286636(P2008−286636A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−131836(P2007−131836)
【出願日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【出願人】(000145806)株式会社小野測器 (230)
【Fターム(参考)】