説明

検査方法及び検査装置

【課題】本発明の目的は、受光した散乱光の中から非弾性散乱光を取除くことによってS
/N比が向上し、安定的に異物や欠陥の検出することにある。また本発明は、非弾性散乱
光を選択することで、弾性散乱光で検出した欠陥や被検査面の組成分析、若しくは被検査
物表面上の欠陥や、被検査物内部の組成を解明できる検査方法と検査装置を提供すること
にある。
【解決手段】本発明の表面検査方法は、光学的に被検査物の表面内からの弾性散乱光と非
弾性散乱光とを別々に、或いは同時に検出し、被検査物の欠陥の有無及び欠陥の特徴を検
出し、検出された欠陥の被検査物の表面上の位置を検出し、検出された欠陥をその特徴に
応じて分類し、欠陥の位置と、欠陥の特徴又は欠陥の分類結果とに基づいて、欠陥の非弾
性散乱光検出による分析を行うものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査方法及び検査装置に関する。例えば、半導体ウェーハ、磁気ディスク、液晶基板、マスク基板などの被検査物の表面や内部の欠陥を検査する検査方法及び検査装置に適している。
【背景技術】
【0002】
半導体基板(半導体ウェーハ)の製造ラインにおいて、製造装置の発塵状況を監視するために、前記基板の表面に付着した異物や加工中に発生したスクラッチ等の欠陥の検査が行われている。例えば、回路パターン形成前の半導体基板では、その表面において数10nm以下までもの微小な異物や欠陥の検出が必要である。また、前記基板表面の検査としては、前記異物や欠陥以外に、基板表面近傍の浅い領域に存在する結晶欠陥や基板表面の表面粗さ、更には欠陥が何であるかの分析も必要である。
【0003】
従来、半導体基板等の被検査物体表面上の微小な欠陥を検出する技術としては、例えば、米国特許第5,798,829号特許明細書(特許文献1)に記載されているように、集光したレーザ光束を半導体基板表面に固定照射して予め定められた大きさの照明スポットを形成し、半導体基板上に異物が付着している場合にこの照明スポットを異物が通過したときに発生する該異物からの散乱光を検出し、半導体基板全面の異物や欠陥を検査するものがある。
【0004】
この場合、異物や欠陥が通過しない時でも、前記照明スポットにおいては半導体ウェーハ上の微小な表面粗さ(マイクロラフネス)によって散乱光(以下、背景散乱光と呼ぶ)が常時発生している。微小な異物を検出する場合、一般に検出信号のノイズ成分においては前記背景散乱光に由来するショットノイズが支配的であることが知られている。ショットノイズはその元となる光強度の平方根に比例するので、微小な異物を検出する場合のノイズレベルは、概略、背景散乱光の強度の平方根に比例して大きくなる。
【0005】
一方、弾性散乱(レイリー散乱)則に従うような微小な異物の場合、Si結晶に対するブリュースター角のように低い仰角からP偏光で半導体ウェーハ表面を照明すると、異物からの散乱光は方位角方向に強い指向性は持たず、全方位角方向に概略同程度の強度で発散することが良く知られている。
【0006】
また、一般的に良好な研磨仕上げが施された半導体ウェーハの場合、表面粗さに由来する背景散乱光も方位角方向に関して極端に強い指向性は示さない。そこでこのような場合には、全方位角方向に発散する散乱光を均等に集光して検出することが検出信号のS/N比を確保する上で好ましい。前記従来技術の光検出器は、方位角方向の散乱光は全て一括して受光しており、このような場合には望ましいS/N比が得られる。
【0007】
しかし、半導体ウェーハの表面粗さ(マイクロラフネス)に由来する背景散乱光が強い指向性を有する場合もある。例えば、エピタキシャルウェーハなどにおいて結晶方位と照明方向の相対関係により表面粗さに由来する背景散乱光が強い指向性を示すことが知られている。
【0008】
このような場合、前述のように、表面粗さに由来する背景散乱光が強い方位角で検出している光検出器の出力信号には、より大きなノイズ成分が含まれている。そのため、表面粗さに由来する背景散乱光が強い方位角で検出した散乱光信号と、表面粗さに由来する背景散乱光が弱い方位角で検出した散乱光信号を同等に扱うことが得策でないことは明白である。
【0009】
一方、米国特許第7,002,677号特許明細書(特許文献2)は、特定の方向へ進行する散乱光を部分的に遮光する技術について記載しており、背景散乱光が強い方位角方向を部分的に遮光し、背景散乱光が弱い方位角方向においてのみ光検出器が散乱光を受光するように制御することで目的の異物・欠陥からの散乱光信号のS/N比を改善できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5,798,829号特許明細書
【特許文献2】米国特許第7,002,677号特許明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、上記従来技術では、励起光を被検査物表面に照射すると、前記弾性散乱光(レイリー散乱光)の他に非弾性散乱光が発生することには配慮がなされていない。近年より極微細な欠陥を検出するために、さらに短い波長の照明光を用いて半導体ウェーハ表面に照射すると、その表面から前記弾性散乱光(レイリー散乱光)に対し、非弾性散乱光(ラマン散乱)が無視できないくらい高いレベルとなる。これらは同時に発生し、選択されずに同時に受光される。極めて微細な欠陥から発せられる弾性散乱光は、非弾性散乱光によるノイズによってS/N比が低下し、安定的に異物や欠陥を検出することが困難となる課題がある。
【0012】
また、弾性散乱光と非弾性散乱光を選択して受光することができないため、非弾性散乱光のみを選択して、被検査物の物性分析が行うことができない。光学的な散乱光の指向性を応用した検出方式だけでは欠陥の弁別精度にもおのずと限界があり、光学的検出方式以外に、異物の正体を解明する別途詳細な分析が必要となる課題があった。
【0013】
本発明の目的は、受光した散乱光の中から非弾性散乱光を取除くことによってS/N比が向上し、安定的に異物や欠陥の検出することにある。
【0014】
また、本発明の他の目的は、非弾性散乱光を選択することで、弾性散乱光で検出した欠陥や被検査面の組成分析、若しくは被検査物表面上の欠陥や、被検査物内部の組成を解明できる検査方法と検査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の表面検査方法は、光学的に被検査物の表面内からの弾性散乱光と非弾性散乱光とを別々に、或いは同時に検出し、被検査物の欠陥の有無及び欠陥の特徴を検出し、検出された欠陥の被検査物の表面上の位置を検出し、検出された欠陥をその特徴に応じて分類し、欠陥の位置と、欠陥の特徴又は欠陥の分類結果とに基づいて、欠陥の非弾性散乱光検出による分析を行うものである。
【0016】
また、本発明の検査方法は、非弾性散乱光検出を用いて、非弾性散乱光スペクトルを分光し、所定の処理し、被検査面の組成状況をマップ表示を行うものである。
【0017】
また、本発明の検査装置は、光学的に被検査物の表面及び内部からの弾性散乱光と非弾性散乱光とを別々に、或いは同時に検査する光学検査手段と、光学手段による非弾性散乱光検出手段を用いて、非弾性散乱光スペクトルを分光し、所定の処理し、被検査面の組成状況などのマップ表示を行うものである。
【0018】
また、本発明の検査装置は、非弾性散乱光検出による被検査面の組成状況のマップと、弾性散乱光検出で被検査面を検査した欠陥マップを、重ねてビジュアル表示するものである。
【0019】
また、本発明の検査装置は、光学的に被検査物の表面及び内部からの弾性散乱光と非弾性散乱光とを別々に、或いは同時に検査する光学検査手段と、光学検査手段による検査結果から、被検査物の欠陥の有無及び欠陥の特長を検出し、検出された欠陥の被検査物の表面上の位置を検出し、検出された欠陥をその特長に応じて分類し、欠陥の位置と、欠陥の特長又は欠陥の分類結果とに基づいて、欠陥の非弾性散乱光検出による欠陥分析を行うことを選択又は指定する処理手段と、処理手段により選択又は指定された欠陥の非弾性散乱光検出検査手段を備えたものである。
【0020】
また、本発明の表面検査装置は、弾性散乱光(非弾性散乱光)の検出において、光検出器からの出力信号のうち、非弾性散乱光(弾性散乱光)を狭帯域光学バンドパスフィルタによる光学手段によりノイズレベルとなる成分を低くなるようにするものである。
【0021】
また、本発明の検査装置は、被検査物の光学的な検査の後、プログラムにより自動的に、またはオペレータの指示に従い、非弾性散乱検出により欠陥の分析を行い、光学的な検査による欠陥の位置と、欠陥の特徴または欠陥の分類結果に基づいて欠陥の正体を解明するものである。
【0022】
さらに、本発明の検査方法は、欠陥の特徴又は欠陥の分類結果について予め決められた条件に従って、非弾性散乱光検出を用いて分析を行う欠陥を選択するものである。
【0023】
また、本発明の検査装置は、欠陥の特徴または分類結果に対する予め決められた条件に従って、非弾性散乱検出を行う欠陥のサンプリング条件設定手段と、非弾性散乱検出による分析を行う欠陥を選択手段と、非弾性散乱検出を行う欠陥の優先順位を設定する手段とを有するものである。
【0024】
さらに、本発明の検査方法は、欠陥の位置及び欠陥の分類結果を表示し、表示された欠陥のうち、非弾性散乱検出による分析を行う欠陥を指定するものである。
【0025】
また、本発明の検査装置は、欠陥の位置及び欠陥の分類結果を表示する表示手段と、表示手段により表示された欠陥のうち、非弾性散乱検出による分析を行う欠陥を指定する第1の入力手段を有するものである。
【0026】
さらに本発明の検査方法は、表示された欠陥のうち、ビジュアル検査を行う欠陥を指定し、指定された欠陥を光学顕微鏡或いは走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、観察結果に基づいて、非弾性散乱光検出による分析を行う欠陥を指定するものである。
【0027】
また、本発明の表面検査装置は、レビューステーションと接続できる機能を備え、処理手段が、表示手段に表示された欠陥のうち、レビューステーションによる観察を行う欠陥を指定する第2の入力手段を有するものである。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、受光した散乱光の中から非弾性散乱光を取除くことによってS/N比を向上し、安定的に異物や欠陥の検出することができる。
【0029】
また、本発明の他の様態によれば、非弾性散乱光を選択することで、弾性散乱光で検出した欠陥や被検査面の組成分析、若しくは被検査物表面上の欠陥や、被検査物内部の組成を解明できる検査方法と検査装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明による表面検査装置の実施例の構成を示す図。
【図2】実施例の弾性散乱検出処理系の構成を示す図。
【図3】実施例の光学系の構成を示す図。
【図4】被検査物移動ステージの螺旋走査駆動方法を示す図。
【図5】実施例の表面検査装置で得られる信号波形を示す図。
【図6】実施例の信号処理ブロック図。
【図7】実施例の非弾性散乱検出処理系の構成を示す図。
【図8】実施例の狭帯域光学バンドパスフィルタ特性例を示す図。
【図9】欠陥マップの一例を示す図。
【図10】非弾性散乱検出による分析結果を示す一例を示す図。
【図11】重ね合わせた欠陥マップの一例を示す図。
【図12】非弾性散乱光(ラマン散乱光)と弾性散乱光(レイリー散乱)の出力強度 を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の検査方法及び検査装置は、半導体ウェーハ、液晶パネルやマスク用のガラス基板、センサやLED等に用いられるサファイヤ基板、磁気ディスクなどの平板状の被検査体に適用可能である。以下に説明する実施の形態においては、半導体デバイス製造工程で用いられる半導体ウェーハを被検査体とした場合を例に挙げて説明する。
【実施例1】
【0032】
図1は、本発明の検査方法を用いた検査装置の第1の実施例を示したものである。
【0033】
本実施例では、非弾性散乱光を除去して弾性散乱光を検出、処理することで、微細な欠陥を検出する一例について説明する。
【0034】
表面検査装置は、被検査物体移動ステージ3002、Zステージ3005、照明系11、弾性散乱検出処理系1000と非弾性散乱検出処理系2000、各処理系からの情報を処理するデータ処理系4000、出力装置5000、入力装置5100、レビューステーション接続機構5200及び検査結果通信機構6000から構成されている。被検査物体である半導体ウェーハ3000はチャック3001に真空吸着されており、このチャック3001は、回転ステージ3003と並進ステージ3004から成る被検査物体移動ステージ3002、Zステージ3005上に搭載されている。半導体ウェーハ3000の上方に、半導体ウェーハ3000表面にレーザ光(検査光)を照射する照明系11が配置されている。
【0035】
非弾性散乱検出・処理系2000は、非弾性散乱検出系500、信号処理系600、波長スペクロラム分析演算処理系700、分析データ保存部800を有する。
【0036】
弾性散乱検出処理系1000は、弾性散乱検出光学系100、信号処理系200、異物・欠陥判定機構320、データ処理系4000を有する。
【0037】
照明系11に搭載されているレーザ光を被検査物に照射すると、欠陥と被検査物表面からの弾性散乱光及び、非弾性散乱光が発せられ、弾性散乱検出系では、非弾性散乱光を除去し、欠陥からの散乱光のみを検出し、所定の処理を行うことで微細な欠陥を検出する。
【0038】
図2は、図1に示した弾性散乱検出処理系1000中の弾性散乱検出系100の詳細を示したものである。
【0039】
弾性散乱検出光学系100は、光源11、光検出器7、第1仰角狭帯域光学バンドパスフィルタ72、第2仰角狭帯域光学バンドパスフィルタ82を有する。信号処理系200は、前置増幅器26、低域通過フィルタ27、帯域通過フィルタ28、A/D変換器30を有する。
【0040】
異物・欠陥判定機構300は、粒径算出機構310、異物・欠陥判定機構320、異物・欠陥座標検出機構330を有する。検査結果保存部400は、データ保存部40を有する。
【0041】
照明光の光源11には、紫外域の波長の光を時間的に繰返してパルス発振するパルスレーザを用いる。
【0042】
前記光源11から出た照射ビーム21は照射レンズ18に入射し、予め定められた大きさの照明スポット3を形成する。照明光は例えばP偏光であり、被検査物体である半導体ウェーハ3000の表面に、概略、結晶Siに対するブリュースター角で斜入射するように構成されている。
【0043】
このため照明スポット3は概略楕円形状をしており、照度が照明スポット中心部のeの2乗分の1(eは自然対数の底)に低下する輪郭線の内部を、ここであらためて照明スポットと定義することにする。この照明スポットの長軸方向の幅をd1,短軸方向の幅をd2とする。
【0044】
被検査物体移動ステージ3002は、主走査である回転移動θと副走査である並進移動rを時間と共に図4に示すように組合わせて変化させることで、相対的に照明スポット3を半導体ウェーハ3000の概略全表面上で螺旋状に走査させる。前記回転ステージが1回転する間に、副走査はΔrだけ移動する。Δr>d1であると、半導体ウェーハ3000上で螺旋状走査において照明光が照射されず、検査されない隙間領域ができてしまうので、通常Δr<d1に設定する。
【0045】
本実施例では、照明スポット3の走査は半導体ウェーハ3000の内周から外周に向かって行うが、逆であっても差し支えない。また、本実施例では、半導体ウェーハ3000の内周から外周までの概略全領域で、前記回転ステージ3003を概略角速度一定で、かつ前記並進ステージ3004を概略線速度一定で駆動させる。被検査物体移動ステージ3002には、検査中の主走査座標位置θと副走査座標位置rを検出するために、検査座標検出機構106が取り付けてある。
【0046】
本実施例では、主走査座標位置θの検出に光学読み取り式のロータリーエンコーダ、副走査座標位置rに光学読み取り式のリニアエンコーダを用いているが、共に、高精度で角度または直線上の位置が検出できるセンサであれば、他の検出原理を用いたものでも良い。
【0047】
図3(b)(c)に、弾性散乱光検出系100の詳細を示す。本実施例の弾性散乱光検出系100は、レイリー散乱に従うような微小な異物に対して効率良くその散乱光を捕捉できるように概略25°なる第1の仰角を有し、被検査物体移動ステージ3002の主走査回転軸に関して相互に異なり、互いに概略60°ずつ隔たった6つの方位角から弾性散乱光(散乱・回折・反射光)を集光し検出する6個の集光素子71と非弾性散乱光(以下ラマン散乱光と呼ぶ)を除去するための第一狭帯域光学バンドパスフィルタ72含む第1仰角検出系70と、第1の仰角より大きく概略60°なる第2の仰角を有し、被検査物体移動ステージ3002の主走査回転軸に関して相互に異なり、互いに概略90°ずつ隔たった4つの方位角から散乱・回折・反射光を集光し検出する4個の集光素子81とラマン散乱光を除去する第二狭帯域光学バンドパスフィルタ82を含む第2仰角検出系80から構成される。前記合計10個の各集光素子のレンズとレンズ前方に配設されたラマン散乱光除去用の狭帯域光学バンドパスフィルタから成る。尚、狭帯域光学バンドパスフィルタはレンズの後方においても良い。
【0048】
実施例では、励起光(レーザ光)に波長355nmを用いており、弾性散乱光の波長は、励起光(レーザ光)と同一波長であるが、同時に発生する非弾性散乱光の波長は、励起光に対して左右対称にシフトする。これはラマン散乱光で、シリコンウエーハ(Si)から発生するラマン散乱光は、物性固有の値を示し、約520[cm−1]の波長にピークを持つ。
【0049】
ここでラマン散乱光は、実施例で用いた波長355nmの励起光に対し、361.6nmと348.5nmが発生する。ストークス散乱及びアンチストークス散乱と呼ばれ、これらの散乱光は、微細な欠陥を検出する上では、ノイズとなるため、主に励起光355nmを透過させる355nm±2nmの狭帯域光学バンドパスフィルタ72、82を用いている。
【0050】
尚、被検査物の物性固有の値を示すため、シリコンウエーハ(Si)以外の検査物では、シフトする波長が変わるため、狭帯域光学バンドパスフィルタ72、82の帯域を変える必要があるのは言うまでも無い。狭帯域光学バンドパスフィルタ特性の一例を図8に示す。本特性の透過率は、できるだけ高く、透過ロスの少ないフィルタが望ましい。
【0051】
前記各集光素子、特に前記第1仰角検出系の各集光素子の機械的配置は、前記照射ビーム21およびその正反射光の光路と干渉する恐れがある。そこで、本実施例ではこれら前記各集光素子を、前記照射ビーム21およびその正反射光の光路を避けて配置してある。
【0052】
この構成において、異物1は照明スポット3を通過し、狭帯域光学バンドパスフィルタ72、82を経た複数の光検出器7からは弾性散乱光(散乱・回折・反射光)の強度に対応した出力信号が得られる。本実施例では光検出器7として光電子増倍管を用いているが、異物からの散乱光を高感度に検出できる光検出器であれば他の検出原理の光検出器であっても良い。
【0053】
図2に示すように、前記各光検出器7からの出力信号は、その中に含まれる直流信号成分を概略保持したまま前置増幅器26で増幅された後、2系統の信号に分割される。第1の分割された出力信号は低域通過フィルタ27を通過する。この低域通過フィルタ27の遮断周波数は、図5に示す信号(e)のうち、異物1が照明スポット3を通過したことで発生するパルス状の成分を除去し、概略、直流成分のみを通過するようにしてある。
【0054】
その結果、低域通過フィルタ27の出力として得られる第1の信号成分は、前記被検査物体表面または表面近傍で散乱・回折・反射された光のうち主として前記被検査物体表面の微小な凹凸に由来して発生する光の強度に対応する信号となる。
【0055】
一方、第2の分割された出力信号は帯域通過フィルタ28を通過する。この帯域通過フィルタ28の遮断周波数は、図5に示した信号(e)のうち直流成分を除去し、概略、異物1が照明スポット3を通過したことで発生するパルス状の成分のみを通過するようにしてある。
【0056】
その結果、帯域通過フィルタ28の出力として得られる第2の信号成分は、前記被検査物体表面または表面近傍で散乱・回折・反射された光のうち主として前記被検査物体表面または表面近傍の異物や欠陥に由来して発生する光の強度に対応する信号となる。
【0057】
このようにして、本実施例の弾性散乱検出系(散乱・回折・反射光)では、第1仰角検出系70に含まれる6個の光検出器7の各々の出力信号に由来して第1の信号成分と第2の信号成分の組合せ6組と、第2仰角検出系80に含まれる4個の光検出器7の各々の出力信号に由来して第1の信号成分と第2の信号成分の組合せ4組とが得られる。これら第1および第2の信号成分は各々個別のA/D変換器30でサンプリングされ、デジタルデータに変換される。
【0058】
次に、粒径算出機構310は前記第2の信号成分を変換して得られた、前記第1仰角検出系70における合計6個のデジタルデータb1j(j=1,2,3,4,5,6)、および前記第2仰角検出系80における合計4個のデジタルデータb2j(j=1,2,3,4)を用いて前記異物や欠陥の大きさを算出する。
【0059】
ところで、微小な異物を検出する場合、一般に検出信号のノイズ成分においては前述の背景散乱光に由来するショットノイズが支配的であることが知られている。ショットノイズはその元となる光強度の平方根に比例するので、微小な異物を検出する場合のノイズレベルは、背景散乱光の強度の平方根に比例して大きくなる。
【0060】
もし、前記半導体ウェーハ3000の表面粗さに由来して発生する背景散乱光が方位角方向に関して強い指向性を有するような場合には、その背景散乱光が強い方位角で検出している光検出器の出力信号にはより大きなノイズ成分が含まれていることになる。そのため、表面粗さに由来する背景散乱光が強い方位角で検出している光検出器の出力信号と、表面粗さに由来する背景散乱光が弱い方位角で検出している光検出器の出力信号を同等に扱うことが得策でないことは明白である。
【0061】
粒径算出機構310は、前記6個の各光検出器7および前記4個の各光検出器7に由来する前記第2の信号成分を変換したデジタルデータbijを下式に従って重み付き加算処理し、前記第1仰角検出系70における合成信号S1、および前記第2仰角検出系80における合成信号S2を得るように構成してある。
【0062】
S1=g11×b11+g12×b12+g13×b13+g14×b14+g15
×b15+g16×b16 ・・・ 数式1
S2=g21×b21+g22×b22+g23×b23+g24
×b24 ・・・ 数式2
ここで、各重み付け係数gijは、前記各光検出器7に由来する前記第1の信号成分を変換したデジタルデータaijの逆数に予め定めた比例定数Kを乗じたものである。
【0063】
すなわち、 gij=K×1/aij ・・・ 数式3
である。
【0064】
このように、重み付け係数gij、すなわち合成信号S1およびS2に対する各光検出器7から得られる前記第2の信号成分の寄与度、は対応する前記第1の信号成分が大きいほど小さくなるので、前述のような背景散乱光の指向性によって強い背景散乱光が発生してS/N比が劣化した光検出器の場合、合成信号に対する寄与度が自動的に低下し、合成信号のS/N比を良好に維持することが可能になる。
【0065】
そのため、背景散乱光の指向性が強い場合や、被検査ウェーハ上の位置によって背景散乱光の指向性が変化するような場合に、全散乱光量に占める背景散乱光の相対比率や角度方向での偏りが比較的大きくない場合であっても、合成信号のS/N比を良好に維持することが可能になる。尚、前述背景散乱光は、第1仰角狭帯域バンドパスフィルタ72、第2仰角狭帯域バンドパスフィルタ82でラマン散乱光が除去された弾性散乱光(レイリー散乱光)である。
【0066】
ここで、実数値で例を示そう。本実施例の第2仰角検出系に属する4個の光検出器に対して表1で想定した数値例を当てはめてみると、結果は表2の最下段に示すようになる。
【0067】
表1・表2はS/N比の計算結果例を示した。
【0068】
この場合、本実施例の合成信号で得られるS/N比は、前述の「全方位角方向で散乱光を均等に検出する」方式および「背景散乱光が強い方位角方向を遮光する/使わない」方式よりも良好であることが分かる。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
もちろん、「全散乱光量に占める背景散乱光の相対比率や角度方向での偏りが大きい場合」場合には対応する前記重み付け係数は自動的に0に近付くので、その効果は「背景散乱光が強い方位角方向を遮光する/使わない」方式に近付き、「全散乱光量に占める背景散乱光の相対比率や角度方向での偏りが大きい場合」場合にも良好なS/N比が得られることは明白である。
【0072】
次に粒径算出機構310は、前記合成信号S1およびS2を検出した異物や欠陥の大きさに換算するが、前記各光検出器7に由来する前記第1の信号成分強度が変化する毎に各重み付け係数gijが変化するため、同じ異物であってもその異物の存在する半導体ウェーハ3000上の位置における背景散乱光の強度や指向性が異なれば、その都度、前記合成信号S1およびS2は異なる値となってしまう。
【0073】
そのため、「異物・欠陥の大きさとその異物に対する合成信号S1およびS2の値とを関係付けた合成信号用検量線を検査開始前に予め作成しておき、検査時に時々刻々得られる合成信号S1およびS2の値を合成信号用検量線に当てはめて異物や欠陥の大きさを算出する」ということは意味を成さない。
【0074】
そこで、本発明では次のステップに従って前記合成信号S1およびS2を検出した異物や欠陥の大きさに換算する。
【0075】
Step 1:オペレータは、検査開始前に、複数の大きさ既知の標準異物(PSL:ポリスチレンラテックス球がのぞましい)を付着させた校正用ウェーハを準備する。
Step 2:オペレータは、本実施例の表面検査装置の検査条件を、実際の被検査対象ウェーハに対して行う検査の検査条件に合わせて設定する。
【0076】
Step 3:オペレータは、前記校正用ウェーハの検査を開始させる。
Step 4:本実施例の表面検査装置は、前記合計10個の各光検出器7毎に、検出された前記各標準異物の大きさと、その標準異物に対応して発生する前記第2の信号成分を変換したデジタルデータの値との関係を記録する。
【0077】
Step 5:本実施例の表面検査装置は、前記合計10個の各光検出器7毎に記録された、検出された前記各標準異物の大きさと、その標準異物に対応して発生する前記第2の信号成分を変換したデジタルデータの値との関係から、各光検出器7毎の検量線、すなわち10個の検量線wij(第1仰角検出系:i=1,j=1,2,3,4,5,6、
第2仰角検出系:i=2,j=1,2,3,4)を生成し、保存する。wijは具体的には下式の形の関数であり、wijの値は異物・欠陥の大きさを表す。(ただし、Iij:第2の信号成分の強度,pijおよびqij:検量線係数)
wij(Iij)=pij×Iij+qij ・・・ 数式4
これで検査前の検量線準備作業は完了する。
【0078】
Step 6:オペレータは、実際の被検査対象ウェーハ検査を開始させる。
【0079】
Step 7:本実施例の表面検査装置は、検出した各異物や欠陥毎に、式1から3を用いて合成信号S1およびS2を生成する。
【0080】
Step 8:本実施例の表面検査装置は、前記各光検出器7毎に保存された10個の検量線wijから下式に従って合成検量線W1および合成検量線W2を生成する。
【0081】
W1=g11×w11+g12×w12+g13×w13+g14×w14+g15×w15+g16×w16 ・・・数式5
W2=g21×w21+g22×w22+g23×w23
+g24×w24 ・・・数式6
Step 9:本実施例の表面検査装置は、合成信号S1を合成検量線W1に当てはめて異物・欠陥サイズD1を、合成信号S2を合成検量線W2に当てはめて異物・欠陥サイズD2を求める。
【0082】
Step 10:本実施例の表面検査装置は、合成信号S1が合成信号S2より大の場合は、検出された異物・欠陥の大きさとしてD1を、逆の場合にはD2を採用する。
【0083】
上記の、合成信号S1およびS2と、合成検量線W1およびW2とを生成する信号処理の構成ブロック図を図6に示した。
【0084】
図6に示す粒径算出機構310は、信号処理系200の信号を合成信号生成処理部、粒径換算処理部、合成検量線生成部を有する。
【0085】
このようにして、本実施例の表面検査装置では、合成信号S1およびS2の算出に使用した重み付け係数と同じ重み付け係数を用いて各光検出器毎の検量線を合成した合成検量線W1およびW2を生成するので、合成信号S1およびS2と合成検量線W1およびW2の関係は常に正しく保たれ、前記各光検出器7に由来する前記第1の信号成分強度が変化して各重み付け係数gijが変化した場合でも、異物や欠陥の大きさ換算を正しく行うことができる。
【0086】
本実施例では、複数の光検出器のうち等しい仰角の検出系に属するもの同士を重み付き加算の対象としているが、異なる仰角の検出系に属する光検出器を含めて重み付き加算を実施することも可能である。検出された一つの異物・欠陥の大きさが求まると、検査結果保存部410は、この大きさの値、このときの前記重み付け係数gij、各デジタルデータaijとbij、および異物・欠陥座標検出機構330から得られる前記異物・欠陥の半導体ウェーハ3000上での位置座標、を記憶保存する。
【0087】
このとき、検出された欠陥、例えば、スクラッチ、ピット欠陥、異物、及びそれらの大きさや長さなどの欠陥分類分けは、欠陥の位置の座標データと関連付けて記憶する。そして、前記半導体ウェーハ3000の検査が終了すると、前記検査結果保存部400に記憶保存され、これらの情報は、データ処理系4000に転送され、検査結果に基づいて出力系5000にて欠陥マップ作成し、出力装置5000に表示する。
【0088】
続いて、オペレータは、出力装置5000に表示された欠陥マップを見て、個別の欠陥について非弾性散乱検出による分析が必要か否かを判断する。必要と判断した場合、オペレータは、入力装置5100(第1/第2の入力手段)により指定する。
【0089】
続いて、オペレータは、出力装置5000に表示された欠陥マップまたは欠陥の分類結果を見て、個別の欠陥についてレビューステーション接続機構5200を介して、光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡(SEM)による観察が必要か否かを判断する。観察が必要と判断した場合、観察に必要な欠陥を入力装置5100により指定する。
【0090】
光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡(SEM)などによる観察が必要とされた場合、入力装置5100より指定された欠陥座標情報は、レビューステーション接続機構を介して出力される。尚、この場合、予め被検査物は、レビューステーションにアライメントされてセッテイングされているものとする。
【0091】
続いて、オペレータは出力装置5000に表示された欠陥マップまたは分類結果を見て、あるいはレビューステーションによる観察結果から、個別の欠陥について非弾性散乱検出による分析が必要か否かを判断する。分析が必要と判断した場合、オペレータは、非弾性散乱検出が必要な欠陥を入力装置5100により指定する機能を有する。今仮に、図9の欠陥マップで●の符号が付与された異物を指定するものとする。
【0092】
非弾性散乱検出が必要な欠陥が指定されると、検査結果保存部400に格納され欠陥情報から、データ処理系4000に格納されているプログラムを実行し、被検査物体移動ステージ3002移動して、図7の非弾性散乱検出系500の下方へ移動させる。図示していないが、ハンドリング機構により、自動で被検査物を被検査物体移動ステージ3002に載せるもとする。
【0093】
図7に示す非弾性散乱検出・処理系2000は、非弾性散乱検出系500、信号処理系600、波長スペクロラム分析演算処理系700を有する。
【0094】
非弾性散乱検出系500は、異物1、狭帯域光学バンドパスフィルタ51、集光レンズ52、分光素子53、マルチ検出器54を有する。信号処理系600は、前置増幅器61、信号帯域通過フィルタ62、A/D変換器63を有する。波長スペクロラム分析演算処理系700は、第1仰角検出系70を有する。
【0095】
検査座標検出機構106により検査結果保存部400に記憶された欠陥の位置の座標データに基づいて、被検査物体移動ステージ3002が移動して、非性散乱検出・処理系2000により、ラマンスペクトルを分光して、処理することにより、波数位置、ラマン強度、ピーク幅などの組成分析情報を得られる。分析結果はデータ処理系4000に送られ、出力装置5000から表示される。尚、非弾性散乱検出・処理系の詳細は、実施例2の所で述べている。
【0096】
図10は、被弾性散乱検出による分析結果の一例を示す図である。
【0097】
非弾性散乱検出による分析結果のデータを、分析データ記憶部75に予め登録された物質スペクトルライブラリのデータと比較照合することにより、指定された欠陥の物質を判定する。
【0098】
物質スペクトラム登録ライブラリは、被検査物を構成する材料及び製造工程で混入する可能性のある物質を考慮して、非弾性散乱検出で検出される可能性のある物質のスペクトルのデータを予め登録したものである。欠陥の物質判定結果は、例えば、有機物や無機物の種類、金属の種類、磁性体の種類、半導体の種類、アモルファスカーボンの種類など欠陥の分析結果のデータ、欠陥の物質の判定結果のデータ、及び欠陥の分類データを、欠陥の位置の座標データと関連付けて記憶する。
【0099】
次に、欠陥の物質の判定結果のデータに基づいて、欠陥の再分類を行う機能を有する。
例えば、図9の欠陥マップで1の符号が付された異物について、欠陥の物質の判定結果がウェーハの母材と同じであった場合は、異物ではなくバンプ(凸形状欠陥)あると再分類する。一方、欠陥の物質の判定結果が母材と異なった場合は、そのまま異物であると再分類する。さらに、異物を、その物質の種類に応じて細かく再分類することもできる。欠陥の再分類結果のデータを欠陥の位置の座標データと関連付けて記憶する。
【0100】
記憶された欠陥の位置の座標データ、欠陥の特徴のデータ、欠陥の分析結果データ、及び欠陥の物質の判定結果のデータに基づいて、検査結果を出力装置5000に出力する。
また、検査結果データは、検査結果通信機構6000により、上位システムへ通信ネットワークを介して送信する。これにより、上位システムは検出された各異物や欠陥について大きさ算出過程を再現することができ、それらの大きさ算出過程に異常がなかったかどうかを検証することができる。また、各異物や欠陥の組成分析情報なども付加することで、欠陥の分類や、製造工程の異常などがより精密に検証することができる。
【0101】
前述した実施の形態は、検査装置のオペレータが非弾性散乱検出による分析を行う欠陥を指定するものであったが、非弾性散乱検出による分析を行う欠陥を検査装置で自動的に選択することもできる
なお、上記実施例では、照明光の光源11には、紫外域の波長の光を時間的に繰返してパルス発振するパルスレーザを用いたが、この代わりに波長が可視域であるレーザや連続発振型のレーザを用いる場合でも、上記実施例で得られる効果に変わりはない。また上記本実施例では、散乱・回折・反射光検出系の各集光素子をレンズから成るとしたが、これらは凹面鏡とすることも可能である。
【0102】
この場合、非弾性散乱光(ラマン光)除去用の狭帯域光学バンドパスフィルタの挿入位置は、検出器の前面に挿入する。集光素子に凹面鏡を用いる場合には、上記と同様に凹面鏡の各光軸を前記照射ビーム21およびその正反射光の光路を避けた配置とすることももちろん可能であるが、干渉する各鏡面にこれらの光ビームが貫通するよう貫通穴を設けることで、光学的な干渉を避けるようにしても良い。
【0103】
さらに、上記実施例では、前記被検査物体表面または表面近傍で散乱・回折・反射された光のうち主として前記被検査物体表面の微小な凹凸に由来して発生する光の強度に対応する第1の信号成分と、主として前記被検査物体表面または表面近傍の異物や欠陥に由来して発生する光の強度に対応する第2の信号成分の分離を、A/D変換前のアナログ回路にて、低域通過フィルタと帯域通過フィルタを使うことで実現しているが、この代わりに、前記各光検出器からの出力信号をその中に含まれる直流成分を概略保持したままで増幅した後にA/D変換し、デジタル信号処理において低域通過フィルタリング処理と帯域通過フィルタリング処理を行って第1の信号成分と第2の信号成分を分離するようにしても上記実施例で得られる効果に変わりはない。
【0104】
またさらに別の代案として、上記実施例と同様にA/D変換前のアナログ回路にて低域通過フィルタと帯域通過フィルタを使うことで第1の信号成分と第2の信号成分を分離した後、第2の信号成分を前記第1の信号成分に概略反比例する増幅率で増幅するようにしても構わない。
【0105】
実施例1で示した図3の光学構成の中で、第1仰角狭帯域光学バンドパスフィルタ72及び第2仰角狭帯域光学バンドパスフィルタ82は、非弾性散乱光を遮光した実施例を示したが、被測定物により、最適な検査を行なうために、このフィルタを逆に弾性散乱光を遮光するフィルタに切り替えて検査してもよい。この場合の検査は、被検査物内の組成状況および被検査物表面上の欠陥の組成が出力される。
【実施例2】
【0106】
本発明の検査方法を用いた検査装置の第2の実施例を図1に示す。被検査物体である半導体ウェーハ3000はチャック3001に真空吸着されており、このチャック3001は、回転ステージ3003と並進ステージ3004から成る被検査物体移動ステージ3002、Zステージ3005上に搭載されている。
【0107】
半導体ウェーハ3000の上方に配置されている照明系11、弾性散乱検出・処理系1000と非弾性散乱検出・処理系2000、各処理系から転送された情報を処理するデータ処理系4000及び出力系5000、入力系5100、レビューステーション接続機構5200、及び検査結果通信機構6000から構成されている。
【0108】
尚、データ処理系4000、出力系5000、入力系5100、レビューステーション接続機構5200、検査結果通信機構6000は、弾性散乱検出・処理系1000と非弾性散乱検出・処理系2000からのデータを共有し、データ処理系4000で一つにまとめられて処理される。
【0109】
実施例1では、弾性散乱検出により検出した欠陥に対して、自動的にあるいはオペレータを介して、指定した欠陥の分析を行ない、欠陥の位置の座標データ、欠陥の特徴のデータ、欠陥の分析結果データ、及び欠陥の物質の判定結果のデータに基づいて、検査結果を出力装置5000に出力する。
【0110】
実施例2は、被検査面を、連続的に非弾性散乱光を検出、処理することで、被検査面の物性分析状況などを行える解析装置の実施例について説明する。この場合弾性散乱検出と同時検査か非弾性散乱検出検査かを選択することができる。照明系に搭載されているレーザ光11を被検査物に照射すると、欠陥及び被検査面から、弾性散乱光及び、非弾性散乱光が発せられ、非弾性散乱検出系では、図7に示した非弾性散乱光学系500にある分光素子53によって、波長分離し、弾性散乱光(レーリー散乱光)を除去し、欠陥や被検査物に依存したラマンスペクトルのみを通過させる。
【0111】
これは、ある分子に振動数νoのフォトンを照射すると、衝突するフォトンと、衝突せずに素通りするフォトンがある。分子と衝突するフォトンのほとんどは衝突によってエネルギーを変えず、入射光と同じ振動数のフォトンを与える。これが弾性散乱光(レイリー散乱)である。それに対し、分子と衝突するフォトンのごく一部は分子と衝突する時にエネルギーの交換が行われ、入射したフォトンが分子にエネルギーhνを与えると、散乱フォトンのエネルギーは、h(νο−ν)となり、その振動数は、νο―νとなる。
【0112】
一方、入射したフォトンが分子からエネルギーhνを受け取ると、散乱フォトンのエネルギーはh(νο+ν)となり、その振動数はνο+νとなる。これがラマン散乱であり、このラマンスペクトルを分光し、所定の信号処理をすることで、波数位置、ラマン強度、ピーク幅の情報を得ることができる。
【0113】
図1に示す非弾性散乱検出・処理系2000に示す。非弾性散乱検出系500の詳細構成は、図7に示す光学系である。この照明系は、弾性散乱検出・処理系1000と同じレーザ光11を照明光として用いる。照明光は例えばP偏光であり、被検査物体である半導体ウェーハ3000の表面に、概略、結晶Siに対するブリュースター角で斜入射するように構成されている。
【0114】
このため照明スポット3は概略楕円形状をしており、照度が照明スポット中心部のeの2乗分の1(eは自然対数の底)に低下する輪郭線の内部を、ここであらためて照明スポットと定義することにする。この照明スポットの長軸方向の幅をd1,短軸方向の幅をd2とする。
【0115】
図7に非弾性散乱光検出・処理系について示す。図3(b)(c)で示した被検査物に照射された正反射光22は、図7の非弾性散乱検出光学系500に示した実施例から、レイリー光を狭帯域光学バンドパスフィルタ51により、レイリー散乱光をほぼ完全に遮光し、被検査物からのラマン光のみを通過させ、集光レンズ52を通して分光素子53に入射する。
【0116】
分光素子53では、シフトした波長に従い分光され、マルチ検出器54で電気信号に変換される。ここで、分光素子53は、グレーテイングや回折格子などが用いられる。また、マルチ検出器54は、CCD(Charge Coupled Device)やAPDアレイ、TDIセンサ、フォトダイオードアレイなどでも構わない。
【0117】
また、分光素子53とマルチ検出器54が組み合わされたモノクロメータ、ダブルモノクロメータなどの分光器を用いても構わない。この場合狭帯域光学バンドパスフィルタ51は必要ない。
【0118】
図7に示した電気信号に変換されたラマンスペクトルは、前置増幅器61で増幅された後、帯域フィルター62を通して、ショットノイズなどを取り除いた信号成分は、A/D変換器63でサンプリングされ、デジタルデータに変換される。
【0119】
本実施例では、波長スペクトラム分析演算処理700では、予め組成を同定する物質スペクトルライブラリを予め登録した情報と、測定・演算した結果などが格納する分析データ記憶部75から構成されている。デジタルデータに変換された測定データは、演算処理し、ラマンシフトに対する散乱強度特性や、測定位置に対するラマン散乱強度マップなどが演算され、その結果をデータ処理系4000に転送される。
【0120】
データ処理系では、被検査面の物性情報や、ポイント指定された組成情報など、出力装置5000で等高線や色別に、ラマン強度に対応したマップ表示される。また、出力装置5000では、オペレータとの情報のやり取りを行うGUI機能は、入力装置5100から行われる。
【0121】
なお、実施例1で示した図3の光学構成の中で、第1仰角狭帯域光学バンドパスフィルタ72及び第2仰角狭帯域光学バンドパスフィルタ82は非弾性散乱光を遮光した実施例を示したが、被測定物により最適な検査を行うために、このバンドパスフィルタを逆に弾性散乱光を遮光するフィルタに切り替えて検査しても良い。この場合の検査は分光しないため被検査物内の組成分析は行わず、被検査物内及び表面上の組成状況が出力される。図11に等高線に表示したマップ例を示す。
【0122】
前述したように、これらの情報は、検査結果通信機構6000により、上位システムに通信ネットワークを介して送信される。
【0123】
非弾性散乱検出を行う場合、被検査物体である半導体ウェーハ3000はチャック3001に真空吸着されており、このチャック3001は、回転ステージ3003と並進ステージ3004から成る被検査物体移動ステージ3002、Zステージ3005上に搭載されている。
【0124】
被検査物体移動ステージ3002主走査である回転移動θと副走査である並進移動rを時間と共に図4に示すように組合わせて変化させることで、相対的に照明スポット3を半導体ウェーハ3000の概略全表面上で螺旋状に走査させる。この場合、回転移動θの速度は、任意に可変できる。例えば、ラマン光強度が、微弱なため、十分に検出できるレベルまで回転速度を落として被検査面を、連続的にもれなく検査することができる。
【0125】
また、弾性散乱光検出と非弾性散乱光検出を同時検査を行うこともできる。この場合も被検査物体移動ステージの回転移動速度と並進移動速度は、最適な条件に設定することができる。
【0126】
データ処理系4000により、非弾性散乱検出により、被検査面を検査し、検査した結果を、ラマン強度に対応して、等高線や色別に被検査面の組成状況を、出力装置5000でマッピング表示することで、組成状況が容易に把握することができる機能を有する。また、弾性散乱検出処理1000で全面検査し、検査した結果を、欠陥分類別に出力装置5000でマップ表示される。両方の検査結果は、データ処理系4000でまとめて、夫々の欠陥マップを重ね合わせたビジュアル的なマップ表示することもできる機能を有する。
【0127】
更に図11は弾性散乱光検出による検査した結果と非弾性散乱光検出による検査した結果を、重ねたマップ表示にして示している。
【0128】
●は異物、□はバンプ、△はスクラッチを示す。これらの存在が全方位角の座標上でビジュアル的に捉えることができる。
【0129】
図12は、非弾性散乱光(ラマン散乱光)を弾性散乱光(レイリー散乱)を示している。
【0130】
受光素子で受光した正反射を含む前方散乱の出力強度を示すもので、0の点が弾性散乱光(レイリー散乱)、0の点から左右に離れたところに非弾性散乱光(ラマン散乱光)の見られる。異物、バンプ、スクラッチの位置や大きさを特定するときは、非弾性散乱光(ラマン散乱光)をカットして弾性散乱光(レイリー散乱)を観測する。
【0131】
異物や欠陥の物質を特定するときは、弾性散乱光(レイリー散乱)をカットして非弾性散乱光(ラマン散乱光)を観測する。
【0132】
これらの観測を併用することで、異物、バンプ、スクラッチの位置や大きさ、物質の特定を的確に把握できる。
【0133】
本発明は、半導体ウェーハに限らず、磁気ディスク、液晶基板、サファイヤグラス、マスク基板などのさまざまな物体の表面の欠陥検査に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0134】
以上、半導体の製造に係わる半導体基板(ウエーハ)表面上の欠陥検査だけでなく、欠陥の素性も解析することができる検査・分析装置の一例を説明したが、液晶ガラスに用いられるガラス基板、センサやLED等に用いられるサファイヤ基板、ハードディスクに用いられるガラスディスク基板やアルミディスク基板など、幅広く適用することができる。
【0135】
また、半導体製造工程に限定されるものではなく、ハードディスク、液晶パネル、各種センサなどのさまざまな製造工程に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0136】
1…異物、2…異物の移動軌跡、3…照明スポット、7…光検出器、11…光源、18…照射レンズ、21…照明ビーム、26…前置増幅器、27…低域通過フィルタ、28…帯域通過フィルタ、30…A/D変換器、40…データ保存部、51…狭帯域光学バンドパスフィルタ、52…集光レンズ、53…分光素子、54…マルチ検出器、61…前置増幅器、62…信号帯域通過フィルタ、63…A/D変換器、70…第1仰角検出系、71…第1仰角集光素子、72…第1仰角狭帯域光学バンドパスフィルタ、75…分析データ記憶部、80…第2仰角検出系、81…第2仰角集光素子、82…第2仰角狭帯域光学バンドパスフィルタ、100…弾性散乱検出光学系、106…検査座標検出機構、200…信号処理系、300…異物・欠陥判定機構、310…粒径算出機構、320…異物・欠陥判定機構、330…異物・欠陥座標検出機構、400…検査結果保存部、500…非弾性散乱検出光学系、600…信号処理系、700…波長スペクトラム分析演算処理系、800…分析データ保存部、1000…弾性散乱検出・処理系、2000…非弾性散乱検出・処理系、3000…半導体ウェーハ、3001…チャック、3002…被検査物体移動ステージ、3003…回転ステージ、3004…並進ステージ、3005…Zステージ、4000…データ処理系、5000…出力装置、5100…入力装置、5200…レビューステーション接続機構、6000…検査結果通信機構。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査装置において、
対象に照射光を供給する照明光学系と、
前記対象からの光から非弾性散乱光を除去する第1の除去部と、
前記第1の除去部によって前記非弾性散乱光が除去された光を検出する第1の検出光学系と、
前記非弾性散乱光が除去された光に対応する信号を使用することによって前記対象の欠陥の位置を得る処理部と、を有することを特徴とする検査装置。
【請求項2】
請求項1に記載の検査装置において、
前記第1の除去部が前記非弾性散乱光を除去する波長は可変であることを特徴とする検査装置。
【請求項3】
請求項1に記載の検査装置において、
前記第1の除去部は前記照射光の波長に対応した波長を有する光を通過させることを特徴とする検査装置。
【請求項4】
請求項1に記載の検査装置において、
前記第1の除去部が前記非弾性散乱光を除去する波長はラマンシフトを考慮して決定されることを特徴とする検査装置。
【請求項5】
請求項4に記載の検査装置において、
前記第1の除去部が前記非弾性散乱光を除去する波長は、前記照射光の波長とアンチストークス光の波長との和によって表現されることを特徴とする検査装置。
【請求項6】
請求項5に記載の検査装置において、
前記第1の除去部が前記非弾性散乱光を除去する波長は、さらに、前記照射光の波長とストークス光の波長との差によって表現されることを特徴とする検査装置。
【請求項7】
請求項3に記載の検査装置において、
前記照射光は紫外線であることを特徴とする検査装置。
【請求項8】
請求項7に記載の検査装置において、
前記紫外線は紫外パルス光であることを特徴とする検査装置。
【請求項9】
請求項1に記載の検査装置において、
前記対象を搭載するための搭載部を有し、
前記第1の除去部が前記第1の検出光学系と前記搭載部との間に配置されることを特徴とする検査装置。
【請求項10】
請求項1に記載の検査装置において、
前記処理部は、前記信号からパルス成分と直流成分とを得て、前記直流成分の逆数を前記パルス成分に乗算することを特徴とする検査装置。
【請求項11】
請求項1に記載の検査装置において、
前記非弾性散乱光を検出するための第2の検出光学系を有し、
前記処理部は、第2の検出光学系の検出結果から前記対象の組成を得ることを特徴とする検査装置。
【請求項12】
請求項1に記載の検査装置において、
前記処理部は、前記欠陥の位置と前記組成とを対応付けることを特徴とする検査装置。
【請求項13】
請求項11に記載の検査装置において、
前記照明光に対応して波長を有する光を除去する第2の除去部を有することを特徴とする検査装置。
【請求項14】
請求項13に記載の検査装置において、
前記第2の除去部と第2の検出光学系との間に回折素子を有し、
前記第2の検出光学系は前記回折素子によって回折された光を検出することを特徴とする検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−154946(P2012−154946A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−89919(P2012−89919)
【出願日】平成24年4月11日(2012.4.11)
【分割の表示】特願2007−176590(P2007−176590)の分割
【原出願日】平成19年7月4日(2007.7.4)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】